説明

マトリックスメタロプロテイナーゼの非ペプチドインヒビター

【課題】マトリックスメタロプロテイナーゼの非ペプチドインヒビターを提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表されるマトリックスメタロプロテイナーゼの選択的インヒビターまたはこれらの薬学的に受容可能な塩が開示される。ここで、Xは、(CHO、(CHS、(CHNR、(CH(CH)、またはCH=CHであり、ここで、n=0、1、または2であり;RおよびRは、独立して、置換または非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール基、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロシクロアルケニルであり;そしてZは、NHまたはCHである。また、このような化合物を作製する方法、および、このような化合物を使用して腫瘍進行を阻害し、かつ関節炎のような疾患を処置する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の詳細な説明)
(関連技術に対する相互参照)
本出願は、2004年3月22日に出願された米国仮特許出願60,555,380号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願60/555,380号は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
マトリックスメタロプロテイナーゼ(「MMP」)は、細胞外マトリックスおよび結合組織の主成分の分解および修復に関与する、一種の亜鉛依存性エンドペプチダーゼ酵素である。MMPは、線維芽細胞、単球、マクロファージ、内皮細胞、およびまた浸潤癌細胞または転移性腫瘍細胞のような、結合組織中に存在するかまたは結合組織に関連する種々の細胞型において見出され得る。MMPは、潜在型プロ酵素として細胞から分泌され、タンパク質のN末端部のZn依存性の切断によって活性化される。活性MMPが局所組織環境において成長因子およびサイトカインによって刺激されると、これらの活性MMPは、細胞外マトリックスおよび結合組織のタンパク質成分(例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、およびラミニン)を分解し得る。例えば、非特許文献1を参照のこと。
【0003】
現在、14種類の異なるMMPが存在することが知られている。これらの酵素は、その基質特異性によっていくつかの主要な種類に分類され得る。例えば、MMP−1、MMP−8、およびMMP−13は、コラゲナーゼとして分類される。MMP−3およびMMP−11は、ストロメライシンとして分類される。MMP−2およびMMP−9は、IV型コラゲナーゼ/ゼラチナーゼとして分類される。
【0004】
MMPは、多種多様な生理学的状態および病理学的状態に関与しているので、非常に興味深い。MMPによって媒介されることが知られている状態のいくつかの例は、腫瘍増殖、変形性関節症、関節リウマチ、化膿性関節炎、再狭窄、線維症、MMP−媒介性骨減少症、中枢神経系の炎症性疾患、生殖、組織形態形成、新脈管形成、皮膚の老化、角膜潰瘍形成、異常な創傷治癒、骨疾患、タンパク尿、動脈瘤性大動脈疾患、外傷性関節損傷後の変性軟骨減少、神経系の脱髄疾患、肝硬変、腎臓の糸球体疾患、胚膜の早期破裂、炎症性腸疾患、歯周病、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、眼の炎症、円錐角膜、シェーグレン症候群、近視、眼腫瘍、眼の新脈管形成/新生血管形成および角膜移植片の拒絶である。非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;比特許文献7を参照のこと。
【0005】
大きな注目を集めた研究の1つの特定分野は、MMPの癌ならびに腫瘍の成長および拡散との関与である。実際に、宿主バイオマトリックスのタンパク質分解による癌の転移拡散は、癌の処置における最大の課題の1つを提起する。局所的な腫瘍の成長、浸潤、および播種性の部位への癌の転移拡散において、一般にMMPの関与、特にゼラチナーゼの関与を示すかなりの証拠が蓄積されている。例えば、MMP−2およびMMP−9の発現のレベルは、特定の腫瘍進行事象において増加することが知られている。これらの酵素は、基底膜の主成分であるIV型コラーゲンおよび変性コラーゲン(ゼラチン)を分解して、腫瘍転移を引き起こす。また、MMP−2およびMMP−9による、主にIV型コラーゲンからなる血管膜の破壊は、腫瘍転移に重要な役割を果たすことが知られている。
このような多種多様の生理学的状態および病理学的状態(特に、癌および関節炎)にMMPが関与しているので、これらの酵素の合成インヒビターは、創薬研究における魅力的な標的と考えられる。非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11を参照のこと。このような研究は、強力な抗癌剤および抗関節炎剤として、いくつかの広域スペクトルのペプチジルMMPインヒビターおよび部分選択的な非ペプチジルMMPインヒビターの開発をもたらした。非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17を参照のこと。しかし、MMPインヒビターの前臨床試験および臨床試験のいずれによる最近の結果も、バイオアベイラビリティの不足、選択性の不足、および望ましくない副作用(例えば、組織毒性および肝転移の促進)に主に起因して、期待に反してきた。非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28を参照のこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Birkedal−Hansen、「Crit.Rev.Oral.Biol.Med.」、1993年、第4巻、p.197〜250
【非特許文献2】M.Cockettら、「Biochem.Soc.Symp.」、1998年、第63巻、p.295〜313
【非特許文献3】D.Keinerら、「Can.Chemo.Pharm.」、1999年、第43巻、p.42〜51
【非特許文献4】D.Keiner、「Cancer Metastasis Rev.」、1990年、第9巻、p.289〜303
【非特許文献5】J.MacDougallら、「Mol.Med.Today」、2000年、第64巻、p.149〜156
【非特許文献6】J.MacDougallら、「Cancer Metastasis Rev.」、1995年、第14巻、p.351〜362
【非特許文献7】S.Currenら、「Eur.J.Cancer」、2000年、第36巻、p.1621〜1630
【非特許文献8】J.B.Summersら、「Ann.Rep.Med.Chem.」、1998年、第33巻、p.131〜140
【非特許文献9】A.H.Davidsonら、「Chem.Ind.」、1997年、p.258〜261
【非特許文献10】J.C.Spurlino、「Structure−Based Drug Design」、Veerapandian編、Marcel Dekker,Inc.,N.Y.、1997年、p.171〜189
【非特許文献11】R.P.Beckettら、「Drug Disc.Today」、1996年、第1巻、p.16〜26
【非特許文献12】P.D.Brown、「Med.Oncology」、1997年、第14巻、p.1〜10
【非特許文献13】P.D.Brown、「APMIS」、1999年、第107巻、p.174〜180
【非特許文献14】P.D.Brown、「Expert Opin.Invest.Drugs」、2000年、第9巻、p.2167〜2177
【非特許文献15】J.Freskosら、「Biorg.Med.Chem.Lett」、1999年、第9巻、p.943〜948
【非特許文献16】L.J.MacPhersonら、「J.Med.Chem.」、1997年、第40巻、p.2525〜2532
【非特許文献17】M.Chengら、「J.Med.Chem.」、2000年、第43巻、p.369〜380
【非特許文献18】「MMPs」、Park W & Mecham R.,AP,NY、1998年、pp.1〜14,85〜113,115〜149
【非特許文献19】M.Michaelidesら、「Curr.Pharma.Design」、1999年、第5巻、p.787〜819
【非特許文献20】E.Heathら、「Drugs」、2000年、第59巻、p.1043〜1055
【非特許文献21】;L.Seymour、「Cancer Treat.Rev.」、1999年、第25巻、p.301〜312
【非特許文献22】K.Woessner、「Ann.NY Aca.Sci.」、1999年、第878巻、p.388〜403
【非特許文献23】J.Skilesら、「Ann.Rep.Med.Chem.」、2000年、第35巻、p.167〜176
【非特許文献24】M.Gowravaramら、「J.Med.Chem.」、1995年、第38巻、p.2570〜2581
【非特許文献25】M.Gowravaramら、「Biorg.Med.Chem.Lett.」、1995年、第5巻、p.337〜342
【非特許文献26】R.Greenwaldら、「Curr.Opin.Ther.Patents」、1995年、第4巻、p.7〜16
【非特許文献27】D.Levyら、「J.Med.Chem.」、1998年、第41巻、p.199〜223
【非特許文献28】A.Krugerら、「Cancer Res.」、2001年、第61巻、p.1272〜1275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、現在のMMPインヒビターに関連する臨床的複雑性を考慮すると、現在、MMPをより選択的に標的化する新しい強力なインヒビターが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(要旨)
開示される材料、組成物、および方法の目的に従って、本明細書において具体化されかつ広範に記載されるように、1つの局面において、開示される主題は、以下の式:
【0009】
【化10】

