説明

リチウム二次電池およびその製造方法

【課題】内圧上昇により作動する電流遮断機構を備え、より電池性能のよい(例えば内部抵抗の低い)リチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明に係るリチウム二次電池(リチウムイオン電池)10は、内圧上昇により作動する電流遮断機構40を備える。その電池10を構成する正極32は、リチウム遷移金属酸化物を主体とする正極活物質と導電材と炭酸リチウムとを含む正極合剤層を有する。そして、上記導電材の表面に上記炭酸リチウムが配置されている。かかる正極合剤層は、例えば、導電材の表面に炭酸リチウムが保持された複合導電材と正極活物質とを含む正極合剤組成物を用いることにより好ましく作製され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)に関し、詳しくは、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池その他の密閉型電池(典型的には二次電池)は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
【0003】
ところで、リチウムイオン電池は誤操作や不正使用等により過充電されると発熱し、さらには過熱に至ることがある。かかる過充電時の過熱を防止するために、例えば、正極構成材料中に含まれる炭酸リチウムの電気化学的な分解反応による炭酸ガスの発生を利用して電池の内圧を上昇させ、その内圧上昇により電流遮断機構を作動させることが提案されている。この種の技術に関する従来技術文献として特許文献1〜3が挙げられる。
【特許文献1】特開平5−242913号公報
【特許文献2】特開平5−151997号公報
【特許文献3】特開平5−182667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように正極中の炭酸リチウムを内圧上昇剤として利用する電流遮断機構を備えた電池において、炭酸リチウムが正極活物質(典型的にはリチウム遷移金属酸化物)粒子の表面や内部に配置されていると、該活物質粒子へのリチウムイオンの出入りや粒子内におけるリチウムイオンの移動が炭酸リチウムによって妨げられ得ることから、電池の内部抵抗(反応抵抗)が上昇しがちである。例えば、リチウム遷移金属酸化物を焼成(合成)する際に過剰量の炭酸リチウムを使用し或いは上記焼成を炭酸ガス存在下で行うことによって意図的に炭酸リチウムを多く含むように製造された正極活物質粒子を用いる態様や、正極活物質粒子と炭酸リチウムとを単純に混合してなる組成物を用いる態様では、上述のような内部抵抗の上昇が起こりやすい。かかる内部抵抗の上昇は電池の出力低下につながる。したがって、車両搭載用電池等のように高出力が求められる電池では、内部抵抗を抑えることが殊に重要である。
【0005】
本発明は、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池であって、より電池性能のよい(例えば内部抵抗の低い)電池を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかるリチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池が提供される。該電池を構成する正極は、リチウム遷移金属酸化物を主体とする正極活物質と導電材と炭酸リチウムとを含む正極合剤層を有する。そして、前記導電材の表面に前記炭酸リチウムが配置されている。
【0007】
かかる構成の正極によると、電池反応に直接関与しない導電材の表面に炭酸リチウム(LiCO)が配置されているので、電池性能(例えば内部抵抗)への影響を抑えつつ、該炭酸リチウムを利用して過充電時に電流を遮断する機構を備えたリチウム二次電池を実現することができる。したがって本発明は、他の側面として、上記電流遮断機構を備えたリチウム二次電池の構成要素(構成部品)として好適な正極を提供する。
【0008】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0009】
上記導電材としては、比表面積が凡そ100m/g以上(例えば凡そ100〜500m/g)のものを好ましく使用することができる。かかる導電材(例えば、カーボンブラック等の導電性炭素材料)によると、より比表面積の小さな導電材を用いる場合に比べて、内圧上昇剤としての炭酸リチウムを該導電材の表面に薄く広く配置することができる。これにより炭酸リチウムの反応面積を増加させ、過充電時における炭酸ガスの発生効率を向上させることができる。その結果、より大きな充電電流(急速充電)で過充電された場合にも、上記電流遮断機構をより適切に(より早い段階で)作動させることができる。
【0010】
前記正極合剤層における炭酸リチウムの含有量は、例えば凡そ1〜10質量%(好ましくは凡そ2〜6質量%)程度とすることが好ましい。かかる組成とすることにより、電池性能への影響をよりよく抑制しつつ、上記電流遮断機構をより適切に作動させることができる。
【0011】
