説明

リチウム電池及びその製造方法

【課題】固体電解質層を薄くすること可能な薄型のリチウム電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム電池は、基材10の上表面部に集電体11,12と、正極層13と、負極層14とを具え、この基材上表面に固体電解質層15を具える。この電池を厚さ方向断面から見たとき、正極層13と負極層14とが並列に配置されている。基材10の上表面には溝101,102が設けられており、各溝内に正極層13と負極層14とがそれぞれ埋め込まれるように形成されている。このように正極層13及び負極層14が埋め込まれることで、基材上表面は平坦な同一平面となり、この基材表面直上に固体電解質層15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池及びその製造方法に関する。特に、薄型であり、生産性に優れるリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム電池と呼ぶ)は、携帯機器といった比較的小型の電子機器の電源に広く利用されている。近年、さらなる小型軽量化を目指して、電解液に代えて固体電解質を用いた数〜数10μAhクラスの薄型のリチウム電池が提案されている。
【0003】
このような薄型のリチウム電池の構造が、例えば特許文献1に開示されている。この電池は、固体電解質層を挟んで正極層と負極層とを積層するのではなく、基板(基材)上に、両極層を並列に配置した構造である。具体的には、図5に示すように、平坦な基材10上に、正極集電体11と負極集電体12とをそれぞれ対向した櫛歯型形状で形成し、両集電体上に正極層13と負極層14とをそれぞれ形成して、正極層の歯の部分と負極層の歯の部分との間に固体電解質15を配置している。
【0004】
【特許文献1】特開2006‐147210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の櫛歯状の両極層を同一平面上に並列に配置した構造(以下、並列構造)の薄型電池では、例えば気相堆積法を用いて固体電解質層を形成する場合、薄い固体電解質層で両極層を十分に被覆することが難しい。
【0006】
このような並列構造の電池において、固体電解質層15は、図6(A)に示すように、薄いことが好ましく、且つ正極集電体11上の正極層13と負極集電体12上の負極層14とを十分に被覆していることが好ましい。このように電解質層で両極層を十分に被覆することで、電極層と電解質層との界面面積を大きくして、電極層中の活物質の利用効率を高めることができる。
【0007】
ところが、上記の並列構造の電池の場合、平坦な基材上に両極層を形成しているので、基材上には両極層により凹凸が形成される。結果、固体電解質層15で両極層13,14とを十分に被覆しようとすると、図6(B)に示すように、固体電解質層15を厚く形成する必要がある。このように電解質層を厚くすると、電解質層の形成時間及び電解質材料の使用量が増加するため、電解質層の形成に要するコストが増加する。また、凹凸の大きい基材上に電解質層を形成した場合、特に段差箇所において、電解質層にピンホールなどの欠陥が生じ易く、電解質層にリチウムイオンの移動を妨げる不連続な部分が形成され易いため、電解質層のイオン伝導抵抗が大きくなる。
【0008】
さらに、例えば図7に示すような、電池の厚さ方向において、両極層13,14の少なくとも一部が重なるように積層した積層構造の電池の場合、電解質層15を厚くすると、電解質層のイオン伝導抵抗が大きくなり、電池としての充放電特性などの電池特性が低下する。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、上記したような並列構造の電池であっても、固体電解質層を薄くすることが可能な薄型のリチウム電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材に設けられた正極層或いは負極層の少なくとも一部を基材に埋設することで上記目的を達成する。具体的には、本発明のリチウム電池は、基材と、該基材に配置される固体電解質層と、該固体電解質層を介してリチウムイオンの授受を行う正極層及び負極層と、を具える。この電池を厚さ方向断面から見たとき、正極層と負極層の少なくとも一方が並列して配置されている。そして、正極層と負極層の少なくとも一方が基材と接するように形成され、基材と接する電極層の少なくとも一部が基材に埋設されており、この電極層が埋設された基材上に固体電解質層が設けられている。電極層のうち埋設される部分は、電極層の厚みの50%以上であることが好ましく、より好ましく70%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0011】
この構成によれば、電極層により形成される基材上の凹凸を電極層の厚さと比較して小さくすることができるので、固体電解質層を薄くすることが可能である。したがって、固体電解質層の形成時間を短縮することができると共に、固体電解質材料の使用量を低減することができる。また、凹凸の小さい基材上に固体電解質層が形成できるので、欠陥の少ない固体電解質層を形成し易い。
【0012】
特に、基材に接する電極層の全体が基材に埋設されている場合、即ち基材に埋設された電極層が基材と面一の場合、固体電解質層が形成される基材上が平坦な同一平面であり、薄く且つ均一な固体電解質層を形成することが容易である。したがって、固体電解質層の形成時間を短縮することができると共に、固体電解質材料の使用量を低減することができる。また、平坦な同一平面上に固体電解質層が形成できるので、より欠陥の少ない固体電解質層を形成し易い。
【0013】
以下、本発明リチウム電池の各部の構成、及びこの電池の製造方法を詳しく説明する。
【0014】
<電池の基本構成>
