説明

ミトコンドリア疾患の処置のための組成物および方法

【課題】哺乳動物(ヒトを含む)におけるミトコンドリア機能不全またはミトコンドリア呼吸鎖機能不全と関連する障害または病態生理学的結果を処置するための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】化合物、組成物、および方法が、ミトコンドリア機能不全に関連する障害の処置のために提供される。本方法は、ミトコンドリア呼吸鎖不全から生じる症状を処置するに十分な量でピリミジンヌクレオチドの前駆体を含む組成物を哺乳動物に投与する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患、発達遅延、および症状の処置および予防のための化合物および方法に関する。ピリミジンヌクレオチドの前駆体は、ミトコンドリア機能不全を補償しかつミトコンドリア機能を改善する目的のために、哺乳動物(ヒトを含む)に投与される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ミトコンドリアは、ほとんどの真核生物細胞中に存在する細胞オルガネラである。それらの主な特徴のうちの1つは、酸化的リン酸化(グルコースまたは脂肪酸のような燃料の代謝に由来するエネルギーが、ATPに変換されるプロセス)であり、次いでこれは、種々のエネルギーを必要とする生合成反応および他の代謝活性を駆動するために使用される。ミトコンドリアは、核DNAから分離したそれら独自のゲノムを有し、ヒト細胞中では、約16,000塩基対のDNA環を含む。各ミトコンドリアは、そのゲノムの複数のコピーを有し得、そして個々の細胞は、数百のミトコンドリアを有し得る。
【0003】
ミトコンドリア機能不全は、種々の疾患状態に寄与する。いくつかのミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアゲノム中の変異または欠失に起因する。ミトコンドリアは分裂し、そしてそれらの宿主細胞よりも早い代謝回転速度で増殖し、そしてそれらの複製は、核ゲノムの制御下である。細胞中のミトコンドリアの閾値割合が欠損である場合、および組織中のこのような細胞の閾値割合が欠損性ミトコンドリアを有する場合、組織または器官の機能不全の症状が生じ得る。現実的には、任意の組織が影響され得、そして多くの種々の症状は、異なる組織が関与する程度に依存して存在し得る。
【0004】
受精した卵子は、正常なミトコンドリアおよび遺伝的に欠損したミトコンドリアの両方を含み得る。この卵子の分裂の間に、異なる組織へと欠損性ミトコンドリアが分離することは、(細胞中のミトコンドリア代謝回転の間の欠損性ミトコンドリアゲノムについて、陽性または陰性選択が存在し得るが)所定の組織または細胞中の正常なミトコンドリアに対する欠損性ミトコンドリアの比であるように確率的過程である。従って、種々の異なる病理学的表現型は、ミトコンドリアDNA中の特定の点変異から現れ得る。逆に、同様の表現型は、ミトコンドリアDNA内の異なる遺伝子に影響する変異または欠失から現れ得る。先天性ミトコンドリア疾患における臨床症状は、脳、筋肉、視神経、および心筋層のように高いエネルギー需要を有する有糸分裂後組織にてしばしば顕著であるが、他の組織(内分泌腺、肝臓、胃腸管、腎臓、および造血組織を含む)もまた、発生の間のミトコンドリアの分離に、および経時的なミトコンドリア代謝回転の力動に部分的に再度依存して関与する。
【0005】
遺伝した欠損性ミトコンドリアに関与する先天性障害に加えて、後天性ミトコンドリア機能不全は、疾患、特にパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病のような加齢と関連した神経変性障害に寄与する。ミトコンドリアDNA中の体細胞変異の発生率は、年齢とともに指数関数的に上昇する;呼吸鎖活性の減少は、年をとった人々に一般的に見出される。ミトコンドリア機能不全はまた、発作または虚血と関連するような、興奮毒性のニューロン傷害にも関与する。
【0006】
これまで、ミトコンドリア機能不全に関与する疾患の処置は、ミトコンドリア呼吸鎖の特定のエレメントにより使用されるビタミンおよび補因子の投与を含んだ。補酵素Q(ユビキチン)、ニコチンアミド、リボフラビン、カルニチン、ビオチン、およびリポ酸は、時折の有益性とともに、ミトコンドリア疾患の患者に、特にこれらの補因子のうちの1つの原発性欠損から直接的に生じる障害において使用される。しかし、単離される場合には有用であるが、このような代謝性補因子またはビタミンは、ミトコンドリア疾患を処置する際の臨床診察において一般的な有用性を有することが全く示されていない。同様に、ジクロロ酢酸(DCA)は、ミトコンドリア細胞障害(例えば、MELAS)を処置するために使用されている;DCAは、乳酸形成を阻害し、そして過剰な乳酸蓄積自体が症状に寄与しているミトコンドリア疾患の場合に主に有用である。しかし、DCAは、それ自体でミトコンドリア不全に関連する症状を扱わず、そして根底にある分子欠損に依存していくらかの患者には毒性であり得る。
【0007】
ミトコンドリア疾患は、異なる組織中の欠損性ミトコンドリアの確率的寄与によりさらに複雑にされる疾患の表現型発現とともに、非常に多くの種々の分子の損傷または欠損により引き起こされる障害を含む。
【0008】
共有に係る米国特許第5,583,117号は、シチジンおよびウリジンのアシル化誘導体を開示する。共有に係る出願PCT/US96/10067は、化学療法剤および抗ウイルスピリミジンヌクレオシドアナログの毒性を減少するアシル化ピリミジンヌクレオシドの使用を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(発明の目的)
本発明の目的は、哺乳動物(ヒトを含む)におけるミトコンドリア機能不全またはミトコンドリア呼吸鎖機能不全と関連する障害または病態生理学的結果を処置するための組成物および方法を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、インビボで、ミトコンドリア機能不全に対する組織の耐性を改善する化合物および組成物を提供することである。
【0011】
本発明の目的は、ミトコンドリア疾患の処置のための組成物および方法を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、多くの場合、ミトコンドリア障害における分子の損傷の正確な診断は困難であるので、広範な種々の分子病理学を含むミトコンドリア欠損を広汎に補償する薬剤を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、特定の分子欠損にもかかわらず、ミトコンドリアの電子輸送鎖の欠損の場合に有益であるミトコンドリア疾患の実際の処置を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、ミトコンドリアDNA欠損に関連する比較的に稀な先天性疾患だけではなく、幼児期に現れる顕著な神経筋および神経発達障害、およびアルツハイマー病またはパーキンソン病のような加齢に関連する一般の変性疾患を提供することである。
【0015】
本発明の目的は、神経変性障害および神経筋障害の処置および予防のための組成物および方法を提供することである。
【0016】
本発明の目的は、神経組織に対する興奮毒性傷害の処置および予防のための組成物および方法を提供することである。
【0017】
本発明の目的は、てんかんの処置および予防のための組成物および方法を提供することである。
【0018】
本発明の目的は、片頭痛の処置および予防のための組成物および方法を提供することである。
【0019】
本発明の目的は、哺乳動物(ヒトを含む)における有糸分裂後細胞の死または機能不全を予防するための組成物および方法を提供することである。
【0020】
本発明の目的は、神経発達遅延の障害の処置のための組成物および方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、低酸素症または虚血に起因する組織の損傷の処置または予防のための組成物を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、卵巣の機能不全、閉経、または閉経の二次的結果を処置または予防するための組成物および方法を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、化学療法誘導性ミトコンドリア傷害に起因する癌化学療法の副作用を減少させるための組成物および方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、ミトコンドリア疾患およびミトコンドリア機能不全を診断するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
(発明の要旨)
本発明は、哺乳動物におけるミトコンドリア呼吸鎖機能不全の病態生理学的結果を処置するための方法を提供し、この方法は、このような処置を必要とするこのような哺乳動物に、この病態生理学的結果の減少に有効な量のピリミジンヌクレオチドの前駆体を投与する工程を包含する。さらに、本発明は、ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の病態生理学的結果を予防するための方法を提供し、この方法は、哺乳動物に、この病態生理学的結果の減少に有効な量のピリミジンヌクレオチドの前駆体を投与する工程を包含する。
【0026】
ミトコンドリア疾患において、本発明の化合物および組成物は、呼吸鎖欠損から生じる臨床続発症を減弱するために有用である。ミトコンドリア疾患の根底にある呼吸鎖不全は、種々の因子(ミトコンドリアDNA中の先天性変異および先天性欠失または遺伝した変異および遺伝した欠失、呼吸鎖活性に影響する核にコードされたタンパク質の欠損、ならびに体細胞変異、細胞内カルシウムの上昇、興奮毒性、一酸化窒素、低酸素症および軸索輸送の欠損を含む)により引き起こされる。
【0027】
本発明は、ミトコンドリア呼吸鎖不全欠損を保有する有糸分裂後細胞の死および機能不全を予防または減少させるための化合物、組成物、および方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、言語、運動、管理機能、認知、および神経心理学の社会的スキルにおける神経発達遅延を処置するための化合物、組成物、および方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、ミトコンドリア欠損が寄与し、かつそれ故、本発明の化合物および組成物での処置に供される状態として本明細書中に開示される障害および状態の処置に関する。これらには、末梢神経障害、神経障害、疲労、および早期閉経、ならびに排卵異常およびそれ自体は正常な閉経のような癌化学療法の副作用が挙げられる。
【0030】
本発明はまた、ピリミジンヌクレオチド前駆体を用いて患者を処置し、そして選択される徴候および症状における臨床的寄与を評価するによってミトコンドリア疾患を診断するための方法に関する。
【0031】
本発明はさらに、以下の項目を提供する。
(項目1)哺乳動物におけるミトコンドリア呼吸鎖機能不全の病態生理学的結果を処置または予防するための薬学的組成物であって、該組成物は、有効量のピリミジンヌクレオチドの前駆体を含む、組成物。
(項目2)前記呼吸鎖機能不全が、ミトコンドリアDNAの変異、欠失、または再配置により引き起こされる、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3)前記呼吸鎖機能不全が、前記ミトコンドリア呼吸鎖の、核にコードされるタンパク質成分の欠損により引き起こされる、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目4)前記呼吸鎖機能不全が加齢により引き起こされる、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目5)前記呼吸鎖機能不全が、前記哺乳動物への細胞傷害性癌化学療法剤の投与により引き起こされる、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目6)前記呼吸鎖機能不全がミトコンドリアI型複合体活性の欠損である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目7)前記呼吸鎖機能不全がミトコンドリアII型複合体活性の欠損である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目8)前記呼吸鎖機能不全がミトコンドリアIII型複合体活性の欠損である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目9)前記呼吸鎖機能不全がミトコンドリアIV型複合体活性の欠損である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目10)前記呼吸鎖機能不全がミトコンドリアV型複合体活性の欠損である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目11)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が、ウリジン、シチジン、ウリジンのアシル誘導体、シチジンのアシル誘導体、オロチン酸、オロチン酸のアルコールエステル、またはそれらの薬学的に受容可能な塩からなる群より選択される、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目12)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が、シチジンのアシル誘導体である、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目13)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が、ウリジンのアシル誘導体である、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目14)ウリジンの前記アシル誘導体が、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジンである、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目15)ウリジンの前記アシル誘導体が、2’,3’,5’−トリ−O−ピルビルウリジンである、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目16)オルチン酸の前記アルコールエステルのアルコール置換基がエタノールである、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目17)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体がシチジンジホスホクロリンである、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目18)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が経口投与に適切な形態である、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目19)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が、体重の1kg当たり10〜1000mgの用量で投与されるに適切な形態である、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目20)前記ピリミジンヌクレオチドの前駆体が、体重の1kg当たり100〜300mgの用量で投与されるに適切な形態である、項目11に記載の薬学的組成物。
