説明

ミシン

【課題】糸駒を交換する際のユーザの利便性を向上させたミシンを提供すること。
【解決手段】糸駒から供給される上糸が挿通される針孔を有する縫針を下端に装着可能な複数の針棒と、各種情報を表示可能な表示手段とを備えるミシンにおいて、次の処理が実行される。複数の針棒の中の、糸駒の交換が必要な少なくとも1つの針棒である交換針棒に関する情報である交換情報が表示手段に表示される(S54)。交換情報が表示手段に表示されている期間に、ユーザが糸駒を交換した針棒である交換済針棒が特定される(S56,S58)。交換済針棒の特定結果が表示手段に表示される(S60)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数色の糸で縫製される刺繍模様を縫製可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数色の糸で縫製される刺繍模様を縫製可能なミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。従来のミシンは、複数色の刺繍模様を縫製する処理において、糸駒の交換が必要になると、糸駒の交換が必要な針棒に対応する糸立て台及び糸道経路部材の近傍に設けられた表示手段を制御して、針棒に装着される予定の糸駒の色を表示させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−275103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のミシンは、糸駒の交換が必要な針棒と、糸駒の交換が既に終了した針棒及び糸駒の交換が不要な針棒とで、表示手段の表示態様を変えている。したがって、従来のミシンでは、ユーザは、複数の針棒のそれぞれに対応する表示手段を個々に確認しなければ、糸駒の交換が必要な針棒と、糸駒の交換が既に終了した針棒とを区別できない。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、糸駒を交換する際のユーザの利便性を向上させたミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本態様のミシンは、糸駒から供給される上糸が挿通される針孔を有する縫針を下端に装着可能な複数の針棒と、各種情報を表示可能な表示手段と、前記複数の針棒の中の、前記糸駒の交換が必要な少なくとも1つの針棒である交換針棒に関する情報である交換情報を前記表示手段に表示させる第1表示制御手段と、前記交換情報が前記表示手段に表示されている期間に、ユーザが前記糸駒を交換した針棒である交換済針棒を特定する特定手段と、前記特定手段の特定結果を前記表示手段に表示させる前記第2表示制御手段とを備えている。
【0007】
本態様のミシンによれば、交換針棒が複数ある場合であっても、ユーザは、表示手段によって交換針棒を容易に確認することができる。このため、ユーザは、針棒毎に設けられた複数の表示手段のそれぞれを確認して交換針棒を特定する場合に比べ、交換針棒全体を容易に把握することができる。さらに、ユーザは、表示手段を確認することによって、交換針棒と、交換済針棒とを確実に区別することができる。
【0008】
本態様のミシンにおいて、前記上糸に所定の張力を付与する回転皿を有する糸調子器であって、前記複数の針棒のそれぞれに対応する複数の前記糸調子器をさらに備え、前記特定手段は、交換された糸駒から供給される上糸によって前記回転皿が回転されたことを検出し、前記回転皿が回転された前記糸調子器に対応する前記針棒を、前記交換済針棒として特定してもよい。この場合のミシンは、ユーザが糸駒から供給される上糸をミシンに装着する作業によって回転皿が回転することを利用して、交換済針棒を的確に特定することができる。
【0009】
本態様のミシンにおいて、前記複数の針棒の中から択一的に選択して前記縫針の前記針孔に前記上糸を挿通させる糸通し機構と、前記糸通し機構を動作させることを指示する操作手段とをさらに備え、前記特定手段は、前記ユーザが前記操作手段を操作して前記糸通し機構を動作させ、前記縫針の前記針孔に上糸を挿通させた針棒を、前記交換済針棒として特定してもよい。この場合のミシンは、縫針の針孔に上糸を挿通させる場合には、糸通し機構が駆動されることを利用して、交換済針棒を的確に特定することができる。
【0010】
本態様のミシンにおいて、前記交換情報は、前記交換針棒と、交換予定の前記糸駒の色とを対応付けた情報であり、前記第2表示制御手段は、前記特定手段によって前記交換済針棒が特定された場合に、前記表示手段に表示されている前記交換情報を更新し、前記第1表示制御手段と、前記第2表示制御手段とのそれぞれは、前記交換情報を、前記複数の針棒の中の前記交換針棒以外の針棒に関する情報とは異なる表示態様で前記表示手段に表示させてもよい。この場合のミシンによれば、ユーザは、表示手段を確認することによって、交換針棒と、交換済針棒とを確実に区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】多針ミシン1の斜視図である。
