ミシン
【課題】 ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのあるたわみ易い布を縫製する際、ループが形成されて目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができ、且つコストの安いミシンを提供すること。
【解決手段】 機枠2と、機枠2に回転自在に支持されて針棒12を駆動する上軸3と、機枠2に回転自在に支持されて釜41を駆動する下軸17と、上軸3と下軸17を連結し上軸3の回転と下軸17の回転を同期するタイミングベルト22と、タイミングベルト22に常時接触するプーリ13、14を備え、テンションプーリ13、14の振り幅により上軸3と下軸17の位相を変える針釜タイミング調整機構23と、を備えるミシン100であって、針棒12に固定した針39が刺さった布のたわみを考慮して、針落ち位置に応じて針39と釜41との出会いのタイミングを調整する。
【解決手段】 機枠2と、機枠2に回転自在に支持されて針棒12を駆動する上軸3と、機枠2に回転自在に支持されて釜41を駆動する下軸17と、上軸3と下軸17を連結し上軸3の回転と下軸17の回転を同期するタイミングベルト22と、タイミングベルト22に常時接触するプーリ13、14を備え、テンションプーリ13、14の振り幅により上軸3と下軸17の位相を変える針釜タイミング調整機構23と、を備えるミシン100であって、針棒12に固定した針39が刺さった布のたわみを考慮して、針落ち位置に応じて針39と釜41との出会いのタイミングを調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針釜タイミング調整機構を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
針釜タイミング調整機構を備えた従来技術のミシンとして、主軸の回転によって針棒揺動台を揺動することにより針棒を針振り運動して千鳥縫いを形成するミシンにおいて、主軸の回転とともに回転され、かつ内周にギアが形成された第1の太陽歯車と、釜に連結される回転軸に固定され、かつ第1の太陽歯車と、第2の太陽歯車の回転軸に一端が遊嵌されたギアホルダの他端に回動可能に装着され、かつ第1、第2の太陽歯車と掛合される遊星歯車と、針棒揺動台の針振り運動をギアホルダに伝達するレバー機構を有す釜速度調整装置を備えたミシンが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−28976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、釜速度調整装置(針釜タイミング調整機構)により、針棒の揺動量に比例して主軸(上軸)と回転軸(下軸)との位相が調整され、針と釜の剣先との出会いのタイミングは常に一定なる。従って、たわみ難い布を縫製する場合は、針の最大振り量を大きくしても目とびなく縫製でき、幅の広い針が通過する針穴を設けた布押さえを備えたミシンが提供できる。しかし、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのある生地を縫製する場合においては、針が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じて上糸がループを形成する際に、針の上昇と共に布も上昇してしまう。このため、針上り量にロスを生じ、しばしばループが形成されず目とびが発生する問題がある。特に、幅の広い針穴を設けた布押さえでは、針穴中央付近で布地がたわみ易くなり針上り量のロスが増大し、振り幅の小さい範囲において、針上り量が不足し、ループが形成されず目とびが頻繁に発生する問題がある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのあるたわみ易い布を縫製する際、ループが形成されて目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができ、且つコストの安いミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、機枠と、機枠に回転自在に支持されて針棒を駆動する上軸と、機枠に回転自在に支持されて釜を駆動する下軸と、上軸と下軸を連結し上軸の回転と下軸の回転を同期するタイミングベルトと、タイミングベルトに常時接触するプーリを備え、プーリの振り幅により上軸と下軸の位相を変える針釜タイミング調整機構と、を備えるミシンであって、針棒に固定した針の針落ち位置に応じて針と釜との出会いのタイミングを調整する。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、針と釜との出会いのタイミングの調整のうち、布のたわみに対する針上り調整量は、中央針落ち位置ほど大きく、両端針落ち位置側ほど小さい。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の本発明によれば、針棒に固定した針が刺さった布のたわみ量を考慮して、針落ち位置に応じて針と釜との出会いのタイミングを調整する。これにより、針と釜の出会いのタイミングは、針落ち位置に対して布のたわみを考慮し、針落ち位置に応じて針釜タイミング調整機構によりプーリの振り幅を変更し、ループを形成し、目とびの発生を抑制するように調整される。従って、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針が抜け難い布を縫製する際、布にたわみが発生しても、良好な縫製ができるミシンを提供できる。
【0009】
また、たわみ易い布を縫製する際、布のたわみ量を考慮して、従来技術のミシンに備えている針釜タイミング調整機構により、針落ち位置に応じて針釜タイミング調整機構によりプーリの振り幅を変更し、ループを形成し、目とびの発生を抑制するように調整される。結果、良好な縫製ができるコストの安いミシンを提供できる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明によれば、たわみ易い布を縫製する際、目とびの発生を阻止するための針上り調整量のうち、布のたわみに対する針上り調整量は、針が中央に落ちる中央針落ち位置ほど大きく、針振りの両端に落ちる両端針落ち位置側ほど小さい。従って、布がたわみ易い中央針落ち位置近傍における振り幅の小さい範囲でも、ループが形成され、目とびの発生が抑制されるので、目とび発生の抑制が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの正面の構成を示す説明図である。