(項目21)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が、先天性ミトコンドリア疾患である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目22)前記先天性ミトコンドリア疾患が、MELAS、LHON、MERRF、MNGIE、NARP、PEO、リー病、およびキーンズ・セイアー症候群からなる群より選択される、項目21に記載の薬学的組成物。
(項目23)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が神経変性疾患である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目24)前記神経変性障害がアルツハイマー病である、項目23に記載の薬学的組成物。
(項目25)前記神経変性障害がパーキンソン病である、項目23に記載の薬学的組成物。
(項目26)前記神経変性障害がハンチントン病である、項目23に記載の薬学的組成物。
(項目27)前記神経変性障害が、認知機能の加齢に関連する低下である、項目23に記載の薬学的組成物。
(項目28)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が、神経筋の変性疾患である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目29)前記神経筋の変性疾患が、筋ジストロフィー、緊張性ジストロフィー、慢性疲労症候群、およびフリートライヒ運動失調からなる群より選択される、項目28に記載の薬学的組成物。
(項目30)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が、認知、運動、言語、管理機能または社会的スキルにおける発達遅延である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目31)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が、てんかん、末梢神経障害、視神経障害、自律神経障害、神経性腸機能不全、感音難聴、神経性膀胱機能不全、片頭痛、および運動失調からなる群より選択される、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目32)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の前記病態生理学的結果が、尿細管性アシドーシス、拡張型心筋症、脂肪肝炎、肝不全、および乳酸血症からなる群より選択される、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目33)ミトコンドリア呼吸鎖機能不全に起因する、哺乳動物における有糸分裂後細胞の死または機能低下を予防するための薬学的組成物であって、該組成物は、有効量のピリミジンヌクレオチド前駆体を含む、組成物。
(項目34)前記有糸分裂後細胞がニューロンである、項目33に記載の薬学的組成物。
(項目35)前記有糸分裂後細胞が骨格筋細胞である、項目33に記載の薬学的組成物。
(項目36)前記有糸分裂後細胞が心筋細胞である、項目33に記載の薬学的組成物。
(項目37)哺乳動物において、認知、運動、言語、管理機能、または社会的スキルにおける発達遅延を処置するための薬学的組成物であって、該方法は、有効量のピリミジンヌクレオチドを含む、組成物。
(項目38)前記発達遅延が広汎性発達遅延またはPDD−NOSである、項目37に記載の薬学的組成物。
(項目39)前記発達遅延が、注意欠陥/多動障害である、項目37に記載の薬学的組成物。
(項目40)前記発達遅延がレット症候群である、項目37に記載の薬学的組成物。
(項目41)前記発達遅延が自閉症である、項目37に記載の組成物。
(項目42)ピリミジンヌクレオチドの前駆体を含む、細胞傷害性癌化学療法剤の副作用を減少させるための薬学的組成物であって、該細胞傷害性化学療法剤がピリミジンヌクレオシドアナログではない、組成物。
(項目43)細胞傷害性癌化学療法の前記副作用が、末梢神経障害、化学療法誘導性閉経、化学療法に伴う疲労、および食欲の減退からなる群より選択される、項目42に記載の薬学的組成物。
(項目44)哺乳動物における徴候および症状の臨床的改善を評価するためのピリミジンヌクレオチドの前駆体を含む、ミトコンドリア疾患を診断するための薬学的組成物。
(項目45)2’,3’,5’−トリ−O−ピルビルウリジン、2’,3’−ジ−O−ピルビルウリジン、2’,5’−ジ−O−ピルビルウリジン、3’,5’−ジ−O−ピルビルウリジン、2’−O−ピルビルウリジン、3’−O−ピルビルウリジン、および5’−O−ピルビルウリジンからなる群より選択される、化合物。
(項目46)以下:
(a)ピリミジンヌクレオチドの前駆体またはその薬学的に受容可能な塩;および
(b)ピルビン酸、その薬学的に受容可能な塩、またはピルビン酸エステル、
を含む、薬学的組成物。
(項目47)項目1に記載の組成物、およびピルビン酸、その薬学的に受容可能な塩、またはピルビン酸エステルを含む、キット。
本発明、ならびにそれらの他の目的、特徴および利点は、以下の実施例において議論される実験の付随する結果に対する参照を読めば、以下の詳細な説明から、より明確にかつ十分に理解される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ミトコンドリア機能不全、特にミトコンドリア呼吸鎖の成分の活性における欠損に対して2次的な種々の臨床的障害を処置または予防するための化合物、組成物および方法に関する。このような障害には、先天性ミトコンドリア細胞障害、神経発達遅延(neurodevelopmental delay)、加齢関連神経変性疾患、ならびに心臓、末梢神経および自律神経、骨格筋、膵臓および他の組織および器官に影響を及ぼす特定の疾患が挙げられる。
【0033】
(A.定義)
「ミトコンドリア疾患」とは、ミトコンドリア呼吸鎖活性における欠損が、哺乳動物におけるそのような障害の病態生理学の発達に寄与する障害をいう。このカテゴリーは、1)ミトコンドリア呼吸鎖の1つ以上の成分の活性における先天性遺伝的欠損;2)ミトコンドリア呼吸鎖の1つ以上の成分の活性における後天性欠損を含み、ここで、このような欠損は特に、以下によって生じる:a)加齢の間の酸化的損傷;b)高められた細胞内カルシウム;c)罹患された細胞の一酸化窒素への曝露;d)低酸素症または虚血;e)ミトコンドリアの軸索輸送における微小管関連欠損、またはf)ミトコンドリア結合解離タンパク質の発現。
【0034】
ミトコンドリア呼吸鎖(電子輸送鎖としても知られる)は、5つの主要な複合体を含む:
複合体I NADH:ユビキノンレダクターゼ
複合体II コハク酸:ユビキノンレダクターゼ
複合体III ユビキノール:シトクロム−cレダクターゼ
複合体IV シトクロム−cオキシダーゼ
複合体V ATPシンターゼ。
【0035】
複合体IおよびIIは、解糖生成物および脂肪酸のような代謝燃料からユビキノン(補酵素Q)への電子の移動を達成し、ユビキノンをユビキノールに変換する。ユビキノールは、複合体IIIのシトクロム cへの電子の移動によってユビキノンへと戻される。シトクロム cは、分子の酸素への電子の移動によって複合体IVで再酸化されて、水を生じる。複合体Vは、これらの電子移動によってミトコンドリア膜にわたって生成されるプロトン勾配からのポテンシャルエネルギーを利用して、ADPをATPへと変換し、次いで、ATPは、細胞中の代謝反応へエネルギーを提供する。
【0036】
ジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)は、ウリジンヌクレオチドのデノボ合成に関与する酵素である。DHODH活性は、ジヒドロオロテートからユビキノンへの電子の移動を介して呼吸鎖に結合される;次いで、これらの電子は、それぞれ複合体IIIおよびIVを介してシトクロム cおよび酸素を通過する。複合体IIIおよびIVのみが、ピリミジン生合成に直接関与する。DHODHの作用によって生成されるオロテートは、ホスホリボシル化(phosphoribosylation)および脱炭酸化によってウリジンモノホスフェートへ変換される。
【0037】
本発明の文脈において「ピリミジンヌクレオチド前駆体」は、DHODH(例えば、オロテート)に対して遠位であるかあるいはピリミジンヌクレオチド(例えば、シトシン、ウリジン、またはシトシンもしくはウリジンのアシル誘導体)への変換に対してDHODH活性を必要としないかのいずれかのピリミジン合成に加わる、ピリミジンヌクレオチド合成のデノボまたはサルベージ経路のいずれかにおける中間体である。ピリミジンヌクレオシドホスフェート(例えば、ヌクレオチド、シチジンジホスホコリン、ウリジンジホスホグルコース)もまた、本発明の範囲内である;これらの化合物は、細胞および同化作用に加わる前に、ウリジンまたはシチジンのレベルまで分解される。シチジンおよびウリジンのアシル誘導体は、親のヌクレオシドまたはヌクレオチドよりも良好な経口バイオアベイラビリティーを有する。オロチン酸およびそのエステルは、ウリジンヌクレオチドに変換され、そしてまた、本発明の目標を達成するために有用である。
【0038】
(B.本発明の化合物)
本発明の主な特徴は、ピリミジンヌクレオチド前駆体の投与が、ミトコンドリア機能不全に関連する広範な種々の症状および疾患状態の処置に有効であるという予想外の発見である。
【0039】
組織のピリミジンヌクレオチドレベルは、任意のいくつかの前駆体の投与によって増大される。ウリジンおよびシチジンは、5’位でのリン酸化によって細胞性ヌクレオチドプールに組み込まれる;シチジンヌクレオチドおよびウリジンヌクレオチドは、酵素的アミノ化および脱アミノ化反応によって相互交換可能である。オロチン酸は、ピリミジンヌクレオチドのデノボ生合成において重要な中間体である。オロチン酸のヌクレオチドプールへの組込みは、細胞性ホスホリボシルピロホスフェート(PRPP)を必要とする。あるいは(または、外因性ヌクレオチド前駆体の提供に加えて)、ウリジンの組織へのアベイラビリティーは、ウリジンの分解のための経路における第1の酵素であるウリジンホスホリラーゼを阻害する化合物の投与によって増大される。ミトコンドリア疾患および関連する障害の処置に有用な本発明の化合物には、ウリジン、シチジン、オロテート、これらのピリミジンヌクレオチド前駆体の経口的に生物学的利用可能なアシル誘導体またはエステル、ならびに酵素ウリジンホスホリラーゼのインヒビターが挙げられる。
【0040】
シチジンおよびウリジンのアシル誘導体に関して、以下の定義が適切である:
本明細書で使用される場合、用語「アシル誘導体」は、カルボン酸由来の実質的に非毒性の有機アシル置換基が、エステル結合を有するオキシプリンヌクレオシドのリボース部分の1つ以上の遊離ヒドロキシル基に結合される、および/または、このような置換基がアミド結合を有するシチジンのプリン環でアミン置換基に結合される、ピリミジンヌクレオシドの誘導体を意味する。このようなアシル置換基は、以下からなる群から選択される化合物を含むがこれらに限定されないカルボン酸から誘導される:脂肪酸、アミノ酸、ニコチン酸、ジカルボン酸、乳酸、p−アミノ安息香酸およびオロチン酸。有利なアシル置換基は、食餌成分か、または中間代謝産物のいずれかとして通常体内に存在する化合物である。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な塩」は、硫酸、塩酸、またはリン酸、あるいはオロテートの場合においては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カルシウム、およびカチオン性アミノ酸、特にリジンを含むがこれらに限定されない、誘導体の薬学的に受容可能な酸付加塩または塩基付加塩を有する塩を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」には、以下が挙げられるがこれらに限定されない:グリシン、ならびにアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン、ヒドロキシリジン、カルニチン、および他の天然に存在するアミノ酸のL形態。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「脂肪酸」は、2〜22個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を意味する。このような脂肪酸は、飽和、部分的に飽和またはポリ不飽和であり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「ジカルボン酸」は、第2のカルボン酸置換基を有する脂肪酸を意味する。
