説明

ラクトバチルス・パラカゼイ含有製品

【課題】細菌によって引き起こされる歯科疾患を抑えるのに用いられるラクトバチルス・パラカゼイ含有製品を、複数のラクトバチルス・パラカゼイが歯科疾患の細菌の成育を阻害するかたちで提供する。
【解決手段】ラクトバチルス・パラカゼイを含有する食品、口腔衛生製品または口腔治療薬が、ユーザーに投与されるか塗布される場合に、ユーザーの口腔内の齲歯および歯周病の多数の病原菌を阻害および減少させることができ、それによって齲歯および歯周病といった歯科疾患を有効に予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連申請書の参照】
【0001】
本米国特許本出願は、35 U.S.C.§119(a)のもとで、2006年8月9日付の台湾R.O.C.の特許095129265号に対する優先権を主張するもので、前述特許明細は本出願書に全文が参照として組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明は口腔内で使用される製品であり、より具体的には細菌によって引き起こされる歯科疾患を阻害するのに用いられるラクトバチルス・パラカゼイ(LP乳酸菌)を含有する製品に関する。
【背景技術】
【0003】
齲歯は、歯の構成要素、形状、位置、唾液の成分、pH値、分泌、粘度、抗菌因子、食事中の炭水化物量および微生物とその物理的特性といった因子から引き起こされる多因子疾患のひとつである。このため、口腔内の細菌数を減らせば、齲歯および細菌によって引き起こされる歯周病の発現が抑えられると考えられる。一般に歯の衛生を侵す細菌はすべて歯垢のかたちを取り、このフィルム状の物質が口腔内の歯の表面に接着し、その外観は段階的に透明から白色の沈着物へと変化する。歯垢の中の細菌には種々の球菌、杆菌および毛状菌があり、齲歯または歯周炎を最も引き起こしやすい主要な歯垢細菌はストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・サングイス、アクチノミセス・ビスコーサ、ストレプトコッカス・ゾブリヌスおよびポルフィロモナス・ジンジバリスである。
【0004】
現在、多くの研究により、特殊なプロバイオティクスが齲歯の発現を抑え、口腔内の齲歯のストレプトコッカス・ミュータンスの数を減少させ、それによって歯垢の形成を抑える。また、歯周病の病原菌の播床を減少させることによって、歯肉炎および細菌の毒素に起因する下歯槽の骨減少を予防し、歯周病の発現を抑えることが明らかになっている。たとえば、日本での試験により、ラクドバチルス・サリバリウス(LS1)を使用すれば齲歯が有効に予防できることが明らかになった。また、オランダのヘルシンキ大学では、齲歯予防のため、1〜6歳の小児に長期にわたってラクトバチリ(lactobacilli)を添加したミルクを摂取させ、齲歯予防のため若年の対象者に特殊なプロバイオティクスを添加したチーズを摂取させる試験が実施された。その結果、唾液中のストレプトコッカス・ミュータンスの数は3週間で約20%減少することが明らかになった。さらに、メキシコの試験では、ラクドバチリを含有し熱滅菌を施したチューイングガムを1週間に1度、16週間にわたって噛み続ければ、齲歯が改善し、齲歯の発現が約42%抑えられることが明らかになった。
【0005】
また、歯垢形成を阻害するいくつかの種類のラクドバチルス株が米国特許6036952号に開示されており、それらはエンテロコッカス菌1357、ラクドバチルス・アシドフィルスV20およびラクトコッカス・ラクティス1370である。また、ラクドバチルス株であるATTC PTA−4965およびPTA−4964を含有する製品が、米国特許6872565号に開示されており、これは細菌が引き起こす齲歯を阻害するのに用いられている。このATTC PTA−4965またはPTA−4964と口腔内のムチンまたは歯垢を組み合わせることによって生まれる阻害効果は、ストレプトコッカス・ミュータンスの数を有効に減少させるのに用いられる。あるいは、齲歯、歯垢および歯周病をラクドバチルス株であるCNCM I−1984、CNCM I−1985、CNCM I−1986、CNCM I−1987またはLMGP−18997によって治療および予防する方法が米国特許6942849号に開示されており、ここではラクドバチルス株は遺伝子組換えにより粘度を増強して歯表面フィルムになるように処理されている。
【0006】
現在、ラクトバチルス・パラカゼイは免疫細胞を刺激して多数のインターフェロンを放出させ、アレルギー疾患を改善するのに有用であることが分かっている。ヒトの免疫細胞Tリンパ球は、分泌するサイトカインによって2種類に分けられ、タイプIおよびタイプIIのTリンパ球は力学的均衡を保っており、いずれもが互いに影響を与え、それによって抗原に対する免疫系全体の反応結果を左右する。タイプIIのTリンパ球の反応が強すぎる場合に、患者にアレルギー症状が発現する。アレルギーはタイプIのTリンパ球の活動を亢進させるか、タイプIIのTリンパ球の活動を阻害することによって予防することができる。ラクトバチルス・パラカゼイをヒトの腸内で用いる場合、細胞壁および細胞内容が異なることから、ラクトバチルス・パラカゼイはタイプIのTリンパ球の活動を著明に促進し、さらにタイプIIのTリンパ球の作用を阻害して、アレルギーを予防する。