【図2】図1の右側面の構成を示す説明図である。
【図3】テンションプーリに係わる要部の分解斜視図である。
【図4】裁縫時のループの形成を示す説明図である。
【図5】針と釜の出会いのタイミングを示す説明図である。
【図6】本発明のミシンの針釜タイミング調整機構による上軸と下軸の位相をタイミングプーリにより調整する動作を模式的に示す右側面から見た説明図である。
【図7】たわみ難い布の場合における本発明のミシンの針と釜の出会いのタイミングの調整後を示す説明図である。
【図8】布の送り方向に垂直な布押えの針穴中央の略断面図である。
【図9】針穴幅の違い、及び針落ち位置の違いによる布のたわみ量を示す図である。
【図10】従来技術の針上り量及び針上り量調整量を示す図である。
【図11】従来技術のミシンと本発明のミシンの針上り量、及び針上り調整量を示す図である。
【図12】ミシンの制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1、図2は、本発明のミシン100で、図1は正面の構成を示す説明図で、図2は図1の右側面の構成を示す説明図である。ミシン100は、外郭1と機枠2とを備える。上軸3は、機枠2に固着された一対の軸受4a、4bにより回動自在に支持されている。上軸3の一端には、ハンドホイール5と、プーリ6が固着されている。プーリ6には、大径部の従動プーリ6aと第1のタイミングプーリ6bとが形成されている。機枠2に固着された上軸駆動用モータ9に固着したモータプーリ8と従動プーリ6aとには駆動ベルト7が掛けられ、上軸駆動用モータ9の回転は減速されて上軸3に伝えられる。上軸3の他端には、針棒クランク10が固定されていて、クランクロッド11により針棒12が上下動する。針棒12の先端には、針留38が取り付けられていて、針39を針棒12に固定している。下軸17は、機枠2に固着した軸受18、19により回動自在に支持される。下軸17の一端には第2のタイミングプーリ20が止めねじ21により固定される。第2のタイミングプーリ20と第1のタイミングプーリ6bとは同一歯数に設定されている。一方、下軸17の他端には図示しないねじ歯車が固着しており図示しない釜が2倍に増速されて回転する。第1のタイミングプーリ6bと第2のタイミングプーリ20とには、タイミングベルト22が巻き掛けられていて、上軸3と下軸17とは通常は等速回転する。
【0015】
第1のタイミングプーリ6bおよび第2のタイミングプーリ20寄りには針釜タイミング調整機構23が設けられ、針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14(プーリ)がタイミングベルト22に常時接触している。図3はテンションプーリ13、14に係わる要部の分解斜視図で、針釜タイミング調整機構23と、下軸17と、第1のタイミングプーリ6b(図1)と、第2のタイミングプーリ20とを示す。機枠2において、第1のタイミングプーリ6bと第2のタイミングプーリ20との略中間でタイミングベルト22が走行する付近には、軸15が突設されている。テンションプーリブラケット56は、略三角形を成しており、上部コーナには軸15に篏合するブッシュ57が突設されていて、下部コーナには軸28が突設されている。軸28には、テンションプーリ13が回転自在に篏合されている。もう一つの角部は直角に折曲げられ、雌ねじ56aが穿設されていて虫ねじ29がねじ込まれナット30によりロックされている。
【0016】
テンションプーリブラケット31は、上部でコの字状に曲げられ穴31a、31aが開けらていて、ブッシュ57の外周に回転自在に篏合され、下端には軸32が突設されている。軸32には、テンションプーリ14が回動自在に篏合されている。また、略中央部には、軸32と反対側にピン33が突設されている。テンションプーリブラケット56とテンションプーリブラケット31とは機枠2に同軸に支持されている。カム従動腕34は、テンションプーリブラケット31と同様に上部でコの字状に曲げられ穴34b、34bが開かれ、ブッシュ57の外周に回動自在に篏合している。さらに、カム従動腕34は、テンションプーリブラケット31におけるコの字曲げ部の間に挟持されている。スペーサ36は、カム従動腕34の動きをスムーズにするために設けられる。カム従動腕34は、下端部にピン35が突設すると共に突起部34aを備えている。これら、テンションプーリブラケット56、テンションプーリブラケット31、及びカム従動腕34は、それぞれ機枠2の軸15を中心として回転自在である。そして、止め輪37により軸方向に係止される。針釜タイミング調整用モータ24は、ねじ61によりブラケット59に螺着されている。さらに、ブラケット59は、ねじ62(図2)により機枠2に螺着される。
【0017】
カム58は、板カムであって、垂直軸に対し略対称を成した互いに独立した二つのカム面58a、58bを有しており、針釜タイミング調整用モータ24の回転軸24aに圧入固定されている。カム面58aは、カム従動腕34のピン35に当接している。カム面58bは、テンションプーリブラケット31のピン33に当接している。さらに、テンションプーリブラケット56に取付けられた虫ねじ29の先端は、カム従動腕34の突起部34aに当接している。このことにより、針釜タイミング調整用モータ24が回転すると、一対のテンションプーリ13、14は、図2に於いて軸15を中心に左右に揺動する。針釜タイミング調整用モータ24は、図示しないが上軸3の回転及び振り量や糸の種類、布の種類等の情報に応じコンピュータ制御により作動する。以上のようにして、針釜タイミング調整機構23が構成される。そして、針釜タイミング調整機構23は、上軸3と下軸17の位相をテンションプーリ13、14の振り幅により変更する。
【0018】
図1に示すように、機枠2の針棒12の後方には、押え棒抱き26を有するとともに下端に押えホルダ27を有する押え棒25が、ブッシュによって機枠2に上下動可能に取り付けられている。この押え棒25は、機枠2と押え棒抱き26との間に設けられた図示しないが押え棒バネにより下方に付勢される。押えホルダ27には布押え40が回動可能に取り付けられ、裁縫時に図示しない送り歯と協働して布を送り方向に搬送する。
