説明

ラクチドの回収装置および回収方法

【課題】水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物から、ラクチドを回収するための装置と回収方法を提供すること。
【解決手段】温度調節可能なシリンダーと、該シリンダーの一端から供給された前記乳酸ポリマー組成物を移送し他端から排出するための、該シリンダーの内部に回転自在に配備されたスクリューとからなり、該シリンダーには、揮発成分をシリンダー外に取り出すためのベント部が、該シリンダーの長手方向に少なくとも3箇所設けられており、該ベント部のベント口はいずれも、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されており、前記シリンダーの上流側のベント部からは水分を、下流側のベント部からはラクチドを真空吸引できるように構成されているラクチドの回収装置と、それを用いるラクチド回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸ポリマーまたは乳酸ポリマーを含有する樹脂組成物と水酸化アルミニウム、あるいはさらにアルカリ土類金属化合物を含有する組成物から、ポリ乳酸成分をラクチドに分解し、水酸化アルミニウムから発生する水分とラクチドを別個に回収するためのラクチド回収装置と、この回収装置を用いるラクチドの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家電機器やIT機器、さらには自動車のリサイクルの動きに合わせて、部品として使用された難燃化樹脂組成物のリサイクルが要求されてきている。再生可能資源由来のプラスチックである乳酸ポリマーが炭酸ガス発生抑制の目的で、家電、ITおよび自動車の部品に使用されるようになり、そのリサイクルが今後必要となる。従って、そのためには、乳酸ポリマーを含む樹脂組成物の難燃化の技術と、乳酸ポリマーを原料に分解回収するための技術の開発が望まれている。
【0003】
これまで、乳酸ポリマーの熱分解によって原料のラクチドを回収するに際して、さまざまの触媒が見出されており、例えば、高分子量の乳酸ポリマーから高純度のラクチドを回収する方法として、アルカリ土類金属化合物を触媒に用いる方法が特許文献1に開示されている。また、特許文献2には、高分子量のポリ乳酸からのラクチド回収に関して、アルカリ土類金属、例えば、酸化マグネシウムが高い光学純度のラクチドを与える触媒として機能することが開示されている。
【0004】
一方、乳酸ポリマーを難燃化するために、難燃化剤として、より安全な水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を利用する方法が、既にいくつかの文献で知られている(特許文献3又は4)。しかしながら、難燃化は乳酸ポリマーの燃焼や高温での熱分解を抑制することを目的としているため、当該難燃化組成物中の乳酸ポリマーの解重合によって原料のラクチドを回収するという方策については従来検討されてこなかった。近年、金属水酸化物系難燃剤である水酸化アルミニウムを用いた際、水酸化アルミニウム自体が、乳酸ポリマーの解重合触媒としても作用することが見出され(非特許文献1)、この反応を利用した、難燃化として水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を含む乳酸ポリマー組成物のケミカルリサイクル技術も、本発明者らによって提案されている(特許文献5)。
【0005】
しかしながら、水酸化アルミニウムは十分な難燃性を発現するには多量の添加が必要であるため、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物を加熱すると、多量の水分が発生し、その水分が乳酸ポリマーの熱分解により発生するラクチドに混入し、ラクチドと反応し、その光学純度を低下させるという問題が新たに見出された。この問題に対する対策技術は、未だ開示されていない。従って、より高収率で高純度のラクチドを回収するために、水酸化アルミニウムから発生する水分とラクチドを効果的に分離し、より高純度のラクチドをより高収率で回収する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/91238号パンフレット
【特許文献2】特開2008−231048号公報
【特許文献3】特開2003−192929号公報
【特許文献4】特開2004−075772号公報
