説明

リサイクル材を使用した多層射出圧縮成形法及び成形品

【課題】 再生熱可塑性樹脂を製品へ再利用するに際し、良好な外観で、充分な機械強度を保ちつつ、再生熱可塑性樹脂材料の使用比率の向上を図る。
【解決手段】 未使用熱可塑性樹脂材料、及び再生熱可塑性樹脂材料を利用した多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生した熱可塑性樹脂を製品へ再利用するための、成形法及び成形品に関するものである。
【0002】
特に、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生樹脂材料を利用した多層成形法で、未使用の樹脂材料、又は再生した熱可塑性樹脂材料で形成される少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法及び成形品に関する。
【0003】
又、本発明は、熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕処理して、該粉砕した樹脂材料のまま射出成形加工の樹脂原料とする技術に関する。
【0004】
さらに本発明は、複写機、プリンターなどの画像形成装置、ファクシミリ、コンピュータなどの情報通信機器、家庭電化機器等に使用されているプラスチック樹脂材料のリサイクル技術に関する。
【背景技術】
【0005】
市場から回収された製品は、従来は分解され焼却または埋め立てにより処理されて来た。
【0006】
また、環境問題が意識されるようになると、これらのプラスチック部品を粉砕リペレット化して未使用樹脂材料同等レベルにする技術等により再利用が行われている。すなわち、これらの材料に対するリサイクル方法として、成形品を粉砕、洗浄、再ペレット化を行った後、未使用樹脂材料と上記の使用済みの樹脂材料とを一定の割合で混合して物性を回復する処置を講じて使用する方法が提案されている。また、2種類の樹脂材料を成形用金型のキャビテイに射出してコア層を構成する樹脂成形部分と、スキン層を構成する樹脂成形部分とから成るサンドイッチ構造の射出成形法に代表されるような多層構造を利用した再生方法がある。再生熱可塑性樹脂を利用したこれらの技術については、特許文献1乃至4がある。
【特許文献1】特開2002−86491号公報
【特許文献2】特開平5−301222号公報
【特許文献3】特開平5−147036号公報
【特許文献4】特登録3031357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現状ではこれらの再生法では再生した熱可塑性樹脂の使用率が30%程度と低く、再生した熱可塑性樹脂を一つの成形品に多量に使用することは出来ない。一方、再生した熱可塑性樹脂100%の成形品では、複写機、プリンター、ファクシミリ等の、画像形成機器、情報通信機器の構成部品である、外装品、筐体、機構部品に対し充分な外観・機械強度が確保されていない。
【0008】
本発明の課題は、再生熱可塑性樹脂を使用した部品の外観性を改善する場合の、成形法及び成形品に関するものである。
【0009】
又、本発明の課題の他の1つは、再生した熱可塑性樹脂を使用した部品の機械強度を改善する場合の、成形法及び成形品に関するものである。
【0010】
又、本発明の課題の他の1つは、再生した熱可塑性樹脂を使用した部品の部品肉厚を改善する場合の、成形法及び成形品に関するものである。
【0011】
又、本発明の課題の他の1つは、再利用する樹脂成形品を粉砕処理した粉砕材料を使用することにより再利用する樹脂材料の熱履歴による物性劣化を避けると共に、更に部品の外観性・機械強度、部品肉厚の改善を提案するものである。
【0012】
これらは、前記した複写機、プリンター、ファクシミリ等の、画像形成機器、情報通信機器の構成部品である、外装品、筐体、機構部品などの平板構造から構成している。
【0013】
そして、このような筐体部は外観性・機械的強度を保証する必要があるが、100%の再生材を使用すると、再生材の物性値の劣化により前記機能部の機能保証を得ることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するために、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生材料を利用した多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する事を特徴とする成形法を提案する。本発明における第1の様態は、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生した熱可塑性樹脂材料を利用した多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法である。この多層成形法において表層部を未使用の熱可塑性樹脂で射出圧縮成形を行い、再生した熱可塑性樹脂材料を表層にした成形品よりも、外観が良好な成形品を供給できる。また、未使用の熱可塑性樹脂材料層を薄く成形する事によって、再生した熱可塑性樹脂材料の比率を向上する事が出来る。更に、再生した熱可塑性樹脂材料に未使用の熱可塑性樹脂材料層を構成させる事で、機械強度の強化を図る事が出来る成形法及び成形品を提案する。
