ラックピニオン式ステアリング装置
【課題】 コイルばねを省くことができる結果、コイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができるラックピニオン式ステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 ラックピニオン式ステアリング装置1は、中空部2を有したアルミニウム又はアルミニウム合金製のギヤケース3と、ギヤケース3にころがり軸受4及び5を介して回転自在に支持されたステアリング軸6と、中空部2に配されていると共にステアリング軸6の軸端部に一体的に設けられていると共にステアリング軸6を介してギヤケース3に回転自在に支持されたピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック歯8が形成されたラックバー9と、ギヤケース3内の中空部2に配されていると共にラックバー9をその移動方向Aに関して摺動自在に支持するラックガイド10とを具備している。
【解決手段】 ラックピニオン式ステアリング装置1は、中空部2を有したアルミニウム又はアルミニウム合金製のギヤケース3と、ギヤケース3にころがり軸受4及び5を介して回転自在に支持されたステアリング軸6と、中空部2に配されていると共にステアリング軸6の軸端部に一体的に設けられていると共にステアリング軸6を介してギヤケース3に回転自在に支持されたピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック歯8が形成されたラックバー9と、ギヤケース3内の中空部2に配されていると共にラックバー9をその移動方向Aに関して摺動自在に支持するラックガイド10とを具備している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの回転動作に連動してピニオンを回転させ、このピニオンと噛合するラック歯を有したラックバーを往復移動させて操舵を行うようにした自動車等の車輌に用いられるラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】実開昭58−19873号公報
【0003】
ラックピニオン式ステアリング装置は、通常、ギヤケースと、このギヤケースにピニオン軸を介して回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、ギヤケース内に配されていると共にラックバーを摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向かって押圧するコイルばねとを具備している。
【0004】
斯かるラックピニオン式ステアリング装置においては、ラックバーのラック歯とピニオンとの噛合部でピニオン軸の回転に伴って互いに離反する向きの力が作用してラックバーに撓みが生じ、ラック歯の歯列方向へのガタつきが大きくなる結果、ラック歯とピニオンとの歯部間に打音が生じるので、ピニオン軸と反対側に摩擦抵抗の小さい凹面、多くは半円筒状の凹面を有したラックガイドを設け、このラックガイドの凹面をコイルばねの弾性押圧力によりラックバーに押圧し、ラックガイドの凹面をラックバーに摺接させてラックバーとの摺動摩擦抵抗を低減しつつ、ラック歯の歯列方向のガタつきを抑制し、ラック歯とピニオンとの噛合部での打音を低減させるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラックガイドとしては、焼結金属を用いたもの又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金にて形成されたもの等が提案されているが、いずれのラックガイドでも、ギヤケース内でのラックガイドの移動機能を確保する必要上、ラックガイドとギヤケースの内面との間にはおおよそ20μm程度の隙間(クリアランス)が設けられているが、斯かる隙間が設けられる場合でも、ピニオンとラック歯との噛合で生じる歯のねじれやラックバー両端の車輪からの作用によりラックガイドにラジアル方向の負荷が作用すると、ラックガイドがギヤケースの内面に強く押し付けられる虞があり、この状態ではコイルばねによる押圧力の作用と相俟ってラックガイドとギヤケースとの両者間は、所謂「ともがね」となり、摩擦抵抗が増大し、ひいては凝着摩耗を引き起こし、ラックガイドのラックバー方向への移動を妨げるという問題が生じる。
【0006】
上述した問題を解決するべくラックガイドにOリング等の緩衝部材を取り付けたものが提案されているが、斯かるOリング等の緩衝部材を取り付けると、緩衝部材とギヤケースの内面との摺動における摺動抵抗によりコイルばねの負荷が大きくなり、コイルばねにへたり(劣化)が生じ易くなり、このへたりでコイルばねの弾性押圧力が不足すると、ラックガイドの踊りが生じてラックガイドがギヤケースに衝突し、これによっても異音(打音)を誘発することになる。
【0007】
また、ラックガイドの凹面への弾性押圧力が大きいと、ラック歯とピニオンとの噛合部での打音を低減させることができるが、ハンドルの回転動作に大きな力を必要として操舵性が悪くなる一方、ラックガイドの凹面への弾性押圧力が小さいと、操舵性は向上するが、打音の低減が得られ難いために、弾性押圧力の最適な設定には煩わしい作業を必要とする。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、コイルばねを省くことができる結果、コイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができるラックピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドとを具備しており、ここで、ラックガイドは、ラックバーに摺動自在に接触する凹面を有すると共にラックバーに向かう押圧力を受ける受圧面を有したラックガイド本体と、このラックガイド本体の受圧面側に配された弾性変形自在部材と、この弾性変形自在部材にラックバーに向かう押圧力を与える押圧部材と、この押圧部材により弾性変形自在部材へ与えられる押圧力を設定する設定手段とを具備しており、弾性変形自在部材は、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されており、ラックガイド本体及び弾性押圧部材はギヤケースに対して隙間をもってギヤケース内に配されており、弾性変形自在部材は、付与されたラックバーに向かう押圧力による膨出でギヤケースの内面に接触するようになっている。
【0010】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置によれば、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されている弾性変形自在部材を具備するために、弾性変形自在部材がOリング等の緩衝部材と同等の機能を果たす上に、押圧力に対する反力の大きさに応じて弾性変形自在部材の膨出量又は固さを変化させることができ、しかも、コイルばねに代えて弾性変形自在部材によってラックバーに向かう弾性押圧力を生じさせることができる結果、ラックガイド本体のギヤケースの内面への直接的な接触を確実に回避でき、その上、コイルばねを省き得てコイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができ、加えて、押圧部材による弾性変形自在部材への押圧力を設定手段により設定できる結果、弾性変形自在部材の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、而して、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができる。
