説明

メッキ装置

【課題】 複雑な構造を用いることなく、添加剤、特に埋め込み性に影響を及ぼすアクセラレーターの分解を十分に抑制することができるメッキ装置を得る。
【解決手段】 アクセラレーターが添加されたメッキ液を入れるメッキ槽と、含リン銅からなるアノードと、カソードとなる被メッキ基板を支持する支持部と、アノード近傍のメッキ液を加熱する加熱手段と、アノード近傍からカソード近傍へ流れるメッキ液を冷却する冷却手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被メッキ基板に銅メッキ等の金属メッキを施すメッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ等の被メッキ基板に銅メッキ等の金属メッキを施すためにメッキ法が用いられている。メッキ法を用いて製造したCu埋め込み配線を図8に示す。
【0003】
このCu埋め込み配線は次のようにして製造される。まず、半導体基板81に下層電極82を形成する。次に、半導体基板81上にライナー層83及び層間絶縁膜84を形成する。この層間絶縁膜84及びライナー層83をドライエッチングすることでトレンチ部を形成する。そして、全面にTaNバリアメタル層85、Taバリアメタル層86及びシードCu層87を順番に形成する。さらに、全面にCu膜88をメッキ法により形成する。その後、層間絶縁膜84上のCu膜88をCMPで研磨する。
【0004】
ここで、メッキ液には添加剤としてアクセラレーター、サプレッサー及びレベラーが添加される。アクセラレーターは、例えばメルカプド、ジスルフィド等を含有する有機硫黄化合物からなり、光沢剤とも呼ばれ、メッキ面全体に吸着して光沢及び埋め込み性を改善し、Cu膜88にボイド89が形成されるのを防ぐ。また、サプレッサーは、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコールを含有するポリオールエーテルからなり、抑制剤とも呼ばれ、メッキ面全体に吸着して均一電着性を確保する。そして、レベラーは、例えばアミン等を含む窒素有機化合物であり、平滑剤とも呼ばれ、電界が生じた時にカソード反応の電界強度の大きい部分に吸着して析出反応を抑制し、オーバーグロースを低減する。
【0005】
また、アノードとして、安定化のためにリンを含む含リン銅が用いられている。このまま用いると、メッキ液と接触したアノードの表面において、1価の銅が2価の銅と0価の銅になる不均化反応が起こり、メッキ液中の添加剤の分解が促進される。特にアクセラレーターの分解が顕著であるため、埋め込み性が劣化し、Cu膜88にボイド89が形成される。そのため、高価な添加剤の定期的な補充が必要となるばかりでなく、メッキ液中の分解生成物を排出するために添加剤の含まれるメッキ液を排出して新液を補充する必要があり、コストアップの要因になっている。
【0006】
添加剤の分解を抑制するため、カソードとアノードの間に電圧を印加して、アノード表面にブラックフィルムと呼ばれるリン等を含む酸化膜を形成させるメッキ装置が従来より用いられている。しかし、ブラックフィルムだけでは、添加剤の分解を十分に抑制できない。そこで、イオン交換膜又は多孔性中性隔膜を用いてアノード近傍とカソード近傍のメッキ液を分離するメッキ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−319797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来のメッキ装置は構造が複雑で、安定性に問題があり、またアノード近傍とカソード近傍のそれぞれのメッキ液を管理する必要があった。
【0009】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、複雑な構造を用いることなく、添加剤、特に埋め込み性に影響を及ぼすアクセラレーターの分解を十分に抑制することができるメッキ装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るメッキ装置は、アクセラレーターが添加されたメッキ液を入れるメッキ槽と、含リン銅からなるアノードと、カソードとなる被メッキ基板を支持する支持部と、アノード近傍のメッキ液を加熱する加熱手段と、アノード近傍からカソード近傍へ流れるメッキ液を冷却する冷却手段とを有する。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、複雑な構造を用いることなく、添加剤、特に埋め込み性に影響を及ぼすアクセラレーターの分解を十分に抑制することができる。これにより、埋め込み性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るメッキ装置を示す断面図である。円柱状のメッキ槽11内に硫酸銅溶液を主成分とするメッキ液12が入れられている。ただし、メッキ液12には、添加剤としてアクセラレーター、サプレッサー及びレベラーが添加されている。
【0013】
そして、メッキ槽11内には、含リン銅からなるアノード13と、カソードとなる被メッキ基板14を支持する支持部15が設けられている。そして、アノード13はアノード給電点16により給電され、被メッキ基板14はカソード給電点17により給電される。なお、被メッキ基板14表面での気泡のトラップを抑制するため、被メッキ基板14はアノード13に対して傾斜するように支持される。
【0014】