本発明によると、また、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池を製造する方法が提供される。その方法は、導電材の表面に炭酸リチウムが保持(例えばコート)された複合導電材を用意(製造、購入等)する工程を含む。また、リチウム遷移金属酸化物を主体とする正極活物質と前記複合導電材とを含む正極合剤組成物を調製する工程を含む。また、前記組成物を用いてなる正極合剤層(例えば、前記組成物を集電体に付与して形成された正極合剤層)を備えた正極を作製する工程を含む。さらに、前記正極を用いて電池を構築する工程を含む。
【0012】
かかる方法によると、前記正極活物質と前記導電材と該導電材の表面に配置された炭酸リチウムとを含む正極合剤層を有する正極を備えたリチウム二次電池が製造され得る。したがって上記製造方法は、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池を製造する方法として好適に採用され得る。また本発明は、他の側面として、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池の構成要素(構成部品)として好適な正極の製造方法を提供する。
【0013】
好ましい一態様では、前記正極合剤組成物として、溶媒(炭酸リチウムを実質的に溶解しない溶媒が好ましい。)およびバインダを含む液状媒質に前記正極活物質と前記複合導電材とが分散した組成物を使用する。かかる組成物を用いることにより(例えば、該組成物をシート状の集電体に塗布することにより)、所望する性状の正極合剤層を容易に作製することができる。
【0014】
前記正極合剤組成物の調製(正極合剤組成物調製工程)は、典型的には、溶媒およびバインダを含む液状媒質に前記正極活物質および前記複合導電材を分散させる分散工程を含む。該分散工程は、前記正極活物質と前記溶媒と前記バインダとを混合する第一混合工程と、該第一混合工程の後さらに前記複合導電材を混合する第二混合工程とを包含する態様で好ましく行われ得る。かかる態様によると、上記複合導電材の表面に保持された炭酸リチウムが剥がれて正極活物質表面に付着する事象が抑制され得ることから、より電池性能に優れたリチウム二次電池が製造され得る。前記溶媒としては非水系溶媒(例えばN−ビニルピロリドン)を好ましく用いることができる。また、前記導電材としては、比表面積が凡そ100m/g以上(例えば凡そ100〜500m/g)のものを好ましく使用することができる。
【0015】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記複合導電材を用意する工程が、前記導電材に炭酸リチウム溶液(典型的には水溶液)を供給し、該炭酸リチウム溶液を乾燥させることにより前記導電材の表面に炭酸リチウムをコートする工程を包含する。例えば、前記導電材と前記炭酸リチウム溶液とを混合してなる混合物(典型的には分散液)を乾燥させる態様を好ましく採用し得る。炭酸リチウムをコートする量(換言すれば、前記複合導電材に含まれる炭酸リチウム量)は、前記導電材100質量部に対して例えば凡そ10〜50質量部とすることが好ましい。
【0016】
前記複合導電材としては、前記導電材の表面積1m当たり例えば凡そ0.5mg〜5mg(より好ましくは凡そ1mg〜4mg)の炭酸リチウムが保持(例えばコート)されたものを好ましく使用し得る。このように導電材表面に炭酸リチウムが薄く広く配置された複合導電材を用いることにより、より大きな充電電流で過充電された場合にも、上記電流遮断機構をより適切に(より早い段階で)作動させることのできるリチウム二次電池および該電池用正極が製造され得る。
【0017】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池(ここに開示されるいずれかの方法により製造されたリチウム二次電池であり得る。)を備える車両が提供される。上記リチウム二次電池は、内部抵抗(反応抵抗)が低減されていることから、車両に搭載される電池として適した高性能(例えば高出力)を実現するものであり得る。したがって、例えば自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここに開示される技術は、リチウム遷移金属酸化物を主体(主成分)とする正極活物質を備えた正極を用いて構築され、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた各種形態のリチウム二次電池に適用され得る。かかる電池を構成する正極の典型的な一形態として、正極活物質と導電材と炭酸リチウムとを含む(典型的には、主成分すなわち50質量%以上がリチウム遷移金属酸化物である)正極合剤層が集電体に保持された構成の正極が挙げられる。上記集電体(正極集電体)の構成材料としては、従来の一般的なリチウム二次電池と同様、アルミニウム等の導電性金属材料を好ましく採用することができる。正極集電体の形状は、上記正極を用いて構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。ここに開示される技術は、例えば、シート状もしくは箔状の集電体に正極合剤層が保持された形態のリチウム二次電池用正極(シート状正極)に好ましく適用することができる。
【0020】
