説明

ラジアルタービン及び過給機

【課題】ラジアルタービン31の耐久性を十分に確保した上で、タービンインペラ35内における圧力損失の増大を抑えること。
【解決手段】各タービン動翼39の前縁39Lの翼厚は、ミーン部39Lm側からハブ部39Lh側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼39の前縁39Lにおけるチップ部39Ltの翼厚に対するハブ部39Lhの翼厚の比は、3.0〜5.0に設定され、各タービン動翼39の前縁39Lにおける排気ガスの流れ方向に沿った断面形状は、半円形状になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス等のガスの圧力エネルギーを利用して回転力を発生させるラジアルタービン等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば車両用過給機等に用いられるラジアルタービンについて種々の開発が行われており、ラジアルタービンの一般的な構成等について説明すると、次のようになる。
【0003】
ラジアルタービンは、タービンハウジングを具備しており、タービンハウジングは、内側に、シュラウド(シュラウド壁)を有している。また、タービンハウジング内には、タービンインペラが設けられており、タービンインペラは、軸心周りに回転可能なホイール、及びホイールの外周面に周方向に間隔を置いて設けられかつ先端縁(外縁)がタービンハウジングのシュラウドに沿うように延びた複数枚のタービン動翼を備えている。ここで、各タービン動翼の前縁の翼厚は、ハブ部側からチップ部側にかけて略均一になっている。なお、ホイールは、タービンハウジングと異なる別のハウジング(ベアリングハウジング)にベアリングを介して回転可能に設けられたタービン軸(ロータ軸)の一端部に連結してある。
【0004】
タービンハウジングの適宜位置には、エンジンからの排気ガスを取入れるガス取入口が形成されている。また、タービンハウジングの内部には、環状のタービンスクロール流路(供給流路の一例)がタービンインペラを囲むように形成されており、タービンスクロール流路は、ガス取入口に連通してある。更に、タービンハウジングにおけるタービンインペラの出口側(下流側)には、排気ガスを排出するガス排出口が形成されている。
【0005】
従って、ガス取入口から取入れた排気ガスをタービンスクロール流路を経由してタービンインペラの入口側から出口側へ流通させる。これにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、タービン軸を回転させることができる。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1及び特許文献2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−148101号公報
【特許文献2】特開2002−364302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ラジアルタービンの運転状態等に応じて、排気ガスの流量が小さくなると、タービン動翼に対する排気ガスの相対流入角が大きくなって、排気ガスの相対流入角とタービン動翼の入口メタル角(前縁の翼角)の差であるインシデンスが増大する。そのため、タービン動翼の前縁近傍において排気ガスの剥離が生じ易くなって、タービンインペラ内(隣接関係にあるタービン動翼間)における圧力損失(エネルギー損失)が増大して、ラジアルタービンのタービン効率の低下を招くという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のラジアルタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者は、まず、図4(a)に示すタービンインペラを従来例に係るもの、図4(b)に示すタービンインペラを比較例1に係るもの、図5(a)に示すタービンインペラを比較例2に係るもの、及び図5(b)に示すタービンインペラを発明例に係るものをそれぞれ解析対象として特定する。ここで、従来例に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がハブ部側(ホイール側)からチップ部側(シュラウド側)にかけて略均一になっており、具体的には、各タービン動翼の前縁の翼厚は0.5mmである。比較例1に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がチップ部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は2.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比(翼厚比又は比率)は4.0である。比較例2に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がチップ部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は3.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比は6.0である。発明例に係るタービンインペラは、各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなっており、具体的には、各タービン動翼の前縁のチップ部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のミーン部の翼厚は0.5mm、各タービン動翼の前縁のハブ部の翼厚は2.0mm、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比は4.0である。なお、従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラにおいて、タービン動翼の前縁における流れ方向に沿った断面形状は半円形状(曲がり形状の一例)になっており、タービン動翼の前縁の翼厚とは、タービン動翼の前縁における半円形状を除いた部位の翼厚のことをいう。