【0045】
本発明の化合物は、以下の構造を有する:
示される場合を除く全ての場合において、本発明の化合物の化学構造中で可変性の置換基を表す添字を有する文字(単数および複数)は、記号の説明の直前の構造に対してのみ利用可能である。
【0046】
(1)以下の式を有するウリジンのアシル誘導体:
【0047】
【化1】

ここで、R1、R2、R3およびR4は、同じであるかまたは異なり、そして各々は水素または代謝産物のアシルラジカルであり、ただし、少なくとも1つの上記R置換基は、水素、またはその薬学的に受容可能な塩でない。
【0048】
(2)以下の式を有するシチジンのアシル誘導体:
【0049】
【化2】

ここで、R1、R2、R3およびR4は、同じであるかまたは異なり、そして各々は水素または代謝産物のアシルラジカルであり、ただし、少なくとも1つの上記R置換基は、水素、またはその薬学的に受容可能な塩でない。
【0050】
ミトコンドリア疾患の処置に有用な本発明の化合物には、以下が挙げられる:
(3)以下の式を有するウリジンのアシル誘導体:
【0051】
【化3】

ここで、R1、R2およびR3は、同じであるかまたは異なり、そして各々は水素または以下のアシルラジカルである:
a.2〜22個の炭素原子を有する分枝していない脂肪酸、
b.グリシン、ならびにアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、シスチン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、カルニチンおよびオルニチンのL形態からなる群より選択されるアミノ酸、
c.3〜22個の炭素原子を有するジカルボン酸、
d.グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、リポ酸、パントテン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、βヒドロキシ酪酸、オロチン酸、およびクレアチンからなる群の1つ以上から選択されるカルボン酸。
【0052】
(4)以下の式を有するシチジンのアシル誘導体:
【0053】
【化4】

ここで、R1、R2、R3およびR4は、同じであるかまたは異なり、そして各々は水素または以下のアシルラジカルである:
a.2〜22個の炭素原子を有する分枝していない脂肪酸、
b.グリシン、ならびにフェニルアラニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、シスチン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、カルニチンおよびオルニチンのL形態、
c.3〜22個の炭素原子を有するジカルボン酸、
d.グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、リポ酸、パントテン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、βヒドロキシ酪酸、オロチン酸、およびクレアチンからなる群の1つ以上から選択されるカルボン酸。
【0054】
(5)以下の式を有するウリジンのアシル誘導体:
【0055】
【化5】

ここで、少なくとも1つのR1、R2またはR3は、2〜26個の炭素原子を含むヒドロカルビルオキシカルボニル(hydrocarbyloxycarbonyl)部分であり、そして残りのR置換基は、独立して、ヒドロカルビルオキシカルボニルもしくはヒドロカルビルカルボニル部分またはHまたはホスフェートである。
【0056】
(6)以下の式を有するシチジンのアシル誘導体:
【0057】
【化6】

ここで、少なくとも1つのR1、R2、R3またはR4は、2〜26個の炭素原子を含むヒドロカルビルオキシカルボニル部分であり、そして残りのR置換基は、独立して、ヒドロカルビルオキシカルボニルもしくはヒドロカルビルカルボニル部分またはHまたはホスフェートである。
【0058】
(7)オロチン酸またはその塩:
【0059】
【化7】

オロチン酸の薬学的に受容可能な塩には、塩のカチオン性成分がナトリウム、カリウム、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニンもしくはリジン)、メチルグルカミン、コリン、または約1000ダルトン未満の分子量を有する任意の他の実質的に非毒性の水溶性カチオンである塩が挙げられる。
【0060】
8)アルコール置換オロテート誘導体:
【0061】
【化8】

ここで、R1は、エステル結合を介してオロテートに連結される1〜20個の炭素原子を含むアルコールのラジカルである。
【0062】
上記の化合物の薬学的に受容可能な塩もまた、本発明に包含される。
【0063】
本発明の有利な化合物は、ウリジンまたはシチジンの短鎖(2〜6個の炭素原子)脂肪酸エステルである。特に有利な化合物は、トリアセチルウリジンまたはトリアセチルシチジンである。このような化合物は、親のヌクレオシドよりも良好な経口的バイオアベイラビリティーを有し、そして経口投与後の吸収の後に迅速に脱アセチル化される。
【0064】
ピルビン酸は、ミトコンドリア機能の欠損を有する細胞の処理に有用である。ミトコンドリア酸化的リン酸化に対する減少した能力を有する細胞は、ATPの生成のための解糖に依存しなければならない。解糖は、細胞のレドックス状態によって調節される。詳細には、NAD+は、最適なグルコースフラックスに必要であり、このプロセスにおいてNADHを生成する。解糖からのエネルギー産生を最大化するために、NADHは、NAD+に再酸化されなければならない。外因性ピルベートは、一部、形質膜酵素であるNADHオキシダーゼを介して、NADHを再酸化し得る。
【0065】
ウリジントリピルベート(2’,3’,5’−トリ−O−ピルビルウリジン)は、ピリミジンおよびピルベートの両方の利点を提供し、両方を単一の化学的実体とともに送達し、そしてナトリウム、カルシウム、またはピルビン酸の対応する塩における他のカチオンの負荷を避ける。
【0066】
(ウリジンホスホリラーゼのインヒビター)
ミトコンドリア疾患を処置するための代替のまたは相補的なストラテジーは、酵素ウリジンホスホリラーゼのインヒビターを用いるウリジン異化の阻害を含む。
【0067】
ミトコンドリア疾患の処置に有用なウリジンホスホリラーゼのインヒビターの例には、以下が挙げられるが、これらに限定されない:5−ベンジルバルビツレート(5−benzyl barbiturate)または5−ベンジリデンバルビツレート誘導体(5−ベンジルバルビツレート、5−ベンジルオキシベンジルバルビツレート、5−ベンジルオキシベンジル−−1−[(1−ヒドロキシ−2−−エトキシ)メチル]バルビツレート、5−ベンジルオキシベンジルアセチル−−1−[(1−ヒドロキシ−2−エトキシ)メチル] バルビツレート、および5−メトキシベンジルアセチル−アシクロバルビツレートを含む)、2,2’−アンヒドロ−−5−エチルウリジン、5−エチル−2−デオキシウリジンならびにアシクロウリジン化合物、特に、5−ベンジル置換アシクロウリジン同族体(ベンジルアシクロウリジン、ベンジルオキシ−ベンジル−アシクロ−ウリジン、アミノメチル−−ベンジル−アシクロウリジン、アミノメチル−−ベンジルオキシ−ベンジルアシクロウリジン、ヒドロキシメチル−−ベンジルアシクロウリジン、およびヒドロキシメチル−ベンジルオキシ−ベンジル−アシクロウリジンを含むがこれらに限定されない)。WO89/09603およびWO91/16315(本明細書中で参考として援用される)もまた参照のこと。
【0068】
(C.本発明の組成物)
本発明の1つの実施態様において、新規な薬学的組成物は、活性化剤として、ウリジン、シチジン、オロチン酸またはその塩もしくはエステル、およびこれらのピリミジンヌクレオチド前駆体のアシル誘導体からなる群から選択される1つ以上のピリミジンヌクレオチド前駆体を、薬学的に受容可能なキャリアとともに含む。
【0069】
組成物は、意図される使用および投与の経路に依存して、液体、懸濁液、粒状物(sprinkle)、マイクロカプセル、錠剤、カプセル、糖剤、注射用溶液、または坐剤の形態で製造される(以下の処方の議論を参照のこと)。
【0070】
本発明の別の実施態様において、組成物は、少なくとも1つのピリミジンヌクレオチド前駆体、およびウリジンの分解を阻害する薬剤(例えば、酵素ウリジンホスホリラーゼのインヒビター)を含む。ウリジンホスホリラーゼのインヒビターの例には、以下が挙げられるが、これらに限定されない:5−ベンジルバルビツレートまたは5−ベンジリデンバルビツレート誘導体(5−ベンジルバルビツレート、5−ベンジルオキシベンジルバルビツレート、5−ベンジルオキシベンジル−1−[(1−ヒドロキシ−2−エトキシ)メチル]バルビツレート、5−ベンジルオキシベンジルアセチル−−1−[(1−ヒドロキシ−−2−エトキシ)メチル] バルビツレート、および5−メトキシベンジルアセチル−アシクロバルビツレートを含む)、2,2’−アンヒドロ−5−エチルウリジン、ならびにアシクロウリジン化合物、特に5−ベンジル置換アシクロウリジン同族体(ベンジルアシクロウリジン、ベンジルオキシ−ベンジル−アシクロ−ウリジン、アミノメチル−−ベンジル−アシクロウリジン、アミノメチル−ベンジルオキシ−ベンジルアシクロウリジン、ヒドロキシメチル−−ベンジルアシクロウリジン、およびヒドロキシメチル−ベンジルオキシ−ベンジル−アシクロウリジンを含むが、これらに限定されない)。さらに、ミトコンドリア呼吸鎖機能不全に関連するミトコンドリア疾患または病態生理学を処置する目的のために、ピリミジンヌクレオチド前駆体の同時投与なしに、ウリジンホスホリラーゼのインヒビター単独を利用することは、本発明の範囲内にある。
【0071】
本発明のさらなる実施態様は、ミトコンドリアの構造および機能に関連して保護的または支持的な活性を有する1つ以上の他の薬剤と組み合わせられるピリミジンヌクレオチド前駆体を含む。このような薬剤には、以下が挙げられるが、これらに限定されない(ミトコンドリア疾患において推奨される毎日の用量で提示される):ピルベート(1〜10グラム/日)、補酵素Q(1〜4mg/kg/日)、アラニン(1〜10グラム/日)、リポ酸(1〜10mg/kg/日)、カルニチン(10〜100mg/kg/日)、リボフラビン(20〜100mg/日)、ビオチン(1〜10mg/日)、ニコチンアミド(20〜100mg/日)、ナイアシン(20〜100mg/日)、ビタミンC(100〜1000mg/日)、ビタミンE(200〜400mg/日)、およびジクロロ酢酸またはその塩。ピルベートの場合において、この活性化剤は、2〜10個の炭素原子を含むアルコール部分を有する、ピルビン酸、その薬学的に受容可能な塩、またはピルビン酸エステルとして投与され得る。
【0072】
(D.本発明の化合物および組成物の治療的使用)
ミトコンドリア呼吸鎖機能不全に関連する疾患は、ミトコンドリア欠損の起源に基づいていくつかのカテゴリーに分けられ得る。
【0073】
先天性ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアDNAもしくはミトコンドリアDNA完全性を調節する核遺伝子における、あるいはミトコンドリア呼吸鎖機能に重要なタンパク質をコードする核遺伝子における、遺伝的変異、欠失、または他の欠損に関連する疾患である。
【0074】
後天性ミトコンドリア欠損は、主に以下を含む:1)酸化的プロセスまたは加齢に起因するミトコンドリアDNAに対する損傷;2)過剰な細胞内およびミトコンドリア内カルシウム蓄積に起因するミトコンドリア機能不全;3)内因性または外因性呼吸鎖インヒビターでの呼吸鎖複合体の阻害;4)急性または慢性酸素欠乏;ならびに5)損なわれた核−ミトコンドリア相互作用(例えば、微小管欠損に起因する長軸索におけるミトコンドリアの損なわれたシャトリング(impaired shuttling)、ならびに6)脂質、酸化的損傷または炎症に対するミトコンドリア結合解離タンパク質の発現。
【0075】
最も基本的な機構は、後天性ミトコンドリア欠損に関与し、これは、以下を含む種々の形態の器官および組織機能不全の病因の根底にある:
カルシウム蓄積:細胞傷害の基本的な機構は、特に興奮性組織において、形質膜による漏出または細胞内カルシウム操作機構における欠損のいずれかの結果として、細胞への過剰なカルシウムの進入を含む。ミトコンドリアは、カルシウム腐骨形成の主要な部位であり、そしてATP合成に対してよりもむしろカルシウムの取り込みに対して呼吸鎖からエネルギーを優先的に利用し、これは、ミトコンドリアへのカルシウムの取り込みがエネルギー変換のための能力の減少を生じるので、ミトコンドリア不全の下方らせん(downward spiral)を生じる。
【0076】
興奮毒性:興奮性アミノ酸を有するニューロンの過剰な刺激は、中枢神経系における細胞死または傷害の共通の機構である。グルタミン酸レセプター、特にNMDAレセプターと命名されたサブタイプの活性化は、一部、興奮毒性の刺激の間の細胞内カルシウムの上昇によって、ミトコンドリア機能不全を生じる。逆に、ミトコンドリア呼吸における欠損および酸化的リン酸化は、興奮毒性刺激に対して細胞を感作し、正常細胞に対して無害であるレベルの興奮毒性神経伝達物質または毒素への曝露の間に細胞死または傷害性を生じる。
【0077】
一酸化窒素曝露:一酸化窒素(約1マイクロモル濃度)は、シトクロムオキシダーゼ(複合体IV)を阻害し、それによってミトコンドリア呼吸を阻害する(Brown GC,Mol.Cell.Biochem.174:189〜192,1997);さらに、NOに対する長期の曝露は、不可逆的に複合体I活性を減少する。それによって、生理学的濃度または病態生理学的濃度のNOは、ピリミジン生合成を阻害する。一酸化窒素は、種々の神経変性障害(中枢神経系の炎症および自己免疫疾患を含む)に関連し、そしてニューロンに対する興奮毒性の損傷および低酸素症後の損傷の調節に関与する。