このような正極を用いて構築されるリチウム二次電池の好ましい一態様として、シート状の正極および負極を典型的にはシート状のセパレータとともに捲回してなる電極体(捲回電極体)が、適当な電解質(典型的には液状の電解質、すなわち電解液)とともに外装ケースに収容された構成の電池が挙げられる。該リチウム二次電池の外形は特に限定されず、例えば直方体状、扁平形状、円筒状等の外形であり得る。かかるリチウム二次電池に具備される電流遮断機構は、内圧の上昇に応じて(すなわち内圧の上昇を作動のトリガとして)電流を遮断し得るものであれば特に限定されず、例えば、この種の電池に設けられる電流遮断機構として従来知られている何れかのものと同様の機構を適宜採用することができる。
【0021】
以下、主として捲回電極体を備えたリチウムイオン電池に適用する場合を例として本発明をより詳しく説明するが、本発明の適用対象をかかる電池に限定する意図ではない。
【0022】
正極活物質の主体をなすリチウム遷移金属酸化物としては、リチウムニッケル系酸化物、リチウムコバルト系酸化物およびリチウムマンガン系酸化物から選択される一種または二種以上を好ましく使用し得る。ここで「リチウムニッケル系酸化物」とは、LiとNiとを構成金属元素とする酸化物の他、LiおよびNi以外に他の一種または二種以上の金属元素(すなわち、LiおよびNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)をNiよりも少ない割合(原子数換算。LiおよびNi以外の金属元素を二種以上含む場合にはそれらのいずれについてもNiよりも少ない割合)で含む複合酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Co,Al,Mn,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。同様に、「リチウムコバルト系酸化物」とはLiおよびCo以外に他の一種または二種以上の金属元素をCoよりも少ない割合で含む複合酸化物をも包含する意味であり、「リチウムマンガン系酸化物」とはLiおよびMn以外に他の一種または二種以上の金属元素をMnよりも少ない割合で含む複合酸化物をも包含する意味である。なかでも好ましいものとしてリチウムニッケル系酸化物およびリチウムコバルト系酸化物が挙げられる。また、ここに開示される技術を車両用電源(例えばハイブリッド自動車の電動機用電源)等の大型および/または多数の電池を要するに分野に適用する場合には、原材料費等の観点から、上記リチウム遷移金属酸化物としてリチウムニッケル系酸化物を好ましく採用し得る。
【0023】
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μm(典型的には凡そ2μm〜15μm)の範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を、ここに開示される技術における正極活物質として好ましく採用することができる。
【0024】
上記正極に使用される導電材としては、一般的なリチウムイオン電池の正極に使用される導電材と同様のもの等を適宜採用することができる。かかる導電材として、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうちアセチレンブラックおよび/またはファーネスブラックを好ましく採用することができる。例えば、構成粒子(典型的には一次粒子)の平均粒径が凡そ10nm〜200nm(例えば凡そ20nm〜100nm)の範囲にある導電材の使用が好ましい。特に限定するものではないが、該導電材の比表面積は例えば凡そ25〜1000m/g(好ましくは50〜500m/g)程度であり得る。
【0025】
ここに開示される技術では、内圧上昇剤としての炭酸リチウムが導電材の表面に配置されている。したがって、単位質量当たりの表面積(すなわち比表面積)が大きな導電材を用いることにより、その導電材上に配置される炭酸リチウムの表面積を大きくし得(換言すれば、同量の炭酸リチウムをより広い面積により薄く配置することができ)、過充電時における上記炭酸リチウムの反応効率を高めることができる。かかる観点から、比表面積が凡そ100m/g以上(例えば凡そ100〜500m/g)の導電材の使用が好ましい。上記比表面積を有するアセチレンブラック、ファーネスブラック(典型的にはオイルファーネス)等のカーボン粉末を好ましく採用することができる。
【0026】
上記正極活物質、導電材および該導電材表面に配置された炭酸リチウムを含む正極活物質層は、例えば、ここに開示されるいずれかの導電材の表面に炭酸リチウムが保持された形態の複合導電材を用いて形成されたものであり得る。導電材の表面に炭酸リチウムを保持させる方法(すなわち複合導電材の作製方法)としては、適当な溶媒に炭酸リチウムが溶解した溶液を用意し、その炭酸リチウム溶液に導電材粉末を添加混合して分散させ、該分散液を乾燥(好ましくは攪拌しつつ乾燥)させることで導電材表面に炭酸リチウムをコートする方法が例示される。他の方法として、導電材粉末を攪拌しながら該粉末に炭酸リチウム溶液を徐々に供給(例えば散布)して乾燥させることにより導電材表面に炭酸リチウムをコートする方法が挙げられる。上記炭酸リチウム溶液の調製に使用する溶媒は、炭酸リチウムを溶解可能なものであれば特に限定されないが、通常は水(イオン交換水等)を用いることが好ましい。
【0027】
