説明

マスク

【課題】インフルエンザウイルスに対する殺菌性能に優れたマスクを提供する。
【解決手段】不織布15上に粘着層16を形成するとともに、この粘着層16を介して不織布15上にアルミニウムから成る金属微粒子21と亜鉛から成る金属微粒子22とをそれぞれ担持させるようにし、しかも両金属微粒子21、22間に絶縁被膜23を形成し、これによって不織布15上に無数の電池を形成し、この電池の両極間で流れる電流を利用して微生物の制御電流を超える直流電流を微生物に流し、これによって殺菌を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクに係り、とくに人間の鼻および口を覆って病原菌の吸入または/および放出を防ぐマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインフルエンザは、ウイルスが人体内に侵入して発症する感染症である。ウイルスによるインフルエンザは、極めて感染性が高い特徴を有している。また鳥インフルエンザに代表されるように、人類にとって脅威のウイルス性のインフルエンザが流行することが懸念されている。このようなインフルエンザウイルスは、交通機関の発達によって、世界的規模で拡散して爆発的に感染する可能性がある。このようなウイルス性のインフルエンザに対する対策は、非常に困難である。
【0003】
また上述のようなウイルス性の感染症を防止するために、従来のマスクはほとんど無力である。すなわちウイルスは非常に微細な微生物であるために、通気性を有する従来のマスクをウイルスが容易に透過することができる。このためにマスクを装着していても、ウイルスを吸入してしまい、あるいはまた感染した人がマスクを通してウイルスを発散することとなっており、マスクによるウイルスの感染の予防は実質的に不可能であった。
【0004】
ウイルス耐用の高密度繊維(N95)を用いたマスクの場合には、マスクそれ自体の気密度が大きく、通気性が悪く、このためにマスクを装着した人の呼吸が困難になる問題があった。すなわち十分な外気を肺の中に取込むことができないために、長時間の作業が困難であり、あるいはまた力作業を必要とする仕事ができず、さらには作業時間を短縮しなければならない問題があった。
【0005】
特許第3276141号公報には、植物性繊維布に亜鉛または亜鉛合金溶射を施した抗菌性布が開示されている。この抗菌性布は、亜鉛が有する抗菌性を利用するものであって、殺菌性能が低いばかりでなく、ウイルスに対する殺菌性をほとんど有していない。またここで亜鉛を植物性繊維布に溶射すると、植物繊維布が燃焼し、しかも付着した亜鉛微粒子は、洗濯によって容易に脱落してしまい、これによって耐久性がない欠点がある。
【特許文献1】特許第3276141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の課題は、病原菌に対する殺菌性能に優れたマスクを提供することである。
【0007】
本願発明の別の課題は、ウイルスに対する殺菌性能に優れたマスクを提供することである。
【0008】
本願発明のさらに別の課題は、インフルエンザウイルスを殺菌することができるマスクを提供することである。
【0009】
本願発明のさらに別の課題は、耐薬品性のウイルスを殺菌することが可能なマスクを提供することである。
【0010】
本願発明の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想およびその実施の形態によって明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の主要な発明は、鼻および口を覆って病原菌の吸入または/および放出を防ぐマスクにおいて、
通気性の殺菌シートを有し、該殺菌シートはイオン化傾向が異なる2種類の金属微粒子を担持し、該2種類の金属微粒子が絶縁被膜を介して対接され、前記殺菌シート上に無数の微小な電池が形成されることを特徴とするマスクに関するものである。
【0012】
ここで、前記通気性の殺菌シートの基材が不織布であってよい。また前記通気性のシートの表面に通気性を有する粘着層が形成され、該粘着層を介して前記金属微粒子が担持されてよい。また前記通気性のシートの上に形成された前記粘着層の表面または前記シートの前記粘着層が形成された面とは反対側の表面に前記金属微粒子が担持されてよい。また表面に粘着層を形成したカバーシートを前記金属微粒子が担持されている前記殺菌シートの表面に接合するようにしてよい。また前記通気性の殺菌シートが2枚の不織布を接合して構成され、該不織布の一方の表面に粘着層が形成され、さらに前記粘着層の表面に前記金属微粒子が担持され、前記金属微粒子を担持した前記粘着層同士を互いに接合して前記粘着シートが形成されてよい。また前記通気性の殺菌シートが2枚の不織布を接合して構成され、該不織布の一方の表面に粘着層が形成されるとともに、他方の表面に前記金属微粒子が担持され、前記粘着層同士を互いに接合して前記殺菌シートが形成されてよい。また表面に粘着層が形成されたカバーシートを前記金属微粒子が担持されている前記殺菌シートの表面に接合するようにしてよい。