を有する化合物、またはその薬学的に受容可能な塩に関し、
ここで、Xは、(CHO、(CHS、(CHNR、(CH(CH)、またはCH=CHであって、ここで、n=0、1、または2であり;RおよびRは、独立して、置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロシクロアルケニルであり;そしてZは、NHまたはCHである。
【0010】
別の局面において、開示された主題は、マトリックスメタロプロテイナーゼの調節に有効な量の本明細書中に記載される少なくとも1つの化合物を、マトリックスメタロプロテイナーゼを含む環境に投与することにより、本明細書中に記載される化合物を使用するための方法に関する。
【0011】
なお別の局面において、開示された主題は、腫瘍転移の調節に有効な量の本明細書中に記載される少なくとも1つの化合物を細胞に投与することによって、本明細書中に記載される化合物を使用するための方法に関する。
【0012】
さらなる局面において、開示された主題は、本明細書中に記載される化合物の有効量を、処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、癌を有する被験体を処置するための方法に関する。
【0013】
なおさらなる局面において、開示された主題は、本明細書中に記載の化合物の有効量を被験体に投与する工程を包含する、被験体における癌を予防するための方法に関する。
【0014】
別の局面において、開示された主題は、本明細書中に記載される化合物の有効量を、処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、関節炎を有する被験体を処置するための方法に関する。
【0015】
さらに別の局面において、開示された主題は、マトリックスメタロプロテイナーゼの選択的調節因子およびメタロプロテイナーゼの選択的インヒビターに関する。また、癌転移および関節炎などの疾患の調節因子も本明細書中に記載される。さらに、このような化合物を作製および使用する方法が開示される。
【0016】
さらなる利点は、一部が以下の記載において示され、そして一部はこの記載から明らかであるか、または以下に記載される局面を実施することによって分かり得る。下記の利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素および組み合わせを用いて実現され、かつ達成される。前述の概要および下記の詳細な説明のいずれも、単に例示的および説明的なものにすぎず、限定的ではないことが理解されるべきである。
添付の図面は、本明細書中に援用され、かつ本明細書の一部を構成しており、下記のいくつかの局面を図示している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは、Amgel腫瘍浸潤バイオアッセイにおける種々の濃度の化合物2cについての腫瘍浸潤の阻害(%)を示すグラフである。図1Bは、化合物2cによるMMP−2およびMMP−9活性の阻害を示すゼラチンザイモグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態の説明)
(詳細な説明)
開示される材料、化合物、組成物、および方法は、下記の材料および方法の特定の局面ならびにその中に含まれる実施例の詳細な説明、ならびに図および上記および下記の説明を参照することにより、より容易に理解され得る。
【0019】
本発明の材料、化合物、組成物、および/または方法が開示および記載される前に、以下に記載の局面が、特定の合成方法または特定の試薬に限定されるべきではなく、当然、変化し得るものとして理解されるべきである。本明細書中に用いられる専門用語は、単に特定の局面の説明を目的とするものであって、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0020】
開示される方法および組成物に用いられ得るか、これらと併用され得るか、これらの調製に用いられ得るか、またはこれらの生成物であり得る、材料、化合物、組成物、および成分が開示される。これらおよび他の材料は本明細書中に開示されており、そしてこれらの材料の組み合わせ、部分集合、相互作用、群などが開示される場合には、これらの化合物のそれぞれ異なる個々のおよび集合体の組み合わせおよび順列の特定の参照は、明確に開示されなくてもよいが、各々は、本明細書中に具体的に企図されかつ記載されることが理解される。例えば、所定の式を有する化合物が開示および議論され、かつ、式中の多数のR基になされ得る多数の改変が議論される場合、化合物の組み合わせおよび順列の各々、ならびに化合物の組み合わせおよび順列のすべて、ならびにR基に対する可能な改変は、逆に具体的に示されない限り、具体的に企図される。従って、置換基A、B、およびCのクラスが開示され、かつ、置換基D、E、およびFのクラスならびにA〜Dの組み合わせ分子の例が開示される場合、たとえ各々が個々に列挙されなくとも、各々が個々に企図され、かつ、集合的に企図される。従って、例えば、組み合わせA〜E、A〜F、B〜D、B〜E、B〜F、C〜D、C〜E、およびC〜Fの各々は、A、B、ならびにC;D、E、およびF;ならびに組み合わせ例A〜Dの開示により具体的に企図され、かつ、開示されているとみなされるべきである。同様に、これらの任意の部分集合または組み合わせも具体的に企図され、かつ、開示される。従って、例えば、A〜E、B〜F、およびC〜Eの下位群は、A、B、およびC;D、E、およびF;ならびに組み合わせ例A〜Dの開示により、具体的に企図され、かつ、開示されたとみなされるべきである。この概念は、開示された組成物を作製および使用する方法の工程を包含するがこれらに限定されない、本開示のすべての局面に適用する。従って、実施し得る種々のさらなる工程が存在する場合、これらのさらなる工程の各々は、開示された方法の任意の特定の実施形態または実施形態の組み合わせを用いて実施され得ること、および、このような組み合わせの各々が具体的に企図され、かつ、開示されたとみなされるべきであることが理解される。
【0021】
(定義)
本明細書中および添付の特許請求の範囲において、以下の意味を有すると規定される多数の用語について述べる。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別のものを指示しない限り、複数の対象を包含する。従って、例えば、「化合物(a compound)」への言及は、複数の化合物の混合物を包含し;「アリール置換基(an aryl substituent)」への言及は、このようなアリール置換基の2つ以上の混合物を包含する、などである。
【0023】
「任意の」または「必要に応じて」とは、引き続いて記載される事象または状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、かつ、この記載は、この事象または状況が生じる場合と生じない場合とを包含する。例えば、「必要に応じて置換されるアリール基」という句は、アリール基が置換されていてもされていなくてもよいことを意味し、かつ、この記載は、非置換アリール基と置換のあるアリール基との両方を包含する。
【0024】
範囲は、本明細書において、「約」ある特定の値から、および/または、「約」別の特定の値までとして表され得る。このような範囲が示される場合、別の局面は、ある特定の値から、および/または、他の特定の値までを含む。同様に、値が、先行詞「約」を用いて近似値として表される場合、特定の値は別の局面を形成することが理解される。各範囲の両端値は、他の両端値に関連して、かつ、他の両端値とは無関係に、重要であることがさらに理解される。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲における、組成物または製品中の特定の構成要素もしくは成分の重量部への言及は、重量部が示される組成物または製品中の構成要素もしくは成分と、任意の他の構成要素もしくは成分との間の重量の関係を示す。従って、2重量部の構成要素Xおよび5重量部の構成要素Yを含む化合物において、XおよびYは、2:5の重量比で存在し、かつ、さらなる成分が化合物中に含まれているか否かにかかわらず、このような比率で存在する。
【0026】
反対に具体的に記載されない限り、成分の重量パーセントは、成分が含まれている処方物または組成物の全重量に基づく。
【0027】
用語「活性」は、本明細書中で使用される場合、生物活性をいう。用語「薬理学的活性」は、本明細書中で使用される場合、化合物、分子、調節因子、またはインヒビターの固有の物理的特性および/または化学的特性をいう。これらの特性としては、効能、半減期、可溶性、安定性、親和性、および他の薬物動態学的特性および薬力学的特性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
用語「ペプチド」および「ペプチジル」は、本明細書中で使用される場合、それぞれ、化学的に結合されているアミノ酸で構成される化合物および化学的部分のクラスをいう。一般に、アミノ酸は、アミド結合(CONH)によって化学的に結合される。「ペプチド」および「ペプチジル」は、本明細書中で使用される場合、アミノ酸のオリゴマーおよび大小のペプチド(ポリペプチドおよびタンパク質を含む)を包含する。用語「非ペプチド」または「非ペプチジル」とは、アミド結合によって化学的に結合されたアミノ酸で構成されていない化合物のクラスをいう。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「置換された」は、有機化合物の許容可能な置換基のすべてを包含することを企図する。広範な局面において、許容可能な置換基としては、非環式および環式の、分岐のおよび非分岐の、炭素環式およびヘテロ環式、ならびに芳香族および非芳香族の、有機化合物の置換基が挙げられる。例示的な置換基としては、例えば、以下に記載される置換基が挙げられる。許容可能な置換基は、1つ以上の、同じかまたは異なる適切な有機化合物であり得る。この開示の目的のために、窒素のようなヘテロ原子は、水素置換基および/またはヘテロ原子の原子価を満たす、本明細書中に記載される有機化合物の任意の許容可能な置換基を有し得る。この開示は、有機化合物の許容可能な置換基によって、いかなる様式においても限定を意図するものではない。また、用語「置換」または「置換された」は、このような置換が、置換した原子および置換基の許容される原子価に従って、かつ、この置換によって安定な化合物(例えば、転位、環化、脱離などによって、自発的に変換を受けることのない化合物)を生じるという絶対的な条件を含む。
【0030】
用語「アルキル」は、本明細書中で使用される場合、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどのような、炭素数1〜24の分岐または非分岐の飽和炭化水素基である。アルキル基はまた、置換されていても置換されていなくてもよい。アルキル基は、以下に記載されるように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、ハロゲン化物、ヒドロキサマート、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールが挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の基で置換され得る。用語「ハロゲン化アルキル」は、具体的には、1つ以上のハロゲン化物(例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)で置換されるアルキル基をいう。
【0031】
用語「アルコキシ」は、本明細書中で使用される場合、単一の末端エーテル結合を介して結合されるアルキル基である;つまり、「アルコキシ」基は−OAと定義され得、ここで、Aは上記で定義されるようなアルキルである。
【0032】
用語「アルケニル」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む構造式を有する、炭素数2〜24の炭化水素基である。(AB)C=C(CD)のような非対称構造は、EおよびZの両方の異性体を含むことが意図される。これは、非対称アルケンが存在する本明細書中の構造式において仮定され得るか、または結合記号C=Cによって明示的に示され得る。
【0033】
用語「アルキニル」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも1つの炭素間三重結合を含む構造式を有する、炭素数2〜24の炭化水素基である。
【0034】
用語「アリール」は、本明細書中で使用される場合、ベンゼン、ナフタリン、フェニル、ビフェニル、フェノキシベンゼンなどを含むがこれらに限定されない、任意の炭素系の芳香族基である。用語「芳香族」は「ヘテロアリール」も包含し、この「ヘテロアリール」は、芳香族基の環中に組み込まれる少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基と定義される。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。アリール基は、本明細書中に記載されるように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、ハロゲン化物、ヒドロキサマート、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールが挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の基で置換され得る。用語「ビアリール」は、特定のタイプのアリール基であり、アリールの定義に包含される。ビアリールは、ナフタリンのように、縮合環構造を介して結合されるか、またはビフェニルのように、1つ以上の炭素間結合を介して結合される、2つのアリール基をいう。
【0035】
用語「シクロアルキル」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも3つの炭素原子で構成される非芳香族炭素環である。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。用語「ヘテロシクロアルキル」は、環の少なくとも1つの炭素原子が、ヘテロ原子(例えば、窒素、酸素、硫黄、またはリンが挙げられるが、これらに限定されない)で置換される、上記に定義されるようなシクロアルキル基である。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、本明細書中に記載されるように、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、ハロゲン化物、ヒドロキサマート、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールが挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の基で置換され得る。
【0036】
用語「シクロアルケニル」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも3つの炭素原子で構成される非芳香族炭素環であり、かつ、少なくとも1つの炭素間二重結合(C=C)を含む。シクロアルケニル基の例としては、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。用語「ヘテロシクロアルケニル」は、環の少なくとも1つの炭素原子が、ヘテロ原子(例えば、窒素、酸素、硫黄、またはリンが挙げられるが、これらに限定されない)で置換される、上記に定義されるようなシクロアルケニル基である。シクロアルケニル基およびヘテロシクロアルケニル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。シクロアルケニル基およびヘテロシクロアルケニル基は、本明細書中に記載されるように、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、ハロゲン化物、ヒドロキサマート、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホ−オキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールが挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の基で置換され得る。
【0037】
用語「アルデヒド」は、本明細書中で使用される場合、式−C(O)Hで表される。
【0038】
用語「アミン」または「アミノ」は、本明細書中で使用される場合、式NAAで表され、ここで、A、A、およびAは、独立して、上述の水素、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0039】
用語「カルボン酸」は、本明細書中で使用される場合、式−C(O)OHで表される。
【0040】
用語「エステル」は、本明細書中で使用される場合、式−OC(O)Aまたは−C(O)OAで表され、ここで、Aは、上述のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0041】
用語「エーテル」は、本明細書中で使用される場合、式AOAで表され、ここで、AおよびAは、独立して、上述のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0042】
用語「ケトン」は、本明細書中で使用される場合、式AC(O)Aで表され、ここで、AおよびAは、独立して、上述のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0043】
用語「ハロゲン化物」は、本明細書中で使用される場合、ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素をいう。
【0044】
用語「ヒドロキサマート」は、本明細書中で使用される場合、式−C(O)NHOHで表される。
【0045】
用語「ヒドロキシル」は、本明細書中で使用される場合、式−OHで表される。
【0046】
用語「ニトロ」は、本明細書中で使用される場合、式−NOで表される。
【0047】
用語「シリル」は、本明細書中で使用される場合、式−SiAAで表され、ここで、A、A、およびAは、独立して、上述の水素、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0048】
用語「スルホ−オキソ」は、本明細書中で使用される場合、式−S(O)A、−S(O)A、−OS(O)A、または−OS(O)OAで表され、ここでAは、上述の水素、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0049】
用語「スルホニル」は、本明細書中で使用される場合、式−S(O)Aで表されるスルホ−オキソ基をいい、ここでAは、上述の水素、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0050】
用語「スルホニルアミノ」または「スルホンアミド」は、本明細書中で使用される場合、式−S(O)NH−で表される。
【0051】
用語「スルホン」は、本明細書中で使用される場合、式AS(O)で表され、ここで、AおよびAは、独立して、上述のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0052】
用語「スルホキシド」は、本明細書中で使用される場合、式AS(O)Aで表され、ここで、AおよびAは、独立して、上述のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、またはヘテロシクロアルケニル基であり得る。
【0053】
用語「チオール」は、本明細書中で使用される場合、式−SHで表される。
【0054】
「X」、「Y」、「R」、「R」、および「R」は、本明細書中で使用される場合、独立して、1つ以上の上記に列挙した基を有し得る。例えば、Rが直鎖アルキル基である場合、アルキル基の水素原子の1つは、必要に応じて、水酸基、アルコキシ基などで置換され得る。選択される基によって、第1の基が第2の基内に組み込まれ得るか、あるいは、第1の基が第2の基に対してペンダントになり得る(すなわち、結合され得る)。例えば、句「スルホニル基を含むアルキル基」で、スルホニル基は、アルキル基の骨格中に組み込まれ得る。あるいは、スルホニル基は、アルキル基の骨格に結合され得る。選択される基(単数または複数)の性質によって、第1の基が第2の基に組み込まれるか、または結合されるかが決定される。
【0055】
本明細書中で使用される場合、「被験体」とは、個体を意味する。従って、「被験体」は、哺乳動物(例えば、霊長類、ヒトなど)、飼い慣らされた動物(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)、および鳥類を包含し得る。1つの局面において、「被験体」は哺乳動物である。別の局面において、「被験体」はヒトである。
【0056】
本明細書における「細胞」への言及は、インビトロの細胞を包含し得る。あるいは、「細胞」への言及は、被験体中に見出され得るインビボの細胞を包含し得る。「細胞」は、細菌、真核生物、または動物が挙げられるがこれらに限定されない、任意の生物体由来の細胞であり得る。
【0057】
本明細書中に提供される化合物の「有効量」という用語は、無毒性であるが、所望の結果(例えば、調節または阻害)を提供するのに十分な化合物の量を意味する。以下に指摘されるように、必要とされる正確な量は、被験体の種、年齢、および全身状態、処置される疾患の重症度、用いられる特定の化合物、その投与の様式などに依存して、被験体間で異なる。従って、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかし、適切な有効量は、日常的な実験のみを用いて当業者によって決定され得る。同様に、「MMPの調節のための有効量」という句は、無毒性であるが、少なくとも1種のMMPの活性を調節するのに十分な化合物の量を意味する。また、「MMPの阻害のための有効量」という句は、無毒性であるが、少なくとも1種のMMPの活性を阻害するのに十分な化合物の量を意味する。この場合もまた、正確な量は、被験体の種、年齢、および全身状態、処置される疾患の重症度、用いられる特定の化合物、その投与の様式などに依存して、被験体間で異なる。
【0058】
「MMPを含む環境」という句は、1種以上のMMPが存在する任意の環境を意味する。このような環境としては、被験体、器官、腫瘍、細胞、ゲル、溶液、または純粋なMMPが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
「薬学的に受容可能な」は、生物学的にまたはその他で不適当でない材料を意味する。すなわち、材料は、いかなる不適当な生物学的作用をも引き起こさないか、または、その材料が含まれる薬学的組成物の他の成分のいずれとも有害な様式で相互作用することなく、選択された化合物と共に個体に投与され得る。
【0060】
開示された材料、化合物、組成物、成分、および方法の特定の局面について次に詳述し、それらの例を、添付の図面に示す。
【0061】
(化合物)
1つの局面において、以下の式I:
【0062】
【化11】

