説明

マトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤、並びにその産生抑制剤を配合した炎症後色素沈着の予防・改善剤、化粧料

【課題】炎症後色素沈着の優れた予防・改善作用を有する炎症後色素沈着の予防・改善剤、及びそのような予防・改善剤を配合した化粧料、医薬部外品、医薬品を提供することを課題とする。
【解決手段】アルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物、又はアファニゾメノン属微生物抽出物の少なくともいずれかを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤、並びにその産生抑制剤を配合した炎症後色素沈着の予防・改善剤、及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎、傷、ニキビ等の炎症後において、患部及びその周囲に色素沈着を生ずることがあり、一般に、炎症後色素沈着と称されている。これらの色素沈着は、通常2〜3ヶ月で消退することが多いが、半年以上経過しても消失しないこともあり、特に女性にとっては美容上の悩みとなっている。従って、炎症後色素沈着を起こした皮膚を正常皮膚色に回復させることが要望されている。
【0003】
炎症後色素沈着の発生機構は未だ明確にされていないが、病理学的研究から、表皮中のメラニン量が増加していること、時にはメラニンが真皮へ滴落していることが確認されている。一方、炎症が起こっている皮膚では様々なサイトカイン、ケミカルメディエーター等の炎症性の生理活性因子が発生しており、それらが色素沈着発生の原因となっていると推察されている。
【0004】
たとえば、炎症が起きるとヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン等の炎症性メディエーターが各種の細胞から放出され、またIL−1α(Interleukin−1α)、IL−6(Interleukin−6)、TNF−α(Tumor Necrosis Factor−α)などの炎症性サイトカインが各種の細胞から放出されていることが知られている。表皮中のメラニン量の増加はメラノサイトの増殖あるいはメラニン合成能の亢進が原因であると考えられ、そのメカニズムとしては、次の二つが考えられる。
【0005】
一つは、炎症性因子がメラノサイトに直接的に作用し、メラノサイトを活性化させる機構であり、他の一つは、炎症性因子がまずケラチノサイトに作用し、そのケラチノサイトが産生するメラノサイト活性化因子がメラノサイトを活性化させる機構である。メラニンの真皮への滴落にはマトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMPともいう)が関与していると思われる。MMP−2やMMP−9等のMMPがケラチノサイトやメラノサイトでも産生されていることが知られており、炎症性因子によってそれらの産生が亢進されることが、メラニンの真皮への滴落の原因となっていることが考えられる。
【0006】
このような観点から、MMPの活性を阻害する阻害剤に関する下記特許文献1乃至4のような特許出願もなされている。特許文献1は、カテキン類、プロシアニジン類、マンゴスチン類等からなるMMP阻害剤を対象とするものであり、特許文献2は、マツ科マツ属植物の樹皮抽出物を有効成分とするMMP阻害剤を対象とするものである。しかし特許文献1は皮膚の老化の予防や改善を意図したものであり、また特許文献2は皮膚弾力性を維持する化粧料への適用を意図したものであり、いずれも炎症後色素沈着を予防・改善することまで意図したものではない。
【0007】
また特許文献3は、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸を含有したMMP阻害剤を対象とするものであり、特許文献4は、クロレラの細胞壁破砕物を含有したMMP阻害剤を対象とするものである。しかし特許文献3や特許文献4は、ガンその他の疾患の適用について開示するものの、その効果は必ずしも試験によって裏付けられたものではなく、特に皮膚科領域の疾患については言及されておらず、炎症後色素沈着についてももちろん開示、示唆されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−252745号公報
【特許文献2】特開2003−277223号公報
【特許文献3】特開2003−277259号公報
【特許文献4】特開2005−89304号公報
【0009】
このように、従来ではMMP阻害剤についての出願はなされているものの、炎症後色素沈着を十分に予防・改善できる製品は未だに開発されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、炎症後色素沈着の優れた予防・改善作用を有する炎症後色素沈着の予防・改善剤、及びそのような予防・改善剤を配合した化粧料、医薬部外品、医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、炎症後色素沈着の発生には種々の炎症性因子の中でヒスタミンとTNF−αが重要な役割を担っていること、また、それらは、メラノサイトへ直接作用するのではなく、ケラチノサイトを介してメラノサイトの活性化因子であるエンドセリン−1(以下、ET−1ともいう)と基底膜分解酵素であるMMP−9を多量に分泌させてメラニン量を増加させ、或いはメラニンを真皮へ滴落させることを見出した。
【0012】
そして、アルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物と、藍藻類ネンジュモ目のアファニゾメノン属微生物の抽出物が、ケラチノサイトからのET−1及びMMP−9の産生を抑制することにより、炎症後色素沈着の予防・改善効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、マトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤に係る請求項1記載の発明は、アルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物、又はアファニゾメノン属微生物抽出物の少なくともいずれかを含有することを特徴とする。
【0013】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤において、アルテロモナス属微生物が、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)であることを特徴とする。さらに請求項3記載の発明は、請求項1記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤において、アファニゾメノン属微生物が、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)であることを特徴とする。
【0014】
