説明

マスタ・スレーブ型ロボット操作システム

【課題】安価で操作性に優れたマスタ・スレーブ型ロボット操作システムを提供する。
【解決手段】マスタ・スレーブ型ロボット操作システムは、操作者によって操作されるマスタ操作装置10と、遠隔操作されるスレーブロボット装置と、マスタ操作装置とスレーブロボット装置との間で両装置の状態情報を双方向通信する情報通信手段30とを備える。スレーブロボット装置は、任意の姿勢又は動作を実現するために複数のアクチュエータを備えている。マスタ操作装置10は、スレーブロボット装置が備える構造に対応する構造を備えることでスレーブロボット装置が取り得る任意の姿勢又は動作と同様の姿勢又は動作を実現可能であり、且つ、スレーブロボット装置に設置された複数のアクチュエータに対応した複数のアクチュエータ13a〜13hを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者によって操作されるマスタ操作装置と、このマスタ操作装置によって遠隔操作されるスレーブロボット装置とを備える、マスタ・スレーブ型ロボット操作システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のロボット技術や通信技術の進歩によって、様々なマスタ・スレーブ型ロボット操作システムが開発されている。この種のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムには、マスタ操作装置とスレーブロボット装置が、同じ構造を有するものや異なる構造を有するもの、また、同じスケールを有するものや異なるスケールを有するものが存在している(例えば、下記特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−187246号公報
【特許文献2】特開2000−84871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上掲した特許文献1および2に代表される従来のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムでは、大規模で複雑な構成が採用される場合が多く、概して多くの製造コストを要するものであった。また、従来のマスタ操作装置は操作性の上で難があり、さらに操作性を向上させたマスタ操作装置を有するマスタ・スレーブ型ロボット操作システムの実現が求められていた。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みて成されたものであって、その目的は、安価でありながらも操作性に優れたマスタ・スレーブ型ロボット操作システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムは、操作者によって操作されるマスタ操作装置と、前記マスタ操作装置の動きに追従して、もしくは前記マスタ操作装置から発信される動作指令信号に応じて遠隔操作されるスレーブロボット装置と、前記マスタ操作装置と前記スレーブロボット装置との間で両装置の姿勢情報又は動作情報を含む状態情報を双方向で通信する情報通信手段と、を備えるマスタ・スレーブ型ロボット操作システムであって、前記スレーブロボット装置は、任意の姿勢又は動作を実現するための駆動力源となる複数のアクチュエータを備えており、前記マスタ操作装置は、前記スレーブロボット装置が備える構造に対応する構造を備えることで前記スレーブロボット装置が取り得る任意の姿勢又は動作と同様の姿勢又は動作を実現可能であり、且つ、前記スレーブロボット装置に設置された前記複数のアクチュエータのそれぞれに対応した複数のアクチュエータを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価でありながらも操作性に優れたマスタ・スレーブ型ロボット操作システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るマスタ操作装置の全体構成を示す図であり、特に、図中(a)が正面視を、図中(b)が右側面視を、図中(c)が左側面視を示している。
【図1A】図1で示した本実施形態に係るマスタ操作装置の操作方法を説明するための図であり、当該マスタ操作装置の一部を示したものである。
【図1B】図1で示した本実施形態に係るマスタ操作装置の操作方法を説明するための図であり、当該マスタ操作装置の一部を示したものである。
【図2】本実施形態に係るスレーブロボット装置の全体構成を示す図であり、特に、図中(a)が正面視を、図中(b)が右側面視を示している。
【図3】本実施形態のマスタ操作装置の操作状態の一例を示した図である。