【0011】
そして、タービン動翼に対するガスの相対流入角を70度(この場合、インシデンスも70度)に設定した上で、ラジアルタービンの運転中における従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラ内のガスの相対マッハ数分布についてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析を行い、そのCFD解析結果として、ガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れの遅い領域をまとめると、図6(a)(b)(c)〜図9(a)(b)(c)に示すようになる。なお、図6(a)(b)(c)は、従来例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍(0.1スパン)、ミーン部(0.5スパン)、及びチップ部近傍(0.9スパン)におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図(径方向外側から見た図)、図7(a)(b)(c)は、比較例1に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図、図8(a)(b)(c)は、比較例2に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図、図9(a)(b)(c)は、発明例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【0012】
CFD解析結果によれば、図6(a)、図7(a)、図8(a)、及び図9(a)に示すように、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラの場合には、従来例に係るタービンインペラの場合に比べて、ハブ部近傍においてガスの流れの極めて遅い領域、換言すれば、ガスの剥離領域を低減することができることが判明した。また、図6(b)(c)、図7(b)(c)、図8(a)(b)、及び図9(a)(b)に示すように、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラの場合にも、従来例に係るタービンインペラの場合と同程度に、ミーン部及びチップ部近傍においてガスの流れの極めて遅い領域等が生じることが判明した。つまり、各タービンインペラの前縁の翼厚をミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くすることによって、タービンインペラ内のハブ部近傍におけるガスの剥離領域を低減できると共に、各タービンインペラの前縁の翼厚をミーン部側からチップ部側にかけて漸次厚くしても、タービンインペラ内のミーン部及びチップ部近傍におけるガスの剥離領域を十分に低減できないということが判明した。
【0013】
なお、図示していないが、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比が3.0〜5.0の範囲内で、発明例に係るタービンインペラと同様に、各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなるようにした他の発明例に係るタービンインペラの場合においても、発明例に係るタービンインペラの場合と同様のCFD解析結果を得ることができた。
【0014】
続いて、ラジアルタービンの運転中における従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラのタービン動翼の応力分布についてFEM(Finite Element Method)解析を行い、そのFEM解析結果として、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比とタービン動翼の最大応力(背面及び腹面の最大応力)との関係をまとめると、図10に示すようになる。なお、図10は、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比とタービン動翼の最大応力との関係を示す図であって、タービン動翼の最大応力は無次元化されている。
【0015】
FEM解析結果によれば、発明例に係るタービンインペラの場合及び前記他の発明例に係るタービンインペラの場合には、従来例に係るタービンインペラの場合と同様に、タービン動翼の背面及び腹面の最大応力が基準の許容最大応力を越えることがないことが判明した。一方、比較例1及び比較例2に係るタービンインペラの場合には、タービン動翼の背面及び腹面の最大応力が基準の許容最大応力を越えることが判明した。ここで、基準の許容最大応力とは、経験的又は試験的に許容できると認められかつタービン動翼に発生する最大応力のことをいう。
【0016】
