説明

モータ制御装置

【課題】コンフォート機能付きシートベルトモータ駆動用のモータ制御装置に見られるように、二通り以上の電流モードを必要とするアプリケーションにおいて、各々の電流モードにおいて最適とされるノイズ低減およびスイッチング損失の低減が図れるよう、各素子の定数を最適化することはできなかった。
【解決手段】電流能力が異なる複数のプリドライバ回路を予め備えておき、実行するアプリケーションに応じてプリドライバ回路10A,10B,10Cなどを選択的に使用する。ノイズの増大を許容してでもスイッチング素子の発熱を抑えたい電流モードでは、プリドライバ回路の電流能力を高く設定し、スイッチング速度を高速化する。他方、スイッチング損失の増大を許容してでもノイズの増大を抑えたい電流モードでは、プリドライバ回路の電流能力を低く設定し、ノイズの発生を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子により駆動されるモータのモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたモータ制御用ECU(Electronic Control Unit)では、スイッチング素子のスイッチングにより発生するスイッチング周波数よりも高い高周波ノイズ(ラジオノイズ)を抑制してラジオ受信機等に影響を与えるのを防止するために、コンデンサ,抵抗,インダクタなどを用いてスイッチング素子のスイッチングスピードを調整することによりノイズを低減することが図られてきた(特許文献1)。
【0003】
このような従来の装置では、スイッチング素子におけるスイッチングスピードの最適化を図るために、コンデンサ,抵抗,インダクタなど各種受動素子部品の定数をそれぞれのアプリケーションで許容されるスイッチング周波数とスイッチング速度に応じて適宜選択し、これによりノイズの低減を図ってきた。換言すると、スイッチングスピードを遅くすれば、ノイズの低減が図られるものの、スイッチング損失が増大するので、素子の発熱が増大して素子寿命が悪化してしまうことになる。
【0004】
すなわち、それぞれのアプリケーションにおいて、発熱とのトレーディングオフが許される範囲で受動素子部品の定数設定が行われていた。例えば、ある種のコンフォート機能付きシートベルトモータ駆動用のモータ制御装置では、ノイズの増大を許容してでもスイッチング素子の発熱を抑えたい第1の電流モード、および、スイッチング損失の増大を許容してでもノイズの増大を抑えたい第2の電流モードのいずれか一方を選択的に実行することが必要であった。同様に、二通り以上の電流モードを必要とするアプリケーションでは、受動素子部品の定数はどちらのモード要件も満たすように設定されているので、それぞれの電流モードにおいて最適な定数設定を選ぶことができないという事情があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−042096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンフォート機能付きシートベルトモータ駆動用のモータ制御装置に関連して例示したように、従来の技術では、二通り以上の電流モードを必要とするアプリケーションにおいて、各々の電流モードにおいて最適とされるノイズ低減およびスイッチング損失の低減が図れるよう、各素子の最適定数を設定することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るモータ制御装置は、スイッチング素子に流れる電流をモータに供給することにより前記モータの回転を制御するモータ制御装置において、前記スイッチング素子を駆動するプリドライバ手段と、前記プリドライバ回路の電流能力を可変設定する可変設定手段とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータを駆動するスイッチング素子のスイッチング速度は、各々のアプリケーションにおいて必要とされるモータ駆動パターンごとに最適なものとなるよう、動的に切り替えることができる。その結果として、二通り以上の電流モードを必要とするアプリケーションにおいて、各々の電流モードにおいて最適とされるノイズ低減およびスイッチング損失の低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用した実施の形態の基本的な動作原理を示した回路図である。
【図2】本発明を適用した実施の形態の基本的な他の動作原理を示した回路図である。
