説明

リアクタ制御

本発明は、バレル内にあるスクリューを含む液相リアクタであって、前記スクリュー及び前記バレルは、相対的に回転可能であり、それらの間に混合ゾーンを規定しており、前記バレルは、前記バレル中で混合する成分を導入するための少なくとも2つの入口と、混合した生成物を前記バレルから排出するための出口と、を有しており、前記スクリューは螺旋溝を含み、それにより、前記スクリューと前記バレルの相対的な回転は、前記成分の混合中に前記スクリューと前記バレルとの間で前記成分を軸方向に輸送すること、及び前記出口を通って前記生成物を押し出すことに適しており、前記リアクタは、前記リアクタの操作中に、前記バレル中への成分の実質的に一定の流量比を達成するのに適していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液相リアクタに関する。特に、本発明は、極めて均一で再現可能(repeatable)な組成物を製造するのに適した液相処理用の連続フローリアクタ(continuous flow reactor)に関する。本発明はまた、そのようなリアクタ内で液相反応を行うためのプロセスと、そのプロセスにより形成された生成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人が所有する国際特許公報WO 02/076609(及び、本技術分野における類似デザインの他のリアクタ)は、バレル内に垂直配向で備えられたスクリューを含んだ液相リアクタについて記述している。スクリューとバレルは、相対的に回転可能である。明細書の図面に図示された実施態様では、バレルは、例えば反応物などの個々の成分をバレルに導入するための複数の入口を含んでいる。スクリューは、少なくとも1つの螺旋溝を有し、スクリューとバレルとの相対的な回転により、スクリューとバレルとの間で成分を軸方向に輸送し、それにより成分の混合を容易にする。操作中、成分はそれぞれの入口を通って投入される。
【0003】
出願人の国際特許公報で教示されているリアクタの使用により、生成物の均一性及び生産速度の点から許容できる結果をもたらすことが見いだされている。しかしながら、以下に説明する理由により、特にリアクタの生成物の均一性に関して、改善の余地がある。
【発明の概要】
【0004】
複数成分の混合(及び可能な反応)が必要な場合、個々の成分は、それぞれの入口を通ってバレルに供給(delivered)される。バレルに入る個々の成分の流速が、混合用成分の相対比率を決定するだろう。化合物が互いに反応性である場合、流速は反応化学量論に影響を及ぼすだろう。しかしながら、バレル入口を通る成分の流速が、スクリューにより提供された環境(environment)により、入口でかけられた背圧の影響を受けることが見いだされた。
【0005】
簡潔に述べれば、そしてスクリューは螺旋溝を含んでいることに注目すれば、スクリュー/バレルが相対的に回転すると、溝が入口に隣接したときに入口からスクリューの溝内に(成分が)供給(feed)され、ランド(lands)が入口に隣接したときに入口からランド上に供給されるだろう。もちろん、スクリュー/バレルが回転すると、これら2つの可能性の間の状態がある。このことによる効果は、バレルに対するスクリューの360°回転にわたって、入口でかけられる背圧が変わることである。次に、背圧のこの変化は、(成分の投入速度が一定であると仮定したときに、)バレルに入る関連成分の流速に変化をもたらす可能性がある。ここで、この効果が各成分の入口に生じて、その結果として、バレルに入る成分の流速は一定のままではなくなるだろう。そしてそのことが、物理的な混合物又は反応生成物である、製造された生成物(product)の均一性に対して影響を与えるだろう。
【0006】
個々の成分の流速の変化、及び生成物の特性に対して影響を与える結果は、所定の状況では許容される可能性がある。しかしながら、この効果は、非常に高度な均一性を有する生成物を製造するのを阻む。とある用途、例えば電解質層の製造を対象としたスラリーの調製において、生成物の成分の変化は、製造される電解質中の特性に不利な変化をもたらす可能性がある。
【0007】
この背景に対して、記載されてきた不利を受けない液相リアクタを提供するのが望ましいだろう。
【0008】
