モード同期固体レーザ装置
【課題】小型、低コストでかつ安定性が高く、フェムト秒領域のCWモード同期を実現できる固体レーザ装置を得る。
【解決手段】固体レーザ媒質15と可飽和吸収ミラー16とをレーリ長の2倍以下の距離で近接配置する。その上で、可飽和吸収ミラー16の吸収変調深さΔRを0.4%以上とし、パルス幅に対して所定の関係式で表される、共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)を、可飽和吸収ミラー16により基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定し、出力ミラーとして、所定の波長の光18に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%である負分散ミラー5を用いる。
【解決手段】固体レーザ媒質15と可飽和吸収ミラー16とをレーリ長の2倍以下の距離で近接配置する。その上で、可飽和吸収ミラー16の吸収変調深さΔRを0.4%以上とし、パルス幅に対して所定の関係式で表される、共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)を、可飽和吸収ミラー16により基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定し、出力ミラーとして、所定の波長の光18に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%である負分散ミラー5を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体レーザ装置、特に詳細には、小型で高出力かつ高効率の短パルス動作が可能なモード同期固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ(LD)を励起光源とし、それにより、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質(レーザ結晶、セラミクス、ガラス等)を励起する固体レーザが活発に開発されている。その中でも、ピコ秒からフェムト秒領域のいわゆる短パルス光を発生する短パルスレーザは、医療、バイオ、機械産業、計測など、多岐にわたる応用分野が模索、提案され、実証を経て、一部実用化されている。
【0003】
この種のレーザは、モード同期と呼ばれる動作により短パルスを発生している。モード同期とは、簡単に言えば、レーザ発振の際、周波数領域で見ると多数の縦モードの位相が全て同期しており(相対位相差=0)、このため縦モード間のマルチモード干渉により、時間領域では極めて短いパルスとなる現象である。固体レーザでは、半導体可飽和吸収ミラー(Semiconductor Saturable Absorbing Mirror; 以下、SESAMという)によるモード同期が、簡便さ、低コスト、小サイズ、さらに自己開始するという特長が有ることから、精力的に研究開発されている。
【0004】
特に、モード同期の一つの形態であるソリトン型モード同期では、レーザ共振器内の負の群速度分散と、主にレーザ媒質での自己位相変調が組み合わさって、フェムト秒領域のパルス発生を可能としている。より詳しく言うと、ソリトン型モード同期とは、可飽和吸収ミラーによりモード同期が始動してパルスを維持安定化させるとともに、負の群速度分散と自己位相変調がバランスすることによるソリトンパルス形成を経てモード同期パルスの急峻化が起こり、安定なパルス発生を可能とするものである(非特許文献1,3参照:ソリトン型モード同期の定義)。
【0005】
なお、このソリトン型モード同期を実現する固体レーザ装置は、基本的に、固体レーザ媒質、可飽和吸収ミラーおよび負分散素子(負群速度分散素子)を共振器内に備えて構成される。
【0006】
図18に、非特許文献1に示されている、従来のYbを添加したソリトン型モード同期固体レーザ(固体レーザ媒質はYb:KGd(WO4)2)の典型的な構成を示す。この図において、80は例えば波長980nmの励起光を発する励起光源、81は1対設けられた励起光源80のそれぞれに対応して設けられた入力光学系、83は固体レーザ媒質、M1、M2は共振器を構成する例えば曲率半径20cmの1対の凹面ミラー、84も曲率半径20cmの凹面ミラー、85はSESAM、86および87はプリズム対を構成する例えばSF10ガラスからなるプリズム、88はナイフエッジ板、89は例えば透過率4.3%の出力カプラーである。
【0007】
この種のモード同期固体レーザ装置において一般的には、レーザ媒質での共振器スポットサイズ(モード半径ωL)および、SESAMでのスポットサイズ(モード半径ωA)を小さくするために、凹面ミラーM1、M2および84にて共振器モードを別々に絞り込む構成が採られている。
【0008】
このように、レーザ媒質上およびSESAM上におけるスポットサイズ(発振光のビーム半径)を小さくする理由は下記の2つである。まず第1の理由はレーザ発振閾値を低減するためであり、第2の理由はソリトンモード同期条件を満たすためである。
【0009】
まず第1の理由について説明する。レーザ発振閾値Pthは、下記式(1)のように表される(非特許文献2参照)。
【数1】
【0010】
ただし、ωP:固体レーザ媒質中での励起光ビーム半径、hνp:励起光フォトンエネルギー、σ:固体レーザ媒質の誘導放出断面積、τ:上準位寿命、ηa:吸収効率、f1:下準位の占有率、f2:上準位の占有率、Li:共振器内部損失、TOC:出力鏡透過率、N0:希土類イオン添加濃度、ls:結晶長である。
【0011】
式(1)から、発振閾値を小さくするには、固体レーザ媒質中での発振光ビーム半径ωLと励起光ビーム半径ωPを小さくすれば良いことがわかる。
【0012】
非特許文献3では、ソリトン型モード同期レーザにおいて、Qスイッチ動作が混在したモード同期(Qスイッチモード同期)が、ある条件下で生じることが指摘されている。Qスイッチモード同期とは、Qスイッチパルス(周波数1kHz〜数100kHz、パルス幅がマイクロ秒からナノ秒)のロングパルスの中に、モード同期パルス列(周波数10MHz〜1GHz、パルス幅がピコ秒からフェムト秒)が並ぶ場合をいう。
【0013】
この動作モードは、出力やパルス幅、パルス周期の安定性に欠けるので、エネルギー応用以外では一般的には望ましくない。非特許文献3によれば、可飽和吸収ミラーを用いたソリトン型モード同期において、Qスイッチ動作を生じさせない条件は、以下の式(2)のように表される。
【数2】
【0014】
ここで、EP:共振器内部パルスエネルギー、ΔR:可飽和吸収ミラーの吸収変調深さ、Fsat,A:可飽和吸収ミラーの飽和フルーエンス、Fsat,L (=hν/σ):レーザ媒質の飽和フルーエンス、hν:レーザ光子エネルギー、Aeff,A (=πωA2):可飽和吸収ミラーにおける発振光ビーム断面積、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、g:レーザ媒質のレーザ利得、
【数3】
【0015】
(n2:レーザ媒質の非線形屈折率、D:共振器全体での一往復の群速度分散(D<0)、λ0:発振光の中心波長、ΔνG:利得帯域幅)
である。各ビーム断面積を小さくし、(2)式を満たすようなパルスエネルギーEPが発振器で実現できれば、Qスイッチ不安定性の無い、いわゆるCWモード同期が実現できることが知られている。なお、(2)式において、左辺=右辺としたときのEPの解がモード同期閾値であり、(2)式を満たすとは、EPをそのモード同期閾値よりも大きくなるように設定することをいう。
【0016】
以上説明したレーザ発振閾値、およびCWモード同期閾値に関する2つの条件から、レーザ媒質、SESAMにおいてビーム断面積を縮小する必要がある。従来のモード同期固体レーザの場合、レーザ媒質を2枚の凹面ミラー(図18の例ならばM1,M2;通常、曲率半径100〜200mmのものが用いられる)により挟み込んでビームを絞り込み、かつ、SESAMでも凹面ミラーで集光する構成が多く採用されている。
【0017】
具体的な装置のサイズとしては、凹面ミラーとレーザ媒質、SESAMとの間は曲率半径の半分程度の距離に設定するので、これだけで、150mm(曲率半径100mmの場合)〜300mm(曲率半径200mmの場合)程度の長さを必要とする。さらに負分散素子などの挿入スペースを考えると、500mm〜1m級の共振器長が必要になり、このことがレーザ装置サイズの大型化を招く。なお図18の構成では、負分散はプリズム86、87からなるプリズム対により与えられ、プリズム間隔は450mmである。一般的に、固体レーザにおいてメートル級の共振器を組んだ場合、安定動作は難しく、この点から、従来装置はレーザ発振動作の安定性が低いものとなっていた。また、光学部品を多く備えることは、即ち高コストであるという問題もあった。
【0018】
そのため、モード同期固体レーザ装置においては、レーザ発振動作の安定を図るため装置の小型化が望まれている。
【0019】
一方、特許文献1には、図19に示すように、固体レーザ媒質101とSESAM102とから共振器を構成する小型のレーザ装置100が提案されており、固体レーザ媒質101とSESAM102がリング108を介して所定間隔103空けて配置され、その間隔103がGTI(Gires-Tournois干渉計)として作用して負分散を生じさせる構成が開示されている。装置100においては、レーザ媒質101の一端面104が曲面とされ、ここに所定のコートが施されて出力ミラー105として機能するものとされており、この出力ミラー105から励起光106が入射され、出力光107が出射される構成となっている。
【0020】
特許文献2には、レーザ媒質、可飽和吸収体、あるいは出力ミラーにチャープミラーコーティング(負分散コート)を備えることが提案されており、例えば、図20に示すように、レーザ媒質111の一端面に可飽和吸収体ミラー112がコーティングされており、このレーザ媒質111の一端面と負分散ミラーであるチャープミラー113のミラー面で共振器を構成する小型のレーザ装置110が提案されている。図20の装置110では、レーザ媒質111に対して励起用の半導体レーザ114から励起光115を入射し、チャープミラー113から出力光116を取り出す構成となっている。
【0021】
このように、特許文献1では、固体レーザ媒質とSESAMを近接配置することにより装置を小型化することが提案されており、特許文献2では、固体レーザ媒質に可飽和吸収体ミラー112をコーティングすると共に負分散ミラーが出力ミラーを兼ねる構成とすることで光学部品を低減し装置を小型化することが提案されている。
【0022】
負分散素子としては、一般に、プリズム対、回折格子対、負分散ミラーなどの1つもしくは複数の組み合わせが用いられているが、特許文献2で提案されているように、装置の小型化の面で負分散ミラーが出力ミラーを兼ねることが望ましい。
【0023】
負分散ミラーとしては、特許文献2で挙げられている長波長側の光と短波長側の光との侵入深さの違いを利用して負分散補償を行うチャープ型のミラーと、その他全反射ミラーと部分反射ミラー間での光の干渉を利用して負分散補償を行うGTI型のミラーとが一般に知られている。
【0024】
チャープ型ミラーの典型例としては、相対的に高い屈折率を有する高屈折率層と、相対的に低い屈折率を有する低屈折率層とが交互に積層されたミラーにおいて、高屈折率層の光学膜厚および低屈折率層の光学膜厚がそれぞれ積層方向に直線的に変化するように積層されているもの(例えば、非特許文献4参照)が挙げられる。
【0025】
一方GTI型ミラーは、誘電体多層膜の内部に共振構造を備えたことを特徴とするものであり(例えば、非特許文献5参照)、多層膜内部にキャビティ層を2層備えたダブルGTI構造のミラー(特許文献3参照)あるいはキャビティ層はないが共振構造を有するよう、多層膜を構成する各層の光学膜厚は何らかの規則に沿った変化をするように構成されているミラー(特許文献4)なども提案されている。
【0026】
また、特許文献5には、2種類以上の異なる屈折率層を交互に積層した誘電体多層膜スタックが2スタック以上積層され、各スタックの中心波長が異なるようにすることで2次のみならず、3次以上の分散補償を行うことを特徴とする誘電体多層膜が提案されており、特許文献6には、可視光帯域における反射率が95%以上であり、最外膜の屈折率が最外膜直下の膜の屈折率よりも低く、負群速度分散を生じさせるよう構成された多層膜ミラーが提案されている。
【特許文献1】米国特許7,106,764号明細書
【特許文献2】特開平11-168252号公報
【特許文献3】特表2002−528906号公報
【特許文献4】特表2002−523797号公報
【特許文献5】特開平2−23302号公報
【特許文献6】特開2000−138407号公報
【非特許文献1】Optics Letters, vol.25 no.15 pp.1119-1121, 2000
【非特許文献2】Applied Optics, vol. 36 no.9, pp.1867-1874, 1997
【非特許文献3】Journal of Optical Society of America, vol. 16 no. 1, p.46-56, 1999
【非特許文献4】R. Szipoecs他、Optics Letters, Vol.19, 201(1994)
【非特許文献5】IEEE Transaction on Quantum Electronics, vol. 22, no.1 (1986) pp. 182-185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
既述の通り、モード同期固体レーザ装置の小型化を図る場合、固体レーザ媒質とSESAMを近接して配置すること、および負分散ミラーを出力ミラーとして用いることが考えられる。
【0028】
特許文献2においては、出力ミラーに負分散機能を有するチャープミラーコーティングを施した負分散ミラーを用いることが提案されているが、特許文献2では、出力ミラーとして用いる場合の光透過率、負分散量などについての具体的な記載がされておらず、また、ミラーを構成する誘電体膜についての具体的な記載がなく、文献2の開示から実施可能とは言えない。また、特許文献6においては、出力ミラーに誘電体多層膜を設けることによって周波数チャープ補償ができる旨の記載がある一方、具体的な実施例として挙げられている多層膜の反射率は99.9%以上でほぼ100%のものであることから、ほとんど出力光が得られず、出力ミラーとしての機能するものではない。
【0029】
また、市販されている、負分散素子の負分散量は数十〜数百fsec2であることから、十分な負分散補償を行うためには、共振器内に複数の負分散素子を備える必要があり、装置の小型化、安定化を十分に図ることができないという問題があった。
【0030】
また一方、特許文献1および特許文献2などのように、反射ミラーである可飽和吸収ミラーとレーザ媒質とを近接あるいは接触して配置した場合、下記のような問題がある。レーザ共振器の中で、利得媒質であるレーザ媒質の光軸上の位置により、いわゆる空間ホールバーニング効果の生じ方に差異が生じ、それがモード同期現象と結合して、モード同期の安定性に影響を与えることが、Applied Physics B vol.72 pp.267-278, 2001(以下、参考文献1という)や、さらには文献Applied Physics B vol.61 pp.429-437, 1995および文献Applied Physics B vol.61 pp.569-579, 1995により知られている。
【0031】
共振器を構成する反射ミラー面においては、内部に存在する光波電界の位相とびが生じ、電界強度が零になる「節」が存在する。レーザ媒質を反射ミラー近傍に配置した場合、レーザ媒質の中には、この位相飛びから来るレーザ光波強度の空間的な縞が生じる。これが空間ホールバーニングである。
【0032】
参考文献1では、反射ミラー近傍にレーザ媒質が配置された場合、利得スペクトル上に凹みが生じ、これが内部を周回しているソリトンパルスの不安定性を生じさせると記載されている。より詳しくは、反射ミラー近傍では空間ホールバーニング効果がより強く発現するため、レーザ媒質中に生じる空間ホールバーニングによる利得の縞模様が、レーザ共振器中を周回しているレーザパルス(ここでは、ソリトンパルスのためパルス帯域が比較的広い)の周波数領域での利得スペクトルの変調に繋がり、これが、ひいては所望のパルスと競合する現象(シフトパルス、ダブルパルス、CWバックグラウンド)の方に優先的に利得を与え、これにより、所望のソリトンパルスが競合に負け、上記の望ましくないパルス現象が生じ、不安定となるのである。
【0033】
従って、特許文献1および特許文献2などのように、反射ミラーである可飽和吸収ミラーとレーザ媒質とを近接あるいは接触して配置した場合、空間ホールバーニング効果が顕著に起こり、ソリトンモードパルスが著しく不安定になると考えられる。
【0034】
しかしながら、特許文献1および2には、空間ホールバーニング効果によるモード安定性への影響について何ら記載されておらず、モード安定性を図る方策が開示されていない。
【0035】
すなわち、モード同期固体レーザ装置を小型化するに当たり、小型化を達成するための構成提案はなされているが、小型化した構成において、ソリトンパルスを安定して発生させるための条件が明確にされておらず、また、出力ミラーとして機能すると共に、一素子で十分な負分散補償を行うことができる負分散ミラーを実現した例は明らかにされておらず、小型なモード同期固体レーザ装置は実現されていない。
【0036】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、モード同期動作を安定させることができる条件を明確にし、小型、低コストでかつ安定性が高く、フェムト秒領域のCWモード同期を実現できるモード同期固体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の固体レーザモード同期装置は、一端を出力ミラーにより構成されてなる共振器と、前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、可飽和吸収ミラーとを備えたモード同期固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質と前記可飽和吸収ミラーとが、両者間の距離がレーリ長の2倍以下となるように配置されており、
前記可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRが0.4%以上であり、
下記関係式で表される、前記共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)が、前記可飽和吸収ミラーにより基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定されており、
