マルチ画面表示装置
【課題】複数の画面で構成されるマルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供する。
【解決手段】複数の映像表示装置1の画面20を組み合わせてマルチ画面を構成し、マルチ画面に映像を表示するマルチ画面表示装置を構成する。各映像表示装置1では、メモリー回路4cに記憶される画面20の中央部の輝度に関する情報、および周辺部の輝度に関する情報に基づいて、画面20内における輝度むらが補正されるように、映像処理回路4aによって輝度値を補正する。次いで、複数の映像表示装置1間で、補正された輝度値を通信し、それらに基づいて、マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求める。求めた目標輝度値に基づいて、各映像表示装置1の映像処理回路4aによって、輝度値を更に補正する。
【解決手段】複数の映像表示装置1の画面20を組み合わせてマルチ画面を構成し、マルチ画面に映像を表示するマルチ画面表示装置を構成する。各映像表示装置1では、メモリー回路4cに記憶される画面20の中央部の輝度に関する情報、および周辺部の輝度に関する情報に基づいて、画面20内における輝度むらが補正されるように、映像処理回路4aによって輝度値を補正する。次いで、複数の映像表示装置1間で、補正された輝度値を通信し、それらに基づいて、マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求める。求めた目標輝度値に基づいて、各映像表示装置1の映像処理回路4aによって、輝度値を更に補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の映像表示装置の画面を組み合わせて1つの画面を構成して、映像を表示するマルチ画面表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ画面表示装置は、複数の映像表示装置の画面を組み合わせて1つの画面を構成して、映像を表示する装置である。マルチ画面表示装置を構成する映像表示装置としては、投射型映像表示装置および液晶映像表示装置などがある。
【0003】
投射型映像表示装置は、ランプまたは発光ダイオード(Light Emitting Diode;略称:LED)を光源とし、スクリーンの背面から映像を投射することによって、画面に映像を表示する。液晶映像表示装置は、蛍光管またはLEDをバックライトとし、バックライトの光を液晶デバイスに照射することによって、画面に映像を表示する。
【0004】
投射型映像表示装置および液晶映像表示装置のいずれの装置においても、光を画面へ照射するときには、照射むらが発生する。この照射むらは、画面内の輝度むらおよび色むらの原因となっている。具体的には、画面の中央が明るく、周辺が暗くなる傾向がある。
【0005】
このような輝度むらおよび色むらのある画面が複数組み合わせられて、マルチ画面表示装置の表示画面(以下「マルチ画面」という場合がある)が構成される。したがって、マルチ画面表示装置では、個々の映像表示装置内で生じる画面中央の輝度および色の個体差、ならびに隣接する画面端の輝度および色の個体差が、マルチ画面の一体感を損なう要因となっている。
【0006】
マルチ画面表示装置のマルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを補正する技術が、特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1に開示される技術では、マルチ画面表示装置を設置した後、目視で画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正するか、またはカメラもしくは輝度計などの計測器を使用して補正値を演算し、画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正する。
【0007】
また特許文献2に開示される技術では、画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正した後、光源またはバックライトの光量の変化などに起因する経時的な画面間の輝度むらおよび色むらを、映像表示装置内に配置した輝度センサーによって光量を測定して補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3287007号公報(第18頁、第12図)
【特許文献2】特開平10−90645号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されるようなマルチ画面表示装置を設置した後の目視または計測器による補正では、測定および調整に多くの時間を要する上に、設置場所およびマルチ画面を構成する画面の数によっては、計測器の使用および目視での調整が困難な場合があるという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示される技術では、輝度センサーによる画面中央の輝度の測定結果に基づいて、個々の映像表示装置の画面全体を一様な補正量で補正するので、画面間における画面中央の輝度むらおよび色むらは抑制できるものの、画面周辺の最適な補正まではできない。したがって、マルチ画面表示装置において隣接する映像表示装置の画面端の輝度むらおよび色むらを抑制できない場合があるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、複数の画面で構成されるマルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のマルチ画面表示装置は、複数の映像表示装置を備え、前記複数の映像表示装置の画面を組み合わせて構成されるマルチ画面に、映像信号に基づいて映像を表示するマルチ画面表示装置であって、前記複数の映像表示装置は、通信可能に接続され、各映像表示装置は、その映像表示装置の画面の中央部の輝度に関する中央輝度情報、および前記中央部を囲繞する周辺部の輝度に関する周辺輝度情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶される前記中央輝度情報および前記周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、前記映像信号に含まれる輝度値を補正する補正手段とを備え、前記複数の映像表示装置のうち、他の映像表示装置を制御するマスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段は、(a)他の映像表示装置の前記補正手段によって補正された前記輝度値を取得し、(b)取得した前記輝度値と、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値とに基づいて、前記マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求め、(c)求めた前記目標輝度値を前記他の映像表示装置に送信するとともに、求めた前記目標輝度値に基づいて、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正し、前記他の映像表示装置の前記補正手段は、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段から前記目標輝度値を受信すると、受信した前記目標輝度値に基づいて、その映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマルチ画面表示装置によれば、複数の映像表示装置を備えてマルチ画面表示装置が構成され、複数の映像表示装置の画面を組み合わせてマルチ画面が構成される。マルチ画面には、映像信号に基づいて映像が表示される。各映像表示装置では、記憶手段に記憶される中央輝度情報および周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、映像信号に含まれる輝度値が補正手段によって補正される。これによって、マルチ画面を構成する各画面内の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。
【0014】
また複数の映像表示装置のうち、マスター装置として予め定められる映像表示装置によって他の映像表示装置が制御される。マスター装置の補正手段によって、他の映像表示装置の補正手段によって補正された輝度値が取得される。取得された輝度値およびそのマスター装置の補正手段が補正した輝度値に基づいて、マルチ画面全体の目標輝度値が求められ、他の映像表示装置に送信される。またマスター装置の補正手段によって補正された輝度値が、求めた目標輝度値に基づいて補正される。他の映像表示装置では、その映像表示装置の補正手段によって補正された輝度値が、マスター装置の補正手段から受信した目標輝度値に基づいて補正される。これによって、マルチ画面を構成する複数の画面間における輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。
【0015】
したがって、マルチ画面における各画面内および画面間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することができる。また、この輝度むらの補正を色毎に行うことによって、マルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるマルチ画面表示装置において用いられる映像表示装置の一つである投射型映像表示装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】スクリーン2の画面20における輝度むらおよび色むらを模式的に示す図である。
【図3】4つの映像表示装置1を組合せて構成されるマルチ画面表示装置のマルチ画面21における輝度むらおよび色むらの一例を模式的に示す図である。
【図4】ゲイン調整処理をする前の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図5】ゲイン調整処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図6】グラデーション補正処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図7】映像表示装置1の製造段階における輝度データの測定方法を説明するための図である。
【図8】4つの映像表示装置1a,1b,1c,1dを組み合わせたマルチ画面表示装置10を模式的に示す図である。
【図9】マスターの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】スレーブの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図12】光源3cの光量の経時的な変化が生じている場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態であるマルチ画面表示装置において用いられる映像表示装置の一つである投射型映像表示装置1の構成を示すブロック図である。以下の説明において、「投射型映像表示装置」を、単に「映像表示装置」という場合がある。映像表示装置1は、スクリーン2、投射ユニット3および電気回路ユニット4を備えて構成される。
【0018】
投射ユニット3は、映像表示デバイス3a、集光レンズ3b、光源3c、投射レンズ3dおよび輝度センサー3eを備える。電気回路ユニット4は、映像処理回路4a、マイクロコンピュータ(以下「マイコン」という)回路4b、メモリー回路4cおよび映像入力回路4dを備える。
【0019】
映像入力回路4dは、映像表示装置1の外部に配設される映像ソース5と接続されている。映像ソース5から出力された映像信号は、映像入力回路4dに入力される。映像入力回路4dは、入力された映像信号をデジタル信号へ変換する。映像入力回路4dは、デジタル信号に変換した映像信号(以下「デジタル映像信号」という場合がある)を映像処理回路4aに与える。
【0020】
映像処理回路4aは、映像入力回路4dから与えられたデジタル映像信号に、そのデジタル映像信号が表す映像の画質を調整する処理(以下「画質調整処理」という場合がある)を施す。その後、映像処理回路4aは、画質調整処理後のデジタル映像信号を、投射ユニット3の映像表示デバイス3aが必要とするデジタル信号フォーマットへ変換して、映像表示デバイス3aに与える。映像処理回路4aは、補正手段に相当する。
【0021】
光源3cから発せられた光は、集光レンズ3bを介して均一に分散されて映像表示デバイス3aへ照射される。映像表示デバイス3aは、映像処理回路4aから与えられたデジタル映像信号に基づいて、光源3cから発せられた光を変調して映像光を生成する。映像表示デバイス3aは、生成した映像光を、投射レンズ3dを介してスクリーン2の表面に投射する。これによって、投射レンズ3dによって投射された映像光がスクリーン2の表面に照射されて、デジタル映像信号が表す映像が表示される。
【0022】
スクリーン2の表面のうち、映像が表示される部分を、映像表示装置1の画面20という。本実施の形態では、スクリーン2の表面全体が画面20となる。この画面20に、前述のように映像信号に基づいて映像が表示される。映像表示デバイス3aは、たとえばデジタルミラーデバイス(Digital Mirror Device;略称:DMD)によって実現される。
【0023】
映像処理回路4aは、映像入力回路4dから与えられたデジタル映像信号に、光の三原色である赤色(Red;略称:R)、緑色(Green;略称:G)、青色(Blue;略称:B)毎に独立して画質調整処理を施す。このように映像処理回路4aは、デジタル映像信号に色毎に画質調整処理を施す。
【0024】
画質調整処理としては、たとえば、画面全域の信号レベルを増減させる処理(以下「ゲイン調整処理」という場合がある)、および画面内のエリア毎に信号レベルを増減させる処理(以下「グラデーション補正処理」という場合がある)が挙げられる。本実施の形態では、グラデーション補正処理として、画面の上下左右の端部および四隅の合計8つのエリア毎に信号レベルを増減させる処理を行う。
【0025】
デジタル映像信号の信号レベルは、デジタル映像信号に含まれる輝度値に相当する。画質調整処理を行うこと、具体的には、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって信号レベルを増減させることは、輝度値を補正することに相当する。したがって、前述のようにデジタル映像信号に色毎に画質調整処理を施すことは、デジタル映像信号に含まれる輝度値を色毎に補正することに相当する。
【0026】
マイコン回路4bは、映像表示装置1の外部に配設される外部制御装置6と接続されている。マイコン回路4bは、外部制御装置6によって制御される。マイコン回路4bは、映像処理回路4aによって行われた画質調整処理における調整値(以下「画質調整値」という場合がある)を含む制御データをメモリー回路4cへ書き込む処理、およびメモリー回路4cから前記制御データを読み出す処理を行う。メモリー回路4cは、記憶手段に相当する。
【0027】
光源3cから発せられ、集光レンズ3bを介して均一に分散されて映像表示デバイス3aへ照射された光のうち、スクリーン2へ投射されない光(以下「不要光」という場合がある)は、映像表示デバイス3aによって輝度センサー3eに導かれる。輝度センサー3eは、不要光を計測することによって、光源3cから発せられた光の量(以下「光量」という)を計測する。輝度センサー3eは、計測手段に相当する。輝度センサー3eは、計測結果である計測した光量を表すデータ(以下「光量データ」という)をマイコン回路4bに与える。マイコン回路4bは、輝度センサー3eから与えられる光量データに基づいて、スクリーン2に投射される光量を擬似的に監視する。
【0028】
図1では、映像表示デバイス3aにおいてスクリーン2へ投射されない不要光を輝度センサー3eで計測することによって光源3cの光量を計測する例を示している。映像表示装置1が液晶映像表示装置によって実現される場合は、光源であるバックライトの光を直接、輝度センサー3eで計測するようにしてもよい。
【0029】
スクリーン2へ投射される光は、画面20の全域で均一となるのが理想であるが、実際には光源3c、集光レンズ3b、映像表示デバイス3a、投射レンズ3d、スクリーン2の順に光が導かれる過程で、光束の中央部が最大光量となり、中央部から周辺部へ向かうにつれて光量が少なくなっていく。つまり、スクリーン2において、画面20の中央部は最も明るく、画面20の周辺部は画面20の中央部に比べて暗くなる。
【0030】
このようなスクリーン2の画面20内における明るさのむらを「輝度むら」という。また、光の三原色であるR,G,B毎に輝度むらの量が異なることを「色むら」という。
【0031】
図2は、スクリーン2の画面20における輝度むらおよび色むらを模式的に示す図である。図2では、輝度むらおよび色むらが、画面20の水平座標および垂直座標を基準にした場合に、どのような輝度カーブとなるかの一例を示している。図2では、R,G,B毎に輝度カーブを示す。図2に示すように、多くの場合、画面20の中央部S0から周辺部S1に向かうにつれて輝度が減少し、特に画面20の端部においては、急激に輝度が減少する傾向がある。また、R,G,B毎に減少の仕方に差異があることが多い。
【0032】
図3は、4つの映像表示装置1を組合せて構成されるマルチ画面表示装置のマルチ画面21における輝度むらおよび色むらの一例を模式的に示す図である。マルチ画面21は、マルチ画面表示装置の表示画面である。図3に示す例では、マルチ画面21は、4つの映像表示装置1のスクリーン2の画面20を組合せて、1つの画面として構成されている。マルチ画面表示装置は、各映像表示装置1の画面20に前述のようにして映像信号に基づいて映像を表示することによって、マルチ画面21に映像信号に基づく映像を表示する。
【0033】