従って、ある実施態様によれば、本発明は、バレル内にあるスクリューを含む液相リアクタであって、スクリュー及びバレルは、相対的に回転可能であり、それらの間に混合ゾーンを規定しており、バレルは、バレル中で混合する成分を導入するための少なくとも2つの入口と、混合した生成物をバレルから排出するための出口と、を有しており、スクリューは螺旋溝(spiral groove)を含み、それにより、スクリューとバレルの相対的な回転は、成分の混合中にスクリューとバレルとの間で成分を軸方向に輸送(transport)すること、及び出口を通って生成物を押し出すことに適しており、リアクタは、リアクタの操作中に、バレル中への成分の実質的に一定の流量比を達成するのに適していることを特徴とする液相リアクタを提供する。
【0009】
本発明によれば、バレル内への一定の流量比(a constant flow ratio)を達成できるように、液相リアクタは、成分の供給中及びスクリューの回転中の、入口おけるバレルへの背圧の影響が最小になるように、好ましくは完全に無効にされる(すなわち、背圧の影響を全く受けない)ように、特にデザインされ及び/又は操作される。これにより、一定比率でのコンポーネントの混合と、その結果としてさらに高い生成物の均一性、リアクタのプロセス実行中に再現可能な結果物(repeatable results)を用いて製造される生成物、及び生成物の特性をよりよい制御、が可能になる。
【0010】
本発明は、スクリューとバレルの相対的な回転中の、成分の入口における背圧の変化は、リアクタのバレル中への成分の流速の不利益な変化をもたらす可能性がある、という完全な理解の中に存在し、また一般論として、本発明は、そのような背圧の影響を緩和すること、好ましくは完全に回避することを意図した1つ以上の特定のデザイン/操作の態様を含んでいる。本発明は、背圧が生成物の均一性に対して影響を与える限りにおいては、この背圧の問題の最初の認識であり、そして、そのような問題を解決しようとする最初の試みであると考えられている。
【0011】
本発明はまた、本発明の液相リアクタを用いて成分を混合又は均一化するための方法であって、成分をそれぞれの入口を通ってバレル中に導入する工程と、スクリューとバレルとを相対的に回転させて、スクリューとバレルの間で成分を軸方向に輸送中に混合及び/又は均一化を達成する工程と、出口を通って生成物を排出する工程と、を含むことを特徴とする方法も提供する。
【0012】
本発明はさらに、本発明の方法の実施(つまり、本発明のリアクタを用いること)によって成分を混合及び/又は均一化することで形成された生成物も提供する。
【0013】
<図の検討>
本発明の実施態様は、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、2つの入口を含む従来の液相リアクタに入る入口における一定圧力下での流れの変化を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明に係るリアクタに入る入口における流れの変化を示すグラフである。
【図3】図3は、実験室スケールの環状リアクタの部分断面図である。
【図4】図4は、背圧補正を実行する前の(ジルコニウム対イットリウムの反応物流れの比率としての)反応物流れの変化を示すフローコントロール(流れ制御)ディスプレイ画面の写真である。
【図5】図5は、背圧補正を実行した後の(ジルコニウム対イットリウムの反応物流れの比率としての)反応物流れの変化を示すフローコントロール(流れ制御)ディスプレイ画面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、スクリューとバレルとを相対的に回転させたときの、液相リアクタのバレル中への成分の流量比(flow ratio)に対する背圧の問題のある影響を都合よく表している。成分は、一定圧力で、それぞれの入口を通って供給される。成分の平均流速は、それぞれ100ml/分及び500ml/分であるが、グラフが示すように、いずれかの時点における実際の流速は、スクリューとバレルとの相対的な回転(「リアクタ・ローター角度」として角度表示されている)に応じて変化する。これは、スクリューによって入口に存在している環境により、スクリュー/バレルの回転時にそれぞれの入口にかけられた背圧が変化するためである。このような背圧の変化は、成分の実際の流速を変動させる。次いで、実際の流速のこのような変化は、成分の流量比の著しい変動をもたらす。所定の平均流速では、この比は、好ましくは、5:1(つまり500/100)の値に又はその値近くに維持されるべきである。また、流量比の変化の結果は、いかなる時点においても、混合に利用可能な成分の比に基づいて、生成物の特性もまた変化するであろう、ということである。理想的には、生成物の特性は均一に維持されるべきである。
