説明

ミドリムシ(Euglenagracilis)由来のΔ−4−デサチュラーゼを発現する植物およびPUFA含有油

本発明は、不飽和ω-3脂肪酸の特異的製造の改良法、および、増加した数の不飽和脂肪酸、特に3個を超える二重結合を含むω-3脂肪酸を含有するトリグリセリドの製造方法に関する。Δ-4-デサチュラーゼがミドリムシから発現されることの結果としてのΔ-4二重結合を含む増加した数の脂肪酸、油または脂質を含有するトランスジェニック生物、好ましくはトランスジェニック植物、またはトランスジェニック微生物の生産が開示される。本発明はさらに、核酸配列を含む発現カセット、少なくとも1つの核酸配列または発現カセットを含むベクター、および生物に関する。また、増加した脂肪酸含量を有する不飽和脂肪酸およびトリグリセリド、ならびにその使用も開示される。脂肪酸およびトリグリセリドは、食品工業、動物栄養、化粧品、および医薬品における複数の用途に用いられ、そして、遊離飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸を、または飽和もしくは不飽和脂肪酸を増加した含量で有するトリグリセリドを用いるかどうかによって多くの多様な用途に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ω-3脂肪酸を特異的に製造する改良法、および増加した含量の不飽和脂肪酸、特に3個を超える二重結合を有するω-3脂肪酸を有するトリグリセリドの製造方法に関する。本発明は、ミドリムシ(Euglena gracilis)由来のΔ-4-デサチュラーゼの発現による、Δ-4二重結合を有する脂肪酸、油または脂質を増加した含量で有するトランスジェニック生物、好ましくはトランスジェニック植物またはトランスジェニック微生物の作出に関する。
【0002】
本発明はさらに、核酸配列を含んでなる発現カセット、少なくとも1つの核酸配列または1つの発現カセットを含んでなるベクターおよび生物に関する。本発明はさらに、不飽和脂肪酸、および不飽和脂肪酸を増加した含量で有するトリグリセリド、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
脂肪酸およびトリグリセリドは食品工業において、ならびに動物栄養、化粧品、および薬物の分野で多数の用途を有している。それらが遊離飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、あるいは増加した含量の飽和または不飽和脂肪酸を有するトリグリセリドであるかに依存して、それらは多様な用途に好適である。
【0004】
エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DPA)などの多価不飽和長鎖ω3-脂肪酸は、子供の脳の発達、眼の機能性、ホルモンおよびその他のシグナル物質の合成、ならびに、心血管障害、癌および糖尿病の予防などの側面を含むそれらの健康における種々の役割のために、ヒトの食事の重要な成分である(Poulos, A Lipids 30:1-14, 1995; Horrocks, LAおよびYeo YK Pharmacol Res 40:211-225, 1999)。こういった理由で多価不飽和長鎖脂肪酸の製造の必要がある。
【0005】
よって、例えば、多価不飽和脂肪酸は栄養価を高めるため、また、乳児の支障のない発達のために乳児用食品に添加される。種々の脂肪酸およびトリグリセリドは主として、モルティエレラ属(Mortierella)などの微生物、またはダイズ、アブラナ、ヒマワリおよびその他などの油生産植物から得られ、これらの場合、通常それらはトリアシルグリセリドの形で得られる。しかし、高等植物では長鎖不飽和脂肪酸は生じない。長鎖脂肪酸はほとんどが魚油から、および適当な藻類(例えば、ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium))または真菌類(例えば、モルティエレラ属)の発酵から得られる。遊離脂肪酸は有利には加水分解により製造される。
【0006】
使用目的にもよるが飽和または不飽和脂肪酸を有する油が好ましく、従って、ヒト食物には不飽和脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸を有する脂質が好ましく、これはそれらが血中コレステロールレベルに、従って、心疾患の可能性に有益な作用を持つからである。それらは種々の治療食または医薬に用いられる。
【0007】
それらの有益な特性のため、不飽和脂肪酸の含量を変更した種々の生物における油生産のために、脂肪酸またはトリグリセリドの合成に関与する利用可能な遺伝子を調製する試みはこれまでに数多くある。つまり、WO91/13972およびその対応米国特許出願はΔ-9-デサチュラーゼを記載している。WO93/11245はΔ-15-デサチュラーゼを特許請求し、WO94/11516はΔ-12-デサチュラーゼを特許請求している。さらなるデサチュラーゼが、例えば、EP-A-0550162、WO94/18337、WO97/30582、WO97/21340、WO95/18222、EP-A-0794250、Stukeyら, J. Biol. Chem., 265, 1990: 20144-20149、Wadaら, Nature 347, 1990: 200-203またはHuangら, Lipids 34, 1999: 649-659に記載されている。しかしながら、種々のデサチュラーゼの生化学的特性解析は、この酵素を膜結合タンパク質として単離および同定するのに多大な困難を伴うことから、これまでのところ不十分なものでしかない(McKeonら, Methods in Enzymol. 71, 1981: 12141-12147、Wangら, Plant Physiol. Biochem., 26, 1988: 777-792)。膜結合デサチュラーゼは通常、好適な生物に導入し、次にそれを前駆体および生成物分析により酵素活性に関して調べることによって、同定する。Δ-6-デサチュラーゼはWO93/06712、米国特許第5,614,393号、米国特許第5614393号、WO96/21022、WO00/21557およびWO99/27111に記載され、また、トランスジェニック生物における生産のための使用がWO98/46763、WO/9846764、WO98/46765に記載されている。またこれに関しては、同様にWO99/64616またはWO98/46776において種々のデサチュラーゼの発現、および多価不飽和脂肪酸の形成が記載され、特許請求されている。
【0008】
ドコサヘキサエン酸(DHA)の合成に関しては種々の合成経路が示唆されている(図1)。例えば、DHAはビブリオ(Vibrio)種またはシェワネラ(Shewanella)種などの海洋細菌においてポリケチド経路により生産されている(Yu, R.ら Lipids 35:1061-1064, 2000; Takeyama, H.ら Microbiology 143:2725-2731, 1197)。
【0009】
代替的戦略は、デサチュラーゼとエロンガーゼの活性を切り替えることにより行う(Zank, T.K.ら Plant Journal 31:255-268, 2002; Sakuradani, E.ら Gene 238:445-453, 1999)。この場合の最終工程はΔ4-デサチュラーゼによるC4-C5位への二重結合の導入である。これに関してはSprecherら (Voss, A.ら Journal of Biological Chemistry 266:19995-20000, 1991)が、DHAはまた、ラット肝臓においてΔ-4-デサチュラーゼとは無関係に合成されうることを実証している。しかしながら、いわゆるSprecherの合成経路(図1参照)は、α-酸化の基礎にある調節機構が未知であるため、植物および微生物における生産には適していない。
【0010】
種々のΔ4-デサチュラーゼがWO2002/26946およびWO2002/090493に記載されている。
【0011】
デサチュラーゼの発現効率およびそれらの多価不飽和脂肪酸の形成に及ぼす影響を考えると、これまでに記載されているような(上記参照)対応するデサチュラーゼの発現によっては少量のΔ-4-不飽和脂肪酸/脂質が得られたに過ぎないことに注目すべきである。さらに、グリセロ脂質における、栄養生理学的観点で重要なsn-2位に対する特異性は上述の酵素では記載されていない(Hunter, JE, Lipids 36(7):655-668, 2001)。
【0012】
従って、不飽和脂肪酸の生合成に関与し、望ましくない副生成物を生成することなく特定の脂肪酸を工業的規模で特異的に生産することを可能にする酵素をコードする、新規かつよりよく適合した遺伝子がやはり大いに必要である。特に2つの特徴が生合成遺伝子の選択において特に重要である。第一には、最大含量の多価不飽和脂肪酸を得るための改良された方法がなお必要とされている。第二には、用いる酵素は特定の基質に高い特異性を持つべきであり、というのも、栄養使用における有害作用またはこれまで研究されていない生理学的作用を有する可能性のある望ましくない副生成物が生じないことが理想的であるためである。
【0013】
従って、ヒト食物および動物飼料において特異的に製造された多価不飽和脂肪酸を増加させることを可能にするために、可能な限り特異的であって脂肪酸生合成に関与する酵素を用いて、これらの多価不飽和脂肪酸を生産する簡単でコスト効率のよい方法が大いに必要とされている。
【発明の開示】
【0014】
よって、本発明の目的は、生物、有利には真核生物、好ましくは植物における多価不飽和脂肪酸の生産のためにこれら多価不飽和脂肪酸の合成に可能な限り特異的に関与する新規な核酸を単離することであった。この目的は、本発明の、
a)配列番号1で示される配列を有する核酸配列、
b)遺伝コードの縮重の結果として、配列番号1に含まれるコード配列に由来し得る核酸配列、または
c)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、そして配列番号2とアミノ酸レベルで少なくとも40%の相同性を有し、かつ、Δ-4-デサチュラーゼ活性を有する、配列番号1で示される核酸配列の誘導体、
の群から選択される、Δ-4-デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸配列によって、達成された。
【0015】
驚くことに、ミドリムシ由来のΔ4-デサチュラーゼが、異種系で発現された場合にドコサペンタエン酸(DPA)からドコサヘキサエン酸(DHA)への変換に特に特異的であることが見出された。すなわち、植物または微生物においてドコサヘキサエン酸を生産することができ、この場合、発見された酵素の特異性は望まない副生成物の生産を大幅に低減する。さらに、この脂肪酸のC4-C5位における二重結合は、C7-C8位にすでに二重結合が存在する場合にのみ導入される。よって、発見された酵素はDPAからのDHAの合成のみならず、事実上限られた程度でしか生じないか、または全く生じない特定の脂肪酸の合成にも使用できる。このような脂肪酸の例としては、16:2 Δ4,Δ7 または16:3 Δ4,Δ7,Δ10,Δ13が挙げられる。
【0016】
これは、向上した特異性および活性に加えて、発見されたΔ4-デサチュラーゼを先行技術の酵素から有利に区別するものである。
【0017】
これまでに記載されているΔ4-デサチュラーゼ遺伝子は低い活性および特異性しか持っていないことから、本発明のさらなる目的は、脂肪種子の種子に、多価不飽和長鎖脂肪酸の合成のための特異的デサチュラーゼ酵素を導入すること、および望ましくない副生成物の生産を回避することである。この目的は上記で開示した核酸をクローニングすることにより達成された。
【0018】
発見されたΔ-4-デサチュラーゼはこれまでに記載されているΔ-4-デサチュラーゼとは、実質的に異なるヌクレオチドおよびアミノ酸配列により異なっている。ユーグレナ(Euglena)配列はヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)配列(WO2002/26946)に対してアミノ酸レベルで35%の類似性しか示さない。図2は発見されたユーグレナ配列とヤブレツボカビ属由来の配列との配列比較を示し、図3はGAPアライメントを示している。
【0019】
本発明の目的では「Δ-4-デサチュラーゼ」とは、脂肪酸、有利には脂肪酸鎖の7位に二重結合を有する脂肪酸の脱飽和に関与するタンパク質、およびそれらのホモログ、誘導体または類似体を含む。
【0020】
さらなる実施形態では、本発明の配列番号1で示される核酸分子の誘導体は、配列番号2の完全アミノ酸配列と少なくとも40%、有利には約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、より好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%、最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性(=同一性)を有するタンパク質をコードする。この相同性はアミノ酸または核酸配列領域全体にわたって計算されたものである。GCGソフトウエアパッケージ[Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711 (1991)]に含まれている、Pile Upプログラム(J. Mol. Evolution., 25, 351-360, 1987、Higginsら, CABIOS, 5 1989: 151-153)またはGapおよびBestFitプログラム[NeedlemanおよびWunsch (J. Mol. Biol. 48; 443-453 (1970)ならびにSmithおよびWaterman (Adv. Appl. Math. 2; 482-489 (1981)]を配列比較に用いた。上記でパーセントで示された配列相同性は、次のような設定:ギャップ加重:8、長さ加重:2を用いて、配列領域全体に対してBestFitプログラムを用いて見出されたものである。
【0021】
本発明はさらに、遺伝コードの縮重に基づいて、配列番号1で示されたヌクレオチド配列の1つ(およびその一部)とは異なり、従って、配列番号1で示されるヌクレオチド配列によってコードされているものと同じΔ-4-デサチュラーゼをコードしている核酸分子も含む。
【0022】
