説明

マイクロ流体素子

流体試料流を案内するマイクロ流体素子が開示されている。マイクロ流体素子は、2つの横方向に伸び、かつ垂直方向に貫通する凹部を少なくとも1つ有する底部プレート(1)、少なくとも第1貫流位置(3.1)及び第2貫流位置(3.2)を有する貫流ユニット(2)、及びプレート構造(4)を有する。底部プレート(1)の凹部(1.1)に対する貫流ユニット(2)の配置は、この配置の一の面から第1貫流位置(3.1)及び第2貫流位置(3.2)を介して反対の面へ、流体流が垂直に流れることができるような配置である。さらにプレート構造(4)と貫流ユニット(2)との相対的な配置は、流体が第1貫流位置(3.1)から第2貫流位置(3.2)への横方向に流れることができるようにチャネル間接続用空洞が形成されるような配置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体試料の流れを案内するマイクロ流体素子、流体試料の流れを案内する方法、及びマイクロ流体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、上側チャネル及び下側チャネルを有するマイクロ流体素子が知られている。その上側チャネル及び下側チャネルは、そのマイクロ流体素子の基板の各対応する2つの部位中にそれぞれ形成される。その各対応する2つの部位は、集合体上に存在する1つ以上の膜の周囲で重ね合わせられている。上側チャネル及び下側チャネルは、少なくとも1つのチャネル同士が交差する領域を有する。膜は2つのチャネル間に設けられる。多孔性膜は検知特性を有して良い。検出機器が供されることで、検知特性の変化が計測されて良い。
【0003】
特許文献1から既知であるマイクロ流体素子は、チャネルを形成するため、2つの均等に分割された部位を必要とする。上側チャネルと下側チャネルとがそれぞれ異なるようにするには、下側又は上側で2分割されたものが、上側又は下側チャネルの壁の1つを形成するので、チャネルはそれぞれ異なる進路を有していなければならない。複数のチャネルが互いに交差する場所では、上側チャネルと下側チャネルとの間で流体が流れることができるような空間が自動的に生成される。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0051154号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第04102257.5号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、既知のマイクロ流体素子に比べて改善されたマイクロ流体素子の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、2つの横方向に伸び、かつ垂直方向に貫通する凹部を少なくとも1つ有する底部プレート、少なくとも第1貫流位置及び第2貫流位置を有する貫流ユニット、及びプレート構造を有するマイクロ流体素子であって、底部プレートの凹部に対する貫流ユニットの配置は、この配置の一の面から第1貫流位置及び第2貫流位置を介して反対の面へ、流体が垂直に流れることができるような配置で、さらにプレート構造と貫流ユニットとの相対的な配置は、流体が第1貫流位置から第2貫流位置へ、横方向に流れることができるようにチャネル間接続用空洞が形成されるような配置である、マイクロ流体素子によって解決される。
【0006】
従って、プレート構造が貫流ユニットと同程度の小ささであるか又は貫流ユニットよりもはるかに小さい、多層マイクロ流体素子が供されて良い。第1貫流位置と第2貫流位置とを接続するチャネル間接続用空洞は、第1垂直位置での横方向チャネルを画定する。さらに後述するように、異なる垂直位置での第2横方向チャネルが生成されて良い。
【0007】
チャネル間接続用空洞はたとえば、貫流ユニット又はプレート構造内の凹みなどの様々な方法で形成されて良い。その凹みは一の面で、かつ、どちらの面が凹みを有するのかに依存するが、貫流ユニット又はプレート構造の外部面の付近に形成されていることで、閉じたチャネルが生成される。このことは、外部面が凹みを覆うように設けることによって容易に実現可能である。あるいはその代わりに、各貫流ユニット及び底部プレート内に凹みを設け、かつそれらの凹みが1つになるように各貫流ユニット及び底部プレートを配置することによって、閉じたチャネル間接続用空洞が形成されても良い。さらに、チャネル間接続用空洞は、底部プレート内の凹部の一部、及び貫流ユニット及びプレート構造の外部面が一緒になることによって形成されて良い。あるいはその代わりに、貫流ユニット及び/又はプレート構造は、底部プレートの凹部の一部と一緒になることで閉じたチャネル間接続用空洞を形成する凹みを有して良い。