かかる複合導電材を構成する導電材の表面積1m当たりに保持される炭酸リチウムの量は、例えば凡そ0.2mg〜20mg程度とすることができる。炭酸リチウムの保持量(コート量)が上記範囲よりも少なすぎると、所望する量の炭酸リチウムを正極合剤層に含有させるために必要な導電材量が多くなる結果、正極合剤層に含まれる正極活物質の量が相対的に少なくなり、電池の容量密度が低下しがちとなる。炭酸リチウムの保持量が上記範囲よりも多すぎると、導電材表面に炭酸リチウムが厚く配置されるため、過充電時における炭酸リチウムの反応効率が低下傾向となり得る。また、導電材表面から炭酸リチウムが脱落し(さらには、脱落した炭酸リチウムが正極活物質の表面に付着し)やすくなったり、導電材本来の効果(正極合剤層の導電性を向上させる効果)が十分に発揮され難くなったりする場合があり得る。
【0028】
ここに開示される技術における正極合剤層は、上記正極活物質と上記複合導電材とを含む正極合剤組成物を用いて好ましく作製され得る。例えば、適当な溶媒とバインダ(結着剤)とを含む液状媒質に上記正極活物質と上記複合導電材とが分散した態様の正極合剤組成物を用意(調製)し、該組成物(典型的にはペーストまたはスラリー状の組成物)を集電体の表面に付与(典型的には塗布)して乾燥させるとよい。
【0029】
上記液状媒質を構成する溶媒としては、炭酸リチウムを実質的に溶解しない溶媒(典型的には非水系溶媒)を用いることが好ましい。かかる溶媒としては、従来からリチウムイオン電池の正極合剤組成物(いわゆる溶剤型の正極合剤組成物)の調製に用いられている各種の有機溶剤等から選択される一種または二種以上を好適に用いることができる。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤を使用し得る。これらのうち好適な一例としてNMPが挙げられる。
【0030】
上記バインダとしては、従来から溶剤型の正極合剤組成物の調製に用いられている各種のポリマー等から選択される一種または二種以上を好適に用いることができる。かかるポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等が例示される。これらのうち好適例としてPVDFおよびPVDCが挙げられる。使用する溶媒に可溶なポリマーを選択することが好ましい。
【0031】
正極合剤組成物の固形分に占める正極活物質の割合(典型的には、正極合剤層全体に占める正極活物質の割合と概ね一致する。)は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、凡そ70〜95質量%(例えば75〜90質量%)であることがより好ましい。また、上記固形分に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。上記固形分に占める複合導電材の割合(すなわち、導電材とその表面に保持された炭酸リチウムとの合計量)は、例えば凡そ3〜25質量%とすることができ、凡そ3〜20質量%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、上記固形分に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、凡そ2〜5質量%とすることが好ましい。
【0032】
特に限定するものではないが、上記正極合剤組成物を調製するにあたっては、正極活物質を上記バインダおよび上記溶媒と混合した後(該正極活物質が均一に分散するまで混合することが好ましい。)、この混合物に複合導電材を投入して攪拌混合する態様を好ましく採用することができる。かかる態様によると、複合導電材を投入した後の攪拌負荷を軽減(例えば、攪拌時間の短縮、攪拌速度の低下等)することができる。その結果、複合導電材を構成する炭酸リチウムが攪拌にともなうシェアが加わることによって導電材表面から脱落したり、その脱落した炭酸リチウムが正極活物質の表面に付着したり、あるいは攪拌中に複合導電材と正極活物質とが衝突することによって導電材上の炭酸リチウムが正極活物質上に移動したりする事象を抑制することができる。
【0033】
なお、ここに開示される技術は、正極を構成する導電材の表面に意図的に炭酸リチウムが配置されている(換言すれば、正極に含まれる炭酸リチウムが導電材の表面に偏って配置されている)ことによって特徴づけられるものであって、本発明の効果を顕著に妨げない限りにおいて、導電材表面以外の箇所に炭酸リチウムが存在する態様を排除するものではない。したがって、正極活物質を製造(合成)する際の未反応物として残存している炭酸リチウムや、正極合剤層の作製時に複合導電材から脱落した炭酸リチウム等のように、正極に含まれる炭酸リチウムのうちの一部(例えば該炭酸リチウムの凡そ50質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下)が非意図的に導電材表面以外の場所(正極活物質の表面または内部等)に存在する態様も、ここに開示される正極合剤層の概念に含まれ得る。
【0034】