配列番号1で示されるΔ-4-デサチュラーゼヌクレオチド配列に加えて、当業者ならば、集団内に、Δ-4-デサチュラーゼのアミノ酸配列に変更をもたらすDNA配列多型が存在し得ることが分かるであろう。Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子におけるこのような遺伝子多型は、自然変異により、集団内の個体間に存在し得る。このよう自然変異体はΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列において1〜5%の変異を自然に生じる。自然変異の結果であって、Δ-4-デサチュラーゼの機能的活性を変化させない、Δ-4-デサチュラーゼにおけるこれらのヌクレオチド変異およびそれから生じるアミノ酸多型の各々および全ては本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0023】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)とは以下、二重結合を有する二価不飽和または多価不飽和脂肪酸を意味する。これらの二重結合は共役していても共役していなくてもよい。
【0024】
本発明のΔ-4-デサチュラーゼ酵素は、有利にはグリセロ脂質の脂肪酸残基のC4-C5位にシス二重結合を導入する(配列番号1および2参照)。この酵素はさらに、グリセロ脂質の脂肪酸残基のC4-C5位にもっぱらシス二重結合を有利に導入するΔ-4-デサチュラーゼ活性を有する。配列番号1および2で特定される配列を有する酵素もまたこの活性を有する。配列番号1および2で示される配列は一官能性Δ-4-デサチュラーゼを含む。
【0025】
本発明の核酸配列またはその断片は有利には、相同性スクリーニングによりさらにゲノム配列を単離するために使用できる。
【0026】
該誘導体は、例えば、特にコケなどの植物、渦鞭毛虫または真菌のような他の真核生物から単離することができる。
【0027】
対立遺伝子変異体は、特に、配列番号1で示される配列からヌクレオチドの欠失、挿入または置換によって得られる機能的変異体であって、それから誘導合成されるタンパク質の酵素活性が保持されているものを含む。
【0028】
このようなDNA配列は例えば、配列番号1で示されるDNA配列またはこれらの配列の一部から出発し、例えば上述のものなどの他の真核生物から、通常のハイブリダイゼーション法またはPCR技術を用いて単離することができる。これらのDNA配列は記載されている配列と標準的な条件下でハイブリダイズする。例えば当業者に公知の方法で他のデサチュラーゼ遺伝子と比較することにより見出し得る保存領域のハイブリダイゼーション用短オリゴヌクレオチドとして使用することが好ましい。有利にはヒスチジンボックス配列が用いられる。しかしながら、ハイブリダイゼーションに本発明の核酸のより長い断片または完全配列を用いることもできる。これらの標準的条件は、用いる核酸がオリゴヌクレオチドか、より長い断片か、または完全配列かによって、あるいはハイブリダイゼーションにDNAかRNAかいずれのタイプの核酸を用いるかによって異なる。よって、例えば、DNA:DNAハイブリッドの融点は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドよりも約10℃低い。
【0029】
標準的な条件は、例えば、濃度0.1〜5×SSC (1×SSC=0.15M NaCl、15mMクエン酸ナトリウム, pH7.2)を加えた水性バッファー溶液中で42〜58℃の核酸温度、またはさらに、例えば5×SSC、50%ホルムアミド中42℃などの50%ホルムアミド存在下によって決まることを意味する。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は有利には0.1×SSCにて、約20℃〜45℃、好ましくは約30℃〜45℃の温度である。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は有利には0.1×SSCにて約30℃〜55℃、好ましくは約45℃〜55℃の温度である。ハイブリダイゼーションに関して示したこれらの温度は、ホルムアミドの不在下、約100ヌクレオチド長でG+C含量が50%である核酸を例として算出した融解温度である。DNAハイブリダイゼーションに関する実験条件は、例えばSambrookら, “Molecular Cloning” Cold Spring Harbor Laboratory, 1989などの、関連する遺伝学の教科書に記載されており、例えば核酸の長さ、ハイブリッドの種類、またはG+C含量などに応じて当業者に公知の式によって算出することができる。ハイブリダイゼーションに関するさらなる情報は以下の教科書:Ausubelら(編), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; HamesおよびHiggins(編), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown (編) 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxfordで見出すことができる。
【0030】
誘導体はさらに、配列番号1の配列のホモログ、例えば真核生物のホモログ、末端切断配列、コードおよび非コードDNA配列の一本鎖DNA、またはコードおよび非コードDNA配列のRNAを意味する。
【0031】
配列番号1の配列のホモログはさらに、例えばプロモーター変異体などの誘導体を意味する。これらの変異体は、プロモーターの機能性または活性を損なうことなく、1以上のヌクレオチド交換により、挿入および/または欠失により、改変することができる。さらに、これらのプロモーターはそれらの配列の改変により増強された活性を有することができ、あるいはそのプロモーターを異種生物由来のものであっても、より有効なプロモーターで完全に置き換えることもできる。
【0032】
誘導体はまた、有利には、開始コドンの手前-1〜-2000の領域のそのヌクレオチド配列が、遺伝子発現および/またはタンパク質発現が変更されるように、好ましくは増強されるように、改変されている変異体を意味する。さらに、誘導体はまた、3’末端で改変されている変異体を意味する。
【0033】
誘導体はまた、本発明のタンパク質のタンパク質生合成を阻害するために使用できるアンチセンスDNAを意味する。これらのアンチセンスDNAは酵素活性を持たない誘導体などの本発明の非機能的誘導体の中のものである。非機能的誘導体を作製するための当業者に公知のさらなる方法としては、いわゆる共抑制、すなわちリボザイムとイントロンの使用がある。リボザイムは、それらが相補性を示すmRNAなどの一本鎖核酸を切断することができるリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性のRNA分子である。従って、mRNA転写物はこれらのリボザイムを用いて触媒的に切断することができ(HaselhoffおよびGerlach, Nature, 334, 1988: 585-591)、従って、このmRNAの翻訳を抑制することができる。このようなリボザイムはそれらの働きに対して特異的に適合させることができる(米国特許第4,987,071号、同第5,116,742号、およびBartelら, Science 261, 1993: 1411-1418)。よって、アンチセンスDNAを用いて、増加した含量の飽和脂肪酸を有する脂肪酸、脂質または油を生産することができる。
【0034】
Δ-4-デサチュラーゼをコードする本発明の核酸配列は合成法により製造することもできるし、天然から得ることもできるし、あるいは合成DNA成分と天然DNA成分の混合物を含んでもよく、種々の生物由来の種々の異種のΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子セグメントからなってもよい。一般に、合成ヌクレオチド配列は、対応する宿主生物、例えば植物が好むコドンを用いて作製される。通常、これにより、異種遺伝子の最適な発現が得られる。植物が好むこれらのコドンは、対象とするほとんどの植物種で発現される最大タンパク質頻度を示すコドンから決定することができる。コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に関する一例がWadaら (1992) Nucleic Acids Res. 20:2111-2118)に示されている。このような実験の実施は標準的な方法によって行うことができ、当業者には公知である。
【0035】
Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子をコードする機能的に等価な配列は、ヌクレオチド配列が異なるにもかかわらず、所望の機能、すなわち、タンパク質の酵素活性および特異的選択性をなお有する本発明の誘導体である。よって、機能的等価物には、本明細書に記載の配列の天然に存在する変異体、および人工物、例えば化学合成により得られたもの、植物のコドン使用に適合させた人工ヌクレオチド配列を含む。
【0036】
さらに人工DNA配列も、上記のようにそれらが所望の特性、例えば作物植物中でΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子を過剰発現させることにより植物において脂肪酸、油または脂質におけるΔ-4二重結合の含量を増加させる特性を付与する限り、適している。このような人工DNA配列は、例えば構築されるタンパク質の分子モデリングによるバックトランスレーションによって、Δ-4-デサチュラーゼ活性を有し得るか、またはin vitro選択によって見出すことができる。DNA配列を改変または改良するためのin vitro DNA進化のための可能性のある技術は、Patten, P.A.ら, Current Opinion in Biotechnology 8, 724-733 (1997)またはMoore, J.C.ら, Journal of Molecular Biology 272, 336-347 (1997)に記載されている。宿主植物に特異的なコドン使用によりポリペプチド配列のバックトランスレーションによって得られるコードDNA配列は特に好適である。この特異的コドン使用は、植物遺伝学の方法をよく知る当業者ならば、形質転換する植物の他の既知遺伝子のコンピューター解析により容易に見出すことができる。
【0037】
さらなる好適な等価の核酸配列として挙げるべき配列は、Δ-4-デサチュラーゼポリペプチドまたはその機能的に等価な一部が融合タンパク質の成分であるような融合タンパク質をコードするものである。融合タンパク質の第二の部分は、例えば、それによりΔ-4-デサチュラーゼ発現を検出できる酵素活性または抗原ポリペプチド配列を有するさらなるポリペプチドであり得る(例えば、mycタグまたはhisタグ)。しかしながら、それは好ましくは、所望の作用部位にΔ-4-デサチュラーゼタンパク質を導く調節タンパク質配列、例えばERのシグナル配列である。
【0038】
本発明の単離された核酸配列は有利には、単子葉植物または双子葉植物などの植物に由来するものである。これらの核酸配列は好ましくは、ユートレプティア目(Eutreptiales)、ミドリムシ目(Euglenales)、ラブドモナス目(Rhabdomonadales)、スフェノモナス目(Sphenomonadales)、ヘテロネマ目(Heteronematales) またはユーグレナモルファ目(Euglenamorphales)などのユーグレナ藻綱に由来するものであり、特に有利にはその配列はミドリムシ(Euglena gracilis)、アスタシア・ロンガ(Astasia longa)、カウキネア・クワルタナ(Khawkinea quartana)、ファカス・スムルコウスキアヌス(Phacus smulkowskianus)、レポキンクリス・オバム(Lepocinclis ovum)、レポキンクリス・オバタ(Lepocinclis ovata)、ユートレプティア・ビリディス(Eutreptia viridis)、ディスティグマ・プロテウス(Distigma proteus)、ディスティグマ・カルバタム(Distigma curvatum)、ラブドモナス・インターメディア(Rhabdomonas intermedia)、ラブドモナス・ギバ(Rhabdomonas gibba)、ラブドモナス・スピラリス(Rhabdomonas spiralis)、ジャイロパイネ・レフェブレイ(Gyropaigne lefevrei)、ラブドモナス・インカルバ(Rhabdomonas incurva)、ペラネマ・トリコフォラム(Peranema trichophorum)またはペタロモナス・カンツシニ(Petalomonas cantuscygni)の属および種に由来するものであり、いっそう特に有利にはそれらはミドリムシに由来するものである。
【0039】
これらのΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子は本発明の方法においてさらなる脂肪酸生合成遺伝子と組み合わせることが可能であり、有利である。このような遺伝子の例としては、アシルトランスフェラーゼ、さらなるデサチュラーゼまたはエロンガーゼが挙げられる。例えば、還元性等価物の取り込みまたは遊離が可能なNADH-シトクロムB5レダクターゼとの組合せはin vivo、および特にin vitro合成に有利である。
【0040】
本発明のアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列、または、配列番号2で示されるタンパク質の酵素活性を保持するかまたはごくわずかな低下だけを伴う、1以上のアミノ酸残基の置換、逆転、挿入または欠失によりその配列から得られる配列を含んでなるタンパク質を意味する。ごくわずかな低下とは、最初の酵素の酵素活性の少なくとも10%、好ましくは20%、特に好ましくは30%の酵素活性をなお有する全ての酵素を意味する。これに関して、例えば特定のアミノ酸は、同様の物理化学的特性(嵩、塩基度、疎水性など)を有するアミノ酸により置換することができる。例えば、アルギニン残基はリジン残基で、バリン残基はイソロイシン残基で、またはアスパラギン酸残基はグルタミン酸残基で置換される。しかしながら、また、それらの配列においては1以上のアミノ酸が転位、付加または欠失させることも可能であり、あるいは、それら複数の手段を一緒に組み合わせることもできる。
【0041】
誘導体はまた、所望の機能をなお示し、すなわちそれらの酵素活性および基質選択性がごくわずかにしか低下しない、Δ-4-デサチュラーゼをコードする最初の単離配列の天然突然変異または人工突然変異も含む機能的等価物も意味する。突然変異は1以上のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、転位、または挿入を含む。よって、例えば、本発明はまた、Δ-4-デサチュラーゼヌクレオチド配列の改変によって得られるヌクレオチド配列を含む。このような改変の目的は、例えば、それらに含まれるコード配列のさらなる局在化、またはさらなる制限酵素切断部位の挿入であり得る。