【0011】
好ましい例では、設定手段は、ギヤケースの段部と、この段部に接触する押圧部材の段部と、押圧部材をギヤケースの内面に螺合させる螺合部とを具備しており、斯かるラックピニオン式ステアリング装置では、好ましくは、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の小径内面で規定された小径の中空部と、この小径の中空部に隣接すると共に円筒状の大径内面で規定された大径の中空部とを具備しており、押圧部材は、小径の中空部に配されると共に小径外面を有した小径円柱部と、この小径円柱部に隣接すると共に大径の中空部に配される大径外面を有した大径円柱部とを具備しており、ギヤケースの段部は、小径内面と大径内面との間に介在しており、押圧部材の段部は、小径外面と大径外面との間に介在しており、螺合部は、大径内面と大径外面との間に介在している。
【0012】
他の好ましい例では、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定される中空部と、この中空部の一端が開口している端面とを有しており、押圧部材は中空部に配される円柱部を有しており、設定手段は、円柱部に一体的に設けられていると共に端面に接触する環状の側面を有した鍔部と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している。
【0013】
本発明の好ましい他の例では、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定された中空部を具備しており、押圧部材は、中空部に配されている端面を有した円柱部を具備しており、設定手段は、ラックガイド本体に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材に埋設されて押圧部材の端面に向かって延びた突起と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している。
【0014】
本発明では、弾性変形自在部材と押圧部材との間に介在された剛性板を更に具備していてもよく、また、ラックガイド本体、弾性変形自在部材及び押圧部材の夫々は、好ましくは樹脂製であり、特に、弾性変形自在部材は、樹脂製であって、天然若しくは合成ゴム又はポリウレタンエラストマー等の樹脂製である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイルばねを省くことができる結果、コイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができるラックピニオン式ステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明及びそれを実施するための最良の形態を図に示す好ましい実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に何等限定されないのである。
【0017】
図1から図6において、本例のラックピニオン式ステアリング装置1は、中空部2を有したアルミニウム又はアルミニウム合金製のギヤケース3と、ギヤケース3にころがり軸受4及び5を介して回転自在に支持されたステアリング軸6と、中空部2に配されていると共にステアリング軸6の軸端部(ピニオン軸)に一体的に設けられていると共にステアリング軸6を介してギヤケース3に回転自在に支持されたピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック歯8が形成されたラックバー9と、ギヤケース3内の中空部2に配されていると共にラックバー9をその移動方向Aに関して摺動自在に支持するラックガイド10とを具備している。
【0018】
円筒部20を有するギヤケース3は、当該円筒部20に、ラックガイド10のラックガイド本体11、弾性変形自在部材12及び剛性板13を収容すると共に小径内面14で規定された小径の中空部15と、中空部15に隣接すると共に円筒状の大径内面16で規定されており、しかも、ラックガイド10の押圧部材17を収容する大径の中空部18とを具備している。
【0019】
ステアリング軸6の軸心に対して直角な方向Aにおいてギヤケース3を貫通して当該方向Aに移動自在に配されたラックバー9は、ラック歯8が形成された面に対向する裏面側に半円筒状の外周面19を有している。
【0020】
ラックガイド10は、ラックバー9の外周面19に摺動自在に接触する半円筒状の凹面21を有すると共にラックバー9に向かう押圧力Fを受ける受圧面22を有したラックガイド本体11と、ラックガイド本体11の受圧面22側に配された弾性変形自在部材12と、弾性変形自在部材12にラックバー9に向かう押圧力Fを与える押圧部材17と、押圧部材17により弾性変形自在部材12へ与えられる押圧力Fを設定する設定手段23と、弾性変形自在部材12と押圧部材17との間に介在された円盤状の剛性板13とを具備している。
【0021】
金属製又は合成樹脂製であるラックガイド本体11は、凹面21及び受圧面22を有した本体部26と、本体部26に一端で一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材12、押圧部材17及び剛性板13の夫々の貫通孔27、28及び29を貫通する円柱状の支持部30とを具備している。
【0022】
本体部26は、凹面21及び受圧面22に加えて円筒状の外周面31を有しており、受圧面22は、半円筒状の湾曲受圧凸面32と、湾曲受圧凸面32に連接すると共に押圧力Fの方向に対して直交する一対の直交受圧面33及び34とを具備しており、その外周面31において小径内面14に対して隙間をもってギヤケース3の円筒部20内に配されている。
【0023】
支持部30は、その他端の弾性変形を容易にして貫通孔27、28及び29への挿入を容易にする十字形状のスリット35と、押圧部材17の環状の段部36に係合して押圧部材17の貫通孔29からの抜け出しを阻止する膨出部37とをその他端に有している。
【0024】
天然若しくは合成ゴム又はポリウレタンエラストマー等の樹脂製である弾性変形自在部材12は、湾曲受圧凸面32に対面して接触すると共に湾曲受圧凸面32に対応する形状をもった湾曲押圧凹面41と、平坦な直交受圧面33及び34に対面して接触すると共に直交受圧面33及び34に対応する形状をもった一対の直交押圧面42及び43と、剛性板13の環状の一方の直交平坦面44に対面して接触すると共に押圧力Fの方向に対して直交する当該直交平坦面44に対応する形状をもった環状の直交平坦面45と、円筒状の外周面46と、支持部30が貫通している貫通孔27と、支持部30の円筒状の外周面47に移動自在にぴたりと接触すると共に貫通孔27を規定する円筒状の内周面48とを有しており、剛性板13を介する押圧部材17からのラックバー9に向かう押圧力Fにより弾性変形するように、押圧力Fの方向に関してラックガイド本体11の湾曲受圧凸面32、一対の直交受圧面33及び34と剛性板13の直交平坦面44との間に配されている。
