説明

モータ制御システムとそのパラメータ調整方法

【課題】 負荷位置の出力が常時計測できない場合においても、モータ位置および負荷位置を振動させず、また、制御対象の非線形特性を補償する補償器または制御器のパラメータ調整を容易にかつ短時間にでき、負荷を安定にかつ負荷位置を位置指令に追従させて駆動できるモータ制御システムとそのパラメータ調整方法を提供する。
【解決手段】 位置指令を入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器101と、前記第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタ102と、を備え、前記第2補正位置指令に基づいて制御対象を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットや工作機械などを駆動するモータを制御するモータ制御システムに関し、特に、制御対象(モータと負荷)が不感帯のような非線形特性を有する場合に有効なモータ制御システムとそのパラメータ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械に存在する不感帯を補償する従来の制御装置は、リミットサイクルから不感帯幅を推定し、この推定結果を用いて不感帯を補償するオンライン補償器がある。(例えば、特許文献1参照)。また、大流量型の油圧サーボ弁を有する油圧駆動系において、油圧サーボ弁を持つ不感帯を補償し、応答性、制御精度を向上させることを目的とした油圧駆動制御装置もある。(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
図8は、特許文献1における非線形な制御対象を制御する非線形システムの全体構成を示すブロック図であり、目標位置ymと機械位置yの偏差をPID制御部801に供給し、PID制御部801からの出力uinvが補償器802に供給され、補償器802からの出力uが制御対象803に供給されている。さらに、制御対象803の出力vが積分器804に供給され、積分器804から機械位置yが出力される。目標値ym、機械位置yおよび補償器802の出力uがリミットサイクル監視部805に供給され、リミットサイクル監視部805、推定部806および1次フィルタ807によりオンライン補償器を構成する。
【0004】
図9は、特許文献2における油圧駆動系の制御ループの全体構成示すブロック図であり、指令値Sと油圧機器905からの出力である変位量を加算部901に入力し、ゲインKpの増幅部902に供給する。増幅部902の出力は見かけ上のサーボ指令値c*として不感帯補償部903に与えられる。不感帯補償部903は、見かけ上のサーボ指令値c*に対応したサーボ指令値cを油圧サーボ弁904に与える。油圧サーボ弁904では与えられたサーボ指令値cにもとづいて動作し、これによって得られる油圧で被駆動部としての油圧機器905が駆動される。
また、油圧駆動905の変位量は変位センサで検出され、油圧駆動系は偏差eをゼロにするようなフィードバック制御を行う。
【特許文献1】特開平08−314502号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献2】特開平05−231402号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械に存在する不感帯を補償する従来の制御装置は、フィードバック制御内部に不感帯補償器を入れており(例えば、特許文献1におけるオンライン補償器、特許文献2における不感帯補償部)、機械位置の直接観測により機械位置の振動を抑制できた。さらに、オンラインで不感帯補償器のパラメータ修正する場合においても、出力波形を確認できるので、制御系の安定性が崩れても、制御系を安定にすることも可能であった。
しかし、本発明が対象としているロボットなどでは、ロボットの負荷位置を常時計測できず、モータに取り付けられているエンコーダ信号(モータ位置)を使って制御することが一般的である。このように負荷位置の出力が常時計測できない場合には、不感帯補償器がフィードバックループに入っていた場合、モータ位置を振動しないように制御できたとしても、負荷位置が振動しているという問題がある。また、不感帯補償器は非線形特性を有する補償器が一般的であり、非線形制御を考慮した制御器のパラメータ調整は難しく、調整時間がかかるという問題もある。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、負荷位置の出力が常時計測できない場合においても、モータ位置および負荷位置を振動させず、また、制御対象の非線形特性を補償する補償器または制御器のパラメータ調整を容易にかつ短時間にでき、負荷を安定にかつ負荷位置を位置指令に追従させて駆動できるモータ制御システムとそのパラメータ調整方法を提供することを目的とする。