上記正極合剤組成物は、上記複合導電材に加えて、表面に炭酸リチウムが保持されていない導電材を含んでもよい。このように単独で配合される導電材(以下「単独導電材」ということもある。)と複合導電材を構成する導電材とは、同一の材料を用いてもよく異なる(例えば、材質および/または粒径の異なる)材料を用いてもよい。単独導電材と複合導電材とを併用する場合において、正極合剤組成物を調製するにあたっては、正極活物質および単独導電材を上記バインダおよび上記溶媒と混合した後(均一に分散するまで混合することが好ましい。)、この混合物に複合導電材を投入して攪拌混合する態様を好ましく採用することができる。なお、正極活物質と単独導電材との混合順は問わず、これらを同時に配合してもよい。
【0035】
かかる正極合剤組成物を集電体(典型的にはシート状)に付与する操作は、従来公知の適当な塗布装置(スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を使用して好適に行うことができる。その塗布物を乾燥することによって(このとき必要に応じて適当な乾燥促進手段(ヒータ等)を用いてもよい。)正極合剤層が形成される。正極合剤組成物の塗布量は特に限定されず、正極および電池の形状や用途に応じて適宜異なり得る。シート状の正極集電体の表面(典型的には両面)の所定範囲に適当量の正極合剤組成物を塗布・乾燥した後、所望により厚み方向にプレスすることによって、目的とする厚みの正極シートを得ることができる。上記プレスを行う方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等を適宜採用することができる。
【0036】
なお、正極合剤層を形成する他の態様としては、上記正極活物質と上記複合導電材と典型的にはバインダ(熱可塑性樹脂等)とを含む粉末状の正極合剤組成物をプレス成形する態様が例示される。
【0037】
以下、本発明により提供される正極および該正極を備えるリチウムイオン電池の一実施形態につき、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
図示されるように、本実施形態に係るリチウムイオン電池10は、大まかにいって円筒形状のケース20に捲回電極体30が収容された構成を有する。ケース20の構成材料としては、アルミニウム等の比較的軽量な金属材料を好ましく採用し得る。なお、図1は円筒型ケース20の手前側半分を除去した状態を示している。
【0039】
捲回電極体30は、図2に示すように、長尺シート上の正極集電体32A(例えばアルミニウム箔)の片面または両面(典型的には両面)に上述のような正極合剤層32Bが形成された正極シート32と、長尺シート上の負極集電体34A(例えば銅箔)の片面または両面(典型的には両面)に負極合剤層34Bが形成された負極シート34とを、二枚の長尺状セパレータシート36とともに重ね合わせて長尺方向に捲回してなる。
【0040】
負極活物質層32Bの形成に用いる負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属窒化物等が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む炭素材料(例えば天然黒鉛)の使用が好ましい。このような負極活物質をバインダ(正極側の活物質層と同様のもの等を使用することができる。)および必要に応じて用いられる導電材(正極側の活物質層と同様のもの等を使用することができる。)と混合して調製した負極合剤組成物を負極集電体34Aに塗布して乾燥させることにより、集電体34Aの所望する部位に負極活物質層34Bを形成することができる。特に限定するものではないが、負極活物質100質量部に対するバインダの使用量は例えば0.5〜10質量部の範囲とすることができる。
【0041】
また、セパレータシート36としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムを好適に使用し得る。
【0042】
図2に示すように、正極シート32および負極シート34の長手方向に沿う一方の端部には上記組成物を塗布せず、よって活物質層32B,34Bが形成されない部分が設けられている。正負極シート32,34を二枚のセパレータシート36と重ね合わせる際には、両活物質層32B,34Bを重ね合わせ且つ正極シートの活物質層非形成部分と負極シートの活物質層非形成部分とが長手方向に沿う一方の端部と他方の端部に別々に配置されるように、正負極シート32,34をややずらして重ね合わせる。この状態で計四枚のシート32,36,34,36を捲回することによって捲回電極体30が得られる。
【0043】
かかる構成の捲回電極体30が図示しない電解液とともにケース20に収容され、上記正極および負極の活物質層非形成部分が、一部がケース20の外部に突出した正極端子14および負極端子16の各々と電気的に接続されている。ここで、ケース20のうち正極シート32の活物質層非形成部分が位置する側の端部(正極側端部)には、ケース20の内圧上昇に起因して作動する電流遮断機構40が設けられている。この電流遮断機構40は、上記正極側端部においてケース20の一部空間を区画するダイヤフラム(隔壁)42を主体に構成されている。ダイヤフラム42は例えば導電性金属製の薄膜(例えばアルミニウム箔)により構成され、その中央部には電極体30側に湾曲した受圧部42Aが形成されている。その受圧部42Aの電極体側表面に、正極シート32の活物質層非形成部に接続されたリード部材38の一端が例えば溶接により接合されている。ダイヤフラム42と正極端子14とは連絡部材39により接続されており、これにより正極シート32から正極端子14に至る電流経路が形成されている。ダイヤフラム42および電極端子14,16とケース20とは図示しない絶縁部材を介して絶縁されている。
