説明

リザーバタンクおよびこれを用いたブレーキ装置

【課題】リザーバタンクのMAXラインからの作動液供給口の高さを変更することなく、作動液の上方の空気室の容積を大きくする。
【解決手段】作動液供給口18から作動液が作動液供給部16に供給される。作動液供給部16の作動液は作動液通路17を介してプライマリ作動液貯留室11およびセカンダリ作動液貯留室12に供給される。作動液供給口18と作動液供給部16との間には、室23を有する長円筒状部22が形成される。また、この長円筒状部22に、室23に連通する容積増大室24を有する容積増大室形成部25が設けられる。その場合、容積増大室24の少なくとも一部が、作動液のMAXラインより上方に位置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧等の液圧を利用した液圧ブレーキ装置等の液圧作動装置に用いられ、作動液を貯留するリザーバタンクの技術分野およびこれを備えたブレーキ装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両においては、液圧を利用した液圧作動装置として液圧ブレーキ装置を採用した車両がある。この液圧ブレーキ装置には、液圧を発生させるマスタシリンダに供給する作動液を貯留するリザーバタンクが用いられている。
【0003】
従来のリザーバタンクとして、筒状部材の開口端である作動液供給口からこの筒状部材を介して作動液が供給される作動液供給部と、マスタシリンダの液室に供給する作動液を貯留する作動液貯留室と、作動液供給部と作動液貯留室とを連通して作動液供給部から作動液貯留室へ作動液が流動する作動液通路と、作動液供給口を開閉するキャップとを備えたリザーバタンクが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のリザーバタンクは、リザーバタンクが車両に搭載された状態では、作動液供給口および作動液供給部が作動液貯留室より車両前方に位置している。これは、リザーバタンクが比較的狭いエンジンルームの限られた空間内に設置されるため、作動液貯留室の上方にダッシュボード等の車両の他の部品が位置して、作動液のリザーバタンク内への作動液の補給が困難になる場合が生じることから、作動液の補給を容易にするために作動液供給口および作動液供給部が作動液貯留室より車両前方に設けられる。
【0005】
特許文献1に記載のリザーバタンクでは、リザーバタンクが車両に搭載された状態で、作動液の最大限貯留レベル(MAXライン)が筒状部材の下方で作動液供給部の高さ方向(鉛直方向)の中間位置に設定されている。このようにMAXラインを設定することで、MAXラインまで貯留された作動液の上方の作動液供給部内および筒状部材内に空気室が形成される。この空気室は通常時大気圧に設定されており、作動液温の上昇等により作動液の容積が変動した場合、作動液供給口に設けたキャップシールにより空気室内の空気を給排することで、作動液の容積変動を吸収している。
【0006】
車両に搭載されたリザーバタンクに作動液を供給するために、一般に、作動液の圧送充填装置を用いて、作動液をリザーバタンク内に充填している。その場合、リザーバタンクは車種に応じて種々の形状構造のリザーバタンクが製造されている。したがって、リザーバタンクのMAXラインと作動液供給口との距離が種々異なるため、圧送充填装置の器具は異なるリザーバタンクに共通して用いることができず、リザーバタンクの種類に応じて作成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−519728号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、車両の使用環境(例えば、エンジンルーム内の大きな温度上昇)によっては、特許文献1に記載のリザーバタンクよりも、更に大きな空気室が求められる。そこで、MAXラインをそのまま維持して筒状部材の長さおよび作動液供給部のMAXラインより
上部の高さをそれぞれ単純に大きくすることで、空気室の容積を大きくすることが考えられる。
【0009】