【0016】
流れモデルを用いて圧力変化をローター角度の関数として計算し、そして、これらの圧力変化を、それぞれ100cc/分及び500cc/分の全体流れを用いて流れ関数(flow fluctuations)に変換した。これらの変化は、プラントのコントロールパネル上のフローディスプレイ画面(flow display screen)上で視認できる(図4及び図5を参照)。図4では、反応物供給の実際の比率は、図5に比べてより著しく変化する。
【0017】
図1及び図2は、有限要素モデル(FEM)計算から導かれ、ミキサーへの試薬流(reagent flow)の変化を見積もるために実行された。これは、混合容積を多数の小要素(small elements)(リアクタの幾何学形状に沿ってメッシュを規定する)としてモデル化することと、試薬流のこのモデルを解くことと、を含んでおり、それらは粘性流体として表されていた。モデルは、ローターの螺旋溝、オリフィスの幾何学形状、場所及びサイズを含んでおり、そして、流体の粘度は位置に応じて変化して、ミキサー(溝とランド領域)内での化学反応による変化を表していた。
【0018】
試薬流は(背圧のために)ローターの角度位置に極めて敏感であり、ミキサーが回転したときに試薬の供給の変動をもたらすことがわかった。イットリウムとジルコニウムの化学流(chemical flow)の間の比率の大きな変化は、最終的な粉末生成物の組成の変化をもたらす。流れ変化が最小のロバストな(堅固な)操作体制を特定する目的で、試薬供給経路内における形成された変化する背圧(created varying backpressure)を打ち消すような流れ狭窄(flow constrictions)の内包物もまたモデル化された。
【0019】
本発明の実施態様において、リアクタの操作中に成分の供給を背圧の変動から鈍感にする(すなわち、背圧の変動に影響を受けにくくする)ために、バレル中への成分の供給用の入口オリフィスは、所定の「過圧(overpressure)」を与えるようにデザインされている。
【0020】
この実施態様の基礎は、提案された操作条件下(流速、成分の濃度及び粘度を含む)において、圧力降下が入口の排出口(the outlet of the inlet)(オリフィス)で発生するように、バレルへの入口をデザインすることを含んでいる。この「過圧」は、スクリュー及びバレルが相対的に回転するときに、背圧の影響を軽減すること、好ましくは完全に無効にすることを意図している。この場合、「過圧」は、典型的には、リアクタの操作中に観察されるであろう最大の背圧と等しいか、好ましくは最大の背圧より大きい。背圧は、オリフィスのサイズ及び幾何学形状を用いて計算することができる(上述のFEM計算を参照)。高周波で変化する(シリンダーの回転速度)ため、圧力変化の値を測定するのは難しいが、フローメーターディスプレイ(flow meter display)(各流れのフローメーターで測定されたイットリウムとジルコニウムの化学流の比率を示している)上の「ノイズ」の振幅は、質的な評価を可能にする(図4及び図5を参照)。
【0021】
当業者は、必要に応じて、所定の入口と成分プロファイルとに関する圧力降下を決定し、操作することができる。
【0022】
例示として、仮定される(assumed)生成物密度は、1.1g/ccであり、反応物の粘度は、炭酸塩で10CPs(19.8℃)、硝酸塩で5CPs(14.4℃)(Brookfield社の粘度計、スピンドル#1)である。流れモデルにより、正方形(円形)のオリフィスは、流速100ml/分では直径1.03mmで、及び流速500ml/分では直径2.31mmで、5kPaの圧力降下を与えると予測される。これらの計算から、スラリーからの混合物の組成は粘度が200ポアズ(23℃)であることも仮定される。
【0023】
マスフローコントローラ(mass flow controllers)が平均流れ(平均流速)を制御するので、正確なオリフィスのサイズは必須ではないだろう。したがって、
100ml/分の流れの中にある1mmのオリフィスは、約6.4kPaの「過圧」を与えるだろう。
500ml/分の流れの中にある2.5mmのオリフィスは、約4.3kPaの「過圧」を与えるだろう。
500ml/分の流れの中にある2.38mm(3/32インチ)のオリフィスは、約3.6kPaの「過圧」(少し低すぎる)を与えるだろう。
【0024】