【図2】縫針35付近を拡大した斜視図である。
【図3】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】メイン処理のフローチャートである。
【図5】メイン処理開始時に、針棒番号1から10番の針棒31のそれぞれに対応付けられている糸駒の色を示すテーブルである。
【図6】ユーザが選択した刺繍模様を縫製するための糸駒の色と、縫製順序との対応を示すテーブルである。
【図7】図4のメイン処理で実行される交換処理のフローチャートである。
【図8】液晶ディスプレイ7に表示される画面201の説明図である。
【図9】液晶ディスプレイ7に表示される画面202の説明図である。
【図10】液晶ディスプレイ7に表示される画面203の説明図である。
【図11】液晶ディスプレイ7に表示される画面204の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具現化した一実施の形態である多針ミシン1(以下、単に「ミシン1」と言う。)について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成、フローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0013】
図1から図3を参照して、ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図1の左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側をそれぞれ、ミシン1の前方、後方、左側、右側とする。
【0014】
図1のように、ミシン1のミシン本体20は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、ミシン1全体を支持する。支持部2の上面には、前後方向に伸びる左右一対のガイド溝25がある。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒31が左右方向に等間隔で配置されている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、ミシン1の右側から順に針棒番号1番から10番が付与されている。10本の針棒31のうち、縫製位置にある1本の針棒が、針棒ケース21の内部に設けられた針棒駆動機構32(図3参照)によって上下方向に摺動される。図2のように、針棒31の下端には、縫針35が装着される。押え足39は、針棒31の上下動と連動して、間欠的に縫製対象物(例えば、加工布)を下方へ押圧する。
【0015】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、上下方向に伸びる軸(図示せず)を回転軸として回転可能にアーム部4に支持されている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、コネクタ9と、スタート/ストップスイッチ41と、針孔糸通しスイッチ42とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像といった各種情報が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、ユーザが、指又はタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)によって、縫製模様及び縫製条件といった各種条件を選択又は設定できる。コネクタ9は、USB規格のコネクタであり、USBデバイス160(図3参照)と接続可能である。スタート/ストップスイッチ41は、縫製の開始又は停止を指示するためのスイッチである。縫製停止中にスタート/ストップスイッチ41が押下されると、縫製が開始される。縫製中にスタート/ストップスイッチ41が押下されると、縫製が停止される。針孔糸通しスイッチ42は、針孔糸通し機構126(図3参照)を駆動させることを指示するスイッチである。
【0016】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示せず)が設けられている。釜は、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する。シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示せず)がある。釜駆動機構(図示せず)は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板16がある。針板16には、縫針35(図2参照)が挿通される針穴36が設けられている。
【0017】
