説明

ミシンの上糸テンション計測装置

【課題】ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度変化、縫製速度の変化、絶縁抵抗の変化によらず、高精度にミシンの上糸テンションを計測することができるミシンの上糸テンション計測装置を得ること。
【解決手段】一辺に半導体歪みゲージ20を含むホイートストンブリッジ18における固定抵抗器19cにDP21を並列接続。ミシン制御部14は、縫製時に増幅器22が出力する計測テンションのオフセット量が許容範囲外であるとき、オフセット制御・ゲイン補正部15にオフセット調整指示を出し、零テンション検出手段16が検出指定する上糸の零テンションの期間を知らせる。オフセット制御・ゲイン補正部15は、上糸の零テンションの期間において、オフセット量を許容範囲内に収める抵抗値を算出してDP21に更新設定し、半導体歪みゲージ20の初期抵抗値を求めて増幅器22のゲイン補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの上糸テンション計測装置に関し、特に、一辺にひずみゲージを含むホイートストンブリッジを用いてミシンの上糸テンションを計測する上糸テンション計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンの上糸テンション計測装置で用いられているテンション計測手段には、圧電素子を用いるものと、ひずみゲージを用いるものとがある。
【0003】
テンション計測手段に圧電素子を用いる従来の上糸テンション計測装置は、温度ドリフトの影響を取り除くため、ハイパスフィルタを用いて直流成分をカットしていた。この場合、縫製スピードに過渡的な変化が生ずると、ハイパスフィルタの影響により上糸テンション波形のレベルが徐々に低下し、本来テンションが零であるはずのタイミングにおいてテンションレベルが負値になってしまい、上糸テンションを適切値に調整する基準となる絶対的なテンションレベルを得ることが不可能になる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1では、主軸エンコーダの位相情報からテンションが零となる期間のテンションを基準とし、測定テンションとの差を取ることにより上糸テンションを安定的に計測できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−178275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、テンション計測手段にひずみゲージを用いる上糸テンション計測装置では、上糸テンションの変化が急峻であるため、貼り付けたひずみゲージの絶縁抵抗に変化が生じ、計測中に上糸テンションの零点が変動するという問題があった。
【0007】
また、急峻なテンション変化の瞬時値を測定する場合に、ひずみゲージの貼り付け先の構造を固有周波数が高くなるように設計する必要がある。その場合、ひずみゲージのひずみ量が小さくなるため、金属ひずみゲージを使用する場合には増幅器のゲインをより大きくする必要がある。そのため、金属ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度ドリフト、ゲージの貼り付き具合などの影響が増幅されてしまうという問題があった。
【0008】
これに対し、増幅器のゲインを小さくするために、金属ひずみゲージよりも約100倍感度の良い半導体ひずみゲージを使用することが考えられる。しかし、半導体ひずみゲージは金属ひずみゲージに比べて温度ドリフトによる影響や抵抗値のばらつきが大きいという問題がある。
【0009】
その結果、いずれの場合においても上糸テンション計測装置において本来計測したいテンションの変化量に対して無視できない大きなオフセットが発生するので、計測されたテンションがアナログディジタル変換器の入力レンジをオーバーしたり、ダイナミックレンジを損なったりすることが起こっていた。そして、オフセット調整機構が手動である場合には調整量を把握できないことが起こっていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度変化、縫製速度の変化、絶縁抵抗の変化によらず、高精度にミシンの上糸テンションを計測することができるミシンの上糸テンション計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ミシンにおいて天秤の上下動により上糸供給源から繰り出される上糸のテンションに応じた抵抗値変化を示すひずみゲージを一辺とし残り3つの辺が固定抵抗器であるホイートストンブリッジおよび該ホイートストンブリッジの出力を増幅し計測テンションを出力する増幅器を備える上糸テンション計測手段と、前記ホイートストンブリッジの前記残り3つの辺のうちの一つの辺に並列接続されるディジタルポテンショメータと、前記増幅器が出力する計測テンションのオフセット量が許容範囲内に収まっているか否かを判定し、オフセット量