本発明の本実施態様では、それぞれの入口における背圧の影響を軽減、好ましくは完全に無効にするのに十分な大きさの圧力降下が提供されるそれぞれの入口での正確な「過圧」を達成する必要はないだろう。
【0025】
図2は、本発明の本実施態様に従って達成できる流量比制御の改善を示す。回動速度の影響はほとんどないように見えるが、その一方、圧力変化は、リアクタ入口のオリフィス「過圧」の前の溝及びランドの移動(「シャッター効果」)によって形成されるので、入口位置の影響はあるように見える。
【0026】
(圧力降下の変化による)背圧補償(compensation for back pressure)の原理は、通常は、溝及びランドの幾何学的形状及びサイズと、流入する液体及び流出する生成物の粘度とを含む他の操作パラメータに適用する。
【0027】
図2からわかるように、図2の瞬間的な流量の変化は、図1の範囲よりもずっとより少ない範囲であり、その結果、流量比は本質的に一定(約5:1)のままである。
【0028】
本実施態様では、入口オリフィスの上流の供給圧力(delivery pressures)が著しく変動することがわかり、一定の供給圧力を維持するためにアキュムレーターが導入されてもよい。
【0029】
本実施態様(入口オリフィスによる制御)の代わりに、ニードルバルブ等を用いて、必要な背圧を補償してもよい。ニードルバルブ等は、成分の供給ライン及び入口に関係するだろう。ここでの目的は、バレル中への成分の一定の流れ(流量)が達成されるように、背圧の変動を回避することである。
【0030】
本発明の別の実施態様では、それぞれの成分の流速は、背圧効果を克服(overcome)するために変更されてもよい。本実施態様では、バレル中への成分の一定流速を可能な限り維持するために、瞬間的な流量は、背圧の関数として変化するだろう。本実施態様では、背圧効果を無効にする所望の結果を達成するために、流速を目標レベルに調節するためのマスフローコントローラを用いてもよい。しかしながら、本実施態様のあり得る制約(possible limitation)は、マスフローレギュレータ(mass flow regulator)が、背圧の変化に応じて成分の流れ(流量)を変更する能力を有していなければならない、ということである。このことから、スクリューとバレルの高速の相対的な回転速度が困難であることがわかるだろう。高速の相対的な回転速度では、マスフローレギュレータは、背圧の変化に高速で応答する必要があるだろう。
【0031】
本発明の別の実施態様では、リアクタは、スクリューとバレルとが互いに相対的に回転するときに、背圧の変化を最小に、好ましくは回避するのに適している。これは、成分供給ラインに関連した(結合された)フロースルー背圧レギュレータ(flow-through back pressure regulator)を用いることにより達成できるだろう。ここでの目的は、成分の一定流量が達成されるように、背圧の変動を回避することである。
【0032】
別の実施態様では、成分の入口でかけられる背圧、もっと厳密に言えばその背圧の変化は、適切なスクリューデザインと、スクリューに対する入口の位置決めとにより、最小にされる又は完全に回避されるだろう。このように、もし入口に提供される環境が、スクリューとバレルが相対的な回転したときに本質的に一定であるならば、かけられた背圧は、(定常状態の操作条件下で)本質的に一定のはずである。
【0033】
例として、本実施態様では、成分の入口は、スクリューの全360°回転(full 360° rotation)にわたって、スクリューのランド上に成分を供給してもよい。言いかえれば、入口は、どの時点(at any point)でも、スクリューの溝又は溝状部分(groove portion)の中に成分を供給しない。このような配置(arrangement)は、螺旋溝とランドの適切なデザインによって達成されてもよい。本実施態様では、溝のピッチに関するスクリューのデザインは、スクリューの軸方向の長さ(axial length)に沿って変化してもよい。
【0034】