すなわち、制御対象(モータと負荷)をモデル化したものの逆伝達関数と、ローパスフィルタによるフィルタと、不感帯補償器と、をフィードバックループの外に配置することにより、位置速度制御のパラメータと、フィルタと、不感帯補償器のパラメータと、を独立に調整でき、調整時間が短縮できると共に、位置速度制御系が安定であれば、フィルタと不感帯補償とを通過した補正位置指令が発散しない限りにおいては、負荷位置が発散することはないので、負荷を安定に駆動できるモータ制御システムとそのパラメータ調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムにおいて、前記位置指令を入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器と、前記第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタと、を備え、前記第2補正位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記不感帯補償器が、前記機構あるいは前記負荷における非線形特性の逆関数であるものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記機構あるいは前記負荷における非線形特性が、不感帯であって、前記不感帯補償器が、前記位置指令の符号に基づいて前記位置指令に不感帯幅に相当するパルスを加減算し、前記第1補正位置指令を出力するものである。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記フィルタが、前記制御対象の数式モデルの逆伝達関数と、ローパスフィルタと、で構成されるものである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記フィルタが、前記制御対象の共振および反共振周波数に基づいて、そのパラメータを調整されるものである。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記モータ制御システムが、モータ位置、モータ速度、モータトルクのいずれか1つを計測する第1のセンサと、負荷位置、負荷速度、負荷加速度のいずれか1つを計測する第2のセンサと、を備え、前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号とを入力し、前記不感帯補償器または前記フィルタの各パラメータを調整されるものである。
請求項7に記載の発明は、位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムにおいて、モータ位置の振動周波数と負荷位置の振動周波数とが、異なるものである。
請求項8に記載の発明は、位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムのパラメータ調整方法において、前記位置指令を入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器のパラメータを、前記位置指令の符号に基づいて調整し、前記第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタのパラメータを、前記制御対象の共振および反共振周波数に基づいて調整するのである。
また、請求項9に記載の発明は、請求項8記載の発明における前記モータ制御システムが、モータ位置、モータ速度、モータトルクのいずれか1つを計測する第1のセンサと、負荷位置、負荷速度、負荷加速度のいずれか1つを計測する第2のセンサと、を備え、前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号とを入力し、前記不感帯補償器または前記フィルタの各パラメータを調整するのである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1,7,8に記載の発明によると、負荷位置の出力が常時計測できない場合においても、モータと負荷の間、もしくは負荷側に不感帯が存在する場合でも、負荷振動を抑制することができる。また、制御対象(モータと負荷)をモデル化したものの逆伝達関数と、ローパスフィルタによるフィルタと、不感帯補償器と、をフィードバックループの外に配置するので、位置速度制御のパラメータと、フィルタと、不感帯補償器のパラメータと、を独立に調整することができ、調整時間が短縮できる。また、位置速度制御系が安定であれば、フィルタと不感帯補償とを通過した補正位置指令が発散しない限りにおいては、負荷位置が発散することはないので、負荷を安定にかつ負荷位置を位置指令に追従させて駆動することができる。
また、請求項2または3に記載の発明によると、不感帯による機械振動を抑制することができる。
また、請求項4または5に記載の発明によると、制御対象(モータ+負荷)の振動を励起することがないので、機械振動を抑制できる。
また、請求項6または9に記載の発明によると、パラメータ調整のときにのみ、機械位置などを計測することにより、最適調整と調整時間短縮を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明におけるモータ制御システムの全体構成を示すブロック図である。図において、位置指令を出力する指令器100と、位置指令を入力して第1補正位置指令を出力する不感帯補償器101と、第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタ102と、から構成される部分(図中点線部分)を、フィードバックループの外側に備えている。
また、第2補正位置指令とモータ位置106を入力し位置偏差を出力する加算器103と、位置偏差を入力し電流指令を出力する制御器104と、電流指令を入力してモータ位置を出力するモータ105と、を備え、モータ105のモータ軸端にギア等を介して大きな力を発生させ、負荷108を駆動する。
なお、モータ105と負荷108とを連結するギア等は不感帯107のような非線形特性を有する。
【0010】
