説明

メラニン生成抑制剤及びこれらを含有する美白用香粧品

【課題】本発明の化合物は、メラニン生成抑制作用を有しており、かつ香粧品の品質を損なうことなく香粧品に対して任意の量を配合することが可能であって、しかも安全であり、美白用香粧品としての使用目的に適したメラニン生成抑制剤を提供することにある。
【解決手段】以下に示す一般式(1)
【化1】


で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤、およびこれらを含有する美白用香粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤、およびそれらを含有する美白用香粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メラニンの生成を抑制するものとしては、細胞毒性によるメラニン生成抑制作用を示すもの、メラノサイト内でのチロシナーゼの活性を抑制するもの、チロシナーゼの発現を抑制するもの、チロシナーゼ活性により生成したドーパキノンから自動酸化によりメラニンに至る経路を抑制するものが知られている。
【0003】
例えば、システイン、グルタチオン、ビタミンC、コウジ酸や、トリコデルマ属に属する微生物の産生物(特許文献1)、絹蛋白質のアルカリ分解物(特許文献2)、乳蛋白質の加水分解物(特許文献3)、コウジ酸のアミノ酸誘導体とペプチド誘導体(特許文献4)、メラニン生成抑制機能を有する香料化合物群(特許文献5)、チロシナーゼ活性阻害機能を有する香料化合物群(特許文献6、特許文献7)、各種植物抽出物等のメラニン生成抑制作用が知られている。
【0004】
しかしながら、これら従来のメラニン生成抑制剤は、ハイドロキノンの様に安全性に問題のあるものや、効果が実用上において満足できないものであったり、自然界に存在しないものであったり、さらには自然界に見つかったとしても、副作用が強く化粧品のイメージにそぐわないものであったり、真に満足できるものとはいえなかった。
【0005】
また有機化学の合成研究や香料の研究において、自然界の植物等に含有される成分を特定し、利用する試みが行われており、本発明の化合物(4−(2,5,6,6−テトラメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン;別名α−イロン)などもその対象として合成方法等も報告されている(特許文献8、9参照)。
【0006】
γ−イロン、α−イロンの前駆物質として知られるイリフロレンタール、イリバリダールのメラニン生成抑制効果が報告されている(特許文献10)が、上記本発明の化合物のメラニン生成抑制効果については未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−145189号公報
【特許文献2】特公昭58−017763号公報
【特許文献3】特開平5−320068号公報
【特許文献4】特開平4−187618号公報
【特許文献5】特開2000−302642号公報
【特許文献6】特開2001−163719号公報
【特許文献7】特開2001−240528号公報
【特許文献8】特開平3−148236号公報
【特許文献9】特表2000−513743号公報
【特許文献10】特開平9−241154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安全で、かつ香粧品中にその品質を損なうことなく、任意の量を配合することができ、香粧品としての使用目的に適したメラニン生成抑制剤、あるいはそれらが配合された美白用香粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は上記事情に鑑み鋭意研究した結果、下記一般式(1)で表される化合物が優れたメラニン生成抑制効果を有することを見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明は、下記一般式(1)
【化1】

で表される化合物を含有するメラニン生成抑制剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のメラニン生成抑制剤は、バイオレット様の香気を有すると共に、メラニン生成抑制効果が高く、安全性に優れ、他の香料素材や香粧品原料と調和しやすいものである。また、日焼け後の色素沈着、しみ、そばかす、肝斑等の予防及び改善に有効な美白用香粧品原料として有用である。香粧品中にその品質を損なうことなく任意の量を配合することができ、香粧品のイメージを高めることもできるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、下記一般式(1)
【化2】