前記出力ミラーが、基板上に誘電体多層膜構造を有してなる負分散ミラーであって、前記所定の波長の光に対して、分散量が−1000fsec2〜−100fsec2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%であり、前記多層膜構造が、相対的に高い屈折率を有する層および相対的に低い屈折率を有する層が交互に積層されてなり、前記所定の波長をλとしたとき、各層の光学膜厚がλ/8〜λ/2の範囲でランダムに変化しているものであることを特徴とするものである。なお、以下においてはfsecを単にfsと示すことがある。
【数4】
【0038】
(ただし、τP:パルス幅、λ0:中心波長、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、n2:レーザ媒質の非線形屈折率、ls:レーザ媒質の結晶長、EP:共振器内部パルスエネルギー)
【0039】
すなわち、本発明者らは、モード同期固体レーザ装置の小型化を図る過程において、レーザ媒質とSESAMとをレーリ長以下で配置することにより、レーザ媒質上にビームウエストを形成しない構成であっても、ソリトンモード同期パルスを発生可能であることを見いだした。
【0040】
また、本発明者らは、装置を小型に構成した場合において、モードの安定性のために、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さ、および共振器内全分散量に、所定の制限があることを見いだし、これを明確にした。これらの可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRおよび共振器内全分散量Dの条件は、モード同期の安定性に関して仔細に検討した結果見出したものである。
【0041】
また、装置の小型化を図るために負分散ミラーを出力ミラーとして用いる(あるいは出力ミラーを負分散ミラーとして用いる)ためには、レーザ出力を取り出すための透過率と、安定動作を得るための共振器内全分散量を実現するミラー分散量とを備えた負分散ミラーを実現する必要があることを見いだした。
【0042】
上記の「レーリ長」とは、zR=πωA2/λで規定される値であり、発振光ビーム半径が、ビームウエスト(この場合、ωA)の√2倍になる、ビームウエストからの光軸方向距離である。また、前記可飽和吸収ミラーと固体レーザ媒質との距離が「レーリ長の2倍以下」とは、両者の距離が0である場合、すなわち、可飽和吸収ミラーと固体レーザ媒質とが密着する場合を含むものとする。
【0043】
また、上記「基本周期のソリトンパルス以外の動作様式」とは、共振器において基本ソリトンパルスと競合して生じるダブルパルス、またはCWバックグラウンドなどの競合パルスを意味するものである(図2参照)。
【0044】
図2と表1を参照して、基本ソリトンパルスに競合して生じる競合パルスを簡単に説明する。シフトパルスとは、基本ソリトンパルスと比較し、パルス帯域、パルスエネルギーは等しいが中心周波数がδνshiftだけシフトしたものである。CWバックグラウンドとは、時間領域ではパルスではなくCW(連続波)動作している成分であり、スペクトル上は狭線幅である。ダブルパルスとは、基本ソリトンパルスの1/2のエネルギー、1/2のパルス帯域を持つ2個のパルス列のことである。全て基本ソリトンから周波数シフトしているが、図2では説明を簡単にするために、CWバックグラウンドとダブルパルスについてはシフト量を零として描いている。
【表1】
【0045】
なお、シフトパルスは、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さにより抑制できないパルスであり、上記における「基本周期のソリトンパルス以外の動作様式」には、シフトパルスを含まないものとする。
【0046】
共振器内全分散量Dは、パルス幅(なお、パルス幅はパルス帯域に逆比例する)との関係において上記式のように表され、0.4%以上の所定値に設定された、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さにおいて、空間ホールバーニング効果により生じる競合パルス(ダブルパルスおよびCWバックグラウンド)が抑制されるパルス帯域から求められる範囲に設定する。
【0047】
負分散ミラーについて、上記「ランダムに変化」とは、従来技術の項で説明した、チャープミラーのように高屈折率層の光学膜厚および低屈折率層の光学膜厚がそれぞれ積層方向に直線的に変化するように積層されているものや、各層の光学膜厚が何らかの規則に沿った変化をするように積層されている層膜構造を含まないことを意味する。
【0048】
またここで、分散量が−1000fs2〜−100fs2であるとは、−1000fs2以上、−100fs2以下の範囲内の所定の値であることを意味し、同様に反射率が97%〜99.5%であるとは、97%以上、99.5%以下の範囲内の所定の値であることを意味する。
【0049】
また、本発明によるモード同期固体レーザ装置においては、固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成されていることが望ましい。なお、上記「斜め方向からの入射」とは、光軸と垂直な方向からの入射も含むものとする。
【0050】
また、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、固体レーザ媒質として、希土類が添加されたものが適用されることが好ましい。そのような希土類としては、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、あるいはネオジム(Nd)が挙げられる。
【0051】
さらに、上述のように希土類が添加された固体レーザ媒質の好ましい例としては、Yb:YAG(Y3Al5O12)、Yb:KYW(K(WO4)2)、Yb:KGW(KGd(WO4)2)、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3、Er,Yb:ガラス、Nd:ガラス等が挙げられる。
【0052】
他方、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、共振器が直線型のものとして構成されることが望ましい。
【0053】
また、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、共振器モードウエスト直径が100μm以下であることが望ましい。なお、この「直径」は、光の進行方向に垂直な断面のビーム強度分布において、光強度が最大強度の1/e2以上である領域で定義するものとする。
【0054】
さらに、本発明のモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質がYb:KYWである場合は、共振器内全分散量Dが−2500fsec2以上0 fsec2未満の範囲にあることが望ましい。
【0055】
一方、固体レーザ媒質がYb:KGWである場合は、共振器内全分散量Dが−5750 fs2以上0 fs2未満の範囲あることが望ましい。
【0056】
また、固体レーザ媒質がYb:YAGである場合は、共振器内全分散量Dが−1750 fs2以上0 fs2未満の範囲あることが望ましい。
【0057】
また、固体レーザ媒質がYb:Y2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3250 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0058】
また、固体レーザ媒質がYb:Lu2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3000 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0059】
また、固体レーザ媒質がYb:Sc2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3000 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0060】
さらに、固体レーザ媒質がEr,Yb:ガラスである場合は、共振器内全分散量Dが−1200 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0061】
共振器内全分散量Dの好ましい範囲は固体レーザ媒質によって異なる。一方、共振器内に配置されるレーザ結晶や、各種コーティングなどは一般に正の群速度分散を呈し、光学部品数を最小とした共振器においても、総計+100fs2〜+500fs2の正の分散が生じる。負分散ミラーとして、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2のものを用い、各固体レーザ媒質において好ましい共振器内全分散量Dを満たすために、必要に応じて、所望の正の分散量を有する石英基板などを共振器内に挿入してもよい。
【0062】
本発明のモード同期固体レーザ装置において共振器長は、好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下、さらに好ましくは75mm以下、さらに好ましくは50mm以下とされる。
【0063】
なお、負分散ミラーとしては、前記基板として凹面を有するものを用い、前記多層膜構造を該凹面に設けることが好ましい。
【0064】
また、負分散ミラーとしては、前記分散量および前記反射率が前記所定の波長を含む10nm以上の帯域幅を有するものであること、すなわち、前記所定の波長を中心として10nm以上の帯域幅に対して分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲の所定値、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲の所定値であることが望ましい。
さらに、前記所定の波長は、所望の値に設定可能であるが、特に、1000nm〜1100nmの範囲にあることが好ましい。
【0065】
前記高い屈折率を有する層は、例えば、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものとすることができる。ここで、1つもしくは複数を含む混合物または化合物とは、先に列挙している酸化物、硫化物以外のものを含んでもよいが、ここに挙げた酸化物、硫化物の1つもしくは複数を主要成分として(全体の50重量%以上)含むものとする。
また、前記低い屈折率を有する層は、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものとすることができる。ここで、1つもしくは複数を含む混合物または化合物とは、先に列挙している酸化物、フッ化物以外のものを含んでもよいが、ここに挙げた酸化物、フッ化物の1つもしくは複数を主要成分として(全体の50重量%以上)含むものとする。
【発明の効果】
【0066】
本発明のモード同期固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と可飽和吸収ミラーとがレーリ長の2倍以下の距離で近接あるいは密着配置されていることにより、レーザ媒質中に発振光のビームウエストを形成することなく、レーザ媒質中で必要とされるビーム断面積を達成することができる。
【0067】
一方、レーザ媒質とSESAMとを近接させることにより空間ホールバーニングの影響により競合パルスのソリトンパルスに対する利得優位度が大きくなり、ソリトンパルスを安定して発生できなくなるという恐れがあるが、本発明者らは、本発明のように、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さを0.4%以上とし、上述の式を満たす共振器内全分散量|D|を、該可飽和吸収ミラーにより競合パルスを抑制することが可能なパルス帯域となる所定値とすることにより、安定したソリトンモード発振を行うことが可能であることを見いだした。共振器内分散量Dとしては、場合によっては−数千fsec2程度を必要とすることを明らかにした。従来においては、小型に構成したモード同期固体レーザ装置を安定に動作させる共振器内全分散量Dと可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRの条件が明確にされておらず、安定性の高い小型のモード同期固体レーザ装置の実現が困難であった。本発明の上記条件を満たすことにより、安定にソリトンモードを実現することができるモード同期個体レーザ装置を実現することができる。
【0068】
負分散ミラーを出力ミラーとして使用すれば、レーザ装置全体のサイズを小型化出来ることは特許文献2からも明らかであったが、出力ミラーとして機能する負分散ミラーの具体的な開示例はなかった。一方、本発明者らは、レーザ出力を最適に取り出すためには、レーザ利得と共振器内損失から計算される最適透過率として、出力ミラーとなる負分散ミラーの透過率を0.5%(反射率99.5%)〜3%(反射率97%)とし、また、モード同期安定性のための共振器内全分散量の条件を達成することができるミラー分散量として−1000fs2〜−100fs2を示す負分散ミラーを実現した。
【0069】
本発明の装置において、出力ミラーが、所定の波長の光に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%である負分散ミラーにより構成されており、このミラー分散量は従来の負分散ミラーと比較して非常に大きく、単体で十分な負分散補償が可能であり、共振器内にさらなる負分散素子を備える必要がないため、モード同期固体レーザ装置を小型に構成することができる。すなわち、共振器の一端を構成する出力ミラーとして上述の負分散ミラーを備えたことにより、装置全体とし部品を大幅に低減し、小型化することができることから、低コストに構成することができると共に、レーザ出力の安定化を達成することができる。
【0070】
このように、ソリトンパルスが安定して発生する条件を明確にし、さらに、上記条件の分散量および反射率を有する負分散ミラーを実現したので、相乗的に低コストかつ小型化を達成しつつ、安定性の高いモード同期固体レーザ装置を実現することができる。
【0071】
なお、本発明によるモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成された場合は、励起光学系が十分に小型化されるので特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0073】
図1は、本発明の一実施形態によるソリトン型モード同期固体レーザ装置を示す概略側面図である。図示の通りこのモード同期固体レーザ装置は、励起光(ポンピング光)10を発する半導体レーザ11と、励起光10を共振器内に入力させる励起光学系12と、この励起光学系12により共振器の外部から共振器光軸に斜めに入射された励起光10を、固体レーザ媒質15に向けて反射すると共に、共振器内で共振する発振光18を透過する、共振器内に配されたダイクロイックミラー13と、共振器の一方の終端を構成する出力ミラーを兼ねた負分散ミラー5と、共振器の他方の終端を構成するSESAM(半導体可飽和吸収ミラー)16と、このSESAM16および負分散ミラー5で構成される共振器の内部に配置された固体レーザ媒質15とから構成されている。
【0074】
本実施形態において、固体レーザ媒質15としては一例としてYb:KYW結晶が用いられている。半導体レーザ11としては、上記の固体レーザ媒質15を励起する波長980nmの励起光10を発するものが用いられている。またダイクロイックミラー13としては、波長980nmの励起光10を反射させ、波長1045nmの固体レーザ発振光18を透過させる特性のものが用いられている。
【0075】
そして上述の固体レーザ媒質15とSESAM16とは、SESAM16において形成される共振器モード半径(=発振光のビーム半径)により決定されるレーリ長の2倍以下の距離dで近接配置されている。
【0076】
以上の構成においては、半導体レーザ11から出力され、励起光学系12により共振器光軸に対して斜めに入射された励起光10がダイクロイックミラー13により反射されて固体レーザ媒質15に入力され、固体レーザ媒質15が励起され、それにより発生した波長1045nmの光が共振器の作用で発振する。レーザ発振光18は出力ミラー(負分散ミラー)5を一部透過し外部に出力光18aとして取り出される。本構成の装置においては、共振器内で共振するレーザ発振光18のビームウエストがSESAM16上にのみ形成されている。
【0077】
ここでは、負分散ミラー5の作用による負の群速度分散と、主に固体レーザ媒質15での自己位相変調が組み合わさって、フェムト秒領域のパルス発振光18aが得られる。より詳しくは、SESAM16によりモード同期が始動してパルスを維持安定化させるとともに、群速度分散と自己位相変調がバランスすることによるソリトンパルス形成を経てモード同期パルスの急峻化が起こり、フェムト秒クラスの安定したソリトンパルス発生が可能となる。
【0078】
ここで、レーリ長の2倍という条件について説明する。この条件は、固体レーザ装置において、ソリトンモード同期を生じさせ連続パルス発振を得るための上述の(1)および(2)式から本発明者が考察して得た条件である。固体レーザ媒質における発振光のビーム半径が大きくなりすぎると、発振閾値およびCWモード同期閾値が大きくなりすぎるとレーザ発振が起きない、あるいはモード同期が掛からずパルス発振ができないという問題が生じるが、固体レーザ媒質が発振光のビームウエストからレーリ長の2倍以下の位置に配置されていれば、ソリトン型のモード同期を得ることができる。
【0079】
固体レーザ媒質15とSESAM16とがレーリ長の2倍程度離隔した場合、固体レーザ媒質15での発振光ビーム半径ωLは発振光ビームウエストでの発振光ビーム半径の2.2倍に広がる。従って、既述の(1)式から、固体レーザ媒質15に発振光ビームウエストがくるよう構成されている場合と比較してレーザ発振閾値は4.8倍上がることが分かる。しかし、ビームウエストでのビーム半径ω=25μm程度とすれば、発振光ビーム半径ωL=2.2×25μmであり、発振閾値を100mW以下にすることが可能である。なおこのときのレーリ長は1.9mm、2倍で3.8mmである。発振閾値を100mW以下とすることができれば、十分高い効率で発振させることができる。
【0080】
一方、前述の(2)式から、固体レーザ媒質15に発振光ビームウエストがくるよう構成されている場合と比較してCWモード同期閾値は、2.36nJから5.93nJ(ただしSESAMの特性パラメータとして、ΔR=0.9%、Fsat,A=90μJ/cm2とした)とおよそ2.5倍程度増大することが分かる。しかし、この程度の増大は、発振閾値を100mW以下に抑えられていれば、十分な発振出力を確保でき、問題なくCWモード同期が達成可能なレベルである。