【0013】
また、前記2種類の金属微粒子は、溶射によって殺菌シート上に担持されてよい。また前記2種類の金属微粒子がアルミニウムと亜鉛であってよい。また前記粘着層が加熱されると粘着性を発現するホットメルト型粘着剤から構成されてよい。また吸気の水分を吸収保持する保湿シートを有し、該保湿シートが前記殺菌シートと接合され、あるいは2枚の殺菌シート間に挟着されてよい。また前記殺菌シートの周縁部に装着されたときに隙間が生ずるのを防ぐ切込みが形成されてよい。
【発明の効果】
【0014】
本願の主要な発明は、鼻および口を覆って病原菌の吸入または/および放出を防ぐマスクにおいて、通気性の殺菌シートを有し、該殺菌シートはイオン化傾向が異なる2種類の金属微粒子を担持し、該2種類の金属微粒子が絶縁被膜を介して対接され、殺菌シート上に無数の微小な電池が形成されるようにしたものである。
【0015】
従ってこのようなマスクによると、通気性の殺菌シート上に担持された2種類の金属微粒子によって無数の微小な電池が形成され、この電池の両極間に生ずる電位差によって微小電流が流れ、このような微小電流がウイルス等の非常に微細な微生物の制御系をコントロールする制御電流を超える電流を通ずることになり、これによって微生物が死滅する。従ってウイルス等の非常に微小な微生物を確実に殺菌することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。図1Aは、マスクの殺菌構造を示すものであって、ここでマスクは、複数枚の、例えば2枚の殺菌シート10を備えており、これらの殺菌シート10が、保湿シート11を介して重ねられている。ここでは2枚の殺菌シート10と3枚の保湿シート11とを重ねて構成されている。
【0017】
図1Bは、別の構成の例であって、ここでは3枚の殺菌シート10が、4枚の保湿シート11と組合わされ、これらが交互に配置されて7層構造のマスクを構成している。このように、本実施の形態のマスクは、複数枚の殺菌シート10と、複数枚の保湿シート11とを互いに交互に組合わせた構造になっている。
【0018】
図2Aは、上記殺菌シート10の構成を示しており、ここでは不織布15が基材として用いられ、この不織布15の一方の表面にホットメルト粘着剤から成る粘着層16が形成される。そしてこのような粘着層16の表面には、アルミニウムから成る金属微粒子21と、亜鉛から成る金属微粒子22とが担持される。なおこれらの金属微粒子21、22は、粘着層16を形成した不織布15の表面に同時に、あるいはまた別々に、溶射等の方法によって付着担持されてよい。このときにアルミニウムの金属微粒子21と亜鉛の金属微粒子22とが互いにばらばらの状態でしかも両者が混ざり合うようにして担持される。なお図2Aにおいて、不織布15が凹凸を有しているのは、スポット状に圧力を加えながらこの不織布15の表面に粘着層16を形成したからである。
【0019】
なおここで粘着層16を形成するためのホットメルト粘着剤としては、ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂等の各種のホットメルト粘着剤が用いられる。この場合において、溶融する温度を適正な値とするために、上記の各種の粘着剤の中から最適なものを選択することができる。
【0020】
図2Bは、別の殺菌シート10の例を示している。ここでは不織布10の一方の面にホットメルト粘着剤から成る粘着層16が形成される。しかも上記不織布15の粘着層16が形成されている表面とは反対側の表面に、アルミニウムから成る金属微粒子21と、亜鉛から成る金属微粒子22とが混ざり合うようにして担持されている。一般に不織布15の表面に形成される粘着層16の表面に直接金属微粒子21、22を担持させる代わりに、加熱によって反対側の面に浸出したホットメルト接着剤を用いて不織布15を介して反対側の面に担持させるようにしてもよい。図2Bにおいては粘着層16は不織布15の表面に独立した状態で描かれているが、実際には粘着層16が不織布15内に浸透し、これによって粘着層16を形成した面とは反対側の面においても粘着層16が浸出しているために、不織布15の粘着層16を形成した面とは反対側の面についても、粘着層16の粘着力を利用して金属微粒子21、22を担持させることができる。
【0021】
