説明

モータポンプ

【課題】羽根車とモータ固定子との間に配置される隔壁を熱による変形から防ぐことができるモータポンプを提供する。
【解決手段】モータポンプは、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、羽根車1を収容するポンプケーシング2と、複数の固定子コイル6Bを有するモータ固定子6と、モータ固定子6を収容するモータケーシング3と、羽根車1を支持する動圧軸受10とを備える。動圧軸受10およびモータ固定子6は、羽根車1の吸込側に配置され、モータケーシング2は、羽根車1と固定子コイル6Bとの間に位置する側壁部32と、放射状に延びる複数のリブ36とを有し、側壁部32は複数のリブ36に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石が埋設された羽根車を、モータ固定子が発生する磁界により回転させるモータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石が埋設された羽根車を、モータ固定子が発生する磁界により回転させるモータポンプの従来例として、特許文献1に記載されているポンプが知られている。この特許文献1に記載のモータポンプは、永久磁石が埋設された羽根車と、羽根車に対向して配置されたモータ固定子とを有し、羽根車は1つの球面軸受により回転自在に支持されている。この球面軸受はいわゆる動圧軸受であり、羽根車を回転自在に支持しつつ、傾動自在に支持することが可能となっている。
【0003】
上記モータ固定子は複数の固定子コイルを有しており、これら固定子コイルに三相電流を流すと回転磁界が発生する。この回転磁界は羽根車に埋設されている永久磁石に作用し、羽根車を回転駆動する。ポンプが取り扱う液体がモータ固定子に接触すると漏電してしまうため、モータ固定子と羽根車との間には薄い隔壁が設けられており、液体のモータ固定子への浸入が防止されている。
【0004】
モータ固定子が発生する回転磁界は、上記隔壁を介して羽根車の永久磁石に作用する。この隔壁が金属から形成されていると、回転磁界の通過に伴って渦電流が隔壁に発生し、隔壁の発熱やモータ効率の低下を引き起こしてしまう。そこで、このような渦電流の発生を防ぐため、隔壁は、通常、樹脂から形成されている。樹脂製の隔壁は、固定子コイルが隔壁に接触しても該固定子コイルの電気的絶縁が保たれ、地絡のおそれがないという利点がある。
【0005】
しかしながら、上述したように隔壁は薄く形成されているので、移送される液体が高温であったり、または隔壁の温度が激しく変化するような条件下でポンプが使用されると、熱膨張または収縮によって隔壁が変形してしまう。また、通電によりモータ固定子自体が発熱し、隔壁を熱膨張により変形させるおそれがある。通常、羽根車と隔壁との間の隙間は小さいため、隔壁が変形すると、回転する羽根車が隔壁に接触するおそれがある。
【0006】
さらに、羽根車と隔壁との隙間に滞留している液体は、モータ固定子からの熱を受けて加熱され、運転条件によっては沸点に達して蒸発することがある。液体が蒸発すると、動圧軸受の潤滑が阻害され、軸受が故障してしまう。また、ポンプの取り扱い液中に配管の錆びやごみなどの異物が含まれていると、動圧軸受に異物が入り込み、動圧軸受を破損させるおそれがある。さらに、磁性体からなる異物が液体に含まれていると、これら異物が永久磁石を内蔵した羽根車の表面に堆積し、ついには堆積した異物が隔壁と接触して該隔壁や羽根車を摩耗させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2544825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、羽根車とモータ固定子との間に配置される隔壁を熱による変形から防ぐことができるモータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、複数の永久磁石が埋設された羽根車と、前記羽根車を収容するポンプケーシングと、複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、前記モータ固定子を収容するモータケーシングと、前記羽根車を支持する動圧軸受とを備えたモータポンプであって、前記動圧軸受および前記モータ固定子は、前記羽根車の吸込側に配置され、前記モータケーシングは、前記羽根車と前記固定子コイルとの間に位置する側壁部と、放射状に延びる複数のリブとを有し、前記側壁部は前記複数のリブに固定