また炎症後色素沈着の予防・改善剤に係る請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤を配合したことを特徴とする。さらに化粧料に係る請求項5記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、優れた炎症後色素沈着の予防・改善効果を有する予防・改善剤や、そのような予防・改善剤を配合した化粧料、医薬部外品、医薬品を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のMMP−9及びET−1の産生抑制剤は、上述のようにアルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物、又はアファニゾメノン属微生物の抽出物の少なくともいずれかを含有するものである。ここで「含有する」とは、本発明のMMP−9及びET−1の産生抑制剤が、アルテロモナス属微生物の抽出物、又はアファニゾメノン属微生物の抽出物の少なくともいずれかのみからなる場合の他、これら以外の成分が本発明のMMP−9及びET−1の産生抑制剤に含有されていてもよいことを意味する。
【0017】
アルテロモナス属微生物としては、たとえばアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)が用いられ、アファニゾメノン属微生物としては、たとえば、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)が用いられる。
【0018】
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)は、暗黒、寒冷、超高圧条件下の深海に生息する適応力を持つ非病原性の菌である。またアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)は、可動性で色素を含まないグラム陰性菌で、大きさは約1μmである。
【0019】
アファニゾメノン属微生物は、藍藻類ネンジュモ目の微生物である。藍藻類は、シアノバクテリア(藍色細菌)とも呼ばれる細菌の一種であり、光合成によって酸素を産生するという特徴を持つ。藍藻類のうちでも、糸状藍藻類であるアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)は、クラマス(Klamath)湖にのみに生息する藍藻類であり、海水中の栄養塩類が少ない場合には、大気中の窒素を栄養源として光合成を行う特異な生態を持つことが知られている。
【0020】
本発明で用いられる抽出物(以下、各抽出物ということがある)は、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)等のアルテロモナス属微生物又はアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)等のアファニゾメノン属微生物の粉砕物を、常温または加温下に溶剤により抽出するか、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その濃縮液、あるいはその乾燥末等のものである。抽出に用いる溶媒としては、通常の植物の抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。
【0021】
たとえば水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、エチルエーテル、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒類等であり、それらは単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0022】
また本発明で用いられる発酵生成物は、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)等のアルテロモナス属微生物を培養して分泌させ、沈殿、精製、乾燥して得られる。
本発明のアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物として、ABYSSINE(商品名:アトリウム・バイオテクノロジー社製)を用いてもよく、またアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var.flos-aquae)の抽出物として、LANABLUE(商品名:アトリウム・バイオテクノロジー社製)を用いてもよい。
【0023】
本発明の色素沈着予防・改善剤中のアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)等のアルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物、又はアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)等のアファニゾメノン属微生物の抽出物の配合量は、通常乾燥固形分として、0.00001〜50重量%とすることが好ましい。0.00001重量%未満では本発明の効果が充分に得られない可能性があり、一方、50重量%を越えても、その増量に見合った効果の向上は認められないからである。この観点から、0.0001〜10重量%が特に好ましい。
【0024】
炎症後色素沈着予防・改善剤の形態の例としては、特に限定されず、たとえば乳液、クリーム、ゲル、化粧水、分散剤、パック、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品等の化粧品及び医薬部外品や、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品などとすることができ、外用組成物の基剤としては、これら外用剤の形態に応じた基剤、例えば、精製水、低級アルコール、多価アルコール、油脂、界面活性剤、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、防腐剤、香料、薬効成分等を用いることができる。
【0025】
本発明の色素沈着予防・改善剤には、上記各成分に加えて本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の医薬品等の皮膚外用剤、医薬部外品や化粧品に用いられる他の成分、たとえば陰イオン界面活性剤(高級脂肪酸アルカリ金属塩、高級脂肪酸アミン塩、アミノ酸系界面活性剤)や非イオン界面活性剤、リン脂質ステロールエステル等の界面活性剤、炭化水素(流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等)、油脂(動植物油、トリグリセリド、ワックスエステル、高級アルコール、高級脂肪酸、シリコーン、エステル油、ロウ類等)、潤滑剤(多価アルコール、糖類、アミノ酸、ペプチド類等)、アルコール(エチルアルコール)、皮膜形成剤(ポリビニルアルコール、ペクチン)や水溶性若しくは油溶性高分子、樹脂、紫外線吸収剤、殺菌防腐剤、抗酸化剤、金属封鎖剤、着色剤(天然色素、合成色素)、各種香料の他、各種の植物及び動物抽出物、油溶性若しくは水溶性ビタミン、美白剤としてアスコルビン酸誘導体、アルブチン、エラグ酸、胎盤抽出液、肌荒れ防止剤としてアラントイン、抗炎症剤としてグルチルレチン酸、グリチルリチン酸、アズレン、抗ヒスタミン剤等、抗老化剤としてビタミンAパルミテート等、収歛剤としてパラフェノールスルフォン酸亜鉛や、クエン酸及びその塩等を含めた有機酸類とその塩等、そして紫外線散乱剤として有機或いは無機系粉体等を、必要に応じて適宜配合若しくは併用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0027】