【0025】
押圧部材17からのラックバー9に向かう押圧力Fにより弾性変形して押圧力Fの方向に対して直交する方向に膨出するようにラックガイド本体11の本体部26と押圧部材17との間に配されている弾性変形自在部材12は、付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによりギヤケース3の円筒部20の小径内面14に向かって膨出し、斯かる付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによる膨出でその外周面46でギヤケース3の小径内面14に接触している。
【0026】
金属製又は合成樹脂製である環状の押圧部材17は、小径の中空部15に配されると共に小径外面51を有した小径円柱部52と、小径円柱部52に隣接すると共に大径の中空部18に配される大径外面53を有した大径円柱部54と、支持部30が貫通している貫通孔29と、貫通孔29に連通すると共に貫通孔29よりも大径の貫通孔55とを具備しており、小径円柱部52は、押圧力Fの方向に対して直交すると共に剛性板13の環状の他方の直交平坦面56に対面して接触し、しかも、直交平坦面56に対応する形状をもった環状の直交押圧面57を有している。
【0027】
設定手段23は、ラックガイド本体11及び弾性変形自在部材12を収容するギヤケース3の環状の段部61と、段部61に接触する押圧部材17の環状の段部62と、押圧部材17をギヤケース3の内面である大径内面16に螺合させる螺合部63とを具備しており、段部61は、小径内面14と大径内面16との間に介在しており、段部62は、小径外面51と大径外面53との間に介在しており、螺合部63は、大径内面16に刻設された雌ねじ64と大径外面53に刻設された雄ねじ65とからなって大径内面16と大径外面53との間に介在している。
【0028】
小径外面51の径と略同径の外径を有した円環状の剛性板13は、直交平坦面44、直交平坦面56及び貫通孔28を具備して中空部15に配されている。本発明では剛性板13を省いて押圧部材17の直交押圧面57を直接に弾性変形自在部材12の直交平坦面45に接触させてもよい。
【0029】
以上のラックピニオン式ステアリング装置1においては、押圧部材17を雄ねじ65の雌ねじ64への螺合により円筒部20内に螺入して段部62を段部61に接触させ、剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えると、弾性変形自在部材12に与えられた押圧力Fは、弾性変形自在部材12を弾性変形させてラックガイド本体11に伝達される結果、ラックガイド本体11は、弾性変形自在部材12の弾性変形に起因する押圧力Fの方向の弾性力によりラックバー9を凹面21で摺動自在に弾性的に支持し、ステアリング軸6の回転においてラック歯8のピニオン7への噛み合いを確保し、ラック歯8とピニオン7との噛合部での打音を低減させて当該噛み合いによる方向Aのラックバー9の移動を案内し、しかも、弾性変形自在部材12は、付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによる弾性変形でギヤケース3の円筒状の内面である小径内面14に向かって膨出してその外周面46で小径内面14に接触する上に、押圧力Fに対する反力の大きさに応じてその膨出量又は固さを変化させることができる結果、ラックガイド本体11の小径内面14への直接的な接触を確実に回避でき、仮にラックガイド本体11に踊りが生じてもラックガイド本体11と小径内面14との衝突を避けることができて衝突による異音が発生しないようにできる。またラックガイド10においては、弾性変形自在部材12をラックガイド本体11の直交受圧面33及び34と剛性板13の直交平坦面44とで挟んでいるために、弾性変形自在部材12のクリープ変形によるへたりを少なくでき、安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与できる上に、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部63での螺合と段部62の段部61への接触とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができる。
【0030】
而して、ラックピニオン式ステアリング装置1によれば、弾性変形自在部材12によってラックバー9に向かう弾性的な押圧力Fを生じさせることができるため、ラックガイド本体11の小径内面14への直接的な接触を回避でき、しかも、コイルばねを省き得てコイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0031】
本発明では、段部61及び62を具備した設定手段23に代えて図7及び図8に示すような段部61及び62を具備しない設定手段23を用いてもよい。即ち、図7及び図8に示す設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1では、円筒部20を有するギヤケース3は、異径の中空部15及び中空部18に代えて、同径の円筒状の内面71で規定されていると共にラックガイド本体11、弾性変形自在部材12及び剛性板13を収容する同径の中空部72を円筒部20に具備しており、中空部72の一端は円筒部20の円環状の端面73で開口しており、押圧部材17は、中空部72に配されていると共に環状の端面74、円筒状の外面75及び貫通孔29を有した円柱部76を具備しており、端面74は、剛性板13の直交平坦面56に対面して接触し、しかも、直交平坦面56に対応する形状を有しており、設定手段23は、円柱部76に一体的に設けられていると共に端面73に接触する環状の側面77を有した鍔部78と、押圧部材17をギヤケース3の円筒部20に螺合させる螺合部79とを具備しており、螺合部79は、内面71に刻設された雌ねじ64と外面75に刻設された雄ねじ65とからなって円筒状の内面71と円柱部76の円筒状の外面75との間に介在している。
【0032】
図7及び図8に示す設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1においても、押圧部材17を雄ねじ65の雌ねじ64への螺合により円筒部20内に螺入して側面77を端面73に接触させることにより、剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えることができ、これにより安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与でき、しかも、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部79での螺合と側面77の端面73への接触とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0033】