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい態様は、前記モータケーシングには、前記モータ固定子を収容する収容空間が形成されており、前記モータケーシングは、前記収容空間を形成する内側周壁を有する内枠部と、前記収容空間を形成する外側周壁を有する外枠部を有し、前記複数のリブは、前記内側周壁および前記外側周壁に固定されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記羽根車から吐出された液体を、前記羽根車と前記側壁部との隙間から前記羽根車の液体入口に戻す少なくとも1つの戻り流路を設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記モータケーシングには金属から形成されたモータカバーが取り付けられており、前記モータカバーは前記モータ固定子に接触していることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、冷却液が流れる冷却室が前記モータカバーに取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記羽根車の外周面と前記ポンプケーシングとの内周面との間に配置されたストレーナをさらに備えたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記ストレーナは、前記ポンプケーシングのボリュート室の壁面と前記羽根車の外周面とを滑らかに繋ぐ形状を有する湾曲部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明によれば、モータケーシングの側壁部(隔壁に相当)が複数のリブにより補強されるので、熱による側壁部の変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータポンプを示す断面図である。
【図2】図1に示すモータポンプを矢印A方向から観た図である。
【図3】羽根車に埋設されている永久磁石を示す平面図である。
【図4】図4(a)はモータ固定子を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すB−B線断面図である。
【図5】図5(a)はモータケーシングの平面図であり、図5(b)は図5(a)に示すC−C線断面図であり、図5(c)は図5(b)に示すモータケーシングの一部を矢印Dで示す方向からみた図である。
【図6】戻り流路を示す断面図である。
【図7】戻り流路の他の例を示す断面図である。
【図8】図1に示すモータポンプに冷却室を設けた変形例を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るモータポンプを示す断面図である。
【図10】図9に示すストレーナの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るモータポンプを示す断面図であり、図2は図1に示すモータポンプを矢印A方向から観た図である。このモータポンプは、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、これらの永久磁石5に作用する磁力を発生するモータ固定子6と、羽根車1を収容するポンプケーシング2と、モータ固定子6を収容するモータケーシング3と、羽根車1のラジアル荷重およびスラスト荷重を支持する軸受10とを備えている。モータ固定子6および軸受10は、羽根車1の吸込側に配置されている。
【0016】
ポンプケーシング2とモータケーシング3とは、図2に示す複数の連結ボルト8によって互いに固定されている。ポンプケーシング2とモータケーシング3との間にはシール部材としてのOリング9が設けられている。羽根車1とモータケーシング3とは微小な隙間を介して対向しており、羽根車1は、モータ固定子6により発生する回転磁界が永久磁石5に作用することによって回転する。羽根車1とモータケーシング3との隙間は、互いに接触しない程度でできるだけ小さいことが好ましく、具体的には、0.5mm〜1mmの範囲内で隙間を形成することが好ましい。
【0017】
羽根車1は単一の軸受10によって回転自在に支持されている。この軸受10は液体の動圧を利用した滑り軸受(動圧軸受)である。この軸受10は、互いに緩やかに係合する回転側軸受要素11と固定側軸受要素12の組み合わせから構成される。回転側軸受要素11は、羽根車1に固定されており、羽根車1の液体入口を囲むように配置されている。固定側軸受要素12はモータケーシング3に固定されており、回転側軸受要素11の吸込側に配置されている。この固定側軸受要素12は、羽根車1のラジアル荷重を支持するラジアル面12aと、羽根車1のスラスト荷重を支持するスラスト面12bとを有している。ラジアル面12aは羽根車1の軸心と平行であり、スラスト面12bは羽根車1の軸心に対して垂直である。