【0008】
貫流ユニットをただ1つだけ有する代わりに、マイクロ流体素子には、底部プレート上のそれぞれ異なる横方向位置に複数の貫流ユニットが備えられて良い。
【0009】
本発明の一の実施例では、チャネル間接続用空洞とは異なる垂直位置にある他の横方向のチャネル層は、プレート構造とは反対側の底部プレート面上にチャネル構造を備えることによって形成される。チャネル構造は、底部プレートと同じ大きさであって良い。貫流ユニット及びプレート構造は底部プレートよりもかなり小さいことに留意すべきである。1つになったチャネル構造と底部プレート内で形成されるチャネル空洞の経路の設計にはほとんど制約がない。底部プレートは、閉じたチャネル空洞が形成されるようにチャネル構造の外部面と1つになる凹みを有して良い。又はチャネル構造は、閉じたチャネル空洞が形成されるように底部プレートの外部面と1つになる凹みを有しても良い。又は底部プレ―ト及びチャネル構造はそれぞれ凹みを有し、これらの凹みが1つになることで閉じたチャネル空洞を形成しても良い。ここで、“閉じたチャネル空洞”が、たとえばマイクロ流体素子の外部からの流体試料でチャネル空洞を、たとえばシリンジを用いることによって満たすように注入プラグ(filling plug)が供される場合を排除するものと解してはならない。
【0010】
本発明の別な実施例では、マイクロ流体素子は、第1貫流位置から第2貫流位置への横方向の流れを防ぐ壁となる素子を少なくとも1つ有する。このようにして、流体は貫流位置を介して流れるように強制され、貫流ユニットの選択部分はたとえば、流体の特定成分が貫流するのを防ぐのに用いられて良い。壁となる素子は、チャネル構造又は底部プレートの一部であって良い。又は、底部プレート及びチャネル構造はそれぞれ1つの共同する壁となる素子を有しても良い。
【0011】
本発明の一の実施例では、貫流ユニット及び底部プレートは互いに隣接するように備えられている。これにより、底部プレートと貫流ユニットとを独立して製造すること、並びに、貫流ユニットが備えられる凹部及び貫流ユニットそれ自体を精密に測定する必要なく、(たとえば接着によって)容易に組み立てることが可能となる。流体が貫流ユニットの貫流位置を介して流れることができるように、底部プレートは2つの貫通凹部を有し、それらの相対位置は貫流ユニットの貫流位置の相対位置と一致するように設けられている。続いて貫流ユニットは、貫流位置が底部プレートの貫通凹部と一致するように底部プレートと隣接して備えられる。
【0012】
本発明のさらに別な実施例では、能動素子がプレート構造内に供される。そのような能動素子は、流体の特性(たとえば温度)を計測するセンサ、又は流体中の(複数の)特性成分の存在及び/又は周波数を選択的に測定するセンサであって良い。能動素子の別な例は、流体に作用することで流れを起こすアクチュエータである。
【0013】
本発明のさらに別な実施例では、貫流ユニットは、貫流ユニットの一の面から他の面への電気的接続(伝導性貫通接続)を供する電気ビアを少なくとも1つ有する。このようにして、データ処理装置と、プレート構造内に供される能動素子に付随する電力供給部との間の電気的接続がすぐに確立可能となる。
【0014】
本発明はまた、請求項1に記載のマイクロ流体素子の使用方法にも関する。当該方法は、次の工程を有する。
【0015】
第1チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程、又は第1容積に流体試料を供する工程;
第1チャネル空洞又は第1容積から第1貫流位置を介して第2チャネル空洞へ垂直方向に流れを案内する工程;
第2チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程;及び
第2チャネル空洞から第2貫流位置を介して第3チャネル空洞又は第2容積へ垂直方向に流れを案内する工程;
上述した流体の流れはまた逆方向に流れても良く、流体試料は再利用されても良い。
【0016】
別な実施例では、マイクロ流体素子の利用方法はまた、流体試料の特性、又は、流体試料中の成分の存在及び/若しくは周波数を計測する工程を有する。
【0017】
本発明は、マイクロ流体素子を介する流体の流れを案内する工程をさらに有する。当該方法は、次の工程を有する。
【0018】
第1チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程、又は第1容積に流体試料を供する工程;
第1チャネル空洞又は第1容積から第1貫流位置を介して第2チャネル空洞へ垂直方向に流れを案内する工程;
第2チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程;及び
