説明

リパーゼ阻害活性および/または抗酸化活性を有するエピガロカテキン二量体および三量体

【課題】 膵リパーゼに対して高い阻害活性を示し、食事由来の脂肪吸収を抑制し、および/または肥満の抑制や予防に寄与するリパーゼ活性阻害剤、およびそれを添加した飲食品を提供すること、または、茶由来の、嗜好性の高い、香味を損なうことのないリパーゼ阻害剤を提供すること。また、本発明は、当該リパーゼ阻害剤の製造法も提供する。さらに、本発明は、抗酸化剤も提供する。
【解決手段】 エピガロカテキンの二量体(ウーロンホモビスフラバン類)または三量体を飲食物に添加することにより、食事由来の脂肪吸収を抑制することができ、また、抗酸化作用が得られる。本発明化合物の製造は、エピガロカテキンガレートとホルムアルデヒドを酸の存在下で反応させることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼ阻害活性を有するエピガロカテキン二量体および三量体、並びに、それを添加した飲食品に関する。また、本発明は、抗酸化剤作用を有するエピガロカテキンガレート二量体および三量体、並びに、それを添加した飲食品にも関する。さらに、本発明は当該エピガロカテキン二量体および三量体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼ阻害剤
近年、日本人の生活様式の欧米化に伴い、高脂肪食の摂取が増加の一途をたどっている。平成11年国民栄養調査によると、エネルギー摂取量は年々減少しているにも拘らず、その脂質エネルギー比は適正比率である25%を超え、中性脂肪値やコレステロール値が高い人の割合は60歳以上で5〜6割に認められたとの報告がある(厚生労働省平成11年国民栄養調査結果の概要臨床栄養 2001、98(5)577−588)。
【0003】
肥満は現代社会における最も重大な疾患の一つであるが、その主たる要因は脂肪の過剰摂取である。また、脂肪の過剰摂取は、肥満のみならず、肥満に起因する糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化等を発症させることが知られている。この肥満に対する治療薬として、国内では、食欲抑制剤のマジンドール(登録商標)が唯一承認されているが、口渇、便秘、胃部不快感、悪心・嘔吐等の副作用が報告されている(臨床評価、1985、13(2)、p.419〜459;臨床評価、1985、13(2)、p.461〜515)。また、海外においては、リパーゼ阻害活性により腸管からの脂肪吸収の抑制作用を持つゼニカル(登録商標)が肥満改善薬として市販されているが、やはり、脂肪便、排便数の増加、軟便、下痢、腹痛等の副作用が報告されている(The Lancet, 1998, 352, p.67-172)。
【0004】
一方、肥満を予防するための他の方法として、食事制限により摂取カロリーを減らすことが有効であることが知られている。しかし、この手段においては厳密な栄養指導と管理が必要とされ、日常生活において実行することは困難である。したがって、安全かつ健康的に食事由来の脂肪の体内吸収を抑制することができれば、肥満及びそれに関連する疾患の治療あるいは健康増進のための現実的で有用な方策となる。
【0005】
このような背景のもと、安全でかつヒトに対する有効性が証明されている特定保健用食品の開発が注目されている。これまでに、食後の血清中性脂肪値の上昇を抑える特定保健用食品として、膵リパーゼの阻害により脂肪吸収を抑制するグロビン蛋白分解物(J. Nutr. 1988, 128, p.56-60;日本臨床・食糧学会誌、1999、52(2)、p.71〜7
7;健康・栄養食品研究、2002、5(3)、p.131〜144)、トリアシルグリセロールとは異なる消化吸収特性を有するジアシルグリセロール(J. Am. Coll. Nutr. 2000, 19(6), p.789-796;Clin. Chim. Acta. 2001, 11(2), p.109-117)、及び、魚油よ
り精製されたエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが発売されている。これら特定保健用食品を用いて食事性脂肪の吸収を抑えるためには、食事と共に摂取することが望ましく、その際には飲食物の香味や風味に影響を及ぼすことが予想される。
【0006】
また、リパーゼの阻害に関して、いくつかのポリフェノールが活性を有することが知られている。例えば、植物樹皮由来のタンニン(特公昭60−11912)、マメ科植物カワラケツメイに含まれるタンニン類やフラボノイド類およびその配糖体(特開平8−25
9557)、緑茶中の主要な成分エピガロカテキンガレートおよびエピカテキンガレート
