説明

リパーゼ触媒した海産油のエステル化

遊離脂肪酸またはヘキシルエステルとしてEPAおよびDHAを含有する海産油組成物は、本質的に有機溶媒を含まない条件下で、リパーゼ触媒の存在下で、エタノールを用いてエステル化され、蒸留による分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海産油(marine oil)のリパーゼ触媒したエステル化に関する。
【背景技術】
【0002】
海産油を含めて種々の種類の油製品を、リパーゼ触媒の助けをかりて精製することは当該技術分野で既知であり、用いた精製条件下でリパーゼ触媒の特異性は所望の製品の回収を促進する。
【0003】
EPA(エイコサペンタエン酸、C20:5)およびDHA(ドコサヘキサエン酸、C22:6)としてかかる商業的に重要なPUFAを、比較的低濃度でEPAおよびDHAを含有する魚油のような組成物から単離するためのリパーゼ触媒した方法を開発するために、広範囲にわたる研究が行われている。
【0004】
例えばPCT/NO95/00050号(国際公開第95/24459号パンフレット)では、本発明者等は、エステル交換反応条件に対してトリグリセリドの形で飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸を含有する油組成物を、飽和脂肪酸およびモノ不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するのに活性なリパーゼの存在下に実質的に無水の条件下でエタノールの如きC1ー6アルコールで処理する方法を開示している。好ましいリパーゼ、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)リパーゼ(PFL)および蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)リパーゼ(PFL)を用いると、海産油供給源から、グリセリドの形で工業上および医療上重要なオメガ−3ポリ不飽和脂肪酸EPAおよびDHAの70重量%以上を含有する濃厚液を製造することができた。
【0005】
多数のリパーゼ触媒した精製法ではグリセロールを利用した。
【0006】
例えば、特開昭62−91188号公報(1987年)、国際公開第91/16443号パンフレット、Int. J. Food. Sci. Technol. (1992), 27, 73-76, Lie and Molin、Myrnes et al, JAOCS, Vol. 72, No. 11 (1995), 1339-1344、Moore et al, JAOCS, Vol. 73, No. 11 (1996), 1409-1414、McNeill et al, JAOCS, Vol. 73, No. 11 (1996), 1403-1407、国際公開第96/3758号パンフレットおよび国際公開第96/37587号パンフレットを挙げることができる。
【0007】
PCT/NO00/00056号(国際公開第2000/49117号パンフレット)では、本発明者等は、遊離脂肪酸としてEPAおよびDHAを含有する海産油組成物を、出発組成物と比較した場合にこれらの脂肪酸の少なくとも1つに富んだ遊離脂肪酸画分を形成するようにエステル化する方法であって、減圧および本質的に有機溶媒を含まない条件下で、リパーゼ触媒であるリゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ(MML)の存在下にて、上記海産油組成物をグリセロールと反応させる工程、およびEPAおよびDHAの少なくとも1つに富んだ遊離脂肪酸画分を回収する工程を含む方法を提供した。好ましくは、短経路(short path)蒸留を用いて、グリセリド混合物から残留遊離脂肪酸を分離した。
【0008】
しかしながら、今日では、グリセリド混合物から残留遊離脂肪酸を分離するための短経路蒸留に基づいたこの戦略は、あまり実現可能ではないことが明らかとなってきた。これは、より短鎖のモノグリセリドの揮発性が高すぎることの結果であり、留出物を非常に汚染する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は今回、メタノールまたはエタノールの遊離脂肪酸の直接的なエステル化、またはCアルコール(m=1〜12、n>m)による魚油由来のCアルキルエステル(n=2〜18)のエステル交換(アルコール分解)、および続く短経路蒸留により、EPAおよびDHAの濃厚液を調製するためのリパーゼ触媒した方法が、高DHA濃厚液を提供することを発見した。これらの方法は、迅速かつ簡素な反応であり、留出物中に好ましくないモノグリセリドを生成することなく、EPAとDHAとの間での優れた分離を提供する。これらの方法の本質的な特徴は、添付の特許請求の範囲で規定している。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、C〜C12アルコールは、エタノールである(エタノール分解)。C〜C18アルキルエステルの中でも、ヘキシルエステルが好ましい。
【0011】
直接的なエステル化における出発材料中の遊離脂肪酸に対するメタノールまたはエタノールのモル比は、0.5〜10.0であり、好ましい比は、0.5〜3.0であり、最も好ましい比は、1.0〜2.0であり、さらに好ましい比は、1.0〜1.5である。
【0012】
エステル交換におけるCアルキルエステルに対するCアルコールのモル比は、0.5〜10.0であり、好ましい比は、0.5〜3.0であり、最も好ましい比は、2.0〜3.0である。
【0013】
エステル化反応は、0℃〜70℃の温度、好ましくは、20℃〜40℃の温度で実施される。
【0014】
本発明で使用されるリパーゼ触媒は、担体上に固定化される。
【0015】
アルコール分解中に使用するリパーゼによっては、それらがEPAの相当するアルコール分解よりもかなり低速度で、DHAのアルコール分解を触媒するという特性を有するものもある。かかる特性を有する好ましいリパーゼは、リゾムコール・ミエヘイ(MML)である。他のリパーゼは、それらがより短鎖のおよびより飽和した脂肪酸の相当するアルコール分解よりもかなり低速度で、EPAおよびDHAの両方のアルコール分解を触媒するという特性を有する。かかる特性を有するリパーゼは、シュードモナス属リパーゼ(PSL)および蛍光菌リパーゼ(PFL)である。
【0016】
MMLによるエタノールを用いた魚油遊離脂肪酸の直接的なエステル化は、G.G. Haraldsson and B. Kristinsson, J. Am. Oil. Chem. Soc. 75:1551-1556 (1998)からすでに既知である。
【0017】
【化1】