第2チャネル空洞から第2貫流位置を介して第3チャネル空洞又は第2容積へ垂直方向に流れを案内する工程;
本発明はさらに、マイクロ流体素子の製造方法にも関する。当該方法は次の工程を有する。
【0019】
面内を横方向に伸び、かつ垂直方向に少なくとも1つの貫通凹部を有する底部プレートを供する工程;
底部プレートに対して少なくとも第1貫流ユニット及び第2貫流ユニットを有する貫流ユニットを備える工程であって、特に底部プレートと貫流ユニットとが1つになるように配置する工程;
プレート構造及び貫流ユニットを配置する工程であって、第1貫流位置から第2貫流位置へ横方向に流体が流れることができるようにするチャネル間接続用空洞が形成されるような、プレート構造及び貫流ユニットの相対位置にする、配置工程;
前記配置工程は、貫流ユニットが底部プレートに対して配置される前に実行されて良い。
【0020】
本発明のこれら及び他の態様は、以降で説明する実施例から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明に従ったマイクロ流体素子の実施例の一部の斜視図である。図示された部分は、底部プレート1、貫流ユニット2及びプレート構造4で構成される。これら3つの部品の位置関係は図2においてより詳細に図示されている。底部プレート1は図示されているよりも大きくて良く、かつ他の部品に対する底部プレートの図示された大きさは限定的なものではない。この実施例では、底部プレートは、2つの貫通孔1.1及び1.2を有し、これらの貫通孔は貫流ユニットの貫流位置3.1及び貫流位置3.2の相対位置と一致するように供される。凹部1.1及び凹部1.2によって、流体は、底部プレート1上の容積から貫流ユニット2の貫流位置3.1及び貫流位置3.2を介して、かつその逆の方向に流れることができる。この実施例では、貫流位置3.1及び貫流位置3.2はマイクロチャネルを有し、そのマイクロチャネルのうちの複数は、凹部1.1及び凹部1.2の底部で見つけることができる。図示されている底部プレート1は、プラスチック注入成型法を用いて製造されて良い。その際プラスチック注入成型法で用いられる1つの金属ツールは、マイクロ流体素子用の数千の底部プレートを製造するように機能して良い。底部プレート1はまた、たとえばプラスチックホイルのような、ある程度の柔軟性を有する材料で構成されて良い。そのようなホイルは、当業者にとって周知である、大量生産用のホイル処理法によって製造されて良い。薄いホイルの場合(たとえば10μm)、貫流凹部は、リソグラフィ又はレーザーによる穴あけ法によって作製されて良い。
【0022】
図2は、図1に図示されたマイクロ流体素子の一部の断面図である。この断面は、線A-A’に平行にとられた。この断面では、底部プレート1は3つの部分に切り分けられる。その切り分けられた中心部分は、凹部1.1と凹部1.2との間の橋かけ構造である(図1を参照のこと)。この実施例では、貫流ユニット2は、接着剤9を用いることによって底部プレートと接合される。接着剤9は、たとえば樹脂のような生体親和性の接着剤であることが好ましい。その結果、貫流ユニット2は、貫流位置3.1及び貫流位置3.2が底部プレート1の凹部1.1及び凹部1.2に設けられるように、底部プレート1と一体化して備えられる。凹部1.1及び凹部1.2は、貫流位置3.1及び貫流位置3.2へ向かって先細る構造である。それにより、流体は層流となり、かつ再循環領域は最小となる。他の形態の貫通凹部もまた考えられる。この実施例では、貫流ユニット2は、第1貫流位置3.1と第2貫流位置3.2とを接続するチャネル間接続用空洞41が形成されるように、プレート構造4内の凹みを覆う。チャネル間接続用空洞41は、以降において図9から図11を参照しながら説明されているように、プレート構造4及び/又は貫流ユニット2及び/又は底部プレート1に加工される凹部から形成されて良い。よって流体は、底部プレート上の容積からマイクロチャネルを介してチャネル間接続用空洞41へ(又は、チャネル間接続用空洞41から底部プレート1上の容積へ)垂直方向に流れることが可能となる。別な実施例では、マイクロチャネルの代わりに多孔性膜が用いられる。後述するように他の実施例では、貫流位置のうちの1つは、流れの妨害を最小にするため、分割された穴よりもむしろ単一の穴として設計される(図10を参照のこと)。プレート構造4はたとえば、シリコンで(エッチングによって)作製されて良く、又は成形されたプラスチック部分であって良い。プレート構造4では、たとえばセンサ、アクチュエータ又はポンプのような能動素子5が一体化して良い。図示された実施例では、能動素子5は電気的に接続する。電気的接続は、底部プレート上にリード線12を有すること(たとえば、底部プレート内部に埋め込まれた、又は底部プレート上にプリントされた銅のリード線)によって実現される。リード線は、導電性バンプ10を介して貫流ユニット2内の電気ビア11と結合する。プレート構造もまた、電気的ビア11と電気的に結合する電気リード線又はワイヤ(図示されていない)を有する。それにより、能動素子5との接続を確立することが可能となる。よってエネルギー供給及びデータ交換を実行することが可能となる。別な実施例では、能動素子5は、光学モジュール又はRFモジュールを介して通信し、かつアンテナ及び/又はフォトダイオードを介して、データ及び/又は電力を受け取る。たとえばセンサ、アクチュエータなどの能動素子の如何なるものも、マイクロ流体素子、特にバイオセンサカートリッジとして設計されたマイクロ流体素子にとって有用である。