しかしながら、筒状部材の長さおよび作動液供給部の高さを単純に大きくすると、MAXラインからの作動液供給口の高さも高くなってしまう。換言すると、MAXラインと作動液供給口との距離が長くなる。このため、圧送充填装置の器具はそのまま使用することができず、圧送充填装置の器具の変更つまり新たな器具の作成を余儀なくされるという問題がある。しかも、車両生産ラインが異なる車種を連続して生産するラインである場合には、多種の圧送充填装置の器具を生産ラインに準備しなければならず、作業が煩雑となるばかりでなく、器具を誤使用する可能性が生じるという問題もある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、MAXラインからの作動液供給口の高さを変更することなく、作動液の上方の空気室の容積を大きくすることのできるリザーバタンクおよびこれを用いたブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明のリザーバタンクは、作動液供給口と、この作動液供給口から作動液が供給される作動液供給部と、この作動液供給部の作動液が作動液通路を介して供給されることで前記作動液を貯留する作動液貯留室と、前記作動液供給口と前記作動液供給部との間に設けられ、内部に前記作動液供給部に連通する室を有する筒状部とを少なくとも備えるリザーバタンクにおいて、前記筒状部に、内部に前記室に連通する容積増大室を有する容積増大室形成部が設けられ、前記容積増大室の少なくとも一部が、作動液の最大限貯留レベルであるMAXラインより上方に位置していることを特徴としている。
【0012】
また、本発明のリザーバタンクは、前記容積増大室形成部が、前記筒状部から水平または略水平に延設されていることを特徴としている。
更に、本発明のリザーバタンクは、前記容積増大室形成部が、リザーバタンクの車両搭載時のデッドスペースに延設されていることを特徴としている。
【0013】
更に、本発明のリザーバタンクは、前記容積増大室形成部が、前記作動液通路の上方に延設されていることを特徴としている。
更に、本発明のリザーバタンクは、前記容積増大室の底部が、前記筒状部内の前記室に向かって下り坂に傾斜していることを特徴としている。
【0014】
一方、本発明のブレーキ装置は、作動液を貯留するリザーバタンクと、前記リザーバタンク内の作動液が供給されるとともに作動時にブレーキ圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダからの液圧で作動するブレーキシリンダとを少なくとも備え、前記リザーバタンクが前述の本発明のリザーバタンクのいずれか1つであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
このように構成された本発明のリザーバタンクによれば、作動液供給口と、この作動液供給口から作動液が供給されるとともにこの作動液を作動液貯留室に供給する作動液供給部との間に設けられ、作動液供給部に連通する室を有する筒状部に、内部に筒状部の室に連通する容積増大室を有する容積増大室形成部を設け、この容積増大室の少なくとも一部を、作動液のMAXラインより上方に位置させている。これにより、作動液をリザーバタンクのMAXラインまで貯留した状態では、容積増大室の少なくとも一部内に、筒状部の室内に形成される空気室に加えて新たな空気室を形成することができる。したがって、前述の使用環境により作動液温が上昇して作動液の容積が増大したとき、この作動液の増大
した容積変動を従来の空気室で吸収するとともに、新たな空気室でも吸収することができる。その結果、作動液の容積の増大変動が比較的大きい場合でも、作動液の容積の増大変動をより確実に吸収することができるとともに、作動液供給口から作動液が外部に漏出することを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のリザーバタンクによれば、容積増大室形成部を、筒状部から水平または略水平に延設しているので、容積増大室形成部を設けても、作動液供給口とMAXラインとの間の距離を、本発明のリザーバタンクが用いられる車両に用いられている従来のリザーバと同じに設定することができる。これにより、作動液をリザーバタンク内に充填する圧送充填装置の器具として、従来の圧送充填装置の器具をそのまま使用することができ、圧送充填装置の器具を変更しないで済むようになる。したがって、その分、圧送充填装置の器具の種類が増大しないので、車両生産ラインが異なる車種を連続して生産するラインである場合に、容積形成部を有するリザーバタンクを用いても多種の圧送充填装置の器具を生産ラインに準備しなくて済ませることができる。その結果、リザーバタンクへの作動液の充填作業が簡単になるとともに、器具の誤使用を抑制することができる。
【0017】