本発明の電池は、基材、正極層、負極層及び固体電解質層を具えることを基本構成とし、これら正・負両極層にはそれぞれ集電体を具えてもよい。固体電解質層は、固体電解質層を介して両極層間でリチウムイオンのやり取りが行えるように、配置される。通常、各層は薄膜状に形成され、気相堆積法や塗布法を用いて形成される。本発明の電池は、正極層と負極層の少なくとも一方が基材と接するように形成されると共に、基材と接する電極層の少なくとも一部が基材に埋設されており、この電極層により形成される基材上の凹凸が電極層の厚さと比較して小さい。また、本発明の電池は、電池を厚さ方向断面から見たとき、正極層や負極層が並列して配置されている構造である。このような構造の電池とする場合、例えば、従来の並列構造の電池と同様に、正極層と負極層とをそれぞれ対向するように櫛歯状に形成し、正極層の歯の部分と負極層の歯の部分とが噛み合うように配置することが挙げられる。
【0015】
[基材]
基材の一方の表面側は、正極層や負極層といった導電層が形成されるので、絶縁性を有することが好ましい。また、基材の一方の表面側は、リチウムと反応して黒変することにより劣化することがないように、リチウムと化合物を形成しないことが好ましい。さらに、基材は、塗布法を用いていずれかの層を形成する場合を考慮して、150℃程度の高温に曝されても溶融や伸縮、変形などが生じないような耐熱性を有することが好ましい。例えば塗布法を用いて基材に正極層を形成した場合、形成後に正極層内の溶媒を乾燥するために、基材も150℃以上の高温減圧下に置かれることになる。そこで、融点が170℃以上の材料を用いて基材を構成することにより、基材が溶融して変形などすることを防止できる。加えて、基材は、電池に柔軟性(フレキシブル性)を持たせるため、適度な可撓性を有する樹脂で構成されていることが好ましい。
【0016】
上記の要件を満たすために、例えば基材全体を、所定の厚さとしたときに所望の可撓性を具えており、融点が170℃以上で、リチウムと反応しない絶縁性樹脂で構成することが挙げられる。このような樹脂の具体例としては、ポリサルフォン(PSF、融点190℃以上)、ポリエーテルサルフォン(PES、融点210℃以上)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点340℃程度)や、ポリフェニレンサルファイド(PPS、融点280℃程度)が挙げられる。特に、PPSは、有機溶媒に対する耐久性にも優れており、例えば正極層を塗布法で形成する場合において、多種多様の溶媒を使用できる点で好ましい。このような樹脂で基材全体を構成する場合、厚さを埋設される電極層の厚さ以上とする。特に、厚さを300μm以下とすることで、十分な可撓性と強度を付与することができる。なお、基材の厚さと電極層の厚さを同じにした場合、基材の裏面側に露出した電極層(電極層が集電体を具える場合は集電体)の一部を電池のリードとして利用することができる。
【0017】
基材は、単一組成の樹脂のみから成る構成としてもよいが、組成の異なる樹脂層を積層した構成としてもよい。また、基材は、全体を樹脂で構成するだけでなく、樹脂層と金属層とを積層した構成、即ち樹脂と金属との積層構造体、としてもよい。基材に金属層を配することで、水分の浸入をほぼ完全に阻止することができ、外部の水分が基材を経て両極層に侵入することにより、水分と活物質とが反応して電池特性が低下することを防止できる。金属層を具える基材の構成としては、基材の一方の表面側を樹脂層とし、他方を金属層とした構成や、金属層の両側を樹脂層、つまり内側を金属層とし、表裏両側を樹脂層とした構成が挙げられる。このような基材は、例えば、樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着することで得ることができる。金属層は、厚すぎると基材の剛性が高くなりすぎるため、5〜50μmとすることが好ましい。
【0018】
さらに、基材は吸湿率が0.5質量%以下(雰囲気温度:40℃ 相対湿度(RH):60%)であることが好ましい。吸湿率が低い、即ち基材中の水分を少なくすることで、電池使用時において基材中の水分とリチウムとが反応することを抑制できる。基材の吸湿率を低くするには、例えば、吸湿率の低い材料で基材を形成したり、電池作製前に基材を乾燥させて水分を飛ばすことが挙げられる。上記のPSF、PES、PEEK、PPSは、吸湿率が0.5質量%以下である。吸湿率は、例えば重量変化法(乾燥前後の試料の重量変化量を求めて測定する方法)により測定することができる。
【0019】
[正極層]
(材質)
正極層は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む層で構成される。正極活物質は、例えば、リチウムを含む酸化物、より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)及びオリビン型鉄リン酸リチウム(LiFePO4)から選ばれる1種の酸化物や、リチウムを含まない酸化物、より具体的には、酸化マンガン(MnO2)や、或いはこれら酸化物の混合物を好適に使用することができる。その他、イオウ(S)や、硫化物、具体的には、硫化第二鉄(FeS)、二硫化鉄(FeS2)、硫化リチウム(Li2S)及び硫化チタニウム(TiS2)から選ばれる1種の硫化物や、或いはこれら硫化物の混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0020】
(形成方法)
正極層の形成方法としては、湿式法や乾式法を利用することができる。湿式法には、ゾルゲル法、コロイド法、キャスティング法などが挙げられる。乾式法には、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザアブレーション法などの気相堆積法が挙げられる。特に、電池の高容量化及び生産性の観点から、塗布法を用いて正極層を形成することが好ましい。塗布法には、ドクターブレード法やスクリーン印刷法などが挙げられる。
【0021】
気相堆積法を利用する場合、上記正極活物質を含有するターゲットを用意し、基材や集電体上に正極活物質を含む層を成膜することで正極層を得ることができる。
【0022】