【図3】本実施の形態に係るシートベルトリトラクタ装置を備えた車両の衝突安全機構を示す全体構成図である。
【図4】シートベルトの巻き取りシステムを示す概略構成図である。
【図5】本実施の形態によるモータ制御装置の内部回路を示す図である。
【図6】モータ制御用システムLSIの内部回路を示すブロック構成図である。
【図7】Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の内部回路構成を示すブロック図である。
【図8】Hブリッジ駆動信号を送出するプリドライバ部の内部回路図である。
【図9】コンフォートモードにおけるシートベルト巻き取りを行うときの制御状態を示す図である。
【図10】スイッチング損失を許容してでもノイズ低減を図るときのスイッチング素子のスイッチング損失を示す説明図である。
【図11】エマージェンシーモードにおけるシートベルト巻き取りを行うときの制御状態を示す図である。
【図12】ノイズ増大を許容してでもスイッチング損失低減を図るときのスイッチング素子のスイッチング損失を示す説明図である。
【図13】Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の電流能力を弱く設定したときのHブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。
【図14】Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の電流能力をより強く設定したときのHブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。
【図15】図11の変形例であるモータ制御回路の回路図である。
【図16】図8の第1の変形例であり、Hブリッジ駆動信号を送出するプリドライバ部の回路図である。
【図17】図8の第2の変形例であり、Hブリッジ駆動信号を送出するプリドライバ部の回路図である。
【図18】図9の変形例であり、コンフォートモードにおいてモータ制御装置がモータを回転させてシートベルトを巻き取る制御状態を示す図である。
【図19】Hブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。
【図20】図8の第3の変形例であり、Hブリッジ駆動信号を送出するプリドライバ部の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態を説明する前提として、基本的な動作原理を説明するための概略回路図である。本図では、モータ8を駆動するスイッチング素子2H,2L,4H,4Lに対して、プリドライバ回路4H,4Lの電流能力を可変設定するために可変抵抗R1,R2を用いている。このように、各スイッチング素子のゲートをドライブするプリドライバ回路は、ゲート駆動能力が可変となるように構成してある。
【0011】
図2は、図1の可変抵抗R1,R2を用いる替わりに、電流能力が異なる複数のプリドライバ回路を予め備えておき、実行するアプリケーションに応じて必要とされるプリドライバ回路10A,10B,10C(12A,12B,12C)を選択的に使用するようにした概略回路図である。例えばLSIで構成する場合には、ゲート駆動能力(すなわち電流能力)が異なるプリドライバ回路を複数個用意しておき、それぞれのプリドライバ回路をソフト的に切り替えられるよう構成する。
【0012】
図1および図2に示した原理的回路図によれば、ノイズの増大を許容してでもスイッチング素子の発熱を抑えたい第1の電流モードでは、プリドライバ回路は電流能力が高く設定され、スイッチング速度は高速化される。他方、スイッチング損失の増大を許容してでもノイズの増大を抑えたい第2の電流モードでは、プリドライバ回路は電流能力が低く設定され、ノイズの発生が抑えられる。このように、プリドライバの電流能力をソフト的に調整可能なように構成することにより、二通り以上の電流モードを持つアプリケーションにおいて、それぞれに最適なスイッチング素子のスイッチングスピードを得ることができる。
【0013】
図3は、本実施の形態に係るシートベルトリトラクタ装置を備えた車両の衝突安全機構を示す全体構成図である。車両112の前方部には、障害物との距離に応じた信号を出力する障害物センサ102が取り付けられている。障害物センサ102の出力信号は、障害物センサ102と電気的に接続された衝突判断コントローラ106に伝達される。また、車両の速度に応じた信号を出力する車輪速度センサ104の信号も、車輪速度センサ104と電気的に接続された衝突判断コントローラ106に伝達される。