【0023】
貫流位置3.1及び貫流位置3.2を画定する(複数の)多孔性膜のマイクロチャネルは、様々な目的に利用されて良い。気相ボーラスがマイクロ流体素子のチャネル空洞を介して流れる場合、垂直貫流ユニット2は、気相ボーラスが貫流位置を介して流れないため、気相ボーラスが能動素子5上を流れるのを防ぐ。貫流位置3.1及び貫流位置3.2は流体を濾過する、又は流体を選択に流すのに用いられて良い。たとえば、流体が血液試料の場合、チャネルサイズは、血液細胞が能動素子5を流れず、かつ血液プラズマのみが能動素子5を流れるように選択される。マイクロチャネルはまた、標的分子を特定して結合させるのに用いられても良い。受容体分子がマイクロチャネルの壁に付着する場合、これらの受容体分子は標的分子を捕獲する。体積に対する表面の比が大きいので、多量の標的分子を捕獲することができる。それにより大きな値の信号が得られる。信号はたとえば、ターゲット分子が蛍光マーカー又は電磁ビーズによって標識化されている場合には、その標識化されたターゲット分子からの信号は、光学センサ(たとえばフォトダイオード)又は磁気センサによってそれぞれ計測される。これらの場合では、蛍光遷移の励起後における強い蛍光信号の計測、又は磁場特性の偏向が計測可能である。電磁ビーズがターゲット分子に付着する場合、能動素子5は、特許文献2で説明されているような、貫流位置3.1及び貫流位置3.2のうちの少なくとも1つでの磁気特性を計測する巨大磁気抵抗(GMR)センサであって良い。
【0024】
図2に図示された実施例から、プレート構造4が横方向に伸びる長さは、貫流ユニット2とほぼ同一であることが分かる。プレート構造4はまた、横方向に伸びている長さよりより長くても良いし、又は短くても良い。このことにより、以降でさらに詳述するように、異なる垂直位置に2層のチャネル層を有するマイクロ流体素子を、コスト効率良く製造することが可能となる。
【実施例1】
【0025】
図3は、本発明に従ったマイクロ流体素子の第1実施例の断面を概略的に示している。底部プレート1は、貫流ユニット2と一体化するように備えられる。ここで、一体化する配置は、貫流ユニット2を底部プレート1の凹部に接着することによって実現される。実線aによって、そのような凹部は、貫流ユニット2が凹部へ容易に接着できるようにする先細った形態で作製されて良いことを示している。別な実施例では、貫流ユニット2は、プラスチック注入成形処理中に、底部プレート1に一体化される。この場合、貫流ユニット2は、プラスチック注入成形された底部プレート1の製造に用いられる道具となる。貫流ユニット2と底部プレート1との間の強い接続は、構造が形成された界面を用いて、プラスチックの母体がその構造に挟まれることによって保証されて良い。図1及び図2に図示されているように、底部プレート1と貫流ユニット2との相対的位置設定もまた実現されて良い。
【0026】
プレート構造4が貫流ユニット2に隣接して備えられている。図中の方向を参照すると、プレート構造4が貫流素子の下に備えられている。そのように備えられることで、プレート構造4内の凹み及び貫流ユニット2の隣接する外部面によってチャネル間接続用空洞41が形成される。チャネル間接続用空洞41は、第1貫流位置3.1と第2貫流位置3.2とを接続する。チャネル構造6は底部プレート1上に備えられている。チャネル構造6も同様に、プラスチック注入形成法又は当業者にとって既知である他の方法によって作製されて良い。当業者にとって既知である他の方法とはたとえば、プラスチックのマスタープレスのホットエンボス加工、又はミリング若しくはワイヤ浸食法である。チャネル構造6は、シリンジによってマイクロ流体素子を満たすために供される注入プラグEを有する。チャネル構造6は、底部プレート1と1つになってチャネル空洞6.1及びチャネル空洞6.2を形成する凹みを有する。一の実施例では、チャネル空洞6.1はチャネル空洞6.2と接続し、それによって、流体が貫流ユニット2の領域上を横方向に流れることが可能となる。別な実施例では、流体は貫流位置3.1から貫流位置3.2へ直接横方向に流れることができないように、壁となる素子7がチャネル空洞6.1とチャネル空洞6.2との間に存在する。