【0081】
このように、固体レーザ媒質とSESAMをレーリ長以下の距離で配置することにより、(1)式、および(2)式を満足させ、かつ、モード同期固体レーザ装置の小型化を図ることができる。すなわち、固体レーザ媒質とSESAMを上記距離で配置することにより、ソリトンモードパルスが発振可能な小型の固体レーザ装置を構成可能である。
【0082】
しかしながら、前述の通り、固体レーザ媒質とSESAM(反射ミラー)を近接した場合、空間ホールバーニングが生じ、この空間ホールバーニングにより、競合プロセスが生じることから、ソリトンパルスが発生しても、競合パルスにより乱されてしまうという問題が生じる。
【0083】
本発明者らは、SESAMの吸収変調深さΔRと、共振器内全分散量Dを所定の範囲に設定することにより、この空間ホールバーニングにより生じる競合パルスを抑制し、安定なソリトンパルス動作を達成できることを明らかにした。
【0084】
図3は、Yb:KYW結晶に対して数値計算された、空間ホールバーニングより生じる競合パルスの利得優位度ΔGのスペクトル帯域ΔλP(波長帯域で示している)に対する依存性を示す。この利得優位度ΔGは、図1に示す構成のモード同期固体レーザ装置について、本発明者らが参照文献1記載の数式を適応させて求めたものである。図3の横軸は、レーザ発振しているソリトンパルスのスペクトル帯域(パルス帯域)ΔλPである。また、ここで基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.04を想定した(この値は、励起光のパワー、スポット系、装置構成に依存するが、現実的な装置構成における値として設定したものである)。なお、利得優位度とは、各競合プロセスにより生じる競合パルス(シフトパルス、CWバックグラウンド、ダブルパルス)とソリトンパルスとの利得の差を表すものである。図3から、常に、ソリトンパルスよりこれらの競合パルスが僅かに高い利得を有することが分かる。所望の基本ソリトンでのCWモード同期を得るためには、これらの競合パルスを抑制する必要がある。
【0085】
SESAM16は、パルスエネルギーEPに応じた非線形反射特性を有しており(例えば前述の非特許文献3参照)、上記の競合プロセスのうち、CWバックグラウンドとダブルパルスの抑制に効果がある。より具体的には、CWバックグランドの利得優位度ΔG(CW)を、変調深さΔRの半分、すなわち、ΔR/2以下とすることによりCWバックグラウンドを抑制することができ、ダブルパルスの利得優位度ΔG(DP)をΔR/S[ここで、S=EP/(Fsat,A・Aeff,A):SESAM飽和度]以下とすることにより、ダブルパルスを抑制することができる。
【0086】
すなわち、図3において、ΔG(CW)≦ΔR/2、かつ、ΔG(DP)≦ΔR/Sを満たすパルス帯域においては、CWバックグランドとダブルパルスが抑制することができる。
【0087】
一方、シフトパルスはSESAM16では抑制できない。これは、シフトパルスは、基本ソリトンパルスとパルス幅、パルス帯域、エネルギーにおいて同等で、周波数軸上でシフトしているだけ(前記表1および図2参照)であるから、SESAM16に対して同じ飽和度を与えるため、ソリトンパルスとの弁別が効かないためである。
【0088】
シフトパルスの利得優位度ΔG(SP)が略0である範囲、かつΔG(CW)≦ΔR/2、かつ、ΔG(DP)≦ΔR/Sを満たすパルス帯域において、ソリトンモードが安定して生じるものとなる。なお、シフトパルスはSESAMで抑制できないため、ソリトンモードを安定して発生させることができるパルス帯域の下限は、シフトパルスにより制限される場合が多い。
【0089】
さて一方、パルス幅τpは共振器内分散量Dの絶対値|D|と以下の比例関係で結び付けられる(非特許文献3参照)。
【数5】
【0090】
また、パルス幅はパルス帯域と逆比例の関係にある。
【0091】
これらを考慮し、本発明者らは、ソリトンモード安定領域となるパルス帯域に制限があることは、共振器内全分散量Dに制限があることと等価であり、空間ホールバーニングを抑制して安定なソリトンモードを生じさせるためには、SESAMの吸収深さに応じて共振器内分散量Dを適切な範囲の値に設定する必要があることを明らかにした。
【0092】
図4に、(3)式から求めた共振器内全分散量のパルス帯域依存性を示す(パルス幅とパルス帯域とは逆比例の関係にある)。
【0093】
以上の関係から、本発明者らは、可飽和吸収ミラーを、共振器における基本ソリトンパルスに対するダブルパルスの利得優位度G(DP)、および基本ソリトンパルスに対するCWバックグラウンドの利得優位度G(CW)に対し、
ΔG(CW)≦ΔR/2かつ、ΔG(DP)≦ΔR/S・・・・(A)
を満たす吸収変調深さΔRおよび飽和度Sを有するものとし、共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)を、(A)式かつ、基本ソリトンパルスに対するシフトパルスの利得優位度G(SP)≒0を満たすパルス帯域の範囲に対応する値となるように装置を構成することにより、ソリトンパルスを安定して生じさせることができることを見出した。
【0094】
以下、具体的な数値を用いて考察を行った。
一般的なモード同期固体レーザ装置においては、SESAM飽和度S=3〜5程度で設計されており、本発明の具体的な構成においてもこの範囲の値を想定しており、特に以下では、S=4を採用している。
【0095】
図3を参照すると、ダブルパルスの利得優位度の最小値はΔG=0.05%であるので、このダブルパルスを抑制するには、S=4としたとき、吸収変調深さの最低ラインとしてΔRmin≧ΔG・S=0.2%とする必要がある。
【0096】
一般的に製造されているSESAMの変調深さΔRは0.3%程度が最小値であり、通常、空間ホールバーニングが生じない系においては、ΔR=0.3%〜2%程度がモード同期に適切とされている。
【0097】
ここで、ΔR=0.3%、S=4とした場合、CWバックグラウンドを抑制するためには、パルス帯域は、ΔR/2=0.15%のところで制限され、4nm〜7nmというパルス帯域しか安定に存在できない。また、ダブルパルス条件から、ΔR/S=0.075%となり、4.5nm〜6.0nmとなり、この範囲でしか、パルスが安定でない。またシフトパルス条件から、4nm以上でしか存在できない。これらの条件の積集合を取ると、結局、ダブルパルス条件が最も厳しく、パルス帯域4.5〜6.0nmでのパルスしか許されないことになる。これは、フーリエ変換限界のパルスとして、254fsecから191fsec(波長λ0=1045nm)のパルス幅(中心223fsec±14%)しか許されないという極めて限定された範囲になる。
【0098】
ある程度余裕のあるパルス帯域を確保するためには、上述の最低ラインとなるΔRmin=0.2%の2倍以上は必要であり、現実的なSESAMの吸収変調深さはΔR≧0.4%である。ΔRを0.4%以上とすることにより、パルス帯域を広げることができる。
【0099】
例えば、ΔR=0.8%、S=4とした場合、可能なパルス帯域は、ΔλP=4nm〜8nm、それに対応したパルス幅はτP=287〜143fsecである。また、ΔR=1.4%としたときには、パルス帯域を4nm〜11nmまで広げることが出来、パルス幅287〜104fsecのパルスが生成可能である。
【0100】
このように、SESAMの吸収変調深さを0.4%以上の所定の値とした場合、該ΔRにより、ダブルパルスおよびCWバックグランドを抑制することができるパルス帯域(パルス幅)には制限がある。
【0101】
さて、励起光源である半導体レーザとしてエミッタ幅が100μmで出力3W級のものを想定し、共振器長を50mmとし、伝送効率85%、吸収効率90%、光変換効率30%、出力結合TOC=1%とすると、内部のエネルギーは、およそEP=23nJとなる。これが本発明の具体例で想定している最大のパルスエネルギーである。(なお、図1に示すような本発明の対象となる小型な装置においては、これ以上パルスエネルギーは原理上達成できない。)
この場合、図4を参照すると、104fsecパルス(パルス帯域11nmに相当)を生成するには、950fsec2の負の分散量が必要である。安定範囲の下限4nm(シフトパルスによる制限)では、2500fsec2程度の負の分散量とすればよい。なお、共振器内全分散量DはパルスエネルギーEPの関数でもあるので、パルスエネルギーが大きいと、より大きな分散量が必要になることから、本発明で想定している装置としては、これが共振器内全分散量の絶対値上限である。絶対値下限については、パルスエネルギーが小さくなればそれだけ共振器内全分散量も小さくする必要があり、図4から分かるように共振器内全分散量が略零の場合があり得ることから、絶対値下限は0超とした。
【0102】
すなわち、図1に示した構成のモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質としてYb:KYWを用い、吸収変調深さΔR≧0.4%とした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上0未満の範囲とする必要がある。もっとも、装置構成に応じて全分散量Dの範囲にはさらに制限がある。例えば、上述の例でΔR=0.8%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上、−1400fs2以下とする必要があり、また、ΔR=1.4%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上、−1000fs2以下とする必要がある。
【0103】
なお、具体的に装置を組み立てるに当たっては、安定/不安定の境界領域近傍は動作が不安定になりやすいことを考慮する必要がある。そこで1/5程度の共振器内全分散量の余裕を持たせることが好ましく、例えば、ΔR=0.8%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2000fs2以上、−1700fs2以下とすることで、より安定なCWモード同期動作を実現できる。
【0104】
また、図5は、図3と同様に、Yb:KYW結晶に対して数値計算された、空間ホールバーニングにより生じる、競合パルスの利得優位度ΔGのスペクトル帯域ΔλPに対する依存性を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.1を想定した。図5に示すように、利得が大きい場合(これは励起パワーが大きいことと等価である。)には、競合パルスの利得優位度が大きくなると共に、CWバックグラウンドおよびダブルパルスの利得優位度が最小値を取るパルス帯域が小さい方へシフトしていることがわかる。同一のΔRのSESAMを用いた場合、G=0.04の時と比較して競合パルスを抑制できるパルス帯域が非常に狭く、かつパルス幅の小さなモード同期を得られ難いことが判った。
【0105】
次に、使用する負分散ミラー5について、図面を参照して説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態の負分散ミラー5の構成を示す模式図である。
【0106】
本実施形態の負分散ミラー5は、凹面を有するガラス基板6の凹面上に誘電体多層膜構造7を有するミラーであり、多層膜構造7が、相対的に高い屈折率nm1を有する層および相対的に低い屈折率nm2(<nm1)を有する層が交互に積層されてなるものである。
【0107】
なお、ガラス基板6の多層膜構造が設けられる面に対向する面に多層膜構造7を透過した光が基板6の凹面に対向する面で反射するのを防止するための反射防止膜8が設けられている。多層膜構造7の積層面側からミラーに入射される光Lに対する反射率が97%〜99.5%であり、3%〜0.5%の成分が反射防止膜8側へ透過する。
【0108】
多層膜構造7の各層は、基板6側から、第1層、第2層・・・第(k−1)層、第k層、第(k+1)層、・・・n層の順で積層されている。各層の光学膜厚はλ/8〜λ/2の範囲のものであり、各層間でその光学膜厚の変化量に特段の規則性を有さず、光学膜厚はランダムに変化している。なお、各層の光学膜厚は層の屈折率nと層の膜厚d(nm)の積n・dで表されるものである。
【0109】
負分散ミラー5は、所定の波長の光L(18)に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲にあり、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲にある。ミラー5は、所定の波長を含む10nm以上の帯域幅の光に対してミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲の所定の値であり、反射率が97%〜99.5%の範囲の所定の値であり、これらの範囲で任意に設定可能である。
【0110】
高屈折率層は、具体的には、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物から構成することができる。具体物としては、TiO2、Ta2O5、ZrO2、サブスタンスH4(商品名:メルク社製、LaTixOyを主成分とする蒸着材)などが挙げられる。
【0111】
低屈折率層は、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物から構成することができる。具体物としては、SiO2、MgF、Al2O3などが挙げられる。
【0112】
尤も、低屈折率層と高屈折率層は相対的に低い屈折率を有する誘電体と相対的に高い屈折率の誘電体から構成されていればよく、既知のいかなる材料を用いてもよい。
【0113】
所定の波長の光Lは、固体レーザ媒質15から出力され、共振器内で共振する光18であり、負分散ミラー5が適応されるモード同期固体レーザ装置の構成により定められる。例えば、固体レーザ媒質としてYb:KYW(K(WO4)2)を用いる場合であれば、その波長λ=1045nmであり、固体レーザ媒質としてYb:KGW(Gd(WO4)2)を用いる場合、λ=1040nmであり、その他、Yb:YAGではλ=1050nm、Yb:Y2O3ではλ=1076nm、などである。
【0114】
本装置においては、励起光10が共振器光軸と交わる方向から共振器に入力され、共振器内の共振器光軸上に配置されたダイクロイックミラー13により反射されて固体レーザ媒質へと導入される。このダイクロイッミラー13は、励起光を高反射(例えば、反射率>85%)で反射するとともに、レーザ発振光を無反射(例えば、反射率<0.5%)で透過させる。このため、挿入に伴うレーザ発振効率の低下は最小限に抑制出来るとともに、励起光源を従来の光学系よりも固体レーザ媒質に近づけることが出来るという利点がある。なお、このダイクロイックミラーは、45度入射あるいはブリュースター角での入射が望ましい。ダイクロイックミラーには、励起光の入射角度に応じたコート設計を施せばよい。
【0115】
さらに、ダイクロイックミラーを備えた構成であることから、励起光学系を屈折率分布レンズ(GRINレンズ=Graded Index レンズ)等の一枚レンズの光学系とすることが可能になる。この理由は、固体レーザ媒質と励起光学系レンズまでの距離を短縮できることに起因する。実際、1:2の結像系を構成するとして、例えば、ピッチ0.23、実効焦点距離1.94mmのGRINレンズ(Thorlabs社製、レンズ長4.42mm、レンズ直径1.8mm)を用いる場合、光源からレンズ(前側主点)までの距離d1=2/3f=1.3mm、レンズ(後側主点)から固体レーザ媒質までの距離d2=2×d1=2.6mmと、レンズ自体の長さを加えても、概略1.3+2.6+4.4=8.3mmと極めて小さく配置できる。1:2の光学倍率を実現するのに、前述したように、図18に示す従来の装置ように凹面出力ミラーを介して励起光を入射させる構成をとると、それだけで75mm〜200mmもの長さが必要になる。したがって、本発明で、極めて小さな励起光学系が実現できると言える。
【0116】
なお、図1の構成において共振器長は50mmとしたが、共振器長が200mm以下であれば、モード同期の安定性とレーザ共振器の安定性を両立することができる。以下にその理由を詳細に述べる。
【0117】
先に述べたように共振器長を長くすることで、パルス繰り返しが下がり、パルスエネルギーが大きくなるため、CWモード同期閾値を容易に上回ることが可能になる。すなわち、CWモード同期に関する(2)式のみを考えれば、パルスエネルギーが大きいほど好ましく、共振器長は長ければ長いほど好ましいと考えられる。
【0118】
一方、機械的な変動によるレーザ出力の不安定という観点から見ると、共振器長は無制限に長くすることはできず、200mm程度が機械的な限界と考えられる。これは、以下の考察から導いたものである。一般的には、共振器長1m程度であると、機械的な振動・ドリフト、熱による機構部品の位置変異、剛性によるたわみなどに基づく光学アライメントのずれが、レーザ特性の劣化、不安定化をもたらしている場合が多い。共振器のアライメント許容度は、共振器長に逆比例し、ミラー曲率の関数であることが知られている。1m級では50〜100μrad程度であることが知られている(参考文献:N.Hodgson and H. Weber, Optical Resonators p. 219, Springer)。このため共振器長を200mm以下にすることで、許容度を5倍の250〜500μrad以上にすることができる。ミラーの機械変動は、一概に定量化できないが、一般的なジンバルで、50μrad(8℃の温度変動;Newport社カタログ)であり、1m級共振器では許容度と同程度のミラー変動が生じるが、200mm以下では、許容度の1/5程度と、出力変動が無視できるレベルに留まる。
【0119】
このように、モード同期の安定性のみならず、レーザ共振器の安定性を考慮して、両者が両立することが出来る範囲として、共振器長200mm以下であることが好ましい。
【0120】
以上説明した実施形態は、固体レーザ媒質15がYb:KYWからなるものであるが、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度について、Yb:KGW結晶でも、図3および図5と同様の計算結果が得られる。何故なら、Yb:KYWとYb:KGWとは、蛍光帯域幅、誘導放出断面積、吸収断面積などの各物性定数が、ほぼ同じだからである。ただ一点異なることは、非線形屈折率n2の値であり、Yb:KGW(n2=20×10-20 m2/W)はYb:KYW(n2=8.7×10-20 m2/W)の2.3倍の値である。すなわち、図4に示した分散量のパルス依存性のスケールが2.3倍となり、したがって、Yb:KGWを用いた場合の共振器内分散量Dは、Yb:KYWを用いた場合よりも絶対値として2.3倍大きくする必要があり、固体レーザ媒質がYb:KGWである場合は、共振器内全分散量Dが−5750 fs2以上0 fs2未満の範囲が好ましいこととなる。
【0121】