【図4】図3で示した本実施形態のマスタ操作装置の操作状態に対応した、本実施形態のスレーブロボット装置の姿勢状態の一例を示した図である。
【図5】本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムが取り得る全体構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係るマスタ操作装置の全体構成を示す図であり、特に、図中(a)が正面視を、図中(b)が右側面視を、図中(c)が左側面視を示している。また、図1Aおよび図1Bは、図1で示した本実施形態に係るマスタ操作装置の操作方法を説明するための図であり、当該マスタ操作装置の一部を示したものである。一方、図2は、本実施形態に係るスレーブロボット装置の全体構成を示す図であり、特に、図中(a)が正面視を、図中(b)が右側面視を示している。なお、図1中の分図(a),(b)と図2中の分図(a),(b)とは、それぞれ対応したものが描かれている。さらに、図3および図4は、本実施形態のマスタ操作装置およびスレーブロボット装置の操作状態の一例を示した図である。またさらに、図5は、本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムが取り得る全体構成の一例を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態では、図1にて示すマスタ操作装置10と、図2にて示すスレーブロボット装置20と、これらマスタ操作装置10およびスレーブロボット装置20のそれぞれに設置された情報通信手段30とを備えることで、図5に示すようなマスタ・スレーブ型ロボット操作システムが構成されている。
【0012】
まず、スレーブロボット装置20の構成について説明する。図2にて示される本実施形態に係るスレーブロボット装置20は、家事ロボットとして製作されたものであり、胴体部21と、胴体部21の下方に設置された下肢としての2本の脚部22と、胴体部21の上方側面に設置された上肢としての2本の腕部23と、胴体部21の上方に設置された1個の頭部24とを有して構成されている。
【0013】
2本の腕部23は、胴体部21の周囲で自在に移動できるようになっており、電源を切った状態では、図2の紙面左側に示すスレーブロボット装置20の右半身のように、腕部23が下方に垂れ下がった状態となるように構成されている。さらに、腕部23の先端には手部26が設置されているので、この手部26を利用することで物を掴んだり摘まんだりすることが可能となっている。
【0014】
また、頭部24および胴体部21には、それぞれにCCDカメラ25が設置されている。このCCDカメラ25によって、スレーブロボット装置20の周囲の状況を画像データとして収集することが可能となっている。
【0015】
そして、このスレーブロボット装置20は、遠隔操作可能に構成されたロボット装置であり、図1にて示すマスタ操作装置10を操作者が操作することで、マスタ操作装置10の動きに応じた動作をスレーブロボット装置20が実行できるようになっている。そこで、次に、本実施形態に係るマスタ操作装置10について、説明を行うこととする。
【0016】
図1にて示される本実施形態に係るマスタ操作装置10は、上述したスレーブロボット装置20が有する2本の腕部23と同様の構成を有する2本の操作アーム13を有している。この操作アーム13には、スレーブロボット装置20の腕部23が有するアクチュエータとしての複数のサーボモータと同じ数のサーボモータが設置されており、さらに、スレーブロボット装置20の腕部23が有する関節機構と同じ関節機構が形成されている。
【0017】
操作アーム13と腕部23が備える複数のサーボモータの具体的な構成としては、人間の肩に相当する箇所を前後方向に傾動させるためのサーボモータ13a,23aと、腕部23を横方向に持ち上げるためのサーボモータ13b,23bと、人間の肘に相当する箇所の上方部分を回転させるためのサーボモータ13c,23cと、人間の肘関節に相当する箇所を折り曲げるためのサーボモータ13d,13e,23d,23eと、人間の肘に相当する箇所の下方部分を回転させるためのサーボモータ13f,23fと、人間の手首関節に相当する箇所を折り曲げるためのサーボモータ13g,23gと、人間の手首関節に相当する箇所を回転させるためのサーボモータ13h,23hと、が設置されている。そして、対応するサーボモータのそれぞれは、後述する情報通信手段30によって動作情報が双方向で送受信されることとなるので、マスタ操作装置10の動きに応じた動作や姿勢をスレーブロボット装置20が実行できるようになっているのである。