次に2枚の不織布15を用いて殺菌シート10を形成する構成について図3によって説明する。図3Aに示すように、一方の表面に粘着層16が形成された不織布15を2枚用意する。そしてこれらの不織布15上の粘着層16の表面に、金属微粒子21、22をそれぞれ担持させる。このような状態において、図3Bに示すように、両側の不織布15を互いに接合し、これらの不織布15の表面に形成されている粘着層16を互いに接合する。すると粘着層16の表面に形成されている金属微粒子21、22が両側の粘着層16によって挟着された状態で、一対の不織布15が接合されることになる。このような構成は、とくに不織布15上に粘着層16を介して担持されている金属微粒子21、22を、両側の不織布15によって確実に覆うことが可能になる。従って金属微粒子21、22の脱落が防止される。なお金属微粒子21、22による殺菌作用は、図3Bに示すように接合された構造の殺菌シート10内を空気または吸気が通過する際に、その中に含まれるウイルスを殺菌することができるために、殺菌性能が低下することはない。
【0022】
図4Aは別の構成を示しており、ここでは不織布15の一方の面に粘着層16が形成されるとともに、反対側の面に金属微粒子21、22が形成された2枚の不織布15を用いる。そしてこれらの不織布15を、それらの上の粘着層16が互いに向かい合うようにして接合する。これによって図4Bに示すように、外表面に2種類の金属微粒子21、22が担持された殺菌シート10が形成される。ここで殺菌シート10は、上記の粘着層16を点接によって圧着接合するようにしているために、図4Bに示すように、不織布15がその表面が凹凸を有するようになる。
【0023】
図2Aに示す殺菌シート10は粘着剤層16の表面に金属微粒子21、22が露出した状態で担持されている。また図2Bあるいは図4Bに示す殺菌シート10は、その外表面であって、とくに粘着層16が形成されていない面に金属微粒子21、22が担持される。従ってこのような金属微粒子21、22を保護するために、図5に示すような構成とすることができる。
【0024】
図2Aに示すように、不織布15の上にさらに粘着層16を介して金属微粒子21、22が担持され、しかもこのような金属微粒子21、22が外表面に露出している場合には、カバーシートを構成する不織布25をその表面に被せればよい。ここでカバーシートを構成する不織布25には、その一方の面に粘着層26が形成されており、このような粘着層26を殺菌シート10の金属微粒子21、22を担持する接着剤層16の表面に被せるように接合する。図2Bの殺菌シート10の場合には、金属微粒子21、22が露出している不織布15の表面にカバーシートを接合すればよい。
【0025】
また図4Bに示すように、互いに粘着層16を介して接合されている両側の不織布15の外表面にそれぞれ金属微粒子21、22が担持されている場合には、これらの金属微粒子21、22を覆うように、粘着層16を有する不織布25をその両側の外表面上に被せればよい。ここで粘着層26が不織布15の外表面の金属微粒子21、22を覆うことになり、これによって金属微粒子21、22の脱落が防止される。
【0026】
図6はマスクの内側に用いられる殺菌シート10に、切込み30を入れた構成を示している。インフルエンザウイルスの感染防止のためのマスクの場合には、殺菌シート10それ自体がウイルスに対する殺菌性能を有していても、このマスクと顔の装着位置の周縁部との間に隙間を生ずると、この隙間を通してウイルスが侵入し、あるいは放出される。そこで、上記の隙間が生じないように、殺菌シート10の周縁部に適宜切込み30を入れ、これによって顔の装着部位とマスクとの間の隙間を無くすようにする。
【0027】
次に具体的なマスクの構成の一例を図7〜図10によって説明する。マスク35は、図7〜図9に示すようにほぼ半楕円体の形状をなしており、人の顔面の鼻から口を覆う形状になっている。そしてこのようなマスク35には、2本のゴムバンド36が取付けられる。ゴムバンド36は、結合部37のところで熱溶着によってマスク35に結合されている。またこのマスク35はその周縁部が溶着されて周縁溶着部38になっており、周縁部において一体化されている。またマスク35には、外表面にへの字型に屈曲した金属板39が取付けられている。金属板39は塑性変形可能であって、これによってとくにマスク35の上部であって、鼻の外側の部分の形状を成形し、鼻の上側との間の密着度を高めるためのものである。また上記金属板39に対応するように、マスク35の内側であって上部にはとくに図9に示すように、への字型のスポンジパッド40が接着されている。スポンジパッド40は、とくに鼻の上側の部分におけるマスク35との間の隙間を無くし、呼気あるいは吸気の漏れを無くすためのものである。
【0028】