【0042】
機能的等価物はまた、最初の遺伝子または遺伝子断片と比較するとその機能が弱められている(=ごくわずかに低下している)かまたは増強されている(=最初の酵素の活性より高い酵素活性、すなわち、その活性が100%より高く、好ましくは110%より高く、特に好ましくは130%より高い)変異体である。
【0043】
この核酸配列はさらに、例えば、有利にはDNAまたはcDNA配列であってもよい。本発明の発現カセットへ挿入するのに好適なコード配列は、例えば、上記の配列を有するΔ-4-デサチュラーゼをコードする配列であって、かつ、特に少なくとも4つの二重結合を有するω3脂肪酸が生産される場合にΔ-4位に二重結合を有する脂肪酸、油または脂質を過剰産生する能力を宿主に付与するものがある。これらの配列は同種起源であっても異種起源であってもよい。
【0044】
本発明の発現カセット(=核酸構築物または断片)は、遺伝コードの結果として配列番号1に特定される配列、および/または有利には遺伝子発現を増強するために宿主細胞内でコード配列の発現を制御する1以上の調節シグナルに機能的に連結されたその機能的または非機能的誘導体を意味する。これらの調節配列は遺伝子およびタンパク質発現の標的化発現を可能とするよう意図されている。これは、例えば、宿主生物に依存して、その遺伝子が誘導後にだけ発現および/または過剰発現されるか、またはすぐに発現および/または過剰発現されることを意味し得る。例えば、これらの調節配列は、インデューサーまたはレプレッサーが結合し、それによりその核酸の発現を調節する配列である。これらの新規な調節配列に加えて、またはこれらの配列の代わりに、これらの配列の天然の調節が実際の構造遺伝子の手前にまだ存在していてもよく、適当であれば、天然の調節のスイッチが切られ、遺伝子の発現が増強されるように遺伝的に改変されていてもよい。しかしながら、この遺伝子構築物はまた、より単純な構造であってもよく、すなわちそのことは、その核酸配列またはその誘導体の手前に追加的な調節シグナルが挿入されておらず、その調節を伴う天然プロモーターが欠失していないことを意味する。その代わりに、天然の調節配列は、調節がこれ以上起こらないように、かつ/または遺伝子発現が増強されるように変異していてもよい。これらの改変プロモーターはまた部分配列(=本発明の核酸配列の一部を有するプロモーター)の形態で配置されてもよいし、活性を増強するため天然遺伝子の手前に単独で存在してもよい。この遺伝子構築物はさらに、プロモーターに機能的に連結された1以上の、いわゆるエンハンサー配列をも含むのが有利であり、これにより核酸配列の発現の増強が可能となる。また、さらなる調節エレメントまたはターミネーターなど、そのDNA配列の3’末端に有利なさらなる配列を挿入することもできる。このΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子は発現カセット(=遺伝子構築物)中に1以上のコピーとして存在していてよい。
【0045】
これらの調節配列または調節因子はさらに上記のように、挿入された遺伝子の遺伝子発現に正の影響を及ぼし、従って、増強することが有利である。よって、調節エレメントの増強は、プロモーターおよび/またはエンハンサーなどの強力な転写シグナルを用いることにより転写レベルで生じることが有利である。しかしながら、さらに、例えばmRNAの安定性を向上させることで翻訳を増強することもできる。
【0046】
この発現カセットにおいて好適なプロモーターは、生物、有利には植物または真菌において外来遺伝子の発現を制御できる原則として全てのプロモーターである。特に植物プロモーター、または植物ウイルスに由来するプロモーターを用いるのが有利である。本発明の方法に有利な調節配列は例えば、cos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq-、T7、T5、T3、gal、trc、ara、SP6、λ-PRなどのプロモーターに、またはグラム陰性菌で有利に用いられるλ-PLプロモーターに、存在する。有利なさらなる調節配列としては、例えば、グラム陽性プロモーターamyおよびSPO2に、または酵母もしくは真菌プロモーターADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHに、またはCaMV/35S [Franckら, Cell 21(1980) 285-294]、SSU、OCS、lib4、STLS1、B33、nos(=ノパリンシンターゼプロモーター)などの植物プロモーターに、またはユビキチンプロモーターに、存在する。発現カセットはまた、生物、有利には植物において、外来Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子の発現を特定の時点で制御できるようにする化学的に誘導可能なプロモーターを含んでもよい。このような有利な植物プロモーターの例としては、PRP1プロモーター[Wardら, Plant.Mol. Biol.22(1993), 361-366]、ベンゼンスルホンアミド誘導型プロモーター(EP388186)、テトラサイクリン誘導型プロモーター(Gatzら, (1992) Plant J. 2,397-404)、サリチル酸誘導型プロモーター(WO95/19443)、アブシジン酸誘導型プロモーター(EP335528)およびエタノールまたはシクロヘキサノン誘導型プロモーター(WO93/21334)が挙げられる。さらなる植物プロモーターとしては、例えば、ジャガイモサイトゾル型FBPアーゼのプロモーター、ジャガイモST-LSIプロモーター(Stockhausら, EMBO J. 8 (1989) 2445-245)、ダイズ(Glycine max)由来のホスホリボシルピロリン酸アミドトランスフェラーゼプロモーター(Genbankアクセッション番号U87999も参照)またはEP249676のような根瘤特異的プロモーターが有利に使用できる。有利な植物プロモーターは特に、脂肪酸またはその前駆体の生合成が起こる組織または植物部分/器官、例えば内胚乳または発達中の胚での発現を保証するものである。例えばUSPプロモーターまたはその誘導体、LEB4プロモーター、ファセオリンプロモーターまたはナピンプロモーターなど、種子特異的な発現を保証する有利なプロモーターも特に挙げておくべきであろう。本発明で言及する特に有利なUSPプロモーターまたはその誘導体は、種子発達中の極初期の遺伝子発現を媒介する(Baeumleinら, Mol Gen Genet, 1991, 225 (3): 459-67)。単子葉および双子葉植物に使用できる有利なさらなる種子特異的プロモーターとしては、例示したものと同様に、アブラナ由来のナピン遺伝子プロモーター(米国特許第5,608,152号)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)由来のオレオシンプロモーター(WO98/45461)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)由来のファセオリンプロモーター(米国特許第5,504,200号)、アブラナ属Bce4プロモーター(WO91/13980)またはレグミンB4プロモーター(LeB4, Baeumleinら, Plant J., 2, 2, 1992: 233-239)などの双子葉植物に好適なプロモーター、あるいはオオムギlpt2またはlpt1遺伝子のプロモーター(WO95/15389およびWO95/23230)、またはWO99/16890に記載のオオムギ・ホルデイン遺伝子、イネ・グルテリン遺伝子、イネ・オリジン遺伝子、イネ・プロラミン遺伝子、コムギ・グリアジン遺伝子、コムギ・グルテリン遺伝子、トウモロコシ・ゼイン遺伝子、オートムギ・グルテリン遺伝子、ソルガム・カシリン遺伝子またはライムギ・セカリン遺伝子のプロモーターなど、単子葉植物に好適なプロモーターがある。
【0047】
さらに、特に好ましいプロモーターは、例えば脂肪酸、油および脂質またはそれらの前駆体の生合成が起こる組織または植物部分での発現を保証するものである。種子特異的発現を保証するプロモーターを特に挙げておくべきであろう。また、アブラナ由来のナピン遺伝子のプロモーター(米国特許第5,608,152号)、ソラマメ(Vicia faba)由来のUSPプロモーター(USP=未知の種子タンパク質, Baeumleinら, Mol Gen Genet, 1991, 225 (3): 459-67)、シロイヌナズナ由来のオレオシン遺伝子(WO98/45461)、ファセオリンプロモーター(米国特許第5,504,200号)、またはレグミンB4遺伝子のプロモーター(LeB4; Baeumleinら, 1992, Plant Journal, 2 (2): 233-9)も挙げておくべきであろう。さらに、単子葉植物において種子特異的な発現を媒介するオオムギlpt2またはlpt1遺伝子のもの(WO95/15389およびWO95/23230)などのプロモーターも挙げておくべきであろう。
【0048】
この発現カセット(=遺伝子構築物、核酸構築物)は、上記のように、生物に導入するさらなる遺伝子を含んでもよい。これらの遺伝子はΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子と別の調節下にあっても、同じ調節領域下にあってもよい。これらの遺伝子は、例えばさらなる生合成遺伝子、有利には、生合成の増強を可能にする、脂肪酸または脂質代謝の生合成遺伝子などの脂肪酸生合成遺伝子であり、アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、アシル-ACP[=アシル担体タンパク質]デサチュラーゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、アシル-CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、アセチル-補酵素Aカルボキシラーゼ、アシル-補酵素Aオキシダーゼ、脂肪酸デサチュラーゼ、脂肪酸アセチレナーゼ、リポキシゲナーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、アレンオキシドシンターゼ、ヒドロペルオキシドリアーゼまたは脂肪酸エロンガーゼの群から選択される。例としては、Δ-15-,Δ-12-,Δ-9-,Δ-6-,Δ-5-デサチュラーゼ、β-ケトアシルレダクターゼ、β-ケトアシルシンターゼ、エロンガーゼまたは種々のヒドロキシラーゼおよびアシル-ACPチオエステラーゼの遺伝子が挙げられる。この核酸構築物においてはデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子を用いるのが有利である。この構築物では、Δ-4-デサチュラーゼ、Δ-5-デサチュラーゼ、Δ-6-デサチュラーゼ、Δ-8-デサチュラーゼ、Δ-9-デサチュラーゼ、Δ-12-デサチュラーゼ、Δ-5-エロンガーゼ、Δ-6-エロンガーゼまたはΔ-9-エロンガーゼの群から選択される遺伝子を用いるのが特に有利である。
【0049】
また、原則的に、本発明の発現カセットおよび以下に記載する本発明の方法に関して上記したもののような、それらの調節配列を有する全ての天然プロモーターが使用可能である。さらに合成プロモーターの使用も可能であり、有利である。
【0050】
発現カセットの作製に際しては、正しい方向にうまく読め、かつ、正しい読み枠を備えたヌクレオチド配列を得るために種々のDNA断片を操作することができる。DNA断片(=本発明の核酸)を互いに連結するために、これらの断片にアダプターまたはリンカーを付着させることもできる。
【0051】
好都合には、プロモーターおよびターミネーター領域は、この配列を挿入するための1以上の制限部位を含んでなるリンカーまたはポリリンカーを用いて転写方向に提供することができる。このリンカーは通常、1〜10、ほとんどの場合には1〜8、好ましくは2〜6の制限部位を有する。このリンカーは一般に、調節領域内の100bp未満、多くの場合60bp未満であるが、少なくとも5bpの大きさを有する。プロモーターは宿主生物、例えば植物宿主にとって天然のものまたは同種および異種のもののいずれであってもよい。発現カセットは5’-3’転写方向に、プロモーター、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子をコードするDNA配列 、および転写終結領域を含んでなる。種々の終結領域は所望により相互交換可能である。
【0052】
さらなる可能性として、適当な制限切断部位を提供するか、または余分なDNAまたは制限切断部位を欠失させる操作を用いることがある。挿入、欠失または置換、例えばトランジションおよびトランスバージョンなどを考慮すれば、in vitro突然変異誘発、プライマー修復、制限処理、ライゲーションの使用が可能である。例えば制限処理、平滑末端にするためのオーバーハングの削り込み(chewing back)または充填などの好適な操作では、ライゲーションのためにそれら断片の相補末端を提供することができる。
【0053】
有利な高発現にとっては、とりわけ、特異的ER保持シグナルSEKDEL(Schouten, A.ら, Plant Mol. Biol. 30 (1996), 781-792)を結合させることが重要である場合があり、それにより平均発現レベルが3倍または4倍となる。また、そのカセットの構築のため、天然ではERに局在する植物および動物タンパク質と会合して存在する他の保持シグナルを用いることもできる。
【0054】
好ましいポリアデニル化シグナルとしては、植物ポリアデニル化シグナルがあり、好ましくは、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のT-DNAポリアデニル化シグナルに本質的に対応するもの、特に、TiプラスミドpTiACH5(Gielenら, EMBO J.3 (1984), 835 ff)のT-DNAの遺伝子3(オクトピンシンターゼ)のものまたは適当な機能的等価物がある。
【0055】