で表される化合物を含有するメラニン生成抑制剤である。
【0012】
本発明の化合物(4−(2,5,6,6−テトラメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン)は、α−イロン(α−irone)と呼ばれ、アヤメ科アヤメ属に分類されるイリスの根茎を洗浄し、剥皮後、天日乾燥後2〜5年間貯蔵したものを粉砕し、溶剤(ベンゼン等)抽出又は水蒸気蒸留して得られる精油(イリスコンクリート)に含有される化合物である。イリスとしては、ムラサキイリス(I.germancia Lam.)、ニオイイリス(I.florentia L.)、シボリイリス(I.pallida L.)等が挙げられる。
【0013】
イリス精油は、2〜3年間貯蔵することにより、脂肪酸臭をともなった粘り強いバイオレット様香気を有するものであり、溶剤抽出されたものはイリスレジノイドと呼ばれ、水蒸気蒸留されたものはイリスコンクリートと呼ばれる。これらのイリス精油は一般的に市販されており、イロンが1〜20質量%程含有されているものである。イロンは、シクロヘキセン環の二重結合の位置によるα、β、γの三異性体が存在することが知られており、本発明の化合物は、そのα体である。前記イリス精油中に含まれるイロンの異性体として、α体が約25質量%、γ体が約75質量%、β体少量が含まれている。尚、採取直後のイリスには、α−イロン、γ−イロンの前駆物質として知られるイリルロレンタール、イリバリダールなどが含まれているが、α−イロン、γ−イロンはほとんど含まれていない。
【0014】
本発明の化合物は、上記特許文献8、9に記載される公知の方法によって合成しても得ることが出来る。本発明のメラニン生成抑制剤には、これらイリス精油を用いることもできるが、不純物による影響を避けるため、それらをカラム精製したもの、又は合成品を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の化合物の異性体として、α−トランス体、α−シス体が存在するが、いずれも用いることが出来る。
【0016】
本発明のメラニン生成抑制剤には、本化合物は単独で使用してもよく、またアルブチン、コウジ酸、アスコルビン酸等、公知のメラニン生成抑制剤と組み合わせて使用することもできる。また、ビタミン、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、冷感剤など、その他の有効成分と組み合わせて使用することもできる。その他、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、イソプレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール類、アボガド油、オリーブ油、ごま油、小麦胚芽油等のトリグリセライド、エステル油、炭化水素、界面活性剤等、香粧品として一般的に利用される成分と組み合わせて使用することができる。
【0017】
本発明のメラニン生成抑制剤は、組成物全量に対し、好ましくは本化合物を50〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%、最も好ましくは75〜100質量%である。
【0018】
本発明のメラニン生成抑制剤は、水性組成物、油性組成物、乳化組成物、液状組成物、固形組成物、粉体組成物、ペースト状組成物など様々な形態とすることができる。
【0019】
本発明のメラニン生成抑制剤は、美白を目的とするファンデーション、化粧水(ローション)、乳液、クリーム、ゲル剤、パック料、シャンプー、リンス、ボディーソープ、洗顔料等の化粧品や石鹸、洗剤その他皮膚外用剤、香料、フレグランスなどの香粧品に添加し、好適に用いることができる。また、香粧品以外であっても、医薬品や飲食品への応用も期待できる。
【0020】