【0078】
低酸素症:酸素は、呼吸鎖における末端電子アクセプターである。酸素欠乏は、電子輸送鎖活性を減少させ、酸化的リン酸化を介するピリミジン合成の減少ならびにATP合成の減少を生じる。ウリジンおよびピルベート(または解糖ATP産生を最適化するようにNADHを酸化するために同様に有効な薬剤)を有するならば、ヒト細胞は、仮想的に嫌気性条件下で増殖し、そして生存を保持する。
【0079】
核ミトコンドリア相互作用:呼吸鎖成分をコードするミトコンドリアDNAの転写は、核因子を必要とする。ニューロン軸索において、ミトコンドリアは、呼吸鎖活性を維持するために核へ往復しなければならない。軸性輸送が低酸素によって、または微小管の安定性に影響を及ぼすタキソールのような薬物によって損なわれた場合、核から離れたところのミトコンドリアは、シトクロームオキシダーゼ活性を損失する。
【0080】
ミトコンドリア脱共役タンパク質:ミトコンドリアは、特に1つ以上の呼吸鎖成分における欠損が、代謝中間体から分子酸素への秩序だった電子伝達を損なわせる場合、ミトコンドリア呼吸鎖からの溢流によるフリーラジカルおよび反応性酸素種の主要な供給源である。酸化的損傷を低減するために、細胞は、ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)(そのいくつかは同定されている)を発現することによって補償し得る。UCP−2は、酸化的損傷、炎症性サイトカイン、または過剰の脂質負荷(例えば、脂肪肝および脂肪肝炎)に応答して転写される。UCPは、ミトコンドリアからの反応性の酸素種の溢流を、ミトコンドリア内膜を横切るプロトン勾配をなくすことによって減少させる(基本的には、代謝によって産生されたエネルギーを浪費し、そして減少した酸化的傷害に対する代償としてエネルギーストレスに対して細胞を脆弱にすることによって)。
【0081】
神経系において、特にミトコンドリア呼吸鎖欠損は、2つの一般化可能な結果を有する:1)神経系内での神経回路の遅延型または異常な発達;ならびに2)ニューロンおよび神経回路の加速された変性(ミトコンドリア欠損およびその他の増悪因子(precipitating factor)の重篤度に依存して、急性のものまたは数年の期間にわたるもののいずれか)。損傷された発達および加速された変性の類似のパターンは、非ニューロン組織およびシステムにもまた関連する。
【0082】
(ミトコンドリア機能不全およびピリミジン生合成)
重篤に損傷を受けた(ミトコンドリアDNAの完全な欠失(およびその結果としての呼吸鎖活性の遮断)を含む)ミトコンドリアを有する細胞は、重要なミトコンドリア機能を補償する2つの因子とともに提供された場合には、培養中で生存し得る。その2つの因子は、ウリジンおよびピルビン酸塩である。ウリジンは、インビトロで必要とされる。なぜなら、ウリジンヌクレオチド、ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)の新規な合成についての制限をする酵素が、ミトコンドリア呼吸鎖と、近位の電子受容体としてのユビキノン、中間体としてのシトクロームc、ならびに最終的な電子受容体としての酸素を介して共役しているからである(Lofflerら、Mol.Cell.Biochem.174:125−129,1997)。DHODHは、オロト酸の合成のために必要とされ、これは、次いでホスホリボシル化され、そして脱カルボキシル化されて、ウリジンモノホスフェート(UMP)を産生する。細胞中の全ての他のピリミジンが、UMPに由来する。ミトコンドリアDNAにおける欠損に起因するミトコンドリア疾患を有する患者由来の細胞は、身体の環境の外で生存するために外因性のウリジンを必要とする。ここで、他の細胞または食餌に由来し、そして循環によって輸送されたピリミジンは、それらの生存性を支持するのに十分に明白である(Bourgeronら、Neuromusc.Disord.3:605−608,1993)。顕著なことに、BrequinarまたはLeflunomideのような薬物でのDHODHの意図的な阻害は、臨床的ミトコンドリア疾患における神経系および筋肉のような有糸分裂後の組織が主に関与することとは対照的に、造血系および胃腸粘膜に対する用量限定的細胞傷害性損傷を生じる。
【0083】
(呼吸鎖機能不全の病態生理学的結果)
ミトコンドリアは、ほとんど全ての型の真核生物細胞の生存および適切な機能のために重大である。実質的に任意の細胞型のミトコンドリアは、それらの機能に影響を及ぼす先天的または後天的な欠損を有し得る。従って、呼吸鎖機能に影響を及ぼすミトコンドリア欠損のその臨床的に有意な徴候および症状は、不均質であり、そして細胞間の欠損ミトコンドリアの分布およびそれらの欠損の重篤度、ならびに冒された細胞に対する生理学的需要に依存して可変性である。高エネルギー要求を有する非分裂組織(例えば、神経組織、骨格筋、および心筋)は、特にミトコンドリア呼吸鎖機能不全に対して感受性であるが、任意の器官系が冒され得る。
【0084】
以下に列挙する疾患および症状は、ミトコンドリア呼吸鎖機能不全の公知の病態生理学的結果を包含し、それゆえ、それらは、本発明の化合物および組成物が、治療的有用性を有する障害である。
【0085】
ミトコンドリア機能不全に対して二次的である疾患症状は、一般に、1)呼吸鎖からのフリーラジカルの溢流;2)細胞エネルギー不全を導く、ATP合成における欠損、または3)アポトーシスカスケードを開始または媒介するシトクロームcのようなミトコンドリアシグナルの放出によって誘発されるアポトーシスに原因がある。本発明の予測しない特徴は、本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体が、実施例に示されるようにミトコンドリア疾患を有する患者における広範な種々の症状に対する治療活性を有するという観察である。これは、ミトコンドリア不全を包含する疾患の病原性の理解における、およびこのような障害の処置方法の理解における重要なパラダイムシフトを構成する。
【0086】
(先天性のミトコンドリア細胞障害の処置)
(ミトコンドリアDNA欠損)
多数の臨床的症候群が、ミトコンドリアDNAにおける変異または欠失に関連している。ミトコンドリアDNAは、母性遺伝し、そして体内の実質的に全てのミトコンドリアが、卵母細胞によって提供されるミトコンドリアに由来する。卵母細胞中に欠損および正常のミトコンドリアの混合物が存在する場合、ミトコンドリアの分布および分離は、確率論的なプロセスである。従って、ミトコンドリア疾患は、しばしば、多システム障害であり、そしてミトコンドリアDNA内の特定の点変異は、例えば、異なる患者における徴候および症状の異なるセットを生じ得る。反対に、ミトコンドリアDNA中の2つの異なる遺伝子における変異は、類似の症状複合体を生じ得る。
【0087】
それにも拘わらず、いくつかの一貫した症状パターンは、同定されたミトコンドリアDNA欠損と結び付いて発生しており、これらは、古典的な「ミトコンドリア疾患」を包含し、それらのいくつかは、以下にすぐ下に列挙される。それにも拘わらず、本発明の重要な局面は、ミトコンドリア疾患ならびに本発明の化合物および組成物でのその処置の概念が、本発明にまた開示される多くの他の疾患状態にまで拡張されるという認識である。
【0088】
ミトコンドリアDNAの変異または欠失と関連する主要なミトコンドリア疾患の古典的な表現型のいくつかには、以下が含まれる:
MELAS:(ミトコンドリア脳筋障害乳酸血症および発作様エピソード)
MERRF:「ギザギザの赤い(Ragged Red)」(筋肉)線維を有するミオクローヌスてんかん
MNGIE:ミトコンドリア神経消化管系脳筋障害
NARP:神経形成性筋肉柔弱、運動失調および色素性網膜炎
LHON:レーバー遺伝性視神経障害
リー症候群(亜急性の壊死性の脳筋障害(Subacute Necrotizing Encephalomyopathy)
PEO:進行性外部眼筋麻痺
キーンズ・セイアー症候群(PEO、色素性網膜症、運動失調、および心ブロック)。
【0089】
単独またはこれらの症候群との組み合わせで存在し得るミトコンドリア疾患のその他の共通の症状には、心筋症、筋柔弱および筋萎縮症、発達遅延(運動、言語、認知、または管理能力(executive function)を含む)、運動失調、てんかん、尿細管性アシドーシス、末梢神経障害、視神経障害、自律神経障害、神経原性腸機能不全、感音難聴、神経因性膀胱機能不全、拡張型心筋症(dilating cardiomyopathy)、片頭痛、肝不全、乳酸酸血症、および糖尿病が含まれる。
【0090】
さらに、ミトコンドリアDNAによってコードされる遺伝子産物およびtRNA、ミトコンドリア呼吸および酸化的リン酸化に関与するか、またはそれに影響を及ぼす多くのタンパク質が、核DNAによってコードされる。実際、約3000個のタンパク質、すなわち核ゲノムによってコードされる全てのタンパク質のうちの20%は、ミトコンドリアおよびミトコンドリアの機能もしくは生物発生に物理的に取り込まれるか、またはそれらに関連するが、わずか約100個が、呼吸鎖の構造成分として、直接的に関与する。従って、ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアDNAの遺伝子産物を含むだけでなく、呼吸鎖機能およびミトコンドリア構造に影響を及ぼす核にコードされるタンパク質もまた包含する。
【0091】
感染のような代謝ストレスは、正常な状態下で症状を必ずしも生じないミトコンドリア欠損を曝露(unmask)し得る。感染の間の神経筋または神経学的逆行は、ミトコンドリア疾患のホールマークである。反対に、ミトコンドリア呼吸鎖機能不全は、細胞を、さもなくば無害であるストレスに対して脆弱にし得る。
【0092】
先天性のミトコンドリア疾患の診断は、同じ分子欠損に冒された患者の間でさえ症状が異種性であるので難しい。ミトコンドリア機能不全による細胞および組織の機能における欠乏は、ミトコンドリア欠損に直接関与しない問題によって引き起こされる組織機能不全を模倣し得る。ミトコンドリア疾患の診断のためのいくつかの臨床的に有用かつ実践的なスキームは、当該分野で公知である;これらは、代表的には、疾患の病因における呼吸鎖機能不全の役割を確立するにおける良好な程度の確実性を有するいくつかの主要な基準(例えば、MELAS、NARP、またはリー症候群、新鮮な組織サンプルにおける呼吸鎖複合体活性の極度な(>80%)抑圧のような、古典的臨床的表現型)および個々には単一の主要な基準よりも強制的でないが、特定の患者の臨床的提示に対する呼吸鎖欠損の貢献のための強力な証拠を蓄積的に提供する、より多数の主要でない基準(例えば、呼吸鎖欠損に特徴的な中程度の生化学的異常性、上記の古典的な表現型の1つの全提示なしのミトコンドリア疾患に特徴的な症状)(Walkerら(Eur
Neurol.,36:260−7,1996(本明細書中に参考として援用される)に記載されてる通り)を含む。
【0093】
実施例に示されるように、本発明の化合物および組成物は、異なる基礎となる分子的病理を伴うミトコンドリア疾患における非常に広範な徴候および症状の処置に有用である。これらおよびさらなる患者において観察される改善には、痙攣、片頭痛、および発作様エピソードの頻度および重篤度の減少、「成長障害」を有する子供における体重増加の改善、補助的炭酸水素塩の必要性の同時減少を伴う腎管状アシドーシスの改善、筋肉強度の改善、言語獲得(speech acquisition)の改善、運動失調の改善、洞感染および耳感染の頻度および重篤度の減少、記憶の改善、ならびに自立神経障害および末梢神経障害の症状の改善が含まれるが、これらに限定されない。代謝支持の他の形態(例えば、適切なミトコンドリア機能に必要であることが公知であるビタミンおよび補因子)(ピリミジン支持が除かれた場合、症状の再発がそうであるように、プラシーボ効果に対する利益の寄与に対して議論する)に対する基本的に非応答性であった広範な種々の症状において観察される改善は、本発明の主要な予期しない洞察を実証する。その洞察とは、機能的または条件的ピリミジン欠損が、ミトコンドリア疾患を有する患者における広範な種々の主要な症状の基礎となること、およびピリミジン補充が、そのような患者における広範な種々の症状を改善または軽減するのに十分であるということである。今までに、ミトコンドリア疾患の症状は、ATP欠損、欠損呼吸鎖によって生成される反応性酸素種、またはアポトーシスカスケードのミトコンドリア成分によって誘発される細胞死が原因であるとされてきた。新規なピリミジン合成のインヒビターの用量限定的毒性は、代表的には、骨髄および胃粘膜の幹細胞のような迅速に分裂する細胞型の増殖阻害に起因する。予期せぬことに、患者および実験動物における本発明の化合物および方法の治療的利益は、分裂していない有糸分裂後細胞を含む組織(例えば、中枢ニューロンおよび末梢ニューロンならびに骨格筋および心筋)において実証されている。
【0094】
本発明の重要な特徴は、種々の基礎となる分子的欠損によって引き起こされるミトコンドリア疾患を有する患者の処置が、インビボでの患者の多様な分類の症状における臨床的改善を生じる(実施例1〜4)という予期せぬ結果である。臨床的利益が、ピリミジン生合成に特に必要とされる電子伝達に直接関与する2つの呼吸鎖複合体(IIIおよびIV)を有する正常な活性を有する患者においてさえ観察されていることは、有意であり、そしてさらに予期せぬことである。
【0095】
さらに、新規ピリミジン合成を実質的に完全に遮断された患者(例えば、I型オロト酸尿症についての同型接合体)の適切な処置に要求されるよりも高用量本発明ののピリミジンヌクレオチド前駆体が、代表的には、ミトコンドリア細胞障害を有する患者における至適な処置効果に要求されるということは、予期せぬことであり、本発明の重要な局面である。子供における先天性ミトコンドリア疾患の処置のための本発明の化合物(例えば、トリアセチルウリジン(経口投与後に効率的に吸収される))の最適な用量は、体表面積1m2あたり1〜6グラムの範囲(50〜300mg/kg、有利には、100〜300mg/kg)であるのに対し、ピリミジンの毎日の新規の合成の合計は、成人において一日あたり約1グラムである(約0.5グラム/m2)。
