説明

モータ駆動装置

【課題】ガイドレールで規定される軌道上を走行する、複数の車輪を備えた走行台車において、従来は車載コントローラから直接個々の駆動車輪の制御を行っているが、この方式では駆動軸数が増えるほどコントローラの処理能力が必要となる。
【解決手段】モータ駆動装置の制御演算部101は、コントローラ部102とドライバ部103を備えている。コントローラ部102は、車載コントローラ401から出力された台車位置指令104を入力として、指令分周逓倍比105で車輪位置指令106に変換され、これとモータ位置119を入力とする位置制御器107で車輪速度指令108を生成する。これに速度指令出力ゲイン109を乗じた結果が、速度指令出力110としてコントローラ部102から出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行台車の駆動に適したモータ駆動装置による走行制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーン度を要求される半導体・液晶パネル製造現場での工場内搬送では、その低発塵性や静粛性、駆動源の一元化によるパワー供給ラインのコンパクト化といった利点から、アクチュエータをすべて電動化した、クリーンストッカや無人搬送車などの自動走行台車が多用されている。
【0003】
操舵する人間がいない自動走行台車では、安全上、直線軌道とカーブ軌道から構成される、ガイドレールで規定された軌道上を走行するのが一般的である。自動走行台車はガイドレールを拘束する機構を備え、直線軌道上をまっすぐに走行するとともに、カーブ軌道において車輪を操舵しながら曲がることができる。主にガイドレールの部材を共通化できる利点から、カーブ軌道は、例えば特許文献1の図1などのように、一定の半径を持つ円弧で構成されることが多い。
【0004】
このような軌道を走行するのに適した走行台車の構造としては、例えば特許文献2のような四輪走行台車が挙げられる。前2輪と後2輪が対となり、垂直軸回りに回転する2つのボギー台車に支持される構造で、常にカーブ軌道の接線方向に車輪が沿うように操舵することが可能である。左右の車輪を同じトルクで駆動することで、ボギー台車の旋回軸を通じて走行台車に推力を加えるとともに、左右の車輪トルクに差をつけることで、台車本体に対してボギー台車を操舵するモーメントを加えることができるため、4つの駆動車輪で走行・操舵の制御が可能である点が特徴である。
【0005】
走行台車の制御構成としては、例えば特許文献3のように中央集権的な車載コントローラから、各車輪を駆動するモータを直接制御する構成をとることが多い。この構成では、走行台車の位置や姿勢角および各車輪の位置といったすべての状態が車載コントローラに入力され、目標となる位置や姿勢角との偏差から、走行台車の進むべき並進ベクトルと回転ベクトルを計算し、さらに複雑なベクトル計算を経て各車輪のステアリング角度と走行速度指令を生成する。
【0006】
走行台車が直線軌道を走行するにあたっては、例えば特許文献4のように、加減速時の重心移動により軽荷重となる車輪の空転を避けるため、重荷重側の車輪を速度制御とし、軽荷重側の車輪をトルク制御とする制御モード切替や、特許文献5のように、全駆動車輪による高速加速と停止後の走行モータ間干渉の回避のため、高速時は全軸をマスター軸とし、低速時はどれか一軸をマスター軸とし残りをスレーブ軸とする、マスター・スレーブ切替を行う方式などがある。
【0007】
走行台車がカーブ軌道を走行するのに対応したものとして、例えば特許文献6のように、ドックセンサでカーブの左右を認識し、走行台車速度が直線軌道とカーブ軌道で同じになるように、左右片側だけにある駆動車輪への指令速度をカーブ内側か外側かで切り替えるものがある。また特許文献1のように、カーブ時は前輪を速度制御としてカーブ速度を維持しつつ、後輪側は一定トルク制御として空転を回避、あるいはフリーランとして前後輪の干渉を回避する方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−94417号公報
【特許文献2】特開2000−142386号公報
【特許文献3】特開2002−41147号公報
【特許文献4】特開2001−240213号公報
【特許文献5】特開2008−100773号公報
【特許文献6】特開平5−236612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしこれら走行台車の制御方式には以下の課題が考察される。まず走行台車の制御構成として、中央集権的な車載コントローラで各車輪を駆動するモータを直接制御する構成は、駆動車輪が増えるたびに車載コントローラの処理負荷が増加し、かつ各軸のモータ駆動用配線や、状態量取得のためのセンサ配線なども集中配線されるため、車載コントローラが大規模で複雑になる欠点がある。車載コントローラは、各ステーションでの作業シーケンス管理、各種外部センサの取り込みによる保護機能、上位システムとの通信機能など、走行軸制御以外にも多彩な機能を実現しており、リアルタイム性を要求する走行制御が集中するのは望ましくない。
【0010】
次に直線軌道の走行制御における課題として、先行事例では加減速時の重心移動に対応するために、速度・トルクの制御モードやマスター・スレーブの切り替えを行っているが、一般にこれらのモード切替では、切替のタイミングで制御が不連続となり、振動などが生じやすい欠点がある。
【0011】
また駆動車輪間の引っ張り合いによる干渉力の発生が課題に挙げられる。走行台車が軌道上を走行するには、本来自由度が1つだけあればよいが、通常走行台車には駆動車輪が複数あるため、走行台車の駆動に寄与せず互いに引っ張り合う干渉力が生じうる。これは走行台車本体やガイドレール、およびこれを拘束する機構へのストレスとなり、無駄な電力消費を引き起こす。この干渉力発生の例として、直線走行で駆動車輪全てを位置制御で等速動作させる場合が挙げられる。直線走行では駆動車輪は全て同じ速度で動くはずだが、実際には車輪径のばらつきや車輪のすべり率の差などで、同じ台車移動量に対して各車輪の回転量が異なる。特に長距離の走行が続くと駆動車輪毎の位置偏差に差が出て、駆動車輪間で引っ張りあう干渉力が生じる。