【特許文献5】国際公開第2005/105775号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】西田、樊、森、大八木、白井、遠藤「Industrial & Engineering Chemistry Research,44巻、4号, 1433-1437 (2005)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物から、水酸化アルミニウム由来の水分と乳酸ポリマー由来のラクチドを別個に吸引回収することのできるラクチドの回収装置と、それを用いるラクチド回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のラクチドの回収装置は、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物からラクチドを回収するための装置であって、温度調節可能なシリンダーと、該シリンダーの一端から供給された前記乳酸ポリマー組成物を移送し他端から排出するための、該シリンダーの内部に回転自在に配備されたスクリューとからなり、該シリンダーには、揮発成分をシリンダー外に取り出すためのベント部が、該シリンダーの長手方向に少なくとも3箇所設けられており、該ベント部のベント口はいずれも、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されており、前記シリンダーの上流側のベント部からは水分を、下流側のベント部からはラクチドを真空吸引できるように構成されているものである。
【0010】
そして、本発明のラクチドの回収方法は、温度調節可能なシリンダーと、該シリンダーの一端から供給されたポリマー組成物を移送し他端から排出するための、該シリンダーの内部に回転自在に配備されたスクリューとからなり、該シリンダーには、揮発成分をシリンダー外に取り出すためのベント部が、該シリンダーの長手方向に少なくとも3箇所設けられており、該ベント部のベント口はいずれも、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されている回収装置に、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物を供給し、前記シリンダーの温度とベント口の真空(減圧)度を調整しつつ、上流側のベント口からは水分を、下流側のベント口からはラクチドを真空吸引し回収することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水酸化アルミニウムと乳酸ポリマーを含む組成物、あるいはさらにアルカリ土類金属化合物を含む組成物から、熱分解によってラクチドを回収する際に、水酸化アルミニウムの脱水反応によって発生する水分によって引き起こされる、ラクチドの加水分解などによる収率低下や光学純度の低下という悪影響を回避することができ、より高純度のラクチドを効率的に回収することができる。本発明によれば、回収装置のシリンダーの上流側(ポリマー組成物の供給側)のベント口からは水分を、下流側(分解物の排出側)のベント口からはラクチドを真空吸引するものであるが、上流側から数えて第1ベント口からは水分を、第2ベント口以降のベント口からはラクチドを真空吸引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のラクチドの回収装置および回収方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1を用いて本発明を説明する。本発明の回収装置は、基本的にスクリュー押出機様のものであり、温度調節可能なシリンダー1と、シリンダー内に回転可能に配備された2本のスクリュー2と、2本のスクリューを回転させるモーターおよび減速機からなる回転駆動機構(図示せず)とを備えている。スクリューは1本であってもよい。シリンダーは適当な加熱手段(図示せず)によって温度調節可能となっている。シリンダーの最上流側にはホッパー3が配備されており、該ホッパーから下流側に向かって順次、第1ベント部4、第2ベント部5、第3ベント部6およびそれ以上のベント部7、およびダイ8が配備されている。シリンダーの一端のホッパー3から供給された原料の乳酸ポリマー組成物は、スクリューの回転によって移送され、その途中で分解反応が起こり、分解生成物の残留部分は他端のダイ8から排出される。図1では、ベント部は、シリンダーの長手方向に4箇所設けられているが、本発明の回収装置においては少なくとも3個所設ける必要があり、好ましいのは3又は4個所である。
【0014】
ベント部4、5、6、7のそれぞれのベント口4a、5a、6a、7aは、それぞれ配管を介して冷却トラップ、受器および減圧装置からなる回収部(図示せず)に通じており、第1のベント口からの主回収物である水分は、独立した回収部で回収される。第2以降のベント口は、同様のシステムからなる独立した回収部に接続しており、水分との混合を抑制した構造となっている。なお、前記冷却トラップ、受器および減圧装置からなる回収部は、真空ポンプ等の真空発生源により真空吸引される冷却トラップと受器からなる通常のものである。
