マダニのシスタチン
【課題】マダニ駆除又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防に有用な新規ポリペプチド及びポリヌクレオチドを提供する。
【解決手段】前記ポリペプチドは、新規のシスタチンである。前記ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターは、マダニ駆除又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防に有用である。また、前記ポリペプチドに対する阻害剤又は前記ポリペプチドに対する抗体も、マダニ駆除又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防に有用である。
【解決手段】前記ポリペプチドは、新規のシスタチンである。前記ポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターは、マダニ駆除又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防に有用である。また、前記ポリペプチドに対する阻害剤又は前記ポリペプチドに対する抗体も、マダニ駆除又はマダニ媒介性感染症の治療若しくは予防に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マダニのシスタチン、それをコードする核酸分子及びそれらの利用に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、マダニの生存に不可欠な吸血、及びこれによってマダニ体内に侵入する動物・ヒトの病原体に関わるタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、及びそれらの使用に関する。ここで、動物・ヒトの病原体とは、世界的に甚大な被害をもたらすピロプラズマ症の病原体であるタイレリア又はバベシア原虫をはじめとする人獣共通細菌・ウイルスを意味する。具体的には、本発明は、宿主動物からの血液成分の摂取(すなわち吸血)と消化、ならびに吸血にともなってマダニ個体へ侵入した病原体に対して、中腸上皮や体内移行経路にあたる器官・組織で発現するシスタチンをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、組換えペプチドタンパク質、及び合成ペプチドに関する。本発明により、マダニの吸血の予防と阻止、ピロプラズマ症をはじめとする人及び動物の感染症の予防及び治療を目的とした化合物の合成、あるいはそれら病原体による感染症の治療薬の開発に応用することができる。
【背景技術】
【0003】
地球上に棲息する約500属15,000種を越える吸血性節足動物の中で、マダニはわずか19属約750種(5%)の弱小グループであるが、ヒト以外の動物では第1位、ヒトでは蚊に次いで第2位に重要な感染症媒介節足動物である。経済的被害からもマダニとマダニ媒介性疾病による世界の損害額は、畜産領域だけでも毎年140億米ドル以上(非特許文献1)にのぼり、その対策は世界各国で畜産振興上の最も重要な課題のひとつとなっている。マダニ防除の中心は化学療法剤などの薬剤利用に深く依存している。DTTが開発された1950年以降、シナプス後膜作用型のニコチン系、ネオニコチノイド系、神経伝達物質分解酵素型の有機燐系、カーバメート系、クロルジメフォルム、神経繊維膜作用型の塩素系、ピレスロイド系などの化合物が殺ダニ剤としてマダニ防除に使用されてきた。しかしながら、マダニは、薬剤の連続使用によるいわゆる薬剤耐性をいずれの薬剤に対しても獲得し、殺ダニ効果が減少あるいは消失したものも少なくない。さらに、薬剤の使用には常に人あるいは動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。そのうえ、経済動物である家畜では、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつある。
【0004】
感染症媒介者(ベクター)としてのマダニは、マラリアベクターの蚊と比べて、ウイルス、リケッチア、細菌、原虫、寄生虫などほぼすべての種類の病原体の伝播に関与する他に比肩しうるもののない優れた疾病媒介能を有する。ヒトではマラリアが世界的に猛威を振るっていることはよく知られているが、動物(家畜・愛玩動物)ではマラリアに類似した感染症としてマダニが媒介するバベシアやタイレリアなどの原虫によるピロプラズマ症がある。本症は畜産・獣医学領域で最も被害の大きい寄生虫感染症であり、近年ではヒトでのバベシア症が世界各国で報告され、新興人獣共通感染症のひとつにあげられている。
【0005】
感染症予防の最大の武器はワクチンであるが、寄生虫ワクチン(多大な資金と精力的なワクチン開発が行われているマラリアに対しても)の開発は困難を極めている。進化した生活環を有する寄生虫では、動物・ヒトの獲得防御免疫に関する主要な寄生虫由来の抗原や免疫誘導機構など、不明な点が多くあるためであるが、とりわけ重大なのは、寄生虫は高度に発達した免疫回避機構により宿主の免疫監視から逃れるシステムを発達させており、防御免疫の獲得が困難なことにある。このようなことからタイレリアやバベシアなどのピロプラズマ原虫についても例外ではなく、ピロプラズマ症の発症をもたらす宿主体内ステージに焦点をあてた研究開発からはワクチンを生まれていない。
【0006】
一方、マダニの頻回寄生に対して宿主が抵抗性を獲得する現象を応用した獲得免疫によるマダニ防除法が以前から試みられている(非特許文献2)。また、宿主への接触が全くないマダニタンパク質がマダニ感染に対する防御抗原となることも明らかにされ、実際にワクチン抗原(Tick GARD)(非特許文献3)として一部のマダニとマダニ媒介性病原体[例えば1宿主性のマダニ(Boophilus microplus)とその媒介するウシバベシア原虫]に対して野外応用されているものの、これらの効果は限定的であり、他のワクチン抗原との併用による効果増大の必要性が指摘されるなど、多くのマダニとマダニ媒介性病原体に対するワクチンは依然として開発途上にあり、病原体側のマダニ媒介性病原体の防除対策もマダニと同様に薬剤に深く依存しているのが実情である。このように21世紀におけるマダニとマダニ媒介性病原体による人及び家畜生産の被害を既存の薬剤使用によって防ぐことは、非常に難しい状況にある。
【0007】
シスタチンは、パパイン・ファミリーのシステイン・プロテアーゼに対して阻害活性を有するインヒビター群である。1960年代に鶏の卵白から初めて報告された後、現在、分布は、原虫、線虫、昆虫、植物、ほ乳類まで様々な生物で広く存在が知られている。マダニシスタチンとしては、ヒメダニの1つであるオルニソドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)由来のシスタチン、あるいは、ヒトのライム病のベクターであるマダニ属のイクソデス・リシヌス(Ixodes ricinus)とイクソデス・スカピュラーリス(Ixodes scapularis)由来のシスタチン[NCBI (National Center for Biotechnology Information)、BLASTP (Protein-protein Basic Local Alignment Search Tool) サーチ, Accession No. AY521024、AJ547803、AF483724]の塩基配列及びアミノ酸配列がそれぞれ決定されている(非特許文献4)。また、米国のヒト、イヌ、ネコのエールリヒア症の病原体(Ehrlichia chaffeensisやEhrlichia ewingii)のベクターであるキララマダニ属の1種のアンブリオンマ アメリカナム(Amblyomma americanum)では、シスタチンのRNA干渉法による機能の解明が試みられている(非特許文献5)。しかしながら、マダニのシスタチンの全塩基配列の単離や特性解明に関しては、いずれのマダニにおいても実証されるに至っていない。
【0008】
【非特許文献1】ベテリナリー・パラシトロジー(Veterinary Parasitology), (オランダ国),1997年, 71巻, 77-97頁
【非特許文献2】「ナショナルインスティチュート・オブ・アニマルヘルス・クオータリー(トウキョウ)(National Institute of Animal Health Quarterly、Tokyo),1978年,18巻,27-38頁
【非特許文献3】「プラシトロジー・トゥデー(Parasitology Today)」,(オランダ国),1999年,15巻,258-262頁
【非特許文献4】「ザ・ジャーナル・オブ・イクスペリメンタル・バイオロジー(The Journal of Experimental Biology)」,(英国),2002年,205巻,2843-2864頁
【非特許文献5】「バイオケミカル・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ」(Biochemical Biophysical Research Communications),(オランダ国),2005年,334巻,1336-1342頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者及びその共同研究者は約20年来にわたって継代してきた日本の最優占種であるフタトゲチマダニを用いて、その防除とこれが媒介するピロプラズマ原虫(Theileria orientalis、Babesia ovata、Babesia gibsoni)などの疾病媒介の予防・治療に関するプロジェクト研究を推進してきてきた。近年、本発明者らは、マダニ個体における様々な生物活性分子が、マダニの吸血・消化と病原体伝搬において果たす役割と機構の大きさに着目してきたが、今回、解析の結果から、吸血・消化ならびにマダニ体内に侵入する原虫などの病原体によって中腸上皮とヘモサイトにおける発現が上方調節され、マダニの吸血生理と自然免疫に関わる分子と想定されるシスタチンの単離に成功した。
【0010】
シスタチンは、選択的にまた特異的にシステイン・プロテアーゼの活性を阻害する細胞内あるいは細胞外に局在するタンパク質であり、アミノ酸配列などの構造特性の相違によって、タイプ1〜3の3群に分類される。分布は、脊椎動物のほ乳類から線虫、昆虫などの無脊椎動物、原虫、植物にも広く存在が知られている。機能的には不明な点が残されているが、生物のタンパク質の代謝回転に代表される生命現象の基本部分を担うとともに、病原体の侵入、ガン、神経変性疾患やアポトーシスといった様々な病態において大きな動態を示し、重要な役割を有することが判明している[Dubin G. Cell Mol Life Sci. 62:653-669(2005)]。しかしながら、マダニに関しては、シスタチンが重要であるとの報告はこれまでなかった。
【0011】
本発明は、マダニとマダニが媒介する感染症から、人及び動物を守るための化合物を提供し、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などの様々なマダニ媒介性病原体による感染症の防除法を提供するものである。具体的には、マダニのシスタチン、前記感染防御抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、マダニのシスタチンに対する抗体などの阻害剤、並びにマダニ媒介性病原体の感染及び増殖を防ぐ化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、偏性吸血動物としてのマダニでは、その生存に必須の宿主からの吸血にともなう中腸における血液タンパク質の消化に働くシステイン・プロテアーゼなどの消化酵素群の活性の高まりに対して、あるいはまた吸血にともなって侵入してきたピロプラズマ原虫などの各種病原体の侵入に対して、局所的に細胞上皮で産生される何らかの応答性の生物活性分子があることを想定した。本発明者は、マダニの吸血・消化機構と病原体媒介能は偶然に成立したものではなく、長い年月をかけて成立した分子間相互作用を基盤にしているものと想定しており、今回、フタトゲチマダニにおいて、吸血、細菌細胞外膜リポ多糖(LPS)の接種、ならびにバベシア原虫感染にともなって、中腸における発現が著しく上方調節され、しかもインビトロで媒介バベシア原虫の増殖を抑制するシスタチンを突き止めた。このようなことから、マダニのシスタチンは、マダニの吸血によって惹起される中腸における血液タンパク質の消化に関わる酵素の活性調節と、吸血にともなう病原体侵入と伝搬に関わる自然免疫において、重要な役割を果たしているものと考えられる。また、蛋白性レギュレーターあるいはプロテクタントを活用した創薬を目指す上で、マダニのシスタチンは大きな可能性を秘めていると推察することができる。今回単離したフタトゲチマダニ・シスタチンは、バベシアなどのピロプラズマ原虫に限らず、マダニが媒介する野兎病、Q熱、ウイルス性脳炎などの伝搬防除にも応用することができる。これまで、マダニの吸血、ならびにマダニが媒介する病原体の発育・生存において、シスタチンが重要であるとの報告はなく、マダニのシスタチンをコードする遺伝子及びその組換えタンパク質は、マダニ媒介性感染症の予防・防除を目的とした化合物の作出に有効である。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1](1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド、
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を示すポリペプチド、又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
[2][1]のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[3][2]のポリヌクレオチドを含むベクター;
[4][2]のポリヌクレオチドを含む形質転換体;
[5][4]の形質転換体を培養する工程を含む、[1]のポリペプチドを製造する方法;
[6][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを有効成分として含む、医薬;
[7]マダニに対するワクチンである、[6]の医薬;
[8]抗原虫剤である、[6]の医薬;
[9][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物;
[10][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法;
[11][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法;
[12][1]のポリペプチドに対する抗体又はその断片;
[13][1]のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのシスタチン活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのシスタチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法;
[14]シスタチン阻害剤、又は[12]の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ駆除剤;
[15]シスタチン阻害剤、又は[12]の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防剤;並びに
[16]シスタチンを有効成分として含む、抗原虫剤
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、形質転換体、及び抗体によれば、本発明の医薬、特にはマダニワクチンを提供することができる。また、本発明の医薬、特にはマダニワクチンによれば、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[1]本発明のポリペプチド
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)
