説明

マルチターゲットスパッタリング装置

【課題】必要とするターゲットの数が増えても、真空チャンバの径を大きくしなくても済み、全体して真空チャンバの小型化を図る。
【解決手段】マルチターゲットスパッタリング装置は、真空チャンバ1内のスパッタリング位置に複数のターゲット7を順次搬送し、前記スパッタリング位置でターゲット7を順次スパッタリングして同ターゲット7と対向する基板12上に薄膜を堆積させる。複数のターゲット7を円上に並べて配置したターゲットホルダ3を真空チャンバ1内に上下に多段に設け、このターゲットホルダ3を前記の円の中心の回りに間欠回転させる回転機構5と、ターゲットホルダ3から一つのターゲット7を上下移動させて、同ターゲット7をスパッタリング位置へ搬送し、さらに同ターゲット7をスパッタリング位置からターゲットホルダ3に戻す昇降機構4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で高エネルギーの粒子をターゲットに衝突し、これによりターゲットからそれを構成する材料分子を発射させるスパッタリング装置において、真空チャンバ内に配置した複数のターゲットを順次スパッタ位置に搬送し、スパッタリングすることができるようにしたマルチターゲットスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法により、半導体ウエハ等の基板の上に多層の薄膜を形成する場合、真空チャンバ内において、異なる材料からなるターゲットを順次スパッタリングし、基板上に複数の材料を成膜することが必要である。また、単一材料の層を成膜する場合でも、基板が複数あって、多くの量のターゲットが必要なときは、スパッタリングにより消耗したターゲットに代えて、新たな別のターゲットをスパッタリングする必要がある。
【0003】
従来において、前述のように複数のターゲットをスパッタリングして基板上に成膜する場合、予め真空チャンバの中にターゲットとそのターゲットをスパッタするためのスパッタ電極を含む必要な数のターゲット源を設置しておく必要があった。しかしながら、このようにして複数のターゲット源を真空チャンバに設置しておくには、そのスパッタ源の数だけのスパッタ電源が必要となり、装置が大型となってしまう。
【0004】
そこで、真空チャンバ内で複数のターゲットを効率よく短時間に交換して順次スパッタリングすることができるマルチターゲットスパッタリング装置として、例えば、特開2002−256425号公報に記載されたものが知られている。このマルチターゲットスパッタリング装置は、真空チャンバ内でターゲットをスパッタリングする位置の下に回転するターンテーブル状のターゲットホルダを設け、このターゲットホルダの回転中心から一定の距離の円周上に複数のターゲットを配置し、ターゲットホルダの回転とその位置決め停止により、順次複数のターゲットをスパッタリング位置の真下に搬送し、そこから昇降機構により昇降されるスパッタ電極でターゲットをスパッタリングする位置まで押し上げてスパッタリングするようにしている。そしてターゲットをスパッタリングした後は、昇降機構によりスパッタ電極を下降させて、ターゲットをターゲットホルダに戻す。次に、ターゲットホルダの間欠回転により次のターゲットをスパッタリング位置の真下に搬送し、同様にしてスパッタリング位置まで押し上げ、スパッタリングする。
【0005】
近年、基板上に形成する薄膜の層数が増える傾向にあり、このため同一基板に対して使用するターゲットの数も多数化している。そのため、スパッタリングによる成膜工程中に使用するターゲットの数も増大している。
しかし、前記のようなターゲットの交換方式では、ターゲットの数が増えるとその分だけターゲットホルダの径を大きくしなければならない。ターゲットホルダは真空チャンバの中に設けられるので、その径が大きくなるということは、真空チャンバの容積が増大することになる。真空チャンバの容積が増大すると、装置全体が大型化するだけでなく、大きな容積の真空チャンバを真空吸引する真空ポンプ等の周辺装置も強化しなければならず、経済的な装置の設計と運用は困難となる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−234336号公報
【特許文献2】特開2002−256425号公報
【特許文献3】特開2004−6160号公報
【特許文献4】特開2005−220369号公報