【0014】
衝突判断コントローラ106は、障害物センサ102と車輪速度センサ104の信号に基づき、車両112が障害物と衝突するか否かを判断する。例えば、障害物センサ102の出力信号から得られた障害物との距離が所定の値より短く、かつ、車輪速度センサ104の出力信号から得られた車両速度が所定の値より速い場合には、衝突判断コントローラ106は車両112が障害物と衝突すると判断する。衝突判断コントローラ106が障害物と衝突すると判断すると、車両112が障害物と衝突する前に、ブレーキアシスト装置108と機電一体型シートベルトリトラクタ100に指令信号を出力する。
【0015】
ブレーキアシスト装置108と機電一体型シートベルトリトラクタ100は、衝突判断コントローラ106と電気的に接続されている。ブレーキアシスト装置108は、衝突判断コントローラ106の指令信号に基づき、例えば、ブレーキを掛ける。また、機電一体型シートベルトリトラクタ100は、衝突判断コントローラ106の指令信号に基づき、例えば、シートベルト20を巻き取る。
【0016】
図4は、シートベルトの巻き取りシステムを示す概略構成図である。本システムにおいてモータ制御装置22はモータ21を駆動制御し、シートベルト20の巻き取りを行う。シートベルトの巻き取り動作には、(a)乗員23の安全を図るために緊急時における拘束力増大を目的とした巻き取り(これをエマージェンシーモードと呼ぶ)と、(b)乗員23の快適性向上を目的としたバックル25への装着時自動フィッティングやバックル25からの脱着時シートベルト20のリトラクタ24への自動格納を目的とした巻き取り(これをコンフォートモードと呼ぶ)と、がある。
【0017】
図5は、モータ制御装置22の内部回路構成を示す図である。モータ制御装置22は、バックルスイッチ341やブレーキストロークセンサ342などの各種アクチュエータまたはCANBUS通信351から送信されるデータなどに基づいて、必要に応じてモータ21を駆動してシートベルト20の巻き取り動作を行う。
【0018】
モータ駆動回路344は、ハイサイド側トランジスタ305,306およびローサイド側トランジスタ307,308の4つのトランジスタで構成されるHブリッジ回路であり、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと称する),周辺ロジックおよびHブリッジ駆動用プリドライバを一体化したモータ制御用システムLSI349によって制御される。モータ駆動回路344に電源が供給されたあと、モータ制御用システムLSI349はHブリッジ駆動信号353,354,355,356によってモータ21の回転を制御する。
【0019】
図6は、モータ制御用システムLSI349の内部回路を示すブロック構成図である。モータ制御用システムLSI349は、マイコン401,Wakeup(ウェイクアップ)検出用回路402,内部回路用電源レギュレータ403,外部回路用電源レギュレータ404,CANBUS通信インターフェース回路405,LINBUS通信インターフェース回路406,汎用デジタル入力回路407,汎用アナログ入力回路408,Hブリッジ駆動用プリドライバ回路409を含んでいる。
【0020】
図7は、Hブリッジ駆動用プリドライバ回路409の内部回路を示す。Hブリッジ駆動用プリドライバ回路409は、Hブリッジを構成する4個のトランジスタ305,306,307,308(図5参照)を駆動するためのプリドライバ部410,411,412,413によって構成されている。これらのプリドライバ部410,411,412,413はマイコン401(図6参照)からの指令415に従い、Hブリッジ(図5参照)のハイサイドトランジスタ305とローサイドトランジスタ307、またはハイサイドトランジスタ306とローサイドトランジスタ308が同時にオンするのを防ぐデッドタイム用の遅延を自動生成するためのデッドタイムコントロール部414を介して、Hブリッジ駆動信号353,354,355,356を生成する。
【0021】