が含まれる。
【0016】
本明細書において「シスタチン活性」とは、フタトゲチマダニのシスタチンタンパク質の生物学的活性を意味し、具体的には、例えば、システイン・プロテアーゼ(例えば、例えば、パパイン、カテプシンL)に対する結合活性及び/又は活性阻害活性を挙げることができる。
【0017】
或るポリペプチドがシスタチン活性を有するか否かは、公知の方法に従って、判定することができる。例えば、或るポリペプチドがシステイン・プロテアーゼ活性の阻止能を有するか否かは、例えば、実施例4に示すように、Roche et al., Eur. J. Biochem 245:373-380(1997)に従って判定することができる。より具体的には、実施例4に示すように、ペプチドによるシステイン・プロテアーゼの活性阻害は、市販のパパインやカテプシンなどのシステイン・プロテアーゼと混合後、混合後のプロテアーゼがベンジルオキシカルボニル・フェニルアラニン−アルギニン−7−アミド−4−メチルクマリン基質に対する活性を維持しているかを調べることによって、判定することができる。
【0018】
また、或るポリペプチドがマダニ媒介性病原体に対する増殖阻止活性を有するか否かは、例えば、ウシバベシア原虫をペプチドを含む培養液でインビトロ培養し、経時的にギムザ染色塗抹標本を鏡検して原虫の増殖(パラシテミア)を確認することにより判定することができ、より具体的には、実施例10に示す方法により判定することができる。
【0019】
本発明のポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド」としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なシグナル配列及び/又はマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、シスタチン活性を有する融合ポリペプチド;あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなるポリペプチドと、融合用パートナーとの融合ポリペプチドであって、しかも、シスタチン活性を有する融合ポリペプチドを挙げることができる。
【0020】
前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを用いることができる。
【0021】
また、前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用ポリペプチド[例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)の全部又は一部]、検出用ポリペプチド[例えば、ヘムアグルチニン又はβ−ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ α)の全部又は一部]、又は発現用ポリペプチド(例えば、シグナル配列)などを用いることができる。
【0022】
更に、前記融合ポリペプチドにおいては、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドと前記マーカー配列又は融合用パートナーとの間に、限定分解するタンパク質分解酵素(例えば、トロンビン、血液凝固因子Xa、エントロキナーゼ、TEVプロテアーゼなど)で切断することができるアミノ酸配列を適宜導入することもできる。
【0023】
本発明の機能的等価改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体として1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜7個、更に好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もフタトゲチマダニに限定されない。
【0024】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体が含まれるだけでなく、フタトゲチマダニ以外の生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、フタトゲチマダニ由来の変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列をコードするポリヌクレオチドを元にして、遺伝子工学的に、コードするアミノ酸配列を人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
【0025】
配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体は、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番の塩基からなる配列)、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning, A Laboratory Manual”, Cold Spring Harber Laboratory Press, 1989)に従って実施することが可能である。
【0026】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の試料(例えば、全RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki, R. K. ら, Science, 239, 487-491, 1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、シスタチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0027】
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site-specific mutagenesis; Mark, D. F. ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5662-5666, 1984)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、シスタチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0028】
本発明の相同ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではない。本発明の相同ポリペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列に関して、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができる。なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins及びSharp, Gene, 73, 237-244, 1988; 並びにThompsonら, Nucleic Acid Res., 22, 4673-4680, 1994)により、デフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。
【0029】
これらの本発明の新規ポリペプチドは、種々の公知の方法によって製造することができ、例えば、本発明の前記ポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドを用いて公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。より具体的には、後述する本発明の形質転換体(すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体)を、本発明による新規ポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、ポリペプチドの分離及び精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から目的ポリペプチドを分離及び精製することにより調製することができる。前記の分離及び精製方法としては、例えば、硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、又は凍結乾燥等を挙げることができる。
【0030】
また、本発明には、本発明によるポリペプチドの断片も含まれる。本発明による前記断片は、本発明による医薬の有効成分として、あるいは、本発明の抗体を調製するための抗原として有用である。
【0031】
[2]本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチド[例えば、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド(すなわち、フタトゲチマダニのシスタチン前駆体をコードする遺伝子(Hlcyst遺伝子))、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド(シグナルペプチドを含まない成熟体をコード)、あるいは、配列番号1で表される塩基配列(すなわち、全長)からなるポリヌクレオチド]、あるいは、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番又は126番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
【0032】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、フタトゲチマダニのシスタチンをコードするDNA配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。通常、完全ハイブリッドの融解温度より約5℃〜約30℃、好ましくは約10℃〜約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されており、ここに記載の条件を使用することができる。例えば、ストリンジェントな条件としてハイブリダイゼーションを65℃で一晩実施し、非特異反応を除去するための洗浄を2×SSCを用いて室温で5分間行った後、0.1%SDSを含む0.2×SSCを用いて65℃で30分間の洗浄を2回繰り返すことなどが挙げられる。なお、2XSSCの組成は、0.3mol/L NaCl及び30mmol/Lクエン酸ナトリウム(pH7.0)である。
【0033】
[3]本発明のベクター及び形質転換体
本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
【0034】
また、本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0035】
前記宿主細胞としては、例えば、通常使用される公知の微生物、例えば、大腸菌又は酵母(Saccharomyces cerevisiae)、あるいは、公知の培養細胞、例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK−293細胞、又はCOS細胞)又は昆虫細胞(例えば、BmN4細胞)を挙げることができる。
【0036】
また、公知の前記発現ベクターとしては、例えば、大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、又はpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLY又はpYES2を;CHO細胞に対してはpcDNA3又はpMAMneoを;HEK−293細胞に対してはpcDNA3を;COS細胞に対してはpcDNA3を;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(例えば、pBK283)を挙げることができる。更に、公知の発現ベクターとしては、遺伝子治療用のベクターとして使用することのできるウイルスベクター、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、又はセンダイウイルス等を挙げることができる。
【0037】
[4]本発明の医薬
本発明の医薬(好ましくはマダニに対するワクチン)は、有効成分として、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを含む。すなわち、本発明においては、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、マダニ駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0038】
本発明の医薬における前記有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターをマダニワクチンとして投与すると、抗体産生を誘導することができ、宿主の再感染防御能を介してダニを駆除することができる。また、その結果として、マダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療又は予防が可能である。
【0039】
すなわち、本発明の医薬組成物(好ましくは、マダニ駆除用医薬組成物、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬組成物)は、有効成分としての本発明のポリペプチドもしくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む。本発明における有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターは、前記医薬(好ましくは、マダニ駆除用医薬、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬)を製造するために使用することができる。
【0040】
本発明の医薬をマダニワクチンとして使用する場合、本発明のポリペプチドの断片としては、投与対象に投与した場合に、前記断片に対して免疫を誘導するのに充分な断片である限り、特に限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択することができる。
【0041】
本発明の医薬(特にはマダニワクチン)では、例えば、本発明のポリペプチドをアジュバント等と混合して、マダニに対するワクチンとして、適当な間隔で動物(例えば、家畜等)に接種することができる。あるいは、本発明のポリペプチドを直接、適当な溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできるし、リポソーム中に封入したり、適当なベクターに組み込んだ形にして使用することもできる。また、必要に応じて、本発明のポリペプチドに薬学的に許容し得る担体を添加し、例えば、注射剤、錠剤、カプセル剤、点眼剤、クリーム剤、坐剤、噴霧剤、又はパップ剤等の適当な剤型にして使用することができる。
【0042】
薬学的に許容し得る担体には、当業者には周知の溶媒、基剤、安定化剤、防腐剤、溶解剤、賦形剤、及び緩衝剤等が含まれる。本発明の医薬に含有される本発明のポリペプチドは、このような剤型とした場合、例えば、投与対象の年齢、性別、疾患の種類、又は程度等に応じて、その投与方法及び投与量を適宜設定して使用することができる。
【0043】
経口投与には舌下投与を含む。非経口投与としては、例えば、吸入、経皮投与、点眼、膣内投与、関節内投与、直腸投与、動脈内投与、静脈内投与、局所投与、筋肉内投与、皮下投与、及び腹腔内投与等から適当な方法を選んで投与することができる。
【0044】
[5]本発明の抗体又はその断片