灰色の破線矢印は、壁である素子7が存在するときの、マイクロ流体素子を介した流体の可能な流れを示している。流体試料がチャネル空洞6.1を満たした後、流体試料はチャネル空洞6.1内で横方向に流れて貫流位置3.1へ向かい、続いて貫流位置3.1を介してチャネル間接続用空洞41へ垂直方向に流れ込む。チャネル間接続用空洞41内では、流体試料は横方向へ流れることで貫流位置3.2へ向かい、チャネル空洞6.2へ垂直方向に流れ込む。そこから、試料がチャネル系を通過した後、流体は流体貯蔵用又はさらなる流体処理用の格納容器の空洞(図示されていない)へ流れ込んで良い。特に流体試料が再利用されるべき場合、又はマイクロ流体素子を介して流体試料を繰り返し案内するためには、逆方向に流体が流れることもまた可能である。
【実施例2】
【0027】
図4では、本発明に従ったマイクロ流体素子のさらに別な実施例の断面が図示されている。この実施例では、第1貫流位置3.1上部の容積8内に流体試料が供される。これはたとえば、血液試料又は尿試料であって良い。流体試料は、毛管力によって、又は低圧にすることによって、貫流位置3.1で貫流ユニット2を垂直方向に貫流する。低圧にするにはたとえば、流体試料を吸い込む、すなわち流体試料をマイクロ流体素子へ押し込めて、チャネル間接続用空洞41、貫流ユニット2及びチャネル空洞6.2を通るように流すポンプ(図示されていない)を利用する。
【実施例3】
【0028】
以降では、図5a,b-図8a,bを参照しながらマイクロ流体素子の製造方法について説明する。図5b-図8bでは、様々な製造工程でのマイクロ流体素子の上面図が図示されている。図5a-図8aでは、それぞれの製造工程でのマイクロ流体素子の断面像が図示されている。ここで各断面像は、図5bに示されている線A-A’と平行にとられている。
【0029】
図5a及び図5bでは、第1工程として底部プレート1が供される。そのような底部プレート1は、プラスチック注入成型法、ホイル製造法、エンボス加工法、ミリング法等によって作製されて良い。プラスチック注入法については、底部プレートの最終形に対してネガとなる金属ツールが作製される。エッチング及び/又はミリング及び/又はワイヤ浸食によって、そのようなツールは精密に製造されて良い。プラスチックの摩耗効果が小さいため、ネガは何千ものプラスチック注入成型された底部プレートに用いることが可能である。この実施例では、底部プレート1は2つの凹部1.1及び1.2を有し、この他の凹みは有していない。その2つの凹部は先が細くなっている。図5bでは、先が細くなっている涼気が水平の縞状領域によって示されている。底部プレート1が非常に薄いホイル(たとえば10μm)である場合には、さらに安定にするために犠牲支持構造(図示されていない)上に供されて良い。この場合、図8a及び図8bを参照しながら説明される製造工程、特に底部プレート1上にチャネル構造6を備える工程、が最初に実行され、続いて犠牲支持構造が除去される。除去する方法はたとえば、剥離又は化学的に溶解することである。
【0030】
次の工程では、図6a及び図6bに図示されているように、貫流ユニット2が底部プレートと、接着剤9を用いることによって接合する。貫流ユニット2は、第1貫流位置3.1及び第2貫流位置3.2を有する。第1貫流位置3.1と第2貫流位置3.2とは空間的に分離している。貫流ユニット2は、第1貫流位置3.1及び第2貫流位置3.2と位置と凹部1.1及び凹部1.2との間で位置が一致するように、底部プレート1と接合する。この上面図では、貫流ユニット2は、底部プレート1に下で接合するので、貫流ユニット2の外側の横方向サイズ(長さ及び幅)は、図6b中の破線で示されている。図示された実施例では、貫流位置3.1及び貫流位置3.2は、断面図(図6a)において垂線で示され、かつ上面図(図6b)において黒の円で示されるマイクロチャネルによって形成される。別な実施例では、マイクロチャネルは純粋な垂直配向ではなく傾いている。
【0031】
第3工程では、図7a及び図7bに図示されているように、プレート構造4は底部プレート1と対向して貫流ユニット2と接合する。それにより、チャネル間接続用空洞41が形成される。この実施例では、チャネル間接続用空洞41は、プレート構造4内の凹み及び、前記凹みを覆う貫流ユニット2の隣接面によって形成される。その結果形成された閉じたチャネル間接続用空洞41は、第1貫流位置3.1と第2貫流位置3.2とを接続することで、前記貫流位置間での横方向の流れを可能にする。チャネル間接続用空洞41の横方向サイズ(長さ及び幅)は、図7bにおいて破線で示されている。
【0032】