【0015】
本発明において、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物は、図1の回収装置のホッパー3から供給され、スクリューの回転によって徐々に他端に移送される。本発明においては、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物は、シリンダー内を移送中に、例えば、先ず220〜270℃未満の温度で加熱され、水酸化アルミニウムの脱水反応が進行し、発生した水分は10kPa以上の減圧下に制御された第1ベント口4aから優先的に気化し、50℃以下に温度制御された冷却装置内(図示せず)で冷却され、液化もしくは固化されて回収される。この際、シリンダーの温度が220℃以下では、水酸化アルミニウムの脱水反応が効果的に進行せず、また、270℃以上では、乳酸ポリマーの熱分解が進行し、ラクチドが発生してしまうため好ましくない。この間のより好ましい温度範囲は、245〜265℃の温度範囲であり、より好ましいベント口の真空(減圧)範囲は、15kPa以上である。
【0016】
次に、第2ベント口5a以降のゾーンで、乳酸ポリマー組成物は270〜330℃の温度で加熱・分解され、生成したラクチドは10kPa以下の減圧下に第2ベント口5a以降のベント口6a、7aから揮発・排出される。排出されたラクチドは、50℃以下で温度制御された冷却装置内で、冷却固化され回収される。この際、水酸化アルミニウムから発生する水分も同時に揮発するが、10kPa以下の減圧下では、当該冷却装置内では冷却液化もしくは固化せず、そのまま排出されるので、ラクチドとは効果的に分離される。生成した酸化アルミニウムやその他の分解生成物は、ダイ8から排出される。
【0017】
ただし、発生する水分が大量の場合、揮発・排出・回収の過程でラクチドと水分が反応し、加水分解生成物として乳酸やオリゴマーを生成しやすい。従って、本発明においては、より低温で発生し、揮発する水分を先ず排出分離する技術を開示するものであり、これにより、ラクチドと水分との反応が低減され、より高純度のラクチドがより高い収率で回収される。
【0018】
本発明において乳酸ポリマーとは、下記に述べるような、主成分として乳酸エステル構造を基本ユニットとして含むポリマー(単独重合体又は共重合体)を意味し、乳酸ポリマー組成物とは、かかるポリマーとその他の樹脂成分あるいは各種添加剤等との混合物を意味する。乳酸ポリマー組成物としては、乳酸ポリマー成分が10重量%以上であれば、何ら問題なく選択的ケミカルリサイクルが可能であるが、実際的な操作効率を考えたとき20重量%以上のものが好ましい。
【0019】
本発明において、乳酸ポリマーとは、乳酸エステル構造を基本ユニットとするポリマーであり、特にL−又はD−乳酸エステル構造ユニットが全ユニットの90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のポリマーである。L−又はD−乳酸エステル構造ユニット以外の成分としては、ラクチドと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、環状酸無水物類などに由来する共重合成分ユニットが存在することが可能である。好適に用いられる共重合成分としては、カプロラクトン、バレロラクトン、β−ブチロラクトン、バラジオキサノンなどのラクトン類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オキセタン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ε-カプロラクタムなどの環状アミド類;琥珀酸無水物、アジピン酸無水物などの環状酸無水物類などである。
【0020】
更に、開始剤成分として、本発明の乳酸ポリマー中に共存しうるユニットとして、アルコール類、グリコール類、グリセロール類、その他の多価アルコール類、カルボン酸類、及び多価カルボン酸類、フェノール類などが用いられる。好適に用いられる開始剤成分を具体的に例示すれば、エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン、オクチル酸、乳酸、グリコール酸などである。
【0021】
