説明

リンペプチドおよびその使用

本出願は、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを提供する方法、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを提供する方法に関し、具体的には、強化されたリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有する熱力学的に安定なナノクラスターと、それに使用するためのリンペプチドと、前記ナノクラスターの使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
基本的な物理化学的課題の一つは、いかにして鉱化組織周辺の過飽和の状態を維持しながら、軟部組織および循環液における鉱化を抑制または予防するかということである。カゼインは、牛乳において、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、およびβ−カゼインの配列中のリン酸化残基のクラスターにより、リン酸カルシウムを金属イオン封鎖する機能を有するものと理解されている。カゼインミセル構造の現在のモデルによると、カゼインは、最頻半径が約100nmのほぼ球形の粒子の分布として存在する。このミセルのタンパク質マトリックス中に埋め込まれているのは、さらに多くの電子密度の高いリン酸カルシウム粒子であり、これらは半径が数nmであり、リン酸化カゼイン残基を介してタンパク質マトリックスと結合している。一部のカゼインホスホペプチドは、非晶質リン酸カルシウムの沈殿物を金属イオン封鎖して、リン酸カルシウムナノクラスター(CPN)として知られる熱力学的に安定なナノ粒子を形成することが示されている。
【0003】
具体的には、25残基のN−末端β−カゼイントリプシンリンペプチド(β−カゼイン1−25)は、1.6nm厚のリンペプチド50個のシェルに囲まれた、半径2.4nmを有する非晶質で酸性の水和したリン酸カルシウムのコアを含む、リン酸カルシウムナノクラスターを形成することが確認されている。その他の分泌型リンタンパク質の作用、およびリン酸カルシウムの化学的性質については多大な研究がなされているが、本発明者らは、非カゼイン分泌型リンタンパク質によって形成される平衡ナノクラスターについて公開されている他のいかなる報告も認識していない。タンパク質DMP1(象牙質マトリックスリンタンパク質1)との鉱物複合体が、He等により混同してナノクラスターと称されているが、これらは非平衡粒子である(He,G.,Gajjeraman,S.,Schultz,D.,Cookson,D.,Qin,C.L.,Butler,W.T.,Hao,J.J.& George,A.(2005).Spatially and temporally controlled biomineralization is facilitated by interaction between self−assembled dentin matrix protein 1 and calcium phosphate nuclei in solution.Biochemistry 44,16140−16148)。米国特許第5,227,154号は、歯石を制御するためのカゼインホスホペプチドの使用を示しているが、この中で、この特定のカゼインホスホペプチドは、5〜40個のアミノ酸を含有し、これはカゼイン消化物から抽出することができる。米国特許第5,015,628号は、虫歯および歯肉炎に関するリンペプチドの使用を示しているが、このリンペプチドは、配列A−B−C−D−E(A、B、C、D、およびEは、独立して、ホスホセリン、ホスホスレオニン、ホスホチロシン、ホスホヒスチジン、グルタミン酸塩、およびアスパラギン酸塩である)を含む、5〜30個のアミノ酸を有する。また費用面を考慮して、カゼインからリンペプチドを抽出したほうがより経済的であることが示されている。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、ナノクラスターを形成することができるリンタンパク質またはリンペプチドの特徴を決定し、該ナノクラスターは、従来既知のナノクラスターのものに対して変更されたコア−シェル構造を有するナノクラスターの設計を可能にする。具体的には、本発明者らは、金属イオン封鎖リンペプチドの性質によって、リン酸カルシウムナノクラスターのコアのサイズを変更できることを確認した。有利には、これによってコアサイズを大きくしたナノクラスターの製造が可能になるが、これはより大量の非晶質リン酸カルシウムを金属イオン封鎖することができる。
【0005】
本発明の第1の態様によると、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを提供する方法が提供され、この方法は、
ナノクラスター形成溶液を製造するステップであって、ナノクラスター形成溶液をカルシウムイオンと、リン酸イオンと、リンペプチドまたはリンタンパク質とを混合することによって製造するステップを含み、
このとき前記リンペプチドまたはリンタンパク質は、
a)組換えによって発現されたリンペプチドであって、
i)リン酸塩中心であって、リン酸化残基および酸性残基のうちの少なくとも1つ、またはこれらの残基の組み合わせがリン酸塩中心内で増加され、それによりリン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されて、それにより修飾された組換えによって発現されたリンペプチドが、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態と比較して、増加した数の別個のリン酸塩中心を含むか、または
iii)修飾されて、それにより修飾された組換えリンペプチドが、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有する、
組換えによって発現されたリンペプチド、あるいは
b)カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、またはその変異体もしくは断片(このときリンペプチドまたはリンタンパク質は、単一の全カゼイン、またはカゼインの混合物、または単一のカゼインもしくはカゼインの混合物の酵素消化物を含まない)、あるいは