本願の発明者は、前述の解析結果に基づいて、各タービン動翼の前縁の翼厚をミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなるようにし、かつ各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比を適正な範囲に設定した場合には、ラジアルタービンの運転中に各タービン動翼に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、タービン動翼に対するガスの流相対入角とタービン動翼の入口メタル角(前縁の翼角)の差であるインシデンスが増大しても、各タービン動翼の前縁近傍におけるガスの剥離を十分に抑制できるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。ここで、適正な範囲とは、3.0〜5.0の範囲のことをいう。
【0017】
本発明の第1の特徴は、ガスの圧力エネルギーを利用して回転力を発生させるラジアルタービンであって、内側にシュラウド(内壁)を有したタービンハウジングと、前記タービンハウジング内に回転可能に設けられ、軸心(タービンインペラの軸心)周りに回転可能なホイール、及び前記ホイールの外周面に間隔を置いて設けられかつ先端縁が前記タービンハウジングの前記シュラウドに沿うように延びた複数枚のタービン動翼を備えたタービンインペラと、を具備し、前記タービンハウジングにガスを取入れるガス取入口が形成され、前記タービンハウジングの内部に前記ガス取入口に連通した環状(渦巻き状)の供給流路が前記タービンインペラを囲むように形成され、前記タービンハウジングにおける前記タービンインペラの出口側にガスを排出するガス排出口が形成され、各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比(翼厚比又は比率)が3.0〜5.0に設定されていることを要旨とする。
【0018】
なお、前記ラジアルタービンは、車両用過給機、ガスタービン等に用いられる。また、「タービンハウジングのシュラウド」とは、例えば可変ノズルユニットのシュラウドリング等、前記タービンハウジングの一部に相当する部材の内壁を含む意である。
【0019】
本発明の特徴によると、前記ガス取入口から取入れたガスを前記供給流路を経由して前記タービンインペラの入口側から出口側へ流通させる。これにより、ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させることができる。
【0020】
各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比(翼厚比)が3.0〜5.0に設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、前記ラジアルタービンの運転中に、各タービン動翼に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、前記タービン動翼に対するガスの相対流入角が大きくなっても、前記タービン動翼の前縁近傍におけるガスの剥離を十分に抑制することができる。
【0021】
本発明の第2の特徴は、エンジン側に供給される空気を過給する過給機において、第1の特徴からなるラジアルタービンを具備したことを要旨とする。
【0022】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前記ラジアルタービンの運転中に、各タービン動翼に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、前記タービン動翼に対するガスの相対流入角が大きくなっても、前記タービン動翼の前縁近傍におけるガスの剥離を十分に抑制できるため、前記ラジアルタービンの耐久性を十分に確保した上で、前記タービンインペラ内(隣接関係にある前記タービン動翼間)における圧力損失(エネルギー損失)の増大を抑えて、前記ラジアルタービンのタービン効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、図3における矢視部Iの拡大図である。
【図2】図2(a)は、図1におけるIIA-IIA線に沿った拡大図、図2(b)は、図1におけるIIB-IIB線に沿った拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る可変容量型過給機を示す断面図である。
【図4】図4(a)は、従来例に係るタービンインペラの一部を径方向外側から見た図、図4(b)は、比較例1に係るタービンインペラの一部を径方向外側から見た図である。
【図5】図5(a)は、比較例2に係るタービンインペラの一部を径方向外側から見た図、図5(b)は、発明例に係るタービンインペラの一部を径方向外側から見た図である。
【図6】図6(a)(b)(c)は、従来例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【図7】図7(a)(b)(c)は、比較例1に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【図8】図8(a)(b)(c)は、比較例2に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【図9】図9(a)(b)(c)は、発明例に係るタービンインペラ内のハブ部近傍、ミーン部、及びチップ部近傍におけるガスの流れの極めて遅い領域とガスの流れを示す図である。
【図10】図10は、タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比とタービン動翼の最大応力との関係を示す図である。
【図11−1】図11−1は、ガスの流量とタービン効率との関係を示す図である。