図3では、4つの映像表示装置1のスクリーン2を区別するために、スクリーンの参照符号「2」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1スクリーン2a、第2スクリーン2b、第3スクリーン2c、第4スクリーン2dとして示している。また各スクリーン2の画面20を区別するために、画面の参照符号「20」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1画面20a、第2画面20b、第3画面20c、第4画面20dとして示している。図3に示す例では、第2画面20bの周辺部Sbおよび第3画面20cの周辺部Scは、第1画面20aの周辺部Saおよび第4画面20dの周辺部Sdよりも暗くなっている。
【0034】
前述の図2に示すように、画面20が1つの場合、ユーザは、画面20に表示される映像の中央部S0、具体的には画面20の中央部S0を見る場合が多く、画面20の周辺部S1の輝度むらおよび色むらは、それほど目立たない。しかし、図3に示すように複数の画面20a,20b,20c,20dを組合せてマルチ画面21を構成すると、第1〜第4画面20a,20b,20c,20dの継ぎ目部分がマルチ画面21における中央部となる。したがって、各画面20a,20b,20c,20dにおける周辺部Sa,Sb,Sc,Sdの輝度むらおよび色むらが際立って目立つことになる。
【0035】
本実施の形態では、以上のような輝度むらおよび色むらを補正するために、前述のゲイン調整処理およびグラデーション補正処理を行う。
【0036】
図4は、ゲイン調整処理をする前の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図5は、ゲイン調整処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図6は、グラデーション補正処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【0037】
図4〜図6において、横軸は、画面水平座標を示し、左側の縦軸は、映像信号レベルを示し、右側の縦軸は、画面内輝度[%]を示す。画面内輝度は、画面20内の最も高い輝度を100%として、画面20内における輝度の相対的な大きさを表したものである。図4〜図6では、映像信号レベルを表すグラフを参照符号「31」〜「33」で示し、画面内輝度を表すグラフを参照符号「34」〜「36」で示す。
【0038】
前述のように、図1に示す映像ソース5から出力された映像信号は、映像入力回路4dに入力されて、デジタル映像信号に変換される。たとえば、デジタル映像信号で表される映像の各画素の輝度値が、R,G,Bそれぞれ、0〜255の8ビット(bit)の階調で表される場合、全体が白色の画素を表す映像信号は、R=255、G=255、B=255の映像信号レベルのデジタル映像信号に変換される。また、全体が黒色の画素を表す映像信号は、R=0、G=0、B=0の映像信号レベルのデジタル映像信号に変換される。
【0039】
デジタル映像信号は、映像処理回路4aおよび映像表示デバイス3aを介して、最終的にスクリーン2に映像として出力される。ここで、スクリーン2の画面20に、白色の画素を表す映像信号に基づいて映像を表示したときに、画面20の周辺部S1の輝度が暗い場合を考える。この場合、画面20の周辺部S1に相当する画素の映像信号レベルを部分的に増幅して、スクリーン2上での画面20の周辺部S1の輝度を高くしようとしても、映像信号レベルは、既に8ビットの階調の最大値である255であるので、これ以上高くすることができない。
【0040】
そこで本実施の形態では、映像処理回路4aにおいて、画面20の全域の映像信号レベルを一旦減衰させ、減衰分を画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度むらおよび色むらの補正のための増幅分に割り当てるようにする。
【0041】
具体的には、以下の式(1)に示すように、映像処理回路4aに入力される、R,G,Bに対応する映像信号Ri,Gi,Biに、R,G,Bに対応するゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainをそれぞれ乗算することによって、映像処理回路4aから出力される映像信号Ro,Go,Boのダイナミックレンジを小さくする。
【0042】
【数1】
【0043】
図4〜図6に示す例では、画面20の中央部S0と周辺部S1との輝度むら、すなわち輝度の差は、R,G,Bともに最大10%であるので、ゲイン調整係数を、Rgain=0.9、Ggain=0.9、Bgain=0.9とする。これによって、全体が白色の画素を表すデジタル映像信号は、映像処理回路4aにおいて、図5に示すように、前記式(1)に従って、R=230、G=230、B=230のデジタル映像信号に変換される。この変換後の輝度値と変換前の輝度値との差が、輝度値の補正範囲CRとなる。
【0044】
この補正範囲CR内で、画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を増幅することができる。つまり、R,G,B毎に、画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を10%まで増幅することが可能となる。
【0045】
そこで、映像処理回路4aにおいて、グラデーション補正処理によって、画面20の周辺部S1に相当する画素のみ、輝度値を増幅する。具体的には、図6に示すように、画面20の周辺部S1の端部に相当する画素の輝度値を10%増幅し、周辺部S1の残りの部分に相当する画素については、画面20の中央部S0に近づくに従って増幅率が徐々に小さくなり、中央部S0との境界部で増幅率がゼロ(0)になるように増幅する。たとえば、画面20の周辺部S1の端部に相当する画素の輝度値は、映像信号レベルで、255−230=+25増幅させる。
【0046】
このように画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を増幅することによって、R,G,Bについてそれぞれ、画面20内の輝度を均一にすることができる。したがって、画面20内の輝度むらおよび色むらを軽減することができる。
【0047】
以上のようにゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって、輝度むらおよび色むらを補正するためには、予め、画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を測定し、輝度に関する情報(以下「輝度情報」という場合がある)を記憶させておく必要がある。本実施の形態では、映像表示装置1を製造する段階で、画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を、光の三原色であるR,G,B毎に、カメラまたは輝度計などの計測器を用いて測定し、映像表示装置1に内蔵されているメモリー回路4cに輝度情報を記憶させておく。輝度情報は、輝度の測定値そのものでもよく、輝度の測定値から求められる値でもよい。
【0048】
図7は、映像表示装置1の製造段階における輝度データの測定方法を説明するための図である。映像表示装置1の製造段階では、輝度計7によって、スクリーン2の画面20の全域の輝度を測定する。輝度計7は、外部制御装置6に接続されている。
【0049】
まず、映像表示装置1において、画面20の全域に、白色を表す映像信号に基づいて映像を表示する。このとき、R,G,Bの単色表示に切り替えながら、輝度計7によって、画面中央部R0、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4、画面四隅部R5〜R8の合計9個のエリアの輝度を測定する。輝度計7の測定データ、すなわち測定された各エリアの輝度を表す輝度データは、輝度計7に接続された外部制御装置6へ伝送される。
【0050】
画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8は、画面20の周辺部に相当し、画面中央部R0を囲繞している。画面四隅部R5〜R8は、画面左上隅部R5、画面右上隅部R6、画面左下隅部R7および画面右下隅部R8を含む。ここで、「上」、「下」、「右」、「左」とは、画面20を画面20に垂直な方向から見たときのものである。
【0051】
外部制御装置6は、輝度計7から伝送された測定データから、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R6の8個のエリアについて、画面中央部R0の輝度に対する各エリアの輝度の比率である倍率をそれぞれ演算する。外部制御装置6は、R,G,B毎に倍率を演算し、8エリア×3色=24個の倍率を表すデータ(以下「倍率データ」という場合がある)と、画面中央部R0の3色の輝度データ、すなわち3個の輝度データとの合計27個のデータを映像表示装置1のユニット部9へ送信する。
【0052】
画面中央部R0の3個の輝度データは、画面20の中央部20の輝度に関する輝度情報である中央輝度情報に相当する。画面20の周辺部である画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R6の8個のエリアについて求められた倍率データは、周辺部の輝度に関する輝度情報である周辺輝度情報に相当する。
【0053】
ユニット部9は、前述の図1に示す投射ユニット3および電気回路ユニット4を含む。外部制御装置6は、具体的には、ユニット部9に含まれる電気回路ユニット4のマイコン回路4bに、倍率データおよび輝度データを送信する。
【0054】
外部制御装置6は、画面中央部R0の輝度データRct,Gct,Bctと、画面中央部R0の周囲の各エリアR1〜R8の輝度データRn(nは1〜8の整数),Gm(mは1〜8の整数),Bl(lは1〜8の整数)とから、画面中央部R0の周囲の各エリアR1〜R8の倍率データRXn(nは1〜8の整数),GXm(mは1〜8の整数),BXl(lは1〜8の整数)を、以下の式(2)に従って演算する。
【0055】
【数2】
【0056】
式(2)の変数n,m,lは、画面中央部R0の周囲の各エリアを示す参照符号R1〜R8の添え字1〜8に対応している。以下においても同様である。変数n,m,lが1の場合は、画面上端部R1のデータを表す。変数n,m,lが2の場合は、画面下端部R1のデータを表す。変数n,m,lが3の場合は、画面左端部R3のデータを表す。変数n,m,lが4の場合は、画面右端部R4のデータを表す。変数n,m,lが5の場合は、画面左上隅部R5のデータを表す。変数n,m,lが6の場合は、画面右上隅部R6のデータを表す。変数n,m,lが7の場合は、画面左下隅部R7のデータを表す。変数n,m,lが8の場合は、画面右下隅部R8のデータを表す。
【0057】
映像表示装置1は、外部制御装置6から伝送されて、マイコン回路4bで受信した倍率データおよび輝度データを、マイコン回路4bによって、メモリー回路4cに記憶する。メモリー回路4cに記憶された倍率データおよび輝度データは、マイコン回路4bによって読み出され、映像処理回路4aに与えられる。
【0058】
映像処理回路4aは、1画面分のデータを図7に示すように、画面中央部R0、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4、画面四隅部R5〜R8の合計9つのエリアに分割して、グラデーション補正処理を行う。映像処理回路4aは、図7に示す画面中央部R0のエリア以外の8個のエリアR1〜R8にそれぞれ対応する8個のグラデーション補正回路を備える。映像処理回路4aは、各グラデーション補正回路によって、エリア単位でグラデーション補正処理を行う。
【0059】
具体的には、映像処理回路4aは、前記式(1)によって映像信号全体のダイナミックレンジを小さくしたR,G,Bの映像信号、すなわちゲイン調整処理後のR,G,Bの映像信号Ro,Go,Boに、以下の式(3)に示すように、グラデーション補正処理のパラメータであるグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)を乗算する。グラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)は、R,G,Bの各色について、変数n,m,l(n,m,lは1〜8の整数)に対応するエリアR1〜R8毎に、それぞれ定められる。
【0060】
【数3】
【0061】
このように映像処理回路4aは、ゲイン調整処理後のR,G,Bの映像信号Ro,Go,Boに、式(3)に示すようにグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)を乗算することによって、画面全体の輝度むらおよび色むらを補正する。式(3)において、「Rgain×Rin」は、変数nで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のRの映像信号を表し、「Ggain×Gim」は、変数mで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のGの映像信号を表し、「Bgain×Bil」は、変数lで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のBの映像信号を表す。
【0062】
図8は、4つの映像表示装置1a,1b,1c,1dを組み合わせたマルチ画面表示装置10を模式的に示す図である。マルチ画面表示装置10は、前述の図1に示す映像表示装置1を4つ組み合わせて構成されている。図8では、4つの映像表示装置1を区別するために、映像表示装置の参照符号「1」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、「第1映像表示装置1a」,「第2映像表示装置1b」,「第3映像表示装置1c」,「第4映像表示装置1d」として示している。4つの映像表示装置1を区別する必要が無い場合には、映像表示装置の参照符号「1」の添え字「a」〜「d」を省略して示す。
【0063】
図8では、理解を容易にするために、各映像表示装置1a,1b,1c,1dの投射ユニット3および電気回路ユニット4は記載を省略し、スクリーン2の画面20のみを示している。図8では、各映像表示装置1のスクリーン2の画面20を、その映像表示装置1を示す添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1画面20a、第2画面20b、第3画面20c、第4画面20dとして示す。マルチ画面表示装置10の表示画面であるマルチ画面21は、前述の図3に示すように、第1〜第4画面20a〜20dを組み合わせて構成されている。
【0064】
マルチ画面表示装置10では、各映像表示装置1a〜1d間で通信を行うために、各映像表示装置1a〜1d間を通信ケーブル8によって接続する。図8に示す例では、第1映像表示装置1aと第2映像表示装置1bとを接続し、第2映像表示装置1bと第3映像表示装置1dとを接続し、第3映像表示装置1dと第4映像表示装置1cとを接続している。このようにマルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1a〜1dは、通信可能に接続される。
【0065】
各映像表示装置1a〜1dには、重複しないID番号が割り当てられる。4つの映像表示装置1a〜1dは、各映像表示装置1a〜1d間で通信を行うときに全ての制御を統括するマスター装置(以下、単に「マスター」という場合がある)と、マスターによって制御されるスレーブとに割り振られる。
【0066】
各映像表示装置1a〜1dをマスターとして使用するのか、またはスレーブとして使用するのかは、たとえばユーザによって設定される。ユーザは、前述の図1に示す外部制御装置6の不図示の操作部を操作することによって、各映像表示装置1a〜1dを、マスターまたはスレーブに設定することができる。このように各映像表示装置1a〜1dは、マスターまたはスレーブとして予め定められる。
【0067】
外部制御装置6は、ユーザによる操作部の操作結果に基づいて、各映像表示装置1a〜1dの電気回路ユニット4のマイコン回路4bに、マスターとして動作するように指示する制御信号(以下「マスター指示信号」という)、またはスレーブとして動作するように指示する制御信号(以下「スレーブ指示信号」という)を与える。マスター指示信号を受信した映像表示装置1は、マスターとしての動作を開始する。スレーブ指示信号を受信した映像表示装置1は、スレーブとしての動作を開始する。
【0068】
図8に示す例では、各映像表示装置1a〜1dのID番号をそれぞれID1,ID2,ID3,ID4とする。また第1映像表示装置1aをマスターとし、その他の3つの映像表示装置、すなわち第2〜第3映像表示装置1b,1c,1dをそれぞれ第1スレーブ、第2スレーブ、第3スレーブとする。したがって図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aが、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b,1c,1dを制御する。
【0069】
以上のようにして複数の映像表示装置1を通信ケーブル8で接続し、各映像表示装置1a〜1dをマスターまたはスレーブに設定することによって、マルチ画面表示装置10の設置が完了する。その後、各映像表示装置1の画面20内における輝度むらおよび色むら、ならびにマルチ画面21を構成する画面20a〜20d間における輝度むらおよび色むらの補正を行う。
【0070】
図9は、マスターに設定された映像表示装置(以下「マスターの映像表示装置」または単に「マスター」という場合がある)1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートの各処理は、マスターの映像表示装置1によって実行される。前述の図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aによって実行される。図9に示すフローチャートの処理は、マスターに設定された映像表示装置1に電源が投入されるか、または映像表示装置1が外部制御装置6からマスター指示信号を受信することによってマスターに設定されると開始され、ステップa1に移行する。
【0071】