スキーム1.MMLによるエタノールを用いた魚油遊離脂肪酸の直接的なエステル化
【0018】
しかしながら、DHA残留遊離脂肪酸およびエチルエステルの満足のいく分離が、短経路蒸留技術で可能であるとは考えられていなかった。そこで、本発明者等は、驚くべきことに、短経路蒸留技術がかなり首尾よく使用することができることを見出した。このことは、以下の実施例に示す結果から明らかである。
【0019】
本発明は、リパーゼによる魚油ヘキシルエステルのエタノール分解、ならびにそれに続いて分子蒸留して、残留ヘキシルエステルおよびより揮発性の高いエチルエステルを分離することをさらに開示する。
【0020】
【化2】

スキーム2.リパーゼ(MML)による魚油ヘキシルエステルのエタノール分解
【0021】
DHAの回収率および生成物中の濃度をさらに改善するために、PCT/NO95/00050号(国際公開第95/24459号パンフレット)に記載されるようにエタノール分解反応は、直接的なエステル化の前の前工程として使用することができる。
【0022】
【化3】

スキーム3.リパーゼ(MML)による魚油のエタノール分解
【0023】
直接的なエステル化の前に、グリセリド混合物を加水分解する必要がある。加水分解前に、出発材料のかさを半分減少させるために、PCT/NO95/00050号(国際公開第95/24459号パンフレット)のエタノール分解反応が有用であることがわかっている。したがって、本発明はまた、代替法として、エタノール分解および続く直接的なエステル化を開始とする2酵素工程反応を開示し、各工程後に、分子蒸留による濃縮が続く。この2工程反応はまた、ニシン油のような長鎖一不飽和に非常に富んだ油にも適している。
【0024】
2工程反応はまた、魚油ヘキシルエステルが出発材料である場合に、適用可能かつ好適である。
【実施例】
【0025】
本発明は、以下の実施例により説明される。
【0026】
イワシ油(SO)、カタクチイワシ油(AO)、ニシン油(HO)、タラ肝油(CLO)、マグロ油(TO)およびブルーホワイティング油(BWO)のような出発材料を試験した。
【0027】
実験手順
シュードモナス属(PSL、リパーゼAK)および蛍光菌(PFL、リパーゼPS)由来の細菌リパーゼは、Amano Enzyme Inc.から購入した。固定化リゾムコール・ミエヘイ(MML、リポザイムRM IM)、サーモマイセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)(TLL、リポザイムTM IM)およびカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)(CAL、ノボザイム435)リパーゼは、デンマークのNovozymeにより提供された。イワシ油(EPA14%およびDHA15%)、カタクチイワシ油(EPA18%およびDHA12%)、ニシン油(EPA6%およびDHA8%)、マグロ油(EPA6%およびDHA23%)、タラ肝油(EPA9%およびDHA9%)、ならびにブルーホワイティング油(EPA11%およびDHA7%)はすべて、Pronova Biocareにより提供された。脂肪酸分析は、水素炎イオン化検出器(FID)を装備したPerkin−Elmer 8140 ガスクロマトグラフ(GC)を用いて実施した。キャピラリーカラムは、J & W Scientificからの30メートルのDB−225 30N、0.25μmキャピラリーカラムであった。短経路蒸留は、Leybold KDL 4蒸留器中で実施した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、溶媒として重水素化クロロホルム中にてBruker AC 250NMR分光計で記録した。分取用薄層クロマトグラフィ(TLC)は、Merckからのシリカゲルプレート(Art 5721)で行った。溶出は、石油エーテル:ジエチルエーテル:酢酸の80:20:1の混合物を用いて実施した。ローダミンG(Merck)を用いて、バンドを可視化させた後、掻き取って、メチル化した。C19:0のメチルエステル(Sigma)を内部標準としてサンプルに添加した後、GCに注入した。
【0028】
魚油の加水分解