【0096】
本発明の方法の広範な適用可能性は、予期されず、そして本発明の化合物および組成物を、企図されているミトコンドリア疾患(例えば、補酵素Q、Bビタミン、カルニチン、およびリポ酸(これらは、通常、ミトコンドリア機能に関与し、そしてそれ故孤立症例においてのみ有用である、非常に特異的な反応および補因子に取り組む))の他の治療とは異なるものにする。しかし、抗酸化剤および呼吸鎖複合体の補因子を伴うこのような代謝の介入は、本発明の化合物および組成物での同時処置と適合性であり、そして実際、本発明の化合物および組成物と組み合わせてそれらの最良の利益を得るために使用される。
【0097】
(神経筋変性障害の処置)
(フリートライヒ運動失調)
フリートライヒ運動失調(FA)(最も一般的な遺伝的運動失調)の基礎をなす遺伝子欠損は、最近同定され、そして「フラタキシン(frataxin)」と命名されている。FAにおいて、一定期間の正常発生の後に、麻痺および死へと進行する欠損(協調して発症する)は、代表的には、30と40との間の齢である。最も重篤に冒される組織は、脊髄、末梢神経、心筋、および膵臓である。患者は、代表的には、運動制御を喪失し、そして車椅子に閉じこめられ、そして一般的に心不全および糖尿病に冒されている。
【0098】
FAについての遺伝的基礎は、フラタキシンをコードする遺伝子のイントロン領域にあるGAAトリヌクレオチド反復を含む。これらの反復の存在は、その遺伝子の減少した転写および発現を生じる。フラタキシンは、ミトコンドリアの鉄含量の調節に関与する。細胞性フラタキシン含量が正常より低い場合、過剰の鉄がミトコンドリアに蓄積し、酸化的損傷および結果としてのミトコンドリア変性および機能不全を促進する。
【0099】
中間的な数のGAA反復が、フラタキシン遺伝子イントロン中に存在する場合、運動失調の重篤な臨床的表現型は発症しないかもしれない。しかし、これらの中間的長さのトリヌクレオチドの伸長が、糖尿病でない集団の約5%に見出されるのと比較して、非インスリン依存性糖尿病を有する患者の25〜30%に見出される。
【0100】
本発明の化合物および組成物は、フラタキシンにおける不全または欠損に関連する障害(フリートライヒ運動失調、心筋機能不全、糖尿病、および糖尿病様末梢神経障害の合併症を含む)を有する患者を処置するために有用である。反対に、GAAイントロン反復についてのPCR試験を包含する推定されたフラタキシン欠損のための診断試験は、本発明の化合物および組成物での処置から利益を得る患者を同定するために有用である。
【0101】
(筋ジストロフィー)
筋ジストロフィーとは、骨格筋の萎縮症および心筋の機能不全をしばしば生じる神経筋構造および機能の悪化を含む一群の疾患をいう。デュシェーヌ筋ジストロフィーの場合、特定のタンパク質ジストロフィンにおける変異または欠損が、その病因に関係する。それらのジストロフィン遺伝子が不活化されたマウスは、筋ジストロフィーのいくつかの特徴を示し、そしてミトコンドリア呼吸鎖活性においておよそ50%の欠損を有する。ほとんどの場合における神経筋変性の最後の一般的な経路は、ミトコンドリア機能のカルシウム媒介性欠損である。本発明の化合物および組成物は、筋肉の機能的能力における減少率を低減するため、および筋ジストロフィーを有する患者における筋機能状態を改善するために有用である。
【0102】
(多発性硬化症)
多発性硬化症(MS)は、大脳の白質の局所的な炎症および自己免疫変性によって特徴づけられる神経筋疾患である。周期的な増悪または攻撃は、上気道管およびその他の感染(細菌性およびウイルス性の両方)と有意に相関付けられ、これは、ミトコンドリア機能不全がMSにおいて役割を果たすことを示す。一酸化窒素(星状膠細胞および炎症に関与するその他の細胞によって産生される)によって引き起こされるニューロンミトコンドリア呼吸鎖活性の抑制は、MSに寄与する分子機構として関係付けられる。
【0103】
本発明の化合物および組成物は、予防的に、および疾患の悪化のエピソードの間の両方において、多発性硬化症を有する患者の処置に有用である。
【0104】
(神経不安定性の障害の処置)
(痙攣障害の処置)
てんかんは、ミトコンドリア細胞障害(ある範囲の痙攣の重篤度および頻度(例えば、非存在、緊張性、無緊張性、ミオクローヌス性、およびてんかん重積持続状態)を含む)を有する患者においてしばしば存在し、独立したエピソードにおいてか、または一日のうちに度々起こる。
【0105】
ミトコンドリア機能不全に対して二次的な痙攣を有する患者において、本発明の化合物および方法は、痙攣の活性の頻度および重篤度を減少させるために有用である。
【0106】
(片頭痛の処置および予防)
再発する片頭痛を有する患者についての代謝研究は、ミトコンドリア活性における欠損が、一般に、この障害と関連し、損なわれた酸化的リン酸化および過剰の乳酸産生として現れることを示す。このような欠損は、必ずしも、ミトコンドリアDNA中の遺伝的な欠損に起因しない。片頭痛患者は、一酸化窒素(シトクロームcオキシダーゼの内因性のインヒビター)に対して過敏である。さらに、ミトコンドリア細胞障害(例えば、MELAS)を有する患者は、しばしば、再発性の片頭痛を有する。
【0107】
再発性の片頭痛を有する患者において、本発明の化合物、組成物、および方法は、特に麦角化合物またはセロトニンレセプターアンタゴニストに対して不応性の頭痛の場合に、予防および処置のために有用である。
【0108】
実施例1において実施されるように、本発明の化合物および組成物は、ミトコンドリア機能不全に関連する片頭痛の処置のために有用である。
【0109】
(発達遅延の処置)
神経学的または神経心理学的な発達の遅延は、しばしば、ミトコンドリア疾患を有する子供において見出される。神経接続の発達および再モデリングは、特に、ニューロン膜およびミエリン(これらの両方が、補因子としてピリミジンヌクレオチドを必要とする)の合成に関与する強力な生合成活性を必要とする。ウリジンヌクレオチドは、不活化、ならびに糖脂質および糖タンパク質への糖の転移に関与する。シチジンヌクレオチドは、ウリジンヌクレオチドに由来し、そしてホスファチジルコリンのような主要な膜リン脂質構成要素(これは、シチジンジホスホコリンからそのコリン部分を受ける)の合成に重要である。ミトコンドリア機能不全(ミトコンドリアDNA欠損または上記の興奮毒性もしくは一酸化窒素媒介ミトコンドリア機能不全のような任意の後天的もしくは条件的欠損のいずれかに起因する)、あるいは、損なわれたピリミジン合成を生じる他の状態の場合、細胞増殖および軸索伸長は、ニューロン間接続および回路の発達における重要な段階で損なわれ、神経生理学的機能(例えば、言語機能、運動機能、社会的機能、管理機能、および認知スキル)の遅延したか、または停止した発達を生じる。例えば、自閉症において、大脳リン酸化合物の磁気共鳴分光学的測定は、膜生合成に関与するウリジンジホスホ糖およびシチジンヌクレオチド誘導体のレベルの減少によって示される膜および膜前駆体の全体的な過少合成が存在することを示す(Minshewら、Biological Psychiatry 33:762−773,1993)。
【0110】
発達の遅延によって特徴づけられる障害には、レット症候群、広汎発達遅延(またはPDD−NOS:「広汎発達遅延−そうでないと示されない限り」(それを自閉症のような特定のサブカテゴリーから区別するために))、自閉症、Asperger症候群、および注意欠陥/多動障害(ADHD)(これは、管理機能の基礎をなす神経回路網の発達における遅延またはラグとして認識され始めている)が含まれる。
【0111】
本発明の化合物および組成物は、運動、言語、管理機能、および認知スキルが関与する神経発達性遅延を有する患者を処置するために有用である。このような状態(例えば、ADHD)のための現在の処置は、いくつかの冒された未発達の回路における神経伝達を増強するアンフェタミン様刺激剤を包含するが、このような薬剤は、破壊性の行動の制御を改善し得るが、認知機能を改善しない。それは、それらが、関係する神経回路の構造および相互接続において基礎となる欠損に取り組まないからである。
【0112】
本発明の化合物および組成物は、神経系における神経学的な発達および神経生理学的な他の発達の遅延または阻止、ならびに筋肉および内分泌腺のような非神経組織における体細胞性の発達の場合においてもまた有用である。
【0113】
(神経変性障害の処置)
加齢、アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)の両方と関係する2つの最も重要で重篤な神経変性疾患は、それらの病因においてミトコンドリア機能不全に関与する。特に、I型複合体欠損は、パーキンソン病において変性する黒質線状体のニューロンのみならず、パーキンソン病の患者の筋肉および血小板のような末梢組織および細胞においても頻繁に見出される。
【0114】
アルツハイマー病において、ミトコンドリア呼吸鎖活性は、特にIV型複合体(シトクロムcオキシダーゼ)をしばしば抑制する。さらに、ミトコンドリア呼吸機能全体は、加齢の結果として抑制され、さらに呼吸鎖機能に影響するさらなる分子病変の有害な後遺症をさらに拡大する。
【0115】
主なミトコンドリア機能不全に加えて他の因子は、AD、PD、および関連障害において神経変性の基礎をなす。興奮毒性刺激および一酸化窒素は、両方の疾患に関係し、これらの両方の因子は、ミトコンドリア呼吸鎖欠損を悪化させ、そしてこれらの有害な作用は、呼吸鎖機能不全のバックグラウンドに対して誇張される。
【0116】
ハンチントン病はまた、罹患した脳領域のミトコンドリア機能不全と、ニューロン変性に寄与する神経毒性刺激とミトコンドリア機能不全との協同的相互作用トガ関連している。実施例8では、本発明の化合物であるトリアセチルウリジンは、ハンチントン病のマウスモデルにおけるニューロン細胞死を防ぐ。
【0117】
本発明の化合物および組成物は、ADおよびPDを含む加齢に伴う神経変性の進行を処置および減弱するために有用である。
【0118】
(筋萎縮性側索硬化症)
筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリグ病;運動ニューロンの進行性の変性、骨格筋萎縮症、完全麻痺および死の回避不能な原因となる)を有する患者における主要な遺伝子欠損の1つは、銅−亜鉛スパーオキシドジスムターゼ(SOD1)(抗酸化酵素)における変異または欠損である。ミトコンドリアは、反応性酸素種についての最初の標的を生成し、かつ最初の標的である。ミトコンドリアにおける電子の酸素への非効率的な伝達は、哺乳動物系のフリーラジカルの最も重要な生理学的供給源である。抗酸化剤および抗酸化酵素における欠損は、ミトコンドリア変性を生じ得るか、または悪化させ得る。変異したSOD1に関するトランスジェニックマウスは、ヒトALSにおける症状および病理に類似のそれらを発症する。これらの動物における疾患の発症は、ミトコンドリアの酸化的破壊に続いて、運動ニューロンの機能低下および臨床症状の徴候を伴うことを示した(KongおよびXu,J.Neurosci.18:3241−3250,1998)。ALS患者由来の骨格筋は、低いミトコンドリアI型複合体活性を有する(Wiedemannら、J.Neurol.Sci.156:65−72,1998)。
【0119】
本発明の化合物、組成物、および方法は、ALSの処置のために(臨床症状の進行の逆進または緩徐化のために)有用である。
【0120】
(虚血および低酸素症に対する防御)
酸素欠乏は、細胞からIV型複合体でのシトクロムc再酸化に関する末端電子アクセプターを奪うことによるミトコンドリア呼吸鎖活性の直接的な阻害、ならびに特に神経系において、続発性の無酸素後の興奮毒性および一酸化窒素の形成を介する間接的な阻害(特に神経系において)の両方を生じる。
【0121】
大脳性無酸素症、アンギナまたは鎌状赤血球貧血の発症のような状態では、組織は、比較的低酸素症を呈している。このような場合において、本発明の化合物は、低酸素症の有害な効果からの患部組織の保護を提供し、続発性の遅発性細胞死を減衰し、低酸素性の組織ストレスおよび組織損傷からの回復を促進する。
【0122】
本発明の化合物および組成物は、脳に対する虚血性傷害または低酸素傷害後の遅発性細胞死(大脳性虚血のエピソードの約2〜5日後に生じる海馬または皮質のような領域におけるアポトーシス)を防止するために有用である。
【0123】
(尿細管性アシドーシス)
腎機能不全によるアシドーシスは、ミトコンドリア疾患を有する患者で、しばしば観察されるが、基礎をなす呼吸鎖機能不全は先天的であるか、あるいは虚血またはシスプラチンのような細胞傷害性の薬剤により誘発される。尿細管性アシドーシスは、血液および組織のpHを維持するために、外因性重炭酸ナトリウムの投与をしばしば必要とする。
【0124】
実施例3において、本発明の化合物の投与は、重篤なI型複合体不全を有する患者における尿細管性アシドーシスの即時の逆転を生じた。本発明の化合物および、組成物は、尿細管性アシドーシス、およびミトコンドリア呼吸鎖欠損により生じる腎機能不全の他の形態を処置するために有用である。
【0125】
(加齢に伴う神経変性および認知低下)
正常な加齢の間に、ミトコンドリア呼吸鎖機能における進行性の低下が存在する。約40歳から始まる、ヒトにおけるミトコンドリアDNA欠陥の蓄積の指数関数的上昇、および核調節性エレメントにおけるミトコンドリア呼吸鎖活性の同時発生的な低下が存在する。
【0126】
