説明

リチウムイオン二次電池用正極板、リチウムイオン二次電池、およびリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法、並びに電池パック

【課題】リチウムイオン二次電池用正極板において、出入力特性に優れるとともに、高容量化や充放電の高速化の要請を同時に満たすことができるリチウムイオン二次電池を実現する。
【解決手段】集電体1と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備えるリチウムイオン二次電池用正極板10において、前記電極活物質層が、該電極活物質層中に分散する複数のLiMn24粒子21と、該LiMn24粒子を包囲する包囲体22とを有し、前記包囲体は、複数の包囲体であって、該複数の包囲体のうち、隣接する包囲体同士の一部は、互いに繋がっているか、あるいは、個の区別なく連続しており、前記包囲体のうち前記集電体近傍の包囲体は、前記集電体の表面と繋がっており、前記包囲体がLiMn24である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極板、リチウムイオン二次電池、およびリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法、並びに電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時にいわゆるメモリ効果と呼ばれる完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象が無いことから、携帯機器、ノート型パソコン、ポータブル機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
現在、地球温暖化防止の対策として、世界規模でCO2排出抑制の取り組みが行われているなかで、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO2削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力としてリチウムイオン二次電池を利用することができれば、ガソリンに依存する必要がなく、CO2削減に大いに寄与することができ、地球温暖化防止に大いに貢献することができる。一方で、次世代クリーンエネルギー自動車の駆動力としてリチウムイオン二次電池が利用されるためには、ガソリンに並ぶ出力特性が要求されている。
【0004】
現在、各種の提案がされているリチウムイオン二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び非水電解液から構成される。正極板としては、金属箔などの集電体表面に、正極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。また負極板としては、銅やアルミニウムなどの集電体表面に、負極活物質粒子が固着されてなる電極活物質層を備えるものが一般的である。
【0005】
上記正極板または負極板である電極板を製造するには、まず、正極活物質粒子または負極活物質粒子である電極活物質粒子、樹脂製バインダー、あるいはさらに、必要に応じて導電材やその他の材料を用い、溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状の電極活物質層形成液を調製する。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥させて集電体上に塗膜を形成し、プレスすることにより電極活物質層を備える電極板が形成される(たとえば、特許文献1、または特許文献2)。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される電極活物質粒子は、該液に分散する粒子状の金属化合物であって、それ自体だけでは、集電体表面に塗布され、乾燥させ、プレスされても該集電体表面に固着され難く、集電体からすぐに剥離してしまう。そこで、電極活物質層を形成する場合には、上記のように、樹脂製バインダーを電極活物質層形成液に添加し、樹脂製バインダーにより、電極活物質粒子を集電体上に固着させるとともに、電極活物質粒子同士を固着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、特許文献2に提案されている方法により、電極活物質層を形成した場合には、高出入力特性が必要とされる分野における要求を満足できる程度までインピーダンスを下げることができない。また、近年、種々の電極活物質の中でもLiMn24が、レート特性や安全性などの点で優位性があることが知られており、電極活物質粒子としてLiMn24粒子が好ましく用いられる傾向にある。しかしながら、LiMn24は優れたレート特性を有する一方で、理論容量が低いといった特徴を有する。したがって、電極活物質粒子として、LiMn24粒子を採用した場合には、充放電の高速化の要請を満たすことはできるものの、高容量化の要請を満たすことができなかった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池用正極板において、出入力特性に優れるとともに、高容量化や充放電の高速化の要請を同時に満たすことができるリチウムイオン二次電池やリチウムイオン二次電池を実現すること、およびかかる正極板を製造する方法を提供すること、並びにかかるリチウムイオン二次電池を有する電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極板であって、前記電極活物質層が、該電極活物質層中に分散する複数のLiMn24粒子と、該LiMn24粒子を包囲する包囲体とを有し、前記包囲体は、複数の包囲体であって、該複数の包囲体のうち、隣接する包囲体同士の一部は、互いに繋がっているか、あるいは、個の区別なく連続しており、前記包囲体のうち前記集電体近傍の包囲体は、前記集電体の表面と繋がっており、前記包囲体がLiMn24であることを特徴とする。
【0011】