ステップa1において、マスターの映像表示装置1は、補正開始命令を全てのスレーブへ送信する。図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aは、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b〜1dに補正開始命令を送信する。
【0072】
マスターの映像表示装置1は、マイコン回路4bによって、通信ケーブル8を介して、補正開始命令を、スレーブに設定された映像表示装置(以下「スレーブの映像表示装置」または単に「スレーブ」という場合がある)1にそれぞれ送信する。補正開始命令は、マスターと通信ケーブル8で直接接続されていないスレーブには、マスターに通信ケーブル8で直接接続されたスレーブを介して与えられる。
【0073】
たとえば図8に示すように、マスター1aと第1スレーブ1bとが接続され、第1スレーブ1bと第3スレーブ1dとが接続され、第3スレーブ1dと第2スレーブ1cとが接続されている場合、第3スレーブ1dには、第1スレーブ1bを介して、補正開始命令が与えられる。また第2スレーブ1cには、第1スレーブ1bおよび第3スレーブ1dを介して、補正開始命令が与えられる。このようにして補正開始命令を送信すると、マスターの映像表示装置1は、ステップa2に移行する。
【0074】
ステップa2において、マスターの映像表示装置1は、画面20の全域の輝度を減衰するゲイン調整処理を行う。具体的には、マスターの映像表示装置1は、自装置内のメモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlを読み出す。倍率データRXn,GXm,BXlは、R,G,Bの各色について、変数n,m,lで示されるエリア毎に求められて記憶されている。
【0075】
マスターは、R,G,Bの各色についてそれぞれ、読み出した各エリアの倍率データRXn,GXm,BXlの中から最小値min(RXn),min(GXm),min(BXl)を求め、これを最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして決定する。
【0076】
次いで、マスターは、以下の式(4)に示すように、前記最小倍率データRXmin,GXmin,BXminをゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして、前記式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行う。このようにしてゲイン調整処理を行うと、マスターは、ステップa3に移行する。式(4)において、変数n,m,lは、1〜8の整数である。
【0077】
【数4】
【0078】
ステップa3において、マスターの映像表示装置1は、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路によって、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行う。グラデーション補正回路は、前述のように画面20の周辺部S1のエリア毎に設けられ、独立してグラデーション補正処理を行う。前述の図7に示す例では、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立して設けられるグラデーション補正回路によって、グラデーション補正処理を行う。
【0079】
グラデーション補正処理では、実際には、以下の式(5)に示すように、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlの逆数をグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlとして、前記式(3)に代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。このようにして画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行うと、マスターは、ステップa4に移行する。
【0080】
【数5】
【0081】
このようにして映像処理回路4aは、メモリー回路4cに記憶されている周辺輝度情報である倍率データに基づいて、画面20内における輝度むらが補正されるように、映像信号に含まれる輝度値を補正する。メモリー回路4cに記憶されている倍率データは、前述のように、中央輝度情報である画面中央部S0の輝度データと、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8の各エリアの輝度データとを用いて求められたものである。したがって、倍率データに基づいて輝度値を補正することは、中央輝度情報と周辺輝度情報とに基づいて輝度値を補正することに相当する。
【0082】
ステップa4において、マスターの映像表示装置1は、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するために、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、光源3cの初期の光量を表す輝度センサーデータ(以下「初期の輝度センサーデータ」という)SensIとして取得する。初期の輝度センサーデータSensIを取得すると、マスターは、ステップa5に移行する。
【0083】
ステップa5において、マスターは、以下の式(6)に従って、ステップa3で画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出する。式(6)において、SensNは、後述する最新の輝度センサーデータであり、SensNの未取得時にはSensIを代入する。ステップa3の補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出すると、マスターは、ステップa6に移行する。
【0084】
【数6】
【0085】
ステップa6において、マスターは、全てのスレーブに、補正後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを送信するように指示する送信命令を送信する。送信命令は、前述の補正開始命令と同様にして、各スレーブに与えられる。送信命令を送信すると、マスターは、ステップa7に移行する。
【0086】
ステップa7において、マスターは、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信したか否かを判断する。ステップa7において、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信したと判断した場合は、ステップa8に移行し、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信していないと判断した場合は、全てのスレーブから受信するまで待機する。
【0087】
ステップa8において、マスターは、以下の式(7)に示すように、マスターおよび全スレーブを含む全ての映像表示装置1、すなわち第1〜第4映像表示装置1a〜1dの補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrti,Gbrti,Bbrti(iは1〜4の整数)の中から、最小値min(Rbrti),min(Gbrti),min(Bbrti)を求め、画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtとして決定する。式(7)における変数iは、1〜4の整数である。目標輝度データは、マルチ画面21全体の目標となる目標輝度値に相当する。
【0088】
【数7】
【0089】
次いで、ステップa9において、マスターは、ステップa8で決定した目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtを全てのスレーブへ送信する。次いで、ステップa10において、マスターは、ステップa8で決定した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtに基づいて、画面20の中央部S0の輝度値を色毎に補正して、輝度および色を補正する。具体的には、映像処理回路4aによって、映像信号の前記式(3)におけるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを、以下の式(8)に示すように、ステップa8で決定した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtで補正することによって、画面20の中央部S0の輝度および色を補正する。
【0090】
【数8】
【0091】
後述するように、各スレーブにおいても同様にしてゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainが補正される。これによって、マルチ画面21を構成する各画面20の中央部S0の輝度および色が補正されるので、画面20a〜20d間における中央部S0の輝度むらおよび色むらを補正することができる。このようにして画面20内および画面20a〜20d間の中央部S0の輝度むらおよび色むらを補正すると、マスターは、ステップa11に移行する。
【0092】
ステップa11において、マスターは、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、光源3cの最新の光量を表す輝度センサーデータ(以下「最新の輝度センサーデータ」という)SensNとして取得する。
【0093】
最新の輝度センサーデータSensNの取得後は、ステップa5に戻り、前述のステップa5〜ステップa11の処理を繰返す。これによって、ステップa11において、光源3cの光量を輝度センサー3eで定期的に計測し、ステップa5〜ステップa10において、画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを補正し、新たなゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを演算する。これらの処理を繰返し行うことによって、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正することができる。
【0094】
図10は、スレーブの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートの各処理は、スレーブの映像表示装置1によって実行される。スレーブが複数ある場合には、各スレーブによって実行される。前述の図8に示す例では、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b,1c,1dによって、それぞれ実行される。図10に示すフローチャートの処理は、スレーブに設定された映像表示装置1に電源が投入されるか、または映像表示装置1が外部制御装置6からスレーブ指示信号を受信することによってスレーブに設定されると開始され、ステップb1に移行する。
【0095】
ステップb1において、スレーブの映像表示装置1は、マスターから送信される補正開始命令を受信したか否かを判断する。この補正開始命令は、前述の図9に示すステップa1において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb1において、補正開始命令を受信したと判断した場合は、ステップb2に移行し、補正開始命令を受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0096】
ステップb2において、スレーブの映像表示装置1は、前述の図9に示すステップa2と同様にして、画面20の全域の輝度を減衰するゲイン調整処理を行う。具体的には、スレーブの映像表示装置1は、自装置のメモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlを読み出し、R,G,Bの各色についてそれぞれ、倍率データの最小値min(RXn),min(GXm),min(BXl)を求め、これを最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして決定する。
【0097】
次いで、スレーブは、前記式(4)に示すように、前記最小倍率データRXmin,GXmin,BXminをゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして、前記式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行う。このようにしてゲイン調整処理を行うと、スレーブは、ステップb3に移行する。
【0098】
ステップb3において、スレーブの映像表示装置1は、前述の図9に示すステップa3と同様にして、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路によって、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行う。前述の図7に示す例では、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立して設けられるグラデーション補正回路によって、グラデーション補正処理を行う。
【0099】
グラデーション補正処理では、実際には、前記式(5)に示すように、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlの逆数を、グラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlとして、前記式(3)に代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。このようにして画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行うと、スレーブは、ステップb4に移行する。
【0100】
ステップb4において、スレーブの映像表示装置1は、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するために、前述の図9に示すステップa4と同様にして、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、初期の輝度センサーデータSensIとして取得する。初期の輝度センサーデータSensIを取得すると、スレーブは、ステップb5に移行する。
【0101】
ステップb5において、スレーブは、前述の図9に示すステップa5と同様にして、前記式(6)に従って、ステップb3で画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出する。前記式(6)における最新の輝度センサーデータSensNの未取得時には、SensIを代入する。ステップb3の補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出すると、スレーブは、ステップb6に移行する。
【0102】
ステップb6において、スレーブは、マスターから送信される、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信したか否かを判断する。この送信命令は、前述の図9に示すステップa6において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb6において、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信したと判断した場合は、ステップb7に移行し、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0103】
ステップb7において、スレーブは、ステップb5で取得した、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtをマスターに送信する。補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtをマスターに送信すると、スレーブは、ステップb8に移行する。
【0104】
ステップb8において、スレーブは、マスターから送信される画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtを受信したか否かを判断する。この目標輝度データは、前述の図9に示すステップa9において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb8において、目標輝度データを受信したと判断した場合は、ステップb9に移行し、目標輝度データを受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0105】
ステップb9において、スレーブは、前述の図9に示すステップa10と同様にして、受信した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtに基づいて、画面20の中央部S0の輝度値を色毎に補正して、輝度および色を補正する。具体的には、各スレーブにおいて、映像処理回路4aによって、映像信号の前記式(3)におけるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを、前記式(8)に示すように受信した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtで補正し、画面20の中央部S0の輝度および色を補正する。
【0106】
次いで、ステップb10において、スレーブは、前述の図9に示すステップa11と同様にして、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、最新の輝度センサーデータSensNとして取得する。
【0107】
最新の輝度センサーデータSensNの取得後は、ステップb5に戻り、前述のステップb5〜ステップb10の処理を繰返す。これによって、ステップb10において、光源3cの光量を輝度センサー3eで定期的に計測し、ステップb5〜b9において、画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを補正し、新たなゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを演算する。これらの処理を繰返し行うことによって、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正することができる。