また、代表的な短パルス材料であるYb:YAG結晶の1050nm発振について、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度を計算した結果を図7に示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.07を想定している。
【0122】
この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができることが判る。たとえば、ΔR=0.8%とすることにより、帯域2〜4nmでダブルパルス、CWバックグラウンドを抑制することができる。さらにΔRを大きくすることにより、より大きなパルス帯域でソリトンパルスを安定発振させることが可能となる。実用上は、300fsec以下の短パルス幅のソリトンモード同期を実現することが好ましく、従って、パルス帯域としては4nm(パルス幅287fsec相当)より大きくするのが好ましい。従って、Yb:YAGを用いる場合、ΔR≧0.8%以上とすることが望ましい。Yb:YAGの場合、Yb:KYWのおよそ70%の非線形屈折率(n2=6.2×10-20 m2/W)であるため、共振器内全分散量の好ましい範囲は、Yb:KYWの絶対値の70%の範囲であり、−1750fs2以上0 fs2未満である。
【0123】
他にも、セラミクス作製が可能な固体レーザ媒質が近年注目されており、本発明ではその種の固体レーザ媒質を用いることも可能である。通常、結晶状態で使用するのが一般的であるが、ガーネット系材料など(YAG)では、セラミクス状態でのレーザ媒質の作製も行われている。セラミクスは、結晶に比べ、同等またはそれ以上の光学的特性を有しながら、同時に大型化が可能であり、コスト削減が期待できる。ガーネット以外でも、C希土類と呼ばれる一群ではセラミクス化が可能であり、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3などがこれに相当する(文献:Optics Express, vol. 11 no.22 (2003) pp. 2911-2916参照)。また、ガラスなど、本質的に大型化が可能で低コストの材料も、レーザ媒質として使用実績がある。Ybを添加したガラスや、Er,Yb共添加ガラス(文献:Optics Letters, vol. 30 no.3 (2005) pp. 263-265参照)では、もともとガラスの有する広帯域発光を利用したデバイスが作製されている。これらに対しても、本発明は有効である。
【0124】
図8に、Yb:Y2O3を用いた場合の、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度の計算結果を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.06を想定している。
【0125】
この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができることが判る。例えば、ΔR=0.8%とすることにより、パルス帯域4〜6nmでダブルパルス、CWバックグラウンドを抑制することができる。ΔR=0.4%のとき、ダブルパルス、CWバックグランドを抑制可能なパルス帯域は4nm近傍のみと非常に狭いが、ΔR≧0.8%以上とすることにより、より広いパルス帯域で競合パルスを抑制することが可能となる。
【0126】
また、Yb:Y2O3の場合、Yb:KYWのおよそ1.3倍の非線形屈折率(n2=1.16×10-19 m2/W)であるため、その分、共振器内全分散量Dの絶対値も1.3倍となる。従って、Yb:Y2O3についての、共振器内全分散量Dの好ましい範囲は、−3250fs2以上0未満である。
【0127】
なお、Yb:Lu2O3について計算した結果を図9に示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.05を想定している。この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができ、さらにΔRを大きくすることによりその帯域を広げることができることが判る。
【0128】
また、Yb:Lu2O3の場合、Yb:KYWのおよそ1.2倍の非線形屈折率(n2=1.0×10-19 m2/W)であるため、その分、共振器内全分散量Dの絶対値も1.2倍となる。従って、Yb:Y2O3についての、共振器内全分散量Dの好ましい範囲は、−3000fs2以上0未満である。なお、Yb:Lu2O3と同じ結晶構造を有し、ほぼ同等の非線形屈折率を有するYb:Sc2O3については、Yb:Lu2O3と同様の条件となる。
【0129】
次に図10に、Er,Yb共添加燐酸ガラスを用いた場合の、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度の計算結果を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.02を想定している。
【0130】
Er,Yb共添加燐酸ガラスにおいては、Ybイオンで励起光を吸収し、エネルギー移乗を経て、Erイオンへとエネルギーを移す。さらに、燐酸ガラスという比較的フォノンエネルギーの大きな媒質を用いることで、励起準位4I11/2からレーザ上準位4I13/2へと高速緩和する。これにより、高効率で反転分布を形成できる。この場合、発振は1550nm近傍、励起は980nmである。
【0131】
Er,Yb共添加燐酸ガラスをレーザ媒質として用いる場合、波長1550nm〜1600nmの発振光18を直接取り出すだけではなく、図11に示すように発振光18aを非線形光学結晶60に通して、第2高調波61を発生させるように構成すれば、発振光18aを波長780nm〜800nmの帯域へと変換できる。従来800nm近傍での固体レーザはTiSapphireなどの遷移金属結晶が必要で、かつ励起光源として532nm緑色レーザが必要であったところを、赤外波長帯域の半導体レーザを用いた励起が可能でかつ、本質的に高効率な希土類遷移を使用できるというメリットが得られる。
【0132】
Er,Yb共添加燐酸ガラスの場合、2nmのパルス帯域でシフトパルスが略0となる。実用上は、600fsec以下の短パルス幅のソリトンモード同期を実現することが好ましく、従って、パルス帯域としては4nm(パルス幅600fsec相当)より大きくするのが好ましい。
【0133】
Er,Yb共添加燐酸ガラスは、非線形屈折率が小さいため(n2=3×10-20 m2/W)、共振器内全分散量の好ましい範囲は、−1200fs2以上、0 fs2未満である。
【0134】
さらに、Ndを添加したレーザガラス材料においても、同様に考えることができる。例えばNdを添加したリン酸系レーザガラスにおいて、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度を計算した結果を図12に示す。
【0135】
上述の場合と同様の考察により、パルス帯域4nm以上とすることが好ましいことから、Nd:リン酸ガラスの場合、非線形屈折率は、n2=2.8×10-20 m2/Wであることから、共振器内全分散量の好ましい範囲は、−800fs2以上、0 fs2未満である。
【0136】
以下、負分散ミラーの具体な層構成例を説明する。
図13A〜図15Aは、設計例1〜3についてそれぞれ所定の中心波長に対する各層の光学膜厚を示すものであり、図13B〜図15Bはそれぞれ図13A〜図15Aに示した設計例1〜3の層構成で達成される反射率およびミラー負分散量を示すグラフである。設計例1〜3は中心波長λ=1045nmとして(固体レーザ媒質としてYb:KYW(K(WO4)2)を想定)設計したものであり、いずれもシミュレーションにより得たものである。
【0137】
図13A〜図15Aにおいて、横軸は層番号を示し、縦軸はλ/4で規格化した光学膜厚(4nd/λ)を示している。最も基板側の層が第1層であり、最も空気側の層が第48層である。図13B〜図15Bの横軸は所定の光の波長(nm)であり、縦軸は反射率(%)およびミラー負分散量(fs2)を示している。各層のλ/4で規格化した光学膜厚は1を基準に0.5以上、2未満の範囲である。
【0138】
図13Bは、図13Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=98.5%かつ負分散量=−1000fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0139】
図14Bは、図14Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=99.5%かつ負分散量=−500fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0140】
図15Bは、図15Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=97%かつ負分散量=−250fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0141】
多層膜構造を構成する層の数は48に限られるものではない。また、上記の設計例においては中心波長λ=1045nmとしたが、中心波長はモード同期固体レーザ装置に備えられるレーザ媒質に応じて設定する必要がある。
【0142】
中心波長λ、−1000fs2〜−100fs2の範囲の所望の分散量、97%〜99.5%の範囲の所望の反射率を設定し、その他の初期条件として、層数、屈折率(膜材料)、ミラー層を何層ぐらいにするかなどの膜構成、おおよその膜厚(ミラー機能層を構成する各層については中心波長λ/4付近の光学膜厚とするなど)を設定してから、コンピュータシミュレーション(薄膜計算ソフト「Essential Macleod」を用いたシミュレーション)を行う。その後これらの初期条件は手動またはコンピュータにより自動的に修正されながら前述の設計例のような層構造を得ることができる。
【0143】
また、共振器構成は直線型であることが望ましいが、これに限らず、SESAM16と固体レーザ媒質15とが密接、あるいは前述の距離で近接していれば、どのような構成を取っていても構わない。また、負分散ミラーとして、凹面ミラーを備えるものについて説明したが、負分散ミラーは平板基板上に多層膜を設けたものであってもよい。
【0144】
例えば図16に示す実施形態のように、V字型の共振器構造を採用することもできる。図16においては、平板基板3上に多層膜構造4を設けてなる負分散ミラー1を出力ミラーとして備え、共振器内に発振光18を反射させる凹面ミラー19を備えた構成となっている。
【0145】
図16に示すモード同期固体レーザ装置において用いられている負分散ミラー1を図17に示す。図17に示すように、負分散ミラー1は、平板なガラス基板3上に誘電体多層膜構造4を有するミラーであり、多層膜構造4が、相対的に高い屈折率n1を有する層および相対的に低い屈折率n2を有する層が交互に積層されてなるものである。
【0146】
多層膜構造4の構成は先に説明した実施形態の負分散ミラー5の多層膜構造7と同様であり、相対的に高い屈折率n1を有する層および相対的に低い屈折率n2を有する層が交互に積層されてなるものであり、所定の波長の光Lに対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲にあり、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲のものである。前述の実施形態と同様に固体レーザ媒質がYb:KYW(所定の波長λ=1045nm)であれば、例えば、既述の設計例1〜3のような膜構成とすればよい。
【0147】
図16に示す構成のモード同期固体レーザ装置においても、図1に示したモード同期固体レーザ装置の場合と同様に、小型、低コストでかつ安定性が高く、フェムト秒領域のCWモード同期を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の第1の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図2】モード同期固体レーザ装置におけるパルス競合現象を説明する図
【図3】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図4】パルス帯域と必要な分散量との関係を示すグラフ
【図5】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図6】出力ミラーとして用いられる負分散ミラーの構成を示す模式図
【図7】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図8】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図9】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図10】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図11】本発明のさらに別の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図12】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図13A】負分散ミラーの膜構成の設計例1
【図13B】設計例1の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図14A】負分散ミラーの膜構成の設計例2
【図14B】設計例2の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図15A】負分散ミラーの膜構成の設計例3
【図15B】設計例3の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図16】本発明の別の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図17】図16の装置において用いられる負分散ミラーの構成を示す模式図
【図18】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【図19】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【図20】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【符号の説明】
【0149】
1、5 負分散ミラー
3 ガラス基板
4、7 多層膜構造
6 凹面ガラス基板
C キャビティ層
ML1 ML2 ミラー機能層部
8 反射防止膜
10 励起光
11 半導体レーザ
12 励起光学系
13 ダイクロイックミラー
15 固体レーザ媒質
16 SESAM(半導体可飽和吸収ミラー)
18 固体レーザ発振光
18a 出力光
19 凹面ミラー
60 非線形光学結晶
61 第2高調波
【技術分野】
【0001】
本発明は固体レーザ装置、特に詳細には、小型で高出力かつ高効率の短パルス動作が可能なモード同期固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ(LD)を励起光源とし、それにより、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質(レーザ結晶、セラミクス、ガラス等)を励起する固体レーザが活発に開発されている。その中でも、ピコ秒からフェムト秒領域のいわゆる短パルス光を発生する短パルスレーザは、医療、バイオ、機械産業、計測など、多岐にわたる応用分野が模索、提案され、実証を経て、一部実用化されている。
【0003】
この種のレーザは、モード同期と呼ばれる動作により短パルスを発生している。モード同期とは、簡単に言えば、レーザ発振の際、周波数領域で見ると多数の縦モードの位相が全て同期しており(相対位相差=0)、このため縦モード間のマルチモード干渉により、時間領域では極めて短いパルスとなる現象である。固体レーザでは、半導体可飽和吸収ミラー(Semiconductor Saturable Absorbing Mirror; 以下、SESAMという)によるモード同期が、簡便さ、低コスト、小サイズ、さらに自己開始するという特長が有ることから、精力的に研究開発されている。
【0004】
特に、モード同期の一つの形態であるソリトン型モード同期では、レーザ共振器内の負の群速度分散と、主にレーザ媒質での自己位相変調が組み合わさって、フェムト秒領域のパルス発生を可能としている。より詳しく言うと、ソリトン型モード同期とは、可飽和吸収ミラーによりモード同期が始動してパルスを維持安定化させるとともに、負の群速度分散と自己位相変調がバランスすることによるソリトンパルス形成を経てモード同期パルスの急峻化が起こり、安定なパルス発生を可能とするものである(非特許文献1,3参照:ソリトン型モード同期の定義)。
【0005】
なお、このソリトン型モード同期を実現する固体レーザ装置は、基本的に、固体レーザ媒質、可飽和吸収ミラーおよび負分散素子(負群速度分散素子)を共振器内に備えて構成される。
【0006】
図18に、非特許文献1に示されている、従来のYbを添加したソリトン型モード同期固体レーザ(固体レーザ媒質はYb:KGd(WO4)2)の典型的な構成を示す。この図において、80は例えば波長980nmの励起光を発する励起光源、81は1対設けられた励起光源80のそれぞれに対応して設けられた入力光学系、83は固体レーザ媒質、M1、M2は共振器を構成する例えば曲率半径20cmの1対の凹面ミラー、84も曲率半径20cmの凹面ミラー、85はSESAM、86および87はプリズム対を構成する例えばSF10ガラスからなるプリズム、88はナイフエッジ板、89は例えば透過率4.3%の出力カプラーである。
【0007】
この種のモード同期固体レーザ装置において一般的には、レーザ媒質での共振器スポットサイズ(モード半径ωL)および、SESAMでのスポットサイズ(モード半径ωA)を小さくするために、凹面ミラーM1、M2および84にて共振器モードを別々に絞り込む構成が採られている。
【0008】
このように、レーザ媒質上およびSESAM上におけるスポットサイズ(発振光のビーム半径)を小さくする理由は下記の2つである。まず第1の理由はレーザ発振閾値を低減するためであり、第2の理由はソリトンモード同期条件を満たすためである。
【0009】
まず第1の理由について説明する。レーザ発振閾値Pthは、下記式(1)のように表される(非特許文献2参照)。
【数1】
【0010】
ただし、ωP:固体レーザ媒質中での励起光ビーム半径、hνp:励起光フォトンエネルギー、σ:固体レーザ媒質の誘導放出断面積、τ:上準位寿命、ηa:吸収効率、f1:下準位の占有率、f2:上準位の占有率、Li:共振器内部損失、TOC:出力鏡透過率、N0:希土類イオン添加濃度、ls:結晶長である。