一方、塗布法の場合、結着剤(バインダー)を溶解又は分散させた溶媒に上記正極活物質から成る粒子を加えて撹拌・混合してスラリーを作製し、このスラリーを基材や集電体に塗布した後、溶媒を乾燥することで正極層を得ることができる。このとき基材は150℃程度に加熱されるが、上述した融点が170℃以上の材料で基材を構成することで、基材が変形などすることを防止できる。また、塗布法は、ピンホールが形成され難く、緻密で高品質な正極層を形成することができる。なお、乾燥後の塗布層(塗布法により形成された層)の厚さは、乾燥前よりも若干薄くなるため、所望の厚さとなるように、予め厚めに塗布層を形成することが好ましい。
【0023】
電池の高容量化を実現する方法の一つとして、正・負両極層の容量を向上させることが考えられる。そこで、正極層の容量を向上させるため、正極層を比較的厚く形成することが挙げられる。塗布法を利用した場合、比較的厚い正極層であっても、短時間で容易に形成することができる。好ましい正極層の厚みは10〜300μm程度であり、より好ましい正極層の厚みは100μm以下であり、さらに好ましい正極層の厚みは30μm以下である。
【0024】
結着剤には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、フッ素系ゴム、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂などを用いることができる。溶媒には、N-メチル-2-ピロリドンといったN-メチルピロリドンや、アセトンなどの有機溶媒の他、水などを用いることができる。
【0025】
また、正極層は、正極活物質よりも電子導電性が高い材料から成る高導電性粒子を導電助剤として具えることが好ましい。従って、上記スラリーに高導電性粒子を添加することが好ましい。高導電性粒子には、例えば、アセチレンブラックといったカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケルなどの金属繊維から成るものを用いることができる。特に、カーボンブラックは、少量の配合で、高い導電性が得られるので好ましい。このように塗布法を用いて形成された正極層は、正極活物質から成る粒子と、結着剤と、高導電性粒子との混合物から構成される。
【0026】
さらに、正極層を形成する際、塗布層を乾燥した後、ロールプレスなどを施して塗布層(正極層)を圧縮してもよい。圧縮時の加圧力を変化させることで、正極活物質の充填密度を調整することができる。塗布層を圧縮する場合、所望の厚さとなるように、予め厚めに塗布層を形成しておく。
【0027】
[負極層]
(材質)
負極層は、リチウムイオンの吸蔵及び放出を行う活物質を含む層で構成される。負極活物質は、例えば、リチウム(Li単体金属)又はリチウム合金(Liと添加元素からなるもの)の他、グラファイトなどのカーボンやシリコンを好適に使用することができる。特に、負極層をリチウムを含む材料で形成した場合、負極層の容量を向上させることができる。構造上基材と負極層とが接触する場合であっても、上述したリチウムと反応しない材料で基材の上表面部分を構成することで、基材が黒変して劣化することを防止できる。リチウム合金の添加元素には、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)などを用いることができる。リチウム合金としては、例えばLi-Al、Li-Mn-Alが挙げられ、負極層をリチウム合金で構成した場合、負極層自体に集電機能を持たせられるため集電体を省略したり、固体電解質層との界面におけるリチウムイオンの移動抵抗を低減することができる。好ましい負極層の厚みは0.5〜80μm程度であり、より好ましい負極層の厚みは1〜40μmである。
【0028】
(形成方法)
負極層の形成方法としては、気相堆積法を利用することが好ましい。気相堆積法には、例えば、PVD(物理的気相合成)法やCVD(化学的気相合成)法が挙げられる。具体的には、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザアブレーション法などのPVD法や、熱CVD法、プラズマCVD法などのCVD法が挙げられる。その他、塗布法を用いて負極層を形成してもよい。
【0029】
塗布法を用いて負極層を形成する場合、結着剤(バインダー)を溶解又は分散させた溶媒に上記負極活物質から成る粒子を加えて撹拌・混合してスラリーを作製し、このスラリーを基材や集電体に塗布した後、溶媒を乾燥することで負極層を得ることができる。結着剤や溶媒には、正極層のところで説明した、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やN-メチル-2-ピロリドンなどを用いることができる。また、例えば、活物質にカーボンやシリコンなどの粉末を用いてスラリーを作製し、このスラリーにカーボンブラックなどの導電助剤を添加してもよい。このように塗布法を用いて形成された負極層は、負極活物質から成る粒子と、結着剤と、高導電性粒子との混合物から構成される。さらに、負極層を形成する際、塗布層を乾燥した後、ロールプレスなどを施して塗布層(負極層)を圧縮してもよい。
【0030】
[固体電解質層]
(材質)
固体電解質層は、リチウムイオン伝導体であり、リチウムイオン伝導度(at20℃)が10-5S/cm以上、かつリチウムイオン輸率が0.999以上であることが好ましく、より好ましくはリチウムイオン伝導度が10-4S/cm以上、かつリチウムイオン輸率が0.9999以上である。固体電解質層は、硫化物系の固体電解質で構成することが好ましく、Li,リン(P),Sより構成されるものや、更に酸素(O)を含有するもの、具体的には、Li-P-S-Oを用いることができる。その他、酸化物系のLi,P,Oより構成されるもの(Li-P-O)や、更に窒素(N)を含有するもの、具体的には、Li-P-O-Nを用いてもよい。固体電解質層の組織は、アモルファス又は多結晶であることが好ましい。また、固体電解質層は、単一組成の構成とするだけでなく、正極層側と負極層側とで組成の異なる構成としてもよい。例えば、正極層側をLi-P-S-O、負極層側をLi-P-O-Nで構成して、2層構造とすることが考えられる。このように、正極層側と負極層側の各固体電解質層の組成を変えることで、電解質層と各電極層間のリチウムイオンの授受が円滑に行えるようになり、電池特性を改善することができる。正極層側と負極層側の各固体電解質層の厚さは、同じとしてもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