【0018】
したがって、図1中の分図(a)に示すように、マスタ操作装置10の操作者から見て左側(紙面では右側)の操作アーム13を水平方向に操作者が移動させると、スレーブロボット装置20の側では、図2中の分図(a)に示すように、スレーブロボット装置20の左側(紙面では右側)の腕部23が水平方向に移動するようになっている。また、図3に示すように、マスタ操作装置10の操作者から見て左側(紙面では右側)の操作アーム13を斜め上方に操作者が移動させると、スレーブロボット装置20の側では、図4に示すように、スレーブロボット装置20の左側(紙面では右側)の腕部23がマスタ操作装置10の左側(紙面では右側)の操作アーム13と同様に斜め上方に移動するようになっている。したがって、操作者は、マスタ操作装置10が有する2本の操作アーム13を移動させることで、スレーブロボット装置20の腕部23に対してあらゆる姿勢や動作を実行させることが可能となる。なお、本明細書では、スレーブロボット装置20がマスタ操作装置10の操作アーム13の動きに追従して遠隔操作される動作方式を、以後「マスタ・スレーブ動作方式」と呼ぶこととする。
【0019】
さらに、本実施形態に係るマスタ操作装置10は、2本の操作アーム13のそれぞれの先端部に対して操作ボックス15,16を有している。操作ボックス15,16には、複数の操作ボタンや操作スティックが設置されている。かかる操作ボックス15,16の具体的な構成を図1Aおよび図1Bに示す。
【0020】
操作者の左手側に位置する操作ボックス16には、2つの操作スティック16a,16bが設置されている。これら2つの操作スティック16a,16bは、例えば操作者の左手の親指の腹の部分を使用して、各操作スティック16a,16bを前後左右に動かすことで操作可能となっている。
【0021】
一方、操作者の右手側に位置する操作ボックス15には、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dが設置されている。これら4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dは、例えば操作者の右手の親指の腹の部分を使用して、各操作ボタン15a,15b,15c,15dを下方に押圧することで操作可能となっている。
【0022】
本実施形態では、これら2つの操作スティック16a,16bと、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dをそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて操作することで、スレーブロボット装置20の2本の脚部22や頭部24の動作ができるようになっている。なお、本明細書では、スレーブロボット装置20がマスタ操作装置10の操作ボックス15,16から発信される動作指令信号に応じて遠隔操作される動作方式を、以後「設定動作方式」と呼ぶこととする。
【0023】
以上説明したマスタ操作装置10によるスレーブロボット装置20の動作制御を実現するために、本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムには、両装置の姿勢情報又は動作情報を含む状態情報を双方向で通信するための情報通信手段30が設置されている。この情報通信手段30には、マスタ操作装置10やスレーブロボット装置20の動作状況を把握するための図示しないコンピュータユニットが設置されている。この不図示のコンピュータユニットが取り得る具体的な構成を例示すると、例えば、マスタ操作装置10とスレーブロボット装置20が有するアクチュエータとしての複数のサーボモータのモータ軸の回転角やモータ軸原点からの回転量などを把握するためのマイクロプロセッサからなる制御部30aや、これらの情報を記憶するための記憶部30bや、マスタ操作装置10とスレーブロボット装置20のそれぞれに設置された情報通信手段30の間での情報を受け渡すための無線通信部30cなどを備えることができる。
【0024】
なお、マスタ操作装置10に設置された情報通信手段30には、パソコンなどの制御機器を接続することが可能となっており、操作者は、インターネット回線等を通じた情報のやり取りを行うことのできる無線通信部30cやスレーブロボット装置20に設置されたCCDカメラ25等を介して、マスタ操作装置10側で瞬時にスレーブロボット装置20の周囲の状況を把握することができるようになっている。したがって、操作者は、遠隔地に居ながらにしてスレーブロボット装置20の操作ができるようになっている。
【0025】