アーム部4の下方には、刺繍枠移動機構11のYキャリッジ26が設けられている。刺繍枠移動機構11は、刺繍枠(図示せず)を着脱可能に支持する。刺繍枠は、縫製対象物を保持する。刺繍枠移動機構11は、X軸モータ132(図3参照)及びY軸モータ134(図3参照)を駆動源として、刺繍枠を前後左右に移動させる。
【0018】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、糸立棒14が5つ設けられている。糸立棒14は、上下方向に伸びる棒である。糸立棒14は、糸駒13を支持する。一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ10個の糸駒13を設置可能である。上糸15は、糸駒台12に設置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸道経路を経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の針孔37に供給される。糸道経路は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19と、針棒糸かけ43とを含む。詳しくは図示しないが、糸調子器18は、回転皿34(図3参照)と、回転検出器33(図3参照)とを内部に備える公知の構成を有する(例えば、特開2007−313159号公報参照)。回転皿34は、上糸15に所定の張力を付与する。回転検出器33は、回転皿34の回転量を表す電気信号を制御部60(図3参照)に入力する。
【0019】
次に、ミシン1の制御全般を司る電気的構成について図3を参照して説明する。図3のように、ミシン1は、回転検出器33と、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60とを備える。以下、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60とのそれぞれを詳述する。
【0020】
縫針駆動部120は、主軸モータ122と、駆動回路121と、針棒ケース用モータ45と、駆動回路123と、針孔糸通し機構126と、駆動回路125とを備える。主軸モータ122は、針棒31を上下方向に往復移動させる。駆動回路121は、制御部60からの制御信号に従って主軸モータ122を駆動する。針棒ケース用モータ45は、針棒ケース21を左右方向に移動させる。駆動回路123は、制御部60からの制御信号に従って針棒ケース用モータ45を駆動する。針孔糸通し機構126は、詳しくは図示しないが、アーム部4の前方先端の下方に設けられており、針穴36の直上に位置している針棒31(縫製針棒)の縫針35の針孔37に、上糸15(図1参照)を挿通させるための公知の機構である(例えば、特開2005−73866号公報参照)。駆動回路125は、制御部60からの制御信号に従って針孔糸通し機構126を駆動する。
【0021】
縫製対象駆動部130は、X軸モータ132と、駆動回路131と、Y軸モータ134と、駆動回路133とを備える。X軸モータ132は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠(図示せず)を左右方向に移動させる。駆動回路131は、制御部60からの制御信号に従ってX軸モータ132を駆動する。Y軸モータ134は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠を前後方向に移動させる。駆動回路133は、制御部60からの制御信号に従ってY軸モータ134を駆動する。
【0022】
操作部6は、タッチパネル8と、コネクタ9と、駆動回路135と、LCD7と、スタート/ストップスイッチ41と、針孔糸通しスイッチ42とを備える。駆動回路135は、制御部60からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。コネクタ9は、USBデバイス160と接続する機能を備える。USBデバイス160としては、例えば、PCと、USBメモリとが挙げられる。
【0023】
制御部60は、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64と、入出力インターフェイス(I/O)66とを備え、これらはバス65によって相互に接続されている。I/O66には、回転検出器33と、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6とそれぞれ接続されている。以下、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64とについて詳述する。
【0024】