(形成方法)
固体電解質層の形成方法としては、気相堆積法を利用することが好ましい。気相堆積法には、例えば、PVD(物理的気相合成)法やCVD(化学的気相合成)法が挙げられる。具体的には、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザアブレーション法などのPVD法や、熱CVD法、プラズマCVD法などのCVD法が挙げられる。その他、特開2004-348972号公報、特開2004-348973号公報に記載の固体電解質を用いて固体電解質層を形成してもよいが、この固体電解質は粉末成形体であるため、固体電解質層がある程度厚くなる傾向があり、また硬いため、電池にフレキシブル性を持たせることが難しい。気相堆積法を用いて固体電解質層を形成した場合、固体電解質層を薄くすることが可能であり、フレキシブル性に富んだ電池とすることができる。また、気相堆積法の場合、電極層と固体電解質層との密着性を高め、電極層と固体電解質層との界面におけるリチウムイオンの移動抵抗を低減する効果が期待できる。固体電解質層は、厚すぎると剛性が高くなりすぎるため、1〜50μmとすることが好ましい。
【0032】
[集電体]
(材質)
本発明の電池は、正極層又は負極層が集電体を具える構成としてもよい。集電体には、金属箔などを利用することが好ましい。例えば、負極層の場合、集電体の材質には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、及びこれらの合金から選択される1種の金属が、正極層の場合、集電体の材質には、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、これらの合金、及びステンレスから選択される1種の金属が好適である。
【0033】
(形成方法)
集電体の形成方法としては、PVD法やCVD法といった気相堆積法を利用することが好ましい。集電体を形成する際、所定のパターンを有するマスクを用いることで、所望の形状の集電体を容易に形成することができる。集電体の厚みは、0.05〜1μmとすることが好ましい。
【0034】
本発明の電池は、このように気相堆積法や塗布法を利用して各層を形成することで、コイン型電池又はカード型電池とすることも容易である。
【0035】
[正・負両極層及び固体電解質層の配置]
正・負両極層及び固体電解質層の配置形態は、電池の厚さ方向において、両極層の全体が重ならないように配置された非積層構造とする他、各層の全体或いは一部が重なるように積層された積層構造とすることが考えられる。
【0036】
積層構造は、基材から順に、(集電体)、一方の電極層、固体電解質層、他方の電極層、(集電体)が積層された構成である。この構造では、両極層及び固体電解質層から成る電池主要部(発電部)の面積が小さくなるといったメリットがある。
【0037】
非積層構造は、電池の厚さ方向において、両極層の全体が重ならない位置に配置され、かつ両極層間でリチウムイオンのやり取りが行えるように固体電解質層が配置された構成である。換言すれば、この構造は、この電池を平面視した場合、前記正極層と負極層とが重ならないように配置された構成である。一般的に、薄い層状に形成された固体電解質層は、厚さ方向にピンホールが生じ易いが、この構造では、仮に固体電解質層の厚さ方向にピンホールが存在しても、このピンホールによって両極層間で短絡が生じることが実質的になく、長期に亘って電池を安定して動作させることができる。
【0038】
非積層構造の場合、基材に両極層を形成し、この両極層を形成した基材上に固体電解質層を具える構成としてもよい。また、基材にいずれか一方の電極層を形成し、この電極層を形成した基材上に固体電解質層を形成し、この電解質層の上に他方の電極層を具える構成としてもよい。つまり、両極層の表面が実質的に同一平面上に位置する前者の構成でも、両極層の表面が同一平面上に位置しない後者の構成でもよい。
【0039】
両極層が同一平面上に位置しない構成とした場合、一方の電極層は固体電解質層の下面側に接し、他方の電極層は固体電解質層の上面側にそれぞれ接する。そのため、両極層が同一平面上に位置する構成とした場合、この面上に導電性異物が存在したとき、この異物を介して両極層間で短絡が生ずる虞があるが、両極層が同一平面上に位置しない構成とした場合、上記異物を介した界面伝導による短絡が生じることを抑制できる。
【0040】
[カバー層]
上記の正・負両極層や固体電解質層が水分を吸収すると、層内の活物質やリチウムが水分と反応して電池性能が低下する。従って、本発明の電池は、電極層などが外部から侵入する水分を吸収し難くなるように、基材において少なくとも両極層及び固体電解質層を具える側(以下、層形成側と呼ぶ)に、両極層及び固体電解質層を覆うカバー層を具えることが好ましい。カバー層は、水透過性が低く、絶縁性があり、かつ加熱圧着可能であれば、電池に効果的かつ簡単に装着できて好ましい。例えば、カバー層には、樹脂フィルムや、樹脂と金属との積層フィルムを利用することができる。樹脂フィルムや積層フィルムの樹脂層は、単層又は複数層を積層した構成としてもよく、各層を、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリアミド樹脂のいずれか1種の樹脂で形成することが挙げられる。金属層を具えるフィルムの構成としては、金属層の片側を樹脂層とした構成や、金属層の両側を樹脂層とした構成が挙げられる。金属層は水透過性が極めて低く、樹脂と金属との積層フィルムを用いた場合、水分の浸入をより確実に防止できる。金属層は、例えば、アルミニウムで構成することが挙げられる。カバー層の厚さは、10〜150μmとすることが好ましい。
【0041】