【0108】
以上のように本実施の形態では、各映像表示装置1の画面20の中央部S0の輝度に関する中央輝度情報、および中央部S0を囲繞する周辺部S1の輝度に関する周辺輝度情報をメモリー回路4cに記憶しておく。具体的には、各映像表示装置1を製造する段階で、その映像表示装置1の画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を測定し、中央部S0の輝度データ、および中央部S0の輝度に対する周辺部S1の輝度の比率である倍率データをメモリー回路4cに記憶しておく。中央部S0の輝度データは、中央輝度情報に相当する。倍率データは、周辺輝度情報に相当する。
【0109】
そして、複数の映像表示装置1を組み合わせてマルチ画面表示装置10を設置するとき、すなわち複数の映像表示装置1の画面20を組み合わせてマルチ画面20を構成するときに、各映像表示装置1内で画面20内の輝度むらおよび色むらがなくなるように、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理を行い、映像信号に含まれる輝度値を補正する。
【0110】
その後、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって補正した各映像表示装置1の輝度値を通信して、これらの輝度値に基づいてマルチ画面20全体の目標輝度値を求め、目標輝度値に基づいて、各映像表示装置1で輝度値を補正する。
【0111】
これによって、マルチ画面21における各画面20内の輝度むら、およびマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置10を提供することができる。
【0112】
また本実施の形態では、輝度値を色毎に補正するので、色むらについても補正することができる。つまり本実施の形態では、マルチ画面21における各画面20内の色むら、およびマルチ画面21を構成する複数の画面20間の色むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。したがって、マルチ画面21における各画面20内の輝度むらおよび色むら、ならびにマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置10を提供することができる。
【0113】
また本実施の形態では、マルチ画面表示装置10の組み立て時に、カメラおよび輝度計などを使わずに簡単にマルチ画面21を構成する複数の画面20間で、輝度むらおよび色むらがない調整を行うことが可能である。
【0114】
また本実施の形態では、各映像表示装置1は、画面20を照明する光源3cから発せられる光量を計測する計測手段として、輝度センサー3eを備える。そして、映像処理回路4aは、前述の図9のステップa5〜ステップa11および図10のステップb5〜ステップb10において、輝度センサー3eの計測結果に基づいて、輝度値を補正する。つまり、本実施の形態では、マルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1間で各々の輝度を通信し、リアルタイムで補正を行うので、運用時に各映像表示装置1の輝度が経時変化によって低下しても、常にマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度を均一に保つことができる。
【0115】
以上に述べた本実施の形態では、図7において1つの画面20内を9つのエリアに分割し、画面20の周辺の8つのエリアに対してグラデーション補正処理を行う場合について説明したが、画面20を分割するエリアは、必ずしも9つである必要はなく、グラデーション補正処理を行うエリアは、必ずしも8つである必要はない。たとえば、画面20の上下左右の4つのエリアのみ、または、9つ以上のエリアでグラデーション補正処理を行うようにしてもよい。このように画面20の上下左右の4つのエリアのみ、または、9つ以上のエリアでグラデーション補正処理を行う場合でも、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0116】
<第2の実施の形態>
前述の第1の実施の形態におけるマルチ画面表示装置10を構成する各映像表示装置1では、光源3cの光量の経時的な変化に伴い、画面20内において、画面20の中央部S0に対する周辺部S1の輝度の減衰量が軽減する場合がある。この場合、マルチ画面表示装置10の設置時に調整されたグラデーション補正係数が適切な値ではなくなり、かえって画面20内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面20a〜20d間の輝度むらおよび色むらの要因となることがある。そこで、本実施の形態では、グラデーション補正係数の再設定を行う。
【0117】
図11は、光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図12は、光源3cの光量の経時的な変化が生じている場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図11は、マルチ画面表示装置10の設置時におけるグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフに相当する。
【0118】
図11および図12において、横軸は、画面水平座標を示し、左側の縦軸は、映像信号レベルを示し、右側の縦軸は、画面内輝度[%]を示す。画面内輝度は、画面20内の最も高い輝度を100%として、画面20内における輝度の相対的な大きさを表したものである。図11および図12では、図11の光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合の画面中央部S0の画面内輝度を100%として示している。図11および図12では、映像信号レベルを表すグラフを参照符号「41」および「42」で示し、画面内輝度を表すグラフを参照符号「43」および「44」で示す。
【0119】
図11に示すマルチ画面表示装置10の設置時における画面20の中央部S0に対する周辺部S1の輝度の減衰量LA1は、光源3cの光量の経時的な変化、具体的には光量の減少に伴い軽減していく。そして、図12に示すように、画面20の中央部S0の画面内輝度がマルチ画面表示装置10の設置時における値の75%となった時点では、周辺部S1の輝度の減衰量LA2は、マルチ画面表示装置10の設置時における値LA1よりも小さくなる(LA1>LA2)。
【0120】
したがって、グラデーション補正量も軽減する方が適切となる。グラデーション補正量を軽減するために、本実施の形態では、グラデーション補正量を表すグラデーション補正係数GCを再設定する。たとえば、図12に示すように光源3cの光量が減少した場合には、グラデーション補正係数GC2を、図11に示すマルチ画面表示装置10の設置時に設定されたグラデーション補正係数GC1よりも小さくする(GC2<GC1)。つまり、本実施の形態では、映像処理回路4aは、輝度センサー3eの計測結果の変化量に基づいて、輝度値を補正する。グラデーション補正係数は、具体的には、以下のようにして再設定される。
【0121】
光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するときに、前記式(8)によって得られるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgain、および前記式(2)によって得られる倍率データRXn(nは1〜8の整数),GXm(mは1〜8の整数),BXl(lは1〜8の整数)を、以下の式(9)に代入してグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlを再計算し、再設定する。このように再計算して得た値をグラデーション補正係数として再設定することによって、より適切なグラデーション補正係数を用いて、グラデーション補正処理を行うことができる。
【0122】
【数9】
【0123】
以上のように本実施の形態では、映像処理回路4aは、輝度センサー3eの計測結果の変化量に基づいて、輝度値を補正する。具体的には、マルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1間で各々の輝度を通信し、リアルタイムで補正を行うときに、適切なグラデーション補正係数を再設定する。これによって、運用時に各映像表示装置1の輝度が経時変化しても、各映像表示装置1の画面20の輝度むらおよび色むらを適切に補正することができる。したがって、マルチ画面表示装置10において隣接する複数の映像表示装置1間において、画面20の端部における輝度むらおよび色むらを抑制することができる。
【0124】
<第3の実施の形態>
前述の第1の実施の形態においては、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminを、映像処理回路4aの映像信号のゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行っている。しかし、減衰量に限度値を設けないと、極端に小さな倍率データが存在する場合に、画面20の全域の映像レベルを大幅に減衰させることとなり、画面20の中央部S0の輝度性能を劣化させることとなる。
【0125】
そこで本実施の形態では、前記減衰量に限度値Xlimitを設定し、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminが限度値Xlimitを下回る場合は、限度値Xlimitを最小倍率データとして用いる。
【0126】
具体的には、前述の図9のステップa2および図10のステップb2において、マスターおよびスレーブである全ての映像表示装置1は、それぞれ、以下の式(10)に示すように、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXl(n,m,lは1〜8の整数)の最小値と、予め定める限度値Xlimitとのうちの大きい方の値を選択して算出する。各映像表示装置1は、算出した値をゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして用いる。
【0127】
【数10】
【0128】
次いで、前述の図9のステップa3および図10のステップb3において、マスターおよび全てのスレーブは、映像処理回路4a内にある画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立するグラデーション補正回路によってグラデーション補正処理を行う。
【0129】
本実施の形態では、最小倍率データRXn,GXm,BXlが限度値Xlimitよりも小さい場合は、限度値Xlimitをグラデーション補正のパラメータとして選択する。具体的には、前記式(3)におけるグラデーション調整係数Rgradn,Ggradm,Bgradlに、以下の式(11)に示す値を代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。式(11)において、変数n,m,lは、1〜8の整数である。
【0130】
【数11】
【0131】
以上のように本実施の形態の映像処理回路4aは、式(11)に示すように、補正後の輝度値が、予め定める限度値以下になると、限度値を、補正後の輝度値として出力する。具体的には、各映像表示装置1内でグラデーション補正処理を行うときに、画面20の中央部S0の輝度と周辺部S1の輝度との差が、予め定める閾値以上になった場合に、グラデーション補正の上限を設けている。これによって、各映像表示装置1の画面20内での輝度むらおよび色むらを軽減させることができる。またグラデーション補正処理に伴うマルチ画面21全体の輝度の低下を最小限に抑えることができる。
【0132】
本実施の形態では、R,G,Bに対して共通の限度値Xlimitを設ける場合について説明したが、R,G,Bそれぞれに対して異なる限度値を設定してもよい。
【0133】
<第4の実施の形態>
本実施の形態では、マルチ画面表示装置10を構成する映像表示装置1において、光源3cの光量の経時的な変化によって、輝度が、初期の輝度値よりも、予め定める閾値以上低下した場合、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路の動作を停止するように制御する。
【0134】
具体的には、メモリー回路4c内に記憶されている製造時の輝度値を初期の輝度値として用いる。そして、初期の輝度値(以下「初期輝度値」という場合がある)と輝度センサー3eによって測定された輝度値(以下「測定輝度値」という場合がある)とを比較し、初期輝度値に対して、測定輝度値が、予め定める閾値以上低下している場合、換言すれば、初期輝度値に対する測定輝度値の比率が、予め定める輝度閾値YDth以下である場合、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路の動作を停止する。
【0135】
たとえば、測定輝度値が、初期輝度値に対して40%以上低下した場合、換言すれば、初期輝度値に対する測定輝度値の比率が、輝度閾値YDth=0.6以下である場合、グラデーション補正回路の動作を停止する。
【0136】
この場合、前記式(6)によって求められる、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後の画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtは、前記式(6)における最小倍率データRXmin,GXmin,BXminを「1」として、以下の式(12)に従って求められる。このようにして求められた輝度データ画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを用いて、再度、前述の図9のステップa8において、マルチ画面21全体における画面20の中央部S0の目標輝度を算出し直す。
【0137】
【数12】
【0138】
以上のように本実施の形態では、各映像表示装置1の画面20内での輝度の低下が、予め定められる閾値以上になった場合に、グラデーション補正処理を停止するように映像処理回路4aを制御する。すなわち、映像処理回路4aは、マルチ画面20全体の目標輝度値が、予め定める閾値以下になると、輝度値の補正を停止する。
【0139】
これによって、経時変化によってマルチ画面21全体の輝度が低下した場合に、グラデーション補正処理を行うことによって発生する輝度の低下を防ぐことができる。したがって、映像表示装置1内の輝度むらおよび色むらは発生するおそれがあるが、マルチ画面21全体の輝度を上げることができる。
【符号の説明】
【0140】
1 投射型映像表示装置、1a 第1映像表示装置、1b 第2映像表示装置、1c 第3映像表示装置、1d 第4映像表示装置、2 スクリーン、2a 第1スクリーン、2b 第2スクリーン、2c 第3スクリーン、2d 第4スクリーン、3 投射ユニット、3a 映像表示デバイス、3b 集光レンズ、3c 光源、3d 投射レンズ、3e 輝度センサー、4 電気回路ユニット、4a 映像処理回路、4b マイコン回路、4c メモリー回路、4d 映像入力回路、5 映像ソース、6 外部制御装置、7 輝度計、8 通信ケーブル、9 ユニット部、10 マルチ画面表示装置、20 画面、20a 第1画面、20b 第2画面、20c 第3画面、20d 第4画面、21 マルチ画面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の映像表示装置の画面を組み合わせて1つの画面を構成して、映像を表示するマルチ画面表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ画面表示装置は、複数の映像表示装置の画面を組み合わせて1つの画面を構成して、映像を表示する装置である。マルチ画面表示装置を構成する映像表示装置としては、投射型映像表示装置および液晶映像表示装置などがある。
【0003】
投射型映像表示装置は、ランプまたは発光ダイオード(Light Emitting Diode;略称:LED)を光源とし、スクリーンの背面から映像を投射することによって、画面に映像を表示する。液晶映像表示装置は、蛍光管またはLEDをバックライトとし、バックライトの光を液晶デバイスに照射することによって、画面に映像を表示する。
【0004】
投射型映像表示装置および液晶映像表示装置のいずれの装置においても、光を画面へ照射するときには、照射むらが発生する。この照射むらは、画面内の輝度むらおよび色むらの原因となっている。具体的には、画面の中央が明るく、周辺が暗くなる傾向がある。
【0005】
このような輝度むらおよび色むらのある画面が複数組み合わせられて、マルチ画面表示装置の表示画面(以下「マルチ画面」という場合がある)が構成される。したがって、マルチ画面表示装置では、個々の映像表示装置内で生じる画面中央の輝度および色の個体差、ならびに隣接する画面端の輝度および色の個体差が、マルチ画面の一体感を損なう要因となっている。
【0006】
マルチ画面表示装置のマルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを補正する技術が、特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1に開示される技術では、マルチ画面表示装置を設置した後、目視で画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正するか、またはカメラもしくは輝度計などの計測器を使用して補正値を演算し、画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正する。
【0007】