次に上記マスク35の積層構造を図10Aによって説明する。このマスク35は、中央に配された単一の保湿シート11を挟むようにその両側に抗菌シート10を配しており、しかも外側には外カバー42が重合わされ、内側に内側シート44が重合わされるようになっている。なお外カバー42はその内表面に形成された粘着層43によって殺菌シート10に接合される。また内側シート44は、粘着層45によって内側の殺菌シート10の表面に接合される。
【0029】
図10Bは、図10Aに示す殺菌シート10の構成例を示しており、ここでは、2枚の不織布15の表面にそれぞれホットメルト粘着材から成る粘着層16が形成されるとともに、これらの粘着層16の表面にアルミニウムから成る金属微粒子21と亜鉛から成る金属微粒子22とがそれぞれ溶着されて担持されている。そして両側の不織布15は、上記金属微粒子21、22を担持した粘着層16によって互いに接合固定され、これによって2層構造の殺菌シート10を構成している。
【0030】
次に上述のような殺菌シート10の殺菌の原理について説明する。アルミニウムから成る金属微粒子21と亜鉛から成る金属微粒子22とは、例えば同時に溶射によって粘着層16または不織布15上に担持させて形成する。このときにアルミニウムと亜鉛とは、それらのイオン化傾向が互いに異なるために、表1に示すように、アルミニウム微粒子21と亜鉛微粒子22との間に0.9Vの電位差を発生する。
【0031】
【表1】

【0032】
金属アルミニウムの溶融温度は660℃であり、亜鉛の溶融温度は約420℃である。従って例えば1000℃の電気マークによる溶射を行なうと、アルミニウムおよび亜鉛はともに瞬時に溶けるとともに、溶けた金属が圧縮空気によって発生される高速の空気流によって霧状に噴霧される。従って空気流に晒すように粘着層16を有する不織布15を配置しておくと、不織布15の表面に金属微粒子21、22が付着固定される。なおこのような構成に代えて、先に一方の、例えば亜鉛の金属微粒子22を不織布15上に付着させ、その後にアルミニウムの金属微粒子21を付着させるようにしてもよい。
【0033】
このような金属微粒子21、22の溶射による不織布15上への付着によって、金属アルミニウムが溶けて金属亜鉛微粒子22の周囲に浸透し、さらに高温によって酸素と結合し、アルマイトよりも硬い特殊な酸化被膜を形成する。この酸化被膜は、電気的に高い絶縁性を有し、絶縁被膜になる。しかもこのような絶縁被膜23は、図11に拡大して示すように、両金属微粒子21、22間の界面に形成される。なおこのような絶縁被膜23の厚さは1000Å以下である。このような絶縁被膜23を挟んで、互いにイオン化傾向が異なるアルミニウムの微粒子21と亜鉛の微粒子22によって乾電池が形成される。すなわち霧状に噴霧された微粒子金属は両金属21、22をそれぞれ電極とする乾電池を形成する。なお不織布15に叩きつけられるようにして付着した金属微粒子21、22は、1粒子当り数10個の乾電池を形成することになる。そして不織布15に付着した金属微粒子21、22は無数に近い数量であり、従って不織布15上にはその表面に無数の乾電池が形成される。このような乾電池は、図12に示すように、上記イオン化傾向によって約0.9Vの電位差を生じ、このような電位差によって図12に示すように両電極間に電流を流すようになる。このような電流が微生物を瞬時に破壊する。
【0034】
図13に示すように、ウイルス等の微細な微生物は、その体内において、生態系の制御のための制御電流を流しており、このような制御電流によって微生物がその生命活動を維持している。ところが上記の不織布15上に形成された乾電池による電流は、上記の制御電流の電圧をはるかに超える直流電流である。このような直流電流によって、微生物の制御が不能の状態になり、このために微生物はその生命を維持できなくなって死滅する。すなわちここでは、生態系の制御電流よりもはるかに高い直流電圧を印加することによって、微生物が死滅することにより、殺菌を行なうものである。
【0035】
一般に従来の殺菌作用は、微生物が直接薬品に接触しなければ発生しなかった。これに対して本発明のマスクに用いられている殺菌シート10は、対象となる微生物が直接接触しなくても、2種類の金属微粒子21、22間に生ずる電位差によって流れる電流で、空気中でも容易に死滅することになる。従って従来の薬品を用いた殺菌作用とは全く異なる原理によって、インフルエンザウイルス等の有害な微生物を殺菌することが可能になる。
【0036】
なお上述のような2種類の金属微粒子21、22を用いた殺菌作用は、空気中の水分、炭酸ガス、または水と反応し、外部直流電源を使わずとも、加水分解するエネルギーを有する。この強い電気エネルギーによって、細菌やウイルスを殺菌するものと考えられる。
【0037】
