説明

リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイス

【課題】高速なリチウムイオン伝導性を有し、平均構造として立方晶系に属したガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1100℃〜1300℃の温度で部分溶融させ結晶化させる高温での部分溶融法、前記原料を1301℃〜1500℃の温度で溶融させ冷却によって結晶化させる融液成長法、あるいは、リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料とし、リチウム塩をフラックスとして、600℃〜1300℃の温度において結晶化させるフラックス法を適用することにより、縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下である立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在我が国においては、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯型電子機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウム二次電池である。また、リチウム二次電池は、今後はハイブリッドカー、電力負荷平準化システム用などの大形電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
このリチウム二次電池は、いずれもリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料を含有する正極及び負極、非水系有機溶媒にリチウムイオン伝導体を溶解させた電解液、セパレータを主要構成要素とする。
【0004】
これらの構成要素のうち、電解液として検討されているのは、過塩素酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム等の電解質を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒に溶解させたもの、等が挙げられる。
【0005】
これらの材料は、良好なリチウムイオン伝導性を有することから、現行のリチウム二次電池のほとんどすべてにおいて、このような液系の電解質が採用されている。
【0006】
しかしながら、このような液系の電解質を採用したリチウム二次電池は、電池の構成から、正極と負極の短絡を起こしやすく、短絡による発熱・発火を引き起こすことから、安全上の問題があった。
【0007】
また、電解液自身が4.3V以上の高電圧では分解してしまうことから、作動電圧は4.3V以上に上げられないことが、電池の容量を増加させる上で、問題であった。
【0008】
このような目的で、電解質を液系ではなく、固体化することで、安全性が確保できることが期待され、かつ広い電位窓においても化学的に安定な高分子ポリマーや無機系のセラミックスなどを電池電解質とする電池の開発が検討されてきている。
【0009】
中でも酸化物セラミックス系固体電解質は、化学的な安定性が高く、安全性の観点から注目されている。
【0010】
このうち、リチウムアルミニウムチタンリン酸化物、ペロブスカイト型リチウムランタンチタン酸化物などのチタン酸化物が、良好なリチウム伝導性を有することから広く検討されてきた。
【0011】
しかしながら、充放電時に、電極材料と酸化還元反応を起こしてしまい、チタンの一部が4価から3価に還元されてしまうことから、電子伝導性が生まれ、短絡の危険性を有することが問題であった。
【0012】
一方、最近、立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体が検討され、化学的な安定性、電極反応における安定性が高く、またイオン伝導性も酸化物系では高いことから注目されていた。(特許文献1、非特許文献1参照)
【0013】
中でも、立方晶ガーネット関連型構造をリチウムランタンジルコニウム酸化物LiLaZr12は、一連の立方晶ガーネット関連型酸化物中で最もリチウムイオン伝導性が高いことから、注目されている。(非特許文献2参照)
【0014】
この物質は、結晶格子の分類から、立方晶系に帰属されるガーネット関連型の結晶構造を有することが知られている。
【0015】
この結晶構造においては、リチウムイオン伝導経路は、リチウムが占有した一次元的な空間が、3次元的に組み合わさっていることによって形成されていることが特徴である。
【0016】
本ガーネット関連型化合物を、例えば全固体型リチウム二次電池やリチウムイオン空気電池の固体電解質材料として応用する場合、単結晶基板、或いはエピタキシャル薄膜としての形態が、電池作製の容易性や電池の安定した動作性の観点から必要である。また、バルクの特性の方がイオン拡散においてもメリットがあり、単結晶的な形態が最適である。
【0017】
しかしながら、立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物イオン伝導体において、単結晶を合成する方法はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2007−528108号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】V.Thangadurai,W.Weppner,Advanced Functional Materials,15,107−112(2005)