ここで、基材の層形成側だけでなく、その反対側にも上記カバー層を具える構成、即ち、基材を挟むように一対のカバー層を具える構成とすると、基材側から浸入する水分も効果的にシャットアウトすることができる。上述の金属層を具える基材の場合は、基材自体が高い防湿機能を有しており、層形成側の反対側にカバー層を設けなくてもよい。
【0042】
<電池の製造方法>
上記構成を有する本発明の電池は、例えば、以下に示す本発明の製造方法により製造することができる。
【0043】
本発明のリチウム電池の製造方法は、次の工程を具える。
(1) 少なくとも一方の表面側が絶縁性樹脂で形成された基材を準備する工程。
(2) この基材の一方側に正極層と負極層の少なくとも一方が埋設される溝を形成する工程。
(3) この溝に前記正極層と負極層の少なくとも一方を形成し、この電極層の少なくとも一部を基材に埋設する工程。
(4) この基材に埋設された電極層を覆うように、基材の一方側に固体電解質層を形成する工程。
ここで、基材に正極層又は負極層の一方の電極層を形成した(埋め込んだ)場合は、更に、固体電解質層の上に他方の電極層を形成する。
【0044】
基材の一方側に形成される溝は、例えば、精密金型を用いて基材作製と同時に形成したり、平坦な基材表面にエッチング加工を施すことにより形成することが挙げられる。その他、溝は、基材表面に微細切削加工やレーザ加工を施すことにより形成してもよい。エッチング加工により溝を形成する場合、例えば、所望の溝形状となるように基材上に所定パターンのマスクを形成した後、エッチングすることが挙げられる。溝の深さは、形成する電極層の厚さと同等以下となるようにし、溝の幅や長さは、電池の構成に応じて適宜決定すればよい。ここで、溝の深さは、基材上の凹凸を小さくすることを考慮して、電極層の厚さの50%以上とすることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0045】
また、上記製造方法において、正極層と負極層とはいずれを先に形成してもよい。固体電解質層は、基材に形成した溝に一方の電極層、或いは両極層を形成することで凹凸を小さくした基材上に形成する。これら各層を形成する順序は、電池の構成に応じて適宜決定すればよい。電極層が集電体を具える場合、集電体が電極層の下方に位置するときは、電極層を形成する前に集電体を形成し、集電体が電極層の上方に位置するときは、電極層を形成した後に集電体を形成すればよい。
【0046】
本発明の製造方法は、電池が基材の層形成側に上述のカバー層を有する場合、更に、次の工程を具える。
(5) 基材に設けられた両極層及び固体電解質層を覆うように、上述のカバー層を基材に配置する工程。
(6) カバー層の配置後、上記基材とカバー層の周縁部同士を加熱圧着する工程。
【0047】
基材の層形成側にカバー層を配置した後、基材の周縁部とカバー層の周縁部同士を加熱圧着することで、これら基材とカバー層とにより、両極層及び固体電解質層から成る電池主要部を密閉(封止)することができる。
【0048】
また、カバー層を配置した状態でロールプレスを施し、全体を圧縮すると共に、基材の周縁部(電極層や電解質層が設けられていない箇所)とカバー層の周縁部同士を加熱圧着してもよい。この際、ロールの加熱温度は、50〜150℃とすることが挙げられる。ロールプレスにより、カバー層を電極層や電解質層といった電池構成部材の表面に隙間無く密着させることができる。基材には、加熱圧着する際の接着代を考慮して、周縁部に余裕を設けておくことが好ましい。
【0049】
本発明の製造方法は、電池が基材の層形成側とその反対側の双方に上述のカバー層を有する場合、更に、次の工程を具える。
(5') 両極層及び固体電解質層が設けられた基材を挟むように、一対の上記カバー層を配置して、これらカバー層で両極層及び固体電解質層を覆う工程。
(6') カバー層の配置後、上記基材とカバー層の周縁部同士、又は上記両カバー層の周縁部同士を加熱圧着する工程。
【0050】
この構成では、基材の周縁部を挟むように両カバー層の周縁部を配置して、基材とカバー層とを加熱圧着してもよいし、基材全体を覆うように両カバー層を配置して、両カバー層の周縁部同士を加熱圧着してもよい。両カバー層の周縁部同士を接着して基材全体を覆うようにした場合、基材に接着代を設ける必要がなく、カバー層にのみ接着代を設ければよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明リチウム電池は、固体電解質層が形成される基材上の凹凸が小さく、固体電解質層を薄くすることが可能であり、欠陥の少ない固体電解質層を形成することが容易である。また、本発明の電池は、固体電解質層を薄くすることで、電解質層のイオン伝導抵抗を小さくでき、充放電特性といった電池特性の向上や生産効率の向上などの効果が期待できる。
【0052】
また、本発明リチウム電池の製造方法は、上記した欠陥の少ない薄い固体電解質層を具える電池を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。なお、図中の同一符号は同一物を示す。
【0054】
[実施の形態1]
図1は、本発明の一実施形態に係る電池の縦部分断面図である。この電池は、基材10の上表面部に集電体11,12と、正極層13と、負極層14とを具え、この基材上表面に固体電解質層15を具えるリチウム電池である。この例では、両極層の表面が実質的に同一平面上に位置しており、この電池を平面視したとき、図5に示す電池と同じであり、両極層は互いに重ならないように配置されている。
【0055】
基材10は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)から成り、所定の厚さを有する矩形状であって、可撓性を有する。この基材上表面には、正極層13と負極層14とが埋め込まれる溝101,102が設けられており、各溝内には後述する正極層と負極層とがそれぞれ形成される。基材10を上側から見たとき、溝101,102は、それぞれ櫛歯状であり、互いの歯の部分が噛み合うように対向している。この例では、基材の厚さを80μmとしている。
【0056】
基材10の上表面に設けられた溝101,102は、表面が平坦な基材上に所定パターンのマスクを形成してエッチングすることにより形成しており、各溝の深さは形成される正極層13と負極層14の厚さとそれぞれ同じにしている。