【0011】
式(1)から、発振閾値を小さくするには、固体レーザ媒質中での発振光ビーム半径ωLと励起光ビーム半径ωPを小さくすれば良いことがわかる。
【0012】
非特許文献3では、ソリトン型モード同期レーザにおいて、Qスイッチ動作が混在したモード同期(Qスイッチモード同期)が、ある条件下で生じることが指摘されている。Qスイッチモード同期とは、Qスイッチパルス(周波数1kHz〜数100kHz、パルス幅がマイクロ秒からナノ秒)のロングパルスの中に、モード同期パルス列(周波数10MHz〜1GHz、パルス幅がピコ秒からフェムト秒)が並ぶ場合をいう。
【0013】
この動作モードは、出力やパルス幅、パルス周期の安定性に欠けるので、エネルギー応用以外では一般的には望ましくない。非特許文献3によれば、可飽和吸収ミラーを用いたソリトン型モード同期において、Qスイッチ動作を生じさせない条件は、以下の式(2)のように表される。
【数2】
【0014】
ここで、EP:共振器内部パルスエネルギー、ΔR:可飽和吸収ミラーの吸収変調深さ、Fsat,A:可飽和吸収ミラーの飽和フルーエンス、Fsat,L (=hν/σ):レーザ媒質の飽和フルーエンス、hν:レーザ光子エネルギー、Aeff,A (=πωA2):可飽和吸収ミラーにおける発振光ビーム断面積、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、g:レーザ媒質のレーザ利得、
【数3】
【0015】
(n2:レーザ媒質の非線形屈折率、D:共振器全体での一往復の群速度分散(D<0)、λ0:発振光の中心波長、ΔνG:利得帯域幅)
である。各ビーム断面積を小さくし、(2)式を満たすようなパルスエネルギーEPが発振器で実現できれば、Qスイッチ不安定性の無い、いわゆるCWモード同期が実現できることが知られている。なお、(2)式において、左辺=右辺としたときのEPの解がモード同期閾値であり、(2)式を満たすとは、EPをそのモード同期閾値よりも大きくなるように設定することをいう。
【0016】
以上説明したレーザ発振閾値、およびCWモード同期閾値に関する2つの条件から、レーザ媒質、SESAMにおいてビーム断面積を縮小する必要がある。従来のモード同期固体レーザの場合、レーザ媒質を2枚の凹面ミラー(図18の例ならばM1,M2;通常、曲率半径100〜200mmのものが用いられる)により挟み込んでビームを絞り込み、かつ、SESAMでも凹面ミラーで集光する構成が多く採用されている。
【0017】
具体的な装置のサイズとしては、凹面ミラーとレーザ媒質、SESAMとの間は曲率半径の半分程度の距離に設定するので、これだけで、150mm(曲率半径100mmの場合)〜300mm(曲率半径200mmの場合)程度の長さを必要とする。さらに負分散素子などの挿入スペースを考えると、500mm〜1m級の共振器長が必要になり、このことがレーザ装置サイズの大型化を招く。なお図18の構成では、負分散はプリズム86、87からなるプリズム対により与えられ、プリズム間隔は450mmである。一般的に、固体レーザにおいてメートル級の共振器を組んだ場合、安定動作は難しく、この点から、従来装置はレーザ発振動作の安定性が低いものとなっていた。また、光学部品を多く備えることは、即ち高コストであるという問題もあった。
【0018】
そのため、モード同期固体レーザ装置においては、レーザ発振動作の安定を図るため装置の小型化が望まれている。
【0019】
一方、特許文献1には、図19に示すように、固体レーザ媒質101とSESAM102とから共振器を構成する小型のレーザ装置100が提案されており、固体レーザ媒質101とSESAM102がリング108を介して所定間隔103空けて配置され、その間隔103がGTI(Gires-Tournois干渉計)として作用して負分散を生じさせる構成が開示されている。装置100においては、レーザ媒質101の一端面104が曲面とされ、ここに所定のコートが施されて出力ミラー105として機能するものとされており、この出力ミラー105から励起光106が入射され、出力光107が出射される構成となっている。
【0020】
特許文献2には、レーザ媒質、可飽和吸収体、あるいは出力ミラーにチャープミラーコーティング(負分散コート)を備えることが提案されており、例えば、図20に示すように、レーザ媒質111の一端面に可飽和吸収体ミラー112がコーティングされており、このレーザ媒質111の一端面と負分散ミラーであるチャープミラー113のミラー面で共振器を構成する小型のレーザ装置110が提案されている。図20の装置110では、レーザ媒質111に対して励起用の半導体レーザ114から励起光115を入射し、チャープミラー113から出力光116を取り出す構成となっている。
【0021】
このように、特許文献1では、固体レーザ媒質とSESAMを近接配置することにより装置を小型化することが提案されており、特許文献2では、固体レーザ媒質に可飽和吸収体ミラー112をコーティングすると共に負分散ミラーが出力ミラーを兼ねる構成とすることで光学部品を低減し装置を小型化することが提案されている。
【0022】
負分散素子としては、一般に、プリズム対、回折格子対、負分散ミラーなどの1つもしくは複数の組み合わせが用いられているが、特許文献2で提案されているように、装置の小型化の面で負分散ミラーが出力ミラーを兼ねることが望ましい。
【0023】
負分散ミラーとしては、特許文献2で挙げられている長波長側の光と短波長側の光との侵入深さの違いを利用して負分散補償を行うチャープ型のミラーと、その他全反射ミラーと部分反射ミラー間での光の干渉を利用して負分散補償を行うGTI型のミラーとが一般に知られている。
【0024】
チャープ型ミラーの典型例としては、相対的に高い屈折率を有する高屈折率層と、相対的に低い屈折率を有する低屈折率層とが交互に積層されたミラーにおいて、高屈折率層の光学膜厚および低屈折率層の光学膜厚がそれぞれ積層方向に直線的に変化するように積層されているもの(例えば、非特許文献4参照)が挙げられる。
【0025】
一方GTI型ミラーは、誘電体多層膜の内部に共振構造を備えたことを特徴とするものであり(例えば、非特許文献5参照)、多層膜内部にキャビティ層を2層備えたダブルGTI構造のミラー(特許文献3参照)あるいはキャビティ層はないが共振構造を有するよう、多層膜を構成する各層の光学膜厚は何らかの規則に沿った変化をするように構成されているミラー(特許文献4)なども提案されている。
【0026】
また、特許文献5には、2種類以上の異なる屈折率層を交互に積層した誘電体多層膜スタックが2スタック以上積層され、各スタックの中心波長が異なるようにすることで2次のみならず、3次以上の分散補償を行うことを特徴とする誘電体多層膜が提案されており、特許文献6には、可視光帯域における反射率が95%以上であり、最外膜の屈折率が最外膜直下の膜の屈折率よりも低く、負群速度分散を生じさせるよう構成された多層膜ミラーが提案されている。
【特許文献1】米国特許7,106,764号明細書
【特許文献2】特開平11-168252号公報
【特許文献3】特表2002−528906号公報
【特許文献4】特表2002−523797号公報
【特許文献5】特開平2−23302号公報
【特許文献6】特開2000−138407号公報
【非特許文献1】Optics Letters, vol.25 no.15 pp.1119-1121, 2000
【非特許文献2】Applied Optics, vol. 36 no.9, pp.1867-1874, 1997
【非特許文献3】Journal of Optical Society of America, vol. 16 no. 1, p.46-56, 1999
【非特許文献4】R. Szipoecs他、Optics Letters, Vol.19, 201(1994)
【非特許文献5】IEEE Transaction on Quantum Electronics, vol. 22, no.1 (1986) pp. 182-185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
既述の通り、モード同期固体レーザ装置の小型化を図る場合、固体レーザ媒質とSESAMを近接して配置すること、および負分散ミラーを出力ミラーとして用いることが考えられる。
【0028】
特許文献2においては、出力ミラーに負分散機能を有するチャープミラーコーティングを施した負分散ミラーを用いることが提案されているが、特許文献2では、出力ミラーとして用いる場合の光透過率、負分散量などについての具体的な記載がされておらず、また、ミラーを構成する誘電体膜についての具体的な記載がなく、文献2の開示から実施可能とは言えない。また、特許文献6においては、出力ミラーに誘電体多層膜を設けることによって周波数チャープ補償ができる旨の記載がある一方、具体的な実施例として挙げられている多層膜の反射率は99.9%以上でほぼ100%のものであることから、ほとんど出力光が得られず、出力ミラーとしての機能するものではない。
【0029】
また、市販されている、負分散素子の負分散量は数十〜数百fsec2であることから、十分な負分散補償を行うためには、共振器内に複数の負分散素子を備える必要があり、装置の小型化、安定化を十分に図ることができないという問題があった。
【0030】
また一方、特許文献1および特許文献2などのように、反射ミラーである可飽和吸収ミラーとレーザ媒質とを近接あるいは接触して配置した場合、下記のような問題がある。レーザ共振器の中で、利得媒質であるレーザ媒質の光軸上の位置により、いわゆる空間ホールバーニング効果の生じ方に差異が生じ、それがモード同期現象と結合して、モード同期の安定性に影響を与えることが、Applied Physics B vol.72 pp.267-278, 2001(以下、参考文献1という)や、さらには文献Applied Physics B vol.61 pp.429-437, 1995および文献Applied Physics B vol.61 pp.569-579, 1995により知られている。
【0031】
共振器を構成する反射ミラー面においては、内部に存在する光波電界の位相とびが生じ、電界強度が零になる「節」が存在する。レーザ媒質を反射ミラー近傍に配置した場合、レーザ媒質の中には、この位相飛びから来るレーザ光波強度の空間的な縞が生じる。これが空間ホールバーニングである。
【0032】
参考文献1では、反射ミラー近傍にレーザ媒質が配置された場合、利得スペクトル上に凹みが生じ、これが内部を周回しているソリトンパルスの不安定性を生じさせると記載されている。より詳しくは、反射ミラー近傍では空間ホールバーニング効果がより強く発現するため、レーザ媒質中に生じる空間ホールバーニングによる利得の縞模様が、レーザ共振器中を周回しているレーザパルス(ここでは、ソリトンパルスのためパルス帯域が比較的広い)の周波数領域での利得スペクトルの変調に繋がり、これが、ひいては所望のパルスと競合する現象(シフトパルス、ダブルパルス、CWバックグラウンド)の方に優先的に利得を与え、これにより、所望のソリトンパルスが競合に負け、上記の望ましくないパルス現象が生じ、不安定となるのである。
【0033】
従って、特許文献1および特許文献2などのように、反射ミラーである可飽和吸収ミラーとレーザ媒質とを近接あるいは接触して配置した場合、空間ホールバーニング効果が顕著に起こり、ソリトンモードパルスが著しく不安定になると考えられる。
【0034】
しかしながら、特許文献1および2には、空間ホールバーニング効果によるモード安定性への影響について何ら記載されておらず、モード安定性を図る方策が開示されていない。
【0035】
すなわち、モード同期固体レーザ装置を小型化するに当たり、小型化を達成するための構成提案はなされているが、小型化した構成において、ソリトンパルスを安定して発生させるための条件が明確にされておらず、また、出力ミラーとして機能すると共に、一素子で十分な負分散補償を行うことができる負分散ミラーを実現した例は明らかにされておらず、小型なモード同期固体レーザ装置は実現されていない。
【0036】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、モード同期動作を安定させることができる条件を明確にし、小型、低コストでかつ安定性が高く、フェムト秒領域のCWモード同期を実現できるモード同期固体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の固体レーザモード同期装置は、一端を出力ミラーにより構成されてなる共振器と、前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、可飽和吸収ミラーとを備えたモード同期固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質と前記可飽和吸収ミラーとが、両者間の距離がレーリ長の2倍以下となるように配置されており、
前記可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRが0.4%以上であり、
下記関係式で表される、前記共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)が、前記可飽和吸収ミラーにより基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定されており、
前記出力ミラーが、基板上に誘電体多層膜構造を有してなる負分散ミラーであって、前記所定の波長の光に対して、分散量が−1000fsec2〜−100fsec2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%であり、前記多層膜構造が、相対的に高い屈折率を有する層および相対的に低い屈折率を有する層が交互に積層されてなり、前記所定の波長をλとしたとき、各層の光学膜厚がλ/8〜λ/2の範囲でランダムに変化しているものであることを特徴とするものである。なお、以下においてはfsecを単にfsと示すことがある。
【数4】
【0038】
(ただし、τP:パルス幅、λ0:中心波長、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、n2:レーザ媒質の非線形屈折率、ls:レーザ媒質の結晶長、EP:共振器内部パルスエネルギー)
【0039】
すなわち、本発明者らは、モード同期固体レーザ装置の小型化を図る過程において、レーザ媒質とSESAMとをレーリ長以下で配置することにより、レーザ媒質上にビームウエストを形成しない構成であっても、ソリトンモード同期パルスを発生可能であることを見いだした。
【0040】
また、本発明者らは、装置を小型に構成した場合において、モードの安定性のために、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さ、および共振器内全分散量に、所定の制限があることを見いだし、これを明確にした。これらの可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRおよび共振器内全分散量Dの条件は、モード同期の安定性に関して仔細に検討した結果見出したものである。
【0041】
また、装置の小型化を図るために負分散ミラーを出力ミラーとして用いる(あるいは出力ミラーを負分散ミラーとして用いる)ためには、レーザ出力を取り出すための透過率と、安定動作を得るための共振器内全分散量を実現するミラー分散量とを備えた負分散ミラーを実現する必要があることを見いだした。
【0042】
上記の「レーリ長」とは、zR=πωA2/λで規定される値であり、発振光ビーム半径が、ビームウエスト(この場合、ωA)の√2倍になる、ビームウエストからの光軸方向距離である。また、前記可飽和吸収ミラーと固体レーザ媒質との距離が「レーリ長の2倍以下」とは、両者の距離が0である場合、すなわち、可飽和吸収ミラーと固体レーザ媒質とが密着する場合を含むものとする。
【0043】
また、上記「基本周期のソリトンパルス以外の動作様式」とは、共振器において基本ソリトンパルスと競合して生じるダブルパルス、またはCWバックグラウンドなどの競合パルスを意味するものである(図2参照)。
【0044】
図2と表1を参照して、基本ソリトンパルスに競合して生じる競合パルスを簡単に説明する。シフトパルスとは、基本ソリトンパルスと比較し、パルス帯域、パルスエネルギーは等しいが中心周波数がδνshiftだけシフトしたものである。CWバックグラウンドとは、時間領域ではパルスではなくCW(連続波)動作している成分であり、スペクトル上は狭線幅である。ダブルパルスとは、基本ソリトンパルスの1/2のエネルギー、1/2のパルス帯域を持つ2個のパルス列のことである。全て基本ソリトンから周波数シフトしているが、図2では説明を簡単にするために、CWバックグラウンドとダブルパルスについてはシフト量を零として描いている。
【表1】
【0045】
なお、シフトパルスは、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さにより抑制できないパルスであり、上記における「基本周期のソリトンパルス以外の動作様式」には、シフトパルスを含まないものとする。
【0046】
共振器内全分散量Dは、パルス幅(なお、パルス幅はパルス帯域に逆比例する)との関係において上記式のように表され、0.4%以上の所定値に設定された、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さにおいて、空間ホールバーニング効果により生じる競合パルス(ダブルパルスおよびCWバックグラウンド)が抑制されるパルス帯域から求められる範囲に設定する。
【0047】
負分散ミラーについて、上記「ランダムに変化」とは、従来技術の項で説明した、チャープミラーのように高屈折率層の光学膜厚および低屈折率層の光学膜厚がそれぞれ積層方向に直線的に変化するように積層されているものや、各層の光学膜厚が何らかの規則に沿った変化をするように積層されている層膜構造を含まないことを意味する。
【0048】
またここで、分散量が−1000fs2〜−100fs2であるとは、−1000fs2以上、−100fs2以下の範囲内の所定の値であることを意味し、同様に反射率が97%〜99.5%であるとは、97%以上、99.5%以下の範囲内の所定の値であることを意味する。
【0049】
また、本発明によるモード同期固体レーザ装置においては、固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成されていることが望ましい。なお、上記「斜め方向からの入射」とは、光軸と垂直な方向からの入射も含むものとする。
【0050】
また、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、固体レーザ媒質として、希土類が添加されたものが適用されることが好ましい。そのような希土類としては、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、あるいはネオジム(Nd)が挙げられる。