【0019】
図4は、裁縫時のループの形成を示す説明図である。針39が最下点よりH上昇することにより上糸16にループが形成される。縫い目は、針39が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じた際にできる上糸16のループを釜41の剣先41a(図5)が捉えることで形成される。この最下点から釜41の剣先41aが針の位置にきてループを捉えるまでの針39の上昇量H(図4)が小さいと、ループが形成されなかったり、ループが小さくなり、釜41の剣先41aがループを捉えられずに目とびの原因になる。また、針39が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じた際に布の押圧力が十分でないと、針39の上昇と共に布も上昇してしまい針上り量Hにロスが生じ、ループが形成されなかったり、小さくなったりして剣先がループを捉えられずに縫い目が形成されず目とびの原因になる。ここで、針上り量のロスは、針39を引上げる際、針上り量を針が刺さった箇所を基準とし、たわまない布の針上り量からたわんだ布の針上り量を引いた値で、布のたわみ量に等しい。
【0020】
図5は、ミシン100の針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングを示す説明図である。針上り量は、ジグザグ縫い時、振り幅量によって針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングにおいて、釜41の回転が、右針落ちにおいて−θ早くなり、左針落ちにおいては+θ遅くなる為、中央針落ち、右針落ち、左針落ちにおいて、ループ形成のための針上り量がそれぞれhM、hR、hLとなり、縫いに必要なループの大きさが一定にならない。
【0021】
図6は、本発明のミシン100の針釜タイミング調整機構23(図1)による上軸3と下軸17の位相をタイミングプーリ13、14により調整する動作を模式的に示す説明図である。針釜タイミング調整用モータ24(図1)により軸15を支点にテンションプーリ13、14を左右に振ることで、上軸3と下軸17の位相が変わる。左針落ちの場合は、中央針落ちの場合に対し+θ/2分、第1のタイミングプーリ6bに対し第2のタイミングプーリ20を進角させる。右針落ちの場合は、中央針落ちの場合に対し−θ/2分、第1のタイミングプーリ6bに対し第2のタイミングプーリ20を遅角させる。
【0022】
図7は、たわみ難い布を縫製する場合で、本発明のミシン100の針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整後を示す説明図である。針釜タイミング調整機構23により、タイミングプーリ13、14の振り幅を調整して、上軸3と下軸17の位相を調整する。この調整により、中央針落ち、右針落ち、左針落ちにおいて針上り量hoを一定に保つことができる。
【0023】
ところで、「目とび」の原因には前述したようにような振り幅による針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングのずれによる針上り量の差異の他に、布の伸縮とたわみによる針上り量のロスとがある。たわみ難い布の場合には、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングのずれに起因する目とびは、針釜タイミング調整機構23により中央針落ち位置を原点に針落ち位置に対して針上り調整量を比例させ、調整することで解消される。しかし、ジャージ生地のような柔らかくて伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針39が抜け難い布の縫製の場合では、上記の針上り調整量の比例調整だけでは、布の伸縮とたわみによる針上り量のロスにより目とびが頻繁に発生する。以下、たわみ易い布を縫製する場合の針上りの調整について説明する。
【0024】
図8は、布の送り方向に垂直な布押え40の針穴40aの中央の略断面図で、布の伸縮とたわみを示す。図8(a)は、たわみ難い布の場合を示し、針上り量のロスは生じない。図8(b)〜(d)は伸縮性があり、たわみ易い布(例えば、ジャージ生地)の場合を示す。図8(b)は針39が布に刺さる際、布の抵抗により布は針39の先端に引っ張られて伸びた布のたわみ量はΔh1になる。図8(c)は針39が最下点に達してから上昇する際、Δh1伸びた布が縮み、たわみ量はΔh2になる。この間、針39と布は一体となって上昇するためループは形成されない。また図8(d)に示すように、布の下面が針板60の上面60b位置まで戻った後も、針39と糸の抵抗により布がたわみつつ針39と糸とが一体となって上昇し、たわみ量がΔh3になる場合がある。この間も、針39と布は一体となって上昇するためループは形成されない。
【0025】
また、針釜タイミング調整機構23を備えた本発明のミシン100では、上述したようにたわみ難い布を縫製する場合、針39の振り幅量によらず針上り量は一定になるので、針39の最大振り幅を大きく出来る。これに伴い必然的に布押え40も大きくなり、布押え40の針穴40a及び針板60の針穴60aの幅(針39の振れ方向の幅)も大きくなる(図9)。図9は、針穴幅の違い、及び針落ち位置の違いによる布のたわみ量を示す。図中(a)は、布針穴40aの幅と針穴60aの幅が小さい場合における中央針落ち位置の布のたわみ量Δh3を示す。(b)と(c)は、針穴40aの幅と針穴60aの幅が大きい場合で、(b)は中央針落ちの布のたわみ量Δh4を示し、(c)は右針落ちの布のたわみ量Δh5を示す。たわみ量Δh4は、たわみ量Δh5より大きく針上り量のロスも大きくなる。そして左右両端の針落ちでは、針穴の左右端が布を押えるため、たわみ量Δh5は少なくなる。また、針穴40a、60aの幅の大きいたわみ量Δh4は、針穴40a、60aの幅の小さいたわみ量Δh3より大きくなる。このように、針39の振り幅によらず針釜タイミング調整機構23により針上り量を一定にしても、実際の縫製時には布のたわみによって針上り量のロスが生じるため、左右針落ちと中央針落ちとでは針上り量が変化し、中央針落ちほど目とびが起り易くなる。このような原因による目とびは、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのある布の縫製において特に発生し易い。