【非特許文献2】R.Murugan,V.Thangadurai,W.Weppner,Angewandte Chemie−International Edition,46,7778−7781(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記のようなガーネット関連型リチウムイオン伝導体の実用上の課題を解決して、高速なリチウムイオン伝導性を有し、平均構造として立方晶系に属したガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(1)縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下である立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶。
(2)縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下である立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶であって、その立方晶系の格子定数aが12.90Å以上13.20Å以下であることを特徴とする立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶。
(3)ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1100℃〜1300℃の温度で部分溶融させ結晶化させることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
(4)ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1301℃〜1500℃の温度で溶融させ冷却によって結晶化させることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
(5)リチウム塩をフラックスに用いたフラックス法で、リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として用いて、600℃〜1300℃の温度において、結晶化させることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
(6)上記(1)又は(2)に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物を固体電解質材料として利用した電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高速なリチウムイオン伝導性を有し、平均構造として立方晶系に属したガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶が製造可能である。またこの単結晶を固体電解質材料として使用することによって、優れた特性を有するリチウム二次電池、リチウム空気電池などの電気化学デバイスが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】全固体リチウム二次電池の1例を示す模式図である。
【図2】ガーネット関連型化合物が有する平均構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例1で得られた立方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶の単結晶X線回折法により撮影されたX線回折図形(振動写真)である。
【図4】本発明の実施例2で得られた立方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶の単結晶X線回折法により撮影されたX線回折図形(振動写真)である。
【図5】本発明の実施例2で得られた本発明の単結晶のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、立方晶系ガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶合成について鋭意検討した結果、高温での部分溶融法、融液成長法、フラックス法を適用することによって、単結晶が得られることを見出し、本発明は完成するに至った。
【0025】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物単結晶は、化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、またその平均構造として、立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有する化合物の単結晶である。
さらに、単結晶の形状として、縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下であることを特徴とする単結晶である。
また、本発明のリチウムイオン伝導体単結晶の立方晶系の格子定数aは、12.90Å以上13.20Å以下であることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン伝導体単結晶の製造方法は、あらかじめ合成されたガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1100℃〜1300℃以下の温度で部分溶融させ結晶化させる、という固液共存状態から結晶を成長する方法であることを特徴とする。
或いはまた、単結晶の別の製造方法として、あらかじめ合成されたガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1301℃〜1500℃の温度で溶融させ冷却によって結晶化させる、という融液成長の方法であることを特徴とする。
さらにまた、単結晶の別の製造方法として、リチウム塩をフラックスに用いたフラックス法で、リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として用いて、600℃〜1300℃の温度において、結晶化させる、という溶液成長の方法であることを特徴とするものである。
これらの立方晶ガーネット関連型構造を有するリチウムイオン伝導体の単結晶は、全固体リチウム二次電池などの電気化学デバイスにおいて固体電解質材料として使用できることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る製造方法をさらに詳しく説明する。