段部61及び62又は鍔部78を具備した設定手段23に代えて図9及び図10に示すような段部61及び62又は鍔部78を具備しない設定手段23を用いてもよい。即ち、図9及び図10に示す設定手段23は、段部61及び62又は鍔部78に代えて、ラックガイド本体11の本体部26における受圧面22の湾曲受圧凸面32に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材12に埋設されて押圧部材17の端面74に向かって剛性板13の直交平坦面44の近傍まで延びた複数の円柱状の突起81を具備しており、斯かる突起81と螺合部79とからなる設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1においても、雄ねじ65の雌ねじ64への螺合による円筒部20内への押圧部材17の螺入でもって突起81の先端に剛性板13の直交平坦面44を近接させつつ剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えることができ、しかも、突起81による弾性変形自在部材12の一定以上の圧縮の規制でもって安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与でき、而して、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部79での螺合と突起81による弾性変形自在部材12の一定以上の圧縮の規制とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0034】
ところで上記の例では、湾曲受圧凸面32と一対の直交受圧面33及び34とを有したラックガイド本体11を用いたが、これに代えて、図11から図14に示すようなラックガイド本体11を用いてもよい。図11から図14に示すラックガイド本体11においてその本体部26は、湾曲受圧凸面32と一対の直交受圧面33及び34とに代えて、押圧力Fの方向に対して直交すると共に弾性変形自在部材12からラックバー9に向かう押圧力Fを受ける一個の環状の直交受圧面91と、凹面21の底部に配されていると共にラックバー9の方向Aと平行に伸びる底部長溝92と、凹面21に配されていると共に底部長溝92の伸びる方向に対して直交して伸びる直交長溝93とを具備しており、底部長溝92及び底部長溝92よりも狭幅及び浅溝である直交長溝93にはグリース等の潤滑油が溜められており、図11から図14に示すラックガイド本体11に対しては、図15に示すような貫通孔27並びに押圧力Fの方向に対して直交する円環状の平坦押圧面94及び95を有した円柱状又は円盤状の弾性変形自在部材12が用いられ、一方の平坦押圧面94は、直交受圧面91に対面して接触していると共に直交受圧面91に対応した形状を有しており、他方の平坦押圧面95は、剛性板13の直交平坦面44に対面して接触している。斯かる図11から図14に示すラックガイド本体11でも、前述と同様に、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23により設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態の好ましい一例の断面図である。
【図2】図1に示すラックガイド本体の平面図である。
【図3】図1に示すラックガイド本体の図2に示すIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1に示す弾性変形自在部材の斜視図である。
【図5】図1に示す剛性板の斜視図である。
【図6】図1に示す押圧部材の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の好ましい他の例の一部断面図である。
【図8】図7に示す押圧部材の斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の一部断面図である。
【図10】図9に示すラックガイド本体の断面図である。
【図11】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の断面図である。
【図12】図11に示すラックガイド本体の断面図である。
【図13】図11に示すラックガイド本体の平面図である。
【図14】図13に示すXIV−XIV線矢視断面図である。
【図15】図11に示す弾性変形自在部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ラックピニオン式ステアリング装置
2 中空部
3 ギヤケース
4、5 ころがり軸受
6 ステアリング軸
7 ピニオン
8 ラック歯
9 ラックバー
10 ラックガイド
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの回転動作に連動してピニオンを回転させ、このピニオンと噛合するラック歯を有したラックバーを往復移動させて操舵を行うようにした自動車等の車輌に用いられるラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】実開昭58−19873号公報
【0003】
ラックピニオン式ステアリング装置は、通常、ギヤケースと、このギヤケースにピニオン軸を介して回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、ギヤケース内に配されていると共にラックバーを摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向かって押圧するコイルばねとを具備している。
【0004】
斯かるラックピニオン式ステアリング装置においては、ラックバーのラック歯とピニオンとの噛合部でピニオン軸の回転に伴って互いに離反する向きの力が作用してラックバーに撓みが生じ、ラック歯の歯列方向へのガタつきが大きくなる結果、ラック歯とピニオンとの歯部間に打音が生じるので、ピニオン軸と反対側に摩擦抵抗の小さい凹面、多くは半円筒状の凹面を有したラックガイドを設け、このラックガイドの凹面をコイルばねの弾性押圧力によりラックバーに押圧し、ラックガイドの凹面をラックバーに摺接させてラックバーとの摺動摩擦抵抗を低減しつつ、ラック歯の歯列方向のガタつきを抑制し、ラック歯とピニオンとの噛合部での打音を低減させるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラックガイドとしては、焼結金属を用いたもの又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金にて形成されたもの等が提案されているが、いずれのラックガイドでも、ギヤケース内でのラックガイドの移動機能を確保する必要上、ラックガイドとギヤケースの内面との間にはおおよそ20μm程度の隙間(クリアランス)が設けられているが、斯かる隙間が設けられる場合でも、ピニオンとラック歯との噛合で生じる歯のねじれやラックバー両端の車輪からの作用によりラックガイドにラジアル方向の負荷が作用すると、ラックガイドがギヤケースの内面に強く押し付けられる虞があり、この状態ではコイルばねによる押圧力の作用と相俟ってラックガイドとギヤケースとの両者間は、所謂「ともがね」となり、摩擦抵抗が増大し、ひいては凝着摩耗を引き起こし、ラックガイドのラックバー方向への移動を妨げるという問題が生じる。
【0006】