を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩が本明細書中に記載され、
ここで、Xは、(CHO、(CHS、(CHNR、(CH(CH)、またはCH=CHであって、ここで、n=0、1、または2であり;RおよびRは、独立して、置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロシクロアルケニルであり;そしてZは、NHまたはCHである。
【0063】
別の局面において、式Iを有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩が本明細書中に記載され、ここで、ZはNHであり、Rは置換または非置換のアリール基またはヘテロアリール基であり;Xは、(CHO、(CHS、(CHNR、(CH(CH)、またはCH=CHであって、ここで、n=0、1、または2であり、そして、Rは置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロシクロアルケニルである。
【0064】
1つの局面において、式Iで表される化合物を含有する組成物が本明細書中に記載される。
【0065】
標識αおよびβは、さらなる議論のために特定の炭素原子位置を同定および識別する補助として、式I中に、ならびに本明細書中で使用される他の構造中に含まれる。これらの標識の選択は、単に任意であるに過ぎず、限定を意図するものではない。
【0066】
式Iで表される化合物において、ファルマコフォア(例えば、スルホニル基を含む置換基およびヒドロキサム酸基を含む置換基)は、隣接する炭素原子(すなわち、炭素αおよびβ)に結合される。また、ファルマコフォアを有する2つの炭素骨格(すなわち、炭素αおよびβ)は、環状置換によって立体配座的に制約される。さらに、スルホニル基を含むファルマコフォアにおいて、スルホニル基は、ヒドロキサム酸基に対してγ位置に配置される。すなわち、3つの原子が、スルホニル基とヒドロキサム酸基の間に存在する。
【0067】
式Iで示される化合物は、必要に応じて光学活性であるかまたはラセミ化合物であり得る。炭素αおよびβでの立体化学は変化し得、スルホニル基を含む置換基とヒドロキサム酸基との間の互いの空間的関係に依存する。1つの局面において、炭素αでの立体化学はSである。別の局面において、炭素αでの立体化学はRである。1つの局面において、炭素βでの立体化学はSである。別の局面において、炭素βでの原子団の立体化学はRである。当該分野で公知の技術を用いて、炭素αおよびβでの立体化学を変えることが可能である。
【0068】
反対の記述がない限り、単に実線として表記され、楔形または破線として表記されない化学結合を含む式は、可能な各異性体(例えば、各鏡像異性体およびジアステレオマー、ならびにラセミ混合物のような異性体の混合物)を企図する。
【0069】
また、式Iで表される化合物の薬学的に受容可能な塩が本明細書中に記載される。薬学的に受容可能な塩は、ヒドロキサマートおよび/またはスルホンアミドを、適切な量の薬学的に受容可能な塩基で処理することによって調製される。代表的な薬学的に受容可能な塩基としては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどが挙げられる。1つの局面において、反応は、水中で、単独でまたは不活性な水混和性有機溶媒と組み合わせて、約0℃〜約100℃の温度(例えば、室温)で行われる。使用される式Iで表される化合物のモル比は、任意の特定の塩について望ましい比を提供するように選択される。例えば、ヒドロキサマートのアンモニウム塩を調製するために、ヒドロキサマートを、約1当量の薬学的に受容可能な塩基で処理して、中性塩を生じ得る。
【0070】
1つの局面において、式IのR基は、以下の式:
【0071】
【化12】

で表される置換アリール基であり得、
【0072】
【化13】


【0073】
別の局面において、式IのR基は、p−メトキシフェニル、p−ビフェニル、p−フェノキシフェニル、p−(フェニルエチニル)フェニル、p−(フェニルエテニル)フェニル、および中心のピペリジニル環系およびそれらの芳香族複素環アナログに連結された3つのアリール基または2つのアリール基を含む直鎖状の三環系であり得る。
【0074】
式Iによって表される化合物の特定の例の非網羅的なリストを以下に示す。
【0075】
【化14】

上記のリストにおいて、化合物1〜8の任意のR置換基は、a〜jで標識された任意のR置換基であり得る。また、特定の化合物は、本明細書中において、R置換基の文字(例えばa〜j)と共に上記の式の数字(例えば1〜8)を列挙することにより称される。例えば、RをBrとして有する(すなわち、Rが「a」で標識された置換基である)式1の化合物は、化合物「1a」と称され得る。
【0076】
上記のリストにおいて、化合物1〜4はスルホンアミドとみなされ、化合物5〜8はスルホンとみなされる。スルホンアミドの中で、化合物1および2は、飽和シクロヘキサン骨格を有し、一方、化合物3および4は、不飽和シクロヘキセン骨格を有する。同様に、スルホンの中で、化合物5および6は、飽和シクロヘキサン骨格を有し、一方、化合物7および8は、不飽和シクロヘキセン骨格を有する。
【0077】
式Iに示すように、少なくとも2つの隣接する置換基を含む環状骨格上に、置換基に応じて2つのキラル中心が存在し得る。また、2つの置換基の相対的な立体化学配置は、シスまたはトランスのいずれかであり得る。従って、化合物1、3、5、および7は、シス異性体を表し、一方、化合物2、4、6、および8は、トランス異性体を表す。シスまたはトランス構造の各々は、逆の絶対配置を有する2つの鏡像異性体からなるラセミ化合物を表す。例えば、シス−ビフェニルスルホンアミド(1c)は、2つのシス異性体(一方はαS、βR配置を有し、他方はαR、βS配置を有する)を表す。同様に、トランス−ビフェニルスルホンアミド(2c)は、2つのトランス異性体(一方はαS、βS配置を有し、他方はαR、βR配置を有する)を表す。これらの特定の化合物(1cおよび2c)の構造を以下に示す。
【0078】
【化15】