本実施例のMMP−9及びET−1の産生抑制剤として、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、及びアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物を用い、これらのMMP−9及びET−1の産生抑制剤について、後述のようにET−1量を測定する試験を行い(試験例1)、さらにMMP−9量を測定する試験を行った(試験例2)。
【0028】
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物としては、
ABYSSINE(アトリウム・バイオテクノロジー社製)を用い、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物としては、LANABLUE(アトリウム・バイオテクノロジー社製)を用いた。
【0029】
(試験例1)
正常ヒト表皮角化細胞 (Cryo NHEK-Neo、クラボウ製)を5.0×104cell/wellになるように、24wellマイクロプレートに移し、HuMedia−KG2培地(クラボウ製)で48時間培養した。さらに培養した細胞を1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混液、5μMヒスタミン、10ng/mlのTNF−αを含むDMEM培地(以下、刺激培地とする)に適量のアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物を加えて24時間培養した。培養終了後、培養上清を回収した。
【0030】
上記で得られた培養上清中のET−1を、酵素免疫測定法を用いたサンドイッチ法(Human Endothelin-1 Parameter ELISA Kit、R&D社製)により定量した。マイクロプレート、抗体、試薬等は全てキット付属のものを用いた。すなわち、まずヒトET−1に対するラットET−1抗体を固着した96wellマイクロプレートに、抗ET−1ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗体液を添加し、さらに試料(上記培養上清)又はヒトET−1標準液を添加した後、室温で1時間反応させた。リン酸緩衝溶液でプレートを洗浄後、基質(テトラメチルベンチジン溶液)を添加した。室温で30分間反応させた後、反応停止液(塩酸水溶液)を添加して反応を停止させた。次いでプレートリーダー(POWERSCAN HT、大日本製薬製)を用いて、450及び620nmにおける吸光度を測定した。450nmにおける吸光度から620nmにおける吸光度を差し引いたものを測定値とした。
【0031】
アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物についても、同様に上記刺激培地に加えて24時間培養した後、培養上清を回収し、Human Endothelin-1 Parameter ELISA Kit (R&D社製)を用いてET−1量を測定した。また、これらのMMP−9及びET−1の産生抑制剤(上記アルテロモナス発酵生成物及びアファニゾメノン抽出物)を含まない刺激培地で培養したケラチノサイト(ヒト表皮角化細胞)から産生されたET−1量も同様に測定した。さらに5μMヒスタミン、10ng/mlのTNF−αを含まない無刺激の培地で培養したケラチノサイトから産生されたET−1量も同様に測定した。
【0032】
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、及びアファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物のET−1産生抑制効果は、これらの発酵生成物や抽出物を含まない刺激培地で培養した場合のET−1量を100とした場合の値(比率)で示した。その結果を表1、2に示す。表1、2においてET−1量/cell(重量%)とは、単位細胞数当たりのET−1量を意味する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1、2からも明らかなように、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物を含む刺激培地で培養したケラチノサイトから産生されたET−1量は、これらを含まない刺激培地で培養したケラチノサイトから産生されたET−1量よりも減少していた。このことからアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物はケラチノサイトによるET−1産生を抑制するものと認められた。
【0036】
また、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物の濃度が高くなる程、産生されるET−1量が減少し、これらの抽出物の濃度を高くすることで、ET−1の産生抑制効果が高まることが分かった。特に、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物の場合には0.50容量%、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物の場合には0.25容量%以上とすることで、無刺激の場合と同等若しくはそれ以上にET−1量を減少させることができた。
【0037】
(試験例2)
正常ヒト表皮角化細胞 (Cryo NHEK-Neo、クラボウ製)を5.0×104cell/wellになるように、24wellマイクロプレートに移し、HuMedia−KG2培地(クラボウ製)で48時間培養した。さらに培養した細胞を上記刺激培地に適量のアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物を加えて24時間培養した。培養終了後、培養上清を回収した。
【0038】
上記で得られた培養上清中のMMP−9量をゼラチンザイモグラフィー法により測定した。すなわち、0.1重量%ゼラチンを含むSDS−ポリアクリルアミドゲル(7.5%T)を作製し、全レーンにヒト細胞由来のMMP−9標準溶液又は試料(上記培養上清を、Laemmli Sample Buffer(バイオ・ラッド社製)で2倍希釈したもの)を一定量アプライし、電気泳動を行った。泳動後のゲルを2.5重量%「TritonX−100」で洗浄し、十分にSDSを除いた。そのゲルを、インキュベーション用緩衝液(0.01mMCaCl2を含むpH7.6の50mMトリス)に浸して、37℃で一晩インキュベートした。
【0039】
インキュベーション後のゲルを、前固定液(20%メタノール、7.5%酢酸の水溶液)で処理した後、クーマシー・ブリリアント・ブルー染色し、脱色後に現れるバンドの太さをレーン・スポットアナライザー(アトー社製)で定量化した。
【0040】
アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物についても、同様に上記刺激培地に加えて24時間培養した後、培養上清を回収し、ゼラチンザイモグラフィー法を用いてMMP−9量を測定した。また、これらの抽出物を含まない刺激培地で培養したケラチノサイトから産生されたMMP−9量も同様に測定した。さらに5μMヒスタミン、10ng/mlのTNF−αを含まない無刺激の培地で培養したケラチノサイトから産生されたMMP−9量も同様に測定した。
【0041】
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物のMMP−9産生抑制効果は、これらの抽出物を含まない刺激培地で培養した場合のMMP−9量を100とした場合の値(比率)で示した。