本発明のポリペプチドに反応する抗体(例えば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、各種動物に、本発明のポリペプチド、又はその断片を直接投与することで得ることができる。また、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入したプラスミドを用いて、DNAワクチン法[Raz, E.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 9519-9523 (1994); 又はDonnelly, J.J.ら, J. Infect. Dis., 173, 314-320, (1996)]によっても得ることができる。
【0045】
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、腹腔、皮下、又は静脈等に免疫して感作した動物(例えば、ウサギ、ラット、ヤギ、又はニワトリ等)の血清又は卵から製造することができる。このように製造された血清又は卵から、常法のポリペプチド単離精製法によりポリクローナル抗体を分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0046】
モノクローナル抗体は、例えば、ケーラーとミルスタインの細胞融合法 [Kohler, G.及びMilstein, C., Nature, 256, 495-497(1975)]により、当業者が容易に製造することが可能である。すなわち、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、数週間おきにマウスの腹腔、皮下、又は静脈に数回繰り返し接種することにより免疫する。最終免疫後、脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製する。
【0047】
ハイブリドーマを得るためのミエローマ細胞としては、例えば、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損又はチミジンキナーゼ欠損のようなマーカーを有するミエローマ細胞(例えば、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.U1)を利用することができる。また、融合剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを利用することができる。更には、ハイブリドーマ作製における培地として、例えば、イーグル氏最小必須培地、ダルベッコ氏変法最小必須培地、又はRPMI−1640などの通常よく用いられている培地に、10〜30%のウシ胎仔血清を適宜加えて用いることができる。融合株は、HAT選択法により選択することができる。ハイブリドーマのスクリーニングは培養上清を用い、ELISA法又は免疫組織染色法などの周知の方法により行ない、目的の抗体を分泌しているハイブリドーマのクローンを選択することができる。また、限界希釈法によってサブクローニングを繰り返すことにより、ハイブリドーマの単クローン性を保証することができる。このようにして得られるハイブリドーマは、培地中で2〜4日間、あるいは、プリスタンで前処理したBALB/c系マウスの腹腔内で10〜20日間培養することで、精製可能な量の抗体を産生することができる。
【0048】
このように製造されたモノクローナル抗体は、培養上清又は腹水から常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0049】
また、モノクローナル抗体又はその一部分を含む抗体断片は、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子の全部又は一部を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、又は動物細胞)に導入して生産させることもできる。
【0050】
以上のように分離精製された抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)について、常法により、ポリペプチド分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化を行ない、引き続き、常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することで、活性のある抗体の一部分を含む抗体断片、例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFvを得ることができる。
【0051】
更には、本発明のポリペプチドに反応する抗体を、クラクソンらの方法又はゼベデらの方法 [Clackson, T.ら, Nature, 352, 624-628 (1991); 又はZebedee, S. ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3175-3179 (1992)] により、一本鎖(single chain)Fv又はFabとして得ることも可能である。また、マウスの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトランスジェニックマウス [Lonberg, N. ら, Nature, 368, 856-859 (1994)] に免疫することで、ヒト抗体を得ることも可能である。
【0052】
[6]本発明のスクリーニング方法並びにそのスクリーニング結果物又は本発明の抗体を含む医薬
本発明のポリペプチドを用いると、試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を修飾(例えば、抑制又は促進)するか否かをスクリーニングすることができる。本発明には、本発明のポリペプチドを含むスクリーニングキットが含まれる。
【0053】
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術 [Terrett, N. K. ら, Tetrahedron, 51, 8135-8137 (1995)] 又は通常の合成技術によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法 [Felici, F. ら, J. Mol. Biol., 222, 301-310 (1991)] などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
【0054】
本発明のスクリーニング方法においては、本発明のポリペプチドと試験物質とを接触させ、前記試験物質の存在下における、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を分析することにより、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を修飾するか否かを判断することができる。試験物質の不在下における本発明のポリペプチドのシスタチン活性と比較して、試験物質の存在下における前記シスタチン活性が減少する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を抑制又は阻害すると判断することができる。一方、シスタチン活性が上昇する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を促進すると判断することができる。
【0055】
シスタチン活性を抑制する物質(すなわち、シスタチン阻害剤)は、寄生虫駆除剤の有用な候補物質であり、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防に用いることができる。シスタチン阻害剤としては、例えば、シスタチン中和抗体、構造活性相関に基づく親和物を公知のものとして挙げることができる。
【0056】
本発明における有効成分、すなわち、シスタチン阻害剤は、所望により、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは、注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。本発明の医薬は、公知の方法によって製造することができ、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含むことができる。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、前記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用可能であり、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。その投与量は、症状、年齢、体重、及び/又は投与経路に応じて適宜決定することができ、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定することができる。有効用量は、例えば、インビトロにおける試験又はインビボの動物モデル試験系から導くことができる。
【0057】
[7]本発明の抗原虫剤
本発明の抗原虫剤は、有効成分として、シスタチンを含む。
本発明においては、シスタチンを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、原虫駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。また、本発明における有効成分であるシスタチンは、抗原虫剤を製造するために使用することができる。
【0058】
本発明の抗原虫剤の適当対象である原虫としては、特に限定されるものではないが、例えば、バベシア原虫(例えば、ウシバベシア原虫のバベシアボビス、バベシアビゲミナ、バベシアオバタ、イヌバベシア原虫のバベシアカニス、バベシアギブソニ、ウマバベシア原虫のバベシアカバリ、バベシアエクイ)、タイレリア原虫(例えば、ウシタイレリア原虫のタイレリアオリエンターリス、タイレリアブッフェリ、タイレリアパルバ、タイレリアアヌラータ)を挙げることができる。
【0059】
本発明の抗原虫剤に用いることのできるシスタチンとしては、本発明の新規ポリペプチドを使用することができるだけでなく、公知の各種シスタチンを使用することができる。前記シスタチンとしては、脊椎動物(例えば、ほ乳類)、無脊椎動物(例えば、線虫、昆虫)、原虫、植物に由来する天然シスタチン、あるいは、シスタチン活性を有する改変タンパク質を用いることができ、タイプ2に属するシスタチンが好ましい。
【0060】
後述の実施例10に示すように、本発明の抗原虫剤の有効成分であるシスタチンは、インビトロで媒介バベシア原虫の増殖を抑制することができる。
本発明の抗原虫剤は、所望により、種々の形態で投与することができ、例えば、前記の[4]本発明の医薬、あるいは、[6]本発明のスクリーニング方法並びにそのスクリーニング結果物又は本発明の抗体を含む医薬において先述した形態で投与することができる。
【0061】
また、本発明は、前記ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、動物の治療を目的とした治療的化合物、並びにその応用も含まれる。本発明のフタトゲチマダニのシスタチンタンパク質及び核酸は、マダニ媒介性病原体が属するウイルス、細菌、原虫、寄生虫を含むマダニ媒介性病原体による人又は動物の寄生虫病予防及び/又は治療を目的とした化合物の合成及び治療薬の開発に応用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例においては、各種分子生物学、ダニ学、節足動物学、免疫学、及び生化学的な技術を用いた。これらの技術は、Sambrook, J.ら, Molecular Cloning, a laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Harlow E. ら, Antibodies, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988)やその関連書を参考にした。また、DNA解析ソフトとしては、MacVectorTM(Oxford Molecular社)を使用した。
【0063】
《実施例1:シスタチンをコードする遺伝子の単離及び塩基配列決定》
家兎を吸血4日目のフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)の雌成ダニ500匹から、中腸組織を実体顕微鏡下で摘出した。これらから直ちに、アシッドグアニジニウム(Acid Guanidinium)−フェノール−クロロホルム法[Chomczynski et al., Anal Biochem 162: 156-159 (1987)](AGPC法)を用いて全RNAを調製し、この5μgを使用し、G−キャッピング法(G-Capping法)による完全長cDNA合成を行った。pGCAPベクター[Kato et al., DNA Res. 12: 53-62(2005)]に2本鎖cDNAがインサートされたプラスミドは、フェノール抽出後、エタノール沈殿により回収し、TE緩衝液に溶解した。得られたプラスミド溶液は、DH5αコンピテント細胞(Takara社)と混合し、エレクトロポレーション法により形質転換を行い、寒天培地に蒔いて培養した。
【0064】
得られたcDNAライブラリーのサイズは約1x105個の形質転換体を含むもので、直ちにライブラリーの予備的なインサート確認を実施した結果、cDNAの完全長率は、92%と極めて高率であった。作製したcDNAライブラリーに含まれる形質転換体から順次、プラスミドDNAを単離・精製し、このプラスミドを鋳型にして5’端側よりサイクルシーケンス反応を行い、DNAシーケンサー(ABI社製3730型シーケンサー)でcDNAの5’端塩基配列を決定した。この中腸のcDNAライブラリーから10,000クローンずつ選択し、5’端塩基配列を決定し、全クローンをGenBank(http://www.Ncbi.nih.gov/BLAST/)データベースを用いてBLASTX検索を実施した。この結果を表計算ソフトウェア(マイクロソフトExcel)のワークシート上でアノテーションし、アセンブルを行った。その結果、中腸のcDNAライブラリーは、有効クローンを8,304(83%)含有し、さらに完全長cDNAクローンを7,639(92%)含有していることが示された。さらに、得られた有効クローンについてクラスターリング解析を行ったところ、中腸のcDNAライブラリーに3,433種類の遺伝子(クラスター)が含有されることが示され、この遺伝子の中から、シスタチンを同定した。
【0065】
得られたcDNAの全長(配列番号1)は569bpであり、ORF(Open Reading Frame)は72位〜467位にあり、131残基のアミノ酸(配列番号2)をコードしていることが確認され、推定分子量は12.9kDaであった。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番〜18番のアミノ酸からなる配列は、シグナルペプチドであり、19番〜131番のアミノ酸からなる配列は、フタトゲチマダニ・シスタチン成熟体のアミノ酸配列であった。予想されるアミノ酸配列をNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST法にて相同性検索を行ったところ、これまでに報告されている他の生物のシスタチンタンパク質に高い相同性を有することが確認された。例えば、同じマダニ類とは、オルニソドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)のシスタチンとの相同性は48%、イクソデス・リシヌス(Ixodes ricinus)のシスタチンとは40%、イクソデス・スカピュラーリス(Ixodes scapularis)のシスタチンとは34%の相同性であった。
【0066】
《実施例2:シスタチン融合タンパク質の発現用ベクターの構築》