を配合した脂質吸収抑制食品(特開平3−228664)、ピーマン、シメジ、かぼちゃ、まいたけ、ひじき、緑茶、ウーロン茶などの水抽出物からなるリパーゼ阻害剤(特開平3−219872)、フラボンおよびフラボノール類(特開平7−61927)、ヒドロキシ安息香酸類(没食子酸)(特開平1−102022)、トリテルペン類化合物およびその誘導体(特開平9−40689)、タマリンドのプロシアニジンを有効成分とする抗肥満剤(特開平9−291039)などが報告されており、また、ブドウ種子抽出物のリパーゼ阻害作用(Nutrition, 2003, vol. 19, (10), p.876-879)、サラシア由来ポリフェ
ノールによるリパーゼ阻害作用とラットの抗肥満作用(J. Nutr., 2002, 132, p.1819-1824)、ウーロン茶抽出物によるマウスの抗肥満作用(Int. J. Obes., 1999, 23, p.98-105)なども知られている。
【0007】
一方、ウーロン茶に関して、脂質低下効果を示した報告がある。例えば、市販ウーロン茶を1日1330mlずつ6週間飲用させ、血中中性脂肪値の有意な低下が認められたと
の報告(日本栄養・食糧学会誌、1991、44(4)、p.251〜259)や、単純性肥満症の男女102名を対象にウーロン茶(2g×4/日)を6週間連続経口摂取させ
た結果、67%の被験者に1kg以上の体重減少が認められ、さらに、血中中性脂肪値が高値を示した被験者においてウーロン茶摂取後に有意な改善効果が認められたとの報告(日本臨床栄養学会雑誌、1998、20(1)、p.83〜90)がなされている。
【非特許文献1】厚生労働省平成11年国民栄養調査結果の概要臨床栄養 2001、98(5)577−588
【非特許文献2】臨床評価、1985、13(2)、p.419〜459
【非特許文献3】臨床評価、1985、13(2)、p.461〜515
【非特許文献4】The Lancet, 1998, 352, p.67-172
【非特許文献5】J. Nutr. 1988, 128, p.56-60
【非特許文献6】日本臨床・食糧学会誌、1999、52(2)、p.71〜77
【非特許文献7】健康・栄養食品研究、2002、5(3)、p.131〜144
【非特許文献8】J. Am. Coll. Nutr. 2000, 19(6), p.789-796
【非特許文献9】Clin. Chim. Acta. 2001, 11(2), p.109-117
【非特許文献10】Nutrition, 2003, vol. 19, (10), p.876-879)
【非特許文献11】J. Nutr., 2002, 132, p.1819-1824
【非特許文献12】Int. J. Obes., 1999, 23, p.98-105
【非特許文献13】日本栄養・食糧学会誌、1991、44(4)、p.251〜259
【非特許文献14】日本臨床栄養学会雑誌、1998、20(1)、p.83〜90
【特許文献1】特公昭60−11912
【特許文献2】特開平8−259557
【特許文献3】特開平3−228664
【特許文献4】特開平3−219872
【特許文献5】特開平7−61927
【特許文献6】特開平1−102022
【特許文献7】特開平9−40689
【特許文献8】特開平9−291039
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に示した既報のリパーゼ阻害剤は、効果が十分なものとはいえない。例えば、ある植物の抽出物で効果があったとしても、その中に含まれる活性成分量を明確にしない限り、天然物が起源であるので、安定的にリパーゼ阻害活性を維持させることは困難である。
【0009】
また、嗜好性の低い植物由来のリパーゼ阻害剤は、飲食物として利用すると香味に悪影響を及ぼすことが予想される。したがって、嗜好性の高い茶に起源を発するリパーゼ阻害剤は、有効な素材候補となり得るが、嗜好性の高いウーロン茶を飲用して脂質低下を図るとしても、大量に飲用しなければ効果が得られず、日常生活のなかで行うことは現実的でない。単純に濃縮したウーロン茶を提供したとしても、苦味・渋味が強く、カフェイン量も増えてしまうため、やはり、この方法も現実的な方策とはなり得ない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、膵リパーゼに対して高い阻害活性を示し、食事由来の脂肪吸収を抑制し、および/または肥満の抑制や予防に寄与するリパーゼ活性阻害剤を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、ウーロン茶由来の嗜好性の高い、香味を損なうことのないリパーゼ阻害剤を提供することである。
さらに、本発明の目的は、当該リパーゼ阻害剤の製造法を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、本発明のリパーゼ阻害剤を添加した飲食品等を提供することでもある。