【0026】
図10は、従来技術の針落ち位置と針上り量及び針上り調整量を示す。図10に示すように、従来技術の針釜タイミング調整機構を備えていないミシンでは、針上り量は左針落ちほど大きく、右針落ちほど小さく、針落ち位置に対して四角印を結んだ右下がりの直線hnになる。そして、特許文献1で示す従来技術の針釜タイミング調整機構を備えているミシンでは、針釜タイミング調整機構(釜速度調整装置)は歯車を組合せて構成しているため、針上り量は×印を結んだ一定値hoになる。この場合の針上り調整量Coは三角印で示すように、中央針落ち位置を原点とし、針落ち位置に対して右上がりの比例関係にある。
【0027】
図11は、従来技術のミシンと本発明のミシン100の針上り量、及び針上り量調整量を示し、図12は本発明のミシン100の制御構成を示すブロック図である。本発明のミシン100は、布にたわみが生じる実縫製時における針上りロスを見越して、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整を行う。即ち、たわみ易い布を縫製する場合、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整における針上り調整量Cは、針落ち位置によらず針上り量を一定値ho(図7、図10)する針上り調整量Co(図10)に、布のたわみ量を考慮して針が落ちる位置に応じた布のたわみによる針上り調整量Ccを加算する(図11)。従って、本発明による針上り調整量CはC=Co+Ccになり、針上り量は黒丸を結んだ曲線hcになる。
【0028】
図11に示すように、中央針落ち位置を原点にして、従来技術のミシンの針上り量調整は、布がたわまない前提に右上がりの直線になるが、たわみ易い布を縫製する場合には、本発明のミシンの針上り量調整は布のたわみを考慮してなされるので、右上りの非線形な曲線に設定する。そして、布のたわみに対する針上り調整量Cは、中央針落ち位置ほど大きく、針39が振られる左右両端側ほど小さく設定される。これにより、本発明のミシン100の針上り量は、布がたわんだ場合でも、いずれの針落ち位置に対しもほぼ一定値になる。
【0029】
具体的には、柔らかく伸縮性があり、厚みのある生地、例えばジャージ生地を縫製する場合の針落ち位置に対する調整量Cを設定し、この調整量Cを事前に中央演算装置42(図12)に入力し格納しておく。そして、例えばユーザがジャージ生地モードを選択すると、この指令が中央演算装置42にインプットされ、中央演算装置42は格納されている調整量Cの情報を針釜タイミング調整用モータ駆動回路47へ伝達し、針釜タイミング調整用モータ24を回動する。すると、テンションプーリ13、14の振り幅が変更され、目とびが発生を阻止するように針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングが調整される。
【0030】
図12に示すように、中央演算装置42(CPU)には、設定入力装置52から模様の種類や振り幅、送り量等の情報が送られ、液晶タッチパネルである表示装置51に表示される。また、中央演算装置42にはたわみ易い布(例えば、ジャージ布)の針落ち位置に対する針上り調整量のデータが事前にインプットされ格納されている。そして中央演算装置42には、ボタンホール切替検出手段53、上軸回転速度センサ54、押え金上下位置検出手段55からの情報も送られる。中央演算装置42は、送られてきた情報に基づいて幅出し用モータ駆動回路50により幅出し用モータ43を、送り量調整用モータ駆動回路49により送り量調整用モータ44を、上軸駆動用モータ駆動回路48により上軸駆動用モータ9を、針釜タイミング調整用モータ駆動回路47により針釜タイミング調整用モータ24をそれぞれ制御する。
【0031】
以上により、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針39が抜け難い布を縫製する際、布のたわみを考慮して、中央演算装置42により針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14の振れ幅を制御し、上軸3と下軸17の位相が調整される。これにより、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングは、布のたわみ量を考慮して針落ち位置に応じて調整される。従って、布にたわみが発生しても、ループが形成されて目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができるミシン100を提供できる。
【0032】
また、たわみが発生しても、目とびの発生が抑制されるので、針39の最大振り幅を増大できる。
【0033】
また、たわみ易い布を縫製する際、従来技術のミシンで使用している中央演算装置42により、布のたわみ量を考慮して従来技術の針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14の振れ幅を制御する。従って、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングが適正に調整されるので、たわみ易い布を縫製する際、ループを形成し、目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができるコストの安いミシン100を提供できる。
【0034】
さらには、針上り調整量Cのうち布のたわみによる針上り調整量Ccは、中央針落ち位置ほど大きく、左右両端側ほど小さく設定される。従って、布がたわみ易い中央針落ち位置近傍における振り幅の小さい範囲でも、ループが形成され、目とび発生の抑制されるので、目とび発生の抑制が向上する。
【符号の説明】
【0035】
2 機枠
3 上軸
12 針棒
13、14 テンションプーリ(プーリ)
17 下軸
22 タイミングベルト
23 針釜タイミング調整機構
39 針
41 釜
100 ミシン
【技術分野】
【0001】
本発明は、針釜タイミング調整機構を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