【0012】
特許文献4で速度制御軸を常に1つに保持する構成や、特許文献5で停止時にマスター軸を1つだけにすることは、同時に台車を駆動する車輪が1つとなることで、干渉力の回避を図っている。しかし特許文献4における速度制御軸からトルク制御軸へのトルク指令伝達や、特許文献5におけるマスター軸からスレーブ軸へのデータ転送では、一般に遅延が生じやすいため、遅延の少ない速度制御軸やマスター軸との間で干渉力が生じやすい。直線走行では、駆動車輪間の干渉力をできるだけ抑えて、バランスよく駆動する制御が求められる。
【0013】
さらにカーブ軌道での走行制御における先行事例では、いずれも走行台車の車輪は三輪あるいは四輪であるが、一部の車輪はフリーランとする、あるいは駆動に際して空転を防ぐ程度の一定トルク制御に留めることで、カーブの内輪と外輪の軌道半径の差から生じる前後左右の駆動車輪間での干渉力を回避している。これは明らかに全てを駆動車輪とする場合とくらべて、一部でしかない駆動車輪のトルク負担が大きくなる。
【0014】
またカーブにおいて一部の駆動車輪しか使用しない場合、走行台車の操舵性が減じてしまう欠点がある。特許文献6の実施例では、元々駆動車輪が四輪中一輪だけなので操舵はできず、ガイドレールに沿って前後方向に動かすことしかできない。また特許文献1の実施例でも、駆動車輪は四輪中前後に配置された二輪あるように見えるが、カーブ時には後輪は実質一定のトルク指令で制御されるため自由度はなく、やはりガイドレールがなければ曲がれない。ガイドレールに頼った操舵は、ガイドレールを拘束するクランプ機構に多大な負荷が繰り返しかかるため、故障の増加や頑丈なクランプ機構を装備するためのコストアップなどが問題となる。カーブ走行は、ガイドレールがない状態でも、駆動輪だけの力で走行台車が曲がれるよう、制御するのが最適といえる。
【0015】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、各車輪を駆動するモータを制御するモータ駆動装置に、走行台車制御の処理負荷を移して分散制御しつつ、連続した制御で、直線軌道におけるバランスのよい駆動や、カーブ軌道においてガイドレールに頼らない駆動車輪による操舵を実現し、かつ全区間で駆動車輪間の干渉が少なく最高性能を発揮できる、モータ駆動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本件出願に係る第1の発明のモータ駆動装置は、台車位置指令を入力とし、これに指令分周逓倍比を乗じて車輪位置指令に変換し、車輪位置指令と実際の車輪位置から位置制御器で車輪速度指令を生成し、これに速度指令出力ゲインを乗じて速度指令出力を算出するコントローラ部と、速度指令出力のうち1つを速度指令入力とし、速度指令入力ゲインを乗じて速度制御指令を生成し、これに実際の車輪速度が追従するよう制御する速度制御器を持つドライバ部を備える。
【0017】
また、本件出願に係る第2の発明のモータ駆動装置は、第1の発明において、台車位置指令を入力とし、これと実際の台車位置からフルクローズ位置制御器で台車速度指令を生成し、これに速度指令出力ゲインを乗じて速度指令出力を算出するコントローラ部を持つ。
【0018】
また、本件出願に係る第3の発明のモータ駆動装置は、第1の発明において、前記コントローラ部は、台車位置指令生成機能を持つことを特徴とする。
【0019】
また、本件出願に係る第4の発明のモータ駆動装置は、第1の発明において、前記コントローラ部は、ステップ外乱入力に対して定常偏差を持たない制御系であり、前記ドライバ部はすべて同一の制御系で、ステップ外乱入力に対して定常偏差を持つ0形の制御系であることを特徴とする。
【0020】
また、本件出願に係る第5の発明のモータ駆動装置は、第1の発明において、前記ドライバ部の速度指令入力ゲインを、走行台車が直線軌道を一定速度で走行する期間の車輪回転量で更新することを特徴とする。
【0021】
また、本件出願に係る第6の発明のモータ駆動装置は、第1の発明において、走行台車が直線軌道を一定の台車速度で走行したときのモータ速度を基準速度とし、カーブ軌道を同じ台車速度で走行したときのモータ速度とのカーブ速度比を、台車位置と対で記憶部に保存し、実際の走行時に現在の台車位置に応じて、カーブ速度比を記憶部から読み出し、指令分周逓倍比および速度指令出力ゲインおよび速度指令入力ゲインを補正することを特徴とする。
【0022】
また、本件出願に係る第7の発明のモータ駆動装置は、第6の発明において、前記記憶部の入力の1つである台車位置を、有限個の台車区間に分割して、台車区間ごとにカーブ速度比を記憶することを特徴とする。
【0023】
また、本件出願に係る第8の発明のモータ駆動装置は、第7の発明において、前記台車区間が、走行台車のすべての車輪が直線軌道にある直線区間と、一部の車輪がカーブ軌道に入ったカーブイン区間と、すべての車輪がカーブ軌道にあるカーブ区間と、一部の車輪がカーブ軌道から出て直線区間にあるカーブアウト区間からなることを特徴とする。
【0024】
また、本件出願に係る第9の発明のモータ駆動装置は、第7の発明において、前記台車区間の判定に、台車位置指令の代わりに、各車輪が直線区間またはカーブ区間にいることを示す外部入力を用いて、制御するモータが駆動する車輪の外部入力を内回り外部入力に接続し、左右対となる車輪の外部入力を外回り外部入力に接続して、カーブ速度比を切り替えることを特徴とする。
【0025】
また、本件出願に係る第10の発明のモータ駆動装置は、第7の発明において、前記台車区間が、一定のカーブ速度比を持つ定常区間と、モータおよびモータ駆動装置で駆動可能な範囲でカーブ速度比をなめらかにつなぐ遷移区間を持つことを特徴とする。
【0026】
また、本件出願に係る第11の発明のモータ駆動装置は、第6の発明において、前記記憶部に保存するカーブ速度比に、ガイドレールの軌道と走行台車の車輪配置から計算される理論値を用いることを特徴とする。