また、前記電極活物質層は、隣り合う前記包囲体の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいてもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するための別の本発明は、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水電解液とを少なくとも備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極板が上記のリチウムイオン二次電池用正極板であることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明は、LiMn24粒子と、加熱されることでLiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜を、前記金属元素含有化合物がLiMn24となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明は、収納ケースと、正極端子および負極端子を備えるリチウムイオン二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記リチウムイオン二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、前記リチウムイオン二次電池が、上記のリチウムイオン二次電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極板によれば、出入力特性を向上させることができるとともに、高容量化と充放電の高速化の要請を同時に満たすことができる。
【0016】
さらに、電極活物質粒子と、結着物質としての機能のほか、活物質としても機能し得る包囲体とが、同一物質(LiMn24)であることから、両者を活物質として機能させるにあたり、電圧の制御が容易となる。
【0017】
また、本発明のリチウムイオン二次電池、及び本発明の電池パックによれば、上記の作用効果を奏するリチウムイオン二次電池、及び電池パックとすることができる。
【0018】
また本発明のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)によれば、容易な方法、且つ、汎用の材料で、上記の作用効果を有するリチウムイオン二次電池用正極板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は本発明のリチウムイオン二次電池用正極板を集電体面に略垂直に切断した際の断面を示す模式図であり、図1(B)は本発明のリチウムイオン二次電池用正極板における電極活物質層の表面を示す模式図である。
【図2】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の電池パックの一例を示す断面分解図である。
【図4(A)】実施例の正極板において二重構造が構成されている状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4(B)】実施例の正極板において二重構造が構成されている状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板について図1(A)、(B)を用いて具体的に説明する。なお、図1(A)は本発明のリチウムイオン二次電池用正極板を集電体面に略垂直に切断した際の断面を示す模式図であり、図1(B)は本発明のリチウムイオン二次電池用正極板における電極活物質層の表面を示す模式図である。
【0021】
(リチウムイオン二次電池用正極板)
図1(A)、(B)に示すように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板10は、集電体1と、集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備え、電極活物質層2は、該電極活物質層中に分散する複数のLiMn24粒子(21)と、該LiMn24粒子を包囲するLiMn24からなる包囲体22とを含有している。以下、LiMn24からなる包囲体22を単に包囲体22という場合がある。
【0022】
そして、図1(A)、(B)に示すように、LiMn24粒子(21)を包囲する包囲体22は、複数の包囲体22であり、LiMn24粒子21は、1つまたは複数の包囲体22によって包囲されている。また、これら複数の包囲体22のうち、隣接する包囲体22の一部は、互いに繋がっているか、あるいは個の区別なく連続している。あるいは、互いに繋がっている包囲体22と、個の区別なく連続している包囲体22とが混在している。
【0023】
また、集電体1の近傍に存在する包囲体22は、集電体1の表面と繋がっており、これにより、集電体1とLiMn24粒子21、およびLiMn24粒子21同士は、包囲体22によって固着される。すなわち、この構成により集電体1上に電極活物質層2を備える本発明の正極板1が形成される。
【0024】
なお、図1に示すように、電極活物質層2には、随所に空隙6が存在しており、これによって、本発明の正極板を用いて電池を構成した際に、非水電解液が電極活物質層2に浸透可能となる。電極活物質層2に占めるこの空隙6の空隙率について特に限定はないが、空隙率は10%以上70%以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明において、LiMn24粒子21は、1次粒子であってもよく、2次粒子であってもよい。さらには、これらが混在していてもよい。また、包囲体22自体は、包囲体22自体の態様、例えば、大きさ、形状、分布について特に限定されない。例えば、包囲体22は、微小な粒子状であって、多数の微小な粒子状のLiMn24が、LiMn24粒子21の1つ、または2つ以上の集合体の全面、または一部を取り囲むように包囲していてもよい。また、このとき、包囲体22同士の一部は、互いに接合していてもよい。あるいは、包囲体22であるLiMn24が、非粒子状であって、LiMn24粒子21間を、空隙を残して充填する連続体であってもよい。
【0026】
あるいは、包囲体22であるLiMn24が、LiMn24粒子21の2つ以上の集合体を包囲する膜状、ひだ状、またはこぶ状の連続的な被覆層を構成していてもよい。また、包囲体22であるLiMn24の表面は、走査型電子顕微鏡レベルで観察した際に、例えば、滑らかな状態で観察されるもの、無数の突起が密集しているもの、粒子間のあるもの、あるいはこれらの組合せなどであってもよく、その表面状態について何ら限定されることはない。つまり、本発明における包囲体22は、LiMn24粒子21の少なくとも一部を包囲し、かつ、隣接する包囲体22の一部が、互いに繋がっているか、あるいは個の区別なく連続した連続体であり、加えて、集電体1の近傍に位置する包囲体22の一部が集電体1の表面に繋がることによって電極活物質層2を構成するものであればよい。
【0027】