本発明のさらに別の目的は、活性酸素に起因する種々の疾患、例えば、高血圧,糖尿病,高脂血症等の生活習慣病、動脈硬化等の心疾患、および、老化や癌等を予防する抗酸化剤抗酸化剤を提供することである。
【0013】
さらに、本発明の目的は、効果量を的確に飲食品等に添加することができるリパーゼ阻害剤および/または抗酸化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
エピガロカテキン二量体および三量体
上記課題を解決する手段として、ウーロン茶より、脂肪吸収に必須な膵リパーゼを阻害する成分を見出した。そこに存在する種々のポリフェノールのリパーゼ阻害活性を評価し、以下の構造:
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはガロイル基である。)を有するエピガロカテキンの二量体に強い阻害活性があることを突き止めた。
本発明の好ましい二量体は、式:
【0017】
【化2】

【0018】
により表されるウーロンホモビスフラバン (oolonghomobisflavan) A(1)、ウーロン
ホモビスフラバンB(2)、モノデスガロイルウーロンホモビスフラバンA(5)およびジデスガロイルウーロンホモビスフラバンB(6)である。
【0019】
本発明によれば、合成された新規エピガロカテキンガレート二量体である、ウーロンホモビスフラバンC(3):
【0020】
【化3】

【0021】
も高いリパーゼ阻害活性を有する。
また、本発明によると、エピガロカテキン三量体:
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはガロイル基である。)も、強いリパーゼ阻害活性を有する。
好ましいエピガロカテキン三量体は、式:
【0024】
【化5】

【0025】
により表される化合物(4)である。
エピガロカテキン二量体および三量体の製造
本発明のエピガロカテキン二量体の多くは、当業者に周知の方法によって合成または精製・取得することができる。例えば、エピガロカテキン二量体である、ウーロンホモビスフラバンA(1)およびB(2)は Chem. Pharm. Bull 37(12), 3255-3563(1989) に記
載された方法により合成することができ、モノデスガロイルウーロンホモビスフラバンA(5)およびジデスガロイルウーロンホモビスフラバンB(6)は、Chem. Pharm. Bull 37(12), 3255-3563(1989) の方法により茶葉から取得することができる。
【0026】
一方、本発明の三量体は以下の製造方法によって製造される。即ち、エピガロカテキン−3−O−ガレート(7)等のフラバン−3−オール類を、メタノール、エタノール等の溶媒、好ましくはメタノール中で、塩酸、硫酸等の酸、好ましくは、0.01N塩酸の存在下、ホルムアルデヒドと反応させることを含む方法によって、製造することができる。反応温度は、原料および生成物が安定である限り特に制限されないが、室温で行うことが好ましい。あるいは、エピガロカテキン−3−O−ガレート(7)等のフラバン-3-オールをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、加熱することにより製造することができる。加熱反応条件は、原料および生成物が安定である限り特に限定されないが、好ましくは150〜200℃、より好ましくは、180℃で、好ましくは1分から30分、より好ましくは15分間行う。反応溶液中のホルムアルデヒドの濃度は、3〜37w/v%が好ましい。生じた生成物は、必要に応じてエステル化、加水分解等の誘導化を行うことができる。
【0027】
上記三量体の製造方法は二量体の製造にも適する。例えば、実施例3に記載されるように、新規ホモビスフラバンC(3)を含むいくつかの二量体が上記製造方法により製造された。
リパーゼ阻害活性
本発明の化合物は、リパーゼ阻害活性、特に、膵リパーゼ阻害活性を有する。
【0028】
リパーゼ阻害活性の測定は、背景技術に示した先行出願に記載されているいずれのリパーゼ活性評価法によっても行われることができ、膵リパーゼに対する阻害活性は、例えば、蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステルを基質として使用し、リパーゼによる反応で生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施できる。リパーゼ活性に対して50%の阻害を与える試料量IC50で表すことも、常法により行うことができる。
【0029】
実施例1に示すとおり、公知のリパーゼ阻害剤であるエピガロカテキン 3−O−ガレート(7)の膵リパーゼIC50に対して、本発明化合物は非常に低い値を示した。