【0027】
また、本件出願に係る第12の発明のモータ駆動装置は、第11の発明において、カーブ速度比として、車輪が外回りの場合は外輪軌道半径、内回りの場合は内輪軌道半径を分子とし、外輪と内輪の軌道中心半径を分母とした値の平方根を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明のモータ駆動装置によれば、走行台車の位置制御をモータ駆動装置内蔵のコントローラ部が受け持ち、駆動力分配をドライバ部が受け持つため、車載コントローラは走行台車の位置指令だけを指示すればよくなり、走行台車制御における処理負荷は大幅に減少する。また駆動車輪が増加しても車載コントローラの処理負荷は変わらず、さまざまな走行台車構成に対して車載コントローラを共用化できる利点がある。
【0029】
また1つのコントローラ部と、駆動車輪分のドライバ部からなる制御構成は、直線軌道の加減速やカーブ軌道、あるいは高速/低速/停止などすべての状態において同じで、モード切替に伴う変動は生じない。さらにすべての駆動車輪を、同じ速度指令出力で同じ速度制御部を用いて制御することで、駆動車輪間の干渉力やアンバランス発生を最小にすることができる。
【0030】
第2の発明のモータ駆動装置によれば、台車位置を検出するセンサを用いることで、コントローラ部を内蔵するモータ駆動装置が制御する、モータの駆動車輪で台車位置を代表する請求項1記載の制御構成にくらべて、より高精度な位置決め制御が可能となる。またアブソリュートタイプの位置検出センサを用いれば、原点復帰動作が不要な絶対位置指定が可能になる、などの高機能化が図れる。
【0031】
第3の発明のモータ駆動装置によれば、車載コントローラ部が受け持つ台車位置指令の生成機能までを、モータ駆動装置内蔵のコントローラ部が受け持つことで、車載コントローラ部の台車走行制御に関する処理負担をさらに減らすことができる。
【0032】
第4の発明のモータ駆動装置によれば、駆動車輪間の干渉を生む外乱に対して定常偏差補償を行うのが、走行台車のなかでただ1つのコントローラ部のみとなり、ドライバ部が同一の指令で同一の制御系で制御されることとあわせて、各駆動車輪間の干渉力発生を最小にできる。さらにドライバ部がステップ外乱入力に対して0形の制御系であることは、一般に台車速度に対してすべりを持ち、長期的に必ずずれていく駆動車輪の速度制御において、積分による記憶を持たないことが、トルク指令の発散を防止する役割を果たす。
【0033】
第5の発明のモータ駆動装置によれば、直線軌道で一定速度動作区間の各車輪の実際の回転量が、駆動車輪の車輪径の差をよく表すことから、これを用いて台車速度と各車輪速度の比であるドライバ部の速度指令入力ゲインを補正することで、各駆動車輪間の干渉力を低減することができる。
【0034】
第6の発明のモータ駆動装置によれば、ガードレールで規定される軌道と走行台車の構造上決まる、カーブ軌道を通るときのあるべきモータ速度を測定、カーブ速度比として記憶し、実際の台車走行速度に合わせて、各モータを記憶したカーブ速度比で駆動できるため、車載コントローラが各車輪への駆動力分配を意識することなく、すべての駆動車輪を用いたカーブ走行を実現することができる。
【0035】
またこの方式であれば、前記の特許文献2のような四輪走行台車など、駆動車輪で操舵が可能な構造を持つ走行台車においては、カーブ軌道に沿ってボギー台車が操舵される、各駆動車輪のカーブ速度比が逐次記憶されるため、このカーブ速度比で駆動すれば、カーブを自力で曲がるのに必要なトルクが生成されることになる。
【0036】
第7の発明のモータ駆動装置によれば、記憶部に保存される台車区間とカーブ速度比の対をまとめることができ、記憶部に必要な記憶容量を大幅に小さくできる。
【0037】
第8の発明のモータ駆動装置によれば、ガードレールで規定される軌道が、直線軌道と一定の半径を持つカーブ軌道のみからなる場合には、記憶部に保存するデータが4組以下に減る。
【0038】
第9の発明のモータ駆動装置によれば、前記台車区間の判定に、台車位置指令の代わりに外部入力を用いることで、台車位置指令の入力をコントロール部を使用するモータ駆動装置のみに限定でき、他のモータ駆動装置は前記外部入力を接続するだけで済むため、配線コストを減らすことができる。
【0039】
第10の発明のモータ駆動装置によれば、遷移区間によるカーブ速度比の変化の平滑化で、カーブ速度比の急変による振動・騒音を軽減することができる。
【0040】
第11の発明のモータ駆動装置によれば、カーブ速度比に理論値を用いることで、正確な測定が困難な、一定速度でのカーブ軌道走行を省略できる。またカーブ速度比が近い値をもつ台車位置指令の範囲を、1つの台車区間として近似値で代表することで、記憶部の記憶容量を小さくできる。
【0041】
第12発明のモータ駆動装置によれば、前記の特許文献2のような四輪走行台車においては、内輪または外輪の軌道半径と軌道中心半径の比を用いた場合より、誤差の少ないカーブ軌道を描くことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の制御ブロック図
【図2】本発明の実施例1における走行台車の三面図
【図3】本発明の実施例1におけるガイドレールで規定される軌道の平面図
【図4】本発明の実施例1における走行台車の部品配置図
【図5】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の配線図
【図6】本発明の実施例2における走行台車の部品配置図
【図7】本発明の実施例2におけるモータ駆動装置の制御ブロック図
【図8】本発明の実施例3におけるモータ駆動装置の制御ブロック図
【図9】本発明の実施例4におけるモータ駆動装置の配線図
【図10】本発明の実施例4における速度指令入力ゲインの補正方法を示す図
【図11】本発明の実施例5におけるモータ駆動装置の制御ブロック図
【図12】本発明の実施例5における記憶部のフローチャートを示す図