また特許文献2に開示される技術では、画面内および画面間の輝度むらおよび色むらを補正した後、光源またはバックライトの光量の変化などに起因する経時的な画面間の輝度むらおよび色むらを、映像表示装置内に配置した輝度センサーによって光量を測定して補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3287007号公報(第18頁、第12図)
【特許文献2】特開平10−90645号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されるようなマルチ画面表示装置を設置した後の目視または計測器による補正では、測定および調整に多くの時間を要する上に、設置場所およびマルチ画面を構成する画面の数によっては、計測器の使用および目視での調整が困難な場合があるという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示される技術では、輝度センサーによる画面中央の輝度の測定結果に基づいて、個々の映像表示装置の画面全体を一様な補正量で補正するので、画面間における画面中央の輝度むらおよび色むらは抑制できるものの、画面周辺の最適な補正まではできない。したがって、マルチ画面表示装置において隣接する映像表示装置の画面端の輝度むらおよび色むらを抑制できない場合があるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、複数の画面で構成されるマルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のマルチ画面表示装置は、複数の映像表示装置を備え、前記複数の映像表示装置の画面を組み合わせて構成されるマルチ画面に、映像信号に基づいて映像を表示するマルチ画面表示装置であって、前記複数の映像表示装置は、通信可能に接続され、各映像表示装置は、その映像表示装置の画面の中央部の輝度に関する中央輝度情報、および前記中央部を囲繞する周辺部の輝度に関する周辺輝度情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶される前記中央輝度情報および前記周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、前記映像信号に含まれる輝度値を補正する補正手段とを備え、前記複数の映像表示装置のうち、他の映像表示装置を制御するマスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段は、(a)他の映像表示装置の前記補正手段によって補正された前記輝度値を取得し、(b)取得した前記輝度値と、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値とに基づいて、前記マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求め、(c)求めた前記目標輝度値を前記他の映像表示装置に送信するとともに、求めた前記目標輝度値に基づいて、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正し、前記他の映像表示装置の前記補正手段は、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段から前記目標輝度値を受信すると、受信した前記目標輝度値に基づいて、その映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマルチ画面表示装置によれば、複数の映像表示装置を備えてマルチ画面表示装置が構成され、複数の映像表示装置の画面を組み合わせてマルチ画面が構成される。マルチ画面には、映像信号に基づいて映像が表示される。各映像表示装置では、記憶手段に記憶される中央輝度情報および周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、映像信号に含まれる輝度値が補正手段によって補正される。これによって、マルチ画面を構成する各画面内の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。
【0014】
また複数の映像表示装置のうち、マスター装置として予め定められる映像表示装置によって他の映像表示装置が制御される。マスター装置の補正手段によって、他の映像表示装置の補正手段によって補正された輝度値が取得される。取得された輝度値およびそのマスター装置の補正手段が補正した輝度値に基づいて、マルチ画面全体の目標輝度値が求められ、他の映像表示装置に送信される。またマスター装置の補正手段によって補正された輝度値が、求めた目標輝度値に基づいて補正される。他の映像表示装置では、その映像表示装置の補正手段によって補正された輝度値が、マスター装置の補正手段から受信した目標輝度値に基づいて補正される。これによって、マルチ画面を構成する複数の画面間における輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。
【0015】
したがって、マルチ画面における各画面内および画面間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することができる。また、この輝度むらの補正を色毎に行うことによって、マルチ画面における各画面内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面間の輝度むらおよび色むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるマルチ画面表示装置において用いられる映像表示装置の一つである投射型映像表示装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】スクリーン2の画面20における輝度むらおよび色むらを模式的に示す図である。
【図3】4つの映像表示装置1を組合せて構成されるマルチ画面表示装置のマルチ画面21における輝度むらおよび色むらの一例を模式的に示す図である。
【図4】ゲイン調整処理をする前の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図5】ゲイン調整処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図6】グラデーション補正処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図7】映像表示装置1の製造段階における輝度データの測定方法を説明するための図である。
【図8】4つの映像表示装置1a,1b,1c,1dを組み合わせたマルチ画面表示装置10を模式的に示す図である。
【図9】マスターの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】スレーブの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【図12】光源3cの光量の経時的な変化が生じている場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態であるマルチ画面表示装置において用いられる映像表示装置の一つである投射型映像表示装置1の構成を示すブロック図である。以下の説明において、「投射型映像表示装置」を、単に「映像表示装置」という場合がある。映像表示装置1は、スクリーン2、投射ユニット3および電気回路ユニット4を備えて構成される。
【0018】
投射ユニット3は、映像表示デバイス3a、集光レンズ3b、光源3c、投射レンズ3dおよび輝度センサー3eを備える。電気回路ユニット4は、映像処理回路4a、マイクロコンピュータ(以下「マイコン」という)回路4b、メモリー回路4cおよび映像入力回路4dを備える。
【0019】
映像入力回路4dは、映像表示装置1の外部に配設される映像ソース5と接続されている。映像ソース5から出力された映像信号は、映像入力回路4dに入力される。映像入力回路4dは、入力された映像信号をデジタル信号へ変換する。映像入力回路4dは、デジタル信号に変換した映像信号(以下「デジタル映像信号」という場合がある)を映像処理回路4aに与える。
【0020】
映像処理回路4aは、映像入力回路4dから与えられたデジタル映像信号に、そのデジタル映像信号が表す映像の画質を調整する処理(以下「画質調整処理」という場合がある)を施す。その後、映像処理回路4aは、画質調整処理後のデジタル映像信号を、投射ユニット3の映像表示デバイス3aが必要とするデジタル信号フォーマットへ変換して、映像表示デバイス3aに与える。映像処理回路4aは、補正手段に相当する。
【0021】
光源3cから発せられた光は、集光レンズ3bを介して均一に分散されて映像表示デバイス3aへ照射される。映像表示デバイス3aは、映像処理回路4aから与えられたデジタル映像信号に基づいて、光源3cから発せられた光を変調して映像光を生成する。映像表示デバイス3aは、生成した映像光を、投射レンズ3dを介してスクリーン2の表面に投射する。これによって、投射レンズ3dによって投射された映像光がスクリーン2の表面に照射されて、デジタル映像信号が表す映像が表示される。
【0022】
スクリーン2の表面のうち、映像が表示される部分を、映像表示装置1の画面20という。本実施の形態では、スクリーン2の表面全体が画面20となる。この画面20に、前述のように映像信号に基づいて映像が表示される。映像表示デバイス3aは、たとえばデジタルミラーデバイス(Digital Mirror Device;略称:DMD)によって実現される。
【0023】
映像処理回路4aは、映像入力回路4dから与えられたデジタル映像信号に、光の三原色である赤色(Red;略称:R)、緑色(Green;略称:G)、青色(Blue;略称:B)毎に独立して画質調整処理を施す。このように映像処理回路4aは、デジタル映像信号に色毎に画質調整処理を施す。
【0024】
画質調整処理としては、たとえば、画面全域の信号レベルを増減させる処理(以下「ゲイン調整処理」という場合がある)、および画面内のエリア毎に信号レベルを増減させる処理(以下「グラデーション補正処理」という場合がある)が挙げられる。本実施の形態では、グラデーション補正処理として、画面の上下左右の端部および四隅の合計8つのエリア毎に信号レベルを増減させる処理を行う。
【0025】
デジタル映像信号の信号レベルは、デジタル映像信号に含まれる輝度値に相当する。画質調整処理を行うこと、具体的には、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって信号レベルを増減させることは、輝度値を補正することに相当する。したがって、前述のようにデジタル映像信号に色毎に画質調整処理を施すことは、デジタル映像信号に含まれる輝度値を色毎に補正することに相当する。
【0026】
マイコン回路4bは、映像表示装置1の外部に配設される外部制御装置6と接続されている。マイコン回路4bは、外部制御装置6によって制御される。マイコン回路4bは、映像処理回路4aによって行われた画質調整処理における調整値(以下「画質調整値」という場合がある)を含む制御データをメモリー回路4cへ書き込む処理、およびメモリー回路4cから前記制御データを読み出す処理を行う。メモリー回路4cは、記憶手段に相当する。
【0027】
光源3cから発せられ、集光レンズ3bを介して均一に分散されて映像表示デバイス3aへ照射された光のうち、スクリーン2へ投射されない光(以下「不要光」という場合がある)は、映像表示デバイス3aによって輝度センサー3eに導かれる。輝度センサー3eは、不要光を計測することによって、光源3cから発せられた光の量(以下「光量」という)を計測する。輝度センサー3eは、計測手段に相当する。輝度センサー3eは、計測結果である計測した光量を表すデータ(以下「光量データ」という)をマイコン回路4bに与える。マイコン回路4bは、輝度センサー3eから与えられる光量データに基づいて、スクリーン2に投射される光量を擬似的に監視する。
【0028】
図1では、映像表示デバイス3aにおいてスクリーン2へ投射されない不要光を輝度センサー3eで計測することによって光源3cの光量を計測する例を示している。映像表示装置1が液晶映像表示装置によって実現される場合は、光源であるバックライトの光を直接、輝度センサー3eで計測するようにしてもよい。
【0029】
スクリーン2へ投射される光は、画面20の全域で均一となるのが理想であるが、実際には光源3c、集光レンズ3b、映像表示デバイス3a、投射レンズ3d、スクリーン2の順に光が導かれる過程で、光束の中央部が最大光量となり、中央部から周辺部へ向かうにつれて光量が少なくなっていく。つまり、スクリーン2において、画面20の中央部は最も明るく、画面20の周辺部は画面20の中央部に比べて暗くなる。
【0030】
このようなスクリーン2の画面20内における明るさのむらを「輝度むら」という。また、光の三原色であるR,G,B毎に輝度むらの量が異なることを「色むら」という。
【0031】
図2は、スクリーン2の画面20における輝度むらおよび色むらを模式的に示す図である。図2では、輝度むらおよび色むらが、画面20の水平座標および垂直座標を基準にした場合に、どのような輝度カーブとなるかの一例を示している。図2では、R,G,B毎に輝度カーブを示す。図2に示すように、多くの場合、画面20の中央部S0から周辺部S1に向かうにつれて輝度が減少し、特に画面20の端部においては、急激に輝度が減少する傾向がある。また、R,G,B毎に減少の仕方に差異があることが多い。
【0032】
図3は、4つの映像表示装置1を組合せて構成されるマルチ画面表示装置のマルチ画面21における輝度むらおよび色むらの一例を模式的に示す図である。マルチ画面21は、マルチ画面表示装置の表示画面である。図3に示す例では、マルチ画面21は、4つの映像表示装置1のスクリーン2の画面20を組合せて、1つの画面として構成されている。マルチ画面表示装置は、各映像表示装置1の画面20に前述のようにして映像信号に基づいて映像を表示することによって、マルチ画面21に映像信号に基づく映像を表示する。
【0033】
図3では、4つの映像表示装置1のスクリーン2を区別するために、スクリーンの参照符号「2」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1スクリーン2a、第2スクリーン2b、第3スクリーン2c、第4スクリーン2dとして示している。また各スクリーン2の画面20を区別するために、画面の参照符号「20」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1画面20a、第2画面20b、第3画面20c、第4画面20dとして示している。図3に示す例では、第2画面20bの周辺部Sbおよび第3画面20cの周辺部Scは、第1画面20aの周辺部Saおよび第4画面20dの周辺部Sdよりも暗くなっている。
【0034】
前述の図2に示すように、画面20が1つの場合、ユーザは、画面20に表示される映像の中央部S0、具体的には画面20の中央部S0を見る場合が多く、画面20の周辺部S1の輝度むらおよび色むらは、それほど目立たない。しかし、図3に示すように複数の画面20a,20b,20c,20dを組合せてマルチ画面21を構成すると、第1〜第4画面20a,20b,20c,20dの継ぎ目部分がマルチ画面21における中央部となる。したがって、各画面20a,20b,20c,20dにおける周辺部Sa,Sb,Sc,Sdの輝度むらおよび色むらが際立って目立つことになる。
【0035】
本実施の形態では、以上のような輝度むらおよび色むらを補正するために、前述のゲイン調整処理およびグラデーション補正処理を行う。
【0036】
図4は、ゲイン調整処理をする前の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図5は、ゲイン調整処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図6は、グラデーション補正処理をした後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。
【0037】
図4〜図6において、横軸は、画面水平座標を示し、左側の縦軸は、映像信号レベルを示し、右側の縦軸は、画面内輝度[%]を示す。画面内輝度は、画面20内の最も高い輝度を100%として、画面20内における輝度の相対的な大きさを表したものである。図4〜図6では、映像信号レベルを表すグラフを参照符号「31」〜「33」で示し、画面内輝度を表すグラフを参照符号「34」〜「36」で示す。
【0038】
前述のように、図1に示す映像ソース5から出力された映像信号は、映像入力回路4dに入力されて、デジタル映像信号に変換される。たとえば、デジタル映像信号で表される映像の各画素の輝度値が、R,G,Bそれぞれ、0〜255の8ビット(bit)の階調で表される場合、全体が白色の画素を表す映像信号は、R=255、G=255、B=255の映像信号レベルのデジタル映像信号に変換される。また、全体が黒色の画素を表す映像信号は、R=0、G=0、B=0の映像信号レベルのデジタル映像信号に変換される。
【0039】
デジタル映像信号は、映像処理回路4aおよび映像表示デバイス3aを介して、最終的にスクリーン2に映像として出力される。ここで、スクリーン2の画面20に、白色の画素を表す映像信号に基づいて映像を表示したときに、画面20の周辺部S1の輝度が暗い場合を考える。この場合、画面20の周辺部S1に相当する画素の映像信号レベルを部分的に増幅して、スクリーン2上での画面20の周辺部S1の輝度を高くしようとしても、映像信号レベルは、既に8ビットの階調の最大値である255であるので、これ以上高くすることができない。
【0040】
そこで本実施の形態では、映像処理回路4aにおいて、画面20の全域の映像信号レベルを一旦減衰させ、減衰分を画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度むらおよび色むらの補正のための増幅分に割り当てるようにする。
【0041】
具体的には、以下の式(1)に示すように、映像処理回路4aに入力される、R,G,Bに対応する映像信号Ri,Gi,Biに、R,G,Bに対応するゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainをそれぞれ乗算することによって、映像処理回路4aから出力される映像信号Ro,Go,Boのダイナミックレンジを小さくする。