図8は、Hブリッジ駆動信号353を送出するプリドライバ部410の内部回路である。プリドライバ回路410は電流の大きさをソフト的に選べるように、マイコン401からの信号415(図6参照)によって設定されるプリドライバ能力選択レジスタ501を用いて、電流能力の違うプリドライバ用トランジスタ505,506,507,508をいずれか一つ、または複数を選択できるように構成されている。またマイコン401で設定されるデッドタイムコントロール部414(図7参照)からの信号416により、プリドライバ用トランジスタ505,506,507,508のスイッチングタイミングが生成され、Hブリッジ回路344(図5参照)を駆動するPWM波形の生成が可能であり、かつデッドタイム用の遅延を自動生成することが可能な構成となっている。Hブリッジ駆動信号354,355,356を送出する各プリドライバ部411,412,413(図7参照)も同様に構成され、Hブリッジ駆動用プリドライバ回路409(図6,図7参照)の電流能力はソフト的に調整可能なように構成されている。
【0022】
図9は、コンフォートモードにおけるシートベルト巻き取りを行うときの制御状態を示す図である。すなわち、乗員23(図4参照)の快適性向上を目的としたバックル25への装着時自動フィッティングや、バックル25からの脱着時シートベルト20のリトラクタ24への自動格納のコンフォートモードにおいて、モータ制御装置22がモータ21を回転させシートベルト20を巻き取る様子を図9に示してある。この場合には快適性向上を目的とし、モータ制御装置22はシートベルト20(図4参照)を弱い力で引くため、モータ21へ流すモータ電流601は少量とする。本実施の形態では、モータ電流601は5Aである。Hブリッジ駆動用プリドライバ409はハイサイド側トランジスタ305が常時ON、ローサイド側トランジスタ307が常時OFF、トランジスタ306およびトランジスタ308が交互にONするようにHブリッジ駆動信号353,354,355,356を設定する。このとき電流は602に示す経路で流れる。Hブリッジ駆動用プリドライバ409は、トランジスタ306よりもトランジスタ308のONする時間の割合が低くなるよう(オンデューティーが低くなるよう)にトランジスタ306とトランジスタ308の交互スイッチングを行う。このとき電源電流603が少なくなるため、モータ電流601は少量となる。
【0023】
マイコン401はレジスタ511,521を使って、プリドライバ回路518,528を選択しておく。プリドライバ回路518,528は電流能力が低いので、経路611,621でトランジスタ306,308のスイッチングに必要なゲート電荷の充放電を行うが時間がかかる。したがってトランジスタ306,308のスイッチングスピードは遅くなる。
【0024】
モータ駆動回路344などに寄生するインダクタによってトランジスタ306,308のスイッチング時にはノイズが発生するが、スイッチングスピードが遅い場合、寄生インダクタのエネルギはスイッチング損失に変わるためノイズが低減される(図10参照)。この図10は、スイッチング損失を許容してでもノイズ低減を図るときのスイッチング素子のスイッチング損失を示す図である。本実施の形態では、コンフォートモードにおいてモータを駆動するPWMの周波数を20kHz、スイッチング時間を4μsecとしているが、電流値が5Aと低いので、このようなスイッチング損失が許容されている。
【0025】
次に、乗員23の安全を図ることを目的とした緊急時における拘束力増大のエマージェンシーモードについて説明する。図11は、エマージェンシーモードにおけるシートベルト巻き取りを行うときの制御状態を示す図である。エマージェンシーモードにおいて、モータ制御装置22がモータ21を回転させシートベルト20を巻き取る際は、障害物に追突するなどによって車両の加速度が急激に変化したときでも確実に乗員23を拘束することを目的とし、モータ制御装置22はシートベルト20を強い力で引くため、モータ21へ流すモータ電流701は多量とする。本実施の形態では、モータ電流701は25Aである。
【0026】
Hブリッジ駆動用プリドライバ409は、ハイサイド側トランジスタ305が常時ON、ローサイド側トランジスタ307が常時OFF、トランジスタ306およびトランジスタ308が交互にONするようにHブリッジ駆動信号353,354,355,356を設定する。このとき電流は702に示す経路で流れる。Hブリッジ駆動用プリドライバ409は、トランジスタ306よりもトランジスタ308のONする時間の割合が高くなるよう(オンデューティーが高くなるよう)にトランジスタ306とトランジスタ308の交互スイッチングを行う。このときは電源電流703が多くなるので、モータ電流701は多量となる。
【0027】