魚油(500g、0.55mol)を水酸化ナトリウム(190g、4.75mol)、水(500ml)および96%エタノール(1.7L)の溶液に添加した。得られた混合物を30分間(透明な着色液体が観察されるまで)還流させた後、絶えず攪拌しながら室温にまで冷却した。溶液を中和するために、6.0M塩酸(870ml、10%過剰)を慎重に添加して、得られた混合物を分液漏斗に移した。石油エーテルおよびジエチルエーテルの1:1の混合物(1.5L)を用いて、遊離脂肪酸を二度抽出した。続いて、有機層を水(1.5L)で三度洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別して、溶媒を蒸発により除去して、50℃で2時間高真空蒸発で仕上げた。分析用TLCによる分析で、単一のスポットは、純粋な遊離脂肪酸を示した。生成物の色は、魚油に応じて、黄色がかった色から濃赤紫色まで多様であった。
【0029】
エタノールによる魚油遊離脂肪酸の直接的なエステル化
固定化MML(15g)を魚油遊離脂肪酸(300g、およそ1.03mol)および無水エタノール(143g、3.10mol)の溶液に添加した。所望の変換率に達するまで、得られた酵素懸濁液を窒素下にて40℃で穏やかに攪拌した。反応中にサンプルを取り出して、0.02M NaOHによる滴定により、遊離脂肪酸の残留量を検出して、反応の進行をモニタリングした。分別は、分取用TLCにより実施して、続いて、各脂質画分を、GCにより定量化して、脂肪酸プロフィールに関して分析した。所望の変換率に達した後、酵素を濾過により除去して、過剰エタノールを真空中で蒸発させた。得られた混合物の短経路蒸留後に、残留物として高DHA濃厚液が得られた。
【0030】
リパーゼによる魚油のエタノール分解
固定化MML(20g)を魚油(400g、0.44mol)および無水エタノール(61g、1.32mol)の溶液に添加した。所望の変換率に達するまで、得られた酵素懸濁液を窒素下にて室温で穏やかに攪拌した。続いて、酵素を濾過により除去して、過剰エタノールを真空中で蒸発させた後、短経路蒸留した。反応の進行は、分析用TLCおよびH−NMRによりモニタリングした。分別は、分取用TLCにより実施して、続いて、各脂質画分を、GCにより定量化して、脂肪酸プロフィールに関して分析した。
【0031】
リパーゼによる魚油のヘキサノール分解
固定化CAL(25g)を魚油(500g、0.55mol)および1−ヘキサノール(338g、3.31mol)の溶液に添加した。分析用TLCおよび/またはH−NMRに従ってトリアシルグリセロールが完全にヘキシルエステルに変換されるまで、得られた酵素懸濁液を窒素下にて65℃で穏やかに攪拌した。酵素を濾過により除去して、過剰ヘキサノールを真空中で蒸発させた。
【0032】
リパーゼによる魚油ヘキシルエステルのエタノール分解
固定化MML(15g)を魚油ヘキシルエステル(300g、0.80mol)および無水エタノール(111g、2.41mol)の溶液に添加した。H−NMRに従って所望の変換率が得られるまで、得られた酵素懸濁液を窒素下にて40℃で穏やかに攪拌した。酵素を濾過により除去して、過剰エタノールを真空中で蒸発させた。得られた混合物の短経路蒸留後に、残留物として高DHA濃厚液が得られた。各エステル群の脂肪酸組成は、1回のGCの実施により確定した。
【0033】
(実施例1)
エタノールによる魚油遊離脂肪酸の直接的なエステル化
イワシ油(SO)
MML(遊離脂肪酸の重量に基づいて5%)の存在下にて40℃でのEPA14%およびDHA15%を含有するSO遊離脂肪酸(14/15)と3当量のエタノールとの直接的なエステル化反応の進行を表1に示す。これらの条件下では、リパーゼは、SO遊離脂肪酸に対して極めて高い活性を示した。70%を超える変換率(エチルエステル%)が、たった2時間で達成された。4時間の反応後、残留遊離脂肪酸は、それぞれ回収率73%および10%で、DHA49%およびEPA6%を含有していた。DHAの濃度および回収率に関して、最適な変換率は、変換率およそ75%であるようである。表1では、反応の進行中に生産されたエチルエステルの重量パーセントを、変換率の程度の尺度として直接使用した。
【0034】
【表1】