【0079】
他の特定の例としては、
【0080】
【化16】

が挙げられる。
【0081】
本明細書中に記載されるように、式Iで表される化合物は、MMPの調節因子である。理論に束縛されることは望まないが、式Iで表される化合物はZnに結合し得るヒドロキサム酸基を有するので、式Iで表される化合物は、すべてのZn依存性のMMP(例えば、MMP−1、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−11、およびMMP−13、またはこれらの混合物)の調節因子であり得ると考えられる。この点で、式Iで表される化合物は、広域スペクトルのMMP調節因子であると言える。
【0082】
別の局面において、式Iで表される化合物は、MMPの選択的調節因子である。さらに別の局面において、式Iで表される化合物は、MMP−2およびMMP−9の選択的調節因子である。なお別の局面において、式Iで表される化合物は、腫瘍進行、腫瘍転移、および腫瘍浸潤を調節し得、かつ、抗関節炎剤でもある。
【0083】
別の局面において、式Iで表される化合物は、MMPの強力なインヒビターである。理論に束縛されることは望まないが、式Iで表される化合物はZnに結合し得るヒドロキサム酸基を有するので、式Iで表される化合物は、すべてのZn依存性のMMP(例えば、MMP−1、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−11、およびMMP−13、またはこれらの混合物)のインヒビターであり得ると考えられる。この点で、式Iで表される化合物は、広域スペクトルのMMPインヒビターであると言える。
【0084】
1つの局面において、式Iで表される化合物は、MMPの選択的インヒビターである。別の局面において、式Iで表される化合物は、MMP−2およびMMP−9の選択的インヒビターである。なお別の局面において、式Iで表される化合物は、腫瘍進行、腫瘍転移、および腫瘍浸潤を阻害し得、かつ、抗関節炎剤でもある。
【0085】
(合成方法)
式Iで表される化合物は、当業者に一般に知られている技術を用いて容易に合成され得る。これらの化合物を調製するのに用いられる出発物質および試薬はいずれも、Aldrich Chemical Co.(Milwaukee,Wis.)、Acros Organics(Morris Plains,N.J.)、Fisher Scientific(Pittsburgh,Pa.)、またはSigma(St.Louis,Mo.)のような商業的供給業者から入手可能であるか、あるいは、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis、第1〜17巻(John Wiley and Sons,1991);Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds、第1〜5巻および補遺(Elsevier Science Publishers,1989);Organic Reactions、第1〜40巻(John Wiley and Sons,1991);March’s Advanced Organic Chemistry(John Wiley and Sons、第4版);およびLarock’s Comprehensive Organic Transformations(VCH Publishers Inc.,1989)などの文献中に示される手順に従って、当業者に公知の方法で調製される。
【0086】
1つの局面において、式Iで表される化合物は、スキームIおよびIIに図示される方法により調製され得る。これらのスキームは、本明細書中に開示される化合物が合成され得るいくつかの方法の単なる例示であり、これらのスキームに対する種々の改変がなされ得、かつ、これらの改変は、この開示を再検討した当業者に明らかである。
【0087】
以下の議論において、反応の出発物質および中間体は、所望の場合、従来の技術(濾過、蒸留、結晶化、クロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに限定されない)を用いて、単離され得かつ精製され得る。このような材料は、物理定数およびスペクトルデータを含む従来の手段を用いて、特徴付けられ得る。また、反対に規定されない限り、本明細書中に記載される反応は、約−78℃〜約150℃の、約0℃〜約125℃の温度範囲にわたって、あるいは室温(または周囲温度)付近(例えば、約20℃)にて、大気圧で起こり得る。
【0088】
【化17】

スキームIは、式Iで表されるスルホンアミド化合物を利用する合成経路の概要を提供し、ここで、Z=NHであり、式Iの化合物は、例えば、ラセミ体のシス−またはトランス−環状アミノ酸である出発物質(9)で出発する上記の化合物1、2、3、および4である。出発物質9は、市販されているか、または、当業者に公知の方法によって合成的に利用可能である。例えば、出発物質シス−2−アミノシクロヘキサンカルボン酸(ラセミ体)またはトランス−2−アミノシクロヘキサンカルボン酸(ラセミ体)(それぞれ、化合物1および2を生じる)は、Acros Organics(Morris Plains,N.J.)のような商業的供給業者から入手可能である。同様に、出発物質として9のシクロヘキセンアナログを使用することにより、対応するシクロヘキセン化合物3および4を提供する。最終化合物の個々の鏡像異性体に到達するために、公知のキラルな、9の鏡像異性体的に純粋な環状アミノ酸アナログが、出発物質として用いられ得る。鏡像異性体的に純粋な環状アミノ酸の調製のための合成手順も、当該分野で公知である。鏡像異性体的に純粋な環状アミノ酸の調製のための合成手順を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される、N.Harmatら、Bioorg.Med.Chem.Lett.,1998,8,1249〜1254を参照のこと。
【0089】
スキームIにおいて、出発物質9を、スルホン酸の機能的誘導体であるR−SOLG(LGは、例えば、塩化物、無水物、または混合無水物のような適切な脱離基を表す)と反応させる。この反応は、スルホンアミドを提供するのに適した塩基性条件下で起こり得る。この反応に適した塩基は周知であり、炭酸塩、重炭酸塩、ヒドロキシド、アルコキシド、水素化物、およびアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、N−エチル−ジイソプロピルアミン)、ピリジン、またはジメチルアミノピリジン、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。また、この反応は、有機溶媒、例えば、ジオキサン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチル、エーテル、ベンゼン、トルエン、またはキシレン、およびこれらの混合物の存在下で行われ得る。1つの局面において、反応は、ジオキサン−水混合溶媒中の炭酸ナトリウムの存在下で、出発物質9および塩化スルフォニル(R−SOCl)を用いて行われ得る。
【0090】
続いて、得られたスルホンアミドを、適切なアミノ酸結合条件下で、保護ヒドロキシルアミンであるHN−OPG(PGは保護基を表す)と結合させる。あるいは、スルホンアミド中の酸官能基を、例えば、酸塩化物または混合無水物に変換することによって活性化させ、次いで、保護ヒドロキシルアミンと反応させる。保護ヒドロキシルアミンは、市販されているか、または当該分野で公知の方法によって調製され得る。代表的には、保護ヒドロキシルアミンは、ヒドロキシルアミンを適切な保護基と反応させることによって調製される。用いられる保護基は、特定の反応条件、存在し得る他の置換基、入手可能性、または優先傾向に依存する。
【0091】
保護ヒドロキシルアミンおよびスルホンアミドをカップリングするための条件は、当該分野で周知であり、代表的には、1つ以上の活性化剤の存在下でスルホンアミドを保護ヒドロキシルアミンと接触させる工程を包含する。カップリング反応に用いられ得る種々の活性化剤としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピル−カルボジイミド(DIP)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサ−フルオロホスフェート(BOP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、およびN−メチルモルホリン(NMM)、ならびにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。カップリング反応は、N−メチルピロリドン(NMP)またはDMF中で行われ得る。1つの局面において、カップリング反応は、DMF中のEDC、HOBt、およびNMMの存在下で、スルホンアミドを保護ヒドロキシルアミンで処理する工程を包含し得る。アミン−酸カップリング反応を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される、Y.Tamuraら、J.Med.Chem.,1998,41,640〜649を参照のこと。
【0092】
酸官能基を、例えば塩化チオニルまたは塩化オキサリルを用いて、酸塩化物のような反応性誘導体へ変換するか、あるいは、例えば適切な条件下でクロロギ酸エステルと反応させることによって、無水物へ変換し、続いて、これらの活性化中間体を単離するかまたは単離せずに、ヒドロキシルアミンまたは保護ヒドロキシルアミンと反応させる条件は、当該分野で公知であり、酸と保護ヒドロキシルアミンとのカップリングに対する代替として適用され得る。活性化酸の調製および反応を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される、Y.Tamuraら、J.Med.Chem.,1998,41,640〜649;P.O’Brienら、J.Med.Chem.,2000,43,156〜166;M.Gowravaramら、J.Med.Chem.,1995,38,2570〜2581を参照のこと。
【0093】
スキームIの最終工程は、加水分解条件下で保護基PGを除去することによる、式I(ここで、Z=NH)で表される化合物の生成に関与する。保護基の除去のための適切な条件は、以下に考察する。
【0094】
【化18】