つまり、この構成により形成される本発明の正極板1は、充放電の高速化を図ることができるLiMn24粒子21を電極活物質粒子として用い、このLiMn24粒子21をLiMn24からなる包囲体22で包囲することで正極板全体の容量を増大させ、結果として充放電の高速化と、高容量化の要請を同時に満たしている。したがって、従来のように、LiMn24粒子と集電体、およびLiMn24粒子同士を樹脂製の結着物質によってのみ固着させてなる正極板と比較して、充放電の高速化の要請を維持しつつ、包囲体22が存在する分だけ正極板の容量を増大させることができ、さらに出入力特性をも向上させることができる。
【0028】
なお、このことは、本発明の正極板に、いわゆる結着物質として樹脂製のバインダーが含有されることを禁止するものではなく、樹脂製のバインダーと包囲体22とを併せて用い、これらによってLiMn24粒子21と集電体1、およびLiMn24粒子21同士を固着させることとしてもよい。なお、いわゆる結着物質として樹脂製のバインダーと包囲体22とを併せて用いる場合において、樹脂製のバインダーの全質量と包囲体22との合計質量に対して、包囲体22が占める割合が多くなるほど、出入力特性は向上し、また電池全体の容量も増大する。このような点を考慮すると、合計質量に対し、包囲体22の占める割合は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましい。無論、当該範囲以外である場合であっても、LiMn24からなる包囲体22が含有されている分だけ出入力特性は向上し電池容量が増大することはいうまでもない。
【0029】
また、上記に加え、電極活物質層2は、隣り合う包囲体22同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいることが好ましい。この構成により、出入力特性をさらに向上させることができる。上述のとおり、本発明における包囲体22は、LiMn24粒子21と集電体1、およびLiMn24粒子21同士を固着させるためのものであり、包囲体22同士の少なくとも一部において、互いに結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含ませることで、電極活物質層2の膜密着性が向上するものと推察される。そして、この膜密着性の向上が出入力特性の向上に寄与するものと思われる。
【0030】
また、電極活物質層2の膜密着性を向上させるという観点からは、隣り合う包囲体22同士の結晶格子が連続する部分は、電極活物質層2に有意に存在することがより望ましい。尚、本発明において包囲体同士の結晶格子が連続するか否かは、透過型電子顕微鏡で電極活物質層における隣り合う包囲体22の断面の結晶格子を観察することによって確認することができる。
【0031】
本発明の電極活物質層において、隣り合う包囲体22同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成するためには、後述する本発明の製造方法に従い本発明の正極板を製造することが望ましい。即ち、本発明の製造方法は、LiMn24粒子21と、加熱することで包囲体22となる金属元素含有化合物(包囲体22の前駆体)を含む電極活物質層形成液を集電体1上に塗布して塗膜を形成し、加熱などの手段を実施することによって該塗膜から電極活物質層2を形成する。その際、該集電体1上において、LiMn24粒子21の周囲に存在する金属元素含有化合物が熱分解、酸化などの反応を起こして、LiMn24粒子21の周囲に包囲体22が生成される。このとき、隣接する包囲体22同士の一部が接合していると、該接合部分において、両者の結晶成長が同時に進行し易い。上記接合部分において結晶成長が同時に進行する結果、本発明の電極活物質層2において、隣り合う包囲体22同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成される。
【0032】
以上説明した電極活物質層2の構造は、LiMn24粒子21と包囲体22とからなる、謂わば二重構造により構成される。この二重構造は走査型電子顕微鏡写真から視覚的に理解することができる。また、この二重構造は、後述する本発明の製造方法の観点からも理解することができる。後述するように、本発明の製造方法においては、LiMn24粒子と、加熱されることで、LiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物とが含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱する。この加熱によって、LiMn24粒子の周囲に上記の固着態様で包囲体であるLiMn24が生成される。また、この製造方法により、複数の包囲体のうち隣接する包囲体同士の一部は、互いに繋がっているか、あるいは、個の区別なく連続し、包囲体22のうち集電体1近傍の包囲体22は、集電体1の表面と繋がる。この結果、二重構造が完成する。
【0033】
(配合比率)
本発明において、電極活物質層2中に含有されるLiMn24粒子21と包囲体22との配合比率について特に限定されることはなく、LiMn24粒子21の大きさ等に応じて、適宜決定することができる。一方で、電極活物質層2中に存在するLiMn24粒子21と集電体1、およびLiMn24粒子21同士を固着させるための包囲体22の含有量が少なすぎる場合には、LiMn24粒子21と集電体1、およびLiMn24粒子21同士の固着力を所望の程度まで上げることができなくなるおそれや、高容量化の要請をに充分に満足させることができなくなるおそれが生じうる。したがって、この点を考慮すると、LiMn24粒子21の質量比率を100質量部としたときに、包囲体22の質量比率は、1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0034】
(その他の材料)
上記電極活物質層2は、LiMn24粒子21、包囲体22のみから構成されていてもよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させて形成してもよい。たとえば、本発明によれば、カーボンブラック等の導電性の炭素材料に例示される導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合には、導電材を使用することとしてもよい。
【0035】
(電極活物質層の層厚)