(立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶の部分溶融法による合成)
本発明の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶は、原料として、あらかじめ合成されたガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を用い、空気中などの酸化性の雰囲気中高温で加熱することによって部分溶融させ、固液共存状態から結晶化させることで製造することができる。
【0027】
原料であるガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体は、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素を主要構成元素として含有し、立方晶系或いは正方晶系に属したガーネット型の結晶構造を有した化合物であれば特に制限されない。例えば、正方晶ガーネット型LiLaZr12が好ましい。
【0028】
はじめに、出発原料であるガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を粉砕・混合することが好ましい。粉砕・混合方法は、これらを均一に粉砕・混合できる限り、特に限定されず、例えばミキサー等の公知の粉砕・混合機を用いて、湿式又は乾式で粉砕・混合すればよい。
【0029】
次いで、粒子サイズを整えた粉体試料を、成型する。成型方法は特に限定されず、例えば錠剤成型器、一軸加圧プレス、静水圧プレス、HIP、CIP等を利用した公知の方法で成型すればよい。本焼成の前に、あらかじめ仮焼、焼結体の作製を行ってもよい。
【0030】
次いで、熱処理をおこなう。前述の成型した試料をるつぼ等の容器に入れる。るつぼ材としては、アルミナ、白金等、通常高温で安定な材質のものが好ましい。
【0031】
加熱方法としては、通常の抵抗加熱、アーク放電加熱、誘導加熱、赤外線加熱、レーザー加熱等の公知の方法が適用できる。このうち、抵抗加熱が好ましい。
【0032】
昇温時間、熱処理温度、保持時間は目的とする組成等によって適宜設定することが出来るが、通常は1100℃〜1300℃、好ましくは1130℃〜1230℃とすればよい。熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【0033】
熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。その際は、リチウム等の構成元素の揮発を抑制する目的で、酸素圧等の雰囲気ガス圧を常圧以上10気圧程度としておくことがより好ましい。
【0034】
冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
冷却後は、そのまま単結晶を取り出すことも可能だが、不純物等を除去する目的で、純水、エタノール等を用いて、洗浄することが好ましい。
【0035】
(立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶の融液成長法による合成)
本発明の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶は、原料として、あらかじめ合成されたガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を用い、空気中などの酸化性の雰囲気中高温で加熱することによって溶融させ、融液からの結晶成長法により結晶化させることで製造することができる。
【0036】
原料であるガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体は、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素を主要構成元素として含有し、立方晶系或いは正方晶系に属したガーネット型の結晶構造を有した化合物であれば特に制限されない。例えば、正方晶ガーネット型LiLaZr12が好ましい。
【0037】
はじめに、出発原料であるガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を粉砕・混合することが好ましい。粉砕・混合方法は、これらを均一に粉砕・混合できる限り、特に限定されず、例えばミキサー等の公知の粉砕・混合機を用いて、湿式又は乾式で粉砕・混合すればよい。
【0038】
次いで、粒子サイズを整えた粉体試料を、成型する。成型方法は特に限定されず、例えば錠剤成型器、一軸加圧プレス、静水圧プレス、HIP、CIP等を利用した公知の方法で成型すればよい。本焼成の前に、あらかじめ仮焼、焼結体の作製を行ってもよい。
【0039】
次いで、熱処理をおこなう。前述の成型した試料をるつぼ等の容器に入れる。るつぼ材としては、アルミナ、白金など、通常高温で安定な材質のものが好ましい。
【0040】
或いは、浮遊帯域溶融法(FZ法)などの、焼結体を低温部で固定することによるるつぼを使わない方法がより好ましい。
【0041】
加熱方法としては、通常の抵抗加熱、アーク放電加熱、誘導加熱、赤外線加熱、レーザー加熱等の公知の方法が適用できる。このうち、赤外線集光加熱が好ましい。
【0042】
昇温時間、熱処理温度、保持時間は目的とする組成等によって適宜設定することが出来るが、通常は1301℃〜1500℃、好ましくは1340℃〜1400℃とすればよい。
【0043】
熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。その際は、リチウム等の構成元素の揮発を抑制する目的で、酸素圧等の雰囲気ガス圧を常圧以上10気圧程度としておくことがより好ましい。
【0044】
冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