【図11−2】図11−2は、図11−1における矢視部XI-IIの拡大図である。
【図11−3】図11−3は、図11−1における矢視部XI-IIIの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図1から図3、及び図11−1から図11−3を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向を指し、「FR」は、後方向を指してある。
【0026】
図3に示すように、本発明の実施形態に係る可変容量型の車両用過給機1は、エンジン(図示省略)からの排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに供給される空気を過給(圧縮)するものである。そして、可変容量型の車両用過給機1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0027】
可変容量型の車両用過給機1は、ベアリングハウジング3を具備しており、ベアリングハウジング3内には、ラジアルベアリング5及び一対のスラストベアリング7が設けられている。また、複数のベアリング5,7には、前後方向へ延びたタービン軸(ロータ軸)9が回転可能に設けられており、換言すれば、ベアリングハウジング3には、タービン軸9が複数のベアリング5,7を介して回転可能に設けられている。
【0028】
ベアリングハウジング3の前側には、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサ11が配設されており、コンプレッサ11の具体的な構成は、次のようになる。
【0029】
ベアリングハウジング3の前側には、コンプレッサハウジング13が設けられており、コンプレッサハウジング13内には、コンプレッサインペラ15が回転可能に設けられている。そして、コンプレッサインペラ15の構成要素について説明すると、コンプレッサハウジング13内には、ホイール17が設けられており、ホイール17は、タービン軸9の前端部に固定ナット19を介して一体的に連結してあって、コンプレッサインペラ15の軸心(換言すれば、タービン軸9の軸心)C周りに回転可能である。また、ホイール17の外周面は、コンプレッサインペラ15の軸方向から径方向外側に向かって延びている。更に、ホイール17の外周面には、複数枚のコンプレッサ動翼21が周方向に間隔を置いて設けられている。
【0030】
コンプレッサハウジング13におけるコンプレッサインペラ15の入口側(コンプレッサハウジング13の前側)には、空気を取入れる空気取入口23が形成されており、空気取入口23は、接続管(図示省略)を介してエアクリーナー(図示省略)に接続可能である。また、ベアリングハウジング3とコンプレッサハウジング13との間におけるコンプレッサインペラ15の出口側には、圧縮された空気を昇圧する環状のディフューザ流路25が形成されており、ディフューザ流路25は、空気取入口23に連通してある。更に、コンプレッサハウジング13の内部には、環状(渦巻き状)のコンプレッサスクロール流路27がコンプレッサインペラ15を囲むように形成されており、コンプレッサスクロール流路27は、ディフューザ流路25に連通してある。そして、コンプレッサハウジング13の適宜位置には、圧縮された空気を排出する空気排出口29が形成されており、空気排出口29は、コンプレッサスクロール流路27に連通してあって、エンジンの給気マニホールド(図示省略)に接続可能である。
【0031】
ベアリングハウジング3の後側には、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるラジアルタービン31が配設されており、ラジアルタービン31の具体的な構成は、次のようになる。
【0032】
図1及び図3に示すように、ベアリングハウジング3の後側には、タービンハウジング33が設けられており、このタービンハウジング33は、内側に、シュラウド(具体的に、後述のシュラウドリングの内壁)Sを有している。また、タービンハウジング33内には、タービンインペラ35が回転可能に設けられている。そして、タービンインペラ35の構成要素について説明すると、タービンハウジング33内には、ホイール37が設けられており、ホイール37は、タービン軸9の後端部に一体的に連結してあって、タービンインペラ35の軸心(換言すれば、タービン軸9の軸心)C周りに回転可能である。また、ホイール37の外周面は、タービンインペラ35の軸方向から径方向外側に向かって延びている。更に、ホイール37の外周面には、複数枚のタービン動翼39が周方向に間隔を置いて設けられており、各タービン動翼39の先端縁(外縁)39Tは、タービンハウジング33のシュラウドSに沿うように延びている。
【0033】
タービンハウジング33内には、可変ノズルユニット41がタービンインペラ35を囲むように配設されている。より具体的には、タービンハウジング33内におけるタービンインペラ35の径方向外側(入口側)には、ノズルリング43が取付リング45を介して設けられており、ノズルリング43には、シュラウドリング47が複数(1つのみ図示)の連結ピン49を介して一体的かつ前後に離隔して設けられており、ノズルリング43及びシュラウドリング47は、タービンハウジング33の一部に相当するものとして捉えることができる。
【0034】