更に、本発明のリザーバタンクによれば、容積増大室形成部を、筒状部から水平または略水平にかつリザーバタンクの車両搭載時のデッドスペースに延設しているので、容積増大室形成部を設けてもリザーバタンクを比較的狭いエンジンルームの限られた空間内に他の部品と干渉することなく、効率よく搭載することができる。特に、容積増大室形成部を、作動液供給部と作動液貯留室との間に位置する作動液通路の上方に延設している。この作動液通路の上方はデッドスペースとなっているので、容積増大室形成部を設けてもリザーバタンクの全体を従来のリザーバタンクとほぼ同じ大きさに形成することができ、リザーバタンクの大型化を抑制できる。したがって、リザーバタンクをエンジンルームの限られた空間内に更に一層効率よく搭載することができる。
【0018】
更に、本発明のリザーバタンクによれば、容積増大室の底部を、筒状部内の室に向かって下り坂に傾斜させている。これにより、容積増大室内に浸入した作動液を、リザーバタンク内の作動液が減少した際、室つまり作動液供給部の方へより確実に流動させることが可能となる。
【0019】
一方、本発明のリザーバタンクを備えるブレーキ装置によれば、エンジンルームの温度が比較的高くなるような車両であっても、本発明のリザーバタンクをブレーキ装置に用いることで、作動液であるブレーキ液の作動液供給口からの漏出を抑制して、ブレーキをより確実に作動させることができるとともに、エンジンルーム内の汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の一例を備えるブレーキ装置を、模式的に示す図である。
【図2】本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の一例を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】(a)は図2(b)におけるIIIA−IIIA線に沿う部分断面図、(b)は(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う部分断面図、(c)は矢印IIIC方向から見た部分図、(d)は図2(b)におけるIIID−IIID線に沿う部分断面図である。
【図4】本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図5】(a)は図4(a)における右側面図、(b)は図4(b)におけるVB−VB線に沿う部分断面図、(c)は(a)におけるVC部の拡大図、(d)は図4(b)におけるVD−VD線に沿う部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための形態について説明する。以下の説明において、水平および鉛直は、リザーバタンクが水平または略水平な車両に搭載された状態についていい、作動液の最大限貯留レベル(MAXライン)および最小限貯留レベル(MINライン)はリザーバタンクの同状態での水平ラインである。
【0022】
図1は本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の一例を備えるブレーキ装置を、模式的に示す図である。
図1に示すように、この例の液圧ブレーキ装置1は、基本的には従来公知の一般的な2系統の液圧ブレーキ装置と同じである。すなわち、液圧ブレーキ装置1は、ブレーキペダル2、倍力装置3、タンデムマスタシリンダ4、リザーバタンク5、およびブレーキシリンダ6を備えている。
【0023】
そして、運転者がブレーキペダル2を踏み込むと、倍力装置3が作動してペダル踏力を所定のサーボ比で倍力して出力する。この倍力装置3の出力でタンデムマスタシリンダ4のプライマリピストン4aが作動してプライマリ液室4bの作動液を一方の系統のブレーキシリンダ6に送給するとともに、セカンダリピストン4cが作動してセカンダリ液室4dの作動液を他方の系統のブレーキシリンダ6に送給する。各ブレーキ系統のロスストロークが消滅すると、タンデムマスタシリンダ4が液圧を発生する。このタンデムマスタシリンダ4の液圧が各ブレーキシリンダ6に伝達され、各ブレーキシリンダ6がブレーキ力を発生して、各車輪7にブレーキがかけられる。
【0024】
ところで、この例のブレーキ装置1に用いられているリザーバタンク5は、図2(a)および(b)に示すように下部体8、この下部体8の上端開口部に加熱および加圧により水平面または略水平面に沿って液密に溶着される中間体9、およびこの中間体9の上端開口部に同じく加熱および加圧により水平または略水平の面に沿って液密に溶着される上部体10の三体を有している。この例のリザーバタンク5では、リザーバタンク5が取り付けられるタンデムマスタシリンダ4の車体取付状態でかつ車体の水平状態で作動液の最小限貯留レベル(MINライン)が下部体8に設定され、また同様に作動液の最大限貯留レベル(MAXライン)が上部体10に設定されている。