【0007】
要約すれば、現在、種々のラクドバチリが齲歯、歯垢および歯周病を抑える機能を有することが明らかになっている。ラクトバチルス・パラカゼイはこれまで、腸で用いて、腸で吸収された後に身体のアレルギー症状を緩和するのに用いられてきた。しかし、ラクトバチルス・パラカゼイを口腔内で用いて歯科疾患を予防する場合の有効性は依然として明らかになっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、齲歯、歯垢および歯周病といった細菌によって引き起こされる歯科疾患を抑えるのに用いるラクトバチルス・パラカゼイ含有製品を提供する。
【0009】
本発明で開示されるラクトバチルス・パラカゼイ含有製品は、細菌が引き起こす歯科疾患を抑えるのに使用されるが、これは多数のラクトバチルス・パラカゼイが歯科疾患の細菌の成長を阻害するためである。
【発明の効果】
【0010】
ラクトバチルス・パラカゼイを含有する食品、口腔衛生製品または口腔治療薬がユーザーに投与または塗布された場合、ユーザーの口腔内の齲歯および歯周病の病原菌の数が減少し、それによって齲歯および歯周病といった歯科疾患を予防する場合の有効性が達成される。
【0011】
本発明のさらなる適用範囲は、本文中のさらに詳細な記述によって明らかになる。ただし、詳細な記述および特異的な実施例とともに、本発明の好ましい実施形態を示すのは、説明のみを目的としたものであり、本発明の意図および適用範囲内における種々の変更や改善はこの詳細な記述によって当業者には明白であることを理解されたい。
【0012】
本発明は説明のみを目的とした本文の詳細な記述によってより完全に理解されるが、その記述は本発明を限定するものではなく、
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の目的、構造、形状および機能をよりよく理解してもらうため、実施形態を通して本発明をさらに詳細に説明する。本発明の要約に関する上記の図面および本発明の詳細な説明に関する下記の図面は、本発明の原則を示し説明することを目的としており、本発明の請求事項をさらに説明するものである。
【0014】
I. ラクトバチルス・パラカゼイのスクリーニングおよび同定
【0015】
第一に、ヒトの腸に存在するラクドバチルス株から、歯科疾患症状を緩和する機能を有するラクドバチルス株を選別する。これは、主要な病原菌として齲歯の原因となるストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ゾブリヌスを用いた阻止円試験を通じて菌株保存機関(culture collection center)から選別した齲歯を予防するための特殊なラクドバチルス株である。この機能的ラクドバチルス株を培養皿で、無酸素状態で37℃で16〜24時間培養する。実験分析により、このラクドバチルス株はグラム陽性菌、無芽胞嫌気性菌かつ非運動性菌という、ラクトバチルス・パラカゼイの属性に一致するものであることが分かる。
【0016】
この選別されたラクドバチルス株がラクトバチルス・パラカゼイであるかどうかを確認するため、そのラクドバチルス株を対象にランダム増幅多型DNAポリメラーゼ連鎖反応(RAPD−PCR)を実施する。図1に示すように、RAPD−PCR法を用いて、任意プライマー(arbitrary primer)でDNAフィンガープリントSを生成する。比較後、このDNAフィンガープリントSがラクトバチルス・パラカゼイと一致しており、他のラクドバチルス株とは異なることが明らかになる。図中のMは分子量が同じ標識分子を示す。
【0017】
次に、PAFおよび536Rプライマーを用いて、ラクドバチルス株のヌクレオチドシークエンシングを実施する。このシークエンシング結果を遺伝子データベース(ウェブサイトはwww.ncbi.nlm.nih.gov)と比較し、このラクドバチルス株がラクトバチルス・パラカゼイであることを確認する。このラクドバチルス株のヌクレオチドシークエンシング結果の一部は下記の通りである。
【0018】
AACGAGTTCTCGTTGATGATCGGTGCTTGCACCGAGATTCAACATGGAACGAGTGGCGGACGGGTGAGTAACACGTGGGTAACCTGCCCTTAAGTGGGGGATAACATTTGGAAACAGATGCTAATACCGCATAGATCCAAGAACCGCATGGTTCTTGGCTGAAAGATGGCGTAAGCTATCGCTTTTGGATGGACCCGCGGCGTATTAGCTAGTTGGTGAGGTAATGGCTCACCAAGGCGATGATACGTAGCCGAACTGAGAGGTTGATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCACAATGGACGCAAGTCTGATGGAGCAACGCCGCGTGAGTGAAGAAGGCTTTCGGGTCGTAAAACTCTGTTGTTGGAGAAGAATGGTCGGCAGAGTAACTGTTGTCGGCGTGACGGTATCCAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCGNGGGTTAATTAAAA
【0019】
遺伝子データベースとの比較結果を下記に示す。
【0020】
gi|55418407|gb|AY773955.1| ラクトバチルス・パラカゼイ単離株9C
【0021】
gi|55418405|gb|AY773953.1| ラクトバチルス・パラカゼイ単離株3C
【0022】
gi|55418404|gb|AY773952.1| ラクトバチルス・パラカゼイ単離株2C
【0023】
最後に、ラクドバチルス株の炭水化物の代謝能をAPI 50 CHL試薬で試験する。API 50 CHL試薬は、属または種の異なる培養物の差を同定するのに用いる。結果は、ラクドバチルス株の炭水化物の代謝活動がラクトバチルス・パラカゼイと同じであることを分析することによって決定する(データは示さず)。
【0024】
歯科疾患を予防するための選別した特殊なラクドバチルス株を、上記の分析結果で同定した後、ラクトバチルス・パラカゼイであると決定する。
【0025】
II. 齲歯の病原菌に対するラクトバチルス・パラカゼイの阻害作用
1. 細菌試験
【0026】
米国臨床検査標準協議会(National Committee for Clinical Laboratory Standards;NCCLS)の方法に従って修正した後、齲歯の病原菌を阻害するための阻止円試験を実施する。齲歯の病原菌を白金耳で採取して、しかるべき培地に接種する。この菌株を37℃で18時間培養して、対数増殖期に到達させる。細菌数をSmart SpecTM 3000分光光度計で測定し、齲歯の病原菌の数を1.5×108 CFU/mLに調節する。ストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ゾブリヌスをしかるべき培地に厚さ4mmで均一に塗布し、15分放置して、コーティングした細菌溶液が完全に培地に接着するようにする。直径6mmの無菌濾紙板を用いて、ラクトバチルス・パラカゼイ溶液に浸し、通過させる。無菌濾紙板をそっと押し、ストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ゾブリヌスで均一にコーティングした培地に完全に接着させる。37℃で72時間の培養後に、阻止円のサイズを判定し、読み取る。
【0027】
図2Aおよび2Bは、齲歯の病原菌を阻害するための阻止円試験の結果である。ラクトバチルス・パラカゼイと齲歯の病原菌を一緒に37℃で72時間培養した後、齲歯を引き起こす主要な病原菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(S.ミュータンス)およびストレプトコッカス・ゾブリヌス (S.ゾブリヌス)の阻止円のサイズを判定し、読み取る。試験の結果は、2種類の病原菌に対するラクトバチルス・パラカゼイによる阻止円が、ラクドバチルス・ラムノーサスGGよりも大きいことを示している。すなわち、ラクトバチルス・パラカゼイのストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ゾブリヌスに対する競合的拮抗作用はラクドバチルス・ラムノーサスGGよりも好ましいということである。ラクドバチルス・ラムノーサスGGは、齲歯の発生を抑える健康食品に現在広く用いられているラクドバチルス株である。このように、口腔にラクトバチルス・パラカゼイを用いることは、ストレプトコッカス・ミュータンスの数、齲歯の発現率および齲歯および細菌に起因する歯周病の発現率を減少させるのに有用である。
【0028】
2. 動物実験
【0029】
雌の妊娠Sprague−Dawley(SD)マウスをNational Laboratory Animal Centerから購入する。幼弱マウスが18日齢になったら、齲歯の病原菌S.ゾブリヌスを一晩培養して対数増殖期に到達した培養液0.2mLを綿棒に浸し、この培養液を雌マウスの口腔に塗布して接種する。10%スクロース水溶液は、雌マウスに制限なく与えてよいものとする。この接種段階を2日目にも繰り返す。接種3日目には、齲歯の細菌であるS.ゾブリヌスを滅菌綿棒で雌マウスの口腔に塗布する。その後、同細菌をストレプトマイシン100μg/mLを含有するミティス・サリバリウス培地で培養し、最終的に接種が成功したかどうかを点検する。
【0030】