【0015】
本発明における第2の様態は、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を用いて成形し形成された多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法である。この多層成形法において、再利用する樹脂成形品を粉砕処理してリペレットしていない材料を使用することにより再利用する樹脂材料の熱履歴による物性劣化を避け、機械強度の改善を図る事が出来る成形法及び成形品を提案する。
【0016】
本発明における第3の様態は、未使用の熱可塑性樹脂材料、再生した熱可塑性樹脂材料、及び熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料が、同じ組成である多層成形品で少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法である。このことにより、再生した熱可塑性樹脂の劣化による流動値の増大により成形性が改善される事により前記再生樹脂からなる層を薄肉化でき、より肉厚の薄い成形品の供給が可能である。更に、同じ組成の材料による成形品の為、次のリサイクル使用の処理方法が容易である成形法及び成形品を提案する。
【0017】
更に、前記熱可塑性樹脂材料をPC+ABS樹脂材料とすることを特徴とした多層構造による樹脂成形品の強度改善を提案する。
【0018】
更に、前記熱可塑性樹脂材料をPP(ポリプロピレン)樹脂材料とすることを特徴とした多層構造による樹脂成形品の強度改善を提案する。
【0019】
また、前記樹脂成形品が事務機器、電気機器、情報通信機器等の外装部品、筐体部品又は構成部品であることを特徴とする。
【0020】
また、前記他の層の一部を構成する樹脂材料の原料は事務機器の外装品または事務機器の筐体、構成部品の樹脂成形品を粉砕加工処理した樹脂材料であることを特徴とする。
【0021】
更に、射出圧縮成形部の肉厚をtとしたときに、0.1mm≦t≦0.6mmであることを特徴とする。この肉厚により、色見の違い・ヒケ等に対しさらによい効果をあげ、外観性に優れた成形品の供給が可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に拠れば、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生した熱可塑性樹脂材料を利用した多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法により、良好な外観で、充分な機械強度を保ちつつ、再生した熱可塑性樹脂材料の使用比率の向上を図る事が出来た。
【0023】
また、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を成形して形成された多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する事を特徴とした多層構造の樹脂成形品により、熱履歴による物性劣化をおさえ、再生熱可塑性樹脂材料の使用率が高く、更にリペレット工程を経ない低コストで成形品の強度アップを図ることができた。
【0024】
また、再生樹脂が未使用の樹脂と同じ組成の材料による成形品の場合、次のリサイクル使用の処理方法が容易になった。
【0025】
又、前記樹脂成形法及び成形品は事務機器、電気機器、情報通信機器等の外装部品または筐体部品とすることにより環境問題への解決点を提案できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して本発明の好適な実施態様について説明する。以下においての評価方法は下記のとおりである。
シャルピー衝撃試験:JISK7111 に順じた測定。
難燃試験 UL94燃焼試験に順じた試験。
【0027】
(実施態様1)
可動型30、固定型31及びそれに付随するコマからなる金型で、金型を閉じ且つ金型の型締め力を保持した状態で、金型内に射出シリンダー33より再生した熱可塑性樹脂20を射出した後、保圧をかけつつ溶融樹脂を冷却・固化させ第1層部を形成させる(図1−a)。但し、このとき第1層部を完全に固化させる必要は無い。
【0028】