が許容範囲内に収まっていない場合にオフセット調整指示を出力する判定手段と、前記上糸のテンションがゼロである期間を検出指定する零テンション検出手段と、前記零テンション検出手段が指定する上糸のテンションがゼロである期間において、前記オフセット調整指示がなされた計測テンションのオフセット量が許容範囲内に収まるような抵抗値を任意の基準出力と前記計測テンションとに基づき演算し、その求めた抵抗値を前記ディジタルポテンショメータに設定することによりオフセット調整を実行し、併せて、前記ディジタルポテンショメータに設定した抵抗値に基づき前記ひずみゲージの初期抵抗値を算出し前記増幅器のゲイン補正を行うオフセット制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一辺にひずみゲージを含むホイートストンブリッジにディジタルポテンショメータを取り付け、縫製時にホイートストンブリッジにより計測した上糸テンションのオフセット量を監視し、許容範囲外である場合に、上糸テンションがゼロである期間において、任意の基準出力と計測された上糸テンションとに基づき、オフセット量を許容範囲内に収めるような抵抗値を求めディジタルポテンショメータに更新設定することができる。
【0013】
これによって、ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度ドリフト、貼り付け具合の影響があっても、アナログディジタル変換器のレンジオーバーを起こすことなく、またダイナミックレンジを損なうことなく、精度よく上糸のテンションを計測できるという効果を奏する。併せて、ディジタルポテンショメータの抵抗値からひずみゲージの初期抵抗値を導出し、ゲイン補正を行うことができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1によるミシンの上糸テンション計測装置を備えるミシンの構成例を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2に示す上糸テンション計測装置に組み込まれているオフセット制御系の構成ブロック図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態3によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態4として、図3に示すオフセット制御器を再設計する構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかるミシンの上糸テンション計測装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるミシンの上糸テンション計測装置を備えるミシンの構成例を示す概念図である。図2は、本発明の実施の形態1によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
まず、図1を参照してミシンの一般的な構成について簡単に説明する。
図1において、ミシン本体1には、上糸供給源である糸巻き2から繰り出される上糸3が縫い針8に供給される経路に、プリテンション4と、上糸調整器5と、上糸テンション計測部6と、天秤7とがこの順に配置されている。また、ミシン本体1内に固定される主軸モータ9には、主軸エンコーダ10が取り付けられている。
【0018】
ミシン制御盤11は、本実施の形態に関わる構成として、ディジタルポテンショメータ(以降、「DP」略記する。)用出力部12と、アナログディジタル変換器(A/D変換器)13と、ミシン制御部14と、オフセット制御・ゲイン補正部15と、零テンション検出手段16と、主軸駆動回路17とを備えている。
【0019】
縫製時にペダル(図示せず)を踏むと、ミシン制御部14が主軸駆動回路17を起動し主軸モータ9を回転させる。そうすると、天秤7が、主軸モータ9の1回転に同期して1回上下動する。縫い針8も天秤7の上下動に連動して上下動する。これによって、糸巻き2から上糸3が繰り出され、縫い針8に供給される。この上糸3の供給過程での上糸3のテンションが上糸テンション計測部6にて計測される。上糸テンション計測部6の出力端は、ミシン制御盤11におけるA/D変換器13と接続され、入力端は、ミシン制御盤11におけるDP用出力部12と接続されている。
【0020】
ここで、上糸テンション計測装置は、上糸テンション計測部6と、ミシン制御盤11における主軸駆動回路17を除いた各要素とで構成される。以下、図2を参照して、本実施の形態1による上糸テンション計測装置について具体的に説明する。
【0021】
図2において、上糸テンション計測部6は、ホイートストンブリッジ18と、DP21と、増幅器22とを備えている。ミシン制御盤11では、図1におけるミシン制御盤11において主軸駆動回路17を除いた各要素「DP用出力部12、A/D変換器13、ミシン制御部14、オフセット制御・ゲイン補正部15、および零テンション検出手段16」が示されている。
【0022】