上述の製造方法の別法では、貫流ユニット2がプレート構造4に付着している。プレート構造4がシリコンで作製されている場合、このような付着は、たとえばウエハ-ウエハ接合プロセス(wafer-to-wafer bonding procedure)を用いることにより、ウエハレベルで実現可能である。重ね合わせられたウエハ構造は続いてダイシングされ、その際、貫流ユニット2が汚染されないように、貫流ユニット2は担体上に下向きにされるのが好ましい。そのようなプロセスでは、貫流ユニット2とプレート構造4とが結合した重ね合わせ構造が複数製造されて良い。貫流ユニット2単独では、図5a及び図5bに図示されているように、各重ね合わせ構造が続いて底部プレート1と接合する。図7a及び図7bに図示された結果が得られる。
【0033】
最終工程では、チャネル構造6は、図8a及び図8bに図示されているように底部プレート1と接合する。チャネル構造6はまた、プラスチック注入成型法によって作製されても良い。(図の方向を基準にして)底部プレート1の上面及びチャネル構造6の底面が接合して1つになり、流体試料の流れを案内するチャネル空洞6.1及びチャネル空洞6.2が形成される。この目的のため、チャネル構造は、底部プレート1の隣接面と接合するときにチャネル空洞6.1及びチャネル空洞6.2を形成する凹みを有する。形成されたチャネル空洞6.1とチャネル空洞6.2との間の壁となる素子7は、凹部1.1と凹部1.2との間の橋かけ構造と一致する。このようにして、チャネル空洞6.1からチャネル空洞6.2への横方向の流れが抑制され、注入プラグEを介して注入可能な流体試料は、第1貫流位置3.1において貫流ユニット2を垂直方向に介して、チャネル間接続用空洞41へ流れ込むように強制する。チャネル空洞6.1及びチャネル空洞6.2の外側(横方向)サイズが、図8bの上面図中の破線で示されている。チャネル空洞6.2は、貯蔵空洞が形成されるようにT字形状である。先が細くなっている壁、マイクロチャネルの穴及び貫流ユニット2の大きさは、簡明を期すために無視した。
【0034】
図5a,b-図8a,bは概略図であり、図示されたマイクロ流体素子の様々な部品の大きさは本発明を限定するものとして解されてはならない。様々な大きさについての典型的な値を下の表で与える。これらの値も限定の意味と解されるものではない。表中の、”μm”はマイクロメートルを意味する。幅及び長さは横方向サイズで、高さは垂直方向サイズである。
【0035】
【表1】

本発明に従ったマイクロ流体素子のさらに別な実施例については、図9-図12と共に説明する。
【実施例4】
【0036】
図9では、マイクロ流体素子の実施例が図示されている。このマイクロ流体素子では、貫流ユニット2は底部プレート1の先が細くなっている凹部に接合されることで、チャネル構造6が備えられる表面は平坦となる。貫流ユニットの大きさは線aで示されている。この実施例では、底部プレートは貫流ユニットよりも厚くなっているので、凹部の一部は平坦にならずに残る。この残った凹部を覆うように、何も加工がされていないプレート構造4が備えられる。それにより、チャネル間接続用空洞41が形成される。この実施例では、チャネル間接続用空洞41は、貫流ユニット2の外部面、底部プレート1の残された凹部及びプレート構造4の外部面によって形成される。別な実施例ではまた、プレート構造4は、底部プレート1内の凹部と1つになることで、チャネル間接続用空洞41を形成するように機能する凹みを有する。
【実施例5】
【0037】
図10では、貫流位置3.1が貫流ユニット2内の穴として設計されているマイクロ流体素子の実施例が図示されている。あるいはその代わりに、第1貫流位置3.1はまた、流体試料中の全成分よりも大きなサイズを有する多数の穴又はチャネルとして設計されて良い。そのように設計することによって流体試料中の全成分は選択的に濾過されない。第2貫流位置3.2は、流体試料成分を選択的に濾過するように設計される。ここでの流体試料成分とは特に、小さなマイクロチャネルを通り抜けることのできない細胞である。細胞が光学的又は磁気的ラベルを有する場合、細胞の存在又はその細胞の他の特性は、センサとして構築されていて、かつ第2貫流位置3.2の下に設けられている能動素子5によって計測可能である。この効果のため、第2貫流位置3.2のマイクロチャネルは、細胞よりも小さく設計されている。そのように設計されることにより、細胞は第2貫流位置3.2のマイクロチャネルを流れることができない。従って細胞は、第2貫流位置3.2と能動素子5との間に存在するチャネル間接続用空洞41の容積内の機械的手段によって捕らえられたままである。
【実施例6】
【0038】