従って、本発明のリパーゼ阻害剤は、従来知られている天然物由来のリパーゼ阻害剤よりも少量で食事由来の脂肪の体内吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑制し、および/または肥満を防止することができる。本発明化合物は天然物由来の物質であるため、安全性も高く、日常的におよび/または長期にわたって摂取してその効果を発揮させるために適している。また、ウーロン茶に由来する本発明化合物は、嗜好性の点で優れている。
抗酸化剤活性
さらに、本発明者らは、本発明の二量体および三量体が、スーパーオキシドアニオンラジカルを消去する活性を有することも見出した。
【0030】
スーパーオキシドアニオンラジカル(O)は体内で生成される活性酸素の一種であり、生体内で殺菌作用などに利用されるが、それのみにとどまらず生体内で無差別に強い酸化反応を惹起する。この作用は、例えば、細胞膜の不飽和脂肪酸の過酸化を通じて生体の老化、癌化等の疾患を引き起こすと考えられている(例えば、南山堂、「医学大辞典第18版」、1998年1月16日発行、p.329参照)。また、食品中で不飽和脂肪酸の過酸化反応が生じれば食品の劣化につながり、さらに、食品の劣化臭の発生にも関与することとなる。従って、スーパーオキシドアニオンラジカルを消去することができる化合物は、活性酸素に起因する種々の疾患、例えば、高血圧,糖尿病,高脂血症等の生活習慣病、動脈硬化等の心疾患、および、老化や癌等を予防することができる等の有益な特性を有する。
【0031】
スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性は、実施例5に示す方法により測定された
。即ち、キサンチンオキシダーゼによりOを発生させ、トラップ剤として5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシドを用い、ESRにより測定を行った。本発明化合物の存在下または非存在下で測定が行われ、その結果はO発生量を50%抑制する試料量IC50として表した。
【0032】
実施例5によると、公知のスーパーオキシドアニオンラジカル消去剤である化合物(7)のIC50に対して、本発明化合物は非常に低い値を示した。
従って、本発明化合物は、従来の天然物由来スーパーオキシドアニオンラジカル消去剤と比較して少量で、活性酸素に起因する種々の疾患、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病、動脈硬化等の心疾患、および、老化や癌等を予防することができる。しかも、本発明化合物は天然物由来であるから、その安全性も高く、長期間にわたり摂取して効果を発揮させることが可能である。
リパーゼ阻害および/または抗酸化剤添加飲食品
本発明のエピガロカテキン二量体および/または三量体を添加して茶ポリフェノールを増強することにより、中性脂肪の低減、脂質過酸化の防止、老化防止、肥満予防等の作用、並びに、活性酸素に起因する種々の疾患、例えば、高血圧,糖尿病,高脂血症等の生活習慣病、動脈硬化等の心疾患、および、老化や癌等を予防する作用を有する飲食品を製造することができる。
【0033】
本発明のエピガロカテキン化合物を添加する飲料の例は、清涼飲料、茶飲料、液状強壮剤、健康飲料、栄養補給飲料、スポーツドリンク、炭酸飲料等(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む)であり、食品の例は、ガム、キャンディ、ゼリー、錠菓、健康食品、栄養補給食品、サプリメント等である。
リパーゼ阻害および/または抗酸化剤を含む医薬組成物
本発明のエピガロカテキン二量体および/または三量体を用いることにより、中性脂肪の低減等の作用、並びに、活性酸素に起因する種々の疾患、例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病、動脈硬化等の心疾患、および、老化や癌等を予防する作用を有する医薬品を製造することができる。
【0034】
本発明化合物を医薬として用いる場合には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、注射剤、皮膚用液剤、エマルジョン、軟膏等の形態で提供される。
リパーゼ阻害および/または抗酸化剤添加化粧品
本発明のエピガロカテキン二量体および/または三量体を用いることにより、脂質過酸化の防止、老化防止、美白作用等の作用を有する化粧品を製造することができる。
【0035】
本発明化合物が添加される化粧品は、例えば、顔用、皮膚用、頭髪用のクリーム、ローション、ゲル、ムース、シャンプー、リンス等である。
本発明のエピガロカテキン化合物は、抽出精製品や合成製品を単独で飲食品、医薬組成物または化粧品に用いることもできるが、本発明の化合物の1つ以上を含む混合物の形態で飲食品に添加することもできる。
【0036】
したがって、茶葉等の原料からの抽出物に複数の本願エピガロカテキン化合物が含まれていれば、その抽出混合物は、各成分を分離することなく、本願のリパーゼ阻害剤として用いることができる。