【図13】(a)本発明の実施例5の記憶部に記憶されるカーブ速度比の動作軌跡を示す図(b)台車位置とカーブ速度比をプロットした図
【図14】(a)本発明の実施例6の記憶部に記憶されるカーブ速度比の動作軌跡を示す図(b)本実施例のデータを示す図(c)本実施例のデータを示す図(d)本実施例のデータを示す図
【図15】本発明の実施例7における走行台車のセンサ配置図
【図16】本発明の実施例7におけるモータ駆動装置の制御ブロック図
【図17】本発明の実施例7における外部入力の接続図
【図18】本発明の実施例8における記憶部に記憶されるカーブ速度比の例
【図19】(a)本発明の実施例9におけるカーブ速度比の計算例を示す図(b)本実施例のデータを示す図
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0044】
まず図2に示す走行台車の三面図について説明する。走行台車1は、台車本体201の前後に、前側ボギー台車202と後側ボギー台車203が接続される。前側ボギー台車202は左前輪204と右前輪206を、後側ボギー台車203は左後輪205と右後輪207を支持している。前側ボギー台車202と後側ボギー台車203は、台車本体201に対して垂直軸回りに旋回の1自由度を持ち、4つの車輪は、支持されるボギー台車に対して、車軸回りに1自由度を持ち回転する。走行台車は進行方向とこれに直角な方向への並進の2自由度と、垂直軸回り旋回の1自由度を持つ。
【0045】
次に図3のガイドレールで規定される軌道の平面図について説明する。直線ガイドレール303だけで構成される直線軌道301と、個別に一定の半径を持つ内輪ガイドレール304と外輪ガイドレール305で構成されるカーブ軌道302の組み合わせで、この軌道は規定される。直線軌道301においては、走行台車1の前側ボギー台車202および後側ボギー台車203は共に進行方向に直角を維持するが、カーブ軌道302にさしかかったボギー台車は、走行台車1に備えた図示しないガイドレールを拘束する機構によって、支持する左右の車輪中心を通る直線が、カーブ軌道302の円弧中心を通る向きに操舵される。なお走行台車1は通常ガイドレールの片側だけを拘束する。したがって直線軌道301およびカーブ軌道302におけるガイドレールは、どちらか片側だけであっても走行上支障はない。
【0046】
図4に実施例1における走行台車の部品配置図を示す。走行台車1は図4に示すような機器からなっている。車載コントローラ401はモータ駆動装置402に接続されており、その出力は自分自身の入力に接続されると共に、モータ駆動装置403、404、405に入力される。すべてのモータ駆動装置は、前側ボギー台車旋回軸のスリップリング406および後側ボギー台車旋回軸のスリップリング407を通じて、モータ408、409、410、411と接続される。各モータはダイレクトドライブまたはギア・ベルト・プーリなどの機構で減速されて、車輪204、205、206、207を駆動する。
【0047】
図1に本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の制御ブロック図を示す。モータ駆動装置の制御演算部101は、コントローラ部102とドライバ部103を備えている。コントローラ部102は、車載コントローラ401から出力された台車位置指令104を入力として、指令分周逓倍比105で車輪位置指令106に変換され、これとモータ位置119を入力とする位置制御器107で車輪速度指令108を生成する。これに速度指令出力ゲイン109を乗じた結果が、速度指令出力110としてコントローラ部102から出力される。
【0048】
なお位置制御器107は、例えば車輪位置指令106とモータ位置119の位置偏差を計算し、これに位置比例ゲインを乗じた結果と、位置偏差を積分した結果に位置積分ゲインを乗じた結果を足して、車輪速度指令を生成する、位置比例積分制御演算などで実現できる。この位置比例積分制御は、外乱トルクのステップ状変化に対して、位置偏差が定常偏差を持たない1形の制御系であることが知られている。
【0049】
ドライバ部103は、複数あるモータ駆動装置のうち、台車位置指令104が直接入力されるモータ駆動装置402の、コントローラ部102からの速度指令出力110を、速度指令入力111として受けいれる。これに速度指令入力ゲイン112を乗じた結果を速度制御指令113とし、これと、モータ位置119を入力とする速度検出器114の出力であるモータ速度115が一致するように、速度制御器116でモータ電流117を出力する。モータおよび負荷118に応じてモータ位置119は変化し、再びコントローラ部102およびドライバ部103にフィードバックされる。
【0050】
なお速度制御器116は、例えば速度制御指令113とモータ速度115の速度偏差を計算し、これに速度比例ゲインを乗じてモータ電流117を生成する、速度比例制御演算などで実現できる。この速度比例制御は、外乱トルクのステップ状変化に対して、速度偏差が定常偏差を持つ0形の制御系である。
【0051】
図5に本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の配線図を示す。
【0052】
複数のモータ駆動装置を図5に示すように接続することで、走行台車1の走行軸分散制御に適したシステムを構築できる。車載コントローラ401は台車位置指令生成機能501を持ち、台車位置指令104を出力する。これを左前輪204を制御するモータ駆動装置402のコントローラ部102に入力する。コントローラ部102の出力である速度指令出力110を、自分自身も含むモータ駆動装置402、403、404、405の速度指令入力111に接続し、あとはドライバ部103によるモータ204、205、206、207の速度制御が行われる。結果として車輪204、205、206、207の速度が制御されて、走行台車1は動作する。なお車載コントローラ401に直接接続されていない、モータ駆動装置403、404、405のコントローラ部102は不要だが、後述の実施例4や実施例5で台車位置指令104の接続は必要となる。