スキームIIは、式Iで表されるスルホン化合物(ここで、Z=CHである)、例えば、ラセミ体のシス−ラクトンまたはトランス−ラクトン(10)で出発する上記の化合物5、6、7、および8を利用する合成経路の略図を提供する。スキームIIは、ルイス酸触媒の存在下でチオール(R−SH)とのラクトンの開環反応に基づく。出発物質10は、市販されているか、または、当該分野において公知の方法で合成され得る。最終化合物の個々の鏡像異性体に到達するために、公知のキラルな、10の鏡像異性体的に純粋なラクトンアナログが、出発物質として用いられ得る。鏡像異性体的に純粋なラクトンの調製のための合成手順も、当該分野において公知である。鏡像異性体的に純粋なラクトンの調製のための合成手順を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される、D.Baileyら、J.Org.Chem.,1970,35,3574〜3576;P.Kennewellら、J.Chem.Soc.Perkin.Trans.I,1982,2563〜2570を参照のこと。
【0095】
出発物質10の適切なシクロヘキサンアナログを使用することにより、対応する化合物5および6を提供し、一方、出発物質10の適切なシクロヘキセンアナログを使用することにより、対応する化合物7および8を提供する。チオールR−SHは、市販されているか、または、当該分野において公知の方法により合成され得る。
【0096】
ラクトン10の開環反応に適したルイス酸は、当該分野において周知である。例えば、適切なルイス酸としては、AlCl、AlBr、SO、およびSO、BF、BFエーテル化合物、ZnCl、TiCl、SbF、SnClなどの複合体、ならびにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。適切な溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチル、エーテル、ベンゼン、トルエン、またはキシレン、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0097】
ラクトンの開環後、硫黄は、当該分野で公知の方法によって酸化される。種々の酸化剤および条件は、Hudlicky、Oxidations in Organic Chemistry、ACS mongraph 186(1990年)中に議論され、これは、酸化反応を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される。適切な酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メタ過ヨウ素酸ナトリウム、オキソン(ペルオキシ一硫酸カリウム)、メタクロロ過安息香酸、過ヨウ素酸など、およびこれらの混合物が挙げられる。適切な溶媒としては、例えば、酢酸(メタ過ヨウ素酸ナトリウムのために)が挙げられ、そして他の過酸のために、THFおよびジオキサンのようなエーテル、およびアセトニトリル、DMFなど、ならびにこれらの混合物が挙げられる。オキソンについては、適切な溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、およびプロパノールのような水溶性アルコール、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0098】
最終的に、スキームIIにおいて、保護ヒドロキシルアミン(HN−OPG)はスルホンに結合し、そして保護基PGが除去されて、式Iで表される化合物が生成する。保護ヒドロキシルアミンは、上記のように、市販されているか、または当該分野で公知の合成方法によって調製され得る。また、カップリング反応の条件は、上で考察したスキームIに記載のカップリング条件に類似している。
【0099】
句「保護基」は、本明細書中で使用される場合、潜在的に反応性の官能基を一時的に改変し、望まれない化学変化から官能基を保護する化学的部分を意味する。保護基の化学的性質は、当業者に公知である。保護基、および保護基を付加および除去する方法を教示する目的で、本明細書中に参考として援用される、T.Greeneら、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第2版、Wiley、N.Y.(1991年)を参照のこと。
【0100】
スキームIまたはIIのいずれかにおける保護ヒドロキシルアミンとの使用に適した保護基の例としては、tert−ブチル、ベンジル、テトラヒドロピラニル、ならびにトリメチルシリル、tert−ブチルジメチルシリルおよびトリイソプロピルシリルのようなシリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で用いられる保護基を除去し、これによってヒドロキサム酸基を露出させるための加水分解条件および水素化分解条件は、一般に周知であり、用いられる特定の保護基に依存する。加水分解性の脱保護は、一般に、塩基性条件下、または適切な酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、酢酸、トリフルオロ酢酸)の存在下での加水分解によって、あるいは適切な酸性樹脂(例えば、AMBERLYSTTM(Rohm Haas、Philadelphia、PA)またはDOWEXTM(Dow、Midland、Mich.))との接触によって、達成され得る。適切な溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチル、エーテル、ベンゼン、トルエン、またはキシレン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0101】
ベンジル基のような保護基の水素化分解性の除去は、適切な溶媒中で、適切な温度および圧力にて、炭素上のパラジウムのような触媒の存在下で、水素化によって行われ得る。
【0102】
上記の合成経路は、個々の反応容器中で化合物の合成に関与する、液相の多重パラレル合成として実行され得るが、他の方法で実行されてもよい。例えば、コンビナトリアルに基づく合成または固相合成が用いられ得、合成される特定の化合物、試薬の入手可能性、または優先傾向に依存する。
【0103】
(有用性および投与)
式Iで表される化合物は、多くの用途を有する。例えば、これらの化合物は、MMPの調節または阻害が癌および関節炎を処置または予防する場合のように、治療的または予防的に有益な分野における用途を有する。1つの局面において、式Iで表される化合物は、癌を有する被験体を処置するために用いられる。このような癌としては、癌腫、黒色腫、白血病、または腺腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
上記のように、腫瘍細胞が組織/血管膜障壁を横断して転移するにはIV型の膠原溶解性の活性が必要なので、MMPは、抗癌剤に適した標的である。また、MMPの過剰生成は、種々の腫瘍の侵襲性の転移挙動と臨床的に関連がある。従って、式Iで表される化合物の有効量を投与して、MMP(例えば、MMP−2および/またはMMP−9)を調節または阻害することにより、腫瘍転移、腫瘍浸潤、および新脈管形成のような腫瘍進行事象を調節または阻害し得る。
【0105】
1つの局面において、式Iで表される化合物は、種々のMMPを選択的に調節するかまたは阻害し得る。最近、X線結晶学およびNMR分光法によって決定された、いくつかのMMP(例えば、MMP−1、MMP−3、MMP−7、およびMMP−8)の触媒ドメインおよび触媒ドメイン−インヒビター複合体の3次元構造についての情報が、入手可能になっている。Y.Tamuraら、J.Med.Chem.,1998,21,640〜649;R.Kiyamaら、J.Med.Chem.,1999,42,1723〜1738;C.J.Burnsら、Angew.Chem.Int.Ed.,1998,37,2848〜2850;L.E.Burgessら、Chem.Abst.,1998,128,127820;A.Pavlovskyら、Protein Sci.,1999,8,1455〜1462;B.Lovejoyら、Science,1994,263,375〜377;T.Stamsら、Nature:Struct.Biol.,1994,1,119〜123;W.Bodeら、EMBO J.,1994,13,1263;B.Stockmanら、Protein Sci.,1998,7,2118〜2126;2281〜2286を参照のこと。これらの研究から、MMPのコア構造は、3つのαヘリックスおよび5本鎖βシートからなり、触媒亜鉛イオンが3つのヒスチジン(「His」)残基によって配位される触媒溝の底部に位置することが示される。しかし、種々のMMP間の1つの相違は、S1’ポケット(触媒Zn−結合ドメイン内に埋め込まれたさらなる基質結合ドメイン)の形状およびサイズである。開口しているSl、S2’およびS3’サブサイトとは対照的に、S1’ポケットは、MMP酵素のコアの中を貫通する。このS1’ポケットは、MMP−1およびMMP−7では比較的浅く、そしてMMP−9では狭いが、MMP−2、MMP−3、およびMMP−8では、はるかに深いチャネルである。
【0106】
理論に束縛されることは望まないが、MMP(例えば、MMP−2およびMMP−9)におけるS1’活性ドメインのこの固有のコンフォーメーションは、開示された化合物の特異性に寄与すると考えられる。式Iで表される化合物は、環外のγ位から伸びるスルホニル置換基によってヒドロキサム酸基のα位およびβ位に立体配座的な制限を含み、MMP−2およびMMP−9の活性部位の深いS1’ポケットを選択的に占有し得る。また、理論に束縛されることは望まないが、式Iで表される化合物中に存在する立体配座的に制限されたフレームワークは、スルホニル置換基がS1’ポケットに突出するのを補助し、一方、立体配座的な制限が欠如すると、立体配座的な柔軟性が大幅に増加することに起因して、インヒビターの効力を欠くことにつながると考えられる。
【0107】
1つの局面において、式Iで表される化合物を用いるための方法は、MMPの調節に有効な量の少なくとも1つの式Iで表される化合物を、MMPを含む環境に投与する工程を包含する。MMPは、任意のMMPまたはMMPの混合物であってもよい。1つの局面において、MMPは、MMP−2、MMP−9、またはこれらの混合物である。
【0108】
別の局面において、式Iで表される化合物を用いる方法は、MMPの阻害に有効な量の少なくとも1つの式Iで表される化合物を、MMPを含む環境に投与する工程を包含する。MMPは、任意のMMPまたはMMPの混合物であってもよい。1つの局面において、MMPは、MMP−2、MMP−9、またはこれらの混合物である。
【0109】
なお別の局面において、MMPの調節に有効な量の少なくとも1つの式Iで表される化合物が、MMPを含む環境に投与される。さらに別の局面において、MMPの阻害に有効な量の式Iで表される少なくとも1つの化合物が、MMPを含む環境に投与される。この場合もまた、MMPは任意のMMP(例えば、MMP−2、MMP−9、またはこれらの混合物)であってもよい。1つの局面において、MMPを含む環境に投与される式Iで表される化合物は、化合物1c、2c、またはこれらの混合物である。
【0110】
MMPを含む環境への式Iで表される化合物の投与は、インビボまたはインビトロで行なわれ得る。
【0111】
1つの局面において、式Iで表される化合物を用いるための方法は、腫瘍転移の調節に有効な量の少なくとも1つの式Iで表される化合物を、被験体または細胞に投与する工程を包含する。別の局面において、式Iで表される化合物を用いるための方法は、腫瘍転移の阻害に有効な量の少なくとも1つの式Iで表される化合物を、被験体または細胞に投与する工程を包含する。さらに別の局面において、細胞はHT−1080細胞である。
【0112】
1つの局面において、調節に有効な量は、阻害に有効な量に等しい。MMPの調節および/または阻害は、当該分野で公知の方法によって測定され得る。1つの局面において、調節は、腫瘍浸潤における任意の変化によって測定され得、そして阻害は、腫瘍浸潤の阻止によって測定され得る。別の局面において、調節は、腫瘍新脈管形成における任意の変化によって測定され得、そして阻害は、腫瘍新脈管形成の阻止によって測定され得る。阻害効力は、IC50が約3000nM未満、約1500nM未満、約1000nM未満、約500nM未満、または約200nM未満であることを特徴とし得る。
【0113】
1つの局面において、本明細書中に記載される化合物は、癌または関節炎の被験体のような、処置を必要とする被験体に投与され得る。処置を必要とする被験体としては、認識された病状の緩和もしくは寛解を必要とするヒトまたは動物(げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、または非ヒト霊長類などが挙げられるが、これらに限定されない)が含まれ得る。
【0114】
任意の式Iで表される化合物は、混液の一部として被験体に送達され得る(すなわち、他の医薬品と組み合わせて用いられ得る)。例えば、式Iで表される化合物は、抗癌混液の一部になり得る(すなわち、式Iで表される1つ以上の化合物は、1つ以上の抗癌剤と共に用いられ得る)。癌の処置における混液の使用は、慣用的である。1つの局面において、抗癌混液は、式Iで表される1つ以上の化合物および1つ以上の抗癌剤の両方の有効量を含み得る、一般的な投与ビヒクル(例えば、丸剤、錠剤、移植物、注射溶液など)を含む。あるいは、抗癌混液は、式Iで表される1つ以上の化合物および1つ以上の抗癌剤の有効量の連続投与、同時投与、または計画投与を含む。例えば、まず、式Iで表される1つ以上の化合物が被験体に投与され得、次いで、一定期間の後、抗癌剤がこの被験体に投与される。投与の順序は、抗癌剤の特定のタイプ、癌のタイプおよび重症度などのような因子に依存して、当業者によって決定され得る。
【0115】
