説明

モールドモータの測定装置及びその方法

【課題】モールドモータに埋設された配線基板を破壊することなく、反りや撓みが発生しているかを検査することができるモールドモータの測定装置及びその方法を提供する。
【解決手段】固定子12と配線基板20をモールド樹脂によってモールド成形してモータフレーム22を成形したモールドモータ10において、測定装置50の測定台52にモールドモータ10を置き、測定台52に内蔵されている6個の近接センサー56から配線基板20までの距離をそれぞれ求め、評価用データと比較して、モールドモータ10に内蔵されている配線基板の反りや撓み状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドモータに埋設された配線基板の反りや撓みを測定するための測定装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空調機等の駆動源であるモータには、モールドモータが使用されている。このモールドモータは、固定子と配線基板をモールド樹脂によって一体にモールド成形することによってモータフレームを製造し、そのモータフレームの空洞部に回転子を回転自在に配している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−96905公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような配線基板をモールド樹脂によってモータフレームに埋設したモールドモータにおいては、モールド樹脂の充填時のモールド樹脂の材料圧力により、配線基板の一部が反ったり撓んだりする現象が発生することがある。そのため、従来はこのような配線基板の反りや撓みが発生していないかを検査するために、製造したモールドモータの中で、評価用のモールドモータを数台選び出し、そのモールドモータを破壊して、埋設された配線基板が反ったり、撓んだりしていないかを検査している。
【0004】
上記のような検査する方法であると、全てのモールドモータを検査するのでないため、どのような原因で配線基板が反ったり撓んだりしているかの検証ができず、また、どの程度発生するかも評価することができない。その上、評価のためにモールド樹脂をカットする必要があり、その作業に非常に手間が掛かるという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、モールドモータに埋設された配線基板を破壊することなく、反りや撓みが発生しているかを検査することができるモールドモータの測定装置及びその方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、少なくとも固定子と配線基板をモールド樹脂によってモールド成形してモータフレームを形成したモールドモータにおける前記配線基板のそりや撓み状態を測定するモールドモータの測定装置において、前記モールドモータを載置する測定台を有し、前記モールドモータを前記測定台に対し所定の位置に固定する固定手段を有し、前記測定台に載置されたモールドモータ内部の配線基板までの距離を測定する複数の近接センサーを前記測定台に設け、前記各近接センサーによって測定した各距離に基づいて前記配線基板の状態を判断する判断手段を有することを特徴とするモールドモータの測定装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記配線基板はドーナツ状であって、かつ、前記モールドモータの回転軸を中心に配され、前記モールドモータは、測定台の基準面に固定される場合に、前記回転軸が前記基準面に対し法線状に置かれることを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記近接センサーが、前記測定台内部に60°毎に6個配されていることを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記近接センサーが、前記測定台内部に90°毎に4個配されていることを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記判断手段は、前記各近接センサーから評価用配線基板までの距離を比較データとして予め記憶する比較データ記憶手段と、前記記憶した比較データと前記測定した各距離とを比較する比較手段と、を有することを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、前記近接センサーが、渦電流式近接センサーであることを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0012】
請求項7に係る発明は、前記モールドモータが、ブラシレスDCモータであることを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置である。
【0013】
請求項8に係る発明は、少なくとも固定子と配線基板をモールド樹脂によってモールド成形してモータフレームを形成したモールドモータにおける前記配線基板のそりや撓み状態を測定するモールドモータの測定方法において、前記モールドモータを測定台の基準面に対し所定の位置に固定し、前記測定台に配された複数の近接センサーに基づいて前記配線基板までの距離をそれぞれ求め、前記測定した各距離に基づいて前記配線基板の状態を判断することを特徴とするモールドモータの測定方法である。
【0014】
請求項9に係る発明は、前記配線基板はドーナツ状であって、かつ、前記モールドモータの回転軸を中心に配され、前記モールドモータは、測定台の基準面に固定される場合に、前記回転軸が前記基準面に対し法線状に置かれることを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法である。
【0015】
請求項10に係る発明は、前記各近接センサーから評価用配線基板までの距離を比較データとして予め記憶しておき、前記記憶した比較データと前記測定した各距離とを比較することを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法である。
【0016】
請求項11に係る発明は、前記近接センサーが、渦電流式近接センサーであることを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法である。
【0017】
請求項12に係る発明は、前記モールドモータが、ブラシレスDCモータであることを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のモールドモータの測定装置を用いて、配線基板の反りや撓み状態を測定する測定方法について説明する。