SD幼弱マウスを20日目に離乳させ、数群に分ける。齲歯の病原菌S.ゾブリヌスを一晩培養して対数増殖期に到達した培養液0.2mLを綿棒に浸し、この培養液を幼弱マウスの口腔に塗布して接種する。10%スクロース水溶液は幼弱マウスに制限なく与えてよいものとする。この接種段階を2日目にも繰り返す。接種3日目には、齲歯の細菌であるS.ゾブリヌスを滅菌綿棒で幼弱マウスの口腔に塗布する。その後、同細菌をストレプトマイシン100μg/mLを含有するミティス・サリバリウス培地で培養し、最終的に接種が成功したかどうかを点検する。
【0031】
マウスの出生から23日目から試験終了時まで、10%スクロース水溶液は制限なく与えてよいものとする。有効性試験の前に体重を測定し、試験期間中は週1回体重測定を行う。SD幼弱マウスを5週間後に屠殺し、齲歯の段階を観察する。
【0032】
図3A〜3Eは、齲歯の病原菌の阻止に関する動物実験の結果を示すものである。図3Aは対照群の試験結果である。齲歯の病原菌は接種されておらず、ラクトバチルス・パラカゼイを添加したスクロース水溶液は試験期間中与えていない。図3Bは病原菌S.ゾブリヌスを接種した場合の試験結果である。図3Cは、病原菌S.ゾブリヌスの接種後に0.022%NaFを含有するスクロース水溶液を用いた場合の試験結果である。図3Dは、病原菌S.ゾブリヌスの接種後にラクトバチルス・パラカゼイ 5×109 CFU/mLを含有するスクロース水溶液を用いた場合の試験結果である。図3Eは、病原菌S.ゾブリヌスの接種後にラクトバチルス・パラカゼイ 5×1011 CFU/mLを含有するスクロース水溶液を用いた場合の試験結果である。
【0033】
図3Cの試験条件は、0.022%NaFを含有するスクロース水溶液を齲歯の病原菌S.ゾブリヌスの接種が成功してから23日目からマウスに与えるというものである。この水溶液のpH値は7である。フッ素イオン濃度は100 ppmである。図3Dおよび3Eの試験条件は、ラクトバチルス・パラカゼイの細菌数5×109 CFU/mLおよび5×1011 CFU/mLをそれぞれ、齲歯の病原菌S.ゾブリヌスの接種が成功してから23日目に与えている。すべてのSDマウスに毎日1日1回、ラクトバチルス・パラカゼイを左頬および右頬に0.05mLずつ合計0.1mL与える。
【0034】
上記の試験群で試験を5週間行う。試験終了後、マウスの歯をスライスし、齲食の深さを観察する。図3Bの結果は、S.ゾブリヌス培地溶液の接種後、スクロース水溶液を制限なく5週間与えたため、齲食の深さは最も重篤で、図3Bの黒い矢印が示すように歯髄部まで侵入している。しかし、スクロース水溶液にNaF(図3C)またはラクトバチルス・パラカゼイ(図3Dおよび3E)を添加した場合、黒い矢印が示すように齲歯形成は少なく、齲食の深さは対照群の齲歯と同等である(図3A)。この試験により、齲歯形成の予防においての有効性は、ラクトバチルス・パラカゼイまたはNaFをスクロース水溶液に添加した場合で同等であることが明らかになった。
【0035】
III. 歯周病の病原菌に対するラクトバチルス・パラカゼイの阻害作用
【0036】
本試験で選択した歯周病の病原菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インターメディア、センチペダ・ペリオドンティ(periodontii)および歯周病患者の臼歯から採取した歯周病菌の臨床試料である。歯周病の病原菌およびラクトバチルス・パラカゼイを一緒に振盪し培養する。接種から0、1、2、4、6および12時間後、培養液5μLを培養液から採取して10倍希釈および100倍希釈を行った後、BBAP培地に塗布する。嫌気性環境の37℃のインキュベータに入れ、48〜96時間培養する。コロニー形成が認められたら、コロニーカウンターを用いて得られたコロニーを算出する。活性化ラクトバチルス・パラカゼイおよび滅菌ラクトバチルス・パラカゼイ(死滅したラクトバチルス・パラカゼイ)の歯周病菌に対する阻害作用があるかどうかを確認する。
【0037】
図4Aは、活性化ラクトバチルス・パラカゼイで歯周病の病原菌の成育が阻害されたという結果を示す。表に見るように、事実、活性化ラクトバチルス・パラカゼイは歯周病菌の成育の阻害現象を引き起こしており、病原菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスおよびセンチペダ・ペリオドンティをそれぞれ、活性化ラクトバチルス・パラカゼイと組み合わせて1時間反応させれば、阻害率は80%を超え、上記の2種類の病原菌を活性化ラクトバチルス・パラカゼイと2時間反応させれば、2種類の病原菌は完全に除去される(阻害率100%)。プレボテラ・インターメディアに対する阻害作用も同じで、活性化ラクトバチルス・パラカゼイと組み合わせて1時間反応させれば、阻害率70%が達成され、活性化ラクトバチルス・パラカゼイと組み合わせて6時間反応させれば、最大の阻害率(阻害率80〜90%)が得られる。試験対象となった唯一の臨床試料は、歯肉下の歯垢の標本である。この臨床試料は細菌叢の組み合わせであるため、その共生が病原菌の耐性を高めると考えられ、活性化ラクトバチルス・パラカゼイと組み合わせて1時間反応させれば阻害率約50%が得られ、2時間後には阻害率が約70%まで上昇し、阻害率は組み合わせおよび反応時間の延長によってわずかに変化する。