別の例では、入口は、円周溝(circumferential groove)(つまりゼロピッチの溝)に隣接して位置決めされ、そして成分をこの溝に供給してもよい。スクリューが対面した(viz-a-viz)入口の環境を回転すると、この溝は本質的に一定になり、そしてかけられているこの背圧も、本質的に一定になる。この場合、螺旋溝はスクリュー上に提供されてもよく、螺旋溝は、円周溝からの成分を、その2つ(螺旋溝と円周溝)の間に延在する供給溝(feeder groove)によって受容する。供給溝と円周溝との接触(meeting)によって入口に存在する環境は、円周溝の残りの部分(remainder)によって入口に存在する環境に比べて多様性(a point of diversity)を示すだろう。このことが背圧の変動を引き起こすであろうが、これは従来の螺旋溝で経験したであろう影響よりも著しく少ないだろう。
【0035】
本願明細書に記載された実施態様は、個々に又は組合せて適用することができる。通常、1つ以上の実施態様が、本発明のリアクタに関連した成分の入口の各々に適用される。
【0036】
本発明のリアクタで用いられるスクリューの特徴に関して、螺旋溝の間のランドの表面積は、一般に、混合ゾーン内にあるスクリューの表面積の少なくとも50%である。好ましくは、及び成分の特徴を考慮して、混合中に成分に与えられる乱流は少なくとも約25000レイノルズ数(R)であり、より好ましくは25000〜100000Rである。
【0037】
本発明の液相リアクタは、多相液体の処理に特に適しているが、スラリーの混合及び/又は均一化に(有利には、リアクタ中の成分に高い乱流を達成するのに十分な回転速度で)用いることもできる。
【0038】
ある実施態様では、本発明のリアクタは、液相反応を行うために用いることもでき、それにより、リアクタに導入されてそこで混合された成分は、化学的に反応する。このように、別の本発明によれば、本発明に係るリアクタの中で液相反応を行うための方法を提供し、その方法は、成分を2つ以上の入口を通ってリアクタの混合領域に導入する工程と、スクリューとバレルとを相対的に回転させて、成分を混合する工程と、混合した成分を反応させて生成物を生成する工程と、出口を通って生成物を排出する工程と、を含んでいる。
【0039】
ある実施態様では、生成物をリサイクル(再循環:recycling)するために、本発明のリアクタの出口は、1つの入口又は複数の入口の1つに接続されるか又は連結可能にされている。
【0040】
別の実施態様では、螺旋溝によってバレルの壁に規定された表面積は、スクリューによって混合ゾーン中のバレルの壁に規定された全表面積(overall surface area)よりも相当小さい。
【0041】
リアクタの混合ゾーンの容積は、スクリューのランドとバレルの壁との間の環状の容積の隙間(隙間の容積、隙間容積)と、螺旋溝の容積(溝の容積、溝容積)との合計である。通常、混合ゾーンは、少なくとも1つの入口と排出用出口との間に、軸方向に延在すると考えられるだろう。溝容積はできるだけ小さく、さらに、混合/反応する成分及び/又は生成物を、混合ゾーンを通って輸送するのに依然として効果的であるのが好ましい。しかしながら、隙間容積の好適な浅さのために、溝容積は、混合ゾーンの容積の少なくとも50%を含む可能性がある。隙間容積に対する溝容積(溝容積:隙間容積)の最大の比率は、好ましくは約5:1であり、より好ましくは約3:1である。
【0042】
好ましくは、溝容積は、スクリューの全容積より相当小さく、例えば1:10〜1:50の範囲である。リアクタの実験室スケールでの実施態様では、リアクタのスクリューの半径は約15mm、螺旋溝の深さは約1〜3mm、隙間容積の深さは約0.01〜3mm、好ましくは0.05〜0.5mm、全混合ゾーンの容積は約0.5〜10cmの範囲にすることができる。比較的小さい溝容積と狭い隙間容積との結果として、リアクタは、高品質で均一なスラリー生成物を連続的に製造することができる。隙間容積における成分中又は生成物中の固体の破砕作用(grinding action)は、均一な生成物を達成するのを大いに役立つ。
【0043】
螺旋溝の有効な容積、深さ、ピッチ、及び長さと、スクリューの幾何学的形状とは、一般に、例えば、生成物の品質及び生産速度に影響を及ぼす滞留時間及び乱流などの処理パラメータを決定する、と理解されるだろう。リアクタのこれらの態様は、最適化されて、リアクタ中で行われる混合の臨界パラメータに適応させる必要があるだろう。
【0044】
有利には、排出出口は、バレルの軸上でバレル内部に開口しており、好ましくは、隙間容積は、スクリュー及びバレル壁の筒状部分と排出出口との間が丸く(rounded)(例えば、部分球状(part-spherical))にされている。
【0045】