以上、本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムの具体的構成について説明を行った。次に、本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムの動作方法について、説明を行う。
【0026】
操作者は、操作ボックス15に設置された第4の操作ボタン15dを押すことで、「設定動作方式」と「マスタ・スレーブ動作方式」という2つの動作方式を選択することができるようになっている。操作者が、図1Aに示す「設定動作方式」を選択したとすると、スレーブロボット装置20は、予め設定された動作を操作ボックス15,16の操作に従って実行することとなる。例えば、操作者が操作ボックス16の第1の操作スティック16aを前方に倒すと、スレーブロボット装置20は前進方向に歩行移動する。また、第1の操作スティック16aを後方に倒すと、スレーブロボット装置20は後退方向に歩行移動し、第1の操作スティック16aを左右方向に倒すと、スレーブロボット装置20は第1の操作スティック16aを倒した方向に旋回移動することができる。
【0027】
また、操作者が操作ボックス16の第2の操作スティック16bを操作すると、スレーブロボット装置20は第2の操作スティック16bの操作方向に対応した方向に頭部24を傾けることができるようになっている。
【0028】
さらに、操作ボックス15に設置された第1の操作ボタン15aや第2の操作ボタン15bを押すことで、スレーブロボット装置20は左右方向での横移動ができるようになっており、またさらに、操作ボックス15に設置された第3の操作ボタン15cを押すことで、予め記憶された「お盆姿勢」というスレーブロボット装置20がお盆を運ぶための姿勢をとることが可能となる。
【0029】
なお、上述した「設定動作方式」によるスレーブロボット装置20の動作は、マスタ操作装置10が有する操作ボックス15,16の操作に基づく動作指令信号を、情報通信手段30が仲介してスレーブロボット装置20に伝達することで、実行されている。
【0030】
以上説明した「設定動作方式」が選択された状態から、操作者が操作ボックス15に設置された第4の操作ボタン15dを押すと、図1Bにて示される「マスタ・スレーブ動作方式」が選択されることとなる。
【0031】
「マスタ・スレーブ動作方式」が選択されると、操作者は、マスタ操作装置10が有する2本の操作アーム13を任意の姿勢や動作をとるように動かすことで、スレーブロボット装置20の腕部23がこの動きをコピーしたように動くので、スレーブロボット装置20の腕部23に対してあらゆる姿勢や動作を実現させることが可能となる。
【0032】
なお、上述した「マスタ・スレーブ動作方式」によるスレーブロボット装置20の動作は、マスタ操作装置10が有する複数のサーボモータの動作状況を、情報通信手段30が仲介し、さらに情報通信手段30が、スレーブロボット装置20が有する複数のサーボモータに対して動作指令を行うことで、実行されている。
【0033】
また、「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された場合にも、操作ボックス15,16に設置された2つの操作スティック16a,16bと、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dをそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて操作することで、スレーブロボット装置20の動作制御を行うことが可能である。
【0034】
例えば、操作ボックス15の第1の操作ボタン15aを押し続けた状態で、操作ボックス16の第1の操作スティック16aを操作することで、「マスタ・スレーブ動作方式」を維持しながらもスレーブロボット装置20に対して屈伸動作を実行させることができる。ここで、本実施形態では、第1の操作ボタン15aを押し続けた状態でなければ、第1の操作スティック16aが操作できないようになっている。このように、第1の操作ボタン15aを第1の操作スティック16aの安全装置となるように設定したのは、第1の操作スティック16aの予期しない操作によってスレーブロボット装置20が突然に屈伸動作を実行することを防止するためである。かかる構成の採用によって、より安全なマスタ・スレーブ型ロボット操作システムを提供することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、操作者が、マスタ操作装置10を操作することでスレーブロボット装置20が任意の姿勢となったときに、当該スレーブロボット装置20の姿勢を保持したままでマスタ操作装置10の姿勢を自由状態とするマスタフリー機能を備えることができる。