【特許文献5】特開2007−197749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来のマルチターゲットスパッタリング装置における課題に鑑み、必要とするターゲットの数が増えても、真空チャンバの径を大きくしなくても済み、全体して真空チャンバの小型化を図ることが出来るマルチターゲットスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、前記の目的を達成するため、複数のターゲット7を円上に配置すると共に、その円の回りに間欠回転させるターンテーブル状のターゲットホルダ3を真空チャンバ内に上下に多段に配置した。これにより、必要とするターゲット7の数が増えても真空チャンバ1の径を増大する必要が無く、よって真空チャンバ内でより多くのターゲットを使用して基板上に複数層の薄膜を形成出来るようにした。
【0009】
このようなマルチターゲットスパッタリング装置は、真空チャンバ1内のスパッタリング位置に複数のターゲット7を順次搬送し、前記スパッタリング位置でターゲット7を順次スパッタリングして同ターゲット7と対向する基板12上に薄膜を堆積させるものである。本発明では、複数のターゲット7を円上に並べて配置したターゲットホルダ3を真空チャンバ1内に上下に多段に設け、このターゲットホルダ3を前記の円の中心の回りにそれぞれ独立して間欠回転させる回転機構5と、ターゲットホルダ3から一つのターゲット7を上下移動させて、同ターゲット7をスパッタリング位置へ搬送し、さらに同ターゲット7をスパッタリング位置からターゲットホルダ3に戻す昇降機構4とを備えるものである。
【0010】
例えば、前記昇降機構4はスパッタ電極2を昇降させることにより、ターゲットホルダ3のターゲット7の下面にスパッタ電極2を当接させ、さらにターゲット7を昇降してこれをターゲットホルダ3とターゲット位置との間で昇降させる。また、ターゲットホルダ3は、このスパッタ電極2を通すため、ターゲット7を装着していない空の保持孔8を少なくとも1つ有している。
【0011】
このような本発明によるマルチターゲットスパッタリング装置では、複数のターゲット7を同一径の円上に並べて配置したターゲットホルダ3を上下に多段に配置し、それらをその回転中心の回りに間欠回転させると共に、昇降機構4によりターゲット7をターゲットホルダ3とスパッタリング位置との間で昇降させて順次スパッタリングするため、ターゲットホルダ3の径を増大することなく、より多くのターゲット7を真空チャンバ1内に配置することが出来る。これにより、ターゲット7の数が多くなっても真空チャンバ1の高さを若干高くするだけで、真空チャンバ1の径を増大しないように設計することが出来る。従って、多くのターゲットを使用する場合でも、その分だけ真空チャンバの容積を大きくとらずに済む。
【発明の効果】
【0012】
以上説明した通り、本発明によるマルチターゲットスパッタリング装置では、より多くの数のターゲット7を真空チャンバ1の中に収納し、それらターゲット7を順次ターゲット位置に送り出してスパッタリング出来る。これにより、基板12の上により多くの層の薄膜を形成する場合に、基板12を真空チャンバ1内に置いたままそれらの層の成膜が可能になる。しかも真空チャンバ1をターゲット7の数に応じて大径化する必要が無いので、ターゲット7の数の割にはコンパクトな装置として纏めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、真空チャンバ1内に収納する複数のターゲット7を円上に並べたターゲットホルダ3を上下に多段に配置し、これらのターゲットホルダ3を間欠回転してターゲット7を送りながら順次それらのターゲット7をターゲット位置に送ってスパッタリングするようにした。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるマルチターゲットスパッタリング装置の真空チャンバ1の要部縦断側面図である。
【0014】
図1に示すように、真空チャンバ1の内部には、複数のターゲット7を円上に配置したターゲットホルダ3が上下に2段配置されている。このターゲットホルダ3は、真空チャンバ1の下の外部から回転運動を導入する回転機構5の支持軸に支持され、この回転機構5によりターゲット7を配置した円の中心の回りに間欠回転される。より具体的には、ここの回転機構5によるターゲットホルダ3の回転中心6は、それにターゲット7を配置した円の中心と一致しており、その間欠回転の間隔は、ターゲット7を配置した円上の間隔と同じピッチである。この回転機構5の支持軸はそれぞれのターゲットホルダ3について同軸上に個別に設けられており、複数のターゲットホルダ3は、それぞれ独立して間欠回転される。ターゲットホルダ3このターゲットホルダ3の例については後述する。