【0018】
回転側軸受要素11は環状の形状を有しており、回転側軸受要素11の内周面が固定側軸受要素12のラジアル面12aに対向し、回転側軸受要素11の側面が固定側軸受要素12のスラスト面12bに対向している。回転側軸受要素11の内周面とラジアル面12aとの間、および回転側軸受要素11の側面とスラスト面12bとの間には微小な隙間が形成されている。また、回転側軸受要素11の内周面および側面には、動圧を発生させるための図示しないスパイラル溝が形成されている。
【0019】
羽根車1から吐き出された液体の一部は、羽根車1とモータケーシング3との間の微小な隙間を通って軸受10に導かれる。回転側軸受要素11が羽根車1とともに回転すると、回転側軸受要素11と固定側軸受要素12との間に液体の動圧が発生し、これにより羽根車1が軸受10によって非接触に支持される。固定側軸受要素12は、直交するラジアル面12aおよびスラスト面12bにより回転側軸受要素11を支持しているので、羽根車1の傾動は軸受10により規制される。軸受10(回転側軸受要素11および固定側軸受要素12)は、セラミックまたはカーボンなどの耐摩耗性に優れた材料から形成されている。
【0020】
モータケーシング3には、吸込口15aを有する吸込ポート15が連結されている。この吸込ポート15はフランジ形状を有しており、図示しない吸込ラインに接続される。吸込ポート15、モータケーシング3、および軸受10の中心部には、それぞれ液体流路15b,3a、10aが形成されている。これら液体流路15b,3a、10aは一列に連結され、吸込口15aから羽根車1の液体入口まで延びる1つの液体流路を構成する。ポンプケーシング2の側面には、吐出口16aを有する吐出ポート16が設けられており、回転する羽根車1によって昇圧された液体は、吐出口16aを通って吐き出される。なお、本実施形態に係るモータポンプは、吸込口15aと吐出口16aが直交する、いわゆるエンドトップ型モータポンプである。
【0021】
羽根車1は、滑りやすく、かつ摩耗しにくい非磁性材料から形成されている。例えば、テフロン(登録商標)やPPS(ポリフェニレンスルファイド)などの樹脂や、セラミックが好適に使用される。ポンプケーシング2およびモータケーシング3も羽根車1と同じ材料から形成することができる。なお、軸受10の回転側軸受要素11を省略し、羽根車1の一部にスパイラル溝を形成し、固定側軸受要素12のラジアル面12aおよびスラスト面10bで羽根車1を支持してもよい。
【0022】
図3は羽根車1に埋設されている永久磁石5を示す平面図である。図3に示すように、複数の永久磁石5は環状に配列されており、S極とN極とが交互に配置されている。それぞれの永久磁石5は扇形の形状を有しており、本実施形態では、永久磁石5の数は8つ(すなわち8極)である。図1に示すように、羽根車1には複数の永久磁石5に隣接して環状のマグネットヨーク(磁性体)19が埋設されている。永久磁石5はマグネットヨーク19の吸込側に配置されている。永久磁石5とモータ固定子6とは互いに対向するように配置され、モータ固定子6は羽根車1の吸込側に配置されている。モータ固定子6はモータケーシング3内に配置されており、モータ固定子6が収容される収容空間はモータカバー20によって塞がれている。
【0023】
図4(a)はモータ固定子6を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すB−B線断面図である。図4(a)および図4(b)に示すように、モータ固定子6は、複数の歯6aを有する固定子コア6Aと、これらの歯6aにそれぞれ巻回された固定子コイル6Bと、を有している。歯6aおよび固定子コイル6Bは環状に配列されている。本実施形態では、6つの歯6aにそれぞれ固定子コイル6Bが巻かれており、磁極数は6となっている。羽根車1およびモータ固定子6は、軸受10および吸込口15aと同心状に配列されている。
【0024】
固定子コイル6Bには、3本のリード線17(図2参照)が接続されており、そのリード線17の端子は図示しない駆動回路に接続される。この駆動回路は、スイッチング素子を用いて各固定子コイル6Bに供給する電流のタイミングを制御する機器である。より具体的には、駆動回路は、回転する永久磁石5の位置に基づいて各固定子コイル6Bに供給する電流のタイミングを制御する。永久磁石5の位置を検出する方法としては、ホール素子などの位置センサを用いる方法や、位置センサを用いずに固定子コイル6Bに発生する逆起電力を利用した方法などが挙げられる。本実施形態に係るモータポンプは、位置センサを用いたセンサ駆動方式または位置センサを用いないセンサレス駆動方式のいずれを採用してもよい。