【0025】
下部体8の図2(a)および(b)において右側部分には、プライマリ作動液貯留室11とセカンダリ作動液貯留室12とが設けられている。これらのプライマリ作動液貯留室11とセカンダリ作動液貯留室12は隔壁13で仕切られている。しかし、プライマリ作動液貯留室11とセカンダリ作動液貯留室12は、それらの作動液貯留室11,12の上
方が開放されていて、下部体8に中間体9が溶着された状態では、隔壁13の上端と中間体9の上壁下面との間の間隙を通して互いに常時連通されている。図2(b)に示すようにプライマリ作動液貯留室11の底には、タンデムマスタシリンダ4のプライマリ液室4bへ作動液を供給する作動液送給口14が設けられているとともに、セカンダリ作動液貯留室12の底には、タンデムマスタシリンダ4のセカンダリ液室4dへ作動液を供給する作動液送給口15が設けられている。
【0026】
リザーバタンク5の図2(b)において左側部分には、図1、図2、図3(a)に示すように作動液供給部16が設けられている。作動液供給部16は下部体8と中間体9とによって画成されており、この作動液供給部16とプライマリ作動液貯留室11およびセカンダリ作動液貯留室12とが作動液通路17で常時連通されている。この作動液通路17はリザーバタンク5の図2(b)において左右方向中央部に設けられ、下部体8と中間体9とによって形成されている。
【0027】
図3(a)に示すように、上部体10には、作動液をリザーバタンク5内に供給するための作動液供給口18が設けられている。図2(a)および(b)に示すように、作動液供給口18には、この作動液供給口18を開閉するキャップ19および従来公知のキャップシール(不図示)が設けられている。作動液供給口18は、リザーバタンク5の作動液供給部16の上方に配置されている。作動液供給口18と作動液供給部16は、円筒状部材20によって形成された作動液供給通路21を通して連通されている。その場合、円筒状部材20は、リザーバタンク5の外部に突出する外側円筒状部20aとリザーバタンク5の内部に突出する内側円筒状部20bとからなる。したがって、作動液供給口18は外側円筒状部20aの開口端に設けられるとともに、作動液供給通路21は外側円筒状部20aおよびリザーバタンク5を通して形成される。そして、作動液供給部16は円筒状部材20の外周囲に設けられている。そして、内側円筒状部20bの下半部には開口20cが設けられており、この開口20cを通して作動液供給通路21と作動液供給部16とが常時連通されている。このようにして、リザーバタンク5が車両に搭載された状態では、作動液供給口18および作動液供給部16がプライマリ作動液貯留室11およびセカンダリ作動液貯留室12より車両前方に位置している。
【0028】
また、この例のリザーバタンク5の作動液供給口18からMINラインおよびMAXラインまでの鉛直方向の距離は、このリザーバタンク5が搭載される車両に搭載されている従来のリザーバタンクのそれと同じに設定されている。
【0029】
図3(a)に示すように、中間体9の上部および上部体10は、作動液供給口18の下方に位置して長円筒状部22(本発明の筒状部に相当)とされている。したがって、長円筒状部22は、作動液供給口18と作動液供給部16との間に設けられている。また、長円筒状部22の内周面と内側円筒状部20bの上半部の外周面との間には、環状の室23が作動液供給部16の上方に位置しかつこの作動液供給部16と常時連通して設けられている。そして、長円筒状部22の上端部には、室23に常時連通する容積増大室24を内部に有する容積増大室形成部25が設けられている。図1に示すように、この容積増大室形成部25は、リザーバタンク5が車体に搭載されたとき他の部品(例えば、ダッシュボード)26と干渉しないデッドスペース27、つまりこの例では中間体9の作動液通路17の上方のスペースに長円筒状部22から水平または略水平に延設されている。
【0030】
なお、円筒状部材20の内側円筒状部20bは必ずしも必要ではなく、省略することもできる。内側円筒状部20bが省略された場合には、作動液供給口18、長円筒状部22、および作動液供給部16の構成部分は、前述の特許文献1に記載のリザーバタンクとほぼ同様の構成となる。また、このときには、室23は断面が環状ではなく、長円筒状部22の内周面の形状となる。
【0031】