また、メッキ槽11内にメッキ液を供給するためにノズル18が設けられている。図2はノズル18を示す下面図(a)及び断面図(b)である。図示のように、ノズル18は、3方向に分岐し、分岐した枝の下側にメッキ液を噴出する複数の吹き出し口25が設けられている。このようなノズル18からメンブレンフィルター19に向けてメッキ液が吹き出される。
【0015】
そして、メンブレンフィルター19は、アノード13の表面に形成したブラックフィルム(不図示)の剥離により発生する浮遊物が被メッキ基板14に付着するのを防止するために設けられたフィルターである。
【0016】
ノズル18から下方向に吹き出されたメッキ液は、メンブレンフィルター19を通って、メッキ槽11の側壁及びアノード13と接触する。これにより、メッキ液の流れは上方向の流れに変わる。そして、メッキ液は、再びメンブレンフィルター19を通り、更に整流板20を通って被メッキ基板14に到達する。この整流板20は、被メッキ基板14表面でのメッキ液の流れを均一にし、メッキ膜厚の均一性を確保するために設けられている。
【0017】
そして、メッキ液は、被メッキ基板14に到達した後、メッキ槽11の外部にあるタンク21に汲み出される。このタンク21は、150リットルのメッキ液を貯めておくことができる。また、タンク21内のメッキ液はポンプ23により汲み出され、フィルター24を介してノズル18に供給される。
【0018】
さらに、実施の形態1に係るメッキ装置は以下の構成を有する。図3は、実施の形態1で用いられるアノードを示す断面図である。図示のように、アノード13には、加熱手段としてセラミックヒータ26が取り付けられている。このセラミックヒータ26は、アノード13近傍のメッキ液を加熱する。ここで、セラミックヒータ26をアノード13の内部に取り付ける場合は、セラミックヒータ26の耐酸性を考慮する必要はない。一方、セラミックヒータ26をアノード13の外部に取り付ける場合は、セラミックヒータ26の表面をテフロン(登録商標)によりコートする必要がある。
【0019】
また、図4は、実施の形態1で用いられる整流板を示す上面図(a)及び断面図(b)である。整流板20は、上面から見ると同心円状に均一に設けられた複数の開口部27を有する。そして、開口部27を通ってメッキ液がアノード13近傍からカソード近傍に流れる。ただし、整流板20は、その内部に冷却水が導入されて、アノード13近傍からカソード近傍へ流れるメッキ液を冷却する冷却手段となっている。
【0020】
ここで、図5は添加剤の濃度変化の温度依存性を示す図である。図5(a)に示すように、メッキ液の温度が高いほどアクセラレーターの分解が抑制される。メッキ液を高温にすると、図5(b)(c)に示すように、サプレッサー及びレベラーは減少傾向を示す。しかし、サプレッサー及びレベラーの減少量は少なく、アクセラレーターの分解抑制効果の方が大きくなる。
【0021】
そこで、加熱手段であるセラミックヒータ26により、アノード13近傍のメッキ液の温度を25〜45℃とする。このように25℃以上とすることで図5(a)に示すようにアクセラレーターの分解を十分に抑制することができる。また、45℃以下とすることでカソード付近の温度が高くなり過ぎるのを防ぐことができる。より好ましくは、アノード13近傍のメッキ液の温度を30〜40℃とする。
【0022】
また、冷却手段である整流板20により、アノード13近傍からカソード近傍へ流れるメッキ液を冷却して、カソード近傍のメッキ液の温度を20〜30℃にする。これにより、硫酸銅溶液を主成分とするメッキ液を用いた場合に、メッキ反応を適正に行うことができる。
【0023】
以上説明したように、実施の形態1に係るメッキ装置では、メッキ槽内において、メッキ液に温度勾配をつけ、アノード13近傍のメッキ液温度をカソード近傍よりも高くする。より好ましくは、アノード13近傍のメッキ液温度をカソード近傍よりも5℃以上高くする。これにより、複雑な構造を用いることなく、添加剤、特に埋め込み性に影響を及ぼすアクセラレーターの分解を十分に抑制することができる。
【0024】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係るメッキ装置を示す断面図である。図1と同様の構成要素には同じ番号を付し、説明を省略する。
【0025】
実施の形態2に係るメッキ装置では、アノード用ノズル28とカソード用ノズル29の2つのノズルが設けられている。カソード用ノズル29は、図7に示すように上側に吹き出し口33が設けられ、カソード近傍にメッキ液を供給する。一方、アノード用ノズル28は、アノード13近傍にメッキ液を供給する。
【0026】
また、タンク21内のメッキ液を20〜30℃に冷却するために、タンク21内に冷却水を循環させる冷却手段30が設けられている。そして、ポンプ23はタンク21からメッキ液を汲み出してアノード用ノズル28及びカソード用ノズル29に供給する。これにより、カソード用ノズル29は、20〜30℃のメッキ液をカソード近傍に供給するため、硫酸銅溶液を主成分とするメッキ液を用いた場合に、メッキ反応を適正に行うことができる。
【0027】
また、このポンプ23とアノード用ノズル28の間の循環経路に、メッキ液を25〜45℃に加熱する加熱手段としてヒータ31が設けられている。これにより、アノード用ノズル28は、25〜45℃のメッキ液をアノード13近傍に供給するため、アクセラレーターの分解を抑制することができる。
【0028】