リアクタは垂直姿勢(vertical position)、水平姿勢(horizontal position)、又は傾斜状態で操作することができる。重力がシーリングと大量輸送とに有益に影響を及ぼすように、好ましくは、リアクタは、最下端に排出出口を備えた垂直姿勢で操作される。スクリューは、約100〜約10000rpm、好ましくは500〜2000rpmで回転して、所望の乱流を達成する。好ましい回転速度は、大きなバッチ式リアクタにおいて同程度の高い乱流混合を達成するのに必要とされる回転速度(典型的に2000rpmを越える)よりも低い。これは、本発明のリアクタの固定操業コストを下げるのに役立つ。
【0046】
本発明のリアクタの有効な輸送容積又は混合ゾーンは、バッチ式リアクタよりも著しく少なくすることができ、比較的少量の生成物が必要な場合にかなりの利点をもたらす。典型的には、本発明のリアクタを用いた生産速度(生成物スループット)は0.25〜0.75kg/時であり、好ましくは約0.5kg/時である。
混合は常温又は高温で行うことができる。
【0047】
反応工程では、反応用の個々の成分は、それぞれの入口を通ってバレル中に導入することができる。溶媒、触媒、減速剤、及び/又は担体を添加して、混合及び反応を制御又は補助してもよい。
【0048】
リアクタ中の滞留時間は従来のバッチ式リアクタよりも通常は短く、反応速度が迅速であることを必要とする。しかしながら、達成された反応が不完全又は不十分な場合には、得られた生成物を、2回目の又は次の処理のためにリアクタに戻す(feed back)ことができる。必要なリサイクル率は、主に反応速度によって決定される。
【0049】
リアクタ中で成分を反応させる温度は、成分、その濃度及び他の要因によって、常温〜500℃以上にすることができる。加熱は、反応により、1つ以上の反応成分を加熱することにより、及び/又は、バレル及び/又はスクリューを加熱することにより、達成することができる。任意で、リアクタは冷却されてもよい。
【0050】
本発明のリアクタは、固形生成物のスラリー前駆体を含むスラリー生成物を製造することができる。得られた生成物は、沈殿物、共沈物、又はゾルーゲルであってもよく、より好ましくは、均一濃度で高品質な前駆体粉末である。生成物は、無機物、有機物又はそれらの混合物にすることができる。
【0051】
好ましい実施態様では、本発明のリアクタは、粉末沈殿用(powder precipitation)に用いられる。リアクタ中で行われる典型的な反応は、沈殿(precipitations)と共沈(co-precipitations)である。これらの反応及び他の反応は、前駆体固形生成物(例えば、単純な酸化物、多成分酸化物、混合酸化物又はそれらの混合物の不溶性無機前駆体で、均一性と高い分散性とを有するもの)を製造することができる。そのような反応生成物は、次のプロセス用(例えば、セラミック部品に焼結させるための)の、均一で、高分散性で、高反応性の粉末をもたらすことができる。
【0052】
本発明の実施態様は、例示だけの目的で、次の実施例と添付の図面を参照して記述される。実施例と図面は、決して、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0053】
図面は、実験室スケールの環状リアクタの部分断面図である。図は、バレル又はシリンダー14の中に回転可能に支持されたスクリュー12を有するリアクタ10を示している。スクリュー12の回転軸は垂直である。スクリューは、丸みのある部分球状の下端34を有しており、シリンダー14は、プラグ状(栓状)で(スクリューに対応して)同様に形作られた下端16(回転軸上に出口18と備えている)と、閉鎖された上端38とを有している。反応用の成分は入口20、22を通ってリアクタ10に供給され、そして、排出出口18からのリサイクル材料(再循環材料)は入口36を通って導入されてもよい。入口20、22は、軸の長さの途中まで下がった辺りで互いに対向しており、また、リサイクル材料用の入口36は、スクリュー12の頂部24と、入口20、22との間に配置される。
【0054】