容積増大室24はMAXラインの上下にわたって位置するように設けられている。すなわち、作動液がリザーバタンク5のMAXラインまで貯留した図3(a)に示す状態では、作動液が容積増大室24内に浸入するとともに、空気室24aが容積増大室24内に作動液の液面より上方に形成される。このとき、前述の特許文献1に記載のリザーバタンクを始め、従来のリザーバタンクと同様に、空気室23aが長円筒状部22の室23内にも作動液の液面より上方に形成される。そして、容積増大室24内の空気室24aは、従来と同じ空気室23aと連通している。
【0032】
更に、容積増大室24の底部24bが室23に向かって下り坂となるように傾斜している。これにより、容積増大室24内に浸入した作動液は、作動液供給部16の液面レベルが低下したとき作動液供給部16の方へ流動し易くされている。
【0033】
図3(a)に示すように、容積増大室形成部25の下方の中間体9の上面には、リザー
バタンク5内に作動液量を検出する液量検出部28が設けられている。図3(b)に示すように、液量検出部28は、中間体9に設けられた有底略角筒状のスイッチ収容部29と、このスイッチ収容部29に収容されるノーマルクローズ型のリードスイッチ30とを有している。このリードスイッチ30は、リザーバタンク5内の作動液の液面が警告表示要の液面(MINより若干上方)より高いときは、作動液の液面に応じて上下動するフロートに設けられたマグネットによりオンとなって、警告表示は行われない。また、作動液の液面が警告表示要の液面以下になると、マグネットがフロートとともに下降してリードスイッチ30がオフとなり、警告表示が行われるようになっている。
【0034】
ところで、リードスイッチ30は、そのケース30aに設けられた弾性係止爪30bがスイッチ収容部29の係止孔29aに弾性的に係止することで取り付けられる。一方、前述のようにリザーバタンク5は、プラスチック成形された下部体8,中間体9、および上部体10を互いに加熱加圧により溶着して形成される。このとき、プラスチック成形工程および溶着工程では、これらの工程上係止孔29aは形成されず、溶着工程後に後加工で加工形成される場合がある。
【0035】
しかし、この場合、係止孔29aは容積増大室形成部25の真下に設けられる、つまり容積増大室形成部25によって覆われているため、後加工でこの係止孔29aをスイッチ収容部29に加工形成することは難しい。そこで、図2(a)および図3(b)ないし(d)に示すように、この例のリザーバタンク5では、スイッチ収容部29に係止孔29aを設けるための工具を通す工具挿通孔31が容積増大室形成部25に、その上面から下面まで貫通しかつ係止孔29aの形成位置に対向するようにして形成されている。この工具挿通孔31は横断面矩形状の角筒状部材32で断面矩形に形成されていて容積増大室24から液密に遮断されている。
【0036】
このように構成されたこの例のリザーバタンク5によれば、容積増大室24をMAXラインの上下にわたって位置するようにして、作動液供給口18と作動液供給部16との間の長円筒状部22から水平または略水平に延設しているので、作動液をリザーバタンク5のMAXラインまで貯留した状態では、長円筒状部22内に作動液の液面より上方に形成される従来の空気室23aに加えて、新たな空気室24aを容積増大室24内に作動液の液面より上方に形成することができる。これにより、前述の使用環境により作動液温が上昇して作動液の容積が増大したとき、この作動液の増大した容積変動を従来の空気室23aで吸収するとともに、新たな空気室24でも吸収することができる。したがって、作動液の容積の増大変動が比較的大きい場合でも、作動液の容積の増大変動をより確実に吸収することができるとともに、作動液供給口18およびキャップ19から作動液が外部に漏出することを抑制することができる。
【0037】
また、容積増大室形成部25を作動液供給口18と作動液供給部16との間の長円筒状部22から水平または略水平に延設しているので、容積増大室形成部25を設けても、作動液供給口18とMAXラインとの間の距離を、従来のリザーバと同じに設定することができる。これにより、作動液をリザーバタンク5内に充填する圧送充填装置の器具として、従来の圧送充填装置の器具をそのまま使用することができ、圧送充填装置の器具を変更しないで済むようになる。したがって、その分、圧送充填装置の器具の種類が増大しないので、車両生産ラインが異なる車種を連続して生産するラインである場合に、容積増大室形成部25を有するリザーバタンク5を用いても多種の圧送充填装置の器具を生産ラインに準備しなくて済ませることができる。その結果、リザーバタンク5への作動液の充填作業が簡単になるとともに、器具の誤使用を抑制することができる。
【0038】