【0042】
【数1】
【0043】
図4〜図6に示す例では、画面20の中央部S0と周辺部S1との輝度むら、すなわち輝度の差は、R,G,Bともに最大10%であるので、ゲイン調整係数を、Rgain=0.9、Ggain=0.9、Bgain=0.9とする。これによって、全体が白色の画素を表すデジタル映像信号は、映像処理回路4aにおいて、図5に示すように、前記式(1)に従って、R=230、G=230、B=230のデジタル映像信号に変換される。この変換後の輝度値と変換前の輝度値との差が、輝度値の補正範囲CRとなる。
【0044】
この補正範囲CR内で、画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を増幅することができる。つまり、R,G,B毎に、画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を10%まで増幅することが可能となる。
【0045】
そこで、映像処理回路4aにおいて、グラデーション補正処理によって、画面20の周辺部S1に相当する画素のみ、輝度値を増幅する。具体的には、図6に示すように、画面20の周辺部S1の端部に相当する画素の輝度値を10%増幅し、周辺部S1の残りの部分に相当する画素については、画面20の中央部S0に近づくに従って増幅率が徐々に小さくなり、中央部S0との境界部で増幅率がゼロ(0)になるように増幅する。たとえば、画面20の周辺部S1の端部に相当する画素の輝度値は、映像信号レベルで、255−230=+25増幅させる。
【0046】
このように画面20の周辺部S1に相当する画素の輝度値を増幅することによって、R,G,Bについてそれぞれ、画面20内の輝度を均一にすることができる。したがって、画面20内の輝度むらおよび色むらを軽減することができる。
【0047】
以上のようにゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって、輝度むらおよび色むらを補正するためには、予め、画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を測定し、輝度に関する情報(以下「輝度情報」という場合がある)を記憶させておく必要がある。本実施の形態では、映像表示装置1を製造する段階で、画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を、光の三原色であるR,G,B毎に、カメラまたは輝度計などの計測器を用いて測定し、映像表示装置1に内蔵されているメモリー回路4cに輝度情報を記憶させておく。輝度情報は、輝度の測定値そのものでもよく、輝度の測定値から求められる値でもよい。
【0048】
図7は、映像表示装置1の製造段階における輝度データの測定方法を説明するための図である。映像表示装置1の製造段階では、輝度計7によって、スクリーン2の画面20の全域の輝度を測定する。輝度計7は、外部制御装置6に接続されている。
【0049】
まず、映像表示装置1において、画面20の全域に、白色を表す映像信号に基づいて映像を表示する。このとき、R,G,Bの単色表示に切り替えながら、輝度計7によって、画面中央部R0、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4、画面四隅部R5〜R8の合計9個のエリアの輝度を測定する。輝度計7の測定データ、すなわち測定された各エリアの輝度を表す輝度データは、輝度計7に接続された外部制御装置6へ伝送される。
【0050】
画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8は、画面20の周辺部に相当し、画面中央部R0を囲繞している。画面四隅部R5〜R8は、画面左上隅部R5、画面右上隅部R6、画面左下隅部R7および画面右下隅部R8を含む。ここで、「上」、「下」、「右」、「左」とは、画面20を画面20に垂直な方向から見たときのものである。
【0051】
外部制御装置6は、輝度計7から伝送された測定データから、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R6の8個のエリアについて、画面中央部R0の輝度に対する各エリアの輝度の比率である倍率をそれぞれ演算する。外部制御装置6は、R,G,B毎に倍率を演算し、8エリア×3色=24個の倍率を表すデータ(以下「倍率データ」という場合がある)と、画面中央部R0の3色の輝度データ、すなわち3個の輝度データとの合計27個のデータを映像表示装置1のユニット部9へ送信する。
【0052】
画面中央部R0の3個の輝度データは、画面20の中央部20の輝度に関する輝度情報である中央輝度情報に相当する。画面20の周辺部である画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R6の8個のエリアについて求められた倍率データは、周辺部の輝度に関する輝度情報である周辺輝度情報に相当する。
【0053】
ユニット部9は、前述の図1に示す投射ユニット3および電気回路ユニット4を含む。外部制御装置6は、具体的には、ユニット部9に含まれる電気回路ユニット4のマイコン回路4bに、倍率データおよび輝度データを送信する。
【0054】
外部制御装置6は、画面中央部R0の輝度データRct,Gct,Bctと、画面中央部R0の周囲の各エリアR1〜R8の輝度データRn(nは1〜8の整数),Gm(mは1〜8の整数),Bl(lは1〜8の整数)とから、画面中央部R0の周囲の各エリアR1〜R8の倍率データRXn(nは1〜8の整数),GXm(mは1〜8の整数),BXl(lは1〜8の整数)を、以下の式(2)に従って演算する。
【0055】
【数2】
【0056】
式(2)の変数n,m,lは、画面中央部R0の周囲の各エリアを示す参照符号R1〜R8の添え字1〜8に対応している。以下においても同様である。変数n,m,lが1の場合は、画面上端部R1のデータを表す。変数n,m,lが2の場合は、画面下端部R1のデータを表す。変数n,m,lが3の場合は、画面左端部R3のデータを表す。変数n,m,lが4の場合は、画面右端部R4のデータを表す。変数n,m,lが5の場合は、画面左上隅部R5のデータを表す。変数n,m,lが6の場合は、画面右上隅部R6のデータを表す。変数n,m,lが7の場合は、画面左下隅部R7のデータを表す。変数n,m,lが8の場合は、画面右下隅部R8のデータを表す。
【0057】
映像表示装置1は、外部制御装置6から伝送されて、マイコン回路4bで受信した倍率データおよび輝度データを、マイコン回路4bによって、メモリー回路4cに記憶する。メモリー回路4cに記憶された倍率データおよび輝度データは、マイコン回路4bによって読み出され、映像処理回路4aに与えられる。
【0058】
映像処理回路4aは、1画面分のデータを図7に示すように、画面中央部R0、画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4、画面四隅部R5〜R8の合計9つのエリアに分割して、グラデーション補正処理を行う。映像処理回路4aは、図7に示す画面中央部R0のエリア以外の8個のエリアR1〜R8にそれぞれ対応する8個のグラデーション補正回路を備える。映像処理回路4aは、各グラデーション補正回路によって、エリア単位でグラデーション補正処理を行う。
【0059】
具体的には、映像処理回路4aは、前記式(1)によって映像信号全体のダイナミックレンジを小さくしたR,G,Bの映像信号、すなわちゲイン調整処理後のR,G,Bの映像信号Ro,Go,Boに、以下の式(3)に示すように、グラデーション補正処理のパラメータであるグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)を乗算する。グラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)は、R,G,Bの各色について、変数n,m,l(n,m,lは1〜8の整数)に対応するエリアR1〜R8毎に、それぞれ定められる。
【0060】
【数3】
【0061】
このように映像処理回路4aは、ゲイン調整処理後のR,G,Bの映像信号Ro,Go,Boに、式(3)に示すようにグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradl(n,m,lは1〜8の整数)を乗算することによって、画面全体の輝度むらおよび色むらを補正する。式(3)において、「Rgain×Rin」は、変数nで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のRの映像信号を表し、「Ggain×Gim」は、変数mで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のGの映像信号を表し、「Bgain×Bil」は、変数lで示されるエリアにおけるゲイン調整処理後のBの映像信号を表す。
【0062】
図8は、4つの映像表示装置1a,1b,1c,1dを組み合わせたマルチ画面表示装置10を模式的に示す図である。マルチ画面表示装置10は、前述の図1に示す映像表示装置1を4つ組み合わせて構成されている。図8では、4つの映像表示装置1を区別するために、映像表示装置の参照符号「1」に添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、「第1映像表示装置1a」,「第2映像表示装置1b」,「第3映像表示装置1c」,「第4映像表示装置1d」として示している。4つの映像表示装置1を区別する必要が無い場合には、映像表示装置の参照符号「1」の添え字「a」〜「d」を省略して示す。
【0063】
図8では、理解を容易にするために、各映像表示装置1a,1b,1c,1dの投射ユニット3および電気回路ユニット4は記載を省略し、スクリーン2の画面20のみを示している。図8では、各映像表示装置1のスクリーン2の画面20を、その映像表示装置1を示す添え字「a」,「b」,「c」,「d」を付して、第1画面20a、第2画面20b、第3画面20c、第4画面20dとして示す。マルチ画面表示装置10の表示画面であるマルチ画面21は、前述の図3に示すように、第1〜第4画面20a〜20dを組み合わせて構成されている。
【0064】
マルチ画面表示装置10では、各映像表示装置1a〜1d間で通信を行うために、各映像表示装置1a〜1d間を通信ケーブル8によって接続する。図8に示す例では、第1映像表示装置1aと第2映像表示装置1bとを接続し、第2映像表示装置1bと第3映像表示装置1dとを接続し、第3映像表示装置1dと第4映像表示装置1cとを接続している。このようにマルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1a〜1dは、通信可能に接続される。
【0065】
各映像表示装置1a〜1dには、重複しないID番号が割り当てられる。4つの映像表示装置1a〜1dは、各映像表示装置1a〜1d間で通信を行うときに全ての制御を統括するマスター装置(以下、単に「マスター」という場合がある)と、マスターによって制御されるスレーブとに割り振られる。
【0066】
各映像表示装置1a〜1dをマスターとして使用するのか、またはスレーブとして使用するのかは、たとえばユーザによって設定される。ユーザは、前述の図1に示す外部制御装置6の不図示の操作部を操作することによって、各映像表示装置1a〜1dを、マスターまたはスレーブに設定することができる。このように各映像表示装置1a〜1dは、マスターまたはスレーブとして予め定められる。
【0067】
外部制御装置6は、ユーザによる操作部の操作結果に基づいて、各映像表示装置1a〜1dの電気回路ユニット4のマイコン回路4bに、マスターとして動作するように指示する制御信号(以下「マスター指示信号」という)、またはスレーブとして動作するように指示する制御信号(以下「スレーブ指示信号」という)を与える。マスター指示信号を受信した映像表示装置1は、マスターとしての動作を開始する。スレーブ指示信号を受信した映像表示装置1は、スレーブとしての動作を開始する。
【0068】
図8に示す例では、各映像表示装置1a〜1dのID番号をそれぞれID1,ID2,ID3,ID4とする。また第1映像表示装置1aをマスターとし、その他の3つの映像表示装置、すなわち第2〜第3映像表示装置1b,1c,1dをそれぞれ第1スレーブ、第2スレーブ、第3スレーブとする。したがって図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aが、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b,1c,1dを制御する。
【0069】
以上のようにして複数の映像表示装置1を通信ケーブル8で接続し、各映像表示装置1a〜1dをマスターまたはスレーブに設定することによって、マルチ画面表示装置10の設置が完了する。その後、各映像表示装置1の画面20内における輝度むらおよび色むら、ならびにマルチ画面21を構成する画面20a〜20d間における輝度むらおよび色むらの補正を行う。
【0070】
図9は、マスターに設定された映像表示装置(以下「マスターの映像表示装置」または単に「マスター」という場合がある)1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートの各処理は、マスターの映像表示装置1によって実行される。前述の図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aによって実行される。図9に示すフローチャートの処理は、マスターに設定された映像表示装置1に電源が投入されるか、または映像表示装置1が外部制御装置6からマスター指示信号を受信することによってマスターに設定されると開始され、ステップa1に移行する。
【0071】
ステップa1において、マスターの映像表示装置1は、補正開始命令を全てのスレーブへ送信する。図8に示す例では、マスターである第1映像表示装置1aは、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b〜1dに補正開始命令を送信する。
【0072】
マスターの映像表示装置1は、マイコン回路4bによって、通信ケーブル8を介して、補正開始命令を、スレーブに設定された映像表示装置(以下「スレーブの映像表示装置」または単に「スレーブ」という場合がある)1にそれぞれ送信する。補正開始命令は、マスターと通信ケーブル8で直接接続されていないスレーブには、マスターに通信ケーブル8で直接接続されたスレーブを介して与えられる。
【0073】
たとえば図8に示すように、マスター1aと第1スレーブ1bとが接続され、第1スレーブ1bと第3スレーブ1dとが接続され、第3スレーブ1dと第2スレーブ1cとが接続されている場合、第3スレーブ1dには、第1スレーブ1bを介して、補正開始命令が与えられる。また第2スレーブ1cには、第1スレーブ1bおよび第3スレーブ1dを介して、補正開始命令が与えられる。このようにして補正開始命令を送信すると、マスターの映像表示装置1は、ステップa2に移行する。
【0074】
ステップa2において、マスターの映像表示装置1は、画面20の全域の輝度を減衰するゲイン調整処理を行う。具体的には、マスターの映像表示装置1は、自装置内のメモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlを読み出す。倍率データRXn,GXm,BXlは、R,G,Bの各色について、変数n,m,lで示されるエリア毎に求められて記憶されている。
【0075】
マスターは、R,G,Bの各色についてそれぞれ、読み出した各エリアの倍率データRXn,GXm,BXlの中から最小値min(RXn),min(GXm),min(BXl)を求め、これを最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして決定する。
【0076】
次いで、マスターは、以下の式(4)に示すように、前記最小倍率データRXmin,GXmin,BXminをゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして、前記式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行う。このようにしてゲイン調整処理を行うと、マスターは、ステップa3に移行する。式(4)において、変数n,m,lは、1〜8の整数である。
【0077】
【数4】
【0078】
ステップa3において、マスターの映像表示装置1は、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路によって、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行う。グラデーション補正回路は、前述のように画面20の周辺部S1のエリア毎に設けられ、独立してグラデーション補正処理を行う。前述の図7に示す例では、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立して設けられるグラデーション補正回路によって、グラデーション補正処理を行う。
【0079】
グラデーション補正処理では、実際には、以下の式(5)に示すように、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlの逆数をグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlとして、前記式(3)に代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。このようにして画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行うと、マスターは、ステップa4に移行する。
【0080】
【数5】
【0081】