発現カセットは、好適なプロモーターを好適なΔ-4-デサチュラーゼDNA配列に、そしてポリアデニル化シグナルに、例えばT. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)、およびT.J. Silhavy, M.L. BermanおよびL.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)およびAusubel, F.M.ら, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1987)に記載されているような通常の組換えおよびクローニング技術によって、融合させることより作製される。
【0056】
発現カセットの作製に際しては、正しい方向にうまく読め、かつ正しい読み枠を備えたヌクレオチド配列を得るように、種々のDNA断片を操作することができる。DNA断片を互いに連結するために、これらの断片にアダプターまたはリンカーを付着させてもよい。
【0057】
好都合には、プロモーターおよびターミネーター領域は、この配列を挿入するための1以上の制限部位を含んでなるリンカーまたはポリリンカーを用いて転写方向に提供することができる。このリンカーは通常、1〜10、ほとんどの場合には1〜8、好ましくは2〜6の制限部位を有する。このリンカーは一般に、調節領域内の100bp未満、多くの場合60bp未満であるが、少なくとも5bpの大きさを有する。プロモーターは宿主生物、例えば宿主植物にとって天然のものまたは同種および異種のもののいずれであってもよい。発現カセットは5’-3’転写方向に、プロモーター、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子をコードするDNA配列 、および転写終結領域を含んでなる。種々の終結領域は所望により相互交換可能である。
【0058】
発現カセットの作製に際しては、正しい方向にうまく読め、かつ正しい読み枠を備えたヌクレオチド配列を得るように、種々のDNA断片を操作することができる。DNA断片を互いに連結するために、これらの断片にアダプターまたはリンカーを付着させることもできる。
【0059】
好都合には、プロモーターおよびターミネーター領域は、この配列を挿入するための1以上の制限部位を含んでなるリンカーまたはポリリンカーを用いて転写方向に提供することができる。このリンカーは通常、1〜10、ほとんどの場合には1〜8、好ましくは2〜6の制限部位を有する。このリンカーは一般に、調節領域内の100bp未満、多くの場合60bp未満であるが、少なくとも5bpの大きさを有する。プロモーターは宿主生物、例えば宿主植物にとって天然のものまたは同種および異種のもののいずれであってもよい。発現カセットは5’-3’転写方向に、プロモーター、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子をコードするDNA配列、および転写終結領域を含んでなる。種々の終結領域は所望により相互交換可能である。
【0060】
ミドリムシ(Euglena gracilis)由来の2つのΔ-4-デサチュラーゼをコードするDNA配列は、脂肪酸、脂質または油の生合成の部位への正しい局在を達成するのに必要な配列特徴を全て含んでなる。このため、さらなる標的化配列はそれ自体必要でない。しかしながら、このような局在が望ましく、有利であり得ることから、このような融合構築物もまた本発明の好ましい有利な実施形態であるように人工的に改変または増強してもよい。
【0061】
特に好ましい配列は、色素体への標的化を保証するものである。また、他の細胞区画への標的化も、ある種の状況では望ましい場合があり(Kermode, Crit. Rev. Plant Sci. 15, 4 (1996), 285-423参照)、例えば、液胞、ミトコンドリア、小胞体(ER)、ペルオキシソーム、脂肪体、さもなければ、産生区画に残存する当該操作配列が存在しないために細胞質への標的化が挙げられる。
【0062】
本発明の核酸配列には、ベクターを介して生物に導入されるかまたはそのゲノムに直接組み込まれる発現カセットに、少なくとも1つのリポーター遺伝子とともにクローニングするのが有利である。このリポーター遺伝子は増殖、蛍光、化学発光、生物発光もしくは耐性アッセイによって、または光度測定によって検出を容易にするものでなければならない。リポーター遺伝子として挙げられる例は、抗生物質耐性遺伝子または除草剤耐性遺伝子、ヒドロラーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、生物発光遺伝子、糖またはヌクレオチド代謝遺伝子または生合成遺伝子、例えば、Ura3遺伝子、Ilv2遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、α-ガラクトシダーゼ遺伝子、gfp遺伝子、2-デオキシグルコース-6-リン酸ホスファターゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子、β-ラクタマーゼ遺伝子、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子またはBASTA(=グルホシネート耐性)遺伝子がある。これらの遺伝子は転写活性の測定性および定量性、および従って遺伝子の発現の測定性および定量性を容易にすることができる。従って、生産性の違いを示すゲノム部位を特定することができる。
【0063】
好ましい実施形態では、発現カセットは、コード配列の上流、すなわち5’末端にプロモーターを、下流、すなわち3’末端にポリアデニル化シグナルを、ならびに適当であれば、間にあるΔ-4-デサチュラーゼのコード配列に作動可能なように連結されたさらなる調節エレメントおよび/またはΔ-4-デサチュラーゼDNA配列を含んでなる。作動可能な連結とは、プロモーター、コード配列、ターミネーター、および適当であれば、さらなる調節エレメントを、その調節エレメントの各々が意図するコード配列の発現においてその機能を果たし得るように連続的に配置することを意味する。作動可能な連結のために好ましい配列は、色素体における細胞内局在を保証する標的化配列である。しかしながら、ミトコンドリア、小胞体(ER)、細胞核、エライオプラストまたはその他の区画における細胞内局在を保証するための標的化配列も、タバコモザイクウイルス由来の5’-リーダー配列などの翻訳エンハンサーが使用できるので、必要であれば用いることができる(Gallieら, Nucl. Acids Res. 15 (1987), 8693-8711)。
【0064】
発現カセットは例えば構成性プロモーター(好ましくは、USPまたはナピンプロモーター)、発現させる遺伝子およびER保持シグナルを含んでもよい。好ましく用いられるER保持シグナルとしては、アミノ配列KDEL(リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン)がある。
【0065】
原核生物または真核生物宿主生物、例えば真菌または植物などの微生物における発現のためには、発現カセットを、宿主生物において遺伝子の最適な発現を可能とする、例えばプラスミド、ファージまたはその他のDNAなどのベクターに挿入することが有利である。好適なプラスミドとしては、例えば、大腸菌ではpLG338、pACYC184、pBR系(例えば、pBR322)、pUC系(例えば、pUC18またはpUC19)、M113mp系、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11またはpBdCI、ストレプトマイセス属(streptomyces)ではpIJ101、pIJ364、pIJ702またはpIJ361、バチルスではpUB110、pC194またはpBD214、コリネバクテリウム属(corynebacterium)ではpSA77またはpAJ667、真菌ではpALS1、pIL2またはpBB116があり、さらなる有利な真菌ベクターはRomanos, M.A.ら, [(1992) "Foreign gene expression in yeast: a review", Yeast 8: 423-488]およびvan den Hondel, C.A.M.J.J.ら [(1991) "Heterologous gene expression in filamentous fungi]およびMore Gene Manipulations in Fungi [J.W. Bennet & L.L. Lasure編, 396-428頁: Academic Press: San Diego]および"Gene transfer systems and vector development for filamentous funfi" [van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) in: Applied Molecular Genetics of Fungi, Peberdy, J.F.ら編, 1-28頁, Cambridge University Press: Cambridge]に記載されている。有利な酵母プロモーターとしては例えば、2αM、pAG-1、YEp6、YEp13またはpEMBLYe23がある。藻類または植物プロモーターの例としては、pLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004、pVKHまたはpDH51(Schmidt, R.およびWillmitzer, L., 1988参照)がある。上述のベクターまたは後述のベクターの誘導体はできるだけ少数のプラスミドの選択を提供する。さらなるプラスミドも当業者に周知であり、例えば書籍Cloning Vectors(Pouwels P.H.ら編、Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985 , ISBN 0 444 904018)に見出すことができる。好適な植物ベクターはとりわけ"Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology" (CRC Press), 第6/7章, 71-119頁に記載されている。有利なベクターとしては、大腸菌およびアグロバクテリウム中で複製する、いわゆるシャトルベクターまたはバイナリーベクターがある。
【0066】
ベクターは、プラスミドの他、例えば、ファージ、SV40、CMV、バキュロウイルス、アデノウイルスなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、ファージミド、コスミド、直鎖または環状DNAといった当業者に公知の他の全てのベクターを意味する。これらのベクターは宿主生物内で自律複製するか、または染色体複製されるが、染色体複製が好ましい。
【0067】
このベクターのさらなる実施形態では、本発明の発現カセットはまた、生物に直鎖DNAの形で有利に導入し、非相同組換えまたは相同組換えにより宿主生物のゲノムに組み込むことができる。この直鎖DNAは線状化プラスミドからなるものでも、ベクターとしての発現カセットまたは本発明の核酸配列のみからなるものでもよい。
【0068】
さらなる有利な実施形態では、本発明の核酸配列は生物に単独で導入することもできる。
【0069】
本発明の核酸配列に加えて、さらなる遺伝子をその生物に導入する場合、それらは全てリポーター遺伝子とともに単一のベクターに導入することもできるし、あるいは、個々の各遺伝子をリポーター遺伝子とともにそれぞれのベクターで生物に導入することもでき、同時にまたは逐次的に異なるベクターを導入することができる。
【0070】
このベクターは有利には少なくとも1コピーの本発明の核酸配列および/または本発明の発現カセットを含んでなる。
【0071】
例としては、植物発現カセットを形質転換ベクターpRT((a) Toepferら, 1993, Methods Enzymol., 217: 66-78; (b) Toepferら 1987, Nucl. Acids. Res. 15: 5890 ff.)に組み込むことができる。
【0072】
あるいは、組換えベクター(=発現ベクター)はまた、例えばT7プロモーターおよびT7 RNAポリメラーゼの使用によってin vitroで転写および翻訳可能である。
【0073】
原核生物に用いる発現ベクターは多くの場合、融合タンパク質または融合オリゴペプチド(obligopeptides)を伴うそして伴わない誘導システムを用いるが、これらの融合はKn末端およびC末端の双方、またはタンパク質の他の利用可能なドメインで起こり得る。このような融合ベクターは通常、i.)RNA発現率の増強、ii.)達成可能なタンパク質合成率の増強、iii.)タンパク質溶解度の増強、iv.)またはアフィニティークロマトグラフィーに使用できる結合配列を介した精製の簡便化、に使用される。またタンパク質分解切断部位はしばしば融合タンパク質を介して導入され、それにより融合タンパク質の一部、また精製の一部も排除することが可能になる。このような、プロテアーゼにより認識される認識配列としては、例えば、Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼがある。
【0074】
典型的な有利な融合および発現ベクターとしては、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、またはタンパク質Aを含んでなる、pGEX [Pharmacia Biotech Inc; Smith, D.B.およびJohnson, K.S. (1988) Gene 67: 31-40]、pMAL (New England Biolabs, Beverly, MA)およびpRIT5 (Pharmacia, Piscataway, NJ)がある。
【0075】
大腸菌(E.coli)発現ベクターのさらなる例としては、pTrc [Amannら, (1988) Gene 69:301-315]およびpETベクター[Studierら, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89; Stratagene, Amsterdam, The Netherlands]がある。
【0076】
酵母で用いるためのさらなる有利なベクターとしては、pYepSec1 (Baldari,ら, (1987) Embo J. 6:229-234)、pMFa (KurjanおよびHerskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88 (Schultzら, (1987) Gene 54:113-123)、およびpYES-誘導体(Invitrogen Corporation, San Diego, CA)がある。糸状菌で用いるためのベクターは、van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) 「糸状菌のための遺伝子導入システムおよびベクターの開発(Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi)」 Applied Molecular Genetics of Fungi中, J.F. Peberdy,ら編, 1-28頁, Cambridge University Press: Cambridgeに記載されている。