[発明の効果]
ウーロン茶のポリフェノール若しくはエピガロカテキン化合物のうち、リパーゼ阻害活性が高い成分を添加することにより、香味を損なうことなく、嗜好性の高くて、かつ肥満予防、健康増進を目的とした飲料が提供できる。
【0037】
また、本発明化合物および飲食品は、抗酸化活性も有し、脂質の過酸化防止や老化の予
防にも役立つ。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0038】
リパーゼ阻害活性の測定
リパーゼ活性の測定は、基質として蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4−UMO)を使用し、酵素反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施した。
【0039】
測定にあたり、緩衝液は、150mM NaClおよび1.36mM CaClを含む13mM Tris−HCl(pH8.0)を用いた。基質である4−UMO(Sigma-Aldrich co.社製)は、0.1MのDMSO溶液として調製したものを
さらに上記緩衝液で1000倍希釈して用いた。また、リパーゼについては、ブタ膵リパーゼ(Sigma社製)を上記緩衝液を用いて400U/ml溶液とし、酵素測定に供した。
【0040】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50・撃フ4−UMO緩衝液溶液、25・撃フ蒸留水(あるいは試料水溶液)を添加し混合した後に、25・撃フリパーゼ緩衝液を添加することにより開始させた。30分間反応を行った後に、100・撃フ0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長355nm、蛍光波長460nm)を蛍光プレートリーダー(Labsystems社製 Fluoroskan Asent CF)を用い測定した。
【0041】
被験試料の阻害活性は、対照(蒸留水)の活性に対して50%阻害を与える試料量IC50(・l)として求めた。
【実施例2】
【0042】
測定サンプル
ウーロンホモビスフラバンA(1)、ウーロンホモビスフラバンB(2)は論文 Chem.Pharm.Bull 37(12), 3255-3563(1989) に準じて合成した。モノデスガロイルウーロンホ
モビスフラバンA(5)およびジデスガロイルウーロンホモビスフラバンB(6)は、Chem.Pharm.Bull 37(12), 3255-3563(1989) の方法により茶葉から抽出、精製した。あるいは、ウーロンホモビスフラバンA(1)、ウーロンホモビスフラバンB(2)からタンナーゼにより加水分解して得ることもできる。新規化合物であるウーロンホモビスフラバンC(3)および三量体(4)は実施例3および4の方法で合成して精製した後、機器分析により図1の構造であることを確認した。(−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG、化合物7)は、和光純薬工業株式会社より購入した。
【実施例3】
【0043】
ウーロンホモビスフラバン(OHBF)類の合成および精製
ア.合成:
100mgの(−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート(和光純薬工業株式会社)を、0.01N HClと18.5%ホルムアルデヒドを含む2mlのメタノ−ルに溶解し、室温で1時間撹拌した。反応終了後、高速液体クロマトグラフィーで精製した。
イ.分取HPLCの条件:
カラム:Develosil C30−UG−5(2cmφ×25cm、野村化学株式会社、愛知)
移動相:A:0.1%TFA/HO、B:90%CHCN、0.1%TFA/HO、6ml/min
グラジエントプログラム:B10%→40%(0〜40min)、B40%iso(40〜60min)
検出:A280nm
上記の条件下で分取HPLCを行い、OHBF−A、OHBF−B、OHBF−Cおよび3量体を各々24.2mg、17.2mg、5.6mgおよび13.8mgずつ得た。各化合物のMSを micromass Q-TOF により測定すると、ポジティブモードで、OHBF
−A、OHBF−B、OHBF−Cおよび三量体は、それぞれ、m/z929、929、929、139の[M+H]のイオンピークが認められた。OHBF−A、OHBF−Bは、Chem.Pharm.Bull 37(12), 3255-3563(1989) のスペクトルデータと一致したため、図1の式1および2の構造であることを確認できた。OHBF−Cおよび3量体は、H−NMR、13C−NMR、H{13C}−HSQC、H{13C}−HMBC、TOCSY、DQF−COSYのNMR測定をDMX−750スペクトルメーター (BRUKER
BIOSPIN) で行い、図1の式3および4の構造であることが明らかになった。OHBF−