【0057】
集電体11,12は、溝101,102の底に沿ってそれぞれ櫛歯状に形成されており、共にNi金属から成る薄膜である。これら集電体11,12は気相堆積法により形成している。具体的には、基材表面にメタルマスクを設置し、電子ビーム蒸着法によりNiの薄膜を形成している。成膜条件は一般的な条件である。この例では、集電体のうち、後述する正極層及び負極層が上方に形成される部分の厚さを0.2μmとし、正極層及び負極層が形成されない部分(具体的には櫛歯の歯の部分同士を連結する直線状部分)を外部に露出させて電池のリードとして利用する。
【0058】
正極層13は、正極集電体11の上方であって、櫛歯状の溝101の歯の部分に埋め込まれるように形成されている。この正極層13は塗布法により形成している。具体的には、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)をN-メチル-2-ピロリドンの溶媒に溶解させた後、この液体に正極活物質であるLiCoO2粒子と導電助剤であるカーボン粒子(カーボンブラック)とを加えてスラリーを作製し、このスラリーを正極層形成箇所に埋め込むように塗布する。塗布した後、溶媒を150℃超の高温下で乾燥させることで正極層13が得られる。このようにして形成された正極層13は、正極活物質の粒子と、カーボン粒子と、結着剤とから構成される。この例では、正極層13の厚さを50μmとし、後述する負極層14よりも厚くしている。
【0059】
負極層14は、負極集電体12の上方であって、櫛歯状の溝102の歯の部分に埋め込まれるように形成されている。この負極層14はLi金属から成り、気相堆積法により形成している。具体的には、基材表面にマスキングを行い、蒸着法により、真空度1×10-4Paの条件で、Liの薄膜を負極層形成箇所に埋め込むように形成することで負極層14が得られる。この例では、負極層14の厚さを10μmとしている。
【0060】
以上のように、基材10の上表面に設けられた溝101,102にそれぞれ正極層13及び負極層14が埋め込まれることで、基材上表面は平坦な同一平面となる。そして、この正極層13及び負極層14が埋め込まれた基材表面直上に固体電解質層15が設けられている。
【0061】
固体電解質層15は、正極層13及び負極層14の上方であって、同一面状に延長され、これら両極層を覆うように基材上表面に形成されており、薄く且つ均一な厚さである。この固体電解質層15は、Li-P-Sの組成から成り、気相堆積法により形成している。具体的には、露点-85℃のアルゴンガスが充填されたグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S)と五硫化リン(P2S5)とを混合し、この混合粉末を金型に入れて加圧してペレットを作製する。ここで、Li2SとP2S5とはLi/Pがモル比で2.0となるように調整する。このペレットを大気に曝されないようにグローブボックスから成膜装置内に移し、このペレットをターゲットとして、エキシマレーザアブレーション法により、レーザ光をターゲットに照射して原料を気化して基材表面に成膜することで固体電解質層15が得られる。このとき基材の加熱は行わない。この例では、固体電解質層15の厚さを5μmとしている。
【0062】
このように固体電解質層15を設けた場合、正極層13と負極層14間のリチウムイオンの授受は、両極層の上面部(基材10から露出している箇所)から固体電解質層15を介して行われる。
【0063】
[実施の形態2]
次に、実施の形態1とは別の実施形態について図2を用いて説明する。実施の形態2は、正極層と負極層の配置が実施の形態1と異なり、両極層の表面が実質的に同一平面上に位置していない。ここでは、実施の形態1との相違点について説明し、図1と同一部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0064】
この電池は、基材10の上表面部に正極集電体11と正極層13を具え、この基材上表面に固体電解質層15を具え、更に、この固体電解質層の上に負極層14と負極集電体12とを具えるリチウム電池である。なお、この電池を平面視したとき、実施の形態1と同じように、両極層は互いに重ならないように配置されている。
【0065】
基材10の上表面には、正極層13が埋め込まれる溝101が設けられており、この溝内に正極層が形成される。基材10を上側から見たとき、溝101は、櫛歯状であり、深さが形成される正極層13の厚さと同じである。
【0066】
この溝101に正極集電体11を櫛歯状に形成した後、集電体11の上方であって、溝101の正極層形成箇所に埋め込むように正極層13を形成する。そして、正極層13が埋め込まれることで平坦な同一平面となる基材表面直上に固体電解質層15を形成する。
【0067】
固体電解質層15を形成した後、固体電解質層の上に負極層14を形成する。このとき、正極層13と負極層14とが厚さ方向において重ならないように負極層14を形成する。具体的には、固体電解質層15が形成された基材10を上側から見たとき、正極層13と負極層14とが交互に並列するように負極層14を形成し、この負極層14の上方に櫛歯状の負極集電体12を、正極集電体11に対向して互いの歯の部分が噛み合うように形成する。この例では、基材10の上表面部に正極層13が配置される構成を示したが、正極層13と負極層14の配置を入れ替えても構わない。
【0068】
このように固体電解質層15を設けた場合、正極層13と負極層14間のリチウムイオンの授受は、正極層の上面部と負極層の下面部から固体電解質層15を介して行われる。実施の形態2の電池は実施の形態1の電池と比較して嵩高となり易い。
【0069】
上述の実施の形態1,2で説明した電池は、基材10が可撓性を有すると共に、各構成部材11〜15が気相堆積法や塗布法により薄く形成されていることで、フレキシブル性を持っている。また、上記の電池は、負極層をLi含有材料で構成すると共に正極層を比較的厚く形成しているので各電極層の容量が大きく、電池容量が大きい。更に、正極層の形成には塗布法を用いており、比較的厚膜の正極層であっても短時間で形成することが可能である。