このようにして映像処理回路4aは、メモリー回路4cに記憶されている周辺輝度情報である倍率データに基づいて、画面20内における輝度むらが補正されるように、映像信号に含まれる輝度値を補正する。メモリー回路4cに記憶されている倍率データは、前述のように、中央輝度情報である画面中央部S0の輝度データと、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8の各エリアの輝度データとを用いて求められたものである。したがって、倍率データに基づいて輝度値を補正することは、中央輝度情報と周辺輝度情報とに基づいて輝度値を補正することに相当する。
【0082】
ステップa4において、マスターの映像表示装置1は、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するために、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、光源3cの初期の光量を表す輝度センサーデータ(以下「初期の輝度センサーデータ」という)SensIとして取得する。初期の輝度センサーデータSensIを取得すると、マスターは、ステップa5に移行する。
【0083】
ステップa5において、マスターは、以下の式(6)に従って、ステップa3で画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出する。式(6)において、SensNは、後述する最新の輝度センサーデータであり、SensNの未取得時にはSensIを代入する。ステップa3の補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出すると、マスターは、ステップa6に移行する。
【0084】
【数6】
【0085】
ステップa6において、マスターは、全てのスレーブに、補正後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを送信するように指示する送信命令を送信する。送信命令は、前述の補正開始命令と同様にして、各スレーブに与えられる。送信命令を送信すると、マスターは、ステップa7に移行する。
【0086】
ステップa7において、マスターは、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信したか否かを判断する。ステップa7において、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信したと判断した場合は、ステップa8に移行し、全てのスレーブから、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを受信していないと判断した場合は、全てのスレーブから受信するまで待機する。
【0087】
ステップa8において、マスターは、以下の式(7)に示すように、マスターおよび全スレーブを含む全ての映像表示装置1、すなわち第1〜第4映像表示装置1a〜1dの補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrti,Gbrti,Bbrti(iは1〜4の整数)の中から、最小値min(Rbrti),min(Gbrti),min(Bbrti)を求め、画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtとして決定する。式(7)における変数iは、1〜4の整数である。目標輝度データは、マルチ画面21全体の目標となる目標輝度値に相当する。
【0088】
【数7】
【0089】
次いで、ステップa9において、マスターは、ステップa8で決定した目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtを全てのスレーブへ送信する。次いで、ステップa10において、マスターは、ステップa8で決定した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtに基づいて、画面20の中央部S0の輝度値を色毎に補正して、輝度および色を補正する。具体的には、映像処理回路4aによって、映像信号の前記式(3)におけるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを、以下の式(8)に示すように、ステップa8で決定した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtで補正することによって、画面20の中央部S0の輝度および色を補正する。
【0090】
【数8】
【0091】
後述するように、各スレーブにおいても同様にしてゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainが補正される。これによって、マルチ画面21を構成する各画面20の中央部S0の輝度および色が補正されるので、画面20a〜20d間における中央部S0の輝度むらおよび色むらを補正することができる。このようにして画面20内および画面20a〜20d間の中央部S0の輝度むらおよび色むらを補正すると、マスターは、ステップa11に移行する。
【0092】
ステップa11において、マスターは、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、光源3cの最新の光量を表す輝度センサーデータ(以下「最新の輝度センサーデータ」という)SensNとして取得する。
【0093】
最新の輝度センサーデータSensNの取得後は、ステップa5に戻り、前述のステップa5〜ステップa11の処理を繰返す。これによって、ステップa11において、光源3cの光量を輝度センサー3eで定期的に計測し、ステップa5〜ステップa10において、画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを補正し、新たなゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを演算する。これらの処理を繰返し行うことによって、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正することができる。
【0094】
図10は、スレーブの映像表示装置1における輝度むらおよび色むらの補正処理の処理手順を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートの各処理は、スレーブの映像表示装置1によって実行される。スレーブが複数ある場合には、各スレーブによって実行される。前述の図8に示す例では、第1〜第3スレーブである第2〜第4映像表示装置1b,1c,1dによって、それぞれ実行される。図10に示すフローチャートの処理は、スレーブに設定された映像表示装置1に電源が投入されるか、または映像表示装置1が外部制御装置6からスレーブ指示信号を受信することによってスレーブに設定されると開始され、ステップb1に移行する。
【0095】
ステップb1において、スレーブの映像表示装置1は、マスターから送信される補正開始命令を受信したか否かを判断する。この補正開始命令は、前述の図9に示すステップa1において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb1において、補正開始命令を受信したと判断した場合は、ステップb2に移行し、補正開始命令を受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0096】
ステップb2において、スレーブの映像表示装置1は、前述の図9に示すステップa2と同様にして、画面20の全域の輝度を減衰するゲイン調整処理を行う。具体的には、スレーブの映像表示装置1は、自装置のメモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlを読み出し、R,G,Bの各色についてそれぞれ、倍率データの最小値min(RXn),min(GXm),min(BXl)を求め、これを最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして決定する。
【0097】
次いで、スレーブは、前記式(4)に示すように、前記最小倍率データRXmin,GXmin,BXminをゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして、前記式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行う。このようにしてゲイン調整処理を行うと、スレーブは、ステップb3に移行する。
【0098】
ステップb3において、スレーブの映像表示装置1は、前述の図9に示すステップa3と同様にして、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路によって、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行う。前述の図7に示す例では、画面20の周辺部S1である画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立して設けられるグラデーション補正回路によって、グラデーション補正処理を行う。
【0099】
グラデーション補正処理では、実際には、前記式(5)に示すように、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXlの逆数を、グラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlとして、前記式(3)に代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。このようにして画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するグラデーション補正処理を行うと、スレーブは、ステップb4に移行する。
【0100】
ステップb4において、スレーブの映像表示装置1は、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するために、前述の図9に示すステップa4と同様にして、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、初期の輝度センサーデータSensIとして取得する。初期の輝度センサーデータSensIを取得すると、スレーブは、ステップb5に移行する。
【0101】
ステップb5において、スレーブは、前述の図9に示すステップa5と同様にして、前記式(6)に従って、ステップb3で画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後における画面20の中央部S0の輝度値、すなわち補正した輝度値である輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出する。前記式(6)における最新の輝度センサーデータSensNの未取得時には、SensIを代入する。ステップb3の補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを算出すると、スレーブは、ステップb6に移行する。
【0102】
ステップb6において、スレーブは、マスターから送信される、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信したか否かを判断する。この送信命令は、前述の図9に示すステップa6において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb6において、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信したと判断した場合は、ステップb7に移行し、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtの送信命令を受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0103】
ステップb7において、スレーブは、ステップb5で取得した、補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtをマスターに送信する。補正後における画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtをマスターに送信すると、スレーブは、ステップb8に移行する。
【0104】
ステップb8において、スレーブは、マスターから送信される画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtを受信したか否かを判断する。この目標輝度データは、前述の図9に示すステップa9において、マスターによって各スレーブに送信されたものである。スレーブは、ステップb8において、目標輝度データを受信したと判断した場合は、ステップb9に移行し、目標輝度データを受信していないと判断した場合は、受信するまで待機する。
【0105】
ステップb9において、スレーブは、前述の図9に示すステップa10と同様にして、受信した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtに基づいて、画面20の中央部S0の輝度値を色毎に補正して、輝度および色を補正する。具体的には、各スレーブにおいて、映像処理回路4aによって、映像信号の前記式(3)におけるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを、前記式(8)に示すように受信した画面20の中央部S0の目標輝度データRtgt,Gtgt,Btgtで補正し、画面20の中央部S0の輝度および色を補正する。
【0106】
次いで、ステップb10において、スレーブは、前述の図9に示すステップa11と同様にして、光源3cの光量を輝度センサー3eによって計測し、計測結果を、最新の輝度センサーデータSensNとして取得する。
【0107】
最新の輝度センサーデータSensNの取得後は、ステップb5に戻り、前述のステップb5〜ステップb10の処理を繰返す。これによって、ステップb10において、光源3cの光量を輝度センサー3eで定期的に計測し、ステップb5〜b9において、画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを補正し、新たなゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainを演算する。これらの処理を繰返し行うことによって、光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正することができる。
【0108】
以上のように本実施の形態では、各映像表示装置1の画面20の中央部S0の輝度に関する中央輝度情報、および中央部S0を囲繞する周辺部S1の輝度に関する周辺輝度情報をメモリー回路4cに記憶しておく。具体的には、各映像表示装置1を製造する段階で、その映像表示装置1の画面20の中央部S0および周辺部S1の輝度を測定し、中央部S0の輝度データ、および中央部S0の輝度に対する周辺部S1の輝度の比率である倍率データをメモリー回路4cに記憶しておく。中央部S0の輝度データは、中央輝度情報に相当する。倍率データは、周辺輝度情報に相当する。
【0109】
そして、複数の映像表示装置1を組み合わせてマルチ画面表示装置10を設置するとき、すなわち複数の映像表示装置1の画面20を組み合わせてマルチ画面20を構成するときに、各映像表示装置1内で画面20内の輝度むらおよび色むらがなくなるように、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理を行い、映像信号に含まれる輝度値を補正する。
【0110】
その後、ゲイン調整処理およびグラデーション補正処理によって補正した各映像表示装置1の輝度値を通信して、これらの輝度値に基づいてマルチ画面20全体の目標輝度値を求め、目標輝度値に基づいて、各映像表示装置1で輝度値を補正する。
【0111】
これによって、マルチ画面21における各画面20内の輝度むら、およびマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置10を提供することができる。
【0112】
また本実施の形態では、輝度値を色毎に補正するので、色むらについても補正することができる。つまり本実施の形態では、マルチ画面21における各画面20内の色むら、およびマルチ画面21を構成する複数の画面20間の色むらを容易に、かつ精度良く補正することができる。したがって、マルチ画面21における各画面20内の輝度むらおよび色むら、ならびにマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度むらを容易に、かつ精度良く補正することができるマルチ画面表示装置10を提供することができる。
【0113】
また本実施の形態では、マルチ画面表示装置10の組み立て時に、カメラおよび輝度計などを使わずに簡単にマルチ画面21を構成する複数の画面20間で、輝度むらおよび色むらがない調整を行うことが可能である。
【0114】
また本実施の形態では、各映像表示装置1は、画面20を照明する光源3cから発せられる光量を計測する計測手段として、輝度センサー3eを備える。そして、映像処理回路4aは、前述の図9のステップa5〜ステップa11および図10のステップb5〜ステップb10において、輝度センサー3eの計測結果に基づいて、輝度値を補正する。つまり、本実施の形態では、マルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1間で各々の輝度を通信し、リアルタイムで補正を行うので、運用時に各映像表示装置1の輝度が経時変化によって低下しても、常にマルチ画面21を構成する複数の画面20間の輝度を均一に保つことができる。
【0115】
以上に述べた本実施の形態では、図7において1つの画面20内を9つのエリアに分割し、画面20の周辺の8つのエリアに対してグラデーション補正処理を行う場合について説明したが、画面20を分割するエリアは、必ずしも9つである必要はなく、グラデーション補正処理を行うエリアは、必ずしも8つである必要はない。たとえば、画面20の上下左右の4つのエリアのみ、または、9つ以上のエリアでグラデーション補正処理を行うようにしてもよい。このように画面20の上下左右の4つのエリアのみ、または、9つ以上のエリアでグラデーション補正処理を行う場合でも、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0116】