スクリューの筒状部分は、スクリューが回転したときに成分を軸方向に輸送し且つ成分を乱流で混合するために、表面螺旋溝26を備えている。スクリュー12とシリンダー14との間の隙間容積28、32は、溝容積と結合して混合ゾーンを規定し、隙間容積中での固体の破砕は、均一な生成物の形成に大いに役立つ。図示されたリアクタ10では、隙間の容積は、約0.1mmの深さを有している。溝26の容積及び深さは、スクリュー12の容積及び半径に比べて相当に少なく、溝の深さが約2mmであるのに対して、スクリューの半径は約15mmである。溝26によってシリンダー14の内壁30上に規定された表面積は、溝部分の間のランド面積より相当小さく、スクリュー12によってシリンダー14の内壁30上に規定された全表面積の10%未満を形成する。溝26の容積と隙間の容積28との比率は、約2:1ある。図示されたような実験室スケールのリアクタ10の反応ゾーンの容積は、約1.5cmである。生産規模のリアクタは、相当大きいだろう。図3に大まかに図示されたリアクタは、本質的に一定な成分の流量比を要望通りに達成するために、本明細書に記載された本発明のいずれかの実施態様の1つ以上を含むように構成されている。
【0055】
本発明は、イットリウムと硝酸ジルコニウムとの反応によりイットリア安定化ジルコニア粉末を製造するのに、特に好適である。粉末の形成において、反応物が混合される化学量論は、生成物の特性に重要な意味(critical)を持つ。例えば、望ましくは、8mol%イットリア−ジルコニアの生成物は、本発明のリアクタを用いて共沈する。生成物は、ろ過可能な均一のスラリーの形態をとり、結果として得られた粉末状前駆体は、仮焼されて生成物粉末にされた。後者(生成物粉末)は、固体電解質型燃料電池で使用される電解質層を形成するのに有用である。
【0056】
本発明によれば、ランタン硝酸塩、ストロンチウム硝酸塩、及びマンガン硝酸塩の混合溶液から、共沈によってペロブスカイト組成物(perovskite complosion) La0.8Sr0.2MnOを製造することも望ましであろう。ろ過、乾燥及び仮焼(calcination)の後に、均一な単相ペロブスカイトが得られるだろう。
【0057】
本発明のリアクタはまた、塗料及びインクなどのスラリーの混合/均一化/希釈のために用いることもできる。
【0058】
本明細書におけるいかなる先行文献(又はそこから導かれる情報)又は既知のいかなる事項の言及も、確認するものとして、又は承認するものとして、又はそれらの先行文献(又はそこから導かれる情報)又は既知の事項が本明細書の関連する技術分野の努力において一般的な周知事実を構成しているという示唆の形態として、受け入れない又は受け入れるべきではない。
【0059】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、文脈上で他の意味に解釈すべき場合を除いて、「含む(comprise)」という単語、及びその変形の「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」は、定まった完全体又は工程(stated integer or step)又は完全体又は工程の集合(group of integers or step)を包含する意味であると解されるであろうが、しかし、他のいかなる定まった完全体又は工程や完全体又は工程の集合をも排除するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バレル内にあるスクリューを含む液相リアクタであって、
前記スクリュー及び前記バレルは、相対的に回転可能であり、それらの間に混合ゾーンを規定しており、
前記バレルは、前記バレル中で混合する成分を導入するための少なくとも2つの入口と、混合した生成物を前記バレルから排出するための出口と、を有しており、
前記スクリューは螺旋溝を含み、それにより、前記スクリューと前記バレルの相対的な回転は、前記成分の混合中に前記スクリューと前記バレルとの間で前記成分を軸方向に輸送すること、及び前記出口を通って前記生成物を押し出すことに適しており、
前記リアクタは、前記リアクタの操作中に、前記バレル中への成分の実質的に一定の流量比を達成するのに適していることを特徴とする液相リアクタ。
【請求項2】
前記液相リアクタは、前記成分の供給中及び前記スクリューの回転中の、前記入口の少なくとも1つにおける前記バレルへの背圧の影響が、最小又は完全に無効にされるように、デザインされ及び/又は操作されることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項3】
前記リアクタの操作中に前記成分の供給を背圧の変動から鈍感にするために、前記バレル中への成分の供給用の前記入口の少なくとも1つは、所定の過圧を与えるようにデザインされていることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項4】