【0025】
上述した駆動回路は、永久磁石5の位置に基づいて固定子コイル6Bへの電流の通電を適宜切り替え、これによって永久磁石5、すなわち羽根車1が回転する。羽根車1が回転すると、液体は吸込口15aから羽根車1の液体入口に導入される。液体は羽根車1の回転によって昇圧され、吐出口16aから吐き出される。羽根車1が液体を移送している間、羽根車1の背面は昇圧された液体によって吸込側に(すなわち吸込口15aに向かって)押圧される。軸受10は、羽根車1の吸込側に配置されているので、羽根車1のスラスト荷重を吸込側から支持する。本実施形態に係る構成によれば、1つの軸受10により羽根車1のラジアル荷重およびスラスト荷重を非接触で支持することができるので、パーティクルを発生させることのないコンパクトなモータポンプを実現することができる。
【0026】
図5(a)はモータケーシング3の平面図であり、図5(b)は図5(a)に示すC−C線断面図であり、図5(c)は図5(b)に示すモータケーシング3の一部を矢印Dで示す方向からみた図である。モータケーシング3は、外枠部30と、内枠部31と、外枠部30および内枠部31を連結する側壁部32とを備えている。外枠部30は、上述した連結ボルト8(図2参照)が挿入される複数の通孔34が形成されている。内枠部31は、略円筒形状を有しており、その中心部には液体が通過する液体流路3aが形成されている。側壁部32は、環状の形状を有しており、内枠部31と外枠部30とは側壁部32によって連結されている。外枠部30には外側周壁30aが形成され、内枠部31には内側周壁31aが形成されている。そして、外側周壁30aと、内側周壁31aと、側壁部32とにより、モータ固定子6が収容される環状の収容空間が形成されている。
【0027】
モータケーシング3は、さらに、側壁部32に固定される複数のリブ36を備えている。これらのリブ36は、側壁部32を横切るように放射状に延びており、かつ周方向に等間隔に配列されている。リブ36は、内側周壁31aおよび外側周壁30aに固定され、内枠部31と外枠部30とを連結している。側壁部32の内側の表面は、放射状に延びるリブ36に固定されており、これにより側壁部32の機械的強度が補強されている。上述した収容空間は、リブ36によって複数のセグメントに仕切られており、これらセグメント内にモータ固定子6の固定子コイル6Bがそれぞれ収容される。リブ36の数は、本実施形態のように、固定子コイル6Bの数と同じであることが好ましい。この場合は、固定子コイル6Bの間に各リブ36が挟まれる。
【0028】
外枠部30、内枠部31、側壁部32、およびリブ36は、一体に形成されている。モータ固定子6の電気的絶縁を確保し、かつ渦電流の発生を防止する観点から、モータケーシング3は非金属材料から構成されている。モータケーシング3を構成する材料としては、樹脂が好ましく使用される。より具体的には、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などの安価な樹脂が使用される。樹脂製のモータケーシング3は、固定子コイル6Bがモータケーシング3に接触しても該固定子コイル6Bの電気的絶縁が保たれ、地絡のおそれがないという利点がある。樹脂でモータケーシング3を形成する方法としては、射出成形が挙げられる。
【0029】
モータケーシング3の側壁部32は、図1に示すように、羽根車1の吸込側の側面に対向して配置される。すなわち、側壁部32は、羽根車1と固定子コイル6Bとの間に位置しており、羽根車1とモータ固定子6とを仕切る隔壁として機能する。モータ固定子6が発生する回転磁界は、側壁部32を通って羽根車1の永久磁石5に到達する。したがって、モータケーシング3の側壁部32は、できるだけ薄いことが好ましい。例えば、モータケーシング3の側壁部32は、数mmの厚さとされる。
【0030】
本実施形態に係るモータポンプは、幅広い範囲の温度(例えば、−40℃〜200℃)の液体を移送または循環する用途に使用される。モータポンプの運転中、モータケーシング3の側壁部32は、モータ固定子6から発生した熱を受ける。これに加え、モータケーシング3の側壁部32は、液体との接触によって加熱または冷却される。このような運転条件下でも、側壁部32は複数のリブ36により補強されているので、熱変形が起こりにくい。したがって、ポンプ運転中における羽根車1とモータケーシング3との接触を防止することができる。