CPU61は、ミシン1の主制御を司り、ROM62のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。ROM62は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備える。プログラム記憶エリアには、メインプログラムを含む、ミシン1を動作させるための各種プログラムが記憶されている。メインプログラムは、後述するメイン処理を実行するためのプログラムである。模様記憶エリアには、複数色の糸で縫製される刺繍模様を縫製するための縫製データが記憶されている。RAM63は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU61が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられている。EEPROM64には、読み書き可能な記憶素子であり、ミシン1が各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。EEPROM64には、さらに、各針棒31と、各針棒31の下端に装着される縫針35の針孔37に供給される上糸15の色とが対応付けて記憶されている。
【0025】
次に、刺繍枠(図示せず)に保持された縫製対象物に縫目を形成する動作について図1から図3を参照して説明する。縫製対象物を保持した刺繍枠は、刺繍枠移動機構11に支持される。針棒ケース21が左右に移動することで、10本の針棒31のうち1本が選択される。刺繍枠移動機構11によって、刺繍枠が所定の位置に移動される。主軸モータ122によって主軸(図示せず)が回転駆動されると、針棒駆動機構32及び天秤駆動機構(図示せず)が駆動され、選択された針棒31及びそれに対応する天秤19が上下駆動される。また、主軸モータ122の回転によって釜駆動機構が駆動され、釜が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、縫製対象物に縫目が形成される。
【0026】
次に、図4から図10を参照して、ミシン1が実行するメイン処理を説明する。メイン処理は、ユーザが、縫製対象となる刺繍模様の選択を確定する指示を入力した場合に起動される。刺繍模様に関する情報(例えば、縫製データ)は、例えば、ROM62に記憶されており、LCD7に表示される。ユーザは、LCD7に表示された画面を参照して、縫製対象となる刺繍模様を選択し確定する。メイン処理では、刺繍模様を刺繍枠(図示せず)に保持された縫製対象物(図示せず)に縫製するための処理が実行される。一例として、メイン処理が開始された時点で、針棒番号1から10の針棒31のそれぞれには、図5に示す色の糸駒が対応付けられている具体例を想定する。針棒31と対応付けられた糸駒の色は、針棒31の下端に装着された縫針35の針孔37に供給されている糸の色を表す。図5のように、針棒番号1から10の針棒31には、それぞれLIGHT BROWNと、GREENと、BLUEと、ORANEと、TANGERINEと、REDと、PINKと、LILACと、ELECTRIC BLUEと、BLACKとが対応付けられている。具体例では、図6に示す10色の糸で縫製される刺繍模様が選択された場合を想定する。図6のように、刺繍模様を縫製するための糸駒の糸は、縫製順に、LIGHT BROWNと、EMERALD GREENと、LIME GREENと、YELLOWと、TANGERINEと、REDと、PINKと、LILACと、ELECTRIC BLUEと、BLACKとである。図4のフローチャートに示す各処理を実行させるプログラムは、図3のROM62に記憶されており、CPU61が実行する。
【0027】
図4のように、メイン処理ではまず、ユーザによって選択された刺繍模様を縫製するための縫製データがROM62から読み出され、読み出された縫製データはRAM63に記憶される(S10)。縫製データは、公知のデータであり、一針データを複数含む。一針データは、刺繍枠の移動量を指示するデータと、糸駒の色を指示するデータとを含む。次に、変数Nに1が設定され、設定された変数NはRAM63に記憶される(S20)。変数Nは、縫製データに含まれる一針データを縫製順序に従って読み出すための変数である。
【0028】
次に、針棒31と対応付けられている糸駒の色と、ステップS10で取得された縫製データとを比較して、糸駒の交換が必要か否かが判断される(S30)。本実施形態では、選択された刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数(色の数)が針棒31の数以上である場合には、その刺繍模様を縫製順序に従って連続して縫製可能な糸駒の数(色の数)が針棒31の数未満であった場合を、糸駒の交換が必要な場合とする。選択された刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数(色の数)が針棒31の数未満である場合には、その刺繍模様を連続して縫製可能な糸駒の数(色の数)が刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数(色の数)未満であった場合を、糸駒の交換が必要な場合とする。針棒31と対応付けられている糸駒の色は、EEPROM64に記憶されている。具体例では、縫製順序に従って連続して縫製可能な糸駒の色の数は2であり、針棒31の数である10よりも小さい(S30:YES)。この場合、糸駒の交換をユーザに指示する交換処理が実行される(S50)。