電極活物質層2の層厚について特に限定はなく、正極板に求められる電気容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができ、一般的には、300nm以上200μm以下程度である。特に、本発明は、包囲体22の存在により、電極活物質層2の層厚を上げることなく高容量化に対する要請を満たすことができ、電極活物質層2の層厚をさらに薄くすることも可能である。
【0036】
(集電体)
本発明に用いられる集電体1は、一般的にリチウムイオン二次電池用正極板の集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔などの単体又は合金から形成された集電体を好ましく用いることができる。なお、本発明に用いられる集電体1は、必要に応じて電極活物質層2の形成が予定される面(集電体の表面)において表面加工処理がなされている集電体であってもよい。その表面に表面加工処理がなされている集電体1としては、導電性物質が集電機能を有する材料の表面に積層された集電体、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理がなされた集電体等が挙げられる。すなわち、本発明に用いられる集電体1は、集電機能を有する材料のみから形成される集電体のみならず、その表面に導電性を担保するための物質が積層されたものや、何らかの表面処理がなされたものも含まれる。また、本発明でいう集電体の表面とは、集電機能を有する材料のみから形成される集電体1にあっては、集電機能を有する材料の表面をいい、集電機能を有する材料の表面の全体に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、該表面加工処理面や、導電性物質の表面をいう。また、集電機能を有する材料の表面の一部に表面加工処理や、導電性物質が積層されている場合にあっては、表面加工処理面や、導電性物質の表面、または、これらの表面加工処理又は導電性物質が積層されていない部分(つまり、集電機能を有する材料表面)をいう。
【0037】
集電体1の厚みは、一般にリチウムイオン二次電池用正極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜100μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0038】
(リチウムイオン二次電池用正極板の製造方法)
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある)について説明する。本発明の製造方法は、LiMn24粒子と、加熱されることでLiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、塗布工程で形成された塗膜を、金属元素含有化合物がLiMn24となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
【0039】
本発明の製造方法によれば、上述した本発明の正極板を歩留まり良く製造することができる。以下、具体的に説明する。
【0040】
(塗布工程)
塗布工程は、LiMn24粒子と、加熱されることでLiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物とが含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する工程である。
【0041】
<電極活物質層形成液の調製>
電極活物質層形成液の調製に用いられる電極活物質粒子は、上記で説明したLiMn24粒子21と同様のものを使用することができ、ここでの説明は省略する。なお、本発明の製造方法において、用いられるLiMn24粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができることも上述と同様である。
【0042】
また、電極活物質層形成液中には、加熱されることでLiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物が添加される。
【0043】
金属元素含有化合物は、LiMn24粒子と集電体、およびLiMn24粒子同士を固着させるいわゆる結着物質としての機能のほか、正極板の容量を増大させる機能を奏するLiMn24の前駆体である。したがって、電極活物質層形成液中に添加された状態で集電体上に塗布され、加熱されることで、上記で説明した形態でLiMn24粒子を包囲することができるLiMn24を生成することができるものであれば、いかなる金属元素含有化合物であってもよい。
【0044】
上記金属元素含有化合物としては、リチウム元素含有化合物と、マンガン元素を含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上とを好ましく用いることができる。金属元素含有化合物は、当該化合物内に炭素が含まれていない、無機金属元素含有化合物であってもよいし、あるいは当該化合物内に炭素が含まれて構成される有機金属元素含有化合物であってもよい。本発明および本明細書において、無機金属元素含有化合物及び有機金属含有化合物をあわせて、単に金属元素含有化合物という場合がある。
【0045】
本発明においては、LiMn24を生成するための金属元素含有化合物として、Li元素含有化合物、及びMn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物としては、例えば、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びりん酸リチウム等が挙げられ、また、Mn元素含有化合物としては、例えば、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Mn=X:1)は、特に限定されないが、0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0046】
上述する電極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜5mol/L、特に0.1〜2mol/Lが好ましい。上記濃度を0.01mol/L以上とすることにより、集電体と該集電体表面で生成される電極活物質層とを良好に密着させることができ、活物質粒子の固着が図られる。また、上記濃度を、5mol/L以下とすることにより、上記電極活物質層形成液を集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜を形成することができる。
【0047】