例えば、マスタ操作装置10の2本の操作アーム13を任意に移動させることで、スレーブロボット装置20の2本の腕部23を操作アーム13と同様の姿勢にしたとき、この姿勢をこのまま維持するためには、通常であれば操作者がマスタ操作装置10の2本の操作アーム13を常時保持してその姿勢を維持する必要がある。しかし、本実施形態では、スレーブロボット装置20が所望の姿勢となったときに操作ボックス15の第3の操作ボタン15cを押すことで、当該スレーブロボット装置20の姿勢を保持したまま、マスタ操作装置10の姿勢を自由状態とすることが可能となっている。かかるマスタフリー機能を利用することで、操作者の操作負担を大きく軽減することが可能となる。このようなマスタフリー機能については、本実施形態に係るマスタ・スレーブ型ロボット操作システムを手術ロボットの分野などに適用した場合に有益である。
【0036】
上述したマスタフリー機能の状態から、再びマスタ操作装置10によるスレーブロボット装置20の遠隔操作が可能な状態に復帰させるときには、一旦フリー状態となったマスタ操作装置10が当該スレーブロボット装置20で保持された姿勢と同様の姿勢となるように、マスタ操作装置10に復帰動作を実行させることが好ましい。なぜなら、マスタ操作装置10がフリーの状態、すなわち、マスタ操作装置10とスレーブロボット装置20の姿勢が異なる状態でマスタフリー機能を解除し、「マスタ・スレーブ動作方式」を復帰させると、スレーブロボット装置20が突然にマスタ操作装置10と同じ姿勢をとるように動いてしまうこととなるため、スレーブロボット装置20が思わぬ動作をしてしまう場合があって危険だからである。そこで、本実施形態では、操作者が操作ボックス15の第3の操作ボタン15cを押すことでマスタフリー機能を解除すると、スレーブロボット装置20で保持された姿勢と同様の姿勢となるように、マスタ操作装置10が復帰動作を実行するようになっている。このマスタ操作装置10の復帰動作は、所定時間、例えば1秒間のみ維持されるようになっており、スムースな「マスタ・スレーブ動作方式」への復帰が実現するように構成されているのである。
【0037】
ここで、「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された際に実行可能なマスタフリー機能への移行と、当該マスタフリー機能を解除して再び「マスタ・スレーブ動作方式」へと復帰させるための動作原理について説明しておく。
【0038】
「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された状態において、操作者がマスタ操作装置10を動作させると、マスタ操作装置10が備える複数のサーボモータのモータ軸の回転角やモータ軸原点からの回転量などが変化することとなる。このようなマスタ操作装置10の操作時における変化量は、マスタ操作装置10が備える情報通信手段30に搭載されたマイクロプロセッサからなる制御部30aによって検知された上で、これまたマスタ操作装置10が備える情報通信手段30に搭載された無線通信部30cによって、スレーブロボット装置20側の情報通信手段30に対して送信されることとなる。
【0039】
スレーブロボット装置20側の情報通信手段30は、上記変化量からなる情報を自身に搭載された無線通信部30cによって受け付けるとともに、これまた自身に搭載されたマイクロプロセッサからなる制御部30aを用いることで、スレーブロボット装置20の側が備える複数のサーボモータを上記変化量と全く同じ変化量を生ずるように動作させることとなる。かかる状態が、「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された状態である。
【0040】
そして、上述したような「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された状態において、操作者がマスタ操作装置10を動作させることでスレーブロボット装置20を所望の姿勢とした上で、さらに操作者によって操作ボックス15に設置された第3の操作ボタン15cが押されると、スレーブロボット装置20側の情報通信手段30は、第3の操作ボタン15cが押された瞬間のスレーブロボット装置20の姿勢を維持した上で、スレーブロボット装置20の側における一切の動作を停止させ、また、マスタ操作装置10から送られてくる動作指令信号の受け付けを停止させる。一方、マスタ操作装置10の側では、第3の操作ボタン15cが押された瞬間におけるマスタ操作装置10が備える複数のサーボモータの変化量を情報通信手段30に搭載された制御部30aによって取得し、情報通信手段30に搭載された記憶部30bに保持しておく。この時点での状態が、マスタフリー機能が設定された状態であり、スレーブロボット装置20の姿勢を保持したままでマスタ操作装置10の姿勢を自由状態とすることが可能となっている。したがって、この段階でいくらマスタ操作装置10を操作したとしても、スレーブロボット装置20は第3の操作ボタン15cが押された瞬間の姿勢を維持したまま動作することがない。