【0038】
図4Bは、滅菌ラクトバチルス・パラカゼイによる歯周病菌の成育の阻害に関する結果を示す。実質的に滅菌されたラクトバチルス・パラカゼイの歯周病菌の成育に対する阻害作用は、活性化ラクトバチルス・パラカゼイのそれよりも低い。歯周病菌についていえば、死滅したラクトバチルス・パラカゼイと歯周病菌を組み合わせて1時間反応させれば、阻害率50〜70%が得られる。歯周病の病原菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスおよびセンチペダ・ペリオドンティでは、死滅したラクトバチルス・パラカゼイと歯周病の病原菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスおよびセンチペダ・ペリオドンティを組み合わせて4時間反応させれば、80%近い阻害率が得られる。プレボテラ・インターメディアでは、死滅したラクトバチルス・パラカゼイとプレボテラ・インターメディアを組み合わせて4時間反応させれば、60%近い阻害率が得られる。臨床試料では、臨床試料とプレボテラ・インターメディアを組み合わせて1時間反応させれば、阻害率は50%未満である。組み合わせ過程に12時間をかければ、最大阻害率が得られる(約60%)。
【0039】
本試験の結果は、滅菌ラクトバチルス・パラカゼイの歯周病菌に対する阻害作用は活性化ラクトバチルス・パラカゼイのそれよりは弱いものの、滅菌ラクトバチルス・パラカゼイは依然として阻害作用を有することを示している。
【0040】
IV. 結論
【0041】
臨床で齲歯が高率に発現するかどうかは、病原菌であるストレプトコッカス・ミュータンスの数が106 CFU/mLを超えるかどうかによって決まる。このため、齲歯を予防する特殊なラクドバチルス株を、齲歯の病原菌であるストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ゾブリヌスに対するラクドバチルス株の阻止円試験によって選別し、そのラクドバチリを用いてストレプトコッカス・ミュータンスの成育を阻害し、それによって齲歯の発現率を抑えることができる。一連の阻害試験により、ラクトバチルス・パラカゼイは齲歯および歯周病菌を阻害するのに有効であることが確認されている。
【0042】
ラクトバチルス・パラカゼイの広く知られている公衆衛生機能とは、免疫力を上げ、アレルギーを予防するという点にある。ただし、食品、口腔衛生製品または口腔治療薬といった本発明に基づき製造されたラクトバチルス・パラカゼイを含有する製品が投与されるか、ユーザーによって使用される場合、その製品が活性化ラクトバチルス・パラカゼイを含有しているのか、死滅したラクトバチルス・パラカゼイを含有しているのかに関係なく、これらはラクトバチルス・パラカゼイによってユーザーの口腔内で齲歯および歯周病の病原菌を阻害し、齲歯および歯周病を有効に治療かつ予防することができる。機能的ラクドバチルス、すなわち人体に適したラクトバチルス・パラカゼイは、齲歯を予防し、歯周病の症状を緩和するのに用いられる。ラクトバチルス・パラカゼイを含有する製品を口腔内で使用し、歯科疾患を治療する場合、人体に対する不適合を起こすこともなく、齲歯を治癒するための典型的かつ有害なフッ化物のようなリスクもない。
【0043】
本発明のラクトバチルス・パラカゼイ株の寄託指定(deposit designation)番号はCCTCC M 206133である。本発明によるラクトバチルス・パラカゼイを含有する食品は、液体食品、たとえば、ラクトバチルス・パラカゼイが添加されたジュース、ミルクおよび茶などの飲料であってよい。また、食品は、ラクトバチルス・パラカゼイが添加された菓子、トローチ、ビスケット、チョコレートおよびチーズといった固形食品でもよい。また、食品は、ラクトバチルス・パラカゼイが添加されたヨーグルト、ゼリー、プリンおよびガムといったゲル食品でもよい。この種の食品は、小児の齲歯を予防するのに適している。本発明によるラクトバチルス・パラカゼイを含有する製品には、ラクトバチルス・パラカゼイが添加された歯磨き粉およびうがい薬といった口腔衛生製品も含まれ、ラクトバチルス・パラカゼイは典型的なフッ化物の代わりに歯科疾患の病原菌を阻害し、それによって安全かつ有効に歯を保護する。また、ラクトバチルス・パラカゼイを含有する製品には、ラクトバチルス・パラカゼイが添加された軟膏およびトローチといった口腔治療薬も含まれる。軟膏を歯の表面に塗布するか、トローチを長時間口腔内に留めることで、ラクトバチルス・パラカゼイが病原菌と反応する時間が長くなるようにし、病原菌の成育をより効果的に阻害する。
【0044】