針釜タイミング調整機構を備えた従来技術のミシンとして、主軸の回転によって針棒揺動台を揺動することにより針棒を針振り運動して千鳥縫いを形成するミシンにおいて、主軸の回転とともに回転され、かつ内周にギアが形成された第1の太陽歯車と、釜に連結される回転軸に固定され、かつ第1の太陽歯車と、第2の太陽歯車の回転軸に一端が遊嵌されたギアホルダの他端に回動可能に装着され、かつ第1、第2の太陽歯車と掛合される遊星歯車と、針棒揺動台の針振り運動をギアホルダに伝達するレバー機構を有す釜速度調整装置を備えたミシンが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−28976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、釜速度調整装置(針釜タイミング調整機構)により、針棒の揺動量に比例して主軸(上軸)と回転軸(下軸)との位相が調整され、針と釜の剣先との出会いのタイミングは常に一定なる。従って、たわみ難い布を縫製する場合は、針の最大振り量を大きくしても目とびなく縫製でき、幅の広い針が通過する針穴を設けた布押さえを備えたミシンが提供できる。しかし、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのある生地を縫製する場合においては、針が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じて上糸がループを形成する際に、針の上昇と共に布も上昇してしまう。このため、針上り量にロスを生じ、しばしばループが形成されず目とびが発生する問題がある。特に、幅の広い針穴を設けた布押さえでは、針穴中央付近で布地がたわみ易くなり針上り量のロスが増大し、振り幅の小さい範囲において、針上り量が不足し、ループが形成されず目とびが頻繁に発生する問題がある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのあるたわみ易い布を縫製する際、ループが形成されて目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができ、且つコストの安いミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、機枠と、機枠に回転自在に支持されて針棒を駆動する上軸と、機枠に回転自在に支持されて釜を駆動する下軸と、上軸と下軸を連結し上軸の回転と下軸の回転を同期するタイミングベルトと、タイミングベルトに常時接触するプーリを備え、プーリの振り幅により上軸と下軸の位相を変える針釜タイミング調整機構と、を備えるミシンであって、針棒に固定した針の針落ち位置に応じて針と釜との出会いのタイミングを調整する。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、針と釜との出会いのタイミングの調整のうち、布のたわみに対する針上り調整量は、中央針落ち位置ほど大きく、両端針落ち位置側ほど小さい。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の本発明によれば、針棒に固定した針が刺さった布のたわみ量を考慮して、針落ち位置に応じて針と釜との出会いのタイミングを調整する。これにより、針と釜の出会いのタイミングは、針落ち位置に対して布のたわみを考慮し、針落ち位置に応じて針釜タイミング調整機構によりプーリの振り幅を変更し、ループを形成し、目とびの発生を抑制するように調整される。従って、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針が抜け難い布を縫製する際、布にたわみが発生しても、良好な縫製ができるミシンを提供できる。
【0009】
また、たわみ易い布を縫製する際、布のたわみ量を考慮して、従来技術のミシンに備えている針釜タイミング調整機構により、針落ち位置に応じて針釜タイミング調整機構によりプーリの振り幅を変更し、ループを形成し、目とびの発生を抑制するように調整される。結果、良好な縫製ができるコストの安いミシンを提供できる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明によれば、たわみ易い布を縫製する際、目とびの発生を阻止するための針上り調整量のうち、布のたわみに対する針上り調整量は、針が中央に落ちる中央針落ち位置ほど大きく、針振りの両端に落ちる両端針落ち位置側ほど小さい。従って、布がたわみ易い中央針落ち位置近傍における振り幅の小さい範囲でも、ループが形成され、目とびの発生が抑制されるので、目とび発生の抑制が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの正面の構成を示す説明図である。
【図2】図1の右側面の構成を示す説明図である。
【図3】テンションプーリに係わる要部の分解斜視図である。
【図4】裁縫時のループの形成を示す説明図である。
【図5】針と釜の出会いのタイミングを示す説明図である。
【図6】本発明のミシンの針釜タイミング調整機構による上軸と下軸の位相をタイミングプーリにより調整する動作を模式的に示す右側面から見た説明図である。
【図7】たわみ難い布の場合における本発明のミシンの針と釜の出会いのタイミングの調整後を示す説明図である。
【図8】布の送り方向に垂直な布押えの針穴中央の略断面図である。
【図9】針穴幅の違い、及び針落ち位置の違いによる布のたわみ量を示す図である。
【図10】従来技術の針上り量及び針上り量調整量を示す図である。
【図11】従来技術のミシンと本発明のミシンの針上り量、及び針上り調整量を示す図である。