de Grey(Bioessays,19:161−167,1998)は、多くのミトコンドリアDNA損傷が、ミトコンドリア代謝回転間に、特に有糸分裂後細胞において、えり抜きの利点を有するという観察を基礎とする機構を議論した。提唱された機構は、欠損呼吸鎖を有するミトコンドリアは、インタクトな機能的呼吸鎖を有するミトコンドリアに生じるよりも少ないそれら自身への酸化的損傷を生じる(ミトコンドリア呼吸は、身体内のフリーラジカルの最初の供給源である)ということである。従って、正常に機能するミトコンドリアは、欠損ミトコンドリアが蓄積するよりも速く、膜脂質への酸化的損傷を蓄積し、従って、リソソームによる分解について「標識化される」。細胞内のミトコンドリアは、約10日の半減期を有するので、えり抜きの利点は、機能的ミトコンドリアが、減少した呼吸活性を有するミトコンドリアで、特に、ゆっくりと分裂する細胞においての急速な置換を生じ得る。正味の結果は、一旦、ミトコンドリアへの酸化的損を減少するミトコンドリアタンパク質に関する遺伝子において変異が生じると、このような欠損ミトコンドリアが細胞の中に急速に場所を占め、その呼吸能力を低下させるかまたは排除する。このような細胞の蓄積は、生物体レベルでの加齢または変性疾患を生じる。これは、筋肉において欠損電子伝達活性を有する細胞と、正常な活性を有する細胞の中に、無作為に散在するシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性のほとんどない細胞との進行性モザイクの出現、および高齢の被験体由来の生検におけるCOX陰性細胞の高い発生率と一致する。従って、加齢の間または種々のミトコンドリア疾患において、生物は、交換できない有糸分裂後の細胞(例えば、ニューロン、骨格筋、および心筋)が、保存され、かつそれらの機能が、ミトコンドリア呼吸鎖機能における容赦のない進行性の低下にもかかわらず、有意な程度まで維持されなければならない状況に直面する。機能不全のミトコンドリアを有するニューロンは、興奮毒性損傷のような傷害に対して、段々とより敏感になる。ミトコンドリア不全は、加齢に付随するほとんどの変性疾患(特に、神経変性)に寄与する。
【0127】
先天的ミトコンドリア疾患は、しばしば、正常なミトコンドリアを持って生まれた人々の加齢の間に生じる障害に対する基本的な機構に類似する早発性神経変性を伴う。本発明の化合物および組成物が、先天的ミトコンドリア疾患または早発性ミトコンドリア疾患の処置に有用であるという実施例に開示される実証は、加齢に伴う組織変性の処置のための本発明の化合物および組成物の有用性について直接の支持を提供する。
【0128】
本発明の化合物および組成物は、加齢の認知低下および他の変性の結果を、処置または減衰させるために有用である。
【0129】
(ミトコンドリアおよび癌の化学療法)
ミトコンドリアDNAは、代表的には、以下のいくつかの理由について、核DNAが脆弱であるよりも、損傷に対してより脆弱である:
1.ミトコンドリアDNAは、核DNAが有するほど洗練された修復システムを有さない。
2.実質的に全てのミトコンドリアDNA鎖は、重要なタンパク質をコードし、その結果任意の欠損症は、ミトコンドリア機能に潜在的に影響する。核DNAは、タンパク質をコードしない長い領域(ここで変異または損傷は本質的に重要ではない)を含む。
3.欠損ミトコンドリアは、しばしば、増殖および代謝回転の間の正常で活性なミトコンドリアに対してえり抜きの利点を有する。
4.ミトコンドリアDNAは、ヒストンによって保護されない。
【0130】
経験的に、ミトコンドリアDNA損傷は、ミトコンドリアDNAのより顕著な脆弱性および低効率な修復の両方のために、酸化的ストレスまたはシスプラチンのような癌化学療法剤に供される細胞における核DNA損傷よりも、より広範でありかつより長く持続する。ミトコンドリアDNAは、核DNAよりも損傷により感受性であり得るが、それは、いくつかの状況では、化学発癌物質による変異誘発に対して比較的抵抗性である。これは、ミトコンドリアが、ミトコンドリアを修復することを試みるよりむしろ、ミトコンドリアの欠損ゲノムを破壊することにより、いくつかの型のミトコンドリアDNA損傷に応答するからである、これは、細胞傷害性化学療法後のある期間について全体的なミトコンドリア機能不全を生じる。シスプラチン、マイトマイシン、およびサイトキサン(cytoxan)のような化学療法剤の臨床的使用が、しばしば、「化学療法疲労」衰弱させることを伴い、このような薬剤の血液学的な毒性および胃腸の毒性から回復したあとでさえ持続し得る脱力感および運動不耐性の期間を延長させる。
【0131】
本発明の化合物、組成物および方法は、ミトコンドリア機能不全に関する癌化学療法の副作用の処置および予防に有用である。癌化学療法副作用の減弱のためのピリミジンヌクレオチド前駆体のこの使用は、ピリミジンヌクレオチド前駆体による細胞傷害性の抗癌ピリミジンアナログの毒性低下と機構的および生化学的に異なる。これは、ヌクレオチドの代謝拮抗物質のレベルでの生化学的競合を通じて媒介される。
【0132】
実施例5は、タキソール誘発性神経障害に対する保護における経口トリアセチルウリジンの保護効果を示す。
【0133】
さらに、肝臓のミトコンドリア酸化還元状態は、食欲の制御に対する貢献の一因である。癌患者は、しばしば、「早い満腹」(食欲不振を与える)、体重減少、および悪液質を示す。エネルギー代謝は、しばしば、癌患者において、循環乳酸(これは肝臓によってグルコースに逆転換される)を生成する、機能亢進性腫瘍解糖のエネルギーを浪費する無益回路によって重篤に妨害される。化学療法誘発性ミトコンドリア損傷は、代謝破壊にさらに寄与する。
【0134】
実施例2に示されるように、本発明の化合物での処理は、ミトコンドリア疾患を有する患者において改善された食欲を生じた。
【0135】
(ミトコンドリア機能および卵巣機能)
卵巣の重大な機能は、卵母細胞中のミトコンドリアゲノムの完全性を維持することである。なぜならば、胎児へと移ったミトコンドリアは、受胎のときに卵母細胞中に存在するミトコンドリアに全て由来するからである。ミトコンドリアDNAの欠失は、閉経期の年齢あたりで検出可能になり、そして異常な月経周期にもまた関連する。細胞は、ミトコンドリアDNAの欠損を直接的に検出および応答し得ないので、呼吸障害、酸化還元状態、またはピリミジン合成の欠損のような、細胞質に影響する続発的な効果のみを検出し得る。このようなミトコンドリア機能の産物は、卵母細胞選択および卵胞閉鎖のためのシグナルとして関与して、ミトコンドリアゲノムの忠実度および機能的活性の持続がもはや保証され得ない場合に、最終的に閉経期を引き起こす。これは、DNA損傷を有する細胞におけるアポトーシスに類似する。これは、ゲノムの忠実度が、修復プロセスによってもはや達成され得ない場合に、細胞の自殺の能動的プロセスを起こす。性腺に影響するミトコンドリア細胞障害を有する女性は、しばしば、早発性の閉経を起こすか、または原発性の周期異常を示す。細胞傷害性の癌化学療法は、しばしば、骨粗しょう症の結果的な危険性の増加を伴う、早発性の閉経を誘発する。化学療法誘発性無月経は、一般的に原発性卵巣不全による。化学療法誘発性無月経の発生率は、化学療法を受ける閉経前の女性における年齢の関数として増加し、これはミトコンドリアへの関与を示す。ミトコンドリア呼吸またはタンパク質合成のインヒビターは、ホルモン誘発性排卵を阻害し、さらに下垂体ゴナドトロピンに応答する卵巣ステロイドホルモンの産生を阻害する。ダウン症候群を有する女性は、代表的には早発性の閉経を起こし、そして早発性のアルツハイマーのような痴呆にもまたなりやすい。シトクロムオキシダーゼの低い活性は、ダウン症の患者および遅発性のアルツハイマー病の組織において一貫して見出される。
【0136】
従って、ミトコンドリア機能またはミトコンドリア機能不全に関する補償の適切な支持は、加齢に伴う閉経または化学療法誘発性閉経、あるいは月経周期もしくは排卵の不規則性を防御するために有用である。本発明の化合物および組成物(抗酸化剤およびミトコンドリア補因子もまた含む)は、無月経、不規則な排卵、閉経、または閉経の続発性結果を、処置および予防するために有用である。
【0137】
実施例Iでは、本発明の化合物での処理は、月経の周期の短縮を生じた。患者は持続性の黄体期にあったので、患者の応答は、投与されたピリミジンヌクレオチド前駆体が、下垂体ゴナドトロピンに対する反応性低下を逆転し、下垂体ゴナドトロピンがおそらく上昇して、ミトコンドリア起源の卵巣反応性低下を補償したことを示す。
【0138】
(ミトコンドリア疾患の診断)
本発明の化合物の投与に対するミトコンドリア疾患を有する患者の著しい応答は、本発明の方法に従って投与されるピリミジンヌクレオチド前駆体に対する臨床的応答が、可能なミトコンドリア疾患を検出するための診断的有用性を有することを示す。ミトコンドリア機能不全の基礎をなす分子損傷の分子診断は、特に欠損が、ミトコンドリアDNAのより一般の変異または欠失の1つではない場合に、困難かつ高価である。ミトコンドリア疾患の最終的な診断は、しばしば、筋肉生検を必要とするが、この侵襲性測定でも、ミトコンドリア欠損が筋肉に存在するかどうかようやく得るのみである。本発明の化合物および組成物は、本発明の方法に従って投与される場合に安全であるので、ピリミジンヌクレオチド前駆体での治療的なチャレンジは、特にミトコンドリア機能不全の種々の他の局面についての試験と共に用いられる場合に、推測されるミトコンドリア疾患についての重要な診断プローブである。
【0139】
先天性ミトコンドリア細胞障害の診断について、本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体の50〜300mg/kgの1日量は、患者に1〜12週の期間投与され、そして臨床的徴候および症状は、変化についてモニターされる。実施例に記載される患者およびさらなる患者において観察される改善は、以下を含むがこれらに限定されない:発作、片頭痛、および発作様エピソードの頻度および重篤度の低下、「成長障害」を有する子供における体重増加の改善、重炭酸イオンの補充が必要な、同時発生的な還元を伴う尿細管性アシドーシスの寛解、筋肉強度の改善、言語獲得の改善、運動失調の改善、低血圧の改善、洞感染および耳感染の頻度および重篤度の低下、記憶の改善、ならびに自律神経性神経障害および末梢神経障害の症状の寛解。本発明の1つの実施態様では、ミトコンドリア機能の他の試験はまた、ミトコンドリア疾患の診断のための証拠を提供するために用いられる。診断は、Walkerら、(Eur Neurol.,36:260−7,1996)に記載されるように、代表的には、異なる信頼度を有する多数の実証的な試験の累積的な考察を必要とする。本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体に対する治療的応答性は、この診断計画における、さらなる小さな診断基準として主に有用である。なぜならば、治療的利益は、単独で媒介されないピリミジンヌクレオチド前駆体の投与後に、呼吸鎖欠損に対する補償によって、生じ得ることが可能であるからである。ミトコンドリア疾患の症状の性質および重篤度は、患者間で不均一であり、そして変化し得るので、外因性のピリミジンヌクレオチド前駆体の効力は、代表的には、患者において優位な症状を選択し、そして治療の過程の間に実行できるほど定量的なスケールで、患者の重篤度をモニタリングすることによって評価される。可能なプラシーボ効果が推測される場合、患者の薬物から適切なプラシーボへの盲目的切替えが、必要に応じて、個々の患者に用いられる。臨床上の利点の評価は、技能と経験を必要とし得るが、このような技能は、多システム代謝疾患を有する患者を処置する分野の開業医の範囲内であり、そしてこのように、この分類の疾患の重篤度を考慮して、過度の実験を構成しない。ミトコンドリア疾患を有する患者の、本発明の化合物である、トリアセチルウリジンでの臨床的処置の以下に列挙される実施例は、個々の患者の臨床上の利点を決定する可能性を例示する。
【0140】
(E.本発明の化合物および組成物の投与および処方)
ミトコンドリア疾患のピリミジンヌクレオチド前駆体治療のための、特定の治療標的の全ての場合において、本発明の化合物は、代表的に、1日に1〜3回投与される。ウリジンおよびシチジンのアシル誘導体を、1日あたり10〜500mg/体重1kgの用量(最適な治療的利益に必要な量に依存して、この範囲内で変化を有する)で経口投与する。一般に、最適な用量は、50〜300mg/kg/日、有利には、100〜300mg/kg/日の間であり、これを6〜12時間の間隔を空けて、2または3の分割用量に分ける。ウリジンおよびシチジンは、これらの2つのヌクレオシドのアシル誘導体よりも低い効率で吸収され、その結果より高い用量が、アシル誘導体で達成される治療的利益に匹敵する治療的利益のために必要とされる。浸透圧性の下痢は、患者に投与され得るウリジンまたはシチジン(あるいはシチジンジホスホコリンのような他の誘導体)の量を制限し、その結果、ほとんどの場合において、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体は、親化合物よりも効果的であり、より少ない副作用を有する。本発明の目的の達成のために用いられるシチジンおよびウリジンの用量は、50〜1000mg/kg/日、有利には、100〜1000mg/kg/日の範囲であり、これは、治療効力と寛容性との間の平衡に依存する。オロチン酸塩またはオロチン酸のアルコールエステルは、20〜200mg/kg/日の範囲の用量で経口投与され、これもまた、ミトコンドリア呼吸鎖機能不全を伴う特定の疾患状態において最適な治療効果を達成するのに必要な量に依存する。特定の疾患または患者に必要とされる本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体の用量はまた、疾患の重篤度に部分的に依存する。
【0141】
ミトコンドリア機能不全により特徴付けられるまたは生じる疾患を有する個々のいずれの患者においても、本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体の有効な用量は、代表的には、経験的に決定される。先天性ミトコンドリア疾患(ミトコンドリア細胞障害またはミトコンドリア脳脊髄症としてもまた公知である)では、徴候および症状の臨床的提示は、一般に、患者の間で不均一であり、そして変化し得る。本発明の化合物の以下の投与の臨床的利益は、一組の症状をモニタリングすることによって決定され、そして経時的に(例えば、月間隔で)それらの重篤度を評価することによって、決定される。3〜5の優位な症状は、この目的のために選択され、そして臨床的利益を構成するために判断される改善の程度は、しばしば臨床的判断の理由となる。複雑な代謝障害を有する患者の処置において、このような評価は、実験の過度の負荷、特にミトコンドリア細胞障害の所定の重篤度(しばしば生命をおびやかす)およびそれらの医療の高価な性質を構成しない。患者の生涯において出来るだけ早いミトコンドリア欠損または多の代謝欠損に対する補償は、脳および身体の発達が思春期後の静止を達成した後の介入に対する非常に大きな違いを作り得る。従って、それは、特に子供の発達において、複雑な代謝疾患の診断および処置に費やされるべき、かなりの努力のために費やした時間に相当する。本発明の化合物のミトコンドリア疾患を有する患者への投与の後の治療的改善の以下に列挙される実施例は、このような処置および評価の可能性および価値を実証する。