【0077】
また、別の可能性としては、有利には、例えばSf9細胞での発現のための昆虫細胞発現ベクターを用いることがある。その例としては、pAc系ベクター(Smithら (1983) Mol. Cell Biol. 3:2156-2165)およびpVL系ベクター(LucklowおよびSummers (1989) Virology 170:31-39)がある。
【0078】
さらに、植物細胞または藻類細胞も遺伝子発現に有利に使用できる。植物発現ベクターの例は、Becker, D.,ら (1992) "New plant binary vectors with selectable maekers located proximal to the left border" Plant Mol. Biol. 20: 1195-1197、またはBevan, M.W. (1984) “Binary Agrobacterium vectors for plant transformation“, Nucl. Acid. Res. 12: 8711-8721中に見出される。
【0079】
本発明の核酸配列はさらに哺乳類細胞でも発現させることができる。該当する発現ベクターの例としては、Seed, B. (1987) Nature 329:840またはKaufmanら (1987) EMBO J. 6: 187-195)に述べられているpCDM8およびpMT2PCがある。この場合に使用することが好ましいプロモーターとしては、例えばポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスまたはシミアンウイルス40のプロモーターなど、ウイルス起源のものがある。さらなる原核生物および真核生物発現系は、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の第16章および17章に記載されている。
【0080】
本発明の核酸、発現カセットまたはベクターの、生物、例えば植物へ導入は、原則的に当業者に公知のいずれの方法によって行ってもよい。
【0081】
微生物に適当な方法は、当業者ならば、Sambrook, J.らによるMolecular Cloning: A Laboratory manual, (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press、F.M. AusubelらによるCurrent protocols in Molecular biology, (1994) John Wiley and Sons、D.M. GloverらによるDNA Cloning第1巻, (1995), IRL Press (ISBN 019-963476-9)、KaiserらによるMethods in Yeast Genetics, (1994) Cold Spring Habor Laboratory PressまたはGuthrieらによるGuide to Yeast Genetics and Molecular Biology, Methods in Enzymology, 1994, Academic Pressといった教科書に見出すことができる。
【0082】
植物のゲノムへの外来遺伝子の導入は形質転換と呼ばれる。この場合、植物組織または植物細胞からの、形質転換および植物体の再生に関して記載されている方法を一時的または安定的形質転換に用いる。好適な方法としては、ポリエチレングリコールに誘発されるDNA取り込みによるプロトプラスト形質転換、遺伝子銃を用いるバイオリスティック法(いわゆる粒子衝撃法)、エレクトロポレーション、DNA含有溶液中での乾燥胚のインキュベーション、マイクロインジェクションおよびアグロバクテリウム媒介遺伝子導入がある。これらの方法は例えば、B. Jenesら, Techniques for Gene Trasfer, in: Transgenic Plants, 第1巻, Engineering and Utilization, S.D. KungおよびR. Wu編, Academic Press (1993) 128-143、およびPotrykus Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Molec. Biol. 42 (1991) 205-225)に記載されている。発現させる構築物は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを形質転換するのに好適なベクター、例えばpBin19 (Bevanら, Nucl. Acids Res. 12 (1984) 8711)にクローニングするのが好ましい。このようなベクターで形質転換されたアグロバクテリアを次に、植物、特に例えばタバコ植物などの作物を形質転換するための既知の方法、例えば傷を付けた葉または葉片をアグロバクテリア溶液に浸け、その後、好適な培地で培養することによる方法に使用できる。アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる植物の形質転換は、例えば、HoefgenおよびWillmitzerによって、Nucl. Acid Res. (1988) 16, 9877に記載され、またはとりわけF.F. White, Vectors for Gene Transfer in Higher Plants; Transgenic Plants, 第1巻, Engineering and Utilization, herausgegeben von S.D. Kung und R. Wu, Academic Press, 1993, 15-38頁に開示されている。
【0083】
本発明の発現ベクターで形質転換したアグロバクテリアは、同様に、シロイヌナズナなどの試験植物、または作物、例えば穀類、トウモロコシ、オートムギ、ライムギ、オオムギ、コムギ、ダイズ、イネ、ワタ、テンサイ、カノーラ、ヒマワリ、アマ、アサ、ジャガイモ、タバコ、トマト、ニンジン、パプリカ、アブラナ、タピオカ、キャッサバ、アロールート、マンジュギク、アルファルファ、レタス、ならびに種々の樹木、ナッツおよび蔓植物種、特にダイズ、ラッカセイ、トウゴマ、ヒマワリ、トウモロコシ、ワタ、アマ、アブラナ、ココナッツ、アブラヤシ、サフラワー(Carthamus tinctorius)またはカカオマメなどの含油作物のような植物を形質転換するための既知の方法、例えば、傷を付けた葉または葉片をアグロバクテリア溶液に浸け、その後、好適な培地で培養することによる方法に、使用できる。PUFA、例えばステアリドン酸、エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸を生産するのに特に好適なのは、ルリチザ(borage)またはサクラソウ科(primulaceae)である。アマ(flax)は、本発明の核酸配列を有利にはさらなるデサチュラーゼおよびエロンガーゼと組み合わせて含むPUFAを生産するのに特に有利に適している。
【0084】
これら遺伝的に改変された植物細胞は、当業者に公知のいずれの方法によって再生させてもよい。適当な方法は、上記のS.D. KungおよびR. Wu, PotrykusまたはHoefgenおよびWillmitzerによる刊行物に見出すことができる。
【0085】
本発明の核酸、発現カセットまたはベクターに原則的に好適かつ有利なトランスジェニックまたは宿主生物は、微生物、非ヒト動物または植物などの、脂肪酸、特に不飽和脂肪酸を合成でき、かつ、組換え遺伝子の発現に好適なあらゆる生物である。例としては、シロイヌナズナ、キンセンカなどのキク科(asteraceae)、またはダイズ、ラッカセイ、トウゴマ、ヒマワリ、トウモロコシ、ワタ、アマ、アブラナ、ココナッツ、アブラヤシ、サフラワー(Carthamus tinctorius)もしくはカカオマメなどの作物といった植物、例えば、モルティエレラ属(Mortierella)、サプロレニア属(Saprolegnia)またはピチウム属(Pythium)などの真菌、エシェリキア属(Escherichia)などの細菌、サッカロミセス属(Saccharomyces)などの酵母、シアノバクテリア、繊毛虫類、藻類、またはクリプテコジニウム(Crypthecodinium)のような渦鞭毛藻類などの原生動物といった微生物が挙げられる。モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、ピチウム・インシディオスム(Pythium insidiosum)のような真菌、またはダイズ、アブラナ、ココナッツ、アブラヤシ、サフラワー、トウゴマ、キンセンカ、ラッカセイ、カカオマメまたはヒマワリのような植物、またはサッカロミセス・セレビシエのような酵母など、天然に比較的大量に油を合成できる生物が好ましく、ダイズ、アブラナ、ヒマワリ、アマ、キンセンカ、またはサッカロミセス・セレビシエが特に好ましい。例えばC.エレガンス(C. elegans)など、トランスジェニック動物も原則的に宿主生物として好適である。
【0086】
本発明の目的のトランスジェニック生物またはトランスジェニック植物とは、その方法に用いる核酸が、生物のゲノム中でそれら本来の場所にないが、それらの核酸が同種または異種で発現されうることを意味する。しかしながら、トランスジェニックとはまた、本発明の核酸が生物のゲノムのそれら本来の場所にあるが、その配列がその天然の配列と比較した場合に改変されているか、かつ/またはその調節配列が天然配列から改変されていることを意味する。トランスジェニックとは、好ましくは、ゲノムの非天然部位での本発明の核酸の発現であり、それは、それらの核酸の同種のまたは好ましくは異種の発現が起こることを意味する。好ましいトランスジェニック生物としては、モルティエレラ属などの真菌または脂肪種子植物などの植物である。
【0087】
よって、「トランスジェニック」とは、例えば、Δ-4-デサチュラーゼまたはその誘導体をコードする核酸配列、その核酸配列を含んでなる発現カセットもしくはベクター、またはこの核酸配列、発現カセットまたはベクターで形質転換された生物との関連において、遺伝子工学法により組み立てられた構築物であって、かつ以下:
a)Δ-4-デサチュラーゼ核酸配列、または
b)Δ-4-デサチュラーゼ核酸配列と機能的に連結されている遺伝的制御配列、例えばプロモーター、または
c)(a)および(b)
のいずれかがそれらの天然の遺伝的環境にないか、または遺伝子工学法により改変されており、その改変が例えば、1以上のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、逆転、または挿入であり得る構築物のすべてを意味する。天然の遺伝的環境とは、元の生物における天然の染色体座位またはゲノムライブラリーにおける存在を意味する。ゲノムライブラリーの場合、その核酸配列の天然の遺伝的環境は好ましくは少なくとも部分的に保持されていることが好ましい。その環境はその核酸配列に少なくとも一方の側で隣接し、少なくとも50bp、好ましくは少なくとも500bp、特に好ましくは少なくとも1000bp、極めて特に好ましくは少なくとも5000bpの配列長を有する。
【0088】
使用できる宿主細胞はさらにGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0089】
使用できる発現株、例えば、低いプロテアーゼ活性を有するものは、Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119-128に記載されている。
【0090】
本発明のさらなる態様は、植物細胞および組織または植物の一部分の形質転換のための、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子をコードするDNA配列またはそれとハイブリダイズするDNA配列を含んでなる発現カセットの使用に関する。使用の目的は、Δ-4位における二重結合の含量が増加した脂肪酸、油または脂質の含量を高めることである。
【0091】
これに関して、プロモーターの選択によって、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子の発現を葉、種子、塊茎、または他の植物部分で特異的に起こるようにすることができる。Δ-4二重結合を含む脂肪酸、油または脂質を過剰生産するそのようなトランスジェニック植物、それらの増殖物、およびそれらの植物細胞、組織または一部分は本発明のさらなる態様である。本発明の好ましい態様は、本発明の機能的または非機能的(=アンチセンスDNAまたは酵素的に不活性な酵素)な核酸配列、または機能的もしくは非機能的な発現カセットを含んでなる、トランスジェニック植物である。
【0092】
発現カセット、またはΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子配列を含んでなる本発明の核酸配列はまた、さらに、脂肪酸、油または脂質のΔ-4二重結合の含量を高める目的で、細菌、シアノバクテリア、酵母、糸状菌、繊毛虫類、および藻類など、上記で例として挙げた生物の形質転換に使用できる。
【0093】
本発明の目的では、Δ-4二重結合を有する脂肪酸、油または脂質の含量を高めるということは、例えば、本発明の生物における、有利には、遺伝子工学により改変されていない元の植物と比べた本発明のトランスジェニック植物における、少なくとも植物の一世代以上の間のΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子の機能的過剰発現による生合成効率の増加という人工的に獲得した能力を意味する。
【0094】
例えば、脂肪酸、油または脂質の生合成の部位は通常、種子または種子の細胞層であるので、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子の種子特異的発現に価値がある。しかしながら、脂肪酸、油または脂質の生合成は種子組織に限定される必要はなく、他のあらゆる植物部分、例えば表皮細胞または塊茎で組織特異的に起こってもよいことは明らかである。
【0095】
さらに、外来性のΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子の構成的発現も有利である。しかしながら、他方では、誘導性発現が望ましい場合もある。