CのH−NMRおよび13C−NMRスペクトルを図2および図3に示し、三量体のH−NMRおよび13C−NMRスペクトルを図4および図5に示した。
【実施例4】
【0044】
ウーロンホモビスフラバン類およびその3量体のリパーゼ阻害活性
OHBF類の2量体、3量体の6化合物およびエピガロカテキンガレート(EGCG)のリパーゼ阻害活性を実施例1に従って測定し、その結果を表1に示した。なお、図1に
は評価に供した化合物の化学構造式を記載した。
【0045】
クロマン環の3位にガロイル基がエステル結合をしているフラバン−3−オールの2量体、例えば、ウーロンホモビスフラバンA、B、Cおよび3量体は、EGCGと比較して強力なリパーゼ阻害活性を示したので、EGCGが重合した2量体および3量体は、リパーゼ阻害剤として有用であることが示唆された。
【0046】
このうち、特にリパーゼ阻害活性の強いウーロンホモビスフラバンA、Bはウーロン茶中に存在することが確認されている。
表1.各種ポリフェノールのリパーゼ阻害活性
【0047】
【表1】

【実施例5】
【0048】
活性酸素消去活性
活性酸素の一種であるスーパーオキシドアニオンラジカルに対する消去活性を評価した。
方法:
(1)2mMヒポキサンチン溶液(pH7.4の0.1Mリン酸緩衝液に溶解)、(2)5.5mMジエチレントリアミン五酢酸溶液(pH7.4の0.1Mリン酸緩衝液に溶解
)を調製後、(1)の溶液5.0ml、(2)の溶液3.5ml、およびラボテック社製の5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド(DMPO)1.5mlを混合し、試薬1とした。50μlの試薬1を1.5mlのマイクロチューブに取り、37℃で4分間インキュベートした。これに、サンプルのメタノール溶液20μlを添加し、さらに0.4unit/mlキサンチンオキシダーゼ50μlを加えて10秒間攪拌した。反応液をヘマトクリット管に注入後、ESR装置にセットし、キサンチンオキシダーゼを添加して60秒後に磁場掃引を開始した。ESR測定条件は次のとおりとした。Power:4mW、C.Field:335.5mT、SwWid(±):5mT、SwTime:1min、ModWid:0.1mT、Amp:160、TimeC:0.1sec、Temperature:20℃。
【0049】
DMPO−OOHのESRシグナルのうち最も低磁場側のシグナルの高さの、内部標準Mn2+シグナルの高さに対する比(S/M)をO量とし、次式で表すように消去活性を算出した。
消去活性(%)=100−{100×(サンプル存在下のS/M)/(サンプル非存在下
のS/M)}
結果:
ウーロンホモビスフラバンA、B、C(二量体)及び三量体のスーパーオキシドアニオンラジカル(O)に対する消去作用について、Oを50%消去する濃度(IC50)をμMで算出した。比較対照として、エピガロカテキンガレート(EGCG)を用いた。EGCGと比較してウーロンホモビスフラバン類(二量体、三量体)はO消去活性が強いことが判明した。
表2.スーパーオキシドラジカルの消去活性
【0050】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、リパーゼ阻害活性および抗酸化活性評価サンプルの化学構造式を示す。
【図2】図2は、ウーロンホモビスフラバンC(3)のH−NMRスペクトルである。
【図3】図3は、ウーロンホモビスフラバンC(3)の13C−NMRスペクトルである。
【図4】図4は、三量体(4)のH−NMRスペクトルである。
【図5】図5は、三量体(4)の13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

のエピガロカテキンガレート三量体。
【請求項2】
請求項1に記載の新規三量体を添加した飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載の新規三量体を含む化粧品。
【請求項4】
請求項1に記載の新規三量体を含む医薬組成物。
【請求項5】
酸の存在下でフラバン−3−オール類とホルムアルデヒドとを反応させることを特徴とする、請求項1記載のエピガロカテキンガレート三量体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280716(P2010−280716A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198033(P2010−198033)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【分割の表示】特願2004−158463(P2004−158463)の分割
【原出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】