【0035】
短経路蒸留による分離後に、SO遊離脂肪酸の直接的なエステル化に関して、優れた結果が得られた。SO遊離脂肪酸を、40℃で4時間、MMLの存在下でエタノールと反応させて、変換率78%に達した。反応混合物の遊離脂肪酸は、DHA回収率75%で、DHA49%およびEPA6%を含んでいた。115℃での蒸留後、残留物は、DHA69%およびEPA9%、ならびにそれぞれ回収率65%および10%を含んでいた(表2)。DHAの回収率は、蒸留温度をわずかに下げることにより改善された(表3を参照)。本発明者等は、蒸留により残留遊離脂肪酸からエチルエステルをすべて分離することができなかった。それにもかかわらず、本発明者等は、115℃での短経路蒸留後に、遊離脂肪酸およそ90%およびエチルエステル10%を有する高DHA濃厚液を首尾よく得た。残留物中に得られたエチルエステルは、遊離脂肪酸と同様に非常にDHAに富んでいる。さらに、より飽和されたおよびより短鎖の遊離脂肪酸は蒸留され、反応後の遊離脂肪酸画分に関してよりも高いDHA濃度の残留物を生じる。
【0036】
【表2】

【0037】
SOに関する結果は、表3に示すように、変換率および蒸留温度を低減させることにより改善した。4時間の反応後、変換率75%が得られた。111℃で蒸留した後、残留物は、回収率88%でDHA66%を含有し、DHA/EPA比は4.7であった。わずかに高い蒸留温度では、残留物は、回収率75%でDHA74%を含み、DHA/EPA比はほぼ7であった。蒸留後のDHA回収率は、出発油中のDHAの重量パーセントに基づくことに留意すべきである。
【0038】
【表3】

【0039】
エタノール含有量を1当量に低減させることができ、これは反応時間の増加をもたらす(表4)。少ないリパーゼを導入することもでき、これはかなり低い反応率をもたらす。
【0040】
【表4】