また、上記電極活物質層形成液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、導電材、あるいは、電極活物質層形成液の粘度調整剤である有機物、その他の添加剤を配合してもよい。金属元素含有化合物を溶解させるための溶媒は、該金属元素含有化合物を溶解することができるものであればよく、従来公知の溶媒を適宜選択して用いることができる。例えば、水、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0048】
電極活物質層形成液を集電体上に塗布する方法について特に限定はなく、一般的な塗布方法を適宜選択して用いることができる。例えば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に電極活物質層形成液を塗布することができる。また、集電体の表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、上記の方法以外に手動で塗布することも可能である。なお、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、正極活物質層の成膜性をさらに改善することができる。
【0049】
また、電極活物質層形成液の塗布量について特に限定はないが、加熱後の厚みが、上記で説明した電極活物質層の厚みとなるような範囲で塗布されていることが好ましい。
【0050】
(加熱工程)
加熱工程は、上記で説明した塗布工程において形成された塗膜を加熱して溶媒を蒸発させるとともに、金属元素含有化合物からLiMn24粒子と集電体、及びLiMn24粒子同士を固着させるためのLiMn24を生成する工程である。
【0051】
該加熱工程により、金属元素含有化合物からLiMn24が生成される。このとき、生成されるLiMn24のうち隣接するLiMn24同士の一部は、互いに繋がっているか、あるいは、個の区別なく連続しており、また、集電体近傍で生成されるLiMn24は集電体の表面と繋がる。その結果、LiMn24粒子と集電体、およびLiMn24粒子同士が、LiMn24によって固着されたリチウムイオン二次電池用正極板が完成する。
【0052】
さらに、当該製造方法によれば、加熱工程により生成されるLiMn24のうち隣り合うLiMn24同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことから、電極活物質層の膜密着性を向上させることができ、出入力特性が向上する。
【0053】
加熱工程における加熱温度については、用いられる金属元素含有化合物からLiMn24(包囲体)を形成することができる温度以上の温度であればよく、適宜設定することができる。例えば、Li(CH3COO)・2H2OとMn(CH3COO)2・4H2Oを含む金属元素含有化合物を用いてLiMn24を生成する場合にあっては、金属元素含有化合物が熱分解する温度以上の温度である370度程度の温度で加熱することで、金属元素含有化合物は熱分解し、LiMn24が生成される。
【0054】
また、例えば、金属元素含有化合物が熱分解する温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、加熱方法について特に限定されることはない。例えば、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。
【0055】
また、上記加熱工程における加熱雰囲気についても、特に限定されず、正極板を製造するために用いられる材料や加熱温度、金属元素の酸素ポテンシャルなどを勘案して適宜決定することができる。例えば、空気雰囲気である場合には、特別な雰囲気の調整が必要なく、簡易に加熱工程を実施することができる点で好ましい。特に集電体としてアルミ箔を用いる場合には、空気雰囲気下において加熱工程を実施しても、該アルミ箔が酸化するおそれがないので、好ましく加熱工程を実施することができる。
【0056】
一方、集電体として銅箔を用いる場合には、空気雰囲気下で加熱工程を実施すると酸化してしまい、望ましくない。したがって、かかる場合には、不活性ガス雰囲気下、あるいは還元ガス雰囲気下あるいは不活性ガスと還元ガスの混合ガス雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0057】
本発明の製造方法において、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気は、特に特定の雰囲気に限定されず、従来公知のこれらの雰囲気下において適宜本発明の製造方法を実施することができるが、たとえば、不活性ガス雰囲気としてはアルゴンガス、窒素ガス、還元ガス雰囲気としては、水素ガス、一酸化炭素ガス、あるいは上記不活性ガスと上記還元ガスを混合したガス雰囲気などが挙げられる。
【0058】
(リチウムイオン二次電池)
次に、図2を用いて本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。なお、図2は、本発明のリチウムイオン二次電池100の一例を示す概略図である。図2に示すように、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電体1の一方面側に電極活物質層2が設けられてなる正極板10、及び、これに組合される集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる負極板50と、正極板10と負極板50との間に設けられるセパレータ70とから構成され、これらが、外装81、82で構成される容器内に収容され、かつ、容器内に非水電解液90が充填された状態で密封された構成をとる。
【0059】
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極板として上記で説明したリチウムイオン二次電池用正極板10を必須の構成として用いられている点に特徴を有する。本発明のリチウムイオン二次電池は、この要件を具備するものであれば他の要件について特に限定はなく、従来公知の負極板、非水電解液、容器を適宜選択して用いることができ、図2に示す形態に限定されるものではない。なお、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板については、上記で説明した通りであり、詳細な説明は省略する。
【0060】