本発明の美白用香粧品は、組成物全量に対し、本化合物を香粧品全量に対し、好ましくは0.001〜20質量%、より好ましくは0.005〜10質量%、最も好ましくは0.5〜5質量%である。当該範囲内であれば、優れたメラニン生成抑制効果が得られ、皮膚刺激性も低く、好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を試験例及び実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。尚、配合量は質量%である。
【0022】
<試験化合物>
試験例及び実施例で用いた試料は下記のものを用いた。
・イリスコンクリート粗分画物
市販のイリスコンクリート(Clos d’aguzon社製、イロン約15%含有)をシリカゲルクロマトにより精製し、イロンを高含有する分画物(α−イロン22%、γ−イロン51.2%含有)を得た。
・4−(2,2,3−トリメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン(別名:γ−イロン)
上記粗分画物をさらに硝酸銀シリカゲルカラムクロマトにてヘキサン/エーテルで展開してγ−イロンを単離した。
・4−(2,5,6,6−テトラメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(別名:α−イロン)
市販のα−イロン(信越化学社製、α−イロン約79%含有)を利用した。
【0023】
メラニン生成抑制効果試験
<試験方法>
B16メラノーマ細胞を培地にて5×104個/mlの懸濁に調整し、3ml(1.5×105個)を6ウェルプレートに分注した。24時間後に、テオフィリンと各濃度サンプルを添加した培地3mlに交換し、3日間培養した。サンプルとしては本発明の化合物(4−(2,5,6,6−テトラメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン)と、陽性コントロールとしてPTU(Phenyl−thiourea)を使用した。その後、細胞内外のメラニンを測定し、その合計量からメラニン生成抑制率を求めた。尚、メラニン生成抑制率は、陰性コントロール(テオフィリン添加、サンプル無添加)に対する相対メラニン生成量として算出した。
【0024】
<細胞外メラニン量測定方法>
培養終了後、培地を遠心分離し上澄み100mlを得た。得られた上澄みは、分光光度計にて405nmの吸光度を測定し、細胞外に分泌したメラニン量を算出した。
【0025】
<細胞内メラニン量測定方法>
ウェルに接着している細胞をリン酸緩衝食塩液(PBS)で洗浄し、trypsin−EDTA液100μlを加え静置する。剥離した細胞をPBSで回収後遠心し、上清を除去した。得られた細胞ペレットはPBSで洗浄後に遠心し、細胞懸濁液をNaOH溶液にて処理し、細胞を溶解させた。溶解液は分光光度計にて405nmの吸光度を測定し、細胞内のメラニン量を算出した。
【0026】
<メラニン生成抑制率(相対メラニン生成量)の計算式>
メラニン生成抑制率(%)=(A−B)/A×100
A:サンプル無添加時(陰性コントロール)の細胞当たりのメラニン合成量
B:サンプル添加時の細胞当たりのメラニン合成量
※ メラニン生成量=細胞外メラニン量+細胞内メラニン量
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から明らかなように、本発明のメラニン生成抑制剤は、メラニン生成抑制効果の知られるPTU以上の高いメラニン生成抑制作用を示した。また、異性体である4−(2,2,3−トリメチル−6−メチレンシクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン(一般式(2)、別名:γ−イロン)、粗分画物と比べて優れたメラニン生成抑制効果を示している。
【0029】
一般式(2)
【化3】