2種類の金属微粒子21、22から成る電池は、水分や炭酸ガスと反応して亜鉛の金属微粒子22がゆっくり溶ける。従って使用期間は年単位であって、殺菌性マスクの耐用年数が長く保たれる。なお真空中では数10年の保存が可能である。従って緊急時のためにマスクを備蓄する場合には、真空パック保存を行なうことによって、水分や炭酸ガスを遮断した状態で、金属亜鉛が溶けるのを防止しながら長期間に亙って安定に保存できるようになる。
【0038】
またインフルエンザウイルスの類は、湿度が大きいときにはその増殖が抑えられる性質をもっている。そこで空気の湿度を利用し、マスクの内部の湿度を高めて、ウイルスの増殖を抑えるために、図1A、Bに示すように、保湿シート11を用いる。保湿シート11は、侵入する微生物を防御し、殺菌を促進する。なおこのような保湿シート11としては、植物性綿、または化学繊維綿が好適に用いられる。
【0039】
図1Aあるいは図1Bに示すような殺菌シート10と保湿シート11との積層構造は、外カバーの内部に収納されることになる。従って唇や鼻が図1に示す積層構造に直接接触しないようになる。また図6に示すように、殺菌シート10にはその周縁部に適宜切込み30を入れ、微生物侵入あるいは放出の隙間を無くし、マスクの柔軟性とフィット感を良好にする構造とする。なお切込み30は、その装着部位に応じて、長さを任意に調整するとともに、急激な長さの変化を回避することによって、横に少しずらしてマスクの隙間を無くし、微生物の侵入を防止できるようなる。
【0040】
本発明のマスクに用いる殺菌シート10のインフルエンザウイルス活性について試験を行なった結果が、表2および図14に示される。表2のGは、アルミニウムと亜鉛とを同時に溶射して被膜を形成させた3cmの不織布に、インフルエンザウイルス液100μl添加後に、15ml遠心管に密閉して室温(25℃)で放置したものであって、表中の時間到来時に液体培地2mlを加えてvortex後、3000rpmで15分間遠心分離し、上清のウイルス量を測定した結果である。またC(布無)は、上記Gと同じインフルエンザウイルス液100μlを15ml遠心管に密閉して室温(25℃)に放置し、後はGと同様の処理をしてウイルス量を測定したものである。またC(布有)は、3cmの不織布にGと同じインフルエンザウイルス液100μl添加後に、15ml遠心管に密閉し、室温(25℃)に放置したものであって、後はGと同じ処理をしてウイルス量を測定した結果である。またここでは、上記G、C(布無)、C(布有)について、インフルエンザウイルス(PR−8株)を3cmの不織布1枚当りに、約10PFU/100μl加えて感染力価によってウイルス活性評価を行なっている。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表2は、各時間におけるC(布有)を100%とした場合のインフルエンザウイルス活性評価の結果を示している。またこの表中の数字は、ウイルスPlaque形成率(%)である。
【0044】
図14は、上記表1の結果をグラフで示したものである。この結果から明らかな如く、本実施の形態の殺菌シート10は、とくにインフルエンザウイルスに対して高い殺菌性能を有することが明らかに証明されている。
【0045】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。例えば上記実施の形態における、殺菌シート10と保湿シート11との積層構造については、必ずしも図1に示す構造に限定されるものではない。また殺菌シート上に担持される金属微粒子の組合わせについても、必ずしもアルミニウムと亜鉛との組合わせに限定されることなく、イオン化傾向の差による電位差を発生する他の金属を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本願発明は、インフルエンザウイルス等の微生物の殺菌性能に優れたマスクとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】マスクの内部に配される殺菌シートと保湿シートの組合わせを示す断面図である。
【図2】不織布上における金属微粒子の担持を示す断面図である。
【図3】2枚の不織布を用いた殺菌シートの組立てを示す縦断面図である。
【図4】2枚の不織布を用いた別の殺菌シートの組立てを示す縦断面図である。
【図5】殺菌シートに対するカバーシートの組合わせを示す断面図である。
【図6】殺菌シートに対する切込みの配置を示す平面図である。
【図7】一実施例のマスクの外観斜視図である。
【図8】同マスクの外側から見た正面図である。
【図9】同マスクの内側から見た正面図である。
【図10】マスクの断面の積層構造(A)および殺菌シートの積層構造の断面図である。