シグナルペプチド(配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番〜18番のアミノ酸からなる配列)を含まない、フタトゲチマダニ・シスタチン成熟体(配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列)をコードする遺伝子断片をPCR法にて増幅した。PCR産物をフェノール/クロロホルム処理した後に、エタノール沈澱法にて回収し、蒸留水中に溶解した。得られたDNA液を制限酵素EcoRIで消化した後に、電気泳動にて分離し、DNA精製キット(Biotechnologies社)にて精製し、蒸留水中に回収した。一方、大腸菌発現用ベクターpGEX-4T3(Pharmacia Biotech社)を制限酵素EcoRIで消化した後に、アルカリホスファターゼにて脱リン酸化処理し、その後、PCR産物と同様な方法にて精製した。
【0067】
精製したPCR産物とベクターとを、DNAライゲーションキット(Takara社)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って反応させた。大腸菌DH5α株をライゲーション反応産物にて形質転換させ、フタトゲチマダニ・シスタチン遺伝子ORF断片がベクターのグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)と同一方向に挿入された組換えクローンを選択した。プラスミド精製キット(Qiagen社)にて組換えプラスミドを精製した。
【0068】
《実施例3:組換えフタトゲチマダニ・シスタチン融合タンパク質の大腸菌による発現》
実施例2で得られた組換えプラスミドにて、大腸菌DH5α株を形質転換させた後、37℃でアンピシリン含有LB培地で培養した。培養液のOD600nmが0.3〜0.5に達した時点で、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を最終濃度が0.5mmol/Lになるように添加し、更に37℃で4時間培養を続けた。組換えタンパク質の発現は、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動[Laemmli ら, Nature, 227, 680-685 (1970)]を実施した後、クーマシー染色で確認した。
【0069】
結果を図1に示す。図1において、レーン1は分子量マーカー、レーン2は大腸菌ライセート(IPTG無添加)、レーン3は大腸菌ライセート(IPTG添加)、レーン4は精製した組換え融合タンパク質(実施例6参照)の泳動結果である。
その結果、約38kDaの組換えタンパク質の発現が認められ、GSTリーダータンパク質(26kDa)とフタトゲチマダニ・シスタチンタンパク質(13kDa)の融合タンパク質(以下、組換えHlcyst融合タンパク質と称する)
【0070】
《実施例4:組換えHlcyst融合タンパク質のシステイン・プロテアーゼ活性阻害の測定》
組換えHlcyst融合タンパク質によるシステイン・プロテアーゼの活性阻害を、市販のパパイン(SIGMA社)、ヒトカテプシンL(SIGMA社)、ヒトカテプシンB(SIGMA社)を用いて確認した。なお、パパイン及びカテプシンLはシステイン・プロテアーゼであり、カテプシンBはアスパラギン酸プロテアーゼである。酵素活性の阻害試験は、リン酸ナトリウム(100 mmol/L)、ジチオトレイトール(DTT; 1 mmol/L)、及びEDTA(2 mmol/L)を含有する反応緩衝液を用いて、溶解後のpHが、パパインはpH6.5、カテプシンLとカテプシンBはpH6.0になるようにして、すべて0.2μmol/L溶液とした。組換えHlcyst融合タンパク質は、0、0.1、0.2、0.4、0.8、又は1.6μmol/Lの濃度になるように、市販システイン・プロテアーゼの0.2μmol/L溶液と混合した後に、ベンジルオキシカルボニル・フェニルアラニン−アルギニン−7−アミド−4−メチルクマリン基質(ペプチド研究所)10μmol/Lを加え、37℃で30分間反応させた。その後、蛍光マイクロリーダ(Thermo Electron社)を用い、355nmの励起光と460nmの放射光にてプロテアーゼ活性を測定した。
【0071】
結果を図2に示す。その結果、組換えHlcyst融合タンパク質は高いシステイン・プロテアーゼ阻止活性を有していることが示された。すなわち、パパイン及びカテプシンLの酵素活性は0.4μmol/L以上の濃度の組換えHlcyst融合タンパク質によって顕著に阻害されることが認められたが、カテプシンBの活性は阻害されなかった。
【0072】
《実施例5:組換えHlcyst融合タンパク質の熱安定性の測定》
25℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、又は100℃に組換えHlcyst融合タンパク質(4μmol/L)を5分間置いた後に、その0.8μmol/L濃度液を用いて、実施例4の方法で、市販パパイン0.2μmol/L溶液に対する活性阻害を検討した。
【0073】
結果を図3に示す。その結果、組換えHlcyst融合タンパク質は50℃でも活性を維持しており、70℃以上の高温でシステイン・プロテアーゼに対する阻止活性を消失することが示された。
【0074】
《実施例6:組換えHlcyst融合タンパク質の抗血清の調製、及びイムノブロット法によるネイティブ(天然型)シスタチンの同定》
実施例3で述べた方法により、大腸菌で発現させた組換えHlcyst融合タンパク質を、市販のキット(Pharmacia Biotech社)に添付のプロトコールに従って精製した。この100μgを含む溶液200μLと、フロイント完全アジュバント(Adjuvant Complete Freund; Difco社)200μLとを混合した後に、BALB/cマウス(8週齢,雌)に腹腔内接種した。腹腔内接種から2週間及び4週間経過後に、それぞれ、組換えHlcyst融合タンパク質100μgをフロイント不完全アジュバント(Difco社)と混合し、追加接種を行なった。最終接種後から2週目に採血し、得られた血清を−20℃に保存した。得られた抗組換えHlcyst融合タンパク質マウス血清を用い、イムノブロット法[Towbin et al., Proc Natl Acad Sci USA 76: 4350-4354 (1979)]にて天然型シスタチンタンパク質の同定を行なった。なお、試料として、4日間家兎を吸血した雌成ダニの中腸と唾液腺ライセートを使用した。
【0075】
結果を図4に示す。図4において、レーン1は、分子量マーカーの泳動結果であり、レーン2、3は、それぞれ中腸ライセート、唾液腺ライセートの泳動結果であり、レーン4は、組換えHlcyst融合タンパク質の泳動結果である。図4に示すように、中腸ライセートにおいて約15kDaの特異的バンドが検出された。天然型シスタチンタンパク質の分子量が推定理論値と一致すると考えられた。なお、免疫前の血清と組換えHlcyst融合タンパク質やダニのライセートとの反応は認められなかった。
【0076】
《実施例7:天然型シスタチンのフタトゲチマダニの各発育期と主要内部器官における発現分布》
フタトゲチマダニの卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの全発育期と、家兎を4日間吸血して半飽血状態の雌ダニの主要内部器官における天然型シスタチンの発現分布について、常法に従って、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法によりmRNA発現の分析を実施した。RT−PCR法によるmRNA発現分析の発育期別の結果を図5に、臓器別の結果を図6に示す。
【0077】
図5において、記号EG、LA、NY、ADは、それぞれ、卵(egg)、未吸血幼ダニ(larvae)、未吸血若ダニ(nympha)、未吸血雌成ダニ(adult)のフタトゲチマダニの個体(whole tick)由来のRNAの結果であることを意味する。また、図6において、記号SG、MD、OV、HC、FBは、それぞれ、前記フタトゲチマダニの唾液腺(salivary glands)、中腸組織(midguts)、卵巣(ovaries)、ヘモサイト(hemocytes)、及び脂肪体(fat body)由来のRNAの結果であることを意味する。図5及び図6の結果が示すとおり、天然型シスタチンは、全発育期において発現し、雌成ダニの体内臓器別では、主に中腸組織、微量がヘモサイトにおいて発現することが確認された。
【0078】
《実施例7:天然型シスタチンのフタトゲチマダニの吸血にともなう発現の増加》
フタトゲチマダニの雌成ダニを家兎に吸血させ、吸血後1日目、4日目、7日目(飽血)の雌ダニ体内における天然型シスタチンの発現の推移について、常法に従って、RT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。RT−PCR法によるmRNA発現分析の結果を図7に示す。
【0079】
図7において、天然型シスタチンは、マダニの吸血にともなって発現が増大し、飽血時(4〜7日目)において発現は最大になることが確認された。
【0080】
《実施例8:天然型シスタチンの細菌リポタンパク質(LPS)の接種にともなうフタトゲチマダニ体内における発現動態》
10μLのガラス毛細管(Microcap;Drummond Scientific社)の一端を加熱によって注射針状にしたものを用いて、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に0.1μg/mLに溶解したLPS(Sigma社)を、1個体当たり1μL、フタトゲチマダニの未吸血雌成ダニ30個体の第4基節付近から血体腔内に接種した。マダニは接種後6時間、25℃に静置し、体内における天然型シスタチンの発現の推移を、常法に従ってRT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。LPS接種の対照としては、PBSを1個体当たり1μL、合計30個体に接種した。
【0081】
結果を図8に示す。図8において、天然型シスタチンは、LPSの血体腔接種によって発現が対照の1.6倍に増大することが確認された。
【0082】
《実施例9:天然型シスタチンのフタトゲチマダニのイヌバベシア感染にともなう発現動態》
1歳の摘脾ビーグル犬にイヌバベシア(Babesia gibsoni)のNRCPD株を実験感染させた [Fukumoto S.ら, J. Vet. Med. Sci., 63, 977-981 (2001)]。原虫寄生率(パラシテミア)が5%以上になったときに、雌成ダニを耳袋法で寄生させ、飽血個体を回収し、25℃及び90%相対湿度で産卵させた。1匹の雌ダニの産卵塊からふ化し2ヶ月後の幼ダニにおける天然型シスタチンの発現の推移を、常法に従ってRT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。あわせて、PCR法によりダニ体内のイヌバベシアのmRNAの発現を調べ、幼ダニにおけるバベシア感染を確認した。
【0083】
天然型シスタチンの発現に関する結果を、図9に示す。図9において、天然型シスタチンは、イヌバベシア感染幼ダニにおいて、発現が非感染幼ダニの1.8倍に増大することが確認された。
【0084】
《実施例10:組換えHlcyst融合タンパク質のインビトロ培養バベシア原虫に対する増殖抑制効果》
ウシバベシア原虫(Babesia bovis)のインビトロ培養方法[Bork S.ら, Am. J. Trop. Med. Hyg., 68, 334-340 (2003)]に従って、ウシバベシア原虫感染血液100μLを非感染ウシ赤血球で希釈してパラシテミアを1%に調整後、この0.1μLに、1、2、又は3μmol/Lの濃度で組換えHlcyst融合タンパク質を加えた0.9μLの培養液(Growth medium)を加え、24穴の培養プレートにて、37℃で4日間培養した。組換えHlcyst融合タンパク質を加えた培養液は、0.9μLを毎日更新し、更新直前に培養液のギムザ染色塗抹を作製して、原虫寄生赤血球数を鏡検し、寄生原虫の形態とパラシテミアの推移を検討することによって、ウシバベシア原虫の増殖に対する組換えHlcyst融合タンパク質の影響を確認した。なお対照として、組換えHlcyst融合タンパク質の代わりにGST3μLを加えた培養液で培養した系を用意した。
【0085】
結果を図10及び図11に示す。図10において、組換えHlcyst融合タンパク質は、インビトロで培養したウシバベシア原虫の発育を、用量依存的に阻止することが確認された。また、図11において、組換えHlcyst融合タンパク質暴露下でインビトロ培養されたウシバベシア原虫は、寄生赤血球内において細胞変性と核濃縮などの形態変化を示し、発育と増殖に異常のあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はベクターは、例えば、マダニ(特にはフタトゲチマダニ)媒介性感染症の治療又は予防、特にマダニワクチンの用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】組換えフタトゲチマダニ(Hl)シスタチン(cyst)融合タンパク質の電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図2】組換えHlcyst融合タンパク質のシステイン・プロテアーゼ活性阻害の測定の結果を示すグラフである。
【図3】組換えHlcyst融合タンパク質の活性の熱安定性測定の結果を示すグラフである。
【図4】組換えフタトゲチマダニ(Hl)シスタチン(cyst)融合タンパク質の電気泳動(イムノブロット)の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図5】天然型シスタチンタンパク質のマダニの各発育期における発現を示すグラフである。
【図6】天然型シスタチンタンパク質のマダニの主要臓器における発現を示すグラフである。
【図7】天然型シスタチンタンパク質のマダニの吸血にともなう発現の変化を示すグラフである。
【図8】天然型シスタチンタンパク質の、LPSのマダニ血体腔への接種にともなう発現の増大を示すグラフである。
【図9】天然型シスタチンタンパク質の、マダニのバベシア感染にともなう発現の増大を示すグラフである。
【図10】組換えHlcyst融合タンパク質のインビトロ培養ウシバベシア原虫(Babesia bovis)に対する増殖抑制効果を示すグラフである。
【図11】組換えHlcyst融合タンパク質が、インビトロ培養されたウシバベシア原虫の発育と増殖に異常をもたらす結果を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マダニのシスタチン、それをコードする核酸分子及びそれらの利用に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、マダニの生存に不可欠な吸血、及びこれによってマダニ体内に侵入する動物・ヒトの病原体に関わるタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、及びそれらの使用に関する。ここで、動物・ヒトの病原体とは、世界的に甚大な被害をもたらすピロプラズマ症の病原体であるタイレリア又はバベシア原虫をはじめとする人獣共通細菌・ウイルスを意味する。具体的には、本発明は、宿主動物からの血液成分の摂取(すなわち吸血)と消化、ならびに吸血にともなってマダニ個体へ侵入した病原体に対して、中腸上皮や体内移行経路にあたる器官・組織で発現するシスタチンをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、組換えペプチドタンパク質、及び合成ペプチドに関する。本発明により、マダニの吸血の予防と阻止、ピロプラズマ症をはじめとする人及び動物の感染症の予防及び治療を目的とした化合物の合成、あるいはそれら病原体による感染症の治療薬の開発に応用することができる。
【背景技術】
【0003】