上述した問題を解決するべくラックガイドにOリング等の緩衝部材を取り付けたものが提案されているが、斯かるOリング等の緩衝部材を取り付けると、緩衝部材とギヤケースの内面との摺動における摺動抵抗によりコイルばねの負荷が大きくなり、コイルばねにへたり(劣化)が生じ易くなり、このへたりでコイルばねの弾性押圧力が不足すると、ラックガイドの踊りが生じてラックガイドがギヤケースに衝突し、これによっても異音(打音)を誘発することになる。
【0007】
また、ラックガイドの凹面への弾性押圧力が大きいと、ラック歯とピニオンとの噛合部での打音を低減させることができるが、ハンドルの回転動作に大きな力を必要として操舵性が悪くなる一方、ラックガイドの凹面への弾性押圧力が小さいと、操舵性は向上するが、打音の低減が得られ難いために、弾性押圧力の最適な設定には煩わしい作業を必要とする。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、コイルばねを省くことができる結果、コイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができるラックピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置は、ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドとを具備しており、ここで、ラックガイドは、ラックバーに摺動自在に接触する凹面を有すると共にラックバーに向かう押圧力を受ける受圧面を有したラックガイド本体と、このラックガイド本体の受圧面側に配された弾性変形自在部材と、この弾性変形自在部材にラックバーに向かう押圧力を与える押圧部材と、この押圧部材により弾性変形自在部材へ与えられる押圧力を設定する設定手段とを具備しており、弾性変形自在部材は、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されており、ラックガイド本体及び弾性押圧部材はギヤケースに対して隙間をもってギヤケース内に配されており、弾性変形自在部材は、付与されたラックバーに向かう押圧力による膨出でギヤケースの内面に接触するようになっている。
【0010】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置によれば、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されている弾性変形自在部材を具備するために、弾性変形自在部材がOリング等の緩衝部材と同等の機能を果たす上に、押圧力に対する反力の大きさに応じて弾性変形自在部材の膨出量又は固さを変化させることができ、しかも、コイルばねに代えて弾性変形自在部材によってラックバーに向かう弾性押圧力を生じさせることができる結果、ラックガイド本体のギヤケースの内面への直接的な接触を確実に回避でき、その上、コイルばねを省き得てコイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができ、加えて、押圧部材による弾性変形自在部材への押圧力を設定手段により設定できる結果、弾性変形自在部材の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、而して、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができる。
【0011】
好ましい例では、設定手段は、ギヤケースの段部と、この段部に接触する押圧部材の段部と、押圧部材をギヤケースの内面に螺合させる螺合部とを具備しており、斯かるラックピニオン式ステアリング装置では、好ましくは、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の小径内面で規定された小径の中空部と、この小径の中空部に隣接すると共に円筒状の大径内面で規定された大径の中空部とを具備しており、押圧部材は、小径の中空部に配されると共に小径外面を有した小径円柱部と、この小径円柱部に隣接すると共に大径の中空部に配される大径外面を有した大径円柱部とを具備しており、ギヤケースの段部は、小径内面と大径内面との間に介在しており、押圧部材の段部は、小径外面と大径外面との間に介在しており、螺合部は、大径内面と大径外面との間に介在している。
【0012】
他の好ましい例では、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定される中空部と、この中空部の一端が開口している端面とを有しており、押圧部材は中空部に配される円柱部を有しており、設定手段は、円柱部に一体的に設けられていると共に端面に接触する環状の側面を有した鍔部と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している。
【0013】
本発明の好ましい他の例では、ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定された中空部を具備しており、押圧部材は、中空部に配されている端面を有した円柱部を具備しており、設定手段は、ラックガイド本体に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材に埋設されて押圧部材の端面に向かって延びた突起と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している。
【0014】
本発明では、弾性変形自在部材と押圧部材との間に介在された剛性板を更に具備していてもよく、また、ラックガイド本体、弾性変形自在部材及び押圧部材の夫々は、好ましくは樹脂製であり、特に、弾性変形自在部材は、樹脂製であって、天然若しくは合成ゴム又はポリウレタンエラストマー等の樹脂製である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイルばねを省くことができる結果、コイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、常に最適な弾性押圧力に容易に設定することができるラックピニオン式ステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明及びそれを実施するための最良の形態を図に示す好ましい実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に何等限定されないのである。
【0017】
図1から図6において、本例のラックピニオン式ステアリング装置1は、中空部2を有したアルミニウム又はアルミニウム合金製のギヤケース3と、ギヤケース3にころがり軸受4及び5を介して回転自在に支持されたステアリング軸6と、中空部2に配されていると共にステアリング軸6の軸端部(ピニオン軸)に一体的に設けられていると共にステアリング軸6を介してギヤケース3に回転自在に支持されたピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック歯8が形成されたラックバー9と、ギヤケース3内の中空部2に配されていると共にラックバー9をその移動方向Aに関して摺動自在に支持するラックガイド10とを具備している。
【0018】