式Iで表される化合物とともに抗癌混液中に用いられ得る適切な抗癌剤としては、アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール;アクラキニン(AcrQnine);アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン(Ambomycin);酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アンスラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペリン;アザシチジン;アゼテパ(Azetepa);アゾトマイシン(Azotomycin);バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;ビスナフィドジメシラート;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナールナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カーベタイマー;カルボプラチン;カルムスチン;塩酸カルビシン;カルゼレシン;セデフィンゴール;クロラムブチル;サロルマイシン(Cirolemycin);シスプラチン;クラドリビン;クリスナトールメシレート;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;デザグアニンメシレート;ジアジコン;ドセタセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;デュアゾマイシン(Duazomycin);エダトレキサート;塩酸エフロルニチン(Eflomithine Hydrochloride);エルサミトルシン(Elsamitrucin);エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール(Erbulozole);塩酸エソルビシン(Esorubicin Hydrochloride);エストラムスチン;リン酸エストラムスチンナトリウム;エタニダゾール;エチオダイズド油I131;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン(Etoprine);塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン;ホストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;塩酸ゲムシタビン;金Au198;ヒドロキシ尿素;塩酸イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;インターフェロンα−2a;インターフェロンα−2b;インターフェロンα−n1;インターフェロンα−n3;インターフェロンβ−Ia;インターフェロンγ−1b;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸ロイプロリド;塩酸リアロゾール;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;塩酸ロソキサントロン;マソプロコール;マイタンシン;塩酸メクロレタミン;酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;ミトカルシン(Mitocarcin);ミトクロミン;マイトジリン;マイトマルシン(Mitomalcin);マイトマイシン;マイトスパー(Mitosper);ミトーテン;塩酸ミトキサントロン;ミコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペグアスパルガーゼ;ペリオマイシン(Peliomycin);ペンタムスチン(Pentamustine);硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;塩酸ピロキサントロン;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン(Prednimustine);塩酸プロカルバジン;ピューロマイシン;塩酸ピューロマイシン;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール(Safmgol);塩酸サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセートナトリウム;スパルソマイシン;塩酸スピロゲルマニウム;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;塩化ストロンチウムSr89;スロフェヌル;タリソマイシン;タキサン;タキソイド;タキソール;テコガランナトリウム;テガフール;塩酸テロキサントロン;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;塩酸トポテカン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン(Trestolone Acetate);リン酸トリシリビン;トリメトレキサート;グルクロン酸トリメトレキサート;トリプトレリン;塩酸ツブロゾール;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビンピジン(Vinepidine Sulfate);硫酸ビングリシネート(Vinglycinate Sulfate);硫酸ビンロイロシン(Vinleurosine Sulfate);酒石酸ビノレルビン;硫酸ビンロシジン(Vinrosidine Sulfate);硫酸ビンゾリジン(Vinzolidine Sulfate);ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;および塩酸ゾルビシンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
MMPの調節因子またはインヒビターは、混液中で用いられる場合、相乗効果を生じ得る。例えば、他のMMP調節因子またはインヒビターを抗癌剤と組み合わせて使用すると、相乗効果を生じる、すなわち、MMP調節因子またはインヒビターを抗癌剤と組み合わせて用いた場合に観察される調節または阻害の量が、いずれかを単独で用いた場合に観察される調節または阻害の量よりも大きいことが知られている。M.Ohtaら、Japanese J.Cancer.Res.,2001,92,688;M.Makiら、Clin.Exp.Metastasis,2002,19,519を参照のこと。従って、式Iで表される化合物の使用は、抗癌混液の一部として投与される場合、相乗効果を生じ得る。
【0117】
本明細書中に記載された化合物の投薬量または量は、送達が起こる方法で所望の効果を生じるのに十分な大きさである。この投薬量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などのような有害な副作用を引き起こすほど大きなものであってはならない。一般に、投薬量は、被験体の年齢、状態、性別および疾患の程度に応じて変化し、当業者によって決定され得る。投薬量は、関連する被験体の臨床状態に基づいて、個々の医師によって調整され得る。用量、投与スケジュールおよび投与経路は変更され得る。
【0118】
本明細書中に記載される方法による化合物または組成物の特定の用量の投与の効能は、癌、関節炎、または他の疾患および/または状態の処置に注意が必要な被験体の状態を評価するのに有用であることが知られている、病歴、徴候、症状および客観的な臨床検査の特定の局面を評価することによって、決定され得る。これらの徴候、症状、および客観的な臨床検査は、このような患者を処置する臨床医またはこの分野で実験を行う研究者であれば分かるように、処置または予防される特定の疾患または状態に依存して変化する。例えば、適切なコントロール群との比較および/または一般集団もしくは特定の個体における疾患の正常な進行の所見に基づく場合、1)被験体の健康状態が改善される(例えば、腫瘍が部分的にまたは完全に後退した)ことが示されるか、2)疾患または状態の進行が安定化されるか、遅らされるか、または食い止められることが示されるか、あるいは、3)疾患または状態を処置するための他の投薬の必要性を減少させるかまたは除去するので、特定の処置レジメンが有効であるとみなされる。
【0119】
式Iで表される任意の化合物は、薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせて治療的に用いられ得る。別の局面において、式Iで表される任意の化合物は、薬学的に受容可能なキャリアとともに予防的に(すなわち、予防剤として)用いられ得る。本明細書中に記載される化合物は、薬学的に受容可能なキャリアと共同して1つ以上の化合物で構成される薬学的組成物中に好都合に処方され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,最新版,E.W.Martin Mack Pub.Co.,Easton,PAを参照のこと。これは、本明細書中に記載される化合物の処方物の調製と併せて用いられ得る、代表的なキャリアおよび薬学的組成物の従来の調製方法を開示し、本明細書中に参考として援用される。このような薬学的キャリアは、最も代表的には、組成物をヒトおよび非ヒトに投与するための標準キャリアであり、滅菌水、生理食塩水、および生理的pHの緩衝液のような溶液が挙げられる。他の化合物は、当業者に用いられる標準手順に従って投与される。
【0120】
本明細書に記載される薬学的組成物としては、最適な分子に加えて、キャリア、増粘剤、希釈剤、緩衝液、保存料、表面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的組成物はまた、1つ以上のさらなる活性成分(例えば、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬など)も含み得る。
【0121】
本明細書に記載される化合物および薬学的組成物は、局所処置または全身処置のいずれが所望されるかに依存して、および処置される部位に依存して、多くの方法で被験体に投与され得る。従って、例えば、本明細書に記載される化合物または薬学的組成物は、点眼剤および/または軟膏として眼の表面に投与され得る。さらに、化合物または薬学的組成物は、経膣的に、直腸内に、鼻腔内に、経口的に、吸入によって、または非経口的に(例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、直腸内、動脈内、リンパ管内、静脈内、髄腔内、および気管内の経路によって)被験体に投与され得る。非経口投与が用いられる場合、一般に注射によることが特徴とされる。注射剤は、溶液または懸濁液として、注射前の液体中の溶液または懸濁液に適した固体形態として、あるいはエマルジョンとしてのいずれかで、従来の形態に調製され得る。非経口投与のためのより最近修正されたアプローチは、一定の投薬量が維持されるような持続放出システムまたは徐放システムの使用を含む。例えば、米国特許第3,610,795号(その徐放システムの教示が、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0122】
非経口投与のための調製物は、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含み、また、緩衝液、希釈剤および他の適切な添加剤も含み得る。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。水性キャリアとしては、水、アルコール溶液/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液(生理食塩水および緩衝化媒体を含む)が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー、または不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体および栄養補給薬、電解質補充薬(例えば、リンガーデキストロースに基づいた電解質補充薬)などが挙げられる。防腐剤および他の添加物(例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなど)も存在し得る。
【0123】
局所投与のための処方物としては、軟膏剤、ローション剤、クリーム、ゲル、点滴薬、坐剤、スプレー、液剤および散剤が挙げられ得る。従来の薬学的キャリア基剤、水性基剤、粉末基剤または油性基剤、増粘剤などは、必要であるかまたは望ましくあり得る。
【0124】
経口投与のための組成物としては、散剤または顆粒剤、水または非水媒体中の懸濁液または溶液、カプセル剤、小袋、あるいは錠剤が挙げられ得る。増粘剤、矯味矯臭剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤または結合剤が望ましくあり得る。
【実施例】
【0125】
以下の実施例は、本明細書中に記載および特許請求した化合物、組成物、製品、デバイス、および/または方法を作製および評価するための方法の完全な開示および記述を当業者に提供するために提示され、純粋に例示的であることを意図し、本発明者らが本発明であるとみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。数(例えば、量、温度など)に関して正確性を保証する努力がなされたが、いくらかの誤差および偏差が考慮されるべきである。他に指示がない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか周囲温度であり、そして、圧力は大気圧であるかまたは大気圧付近である。反応条件(例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、ならびに記載されるプロセスから得られる生成物純度および収率を最適化するために用いられ得る他の反応範囲および条件)の多数のバリエーションおよび組み合わせが存在する。合理的かつ慣用的な実験のみが、このようなプロセス条件を最適化するのに必要である。
【0126】
(実施例1)
(シス)−2−[[(4−ビフェニル)スルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボン酸:シス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(2.4g、16.76mmol)および炭酸ナトリウム(3.553g、33.52mmol)のジオキサン:水(168:84mL)中の攪拌溶液を氷水浴中で冷却し、この冷溶液にビフェニル−4−スルホニルクロリド(4.85g、19.15mmol)を一度に添加した。反応混合物を冷浴中で2時間撹拌した。反応混合物を室温に到達させた後、この混合物をさらに48時間撹拌した。次いで、混合物を10%のクエン酸水溶液(500mL)中に注ぎ込み、この混合物を2時間撹拌した。得られた固体を濾過によって収集した。固体を1N水酸化ナトリウム水溶液とともに攪拌し、この溶液を濾過して、いかなる不溶性の物質をも除去した。アルカリ性の水性濾液を冷却し、高濃度の塩酸水溶液でpH1に酸性化した。得られた固体を濾過によって収集し、水で洗浄し、そして空気中で乾燥させて、所望の酸を無色の固体として得た。この手順により、3.78g(63%)の(シス)−2−[[(4−ビフェニル)スルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボン酸(融点188〜190℃)を得た。質量分析は、m/z360に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0127】
【化19】