【0051】
さらに、上述のように希土類が添加された固体レーザ媒質の好ましい例としては、Yb:YAG(Y3Al5O12)、Yb:KYW(K(WO4)2)、Yb:KGW(KGd(WO4)2)、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3、Er,Yb:ガラス、Nd:ガラス等が挙げられる。
【0052】
他方、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、共振器が直線型のものとして構成されることが望ましい。
【0053】
また、本発明のモード同期固体レーザ装置においては、共振器モードウエスト直径が100μm以下であることが望ましい。なお、この「直径」は、光の進行方向に垂直な断面のビーム強度分布において、光強度が最大強度の1/e2以上である領域で定義するものとする。
【0054】
さらに、本発明のモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質がYb:KYWである場合は、共振器内全分散量Dが−2500fsec2以上0 fsec2未満の範囲にあることが望ましい。
【0055】
一方、固体レーザ媒質がYb:KGWである場合は、共振器内全分散量Dが−5750 fs2以上0 fs2未満の範囲あることが望ましい。
【0056】
また、固体レーザ媒質がYb:YAGである場合は、共振器内全分散量Dが−1750 fs2以上0 fs2未満の範囲あることが望ましい。
【0057】
また、固体レーザ媒質がYb:Y2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3250 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0058】
また、固体レーザ媒質がYb:Lu2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3000 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0059】
また、固体レーザ媒質がYb:Sc2O3である場合は、共振器内全分散量Dが−3000 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0060】
さらに、固体レーザ媒質がEr,Yb:ガラスである場合は、共振器内全分散量Dが−1200 fs2以上0 fs2未満の範囲にあることが望ましい。
【0061】
共振器内全分散量Dの好ましい範囲は固体レーザ媒質によって異なる。一方、共振器内に配置されるレーザ結晶や、各種コーティングなどは一般に正の群速度分散を呈し、光学部品数を最小とした共振器においても、総計+100fs2〜+500fs2の正の分散が生じる。負分散ミラーとして、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2のものを用い、各固体レーザ媒質において好ましい共振器内全分散量Dを満たすために、必要に応じて、所望の正の分散量を有する石英基板などを共振器内に挿入してもよい。
【0062】
本発明のモード同期固体レーザ装置において共振器長は、好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下、さらに好ましくは75mm以下、さらに好ましくは50mm以下とされる。
【0063】
なお、負分散ミラーとしては、前記基板として凹面を有するものを用い、前記多層膜構造を該凹面に設けることが好ましい。
【0064】
また、負分散ミラーとしては、前記分散量および前記反射率が前記所定の波長を含む10nm以上の帯域幅を有するものであること、すなわち、前記所定の波長を中心として10nm以上の帯域幅に対して分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲の所定値、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲の所定値であることが望ましい。
さらに、前記所定の波長は、所望の値に設定可能であるが、特に、1000nm〜1100nmの範囲にあることが好ましい。
【0065】
前記高い屈折率を有する層は、例えば、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものとすることができる。ここで、1つもしくは複数を含む混合物または化合物とは、先に列挙している酸化物、硫化物以外のものを含んでもよいが、ここに挙げた酸化物、硫化物の1つもしくは複数を主要成分として(全体の50重量%以上)含むものとする。
また、前記低い屈折率を有する層は、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものとすることができる。ここで、1つもしくは複数を含む混合物または化合物とは、先に列挙している酸化物、フッ化物以外のものを含んでもよいが、ここに挙げた酸化物、フッ化物の1つもしくは複数を主要成分として(全体の50重量%以上)含むものとする。
【発明の効果】
【0066】
本発明のモード同期固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と可飽和吸収ミラーとがレーリ長の2倍以下の距離で近接あるいは密着配置されていることにより、レーザ媒質中に発振光のビームウエストを形成することなく、レーザ媒質中で必要とされるビーム断面積を達成することができる。
【0067】
一方、レーザ媒質とSESAMとを近接させることにより空間ホールバーニングの影響により競合パルスのソリトンパルスに対する利得優位度が大きくなり、ソリトンパルスを安定して発生できなくなるという恐れがあるが、本発明者らは、本発明のように、可飽和吸収ミラーの吸収変調深さを0.4%以上とし、上述の式を満たす共振器内全分散量|D|を、該可飽和吸収ミラーにより競合パルスを抑制することが可能なパルス帯域となる所定値とすることにより、安定したソリトンモード発振を行うことが可能であることを見いだした。共振器内分散量Dとしては、場合によっては−数千fsec2程度を必要とすることを明らかにした。従来においては、小型に構成したモード同期固体レーザ装置を安定に動作させる共振器内全分散量Dと可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRの条件が明確にされておらず、安定性の高い小型のモード同期固体レーザ装置の実現が困難であった。本発明の上記条件を満たすことにより、安定にソリトンモードを実現することができるモード同期個体レーザ装置を実現することができる。
【0068】
負分散ミラーを出力ミラーとして使用すれば、レーザ装置全体のサイズを小型化出来ることは特許文献2からも明らかであったが、出力ミラーとして機能する負分散ミラーの具体的な開示例はなかった。一方、本発明者らは、レーザ出力を最適に取り出すためには、レーザ利得と共振器内損失から計算される最適透過率として、出力ミラーとなる負分散ミラーの透過率を0.5%(反射率99.5%)〜3%(反射率97%)とし、また、モード同期安定性のための共振器内全分散量の条件を達成することができるミラー分散量として−1000fs2〜−100fs2を示す負分散ミラーを実現した。
【0069】
本発明の装置において、出力ミラーが、所定の波長の光に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%である負分散ミラーにより構成されており、このミラー分散量は従来の負分散ミラーと比較して非常に大きく、単体で十分な負分散補償が可能であり、共振器内にさらなる負分散素子を備える必要がないため、モード同期固体レーザ装置を小型に構成することができる。すなわち、共振器の一端を構成する出力ミラーとして上述の負分散ミラーを備えたことにより、装置全体とし部品を大幅に低減し、小型化することができることから、低コストに構成することができると共に、レーザ出力の安定化を達成することができる。
【0070】
このように、ソリトンパルスが安定して発生する条件を明確にし、さらに、上記条件の分散量および反射率を有する負分散ミラーを実現したので、相乗的に低コストかつ小型化を達成しつつ、安定性の高いモード同期固体レーザ装置を実現することができる。
【0071】
なお、本発明によるモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成された場合は、励起光学系が十分に小型化されるので特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0073】
図1は、本発明の一実施形態によるソリトン型モード同期固体レーザ装置を示す概略側面図である。図示の通りこのモード同期固体レーザ装置は、励起光(ポンピング光)10を発する半導体レーザ11と、励起光10を共振器内に入力させる励起光学系12と、この励起光学系12により共振器の外部から共振器光軸に斜めに入射された励起光10を、固体レーザ媒質15に向けて反射すると共に、共振器内で共振する発振光18を透過する、共振器内に配されたダイクロイックミラー13と、共振器の一方の終端を構成する出力ミラーを兼ねた負分散ミラー5と、共振器の他方の終端を構成するSESAM(半導体可飽和吸収ミラー)16と、このSESAM16および負分散ミラー5で構成される共振器の内部に配置された固体レーザ媒質15とから構成されている。
【0074】
本実施形態において、固体レーザ媒質15としては一例としてYb:KYW結晶が用いられている。半導体レーザ11としては、上記の固体レーザ媒質15を励起する波長980nmの励起光10を発するものが用いられている。またダイクロイックミラー13としては、波長980nmの励起光10を反射させ、波長1045nmの固体レーザ発振光18を透過させる特性のものが用いられている。
【0075】
そして上述の固体レーザ媒質15とSESAM16とは、SESAM16において形成される共振器モード半径(=発振光のビーム半径)により決定されるレーリ長の2倍以下の距離dで近接配置されている。
【0076】
以上の構成においては、半導体レーザ11から出力され、励起光学系12により共振器光軸に対して斜めに入射された励起光10がダイクロイックミラー13により反射されて固体レーザ媒質15に入力され、固体レーザ媒質15が励起され、それにより発生した波長1045nmの光が共振器の作用で発振する。レーザ発振光18は出力ミラー(負分散ミラー)5を一部透過し外部に出力光18aとして取り出される。本構成の装置においては、共振器内で共振するレーザ発振光18のビームウエストがSESAM16上にのみ形成されている。
【0077】
ここでは、負分散ミラー5の作用による負の群速度分散と、主に固体レーザ媒質15での自己位相変調が組み合わさって、フェムト秒領域のパルス発振光18aが得られる。より詳しくは、SESAM16によりモード同期が始動してパルスを維持安定化させるとともに、群速度分散と自己位相変調がバランスすることによるソリトンパルス形成を経てモード同期パルスの急峻化が起こり、フェムト秒クラスの安定したソリトンパルス発生が可能となる。
【0078】
ここで、レーリ長の2倍という条件について説明する。この条件は、固体レーザ装置において、ソリトンモード同期を生じさせ連続パルス発振を得るための上述の(1)および(2)式から本発明者が考察して得た条件である。固体レーザ媒質における発振光のビーム半径が大きくなりすぎると、発振閾値およびCWモード同期閾値が大きくなりすぎるとレーザ発振が起きない、あるいはモード同期が掛からずパルス発振ができないという問題が生じるが、固体レーザ媒質が発振光のビームウエストからレーリ長の2倍以下の位置に配置されていれば、ソリトン型のモード同期を得ることができる。
【0079】
固体レーザ媒質15とSESAM16とがレーリ長の2倍程度離隔した場合、固体レーザ媒質15での発振光ビーム半径ωLは発振光ビームウエストでの発振光ビーム半径の2.2倍に広がる。従って、既述の(1)式から、固体レーザ媒質15に発振光ビームウエストがくるよう構成されている場合と比較してレーザ発振閾値は4.8倍上がることが分かる。しかし、ビームウエストでのビーム半径ω=25μm程度とすれば、発振光ビーム半径ωL=2.2×25μmであり、発振閾値を100mW以下にすることが可能である。なおこのときのレーリ長は1.9mm、2倍で3.8mmである。発振閾値を100mW以下とすることができれば、十分高い効率で発振させることができる。
【0080】
一方、前述の(2)式から、固体レーザ媒質15に発振光ビームウエストがくるよう構成されている場合と比較してCWモード同期閾値は、2.36nJから5.93nJ(ただしSESAMの特性パラメータとして、ΔR=0.9%、Fsat,A=90μJ/cm2とした)とおよそ2.5倍程度増大することが分かる。しかし、この程度の増大は、発振閾値を100mW以下に抑えられていれば、十分な発振出力を確保でき、問題なくCWモード同期が達成可能なレベルである。
【0081】
このように、固体レーザ媒質とSESAMをレーリ長以下の距離で配置することにより、(1)式、および(2)式を満足させ、かつ、モード同期固体レーザ装置の小型化を図ることができる。すなわち、固体レーザ媒質とSESAMを上記距離で配置することにより、ソリトンモードパルスが発振可能な小型の固体レーザ装置を構成可能である。
【0082】
しかしながら、前述の通り、固体レーザ媒質とSESAM(反射ミラー)を近接した場合、空間ホールバーニングが生じ、この空間ホールバーニングにより、競合プロセスが生じることから、ソリトンパルスが発生しても、競合パルスにより乱されてしまうという問題が生じる。
【0083】
本発明者らは、SESAMの吸収変調深さΔRと、共振器内全分散量Dを所定の範囲に設定することにより、この空間ホールバーニングにより生じる競合パルスを抑制し、安定なソリトンパルス動作を達成できることを明らかにした。
【0084】
図3は、Yb:KYW結晶に対して数値計算された、空間ホールバーニングより生じる競合パルスの利得優位度ΔGのスペクトル帯域ΔλP(波長帯域で示している)に対する依存性を示す。この利得優位度ΔGは、図1に示す構成のモード同期固体レーザ装置について、本発明者らが参照文献1記載の数式を適応させて求めたものである。図3の横軸は、レーザ発振しているソリトンパルスのスペクトル帯域(パルス帯域)ΔλPである。また、ここで基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.04を想定した(この値は、励起光のパワー、スポット系、装置構成に依存するが、現実的な装置構成における値として設定したものである)。なお、利得優位度とは、各競合プロセスにより生じる競合パルス(シフトパルス、CWバックグラウンド、ダブルパルス)とソリトンパルスとの利得の差を表すものである。図3から、常に、ソリトンパルスよりこれらの競合パルスが僅かに高い利得を有することが分かる。所望の基本ソリトンでのCWモード同期を得るためには、これらの競合パルスを抑制する必要がある。
【0085】
SESAM16は、パルスエネルギーEPに応じた非線形反射特性を有しており(例えば前述の非特許文献3参照)、上記の競合プロセスのうち、CWバックグラウンドとダブルパルスの抑制に効果がある。より具体的には、CWバックグランドの利得優位度ΔG(CW)を、変調深さΔRの半分、すなわち、ΔR/2以下とすることによりCWバックグラウンドを抑制することができ、ダブルパルスの利得優位度ΔG(DP)をΔR/S[ここで、S=EP/(Fsat,A・Aeff,A):SESAM飽和度]以下とすることにより、ダブルパルスを抑制することができる。
【0086】
すなわち、図3において、ΔG(CW)≦ΔR/2、かつ、ΔG(DP)≦ΔR/Sを満たすパルス帯域においては、CWバックグランドとダブルパルスが抑制することができる。
【0087】
一方、シフトパルスはSESAM16では抑制できない。これは、シフトパルスは、基本ソリトンパルスとパルス幅、パルス帯域、エネルギーにおいて同等で、周波数軸上でシフトしているだけ(前記表1および図2参照)であるから、SESAM16に対して同じ飽和度を与えるため、ソリトンパルスとの弁別が効かないためである。
【0088】
シフトパルスの利得優位度ΔG(SP)が略0である範囲、かつΔG(CW)≦ΔR/2、かつ、ΔG(DP)≦ΔR/Sを満たすパルス帯域において、ソリトンモードが安定して生じるものとなる。なお、シフトパルスはSESAMで抑制できないため、ソリトンモードを安定して発生させることができるパルス帯域の下限は、シフトパルスにより制限される場合が多い。
【0089】
さて一方、パルス幅τpは共振器内分散量Dの絶対値|D|と以下の比例関係で結び付けられる(非特許文献3参照)。
【数5】
【0090】
また、パルス幅はパルス帯域と逆比例の関係にある。
【0091】
これらを考慮し、本発明者らは、ソリトンモード安定領域となるパルス帯域に制限があることは、共振器内全分散量Dに制限があることと等価であり、空間ホールバーニングを抑制して安定なソリトンモードを生じさせるためには、SESAMの吸収深さに応じて共振器内分散量Dを適切な範囲の値に設定する必要があることを明らかにした。
【0092】
図4に、(3)式から求めた共振器内全分散量のパルス帯域依存性を示す(パルス幅とパルス帯域とは逆比例の関係にある)。
【0093】
以上の関係から、本発明者らは、可飽和吸収ミラーを、共振器における基本ソリトンパルスに対するダブルパルスの利得優位度G(DP)、および基本ソリトンパルスに対するCWバックグラウンドの利得優位度G(CW)に対し、
ΔG(CW)≦ΔR/2かつ、ΔG(DP)≦ΔR/S・・・・(A)
を満たす吸収変調深さΔRおよび飽和度Sを有するものとし、共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)を、(A)式かつ、基本ソリトンパルスに対するシフトパルスの利得優位度G(SP)≒0を満たすパルス帯域の範囲に対応する値となるように装置を構成することにより、ソリトンパルスを安定して生じさせることができることを見出した。
【0094】
以下、具体的な数値を用いて考察を行った。
一般的なモード同期固体レーザ装置においては、SESAM飽和度S=3〜5程度で設計されており、本発明の具体的な構成においてもこの範囲の値を想定しており、特に以下では、S=4を採用している。
【0095】
図3を参照すると、ダブルパルスの利得優位度の最小値はΔG=0.05%であるので、このダブルパルスを抑制するには、S=4としたとき、吸収変調深さの最低ラインとしてΔRmin≧ΔG・S=0.2%とする必要がある。
【0096】
一般的に製造されているSESAMの変調深さΔRは0.3%程度が最小値であり、通常、空間ホールバーニングが生じない系においては、ΔR=0.3%〜2%程度がモード同期に適切とされている。