【0042】
この結果を表3、4に示す。表3、4においてMMP−9量/cell(重量%)とは、単位細胞数当たりのMMP−9量を意味する。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表3、4からも明らかなように、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物を含む刺激培地で培養したケラチノサイトから産生されたMMP−9量は、これらを含まない刺激培地で培養したケラチノサイトから産生されたMMP−9量よりも減少していた。このことからアルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物は、ケラチノサイトによるMMP−9産生をも抑制するものと認められた。
【0046】
また、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物の濃度が高くなる程、産生されるMMP−9量が減少し、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)の発酵生成物、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)の抽出物の濃度を高くすることで、MMP−9の産生抑制効果が高まることが分かった。
【0047】
(処方例1)
本処方例は、クリームの処方例であり、その組成は次のとおりである。
配合成分 配合量(重量%)
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas
macleodii)の発酵生成物 0.009
マイクロクリスタリンワックス 0.5
流動パラフィン 2.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 2.0
オリーブ油 5.0
親油型モノステアリン酸グリセリン 3.5
モノステアリン酸ポリオキシエチレン 0.5
モノステアリン酸ソルビタン 1.5
メチルポリシロキサン 0.4
セタノール 2.5
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 8.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残量
【0048】
(処方例2)
本処方例は、エッセンスの処方例であり、その組成は次のとおりである。
【0049】
配合成分 配合量(重量%)
アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス
−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)
の抽出物 0.009
酢酸トコフェロール 0.1
1,3−ブチレングリコール 6.0
グリセリン 2.0
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.03
水酸化ナトリウム 0.08
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残量
【0050】
(処方例3)
本処方例は、乳液の処方例であり、その組成は次のとおりである。
【0051】
配合成分 配合量(重量%)
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas
macleodii)の発酵生成物 0.009
アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス
−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)
の抽出物 0.009
サフラワー油 3.0
オリーブ油 3.0
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 1.0
モノステアリン酸ソルビタン 0.5
ステアリルアルコール 0.4
セタノール 0.6
1,3−ブチレングリコール 3.0
グリセリン 5.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.5
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.5
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残量
【0052】
(処方例4)
本処方例は、乳液の処方例であり、その組成は次のとおりである。
【0053】
配合成分 配合量(重量%)
アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas
macleodii)の発酵生成物 0.009
アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス
−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)
の抽出物 0.009
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 4.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
エタノール 3.0
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.1
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルテロモナス属微生物の抽出物若しくは発酵生成物、又はアファニゾメノン属微生物の抽出物の少なくともいずれかを含有することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤。
【請求項2】
アルテロモナス属微生物が、アルテロモナス・マクレオディー(Alteromonas macleodii)である請求項1記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤。
【請求項3】
アファニゾメノン属微生物が、アファニゾメノン・フロス−アクエ・バル・フロス−アクエ(Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae)である請求項1記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤を配合したことを特徴とする炎症後色素沈着の予防・改善剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−9及びエンドセリン−1の産生抑制剤を配合したことを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2007−204396(P2007−204396A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22779(P2006−22779)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000112266)ピアス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】