【0053】
なお主にソフトウェア処理で実装されるコントローラ部102を備えていても、コスト的には特に支障はない。むしろすべてのモータ駆動装置を同じ構成としたほうが、機種の共通化が図れてコストメリットが出せる。またすべてのモータ駆動装置に台車位置指令104を接続しておけば、コントローラ部の2重化や予備としての使い方、あるいは複数の速度指令出力から各種基準で最適なものを選択する方式なども考えられる。
【0054】
この実施例1は、従来車載コントローラ401が受け持っていた位置制御機能を、モータ駆動装置402が受け持つことで、車載コントローラ401の処理負荷の一部が軽減できる。また位置制御に必要なモータ204のモータ位置119のフィードバックを、車載コントローラ401まで引き回して接続する配線が不要となる点も見逃せない。特に車載コントローラ401とモータ駆動装置402間のインターフェースがシンプルになれば、車載コントローラ401を走行台車1上におかない構成などの設計自由度も増す。
【0055】
また各モータ駆動装置は、共通の速度指令入力111と共通のドライバ部103で各モータを制御するため、各車輪の制御が均等となることから、干渉力やアンバランスが生じにくい基本構成といえる。これにコントローラ部をステップ外乱入力に対して定常偏差を持たない制御系とし、ドライバ部がステップ外乱入力に対して定常偏差を持つ0形の制御系とすることで、冗長な自由度とも言える駆動車輪の制御に対しては、ずれを許容して駆動車輪間の干渉力を最小としつつ、制御目的の台車位置制御については、積分を働かせて最終的な誤差を0に収束させる、という制御が可能となる。
【0056】
なお、上記位置制御器としては、位置積分以外の手段、例えば外乱オブザーバやモデル規範制御といった方法で定常偏差を0に収束させることも可能である。また指令に対する応答性のみを改善する、速度フィードフォワードや位置指令フィルタなどを併用しても、前記特性の実現になんら支障は生じない。同様に速度制御器においても0形の制御系が保たれれば、例えばトルクフィードフォワードなどを用いて応答性を改善してもよい。
【実施例2】
【0057】
図6に本発明の実施例2における走行台車の部品配置図を示す。走行台車1に、台車位置センサ601が追加されており、台車位置スケール602の情報を読み取り、台車位置701を出力する。他の番号は実施例1と同じである。
【0058】
図7は本発明の実施例2におけるモータ駆動装置の制御ブロック図である。台車位置701を直接検出できることから、指令分周逓倍比105を使用することなく、台車指令104との直接比較でフルクローズ位置制御部702により台車速度指令703を計算できる。なお位置制御器107同様に、フルクローズ位置制御器702は、例えば台車位置指令104と台車位置701の台車位置偏差に対して、前記の位置比例積分制御演算を行うこと、などで実現できる。
【0059】
実施例2では、台車位置701を直接検出する台車位置センサ601を用いることで、車輪のすべりなどに影響されない、高精度な位置決め制御が可能となる。またアブソリュートタイプの台車位置センサを用いれば、原点復帰動作が不要となり起動時間の短縮や、ステーションの位置を絶対位置指定で表す、などの高機能化が図れる。
【実施例3】
【0060】
図8に本発明の実施例3におけるモータ駆動装置の制御ブロック図を示す。車載コントローラ401に内蔵されていた台車位置指令生成機能501を、モータ駆動装置の制御演算部101のコントローラ部102に台車位置指令生成器802として移動させており、車載コントローラ401からは、台車位置指令生成器802をコントロールする台車動作指令801を受け取る。他の番号は実施例1と同じである。
【0061】
台車位置指令生成器802は例えば、目標の台車位置指令と、そこに至るまでの最高速度、加減速度、動作時間などで指定したポイントデータを複数持ち、台車動作指令801はこのポイントデータを指定し起動するコマンドとする、などで実現できる。
【0062】
実施例3により、車載コントローラ401はリアルタイムに台車位置指令を生成する必要がなくなり、台車走行制御から完全に開放される。
【実施例4】
【0063】
図9に本発明の実施例4におけるモータ駆動装置の配線図を示す。台車位置指令104を、すべてのモータ駆動装置402、403、404、405に接続する点が実施例1とは異なっている。これにより、コントローラ部102で計算される車輪位置指令106を、すべてのモータ駆動装置で参照できるようになる。
【0064】
図10に本発明の実施例4における速度指令入力ゲインの補正方法を示す。
【0065】
直線起動を一定速度で走行しているとき、台車位置は時間に対して比例して増加する。ある一定時間の間に台車位置がXだけ移動したとき、台車位置指令を車輪位置指令に変換する指令分周逓倍比(N/D)を用いれば、車輪位置はθ=X・(N/D)だけ移動する。しかし実際の車輪は、製品としてのばらつきや経年変化による磨耗などで車輪径が異なるため、たとえ走行台車が直進していても各車輪毎に移動量が異なってくる。図10の下の図ではこの各車輪位置変化の違いをθn(nは1〜車輪の数)で表す。このθnが得られれば、想定する車輪移動量θと駆動車輪の移動量θnの比を速度指令入力ゲインGiに設定することで、車輪径にあわせた車輪速度指令が得られ、車輪間の干渉力を最小にすることができる。
【0066】
なお、この補正方法は異常検出あるいは警告機能としても使用できる。速度指令入力ゲインが初期値からある一定の範囲を越えた場合には、タイヤ径が磨耗で大きく磨り減った、あるいはモータ駆動がうまくいっていない、またはモータから駆動車輪までの機構に不都合が生じた、などが考えられる。これを異常としてモータを停止させる、あるいは警告表示を発するなどで、異常状態での連続動作を回避することが可能である。
【実施例5】
【0067】
実施例5ではまず、図9の本発明の実施例4におけるモータ駆動装置の配線図と同様の配線で、台車位置指令104をすべてのモータ駆動装置で参照可能としておく。
【0068】