【0070】
また、実施の形態1,2の電池は、両極層に集電体を具える構成としたが、電極層自体が集電機能を具える場合、集電体を省略した構成とすることができる。例えば、電極層を櫛歯状に形成し、櫛歯の歯の部分同士を連結する直線状部分を電池のリードとして利用する。
【0071】
[変形例1]
カバー層を具える電池について説明する。
【0072】
(変形例1-1 基材表面側にのみカバー層を具える電池)
図3(A)は、カバー層が装着された実施の形態1の電池を説明する図である。ここでは、基材表面側、即ち両極層及び固体電解質層を具える基材の層形成側、にのみカバー層を装着した例について説明する。
【0073】
カバー層20は、ポリエチレンテレフタレート樹脂とアルミニウムとの積層フィルム(アルミラミネート箔)から成り、厚さ0.1mm、大きさを基材とほぼ同じとしている。また、基材10の周縁部(紙面左右側の両端)には、このカバー層20との接着代10bを予め設けている。
【0074】
カバー層20の装着は、例えば、基材10に各構成部材11〜15を形成した後、これら各部材11〜15を覆うようにカバー層20を配置する。この状態でロールプレスを施して、表面が露出している固体電解質層15にカバー層20を隙間無く密着させると共に、カバー層20の周縁部を基材10の周縁部に加熱圧着して、基材上の両極層や固体電解質層を封止する。この例では、ロールプレスする際のロール温度を120℃としている。
【0075】
(変形例1-2 基材表面側と裏面側の双方にカバー層を具える電池)
図3(B)は、カバー層が装着された実施の形態2の電池を説明する図である。ここでは、基材表面側と反対側の双方にカバー層を装着した例について説明する。
【0076】
カバー層20a,20bは、それぞれ変形例1-1で用いたカバー層20と同じ材質から成り、厚さ0.1mm、大きさを基材より若干大きくしている。この例では、基材10の周縁部(紙面左右側の両端)に、カバー層20a,20bとの接着代を設けていない。
【0077】
カバー層20a,20bの装着は、例えば、基材10に各構成部材11〜15を形成した後、変形例1と同じように基材表面側にカバー層20aを配置すると共に、反対側(基材裏面側)にもカバー層20bを配置する。この状態でロールプレスを施して、表面が露出している負極層14や固体電解質層15にカバー層20aを隙間無く密着させ、更に基材10の裏面にカバー層20bを隙間無く密着させて、カバー層20a,20bの周縁部同士を加熱圧着して、基材及び両極層、固体電解質層を封止する。ロールプレスする際のロール温度は、変形例1-1と同じとしている。
【0078】
変形例1-1,1-2の電池においてリードを外部に露出させる場合、例えば、上記カバー層20や20aに適当な大きさの孔を形成して、カバー層の上面側からリードを露出させたり、リードを延設して、カバー層20と基材10又はカバー層20aと20bとの間からリードを引き出したりしてもよい。また、実施の形態1の電池を基材表面側と裏面側の双方にカバー層を具える構成としてもよいし、実施の形態2の電池を基材表面側にのみカバー層を具える構成としてもよい。実施の形態1の電池は、カバー層に覆われる基材表面側が平坦な同一平面であり、実施の形態2の電池と比較して基材表面側にカバー層を装着し易い。
【0079】
[変形例2]
固体電解質層の組成が正極層側と負極層側とで異なる電池について説明する。
【0080】
図4は、固体電解質層の組成が正極層側と負極層側とで異なる電池を説明する図である。この電池は、実施の形態2の電池と同じ構造の電池であり、固体電解質層が単一組成で構成されていない点が実施の形態2の電池と異なる。ここでは、相違点についてのみ詳しく説明する。
【0081】
固体電解質層15は、正極層側の固体電解質層15cと負極層側の固体電解質層15aとから構成されており、正極層側と負極層側とで組成が異なる。具体的には、図4に示す一点鎖線のところで材料を変更して、固体電解質層15を正極層側と負極層側とに分けて形成している。固体電解質層15は、正極層側15cがLi-P-S-O、負極層側がLi-P-O-Nで構成されている。
【0082】
このように固体電解質層を2層構造とすることで、電解質層と各電極層間のリチウムイオンの授受が円滑に行えるようになり、電池特性を改善することができる。また、複数の組成の異なる固体電解質層を形成して、固体電解質層を3層以上の構造にしてもよい。この例では、実施の形態2の電池と同じ構造の電池を例に説明したが、実施の形態1の電池であっても、複数の組成の異なる固体電解質層を形成してもよい。
【0083】
[変形例3]
電極層又は固体電解質層にイオン液体を含浸させた電池について説明する。
【0084】
イオン液体は、EMI+,Py13+,PP13+などのカチオンと、FSI-,TFSI-などのアニオンとを組み合わせたイオンのみから構成される液体である。イオン液体を用いるときは、この液体にLiTFSI,LiBETIといった支持塩を溶解させる。添加する支持塩の量としては、0.1〜1mol/kgとすることが挙げられる。例えば、EMI(1-Ethyl-3-methylimidazolium)‐FSI(Bis(fluorosulfonyl)imide)から成るイオン液体中にLiTFSIを0.4mol/kg溶解させて用いる。
【0085】
イオン液体の含浸は、電極層を形成した後、又は固体電解質層を形成した後にイオン液体を塗布することにより行う。例えば、実施の形態1の電池の場合、両極層を形成した後、両極層にイオン液体を塗布する、或いは固体電解質層を形成した後、固体電解質層にイオン液体を塗布する。また、例えば実施の形態2の電池の場合、正極層を形成した後、正極層にイオン液体を塗布する、又は固体電解質層を形成した後、固体電解質層にイオン液体を塗布する、或いは負極層を形成した後、負極層及び固体電解質層にイオン液体を塗布する。特に、塗布法を用いて形成した正極層にイオン液体を含浸させることが好ましい。
【0086】