【図11】金属微粒子と絶縁被膜との配置を示す拡大断面図である。
【図12】2つの金属によって生ずる電流の流れを示す拡大断面図である。
【図13】時間に対する電圧の変化を示すグラフである。
【図14】インフルエンザウイルスに対する活性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10 殺菌シート
11 保湿シート
15 不織布
16 粘着層(ホットメルト粘着剤)
21 金属微粒子(アルミニウム)
22 金属微粒子(亜鉛)
23 絶縁被膜
25 不織布(カバーシート)
26 粘着層
30 切込み
35 マスク
36 ゴムバンド
37 結合部
38 周縁溶着部
39 金属板
40 スポンジパッド
42 外カバー
43 粘着層
44 内側シート
45 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻および口を覆って病原菌の吸入または/および放出を防ぐマスクにおいて、
通気性の殺菌シートを有し、該殺菌シートはイオン化傾向が異なる2種類の金属微粒子を担持し、該2種類の金属微粒子が絶縁被膜を介して対接され、前記殺菌シート上に無数の微小な電池が形成されることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記通気性の殺菌シートの基材が不織布であることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記通気性のシートの表面に通気性を有する粘着層が形成され、該粘着層を介して前記金属微粒子が担持されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
前記通気性のシートの上に形成された前記粘着層の表面または前記シートの前記粘着層が形成された面とは反対側の表面に前記金属微粒子が担持されることを特徴とする請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
表面に粘着層を形成したカバーシートを前記金属微粒子が担持されている前記殺菌シートの表面に接合することを特徴とする請求項3に記載のマスク。
【請求項6】
前記通気性の殺菌シートが2枚の不織布を接合して構成され、該不織布の一方の表面に粘着層が形成され、さらに前記粘着層の表面に前記金属微粒子が担持され、前記金属微粒子を担持した前記粘着層同士を互いに接合して前記粘着シートが形成されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項7】
前記通気性の殺菌シートが2枚の不織布を接合して構成され、該不織布の一方の表面に粘着層が形成されるとともに、他方の表面に前記金属微粒子が担持され、前記粘着層同士を互いに接合して前記殺菌シートが形成されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項8】
表面に粘着層が形成されたカバーシートを前記金属微粒子が担持されている前記殺菌シートの表面に接合することを特徴とする請求項7に記載のマスク。
【請求項9】
前記2種類の金属微粒子は、溶射によって殺菌シート上に担持されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項10】
前記2種類の金属微粒子がアルミニウムと亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項11】
前記粘着層が加熱されると粘着性を発現するホットメルト型粘着剤から構成されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項12】
吸気の水分を吸収保持する保湿シートを有し、該保湿シートが前記殺菌シートと接合され、あるいは2枚の殺菌シート間に挟着されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項13】
前記殺菌シートの周縁部に装着されたときに隙間が生ずるのを防ぐ切込みが形成されることを特徴とする請求項1に記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−226711(P2009−226711A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74127(P2008−74127)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(508086092)アコースティックエンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】