ノズルリング43とシュラウドリング47との間、換言すれば、タービンハウジング33内におけるタービンインペラ35の入口側には、タービンインペラ35側に供給される排気ガスの流路面積を可変する複数枚の可変ノズル51が周方向に間隔を置いて配設されており、各可変ノズル51は、タービンインペラ35の軸心Cに平行な軸心周りに回転可能(揺動可能)である。ここで、複数枚の可変ノズル51のノズル軸53は、特開2009−243431号公報又は特開2009−243300号公報に示すように、同期機構55によって連動連結してあって、アクチュエータ(図示省略)によって同期して回転するものである。
【0035】
タービンハウジング33の適宜位置には、排気ガスを取入れるガス取入口57が形成されており、ガス取入口57は、エンジンの排気マニホールド(図示省略)に接続可能である。また、タービンハウジング33の内部には、環状(渦巻き状)のタービンスクロール流路(供給流路の一例)59が複数枚の可変ノズル51及びタービンインペラ35を囲むように形成されており、タービンスクロール流路59は、ガス取入口57に連通してあって、タービンスクロール流路59の流路断面積は、タービンインペラ35の回転方向に沿って漸次縮小するようになっている。更に、タービンハウジング33におけるタービンインペラ35の出口側(タービンハウジング33の後側)には、排気ガスを排出するガス排出口61が形成されており、ガス排出口61は、タービンスクロール流路59に連通してあって、接続管(図示省略)を介して排気ガス浄化装置(図示省略)に接続可能である。
【0036】
続いて、本発明の実施形態に係るラジアルタービン31の特徴部分について説明する。
【0037】
複数枚のタービン動翼39は、特開2008−133765号公報に示すように、ラジアル要素に基づいて構成されており、具体的には、タービンインペラ35の径方向に沿った任意の断面において、タービンインペラ35の軸心Cから放射状(タービンインペラ35の径方向外側)に延びるように構成されている。
【0038】
そして、図1及び図2(a)に示すように、各タービン動翼39の前縁39Lの翼厚は、ミーン部39Lm側からハブ部39Lh側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼39の前縁39Lにおけるチップ部39Ltの翼厚に対するハブ部39Lhの翼厚の比(翼厚比又は比率)は、3.0〜5.0に設定されている。ここで、翼厚比が3.0以上に設定されるようにしたのは、 翼厚比が3.0未満であると、各タービン動翼39の前縁39L近傍における排気ガスの剥離を十分に抑制できないからである。一方、翼厚比が5.0以下に設定されるようにしたのは、翼厚比が5.0を越えると、ラジアルタービン31の運転中に、タービン動翼39に過大な応力が発生することが懸念されるからである。
【0039】
図2(b)に示すように、各タービン動翼39の前縁39Lにおける排気ガスの流れ方向に沿った断面形状は、半円形状(曲がり形状の一例)になっている。なお、各タービン動翼39の前縁39Lにおける前記断面形状が曲がり形状になる代わりに、ストレート形状(直線形状)になるようにしても構わない。
【0040】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
(i) 本発明の実施形態の通常の作用
ガス取入口57から取入れた排気ガスをタービンスクロール流路59を経由してタービンインペラ35の入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見て上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、タービン軸9及びコンプレッサインペラ15をタービンインペラ35と一体的に回転させることができる。これにより、空気取入口23から取入れた空気を圧縮して、ディフューザ流路25及びコンプレッサスクロール流路27を経由して空気排出口29から排出することができ、エンジンに供給される空気を過給することができる。
【0042】
ここで、排気ガスの流量が少ない場合(換言すれば、エンジン回転数が低速域にある場合)には、アクチュエータによって複数枚の可変ノズル51を絞る方向(閉じる方向)へ同期して回転させることにより、タービンインペラ35側に供給される排気ガスの流路面積(可変ノズル51のスロート面積)を小さくして、排気ガスの流速を高くして、タービンインペラ35の仕事量を十分に確保する。一方、排気ガスの流量が多い場合(換言すれば、エンジン回転数が高速域にある場合)には、アクチュエータによって複数枚の可変ノズル51を開く方向へ同期して回転させることにより、可変ノズル51のスロート面積を大きくして、タービンインペラ35側に多くの排気ガスを供給する。これにより、排気ガスの流量の多少に関係なく、タービンインペラ35によって回転力を十分かつ安定的に発生させることができる。
【0043】
(ii) 本発明の実施形態の特有の作用
各タービン動翼39の前縁39Lの翼厚がミーン部39Lm側からハブ部39Lh側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼39の前縁39Lにおけるチップ部39Ltの翼厚に対するハブ部39Lhの翼厚の翼厚比が3.0〜5.0に設定されているため、前述の新規な知見を適用すると、ラジアルタービン31の運転中に、各タービン動翼39に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、タービン動翼39に対する排気ガスの相対流入角が大きくなっても、タービン動翼39の前縁39L近傍における排気ガスの剥離を十分に抑制することができる。特に、各タービン動翼39の前縁39Lにおける排気ガスの流れ方向に沿った断面形状が半円形状になっているため、タービン動翼39の前縁39Lに対する排気ガスの衝突損失を低減して、タービン動翼39の前縁39L近傍における排気ガスの剥離をより十分に抑制することができる。