このように電極層又は固体電解質層にイオン液体を含浸させることで、電極層や固体電解質層を構成する粒子間にイオン液体を存在させ、リチウムイオンの移動抵抗を低減して、電池特性の向上に寄与できる。
【0087】
なお、上述の実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、実施の形態で説明した構成に何ら限定されるものではない。例えば、基材に絶縁性樹脂と金属との積層構造体を用いてもよいし、基材を構成する樹脂として、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から選ばれる一種の樹脂を選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の電池は、固体電解質を用いた薄型のリチウムイオン二次電池に好適に利用することができる。また、本発明の電池の製造方法は、上記の電池の製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る電池の縦部分断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係る電池の縦部分断面図である。
【図3】本発明電池の一変形例を説明する図であり、(A)は基材表面側にのみカバー層を具える電池の縦部分断面図、(B)は基材表面側と反対側の双方にカバー層を具える電池の縦部分断面図である。
【図4】本発明電池の固体電解質に関する別の変形例を説明する図である。
【図5】従来の並列構造の薄型電池の上側から見た平面図である。
【図6】図5に示す電池の縦部分断面図(X-X断面)であり、(A)は薄い固体電解質層で両極層を十分に被覆した状態を示し、(B)は厚い固体電解質層で両極層を十分に被覆した状態を示す。
【図7】従来の積層構造の薄型電池の縦部分断面図である。
【符号の説明】
【0090】
10 基材
101,102 溝 10b 接着代
11 正極集電体 12 負極集電体
13 正極層 14 負極層
15 固体電解質層
15c 正極層側固体電解質層 15a 負極層側固体電解質層
20,20a,20b カバー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に配置される固体電解質層と、該固体電解質層を介してリチウムイオンの授受を行う正極層及び負極層と、を具えるリチウム電池であって、
この電池を厚さ方向断面から見たとき、前記正極層と負極層の少なくとも一方が並列して配置されており、
前記正極層と負極層の少なくとも一方は、前記基材と接するように形成され、基材と接する電極層の少なくとも一部が基材に埋設されており、
前記固体電解質層は、前記電極層が埋設された基材上に設けられていることを特徴とするリチウム電池。
【請求項2】
更に、この電池の厚さ方向において、前記正極層と負極層とが重ならないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項3】
前記基材は、電極層と接する一方の表面側が絶縁性樹脂から形成され、
該樹脂は、融点が170℃以上で、リチウムと反応しない樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記絶縁性樹脂は、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンサルファイドのいずれか1種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記基材は、絶縁性樹脂と金属との積層構造体であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項6】
前記正極層は、正極活物質から成る粒子と、該正極活物質よりも電子導電性が高い材料から成る高導電性粒子と、結着剤との混合物から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項7】
前記負極層は、リチウム又はリチウム合金を負極活物質として含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項8】
この電池は、更に、基材において両極層及び固体電解質層を具える側に、これらを覆うカバー層を具え、
前記カバー層は、樹脂フィルム、又は樹脂と金属との積層フィルムから成ることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項9】
少なくとも一方の表面側が絶縁性樹脂で形成された基材を準備する工程と、
この基材の一方側に正極層と負極層の少なくとも一方が埋設される溝を形成する工程と、
この溝に前記正極層と負極層の少なくとも一方を形成し、この電極層の少なくとも一部を基材に埋設する工程と、
この基材に埋設された電極層を覆うように、基材の一方側に固体電解質層を形成する工程とを具えることを特徴とするリチウム電池の製造方法。
【請求項10】
更に、基材に設けられた両極層及び固体電解質層を覆うように、樹脂フィルム、又は樹脂と金属との積層フィルムから成るカバー層を基材に配置する工程と、
カバー層の配置後、前記基材とカバー層の周縁部同士を加熱圧着する工程とを具えることを特徴とする請求項9に記載のリチウム電池の製造方法。
【請求項11】
更に、両極層及び固体電解質層が設けられた基材を挟むように、樹脂フィルム、又は樹脂と金属との積層フィルムから成る一対のカバー層を配置して、これらカバー層で両極層及び固体電解質層を覆う工程と、
カバー層の配置後、前記基材とカバー層の周縁部同士、又は前記両カバー層の周縁部同士を加熱圧着する工程とを具えることを特徴とする請求項9に記載のリチウム電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−282593(P2008−282593A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123997(P2007−123997)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】