説明

モータ駆動装置

【課題】最適なゲイン設定ができるゲイン切換判定手段を有したモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】トルク指令25どおりにモータを駆動させるよう制御する電流制御手段3と、ゲイン切換信号34で選択されたゲインで制御する速度フィードフォワード手段4と、ゲイン切換信号34で選択されたゲインで制御するトルクフィードフォワード手段5と、モータ速度30を算出する速度検出手段6と、位置指令速度31を算出する位置指令速度検出手段7と、ゲイン切換信号34をオン/オフするゲイン切換判定手段8と、判定遅延時間設定手段9と、判定閾値設定手段10とを有し、ゲイン切換判定手段8にて判定遅延時間32経過後の位置指令速度31の絶対値が判定閾値33以下であればゲイン切換信号34をオンし、判定閾値33より大きい場合はゲイン切換信号34をオフのままとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ位置を指令位置に追従させるよう制御を行い、かつゲイン切換機能を有するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータの位置決め制御では、上位コントローラから出力される位置指令に対し、モータ位置を追従させるよう制御される。その場合、要求される性能として、整定時間の短縮や、振動の低減などがある。
【0003】
要求性能を満たすために、各種制御ゲインを調整することになるが、モータの動作条件に応じて制御ゲインを切替えることで、整定時間の短縮や振動の低減などを実現する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この方法は、モータの動作状態を加減速状態、一定速状態、停止状態の3つに分類し、その状態に応じた制御ゲインを適用するというものであり、加減速時の応答性向上とオーバシュートの低減、一定速状態時の安定性といった要求仕様にそれぞれ別の制御ゲインで対応することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−293234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した技術は、ある特定の位置指令パターンに対しては効果があるものの、位置指令の形状が変化した場合などの異なる仕様には、機器の仕様と要求仕様とに整合性し得ない場合も考察される。例えば、加減速度が同じという条件でも、位置指令距離が短い場合は、位置指令速度の形状は三角波になり、位置指令距離が長い場合は台形波になる。上述した技術で台形波に対し制御ゲインを最適化しても、指令が三角波に変わると再度振動等が発生してしまう。つまり、異なる位置指令距離に対する制御ゲインの最適化にまで対応した技術ではない点で、更なる高性能化を求められるケースもあり、これを課題とされる場合もあった。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、更なる高性能化の要望に対応することを旨に、位置指令距離が異なる場合に対し、個別に制御ゲインを最適化できるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、モータ位置を位置指令に追従させるよう制御するモータ制御装置において、ゲイン切換信号にて選択された位置制御ゲインを用いて位置偏差を0に収束させるよう位置制御出力を算出する位置制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度制御ゲインを用いて速度偏差を0に収束させるよう速度制御出力を算出する速度制御手段と、トルク指令どおりにモータを駆動させるよう電流制御出力を算出する電流制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度フィードフォワードゲインを用いて位置指令から速度フィードフォーワード出力を算出する速度フィードフォワード手段と、ゲイン切換信号にて選択されたトルクフィードフォワードゲインを用いて速度フィードフォワード出力からトルクフィードフォーワード出力を算出するトルクフィードフォワード手段と、モータ位置からモータ速度を算出する速度検出手段と、位置指令から位置指令速度を算出する位置指令速度検出手段と、位置指令速度と判定遅延時間と判定閾値からゲイン切換信号をオン/オフするゲイン切換判定手段と、判定遅延時間を設定する判定遅延時間設定手段と、判定閾値を設定する判定閾値設定手段とを有し、ゲイン切換判定手段にて判定遅延時間経過後の位置指令速度の絶対値が判定閾値以下であればゲイン切換信号をオンし、判定閾値より大きい場合はゲイン切換信号をオフのままとする構成を具備するモータ駆動装置である。
【0009】
第2の発明は、モータ位置を位置指令に追従させるよう制御するモータ制御装置において、ゲイン切換信号にて選択された位置制御ゲインを用いて位置偏差を0に収束させるよう位置制御出力を算出する位置制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度制御ゲインを用いて速度偏差を0に収束させるよう速度制御出力を算出する速度制御手段と、トルク指令どおりにモータを駆動させるよう電流制御出力を算出する電流制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度フィードフォワードゲインを用いて位置指令から速度フィードフォーワード出力を算出する速度フィードフォワード手段と、ゲイン切換信号にて選択されたトルクフィードフォワードゲインを用いて速度フィードフォワード出力からトルクフィードフォーワード出力を算出するトルクフィードフォワード手段と、モータ位置からモータ速度を算出する速度検出手段と、位置指令から位置指令速度を算出する位置指令速度検出手段と、位置指令速度と判定遅延時間と判定閾値からゲイン切換信号をオン/オフするゲイン切換判定手段と、判定遅延時間を設定する判定遅延時間設定手段と、判定閾値を設定する判定閾値設定手段と、ゲイン切換継続時間を設定するゲイン切換継続時間設定手段を有し、ゲイン切換判定手段にて判定遅延時間経過後の位置指令速度の絶対値が判定閾値以下であればゲイン切換継続時間だけゲイン切換信号をオンし、判定閾値より大きい場合はゲイン切換信号をオフのままとする構成を具備するモータ駆動装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモータ駆動装置によれば、位置指令距離が異なる2つの状態に対し、それぞれの状態に最適な制御ゲインを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置のブロック図