【0031】
さらに、各リブ36は、側壁部32に固定されるのみならず、内枠部31および外枠部30にも固定される。したがって、モータケーシング3全体の剛性を高めることができる。しかも、これらのリブ36は、モータケーシング3の補強部材として機能するのみならず、隣接する固定子コイル6B間の電気的絶縁を確保する絶縁部材としても機能する。すなわち、固定子コイル6Bと同数のリブ36を設けることにより、各リブ36は固定子コイル6Bの間に挟まれることになり、リブ36によって固定子コイル6B間の電気的絶縁が確保される。
【0032】
図5(c)に示すように、モータケーシング3の内枠部31には、複数の(本実施形態では3本の)戻り流路37が形成されている。これらの戻り流路37は、内枠部31の内周面に溝として形成されている。戻り流路37は、リブ36の径方向内側に設けることが好ましい。これは、リブ36の端部には隅肉部(肉厚部)が設けられており、溝としての戻り流路37を形成しつつ、モータケーシング3の強度を確保することができるからである。
【0033】
図6は戻り流路37を示す断面図である。図6に示すように、戻り流路37は、羽根車1とモータケーシング3との間の隙間から、液体流路まで延びている。したがって、羽根車1によって昇圧された液体の一部は、羽根車1とモータケーシング3との隙間および戻り流路37をこの順に通って羽根車1の液体入口に戻される。羽根車1とモータケーシング3との隙間を通過した液体の一部は、軸受10の回転側軸受要素11と固定側軸受要素12との間に入り込み、羽根車1の支持に必要な動圧を発生させる。
【0034】
戻り流路37は、軸受10に十分な液体を供給するために設けられている。軸受10の回転側軸受要素11と固定側軸受要素12との間に液体が十分に存在しないと、軸受10が焼きつくおそれがある。特に、モータ固定子6の発熱や流体摩擦により、羽根車1とモータケーシング3との隙間にある液体が沸騰すると、回転側軸受要素11と固定側軸受要素12との間の液体が枯渇してしまう。そこで、本実施形態では、戻り流路37を設けることによって、羽根車1の吸込側側面とモータケーシング3との隙間に液体の流れが常に形成されるようにしている。この戻り流路37を設けることによって、モータ固定子6からの熱による液体の蒸発が抑制され、軸受10は羽根車1の支持に十分な動圧を発生させることができる。
【0035】
なお、戻り流路37の数が増えるに従って、ポンプ性能は低下するため、戻り流路37の数はリブ36の数と同じである必要はない。本実施形態では、6つのリブ36に対して3つの戻り流路37が設けられている。図6に示す戻り流路37に代えて、図7に示すように、羽根車1の側面(吸込側の面)と軸受10の回転側軸受要素11との間に戻り流路37を設けてもよい。この例においても、羽根車1によって昇圧された液体の一部は、羽根車1とモータケーシング3との隙間および戻り流路37をこの順に通って羽根車1の液体入口に戻される。
【0036】
図1に示すように、モータ固定子6は、モータケーシング3とモータカバー20とによって挟まれている。モータカバー20は、モータ固定子6の収容空間を塞ぐカバープレート20aと、カバープレート20aの表面からモータ固定子6に向かって突出する固定リング20bとを備えている。これらのカバープレート20aと固定リング20bとは一体に形成されている。カバープレート20aは、全体として円盤形状であり、その中央には吸込ポート15が挿入される孔が形成されている。固定リング20bはモータ固定子6の固定子コア6Aに接触しており、モータ固定子6をモータケーシング3の側壁部32に対して押圧する。このように、モータカバー20は、モータ固定子6の収容空間の蓋として機能するのみならず、モータ固定子6の位置を固定する固定部材としても機能する。
【0037】
モータカバー20はステンレスなどの金属から構成されている。モータカバー20を金属で構成する理由は次の通りである。モータ固定子6の固定子コイル6Bに電流を流すと、固定子コイル6Bが発熱する。熱の一部はモータケーシング3の側壁部32を介して液体に伝達され、他の一部はモータケーシング3およびモータカバー20を介して外気に放散される。しかしながら、モータケーシング3およびモータカバー20のいずれもが樹脂から構成されていると、樹脂の熱伝導率が低いために、モータ固定子6で発生した熱を効率よく放散することが困難となる。
【0038】