冷却後は、そのまま単結晶を取り出すことも可能だが、不純物等を除去する目的で、純水、エタノール等を用いて、洗浄することが好ましい。
【0045】
(立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶のフラックス法による合成)
本発明の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶は、フラックス法を適用することでも製造することができる。
【0046】
すなわち、原料として、リチウム元素を含む化合物の少なくとも1種、ランタン元素を含む化合物の少なくとも1種、ジルコニウム元素を含む化合物の少なくとも1種を用い、所定の比率となるよう出発原料を秤量・混合し、空気中などの酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって、溶液成長法によって製造することができる。
【0047】
リチウム原料としては、リチウム(金属リチウム)及びリチウム化合物の少なくとも1種を用いる。リチウム化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に制限されず、例えば、Li等の酸化物、LiCO、LiNO等の塩類、LiOH等の水酸化物等があげられる。これらの中でも、特にLiNO等が好ましい。
【0048】
ランタン原料としては、ランタン(金属ランタン)及びランタン化合物の少なくとも1種を用いる。ランタン化合物としては、ランタンを含有するものであれば特に制限されず、例えば、La等の酸化物、La(CO、La(NO等の塩類等があげられる。これらの中でも、特にLa等が好ましい。
【0049】
ジルコニウム原料としては、ジルコニウム(金属ジルコニウム)及びジルコニウム化合物の少なくとも1種を用いる。ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有するものであれば特に制限されず、例えば、ZrO等の酸化物、ZrCといった炭化物、ZrN等の窒化物等があげられる。これらの中でも、特にZrO等が好ましい。
【0050】
はじめに、これらを含む混合物を調整する。各出発原料の混合の割合は、所定の比率となるように混合することが好ましい。この際、あらかじめ熱処理により合成されたリチウムランタンジルコニウム酸化物を原料としてもよい。
【0051】
フラックス材としては、通常、酸化物の結晶成長に適用されるフラックス材が適用できる。中でも、リチウムを含有し、低温で融解する化合物が好ましい。例えば、リチウム(金属リチウム)及びリチウム化合物の少なくとも1種を用いる。リチウム化合物としては、LiO等の酸化物、LiCO、LiNO等の塩類、LiOH等の水酸化物等があげられる。これらの中でも、特にLiNO等が好ましい。
【0052】
フラックス材の混合割合としては、過剰組成であれば好ましく、例えばLiLaZr12に対するモル比で、1〜17の範囲、より好ましくは3〜8程度とすればよい。混合方法は、これらを均一に混合できる限り、特に限定されず、例えばミキサー等の公知の混合機を用いて、湿式又は乾式で混合すればよい。
【0053】
次いで、混合物を熱処理する。熱処理温度は、原料によって適宜設定することが出来るが、通常は、600℃以上1300℃以下、好ましくは1050℃以上1230℃以下とすればよい。
【0054】
熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。昇温時間、保持時間、降温時間は、熱処理温度などに応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【0055】
熱処理後は、残ったフラックス材を取り除き育成した単結晶を得る。除去方法としては、通常の純水、エタノール等による洗浄が好ましい。
【0056】
(電気化学デバイスの作製)
本発明の電気化学デバイスは、上記、立方晶ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶からなる固体電解質材料を部材として用いるものである。すなわち、固体電解質材料として本発明の立方晶ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の単結晶を用いる以外は、公知のリチウム二次電池(コイン型、ボタン型、円筒型、全固体型等)、リチウム空気電池、リチウム電池、アルカリ電池、センサーなどの電気化学デバイスの要素技術をそのまま採用することができる。
【0057】
図1は、本発明の電気化学デバイスとして、コイン型リチウム二次電池に適用した1例を示す模式図である。このコイン型電池1は、負極端子2、負極3、固体電解質4、絶縁パッキング5、正極6、正極缶7により構成される。
【0058】
本発明の電気化学デバイス(リチウム二次電池)において、上記本発明のガーネット型リチウムイオン伝導体単結晶を固体電解質として適用できる。そのため、公知のリチウム二次電池で多く使用されている有機電解液やセパレータの使用が必ずしも必要としない点が、大きな特徴である。
【0059】
本発明のリチウム二次電池において、正極材料としては、例えばリチウムコバルト酸化物(LiCoO)やリチウムマンガン酸化物(LiMn)などの、正極として機能し、リチウム基準で電位が比較的高く、かつリチウムを吸蔵可能な公知のものを採用することができる。特に、本材料は、5V程度の高電位でも安定に電解質として機能することが特徴であることから、高い電位を有する正極材料の使用が可能である。
【0060】
また、本発明のリチウム二次電池において、負極材料としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、炭素材料、リチウムチタン酸化物など、負極として機能し、リチウム基準で電位が比較的低く、かつリチウムを吸蔵可能な公知のものを採用することができる。特に、本材料は金属リチウムに対しても還元されず、また、5V程度の高電位でも安定に電解質として機能することが特徴であることから、幅広い材料の選択が可能である。