【0044】
なお、電解液としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。
【0045】
リチウムイオン電池10が過充電状態となると、正極電位の上昇にともない、正極活物質層32Bに含まれる炭酸リチウム(典型的には、主として導電材の表面に配置されている。)が電気化学的に分解されて炭酸ガス(CO)が発生する。これにより、ケース20のうちダイヤフラム42の電極体側(電極体収容空間)の圧力が上昇する。そして、該電極体収容空間の圧力が予め設定された所定値よりも高くなると、受圧部42Aの形状が反転する(外側に膨らむ湾曲形状に変移する)ことにより、リード部材38とダイヤフラム42との接合部が破断する。これにより正極シート32から正極端子14に至る電流経路が切断され(すなわち電流が遮断され)、それ以上の過充電が阻止される。
【0046】
本発明に係るリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)は、上記のように、内圧上昇剤としての炭酸リチウムを用いて形成された正極を用いて構築された構成でありながら、該炭酸リチウムの使用に伴う内部抵抗の上昇が抑えられていることから、優れた電池性能(出力性能等)を発揮するものであり得る。したがって該電池は、例えば、自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用され得る。かかるリチウムイオン電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。したがって本発明は、図3に模式的に示すように、かかるリチウムイオン電池(組電池の形態であり得る。)10を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【0047】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0048】
<例1>
導電材としてのカーボンブラック(比表面積39m/g、平均粒径48nm)を炭酸リチウム水溶液に投入して混合することにより、カーボンブラック(CB)と炭酸リチウムとを10:4の質量比で含有する分散液を調製した。この分散液を乾燥させて、CBに炭酸リチウムがコートされた複合導電材粉末(炭酸リチウムのコート量 10.3mg/m)を得た。
【0049】
上記複合導電剤粉末を用いて正極合剤組成物を調製した。すなわち、正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNiO)粉末と、上記複合導電材粉末と、PVDFとを、これら材料の質量比が87:14:3となり且つ固形分濃度(NV)が約40質量%となるようにNMP(有機溶剤)と混合した。より具体的には、まず正極活物質粉末と複合導電材粉末とを混合した後、この混合粉末をPVDFのNMP溶液と2時間攪拌混合して正極合剤組成物を得た。
【0050】
得られた正極合剤組成物を厚さ15μmの長尺状アルミニウム箔(集電体)の両面に塗布して乾燥させることにより正極合剤層を形成した。上記組成物の塗布量(固形分基準)は、両面合わせて約12.8g/mとなるように調整した。このようにして本例に係るシート状正極(正極シート)を作製した。
【0051】
また、天然黒鉛(粉末)とSBRとCMCとを、これら材料の質量比が98:1:1であり且つNVが45質量%となるようにイオン交換水と混合して、水系の活物質組成物(負極活物質組成物)を調製した。この組成物を厚み約15μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥させることにより負極活物質層を形成した。このようにしてシート状の負極(負極シート)を作製した。
【0052】
上記で作製した正極シートと負極シートとを二枚の長尺状セパレータ(ここでは多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、その積層シートを長尺方向に捲回して捲回電極体を作製した。この電極体を非水電解質(ECとDECとの3:7(体積比)混合溶媒に1mol/Lの濃度でLiPFを溶解した組成の電解液を使用した。)とともに外装ケースに収容して、図1と同様の電流遮断機構を備えた18650型リチウムイオン電池を構築した。上記電流遮断機構は、電極体収容空間の内圧が0.5MPa以上になると作動する(すなわち電流を遮断する)ように構成されている。
【0053】
<例2>
本例では、例1と同じ正極合剤組成物構成材料を例1と同じ質量比で使用し、ただし例1とは異なる手順で正極合剤組成物を調製した。すなわち、正極活物質粉末をPVDFのNMP溶液と1時間混合し(第一混合工程)、その後、ここに例1と同じ複合導電材粉末を添加して1時間混合する(第二混合工程)ことにより正極合剤組成物を得た。
【0054】
このようにして調製した正極合剤組成物を用いた点以外は例1と同様にして正極シートを作製し、該正極シートを用いて18650型リチウムイオン電池を構築した。