【0142】
ミトコンドリア疾患よりも臨床的提示においてより低い不均一性を有するほとんどの疾患の場合において、当該分野において、薬物処置の効力を決定するための適切に確証された評価スケールが存在する。本明細書中に開示される疾患状態の処置のために、本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体の用量を決定するための臨床的研究を行う前に、個々の患者について適切な用量を、臨床的応答(脳MRI画像および他の指標(例えば、生化学的測定)を含み、これらは、必ずしも、患者の症状の観察によって単純には臨床的に明らかでないかもしれない)を、定量的な疾患評価スケールに従って評価することによって決定する。全ての場合において、特定の疾患状態の優位な症状を、徴候および症状の改善または臨床的低下の減弱が、生じるかどうかを決定するために、医学の分野で一般的であるように、経時的にモニターする。盲検的な臨床研究における用量決定の前に、所定の患者の本発明のピリミジンヌクレオチド前駆体に対する応答は、数週間の薬物からプラシーボへの盲目的切り換えによって、単純に可能なプラシーボ効果から区別される。
【0143】
本発明の化合物である、経口薬物を受け入れられない患者の場合において、特にウリジン、シチジン、およびオロチン酸エステルが、必要に応じて、10〜500mg/kg/日の日用量を送達する、長時間の静脈注入によって、投与され得る。
【0144】
薬理学的に活性な化合物は、必要に応じて、活性な化合物の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む、適切な薬学的に受容可能なキャリアと組み合わされる。これらは、錠剤、懸濁剤、溶液、糖衣錠、カプセル剤、または坐剤として投与される。これらの組成物は、投与(例えば、経口、直腸、膣)されるか、または口の頬側の窩を通じて放出され、そして溶液形態で、注射、経口投与もしくは局所投与によって適用され得る。これらの組成物は、約0.1〜99%、好ましくは、約50〜90%の活性化合物を、賦形剤と共に含み得る。
【0145】
注射または静脈内注入による非経口投与に関しては、活性化合物は、水性媒体(例えば、滅菌水または生理食塩水)中に懸濁されるか、または溶解される。注射可能な溶液または懸濁液は、必要に応じて、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンエーテル)またはポリプロピレングリコール、またはエタノールのような溶解化剤を含む。この溶液は、代表的には、0.01〜5%の活性化合物を含む。
【0146】
適切な賦形剤としては、糖類(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトール)、セルロース調製物および/またはリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウム))のような充填剤、ならびにデンプンのり(例えば、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉またはジャガイモ澱粉を用いる)、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン)のような結合剤が挙げられる。
【0147】
補助物質としては、流動性調節薬剤および滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩類(例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム)および/またはポリエチレングリコールが挙げられる。糖衣錠コアは、適切なコーティングとともに提供される。このコーティングは、所望であれば、胃液に抵抗性である。この目的に関しては、濃縮糖類液が使用され、この溶液は、必要に応じて、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液および適切な有機溶媒もしくは溶媒混合物を含む。胃液に抵抗性のコーティングを生成するために、適切なセルロース調製物(例えば、アセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)の溶液が使用される。染料または色素は、必要に応じて、例えば、識別するため、または異なる化合物用量を特徴づけるために、錠剤もしくは糖衣錠コーティングに添加される。
【0148】
本発明の薬学的調製物は、それ自体が公知の様式において、例えば、従来の混合、顆粒化、糖衣錠作製、可溶化、または凍結乾燥プロセスにより製造される。従って、経口的使用のための薬学的調製物は、活性化合物と固体賦形剤とを合わせ、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、そして適切な補助物質を添加した後に、所望または必要であれば、顆粒の混合物に加工して、錠剤もしくは糖衣錠コアを得ることにより得られる。
【0149】
経口送達のために有用な他の薬学的調製物としては、ゼラチンから作製されたプッシュフィット(push−fit)カプセル剤、ならびにゼラチンおよびグリセロールもしくはソルビトールのような可塑化剤から作製されたソフトシール(soft−sealed)カプセル剤が挙げられる。このプッシュフィットカプセル剤は、顆粒形態で活性化合物を含み、これらの化合物は、必要に応じて、充填剤(例えば、ラクトース)、結合剤(例えば、澱粉)および/または滑沢剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウム)、ならびに必要に応じて安定剤と混合される。ソフトカプセル剤において、この活性化合物は、好ましくは、適切な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィン、またはポリエチレングリコール)中に溶解されるか、または懸濁される。さらに、安定剤が必要に応じて添加される。
【0150】
直腸的に使用される薬学的調製物としては、例えば、活性化合物と坐剤基剤との組み合わせからなる坐剤が挙げられる。適切な坐剤基剤としては、例えば、天然または合成のトリグリセリド、パラフィン系炭化水素、ポリエチレングリコールまたは高級アルカンである。さらに、活性化合物と基剤との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセル剤が有用である。基剤物質としては、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン系炭化水素が挙げられる。本発明の別の実施態様において、浣腸処方物が使用され、これは、必要に応じて、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボポル(carbopol)、グリセリンポリアクリレートのような粘稠性増加賦形剤(viscosity−increasing excipient)、または他のヒドロゲルを含む。
【0151】
非経口投与のために適切な処方物としては、水溶性形態(例えば、水溶性塩)の活性化合物の水溶液が挙げられる。
【0152】
さらに、適切な場合には、油性注射懸濁物において活性化合物の懸濁物が投与される。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド)が挙げられる。水性注射懸濁物としては、必要に応じて、懸濁物の粘稠性を増大する物質を含み、これらの物質としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランが挙げられる。この懸濁物は、必要に応じて安定剤を含む。
【0153】
(F.本発明の化合物の合成)
シチジンおよびウリジンのアシル誘導体は、代表的には、酸クロリドまたは酸無水物と、シチジンまたはウリジンとの反応を含むアシル化方法により合成される。
【0154】
2’,3’,5’−トリ−O−ピルビルウリジンの合成を、実施例6に示す。
【0155】
以下の実施例は、例示であり、本発明の方法および組成物を限定しない。当業者に自明の臨床的治療において通常遭遇する他の適切な改変ならびに種々の条件およびパラメーターの適合は、本発明の趣旨および範囲内である。
【実施例】
【0156】
(実施例)
(実施例1:トリアセチルウリジンでの多システムミトコンドリア障害(multisystem mitochondrial disorder)の処置)
部分的I型複合体欠損症を有し、かつ彼女の息子が発作様エピソード、運動失調、および脳症をもたらすミトコンドリア疾患であると診断された29歳の女性は、多システムミトコンドリア障害を示した。兆候および症状としては、片麻痺性片頭痛/失語性片頭痛(aphasic migraine)、大発作、神経性の腸機能障害および膀胱機能障害(1日に約4回のカテーテル処置が必要)、嚥下障害、有痛性の感覚異常を生じる自律神経および末梢神経の多発性神経障害、頻脈/徐脈症候群、および休憩に立ち止まることなく階段を上れないことを伴う貧弱な機能的能力、ならびに意識混濁(clouded sensorism)および貧弱な記憶のエピソード(数時間から数日間持続する)を伴う、認識能力の減少が挙げられる。
【0157】
0.05mg/kg/日の経口のトリアセチルウリジンでの処置を開始し、かつ少なくとも6ヶ月間の継続期間の後、この患者は、癲癇および片頭痛がなくなり;末梢神経障害に関連した彼女の感覚異常は解消した。彼女は、1週間に1回か2回のカテーテル処置を必要とするものの、ほとんどの日には自発的に回避できる。トリアセチルウリジンでの処置の6週間後、この患者は、不十分な機能的能力のために、過去2年間歩くことができなかった1マイルを完全に歩くことができた。彼女の睡眠中の徐脈、および労作中の頻脈のエピソードは、まれな程度に減少し;処置前には、単に立ち上がる際に、140bpmより大きな心拍伴った頻脈が生じていた;そしてトリアセチルウリジンの6週間後では、丘や階段を上ったときに頻脈が生じるに過ぎなくなった。彼女の意識は明瞭になり、かつ記憶障害が顕著に改善された。
【0158】
処置の間、この患者の月経周期は、4週間から2週間に短くなり、そして彼女は、エストラジオール、プロゲステロン、FSHおよびLH測定により評価さした場合、持続した黄体期を示した。数ヶ月後、彼女の月経周期は4週間に正常化した。
【0159】
この患者は、以下の点で本発明の重要な特徴を示す:1)本発明の化合物が種々の組織のミトコンドリア機能不全に関する複合型多システム疾患の実質的全ての特徴において改善を生じたこと、および2)本発明の化合物が部分的I型複合体欠損症(新規ピリミジン生合成に直接関与する電子伝達の系列の外側にあるミトコンドリア呼吸鎖の一部に影響を及ぼす)に関連する疾患状態を処置するために、思いの外有効であること。
【0160】
この患者の月経周期が一時的に短くなったことは、過剰なホルモン刺激に直面してトリアセチルウリジンによって引き起こされた卵巣機能の改善(神経内分泌系が卵巣機能不全を保管しようとしてできなかったことによる)と解釈される。
【0161】
(実施例2:難治性癲癇の処置)
11歳の男児は、4.5歳から、多発性ミトコンドリアDNA欠失症候群(multiple mitochondria DNA deletion syndrome)に明らかに起因する、難治性癲癇を有した。1997年12月に、彼の状態は悪化し、次第にひどくなる癲癇のために集中治療室に入院した。標準的な抗癲癇薬治療の集中的なレジメンを用いてすらも、この患者は、一晩に8〜10回の大発作を有した。このために、彼は、正常に通学することも、スポーツ活動に参加することもできなかった。彼はまた、上唇自動能(upper lip antomaticity)を発症した。
【0162】
経口的なトリアセチルウリジンで処置を始めた後最初の3日間(最初は0.05g/kg/日、そして徐々に0.1g/kg/日へ、次いで、数週間の過程にわたって0.24g/kg/日に増加させた)において、癲癇がなくなり、そして不随意的な唇の動きが停止した。引き続いて、特に感染エピソードの間に癲癇がいくらか再発したが、トリアセチルウリジンでの処置前より遙かに低下した頻度であった。この患者は、学校に復帰することができ、そして再びスポーツの活動に活発に参加することができた。彼の本能的欲求、認識機能、および十分な運動機能協調が、治療の間に改善され、学習能力の改善および野球のようなスポーツ活動において優れた能力を生じた。
【0163】
(実施例3:尿細管性アシドーシスの処置)
I型複合体欠損症と関連するリー症候群(Leigh’s syndrome)(亜急性壊死性脳症)を有する2歳の女児は、尿細管性アシドーシスを示し、1日あたり25mEqの炭酸水素ナトリウムの静脈内投与を必要とした。0.1g/kg/日のトリアセチルウリジンで胃内処置を始めた後の数時間以内に、彼女の尿細管性アシドーシスは解消し、そして血液pHを正常にするための補助的な炭酸水素塩はもはや必要ではなくなった。トリアセチルウリジンはまた、上昇した循環アミノ酸濃度を生じ、そしてジクロロ酢酸処置(以前は、乳酸アシドーシスを予防するために必要であった)をやめた後に、乳酸を低レベルで維持した。
【0164】
(実施例4:発達遅延の処置)
癲癇、運動失調、言語の遅れ、および脂肪不耐性、ならびにジカルボン酸酸性尿(dicarboxylic aciduria)を有する4.5歳の女児を、0.1〜0.3g/kg/日の日用量でトリアセチルウリジンを用いて処置した。このような処置により、癲癇頻度の50%減少、運動失調の改善および運動機能協調、食餌性脂肪耐性の回復、ならびに表現的言語能力の発達の加速を生じた。