【0097】
ここで、ΔR=0.3%、S=4とした場合、CWバックグラウンドを抑制するためには、パルス帯域は、ΔR/2=0.15%のところで制限され、4nm〜7nmというパルス帯域しか安定に存在できない。また、ダブルパルス条件から、ΔR/S=0.075%となり、4.5nm〜6.0nmとなり、この範囲でしか、パルスが安定でない。またシフトパルス条件から、4nm以上でしか存在できない。これらの条件の積集合を取ると、結局、ダブルパルス条件が最も厳しく、パルス帯域4.5〜6.0nmでのパルスしか許されないことになる。これは、フーリエ変換限界のパルスとして、254fsecから191fsec(波長λ0=1045nm)のパルス幅(中心223fsec±14%)しか許されないという極めて限定された範囲になる。
【0098】
ある程度余裕のあるパルス帯域を確保するためには、上述の最低ラインとなるΔRmin=0.2%の2倍以上は必要であり、現実的なSESAMの吸収変調深さはΔR≧0.4%である。ΔRを0.4%以上とすることにより、パルス帯域を広げることができる。
【0099】
例えば、ΔR=0.8%、S=4とした場合、可能なパルス帯域は、ΔλP=4nm〜8nm、それに対応したパルス幅はτP=287〜143fsecである。また、ΔR=1.4%としたときには、パルス帯域を4nm〜11nmまで広げることが出来、パルス幅287〜104fsecのパルスが生成可能である。
【0100】
このように、SESAMの吸収変調深さを0.4%以上の所定の値とした場合、該ΔRにより、ダブルパルスおよびCWバックグランドを抑制することができるパルス帯域(パルス幅)には制限がある。
【0101】
さて、励起光源である半導体レーザとしてエミッタ幅が100μmで出力3W級のものを想定し、共振器長を50mmとし、伝送効率85%、吸収効率90%、光変換効率30%、出力結合TOC=1%とすると、内部のエネルギーは、およそEP=23nJとなる。これが本発明の具体例で想定している最大のパルスエネルギーである。(なお、図1に示すような本発明の対象となる小型な装置においては、これ以上パルスエネルギーは原理上達成できない。)
この場合、図4を参照すると、104fsecパルス(パルス帯域11nmに相当)を生成するには、950fsec2の負の分散量が必要である。安定範囲の下限4nm(シフトパルスによる制限)では、2500fsec2程度の負の分散量とすればよい。なお、共振器内全分散量DはパルスエネルギーEPの関数でもあるので、パルスエネルギーが大きいと、より大きな分散量が必要になることから、本発明で想定している装置としては、これが共振器内全分散量の絶対値上限である。絶対値下限については、パルスエネルギーが小さくなればそれだけ共振器内全分散量も小さくする必要があり、図4から分かるように共振器内全分散量が略零の場合があり得ることから、絶対値下限は0超とした。
【0102】
すなわち、図1に示した構成のモード同期固体レーザ装置において、固体レーザ媒質としてYb:KYWを用い、吸収変調深さΔR≧0.4%とした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上0未満の範囲とする必要がある。もっとも、装置構成に応じて全分散量Dの範囲にはさらに制限がある。例えば、上述の例でΔR=0.8%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上、−1400fs2以下とする必要があり、また、ΔR=1.4%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2500fs2以上、−1000fs2以下とする必要がある。
【0103】
なお、具体的に装置を組み立てるに当たっては、安定/不安定の境界領域近傍は動作が不安定になりやすいことを考慮する必要がある。そこで1/5程度の共振器内全分散量の余裕を持たせることが好ましく、例えば、ΔR=0.8%、S=4、Ep=20nJとした場合、共振器内全分散量Dは−2000fs2以上、−1700fs2以下とすることで、より安定なCWモード同期動作を実現できる。
【0104】
また、図5は、図3と同様に、Yb:KYW結晶に対して数値計算された、空間ホールバーニングにより生じる、競合パルスの利得優位度ΔGのスペクトル帯域ΔλPに対する依存性を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.1を想定した。図5に示すように、利得が大きい場合(これは励起パワーが大きいことと等価である。)には、競合パルスの利得優位度が大きくなると共に、CWバックグラウンドおよびダブルパルスの利得優位度が最小値を取るパルス帯域が小さい方へシフトしていることがわかる。同一のΔRのSESAMを用いた場合、G=0.04の時と比較して競合パルスを抑制できるパルス帯域が非常に狭く、かつパルス幅の小さなモード同期を得られ難いことが判った。
【0105】
次に、使用する負分散ミラー5について、図面を参照して説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態の負分散ミラー5の構成を示す模式図である。
【0106】
本実施形態の負分散ミラー5は、凹面を有するガラス基板6の凹面上に誘電体多層膜構造7を有するミラーであり、多層膜構造7が、相対的に高い屈折率nm1を有する層および相対的に低い屈折率nm2(<nm1)を有する層が交互に積層されてなるものである。
【0107】
なお、ガラス基板6の多層膜構造が設けられる面に対向する面に多層膜構造7を透過した光が基板6の凹面に対向する面で反射するのを防止するための反射防止膜8が設けられている。多層膜構造7の積層面側からミラーに入射される光Lに対する反射率が97%〜99.5%であり、3%〜0.5%の成分が反射防止膜8側へ透過する。
【0108】
多層膜構造7の各層は、基板6側から、第1層、第2層・・・第(k−1)層、第k層、第(k+1)層、・・・n層の順で積層されている。各層の光学膜厚はλ/8〜λ/2の範囲のものであり、各層間でその光学膜厚の変化量に特段の規則性を有さず、光学膜厚はランダムに変化している。なお、各層の光学膜厚は層の屈折率nと層の膜厚d(nm)の積n・dで表されるものである。
【0109】
負分散ミラー5は、所定の波長の光L(18)に対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲にあり、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲にある。ミラー5は、所定の波長を含む10nm以上の帯域幅の光に対してミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲の所定の値であり、反射率が97%〜99.5%の範囲の所定の値であり、これらの範囲で任意に設定可能である。
【0110】
高屈折率層は、具体的には、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物から構成することができる。具体物としては、TiO2、Ta2O5、ZrO2、サブスタンスH4(商品名:メルク社製、LaTixOyを主成分とする蒸着材)などが挙げられる。
【0111】
低屈折率層は、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物から構成することができる。具体物としては、SiO2、MgF、Al2O3などが挙げられる。
【0112】
尤も、低屈折率層と高屈折率層は相対的に低い屈折率を有する誘電体と相対的に高い屈折率の誘電体から構成されていればよく、既知のいかなる材料を用いてもよい。
【0113】
所定の波長の光Lは、固体レーザ媒質15から出力され、共振器内で共振する光18であり、負分散ミラー5が適応されるモード同期固体レーザ装置の構成により定められる。例えば、固体レーザ媒質としてYb:KYW(K(WO4)2)を用いる場合であれば、その波長λ=1045nmであり、固体レーザ媒質としてYb:KGW(Gd(WO4)2)を用いる場合、λ=1040nmであり、その他、Yb:YAGではλ=1050nm、Yb:Y2O3ではλ=1076nm、などである。
【0114】
本装置においては、励起光10が共振器光軸と交わる方向から共振器に入力され、共振器内の共振器光軸上に配置されたダイクロイックミラー13により反射されて固体レーザ媒質へと導入される。このダイクロイッミラー13は、励起光を高反射(例えば、反射率>85%)で反射するとともに、レーザ発振光を無反射(例えば、反射率<0.5%)で透過させる。このため、挿入に伴うレーザ発振効率の低下は最小限に抑制出来るとともに、励起光源を従来の光学系よりも固体レーザ媒質に近づけることが出来るという利点がある。なお、このダイクロイックミラーは、45度入射あるいはブリュースター角での入射が望ましい。ダイクロイックミラーには、励起光の入射角度に応じたコート設計を施せばよい。
【0115】
さらに、ダイクロイックミラーを備えた構成であることから、励起光学系を屈折率分布レンズ(GRINレンズ=Graded Index レンズ)等の一枚レンズの光学系とすることが可能になる。この理由は、固体レーザ媒質と励起光学系レンズまでの距離を短縮できることに起因する。実際、1:2の結像系を構成するとして、例えば、ピッチ0.23、実効焦点距離1.94mmのGRINレンズ(Thorlabs社製、レンズ長4.42mm、レンズ直径1.8mm)を用いる場合、光源からレンズ(前側主点)までの距離d1=2/3f=1.3mm、レンズ(後側主点)から固体レーザ媒質までの距離d2=2×d1=2.6mmと、レンズ自体の長さを加えても、概略1.3+2.6+4.4=8.3mmと極めて小さく配置できる。1:2の光学倍率を実現するのに、前述したように、図18に示す従来の装置ように凹面出力ミラーを介して励起光を入射させる構成をとると、それだけで75mm〜200mmもの長さが必要になる。したがって、本発明で、極めて小さな励起光学系が実現できると言える。
【0116】
なお、図1の構成において共振器長は50mmとしたが、共振器長が200mm以下であれば、モード同期の安定性とレーザ共振器の安定性を両立することができる。以下にその理由を詳細に述べる。
【0117】
先に述べたように共振器長を長くすることで、パルス繰り返しが下がり、パルスエネルギーが大きくなるため、CWモード同期閾値を容易に上回ることが可能になる。すなわち、CWモード同期に関する(2)式のみを考えれば、パルスエネルギーが大きいほど好ましく、共振器長は長ければ長いほど好ましいと考えられる。
【0118】
一方、機械的な変動によるレーザ出力の不安定という観点から見ると、共振器長は無制限に長くすることはできず、200mm程度が機械的な限界と考えられる。これは、以下の考察から導いたものである。一般的には、共振器長1m程度であると、機械的な振動・ドリフト、熱による機構部品の位置変異、剛性によるたわみなどに基づく光学アライメントのずれが、レーザ特性の劣化、不安定化をもたらしている場合が多い。共振器のアライメント許容度は、共振器長に逆比例し、ミラー曲率の関数であることが知られている。1m級では50〜100μrad程度であることが知られている(参考文献:N.Hodgson and H. Weber, Optical Resonators p. 219, Springer)。このため共振器長を200mm以下にすることで、許容度を5倍の250〜500μrad以上にすることができる。ミラーの機械変動は、一概に定量化できないが、一般的なジンバルで、50μrad(8℃の温度変動;Newport社カタログ)であり、1m級共振器では許容度と同程度のミラー変動が生じるが、200mm以下では、許容度の1/5程度と、出力変動が無視できるレベルに留まる。
【0119】
このように、モード同期の安定性のみならず、レーザ共振器の安定性を考慮して、両者が両立することが出来る範囲として、共振器長200mm以下であることが好ましい。
【0120】
以上説明した実施形態は、固体レーザ媒質15がYb:KYWからなるものであるが、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度について、Yb:KGW結晶でも、図3および図5と同様の計算結果が得られる。何故なら、Yb:KYWとYb:KGWとは、蛍光帯域幅、誘導放出断面積、吸収断面積などの各物性定数が、ほぼ同じだからである。ただ一点異なることは、非線形屈折率n2の値であり、Yb:KGW(n2=20×10-20 m2/W)はYb:KYW(n2=8.7×10-20 m2/W)の2.3倍の値である。すなわち、図4に示した分散量のパルス依存性のスケールが2.3倍となり、したがって、Yb:KGWを用いた場合の共振器内分散量Dは、Yb:KYWを用いた場合よりも絶対値として2.3倍大きくする必要があり、固体レーザ媒質がYb:KGWである場合は、共振器内全分散量Dが−5750 fs2以上0 fs2未満の範囲が好ましいこととなる。
【0121】
また、代表的な短パルス材料であるYb:YAG結晶の1050nm発振について、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度を計算した結果を図7に示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.07を想定している。
【0122】
この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができることが判る。たとえば、ΔR=0.8%とすることにより、帯域2〜4nmでダブルパルス、CWバックグラウンドを抑制することができる。さらにΔRを大きくすることにより、より大きなパルス帯域でソリトンパルスを安定発振させることが可能となる。実用上は、300fsec以下の短パルス幅のソリトンモード同期を実現することが好ましく、従って、パルス帯域としては4nm(パルス幅287fsec相当)より大きくするのが好ましい。従って、Yb:YAGを用いる場合、ΔR≧0.8%以上とすることが望ましい。Yb:YAGの場合、Yb:KYWのおよそ70%の非線形屈折率(n2=6.2×10-20 m2/W)であるため、共振器内全分散量の好ましい範囲は、Yb:KYWの絶対値の70%の範囲であり、−1750fs2以上0 fs2未満である。
【0123】
他にも、セラミクス作製が可能な固体レーザ媒質が近年注目されており、本発明ではその種の固体レーザ媒質を用いることも可能である。通常、結晶状態で使用するのが一般的であるが、ガーネット系材料など(YAG)では、セラミクス状態でのレーザ媒質の作製も行われている。セラミクスは、結晶に比べ、同等またはそれ以上の光学的特性を有しながら、同時に大型化が可能であり、コスト削減が期待できる。ガーネット以外でも、C希土類と呼ばれる一群ではセラミクス化が可能であり、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3などがこれに相当する(文献:Optics Express, vol. 11 no.22 (2003) pp. 2911-2916参照)。また、ガラスなど、本質的に大型化が可能で低コストの材料も、レーザ媒質として使用実績がある。Ybを添加したガラスや、Er,Yb共添加ガラス(文献:Optics Letters, vol. 30 no.3 (2005) pp. 263-265参照)では、もともとガラスの有する広帯域発光を利用したデバイスが作製されている。これらに対しても、本発明は有効である。
【0124】
図8に、Yb:Y2O3を用いた場合の、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度の計算結果を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.06を想定している。
【0125】
この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができることが判る。例えば、ΔR=0.8%とすることにより、パルス帯域4〜6nmでダブルパルス、CWバックグラウンドを抑制することができる。ΔR=0.4%のとき、ダブルパルス、CWバックグランドを抑制可能なパルス帯域は4nm近傍のみと非常に狭いが、ΔR≧0.8%以上とすることにより、より広いパルス帯域で競合パルスを抑制することが可能となる。
【0126】
また、Yb:Y2O3の場合、Yb:KYWのおよそ1.3倍の非線形屈折率(n2=1.16×10-19 m2/W)であるため、その分、共振器内全分散量Dの絶対値も1.3倍となる。従って、Yb:Y2O3についての、共振器内全分散量Dの好ましい範囲は、−3250fs2以上0未満である。
【0127】
なお、Yb:Lu2O3について計算した結果を図9に示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.05を想定している。この場合にも、S=4のとき、ΔR≧0.4%とすることでソリトンパルスを安定に発生させる帯域を得ることができ、さらにΔRを大きくすることによりその帯域を広げることができることが判る。
【0128】
また、Yb:Lu2O3の場合、Yb:KYWのおよそ1.2倍の非線形屈折率(n2=1.0×10-19 m2/W)であるため、その分、共振器内全分散量Dの絶対値も1.2倍となる。従って、Yb:Y2O3についての、共振器内全分散量Dの好ましい範囲は、−3000fs2以上0未満である。なお、Yb:Lu2O3と同じ結晶構造を有し、ほぼ同等の非線形屈折率を有するYb:Sc2O3については、Yb:Lu2O3と同様の条件となる。
【0129】
次に図10に、Er,Yb共添加燐酸ガラスを用いた場合の、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度の計算結果を示す。ここでは、基本周期ソリトンパルスの利得Gとして、G=0.02を想定している。
【0130】
Er,Yb共添加燐酸ガラスにおいては、Ybイオンで励起光を吸収し、エネルギー移乗を経て、Erイオンへとエネルギーを移す。さらに、燐酸ガラスという比較的フォノンエネルギーの大きな媒質を用いることで、励起準位4I11/2からレーザ上準位4I13/2へと高速緩和する。これにより、高効率で反転分布を形成できる。この場合、発振は1550nm近傍、励起は980nmである。
【0131】
Er,Yb共添加燐酸ガラスをレーザ媒質として用いる場合、波長1550nm〜1600nmの発振光18を直接取り出すだけではなく、図11に示すように発振光18aを非線形光学結晶60に通して、第2高調波61を発生させるように構成すれば、発振光18aを波長780nm〜800nmの帯域へと変換できる。従来800nm近傍での固体レーザはTiSapphireなどの遷移金属結晶が必要で、かつ励起光源として532nm緑色レーザが必要であったところを、赤外波長帯域の半導体レーザを用いた励起が可能でかつ、本質的に高効率な希土類遷移を使用できるというメリットが得られる。