地球上に棲息する約500属15,000種を越える吸血性節足動物の中で、マダニはわずか19属約750種(5%)の弱小グループであるが、ヒト以外の動物では第1位、ヒトでは蚊に次いで第2位に重要な感染症媒介節足動物である。経済的被害からもマダニとマダニ媒介性疾病による世界の損害額は、畜産領域だけでも毎年140億米ドル以上(非特許文献1)にのぼり、その対策は世界各国で畜産振興上の最も重要な課題のひとつとなっている。マダニ防除の中心は化学療法剤などの薬剤利用に深く依存している。DTTが開発された1950年以降、シナプス後膜作用型のニコチン系、ネオニコチノイド系、神経伝達物質分解酵素型の有機燐系、カーバメート系、クロルジメフォルム、神経繊維膜作用型の塩素系、ピレスロイド系などの化合物が殺ダニ剤としてマダニ防除に使用されてきた。しかしながら、マダニは、薬剤の連続使用によるいわゆる薬剤耐性をいずれの薬剤に対しても獲得し、殺ダニ効果が減少あるいは消失したものも少なくない。さらに、薬剤の使用には常に人あるいは動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。そのうえ、経済動物である家畜では、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつある。
【0004】
感染症媒介者(ベクター)としてのマダニは、マラリアベクターの蚊と比べて、ウイルス、リケッチア、細菌、原虫、寄生虫などほぼすべての種類の病原体の伝播に関与する他に比肩しうるもののない優れた疾病媒介能を有する。ヒトではマラリアが世界的に猛威を振るっていることはよく知られているが、動物(家畜・愛玩動物)ではマラリアに類似した感染症としてマダニが媒介するバベシアやタイレリアなどの原虫によるピロプラズマ症がある。本症は畜産・獣医学領域で最も被害の大きい寄生虫感染症であり、近年ではヒトでのバベシア症が世界各国で報告され、新興人獣共通感染症のひとつにあげられている。
【0005】
感染症予防の最大の武器はワクチンであるが、寄生虫ワクチン(多大な資金と精力的なワクチン開発が行われているマラリアに対しても)の開発は困難を極めている。進化した生活環を有する寄生虫では、動物・ヒトの獲得防御免疫に関する主要な寄生虫由来の抗原や免疫誘導機構など、不明な点が多くあるためであるが、とりわけ重大なのは、寄生虫は高度に発達した免疫回避機構により宿主の免疫監視から逃れるシステムを発達させており、防御免疫の獲得が困難なことにある。このようなことからタイレリアやバベシアなどのピロプラズマ原虫についても例外ではなく、ピロプラズマ症の発症をもたらす宿主体内ステージに焦点をあてた研究開発からはワクチンを生まれていない。
【0006】
一方、マダニの頻回寄生に対して宿主が抵抗性を獲得する現象を応用した獲得免疫によるマダニ防除法が以前から試みられている(非特許文献2)。また、宿主への接触が全くないマダニタンパク質がマダニ感染に対する防御抗原となることも明らかにされ、実際にワクチン抗原(Tick GARD)(非特許文献3)として一部のマダニとマダニ媒介性病原体[例えば1宿主性のマダニ(Boophilus microplus)とその媒介するウシバベシア原虫]に対して野外応用されているものの、これらの効果は限定的であり、他のワクチン抗原との併用による効果増大の必要性が指摘されるなど、多くのマダニとマダニ媒介性病原体に対するワクチンは依然として開発途上にあり、病原体側のマダニ媒介性病原体の防除対策もマダニと同様に薬剤に深く依存しているのが実情である。このように21世紀におけるマダニとマダニ媒介性病原体による人及び家畜生産の被害を既存の薬剤使用によって防ぐことは、非常に難しい状況にある。
【0007】
シスタチンは、パパイン・ファミリーのシステイン・プロテアーゼに対して阻害活性を有するインヒビター群である。1960年代に鶏の卵白から初めて報告された後、現在、分布は、原虫、線虫、昆虫、植物、ほ乳類まで様々な生物で広く存在が知られている。マダニシスタチンとしては、ヒメダニの1つであるオルニソドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)由来のシスタチン、あるいは、ヒトのライム病のベクターであるマダニ属のイクソデス・リシヌス(Ixodes ricinus)とイクソデス・スカピュラーリス(Ixodes scapularis)由来のシスタチン[NCBI (National Center for Biotechnology Information)、BLASTP (Protein-protein Basic Local Alignment Search Tool) サーチ, Accession No. AY521024、AJ547803、AF483724]の塩基配列及びアミノ酸配列がそれぞれ決定されている(非特許文献4)。また、米国のヒト、イヌ、ネコのエールリヒア症の病原体(Ehrlichia chaffeensisやEhrlichia ewingii)のベクターであるキララマダニ属の1種のアンブリオンマ アメリカナム(Amblyomma americanum)では、シスタチンのRNA干渉法による機能の解明が試みられている(非特許文献5)。しかしながら、マダニのシスタチンの全塩基配列の単離や特性解明に関しては、いずれのマダニにおいても実証されるに至っていない。
【0008】
【非特許文献1】ベテリナリー・パラシトロジー(Veterinary Parasitology), (オランダ国),1997年, 71巻, 77-97頁
【非特許文献2】「ナショナルインスティチュート・オブ・アニマルヘルス・クオータリー(トウキョウ)(National Institute of Animal Health Quarterly、Tokyo),1978年,18巻,27-38頁
【非特許文献3】「プラシトロジー・トゥデー(Parasitology Today)」,(オランダ国),1999年,15巻,258-262頁
【非特許文献4】「ザ・ジャーナル・オブ・イクスペリメンタル・バイオロジー(The Journal of Experimental Biology)」,(英国),2002年,205巻,2843-2864頁
【非特許文献5】「バイオケミカル・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ」(Biochemical Biophysical Research Communications),(オランダ国),2005年,334巻,1336-1342頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者及びその共同研究者は約20年来にわたって継代してきた日本の最優占種であるフタトゲチマダニを用いて、その防除とこれが媒介するピロプラズマ原虫(Theileria orientalis、Babesia ovata、Babesia gibsoni)などの疾病媒介の予防・治療に関するプロジェクト研究を推進してきてきた。近年、本発明者らは、マダニ個体における様々な生物活性分子が、マダニの吸血・消化と病原体伝搬において果たす役割と機構の大きさに着目してきたが、今回、解析の結果から、吸血・消化ならびにマダニ体内に侵入する原虫などの病原体によって中腸上皮とヘモサイトにおける発現が上方調節され、マダニの吸血生理と自然免疫に関わる分子と想定されるシスタチンの単離に成功した。
【0010】
シスタチンは、選択的にまた特異的にシステイン・プロテアーゼの活性を阻害する細胞内あるいは細胞外に局在するタンパク質であり、アミノ酸配列などの構造特性の相違によって、タイプ1〜3の3群に分類される。分布は、脊椎動物のほ乳類から線虫、昆虫などの無脊椎動物、原虫、植物にも広く存在が知られている。機能的には不明な点が残されているが、生物のタンパク質の代謝回転に代表される生命現象の基本部分を担うとともに、病原体の侵入、ガン、神経変性疾患やアポトーシスといった様々な病態において大きな動態を示し、重要な役割を有することが判明している[Dubin G. Cell Mol Life Sci. 62:653-669(2005)]。しかしながら、マダニに関しては、シスタチンが重要であるとの報告はこれまでなかった。
【0011】
本発明は、マダニとマダニが媒介する感染症から、人及び動物を守るための化合物を提供し、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などの様々なマダニ媒介性病原体による感染症の防除法を提供するものである。具体的には、マダニのシスタチン、前記感染防御抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを保持する組換え体細胞、マダニのシスタチンに対する抗体などの阻害剤、並びにマダニ媒介性病原体の感染及び増殖を防ぐ化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、偏性吸血動物としてのマダニでは、その生存に必須の宿主からの吸血にともなう中腸における血液タンパク質の消化に働くシステイン・プロテアーゼなどの消化酵素群の活性の高まりに対して、あるいはまた吸血にともなって侵入してきたピロプラズマ原虫などの各種病原体の侵入に対して、局所的に細胞上皮で産生される何らかの応答性の生物活性分子があることを想定した。本発明者は、マダニの吸血・消化機構と病原体媒介能は偶然に成立したものではなく、長い年月をかけて成立した分子間相互作用を基盤にしているものと想定しており、今回、フタトゲチマダニにおいて、吸血、細菌細胞外膜リポ多糖(LPS)の接種、ならびにバベシア原虫感染にともなって、中腸における発現が著しく上方調節され、しかもインビトロで媒介バベシア原虫の増殖を抑制するシスタチンを突き止めた。このようなことから、マダニのシスタチンは、マダニの吸血によって惹起される中腸における血液タンパク質の消化に関わる酵素の活性調節と、吸血にともなう病原体侵入と伝搬に関わる自然免疫において、重要な役割を果たしているものと考えられる。また、蛋白性レギュレーターあるいはプロテクタントを活用した創薬を目指す上で、マダニのシスタチンは大きな可能性を秘めていると推察することができる。今回単離したフタトゲチマダニ・シスタチンは、バベシアなどのピロプラズマ原虫に限らず、マダニが媒介する野兎病、Q熱、ウイルス性脳炎などの伝搬防除にも応用することができる。これまで、マダニの吸血、ならびにマダニが媒介する病原体の発育・生存において、シスタチンが重要であるとの報告はなく、マダニのシスタチンをコードする遺伝子及びその組換えタンパク質は、マダニ媒介性感染症の予防・防除を目的とした化合物の作出に有効である。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1](1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド、
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を示すポリペプチド、又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
[2][1]のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[3][2]のポリヌクレオチドを含むベクター;
[4][2]のポリヌクレオチドを含む形質転換体;
[5][4]の形質転換体を培養する工程を含む、[1]のポリペプチドを製造する方法;
[6][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを有効成分として含む、医薬;
[7]マダニに対するワクチンである、[6]の医薬;
[8]抗原虫剤である、[6]の医薬;
[9][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物;
[10][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法;
[11][1]のポリペプチド若しくはその断片、[2]のポリヌクレオチド、又は[3]のベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法;
[12][1]のポリペプチドに対する抗体又はその断片;
[13][1]のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのシスタチン活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのシスタチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法;
[14]シスタチン阻害剤、又は[12]の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ駆除剤;
[15]シスタチン阻害剤、又は[12]の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防剤;並びに
[16]シスタチンを有効成分として含む、抗原虫剤
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、形質転換体、及び抗体によれば、本発明の医薬、特にはマダニワクチンを提供することができる。また、本発明の医薬、特にはマダニワクチンによれば、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[1]本発明のポリペプチド
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)
が含まれる。
【0016】
本明細書において「シスタチン活性」とは、フタトゲチマダニのシスタチンタンパク質の生物学的活性を意味し、具体的には、例えば、システイン・プロテアーゼ(例えば、例えば、パパイン、カテプシンL)に対する結合活性及び/又は活性阻害活性を挙げることができる。
【0017】
或るポリペプチドがシスタチン活性を有するか否かは、公知の方法に従って、判定することができる。例えば、或るポリペプチドがシステイン・プロテアーゼ活性の阻止能を有するか否かは、例えば、実施例4に示すように、Roche et al., Eur. J. Biochem 245:373-380(1997)に従って判定することができる。より具体的には、実施例4に示すように、ペプチドによるシステイン・プロテアーゼの活性阻害は、市販のパパインやカテプシンなどのシステイン・プロテアーゼと混合後、混合後のプロテアーゼがベンジルオキシカルボニル・フェニルアラニン−アルギニン−7−アミド−4−メチルクマリン基質に対する活性を維持しているかを調べることによって、判定することができる。
【0018】
また、或るポリペプチドがマダニ媒介性病原体に対する増殖阻止活性を有するか否かは、例えば、ウシバベシア原虫をペプチドを含む培養液でインビトロ培養し、経時的にギムザ染色塗抹標本を鏡検して原虫の増殖(パラシテミア)を確認することにより判定することができ、より具体的には、実施例10に示す方法により判定することができる。
【0019】
本発明のポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド」としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド(好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なシグナル配列及び/又はマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、シスタチン活性を有する融合ポリペプチド;あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなるポリペプチドと、融合用パートナーとの融合ポリペプチドであって、しかも、シスタチン活性を有する融合ポリペプチドを挙げることができる。
【0020】
前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを用いることができる。
【0021】
また、前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用ポリペプチド[例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)の全部又は一部]、検出用ポリペプチド[例えば、ヘムアグルチニン又はβ−ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ α)の全部又は一部]、又は発現用ポリペプチド(例えば、シグナル配列)などを用いることができる。
【0022】