【0165】
(実施例5:タキソール誘導性神経障害の予防)
末梢神経障害は、頻繁、かつしばしば、用量制限的な、そしてシスプラチンおよびタキソールのような重要な抗癌剤の副作用である。タキソールの場合では、知覚神経障害(sensory neuropathy)が、投与後数日間生じる。タキソールの作用機序は、微小管の安定化を包含し、これは、癌の処置に有用であるが、末梢神経には有害である。微小管安定化は、細胞成分の軸索輸送を損なう。ミトコンドリアは、ミトコンドリア呼吸鎖成分の発現が核転写因子により調節され得るように、細胞体とニューロン末端との間を往復する。ミトコンドリア往復の阻害の間に、核から離れたミトコンドリアは、mtDNA転写因子への不適切な曝露に起因して、ミトコンドリアゲノムによりコードされる呼吸鎖サブユニットの発現の減少を受ける。このことによって、局所的にニューロンのエネルギー不足およびミトコンドリア機能不全の他の結果を生じる。
【0166】
各10匹のマウスの2群をタキソール(腹腔内注射により連続6日間、21.6mg/kg/日)で処置した。さらなる10匹のマウス群にビヒクル単独の注射を与えた。タキソール処置マウスの群のうちの一方に、経口的にトリアセチルウリジン(4000mg/kg/日 b.i.d.)を与えた。タキソール処置を始めて9日後、尾部先端を赤外線太陽灯での集中的熱放射に曝した後のテールフリック潜伏(tail flick latency)を決定することによって、痛覚欠損を試験した。この系において、放射熱に対するテールフリック応答の遅れは、知覚神経欠損と相関する。
【0167】
【表1】

タキソール処置は、毒性の知覚神経障害の指数としての有痛性の刺激に対する応答を損なった。経口的なトリアセチルウリジン処置は、テールフリック潜伏においてタキソール誘導性変化を有意に低減した。
【0168】
(実施例6:ピルビン酸ウリジンの合成)
A.ピルビルクロリドの調製を、OttenheumおよびManの手順(Synthesis,1975,163頁)を用いて、α,α−ジクロロメチルメチルエーテルおよびピルビン酸の反応によって行った。
【0169】
B.ウリジン(3.0g,12mmol)を、減圧下でトルエン共沸により乾燥させ(3回)、次いで、DMF(20mL)およびピリジン(20mL)中に溶解した。得られた溶液を−10℃に冷却し、そして6.0mLのピルビルクロリド(上記の工程Aで生成された)を滴下した。この反応混合物を、アルゴン下で24時間室温で攪拌した。TLCによる分析(5% MeOH/CH2Cl2)によって、ウリジンの消耗が示された。この反応混合物を、乾燥するまでエバポレートし、そしてCH2Cl2と炭酸水素塩水性溶液との間に分配した。有機層を水、塩酸水溶液(pH3.0)、および水で洗浄し;硫酸ナトリウムに対して乾燥させ;濃縮し;そしてフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、5% MeOH/CH2Cl2)を用いて精製して、1.4gのピルビン酸ウリジン、または2’,3’,5’−トリ−O−ピルビルウリジンを得た。
【0170】
(実施例7:パーキンソン病(PD)およびミトコンドリア機能障害のMPTPモデルにおける経口的トリアセチルウリジンの治療的効果)
神経毒である1−メチル−4−フェニル−1’,2’,3’,6’−テトラヒドロピリジン(MPTP)はI型複合体(NADHデヒドロゲナーゼ)ミトコンドリア呼吸鎖インヒビター(これは、ドーパミン作動性細胞喪失を誘導するために使用される)である(Varastetら、Neuroscience,63:47−56,1994)。この毒素は、現在、PDの動物モデルとして広範に使用されている(Bezardら、Exp.Neurol,148:288−92,1997)。
【0171】
Taconic Farmからの雄性C57/BL6マウス(6〜9ヶ月齢、体重30〜40g)を、MPTP研究に使用した(n=7/群)。MPTP(30mg/kg i.p.)を1.5日間b.i.d.で与えた。毒素投与の2時間前かつ屠殺する前の日までに、TAUを、0.75% ヒドロキシプロピル−メチルセルロースビヒクル中、200mg TAU/ml溶液で、4g/kg経口でb.i.d.投与した。
【0172】
MPTPの注射をやめて8日後、これらのマウスを二酸化炭素により屠殺し、そして両方の側の線条体を冷却表面上で解剖した。線条体をドライアイス上で凍結した。ドパミン作動性ニューロン生存を線条体ドパミン(DA)含量により評価した。このドパミン含量を、GLP条件下で放射性酵素法(radioenzymatic method)により評価したが、DAは、以前に記載された電気的化学検出法(FriedemannおよびGerhardt,Neurobiol Aging,13:325−32,1992)。TAU処置に起因して、MPTP処置マウスにおける死亡率は減少した。コントロール+MPTPマウスの死亡率は、TAU+MPTP処置群の28.6%と比較して、71.4%であった。PN401処置の、MPTPに起因するDA含量の減少に対する神経保護効果もまた存在した。
【0173】
【表2】

MPTP(2日間、25mg/kg i.p. b.i.d.)を使用する第2の研究を行った。Taconic Farmからの雄性C57/BL6マウス(6〜9ヶ月齢、体重30〜40g)をMPTP研究に使用した(n=6/群)。MPTP(30mg/kg i.p.)を2日間b.i.d.で与えた。毒素投与の2時間前かつ屠殺する前の日までに、TAUを、0.75% ヒドロキシプロピル−メチルセルロースビヒクル中、200mg TAU/ml溶液で、4g/kg経口でb.i.d.投与した。TAUまたはビヒクルを、経口的に与えた(TAUの用量=4g/kg体重 b.i.d.)(MPTP投与前の日に開始して、8日目に終わる)。マウスを9日目に屠殺した。この研究はまた、MPTPに起因する線条体DAにおける減弱した減少により示されるように、TAUがドパミン作動性ニューロンに対する防御効果を示したことを示した。
【0174】
【表3】

(実施例8:ハンチントン病(HD)の3−ニトロプロピオン酸(3NP)モデルにおけるTAUの治療的効果)
HDは、特に線条体における進行性のニューロン喪失により特徴づけられる。HDを有する患者は、コハク酸デヒドロゲナーゼ(II型複合体)−ユビキノールオキシドレダクターゼ(III型複合体)活性の減少した活性を有する。Browne,Mitochondria&Free radials in Neurodegenerative Disease,361−380(1997)。広範に使用されるHDのモデルは、コハク酸デヒドロゲナーゼ、3−ニトロプロピオン酸(3NP)のインヒビターを利用する(Ferranteら、Mitochondria&Free Radicals in Neurodegenerative Disease,229−244,1997)。3NPは、特に線条体に損傷を誘導する(Brouilletら、J.Neurochem,60:356−9,1993)。
【0175】
雄性の6〜8ヶ月齢のSwissマウス(National Cancer Institute;NCI,Frederick,MD)を、n=8/群で、4日間毎日3NP(65mg/kg i.p.)で処置して、死亡、ニューロン細胞喪失および行動障害を誘導した。1日前かつ8日目まで毎日、TAUを、0.75% ヒドロキシプロピル−メチルセルロースビヒクル中、200mg TAU/ml溶液で、4g/kg経口でb.i.d.投与し、マウスに与えた。9日目に、マウスを10%緩衝化ホルマリンで灌流固定し、そして銀染色のために処理して、ニューロン損傷を検出した。以下に示されるように、コントロールと比較してTAUで処置したマウスにおいては、3NPに起因して死亡率が減少した。3NP+TAU群においては死亡はなかったが、ビヒクル+3NP群においては、8匹のマウスのうち3匹が死亡した。
【0176】
3NP処置マウスの行動評価付けは、研究の間の何時、何の運動障害があったか否かを決定することであった。コントロール+3NP処置マウスの88%が全体的な観察によって行動障害が示された。TAU+3NP処置マウスにおいては、わずか50%の障害の減少した発生率が見いだされた。
【0177】
銀染色を、組織サンプルの正体を盲検化して病理学者に分析させた。TAU+3NP処置マウスにおいて検出されたニューロン損傷の明瞭な兆候はなかった。しかし、コントロール+3NP処置マウスにおいては、線条体領域(尾状核/被殻領域)におけるシナプス末端の銀染色および黒質が明白であった。軸索の銀浸漬および/または支障のシナプス末端、深部中脳および/または網様体(髄質)はまた、コントロール+3NP処置マウスの80%において見いだされた。黒質は、線条体に突出し、そしてこれらの領域は、特に3NPによる損傷に弱かった。黒質および線条体に対する損傷は、TAUにより予防された。
【0178】
(実施例9:癲癇の3−ニトロプロピオン酸(3NP)モデルにおけるTAUの治療的効果)
3−ニトロプロピオン酸(3NP)は、呼吸鎖のII型複合体を阻害することにより作用するミトコンドリア毒素である;これは、ハンチングトン病の特徴に類似する脳病変を誘導するために使用される。発作はまた、癲癇およびミトコンドリア機能障害のモデルとして、3NPの使用により誘導され得る。Urbanskaら,Eur J Pharmacol,359:55−8(1998)。体重26〜40gの雄性CD−1マウス(National Center Institute,NCI,Frederick,MD)を、全体を通して用いた。マウスを5つの群に分け、そして各群の動物を異なるケージからランダムに選択して、あり得る年齢の影響を回避した。マウスを自由給餌で12時間の暗サイクルで維持した。全ての実験を明期の間、9時と16時との間の時間に行った。マウス(n=17〜20)に160mg/kg 3NPを与え、発作を起こさせた。3NPは、滅菌水(pH:7.4)中に16mgまたは18mgで作製した。3NPを0.1ml/10g体重の容量でi.p.投与した。TAUを、3NP投与する2時間前に0.75% ヒドロキシプロピル−メチルセルロースビヒクル中で4g/kgを経口投与した。発作を以前に記載した方法(RobertsおよびKeith,J Pharmacol Exp Ther,270:505−11,1994;Urbanskaら、Eur J Pharmacol,359:55−8,1998)と同様に評価した。
【0179】
行動観察を3−NPの適用後120分以内に行った。痙攣性発作応答の3つの大きな分類を認め、そして記録した:
1.間代性の動き:顔面の単収縮に付随する前肢の動き;
2.爆発的な間代性の動き;走ること、跳ぶことおよび跳び回ることを含む四肢全ての動き;
3.緊張性応答:四肢全ての硬直性屈曲および硬直性進展。
【0180】
死亡率は、3NP後120分間で評価した。
【0181】
3NPは、主に間代性発作を誘導し、何匹かのマウスは、概して死亡を生じる走り、そして跳ぶ行動を発生させ続けた。TAUは、3NPに起因する間代性発作、連続発作および死亡の発生%を減少させた。第1のエンドポイントは、間代性発作までの潜伏である。TAUは、25.0〜40.8分に間代性発作までの潜伏を増大させた。データを平均±SEMとして表す。
【0182】
【表4】

(実施例10:興奮毒のキノリン酸(QA)モデルにおけるTAUの治療的効果)
キノリン酸は、NMDAレセプターアゴニストであり、これは、ハンチングトン病および興奮毒損傷のモデルにおいて使用されてきた(Bealら,J Neurosci,11:1649−59,1991;Bealら,J Neurosci,11:147−58,1991;Ferranteら、Exp Neurol,119:46−71,1993)。これは、線条体に直接投与された場合にCNSに対して重篤な損傷を誘導し得る。線条体内QAに起因する損傷および/または死亡は、CNS病因に起因するようである。
【0183】
雄性の6〜8週齡のSwissマウス(National Cancer Institute;NCI,Frederick,MD)に、QA(n=8/群で、両方の線条体の両側に50または100nmol与えた)を処置した。1日前かつ6日目まで毎日、TAUを、0.75% ヒドロキシプロピル−メチルセルロースビヒクル中、200mg TAU/ml溶液で、4g/kg経口でb.i.d.投与し、マウスに与えた。7日目に、マウスを屠殺した。QAを、以前に記載したように(Tatterら、Neuroreport,6:1125−9,1995)、2μl容量で投与した。
【0184】
TAU処置したマウスにおいて、QAに起因する死亡が減少した。50nmolのQAを処置して7日間生存したマウスの%は、コントロールT QAにおいて64%であり、そしてTAU+QAにおいて73%であり、そして100nmolのQAで処置したマウスに関しては、コントロール+QA群においてわずか4%しか生存しなかった。それに対して、TAU+QA群においては19%が生存した。TAUはQAに起因する興奮毒に対する神経保護効果を示した。
【0185】
本発明は、好適な実施態様に関して記載されてきたが、変化および改変が当業者に見いだされることは理解される。従って、添付の特許請求の範囲は、このような等価な変化および改変の全てを包含し、このような変化および改変が請求されるように、本発明の範囲内にあることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2010−195837(P2010−195837A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138773(P2010−138773)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【分割の表示】特願2000−567085(P2000−567085)の分割
【原出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(500208704)ウェルスタット セラピューティクス コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】