【図12】ミシンの制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1、図2は、本発明のミシン100で、図1は正面の構成を示す説明図で、図2は図1の右側面の構成を示す説明図である。ミシン100は、外郭1と機枠2とを備える。上軸3は、機枠2に固着された一対の軸受4a、4bにより回動自在に支持されている。上軸3の一端には、ハンドホイール5と、プーリ6が固着されている。プーリ6には、大径部の従動プーリ6aと第1のタイミングプーリ6bとが形成されている。機枠2に固着された上軸駆動用モータ9に固着したモータプーリ8と従動プーリ6aとには駆動ベルト7が掛けられ、上軸駆動用モータ9の回転は減速されて上軸3に伝えられる。上軸3の他端には、針棒クランク10が固定されていて、クランクロッド11により針棒12が上下動する。針棒12の先端には、針留38が取り付けられていて、針39を針棒12に固定している。下軸17は、機枠2に固着した軸受18、19により回動自在に支持される。下軸17の一端には第2のタイミングプーリ20が止めねじ21により固定される。第2のタイミングプーリ20と第1のタイミングプーリ6bとは同一歯数に設定されている。一方、下軸17の他端には図示しないねじ歯車が固着しており図示しない釜が2倍に増速されて回転する。第1のタイミングプーリ6bと第2のタイミングプーリ20とには、タイミングベルト22が巻き掛けられていて、上軸3と下軸17とは通常は等速回転する。
【0015】
第1のタイミングプーリ6bおよび第2のタイミングプーリ20寄りには針釜タイミング調整機構23が設けられ、針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14(プーリ)がタイミングベルト22に常時接触している。図3はテンションプーリ13、14に係わる要部の分解斜視図で、針釜タイミング調整機構23と、下軸17と、第1のタイミングプーリ6b(図1)と、第2のタイミングプーリ20とを示す。機枠2において、第1のタイミングプーリ6bと第2のタイミングプーリ20との略中間でタイミングベルト22が走行する付近には、軸15が突設されている。テンションプーリブラケット56は、略三角形を成しており、上部コーナには軸15に篏合するブッシュ57が突設されていて、下部コーナには軸28が突設されている。軸28には、テンションプーリ13が回転自在に篏合されている。もう一つの角部は直角に折曲げられ、雌ねじ56aが穿設されていて虫ねじ29がねじ込まれナット30によりロックされている。
【0016】
テンションプーリブラケット31は、上部でコの字状に曲げられ穴31a、31aが開けらていて、ブッシュ57の外周に回転自在に篏合され、下端には軸32が突設されている。軸32には、テンションプーリ14が回動自在に篏合されている。また、略中央部には、軸32と反対側にピン33が突設されている。テンションプーリブラケット56とテンションプーリブラケット31とは機枠2に同軸に支持されている。カム従動腕34は、テンションプーリブラケット31と同様に上部でコの字状に曲げられ穴34b、34bが開かれ、ブッシュ57の外周に回動自在に篏合している。さらに、カム従動腕34は、テンションプーリブラケット31におけるコの字曲げ部の間に挟持されている。スペーサ36は、カム従動腕34の動きをスムーズにするために設けられる。カム従動腕34は、下端部にピン35が突設すると共に突起部34aを備えている。これら、テンションプーリブラケット56、テンションプーリブラケット31、及びカム従動腕34は、それぞれ機枠2の軸15を中心として回転自在である。そして、止め輪37により軸方向に係止される。針釜タイミング調整用モータ24は、ねじ61によりブラケット59に螺着されている。さらに、ブラケット59は、ねじ62(図2)により機枠2に螺着される。
【0017】
カム58は、板カムであって、垂直軸に対し略対称を成した互いに独立した二つのカム面58a、58bを有しており、針釜タイミング調整用モータ24の回転軸24aに圧入固定されている。カム面58aは、カム従動腕34のピン35に当接している。カム面58bは、テンションプーリブラケット31のピン33に当接している。さらに、テンションプーリブラケット56に取付けられた虫ねじ29の先端は、カム従動腕34の突起部34aに当接している。このことにより、針釜タイミング調整用モータ24が回転すると、一対のテンションプーリ13、14は、図2に於いて軸15を中心に左右に揺動する。針釜タイミング調整用モータ24は、図示しないが上軸3の回転及び振り量や糸の種類、布の種類等の情報に応じコンピュータ制御により作動する。以上のようにして、針釜タイミング調整機構23が構成される。そして、針釜タイミング調整機構23は、上軸3と下軸17の位相をテンションプーリ13、14の振り幅により変更する。
【0018】
図1に示すように、機枠2の針棒12の後方には、押え棒抱き26を有するとともに下端に押えホルダ27を有する押え棒25が、ブッシュによって機枠2に上下動可能に取り付けられている。この押え棒25は、機枠2と押え棒抱き26との間に設けられた図示しないが押え棒バネにより下方に付勢される。押えホルダ27には布押え40が回動可能に取り付けられ、裁縫時に図示しない送り歯と協働して布を送り方向に搬送する。
【0019】
図4は、裁縫時のループの形成を示す説明図である。針39が最下点よりH上昇することにより上糸16にループが形成される。縫い目は、針39が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じた際にできる上糸16のループを釜41の剣先41a(図5)が捉えることで形成される。この最下点から釜41の剣先41aが針の位置にきてループを捉えるまでの針39の上昇量H(図4)が小さいと、ループが形成されなかったり、ループが小さくなり、釜41の剣先41aがループを捉えられずに目とびの原因になる。また、針39が布に刺さり最下点に達した後、上昇に転じた際に布の押圧力が十分でないと、針39の上昇と共に布も上昇してしまい針上り量Hにロスが生じ、ループが形成されなかったり、小さくなったりして剣先がループを捉えられずに縫い目が形成されず目とびの原因になる。ここで、針上り量のロスは、針39を引上げる際、針上り量を針が刺さった箇所を基準とし、たわまない布の針上り量からたわんだ布の針上り量を引いた値で、布のたわみ量に等しい。
【0020】
図5は、ミシン100の針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングを示す説明図である。針上り量は、ジグザグ縫い時、振り幅量によって針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングにおいて、釜41の回転が、右針落ちにおいて−θ早くなり、左針落ちにおいては+θ遅くなる為、中央針落ち、右針落ち、左針落ちにおいて、ループ形成のための針上り量がそれぞれhM、hR、hLとなり、縫いに必要なループの大きさが一定にならない。
【0021】