【0041】
カタクシイワシ油(AO)
SOと同一条件下でのEPA18%およびDHA12%を含むAO遊離脂肪酸(18/12)の直接的なエステル化反応の進行を表5に示す。認識され得るように、24時間後、変換率82%で、約6:1のDHA/EPA比が得られ、EPA8%およびDHA50%を含んでいた。DHA回収率は、80%を少し下回った。同様に、11時間後では、変換率79%で、DHA/EPA比は5:1であり、DHA回収率は84%程度で高かった。したがって、AOおよびSOはともに、重要である場合に、エチルエステル画分から、DHAが多い濃厚液を作製するための、かつ同様にEPAが多い濃厚液を作製するための非常に潜在的な出発材料である。
【0042】
【表5】

【0043】
AOに関する結果は、表6に示すように、DHA濃度およびDHA/EPA比に関して良好である。AO(19/12)の遊離脂肪酸を上述のように反応させて、11時間で変換率76%に達した。121℃で蒸留した後、残留物は、回収率がたった64%でDHA61%を含み、DHA/EPA比は5.5であった。留出物は、場合によっては、より低温度で蒸留を繰り返すことにより、高いEPA濃厚液を作製するのに使用してもよい。例えば、EPA45%およびDHA10%の濃厚液は、潜在的な商品用の望ましい組成物であるとみなされる。
【0044】
【表6】

【0045】
ニシン油(HO)
EPA6%およびDHA8%を含むニシン油(6/8)由来の遊離脂肪酸を、上述のような直接的なエステル化条件下で同様に処理した。反応の進行を表7に示す。12時間の反応後の残留遊離脂肪酸は、DHA37%およびEPA6%を含有し、それぞれ回収率90%および18%であった。
【0046】
【表7】

【0047】
EPA9%およびDHA9%を含む異なるHO(9/9)由来の遊離脂肪酸を、上述と同じ方法で12時間反応させて、変換率84%に達した。反応混合物の遊離脂肪酸は、DHA39%およびEPA8%を含み、DHA回収率76%であった。110℃で蒸留した後、残留物は、DHA40%およびEPA7%を含有し、DHA回収率68%、DHA/EPA比はほぼ6:1であった(表8)。低いDHA濃度は、20:1(4%)および22:1(37%)の長鎖一不飽和脂肪酸の高い含有量に起因する。HOおよびカラフトシシャモ油中の長鎖一不飽和脂肪酸のこの高い含有量が、上述の方法に関して、それらをあまりふさわしくない出発材料としている。残留油中に単に尿素を含ませることを使用して、これらの一不飽和脂肪酸の大部分を除去してもよく、DHAの有価な濃厚液をもたらす。低いEPA含有量のHOは、高いDHA/EPA比を得るのに、SOおよびAOよりも適していることを付け加えるべきである。
【0048】
【表8】

【0049】
マグロ油(TO)
上述のSOと同一条件下でのEPA6%およびDHA23%を含むTO遊離脂肪酸(16/23)の直接的なエステル化反応の進行を下記表9に示す。8時間の反応後、変換率68%が得られ、残留遊離脂肪酸は、DHA74%およびEPA3%を含み、DHA回収率83%で、DHA/EPA比は25:1であった(表9)。明らかに、このタイプの出発油の初期EPA/DHA組成は、DHAを濃縮するのに理想的である。
【0050】
【表9】

【0051】
タラ肝油(CLO)
上述と同様の条件下でのEPA9%およびDHA9%を含むCLO遊離脂肪酸(9/9)の直接的なエステル化反応の進行を表10に示す。およそ変換率79%で、残留遊離脂肪酸に関してDHA/EPA比5:1が得られ、DHA濃度50%で、DHA回収率は80%を上回った。これらの結果は、潜在的なDHA回収率を考慮すると、SOおよびAOに関する結果よりもさらに良好である。しかし、コストに関しては、SOおよびAOは、CLOよりも好適である。CLOは、はるかに少ない長鎖一不飽和(20:1および22:1)を含有するという事実を踏まえて、CLO(9/9)からの結果をHO(9/9)からの結果と比較することは、重要であり得る。
【0052】
【表10】