【図2】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置のタイミング図
【図3】本発明の実施例2におけるモータ駆動装置のブロック図
【図4】本発明の実施例2におけるモータ駆動装置のタイミング図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
図1は、第1の発明のモータ駆動装置におけるブロックである。図1において、位置制御手段1は、位置指令20とモータ位置29との差分である位置偏差21とゲイン切換信号34から位置制御出力22を出力し、速度制御手段2は位置制御出力22と速度フィードフォワード出力27との加算値とモータ速度30との差分である速度偏差23とゲイン切換信号34から速度制御出力24を出力し、電流制御手段3は、速度制御出力24とトルクフィードフォワード出力28との加算値であるトルク指令25から電流制御出力26を出力し、速度フィードフォワード手段4は、位置指令20とゲイン切換信号34から速度フィードフォワード出力27を出力し、トルクフィードフォワード手段5は、速度フィードフォワード出力27とゲイン切換信号34からトルクフィードフォワード出力28を出力し、速度検出手段6は、モータ位置29のサンプリング間の差分からモータ速度30を算出し、位置指令速度検出手段7は、位置指令20のサンプリング間の差分から位置指令速度31を算出し、ゲイン切換判定手段8は、位置指令速度31と判定遅延時間32と判定閾値33からゲイン切換信号34を出力し、判定遅延時間設定手段9は判定遅延時間32を設定し、判定閾値設定手段10は判定閾値33を設定するものである。
【0014】
位置制御手段1と速度制御手段2と速度フィードフォワード手段4とトルクフィードフォワード手段5は、内部で2種類の制御ゲインを保有し、ゲイン切換信号34がオフの場合は第1の制御ゲインを適用、オンの場合は第2の制御ゲインを適用するものである。この制御ゲインはパラメータ設定などであらかじめ設定しておく。
【0015】
ゲイン切換判定手段8では、位置指令速度31の絶対値が0より大になった時点から判定遅延時間32経過後に、そのときの位置指令速度31の絶対値が判定閾値33以下の場合はゲイン切換信号34をオンする。位置指令速度31の絶対値が判定閾値33より大きい場合はゲイン切換信号34は初期状態のオフのままとする。これにより、判定遅延時間32経過後の位置指令速度31が一定値以上にならない場合のみゲイン切換信号34はオフ/オンし、それ以外の場合はゲイン切換信号34はオフのまま、という2つの状態を作り出すことができる。また、ゲイン切換信号34がオンのときに、位置指令速度31の絶対値が0から0より大の変化を検出した場合にはゲイン切換信号34をオフに戻す。
【0016】
つぎに位置指令距離の違いに対応できるかについて、図2を用いて説明する。図2において、(a)は位置指令距離が短い場合(ショートピッチ)、(b)は位置指令距離が長い場合(ロングピッチ)を示している。それぞれの位置指令速度31は図に示すとおりであり、ショートピッチの場合は三角波指令、ロングピッチの場合は台形波指令になる。判定閾値33をショートピッチ時の最大値に設定し、判定遅延時間32をショートピッチの減速中程度の時間に設定すると、図に示すように、ゲイン切換信号34は、ショートピッチではオフ/オンの変化があり、ロングピッチではオフのままとなる。まずロングピッチに対し、ゲイン切換信号34がオフの状態で適用される制御ゲインを最適化する。その後、ショートピッチに対しては、ゲイン切換信号34がオンの状態で適用される制御ゲインをショートピッチ用に最適化する。このショートピッチ用に最適化した制御ゲインはロングピッチに対しては全く影響を与えないため、独立した最適化を実現できる。また、判定閾値33や判定遅延時間32を微調整することでゲイン切換時の衝撃が少ないタイミング、例えばトルク指令25が0付近、またはモータ速度30付近などで切り換えるよう調整することができる。
【0017】
なお、判定遅延時間設定手段9や判定閾値設定手段10では、判定遅延時間32や判定閾値33をパラメータ等で可変にしておき、通信や前面パネル操作などから変更できるようにしておくとよい。
【0018】
また、位置制御手段1、速度制御手段2、速度フィードフォワード手段4、トルクフィードフォワード手段5にてゲイン切換を行っているが、ゲインを変更したくない部分はゲイン切換信号34がオン/オフどちらでも同じ制御ゲイン設定にしておけばよい。
【0019】
また、位置制御手段1内には一般的には位置比例ゲイン、位置積分ゲイン、速度制御手段2内には速度比例ゲイン、速度積分ゲイン、速度フィードフォワード手段4内には、速度フィードフォワードゲイン、速度フィードフォワードフィルタ時定数、トルクフィードフォワード手段5内にはトルクフィードフォワードゲイン、トルクフィードフォワードフィルタ時定数などの各制御ゲインを有し、それぞれにおいてゲイン切換信号34がオン用、オフ用の2種類のゲインをもっておけばよい。これ以外にも制御系に応じて、加速度フィードバックなどの制御手段を付加し、同様にゲイン切換を行えることは明白である。