図6は、本発明のミシン100の針釜タイミング調整機構23(図1)による上軸3と下軸17の位相をタイミングプーリ13、14により調整する動作を模式的に示す説明図である。針釜タイミング調整用モータ24(図1)により軸15を支点にテンションプーリ13、14を左右に振ることで、上軸3と下軸17の位相が変わる。左針落ちの場合は、中央針落ちの場合に対し+θ/2分、第1のタイミングプーリ6bに対し第2のタイミングプーリ20を進角させる。右針落ちの場合は、中央針落ちの場合に対し−θ/2分、第1のタイミングプーリ6bに対し第2のタイミングプーリ20を遅角させる。
【0022】
図7は、たわみ難い布を縫製する場合で、本発明のミシン100の針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整後を示す説明図である。針釜タイミング調整機構23により、タイミングプーリ13、14の振り幅を調整して、上軸3と下軸17の位相を調整する。この調整により、中央針落ち、右針落ち、左針落ちにおいて針上り量hoを一定に保つことができる。
【0023】
ところで、「目とび」の原因には前述したようにような振り幅による針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングのずれによる針上り量の差異の他に、布の伸縮とたわみによる針上り量のロスとがある。たわみ難い布の場合には、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングのずれに起因する目とびは、針釜タイミング調整機構23により中央針落ち位置を原点に針落ち位置に対して針上り調整量を比例させ、調整することで解消される。しかし、ジャージ生地のような柔らかくて伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針39が抜け難い布の縫製の場合では、上記の針上り調整量の比例調整だけでは、布の伸縮とたわみによる針上り量のロスにより目とびが頻繁に発生する。以下、たわみ易い布を縫製する場合の針上りの調整について説明する。
【0024】
図8は、布の送り方向に垂直な布押え40の針穴40aの中央の略断面図で、布の伸縮とたわみを示す。図8(a)は、たわみ難い布の場合を示し、針上り量のロスは生じない。図8(b)〜(d)は伸縮性があり、たわみ易い布(例えば、ジャージ生地)の場合を示す。図8(b)は針39が布に刺さる際、布の抵抗により布は針39の先端に引っ張られて伸びた布のたわみ量はΔh1になる。図8(c)は針39が最下点に達してから上昇する際、Δh1伸びた布が縮み、たわみ量はΔh2になる。この間、針39と布は一体となって上昇するためループは形成されない。また図8(d)に示すように、布の下面が針板60の上面60b位置まで戻った後も、針39と糸の抵抗により布がたわみつつ針39と糸とが一体となって上昇し、たわみ量がΔh3になる場合がある。この間も、針39と布は一体となって上昇するためループは形成されない。
【0025】
また、針釜タイミング調整機構23を備えた本発明のミシン100では、上述したようにたわみ難い布を縫製する場合、針39の振り幅量によらず針上り量は一定になるので、針39の最大振り幅を大きく出来る。これに伴い必然的に布押え40も大きくなり、布押え40の針穴40a及び針板60の針穴60aの幅(針39の振れ方向の幅)も大きくなる(図9)。図9は、針穴幅の違い、及び針落ち位置の違いによる布のたわみ量を示す。図中(a)は、布針穴40aの幅と針穴60aの幅が小さい場合における中央針落ち位置の布のたわみ量Δh3を示す。(b)と(c)は、針穴40aの幅と針穴60aの幅が大きい場合で、(b)は中央針落ちの布のたわみ量Δh4を示し、(c)は右針落ちの布のたわみ量Δh5を示す。たわみ量Δh4は、たわみ量Δh5より大きく針上り量のロスも大きくなる。そして左右両端の針落ちでは、針穴の左右端が布を押えるため、たわみ量Δh5は少なくなる。また、針穴40a、60aの幅の大きいたわみ量Δh4は、針穴40a、60aの幅の小さいたわみ量Δh3より大きくなる。このように、針39の振り幅によらず針釜タイミング調整機構23により針上り量を一定にしても、実際の縫製時には布のたわみによって針上り量のロスが生じるため、左右針落ちと中央針落ちとでは針上り量が変化し、中央針落ちほど目とびが起り易くなる。このような原因による目とびは、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性があり、厚みのある布の縫製において特に発生し易い。
【0026】
図10は、従来技術の針落ち位置と針上り量及び針上り調整量を示す。図10に示すように、従来技術の針釜タイミング調整機構を備えていないミシンでは、針上り量は左針落ちほど大きく、右針落ちほど小さく、針落ち位置に対して四角印を結んだ右下がりの直線hnになる。そして、特許文献1で示す従来技術の針釜タイミング調整機構を備えているミシンでは、針釜タイミング調整機構(釜速度調整装置)は歯車を組合せて構成しているため、針上り量は×印を結んだ一定値hoになる。この場合の針上り調整量Coは三角印で示すように、中央針落ち位置を原点とし、針落ち位置に対して右上がりの比例関係にある。
【0027】
図11は、従来技術のミシンと本発明のミシン100の針上り量、及び針上り量調整量を示し、図12は本発明のミシン100の制御構成を示すブロック図である。本発明のミシン100は、布にたわみが生じる実縫製時における針上りロスを見越して、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整を行う。即ち、たわみ易い布を縫製する場合、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングの調整における針上り調整量Cは、針落ち位置によらず針上り量を一定値ho(図7、図10)する針上り調整量Co(図10)に、布のたわみ量を考慮して針が落ちる位置に応じた布のたわみによる針上り調整量Ccを加算する(図11)。従って、本発明による針上り調整量CはC=Co+Ccになり、針上り量は黒丸を結んだ曲線hcになる。
【0028】