【0053】
ブルーホワイティング油(BWO)
上述の条件下でのEPA11%およびDHA7%を含むBWO遊離脂肪酸(11/7)の直接的なエステル化反応の進行を表11に示す。およそ変換率73%で、残留遊離脂肪酸は、DHA24%を含み、回収率95%であった。EPAは、予想したほど迅速には、エチルエステルに移行されなかった。興味深いことに、またHOと異なり、長鎖一不飽和遊離脂肪酸は、相当高い程度にまでエチルエステルへと変換された。EPAおよびDHAの良好な分離を得るには、より高い変換率が必要である。BWOに関する低変換率の理由は明らかではないが、幾つかの試みでは、より高い変換率をもたらさなかった。
【0054】
【表11】

【0055】
(実施例2)
魚油のエタノール分解および直接的なエステル化の組合せ
エタノール分解を始まりとして、直接的なエステル化が続く2工程反応(各工程後に、分子蒸留を行う)は、DHAの回収率および生成物中の濃度を改善するのに使用することができる。直接的なエステル化の前に、エタノール分解から得られるグリセリド混合物を加水分解する必要がある。したがって、エタノール分解反応を前工程として使用することができ、加水分解前に、出発材料のかさを半分減少させる。40℃でのエタノール分解で、蒸留による分離後に、高い回収率が得られたことに注目されよう(表12)。上述のように、また表13および表14に示すように、より良好な結果は、室温で得られた。室温反応からの残留物は、DHA23%およびEPA25%を含み、それぞれ回収率は97%および65%であった(表13)。これらの結果は、DHA回収率が、2工程プロセスにより有意に改善することができることを示す。また、加水分解反応のためのかさ高さの劇的な減少が見られる。最終的に、このアプローチは、HOのような長鎖一不飽和に非常に富んだ油に適切であり得る。
【0056】
【表12】

【0057】
【表13】

【0058】
【表14】

【0059】
(実施例3)
魚油ヘキシルエステルのエタノール分解
魚油由来のヘキシルエステル(HE)のエタノール分解は、上述の魚油トリグリセリドのエタノール分解に対する代替法である(スキーム2)。結果は、リゾムコール・ミエヘイリパーゼ(MML)およびシュードモナス属リパーゼ(PSLおよびPFL)を含む各種リパーゼ、ならびに最近商品化されたNovozymeからのサーモマイセス・ラヌギノサリパーゼ(TLL)を使用することができることを示す。また、分子蒸留は、残留ヘキシルエステルおよびより揮発性の高いエチルエステルを分離するのに非常に適していることが確認された。
【0060】
カンジダ・アンタルクチカリパーゼ(Candida antarctica lipase)(CAL)を用いて、ヘキサノールによる処理で、AOトリグリセリドを相当するヘキシルエステルに変換した。得られたヘキシルエステルをエタノールおよびPSLで処理した後、反応混合物の分子蒸留により、単一または2酵素工程で、およそ80%のEPAおよびDHAを有する残留ヘキシルエステルが得られ得る。ヘキシルエステル中のDHAを濃縮することにより、本発明者等は、エチルエステルをヘキシルエステルから分離することができるだけでなく、同様により飽和されたヘキシルエステルを留去することができる。CALを用いて、化学的にまたは酵素的に、ヘキシルエステルをエチルエステルに変換することが可能であり得る。あるいは、MMLを用いたエタノール分解でカタクチイワシ油ヘキシルエステルを処理することが可能であり、単一酵素工程で、ヘキシルエステルとしてDHA70%が得られ得る。それらは、さらなるMML処理によりさらに濃縮され得る。EPAの大部分を含有するエチルエステル塊から、95%以上のレベルにまでEPAを精製することが可能であり得る。
【0061】
代替的な2工程アプローチは、イワシ油のエタノール分解に基づき、分子蒸留後に、グリセリド混合物としてEPA+DHA(30/20)50%の濃厚液を生じる。残留グリセリドをヘキサノールおよびCALで処理することにより、同一組成のヘキシルエステルが得られる。それらをエタノールおよびPSLで処理して、およそ80%のEPAおよびDHAを有するヘキシルエステルを生じてもよく、あるいはエタノールおよびMMLで処理して、DHAをEPAから分離してもよく、続いてEPAおよびDHAの両方をさらに濃縮する。この方法は、魚油のバルクをヘキサノールの代わりにエタノールで処理するという点で利点を有し得て、ともにより容易であり、あまりかさ高くなく、かつ工業的観点からより実現可能である。EPAおよびDHAの両方の非常に高い優れた回収率が当該方法により期待できることも留意しなくてはならない。
【0062】
カタクチイワシ油(AO)
魚油トリグリセリドのエタノール分解と同様に、MMLの脂肪酸選択性および活性は、温度により大いに影響を受け得る。したがって、MMLを用いて、20℃以下でEPAおよびDHAの両方を濃縮することができるが、40℃で、EPAはDHAから分離され、高いDHA濃厚液を生じる。EPA18%およびDHA12%を含むカタクチイワシ油ヘキシルエステルを、MML(ヘキシルエステルの10重量%)の存在下で、2当量のエタノールと、40℃で24時間反応させて、変換率59%に達した。リパーゼの除去後、過剰エタノールを蒸発させて、エチルエステル/ヘキシルエステル(EE/HE)混合物を135℃にて3×10−3mbarで蒸留した。残留物(26重量%)は、DHA43%を含み、回収率はたった65%であった。DHA/EPA比は、ほんの2.2に過ぎなかった(表15)。
【0063】
【表15】