円筒部20を有するギヤケース3は、当該円筒部20に、ラックガイド10のラックガイド本体11、弾性変形自在部材12及び剛性板13を収容すると共に小径内面14で規定された小径の中空部15と、中空部15に隣接すると共に円筒状の大径内面16で規定されており、しかも、ラックガイド10の押圧部材17を収容する大径の中空部18とを具備している。
【0019】
ステアリング軸6の軸心に対して直角な方向Aにおいてギヤケース3を貫通して当該方向Aに移動自在に配されたラックバー9は、ラック歯8が形成された面に対向する裏面側に半円筒状の外周面19を有している。
【0020】
ラックガイド10は、ラックバー9の外周面19に摺動自在に接触する半円筒状の凹面21を有すると共にラックバー9に向かう押圧力Fを受ける受圧面22を有したラックガイド本体11と、ラックガイド本体11の受圧面22側に配された弾性変形自在部材12と、弾性変形自在部材12にラックバー9に向かう押圧力Fを与える押圧部材17と、押圧部材17により弾性変形自在部材12へ与えられる押圧力Fを設定する設定手段23と、弾性変形自在部材12と押圧部材17との間に介在された円盤状の剛性板13とを具備している。
【0021】
金属製又は合成樹脂製であるラックガイド本体11は、凹面21及び受圧面22を有した本体部26と、本体部26に一端で一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材12、押圧部材17及び剛性板13の夫々の貫通孔27、28及び29を貫通する円柱状の支持部30とを具備している。
【0022】
本体部26は、凹面21及び受圧面22に加えて円筒状の外周面31を有しており、受圧面22は、半円筒状の湾曲受圧凸面32と、湾曲受圧凸面32に連接すると共に押圧力Fの方向に対して直交する一対の直交受圧面33及び34とを具備しており、その外周面31において小径内面14に対して隙間をもってギヤケース3の円筒部20内に配されている。
【0023】
支持部30は、その他端の弾性変形を容易にして貫通孔27、28及び29への挿入を容易にする十字形状のスリット35と、押圧部材17の環状の段部36に係合して押圧部材17の貫通孔29からの抜け出しを阻止する膨出部37とをその他端に有している。
【0024】
天然若しくは合成ゴム又はポリウレタンエラストマー等の樹脂製である弾性変形自在部材12は、湾曲受圧凸面32に対面して接触すると共に湾曲受圧凸面32に対応する形状をもった湾曲押圧凹面41と、平坦な直交受圧面33及び34に対面して接触すると共に直交受圧面33及び34に対応する形状をもった一対の直交押圧面42及び43と、剛性板13の環状の一方の直交平坦面44に対面して接触すると共に押圧力Fの方向に対して直交する当該直交平坦面44に対応する形状をもった環状の直交平坦面45と、円筒状の外周面46と、支持部30が貫通している貫通孔27と、支持部30の円筒状の外周面47に移動自在にぴたりと接触すると共に貫通孔27を規定する円筒状の内周面48とを有しており、剛性板13を介する押圧部材17からのラックバー9に向かう押圧力Fにより弾性変形するように、押圧力Fの方向に関してラックガイド本体11の湾曲受圧凸面32、一対の直交受圧面33及び34と剛性板13の直交平坦面44との間に配されている。
【0025】
押圧部材17からのラックバー9に向かう押圧力Fにより弾性変形して押圧力Fの方向に対して直交する方向に膨出するようにラックガイド本体11の本体部26と押圧部材17との間に配されている弾性変形自在部材12は、付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによりギヤケース3の円筒部20の小径内面14に向かって膨出し、斯かる付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによる膨出でその外周面46でギヤケース3の小径内面14に接触している。
【0026】
金属製又は合成樹脂製である環状の押圧部材17は、小径の中空部15に配されると共に小径外面51を有した小径円柱部52と、小径円柱部52に隣接すると共に大径の中空部18に配される大径外面53を有した大径円柱部54と、支持部30が貫通している貫通孔29と、貫通孔29に連通すると共に貫通孔29よりも大径の貫通孔55とを具備しており、小径円柱部52は、押圧力Fの方向に対して直交すると共に剛性板13の環状の他方の直交平坦面56に対面して接触し、しかも、直交平坦面56に対応する形状をもった環状の直交押圧面57を有している。
【0027】
設定手段23は、ラックガイド本体11及び弾性変形自在部材12を収容するギヤケース3の環状の段部61と、段部61に接触する押圧部材17の環状の段部62と、押圧部材17をギヤケース3の内面である大径内面16に螺合させる螺合部63とを具備しており、段部61は、小径内面14と大径内面16との間に介在しており、段部62は、小径外面51と大径外面53との間に介在しており、螺合部63は、大径内面16に刻設された雌ねじ64と大径外面53に刻設された雄ねじ65とからなって大径内面16と大径外面53との間に介在している。
【0028】
小径外面51の径と略同径の外径を有した円環状の剛性板13は、直交平坦面44、直交平坦面56及び貫通孔28を具備して中空部15に配されている。本発明では剛性板13を省いて押圧部材17の直交押圧面57を直接に弾性変形自在部材12の直交平坦面45に接触させてもよい。
【0029】
以上のラックピニオン式ステアリング装置1においては、押圧部材17を雄ねじ65の雌ねじ64への螺合により円筒部20内に螺入して段部62を段部61に接触させ、剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えると、弾性変形自在部材12に与えられた押圧力Fは、弾性変形自在部材12を弾性変形させてラックガイド本体11に伝達される結果、ラックガイド本体11は、弾性変形自在部材12の弾性変形に起因する押圧力Fの方向の弾性力によりラックバー9を凹面21で摺動自在に弾性的に支持し、ステアリング軸6の回転においてラック歯8のピニオン7への噛み合いを確保し、ラック歯8とピニオン7との噛合部での打音を低減させて当該噛み合いによる方向Aのラックバー9の移動を案内し、しかも、弾性変形自在部材12は、付与されたラックバー9に向かう押圧力Fによる弾性変形でギヤケース3の円筒状の内面である小径内面14に向かって膨出してその外周面46で小径内面14に接触する上に、押圧力Fに対する反力の大きさに応じてその膨出量又は固さを変化させることができる結果、ラックガイド本体11の小径内面14への直接的な接触を確実に回避でき、仮にラックガイド本体11に踊りが生じてもラックガイド本体11と小径内面14との衝突を避けることができて衝突による異音が発生しないようにできる。またラックガイド10においては、弾性変形自在部材12をラックガイド本体11の直交受圧面33及び34と剛性板13の直交平坦面44とで挟んでいるために、弾性変形自在部材12のクリープ変形によるへたりを少なくでき、安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与できる上に、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部63での螺合と段部62の段部61への接触とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができる。