【0015】
このターゲットホルダ3のターゲット7が停止する位置の真上には、スパッタリング位置がある。このスパッタリング位置の真下には、ターゲットホルダ3の間欠回転に伴い、そのターゲットホルダ3に装着されたターゲット7が順次停止する。
【0016】
真空チャンバ1の中のターゲット位置の真上には、基板ホルダ11が配置され、この基板ホルダ11の下面に基板12が保持される。この基板ホルダ11の下面に保持された基板12は、前記ターゲットホルダ3に保持されたターゲット7が停止する位置において、同ターゲット7と上下に対向する。基板ホルダ11は、真空チャンバ1の上の外部から上下運動を導入する形式の昇降機構18により上下動される。
【0017】
他方、前記ターゲット位置の真下には、前記ターゲットホルダ3に保持され、ターゲット位置の真下に停止したターゲット7の下面に当接し、同ターゲット7にスパッタ電圧を印加するスパッタ電極2が配置されている。すなわち、このスパッタ電極2は、前記ターゲット位置の真下に停止したターゲット7を挟んで、前記基板ホルダ11の下面の基板12と対向する。
このスパッタ電極2は、例えばターゲット7に衝突させるイオンを発生するためのマグネット等を含む電極構造となっている。真空チャンバ1の外部であって、その下部にはスパッタ電極2に高周波電圧を印加する電源9が備えられている。
【0018】
さらにこのスパッタ電極2は、真空チャンバ1の下の外部から上下運動を導入する形式の昇降機構4により上下動される。この昇降機構4は、スパッタ電極2を昇降させることで、同スパッタ電極2を前記ターゲットホルダ3に保持されたターゲット7の下面に当接し、さらに同ターゲット7を昇降し、ターゲット7をターゲット位置まで上昇させ、再びターゲットホルダ3に戻すものである。
【0019】
図2は、2段のターゲットホルダ3の平面図を示している。(A)と(B)にそれぞれ示した上下のターゲットホルダ3は、共に同じ構成になっている。図示の場合、ターゲット7を装着、保持するターゲットホルダ3の保持孔8は、ターゲットホルダ3の回転中心6の回りの円上に72゜の間隔で5個所設けられている。そのうち一つの保持孔8が空になっていて、4つの保持孔にターゲット7が装着されている。なお、ターゲット7を装着していない空の保持孔8は、スパッタリングするターゲット7が少なくて済むような場合は、複数であってもよい。
【0020】
このターゲットホルダ3の円周部には、やはり72゜間隔で位置決めマーク10が設けられている。これらの位置決めマーク10はターゲットホルダ3を間欠回転するときの位置決めのために使用する。
なお、図1と図2に示したマルチターゲット装置では、ターゲットホルダ3が上下に2段設けられているが、これを3段以上設けることも出来る。
【0021】
次に、このマルチターゲットスパッタリング装置の一連の動作について説明する。
まず図1に示すように、真空チャンバ1内の基板ホルダ11の下端部に予め基板12を装着しておく。また、下段のターゲットホルダ3の空となっている保持孔8を互いに対向した基板12とスパッタ電極2との間の位置に設定する。他方、上段のターゲットホルダ3は、最初にスパッタリングするターゲット7を互いに対向した基板12とスパッタ電極2との間の位置に停止させる。
【0022】
この状態から下段のターゲットホルダ3の空となっている保持孔8を通して昇降機構4によりスパッタ電極2を上昇させ、このスパッタ電極2をターゲット7の下面に当接させる。さらに、このスパッタ電極2の上にターゲット7を載せてターゲット7をターゲット位置まで上昇させる。そこでスパッタ電極2に高周波電圧等のスパッタ電圧を印加し、ターゲット7をスパッタリングし、これによりターゲット7から発生する分子を上方に対向する基板12の成膜面に被着させ、成膜する。その後、昇降機構4によりスパッタ電極2を下降させ、ターゲット7をターゲットホルダ3に戻し、スパッタ電極2が元の位置に復帰する。
【0023】
その後、上段のターゲットホルダ3が間欠回転し、次にスパッタリングするターゲット7が互いに対向した基板12とスパッタ電極2との間の位置に移動する。ここで前記最初のターゲット7と同様にして昇降機構4によりスパッタ電極2を上昇させ、その上にターゲット7を載せてターゲット7をターゲット位置まで上昇させる。そこでターゲット7をスパッタリングし、基板12上に成膜する。その後ターゲット7を上段のターゲットホルダ3に戻し、スパッタ電極2が元の位置に復帰する。以下、順次同様にして上段のターゲットホルダ3に装着された複数のターゲット7、例えば図示の実施例では、4つのターゲット7をスパッタリングする。