また、本発明のリチウム二次電池において、電池容器等も公知の電池要素を採用すればよい。
【0061】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
(立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶の部分溶融法による合成)
正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を原料として用い、乳鉢中で粉砕・混合した後、アルミナるつぼ(Al、純度99.6%)に充填した。抵抗加熱式電気炉を用いて、空気中で加熱処理を行った。加熱温度は1250℃、加熱時間は6時間とした。電気炉中で自然放冷した後、部分的に溶融し、固化した部分から、立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶を得た。
【0063】
選別した単結晶について、イメージングプレート式単結晶X線回折装置によって単結晶X線回折図形を測定した。図3に得られた単結晶試料の振動写真を示す。良好な回折スポットが観測され、結晶性の高い単結晶であることが確認された。回折スポットから、平均構造として立方晶系のガーネット関連型構造を有する単一相であることが明らかとなった。平均構造である立方晶系の格子定数を求めたところ、以下の値となり、公知のLiLaZr12と非常に良い一致であり、LiLaZr12の単結晶であることが確認された。
a=12.959Å(誤差0.002Å以内)
【0064】
[実施例2]
(立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物単結晶のフラックス法による合成)
純度99%以上の硝酸リチウム(LiNO)粉末、純度99.9%以上の酸化ランタン(La)粉末、純度99.9%以上の酸化ジルコニウム(ZrO)粉末をLi:La:Zrのモル比で30:3:2となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合した後、アルミナるつぼ(Al、純度99.6%)に充填し、電気炉を用いて、空気中、高温条件下で加熱し熱処理した。加熱温度は1150℃、加熱時間は4時間とした。冷却後、残ったリチウム塩を水洗することで本発明の単結晶試料を得た。
【0065】
得られた単結晶について、走査型電子顕微鏡により、単結晶の形態や表面観察を行った。図5にSEM写真を示す。結晶面の良く成長した良質な単結晶試料であることが確認され、その形状は、約100マイクロメートル程度の直径の球状であり、色は無色透明であった。
【0066】
さらに得られた単結晶について、エネルギー分散型X線分析法により、化学組成を分析したところ、La:Zr=3.1:1.9であり、Li7.1La3.1Zr1.912で妥当であった。
【0067】
選別した単結晶について、イメージングプレート式単結晶X線回折装置を用いて単結晶X線回折測定を行った。図4に得られた振動写真を示す。回折スポットが観測され、単結晶であることが明らかとなった。
【0068】
また、その振動写真の回折スポットとその面指数を用いて、平均構造である立方晶系の格子定数を求めたところ、以下の値となり、立方晶ガーネット関連型構造であることが明らかになった。
a=13.134Å(誤差0.004Å以内)
【符号の説明】
【0069】
1 コイン型リチウム二次電池
2 負極端子
3 負極
4 固体電解質
5 絶縁パッキング
6 正極
7 正極缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下である立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶。
【請求項2】
縦、横、奥行きのうちの少なくとも1辺の長さが10マイクロメートル以上、1ミリメートル以下である立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶であって、その立方晶系の格子定数aが12.90Å以上13.20Å以下であることを特徴とする立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶。
【請求項3】
ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1100℃〜1300℃の温度で部分溶融させ結晶化させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
【請求項4】
ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物多結晶体を原料として用い、1301℃〜1500℃の温度で溶融させ冷却によって結晶化させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
【請求項5】
リチウム塩をフラックスに用いたフラックス法で、リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として用いて、600℃〜1300℃の温度において、結晶化させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物の単結晶の製造方法。
【請求項6】
上記請求項1又は2に記載の立方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物を固体電解質材料として利用した電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−195372(P2011−195372A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63406(P2010−63406)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】