マイコン401はレジスタ511,521を使って、プリドライバ回路515,525を選択しておく。プリドライバ回路515,525は電流能力が高いため、経路711,721によってトランジスタ306,308のスイッチングに必要なゲート電荷の充放電は素早く行われる。したがってトランジスタ306,308のスイッチングスピードは速くなる。スイッチングスピードが速いほどスイッチング損失は低減されが、モータ駆動回路344などに寄生するインダクタによって発生するノイズは増大する(図12参照)。この図12は、ノイズ増大を許容してでもスイッチング損失低減を図るときのスイッチング素子のスイッチング損失を示す図である。しかしながら、エマージェンシーモードでは緊急時であるため、乗員23がラジオのノイズを気にすることは無く、このようなノイズは許容される。
【0028】
なお、スイッチング損失をさらに抑えたい場合は、スイッチング周波数を落とす方法がある。本実施の形態はこのような方法を併用することで相乗効果を得ることも可能である。このことを考慮して、モータ制御用システムLSI349は、モータ駆動のスイッチング周波数がマイコン401により切り替わるように構成されている。例えば、コンフォートモードでは乗員23の聴感を考慮して20kHzをスイッチング周波数としているが、エマージェンシーモードではHブリッジ駆動用プリドライバ409の電流能力を高めると同時にスイッチング周波数を10kHzとすることで、さらにスイッチング損失の低減を図ることができる。
【0029】
本実施の形態では、エマージェンシーモードにおいてモータを駆動するPWMの周波数を20kHz、スイッチング時間を0.5μsecとしている。
【0030】
本実施の形態では、コンフォートモードとエマージェンシーモードの2種類で電流モードを切り替えているが、Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の駆動能力は4段階で選べるようになっている。本実施の形態ではコンフォートモードのスイッチングタイムが4μsecとなるように4段階のうち一番弱い電流能力を選んでいるが、スイッチング時間が長くなると、PWM波形のオンデューティーを低くしたときにPWM波形がVB電圧に張り付く期間が無くなる(図13参照)。
【0031】
この図13は、Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の電流能力を弱く設定したときのHブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。20kHzの周期は50μsecであり、16%以下のオンデューティーを設定するとスイッチング時間が1周期50μsecのうち8μsecを占めることになる。PWM波形がVB電圧に張り付く期間が無くなるオンデューティー範囲では、モータ21の制御性が悪くなる。
【0032】
そこで、ノイズが許容できる範囲で4段階のうち2番目または3番目に弱い電流能力を選び、スイッチングタイムを速くして、PWM波形がVB電圧に張り付く期間が長くなるようにすることができる(図14参照)。図14は、Hブリッジ駆動用プリドライバ回路の電流能力をより強く設定したときのHブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。このような構成により、モータ21に対する制御性を悪化させないようにできる。
【0033】
また他にHブリッジ駆動用プリドライバ回路の駆動能力を多段階で構成するメリットは、モータ駆動回路344のトランジスタ305,306,307,308を変更し、駆動する必要がある負荷としてのゲート容量が変化した場合に、駆動能力を複数選べるために対応できる可能性が高くなることであり、汎用性をさらに広げることができる。
【0034】
−実施の形態による作用・効果−
本実施の形態によれば、以下のような作用・効果を奏することができる。
(1)ハイサイド側トランジスタ305,306およびローサイド側トランジスタ307,308で構成される各スイッチング素子に流れる電流をモータ21に供給することによりモータ21の回転を制御するモータ制御装置22において、各スイッチング素子をそれぞれ駆動するプリドライバ回路410〜413と、それらプリドライバ回路410〜413の電流能力を可変設定する可変設定手段(マイコン401および信号415)とを備えているので、複数ある電流モードのそれぞれにおいて最適とされるノイズ低減およびスイッチング損失の低減を図ることができる。