【0024】
次いで、上段のターゲットホルダ3を間欠回転させ、その空となっている保持孔8を基板12とスパッタ電極2とが対向した位置に移動させる。この状態で下段のターゲットホルダ3が間欠回転し、次にスパッタリングするターゲット7が互いに対向した基板12とスパッタ電極2との間の位置に移動する。ここで上段のターゲットホルダ3の空となっている保持孔8を通して昇降機構4によりスパッタ電極2を上昇させ、その上にターゲット7を載せてターゲット7をターゲット位置まで上昇させる。そこでターゲット7をスパッタリングし、基板12上に成膜する。その後ターゲット7を下段のターゲットホルダ3に戻し、スパッタ電極2が元の位置に復帰する。以下、順次同様にして下段のターゲットホルダ3に装着された複数のターゲット7、例えば図示の実施例では、4つのターゲット7をスパッタリングする。
【0025】
以上により上下2段のターゲットホルダ3に装着された全てのターゲット7がスパッタリングされる。ターゲットホルダ3が3段以上設けられた場合も基本動作は全く同じであり、ターゲットホルダ3の段数が増えただけ前記の回数が増えるだけである。また、前記の動作の例では、上段のターゲットホルダ3に装着されたターゲット7からスパッタリングを行ったが、その順序は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によるマルチターゲットスパッタリング装置は、より多くの数のターゲット7を真空チャンバ1の中に収納し、それらターゲット7を順次ターゲット位置に送り出してスパッタリング出来るので、基板12上に多くの層の成膜が可能なコンパクトな装置として薄膜形成の分野等で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例であるマルチターゲットスパッタリング装置の真空チャンバの部分の要部縦断側面図である。
【図2】同マルチターゲットスパッタリング装置に使用されるターゲットホルダとそれに装着されたターゲットの例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 真空チャンバ
7 ターゲット
12 基板
3 ターゲットホルダ
5 回転機構
4 昇降機構
2 スパッタ電極
8 空の保持孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ(1)内のスパッタリング位置に複数のターゲット(7)を順次搬送し、前記スパッタリング位置でターゲット(7)を順次スパッタリングして同ターゲット(7)と対向する基板(12)上に薄膜を堆積させるマルチターゲットスパッタリング装置において、複数のターゲット(7)を円上に並べて配置したターゲットホルダ(3)を真空チャンバ(1)内に上下に多段に設け、このターゲットホルダ(3)を前記円の中心回りにそれぞれ独立して間欠回転させる回転機構(5)と、ターゲットホルダ(3)から一つのターゲット(7)を上下移動させて、同ターゲット(7)をスパッタリング位置へ搬送し、さらに同ターゲット(7)をスパッタリング位置からターゲットホルダ(3)に戻す昇降機構(4)とを備えることを特徴とするマルチターゲットスパッタリング装置。
【請求項2】
昇降機構(4)はスパッタ電極(2)を昇降させることにより、ターゲットホルダ(3)のターゲット(7)の下面にスパッタ電極(2)を当接させ、さらにターゲット(7)を昇降してこれをターゲットホルダ(3)とターゲット位置との間で昇降させることを特徴とする請求項1に記載のマルチターゲットスパッタリング装置。
【請求項3】
ターゲットホルダ(3)は、ターゲット(7)を装着していない空の保持孔(8)を少なくとも1つ有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマルチターゲットスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−191310(P2009−191310A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32551(P2008−32551)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(390027683)株式会社エイコー・エンジニアリング (14)
【Fターム(参考)】