図11に本発明の実施例5におけるモータ駆動装置の制御ブロック図を示す。記憶部1101は、台車位置指令104とモータ速度115を入力として、内部の記憶領域にカーブ速度比を記憶する。また出力として指令分周逓倍比補正値1102、速度指令出力ゲイン補正値1103、速度指令入力ゲイン補正値1104を出力する。これらの比を、それぞれ対応する指令分周逓倍比105、速度指令出力ゲイン109、速度指令入力ゲイン112に乗じて補正を行う。
【0069】
図12に本発明の実施例5における記憶部の動作フローチャートを示す。ステップ1にて台車位置指令104を読み込み、ステップ2にて現在が記憶モードか再生モードかを判定する。この判定は例えば図示しない外部信号や、車載コントローラ401からの入力などにより行われる。
【0070】
記憶モードにおいては、台車速度が一定速度となるよう走行台車1が駆動されている。モータ以外の外力で、あるいはモータ一軸だけで低速にて駆動するなどで、この動作は実現可能である。この状態でステップ3でモータ速度115を読み込み、ステップ4でカーブ速度比を算出する。ここで基準速度としては、直線軌道で一定速度時の台車速度やモータ速度、台車速度指令、車輪速度指令などを用いてもよい。また適切な値が見つからない場合は、実際に測定されたモータ速度の範囲から、その平均値や中央値を基準速度としてもよい。ステップ5では計算したカーブ速度比と台車位置指令104を対にして、内部の記憶領域に保存する。なお台車位置指令104が変化しない指令停止状態では、記憶領域節約のため保存を停止してもよい。ステップ6では、記憶モードにおける3つの出力、指令分周逓倍比補正値1103、速度指令出力ゲイン補正値1104、速度指令入力ゲイン補正値1105を、補正を効かせない値である1に固定としておく。
【0071】
再生モードにおいては、走行台車1は車載コントローラ401からの台車位置指令104で実際に制御される。ステップ7で記憶領域から現在の台車位置指令104の対になるカーブ速度比を読み出す。ステップ8で指令分周逓倍比補正値1103をカーブ速度比に設定して、台車速度一定としたときのカーブ軌道におけるモータのあるべき速度を、車輪位置指令として与える。ステップ9では、速度指令出力ゲイン補正値1104にカーブ速度比の逆数を設定している。これは、指令分周逓倍比補正値1103により増減した車輪速度指令は、コントローラ部を有するモータ駆動装置が制御するモータのカーブ速度比で、各ドライバ部が制御するカーブ速度比とは一致しないため、一旦速度指令出力を台車速度基準に戻すために行っている。ステップ10で速度指令入力ゲイン補正値1105にカーブ速度比を出力することで、各車輪基準の速度指令に再補正している。
【0072】
図13には実施例5の記憶部に記憶されるカーブ速度比の例を示す。図13(a)は外力で走行台車1を一定速度2[m/s]で動かしたときの例であり、車輪すべてが直線軌道にある場合はすべての車輪が2[m/s]、車輪すべてがカーブ軌道にある場合は外輪側の車輪は2.8[m/s]、内輪側の車輪は1.4[m/s]と一定の値となった。しかし車輪の一部が直線軌道またはカーブ軌道にいる場合、位置制御されている左前輪とこれ同じ前側ボギー台車にある右前輪は、直線軌道およカーブ軌道におけるカーブ速度比を保つが、左後輪と右後輪はわずかにずれた値をとり、その値は台車位置で変化する。これを計算で出すのは非常に困難なために、実測を用いる実施例5が有用であるといえる。
【0073】
図13(b)はこれを台車位置を横軸、カーブ速度比を縦軸として、各駆動車輪毎にプロットしたものである。一定の台車位置毎にカーブ速度比を記憶することで、カーブにおける車輪速度を保存できる。
【0074】
なお、台車位置は台車位置指令としたが、実際の台車位置を使用してもよい。また車輪の1つを台車位置を代表するものとして、実際の車輪位置や車輪位置指令との対でカーブ速度比を記憶してもよい。
【実施例6】
【0075】
図14に本発明の実施例6の記憶部に記憶されるカーブ速度比の例を示す。図14(a)に示すように、車輪すべてが直線軌道にある場合を直線区間、前輪だけがカーブ軌道にあるカーブイン区間、車輪すべてがカーブ軌道にあるカーブ区間、後輪だけがカーブ軌道にあるカーブアウト区間に分けることで、図13(b)に示すように台車位置の数だけ必要なカーブ速度比のデータを、大幅に圧縮することができる。
【0076】
図14(b)はその一例であり、ほぼ一定とみなせる直線区間とカーブ区間のカーブ比を固定値とし、カーブイン区間とカーブアウト区間における左後輪と右後輪のデータのみを台車位置と対で記憶するようにした。これでも大幅に記憶容量が削減できる。
【0077】
また図14(c)に示すように、カーブイン区間とカーブアウト区間の複雑なカーブ速度比を平均値A、B、Cで近似して一定値として扱ってもよい。この例では、各車輪ごとに記憶するカーブ速度比は2〜4個まで圧縮できる。
【0078】
さらに図14(d)に示すように、カーブイン区間の左後輪と右後輪は直線区間と、カーブアウト区間の左後輪と右後輪はカーブ区間とほぼ同じカーブ速度比なので、これを等しいとした場合は、すべての車輪でカーブ速度比を2つ記憶できればよくなる。右回りと左回りを考慮しても、カーブ速度比の記憶は直線区間、内回りカーブ区間、外回りカーブ区間の3つで済むため非常に有用である。
【実施例7】
【0079】
図15に本発明の実施例7における走行台車のセンサ配置図を示す。各車輪の真横に、左前輪センサ1501、左後輪センサ1502、右前輪センサ1503、右後輪センサ1504を設けて、カーブ軌道内側に配置された右回り磁気テープ1505、および図示しない左回り磁気テープを検出することで、直線区間と、カーブイン区間、カーブ区間、カーブアウト区間とそのカーブ方向の組み合わせで、計7通りの区間を判別できる。
【0080】
図16に本発明の実施例7におけるモータ駆動装置の制御ブロック図を示す。台車位置指令104の代わりに、内回り外部入力1601と外回り外部入力1602を用いて台車区間ごとにカーブ速度比を切り替え、指令分周逓倍比補正値1102、速度指令出力ゲイン補正値1103、速度指令入力ゲイン補正値1104を変更する。