少なくとも1つの入口は、流速、成分の濃度及び粘度を含む提案された操作条件下において、圧力降下が前記少なくとも1つの入口の排出口で発生するようにデザインされていることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項5】
前記圧力降下は、前記リアクタの操作中に観察されるであろう最大の背圧と等しいか、又は前記最大の背圧より大きいことを特徴とする請求項4に記載の液相リアクタ。
【請求項6】
前記液相リアクタは、少なくとも1つの入口を通して導入される成分の一定の供給圧力を維持するために、前記入口の少なくとも1つに結合されたアキュムレーターを含むことを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項7】
前記液相リアクタは、前記バレル中への少なくとも1つの成分の一定流量が達成されるように、背圧の変動を回避するためのニードルバルブを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項8】
背圧効果を克服するために、それぞれの成分の流速は変更できることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項9】
前記バレル中へのそれぞれの成分の一定流速を可能な限り維持するために、前記流速は、背圧の関数として変更されることを特徴とする請求項8に記載の液相リアクタ。
【請求項10】
前記背圧効果を無効にする所望の結果を達成するために、前記流速を目標レベルに調節するためのマスフローコントローラを用いることを特徴とする請求項9に記載の液相リアクタ。
【請求項11】
前記液相リアクタは、成分の一定流量が達成されるように、背圧の変動を回避するための、前記リアクタの少なくとも1つの入口への成分供給ラインに結合されたフロースルー背圧レギュレータを含むことを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項12】
少なくとも1つの入口における背圧は、適切なスクリューデザインと、前記スクリューに対する前記少なくとも1つの入口の位置決めとにより、最小にされる又は回避されることを特徴とする請求項1に記載の液相リアクタ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの入口に提供される環境は、かけられた前記背圧が定常状態の操作条件下で本質的に一定になるように、前記スクリューと前記バレルが相対的な回転したときに本質的に一定であることを特徴とする請求項12に記載の液相リアクタ。
【請求項14】
少なくとも1つの入口は、前記スクリューの全360°回転にわたって、前記スクリューのランド上に成分を供給することを特徴とする請求項12に記載の液相リアクタ。
【請求項15】
少なくとも1つの入口は、円周溝に隣接して位置決めされており、供給成分は、前記少なくとも1つの入口を通してこの円周溝に供給されることを特徴とする請求項13に記載の液相リアクタ。
【請求項16】
螺旋溝は前記スクリュー上に提供されており、前記螺旋溝は、前記円周溝からの成分を、その2つの間に延在する供給溝によって受容することを特徴とする請求項15に記載の液相リアクタ。
【請求項17】
請求項1に記載の液相リアクタを用いて成分を混合又は均一化するための方法であって、
前記成分をそれぞれの入口を通って前記バレル中に導入する工程と、
前記スクリューと前記バレルとを相対的に回転させて、前記スクリューと前記バレルの間で前記成分を軸方向に輸送中に混合及び/又は均一化を達成する工程と、
前記出口を通って前記生成物を排出する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法の実施によって成分を混合及び/又は均一化することで形成された生成物。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−524798(P2011−524798A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511939(P2011−511939)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000709
【国際公開番号】WO2009/146501
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(500101988)セラミック・フューエル・セルズ・リミテッド (12)
【Fターム(参考)】