図1におけるモータ制御システムの全体構成のモデルを用いて、シミュレーションした条件およびその結果を説明する。
シミュレーション結果は、図2(a)、図2(b)に波形の全体図(縦軸:パルス、横軸:時間)を表し、図3(a)〜図3(d)に波形の部分拡大図(縦軸:パルス、横軸:時間)を表す。これらは、往復動作後の初期位置に戻ったときの負荷位置とモータ位置の波形を表している。
シミュレーションにおける条件は、次の通りである。図1における指令器100では速度台形波を積分し、パルス換算した位置指令が出力されるものとする。速度台形波は、最大速度500(1/min)、加速・減速時間100msで往復動作の指令とした。図1における制御器104は位置P速度PI制御とし、位置制御ゲインは100(1/s)、速度積分時間は0.5ms、速度制御ゲインは100Hzとした。図1における制御対象はモータ105と負荷108による2慣性系とし、2慣性系の振動周波数は30Hz、モータイナーシャに対する負荷のイナーシャは3倍とした。
【0011】
図2(a)は図1における不感帯補償器101とフィルタ102(2慣性モデルの逆伝達関数+ローパスフィルタ)を入れない場合の波形全体図、図2(b)は不感帯補償器101とフィルタ102を入れた場合の波形全体図である。
不感帯補償器101とフィルタ102を入れてパラメータ調整すると、図2(b)のようにモータ位置、負荷位置共に振動がなくなる。一方、本発明を使用しない場合(図2(a))にはモータ位置は数パルスの振動が発生し、負荷位置は±200パルス程度の振動が発生していることがわかる。
【0012】
さらに、不感帯補償器101のみの場合、フィルタ102のみの場合、本発明を使用した場合の差異を調べた結果を図3a〜図3dに表す。
図3(a)は図1における不感帯補償器101とフィルタ102(2慣性モデルの逆伝達関数+ローパスフィルタ)を入れない場合の波形部分拡大図、図3(b)は不感帯補償器101のみを入れた場合の波形部分拡大図、図3(c)はフィルタ102のみを入れた場合の波形部分拡大図、図3(d)は不感帯補償器101とフィルタ102を入れた場合の波形部分拡大図である。
図3(a)および図3(b)において、モータ位置、負荷位置ともに振動し、結果に差異が見られない。また、図3(c)において、図3(a)、3(b)に比べて、モータ位置、負荷位置共に、振動が抑制されている事がわかる。更に、図3(d)に示すように目標位置0に対して、負荷位置に5パルス程度のオーバーシュートが見られるが、振動がなくなり改善されている事がわかる。
なお、このシミュレーションで使用した指令パラメータ、物理パラメータ、制御パラメータ等の条件は一例である。このパラメータに制約を受けることなく、本発明は実施可能である。
【0013】
図4は、本発明を理論的に説明したモータ制御システムの全体構成を示すブロック図である。図において、位置指令rを入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器401と、第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタ(負荷の逆伝達関数)402と、第2補正位置指令と制御対象(G)404の出力である制御対象位置の偏差を入力し制御対象駆動指令を出力する制御器(K)403と、制御対象駆動指令を入力し制御対象位置を出力する第1の制御対象(G)404と、第1の制御対象404と第2制御対象(G2)406の間に取り付けられたギア等の非線形特性を有する不感帯405と、から構成される。
位置指令rから第2制御対象出力yまでの伝達関数Gall(s)は、式(1)となる。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、第1の制御対象404と制御器403の閉ループ制御系のカットオフ周波数までの応答を評価した場合、GK/(1+GK)は低周波からカットオフ周波数までは1と見なす事ができるので、式(1)はGNG−1−1と表現される。さらに、整理すると式(1)は1となり、位置指令rは第2制御対象出力yに一致する。
ただし、この式(1)は簡略化した数式表現であり、第1の制御対象404、制御器403及びフィルタ402などの遅れが存在するので、完全追従を表すものではない。しかし、遅れが存在したとしても、第2制御対象406は位置指令rに追従させる事が可能である事を表している。
一方、本発明の不感帯補償401やフィルタ402が無い場合で、上記と同様にカットオフ周波数までの応答を評価すると、位置指令rから第2制御対象出力yまでの伝達関数にGNが残ってしまい、位置指令rを第2制御対象出力yに追従させることは不可能となる。
【0016】
図5は、図1における不感帯補償器101の構成図を表す。不感帯補償器101は、モータ105と負荷106との間、もしくは負荷側に存在する不感帯(非線形特性)をモデル化し、不感帯(非線形特性)の入力に対する出力の関係を、出力に対する入力という関係に変換したもの(非線形特性の逆関数)である。
また、不感帯補償器101は、位置指令を入力されると、位置指令の符号が正ならば、位置指令にαパルスを加算し、位置指令の符号が負ならば、位置指令にβパルスを減算して、第1の補正位置指令を出力する。
ここで、図1における指令器100をパソコンとする場合には、位置指令を作成するソフトウェアの一部に不感帯補償器101と、フィルタ102をプログラムとして追加し、上記設定パラメータα、βは、ソフトウェア画面上で設定する。ここで示したα、βパルスとは、入力値が出力値に表れるまでの不感帯幅に相当する。このα、βは制御対象に合わせて、設定すればよい。