【0064】
カタクチイワシ油ヘキシルエステル(18/13)の同様の反応で、反応温度を20℃に下げた場合に、興味深い結果が得られた。135℃での蒸留後、残留物は、DHA45%およびEPA30%を含み、それぞれ回収率は85%および55%であった(表16)。
【0065】
【表16】

【0066】
シュードモナス属リパーゼを小規模で試験して、良好な結果を伴い、特に反応が変換率50%を超える場合に、高いEPA回収率を付与したが、相当低いDHA回収率を付与した。PSLおよびPFLの存在下で室温でのAO(18/12)と2当量のエタノールとのエタノール分解反応の結果を表17に示す。PFLに関しては、24時間でのイワシ油ヘキシルエステルのたった44%の変換率後に、EPA28%およびDHA21%の含有量が得られた一方で、24時間でのPSLに関する変換率57%は、EPA33%およびDHA17%をもたらした。
【0067】
【表17】

【0068】
顆粒状シリカゲル上に固定化した新規ノボザイムリパーゼ(TLL)をMMLと比較した。新規リパーゼは、エタノールに対して感受性があることがわかり、温度を増加させるとともに、活性は迅速に減少した。20℃で、リパーゼはともに活性であり、24時間で、MMLに関しては変換率54%が得られたが、TLLに関してはたったの43%であった。TTL反応からのEPA6%およびDHA28%を含有するTO(6/28)の残留ヘキシルエステルは、EPA8%およびDHA45%を含有していた。MML反応は、EPA7%およびDHA54%を含有する残留ヘキシルエステルを生じた(表18)。これらのリパーゼは、脂肪酸選択性においては明らかに同等であるが、TLLは、エタノール濃縮に対してより感受性が高く、このことがTLLをMMLに劣ったものにする。
【0069】
【表18】

【0070】
40℃でのTOヘキシルエステル(6/28)とエタノールとのエタノール分解からの結果を表19に示す。興味深いことに、40℃では、TLLに関しては、たった15%の変換率が、MMLに関しては変換率47%が得られた。より高温で、リパーゼが極性のエタノールおよびその不利益な影響により感受性が高くなると考えられる。MMLに関して、24時間で変換率47%後、ヘキシルエステルは、EPA9%およびDHA49%を含んでいたのに対して、TLL関しては、24時間でたった15%の変換率は、EPA33%およびDHA17%をもたらした。
【0071】
【表19】