【0055】
<例3>
本例では、導電材に炭酸リチウムをコートした複合導電材粉末を用いる代わりに、導電材と炭酸リチウムとを別々に添加して正極合剤組成物を調製した。すなわち、正極活物質粉末と、例1で用いたものと同じ導電材(CB)粉末と、炭酸リチウム粉末と、PVDFとを、これら材料の質量比が87:10:4:3となり且つ固形分濃度(NV)が約40質量%となるようにNMP(有機溶剤)と混合した。より具体的には、まず正極活物質粉末と導電材粉末と炭酸リチウム粉末を混合した後、この混合粉末をPVDFのNMP溶液と2時間混合して正極合剤組成物を得た。
【0056】
このようにして調製した正極合剤組成物を用いた点以外は例1と同様にして正極シートを作製し、該正極シートを用いて18650型リチウムイオン電池を構築した。
【0057】
<例4>
本例では、導電材に炭酸リチウムをコートした複合導電材粉末を用いる代わりに、正極活物質粉末に炭酸リチウムをコートした複合活物質粉末を用いて正極合剤組成物を調製した。上記複合活物質粉末は、炭酸リチウム水溶液に正極活物質粉末を投入して混合することにより、正極活物質と炭酸リチウムとを87:4の質量比で含有する分散液を調製し、この分散液を乾燥させることにより作製した。この複合活物質粉末と、例1で用いたものと同じ導電材粉末と、PVDFとを、これら材料の質量比が91:10:3となり且つ固形分濃度(NV)が約40質量%となるようにNMP(有機溶剤)と混合して正極合剤組成物を得た。より具体的には、まず複合活物質粉末と導電材粉末とを混合した後、この混合粉末をPVDFのNMP溶液と2時間混合した。
【0058】
このようにして調製した正極合剤組成物を用いた点以外は例1と同様にして正極シートを作製し、該正極シートを用いて18650型リチウムイオン電池を構築した。
【0059】
例1〜4で構築したリチウムイオン電池に適当なコンディショニング処理(例えば、1/10Cの充電レートで3時間の定電流充電を行い、次いで1/3Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、1/3Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電させる操作とを2〜3回繰り返す初期充放電処理)を行った後、各電池の内部抵抗(IV抵抗値)を測定した。すなわち、25℃の温度条件下において各電池をで3.0Vまで定電流放電した後、定電流定電圧で充電を行ってSOC(state of charge)60%に調整した。その後、25℃にて1C、3Cおよび5Cの条件で10秒間の放電と充電を交互に行い、放電開始から10秒後の電圧値をプロットし、各電池のI−V特性グラフを作成した。該I−V特性グラフの傾きから25℃におけるIV抵抗値(mΩ)を算出した。上記内部抵抗の測定は各々3個の電池について行い(すなわちn=3)、それらの平均値を表1に示した。
【0060】
また、例1〜4で構築したリチウムイオン電池に同様のコンディショニング処理を行った後、以下の過充電試験を行った。すなわち、25℃の温度条件下において各電池をで3.0Vまで定電流放電した後、定電流定電圧で充電を行ってSOC(state of charge)100%に調整した。かかる満充電状態の電池に対し、0.8Aの定電流(過充電電流)でさらに充電を行い、上記電流遮断機構が作動するまで充電を継続した。そして、上記過充電中の電池の状況および電流遮断機構作動後(すなわち試験終了後)の電池の外観を観察し、急速な温度上昇を伴う発熱やケースの変形等を起こすことなく電流遮断機構が作動した場合には該機構が十分迅速に作動したものと判断した。上記過充電試験を各々10個の電池について行い、それらのうち上記迅速作動が実現された電池の個数割合を迅速遮断性として表1に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるように、炭酸リチウムを単独で混合してなる正極合剤組成物から形成した正極合剤層を備える例3に係る電池に比べて、炭酸リチウムを導電材にコートして用いた(すなわち複合導電材を用いて調製した正極合剤組成物を用いた)例1および例2に係る電池によると、内部抵抗が大幅に(3割以上)低減された。炭酸リチウムを正極活物質にコートして用いた例4に係る電池との比較ではさらに大きな効果が得られた。これらの結果は、炭酸リチウムを導電材表面に偏在させることによる効果を支持するものである。正極合剤組成物の調製時において複合導電材を後から混合した例2に係る電池では、例1に係る電池に比べてさらに低い内部抵抗が実現された。これは、例2の調製方法によると導電材以外の材料への炭酸リチウムの付着をよりよく防止し得ることに起因する効果だと考えられる。なお、例1,2に係る電池はいずれも例3,4に係る電池と同様に良好な迅速遮断性を示す(したがって、内圧上昇剤として的確に作用する)ことが確認された。
【0063】
<例5>
本例では、例1で用いた導電材に代えて、比表面積90m/gのCB(平均粒径25nm)を使用した。このCBを用いて例1と同様にCBと炭酸リチウムとを10:4の質量比で含む複合導電材粉末(炭酸リチウムのコート量 4.4mg/m)を作製し、該導電材粉末を用いて例1と同様にリチウムイオン電池を構築した。
【0064】
<例6>