【実施例2】
【0020】
図3は、第2の発明のモータ駆動装置におけるブロックである。図1に対し、ゲイン切換継続時間35を設定するゲイン切換継続時間設定手段11を付加した形である。
【0021】
基本的な構成は実施例1と同じであり、ここでは相違点のみ説明する。ゲイン切換判定手段8では、位置指令速度31の絶対値が0より大になった時点から判定遅延時間32経過後に、そのときの位置指令速度31の絶対値が判定閾値33以下の場合はゲイン切換信号34をオンする。位置指令速度31の絶対値が判定閾値33より大きい場合はゲイン切換信号34は初期状態のオフのままとする。ゲイン切換信号34がオンになった状態からゲイン切換継続時間35経過後、ゲイン切換信号34をオフする。
【0022】
こうすることにより、図4に示すように、ショートピッチ時に、ゲイン切換信号34がオンしている区間を任意に設定できるようになるため、制御ゲインの最適化の自由度を向上させることができる。
【0023】
なお、ゲイン切換継続時間設定手段11では、判定遅延時間設定手段9や判定閾値設定手段10と同様に、ゲイン切換継続時間35をパラメータ等で可変にしておき、通信や前面パネル操作などから変更できるようにしておくとよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のモータ駆動装置は、位置決め制御だけでなく、速度制御などにも有用である。
【符号の説明】
【0025】
1 位置制御手段
2 速度制御手段
3 電流制御手段
4 速度フィードフォワード手段
5 トルクフィードフォワード手段
6 速度検出手段
7 位置指令速度検出手段
8 ゲイン切換判定手段
9 判定遅延時間設定手段
10 判定閾値設定手段
11 ゲイン切換継続時間設定手段
20 位置指令
21 位置偏差
22 位置制御出力
23 速度偏差
24 速度制御出力
25 トルク指令
26 電流制御出力
27 速度フィードフォワード出力
28 トルクフィードフォワード出力
29 モータ位置
30 モータ速度
31 位置指令速度
32 判定遅延時間
33 判定閾値
34 ゲイン切換信号
35 ゲイン切換継続時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ位置を位置指令に追従させるよう制御するモータ制御装置において、ゲイン切換信号にて選択された位置制御ゲインを用いて位置偏差を0に収束させるよう位置制御出力を算出する位置制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度制御ゲインを用いて速度偏差を0に収束させるよう速度制御出力を算出する速度制御手段と、トルク指令どおりにモータを駆動させるよう電流制御出力を算出する電流制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度フィードフォワードゲインを用いて位置指令から速度フィードフォーワード出力を算出する速度フィードフォワード手段と、ゲイン切換信号にて選択されたトルクフィードフォワードゲインを用いて速度フィードフォワード出力からトルクフィードフォーワード出力を算出するトルクフィードフォワード手段と、モータ位置からモータ速度を算出する速度検出手段と、位置指令から位置指令速度を算出する位置指令速度検出手段と、位置指令速度と判定遅延時間と判定閾値からゲイン切換信号をオン/オフするゲイン切換判定手段と、判定遅延時間を設定する判定遅延時間設定手段と、判定閾値を設定する判定閾値設定手段とを有し、ゲイン切換判定手段にて判定遅延時間経過後の位置指令速度の絶対値が判定閾値以下であればゲイン切換信号をオンし、判定閾値より大きい場合はゲイン切換信号をオフのままとする構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項2】
モータ位置を位置指令に追従させるよう制御するモータ制御装置において、ゲイン切換信号にて選択された位置制御ゲインを用いて位置偏差を0に収束させるよう位置制御出力を算出する位置制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度制御ゲインを用いて速度偏差を0に収束させるよう速度制御出力を算出する速度制御手段と、トルク指令どおりにモータを駆動させるよう電流制御出力を算出する電流制御手段と、ゲイン切換信号にて選択された速度フィードフォワードゲインを用いて位置指令から速度フィードフォーワード出力を算出する速度フィードフォワード手段と、ゲイン切換信号にて選択されたトルクフィードフォワードゲインを用いて速度フィードフォワード出力からトルクフィードフォーワード出力を算出するトルクフィードフォワード手段と、モータ位置からモータ速度を算出する速度検出手段と、位置指令から位置指令速度を算出する位置指令速度検出手段と、位置指令速度と判定遅延時間と判定閾値からゲイン切換信号をオン/オフするゲイン切換判定手段と、判定遅延時間を設定する判定遅延時間設定手段と、判定閾値を設定する判定閾値設定手段と、ゲイン切換継続時間を設定するゲイン切換継続時間設定手段を有し、ゲイン切換判定手段にて判定遅延時間経過後の位置指令速度の絶対値が判定閾値以下であればゲイン切換継続時間だけゲイン切換信号をオンし、判定閾値より大きい場合はゲイン切換信号をオフのままとする構成を具備するモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253987(P2012−253987A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126978(P2011−126978)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】