【0029】
図7を参照して、交換処理の詳細を説明する。図7のように、交換処理ではまず、交換針棒が決定され、決定された交換針棒はRAM63に記憶される(S52)。交換針棒は、糸駒の交換が必要な針棒である。具体例では、刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の色の数は、図6のように10であり、針棒31の数である10と等しい。したがって、具体例では、刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の色ではない色の糸駒が対応付けられている針棒31である針棒番号2から4番の針棒31が、交換針棒として決定される。各交換針棒には、交換予定(交換後)の糸駒の色が割り当てられる。交換予定の糸駒の色は、刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の色、且つ、針棒31と対応付けられていない糸駒の色である。具体例では、交換予定の糸駒の色として、例えば、針棒番号2の針棒31にEMERALD GREENが、針棒番号3の針棒31にLIME GREENが、針棒番号4の針棒31にYELLOWが、それぞれ割り当てられる。
【0030】
次に、駆動回路135に制御信号が出力され、LCD7に交換情報が表示される(S54)。交換情報は、交換針棒に関する情報である。本実施形態の交換情報は、交換針棒と、交換予定の糸駒の色とを対応付けた情報である。本実施形態の交換情報は、例えば、図8の画面201のように表示される。図8では画面201は白黒で示されているが、画面201はカラー表示される画面である。
【0031】
図8のように、画面201には、縫製順序表示エリア211と、糸替え表示エリア221と、メッセージ表示エリア251とがそれぞれ表示されている。縫製順序表示エリア211には、糸駒の色と、糸駒の色と対応付けられている針棒31の針棒番号214とが縫製順に上から下に表示される。糸駒の色は、糸駒の色名212と、糸駒の色で塗られた糸駒のイラスト213とによって表される。糸替え表示エリア221には、針棒31毎に表示エリア223が設けられている。各表示アリア223には、針棒番号225と、針棒番号225で示される針棒31と対応付けられる糸駒の色名226と、糸駒の色で塗られた糸駒のイラスト224とが含まれる。メッセージ表示エリア251には、糸駒の交換をすることを促すメッセージと、CLOSEキー252とが表示されている。メッセージ表示エリア251は、CLOSEキー252が選択されるまで表示される。
【0032】
画面201において、交換針棒と、縫製針棒と、その他の針棒とでは、表示エリア223の表示態様が異なる。縫製針棒は、針棒駆動機構32が現在駆動の対象としている針棒である。図8の具体例では、針棒番号10番の針棒が縫製針棒である。その他の針棒は、複数の針棒31のうち、交換針棒と、縫製針棒とを除く針棒である。表示エリア223の表示態様について、具体的には、その他の針棒の表示エリア223では、枠の色が黒色であり、背景の色が灰色である。交換針棒の表示エリア223では、枠の色が赤色であり、枠の太さはその他の針棒の表示エリア223の枠の太さよりも太く、背景の色が白色である。縫製針棒の表示エリア223では、枠の色が青色であり、枠の太さはその他の針棒の表示エリア223の枠の太さよりも太く、背景の色が薄い水色である。図示しないが、縫製針棒が、交換針棒として特定された場合の表示エリア223では、枠の色が赤色であり、枠の太さはその他の針棒の表示エリア223の枠の太さよりも太く、背景の色が薄い水色である。図8のように、交換針棒と、縫製針棒とのそれぞれの表示エリア223は、その他の針棒の表示エリア223に比べ目立つ。このように本実施形態では、交換情報は、交換針棒以外の針棒に関する情報とは異なる表示態様で表示される。
【0033】
次に、ユーザが糸駒の交換を行ったか否かを判断する処理が実行される。ユーザが糸駒の交換を行う方法として、主に、以下に詳述する第1の方法又は第2の方法が用いられる。第1の方法では、ユーザは、交換前の糸駒を糸駒台12から取り外し、交換予定の糸駒を糸駒台12に設置する。次に、ユーザは、糸駒台12に設置した糸駒から伸びる糸を、上述の糸道経路に通す。ユーザは、パネル操作によって、糸駒交換を行う針棒31を縫製位置に移動させた後、針孔糸通しスイッチ42を押下して、針棒31の下端に装着された縫針35の針孔37に上糸を通す。
【0034】