本例では、例1で用いた導電材に代えて、比表面積133m/gのCB(平均粒径21nm)を使用した。このCBを用いて例1と同様に複合導電材粉末を作製し(炭酸リチウムのコート量 3.0mg/m)、該導電材粉末を用いて例1と同様にリチウムイオン電池を構築した。
【0065】
<例7>
本例では、例1で用いた導電材に代えて、比表面積225m/gのCB(平均粒径25nm)を使用した。このCBを用いて例1と同様に複合導電材粉末を作製し(炭酸リチウムのコート量 1.8mg/m)、該導電材粉末を用いて例1と同様にリチウムイオン電池を構築した。
【0066】
例5〜7に係る電池につき、上記と同様にして内部抵抗の測定および過充電試験を行った。さらに、例1および例5〜7に係る電池について、過充電電流を0.8Aから5Aに変更した点以外は上記過充電試験と同様にして急速過充電試験を行い、同様に迅速遮断性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示されるように、例1および例5〜7に係る電池は、いずれも過充電電流0.8Aの条件において良好な電流遮断性を示すものであった。そして、比表面積が100m/g以上(より具体的には、100〜250m/g)の導電材を用いた例6および例7に係る電池では、比表面積が100m/g未満の導電材を用いた例1および例5に比べて、より大電流で(例えば2〜10A程度の大電流。ここでは5A)過充電された場合においても、より迅速に電流遮断機構を作動させることができた。
【0069】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】一実施形態に係るリチウム二次電池の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】一実施形態に係る電池を構成する電極体の構成を示す説明図である。
【図3】一実施形態に係るリチウム二次電池を備えた車両(自動車)を示す模式的側面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 自動車(車両)
10 リチウムイオン電池(リチウム二次電池)
14 正極端子
16 負極端子
20 ケース
30 捲回電極体(電極体)
32 正極シート(正極)
32A 正極集電体
32B 正極合剤層
34 負極シート(負極)
38 リード部材
40 電流遮断機構
42 ダイヤフラム
42A 受圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池であって、
前記電池を構成する正極は、リチウム遷移金属酸化物を主体とする正極活物質と導電材と炭酸リチウムとを含む正極合剤層を有し、
前記導電材の表面に前記炭酸リチウムが配置されている、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記導電材の比表面積が100m/g以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記正極合剤層における炭酸リチウムの含有割合が1〜10質量%である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池を製造する方法であって:
導電材の表面に炭酸リチウムが保持された複合導電材を用意する工程;
リチウム遷移金属酸化物を主体とする正極活物質と前記複合導電材とを含む正極合剤組成物を調製する工程;
前記組成物を用いてなる正極合剤層を備えた正極を作製する工程;および、
前記正極を用いて電池を構築する工程;
を包含する、リチウム二次電池製造方法。
【請求項5】
前記正極合剤組成物調製工程は、溶媒およびバインダを含む液状媒質に前記正極活物質および前記複合導電材を分散させる分散工程を含み、
該分散工程は:
前記正極活物質と前記溶媒と前記バインダとを混合する第一混合工程;および、
前記第一混合工程の後、さらに前記複合導電材を混合する第二混合工程;
を包含する、請求項4に記載のリチウム二次電池製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は非水系溶媒である、請求項5に記載のリチウム二次電池製造方法。
【請求項7】
前記複合導電材を用意する工程は、前記導電材に炭酸リチウム溶液を供給し、該炭酸リチウム溶液を乾燥させることにより前記導電材の表面に炭酸リチウムをコートする工程を包含する、請求項4から6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池製造方法。
【請求項8】
前記複合導電材として、前記導電材の表面積1m当たり0.5mg〜5mgの炭酸リチウムが保持された複合導電材を使用する、請求項4から7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池製造方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−259604(P2009−259604A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107359(P2008−107359)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】