【0041】
マスタフリー機能が設定された状態から、再度操作者が第3の操作ボタン15cを押すと、マスタ操作装置10の情報通信手段30は、自身に搭載された無線通信部30cを介してマスタフリー機能の解除信号をスレーブロボット装置20側に送信する。また、この解除信号の送信と同時に、マスタ操作装置10の情報通信手段30に搭載された記憶部30bに保持されているマスタフリー機能設定時におけるマスタ操作装置10の備える複数のサーボモータの変化量を読み出し、この変化量に基づく動作をマスタ操作装置10の備える複数のサーボモータに対して実行させることで、マスタ操作装置10がマスタフリー機能設定時の状態に復帰動作することとなる。
【0042】
これに合わせて、マスタフリー機能の解除信号を情報通信手段30に搭載された無線通信部30cによって取得したスレーブロボット装置20側の情報通信手段30は、マスタ操作装置10から送られてくる動作指令信号の受け付けを再開し、「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された状態、すなわち、マスタ操作装置10の変化量に応じて当該変化量と全く同じ変化量を生ずるようにスレーブロボット装置20を動作できる状態とする。これにより、マスタフリー機能の解除処理が完了し、「マスタ・スレーブ動作方式」への状態復帰が完了することとなる。
【0043】
なお、操作ボックス15,16が有するその他の操作スティックや操作ボタンに関しては、あらゆる設定を設けることで、様々な機能選択を行えるようにすることができる。例えば、「マスタ・スレーブ動作方式」が選択された状態での操作ボックス15,16を示した図1Bでは、操作ボックス15の第4の操作ボタン15bが機能を付与されていないが、例えば、情報通信手段30やマスタ操作装置10に対して接続された図示しないパソコンに対して、マスタ操作装置10を操作することで得られたスレーブロボット装置20の姿勢又は動作を記憶させる記憶部30bを設置しておき、この記憶部30bに保存された姿勢又は動作の履歴情報を用いることで、当該履歴情報に基づく姿勢又は動作をスレーブロボット装置20で再現させることが可能であり、この再現動作を実行させる選択ボタンとして、操作ボックス15の第4の操作ボタン15bを利用することが可能である。なお、前記履歴情報に基づいてスレーブロボット装置20によって再現される姿勢又は動作については、逆再生、スロー再生、あるいは倍速再生を含むようにすることが可能である。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0045】
例えば、上述した実施形態では、操作ボックス15,16が有する2つの操作スティック16a,16bと、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dに対して種々の選択機能を持たせた場合を例示して説明した。しかしながら、上述した実施形態は、本発明が取り得る一例を示したに過ぎず、操作ボックス15,16に設置された2つの操作スティック16a,16bと、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dの機能設定については、あらゆるパターンを設定することが可能である。かかる機能設定を行い、操作ボックス15,16に設置された2つの操作スティック16a,16bと、4つの操作ボタン15a,15b,15c,15dをそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて操作することで、スレーブロボット装置20に対するあらゆる動作制御を行うことが可能となる。
【0046】
また、本実施形態のマスタ操作装置10とスレーブロボット装置20は、それぞれに対応した複数のサーボモータを備えていた。そこで、スレーブロボット装置20が周囲環境から受けた外力の情報を、情報通信手段30を介してマスタ操作装置10側で取得することで、この外力の影響をマスタ操作装置10側で疑似的に再現する力覚フィードバック機能を備えるようにすることも可能である。なお、力覚フィードバック機能の精度を向上させるために、上述した複数のサーボモータに加えて、スレーブロボット装置20に対して各種のセンサを追加することも好適である。