更に、前記融合ポリペプチドにおいては、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドと前記マーカー配列又は融合用パートナーとの間に、限定分解するタンパク質分解酵素(例えば、トロンビン、血液凝固因子Xa、エントロキナーゼ、TEVプロテアーゼなど)で切断することができるアミノ酸配列を適宜導入することもできる。
【0023】
本発明の機能的等価改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体として1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜7個、更に好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もフタトゲチマダニに限定されない。
【0024】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体が含まれるだけでなく、フタトゲチマダニ以外の生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、フタトゲチマダニ由来の変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列をコードするポリヌクレオチドを元にして、遺伝子工学的に、コードするアミノ酸配列を人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
【0025】
配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体は、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番の塩基からなる配列)、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning, A Laboratory Manual”, Cold Spring Harber Laboratory Press, 1989)に従って実施することが可能である。
【0026】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の試料(例えば、全RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki, R. K. ら, Science, 239, 487-491, 1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、シスタチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0027】
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site-specific mutagenesis; Mark, D. F. ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5662-5666, 1984)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、シスタチン活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0028】
本発明の相同ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではない。本発明の相同ポリペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はその19番〜131番のアミノ酸からなる配列に関して、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができる。なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins及びSharp, Gene, 73, 237-244, 1988; 並びにThompsonら, Nucleic Acid Res., 22, 4673-4680, 1994)により、デフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。
【0029】
これらの本発明の新規ポリペプチドは、種々の公知の方法によって製造することができ、例えば、本発明の前記ポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドを用いて公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。より具体的には、後述する本発明の形質転換体(すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体)を、本発明による新規ポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、ポリペプチドの分離及び精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から目的ポリペプチドを分離及び精製することにより調製することができる。前記の分離及び精製方法としては、例えば、硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、又は凍結乾燥等を挙げることができる。
【0030】
また、本発明には、本発明によるポリペプチドの断片も含まれる。本発明による前記断片は、本発明による医薬の有効成分として、あるいは、本発明の抗体を調製するための抗原として有用である。
【0031】
[2]本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチド[例えば、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド(すなわち、フタトゲチマダニのシスタチン前駆体をコードする遺伝子(Hlcyst遺伝子))、配列番号1で表される塩基配列における126番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチド(シグナルペプチドを含まない成熟体をコード)、あるいは、配列番号1で表される塩基配列(すなわち、全長)からなるポリヌクレオチド]、あるいは、配列番号1で表される塩基配列における72番〜467番又は126番〜467番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ガレクチン活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
【0032】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、フタトゲチマダニのシスタチンをコードするDNA配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。通常、完全ハイブリッドの融解温度より約5℃〜約30℃、好ましくは約10℃〜約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されており、ここに記載の条件を使用することができる。例えば、ストリンジェントな条件としてハイブリダイゼーションを65℃で一晩実施し、非特異反応を除去するための洗浄を2×SSCを用いて室温で5分間行った後、0.1%SDSを含む0.2×SSCを用いて65℃で30分間の洗浄を2回繰り返すことなどが挙げられる。なお、2XSSCの組成は、0.3mol/L NaCl及び30mmol/Lクエン酸ナトリウム(pH7.0)である。
【0033】
[3]本発明のベクター及び形質転換体
本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
【0034】
また、本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0035】
前記宿主細胞としては、例えば、通常使用される公知の微生物、例えば、大腸菌又は酵母(Saccharomyces cerevisiae)、あるいは、公知の培養細胞、例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK−293細胞、又はCOS細胞)又は昆虫細胞(例えば、BmN4細胞)を挙げることができる。
【0036】
また、公知の前記発現ベクターとしては、例えば、大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、又はpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLY又はpYES2を;CHO細胞に対してはpcDNA3又はpMAMneoを;HEK−293細胞に対してはpcDNA3を;COS細胞に対してはpcDNA3を;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(例えば、pBK283)を挙げることができる。更に、公知の発現ベクターとしては、遺伝子治療用のベクターとして使用することのできるウイルスベクター、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、又はセンダイウイルス等を挙げることができる。
【0037】
[4]本発明の医薬
本発明の医薬(好ましくはマダニに対するワクチン)は、有効成分として、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを含む。すなわち、本発明においては、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、マダニ駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0038】
本発明の医薬における前記有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターをマダニワクチンとして投与すると、抗体産生を誘導することができ、宿主の再感染防御能を介してダニを駆除することができる。また、その結果として、マダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療又は予防が可能である。
【0039】
すなわち、本発明の医薬組成物(好ましくは、マダニ駆除用医薬組成物、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬組成物)は、有効成分としての本発明のポリペプチドもしくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む。本発明における有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターは、前記医薬(好ましくは、マダニ駆除用医薬、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬)を製造するために使用することができる。
【0040】
本発明の医薬をマダニワクチンとして使用する場合、本発明のポリペプチドの断片としては、投与対象に投与した場合に、前記断片に対して免疫を誘導するのに充分な断片である限り、特に限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択することができる。
【0041】
本発明の医薬(特にはマダニワクチン)では、例えば、本発明のポリペプチドをアジュバント等と混合して、マダニに対するワクチンとして、適当な間隔で動物(例えば、家畜等)に接種することができる。あるいは、本発明のポリペプチドを直接、適当な溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできるし、リポソーム中に封入したり、適当なベクターに組み込んだ形にして使用することもできる。また、必要に応じて、本発明のポリペプチドに薬学的に許容し得る担体を添加し、例えば、注射剤、錠剤、カプセル剤、点眼剤、クリーム剤、坐剤、噴霧剤、又はパップ剤等の適当な剤型にして使用することができる。
【0042】
薬学的に許容し得る担体には、当業者には周知の溶媒、基剤、安定化剤、防腐剤、溶解剤、賦形剤、及び緩衝剤等が含まれる。本発明の医薬に含有される本発明のポリペプチドは、このような剤型とした場合、例えば、投与対象の年齢、性別、疾患の種類、又は程度等に応じて、その投与方法及び投与量を適宜設定して使用することができる。
【0043】
経口投与には舌下投与を含む。非経口投与としては、例えば、吸入、経皮投与、点眼、膣内投与、関節内投与、直腸投与、動脈内投与、静脈内投与、局所投与、筋肉内投与、皮下投与、及び腹腔内投与等から適当な方法を選んで投与することができる。
【0044】
[5]本発明の抗体又はその断片
本発明のポリペプチドに反応する抗体(例えば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、各種動物に、本発明のポリペプチド、又はその断片を直接投与することで得ることができる。また、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入したプラスミドを用いて、DNAワクチン法[Raz, E.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 9519-9523 (1994); 又はDonnelly, J.J.ら, J. Infect. Dis., 173, 314-320, (1996)]によっても得ることができる。
【0045】
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、腹腔、皮下、又は静脈等に免疫して感作した動物(例えば、ウサギ、ラット、ヤギ、又はニワトリ等)の血清又は卵から製造することができる。このように製造された血清又は卵から、常法のポリペプチド単離精製法によりポリクローナル抗体を分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0046】
モノクローナル抗体は、例えば、ケーラーとミルスタインの細胞融合法 [Kohler, G.及びMilstein, C., Nature, 256, 495-497(1975)]により、当業者が容易に製造することが可能である。すなわち、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、数週間おきにマウスの腹腔、皮下、又は静脈に数回繰り返し接種することにより免疫する。最終免疫後、脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製する。
【0047】
ハイブリドーマを得るためのミエローマ細胞としては、例えば、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損又はチミジンキナーゼ欠損のようなマーカーを有するミエローマ細胞(例えば、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.U1)を利用することができる。また、融合剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを利用することができる。更には、ハイブリドーマ作製における培地として、例えば、イーグル氏最小必須培地、ダルベッコ氏変法最小必須培地、又はRPMI−1640などの通常よく用いられている培地に、10〜30%のウシ胎仔血清を適宜加えて用いることができる。融合株は、HAT選択法により選択することができる。ハイブリドーマのスクリーニングは培養上清を用い、ELISA法又は免疫組織染色法などの周知の方法により行ない、目的の抗体を分泌しているハイブリドーマのクローンを選択することができる。また、限界希釈法によってサブクローニングを繰り返すことにより、ハイブリドーマの単クローン性を保証することができる。このようにして得られるハイブリドーマは、培地中で2〜4日間、あるいは、プリスタンで前処理したBALB/c系マウスの腹腔内で10〜20日間培養することで、精製可能な量の抗体を産生することができる。