第2の方法では、ユーザは、交換前の糸駒から伸びる上糸を、糸駒13と糸案内17との間ではさみで切断する。ユーザは、交換予定の糸駒を糸駒台12に設置した後、交換前の糸の端に、糸駒台12に設置した交換後の糸駒の糸の端を結びつける。次に、針棒糸かけ43の下から交換前の糸を手で持って、交換後の糸駒の糸との結び目が縫針35に到達するまで糸を引っ張る。その後、結び目を含む交換前の糸をはさみで切断して捨てる。ユーザは、パネル操作によって、糸駒交換を行う針棒31を縫製位置に移動させた後、針孔糸通しスイッチ42を押下して、針棒31の下端に装着された縫針35の針孔37に上糸を通す。第2の方法では、第1の方法に比べ、糸道経路上にある交換前の糸を余分に使う(捨てる)ことになるが、交換する糸駒の糸を正しい糸道経路に容易に配置させることができる。第1の方法及び第2の方法ではいずれも、糸駒交換の過程で糸調子器18の回転皿34が回転されるとともに、針孔糸通しスイッチ42が押下される。したがって、本実施形態のミシン1は、回転皿34の回転と、針孔糸通しスイッチ42の押下とを検出して、以下のように糸駒の交換の有無を検出する。具体例において、針棒番号2の針棒31に対応する糸駒が交換される場合を想定する。
【0035】
回転検出器33から入力される電気信号に基づき、10本の針棒31のそれぞれに対応する10個の回転皿34のうちのいずれかが回転されたか否かが判断される(S56)。針棒番号2の針棒31に対応する回転皿34が回転された場合(S56:YES)、回転された回転皿34に対応する針棒31として、針棒番号2の針棒31が特定される。次に、特定された針棒番号2の針棒31がパネル操作によって選択された後、針孔糸通しスイッチ42が押下されたか否かが判断される(S58)。ステップS58の処理では、ステップS56において回転皿34の回転が検出された後、所定時間内(例えば5分)に針孔糸通しスイッチ42が押下されたか否かが判断される。
【0036】
針孔糸通しスイッチ42が押下された場合(S58:YES)、ステップS56で特定された針棒番号2の針棒31が、交換済針棒として特定され、交換情報が更新される(S60)。交換済針棒は、交換針棒のうちの、糸駒が交換された針棒である。具体的には、CPU61は、交換針棒として特定された針棒番号2から4の針棒31から交換済針棒として特定された針棒番号2の針棒31を除き、交換針棒を更新する。ステップS60では、更新後の交換情報に基づき駆動回路135に制御信号が出力され、図9に例示する画面が表示される。図9では、交換済針棒として特定された針棒番号2の針棒31に対応する表示エリア223が、上述のその他の針棒に対応する表示態様で表示されている。次に、糸駒交換が終了したか否かが判断される(S62)。ステップS62では、ステップS60の処理によって、交換針棒の数が0になった場合に、糸駒交換が終了したと判断される。
【0037】
いずれの回転皿34も回転されていない場合(S56:NO)と、針孔糸通しスイッチ42が押下されていない場合(S58:NO)と、糸駒の交換が終了していない場合(S62:NO)とのいずれかの場合には、処理はステップS54に戻る。具体例において、糸駒の交換が終了され、CLOSEキー252が選択された場合には、LCD7には図10に例示する画面203が表示される(S60)。図10では、その他の針棒の表示エリア223の背景が、灰色から白色に変更されている。また、図10では、メッセージ表示エリア251に代えて操作キー表示エリア261が表示されている。操作キー表示エリア261には、各種指示を入力するための複数の操作キーが表示されている。図10では、各針棒31に対応する表示エリア223の表示態様は、縫製時の表示エリア223の表示態様と同じである。図10に示すように、糸駒の交換が終了した場合(S62:YES)、CPU61は、縫製開始の指示が入力されるまで待機する(S64:NO)。縫製開始の指示は、例えば、スタート/ストップスイッチ41が押下された場合に入力される。縫製開始の指示が入力された場合(S64:YES)、交換処理は終了し、処理は図4のメイン処理に戻る。図4においてステップS50の次に、後述するステップS70の処理が実行される。
【0038】
ステップS30において、糸駒交換が不要である場合(S30:NO)、図7のステップS64と同様に、CPU61は、縫製開始の指示が入力されるまで待機する(S40:NO)。縫製開始の指示が入力された場合(S40:YES)、ステップS10で読み出された縫製データに含まれるN番目の一針データが読み出される(S70)。次に、ステップS70で読み出されたN番目の一針データに従って縫目を形成するために、糸駒の交換が必要な場合には(S80:YES)、ステップS50と同様の交換処理が実行される(S90)。ステップS90では、N番目以降の一針データに基づき、縫製順序に従って、なるべく長い期間連続して縫製可能なように、交換処理が実行される。より具体的には、N番目以降の一針データに基づき、選択された刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数(色の数)が針棒31の数以上である場合には、糸駒の数だけ連続して縫製できるように交換処理が実行される。N番目以降の一針データに基づき、選択された刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数(色の数)が針棒31の数未満である場合には、連続して縫製可能な糸駒の数が、刺繍模様を縫製するのに必要な糸駒の数となるように交換処理が実行される。