図11では、貫流ユニット2が底部プレート1に接合されたマイクロ流体素子の実施例が図示されている。貫流ユニット2は、底部プレート1と接合する面とは反対の面に凹みを有する。この実施例では、プレート構造4は、貫流ユニット2内の凹みを覆うように備えられることで、チャネル間接続用空洞41を形成する。この実施例は図8aで図示されたマイクロ流体素子の実施例と同様である。ただし図8aでは、凹みはプレート構造4内にのみ形成されている。
【実施例7】
【0039】
図12では、マイクロ流体素子のさらに別な実施例が図示されている。この実施例では、底部プレート1は凹みを有し、その凹みがチャネル構造6中の凹みと1つになることで、閉じたチャネル空洞6.1及び6.2が形成される。チャネル構造6及び底部プレート1の一体部分である壁となる素子7はそれぞれが1つになることで、チャネル空洞6.1及びチャネル空洞6.2によって画定される横方向チャネル層内の第1貫流位置3.1と第2貫流位置3.2との間で、流体が横方向に流れるのを抑制する。それに加えて、凹みは貫流ユニット2内及びプレート構造4内にも形成される。それによって、チャネル間接続用空洞41は、これら2つの一緒になる凹みによって形成される。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に従ったマイクロ流体素子の一部の斜視図を示している。
【図2】図1に示されたマイクロ流体素子の一部の断面を図示している。断面は、図1の線A-A’と平行にとられた。
【図3】本発明に従ったマイクロ流体素子の第2実施例の断面を図示している。
【図4】本発明に従ったマイクロ流体素子の第2実施例を図示している。
【図5a】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第1工程でのマイクロ流体素子の断面を図示している。
【図5b】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第1工程でのマイクロ流体素子の上面を図示している。
【図6a】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第2工程でのマイクロ流体素子の断面を図示している。
【図6b】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第2工程でのマイクロ流体素子の上面を図示している。
【図7a】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第3工程でのマイクロ流体素子の断面を図示している。
【図7b】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第3工程でのマイクロ流体素子の上面を図示している。
【図8a】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第4工程でのマイクロ流体素子の断面を図示している。
【図8b】本発明に従ったマイクロ流体素子の製造の第4工程でのマイクロ流体素子の上面を図示している。
【図9】底部プレートの凹部、貫流ユニットの外部面及びプレート構造の一部によってチャネル間接続用空洞が形成されるマイクロ流体素子の実施例を図示している。
【図10】貫流位置のうちの1つが、貫流ユニット内の貫通孔によって形成されるマイクロ流体素子の実施例を図示している。
【図11】チャネル間接続用空洞が、プレート構造の外部面と1つになって機能する貫流ユニット内の凹部によって形成されるマイクロ流体素子の実施例を図示している。
【図12】チャネル空洞が、底部プレートの凹部とチャネル構造内の凹部とが1つになることで形成されるマイクロ流体素子の実施例を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料の流れを案内するマイクロ流体素子であって:
2つの横方向に伸び、かつ垂直方向を貫通する凹部を少なくとも1つ有する底部プレート;
少なくとも第1貫流位置及び第2貫流位置を有する貫流ユニット;及び
プレート構造;
を有し、
前記の底部プレートの凹部に対する前記貫流ユニットの配置は、該配置の一の面から前記第1貫流位置及び前記第2貫流位置を介して前記一の面とは反対の面へ、流体が垂直に流れることができるような配置で、かつ、
前記プレート構造と前記貫流ユニットとの相対的な配置は、流体が前記第1貫流位置から前記第2貫流位置へ、横方向に流れることができるようにチャネル間接続用空洞が形成されるような配置である、
マイクロ流体素子。
【請求項2】
前記プレート構造の横方向の伸びの程度が、基本的には前記貫流ユニットの横方向の伸びの程度と同一又はそれ以下である、請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項3】