本発明を以上のように記述したが、同じことが多数の方法で行われることは明白である。こうした多様性は、本発明の意図および適用範囲から外れたものとみなされるべきではなく、こうした当業者にとって明白なすべての変更は請求範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ラクトバチルス・パラカゼイを示すDNAフィンガーマップである。
【図2A】ラクトバチルス・パラカゼイを用いた、齲歯の病原菌の阻害のための阻止円試験の結果である。
【図2B】ラクトバチルス・パラカゼイを用いた、齲歯の病原菌の阻害のための阻止円試験の結果である。
【図3A】対照群の動物実験の結果である。
【図3B】病原菌S.ゾブリヌスを接種した後の動物実験の結果である。
【図3C】病原菌S.ゾブリヌスを接種した後のフッ化ナトリウムによる病原菌の阻害に関する動物実験の結果である。
【図3D】病原菌S.ゾブリヌスを接種した後の、少数の細菌に対するラクトバチルス・パラカゼイによる病原菌の阻害に関する動物実験の結果である。
【図3E】病原菌S.ゾブリヌスを接種した後の、多数の細菌に対するラクトバチルス・パラカゼイによる病原菌の阻害に関する動物実験の結果である。
【図4A】活性化したラクトバチルス・パラカゼイによる歯周病の病原菌における成育の阻害の結果である。
【図4B】滅菌したラクトバチルス・パラカゼイによる歯周病の病原菌における成育の阻害の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌によって引き起こされる歯科疾患を抑えるための製品であって、複数のラクトバチルス・パラカゼイが歯科疾患の細菌の成育を阻害するのに使用されるラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項2】
製品が液体食品である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項3】
液体製品がジュース、ミルク、茶などである、請求項2に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項4】
製品が固形食品である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項5】
固形食品が菓子、トローチ、ビスケット、チョコレートおよびチーズなどである、請求項4に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項6】
製品がゲル食品である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項7】
ゲル食品がヨーグルト、ゼリー、プリンおよびガムなどである、請求項6に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項8】
製品が口腔衛生製品である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項9】
口腔衛生製品が歯磨き粉である、請求項8に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項10】
口腔衛生製品がうがい薬である、請求項8に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項11】
製品が口腔治療薬である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項12】
口腔治療薬が軟膏である、請求項11に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項13】
口腔治療薬がトローチである、請求項11に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。
【請求項14】
ラクトバチルス・パラカゼイ株の寄託指定(deposit designation)番号がCCTCC M 206133である、請求項1に記載のラクトバチルス・パラカゼイ含有製品。

【図2A】
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【図4A】
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【図4B】
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【図1】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【公開番号】特開2008−37859(P2008−37859A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57509(P2007−57509)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(507074775)景岳生物科技股▲分▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】