そこで、本実施形態のモータポンプでは、モータカバー20を金属により構成し、モータ固定子6で発生した熱をモータカバー20を介して効率よく外気に逃がすように構成されている。モータカバー20の固定リング20bはモータ固定子6に接触しているので、モータ固定子6の熱は、モータカバー20に伝達され、さらにモータカバー20から外気に放散される。なお、カバープレート20aと固定リング20bとを別部材としてもよい。この場合も、カバープレート20aと固定リング20bは、いずれも金属から形成される。
【0039】
本実施形態に係るモータポンプでは、取り扱い液に接触する構成部材(以下、接液部材という)には金属は使用されていない。すなわち、接液部材である吸込ポート15、ポンプケーシング2、モータケーシング3、軸受10、羽根車1、吐出ポート16には、すべて耐薬品性の高い樹脂またはセラミックが使用されている。好ましい樹脂の例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などのフッ素樹脂、またはPPS(ポリフェニレンスルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などが挙げられる。
【0040】
上述したモータカバー20の中央に形成された孔には吸込ポート15が挿入されており、モータカバー20と吸込ポート15とは別の部材として構成されている。したがって、金属から形成されたモータカバー20はポンプの取り扱い液には接触しない。このように、本実施形態に係るモータポンプは接液部材に金属を使用していないので、腐食性の高い薬液や、金属イオンの流出を避けなければならない超純水の移送に使用することができる。
【0041】
モータ固定子6の冷却効率を向上させるために、図8に示すように、モータカバー20に冷却室40を設けてもよい。図8は、図1に示すモータポンプに冷却室40を設けた変形例を示す図である。図8に示すように、冷却室40は、モータカバー20の外側の表面に取り付けられている。この冷却室40は環状の形状を有しており、冷却液入口40Aと冷却液出口40Bとを有している。冷却液(例えば冷却水)は、図示しない冷却液供給源から冷却液入口40Aを通じて冷却室40に流入し、冷却室40の内部を流れて冷却液出口40Bから排出される。このような構成によれば、モータ固定子6で発生した熱は、金属製のモータカバー20を通じて冷却液に伝達されるので、モータ固定子6の熱をモータポンプの外部に効率よく逃がすことができる。
【0042】
図9は、本発明の他の実施形態に係るモータポンプを示す断面図である。なお、特に説明しない本実施形態の構成は図1に示すモータポンプの構成と同様である。
ポンプの取り扱い液中に配管の錆びやごみなどの異物が含まれていると、動圧軸受である軸受10に異物が進入し、軸受10を破損させるおそれがある。さらに、磁性体からなる異物が液体に含まれていると、これら異物が永久磁石5を内蔵した羽根車1の表面に堆積し、ついには堆積した異物がモータケーシング3の側壁部32と接触して側壁部32や羽根車1を摩耗させてしまう。
【0043】
そこで、液体から異物を取り除くストレーナ50が羽根車1の外周面とモータケーシング3の内周面との間に配置されている。このストレーナ50は、メッシュが形成された金属プレートからなるフィルタである。メッシュのサイズは、1μm〜100μmであり、好ましくは10μm〜20μmである。図10は、図9に示すストレーナ50の断面図である。ストレーナ50は環状であり、より具体的には、軸方向の長さが短い円筒形状を有している。ストレーナ50の先端は、径方向内側に折り曲げられて湾曲部50aを構成している。この湾曲部50aは、ポンプケーシング2のボリュート室2aの壁面位置に合わせて形成されている。
【0044】
羽根車1の外周面とポンプケーシング2の内周面との間には液体が通る隙間が形成されており、この隙間にストレーナ50が挿入される。ストレーナ50の外周面がポンプケーシング2の内周面に嵌合することで、ストレーナ50の位置が固定される。ストレーナ50の湾曲部50aは、羽根車1の外周面とポンプケーシング2の内周面との隙間を塞ぐように形成され、これにより、隙間を通過する液体から異物がストレーナ50によって除去される。ストレーナ50を通過した液体は、羽根車1とモータケーシング3の側壁部32との隙間を通って軸受10に導かれる。したがって、異物が軸受10に進入することがなく、軸受10の性能が維持される。このように、本実施形態によれば、羽根車1を支持する軸受(動圧軸受)10に異物が進入することを防いで、軸受10の性能を維持することができるモータポンプを提供することができる。
【0045】