更に、容積増大室形成部25をリザーバタンク5の車両搭載時のデッドスペースとなる作動液通路17の上方に延設するようにしているので、容積増大室形成部25を設けても
リザーバタンク5の全体を従来のリザーバタンクとほぼ同じ大きさに形成することができ、リザーバタンク5の大型化を抑制できる。したがって、リザーバタンク5を比較的狭いエンジンルームの限られた空間内に他の部品と干渉することなく、効率よく搭載することができる。
【0039】
更に、容積増大室24の底部24bを長円筒状部22内の室23に向かって下り坂となるように傾斜させているので、容積増大室24内に浸入した作動液を、リザーバタンク5内の作動液が減少した際、室23つまり作動液供給部16の方へより確実に流動させることが可能となる。
【0040】
更に、工具挿通孔31を容積増大室形成部25に、その上面から下面まで貫通しかつリードスイッチ30の係止爪30bを係止する係止孔29aの形成位置に対向するようにして形成しているので、リザーバタンク5の成形加工時に、係止孔29aが形成されなくかつ係止孔29aの形成位置が容積増大室形成部25で覆われる場合には、リザーバタンク5の成形加工の後加工で、工具挿通孔31を利用してリザーバタンク5に係止孔29aを形成することができる。
【0041】
一方、この例のリザーバタンク5を備える液圧ブレーキ装置1によれば、エンジンルームの温度が比較的高くなるような車両であっても、この例のリザーバタンク5を液圧ブレーキ装置1に用いることで、キャップ19が被された作動液供給口18から作動液であるブレーキ液の漏出を抑制して、ブレーキをより確実に作動させることができるとともに、エンジンルーム内の汚染を防止することができる。
【0042】
図4は、本発明に係るリザーバタンクの実施の形態の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
前述の例では、リザーバタンク5が下部体8、中間体9、および上部体10を有するとともに、これらを水平面または略水平面で溶着しているが、図4(a)および(b)に示すように、この例のリザーバタンク5は、中間体9がなく、下部体8および上部体10を有している。その場合、上部体10は第1上部体10aと第2上部体10bとから構成されている。そして、第1上部体10aが前述の例の中間体9、上部体10、および容積増大室形成部25の一部を構成し、また、第2上部体10bが前述の例の容積増大室形成部25の残部を構成している。図5(d)に示すように、この例の容積増大室形成部25内の容積増大室24の底部24bは水平にされていて、前述の例のように傾斜していない。
【0043】
したがって、下部体8と第1上部体10aとは、前述の例の下部体8と中間体9の場合と同様に水平面または略水平面で互いに溶着されている。また、第1上部体10aと第2上部体10bとは、鉛直面または略鉛直面で互いに溶着されている。その場合、第1上部体10aと第2上部体10bとの溶着時に第2上部体10bを水平保持する必要があるが、この第2上部体10bの水平保持が面倒である。そこで、第1上部体10aには、第2上部体10bを水平に保持しながら第2上部体10bの溶着面を第1上部体10aの溶着面に突き合わせるT字状のガイドレール33が設けられている。このガイドレール33は、容積増大室形成部25の下方の第1上部体10aの上面に車両前後方向に沿って延設される。また、第2上部体10bの下面には、L字状および逆L字状の一対の部材34a,
34bからなるガイド34が設けられている。そして、ガイドレール33の上端部のT字部33aに一対の部材34a,34bが摺動可能に係合することで、第2上部体10bが
水平を保持しながら、ガイドレール33にガイドされて第1上部体10aの溶着面の方へ移動されるようになっている。
【0044】
ガイドレール33およびガイド34は、リザーバタンクの成形加工後も除去されなく、互いに係合したまま残存される。したがって、ガイドレール33は第2上部体10bの荷
重を支持する荷重支持部として機能し、また、ガイドレール33およびガイド34は第2上部体10bの水平方向および鉛直方向の揺動をともに抑制する揺動規制部として機能する。
【0045】
この例のリザーバタンク5の他の構成およびこの例のリザーバタンク5を備えるブレーキ装置の他の構成は、それぞれ前述の例と実質的に同じである。また、この例のリザーバタンク5では、鉛直面内ので溶着が行われるので、その分、リザーバタンク5の成形加工が前述の例より煩雑となる。この例のリザーバタンク5の他の作用効果は前述の例と実質的に同じである。
【0046】