前記チャネル間接続用空洞が、前記プレート構造の外部面と一緒になる前記貫流ユニット内の凹みによって、若しくは前記貫流ユニットの外部面と一緒になる前記プレート構造内の凹みによって、若しくは2つの一緒になった前記貫流ユニット内の凹みと前記プレート構造内の凹みによって形成され、又は、
前記チャネル間接続用空洞が、前記プレート構造の凹部の一部、並びに、前記貫流ユニット及び前記プレート構造の1つになった外部面によって形成され、
前記外部面のうちの少なくとも一面が、前記貫流ユニット又は前記プレート構造のいずれかの内に設けられた1つになった凹みであることが可能な、
請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項4】
前記の底部プレートの凹部に対する前記貫流ユニットの前記配置にチャネル構造が備えられることにより、
前記チャネル構造の外部壁と一緒になる前記底部プレート内に設けられた少なくとも1つの凹みによって、又は、
前記底部プレートの外部壁と一緒になる前記チャネル構造内に設けられた少なくとも1つの凹みによって、又は、
2つの一緒になった前記底部プレート内の凹みと前記チャネル構造内の凹みによって、
少なくとも1つのチャネル空洞が形成される、
請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項5】
前記マイクロ流体素子が、前記チャネル構造内で、前記第1貫流位置と前記第2貫流位置との間を横方向に流体が流れるのを防止する壁となる素子を少なくとも1つ有する、請求項4に記載のマイクロ流体素子。
【請求項6】
前記貫流ユニットと前記底部プレートとが互いに垂直に隣接するように備えられ、かつ、
前記底部プレートは、前記貫流位置で、垂直方向に貫通する凹部を少なくとも1つ有する、
請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項7】
能動素子が前記プレート構造内に供される、請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項8】
前記貫流ユニットが、該貫流ユニットの一の面から他の面への電気的接続を供する電気ビアを少なくとも1つ有する、請求項1に記載のマイクロ流体素子。
【請求項9】
請求項1から8に記載のマイクロ流体素子の利用方法であって:
前記第1貫流位置に隣接する容積内に流体試料を供する工程;
前記第1貫流位置を介して前記チャネル間接続用空洞へ前記流体試料を案内する工程;
前記チャネル間接続用空洞を介して前記第1貫流位置から前記第2貫流位置へ前記流体試料を案内する工程;及び
前記第2貫流位置を介してチャネル空洞へ前記流体試料を案内する工程;
を有する方法。
【請求項10】
前記工程が、前記流体試料の特性、又は前記流体試料中の成分の存在及び/若しくは周波数を測定する工程をさらに有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
マイクロ流体素子を介して流れる流体を案内する方法であって:
第1チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程、又は第1容積内に流体試料を供する工程;
前記第1チャネル空洞又は前記第1容積から第1貫流位置を介して第2チャネル空洞へ垂直方向に流れを案内する工程;
前記第2チャネル空洞を介して横方向へ流れを案内する工程;及び
前記第2チャネル空洞から第2貫流位置を介して第3チャネル空洞又は第2容積へ垂直方向に流れを案内する工程;
を有する方法。
【請求項12】
マイクロ流体素子の製造方法であって:
面内を横方向に伸び、かつ垂直方向に貫通する凹部を少なくとも1つ有する底部プレートを供する工程;
前記底部プレートに対して少なくとも第1貫流位置及び第2貫流位置を有する貫流ユニットを配置する工程であって、特に前記底部プレートと前記貫流ユニットとが互いに隣接するように配置する工程;
前記プレート構造及び前記貫流ユニットを配置する工程であって、前記第1貫流位置から前記第2貫流位置へ横方向に流体が流れることができるようにするチャネル間接続用空洞が形成されるような、プレート構造及び貫流ユニットの相対位置に配置する工程;
を有する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2008−520409(P2008−520409A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540822(P2007−540822)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/IB2005/053760
【国際公開番号】WO2006/054238
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】