ストレーナ50の湾曲部50aは湾曲した断面を有しており、ポンプケーシング2のボリュート室2aの壁面に滑らかに接続される形状となっている。さらに、湾曲部50aの先端は、羽根車1の外周面に近接して配置される。すなわち、ストレーナ50はボリュート室2aの壁面から羽根車1の外周面まで延び、湾曲部50aの全体がボリュート室2aの壁面と羽根車1の外周面とを滑らかに繋ぐ形状となっている。羽根車1から吐き出された液体の大部分は、遠心力によりボリュート室2aおよびストレーナ50に沿って周方向に高速で回転し、ストレーナ50に一旦捕捉された異物は液体の流れによって洗い流され、吐出口16aから液体とともに排出される。したがって、ストレーナ50のメッシュに異物が詰まりにくく、ストレーナ50のメンテナンスが不要となる。さらに、上述した形状を有するストレーナ50の湾曲部50aはボリュート室2aの壁面の延長部を構成するので、ボリュート室2aでの液体の乱流が抑制され、ポンプ性能が改善される。
【0046】
図1乃至図10を参照して説明したモータポンプは、吸込口と吐出口が直交する、いわゆるエンドトップ型モータポンプであるが、吸込口と吐出口と羽根車が直線上に並ぶインライン型モータポンプにも本発明は適用可能である。
【0047】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 羽根車
2 ポンプケーシング
3 モータケーシング
5 永久磁石
6 モータ固定子
10 軸受
11 回転側軸受要素
12 固定側軸受要素
15 吸込ポート
15 吐出ポート
20 モータカバー
30 外枠部
31 内枠部
32 側壁部(隔壁)
36 リブ
37 戻り流路
40 冷却室
50 ストレーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の永久磁石が埋設された羽根車と、
前記羽根車を収容するポンプケーシングと、
複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、
前記モータ固定子を収容するモータケーシングと、
前記羽根車を支持する動圧軸受とを備えたモータポンプであって、
前記動圧軸受および前記モータ固定子は、前記羽根車の吸込側に配置され、
前記モータケーシングは、前記羽根車と前記固定子コイルとの間に位置する側壁部と、放射状に延びる複数のリブとを有し、前記側壁部は前記複数のリブに固定されていることを特徴とするモータポンプ。
【請求項2】
前記モータケーシングには、前記モータ固定子を収容する収容空間が形成されており、
前記モータケーシングは、前記収容空間を形成する内側周壁を有する内枠部と、前記収容空間を形成する外側周壁を有する外枠部を有し、
前記複数のリブは、前記内側周壁および前記外側周壁に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のモータポンプ。
【請求項3】
前記羽根車から吐出された液体を、前記羽根車と前記側壁部との隙間から前記羽根車の液体入口に戻す少なくとも1つの戻り流路を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のモータポンプ。
【請求項4】
前記モータケーシングには金属から形成されたモータカバーが取り付けられており、前記モータカバーは前記モータ固定子に接触していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータポンプ。
【請求項5】
冷却液が流れる冷却室が前記モータカバーに取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のモータポンプ。
【請求項6】
前記羽根車の外周面と前記ポンプケーシングとの内周面との間に配置されたストレーナをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のモータポンプ。
【請求項7】
前記ストレーナは、前記ポンプケーシングのボリュート室の壁面と前記羽根車の外周面とを滑らかに繋ぐ形状を有する湾曲部を有することを特徴とする請求項6に記載のモータポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−106323(P2011−106323A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261525(P2009−261525)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】