【0128】
(実施例2)
(シス)−N−ヒドロキシ−2−[[(4−ビフェニル)スルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボキサミド(化合物lc):実施例1で得られた酸(0.80g、2.23mmol)のCHCl中の溶液(30mL)を氷浴中で冷却し、塩化オキサリル(1.415g、11.15mmol)で処理した後、N,N−ジメチルホルムアミドを触媒として一滴添加した。次いで、反応混合物を室温まで温め、室温で2時間攪拌した。次いで、反応混合物から揮発性物質を減圧下で除去し、残渣を高真空下で1時間乾燥させた。このようにして得られた酸塩化物を無水テトラヒドロフラン(10mL)中に溶解し、0℃に冷却し、そしてO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(2.35g、22.3mmol)を滴下して処理した。混合物を室温に到達させ、一晩撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、残査を酢酸エチル(200mL)中に溶解した。この溶液を1N塩酸(100mL)およびブライン(100mL)で連続的に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、そして溶媒を減圧下で除去した。このようにして得られた固体を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶して、0.63g(75%)の所望の生成物1cを得た。生成物1cは、74〜76℃の融点を有した。質量分析は、m/z375に分子イオンピーク(MH)を示した。DMSO−d中でのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0129】
【化20】


【0130】
(実施例3)
(トランス)−2−[[(4−ビフェニル)スルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボン酸:この化合物は、実施例1に記載される方法と同様にして、トランス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(1.0g,7.0mmol)を、ジオキサン:水(70:35mL)中で、炭酸ナトリウム(1.48g,14.0mmol)およびビフェニル−4−スルホニルクロリド(2.02g,8.0mmol)と反応させることによって調製した。この収量は1.48g(59%)であり、融点は220〜222℃であり、そして質量分析は、m/z360に分子イオンピーク(MH)を示した。
【0131】
(実施例4)
(トランス)−N−ヒドロキシ−2−[[(4−ビフェニル)スルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボキサミド(化合物2c):実施例3で得られた酸(0.56g,1.56mmol)の溶液を、実施例2に記載のように塩化オキサリル(0.99g,7.8mmol)と反応させ、続いて(O−(トリメチルシリル)−ヒドロキシルアミン(1.64g,15.6mmol)と反応させて、0.23g(40%)の2cを得た。融点は212〜214℃であった。質量分析は、m/z375に分子イオンピーク(MH)を示した。DMSO−dでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0132】
【化21】


【0133】
(実施例5)
(シス)−2−[(4−フェノキシベンゼンスルホニル)アミノ]シクロヘキサンカルボン酸:この化合物を、実施例1に記載される方法と同様にして、シス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(1.0g,7.0mmol)を、ジオキサン:水(40:20mL)中で、炭酸ナトリウム(1.48g,14.0mmol)および4−フェノキシベンゼンスルホニルクロリド(2.25g,8.38mmol)と反応させることによって調製した。この収量は2.23g(85%)であり、融点は116〜118℃であった。質量分析は、m/z376に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0134】
【化22】


【0135】
(実施例6)
(シス)−N−ヒドロキシ−2−[(4−フェノキシベンゼンスルホニル)アミノ]シクロヘキサンカルボキサミド(化合物1d):実施例5で得られた酸(0.56g,1.49mmol)の溶液を、実施例2に記載のように塩化オキサリル(CHCl中の2M溶液,3.7mL,7.4mmol)と反応させ、続いてO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(1.56g,14.91mmol)と反応させて、0.275g(48%)の所望の生成物を得た。融点は66〜68℃であった。質量分析は、m/z391に分子イオンピーク(MH)を示した。DMSO−dでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0136】
【化23】


【0137】
(実施例7)
(トランス)−2−[(4−フェノキシベンゼンスルホニル)アミノ]シクロヘキサンカルボン酸:この化合物を、実施例1に記載される方法と同様にして、トランス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(1.0g,7.0mmol)を、ジオキサン:水(40:20mL)中で、炭酸ナトリウム(1.48g,14.0mmol)および4−フェノキシベンゼンスルホニルクロリド(2.25g,8.38mmol)と反応させることによって調製した。この収量は1.275g(48%)であった。融点は192〜194℃であった。質量分析は、m/z376に分子イオン(MH)ピークを示した。
【0138】
(実施例8)
(トランス)−N−ヒドロキシ−2−[(4−フェノキシベンゼンスルホニル)アミノ]シクロヘキサン−カルボキサミド(化合物2d):実施例7で得られた酸(1.00g,2.66mmol)の溶液を、実施例2に記載のように塩化オキサリル(CHCl中の2M溶液,6.65mL,13.3mmol)と反応させ、続いてO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(2.8g,26.64mmol)と反応させて、0.48g(46%)の所望の生成物を得た。融点は182〜184℃であった。質量分析は、m/z391に分子イオン(MH)ピークを示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0139】
【化24】


【0140】
(実施例9)
(シス)−2−[[(4−フェニラゾ)ベンゼンスルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボン酸:この化合物を、実施例1に記載される方法と同様にして、シス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(1.0g,7.0mmol)を、ジオキサン:水(40:20mL)中で、炭酸ナトリウム(1.48g,14.0mmol)および4−(フェニラゾ)ベンゼンスルホニルクロリド(2.35g,8.38mmol)と反応させることによって調製した。この収量は、0.915g(33%)であった。質量分析は、m/z388に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0141】
【化25】


【0142】
(実施例10)
(シス)−N−ヒドロキシ−2−[[(4−フェニラゾ)ベンゼンスルホニル]アミノ]シクロヘキサン−カルボキサミド(化合物lg):実施例9で得られた酸(0.915g,2.36mmol)の溶液を、実施例2に記載のように塩化オキサリル(CHCl中の2M溶液,5.91mL,11.82mmol)と反応させ、続いてO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(2.48g,23.64mmol)と反応させて、0.44g(46%)の所望の生成物を得た。融点は162〜164℃であった。質量分析は、m/z403に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0143】
【化26】


【0144】
(実施例11)
(トランス)−2−[[(4−フェニラゾ)ベンゼンスルホニル]アミノ]シクロヘキサンカルボン酸。この化合物を、実施例1に記載される方法と同様にして、トランス−2−アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸(1.0g,7.0mmol)を、ジオキサン:水(40:20mL)中で、炭酸ナトリウム(1.48g,14.0mmol)および4−(フェニラゾ)ベンゼンスルホニルクロリド(2.35g,8.38mmol)と反応させることによって調製した。この収量は、1.02g(37%)であった。融点は246〜248℃であった。質量分析は、m/z388に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0145】
【化27】


【0146】
(実施例12)
(トランス)−N−ヒドロキシ−2−[[(4−フェニラゾ)ベンゼンスルホニル]アミノ]シクロヘキサン−カルボキサミド(化合物2g):実施例11で得られた酸(1.00g,2.58mmol)の溶液を、実施例2に記載のように塩化オキサリル(CHCl中の2M溶液,6.45mL,12.9mmol)と反応させ、続いてO−(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン(2.72g,25.84mmol)と反応させて、0.35g(33%)の所望の生成物を得た。融点は194〜196℃であった。質量分析は、m/z403に分子イオンピーク(MH)を示した。CDClでのプロトンNMR分析により、以下の化学シフト(δ)を生じた:
【0147】
【化28】


【0148】
(実施例13)
酵素阻害アッセイ:非ペプチジル化合物1cおよび2cの酵素阻害の動態(IC50)を、標準蛍光定量的基質分解アッセイを用い、精製MMP−2、精製MMP−3、および精製MMP−9を用いて決定した。ヒトrMMP−2およびヒトrMMP−9を活性型で精製し、精製MMP−1、精製MMP−3および精製MMP−13を商業的供給源(Chemicon;Temecula,CA)からチモーゲン形態で入手し、1mMのAPMAまたはPCMB処理(37℃で2時間)によって活性化した。動態研究のために、蛍光発生的な合成基質(1μMのMcaPLGLDpaAR)の加水分解に基づく標準蛍光定量的アッセイを用いた。各アッセイについて、標的MMP(1μM)および増加する濃度の試験化合物を25℃で30〜60分間インキュベートし、基質の加水分解速度をパーキンエルマー蛍光光度計によって励起328nmおよび発光393nmの設定で測定した。濃度および時間の両方に依存性の切断をモニタリングした。コントロールは、トリプシン(非特異的切断)および細菌性コラゲナーゼ(全切断)および他の亜鉛プロテアーゼ(ACE、エンドペプチダーゼ)を含む。IC50値(50%の酵素活性が阻害される濃度)を、薬剤濃度の負の対数に対する活性(%)のプロットによって決定した。IC50値を、以下の等式(K=IC50/(1+S/K))を用いてK値に変換した。K値(μM)を、3〜5の別個の実験のK値から算出した。種々のMMPの阻害動態もまた、Chemicon(Temecula,CA)からの基質分解ELISAキットを用いて決定した。C.Knightら、FEBS Lett.,1992,296,263〜266;L.Windsorら、Biochem.Biophys.Acta 1977,1334,261〜272を参照のこと、これは、酵素阻害アッセイの教示について、本明細書中に参考として援用される。
【0149】
MMPインヒビターの選択性決定:定量的標識基質アッセイおよびFITC−バイオペプチド(マトリックス特異的)アッセイの両方を用いて、MMP活性の選択的阻害を試験した。MMP−1、MMP−2、およびMMP−9に特異的な基質を、標識コラーゲンIおよびIVの分解によって評価した。代表的には、MMP依存性バイオマトリックス分解を、60〜90分間のインキュベーションの後に、候補化合物(0.5〜500μm)の存在下および非存在下でモニタリングした。阻害効力および選択性もまた、ゼラチンまたはコラーゲンザイモグラフィーの後に、濃度測定分析を用いて分析した。標識コラーゲンIまたはIVの分解アッセイ(ザイモグラフィー)を、MMP−1、MMP−2およびMMP−9の活性およびそれらの阻害に用いた。細菌性コラゲナーゼおよびEDTA(10mM)を、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして含んだ。インサイチュザイモグラフィーフィルム技術もまた、標的細胞および組織サンプルにおけるMMP−2およびMMP−9(ゼラチン溶解)活性ならびに薬物処理によるそれらの阻害の測定に用いた。MMP選択性の評価については、2つのヒトHT−1080癌細胞亜系統(これらは、異なるレベルのMMP−2およびMMP−9を多量に生成する)を用いた。HT−1080−B亜系統は、主にMMP−9を生成し(2mg/L)、一方、HT−1080−R細胞は、MMP−2を豊富に含む(1mg/L)。これらの細胞株はいずれも、MMP−1およびMMP−3を含む少量の他のMMP(<1%)を分泌する。G.Siegalら、Cancer Lett.1993,69,123〜132;L.Goodlyら、Tumor Biology 1994,15,326〜336;M.Ikedaら、Clin.Cancer.Res.2000,6,3290〜3296を参照のこと。
【0150】
表1に示される結果は、、両方のスルホンアミド化合物が、MMP−3およびエンドペプチダーゼよりもMMP−2およびMMP−9の活性を選択的に阻害することを示している。これらの阻害プロフィールを、強力な広域MMPインヒビターであるGM−6001(Chemicon(Temecula,CA)から入手可能)と比較した。ネガティブコントロールは、活性が影響されない他のプロテアーゼ(例えば、トリプシンまたはアミドペプチダーゼ)を含んだ(0.1mMまで)。
【0151】
【表1】