(正極板)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極板として、上述する本発明の正極板を用いることを特徴とする。本発明の正極板は、上述のとおり、出入力特性が高く、さらに高容量化の要請と充放電の高速化の要請にも応えることができるものである。したがって、かかる正極板を用いることによって、本発明のリチウムイオン二次電池においても当該正極板の性能が発揮される。
【0061】
(負極板)
負極板は、従来公知のリチウムイオン二次電池用負極板を適宜選択して使用することができる。一般的に、従来公知の負極板としては、集電体として厚み5〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔等を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極板における電極活物質層形成液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。上記負極板における電極活物質層形成液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質、あるいは、Li4Ti512等の金属酸化物、金属リチウム及びその合金、スズ、シリコン、及びそれらの合金等、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料などの負極活物質粒子、および樹脂製バインダー、必要に応じて導電材などの他の添加剤が分散混合されることが一般的であるが、これに限定されない。
【0062】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液90は、一般的に、リチウムイオン二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池に用いる場合には、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0063】
上記リチウム塩の例としては、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C654、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiOSO2CF3、LiOSO225、LiOSO249、LiOSO2511、LiOSO2613、及びLiOSO2715等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0064】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、及び鎖状エーテル類等が挙げられる。
【0065】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される電池の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して用いることができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板をセパレータを介して積層して固定し、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電解液を充填した後、密閉することによってリチウムイオン二次電池が製造される。
【0066】
(電池パック)
次に、図3を用いて本発明のリチウムイオン二次電池100を用いて構成される電池パック200について説明する。なお、図3は、本発明の電池パック200の一例を示す概略分解図である。
【0067】
図3に示すように電池パック200は、リチウムイオン二次電池100が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。また、リチウムイオン二次電池の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が設けられている。
【0068】
保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38a、および、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池100とを導通させるための配線回路などが搭載されている。
【0069】
電池パック200は、本発明の正極板10が用いられたリチウムイオン二次電池100を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜選択することができる。図示しないが、電池パック200は、リチウムイオン二次電地100と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを適宜備えていてもよい。
【0070】
なお、本発明の正極板10を用いた本発明のリチウムイオン二次電池100は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路をリチウムイオン二次電池に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。なお、上記で説明したいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の正極板10、あるいは本発明のリチウムイオン二次電池100の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0071】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部または%は質量基準である。
【0072】
(実施例1)