【0048】
このように製造されたモノクローナル抗体は、培養上清又は腹水から常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0049】
また、モノクローナル抗体又はその一部分を含む抗体断片は、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子の全部又は一部を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、又は動物細胞)に導入して生産させることもできる。
【0050】
以上のように分離精製された抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)について、常法により、ポリペプチド分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化を行ない、引き続き、常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することで、活性のある抗体の一部分を含む抗体断片、例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFvを得ることができる。
【0051】
更には、本発明のポリペプチドに反応する抗体を、クラクソンらの方法又はゼベデらの方法 [Clackson, T.ら, Nature, 352, 624-628 (1991); 又はZebedee, S. ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3175-3179 (1992)] により、一本鎖(single chain)Fv又はFabとして得ることも可能である。また、マウスの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトランスジェニックマウス [Lonberg, N. ら, Nature, 368, 856-859 (1994)] に免疫することで、ヒト抗体を得ることも可能である。
【0052】
[6]本発明のスクリーニング方法並びにそのスクリーニング結果物又は本発明の抗体を含む医薬
本発明のポリペプチドを用いると、試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を修飾(例えば、抑制又は促進)するか否かをスクリーニングすることができる。本発明には、本発明のポリペプチドを含むスクリーニングキットが含まれる。
【0053】
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術 [Terrett, N. K. ら, Tetrahedron, 51, 8135-8137 (1995)] 又は通常の合成技術によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法 [Felici, F. ら, J. Mol. Biol., 222, 301-310 (1991)] などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
【0054】
本発明のスクリーニング方法においては、本発明のポリペプチドと試験物質とを接触させ、前記試験物質の存在下における、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を分析することにより、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を修飾するか否かを判断することができる。試験物質の不在下における本発明のポリペプチドのシスタチン活性と比較して、試験物質の存在下における前記シスタチン活性が減少する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を抑制又は阻害すると判断することができる。一方、シスタチン活性が上昇する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのシスタチン活性を促進すると判断することができる。
【0055】
シスタチン活性を抑制する物質(すなわち、シスタチン阻害剤)は、寄生虫駆除剤の有用な候補物質であり、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、人獣のピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防に用いることができる。シスタチン阻害剤としては、例えば、シスタチン中和抗体、構造活性相関に基づく親和物を公知のものとして挙げることができる。
【0056】
本発明における有効成分、すなわち、シスタチン阻害剤は、所望により、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは、注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。本発明の医薬は、公知の方法によって製造することができ、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含むことができる。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、前記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用可能であり、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。その投与量は、症状、年齢、体重、及び/又は投与経路に応じて適宜決定することができ、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定することができる。有効用量は、例えば、インビトロにおける試験又はインビボの動物モデル試験系から導くことができる。
【0057】
[7]本発明の抗原虫剤
本発明の抗原虫剤は、有効成分として、シスタチンを含む。
本発明においては、シスタチンを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、原虫駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。また、本発明における有効成分であるシスタチンは、抗原虫剤を製造するために使用することができる。
【0058】
本発明の抗原虫剤の適当対象である原虫としては、特に限定されるものではないが、例えば、バベシア原虫(例えば、ウシバベシア原虫のバベシアボビス、バベシアビゲミナ、バベシアオバタ、イヌバベシア原虫のバベシアカニス、バベシアギブソニ、ウマバベシア原虫のバベシアカバリ、バベシアエクイ)、タイレリア原虫(例えば、ウシタイレリア原虫のタイレリアオリエンターリス、タイレリアブッフェリ、タイレリアパルバ、タイレリアアヌラータ)を挙げることができる。
【0059】
本発明の抗原虫剤に用いることのできるシスタチンとしては、本発明の新規ポリペプチドを使用することができるだけでなく、公知の各種シスタチンを使用することができる。前記シスタチンとしては、脊椎動物(例えば、ほ乳類)、無脊椎動物(例えば、線虫、昆虫)、原虫、植物に由来する天然シスタチン、あるいは、シスタチン活性を有する改変タンパク質を用いることができ、タイプ2に属するシスタチンが好ましい。
【0060】
後述の実施例10に示すように、本発明の抗原虫剤の有効成分であるシスタチンは、インビトロで媒介バベシア原虫の増殖を抑制することができる。
本発明の抗原虫剤は、所望により、種々の形態で投与することができ、例えば、前記の[4]本発明の医薬、あるいは、[6]本発明のスクリーニング方法並びにそのスクリーニング結果物又は本発明の抗体を含む医薬において先述した形態で投与することができる。
【0061】
また、本発明は、前記ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、動物の治療を目的とした治療的化合物、並びにその応用も含まれる。本発明のフタトゲチマダニのシスタチンタンパク質及び核酸は、マダニ媒介性病原体が属するウイルス、細菌、原虫、寄生虫を含むマダニ媒介性病原体による人又は動物の寄生虫病予防及び/又は治療を目的とした化合物の合成及び治療薬の開発に応用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例においては、各種分子生物学、ダニ学、節足動物学、免疫学、及び生化学的な技術を用いた。これらの技術は、Sambrook, J.ら, Molecular Cloning, a laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Harlow E. ら, Antibodies, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988)やその関連書を参考にした。また、DNA解析ソフトとしては、MacVectorTM(Oxford Molecular社)を使用した。
【0063】
《実施例1:シスタチンをコードする遺伝子の単離及び塩基配列決定》
家兎を吸血4日目のフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)の雌成ダニ500匹から、中腸組織を実体顕微鏡下で摘出した。これらから直ちに、アシッドグアニジニウム(Acid Guanidinium)−フェノール−クロロホルム法[Chomczynski et al., Anal Biochem 162: 156-159 (1987)](AGPC法)を用いて全RNAを調製し、この5μgを使用し、G−キャッピング法(G-Capping法)による完全長cDNA合成を行った。pGCAPベクター[Kato et al., DNA Res. 12: 53-62(2005)]に2本鎖cDNAがインサートされたプラスミドは、フェノール抽出後、エタノール沈殿により回収し、TE緩衝液に溶解した。得られたプラスミド溶液は、DH5αコンピテント細胞(Takara社)と混合し、エレクトロポレーション法により形質転換を行い、寒天培地に蒔いて培養した。
【0064】
得られたcDNAライブラリーのサイズは約1x105個の形質転換体を含むもので、直ちにライブラリーの予備的なインサート確認を実施した結果、cDNAの完全長率は、92%と極めて高率であった。作製したcDNAライブラリーに含まれる形質転換体から順次、プラスミドDNAを単離・精製し、このプラスミドを鋳型にして5’端側よりサイクルシーケンス反応を行い、DNAシーケンサー(ABI社製3730型シーケンサー)でcDNAの5’端塩基配列を決定した。この中腸のcDNAライブラリーから10,000クローンずつ選択し、5’端塩基配列を決定し、全クローンをGenBank(http://www.Ncbi.nih.gov/BLAST/)データベースを用いてBLASTX検索を実施した。この結果を表計算ソフトウェア(マイクロソフトExcel)のワークシート上でアノテーションし、アセンブルを行った。その結果、中腸のcDNAライブラリーは、有効クローンを8,304(83%)含有し、さらに完全長cDNAクローンを7,639(92%)含有していることが示された。さらに、得られた有効クローンについてクラスターリング解析を行ったところ、中腸のcDNAライブラリーに3,433種類の遺伝子(クラスター)が含有されることが示され、この遺伝子の中から、シスタチンを同定した。
【0065】
得られたcDNAの全長(配列番号1)は569bpであり、ORF(Open Reading Frame)は72位〜467位にあり、131残基のアミノ酸(配列番号2)をコードしていることが確認され、推定分子量は12.9kDaであった。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番〜18番のアミノ酸からなる配列は、シグナルペプチドであり、19番〜131番のアミノ酸からなる配列は、フタトゲチマダニ・シスタチン成熟体のアミノ酸配列であった。予想されるアミノ酸配列をNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST法にて相同性検索を行ったところ、これまでに報告されている他の生物のシスタチンタンパク質に高い相同性を有することが確認された。例えば、同じマダニ類とは、オルニソドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)のシスタチンとの相同性は48%、イクソデス・リシヌス(Ixodes ricinus)のシスタチンとは40%、イクソデス・スカピュラーリス(Ixodes scapularis)のシスタチンとは34%の相同性であった。
【0066】
《実施例2:シスタチン融合タンパク質の発現用ベクターの構築》
シグナルペプチド(配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番〜18番のアミノ酸からなる配列)を含まない、フタトゲチマダニ・シスタチン成熟体(配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列)をコードする遺伝子断片をPCR法にて増幅した。PCR産物をフェノール/クロロホルム処理した後に、エタノール沈澱法にて回収し、蒸留水中に溶解した。得られたDNA液を制限酵素EcoRIで消化した後に、電気泳動にて分離し、DNA精製キット(Biotechnologies社)にて精製し、蒸留水中に回収した。一方、大腸菌発現用ベクターpGEX-4T3(Pharmacia Biotech社)を制限酵素EcoRIで消化した後に、アルカリホスファターゼにて脱リン酸化処理し、その後、PCR産物と同様な方法にて精製した。
【0067】
精製したPCR産物とベクターとを、DNAライゲーションキット(Takara社)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って反応させた。大腸菌DH5α株をライゲーション反応産物にて形質転換させ、フタトゲチマダニ・シスタチン遺伝子ORF断片がベクターのグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)と同一方向に挿入された組換えクローンを選択した。プラスミド精製キット(Qiagen社)にて組換えプラスミドを精製した。
【0068】
《実施例3:組換えフタトゲチマダニ・シスタチン融合タンパク質の大腸菌による発現》
実施例2で得られた組換えプラスミドにて、大腸菌DH5α株を形質転換させた後、37℃でアンピシリン含有LB培地で培養した。培養液のOD600nmが0.3〜0.5に達した時点で、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を最終濃度が0.5mmol/Lになるように添加し、更に37℃で4時間培養を続けた。組換えタンパク質の発現は、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動[Laemmli ら, Nature, 227, 680-685 (1970)]を実施した後、クーマシー染色で確認した。
【0069】
結果を図1に示す。図1において、レーン1は分子量マーカー、レーン2は大腸菌ライセート(IPTG無添加)、レーン3は大腸菌ライセート(IPTG添加)、レーン4は精製した組換え融合タンパク質(実施例6参照)の泳動結果である。
その結果、約38kDaの組換えタンパク質の発現が認められ、GSTリーダータンパク質(26kDa)とフタトゲチマダニ・シスタチンタンパク質(13kDa)の融合タンパク質(以下、組換えHlcyst融合タンパク質と称する)
【0070】
《実施例4:組換えHlcyst融合タンパク質のシステイン・プロテアーゼ活性阻害の測定》