【0081】
図17に本発明の実施例7における外部入力の接続図を示す。外部入力の接続が分かりやすいように、駆動車輪およびモータとモータ駆動装置間の配線を省略している。左前輪を制御するモータ駆動装置402を例に挙げると、左前輪センサ1501を内回り外部入力1601に、右前輪センサ1503を外回り外部入力1602に接続している。逆に右前輪を制御するモータ駆動装置404は、右前輪センサ1503を内回り外部入力1601に、左前輪センサ1501を外回り外部入力1602に接続している。後輪側も同様の接続となっており、これで自軸が内回りか外回りかが識別できる。この入力でカーブ速度比を切り替えることで、図14(d)の表の切り替えが2入力で実現できる。
【0082】
なおここでは外部入力として磁気センサを例に挙げたが、光学的、機械的手段を用いたセンサを使用しても何ら問題はない。また外部入力をすべての車輪に配置しなくとも、台車速度が分かれば、前輪側だけに外部入力を配置し、後輪側はタイマ遅延で生成した信号を用いてもよい。さらに推し進めるなら、前回の停止位置からカーブ開始までの距離を走行するのに必要な時間をあらかじめ計算しておき、完全にタイマ処理だけですべての車輪の外部入力を作り出すことも可能である。
【実施例8】
【0083】
図18に本発明の実施例8における記憶部に記憶されるカーブ速度比の例を示す。直線区間、カーブイン区間、カーブ区間、カーブアウト区間のそれぞれは、図14(d)の切り替えパターンをベースとしている。このときすべての区間でカーブ速度比は一定なので、これらを定常区間と呼ぶ。この切り替えパターンでは、各車輪がカーブ軌道に入る時点でカーブ速度比が不連続に変化するため、モータ速度も不連続となり、無限大のトルク指令が必要となる。
【0084】
これを回避するため、図18では斜線で示された遷移区間を定常区間の切り替え後に設けて、カーブ速度比が連続に直線で変化するようにした。加速度が一定値となるため、遷移区間で発生するトルク指令を一定以下の値とすることができる。モータおよびモータ駆動装置には定格トルクや最大トルクの制約があるため、これに合わせて遷移区間を調節すれば、カーブ速度比の変化を実際にモータが追従できる範囲に設定できる。
【0085】
なお、この遷移区間でのカーブ速度比の変化は、指数カーブやS字カーブとしてもよい。また遷移区間を定常区間が変化する前に設けてもよい。
【0086】
さらに推し進めるならば、モータの制約に合った遷移区間を持つカーブ速度比の変化に合うように、直線軌道とカーブ軌道の間に緩和曲線軌道を設けたり、軌道の幅をひろげてなめらかに旋回する余裕を持つ、などガイドレールの軌道を変更してもよい。またガイドレールを拘束する機構に遊びを設けて、遷移区間における旋回を可能とするのもよい。
【実施例9】
【0087】
図19に本発明の実施例9におけるカーブ速度比の計算例を示す。台車区間の開始時点が特定できれば、直線区間とカーブ区間における、台車中心の軌道(Xg、Yg)および走行方向の台車速度Vg=V(一定)、またそれに伴う各車輪の軌道(Xfl、Yfl)および車輪速度Vfl(左前輪の場合)は、解析的に解くことができて、図19の下表のように数式で表すことができる。したがって測定困難な台車一定速度での実測を行う必要はない。特にカーブ区間においては、台車中心は半径R’=Rcosβ(β=asin(l/R))と、わずかに軌道中心半径Rより小さな円弧を描く。このとき台車速度が直線時と同じVとすると、外輪速度はV×R2/R’、内輪速度はV×R1/R’となる。これを解いて直線時の基準速度Vで割ると、外輪のカーブ速度比は√(R2/R1)、内輪のカーブ速度比は√(R1/R2)となる。この比を用いることで、正確なカーブ速度比でカーブ軌道を回ることができる。
【0088】
なお、カーブイン区間およびカーブアウト区間の軌道は、解析的に解くことが困難なため、シミュレーションなどを用いたり、車軸間距離が車体長Lで拘束されることと、台車中心速度がV(一定)であることから、数値的に解くことでもカーブ速度比の対を得ることができる。あるいは近似式を用いてカーブ速度比を得てもよい。例えば外輪のカーブ速度比は、カーブイン区間の最初ではカーブ速度比は1であり、カーブイン区間の終わりではカーブ速度比は√(R2/R1)となる。この間が直線で変化するようにカーブ速度比を近似することなどが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上、本発明のモータ駆動装置は、ガイドレールで規定される軌道上を走行する、複数の車輪を備えた走行台車において、各車輪を駆動するモータを制御するモータ駆動装置に、走行台車制御の処理負荷を移して分散制御しつつ、連続した制御で、直線軌道におけるバランスのよい駆動や、カーブ軌道におけるガイドレールに頼らない駆動車輪による操舵を実現し、かつ全区間で駆動車輪間の干渉が少なく、最高性能を発揮できるモータ駆動装置を提供するものである。
【0090】
なお、ここではガイドレールで規定される軌道を、直線軌道および一定半径を持つカーブ軌道の組み合わせとして実施例を記載したが、これに限定されるものではなく、複雑なカーブの組み合わせにおいても効果がある。また走行台車を四輪駆動車として記載したが、これに限定されることはなく、六輪駆動や八輪駆動などより多数の駆動車輪を持つ走行台車や、ボギー台車を持たないような構造の異なる走行台車においても適用は可能である。
【0091】
さらに、本発明はガイドレールを用いない無人走行台車にも、一定の効果を発揮しうる。加えて重心移動による荷重の変化や、車輪のスリップに対する再粘着制御など、よりダイナミックな特性を補償する機能を付加することにより、走行制御の特性をさらに改善することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 走行台車
101 制御演算部
102 コントローラ部
103 ドライバ部
104 台車位置指令
105 指令分周逓倍比