【0047】
さらに、上述した本実施形態の「マスタ・スレーブ動作方式」は、スレーブロボット装置20の2本の腕部23に対してのみ適用されるものであったが、「マスタ・スレーブ動作方式」はスレーブロボット装置20のあらゆる部位に対して適用することが可能である。
【0048】
またさらに、上述した本実施形態のスレーブロボット装置20は2足歩行用の家事ロボットとして製作されたものであったが、本発明のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムは、あらゆる形式のロボット装置に対して適用可能である。例えば、蜘蛛型ロボットのようにロボットの体幹に対して多数の可動肢体を備えるロボット装置や、遠隔手術を行うための手術ロボット装置などに対しても、本発明のシステムを適用することが可能である。
【0049】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0050】
10 マスタ操作装置、13 操作アーム、13a,13b,13c,13d,13e,13f,13g,13h サーボモータ、15,16 操作ボックス、15a,15b,15c,15d 操作ボタン、16a,16b 操作スティック、20 スレーブロボット装置、21 胴体部、22 脚部、23 腕部、23a,23b,23c,23d,23e,23f,23g,23h サーボモータ、24 頭部、26 手部、25 CCDカメラ、30 情報通信手段、30a 制御部、30b 記憶部、30c 無線通信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者によって操作されるマスタ操作装置と、
前記マスタ操作装置の動きに追従して、もしくは前記マスタ操作装置から発信される動作指令信号に応じて遠隔操作されるスレーブロボット装置と、
前記マスタ操作装置と前記スレーブロボット装置との間で両装置の姿勢情報又は動作情報を含む状態情報を双方向で通信する情報通信手段と、
を備えるマスタ・スレーブ型ロボット操作システムにおいて、
前記スレーブロボット装置は、任意の姿勢又は動作を実現するための駆動力源となる複数のアクチュエータを備えており、
前記マスタ操作装置は、前記スレーブロボット装置が備える構造に対応する構造を備えることで前記スレーブロボット装置が取り得る任意の姿勢又は動作と同様の姿勢又は動作を実現可能であり、且つ、前記スレーブロボット装置に設置された前記複数のアクチュエータのそれぞれに対応した複数のアクチュエータを備えることを特徴とするマスタ・スレーブ型ロボット操作システム。
【請求項2】
請求項1に記載のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムにおいて、
操作者が前記マスタ操作装置を操作することで前記スレーブロボット装置が任意の姿勢となったときに、当該スレーブロボット装置の姿勢を保持したままで前記マスタ操作装置の姿勢を自由状態とするマスタフリー機能を備えることを特徴とするマスタ・スレーブ型ロボット操作システム。
【請求項3】
請求項2に記載のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムにおいて、
前記マスタフリー機能の状態から、再び前記マスタ操作装置による前記スレーブロボット装置の遠隔操作が可能な状態に復帰させるときには、当該スレーブロボット装置で保持された姿勢と同様の姿勢となるように、前記マスタ操作装置が復帰動作を行うことを特徴とするマスタ・スレーブ型ロボット操作システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスタ・スレーブ型ロボット操作システムにおいて、
前記マスタ操作装置には、
前記スレーブロボット装置が前記マスタ操作装置の動きに追従して遠隔操作されるマスタ・スレーブ動作方式と、
前記スレーブロボット装置が前記マスタ操作装置から発信される動作指令信号に応じて遠隔操作される設定動作方式と、
を含む少なくとも2つの動作方式を切り替えるための動作方式切り替えボタンが設置されていることを特徴とするマスタ・スレーブ型ロボット操作システム。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−125851(P2012−125851A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277219(P2010−277219)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】