(2)上記の可変設定手段は、スイッチング素子305〜308のスイッチング損失およびノイズ発生量に応じて電流能力を設定するので、各々のアプリケーションにおいて必要とされるモータ駆動パターンごとに、スイッチング素子のスイッチング速度を最適なものに切り替えることができる。その結果として、二通り以上の電流モードを必要とするアプリケーションにおいて、各々の電流モードにおいて最適とされるノイズ低減およびスイッチング損失の低減を図ることが可能となる。
(3)ノイズ発生量の増大を許容してでもスイッチング素子の発熱を抑える第1の電流モードではプリドライバ回路の電流能力を高く設定し、他方、スイッチング損失の増大を許容してでもノイズ発生量の増大を抑える第2の電流モードではプリドライバ回路の電流能力を低く設定することにより、車載用の機電一体型シートベルトリトラクタ100は、シートベルト20の巻き取りモードを適切に切り替えることができる。
(4)シートベルトの巻き取りを行うモータ21に適用することにより、緊急時における拘束力増大を目的としたエマージェンシーモードと、乗員の快適性向上を目的としたコンフォートモードのいずれか一方に応じて、可変設定手段はプリドライバ回路の電流能力を切り替えることができる。
(5)エマージェンシーモードではノイズ発生量の増大を許容してでもプリドライバ回路の電流能力を高く設定し、他方、コンフォートモードではノイズ発生量の増大を抑えるようプリドライバ回路の電流能力を低く設定するので、コンフォートモードの最中には不快なノイズの発生を乗員に与えることがない。
【0035】
−実施の形態における変形例−
(1)図15は、図11の変形例であり、モータ制御回路22の構成を示した回路図である。この変形例において、Hブリッジ駆動用プリドライバ409Aはレジスタ1002によって駆動能力が一斉に切り替えられる。これによりHブリッジ駆動用プリドライバ409Aの駆動能力を動的に変化させることができる。
【0036】
(2)図16は、図8の第1の変形例であり、Hブリッジ駆動信号353を送出するプリドライバ部410Aを示している。この変形例において、プリドライバ部410Aはプリドライバ回路1402,1403,1404,1405,1406,1407,1408,1409の8つで構成され、Hブリッジ駆動用プリドライブの駆動能力は8種類の間で切り替えることができる。このようにプリドライバの本数を増加させる構成においては、ノイズ低減とオンデューティー設定制限の間でプリドライバ能力を選択する汎用性が広がる。また他にHブリッジ駆動用プリドライバ回路の駆動能力を多段階で構成するメリットは、モータ駆動回路344のトランジスタ305,306,307,308を変更し、駆動する必要がある負荷としてのゲート容量が変化した場合に、駆動能力を複数選べるために対応できる可能性が高くなることであり、汎用性をより増すことができる。
【0037】
(3)図17は、図8の第2の変形例であり、Hブリッジ駆動信号353を送出するプリドライバ部410Bの内部回路を示している。この変形例において、プリドライバ部410Bはカレントミラー回路のリファレンス電流構成部分1502,1503によって駆動能力を切り替えることができる。カレントミラー回路のリファレンス電流構成部分1502,1503のオン・オフはマイコン401からの信号1504,1505によって切り替えることができる。Hブリッジ駆動用プリドライバの駆動能力を可変的に構成するのに、カレントミラー回路を使用しても良い。構成部分1502,1503を多段化することにより、プリドライバの駆動能力をソフト的に切り替える段数を多段化することができる。
【0038】
(4)図18は、図9の変形例であり、コンフォートモードにおいてモータ制御装置22がモータ21を回転させシートベルト20を巻き取る様子を示したものである。Hブリッジ駆動用プリドライバ回路409Bは駆動能力を2段階に切り替えられるように構成されている。スイッチング時間が4μsecとなるようにプリドライブ駆動能力を選んだ場合、モータ21を制御するPWM周期が20kHzのとき、16%以下のオンデューティーではPWM波形がVB電圧に張り付く期間が無くなる(図13参照)。これによってモータ21の制御性が落ちる。そこで16%以下のオンデューティーとなった場合は、16%以上のオンデューティーと0%のオンデューティーを交互に出力し、平均としては16%以下のオンデューティーとなるようにPWM波形を出力する(図19参照)。図19は、Hブリッジ駆動用トランジスタが生成するPWM波形を示す図である。PWMのオンデューティーを交互に切り替えるのにマイコン401からの指令、またはデッドタイムコントロール部414にこのようなPWM波形を自動生成する機能を持たせることによってモータ21の制御性を落とすことなく、スイッチング時間を設定することが可能となる。