【0132】
Er,Yb共添加燐酸ガラスの場合、2nmのパルス帯域でシフトパルスが略0となる。実用上は、600fsec以下の短パルス幅のソリトンモード同期を実現することが好ましく、従って、パルス帯域としては4nm(パルス幅600fsec相当)より大きくするのが好ましい。
【0133】
Er,Yb共添加燐酸ガラスは、非線形屈折率が小さいため(n2=3×10-20 m2/W)、共振器内全分散量の好ましい範囲は、−1200fs2以上、0 fs2未満である。
【0134】
さらに、Ndを添加したレーザガラス材料においても、同様に考えることができる。例えばNdを添加したリン酸系レーザガラスにおいて、競合パルスの基本ソリトンパルスに対する利得優位度を計算した結果を図12に示す。
【0135】
上述の場合と同様の考察により、パルス帯域4nm以上とすることが好ましいことから、Nd:リン酸ガラスの場合、非線形屈折率は、n2=2.8×10-20 m2/Wであることから、共振器内全分散量の好ましい範囲は、−800fs2以上、0 fs2未満である。
【0136】
以下、負分散ミラーの具体な層構成例を説明する。
図13A〜図15Aは、設計例1〜3についてそれぞれ所定の中心波長に対する各層の光学膜厚を示すものであり、図13B〜図15Bはそれぞれ図13A〜図15Aに示した設計例1〜3の層構成で達成される反射率およびミラー負分散量を示すグラフである。設計例1〜3は中心波長λ=1045nmとして(固体レーザ媒質としてYb:KYW(K(WO4)2)を想定)設計したものであり、いずれもシミュレーションにより得たものである。
【0137】
図13A〜図15Aにおいて、横軸は層番号を示し、縦軸はλ/4で規格化した光学膜厚(4nd/λ)を示している。最も基板側の層が第1層であり、最も空気側の層が第48層である。図13B〜図15Bの横軸は所定の光の波長(nm)であり、縦軸は反射率(%)およびミラー負分散量(fs2)を示している。各層のλ/4で規格化した光学膜厚は1を基準に0.5以上、2未満の範囲である。
【0138】
図13Bは、図13Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=98.5%かつ負分散量=−1000fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0139】
図14Bは、図14Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=99.5%かつ負分散量=−500fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0140】
図15Bは、図15Aで示した膜構成のミラーでは、1045nmを中心波長として、少なくとも±5nmの範囲においては、反射率=97%かつ負分散量=−250fs2を満たす特性を有していることを示している。
【0141】
多層膜構造を構成する層の数は48に限られるものではない。また、上記の設計例においては中心波長λ=1045nmとしたが、中心波長はモード同期固体レーザ装置に備えられるレーザ媒質に応じて設定する必要がある。
【0142】
中心波長λ、−1000fs2〜−100fs2の範囲の所望の分散量、97%〜99.5%の範囲の所望の反射率を設定し、その他の初期条件として、層数、屈折率(膜材料)、ミラー層を何層ぐらいにするかなどの膜構成、おおよその膜厚(ミラー機能層を構成する各層については中心波長λ/4付近の光学膜厚とするなど)を設定してから、コンピュータシミュレーション(薄膜計算ソフト「Essential Macleod」を用いたシミュレーション)を行う。その後これらの初期条件は手動またはコンピュータにより自動的に修正されながら前述の設計例のような層構造を得ることができる。
【0143】
また、共振器構成は直線型であることが望ましいが、これに限らず、SESAM16と固体レーザ媒質15とが密接、あるいは前述の距離で近接していれば、どのような構成を取っていても構わない。また、負分散ミラーとして、凹面ミラーを備えるものについて説明したが、負分散ミラーは平板基板上に多層膜を設けたものであってもよい。
【0144】
例えば図16に示す実施形態のように、V字型の共振器構造を採用することもできる。図16においては、平板基板3上に多層膜構造4を設けてなる負分散ミラー1を出力ミラーとして備え、共振器内に発振光18を反射させる凹面ミラー19を備えた構成となっている。
【0145】
図16に示すモード同期固体レーザ装置において用いられている負分散ミラー1を図17に示す。図17に示すように、負分散ミラー1は、平板なガラス基板3上に誘電体多層膜構造4を有するミラーであり、多層膜構造4が、相対的に高い屈折率n1を有する層および相対的に低い屈折率n2を有する層が交互に積層されてなるものである。
【0146】
多層膜構造4の構成は先に説明した実施形態の負分散ミラー5の多層膜構造7と同様であり、相対的に高い屈折率n1を有する層および相対的に低い屈折率n2を有する層が交互に積層されてなるものであり、所定の波長の光Lに対して、ミラー分散量が−1000fs2〜−100fs2の範囲にあり、かつ、反射率が97%〜99.5%の範囲のものである。前述の実施形態と同様に固体レーザ媒質がYb:KYW(所定の波長λ=1045nm)であれば、例えば、既述の設計例1〜3のような膜構成とすればよい。
【0147】
図16に示す構成のモード同期固体レーザ装置においても、図1に示したモード同期固体レーザ装置の場合と同様に、小型、低コストでかつ安定性が高く、フェムト秒領域のCWモード同期を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の第1の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図2】モード同期固体レーザ装置におけるパルス競合現象を説明する図
【図3】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図4】パルス帯域と必要な分散量との関係を示すグラフ
【図5】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図6】出力ミラーとして用いられる負分散ミラーの構成を示す模式図
【図7】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図8】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図9】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図10】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図11】本発明のさらに別の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図12】モード同期レーザ装置におけるパルス帯域と利得優位度との関係の一例を示すグラフ
【図13A】負分散ミラーの膜構成の設計例1
【図13B】設計例1の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図14A】負分散ミラーの膜構成の設計例2
【図14B】設計例2の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図15A】負分散ミラーの膜構成の設計例3
【図15B】設計例3の負分散ミラーにおける反射率および分散量を示すグラフ
【図16】本発明の別の実施形態によるモード同期固体レーザ装置を示す概略側面図
【図17】図16の装置において用いられる負分散ミラーの構成を示す模式図
【図18】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【図19】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【図20】従来のモード同期固体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【符号の説明】
【0149】
1、5 負分散ミラー
3 ガラス基板
4、7 多層膜構造
6 凹面ガラス基板
C キャビティ層
ML1 ML2 ミラー機能層部
8 反射防止膜
10 励起光
11 半導体レーザ
12 励起光学系
13 ダイクロイックミラー
15 固体レーザ媒質
16 SESAM(半導体可飽和吸収ミラー)
18 固体レーザ発振光
18a 出力光
19 凹面ミラー
60 非線形光学結晶
61 第2高調波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端を出力ミラーにより構成されてなる共振器と、前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、可飽和吸収ミラーとを備えたモード同期固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質と前記可飽和吸収ミラーとが、両者間の距離がレーリ長の2倍以下なるように配置されており、
前記可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRが0.4%以上であり、
下記関係式で表される、前記共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)が、前記可飽和吸収ミラーにより基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定されており、
前記出力ミラーが、基板上に誘電体多層膜構造を有してなる負分散ミラーであって、前記所定の波長の光に対して、分散量が−1000fsec2〜−100fsec2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%であり、前記多層膜構造が、相対的に高い屈折率を有する層および相対的に低い屈折率を有する層が交互に積層されてなり、前記所定の波長をλとしたとき、各層の光学膜厚がλ/8〜λ/2の範囲でランダムに変化しているものであることを特徴とするモード同期固体レーザ装置。
【数1】
(ただし、τP:パルス幅、λ0:中心波長、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、n2:レーザ媒質の非線形屈折率、ls:レーザ媒質の結晶長、EP:共振器内部パルスエネルギー)
【請求項2】
前記固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、
該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成されていることを特徴とする請求項1記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項3】
前記固体レーザ媒質が、希土類が添加されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項4】
前記希土類が、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、あるいはネオジム(Nd)であることを特徴とする請求項3記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項5】
前記固体レーザ媒質が、Yb:YAG(Y3Al5O12)、Yb:KYW(K(WO4)2)、Yb:KGW(KGd(WO4)2)、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3、Er,Yb:ガラス、Nd:ガラスのいずれかであることを特徴とする請求項3記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項6】
前記共振器が直線型であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項7】
共振器モードウエスト直径が100μm以下であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項8】
前記負分散ミラーの基板が凹面を有するものであり、前記多層膜構造が該凹面に設けられていることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項9】
前記負分散ミラーの前記分散量および前記反射率が、前記所定の波長を含む10nm以上の帯域幅を有するものであることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項10】
前記所定の波長が、1000nm〜1100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項11】
前記負分散ミラーにおいて、前記高い屈折率を有する層が、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものであることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載のモード同期固定レーザ装置。
【請求項12】
前記負分散ミラーにおいて、前記低い屈折率を有する層が、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものであることを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載のモード同期固定レーザ装置。
【請求項1】
一端を出力ミラーにより構成されてなる共振器と、前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、可飽和吸収ミラーとを備えたモード同期固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質と前記可飽和吸収ミラーとが、両者間の距離がレーリ長の2倍以下なるように配置されており、
前記可飽和吸収ミラーの吸収変調深さΔRが0.4%以上であり、
下記関係式で表される、前記共振器内を所定の波長の光が一往復した場合の共振器内全分散量の絶対値|D|(ただしD<0)が、前記可飽和吸収ミラーにより基本周期のソリトンパルス以外の動作様式が抑制可能なパルス帯域内に設定されており、
前記出力ミラーが、基板上に誘電体多層膜構造を有してなる負分散ミラーであって、前記所定の波長の光に対して、分散量が−1000fsec2〜−100fsec2であり、かつ、反射率が97%〜99.5%であり、前記多層膜構造が、相対的に高い屈折率を有する層および相対的に低い屈折率を有する層が交互に積層されてなり、前記所定の波長をλとしたとき、各層の光学膜厚がλ/8〜λ/2の範囲でランダムに変化しているものであることを特徴とするモード同期固体レーザ装置。
【数1】
(ただし、τP:パルス幅、λ0:中心波長、Aeff,L (=πωL2):レーザ媒質における発振光ビーム断面積、n2:レーザ媒質の非線形屈折率、ls:レーザ媒質の結晶長、EP:共振器内部パルスエネルギー)
【請求項2】
前記固体レーザ媒質を励起する励起光が、共振器光軸に対して斜め方向から入射し、
該光軸上またはその延長上に配置された、固体レーザ発振光を透過させるダイクロイックミラーで反射してこの光軸方向に進むように構成されていることを特徴とする請求項1記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項3】
前記固体レーザ媒質が、希土類が添加されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項4】
前記希土類が、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、あるいはネオジム(Nd)であることを特徴とする請求項3記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項5】
前記固体レーザ媒質が、Yb:YAG(Y3Al5O12)、Yb:KYW(K(WO4)2)、Yb:KGW(KGd(WO4)2)、Yb:Y2O3、Yb:Sc2O3、Yb:Lu2O3、Er,Yb:ガラス、Nd:ガラスのいずれかであることを特徴とする請求項3記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項6】
前記共振器が直線型であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項7】
共振器モードウエスト直径が100μm以下であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項8】
前記負分散ミラーの基板が凹面を有するものであり、前記多層膜構造が該凹面に設けられていることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項9】
前記負分散ミラーの前記分散量および前記反射率が、前記所定の波長を含む10nm以上の帯域幅を有するものであることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項10】
前記所定の波長が、1000nm〜1100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項11】
前記負分散ミラーにおいて、前記高い屈折率を有する層が、Ti、Zr、Hf、Nb、Al、Zn、Y、Sc、La、Ce、PrまたはTaの酸化物、およびZnの硫化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものであることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載のモード同期固定レーザ装置。
【請求項12】
前記負分散ミラーにおいて、前記低い屈折率を有する層が、Siの酸化物、およびCa、Li、Mg、Na、Th、Al、Hf、La、YまたはZrのフッ化物から選ばれる1つ、または、これらの1つもしくは複数を含む混合物または化合物からなるものであることを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載のモード同期固定レーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−3866(P2010−3866A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161233(P2008−161233)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】
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