なお、本発明は、前述の各例に限定されることはなく、種々の設計変更が可能である。例えば、容積増大室24は、中間体9の作動液通路17の上方に延設されることに限定されることはなく、他の任意の方向に長円筒状部22から水平または略水平に延設することもできる。また、長円筒状部22の外周面の全周にわたって水平または略水平に延設することもできる。更に、容積増大室24は、作動液がリザーバタンク5のMAXラインまで貯留した状態で空気室24aが形成できさえすれば、容積増大室24の全体がMAXラインの上方に位置して設けることもできる。この場合にも、容積増大室24は長円筒状部22から水平または略水平に延設されるとともに、作動液供給口18より下方に設けられることは言うまでもない。すなわち、本発明のリザーバタンクは、容積増大室24の少なくとも一部がMAXラインより上方に位置していさえすればよい。要は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で、種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るリザーバタンクは、油圧等の液圧を利用した液圧ブレーキ装置等の液圧作動装置に用いられて、作動液を貯留するリザーバタンクに好適に利用することができる。
また、本発明に係るブレーキ装置は、リザーバタンクに貯留された作動液を用いて車輪にブレーキをかける液圧ブレーキ装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…液圧ブレーキ装置、2…ブレーキペダル、3…倍力装置、4…タンデムマスタシリンダ、5…リザーバタンク、6…ブレーキシリンダ、8…下部体、9…中間体、10…上部体、10a…第1上部体、10b…第2上部体、11…プライマリ作動液貯留室、12…セカンダリ作動液貯留室、14,15…作動液送給口、16…作動液供給部、17…作動
液通路、18…作動液供給口、20…円筒状部材、21…作動液供給通路、22…長円筒状部、23…室、23a…空気室、24…容積増大室、24a…空気室、24b…底部、25…容積増大室形成部、28…液量検出部、29…スイッチ収容部、29a…係止孔、30…リードスイッチ、30b…弾性係止爪、31…工具挿通孔、33…ガイドレール、34…ガイド、34a,34b…部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液供給口と、この作動液供給口から作動液が供給される作動液供給部と、この作動液供給部の作動液が作動液通路を介して供給されることで前記作動液を貯留する作動液貯留室と、前記作動液供給口と前記作動液供給部との間に設けられ、内部に前記作動液供給部に連通する室を有する筒状部とを少なくとも備えるリザーバタンクにおいて、
前記筒状部に、内部に前記室に連通する容積増大室を有する容積増大室形成部が設けられ、
前記容積増大室の少なくとも一部は、作動液の最大限貯留レベルであるMAXラインより上方に位置していることを特徴とするリザーバタンク。
【請求項2】
前記容積増大室形成部は、前記筒状部から水平または略水平に延設されていることを特徴とする請求項1に記載のリザーバタンク。
【請求項3】
前記容積増大室形成部は、リザーバタンクの車両搭載時のデッドスペースに延設されていることを特徴とする請求項2に記載のリザーバタンク。
【請求項4】
前記容積増大室形成部は、前記作動液通路の上方に延設されていることを特徴とする請求項3に記載のリザーバタンク。
【請求項5】
前記容積増大室の底部は、前記筒状部内の前記室に向かって下り坂に傾斜していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載のリザーバタンク。
【請求項6】
作動液を貯留するリザーバタンクと、前記リザーバタンク内の作動液が供給されるとともに作動時にブレーキ圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダからの液圧で作動するブレーキシリンダとを少なくとも備え、
前記リザーバタンクが請求項1ないし5のいずれか1に記載のリザーバタンクであることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208547(P2010−208547A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58127(P2009−58127)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】