本発明においては、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物を加熱分解するに際し、加熱分解を促進するために、アルカリ土類金属化合物を分解触媒として併用してもよい。本発明で用いられるアルカリ土類金属化合物は、何ら特別なものである必要はない。一般に知られているアルカリ土類金属化合物としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物などがあり、それらの酸化物、水酸化物、炭酸化物、及び有機酸との塩類等が好適に用いられる。これらの混合物でもかまわない。好ましくは、カルシウム化合物とマグネシウム化合物が入手のしやすさ等から好ましく用いられる。更に好ましくは、マグネシウムの酸化物が熱分解反応の選択性から好適に用いられる。
【0022】
水酸化アルミニウムにさらに酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物を共存させることで、乳酸ポリマーの熱分解温度を低下させることができと共に、水酸化アルミニウムによる抗ラセミ化効果がより効果的に発現する。用いられるアルカリ土類金属化合物の粒径については0.01〜50μmであることが好ましく、混合量は乳酸ポリマー100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.2〜5重量部である。
【0023】
上記水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物に、例えば、酸化マグネシウムもしくは酸化カルシウムを熱分解触媒として用いるときは、水酸化アルミニウムのみを含有する組成物に対して、より低い温度領域で熱分解することが、より高純度のラクチドを回収するためには好ましい方法である。例えば、酸化マグネシウムの場合には270〜300℃の範囲が好適である。
【0024】
本発明の方法は、前述したように、水酸化アルミニウムと乳酸ポリマー、あるいはさらに他の汎用樹脂やアルカリ土類金属化合物を含む組成物を、スクリュー押出機様の回収装置のシリンダー内で加熱し、水酸化アルミニウムを酸化アルミニウムに、また乳酸ポリマーをラクチドに変換し、制御された圧力条件下で揮発したラクチドおよび水分を効果的に分離し、さらにこれらを冷却液化もしくは固化させることにより回収する方法である。
【0025】
乳酸ポリマー又はその組成物の熱分解方法については、それらの性状に特に限定されることはなく、任意に回収装置の設定条件、すなわち温度、減圧度、スクリューの回転数、汎用樹脂の量及び水酸化アルミニウムの量等を調整することができる。また、本熱分解反応は回分式又は連続式いずれも採用可能である。
【0026】
乳酸ポリマー又はその組成物の熱分解には、270〜330℃の温度での加熱が必要である。熱分解温度が330℃より高くなると、ラクチドのラセミ化が促進され、収率が低下する。一方、熱分解温度が270℃より低いと、脱水反応は起こるが、乳酸ポリマー又はその組成物の熱分解反応が効果的に進まなくなる。
【0027】
ベント部のベント口の真空(減圧)度については、前記熱分解温度におけるラクチドの飽和蒸気圧以下の圧力条件に設定される。圧力が低いほど留出温度が低下するため好ましいが、溜去温度が低くなりすぎると留去したラクチドが固化し、回収装置を閉塞させる問題があるため、減圧度は、ラクチドの固化温度以上になるよう熱分解温度における減圧度を調整することが好ましい。
【0028】
スクリュー回転数については、特に制限されないが、一般的には100〜400rpmの範囲内で行なわれる。400rpmを超える回転では、局所発熱の悪影響が出やすく、100rpm以下では、回収量が低下しやすい。より好適には、スクリュー回転数150〜200rpmで調節することが好ましい。
【0029】
熱分解時間については、スクリュー回転数、処理量、減圧度、乳酸ポリマー又はその組成物の性状、使用する水酸化アルミニウムの量により任意に設定することが可能であるが、ラクチドの光学純度維持のため、より短時間で実施することが好ましい。
【0030】
また、本発明において水酸化アルミニウムについては、難燃化剤と用いられる水酸化アルミニウムが何ら制限なく用いることができる。その中でも特に、粒径が0.1〜50μmであることが乳酸ポリマーの分解反応に効果的であるため好ましい。
【0031】
さらに、本発明の回収装置は、連続式のスクリュー式押出機様のものが最も効果的に使用される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(1)ラクチド成分の分析方法
ラクチド成分の分析は、ガスクロマトグラフおよびH-NMR法により行うことができる。具体的な測定方法を例示すれば以下のとおりである。
【0034】