【0044】
(iii) 本発明の実施形態の効果
本発明の実施形態によれば、ラジアルタービン31の運転中に、各タービン動翼39に発生する応力が基準の許容最大応力を越えることなく、タービン動翼39に対する排気ガスの相対流入角が大きくなっても、タービン動翼39の前縁39L近傍における排気ガスの剥離をより十分に抑制できるため、ラジアルタービン31の耐久性を十分に確保した上で、タービンインペラ35内(隣接関係にあるタービン動翼39間)における圧力損失(エネルギー損失)の増大を抑えて、ラジアルタービン31のタービン効率の向上を図ることができる。
【0045】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、ラジアルタービン31に適用した技術的思想を、可変ノズルユニット41を具備していないタービンに適用したり、ラジアル要素に基づいて構成された複数枚のタービン動翼39に代えて、ラジアル要素に基づいて構成されていない複数枚のタービン動翼(図示省略)を用いたりする等、種々の態様で実施可能である。更に、本発明に包含される権利範囲は、ラジアルタービン31だけでなく、ラジアルタービン31を具備した可変容量型の車両用過給機1等の過給機にも及ぶものである。
【実施例】
【0046】
本発明の実施例について図11−1、図11−2、図11−3を参照して説明する。
【0047】
従来例、比較例1、比較例2、及び発明例に係るタービンインペラ(図4(a)(b)及び図5(a)(b)参照)について、ガスの流量とタービン効率の関係についてCFD解析を行い、そのCFD解析結果をまとめると、図11−1、図11−2、図11−3に示すようになる。即ち、小流量時において、発明例に係るタービンインペラの場合には、比較例1及び比較例2に係るタービンインペラの場合と同様に、従来例に係るタービンインペラの場合に比べて、ラジアルタービンのタービン効率を向上させることがCFD解析によって確認できた。また、大流量時において、発明例に係るタービンインペラの場合には、従来例、比較例1、及び比較例2に係るタービンインペラの場合に比べて、ラジアルタービンのタービン効率を向上させることがCFD解析結果によって確認できた。なお、図示していないが、前記他の発明例に係るタービンインペラの場合においても、発明例に係るタービンインペラの場合と同様のCFD解析結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0048】
1 可変容量型の車両用過給機
3 ベアリングハウジング
9 タービン軸
11 コンプレッサ
13 コンプレッサハウジング
15 コンプレッサインペラ
31 ラジアルタービン
33 タービンハウジング
S シュラウド
35 タービンインペラ
37 ホイール
39 タービン動翼
39L タービン動翼の前縁
39Lh タービン動翼の前縁のハブ部
39Lm タービン動翼の前縁のミーン部
39Lt タービン動翼の前縁のチップ部
41 可変ノズルユニット
43 ノズルリング
47 シュラウドリング
51 可変ノズル
57 ガス取入口
59 タービンスクロール流路
61 ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの圧力エネルギーを利用して回転力を発生させるラジアルタービンであって、
内側にシュラウドを有したタービンハウジングと、
前記タービンハウジング内に回転可能に設けられ、軸心周りに回転可能なホイール、及び前記ホイールの外周面に間隔を置いて設けられかつ先端縁が前記タービンハウジングの前記シュラウドに沿うように延びた複数枚のタービン動翼を備えたタービンインペラと、を具備し、
前記タービンハウジングにガスを取入れるガス取入口が形成され、前記タービンハウジングの内部に前記ガス取入口に連通した環状の供給流路が前記タービンインペラを囲むように形成され、前記タービンハウジングにおける前記タービンインペラの出口側にガスを排出するガス排出口が形成され、
各タービン動翼の前縁の翼厚がミーン部側からハブ部側にかけて漸次厚くなってあって、各タービン動翼の前縁におけるチップ部の翼厚に対するハブ部の翼厚の比が3.0〜5.0に設定されていることを特徴とするラジアルタービン。
【請求項2】
各タービン動翼の前縁におけるガスの流れ方向に沿った断面形状は、曲がり形状になっていることを特徴とする請求項1に記載のラジアルタービン。
【請求項3】
前記タービンハウジング内における前記タービンインペラの入口側に周方向に間隔を置いて配設され、前記タービンインペラの軸心に平行な軸心周りに回転可能であって、前記タービンインペラ側に供給されるガスの流路面積を可変する複数枚の可変ノズルと、を具備したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のラジアルタービン。
【請求項4】
エンジン側に供給される空気を過給する過給機において、
請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のラジアルタービンを具備したことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【公開番号】特開2012−241564(P2012−241564A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110633(P2011−110633)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】