次いで、可動型30を数ミリ後退させ停止後、新しく形成された固定型と第1層部の空間に、射出シリンダー32より、未使用の熱可塑性樹脂10を射出する(図1−b)。このときの樹脂量は、空き空間全てを充填する必要は無く、予め設定された量を射出する。また、可動型30と固定型31は、完全に型を閉じた状態から、上記型開き量より多くの勘合部、及びそれに相当する構造部を持ち、射出された樹脂のシール機能を有している。
【0029】
次いで、樹脂射出中又は射出終了後の射出された溶融樹脂が固化しないうちに可動型30を固定型31の方向に、予め設定された量だけ移動させ、射出シリンダー32から射出された溶融樹脂を圧縮する(図1−c)。
【0030】
次いで、冷却・固化させ第2層部を形成させた後、金型内から成形品を取り出す。
【0031】
ここであげた未使用の熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリアリレート樹脂およびアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)等があげられる。また、これらの樹脂に、ガラス繊維、タルク、難燃剤等が含有したもの、更にこれらの樹脂2つ以上からなるアロイ樹脂等があげられる。
【0032】
再生した熱可塑性樹脂とは、前記熱可塑性樹脂を成形後、何らかの方法で再利用する為の処理を施した樹脂である。成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を用いることも好適である。
【0033】
このように成形された成形品の断面を(図2−a)に記す。第2層部50の肉厚は0.5mmであり、その表面に、再生した熱可塑性樹脂が露出することなく、またひけも生じず、良好な外観が得られた。
【0034】
(実施態様2)
実施態様1同様の金型で、金型を数ミリ開いた状態で、可動型30と固定型31の空間に、射出シリンダー32より、未使用の熱可塑性樹脂を射出する。このときの樹脂量は、空き空間全てを充填する必要は無く、予め設定された量を射出する。また、可動型30と固定型31は、完全に型を閉じた状態から、上記型開き量より多くの勘合部、及びそれに相当する構造部を持ち、射出された樹脂のシール機能を有している。
【0035】
次いで、射出中又は射出終了後の射出された溶融樹脂が固化しないうちに可動型30を固定型31の方向に、予め設定された量移動させ、射出シリンダー32から射出された溶融樹脂を圧縮する。
【0036】
次いで、冷却・固化させ第1層部を形成させる。
【0037】
次いで、可動型30を数ミリ後退させ停止後、新しく形成された固定型31と第1層部の空間に、射出シリンダー33より、再生した熱可塑性樹脂を射出する。このときの樹脂量は、空き空間全てを充填する必要は無く、予め設定された量を射出する。また、可動型30と固定型31は、完全に型を閉じた状態から、上記型開き量より多くの勘合部、及びそれに相当する構造部を持ち、射出された樹脂のシール機能を有している。
【0038】
次いで、射出中又は射出終了後の射出された溶融樹脂が固化しないうちに可動型30を固定型31の方向に、予め設定された量移動させ、射出シリンダー33から射出された溶融樹脂を圧縮する。
【0039】
次いで、冷却・固化させ第2層部を形成させる。
【0040】
次いで、可動型30を数ミリ後退させ停止後、新しく形成された固定型と第2層部の空間に、射出シリンダー32より、未使用の熱可塑性樹脂を射出する。このときの樹脂量は、空き空間全てを充填する必要は無く、予め設定された量を射出する。また、可動型30と固定型31は、完全に型を閉じた状態から、上記型開き量より多くの勘合部、及びそれに相当する構造部を持ち、射出された樹脂のシール機能を有している。
【0041】
次いで、射出中又は射出終了後の射出された溶融樹脂が固化しないうちに可動型30を固定型31の方向に、予め設定された量移動させ、射出シリンダー32から射出された溶融樹脂を圧縮する。
【0042】
次いで、冷却・固化させ第3層部を形成させた後、金型内から成形品を取り出す。
【0043】
ここであげた未使用の熱可塑性樹脂、再生した熱可塑性樹脂とは、実施例1であげた樹脂と同等である。
【0044】
このように成形された成形品の断面を(図2−b)に記す。第3層部の肉厚は0.4mmであり、その表面に、再生した熱可塑性樹脂が露出することなく、またひけも生じず、良好な外観が得られた。
【0045】
(実施態様3)
実施例1と同様の金型で、金型を閉じ且つ金型の型締め力を保持した状態で、金型内に射出シリンダー33より再生した熱可塑性樹脂を射出した後、保圧をかけつつ溶融樹脂を冷却・固化させ第1層部を形成させる。但し、このとき第1層部を完全に固化させる必要は無い。
【0046】