図11に示すように、中央針落ち位置を原点にして、従来技術のミシンの針上り量調整は、布がたわまない前提に右上がりの直線になるが、たわみ易い布を縫製する場合には、本発明のミシンの針上り量調整は布のたわみを考慮してなされるので、右上りの非線形な曲線に設定する。そして、布のたわみに対する針上り調整量Cは、中央針落ち位置ほど大きく、針39が振られる左右両端側ほど小さく設定される。これにより、本発明のミシン100の針上り量は、布がたわんだ場合でも、いずれの針落ち位置に対しもほぼ一定値になる。
【0029】
具体的には、柔らかく伸縮性があり、厚みのある生地、例えばジャージ生地を縫製する場合の針落ち位置に対する調整量Cを設定し、この調整量Cを事前に中央演算装置42(図12)に入力し格納しておく。そして、例えばユーザがジャージ生地モードを選択すると、この指令が中央演算装置42にインプットされ、中央演算装置42は格納されている調整量Cの情報を針釜タイミング調整用モータ駆動回路47へ伝達し、針釜タイミング調整用モータ24を回動する。すると、テンションプーリ13、14の振り幅が変更され、目とびが発生を阻止するように針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングが調整される。
【0030】
図12に示すように、中央演算装置42(CPU)には、設定入力装置52から模様の種類や振り幅、送り量等の情報が送られ、液晶タッチパネルである表示装置51に表示される。また、中央演算装置42にはたわみ易い布(例えば、ジャージ布)の針落ち位置に対する針上り調整量のデータが事前にインプットされ格納されている。そして中央演算装置42には、ボタンホール切替検出手段53、上軸回転速度センサ54、押え金上下位置検出手段55からの情報も送られる。中央演算装置42は、送られてきた情報に基づいて幅出し用モータ駆動回路50により幅出し用モータ43を、送り量調整用モータ駆動回路49により送り量調整用モータ44を、上軸駆動用モータ駆動回路48により上軸駆動用モータ9を、針釜タイミング調整用モータ駆動回路47により針釜タイミング調整用モータ24をそれぞれ制御する。
【0031】
以上により、ジャージ生地のような柔らかく伸縮性がありたわみ易く、厚みがあり針39が抜け難い布を縫製する際、布のたわみを考慮して、中央演算装置42により針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14の振れ幅を制御し、上軸3と下軸17の位相が調整される。これにより、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングは、布のたわみ量を考慮して針落ち位置に応じて調整される。従って、布にたわみが発生しても、ループが形成されて目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができるミシン100を提供できる。
【0032】
また、たわみが発生しても、目とびの発生が抑制されるので、針39の最大振り幅を増大できる。
【0033】
また、たわみ易い布を縫製する際、従来技術のミシンで使用している中央演算装置42により、布のたわみ量を考慮して従来技術の針釜タイミング調整機構23のテンションプーリ13、14の振れ幅を制御する。従って、針39と釜41の剣先41aとの出会いのタイミングが適正に調整されるので、たわみ易い布を縫製する際、ループを形成し、目とびの発生が抑制され、良好な縫製ができるコストの安いミシン100を提供できる。
【0034】
さらには、針上り調整量Cのうち布のたわみによる針上り調整量Ccは、中央針落ち位置ほど大きく、左右両端側ほど小さく設定される。従って、布がたわみ易い中央針落ち位置近傍における振り幅の小さい範囲でも、ループが形成され、目とび発生の抑制されるので、目とび発生の抑制が向上する。
【符号の説明】
【0035】
2 機枠
3 上軸
12 針棒
13、14 テンションプーリ(プーリ)
17 下軸
22 タイミングベルト
23 針釜タイミング調整機構
39 針
41 釜
100 ミシン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機枠と、
前記機枠に回転自在に支持されて針棒を駆動する上軸と、
前記機枠に回転自在に支持されて釜を駆動する下軸と、
前記上軸と前記下軸を連結し前記上軸の回転と前記下軸の回転を同期するタイミングベルトと、
前記タイミングベルトに常時接触するプーリを備え、前記プーリの振り幅により前記上軸と前記下軸の位相を変える針釜タイミング調整機構と、を備えるミシンであって、
前記針棒に固定した針の針落ち位置に応じて前記針と前記釜との出会いのタイミングを調整する、ことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記針と前記釜との出会いのタイミングの前記調整のうち、前記布のたわみに対する針上り調整量は、中央針落ち位置ほど大きく、両端針落ち位置側ほど小さい、ことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項1】
機枠と、
前記機枠に回転自在に支持されて針棒を駆動する上軸と、
前記機枠に回転自在に支持されて釜を駆動する下軸と、
前記上軸と前記下軸を連結し前記上軸の回転と前記下軸の回転を同期するタイミングベルトと、
前記タイミングベルトに常時接触するプーリを備え、前記プーリの振り幅により前記上軸と前記下軸の位相を変える針釜タイミング調整機構と、を備えるミシンであって、
前記針棒に固定した針の針落ち位置に応じて前記針と前記釜との出会いのタイミングを調整する、ことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記針と前記釜との出会いのタイミングの前記調整のうち、前記布のたわみに対する針上り調整量は、中央針落ち位置ほど大きく、両端針落ち位置側ほど小さい、ことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−227392(P2010−227392A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79929(P2009−79929)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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