ガスクロマトグラフ(GC)分析は、Varian社製cyclodextrine-β-236M-19 キャピラリーカラム(0.25mm×50m)を装着した島津製作所製GC−2014を用いて、キャリアーガスとしてヘリウム、インジェクタおよびカラム温度はそれぞれ220および150℃等温で行なう。試料約3mgをアセトン1mLに溶解し、その溶液1μLをインジェクタより注入して測定を行なう。L,L−ラクチド、メソ−ラクチド、およびD,D−ラクチドはそれぞれ、保持時間8.15、6.25、および8.58分に独立したピークとして検出され、そのピーク面積から組成比が計算される。
【0035】
HNMR測定は、JEOL製INOVA300を用い、重水素化クロロホルム(CDCl)を溶媒とし、テトラメチルシランのシグナルを化学シフトδの基準値(0ppm)として測定する。L,L/D,D−ラクチドとメソ-ラクチドはそれぞれ、1.68および1.72pmに独立したダブレットピークとして検出され、そのピークの積分強度比から組成比が計算される。
【0036】
(2)ラクチドの回収率の求め方(%)
図1に示したような回収装置(三つのベント部を有する)の各ベンド口に接続した回収用フラスコ内に、一定時間内に捕集された固体状もしくは液体状のラクチドの重量を秤量し、同時間内に回収装置に投入されたポリ乳酸の重量との比較から下式に基づいて回収率が計算できる。
【0037】
ラクチド回収率(%)=(回収されたラクチドの重量/供給されたポリ乳酸の重量)×100
【0038】
(3)水分の回収率の求め方(%)
水酸化アルミニウムは加熱により脱水反応を起こし、酸化アルミニウム(アルミナ)へと変化する。その際の理論的な重量減少は34.6%である。ただし、重量減少は600℃までの加熱によって理論的な値に達するが、ケミカルリサイクルの際の温度範囲では理論値には達さない。そこで、実際のケミカルリサイクルの温度範囲での重量減少値は、熱重量測定によって求められる。熱重量測定結果より、水酸化アルミニウムは265℃までの熱処理の間に28.4%の重量低下を示し、330℃までの熱処理の間に30.5%の重量低下を示すことが確認される。従って、330℃までの温度範囲でのケミカルリサイクルプロセスを考慮すると、本プロセスに供する水酸化アルミニウムから発生する水分の最大値は30.5%であり、一定時間内に気化・回収された水分の回収率は、同時間内に回収装置に供給された水酸化アルミニウムの重量との比較から下式に基づいて計算できる。
【0039】
水分回収率(%)=(回収された水分の重量/(供給された水酸化アルミニウムの重量×0.305))×100
【0040】
[実施例1〜2]
表1に示した割合(重量部)で、ポリ乳酸(L体=99.1%ee、融点160〜175℃、ユニチカ社製)、ポリプロピレン(日本ポリプロピレン株式会社製FY−6:MFI=1.7)、水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製
B1403:粒径2μm)からなる組成物を粉体混合し、これを三つのベント部を有する回収装置のホッパーに投入し、150および200rpmの回転速度で二軸スクリューを用いて混練した。第1ベント部までのゾーンは245〜265℃の温度で加熱し、水酸化アルミニウムの脱水反応によって発生した水分を、第1ベント口より15kPaの減圧下に気化させた。気化した水蒸気は第1ベント口に直結した、50℃以下の温度に制御された冷却装置に誘導され、冷却液化もしくは固化されて回収された。
【0041】
一方、回収装置内の組成物は第2ベント部を有する加熱ゾーンに送られ、該組成物は第2ベント部〜第3ベント部のゾーンで299〜303℃の範囲内の所定温度で加熱され、ポリ乳酸成分はラクチドに変換された。生成したラクチドは、2.4〜3.3kPaの減圧下に圧力調整された第2および第3ベント口から揮発した。揮発したラクチドは、第2および第3ベント口に直結し50℃以下の温度に制御された冷却装置内に誘導され、冷却固化されて高純度ラクチドとして回収された。
【0042】
ラクチドが留出開始してから10分間で回収された生成物を表2に示した。生成物を分析したところ、第1ベント口から回収された水分量は27.0と36.0%であった。第2ベント口および第3ベント口より回収されたラクチドの回収率は69.0と74.7%であった。
【0043】
回収されたラクチドの組成は、ガスクロマトグラフ法を用いて分析した。結果を表3に示した。回収されたL,L−ラクチドの純度は、実施例1で91.1%(第2ベント口)と93.6%(第3ベント口)、実施例2で97.2%(第2ベント)と92.2%(第3ベント口)であった。第2および第3ベント口よりラクチドと同時に揮発した水分は、高い減圧度のため、冷却装置内で冷却液化もしくは固化されずに排出されて、ラクチドと分離された。
【0044】
[比較例1〜2]