さらに、ポンプ23とアノード用ノズル28の間の循環経路に、メッキ液の流量を制限する流量制限手段32が設けられている。この流量制限手段32として、弁やノズル等を用いることができる。これにより、アノード用ノズル28からアノード13近傍に供給されるメッキ液の流量を、カソード用ノズル29からカソード近傍に供給されるメッキ液の流量1/3〜1/4とする。具体的には、メッキ液の流量をカソード近傍では12L/min程度とし、アノード13近傍では4L/min以下にする。このように、アノード13表面への添加剤の供給速度を減らすことで添加剤の分解を抑制することができる。
【0029】
なお、アノード用ノズル28からアノード13近傍に供給されたメッキ液は、メッキ槽11の側壁及びアノード13と接触して上方向に流れ、被メッキ基板14に供給される。従って、メッキに用いるCuの供給源であるアノード13から被メッキ基板14にCuを供給することができる。
【0030】
以上説明したように、実施の形態2に係るメッキ装置では、アノード用ノズルとカソード用ノズルの2つのノズルを設け、アノード近傍に加熱したメッキ液を供給し、またアノード近傍に供給するメッキ液の流量をカソード近傍に供給するメッキ液の流量よりも少なくする。これにより、複雑な構造を用いることなく、添加剤、特に埋め込み性に影響を及ぼすアクセラレーターの分解を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1に係るメッキ装置を示す断面図である。
【図2】実施の形態1で用いられるノズルを示す下面図(a)及び断面図(b)である。
【図3】実施の形態1で用いられるアノードを示す断面図である。
【図4】実施の形態1で用いられる整流板を示す上面図(a)及び断面図(b)である。
【図5】添加剤の濃度の温度依存性を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るメッキ装置を示す断面図である。
【図7】実施の形態2で用いられるノズルを示す断面図である。
【図8】Cu埋め込み配線を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
11 メッキ槽
13 アノード
14 被メッキ基板(カソード)
15 支持部
18 ノズル
20 整流板(冷却手段)
21 タンク
23 ポンプ
26 セラミックヒータ(加熱手段)
28 アノード用ノズル
29 カソード用ノズル
30 冷却手段
31 ヒータ(加熱手段)
32 流量制限手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセラレーターが添加されたメッキ液を入れるメッキ槽と、
含リン銅からなるアノードと、
カソードとなる被メッキ基板を支持する支持部と、
前記アノード近傍のメッキ液を加熱する加熱手段と、
前記アノード近傍から前記カソード近傍へ流れるメッキ液を冷却する冷却手段とを有することを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記アノードに取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のメッキ装置。
【請求項3】
アクセラレーターが添加されたメッキ液を入れるメッキ槽と、
含リン銅からなるアノードと、
カソードとなる被メッキ基板を支持する支持部と、
前記アノード近傍にメッキ液を供給するアノード用ノズルと、
前記カソード近傍にメッキ液を供給するカソード用ノズルと、
前記メッキ液を貯めておくタンクと、
前記タンクから前記メッキ液を汲み出して前記アノード用ノズル及び前記カソード用ノズルに供給するポンプと、
前記ポンプと前記アノード用ノズルの間に設けられ前記メッキ液を加熱する加熱手段とを有することを特徴とするメッキ装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、前記アノード近傍のメッキ液の温度を25〜45℃とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のメッキ装置。
【請求項5】
アクセラレーターが添加されたメッキ液を入れるメッキ槽と、
含リン銅からなるアノードと、
カソードとなる被メッキ基板を支持する支持部と、
前記アノード近傍にメッキ液を供給するアノード用ノズルと、
前記カソード近傍にメッキ液を供給するカソード用ノズルとを有し、
前記アノード用ノズルから供給されるメッキ液の流量は、前記カソード用ノズルから供給されるメッキ液の流量よりも少ないことを特徴とするメッキ装置。
【請求項6】
前記メッキ液を貯めておくタンクと、
前記タンクから前記メッキ液を汲み出して前記アノード用ノズル及び前記カソード用ノズルに供給するポンプと、
前記ポンプと前記アノード用ノズルの間に設けられ、前記メッキ液の流量を制限する流量制限手段とを更に有することを特徴とする請求項5記載のメッキ装置。
【請求項7】
前記アノード用ノズルから供給されるメッキ液の流量は、前記カソード用ノズルから供給されるメッキ液の流量の1/3〜1/4であることを特徴とする請求項5又は6に記載のメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−37140(P2006−37140A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215818(P2004−215818)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】