<第2の実施の形態>
前述の第1の実施の形態におけるマルチ画面表示装置10を構成する各映像表示装置1では、光源3cの光量の経時的な変化に伴い、画面20内において、画面20の中央部S0に対する周辺部S1の輝度の減衰量が軽減する場合がある。この場合、マルチ画面表示装置10の設置時に調整されたグラデーション補正係数が適切な値ではなくなり、かえって画面20内の輝度むらおよび色むら、ならびに画面20a〜20d間の輝度むらおよび色むらの要因となることがある。そこで、本実施の形態では、グラデーション補正係数の再設定を行う。
【0117】
図11は、光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図12は、光源3cの光量の経時的な変化が生じている場合のグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフである。図11は、マルチ画面表示装置10の設置時におけるグラデーション補正処理後の画面水平座標に対する映像信号レベルおよび画面内輝度を表すグラフに相当する。
【0118】
図11および図12において、横軸は、画面水平座標を示し、左側の縦軸は、映像信号レベルを示し、右側の縦軸は、画面内輝度[%]を示す。画面内輝度は、画面20内の最も高い輝度を100%として、画面20内における輝度の相対的な大きさを表したものである。図11および図12では、図11の光源3cの光量の経時的な変化が生じていない場合の画面中央部S0の画面内輝度を100%として示している。図11および図12では、映像信号レベルを表すグラフを参照符号「41」および「42」で示し、画面内輝度を表すグラフを参照符号「43」および「44」で示す。
【0119】
図11に示すマルチ画面表示装置10の設置時における画面20の中央部S0に対する周辺部S1の輝度の減衰量LA1は、光源3cの光量の経時的な変化、具体的には光量の減少に伴い軽減していく。そして、図12に示すように、画面20の中央部S0の画面内輝度がマルチ画面表示装置10の設置時における値の75%となった時点では、周辺部S1の輝度の減衰量LA2は、マルチ画面表示装置10の設置時における値LA1よりも小さくなる(LA1>LA2)。
【0120】
したがって、グラデーション補正量も軽減する方が適切となる。グラデーション補正量を軽減するために、本実施の形態では、グラデーション補正量を表すグラデーション補正係数GCを再設定する。たとえば、図12に示すように光源3cの光量が減少した場合には、グラデーション補正係数GC2を、図11に示すマルチ画面表示装置10の設置時に設定されたグラデーション補正係数GC1よりも小さくする(GC2<GC1)。つまり、本実施の形態では、映像処理回路4aは、輝度センサー3eの計測結果の変化量に基づいて、輝度値を補正する。グラデーション補正係数は、具体的には、以下のようにして再設定される。
【0121】
光源3cの光量の変化などに起因する経時的な輝度むらおよび色むらを補正するときに、前記式(8)によって得られるゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgain、および前記式(2)によって得られる倍率データRXn(nは1〜8の整数),GXm(mは1〜8の整数),BXl(lは1〜8の整数)を、以下の式(9)に代入してグラデーション補正係数Rgradn,Ggradm,Bgradlを再計算し、再設定する。このように再計算して得た値をグラデーション補正係数として再設定することによって、より適切なグラデーション補正係数を用いて、グラデーション補正処理を行うことができる。
【0122】
【数9】
【0123】
以上のように本実施の形態では、映像処理回路4aは、輝度センサー3eの計測結果の変化量に基づいて、輝度値を補正する。具体的には、マルチ画面表示装置10を構成する複数の映像表示装置1間で各々の輝度を通信し、リアルタイムで補正を行うときに、適切なグラデーション補正係数を再設定する。これによって、運用時に各映像表示装置1の輝度が経時変化しても、各映像表示装置1の画面20の輝度むらおよび色むらを適切に補正することができる。したがって、マルチ画面表示装置10において隣接する複数の映像表示装置1間において、画面20の端部における輝度むらおよび色むらを抑制することができる。
【0124】
<第3の実施の形態>
前述の第1の実施の形態においては、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminを、映像処理回路4aの映像信号のゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして式(1)に代入して、画面20の全域の映像信号レベルを減衰させ、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正するための準備を行っている。しかし、減衰量に限度値を設けないと、極端に小さな倍率データが存在する場合に、画面20の全域の映像レベルを大幅に減衰させることとなり、画面20の中央部S0の輝度性能を劣化させることとなる。
【0125】
そこで本実施の形態では、前記減衰量に限度値Xlimitを設定し、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminが限度値Xlimitを下回る場合は、限度値Xlimitを最小倍率データとして用いる。
【0126】
具体的には、前述の図9のステップa2および図10のステップb2において、マスターおよびスレーブである全ての映像表示装置1は、それぞれ、以下の式(10)に示すように、最小倍率データRXmin,GXmin,BXminとして、メモリー回路4cに記憶されている倍率データRXn,GXm,BXl(n,m,lは1〜8の整数)の最小値と、予め定める限度値Xlimitとのうちの大きい方の値を選択して算出する。各映像表示装置1は、算出した値をゲイン調整係数Rgain,Ggain,Bgainとして用いる。
【0127】
【数10】
【0128】
次いで、前述の図9のステップa3および図10のステップb3において、マスターおよび全てのスレーブは、映像処理回路4a内にある画面上端部R1、画面下端部R2、画面左端部R3、画面右端部R4および画面四隅部R5〜R8のエリア毎に独立するグラデーション補正回路によってグラデーション補正処理を行う。
【0129】
本実施の形態では、最小倍率データRXn,GXm,BXlが限度値Xlimitよりも小さい場合は、限度値Xlimitをグラデーション補正のパラメータとして選択する。具体的には、前記式(3)におけるグラデーション調整係数Rgradn,Ggradm,Bgradlに、以下の式(11)に示す値を代入して、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正する。式(11)において、変数n,m,lは、1〜8の整数である。
【0130】
【数11】
【0131】
以上のように本実施の形態の映像処理回路4aは、式(11)に示すように、補正後の輝度値が、予め定める限度値以下になると、限度値を、補正後の輝度値として出力する。具体的には、各映像表示装置1内でグラデーション補正処理を行うときに、画面20の中央部S0の輝度と周辺部S1の輝度との差が、予め定める閾値以上になった場合に、グラデーション補正の上限を設けている。これによって、各映像表示装置1の画面20内での輝度むらおよび色むらを軽減させることができる。またグラデーション補正処理に伴うマルチ画面21全体の輝度の低下を最小限に抑えることができる。
【0132】
本実施の形態では、R,G,Bに対して共通の限度値Xlimitを設ける場合について説明したが、R,G,Bそれぞれに対して異なる限度値を設定してもよい。
【0133】
<第4の実施の形態>
本実施の形態では、マルチ画面表示装置10を構成する映像表示装置1において、光源3cの光量の経時的な変化によって、輝度が、初期の輝度値よりも、予め定める閾値以上低下した場合、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路の動作を停止するように制御する。
【0134】
具体的には、メモリー回路4c内に記憶されている製造時の輝度値を初期の輝度値として用いる。そして、初期の輝度値(以下「初期輝度値」という場合がある)と輝度センサー3eによって測定された輝度値(以下「測定輝度値」という場合がある)とを比較し、初期輝度値に対して、測定輝度値が、予め定める閾値以上低下している場合、換言すれば、初期輝度値に対する測定輝度値の比率が、予め定める輝度閾値YDth以下である場合、映像処理回路4a内のグラデーション補正回路の動作を停止する。
【0135】
たとえば、測定輝度値が、初期輝度値に対して40%以上低下した場合、換言すれば、初期輝度値に対する測定輝度値の比率が、輝度閾値YDth=0.6以下である場合、グラデーション補正回路の動作を停止する。
【0136】
この場合、前記式(6)によって求められる、画面20の周辺部S1の輝度および色を補正した後の画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtは、前記式(6)における最小倍率データRXmin,GXmin,BXminを「1」として、以下の式(12)に従って求められる。このようにして求められた輝度データ画面20の中央部S0の輝度データRbrt,Gbrt,Bbrtを用いて、再度、前述の図9のステップa8において、マルチ画面21全体における画面20の中央部S0の目標輝度を算出し直す。
【0137】
【数12】
【0138】
以上のように本実施の形態では、各映像表示装置1の画面20内での輝度の低下が、予め定められる閾値以上になった場合に、グラデーション補正処理を停止するように映像処理回路4aを制御する。すなわち、映像処理回路4aは、マルチ画面20全体の目標輝度値が、予め定める閾値以下になると、輝度値の補正を停止する。
【0139】
これによって、経時変化によってマルチ画面21全体の輝度が低下した場合に、グラデーション補正処理を行うことによって発生する輝度の低下を防ぐことができる。したがって、映像表示装置1内の輝度むらおよび色むらは発生するおそれがあるが、マルチ画面21全体の輝度を上げることができる。
【符号の説明】
【0140】
1 投射型映像表示装置、1a 第1映像表示装置、1b 第2映像表示装置、1c 第3映像表示装置、1d 第4映像表示装置、2 スクリーン、2a 第1スクリーン、2b 第2スクリーン、2c 第3スクリーン、2d 第4スクリーン、3 投射ユニット、3a 映像表示デバイス、3b 集光レンズ、3c 光源、3d 投射レンズ、3e 輝度センサー、4 電気回路ユニット、4a 映像処理回路、4b マイコン回路、4c メモリー回路、4d 映像入力回路、5 映像ソース、6 外部制御装置、7 輝度計、8 通信ケーブル、9 ユニット部、10 マルチ画面表示装置、20 画面、20a 第1画面、20b 第2画面、20c 第3画面、20d 第4画面、21 マルチ画面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の映像表示装置を備え、前記複数の映像表示装置の画面を組み合わせて構成されるマルチ画面に、映像信号に基づいて映像を表示するマルチ画面表示装置であって、
前記複数の映像表示装置は、通信可能に接続され、
各映像表示装置は、
その映像表示装置の画面の中央部の輝度に関する中央輝度情報、および前記中央部を囲繞する周辺部の輝度に関する周辺輝度情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶される前記中央輝度情報および前記周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、前記映像信号に含まれる輝度値を補正する補正手段とを備え、
前記複数の映像表示装置のうち、他の映像表示装置を制御するマスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段は、(a)他の映像表示装置の前記補正手段によって補正された前記輝度値を取得し、(b)取得した前記輝度値と、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値とに基づいて、前記マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求め、(c)求めた前記目標輝度値を前記他の映像表示装置に送信するとともに、求めた前記目標輝度値に基づいて、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正し、
前記他の映像表示装置の前記補正手段は、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段から前記目標輝度値を受信すると、受信した前記目標輝度値に基づいて、その映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正することを特徴とするマルチ画面表示装置。
【請求項2】
各映像表示装置は、前記画面を照明する光源から発せられる光量を計測する計測手段を備え、
各映像表示装置の補正手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて、前記輝度値を補正することを特徴とする請求項1に記載のマルチ画面表示装置。
【請求項3】
各映像表示装置の補正手段は、前記計測手段の計測結果の変化量に基づいて、前記輝度値を補正することを特徴とする請求項2に記載のマルチ画面表示装置。
【請求項4】
各映像表示装置の補正手段は、補正後の輝度値が、予め定める限度値以下になると、前記限度値を、前記補正後の輝度値として出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【請求項5】
各映像表示装置の補正手段は、前記マルチ画面全体の目標輝度値が、予め定める閾値以下になると、前記輝度値の補正を停止することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【請求項6】
各映像表示装置の補正手段は、前記輝度値を色毎に補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【請求項1】
複数の映像表示装置を備え、前記複数の映像表示装置の画面を組み合わせて構成されるマルチ画面に、映像信号に基づいて映像を表示するマルチ画面表示装置であって、
前記複数の映像表示装置は、通信可能に接続され、
各映像表示装置は、
その映像表示装置の画面の中央部の輝度に関する中央輝度情報、および前記中央部を囲繞する周辺部の輝度に関する周辺輝度情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶される前記中央輝度情報および前記周辺輝度情報に基づいて、その映像表示装置の画面内における輝度むらが補正されるように、前記映像信号に含まれる輝度値を補正する補正手段とを備え、
前記複数の映像表示装置のうち、他の映像表示装置を制御するマスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段は、(a)他の映像表示装置の前記補正手段によって補正された前記輝度値を取得し、(b)取得した前記輝度値と、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値とに基づいて、前記マルチ画面全体の目標となる目標輝度値を求め、(c)求めた前記目標輝度値を前記他の映像表示装置に送信するとともに、求めた前記目標輝度値に基づいて、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正し、
前記他の映像表示装置の前記補正手段は、前記マスター装置として予め定められる映像表示装置の前記補正手段から前記目標輝度値を受信すると、受信した前記目標輝度値に基づいて、その映像表示装置の前記補正手段が補正した前記輝度値を補正することを特徴とするマルチ画面表示装置。
【請求項2】
各映像表示装置は、前記画面を照明する光源から発せられる光量を計測する計測手段を備え、
各映像表示装置の補正手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて、前記輝度値を補正することを特徴とする請求項1に記載のマルチ画面表示装置。
【請求項3】
各映像表示装置の補正手段は、前記計測手段の計測結果の変化量に基づいて、前記輝度値を補正することを特徴とする請求項2に記載のマルチ画面表示装置。
【請求項4】
各映像表示装置の補正手段は、補正後の輝度値が、予め定める限度値以下になると、前記限度値を、前記補正後の輝度値として出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【請求項5】
各映像表示装置の補正手段は、前記マルチ画面全体の目標輝度値が、予め定める閾値以下になると、前記輝度値の補正を停止することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【請求項6】
各映像表示装置の補正手段は、前記輝度値を色毎に補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のマルチ画面表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−123085(P2012−123085A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272318(P2010−272318)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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