【0019】
配線基板がモールド樹脂によって埋設されたモールドモータを、測定台の基準面に載置し、所定の位置に固定手段によって固定する。
【0020】
測定台には複数の近接センサーが設けられており、これら各近接センサーからの距離信号に基づいて配線基板までの距離をそれぞれ求める。この近接センサーとしては、例えば渦電流式近接センサーがあり、この渦電流式近接センサーであると配線基板に施されている銅箔までの距離を電圧によって測定することができる。すなわち、電圧値と距離が比例するため、この電圧値に基づいて距離が判明する。
【0021】
一方、各近接センサーから評価用配線基板までの距離をそれぞれ測定して記憶しておき、この評価用データと、前記測定した距離とを比較し、測定しているモールドモータの配線基板に反りや撓みが発生していないかを判断する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態のモールドモータ10の測定装置50について図1から図2に基づいて説明する。
【0023】
(1)モールドモータ10の構造
まず、図1に基づいてモールドモータ10の構造について説明する。このモールドモータ10は、三相のブラシレスDCモータである。
【0024】
モールドモータ10の固定子12は、固定子鉄心14にプレモールドを施して絶縁層16を形成され、この絶縁層16を介して固定子巻線18が巻回されている。固定子12の反出力側から突出した絶縁層16には、ドーナツ状の配線基板20が取付けられている。この配線基板20には、モールドモータ10を駆動するための回路素子が取付けられ、各回路素子を接続するための銅箔が配線基板20の片面に積層されている。
【0025】
上記の配線基板20と固定子12とを、金型内部に収納しモールド樹脂によって一体に成形しモータフレーム22を形成する。このモータフレーム22を形成するときに、ブラケット24も同時にモールド樹脂によって一体に成形する。また、モータフレーム22の外周部に取付け用フランジ38もモールド時に一体に成形する。取付け用フランジ38は、モールドモータ10を他の部材に取付けるためのもので、図2に示すように4個設けられている。なお、この取付けフランジ38は、その中央部に切欠き40が設けられている。
【0026】
モータフレーム22の内部に設けられた空洞部に回転子26をベアリング28,30によって回転自在に支持する。回転子26の回転軸32の反出力側にベアリング28が取付けられ、ブラケット24に固定されている。この場合に、ブラケット24とベアリング28との間には皿バネ34が配されている。回転軸32の出力側にはベアリング30が取付けられ、ブラケット36によって固定されている。ブラケット36は、回転子26をモータフレーム22の空洞部に収納した後に、モータフレーム22の縁部に嵌合する。
【0027】
(2)測定装置50の構造
次に、モールドモータ10に埋設されたドーナツ状の配線基板20の反りや撓みを測定するための測定装置50について図1から図3に基づいて説明する。
【0028】
測定台52には、モールドモータ10の取付けフランジ38に対応する位置に4個のボルト54が立設している。また、中央部にはブラケット24の突出分だけ収納可能な断面円形の凹部60が設けられている。
【0029】
測定台52の内部には、図3に示すようにモールドモータ10の配線基板20に対応するように、6個の近接センサー56が設けられている。この近接センサー56は、渦電流式のものであり、60°毎に等間隔に配されている。なお、これら近接センサー56は、載置面より下がった位置に設けられ、測定距離を確保できるようにする。各近接センサー56は渦電流式の近接センサーであるため、配線基板20に施されている銅箔までの距離と比例した電圧である距離信号が出力される。
【0030】
各近接センサー56からの距離信号をパソコンに入力し、それを記憶させておく。これによって、各近接センサー56から配線基板20までの距離を測定できる。
【0031】
(3)モールドモータ10の測定方法
上記構成のモールドモータ10を、測定装置50によって測定する方法について説明する。
【0032】
まず、予め評価用配線基板20によって評価用データを入手する。その方法について説明する。
【0033】
評価用配線基板20は、上記のようにモールドモータ10に埋設した状態ではなく、モールドモータ10を測定台52の載置面(すなわち、基準面)に載置した状態になるように位置決め装置によって固定する。具体的には、図1に示すように、モールドモータ10に埋設された配線基板20は、ブラケット24の部分を凹部60に収納し、モータフレーム22の厚み分だけ、測定台52の基準面から離れた状態であるため、この距離だけ離れた状態で評価用配線基板20を固定できるように位置決め装置によって位置決めする。
【0034】
この場合に、評価用配線基板20は、例えば複数種類用意しておき、反りや撓みがある悪い評価用配線基板20や、全く反りや撓みがない良い評価用配線基板20を準備し、それぞれで測定を行う。
【0035】
悪い評価用配線基板20であると反りや撓みが有るため、各近接センサー56から配線基板20までの距離は、異なった値となる。
【0036】
良い評価用配線基板20についてついては反りや撓みが無いため、6個の近接センサー56からの距離は略同じとなる。
【0037】
次に、測定用モールドモータ10を測定台52の載置面に載置する。この場合にモールドモータ10の測定位置を確定するために、ブラケット24の部分を凹部60に収納し、ボルト54を取付けフランジ38の切欠き40に挿入し、図2に示すように常に同じ位置で測定できるようにする。また、モールドモータ10を測定台52に載置する場合には、図1に示すようにベアリング28を下にして、回転軸32が測定台52の載置面に対し法線方向、すなわち垂直方向になるようにする。
【0038】
そして、6個の近接センサー56から配線基板20までの距離m1、m2、・・・、m6を測定する。この場合に、6個の近接センサー56の測定部と測定台52の載置面(基準面)を合わせておく。また、近接センサー56は渦電流式であるため、近接センサー56と配線基板との間にモールト樹脂が存在していても配線基板20までの距離を正確に測定することができる。
【0039】
そして、この測定用のモールドモータ10の配線基板20についてのデータをパソコンに記憶する。
【0040】
上記のようにして測定した測定用データと、評価用データと比較する。例えば、測定用データが、悪い評価用のデータとよく似た傾向である場合には、モールドモータ10に埋設されている配線基板20に反りや撓みがある可能性があり、また、良い評価用配線基板20の評価用データとよく似た傾向であればそのモールドモータ10に埋設されている配線基板20には反りや撓みが無いと評価できる。