【0030】
而して、ラックピニオン式ステアリング装置1によれば、弾性変形自在部材12によってラックバー9に向かう弾性的な押圧力Fを生じさせることができるため、ラックガイド本体11の小径内面14への直接的な接触を回避でき、しかも、コイルばねを省き得てコイルばねのへたりに起因する異音の発生をなくすことができる上に、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0031】
本発明では、段部61及び62を具備した設定手段23に代えて図7及び図8に示すような段部61及び62を具備しない設定手段23を用いてもよい。即ち、図7及び図8に示す設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1では、円筒部20を有するギヤケース3は、異径の中空部15及び中空部18に代えて、同径の円筒状の内面71で規定されていると共にラックガイド本体11、弾性変形自在部材12及び剛性板13を収容する同径の中空部72を円筒部20に具備しており、中空部72の一端は円筒部20の円環状の端面73で開口しており、押圧部材17は、中空部72に配されていると共に環状の端面74、円筒状の外面75及び貫通孔29を有した円柱部76を具備しており、端面74は、剛性板13の直交平坦面56に対面して接触し、しかも、直交平坦面56に対応する形状を有しており、設定手段23は、円柱部76に一体的に設けられていると共に端面73に接触する環状の側面77を有した鍔部78と、押圧部材17をギヤケース3の円筒部20に螺合させる螺合部79とを具備しており、螺合部79は、内面71に刻設された雌ねじ64と外面75に刻設された雄ねじ65とからなって円筒状の内面71と円柱部76の円筒状の外面75との間に介在している。
【0032】
図7及び図8に示す設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1においても、押圧部材17を雄ねじ65の雌ねじ64への螺合により円筒部20内に螺入して側面77を端面73に接触させることにより、剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えることができ、これにより安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与でき、しかも、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部79での螺合と側面77の端面73への接触とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0033】
段部61及び62又は鍔部78を具備した設定手段23に代えて図9及び図10に示すような段部61及び62又は鍔部78を具備しない設定手段23を用いてもよい。即ち、図9及び図10に示す設定手段23は、段部61及び62又は鍔部78に代えて、ラックガイド本体11の本体部26における受圧面22の湾曲受圧凸面32に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材12に埋設されて押圧部材17の端面74に向かって剛性板13の直交平坦面44の近傍まで延びた複数の円柱状の突起81を具備しており、斯かる突起81と螺合部79とからなる設定手段23を具備したラックピニオン式ステアリング装置1においても、雄ねじ65の雌ねじ64への螺合による円筒部20内への押圧部材17の螺入でもって突起81の先端に剛性板13の直交平坦面44を近接させつつ剛性板13を介して弾性変形自在部材12に一定の押圧力Fを与えることができ、しかも、突起81による弾性変形自在部材12の一定以上の圧縮の規制でもって安定した弾性的な押圧力Fをラックバー9に付与でき、而して、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23における螺合部79での螺合と突起81による弾性変形自在部材12の一定以上の圧縮の規制とにより設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができ、煩雑な作業を必要とすることなしに常に最適な弾性押圧力Fに容易に設定することができる。
【0034】
ところで上記の例では、湾曲受圧凸面32と一対の直交受圧面33及び34とを有したラックガイド本体11を用いたが、これに代えて、図11から図14に示すようなラックガイド本体11を用いてもよい。図11から図14に示すラックガイド本体11においてその本体部26は、湾曲受圧凸面32と一対の直交受圧面33及び34とに代えて、押圧力Fの方向に対して直交すると共に弾性変形自在部材12からラックバー9に向かう押圧力Fを受ける一個の環状の直交受圧面91と、凹面21の底部に配されていると共にラックバー9の方向Aと平行に伸びる底部長溝92と、凹面21に配されていると共に底部長溝92の伸びる方向に対して直交して伸びる直交長溝93とを具備しており、底部長溝92及び底部長溝92よりも狭幅及び浅溝である直交長溝93にはグリース等の潤滑油が溜められており、図11から図14に示すラックガイド本体11に対しては、図15に示すような貫通孔27並びに押圧力Fの方向に対して直交する円環状の平坦押圧面94及び95を有した円柱状又は円盤状の弾性変形自在部材12が用いられ、一方の平坦押圧面94は、直交受圧面91に対面して接触していると共に直交受圧面91に対応した形状を有しており、他方の平坦押圧面95は、剛性板13の直交平坦面44に対面して接触している。斯かる図11から図14に示すラックガイド本体11でも、前述と同様に、押圧部材17による弾性変形自在部材12への押圧力Fを設定手段23により設定できる結果、弾性変形自在部材12の膨出量又は固さを予め決められた値にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態の好ましい一例の断面図である。
【図2】図1に示すラックガイド本体の平面図である。
【図3】図1に示すラックガイド本体の図2に示すIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1に示す弾性変形自在部材の斜視図である。
【図5】図1に示す剛性板の斜視図である。
【図6】図1に示す押圧部材の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の好ましい他の例の一部断面図である。
【図8】図7に示す押圧部材の斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の一部断面図である。
【図10】図9に示すラックガイド本体の断面図である。
【図11】本発明の実施の形態の好ましい更に他の例の断面図である。
【図12】図11に示すラックガイド本体の断面図である。
【図13】図11に示すラックガイド本体の平面図である。
【図14】図13に示すXIV−XIV線矢視断面図である。
【図15】図11に示す弾性変形自在部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ラックピニオン式ステアリング装置