【0017】
図6は、図1におけるフィルタ102のブロック図を表す。フィルタ102は、モータに接続された負荷とモータで構成される機械(制御対象)を数式モデルで表し、その数式モデルの逆伝達関数とローパスフィルタで構成されるものである。
ブロック図のa,a,aは、モータ105と負荷108による機械振動系を2慣性振動系で近似した際の反共振周波数を表すパラメータであり、b,b,bは、2慣性振動系で近似した際の共振周波数を表すパラメータである。このa,a,a,b,b,bに関するフィルタ102は、機械振動を励起させないことを目的としている。
,a,a,b,b,bのパラメータ設定において、b,b,bの設定が最も重要であり、モータ位置、モータ速度等応答波形から振動成分を抽出するか、モータトルクを入力としモータ速度を出力とする周波数特性をFFT解析等から取得し、周波数特性の共振周波数と反共振周波数から、パラメータを決定すればよい。
モータトルクからモータ速度までの伝達関数G(s)は、式(2)となる。a,a,a,b,b,bのパラメータは、式(2)で求める事ができる。
【0018】
【数2】

【0019】
式(2)において、Jはモータイナーシャ、Jは負荷イナーシャ、Dは機械振動系の粘性定数、Kは機械振動系のバネ定数である。また、ζr、ζaはそれぞれ、共振、反共振点の深さを表すものであり、ωr、ωaは共振周波数と反共振周波数を(rad/s)単位で表したものである。
【0020】
図6において、Tは一次のローパスフィルタの時定数である。ローパスフィルタは、第1補正位置指令の不連続なパルス指令を緩和することを目的としている。この図1におけるフィルタ102は、前述したように、図1における指令器101をソフトウェアとして実現したときのプログラムの一部として追加すればよく、その際、フィルタ102はラプラス演算子で表すのではなく、式(3)のように差分演算することにより、プログラムでフィルタ102を書き表す事ができる。
【0021】
【数3】


式(3)において、k〜kは式(2)を差分演算した際に換算されたパラメータa,a,a,b,b,bに相当する。
【0022】
図7は、モータ制御システムの装置構成を示す図である。パソコン701の内部で第2補正位置指令を生成し、第2補正位置指令生成はパソコン内部のソフトウェアとして実現する。第2補正位置指令はソフトウェア内部のプログラムの一部で実現した、図1における不感帯補償101とフィルタ102を通過して生成されたものである。第2補正位置指令は、指令ケーブル702を通してモータアンプ703に入力される。モータアンプ703では、第2補正位置指令とモータエンコーダケーブル704を通過して得られたモータ位置の偏差からモータ電流を生成し、モータ705にモータケーブル706を経由してモータ電流が印加される。モータ705は、モータ電流に従って駆動され、モータ705の軸端に取り付けられたギア707を介して負荷(以後ロボットアームとする)708を駆動する。ロボットアーム708の先端に負荷位置計測器709を取り付け、負荷位置計測器709からのセンサ信号はセンサケーブル710を介して、パソコン701に入力する。負荷位置計測器709のセンサ信号以外に、モータトルク、モータ速度、モータ位置の少なくともいずれかはアンプケーブル711を介してパソコン701に入力する。
【0023】
次に、図1における不感帯補償器101とフィルタ102のパラメータ調整方法を説明する。
まず、不感帯補償器101やフィルタ102はオフとしておき、パソコン701からチャープ信号を発生させ、チャープ信号をモータアンプ703に入力する。ここで、チャープ信号とは、低周波から高周波へまたは、高周波から低周波へ(サイン)波形を過渡的に変えていく信号をいい、機械の共振周波数を通過する時間が短いので、大きな振動を発生させることがなく、共振・反共振周波数を測定する場合にチャープ信号を利用することが多い。この時得られたモータトルクとモータ速度をパソコン701に取り込む。モータトルクとモータ速度のデータを利用して、パソコン701の内部でFFT解析し、モータ705、ギア707、ロボットアーム708で構成される機械の共振反共振周波数、および粘性定数を求め、式(2)および(3)からフィルタパラメータa,a,a,b,b,bを決定する。
【0024】
次に、不感帯補償器101のパラメータを決定する。この時、フィルタ102はオンとし、先ほど求めたパラメータa,a,a,b,b,bを設定する。さらに、適当な位置指令(例えば、前述のシミュレーションに用いた速度台形波を用いればよい)を生成し、モータアンプ703に入力し、モータ707を駆動し、モータ駆動中の負荷位置計測器709の負荷位置データを取得する。負荷位置計測器709とは、例えば加速度センサなどが利用できる。加速度センサの場合には、加速度センサ信号を2階積分した結果が位置情報となるので、この位置情報はセンサケーブル710を介してパソコン701に取り込み、ロボットアーム708の振動振幅が最小になるように、不感帯補償器101のパラメータα,βを決定する。
なお、前述したシミュレーション結果では、負荷位置が振動する場合には、モータ位置も同じ周波数で振動している事がわかっている。よって、モータ位置の振動周波数が負荷位置の振動周波数と異なるような波形になれば、不感帯補償器101の最適なパラメータ調整ができていると判断する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明におけるモータ制御システムの全体構成を示すブロック図