ホイートストンブリッジ18は、3つの固定抵抗器19a,19b,19cと、1つの半導体ひずみゲージ20とで構成される。接続関係を示すと、固定抵抗器19a,19cの各一端は共通に電源Eに接続され、固定抵抗器19bおよび半導体ひずみゲージ20の各一端は共通に回路グランドに接続されている。そして、固定抵抗器19cおよび半導体ひずみゲージ20の各他端は共通に接続されて一方の出力端子を構成し、固定抵抗器19a,19bの各他端は共通に接続されて他方の出力端子を構成し、それぞれ増幅器22の対応する入力端子に接続されている。
【0023】
このホイートストンブリッジ18において、本実施の形態1では、固定抵抗器19(a,b,c)の抵抗値Rfixが零テンション時における半導体ひずみゲージ20の抵抗値よりも大きいとしているので、DP21は、固定抵抗器19bに並列に接続されている。そうすると、上記した上糸テンション計測部6の出力端は、増幅器22の出力端である。また、上記した上糸テンション計測部6の入力端は、DP21の抵抗値を設定入力するためのポートである。
【0024】
上糸テンション計測部6にて上記したように計測された上糸テンション(増幅器22が出力する計測テンション)は、A/D変換器13にてデジタル化され、ミシン制御部14とオフセット制御・ゲイン補正部15とに入力される。
【0025】
ミシン制御部14は、A/D変換器13から入力される計測テンションのオフセット量が許容範囲内であるか否かを判定し、許容範囲外である場合に、オフセット制御・ゲイン補正部15に対し、オフセット調整指令を出す。また、ミシン制御部14は、零テンション検出手段16が示す上糸テンションがゼロとなる期間においてオフセット制御を行うように、オフセット制御・ゲイン補正部15に対しイネーブル信号を出力している。
【0026】
オフセット制御・ゲイン補正部15は、ミシン制御部14からオフセット調整指令が入力されたときの計測テンションを記憶しておき、ミシン制御部14からのイネーブル信号のイネーブル期間において、つまり、上糸テンションがゼロである期間において、記憶している計測テンションのオフセット量が許容範囲内に収まるような抵抗値を演算し、DP用出力部12からDP21に出力し、DP21の抵抗値を今回演算した抵抗値に変更設定させる。
【0027】
以上のオフセット制御が、上糸テンションがゼロとなる期間の到来毎に繰り返されるので、本実施の形態1による上糸テンション計測装置に組み込まれているオフセット制御系は、図3に示すようなフィードバック制御系になっている。
【0028】
図3において、図2に示す上糸テンション計測装置に組み込まれているオフセット制御系は、差分演算器24と、オフセット制御スイッチ25と、オフセット制御器(C)26と、DP21と、テンションセンサ回路27とで構成される。オフセット制御器(C)26は、オフセット制御・ゲイン補正部15に対応している。テンションセンサ回路(TSC)27は、ホイートストンブリッジ18とDP21と増幅器22との全体による回路であり、センサ出力は、増幅器22の出力(計測テンション)である。
【0029】
オフセット指令(Ref)23は、縫製データにより定まるという意味で、任意の基準出力である。差分演算器24は、この任意の基準出力であるオフセット指令(Ref)23と、テンションセンサ回路27が出力するセンサ出力との偏差をオフセット制御スイッチ25に保持出力する。オフセット制御スイッチ25は、零テンション検出手段16が示す上糸テンションがゼロである期間において閉路し、差分演算器24の出力端とオフセット制御器26の入力端とを接続する。
【0030】
オフセット制御器26は、上糸テンションがゼロである期間において、任意の基準出力であるオフセット指令(Ref)23とセンサ出力との偏差を小さくする抵抗値を演算しDP21に設定させる。これによって、テンションセンサ回路27のセンサ出力が更新され、差分演算器24にて新たな偏差が求められ、次の上糸テンションがゼロである期間において、DP21の抵抗値が更新される。
【0031】
このようにして、縫製中であっても上糸テンションがゼロである期間において、オフセット制御器(C)26にてオフセット調整が行われる。そうすると、オフセット調整後のDP21の抵抗値RDPと固定抵抗器19bの抵抗値Rfixとを式(1)に適用して半導体ひずみゲージ20の初期値である基準抵抗値Rstrを求めることができるので、増幅器22のゲイン補正も並行して行うことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、図3において、オフセット制御器(C)26は、DP21からテンションセンサ回路(TSC)27の出力までの伝達関数をセンサモデルと考慮して設計することができるので、所望の時間内にオフセット調整とゲイン補正とが行えるように構成することができる。
【0034】