【0039】
糸駒交換が必要ではない場合(S80:NO)、又は交換処理(S90)の次に、ステップS70で読み出されたN番目の一針データに基づき縫製が実行される(S100)。具体的には、N番目の一針データに従って、駆動回路123に制御信号が出力され、N番目の一針データを縫製するための色の糸駒が対応付けられている針棒31が縫製位置に移動される。N番目の一針データに従って、駆動回路131と、駆動回路133とに制御信号が出力され、刺繍枠(図示せず)が移動される。駆動回路121に制御信号が出力され、主軸モータ122が駆動される。次に、ステップS70で読み出されたN番目の一針データが、縫製データに含まれる一針データのうち、縫製順序が最後の一針データではない場合は(S110:NO)、Nはインクリメントされ、インクリメントされたNはRAM63に記憶される(S120)。次に、処理はステップS70に戻る。ステップS70で読み出されたN番目の一針データが、縫製順序が最後の一針データである場合は(S110:YES)、メイン処理は以上で終了する。
【0040】
本実施形態のミシン1において、LCD7は、本発明の「表示手段」として機能する。図7のステップS54を実行するCPU61は、本発明の「第1表示制御手段」として機能する。ステップS56及びステップS58を実行するCPU61は、本発明の「特定手段」として機能する。ステップS60を実行するCPU61は、「第2表示制御手段」として機能する。針孔糸通しスイッチ42は、本発明の「操作手段」に相当する。
【0041】
ミシン1によれば、交換針棒が複数ある場合であっても、ユーザはLCD7によってどの針棒が交換針棒であるかを容易に確認することができる。このため、ユーザは、針棒31毎に設けられた複数の表示手段のそれぞれを確認して交換針棒を特定する場合に比べ、交換針棒全体を容易に把握することができる。ミシン1は、糸駒交換時に、ユーザが糸駒から供給される上糸をミシンに装着する作業によって回転皿34が回転することと、縫針の35針孔37に上糸を挿通させる場合には、針孔糸通し機構126が駆動されることとを利用して、交換済針棒を特定する。したがって、ミシン1は、糸駒交換時に、回転皿34が回転することと、針孔糸通し機構126が駆動されることとのいずれかを利用して交換済針棒を特定する場合に比べ、精度よく交換済針棒を特定することができる。ミシン1は、糸駒交換の進捗状況を検出して、LCD7に表示されている交換情報を更新する。したがって、ユーザはLCD7を確認することによって、交換針棒と、交換済針棒とを確実に区別することができる。このため、ミシン1によれば、ユーザが、交換針棒と、交換済針棒とを区別できないことに起因して、交換済針棒の糸駒を誤って交換してしまうことを回避することができる。ミシン1は、各針棒31に対応する表示エリア223の表示態様を、糸駒交換時には、交換針棒をその他の針棒と区別して表示させている。各針棒31に対応する表示エリア223の表示位置は、縫製時と、糸駒交換時とで同じである。したがって、交換針棒の表示位置が縫製時と、糸駒交換時とで異なる位置である場合に比べ、ユーザは、交換針棒を容易に特定することができる。
【0042】
本発明のミシン1は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(A)から(D)までの変形を適宜加えられてもよい。
【0043】
(A)ミシン1の構成は適宜変更可能である。例えば、ミシン1が備える針棒31の数は、10本に限定されず、複数であればよい。ミシン1は、LCD7を備えていたが、有機ELディスプレイと、電子ペーパーといった、他の表示機器を備えてもよい。縫針35の針孔37に上糸を通す指示は、針孔糸通しスイッチ42以外の操作機器(例えば、タッチパネル8)によって入力されてもよい。針孔糸通し機構126及び針孔糸通しスイッチ42は、針棒31毎に設けられてもよい。
【0044】
(B)図4のメイン処理は適宜変更されてよい。メイン処理では、本開示の特徴的な処理が適宜組み合わされて実行されてもよい。より具体的には、以下の(B−1)から(B−3)に例示する変形が加えられてもよい。
【0045】
(B−1)交換針棒の特定方法は適宜変更されてよい。例えば、ユーザの指示に応じて、糸駒の交換を許容しない針棒を設定可能にしてもよい。他の例では、ユーザの指示に応じて交換針棒に交換予定の糸駒の色が割り当てられてもよい。
【0046】