組換えHlcyst融合タンパク質によるシステイン・プロテアーゼの活性阻害を、市販のパパイン(SIGMA社)、ヒトカテプシンL(SIGMA社)、ヒトカテプシンB(SIGMA社)を用いて確認した。なお、パパイン及びカテプシンLはシステイン・プロテアーゼであり、カテプシンBはアスパラギン酸プロテアーゼである。酵素活性の阻害試験は、リン酸ナトリウム(100 mmol/L)、ジチオトレイトール(DTT; 1 mmol/L)、及びEDTA(2 mmol/L)を含有する反応緩衝液を用いて、溶解後のpHが、パパインはpH6.5、カテプシンLとカテプシンBはpH6.0になるようにして、すべて0.2μmol/L溶液とした。組換えHlcyst融合タンパク質は、0、0.1、0.2、0.4、0.8、又は1.6μmol/Lの濃度になるように、市販システイン・プロテアーゼの0.2μmol/L溶液と混合した後に、ベンジルオキシカルボニル・フェニルアラニン−アルギニン−7−アミド−4−メチルクマリン基質(ペプチド研究所)10μmol/Lを加え、37℃で30分間反応させた。その後、蛍光マイクロリーダ(Thermo Electron社)を用い、355nmの励起光と460nmの放射光にてプロテアーゼ活性を測定した。
【0071】
結果を図2に示す。その結果、組換えHlcyst融合タンパク質は高いシステイン・プロテアーゼ阻止活性を有していることが示された。すなわち、パパイン及びカテプシンLの酵素活性は0.4μmol/L以上の濃度の組換えHlcyst融合タンパク質によって顕著に阻害されることが認められたが、カテプシンBの活性は阻害されなかった。
【0072】
《実施例5:組換えHlcyst融合タンパク質の熱安定性の測定》
25℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、又は100℃に組換えHlcyst融合タンパク質(4μmol/L)を5分間置いた後に、その0.8μmol/L濃度液を用いて、実施例4の方法で、市販パパイン0.2μmol/L溶液に対する活性阻害を検討した。
【0073】
結果を図3に示す。その結果、組換えHlcyst融合タンパク質は50℃でも活性を維持しており、70℃以上の高温でシステイン・プロテアーゼに対する阻止活性を消失することが示された。
【0074】
《実施例6:組換えHlcyst融合タンパク質の抗血清の調製、及びイムノブロット法によるネイティブ(天然型)シスタチンの同定》
実施例3で述べた方法により、大腸菌で発現させた組換えHlcyst融合タンパク質を、市販のキット(Pharmacia Biotech社)に添付のプロトコールに従って精製した。この100μgを含む溶液200μLと、フロイント完全アジュバント(Adjuvant Complete Freund; Difco社)200μLとを混合した後に、BALB/cマウス(8週齢,雌)に腹腔内接種した。腹腔内接種から2週間及び4週間経過後に、それぞれ、組換えHlcyst融合タンパク質100μgをフロイント不完全アジュバント(Difco社)と混合し、追加接種を行なった。最終接種後から2週目に採血し、得られた血清を−20℃に保存した。得られた抗組換えHlcyst融合タンパク質マウス血清を用い、イムノブロット法[Towbin et al., Proc Natl Acad Sci USA 76: 4350-4354 (1979)]にて天然型シスタチンタンパク質の同定を行なった。なお、試料として、4日間家兎を吸血した雌成ダニの中腸と唾液腺ライセートを使用した。
【0075】
結果を図4に示す。図4において、レーン1は、分子量マーカーの泳動結果であり、レーン2、3は、それぞれ中腸ライセート、唾液腺ライセートの泳動結果であり、レーン4は、組換えHlcyst融合タンパク質の泳動結果である。図4に示すように、中腸ライセートにおいて約15kDaの特異的バンドが検出された。天然型シスタチンタンパク質の分子量が推定理論値と一致すると考えられた。なお、免疫前の血清と組換えHlcyst融合タンパク質やダニのライセートとの反応は認められなかった。
【0076】
《実施例7:天然型シスタチンのフタトゲチマダニの各発育期と主要内部器官における発現分布》
フタトゲチマダニの卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの全発育期と、家兎を4日間吸血して半飽血状態の雌ダニの主要内部器官における天然型シスタチンの発現分布について、常法に従って、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法によりmRNA発現の分析を実施した。RT−PCR法によるmRNA発現分析の発育期別の結果を図5に、臓器別の結果を図6に示す。
【0077】
図5において、記号EG、LA、NY、ADは、それぞれ、卵(egg)、未吸血幼ダニ(larvae)、未吸血若ダニ(nympha)、未吸血雌成ダニ(adult)のフタトゲチマダニの個体(whole tick)由来のRNAの結果であることを意味する。また、図6において、記号SG、MD、OV、HC、FBは、それぞれ、前記フタトゲチマダニの唾液腺(salivary glands)、中腸組織(midguts)、卵巣(ovaries)、ヘモサイト(hemocytes)、及び脂肪体(fat body)由来のRNAの結果であることを意味する。図5及び図6の結果が示すとおり、天然型シスタチンは、全発育期において発現し、雌成ダニの体内臓器別では、主に中腸組織、微量がヘモサイトにおいて発現することが確認された。
【0078】
《実施例7:天然型シスタチンのフタトゲチマダニの吸血にともなう発現の増加》
フタトゲチマダニの雌成ダニを家兎に吸血させ、吸血後1日目、4日目、7日目(飽血)の雌ダニ体内における天然型シスタチンの発現の推移について、常法に従って、RT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。RT−PCR法によるmRNA発現分析の結果を図7に示す。
【0079】
図7において、天然型シスタチンは、マダニの吸血にともなって発現が増大し、飽血時(4〜7日目)において発現は最大になることが確認された。
【0080】
《実施例8:天然型シスタチンの細菌リポタンパク質(LPS)の接種にともなうフタトゲチマダニ体内における発現動態》
10μLのガラス毛細管(Microcap;Drummond Scientific社)の一端を加熱によって注射針状にしたものを用いて、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に0.1μg/mLに溶解したLPS(Sigma社)を、1個体当たり1μL、フタトゲチマダニの未吸血雌成ダニ30個体の第4基節付近から血体腔内に接種した。マダニは接種後6時間、25℃に静置し、体内における天然型シスタチンの発現の推移を、常法に従ってRT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。LPS接種の対照としては、PBSを1個体当たり1μL、合計30個体に接種した。
【0081】
結果を図8に示す。図8において、天然型シスタチンは、LPSの血体腔接種によって発現が対照の1.6倍に増大することが確認された。
【0082】
《実施例9:天然型シスタチンのフタトゲチマダニのイヌバベシア感染にともなう発現動態》
1歳の摘脾ビーグル犬にイヌバベシア(Babesia gibsoni)のNRCPD株を実験感染させた [Fukumoto S.ら, J. Vet. Med. Sci., 63, 977-981 (2001)]。原虫寄生率(パラシテミア)が5%以上になったときに、雌成ダニを耳袋法で寄生させ、飽血個体を回収し、25℃及び90%相対湿度で産卵させた。1匹の雌ダニの産卵塊からふ化し2ヶ月後の幼ダニにおける天然型シスタチンの発現の推移を、常法に従ってRT−PCR法によりmRNA発現の分析を実施した。あわせて、PCR法によりダニ体内のイヌバベシアのmRNAの発現を調べ、幼ダニにおけるバベシア感染を確認した。
【0083】
天然型シスタチンの発現に関する結果を、図9に示す。図9において、天然型シスタチンは、イヌバベシア感染幼ダニにおいて、発現が非感染幼ダニの1.8倍に増大することが確認された。
【0084】
《実施例10:組換えHlcyst融合タンパク質のインビトロ培養バベシア原虫に対する増殖抑制効果》
ウシバベシア原虫(Babesia bovis)のインビトロ培養方法[Bork S.ら, Am. J. Trop. Med. Hyg., 68, 334-340 (2003)]に従って、ウシバベシア原虫感染血液100μLを非感染ウシ赤血球で希釈してパラシテミアを1%に調整後、この0.1μLに、1、2、又は3μmol/Lの濃度で組換えHlcyst融合タンパク質を加えた0.9μLの培養液(Growth medium)を加え、24穴の培養プレートにて、37℃で4日間培養した。組換えHlcyst融合タンパク質を加えた培養液は、0.9μLを毎日更新し、更新直前に培養液のギムザ染色塗抹を作製して、原虫寄生赤血球数を鏡検し、寄生原虫の形態とパラシテミアの推移を検討することによって、ウシバベシア原虫の増殖に対する組換えHlcyst融合タンパク質の影響を確認した。なお対照として、組換えHlcyst融合タンパク質の代わりにGST3μLを加えた培養液で培養した系を用意した。
【0085】
結果を図10及び図11に示す。図10において、組換えHlcyst融合タンパク質は、インビトロで培養したウシバベシア原虫の発育を、用量依存的に阻止することが確認された。また、図11において、組換えHlcyst融合タンパク質暴露下でインビトロ培養されたウシバベシア原虫は、寄生赤血球内において細胞変性と核濃縮などの形態変化を示し、発育と増殖に異常のあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はベクターは、例えば、マダニ(特にはフタトゲチマダニ)媒介性感染症の治療又は予防、特にマダニワクチンの用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】組換えフタトゲチマダニ(Hl)シスタチン(cyst)融合タンパク質の電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図2】組換えHlcyst融合タンパク質のシステイン・プロテアーゼ活性阻害の測定の結果を示すグラフである。
【図3】組換えHlcyst融合タンパク質の活性の熱安定性測定の結果を示すグラフである。
【図4】組換えフタトゲチマダニ(Hl)シスタチン(cyst)融合タンパク質の電気泳動(イムノブロット)の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図5】天然型シスタチンタンパク質のマダニの各発育期における発現を示すグラフである。
【図6】天然型シスタチンタンパク質のマダニの主要臓器における発現を示すグラフである。
【図7】天然型シスタチンタンパク質のマダニの吸血にともなう発現の変化を示すグラフである。
【図8】天然型シスタチンタンパク質の、LPSのマダニ血体腔への接種にともなう発現の増大を示すグラフである。
【図9】天然型シスタチンタンパク質の、マダニのバベシア感染にともなう発現の増大を示すグラフである。
【図10】組換えHlcyst融合タンパク質のインビトロ培養ウシバベシア原虫(Babesia bovis)に対する増殖抑制効果を示すグラフである。
【図11】組換えHlcyst融合タンパク質が、インビトロ培養されたウシバベシア原虫の発育と増殖に異常をもたらす結果を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を示すポリペプチド;又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを有効成分として含む、医薬。
【請求項7】
マダニに対するワクチンである、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
抗原虫剤である、請求項6に記載の医薬。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法。
【請求項12】
請求項1に記載のポリペプチドに対する抗体又はその断片。
【請求項13】
請求項1に記載のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのシスタチン活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのシスタチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
シスタチン阻害剤、又は請求項12に記載の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ駆除剤。
【請求項15】
シスタチン阻害剤、又は請求項12に記載の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防剤。
【請求項16】
シスタチンを有効成分として含む、抗原虫剤。
【請求項1】
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を示すポリペプチド;又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列における19番〜131番のアミノ酸からなる配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が50%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、シスタチン活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを有効成分として含む、医薬。
【請求項7】
マダニに対するワクチンである、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
抗原虫剤である、請求項6に記載の医薬。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリペプチド若しくはその断片、請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は請求項3に記載のベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法。
【請求項12】
請求項1に記載のポリペプチドに対する抗体又はその断片。
【請求項13】
請求項1に記載のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのシスタチン活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのシスタチン活性を修飾する物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
シスタチン阻害剤、又は請求項12に記載の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ駆除剤。
【請求項15】
シスタチン阻害剤、又は請求項12に記載の抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防剤。
【請求項16】
シスタチンを有効成分として含む、抗原虫剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−259804(P2007−259804A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91517(P2006−91517)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構、「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構、「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】
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