【0030】
実施例1〜5及び比較例1〜3 (スキンローション)
本発明の化合物を含有するスキンローションを以下の方法で調整し、その美白効果および皮膚刺激性について評価を実施した。調整した処方、美白効果及び皮膚刺激性試験の結果について、表2に合わせて示す。
【0031】
<スキンローションの調製法>
水相、アルコール相を各々均一に溶解し、水相とアルコール相とを混合攪拌分散し可溶化を行い、次いで容器に充填する。使用時には内容物を均一に振盪分散して使用する。
【0032】
<試験方法>
太陽光に3時間(1日1.5時間で2日間)曝された被験者20名の前腕屈側部の皮膚を試験部位として、左前腕屈側部皮膚には太陽光に曝された日より試料を、右前腕屈側部皮膚には試料を含まないベースを朝夕それぞれ1回ずつ13週間連続塗布した。連用塗布前後における美白効果、及び塗布期間中における皮膚刺激性について専門判定員により評価した。
【0033】
尚、美白効果の評価結果ついては、ベース塗布部より試料塗布部において美白効果が確認された被験者の人数として示した。また、皮膚刺激性については、塗布部の肌に異常(紅斑・浮腫・痂皮)やピリピリ感を感じた被験者の人数として示した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示した結果より明らかなように、本発明の化合物を含有する実施例は優れた美白効果が確認され、皮膚刺激性も低いことが確認された。それに対し本発明の化合物を含有しない比較例、異性体、粗分画物を含有した比較例では、美白効果がほとんど確認されなかった。
【0036】
以下に本発明の化合物を用いたメラニン生成抑制剤、香粧品の処方例を示す。尚、ここに示したメラニン生成抑制剤、香粧品は単に一例に過ぎず、香調もこれらに限定されずバラエティに富んだ魅力的な香りを発現できる。
【0037】
処方例1 フレグランスオイル(フローラル系調合)
成分 配合量(%)
本発明の化合物(α−イロン) 1
ベルガモットオイル 3
リナロール 1.5
リナリールアセテート 1.5
メチルアンスラニレート 0.2
ペチグレインオイル 0.5
オーランチオール 10%DPG 0.6
アミルアリルグリコレート 1%DPG 0.5
ガルバナムオイル 1%DPG 0.1
シス−3−ヘキセニルアセテート 10%DPG 0.4
ブラックカラントバズアブソリュート 10%DPG 0.6
タジェットオイル 10%DPG 0.8
イランイランオイルエキストラ 3
ベンジルアセテート 5
メチルジヒドロジャスモネート 12
シスジャスモン 10%DPG 1
ジャスミンアブソリュート 0.5
インドール 10%DPG 0.1
アルファヘキシルシンアミックアルデヒド 1.5
フェニルエチルアルコール 5
L−シトロネロール 0.5
ダマセノン 1%DPG 0.5
L−ローズオキサイド 1%DPG 1
ジメチルベンジルカーボニルアセテート 3
ヒドロキシシトロネラール 3.5
リラール 0.5
シクラメンアルデヒド 1.5
シス−3−ヘキセニルサリシレート 4
アルファイソメチルヨノン 10%DPG 0.8
オイゲノール 0.5
メチルオイゲノール 0.5
イソEスーパー 4
ベルトフィックスクール 2
ベチバーアセテート 2
サンダルウッドオイル 1.5
バグダノール 10%DPG 0.8
パチュリーオイル 10%DPG 0.2
エベルニール 10%DPG 0.5
ガラクソリッド 50%ベンジルベンゾエート 8.5
シクロペンタデカノリッド 6
ヘリオトロピン 0.5
クマリン 0.3
バニリン 10%DPG 0.7
エチルバニリン 10%DPG 0.5
ラズベリーケトン 10%DPG 0.5
ガンマウンデカラクトン 10%DPG 0.6
ガンマデカラクトン 10%DPG 0.3
ラブダナムアブソリュート 10%DPG 0.5
ジプロピレングリコール 残量
【0038】
処方例2 スキンローション
成 分 配合量(%)
1.エタノール 8
2.モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.4
3.メチルパラベン 0.1
4.1,3−ブチレングリコール 5
5.N−メチル−L−セリン 0.1
6.火棘抽出物 0.1
7.α−イロン(信越化学社製) 0.1
8.香料 0.01
9.精製水 残 量
【0039】
処方例3 スキンクリーム
成 分 配合量(%)
1.グリセリンモノステアレート 2
2.ミツロウ 1
3.ソルビタンモノステアレート 1
4.ワセリン 4
5.流動パラフィン 12
6.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム 1
7.キサンタンガム 0.2
8.カムカムエキス 0.1
9.メチルパラベン 0.1
10.α−イロン(信越化学社製) 1
11.精製水 残 量
【0040】
処方例4 デイエッセンス
成 分 配合量(%)
1.ステアリン酸 0.3
2.親油性モノステアリン酸グリセリン 2
3.トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン 5
4.パラソルMCX 5
5.パラソル1789 5
6.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム 0.5
7.グリセリン 5
8.ユキノシタエキス 0.1
9.キサンタンガム 0.15
10.二酸化チタン 5
11.α−イロン(信越化学社製) 1
12.精製水 残 量
【0041】
得られたメラニン生成抑制剤、香粧品は、香りのバランスが良く、従来のフローラル系調合香料を用いた香粧品と同様に優れた匂い特性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の化合物は、メラニン生成抑制剤、美白用香粧品として有用である。また、安全性に優れ、かつ香粧品の品質を損なうことなく、香粧品に任意の量を配合することができる。日焼け後の色素沈着、しみ、そばかす、肝斑等の予防及び改善に有効な美白用香粧品として有用である。香粧品以外であっても、医薬品や飲食品への応用も期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

で表される化合物を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
下記一般式(1)
【化2】

で表される化合物を0.005〜10質量%含有することを特徴とする美白用香粧品。

【公開番号】特開2011−157286(P2011−157286A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18963(P2010−18963)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】