【図2】(a)本発明を用いない場合のシミュレーション結果(全体波形図)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムにおいて、
前記位置指令を入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器と、
前記第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタと、を備え、
前記第2補正位置指令に基づいて前記制御対象を駆動することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項2】
前記不感帯補償器が、前記機構あるいは前記負荷における非線形特性の逆関数であることを特徴とする請求項1記載のモータ制御システム。
【請求項3】
前記機構あるいは前記負荷における非線形特性が、不感帯であって、
前記不感帯補償器が、前記位置指令の符号に基づいて前記位置指令に不感帯幅に相当するパルスを加減算し、前記第1補正位置指令を出力するものであることを特徴とする請求項1記載のモータ制御システム。
【請求項4】
前記フィルタが、前記制御対象の数式モデルの逆伝達関数と、ローパスフィルタと、で構成されるものであることを特徴とする請求項1記載のモータ制御システム。
【請求項5】
前記フィルタが、前記制御対象の共振および反共振周波数に基づいて、そのパラメータを調整されるものであることを特徴とする請求項1記載のモータ制御システム。
【請求項6】
前記モータ制御システムが、モータ位置、モータ速度、モータトルクのいずれか1つを計測する第1のセンサと、
負荷位置、負荷速度、負荷加速度のいずれか1つを計測する第2のセンサと、を備え、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号とを入力し、前記不感帯補償器または前記フィルタの各パラメータを調整されるものであることを特徴とする請求項1記載のモータ制御システム。
【請求項7】
位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムにおいて、
モータ位置の振動周波数と負荷位置の振動周波数とが、異なるものであることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項8】
位置指令を発生する指令器と、位置または速度のフィードバックループを構成する制御器と、モータと負荷とが非線形特性を有した機構を介して連結された制御対象あるいはモータと非線形特性を有した負荷とが連結された制御対象と、を備え、前記位置指令に基づいて前記制御対象を駆動するモータ制御システムのパラメータ調整方法において、
前記位置指令を入力し第1補正位置指令を出力する不感帯補償器のパラメータを、前記位置指令の符号に基づいて調整し、
前記第1補正位置指令を入力し第2補正位置指令を出力するフィルタのパラメータを、前記制御対象の共振および反共振周波数に基づいて調整する、ことを特徴とするモータ制御システムのパラメータ調整方法。
【請求項9】
前記モータ制御システムが、モータ位置、モータ速度、モータトルクのいずれか1つを計測する第1のセンサと、
負荷位置、負荷速度、負荷加速度のいずれか1つを計測する第2のセンサと、を備え、
前記第1のセンサ信号と前記第2のセンサ信号とを入力し、前記不感帯補償器または前記フィルタの各パラメータを調整する、ことを特徴とする請求項8記載のモータ制御システムのパラメータ調整方法。

【図2】(b)本発明を用いた場合のシミュレーション結果(全体波形図)
【図3】(a)本発明を用いない場合のシミュレーション結果(部分拡大図)
【図3】(b)本発明における不感帯補償器のみを用いた場合のシミュレーション結果(部分拡大図)
【図3】(c)本発明におけるフィルタのみを用いた場合のシミュレーション結果(部分拡大図)
【図3】(d)本発明を用いた場合のシミュレーション結果(部分拡大図)
【図4】本発明を理論的に説明したモータ制御システムの全体構成を示すブロック図
【図5】本発明における不感帯補償器の構成図
【図6】本発明におけるフィルタのブロック図
【図7】本発明におけるモータ制御システムの装置構成を示す図
【図8】従来技術における非線形な制御対象を制御する非線形システムの全体構成を示すブロック図
【図9】従来技術における油圧駆動系の制御ループの全体構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0026】
100 指令器
101、401、903 不感帯補償器
102、402 フィルタ
103、901 加算器
104、403、801、902 制御器
105、404、705 モータ
106 モータ位置
107、405 不感帯
108、406、708 負荷
701 パソコン
702 指令ケーブル
703 モータアンプ
704 モータケーブル
706 エンコーダケーブル
707 ギア
709 負荷位置計測器
710 センサケーブル
711 アンプケーブル
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−81923(P2009−81923A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248320(P2007−248320)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】