(実施例14)
腫瘍浸潤および新脈管形成アッセイ:多段転移カスケードは、MMP媒介性の組織マトリックス分解、新脈管形成、腫瘍細胞の移動/浸潤、そして引き続く遠隔部位での転移増殖に関与する(M.Crocketら、Biochem Soc.Symp.,1998,63,295〜313;D.Keinerら、Metastasis Rev.,1990,9,289〜303;J.MacDougallら、Mol.Med.Today,2000,64,149〜56)。これらの機能的事象は主に、コラーゲンゲルおよびMATRIGELTM(Becton−Dickinson,Bedford,Massから入手可能;R.Auerbachら、Pharm.Ther.,1991,51,1〜11;H.Kleinmanら、Biochem.,1986,25,312〜318を参照のこと)のようなバイオマトリックス共培養系を用いて研究されてきた。しかし、これらのモデルは、組成の複雑さおよび生物学的限界を示す。例えば、マウス腫瘍由来のMATRIGELTMは、主要な分裂促進因子および分化因子、ならびに未決定の細胞マトリックス相互作用を誘発し得るプロテアーゼを含む(S.Vukicevikら、Exp.Cell Res.,1992,202,1〜8)。これらの問題を克服するために、コラゲナーゼおよび分裂促進因子を含まない新しいヒトバイオマトリックスであるAmgelが、標的細胞の機能的挙動を試験するのに用いられた(G.Siegelら、Cancer Lett.,1993,69,123〜132)。
【0152】
Amgelシステムの特徴は、このシステムが生理的なマトリックスの障壁を模倣し、かつ、Amgel単独では新脈管形成性でも腫瘍形成性でもないが、インビトロおよびインビボの両方で制御された生物活性を示すことである。また、Amgelバイオアッセイにより、ヒト細胞の浸潤、運動性および新脈管形成の単一の調節因子(天然および合成の薬剤)を同定し得る。さらに、Amgelバイオマトリックスは、ヒトコラーゲンIおよびIVの両方(それぞれ、MMP−1活性およびMMP−2活性およびMMP−9活性のインビボフットプリントである)を含む。このように、Amgelバイオアッセイは、MMPインヒビターの選択性を、種々の腫瘍形成段階に対するそれらの影響を識別しながら同定するのに有用である。従って、MMP阻害が生物学的作用に変換したか否かを確認するために、Amgelヒト腫瘍浸潤および新脈管形成モデルを用いた。
【0153】
ヒト腫瘍細胞浸潤バイオアッセイ:Amgelコーテイングフィルター(8μm)を、Luciteチャンバーの間に配置される組織バイオマトリックス障壁として用いた。標識細胞(50,000)を再構成Amgelフィルター(75μg)上に播種し、下方のチャンバーを5%の透析血清を含む培地で満たした。試験化合物(0.5〜100μM)を添加して、72時間インキュベートした。下方のチャンバーからの内容物を収集して、細胞結合放射能および遊離放射能を決定した。G.Siegalら、Cancer Lett.1993,69,123〜132;L.Goodlyら、Tumor Biology 1994,15,326〜336;M.Ikedaら、Clin.Cancer.Res.2000,6,3290〜3296;R.Singhら、In Vitro Cell Develop.Biol.,2002,38,11を参照のこと。
【0154】
ヒト腫瘍新脈管形成バイオアッセイ:ヒト内皮細胞(HUVEC)と腫瘍細胞との共培養または定義された新脈管形成因子(FGF)によって、新脈管形成を誘導した。腫瘍細胞培地(24時間の無血清培養物から)を用いて、種々の濃度のVEGFを産生するヒト神経膠腫細胞株を用いるか、または20μMのFGFのような精製因子を用いることによって生物学的な新脈管形成応答を誘導した。内皮細胞をAmgelコーテイングフィルター上に播種し、候補MMPインヒビターを含むかまたは含まない新脈管形成培地で誘導した。試験化合物の種々の濃度(0.5〜500μM)およびインキュベーション時間(1〜7日間)を適用し、内皮細胞分化(出芽および管状の毛細管形成)を光学顕微鏡および電子化デジタルシステムによって調べた。
【0155】
2つのヒトHT−1080癌細胞亜系統(HT−1080−BおよびHT−1080−R)を用いて、Amgelヒト腫瘍浸潤および新脈管形成モデルにおける化合物1cおよび2cの評価(50〜100μMで72時間インキュベーション)を行なった。化合物2cを用いたこれらのアッセイの結果を、表2および図1に示す(化合物1cについてのデータは示さない)。
【0156】
【表2】

化合物1cおよび2cの機能評価により、高度に腫瘍形成性のヒトHT−1080細胞株の侵襲性および新脈管形成が著しく(40〜60%)低減することを明らかにした。また、化合物1cおよび化合物2cのいずれも、非腫瘍形成性のヒト線維芽細胞(HF)に対する影響は全く無かった。さらに、化合物1cおよび2cは、試験した濃度では、細胞増殖および細胞生存性に対して影響を及ぼさないことが観察された(データは示さない)。
【0157】
化合物1cおよび2cによる腫瘍浸潤の阻止は、細胞培地の電気泳動によるゼラチン分解の程度によって測定されるように、MMP−2およびMMP−9活性の阻害におけるこれらの化合物のプロファイルと類似していた。MMP−2およびMMP−9の両方を産生する親HT−1080細胞における化合物の阻害効力は、単一形態のMMPを産生する細胞株におけるこれらの化合物の阻害効力よりもはるかに高かった(>70%)。これらの観察により、化合物1cおよび2cは、MMP−2およびMMP−9の同時阻害によって相乗効果を生じることを示す。
【0158】
本出願全体にわたって、種々の刊行物が参照される。これらの刊行物の開示全体が、本明細書中に記載される化合物、組成物および方法をより完全に記載するために、本出願中に参考として援用される。
【0159】
種々の改変および変化は、本明細書中に記載される化合物、組成物および方法に対して成され得る。本明細書中に記載される化合物、組成物および方法の他の局面は、本明細書中に開示される化合物、組成物および方法の明細および実施の考察から明らかになる。本明細書および実施例は、例示とみなされることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0160】
例えば、本発明は以下を提供する:
(項1)
以下の式:
【化1】

を有する化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、
ここで、
Xは、(CHO、(CHS、(CHNR、(CH(CH)、またはCH=CHであって、ここで、n=0、1、または2であり;
RおよびRは、独立して、置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロシクロアルケニルであり;そして、
Zは、NHまたはCHである、
化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
(項2)
ZがNHである、上記項1に記載の化合物。
(項3)
ZがCHである、上記項1に記載の化合物。
(項4)
Rが、置換または非置換のアリール基またはヘテロアリール基である、上記項2または3に記載の化合物。
(項5)
Rが、以下の式:
【化2】

の置換アリール基である、上記項2または3に記載の化合物であって、
【化3】

化合物。
(項6)
Rが、以下:
【化4】

である、上記項2または3に記載の化合物。
(項7)
Xが、(CH(CH)であり、n=1である、上記項2または3に記載の化合物。
(項8)
Xが、CH=CHである、上記項2または3に記載の化合物。
(項9)
前記化合物が、以下:
【化5】

またはその薬学的に受容可能な塩である、上記項1に記載の化合物。
(項10)
前記化合物が、以下:
【化6】

またはその薬学的に受容可能な塩である、上記項1に記載の化合物。
(項11)
前記化合物が、以下:
【化7】

またはその薬学的に受容可能な塩である、上記項1に記載の化合物。
(項12)
前記化合物が、以下:
【化8】

またはその薬学的に受容可能な塩である、上記項1に記載の化合物。
(項13)
前記化合物が、以下:
【化9】

またはその薬学的に受容可能な塩である、上記項1に記載の化合物。
(項14)
前記化合物が、MMPの選択的調節因子である、上記項1に記載の化合物。
(項15)
前記化合物が、ヒト腫瘍転移の調節因子である、上記項1に記載の化合物。
(項16)
前記化合物が、インビトロにおいて、MMP−2の調節因子、MMP−9の調節因子、またはこれらの混合物である、上記項1に記載の化合物。
(項17)
前記化合物が、MMPの選択的インヒビターである、上記項1に記載の化合物。
(項18)
前記化合物が、ヒト腫瘍転移のインヒビターである、上記項1に記載の化合物。
(項19)
前記化合物が、インビトロにおいて、MMP−2のインヒビター、MMP−9のインヒビター、またはこれらの混合物である、上記項1に記載の化合物。
(項20)
上記項1に記載の化合物および薬学的キャリアを含有する、薬学的組成物。
(項21)
前記化合物が、上記項9または10に記載の化合物である、上記項20に記載の組成物。
(項22)
抗癌剤をさらに含有する、上記項20に記載の組成物。
(項23)
上記項1に記載の化合物の使用方法であって、該方法は、MMPを調節するのに有効な量の上記項1に記載の少なくとも1つの化合物を、該MMPを含む環境に投与する工程を包含する、方法。
(項24)
前記MMPが、MMP−2、MMP−9、またはこれらの混合物である、上記項23に記載の方法。
(項25)
前記少なくとも1つの化合物が、上記項9に記載の化合物である、上記項23に記載の方法。
(項26)
前記少なくとも1つの化合物が、上記項10に記載の化合物である、上記項23に記載の方法。
(項27)
前記調節に有効な量が、阻害に有効な量に等しい、上記項23に記載の方法。
(項28)
阻害が、約3000nM未満のIC50を特徴とする、上記項27に記載の方法。
(項29)
阻害が、約200nM未満のIC50を特徴とする、上記項27に記載の方法。
(項30)
腫瘍転移の調節に有効な量の上記項1に記載の少なくとも1つの化合物を細胞に投与する工程を包含する、上記項1に記載の化合物を使用するための方法。
(項31)
前記調節に有効な量が、阻害に有効な量に等しい、上記項30に記載の方法。
(項32)
前記細胞が、HT−1080細胞である、上記項30に記載の方法。
(項33)
阻害が、腫瘍浸潤の阻止によって測定される、上記項30に記載の方法。
(項34)
阻害が、腫瘍新脈管形成の阻止によって測定される、上記項30に記載の方法。
(項35)
上記項1に記載の化合物の有効量を、処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、癌を有する被験体を処置するための方法。
(項36)
前記癌が、癌腫、黒色腫、白血病、または腺腫である、上記項35に記載の方法。
(項37)
上記項1に記載の化合物が、抗癌混液の一部である、上記項35に記載の方法。
(項38)
前記被験体がヒトである、上記項35に記載の方法。
(項39)
上記項1に記載の化合物の有効量を被験体に投与する工程を包含する、被験体における癌を予防するための方法。
(項40)
上記項1に記載の化合物の有効量を、処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、関節炎を有する被験体を処置するための方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79866(P2011−79866A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−11407(P2011−11407)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【分割の表示】特願2007−505043(P2007−505043)の分割
【原出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【出願人】(506319259)サザン リサーチ インスティチュート (5)
【Fターム(参考)】