Li(CH3COO)・2H2O[分子量:102.02]:2gとMn(CH3COO)2・4H2O[分子量:245.09]:10gを、メタノール:12gに加えたものを混合しリチウムイオン挿入脱離反応を示すリチウム複合酸化物を生成する原料液とした。次いで、上記原料液:10gに、平均粒径4μmの正極活物質粒子(LiMn24):10gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック):1.2g、炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF)0.25g、樹脂ヒドロキシエチルセルロース0.2gを純水9.8gに溶解した増粘剤水溶液:15gと、溶媒メタノールを混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間混練して電極活物質層形成液を調製した。集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調製した電極活物質層形成液を、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が70.5g/m2となる量で、当該集電体の一面側にアプリケーターで塗布し、電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、ロールプレス機(株式会社サンクメタル社製:メカ式1ton)を用いて、加圧力:0.1ton/cm、プレス速度10mm/秒の条件で、上記塗膜をプレスした。その後、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、常温の電気炉(マッフル炉、デンケン社製、P90)内に設置し、室温から15分かけて370℃まで徐々に加熱して、集電体上に正極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。そして上記正極板を電気炉から取り出して室温になるまで放置した後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、これを実施例1の正極板とした。なお、マイクロメーターを用いて実施例1の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、33μmであった。
【0073】
実施例1における加熱条件:「15分かけて370℃まで徐々に加熱」を、「10分かけて400℃まで徐々に加熱」に変更した以外は全て実施例1と同様にして、実施例2の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて実施例1の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、33μmであった。
【0074】
(実施例3)
樹脂材料としてPVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が0.1%となるようNMP溶媒に混合させて調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1の正極板を浸漬させ、電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1の正極板を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製の結着物質が残留する実施例3の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて実施例3の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、34μmであった。
【0075】
(実施例4)
樹脂材料としてPVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が5%となるようNMP溶媒に混合させて調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1の正極板を浸漬させ、電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1の正極板を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製の結着物質が残留する実施例4の正極板を得た。なお、マイクロメーターを用いて実施例4の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、35μmであった。
【0076】
(実施例5、6)
実施例1において、増粘剤水溶液を使用しなかった以外は全て実施例1と同様にして実施例5の正極板を得た。また、実施例2において、増粘剤水溶液を使用しなかった以外は全て実施例2と同様にして実施例6の正極板を得た。なお、実施例5、6は、本発明の電極活物質層の構造の理解を容易にするために、導電材を添加せずに作成した電極板である。なお、実施例5、6の正極板は、充放電試験により、充電及び放電が確認され、電極として作用するとともに、電池特性の向上が確認された。実施例5、6の正極板のSEM写真をそれぞれ、図4(A)、(B)に示す。なお、図4(A)は、LiMn24粒子が、個の区別なく連続する包囲体(LiMn24)によって包囲されて二重構造が構成されている状態を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図4(B)は、LiMn24粒子が、複数の包囲体(LiMn24)によって包囲されており、かつ、隣接する包囲体(LiMn24)同士が接合して繋がって二重構造が構成されている状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0077】
(比較例1)
正極活物質の原料として平均粒径8μmのLiMn24粉末:10g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック):1.2g、及び結着物質としてPVDF(クレハ社製、KF#1320):0.9gを有機溶媒であるNMP(三菱化学社製):10gに溶解したPVDF樹脂溶液を分散させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で8000rpmの回転数で15分間攪拌して、スラリー状の電極活物質層形成液を調製した。集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調製した電極活物質層形成液を、最終的に得られる電極活物質層の電極質量が82g/m2となる量で、当該集電体の一面側にアプリケーターで塗布し、電極活物質層形成用塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて、120℃の空気雰囲気下で20分乾燥させて、集電体表面上に正極活物質層が積層された非水電解液二次電池用正極板を得た。次いで、120℃にて12時間、真空乾燥させた後、プレス機を用い所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、これを比較例1の正極板とした。なお、マイクロメーターを用いて比較例1の電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を産出したところ41μmであった。