2 中空部
3 ギヤケース
4、5 ころがり軸受
6 ステアリング軸
7 ピニオン
8 ラック歯
9 ラックバー
10 ラックガイド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドとを具備しており、ラックガイドは、ラックバーに摺動自在に接触する凹面を有すると共にラックバーに向かう押圧力を受ける受圧面を有したラックガイド本体と、このラックガイド本体の受圧面側に配された弾性変形自在部材と、この弾性変形自在部材にラックバーに向かう押圧力を与える押圧部材と、この押圧部材により弾性変形自在部材へ与えられる押圧力を設定する設定手段とを具備しており、弾性変形自在部材は、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されており、ラックガイド本体及び弾性押圧部材はギヤケースに対して隙間をもってギヤケース内に配されており、弾性変形自在部材は、付与されたラックバーに向かう押圧力による膨出でギヤケースの内面に接触するようになっているラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
設定手段は、ギヤケースの段部と、この段部に接触する押圧部材の段部と、押圧部材をギヤケースの内面に螺合させる螺合部とを具備している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の小径内面で規定された小径の中空部と、この小径の中空部に隣接すると共に円筒状の大径内面で規定された大径の中空部とを具備しており、押圧部材は、小径の中空部に配されると共に小径外面を有した小径円柱部と、この小径円柱部に隣接すると共に大径の中空部に配される大径外面を有した大径円柱部とを具備しており、ギヤケースの段部は、小径内面と大径内面との間に介在しており、押圧部材の段部は、小径外面と大径外面との間に介在しており、螺合部は、大径内面と大径外面との間に介在している請求項2に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定される中空部と、この中空部の一端が開口している端面とを有しており、押圧部材は中空部に配される円柱部を有しており、設定手段は、円柱部に一体的に設けられていると共に端面に接触する環状の側面を有した鍔部と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定された中空部を具備しており、押圧部材は、中空部に配されている端面を有した円柱部を具備しており、設定手段は、ラックガイド本体に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材に埋設されて押圧部材の端面に向かって延びた突起と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項6】
弾性変形自在部材と押圧部材との間に介在された剛性板を更に具備している請求項1から5のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項7】
ラックガイド本体、弾性変形自在部材及び押圧部材の夫々は、樹脂製である請求項1から6のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項1】
ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドとを具備しており、ラックガイドは、ラックバーに摺動自在に接触する凹面を有すると共にラックバーに向かう押圧力を受ける受圧面を有したラックガイド本体と、このラックガイド本体の受圧面側に配された弾性変形自在部材と、この弾性変形自在部材にラックバーに向かう押圧力を与える押圧部材と、この押圧部材により弾性変形自在部材へ与えられる押圧力を設定する設定手段とを具備しており、弾性変形自在部材は、押圧部材からのラックバーに向かう押圧力により弾性変形して押圧力の方向に対して直交する方向に膨出するように、ラックガイド本体と押圧部材との間に配されており、ラックガイド本体及び弾性押圧部材はギヤケースに対して隙間をもってギヤケース内に配されており、弾性変形自在部材は、付与されたラックバーに向かう押圧力による膨出でギヤケースの内面に接触するようになっているラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
設定手段は、ギヤケースの段部と、この段部に接触する押圧部材の段部と、押圧部材をギヤケースの内面に螺合させる螺合部とを具備している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の小径内面で規定された小径の中空部と、この小径の中空部に隣接すると共に円筒状の大径内面で規定された大径の中空部とを具備しており、押圧部材は、小径の中空部に配されると共に小径外面を有した小径円柱部と、この小径円柱部に隣接すると共に大径の中空部に配される大径外面を有した大径円柱部とを具備しており、ギヤケースの段部は、小径内面と大径内面との間に介在しており、押圧部材の段部は、小径外面と大径外面との間に介在しており、螺合部は、大径内面と大径外面との間に介在している請求項2に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定される中空部と、この中空部の一端が開口している端面とを有しており、押圧部材は中空部に配される円柱部を有しており、設定手段は、円柱部に一体的に設けられていると共に端面に接触する環状の側面を有した鍔部と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
ギヤケースは、ラックガイド本体及び弾性変形自在部材を収容すると共に円筒状の内面で規定された中空部を具備しており、押圧部材は、中空部に配されている端面を有した円柱部を具備しており、設定手段は、ラックガイド本体に一体的に設けられていると共に弾性変形自在部材に埋設されて押圧部材の端面に向かって延びた突起と、押圧部材をギヤケースに螺合させる螺合部とを具備しており、螺合部は、円筒状の内面と円柱部の円筒状の外面との間に介在している請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項6】
弾性変形自在部材と押圧部材との間に介在された剛性板を更に具備している請求項1から5のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項7】
ラックガイド本体、弾性変形自在部材及び押圧部材の夫々は、樹脂製である請求項1から6のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−76405(P2006−76405A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261540(P2004−261540)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】
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