例えば、テンションセンサ回路(TSC)27は、式(2)に示す固定抵抗値Rfixとひずみゲージ20の基準抵抗値Rstrとの合成抵抗値Rcombと、式(3)に示すホイートストンブリッジ18の出力電圧e0と、式(4)に示すノイズ対策用の一次ローパスフィルタFilとからモデル化が可能である。ここで、式(4)においてsは、ラプラス演算子である。なお、式(4)のフィルタは二次以上のローパスフィルタの場合にはそれをモデル化してもよい。
【0035】
【数2】

【0036】
なお、零テンション検出手段16は、例えば次の(1)〜(4)の方法で上糸テンションがゼロである期間を検出指定する。
(1)図1に示す主軸エンコーダ10が求めた主軸モータ9の角度情報と予め測定しておいた上糸テンションとの関係から上糸テンションがゼロとなる角度を判定し、上糸テンションがゼロである期間を検出指定する。
(2)図1に示すミシン制御盤11に接続されているユーザインタフェース(図示せず)から入力される、操作者がペダルを踏み込んでいない期間を検出する。
(3)縫製データ中の縫製パターンに存在する上糸テンションがゼロとなるタイミングを検出し、上糸テンションがゼロとなる期間を指定する。
(4)オフセット量が許容範囲外である計測テンションは記憶しているので、ミシンの電源投入時の所定期間(ペダルを踏み込むまでの期間)を上糸テンションがゼロである期間として用いることができる。
【0037】
以上のように、実施の形態1によれば、一辺にひずみゲージを含むホイートストンブリッジを用いてミシンの上糸テンションを計測する場合に、ホイートストンブリッジにおける1つの固定抵抗器に並列にディジタルポテンショメータを接続し、縫製時にホイートストンブリッジにより計測した上糸テンションのオフセット量を監視し、許容範囲外である場合に、上糸テンションがゼロである期間において、任意の基準出力と計測された上糸テンションとに基づき、オフセット量を許容範囲内に収めるような抵抗値を求めディジタルポテンショメータに更新設定することができる。
【0038】
これによって、ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度ドリフト、貼り付け具合の影響があっても、アナログディジタル変換器のレンジオーバーを起こすことなく、またダイナミックレンジを損なうことなく、精度よく上糸のテンションを計測することができる。併せて、ディジタルポテンショメータの抵抗値からひずみゲージの初期抵抗値を導出し、ゲイン補正を行うことができる。
【0039】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。なお、図4では、図2(実施の形態1)に示した構成要素と同一または同等である構成要素には同一の符号が付されている。図4においては、本実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0040】
図4に示すように、本実施の形態2によるミシンの上糸テンション計測装置では、ホイートストンブリッジ18において、零テンション時における半導体ひずみゲージ20の抵抗値が固定抵抗器19(a,b,c)の抵抗値よりも大きいので、DP21は固定抵抗器19aに並列接続されている。
【0041】
なお、図4に示す構成においても、式(3)に相当するモデルを考慮することで、[数2]にて説明したモデル化が行える。
【0042】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の作用・効果が得られる。
【0043】
実施の形態3.
図5は、本発明の実施の形態3によるミシンの上糸テンション計測装置の構成を示すブロック図である。なお、図5では、図2(実施の形態1)に示した構成要素と同一または同等である構成要素には同一の符号が付されている。図5においては、本実施の形態3に関わる部分を中心に説明する。
【0044】
図5に示すように、本実施の形態3によるミシンの上糸テンション計測装置では、ホイートストンブリッジ18において、DP21は、スイッチ30により、固定抵抗器19cに並列接続される場合と固定抵抗器19aに並列接続される場合とを切り替え得る構成とした。スイッチ30の切り替え制御は、ミシン制御盤11に設けた回路切り替え手段31がオフセット制御・ゲイン補正部15からの指示に従って実施する。
【0045】
オフセット制御・ゲイン補正部15は、オフセット調整の過程で、零テンション時における半導体ひずみゲージ20の抵抗値(基準抵抗値Rstr)を求め、固定抵抗器19(a,b,c)の抵抗値Rfixとの大小関係を把握することができるので、DP21の接続切り替えを自動的に実施することができる。実施の形態1,2では、零テンション時における半導体ひずみゲージ20の抵抗値と固定抵抗器19(a,b,c)の抵抗値との大小関係を調べて組み込む必要があるが、実施の形態3ではその必要がなくなり、組み立て作業性の効率向上が図れる。
【0046】
実施の形態3によれば、零テンション時における半導体ひずみゲージ20の抵抗値と固定抵抗器19(a,b,c)の抵抗値Rfixとの大小に関わらず、1つのディジタルポテンショメータを用いてオフセット調整が可能となる。
【0047】
実施の形態4.