【0078】
(電池特性評価)
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を加えて、当該溶質であるLiPF6の濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。正極板として上述のとおり作製した実施例および比較例を作用極として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、下記充放電試験に供した。
【0079】
(充電試験)
試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.3Vに達するまで定電流(1000μA)で定電流充電し、当該電圧が4.3Vに達した後は、電圧が4.3Vを上回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。
【0080】
(放電試験)
その後、満充電された試験セルを、25℃の環境下で、電圧が4.3V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(1000μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、実施例および比較例の正極板の初期放電容量(μAh)を求めた。初期放電容量を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(レート特性試験、放電容量維持率(%)の算出)
作用極の放電レート特性を評価するため、0.1C、0.5C、1C、10C、40C放電レートにおける各放電容量(μAh)を用い、上記で求めた0.1C放電時の放電容量を基準として、各レートにおける放電容量との比率を算出した、放電容量維持率(%)を求めた。具体的には、次式(1)により算出した。
(放電容量維持率%)=(0.1C放電容量)/(各レートの放電量)×100・・・(式1)
【0083】
実施例、および比較例の放電容量維持率(%)を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
<直流抵抗値の測定>
実施例、及び比較例の試験セルを用い、放電レート1Cの条件で放電試験を実施した場合において、放電開始後10秒後の電圧値(V1)(mV)を測定した。さらに、放電レート10Cの条件で放電試験を実施した場合についても、放電開始後10秒後の電圧値(V10)(mV)を測定した。そして、これらの測定値(V1,V10)と、放電レート1C、10Cそれぞれに対応する定電流値(I1,I10)(mA)に基づき、次式2により、直流抵抗値(Ω)を測定した。直流抵抗値(Ω)の測定結果を表3に示す。
【0086】
【数1】

【0087】
【表3】

【0088】
上記の表からも明らかなように、電極活物質粒子(LiMn24)と集電体、および該電極活物質粒子同士をPVDF樹脂のみによって固着させた比較例1と比較して、本発明の実施例1〜4は、全ての評価項目において優れた効果が確認された。
【符号の説明】
【0089】
1、55・・・集電体
2、54・・・電極活物質層
6・・・空隙
10・・・正極板
21・・・LiMn24粒子
22・・・包囲体
32・・・正極端子
33・・・負極端子
34・・・保護回路基板
35・・・外部接続コネクタ
36a、36b・・・樹脂容器
37・・・端部ケース
38a、38b・・・外部接続窓
50・・・負極板
70・・・セパレータ
81、82・・・外装
90・・・非水電解液
100・・・非水電解液二次電池
200・・・電池パック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極板であって、
前記電極活物質層が、該電極活物質層中に分散する複数のLiMn24粒子と、該LiMn24粒子を包囲する包囲体とを有し、
前記包囲体は、複数の包囲体であって、該複数の包囲体のうち、隣接する包囲体同士の一部は、互いに繋がっているか、あるいは、個の区別なく連続しており、
前記包囲体のうち前記集電体近傍の包囲体は、前記集電体の表面と繋がっており、
前記包囲体がLiMn24であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項2】
前記電極活物質層は、隣り合う前記包囲体の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項3】
正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水電解液とを少なくとも備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極板が請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極板であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
LiMn24粒子と、加熱されることでLiMn24となる1種又は2種以上の金属元素含有化合物と、が含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜を、前記金属元素含有化合物がLiMn24となる温度以上で加熱する加熱工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項5】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備えるリチウムイオン二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記リチウムイオン二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
前記リチウムイオン二次電池が、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池であることを特徴とする電池パック。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【公開番号】特開2012−94402(P2012−94402A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241531(P2010−241531)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】