(B−2)交換済針棒の特定方法は適宜変更されてよい。例えば、図7のステップS58が省略され、回転皿34が回転されたか否かに基づき、糸駒が交換されたか否かが判断され、交換済針棒が特定されてもよい。この場合、回転皿34が所定の方向に回転したことが検出されることが好ましい。所定の方向とは、上糸が糸駒から縫針35に向かう方向に引っ張られた場合に、回転皿34が回転する方向である。上記第1の方法で糸駒が交換される場合、交換前の糸駒の糸を取り外す過程で、回転皿34が回転することがあるためである。この場合、回転皿34は、所定の方向とは逆の方向、即ち、上糸が縫針35から糸駒に向かう方向に引っ張られる。したがって、ミシン1は、回転皿34が所定の方向に回転したことを検出することによって、交換予定の糸駒が配置された場合と、交換前の糸駒の糸が取り除かれた場合とを区別することができる。他の例では、図7のステップS56が省略され、針孔37に上糸を通す指示が入力されたか否かに基づき、糸駒が交換されたか否かが判断され、交換済針棒が特定されてもよい。他の例では、ユーザからの指示に基づき、交換済針棒が特定されてもよい。他の例では、予め登録された複数種類の方法の中から、交換済針棒の特定方法を、ユーザが選択可能にしてもよい。これらの場合は、上記実施形態の場合に比べ、処理が簡略化される。
【0047】
(B−3)ミシン1は、交換針棒以外の針棒31と対応付けられた糸駒が誤って交換されたことを検出した場合には、警告メッセージをLCD7に表示する等によって、ユーザに注意を促してもよい。
【0048】
(C)交換情報は適宜変更されてもよい。例えば、交換予定の糸駒の色は、イラスト224と、色名226とのいずれかで表されてもよいし、品番等の他の情報で表されてもよい。他の例では、交換前の糸駒の色と、交換予定の糸駒の色との双方が、交換情報に含まれてもよい。
【0049】
(D)LCD7に表示される交換情報と、交換済針棒に関する情報とのそれぞれの表示態様は、適宜変更されてよい。例えば、交換済針棒の特定結果と、交換情報とは、別々に表示されてもよい。具体的には、例えば、図11の画面204のように、縫製針棒表示エリア271と、交換情報表示エリア281と、交換済情報表示エリア291とを設けて、交換済針棒に関する情報と、交換情報とを別々に表示してもよい。図11の画面204は、図9の画面202に対応する画面である。縫製針棒表示エリア271には、縫製針棒に対応する表示エリア223が表示される。交換情報表示エリア281には、交換情報として、交換針棒に対応する表示エリア223が表示される。交換済情報表示エリア291には、交換済針棒の特定結果として、交換済針棒に対応する表示エリア223が表示される。
【符号の説明】
【0050】
1 多針ミシン
31 針棒
33 回転検出器
34 回転皿
42 針孔糸通しスイッチ
61 CPU
62 ROM
63 RAM
64 EEPROM
126 針孔糸通し機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸駒から供給される上糸が挿通される針孔を有する縫針を下端に装着可能な複数の針棒と、
各種情報を表示可能な表示手段と、
前記複数の針棒の中の、前記糸駒の交換が必要な少なくとも1つの針棒である交換針棒に関する情報である交換情報を前記表示手段に表示させる第1表示制御手段と、
前記交換情報が前記表示手段に表示されている期間に、ユーザが前記糸駒を交換した針棒である交換済針棒を特定する特定手段と、
前記特定手段の特定結果を前記表示手段に表示させる前記第2表示制御手段と
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記上糸に所定の張力を付与する回転皿を有する糸調子器であって、前記複数の針棒のそれぞれに対応する複数の前記糸調子器をさらに備え、
前記特定手段は、交換された糸駒から供給される上糸によって前記回転皿が回転されたことを検出し、前記回転皿が回転された前記糸調子器に対応する前記針棒を、前記交換済針棒として特定することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記複数の針棒の中から択一的に選択して前記縫針の前記針孔に前記上糸を挿通させる糸通し機構と、
前記糸通し機構を動作させることを指示する操作手段と
をさらに備え、
前記特定手段は、前記ユーザが前記操作手段を操作して前記糸通し機構を動作させ、前記縫針の前記針孔に上糸を挿通させた針棒を、前記交換済針棒として特定する請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記交換情報は、前記交換針棒と、交換予定の前記糸駒の色とを対応付けた情報であり、
前記第2表示制御手段は、前記特定手段によって前記交換済針棒が特定された場合に、前記表示手段に表示されている前記交換情報を更新し、
前記第1表示制御手段と、前記第2表示制御手段とのそれぞれは、前記交換情報を、前記複数の針棒の中の前記交換針棒以外の針棒に関する情報とは異なる表示態様で前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−90868(P2012−90868A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242019(P2010−242019)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】