図6は、本発明の実施の形態4として、図3に示すオフセット制御器をシステム同定により再設計する構成を示すブロック図である。図6に示すように、図3に示すオフセット制御器26をシステム同定により再設計する構成は、システム同定用信号生成器28と、DP21と、テンションセンサ回路(TSC)27と、システム同定演算部29とを備えている。
【0048】
図6において、システム同定用信号生成器28が生成するサインスイープやM系列信号などのシステム同定用信号はDP21とシステム同定演算部29とに並列に与えられる。システム同定演算部29は、システム同定用信号と、システム同定用信号により抵抗値が変化するDP21を含むテンションセンサ回路(TSC)27の出力とに基づきセンサモデルを演算し、その演算したセンサモデルを用いて図3に示すオフセット制御器26を自動的に再設計することが可能である。このシステム同定は、電源投入時や操作者がユーザインタフェースから指定入力する任意のタイミングで行うようにすることができる。
【0049】
このとき、図3に示すオフセット制御器26は、例えば式(5)に示すような比例積分制御器にしておき、比例ゲインKpと積分ゲインKiとを操作者が変更することで、オフセット制御器26の整定時間を変更できるようにしてもよい。
Kp+(Ki/s)・・・(5)
また、このオフセット制御器26に微分制御器を加えてもよい。
【0050】
なお、以上のシステム同定は、実施の形態2にも同様に適用することができる。
【0051】
本実施の形態4によれば、ホイートストンブリッジの各辺の抵抗値の温度特性や、ばらつき、経年変化によるセンサモデルが任意のタイミングで変化しても、オフセット調整およびゲイン補正を安定的に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかるミシンの上糸テンション計測装置は、ひずみゲージの抵抗値のばらつきや、温度変化、縫製速度の変化、絶縁抵抗の変化によらず、高精度にミシンの上糸テンションを計測することができるミシンの上糸テンション計測装置として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 ミシン本体
2 糸巻き
3 上糸
4 プリテンション
5 上糸調整器
6 上糸テンション計測部
7 天秤
8 縫い針
9 主軸モータ
10 主軸エンコーダ
11 ミシン制御盤
12 DP用出力部(ディジタルポテンショメータ用出力部)
13 A/D変換器(アナログディジタル変換器)
14 ミシン制御部
15 オフセット制御・ゲイン補正部
16 零テンション検出手段
17 主軸駆動回路
18 ホイートストンブリッジ
19a,19b,19c 固定抵抗器
20 ひずみゲージ(半導体ひずみゲージ)
21 ディジタルポテンショメータ(DP)
22 増幅器
24 差分演算器
25 オフセット制御スイッチ
26 C(オフセット制御器)
27 TSC(テンションセンサ回路)
28 システム同定用信号生成器
29 システム同定演算部
30 スイッチ
31 回路切り替え手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンにおいて天秤の上下動により上糸供給源から繰り出される上糸のテンションに応じた抵抗値変化を示すひずみゲージを一辺とし残り3つの辺が固定抵抗器であるホイートストンブリッジおよび該ホイートストンブリッジの出力を増幅し計測テンションを出力する増幅器を備える上糸テンション計測手段と、
前記ホイートストンブリッジの前記残り3つの辺のうちの一つの辺に並列接続されるディジタルポテンショメータと、
前記増幅器が出力する計測テンションのオフセット量が許容範囲内に収まっているか否かを判定し、オフセット量が許容範囲内に収まっていない場合にオフセット調整指示を出力する判定手段と、
前記上糸のテンションがゼロである期間を検出指定する零テンション検出手段と、
前記零テンション検出手段が指定する上糸のテンションがゼロである期間において、前記オフセット調整指示がなされた計測テンションのオフセット量が許容範囲内に収まるような抵抗値を任意の基準出力と前記計測テンションとに基づき演算し、その求めた抵抗値を前記ディジタルポテンショメータに設定することによりオフセット調整を実行し、併せて、前記ディジタルポテンショメータに設定した抵抗値に基づき前記ひずみゲージの初期抵抗値を算出し前記増幅器のゲイン補正を行うオフセット制御手段と
を備えたことを特徴とするミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項2】
前記ホイートストンブリッジにおいて、前記ディジタルポテンショメータを、前記ひずみゲージの配置辺の一端側に隣接する辺に配置される第1の固定抵抗器に並列接続する場合と、前記ひずみゲージの配置辺に対向する辺に配置される第2の固定抵抗器に並列接続する場合とに切り替える手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項3】
前記オフセット制御手段は、
前記ディジタルポテンショメータから該ディジタルポテンショメータを含む前記上糸テンション計測手段の前記増幅器出力までの伝達関数をセンサモデルと考慮して設計されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項4】
前記オフセット制御手段は、
前記ディジタルポテンショメータに、システム同定信号を与え、システム同定して得られたセンサモデルを用いて再設計することで構成される
ことを特徴とする請求項3に記載のミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項5】
前記零テンション検出手段は、
前記天秤を上下動させる主軸モータに取り付けてある主軸エンコーダから得られる角度情報と予め計測した前記上糸のテンションとの関係から上糸のテンションがゼロとなる角度を判定し、上糸のテンションがゼロである期間を検出指定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項6】
前記零テンション検出手段は、
ユーザインタフェースから操作者が入力する上糸のテンションがゼロである期間を検出して使用する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のミシンの上糸テンション計測装置。
【請求項7】
前記零テンション検出手段は、
縫製データ中の縫製パターンに存在する上糸のテンションがゼロとなるタイミングを検出し、上糸のテンションがゼロである期間を指定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のミシンの上糸テンション計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−22110(P2013−22110A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157506(P2011−157506)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】