次いで、可動型30を数ミリ後退させ停止後、新しく形成された固定型31と第1層部の空間に、射出シリンダー32より、未使用の熱可塑性樹脂を射出する。このときの樹脂量は、空き空間全てを充填する必要は無く、予め設定された量を射出する。また、可動型30と固定型31は、完全に型を閉じた状態から、上記型開き量より多くの勘合部、及びそれに相当する構造部を持ち、射出された樹脂のシール機能を有している。
【0047】
次いで、射出中又は射出終了後の射出された溶融樹脂が固化しないうちに可動型30を固定型31の方向に、予め設定された量移動させ、射出シリンダー32から射出された溶融樹脂を圧縮する。
【0048】
次いで、冷却・固化させ第2層部を形成させる。
【0049】
次いで、可動型30を予め定めた所定の量後退させ停止後、新しく形成された固定型31と第2層部の空間に、射出シリンダー33より、再生した熱可塑性樹脂を射出する。このときの樹脂量は、開き空間全てを充填する。保圧をかけつつ溶融樹脂を冷却・固化させ第3層部を形成させた後、金型内から成形品を取り出す。
【0050】
ここであげた未使用の熱可塑性樹脂、再生した熱可塑性樹脂とは、実施例1であげた樹脂と同等である。
【0051】
このように成形された成形品の断面を(図2−c)に記す。
【0052】
上記態様に拠れば、未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生した熱可塑性樹脂材料を利用した多層成形法で、少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法により、良好な外観で、充分な機械強度を保ちつつ、再生した熱可塑性樹脂材料の使用比率の向上を図る事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施態様に係る成形法を説明する図である。
【図2】本発明の実施態様による成形品の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 未使用熱可塑性樹脂
20 再生熱可塑性樹脂
30 可動型
31 固定型
32、33 射出シリンダー
40 再生熱可塑性樹脂層
50 未使用熱可塑性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未使用の熱可塑性樹脂材料、及び再生した熱可塑性樹脂材料を利用した多層成形法で、未使用の熱可塑性樹脂材料、又は再生した熱可塑性樹脂材料で形成される少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法。
【請求項2】
未使用の熱可塑性樹脂材料、及び熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を用いて成形し形成された多層成形法で、未使用の熱可塑性樹脂材料、又は成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を用いて成形し形成された少なくとも一層部を射出圧縮成形法で成形する成形法。
【請求項3】
再生した熱可塑性樹脂を利用した二層成形法で、一方の層部を未使用の熱可塑性樹脂材料を射出圧縮成形法で成形し、また他の層部を再生した熱可塑性樹脂材料で成形し形成する成形法。
【請求項4】
再生した熱可塑性樹脂を利用した二層成形法で、一方の層部を未使用の熱可塑性樹脂材料を射出圧縮成形法で成形し、また他の層部を成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料を用いて成形し形成する成形法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載した成形法のいずれかで成形されたことを特徴とする成形品。
【請求項6】
前記射出圧縮成形で形成された層部の肉厚をtとしたときに、0.1mm≦t≦0.6mmであることを特徴とする請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
前記未使用の熱可塑性樹脂材料、再生した熱可塑性樹脂材料、及び熱可塑性樹脂で成形加工した成形品を粉砕してリペレットしていない状態の粉砕樹脂材料が、同じ組成であることを特徴とする請求項5に記載の成形品。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂材料がPC+ABSであることを特徴とする請求項5に記載の成形品。
【請求項9】
熱可塑性樹脂材料がポリプロピレンであることを特徴とする請求項5に記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−159897(P2006−159897A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321017(P2005−321017)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】