【0096】
Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子の発現の効果はin vitroシュート成長点増殖によりin vitroで判定することができる。さらに、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子の性質および発現レベルの変化、ならびに脂肪酸、油または脂質の生合成に及ぼすその効果を、温室実験で試験植物に対して試験することができる。
【0097】
本発明はさらに、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子配列またはそれとハイブリダイズするDNA配列を含んでなる発現カセットで形質転換されたトランスジェニック植物、ならびにそのような植物のトランスジェニック細胞、組織、部分および増殖物に関する。これに関しては、例えばオオムギ、コムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、ダイズ、イネ、ワタ、テンサイ、アブラナ、およびカノーラ、ヒマワリ、アマ、大麻(hemp)、ジャガイモ、トマト、アブラナ、タピオカ、キャッサバ、アロールート、アルファルファ、レタス、および種々の樹木、ナッツ、および蔓植物種などのトランスジェニック作物が特に好ましい。
【0098】
本発明の目的の植物は単子葉および双子葉植物、苔類または藻類である。
【0099】
さらなる本発明の成果は、上記のように、機能的もしくは非機能的な本発明の核酸配列、または機能的もしくは非機能的な本発明の発現カセットを含んでなるトランスジェニック植物である。非機能的とは、酵素的に活性なタンパク質がもはや合成されないことを意味する。さらに、非機能的な核酸または核酸構築物はまた、酵素活性が低下しているか、または酵素活性を持たないトランスジェニック植物をもたらす、いわゆるアンチセンスDNAも意味する。アンチセンス技術を用いれば、具体的には本発明の核酸配列をアンチセンスDNAである他の脂肪酸合成遺伝子と組み合わせれば、飽和脂肪酸を増加した含量で有するトリグリセリドを合成させたり、脂肪酸を合成させたりすることができる。トランスジェニック植物とは、単一の植物細胞およびその固形培地での培養物またはその液体培養物、植物の一部分または植物体全体を意味する。
【0100】
本発明のさらなる態様として次のものがある。
− サクラソウ科(primulaceae)由来のΔ-4-デサチュラーゼ遺伝子配列またはそれとハイブリダイズするDNA配列を含んでなる本発明の発現カセットを植物細胞、カルス組織、植物体全体または植物のプロトプラストに導入することを含む、植物の形質転換方法。
− 植物におけるΔ-4-デサチュラーゼDNA配列の発現によりΔ-4二重結合を有する脂肪酸、油または脂質を増加した含量で含む植物を生産するための、そのΔ-4-デサチュラーゼDNA遺伝子配列またはそれとハイブリダイズするDNA配列の使用。
− 配列番号2で示されるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質。
− 不飽和脂肪酸の生産のための、配列番号2の配列を有するタンパク質の使用。
【0101】
本発明のさらなる態様は、上記の少なくとも1つの本発明の核酸配列または少なくとも1つの本発明の核酸構築物を好ましくは油生産生物中に入れること、この生物を培養すること、およびその生物中に存在する油を単離すること、ならびにその油中に含まれる脂肪酸を遊離させることを含む、不飽和脂肪酸の生産方法である。これらの不飽和脂肪酸は有利には、Δ-4二重結合を含む。これらの脂肪酸は、例えばNaOHまたはKOHを用いた塩基加水分解により、油または脂質から遊離させることができる。
【0102】
本発明の態様はまた、上記の少なくとも1つの本発明の核酸配列または少なくとも1つの本発明の発現カセットを油生産生物中に入れること、この生物を培養すること、およびその生物中に存在する油を単離することを含む、増加した含量の不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドの生産方法である。
【0103】
本発明のさらなる態様は、飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸、または飽和および不飽和脂肪酸を有するトリグリセリドを、少なくとも、配列番号1の配列によってコードされているタンパク質とともに、インキュベートすることにより、増加した含量の不飽和脂肪酸を有するトリグリセリドを生産する方法である。この方法は有利には、還元性等価物の取り込みまたは遊離が可能な化合物の存在下で行う。次にこのトリグリセリドから脂肪酸を遊離させることができる。
【0104】
トランスジェニック植物は本発明の方法における生物として有利に用いられる。これらの植物は、本発明の方法において合成された多価不飽和脂肪酸を含み、有利なことに、合成された油、脂質または脂肪酸を単離する必要なく、直接、市場に出すことができる。本発明の方法における植物としては、植物体全体、および、トランスジェニック植物に由来し、かつ/またはトランスジェニック植物の生産に使用できる植物の任意の部分、葉、柄(stalk)、種子、根、塊茎、葯、繊維質、根毛、茎、胚、カルス、子葉(cotelydon)、葉柄、収穫物、植物組織、再生組織、細胞培養物などの植物器官または植物部分である。これに関して、種子は、種皮、表皮および種子細胞、内胚乳、または胚組織などの種子の任意の部分を含む。しかしながら、本発明の方法で生産される化合物はまた、生物、有利には植物から、それらの油、脂肪、脂質および/または遊離脂肪酸の形態で単離することもできる。この方法によって生産される多価不飽和脂肪酸は、生物が増殖している培地から、または圃場(field)からその生物を収穫することによって収穫することもできる。これは植物部分、好ましくは植物の種子をプレスまたは抽出することにより行える。さらに、油、脂肪、脂質および/または遊離脂肪酸は、熱を加えることなく、いわゆる低温打砕法(cold-beating)または低温プレス法でプレスすることによって得ることもできる。植物部分、特に種子を容易に破砕できるよう、それらを予め粉砕したり、蒸したり、炒ったりする。このようにして前処理した種子を次に、プレスするか、熱ヘキサンなどの溶媒を用いて抽出することができる。その後、再び溶媒を除去する。微生物の場合には、収穫後、当業者に公知の種々の方法により、例えばさらなる操作を行わずに直接抽出するか、あるいは破砕した後に抽出する。このようにして本方法で生産された化合物の96%を超える量を単離することができる。その後、このようにして得た生成物をさらに処理し、すなわち、精製する。これには、まず、例えば植物粘液および浮遊物を除去する必要がある。いわゆるデスライミング(desliming)は酵素的に行うか、または例えばリン酸などの酸を加えることで化学的/物理的に行うことができる。次に、塩基、例えば水酸化ナトリウム溶液で処理することにより遊離脂肪酸を取り出すことができる。得られた生成物を水で十分洗浄し、生成物中に残留するアルカリを除去し、乾燥させる。生成物になお存在する色素を除去するため、例えばフラー土または活性炭でこれらの生成物に漂白処理を行う。最後に、さらにこの生成物を、また例えば蒸気で脱臭する。
【0105】
本方法で生産されたPUFAは、有利なことに、それらの生物において、それらの油、脂質もしくは脂肪酸、またはその画分の形態で生じる。
【0106】
さらなる本発明の実施形態は、動物飼料、ヒト食品、化粧品または医薬品におけるその油、脂質、脂肪酸および/または脂肪酸組成物の使用である。
【0107】
「油」、「脂質」または「脂肪」とは、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、好ましくはエステル化脂肪酸を含んでなる脂肪酸混合物を意味する。油、脂質または脂肪は、高含量の多価不飽和遊離脂肪酸または有利にはエステル化脂肪酸、特にリノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、またはドコサヘキサエン酸を有することが好ましい。不飽和エステル化脂肪酸の含量は好ましくは約30%であり、より好ましくはその含量は50%であり、いっそうより好ましくはその含量は60%、70%、80%またはそれ以上である。測定には、例えば、トランスエステル化により脂肪酸をメチルエステルに変換した後に、脂肪酸含量をガスクロマトグラフィーにより測定すればよい。この油、脂質または脂肪は他の種々の飽和または不飽和脂肪酸、例えば、カレンジュリン酸(calendulic acid)、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸などを含み得る。特に、油または脂肪中の種々の脂肪酸の含量は元々の生物によって異なり得る。
【0108】
本方法で生産される多価不飽和脂肪酸は、例えば、スフィンゴ脂質、ホスホグリセリド、脂質、糖脂質、リン脂質、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールまたはその他の脂肪酸エステルである。
【0109】
存在する多価不飽和脂肪酸は、本発明の方法でこのようにして生産された有利には上記のように少なくとも2つの二重結合を有する多価不飽和脂肪酸から、例えばKOHまたはNaOH水溶液などのアルカリ処理、または有利にはメタノールまたはエタノールなどのアルコールの存在下での酸加水分解により、あるいは酵素除去により、遊離させて、そして例えば、相分離およびそれに続く例えばH2SO4での酸性化により、単離することができる。脂肪酸の遊離はまた、上記のような仕上げなしに直接行うこともできる。
【0110】
上述の方法は有利には、Δ-4二重結合を有する脂肪酸を増加した含量で有する脂肪酸またはトリグリセリドを合成することを可能とする。
【0111】
上述の方法は有利には、Δ4-デサチュラーゼの反応基質、好ましくはドコサペンタエン酸を用いて、Δ-4二重結合を有する脂肪酸を増加した含量で有する脂肪酸またはトリグリセリドを合成することを可能とする。よって、上述の方法は有利には、特に、例えばドコサヘキサエン酸などの脂肪酸を合成することを可能とする。
【0112】
また、いわゆるアンチセンス技術を用いて、方法において飽和脂肪酸を増加した含量で有する脂肪酸またはトリグリセリドを生産することができる。
【0113】
前記方法のために挙げられうる生物の例としては、シロイヌナズナ、サクラソウ科、ルリチザ、オオムギ、コムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、ダイズ、イネ、ワタ、テンサイ、アブラナ、およびカノーラ、ヒマワリ、アマ、大麻、ジャガイモ、タバコ、トマト、アブラナ、タピオカ、キャッサバ、アロールート、アルファルファ、ラッカセイ、トウゴマ、ココナッツ、アブラヤシ、サフラワー(Carthamus tinctorius)またはカカオマメなどの植物、モルティエレラ属、サプロレニア属またはピチウム属などの真菌、エシェリキア属などの細菌、シアノバクテリア、サッカロミセス属などの酵母、藻類、またはクリプテコジニウム(Crypthecodinium)のような渦鞭毛藻類などの原生動物といった微生物がある。好ましい生物は、天然に油を大量に合成できる生物であり、例えば、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、ピチウム・インシディオスム(Pythium insidiosum)のような真菌などの微生物、またはダイズ、アブラナ、ココナッツ、アブラヤシ、サフラワー、トウゴマ、キンセンカ、ラッカセイ、カカオマメ、またはヒマワリなどの植物、またはサッカロミセス・セレビシエなどの酵母であり、特に好ましくはダイズ、アブラナ、ヒマワリ、サフラワー(Carthamus)またはサッカロミセス・セレビシエである。
【0114】
本方法で用いる生物は、宿主生物に応じて当業者に公知の方法で増殖または培養される。微生物は通常、通常は糖の形態の炭素源、通常は酵母抽出物などの有機窒素源の形態または硫酸アンモニウムなどの塩の形態の窒素源、鉄、マンガンおよびマグネシウム塩などの微量元素、ならびに適当であればビタミンを含んでなる液体培地中、0℃〜100℃、好ましくは10℃〜60℃の温度で、酸素を通じながら増殖させる。これらの場合、栄養液のpHは固定値に維持することができ、すなわち、培養の間、制御することができるが、しなくともよい。培養はバッチ式、準バッチ式、または連続的に行うことができる。栄養素は発酵の開始時に導入することができ、またはその後に半連続的または連続的に供給することもできる。
【0115】
植物は、形質転換後、まず、上記のように再生させた後、通常のように栽培または増殖させる。
【0116】
生物を増殖させた後、通常の方法で脂質を得る。これは、収穫した後、まず生物を破砕することによって行うか、またはそのまま用いることによって行う。脂質は有利には、ヘキサンまたはエタノールなどの無極性溶媒、イソプロパノール、またはヘキサン/イソプロパノール、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールなどの混合物といった好適な溶媒を用い、0℃〜80℃、好ましくは20℃〜50℃の温度で抽出する。バイオマスは通常、過剰量の溶媒、例えばバイオマスに対して1:4の過剰量の溶媒で抽出する。次に、例えば蒸留法によって溶媒を除去する。抽出はまた、超臨界CO2を用いて行うこともできる。抽出後に残存するバイオマスは例えば濾過により除去することができる。
【0117】
このようにして得られた粗油を、次に、例えばアセトンまたはクロロホルムなどの極性溶媒と混合した後、濾過または遠心分離により浮遊物を除去することによりさらに精製することができる。カラムによるさらなる精製も可能である。
【0118】
遊離脂肪酸は、トリグリセリドから、常法によりその加水分解によって得られる。
【0119】
本発明はさらに、上述の方法によって生産された不飽和脂肪酸、増加した含量の不飽和脂肪酸を有するトリグリセリド、ならびにヒト食品、動物飼料、化粧品または医薬品の製造のためのそれらの使用に関する。この目的で、それらは通常の量で、ヒト食品、動物飼料、化粧品または医薬品に添加される。
【0120】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0121】
実施例1:一般的なクローニング法:
例えば、制限切断、アガロースゲル電気泳動、DNA断片の精製、ニトロセルロースおよびナイロンメンブランへの核酸の転写、DNA断片の連結、大腸菌細胞の形質転換、細菌の培養、および組換えDNAの配列解析などのクローニング工程はSambrookら (1989) (Cold Spring Harbor Laboratory Press: ISBN 0-87969-309-6)に記載の通りに実施した。
【0122】
実施例2:組換えDNAの配列解析:
組換えDNA分子はサンガー法 (Sangerら (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA74, 5463-5467) により、ABIレーザー蛍光DNAシーケンサーを用いて配列決定した。ポリメラーゼ連鎖反応から得られた断片を配列決定して確認し、発現される構築物におけるポリメラーゼエラーを回避した。
【0123】
実施例3:ミドリムシ(Euglena gracilis)由来のΔ-4-デサチュラーゼのクローニング
ミドリムシ(Euglena gracilis)1224-5/25株はゲッチンゲン大学藻類カルチャーコレクション(Sammlung fuer Algenkulturen Goettingen)(SAG)から入手した。単離のため、この株を培地II (Calvayrac RおよびDouce R, FEBS Letters 7:259-262, 1970)中、23℃、8時間/16時間の明/暗周期(光度35mol s-1 m-2)で4日間増殖させた。
【0124】
4日目のミドリムシ培養物から、Qiagen (Valencia, CA, US)製のRNAeasyキットを用いて全RNAを単離した。この全RNAから、オリゴ-dT-セルロース(Sambrookら, 1989)を用いてポリ-A+ RNA(mRNA)を単離した。このRNAの逆転写のため、Promega製の逆転写システムキットを用い、合成されたcDNAをλZAPベクター(λ ZAP Gold, Stratagene)にクローニングした。このcDNAを製造業者の使用説明書に従いデパッケージしてプラスミドDNAを得、クローンをランダムシーケンシングのため部分的に配列決定した。1つの配列がΔ-4-デサチュラーゼと類似性を示した。見出された配列をファージcDNAスクリーニング用のプローブとして用いた(2×105プラーク)。2回のスクリーニングの後、全長配列を有するcDNAを同定することができた。
【0125】
実施例4:酵母における異種発現のための発現プラスミドのクローニング
クローニングされたcDNAは、9塩基が異なる2つのオープンリーディングフレームを生じる2つの推定開始コドンを含んでなる。その後、短いほうのリーディングフレーム(配列番号1)だけが活性を示した。このリーディングフレームをベクターpYES2 (Invitrogen)にクローニングするために次のプライマー対を用いた。
フォワード:5’-GGTACCATGTTGGTGCTGTTTGGCAA
リバース:5’-CTCGAGTTATGACTTTTTGTCCCCG
【0126】
PCR混合物(50μL)の組成:
5.00μL 鋳型cDNA
5.00μL 10xバッファー(アドバンテージポリメラーゼ)+ 25mM MgCl2
5.00μL 2mM dNTP
1.25μL 各プライマー(10pmol/μL)
0.50μL アドバンテージポリメラーゼ
Clontech製のアドバンテージポリメラーゼを用いた。
【0127】
PCR反応条件:
アニーリング温度:1分、55℃
変性温度:1分、94℃
伸長温度:2分、72℃
サイクル数:35
【0128】
このPCR産物を37℃で2時間、制限酵素KpnIおよびXhoIとともにインキュベートした。酵母発現ベクターpYES2も同様にインキュベートした。次に、1638bpの大きさのPCR産物とベクターをアガロースゲル電気泳動で分画し、対応するDNA断片を切り出した。このDNAを、Qiagenゲル精製キットを製造業者の使用説明書に従って用いて精製した。次に、ベクターとΔ-4-デサチュラーゼcDNAを連結した。この目的で、Roche製のラピッドライゲーションキットを用いた。得られたプラスミドpYES2-EGD4-2を配列決定により確認し、エレクトロポレーション(1500V)によりサッカロミセス株SC334に形質転換した。次に、この酵母を、ウラシルを含まない最小培地で平板培養した。このように、ウラシルを含まない最小培地で増殖可能な細胞がプラスミドpYES2-EGD4-2を含む。
【0129】
実施例5:植物における種子特異的発現のための発現プラスミドのクローニング
植物の形質転換のため、pSUN-USPに基づくさらなる形質転換ベクターを作製した。この目的で、次のプライマー対を用い、NotI切断部位をコード配列の 5’および3’末端に導入した。
【0130】
フォワード:5’-GCGGCCGCATGTTGGTGCTGTTTGGCAA
リバース:5’-GCGGCCGCATGACTTTTTGTCCCCG
【0131】
PCR混合物(50μL)の組成:
5.00μL 鋳型cDNA
5.00μL 10xバッファー(アドバンテージポリメラーゼ)+ 25mM MgCl2
5.00μL 2mM dNTP
1.25μL 各プライマー(10pmol/μL)
0.50μL アドバンテージポリメラーゼ
Clontech製のアドバンテージポリメラーゼを用いた。
【0132】
PCR反応条件:
アニーリング温度:1分、55℃
変性温度:1分、94℃
伸長温度:2分、72℃
サイクル数:35
【0133】
このPCR産物を37℃で16時間、制限酵素NotIとともにインキュベートした。植物発現ベクターpSUN300-USPも同様にインキュベートした。次に、1642bpの大きさのPCR産物と7624bpの大きさのそのベクターをアガロースゲル電気泳動で分画し、対応するDNA断片を切り出した。このDNAを、Qiagenゲル精製キットを製造業者の使用説明書に従って用いて精製した。次に、ベクターとΔ-4-デサチュラーゼcDNAを連結した。この目的で、Roche製のラピッドライゲーションキットを用いた。得られたプラスミドpSUN-EGD4-2を配列決定により確認した。
【0134】
pSUN300はプラスミドpPZP (Hajdukiewicz,P, Svab, Z, Maliga, P., (1994) "The small versatile pPZP family of Agrobacterium binary vectors for plant transformation." Plant Mol Biol 25:989-994)の誘導体である。pSUN-USPはpSUN300から、EcoRI断片としてのUSPプロモーターをpSUN300に挿入することにより作製されたものである。ポリアデニル化シグナルはA.ツメファシエンス(A. tumefaciens)Tiプラスミド由来のオクトピンシンターゼ遺伝子のものである(ocsターミネーター, Genbankアクセッション番号V00088)(De Greve, H., Dhaese,P., Seurinck,J., Lemmers,M., Van Montagu,M.およびSchell, J. "Nucreotide sequence and transcript map of the Agrobacterium tumefaciens Ti plasmid-encoded octopine synthase gene." J. Mol. Appl. Genet. 1(6), 499-511 (1982))。このUSPプロモーターはヌクレオチド1〜684(Genbank受託番号X56240)に相当し、USP遺伝子の非コード領域の部分がそのプロモーター中に存在する。684塩基対の大きさのプロモーター断片を、市販のT7スタンダードプライマー(Stratagene)を用い、かつ標準的な方法により合成したプライマー(プライマー配列:5’-GTCGACCCGCGGACTAGTGGGCCCTCTAGACCCGGGGGATCCGGATCTGCTGGCTATGAA-3’)を利用するPCR反応により増幅させた。次に、PCR断片をEcoRI/SalIで切断し、OCSターミネーターとともにベクターpSUN300に挿入した。こうして得られたものがpSUN-USPと呼ばれるプラスミドである。この構築物を用いシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ、タバコおよびアマニを形質転換した。
【0135】
実施例6:トランスジェニック植物の作出
a)トランスジェニックアブラナ植物の作出(Moloneyら, 1992, Plant Cell Reports, 8:238-242の変法)
トランスジェニックアブラナ植物は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58C1:pGV2260または大腸菌(E.coli)においてバイナリーベクターを用いて作出した(Deblaereら, 1984, Nucl. Acids. Res. 13, 4777-4788)。アブラナ植物(品種Drakkar, NPZ社(Norddeutsche Pflanzenzucht, Hohenlieth, Germany))を形質転換するため、3%スクロースを加えたムラシゲ-スクーグ培地(MurashigeおよびSkoog 1962 Physiol. Plant. 15, 473)(3MS培地)中、陽性に形質転換されたアグロバクテリアコロニーの一晩培養物の1:50希釈液を用いた。無菌アブラナ植物の発芽間もない葉柄または胚軸(各約1cm2)を、ペトリ皿中、1:50アグロバクテリア希釈液とともに5〜10分間インキュベートした。その後、0.8%バクト(Bacto)アガーを含む3MS培地上、25℃にて暗所で3日間、共培養した。培養は、3日の後、16時間明所/8時間暗所で継続し、さらに、1週間周期で、500mg/lクラフォラン(セフォタキシムナトリウム)、50mg/lカナマイシン、20μMベンジルアミノプリン(BAP)および1.6g/lグルコースを含むMS培地で継続した。成長したシュートを、2%スクロース、250mg/lクラフォランおよび0.8%バクトアガーを含むMS培地に移した。3週間後、根が形成されない場合は、発根培地に成長ホルモンとして2-インドール酪酸を加えた。
【0136】
再生したシュートを、カナマイシンおよびクラフォランを含む2MS培地で維持し、発根後に土に移植して2週間栽培した後、環境制御キャビネットまたは温室で生育させ、開花させ、成熟種子を収穫し、脂質分析によりΔ-4-デサチュラーゼ発現に関して調べた。Δ-4位において増加した量の二重結合を有する系統を同定した。導入遺伝子を機能的に発現する安定的に形質転換されたトランスジェニック系統では、非形質転換対照植物と比べてΔ-4位において増加した量の二重結合を見出すことができる。
【0137】
b)トランスジェニックアマニ植物は、例えば、パーティクルガン法により、Bellら, 1999, In Vitro Cell. Dev. Biol.-Plant 35(6):456-465の方法によって作出できる。アグロバクテリウム媒介形質転換も、例えば、Mlynarovaら (1994), Plant Cell Report 13: 282-285の方法によって行うことできる。
【0138】
実施例7:酵母からの脂質の抽出
実施例4のようにプラスミドpYES-EGD4-2で形質転換した酵母を次のようにして分析した。
【0139】
酵母細胞を、0.2%ラフィノースを含む最小培地1ml中で2日間増殖させた後、同培地5mlに移した。この培養物を30℃で6時間、OD600が0.05となるまで増殖させた。その後、100μMの脂肪酸基質(16:1 Δ7に対して67μM)を加え、2%ガラクトースを加えることでΔ-4-デサチュラーゼの発現を誘導した。次に、この細胞を15℃で4日間培養し、回収し、100mM NaHCO3で洗浄し、GCによる脂肪酸分析に用いた。
【0140】
図4は脂肪酸分析の結果を示している。この場合、Δ-4-デサチュラーゼ遺伝子を持たない対照酵母株と比べて、pYES-EGD4-2構築物を有する酵母株では、与えた脂肪酸DPA(ドコサペンタエン酸)が DHA(ドコサヘキサエン酸)へと脱飽和されたことを示すことができた。
【0141】
基質特異性は、形質転換された酵母株に種々の脂肪酸を与えることにより見出された(表1)。次に、与えた脂肪酸の、それらのΔ4-脱飽和産物への変換を測定した。
【0142】
この方法は例えばNapierおよびMichaelson, 2001, Lipids. 36(8):761-766、Sayanovaら, 2001, Journal of Experimental Botany, 52(360):1581-1585、Sperlingら, 2001, Arch. Biochem. Biophys. 388(2):293-298ならびにMichaelsonら, 1998, FEBS Letters. 439(3):215-218に記載されている。
【0143】
基質特異性を分析したところ、基質認識にC7-C8二重結合が必要であることが示された。
【表1】

【0144】
実施例8:Δ4-脱飽和脂肪酸の位置分析
基質特異性に加えて、Δ-4-脱飽和脂肪酸の位置も分析した。多価不飽和脂肪酸の位置は栄養生理学的観点から重要である。特にトリアシルグリセリドのsn-2位における不飽和脂肪酸が動物の腸管に速やかに吸収されることが報告されている。ミドリムシ由来のΔ-4-デサチュラーゼの位置特異性を調べる手順は次の通りである。
【0145】
実施例4に記載のように、酵母由来のΔ-4-デサチュラーゼを発現する100mlの酵母培養物に16:1 Δ7、および22:4 Δ7,10,13,16を与えた後、インキュベートした。これらの酵母から全脂質をクロロホルム/メタノール/水抽出(Bligh, E.G.およびDyer, W.J. Can J Biochem Physiol 37:911-917, 1959)により単離し、薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/酢酸65:25:8)により分画した。ホスファチジルコリンをこの薄層プレートから掻き取り、2mlのクロロホルム/メタノール(2/1)で抽出した。抽出したホスファチジルコリンを乾燥させ、50μLの100% Trition-100に懸濁させた。この溶液に、1mlの50mM HEPES、2mM CaCl2および10000単位のリパーゼ(Rhizopus arrhizus delemar, Sigma)を加えた。37℃で2時間のインキュベーション後、この溶液を酢酸(100%)で酸性化し、脂質および遊離脂肪酸をクロロホルム/メタノールで抽出した。遊離脂肪酸と生じたリソホスファチジルコリンを薄層クロマトグラフィーにより分離し、プレートから掻き取り、GCにより分析した。