【0041】
そして、反りや撓みがあると判定された配線基板20を持つモールドモータ10については品質が悪いとして製造ラインから外すことができるので、モールドモータ10の信頼性が向上する。
【0042】
全てのモールドモータ10について測定することが可能であるため、統計的処理を行うことができ、バラツキ等を判断することができ、モールド工程における配線基板20への悪影響を統計的に判断することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、載置面にモータフレーム22を載置したが、これに代えて、図4に示すように、取り付けフランジ38の位置で設定してもよい。
【0044】
(変更例)
本発明は上記実施形態に限らずその趣旨を逸脱しないかぎり種々に変更することができる。
【0045】
(1)変更例1
近接センサー56は、上記実施形態では6個設けたが、これに代えて90°毎に4個設けてもよい。
【0046】
また、均等に配置するのでなく、配線基板20が撓み易い位置に集中的に多数配置して、その撓み状態を測定してもよい。
【0047】
(2)変更例2
上記実施形態ではブラシレスDCモータを用いたが、これ以外のモータであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、配線基板を内蔵したモールドモータの測定装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すモールドモータと測定装置の縦断面図である。
【図2】モールドモータと測定装置の平面図である。
【図3】測定装置の平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示すモールドモータと測定装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 モールドモータ
12 固定子
14 固定子鉄心
16 絶縁層
18 固定子巻線
20 配線基板
22 モータフレーム
24 ブラケット
26 回転子
28 ベアリング
30 ベアリング
32 回転軸
34 皿バネ
36 ブラケット
38 取付けフランジ
40 切欠き
50 測定装置
52 測定台
54 ボルト
56 近接センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも固定子と配線基板をモールド樹脂によってモールド成形してモータフレームを形成したモールドモータにおける前記配線基板のそりや撓み状態を測定するモールドモータの測定装置において、
前記モールドモータを載置する測定台を有し、
前記モールドモータを前記測定台に対し所定の位置に固定する固定手段を有し、
前記測定台に載置されたモールドモータ内部の配線基板までの距離を測定する複数の近接センサーを前記測定台に設け、
前記各近接センサーによって測定した各距離に基づいて前記配線基板の状態を判断する判断手段を有する
ことを特徴とするモールドモータの測定装置。
【請求項2】
前記配線基板はドーナツ状であって、かつ、前記モールドモータの回転軸を中心に配され、
前記モールドモータは、測定台の基準面に固定される場合に、前記回転軸が前記基準面に対し法線状に置かれる
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項3】
前記近接センサーが、前記測定台内部に60°毎に6個配されている
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項4】
前記近接センサーが、前記測定台内部に90°毎に4個配されている
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項5】
前記判断手段は、
前記各近接センサーから評価用配線基板までの距離を比較データとして予め記憶する比較データ記憶手段と、
前記記憶した比較データと前記測定した各距離とを比較する比較手段と、
を有する
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項6】
前記近接センサーが、渦電流式近接センサーである
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項7】
前記モールドモータが、ブラシレスDCモータである
ことを特徴とする請求項1記載のモールドモータの測定装置。
【請求項8】
少なくとも固定子と配線基板をモールド樹脂によってモールド成形してモータフレームを形成したモールドモータにおける前記配線基板のそりや撓み状態を測定するモールドモータの測定方法において、
前記モールドモータを測定台の基準面に対し所定の位置に固定し、
前記測定台に配された複数の近接センサーに基づいて前記配線基板までの距離をそれぞれ求め、
前記測定した各距離に基づいて前記配線基板の状態を判断する
ことを特徴とするモールドモータの測定方法。
【請求項9】
前記配線基板はドーナツ状であって、かつ、前記モールドモータの回転軸を中心に配され、
前記モールドモータは、測定台の基準面に固定される場合に、前記回転軸が前記基準面に対し法線状に置かれる
ことを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法。
【請求項10】
前記各近接センサーから評価用配線基板までの距離を比較データとして予め記憶しておき、
前記記憶した比較データと前記測定した各距離とを比較する
ことを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法。
【請求項11】
前記近接センサーが、渦電流式近接センサーである
ことを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法。
【請求項12】
前記モールドモータが、ブラシレスDCモータである
ことを特徴とする請求項8記載のモールドモータの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−64417(P2006−64417A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244430(P2004−244430)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(398061810)日本電産シバウラ株式会社 (197)
【Fターム(参考)】