【0039】
(5)図20は、図8の第3変形例であり、Hブリッジ駆動信号353を送出するプリドライバ部410Cの内部回路を示している。この変形例において、プリドライバ部はカレントミラー回路で駆動能力を切り替えることができる。カレントミラー回路のリファレンス電流を生成する抵抗部分は、取り替え可能な外付け抵抗1706,1707とした構成とする。カレントミラー回路のリファレンス電流は外付け抵抗1706,1707により変更可能であり、ハードウェア的には無段階にプリドライバ部の駆動能力が変更可能となる。構成部分1702,1703のオン・オフはマイコン401からの信号1704,1705によって切り替えることができ、ソフト的には二段階にHブリッジ駆動用プリドライバの駆動能力を変化させる。さらに構成部分1702,1703を多段化することにより、プリドライバの駆動能力をソフト的多段切り替えとすることができる。
【0040】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上述した実施の形態および変形例に限定されるものではない。
実施の形態と変形例の一つとを組み合わせること、もしくは、実施の形態と変形例の複数とを組み合わせることも可能である。
変形例同士をどのように組み合わせることも可能である。
さらに、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
20 シートベルト
21 モータ
22 モータ制御装置
23 乗員
24 リトラクタ
25 バックル
100 機電一体型シートベルトリトラクタ
102 障害物センサ
104 車輪速度センサ
106 衝突判断コントローラ
108 ブレーキアシスト装置
112 車両
305,306 ハイサイド側トランジスタ
307,308 ローサイド側トランジスタ
341 バックルスイッチ
342 ブレーキストロークセンサ
344 モータ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子に流れる電流をモータに供給することにより前記モータの回転を制御するモータ制御装置において、
前記スイッチング素子を駆動するプリドライバ手段と、
前記プリドライバ手段の電流能力を可変設定する可変設定手段とを備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記可変設定手段は、前記スイッチング素子のスイッチング損失およびノイズ発生量に応じて前記電流能力を設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御装置において、
ノイズ発生量の増大を許容してでも前記スイッチング素子の発熱を抑える第1の電流モードでは前記プリドライバ手段の電流能力を高く設定し、前記スイッチング損失の増大を許容してでもノイズ発生量の増大を抑える第2の電流モードでは前記プリドライバ手段の電流能力を低く設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記モータはシートベルトの巻き取りを行うモータであり、緊急時における拘束力増大を目的としたエマージェンシーモードと、乗員の快適性向上を目的としたコンフォートモードのいずれか一方に応じて、前記可変設定手段は前記プリドライバ手段の電流能力を可変設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ制御装置において、
前記エマージェンシーモードではノイズ発生量の増大を許容してでも前記プリドライバ手段の電流能力を高く設定し、前記コンフォートモードではノイズ発生量の増大を抑えるよう前記プリドライバ手段の電流能力を低く設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記可変設定手段は、マイクロコンピュータからの指令に応答して前記プリドライバ手段の電流能力を切り替えることを特徴とするモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−120381(P2011−120381A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275635(P2009−275635)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】