【0146】
結果は図5に示されている。この結果から、sn-2位はsn-1位よりも20倍好まれることが明らかである。すなわち、sn-2位の脂肪酸の大部分でC4-C5位の脱飽和が起こることを示すことができた。
【0147】
実施例9:酵母および種子からの脂質の抽出
植物、真菌、藻類、繊毛虫における遺伝的改変の、所望の化合物(脂肪酸など)の生産に及ぼす効果は、改変微生物または改変植物を好適な条件下(例えば上記のものなど)で培養し、所望の産物の生産(すなわち、脂質または脂肪酸の生産)が高まっているかどうかについて培地および/または細胞成分を調べることにより、判定することができる。これらの分析技術は当業者に公知であり、分光測定法、薄層クロマトグラフィー、種々のタイプの染色法、酵素的および微生物学的方法、ならびに高速液体クロマトグラフィーなどの分析クロマトグラフィーを含む(例えば、 Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第A2巻,89-90頁および443-613頁, VCH: Weinheim (1985); Fallon, A.,ら, (1987) “Applications of HPLC in Biochemistry“ in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Vol.17; Rehmら (1993) Biotechnology,第3巻,第III章: “Product recovery and purification“, 469-714頁, VCH: Weinheim; Belter, P.A.,ら (1988) Bioseparations: downstream processing for Biotechnology, John Wiley and Sons; Kennedy, J.F.,およびCabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological Materials, John Wiley and Sons; Shaeiwitz, J.A., およびHenry, J.D. (1988) Biochemical Separations, in: Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第B3巻; 第11章, 1-27頁, VCH: Weinheim; ならびにDechow, F.J. (1989) Separation and purification techniques in Biotechnology, Noyes Publications参照)。
【0148】
上述の方法に加えて、植物脂質は植物材料から、Cahoonら (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96 (22):12935-12940、およびBrowseら (1986) Analytic Biochemistry 152:141-145に記載のようにして抽出される。定性的および定量的な脂質または脂肪酸分析は、Christie, William W., Advances in Lipid Methodology, Ayr/Scotland: Oily Press (Oily Press Lipid Library; 2); Christie, William W., Gas Chromatography and Lipids. A Practical Guide - Ayr, Scotland: Oily Press, 1989, Repr. 1992, IX, 307 S. (Oily Press Lipid Library; 1); “Progress in Lipid Research, Oxford: Pergamon Press, 1 (1952) - 16 (1977)(タイトルはProgress in the Chemistry of Fats and Other Lipids CODEN)に記載されている。
【0149】
化合物の全生産効率を求めるには、発酵の最終産物を測定することに加え、中間体および副生成物など、所望の化合物を生産するために用いる代謝経路の他の化合物を分析することもできる。分析方法には、培地中の栄養素(例えば、糖、炭化水素、窒素源、リン酸およびその他のイオン)の量の測定、バイオマス組成物および増殖の測定、生合成経路の通常の代謝物の生産の分析、および発酵中に産生されたガスの測定が含まれる。これらの測定の標準的な方法は、Applied Microbial Physiology; A Practical Approach, P.M. RhodesおよびP.F. Stanbury編, IRL Press,103-129頁; 131-163頁および165-192頁 (ISBN: 0199635773)およびその中に引用されている参照文献に記載されている。
【0150】
一例として、脂肪酸分析(略号: FAME, 脂肪酸メチルエステル;GC-MS, ガス液体クロマトグラフィー-質量分析;TAG, トリアシルグリセロール; TLC, 薄層クロマトグラフィー)がある。
【0151】
脂肪酸産物の存在の明白な検出は、Christieおよびその中に引用されている参照文献(1997, in: Advances on Lipid Methodology, Fourth edition: Christie, Oily Press, Dundee, 119-169; 1998, Gas Chromatography-mass spectrometry methods, Lipide 33:343-353)により従前に記載されているような標準的な分析法:GC、GC-MSまたはTLCによって組換え生物を分析することにより可能である。
【0152】
分析する材料は、超音波処置、ガラスミル中での摩砕、液体窒素および摩砕、またはその他の適用可能な方法により破砕すればよい。この材料は破砕後に遠心分離しなければならない。沈降物を蒸留水に再懸濁させ、100℃で10分間加熱し、氷上で冷却し、再び遠心分離を行い、その後、2%ジメトキシプロパンを含むメタノール中0.5Mの硫酸にて、90℃で1時間抽出すると、油および脂質化合物が加水分解され、トランスメチル化脂質が得られる。これらの脂肪酸メチルエステルを石油エーテル中に抽出し、最後に、キャピラリーカラム(Chrompack, WCOT Fused Silica, CP-Wax-52 CB, 25μm, 0.32mm)を用い、170℃〜240℃の間の温度勾配で20分、240℃で5分のGC分析を行う。得られた脂肪酸メチルエステルが何であるかは、商業的供給源(すなわち、Sigma)から入手できる標品を用いて決定しなければならない。
【0153】
植物材料をまず、抽出されやすいようにするため、乳鉢で摩砕することで機械的にホモジナイズする。
【0154】
次にこれを100℃で10分加熱し、氷上で冷却した後、再び沈降させる。この細胞沈降物を、1Mメタノール性硫酸および2%ジメトキシプロパンにて90℃で1時間にわたり加水分解し、さらに脂質のトランスメチル化を行う。得られた脂肪酸メチルエステル(FAME)を石油エーテル中に抽出する。抽出したFAMEを、キャピラリーカラム(Chrompack, WCOT Fused Silica, CP-Wax-52 CB, 25μm, 0.32mm)を用い、170℃〜240℃の間の温度勾配を用いて20分、そして240℃で5分のガス-液体クロマトグラフィーにより、分析する。脂肪酸メチルエステルが何であるかは、適当なFAME標品(Sigma)と比較することで確認する。二重結合の存在および位置は、例えば、4,4-ジメトキシオキサゾリン誘導体(Christie, 1998)が得られるFAME混合物の適切な化学誘導体化により、GC-MSでさらに分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】DHA(ドコサヘキサエン酸)の生合成の種々の合成経路を示す。
【図2】ミドリムシとヤブレツボカビ属由来のΔ4-デサチュラーゼ(WO 200226946)の配列比較を示す。この2つの配列は35%の同一性を示す。[CLUSTAL W(1.60) マルチプル配列アライメント]
【図3−1】ミドリムシとヤブレツボカビ属由来のΔ4-デサチュラーゼ(WO 200226946)の配列比較を示す。GAPアライメント。
【図3−2】ミドリムシとヤブレツボカビ属由来のΔ4-デサチュラーゼ(WO 200226946)の配列比較を示す。GAPアライメント。
【図4】DPA(ドコサペンタエン酸)を給餌した酵母細胞のGC分析を示す。対照:Δ4-デサチュラーゼを含まない酵母細胞[A]、Δ4-デサチュラーゼを有する細胞(pYES-EGD4-2)におけるDHAへの変換[B]
【図5】Δ4-脱飽和された脂肪酸の位置分析を示す。16:1 Δ7および22:4 Δ7,10,13,16を供給に用いた。変換は%で表す。
【配列表】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1で示される配列を有する核酸配列、
b)遺伝コードの縮重の結果として、配列番号1に含まれるコード配列に由来し得る核酸配列、または
c)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、そして配列番号2とアミノ酸レベルで少なくとも40%の相同性を有し、かつ、Δ-4-デサチュラーゼ活性を有する、配列番号1で示される核酸配列の誘導体、
の群から選択される、Δ-4-デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸配列。
【請求項2】
植物に由来する、請求項1に記載の単離された核酸配列。
【請求項3】
ユーグレナ藻綱に由来する、請求項1または2に記載の単離された核酸配列。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単離された核酸配列によりコードされているアミノ酸配列。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単離された核酸を含んでなる遺伝子構築物であって、該核酸が1以上の調節シグナルに機能的に連結されている、遺伝子構築物。
【請求項6】
核酸構築物が、アシル-CoAデヒドロゲナーゼ、アシル-ACP[=アシル担体タンパク質]デサチュラーゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、アシル-CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、アセチル-補酵素Aカルボキシラーゼ、アシル-補酵素Aオキシダーゼ、脂肪酸デサチュラーゼ、脂肪酸アセチレナーゼ、リポキシゲナーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、アレンオキシドシンターゼ、ヒドロペルオキシドリアーゼまたは脂肪酸エロンガーゼの群から選択される脂肪酸または脂質代謝のさらなる生合成遺伝子を含んでなる、請求項5に記載の遺伝子構築物。
【請求項7】
核酸構築物が、Δ-4-デサチュラーゼ、Δ-5-デサチュラーゼ、Δ-6-デサチュラーゼ、Δ-8-デサチュラーゼ、Δ-9-デサチュラーゼ、Δ-12-デサチュラーゼ、Δ-5-エロンガーゼ、Δ-6-エロンガーゼまたはΔ-9-エロンガーゼの群から選択される脂肪酸または脂質代謝のさらなる生合成遺伝子を含んでなる、請求項5または6に記載の遺伝子構築物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸または請求項5に記載の遺伝子構築物を含んでなるベクター。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つの核酸、請求項5に記載の1つの、または請求項8に記載の1つのベクターを含んでなる、トランスジェニック非ヒト生物。
【請求項10】
微生物、非ヒト動物または植物である、請求項8に記載のトランスジェニック非ヒト生物。
【請求項11】
植物である、請求項9または10に記載のトランスジェニック非ヒト生物。
【請求項12】
多価不飽和脂肪酸を製造する方法であって、ω-3-脂肪酸を特異的に脱飽和するΔ-4-デサチュラーゼをコードする請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸、請求項5に記載の遺伝子構築物、または請求項8に記載のベクターを含んでなるトランスジェニック生物を培養することを含み、その際、Δ-4-デサチュラーゼの活性によってその生物体内でω-3-脂肪酸を増加した量で有する多価不飽和脂肪酸が形成される、方法。
【請求項13】
ドコサヘキサエン酸が生産される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
多価不飽和脂肪酸分子が前記生物から油、脂質または遊離脂肪酸の形態で単離される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記生物が微生物、非ヒト動物または植物である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記生物がトランスジェニック植物である、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法により生産される油、脂質もしくは脂肪酸、またはその画分。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法により生産されるPUFAを含んでなり、かつ、トランスジェニック植物に由来する、油、脂質または脂肪酸組成物。
【請求項19】
動物飼料、ヒト食品、化粧品または医薬品における、請求項17に記載の油、脂質もしくは脂肪酸、または請求項18に記載の油、脂質もしくは脂肪酸組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−522592(P2006−522592A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505010(P2006−505010)
【出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003628
【国際公開番号】WO2004/090123
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(501383750)ビーエーエスエフ プラント サイエンス ゲーエムベーハー (17)
【Fターム(参考)】