【0072】
本発明により、リパーゼの存在下での魚油遊離脂肪酸または魚油ヘキシルエステルとエタノールとの溶媒を含まない直接的なエステル化によるEPAおよびDHAの分離が首尾よく得られる。留出物中のモノグリセリドに関する問題は、本発明による方法により回避される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼを用いたエタノールまたはメタノールによる魚油遊離脂肪酸の直接的なエステル化から得られるEPA(エイコサペンタエン酸、C20:5)に富んだエチルまたはメチルエステル画分およびDHA(ドコサヘキサエン酸、C22:6)に富んだ遊離脂肪酸画分を、分子蒸留により分離する方法。
【請求項2】
前記魚油遊離脂肪酸出発材料は、リパーゼ触媒した魚油トリグリセリドのアルコール分解、続く分子蒸留、および残留グリセリド混合物の加水分解により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(1)出発材料と比較した場合にDHAに富んだC脂肪酸アルキルエステル画分(n=2〜18)および出発材料と比較した場合にEPAに富んだC脂肪酸アルキルエステル画分(m=1〜12、n>m)、または(2)出発材料と比較した場合にDHAおよびEPAの両方に富んだC脂肪酸アルキルエステル画分(n=2〜18)ならびに出発材料と比較した場合にDHAおよびEPAの両方が少ないC脂肪酸アルキルエステル画分(m=1〜12、n>m)を形成するように、脂肪酸のCアルキルエステル(n=2〜18)としてEPAおよびDHAを含有する海産油組成物をエステル化する方法であって、本質的に有機溶媒を含まない条件下で、リパーゼ触媒の存在下にて、前記海産油組成物をCアルコール(m=1〜12、n>m)と反応させる工程、および分子蒸留による前記画分を分離する工程を含む方法。
【請求項4】
前記出発物質であるC〜C18アルキルエステルは、リパーゼ触媒した魚油トリグリセリドのアルコール分解、続く分子蒸留、およびC〜C18アルキルアルコールによる残留グリセリド混合物のアルコール分解により得られる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記C〜C18アルキルエステルは、ヘキシルエステルである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記C〜C12アルコールは、エタノールである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記リパーゼ触媒は、リゾムコール・ミエヘイリパーゼ(Rhizomucor miehei lipase)(MML)、サーモマイセス・ラヌギノサリパーゼ(Thermomyces lanuginosa lipase)(TLL)、シュードモナス属リパーゼ(Psedomonas sp. lipase)(PSL)または蛍光菌リパーゼ(Psedomonas fluorescens lipase)(PFL)である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
出発組成における遊離脂肪酸に対するメタノールまたはエタノールのモル比は、0.5〜10.0である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記モル比は、0.5〜3.0である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記モル比は、1.0〜2.0である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記モル比は、0.5〜1.5である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
〜C18アルキルエステルに対するC〜C12アルコールのモル比は、0.5〜10.0である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記モル比は、0.5〜3.0である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記モル比は、2.0〜3.0である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記エステル化反応は、0℃〜70℃の温度で実施される、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記エステル化反応は、20℃〜40℃の温度で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リパーゼ触媒は、担体上に固定化される、請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記リパーゼは、EPAの相当するアルコール分解よりもかなり低速度でDHAのアルコール分解を触媒する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記リパーゼ触媒は、リゾムコール・ミエヘイリパーゼ(MML)またはサーモマイセス・ラヌギノサリパーゼ(TLL)である、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2006−506483(P2006−506483A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551300(P2004−551300)
【出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【国際出願番号】PCT/NO2003/000364
【国際公開番号】WO2004/043894
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(504453362)プロノヴァ・バイオケア・アーエス (10)
【氏名又は名称原語表記】PRONOVA BIOCARE AS
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 420, 1327 Lysaker, Norway
【Fターム(参考)】