106 車輪位置指令
119 モータ位置
107 位置制御器
108 車輪速度指令
109 速度指令出力ゲイン
110 速度指令出力
111 速度指令入力
112 速度指令入力ゲイン
113 速度制御指令
114 速度検出器
115 モータ速度
116 速度制御器
117 モータ電流
118 モータおよび負荷
119 モータ位置
201 台車本体
202 前側ボギー台車
203 後側ボギー台車
204 左前輪
205 左後輪
206 右前輪
207 右後輪
301 直線軌道
302 カーブ軌道
303 直線ガイドレール
304 内側ガイドレール
305 外側ガイドレール
401 車載コントローラ
402、403、404、405 モータ駆動装置
406、407 ボギー台車旋回軸のスリップリング
408、409、410、411 モータ
501 台車位置指令生成機能
601 台車位置センサ
602 台車位置スケール
701 台車位置
702 フルクローズ位置制御器
703 台車速度指令
801 台車動作指令
802 台車位置指令生成器
1101 記憶部
1102 指令分周逓倍比補正値
1103 速度指令出力ゲイン補正値
1104 速度指令入力ゲイン補正値
1501 左前輪磁気センサ
1502 左後輪磁気センサ
1503 右前輪磁気センサ
1504 右後輪磁気センサ
1505 右回り磁気テープ
1601 内回り外部入力
1602 外回り外部入力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールで規定される軌道上を走行する、複数の車輪を備えた走行台車に搭載され、前記車輪を駆動するモータを制御するモータ駆動装置において、台車位置指令を入力とし、これに指令分周逓倍比を乗じて車輪位置指令に変換し、車輪位置指令と実際の車輪位置から位置制御器で車輪速度指令を生成し、これに速度指令出力ゲインを乗じて速度指令出力を算出するコントローラ部と、速度指令出力のうち1つを速度指令入力とし、速度指令入力ゲインを乗じて速度制御指令を生成し、これに実際の車輪速度が追従するよう制御する速度制御器を持つドライバ部を具備するモータ駆動装置。
【請求項2】
台車位置指令を入力とし、これと実際の台車位置からフルクローズ位置制御器で台車速度指令を生成し、これに速度指令出力ゲインを乗じて速度指令出力を算出するコントローラ部を具備する請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記コントローラ部は、台車位置指令生成機能を具備する請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記コントローラ部は、ステップ外乱入力に対して定常偏差を持たない制御系であり、前記ドライバ部はすべて同一の制御系で、ステップ外乱入力に対して定常偏差を持つ0形の制御系である構成を具備する請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記ドライバ部の速度指令入力ゲインを、走行台車が直線軌道を一定速度で走行する期間の車輪回転量で更新する構成を具備する請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
走行台車が直線軌道を一定の台車速度で走行したときのモータ速度を基準速度とし、カーブ軌道を同じ台車速度で走行したときのモータ速度とのカーブ速度比を、台車位置と対で記憶部に保存し、実際の走行時に現在の台車位置に応じて、カーブ速度比を記憶部から読み出し、指令分周逓倍比および速度指令出力ゲインおよび速度指令入力ゲインを補正する構成を具備する請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記記憶部の入力の1つである台車位置を、有限個の台車区間に分割して、台車区間ごとにカーブ速度比を記憶する構成を具備する請求項6記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記台車区間が、走行台車のすべての車輪が直線軌道にある直線区間と、一部の車輪がカーブ軌道に入ったカーブイン区間と、すべての車輪がカーブ軌道にあるカーブ区間と、一部の車輪がカーブ軌道から出て直線区間にあるカーブアウト区間から構成される請求項7記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記台車区間の判定に、台車位置指令の代わりに、各車輪が直線区間またはカーブ区間にいることを示す外部入力を用いて、制御するモータが駆動する車輪の外部入力を内回り外部入力に接続し、左右対となる車輪の外部入力を外回り外部入力に接続して、カーブ速度比を切り替える構成を具備する請求項7記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記台車区間が、一定のカーブ速度比を持つ定常区間と、モータおよびモータ駆動装置で駆動可能な範囲でカーブ速度比をなめらかにつなぐ遷移区間を具備する請求項7記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記記憶部に保存するカーブ速度比に、ガイドレールの軌道と走行台車の車輪配置から計算される理論値を用いる構成を具備する請求項6記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
カーブ速度比として、車輪が外回りの場合は外輪軌道半径、内回りの場合は内輪軌道半径を分子とし、外輪と内輪の軌道中心半径を分母とした値の平方根を用いる構成を具備する請求項11記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−146171(P2012−146171A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4689(P2011−4689)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】