実施例1〜2に対して、水分を選択除去するための第1ベント口を封鎖し、第2ベント口および第3ベント口だけを利用して、ラクチドおよび水分を同時に回収した。実施条件を表1、ラクチドが留出開始してから10分間で回収された生成物を表2に示した。その結果、第2ベント口および第3ベント口より回収されたラクチドの収率は、42.6%と56.8%であった。回収されたラクチドの組成は、ガスクロマトグラフ法を用いて分析し、結果を表3に示した。
【0045】
回収されたL,L−ラクチドの純度は、比較例1で78.7%(第2ベント口)と80.4%(第3ベント口)、比較例2で78.3%(第2ベント口)と82.5%(第3ベント口)であった。この際、3.6kPaと高い減圧条件を設定したにもかかわらず、表2および表3に示したように、低い回収率と低いL,L−ラクチド純度が得られた。これは、ラクチドと同時に排出した大量の水分が、排出過程でラクチドと反応したためである。
【0046】
[実施例3〜4]
実施例1〜2の条件に対して、さらに酸化マグネシウム(粒径4μm)0.14重量部を添加して、ポリ乳酸/ポリプロピレン/水酸化アルミニウム組成物からのラクチド回収を行った。試験条件、ラクチドおよび水分の回収率、および得られた生成ラクチドの組成比は、表1〜3に示した通りである。スクリュー回転数150(実施例3)および200rpm(実施例4)で実施したケミカルリサイクル試験の結果、第1ベント口から回収された水分量は22.3%と28.0%であった。第2ベント口および第3ベント口より回収されたラクチドの回収率は82.3%と93.0%と、水酸化アルミニウム単独の場合よりも高い回収率が得られた。
【0047】
回収されたL,L−ラクチドの純度は、実施例3で92.4%(第2ベント口)と86.0%(第3ベント口)、実施例4で94.1%(第2ベント口)と90.0%(第3ベント口)であり、水酸化アルミニウムのみを分解触媒として用いた実施例1および2とほぼ同等の高いL,L−ラクチド純度が得られた。第2および第3ベント口よりラクチドと同時に揮発した水分は、実施例1〜2と同様に、高い減圧度のため、冷却装置内で冷却液化もしくは固化されずに排出されて、ラクチドと分離された。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【符号の説明】
【0051】
1 シリンダー
2 スクリュー
3 ホッパー
4 第1ベント部
5 第2ベント部
6 第3ベント部
7 第4ベント部
8 ダイ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物からラクチドを回収するための装置であって、該装置は、温度調節可能なシリンダーと、該シリンダーの一端から供給された前記乳酸ポリマー組成物を移送し他端から排出するための、該シリンダーの内部に回転自在に配備されたスクリューとからなり、該シリンダーには、揮発成分をシリンダー外に取り出すためのベント部が、該シリンダーの長手方向に少なくとも3箇所設けられており、該ベント部のベント口はいずれも、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されており、前記シリンダーの上流側のベント部からは水分を、下流側のベント部からはラクチドを真空吸引できるように構成されていることを特徴とするラクチドの回収装置。
【請求項2】
温度調節可能なシリンダーと、該シリンダーの一端から供給されたポリマー組成物を移送し他端から排出するための、該シリンダーの内部に回転自在に配備されたスクリューとからなり、該シリンダーには、揮発成分をシリンダー外に取り出すためのベント部が、該シリンダーの長手方向に少なくとも3箇所設けられており、該ベント部のベント口はいずれも、真空発生源により真空吸引される冷却トラップに配管を介して接続されている回収装置に、水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物を供給し、前記シリンダーの温度とベント口の真空(減圧)度を調整しつつ、上流側のベント口からは水分を、下流側のベント口からはラクチドを真空吸引し回収することを特徴とするラクチドの回収方法。
【請求項3】
水酸化アルミニウムを含む乳酸ポリマー組成物が、乳酸ポリマー100重量部に対して、少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物を0.01〜10重量部含むことを特徴とする請求項2記載のラクチドの回収方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−168415(P2010−168415A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9737(P2009−9737)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】