c)a)とb)との組み合わせ、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0006】
実施形態において、ペプチドの金属イオン封鎖能に、例えばリン酸塩中心内のアミノ酸の修飾による、残基の数および/または種類、および/またはリン酸塩中心内の残基の間隔および/またはリン酸化によって影響を与えることができる(組換えカゼインホスホペプチドに関して、後述の結果を参照。その中で、組換えCK2−SおよびCK2−SSペプチドのリン酸塩中心において、多数のAsp残基をより少ない数のGlu残基の代わりに含めることは、これらのペプチドを用いて製造されたナノクラスターのサイズを、それ以外は非常に類似しているβ−カゼイン1−25リンペプチドから形成されたナノクラスターと比較して大きくする原因となる可能性が高いと考えられている)。実施形態において、リン酸塩中心周辺に与えられるフランキング配列は、シェル中のペプチドまたはタンパク質の充填密度を制限することによって、リン酸塩中心の占有面積に影響を与えうる。これに関連して、球状タンパク質は、小さい占有面積を達成しうる短ペプチドまたは折り畳まれていないタンパク質と比較して、不利な立場にあることが予測できる。それにもかかわらず、球状ドメインは、延長された柔軟なリンカー配列を有して、リン酸塩中心と連結している場合には、天然の折り畳まれていないタンパク質または短ペプチドとちょうど同程度に有効であることを予想することができる。
【0007】
全カゼイン、β−およびκ−カゼインの混合物、β−カゼイン5P、カゼインであるαs1−カゼイン2P(f46−51)、αs1−カゼイン4P(f61−70)、β−カゼイン4P(f11−21)、αs2−カゼイン3P(f5−12)、αs2−カゼイン4P(f49−61)、およびαs2−カゼイン2P(f126−133)、β−カゼインホスホペプチド、4P(f1−25)または4P(f2−25)または5P(f1−42)、臭化シアン切断断片であるαs1−カゼイン2P(f1−54)またはαs1−カゼイン6P(f61−123)、トリプシンリンペプチドであるαs1−カゼイン1P(f104−119)またはαs1−カゼイン2P(f43−58)またはαs1−カゼイン5P(f59−79)またはαs1−カゼイン7P(f43−79)を含有する、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のプロテアーゼXIVおよびパパインIV型による全カゼインの消化物を含む、カゼインまたはカゼインホスホペプチドから形成されるナノクラスターまたはナノクラスターを含有する構造体が作製できることはすでに立証されている。これらのナノクラスターを形成するのに使用されるのと同じ技法を、代替のリンタンパク質もしくはリンペプチド分子を用いる本発明において利用することができる。ナノクラスター形成溶液をもたらし、かつリン酸カルシウムナノクラスターの形成に適当なpHを有するカルシウムイオン、リン酸イオン、およびリンタンパク質もしくはリンペプチド分子の適当な濃度の例は、本明細書および米国特許第7060472号、Holt C,Wahlgren NM, & Drakenberg T.(1996) Ability of a beta−casein phosphopeptide to modulate the precipitation of calcium phosphate by forming amorphous dicalcium phosphate nanoclusters.Biochem J.,314,1035−1039;Holt C,Timmins PA,Errington N,& Leaver J.(1998)A core−shell model of calcium phosphate nanoclusters stabilized by beta−casein phosphopeptides,derived from sedimentation equilibrium and small−angle X−ray and neutron−scattering measurements.Eur.J.Biochem,252,73−78;Holt C,The milk salts and their interaction with Casein Advanced Dairy Chemistry,Vol 3:Lactose,Water,Salts and Vitamins(P.F.Fox,Ed.)Chapman and Hall,London pp 233−254(1997).Little,E.M.and Holt,C.(2004)An equilibrium thermodynamic model of the sequestration of calcium phosphate by casein phosphopeptides.European Biophysics Journal 33,435−447,Holt,C.(2004)An equilibrium thermodynamic model of the sequestration of calcium phosphate by casein micelles and its application to the calculation of the partition of salts in milk.European Biophysics Journal 33,421−434に記載されている。
【0008】
いくつかの実施形態において、リン酸カルシウムナノクラスターは、複合塩混合物、例えば、37mMのCa(NO)、6mMのMg(NO、36mMのKNO、25mMのKHPO、5mMのKHPO、26mMのKNO、1.5mMのNaN(防腐剤として)または30mMのCa(NO、4mMのMg(NO、10mMのクエン酸三カリウム、20mMのKHPO、26mMのKNO、1.5mMのNaN(防腐剤として)から作製されており、これはリンペプチドも含む。典型的には、この溶液は、初期にはpH5.5であり、このpHを上昇させてリン酸カルシウムナノクラスターを形成する。適切には、本明細書に記載するように、2つの方法を用いることができる。これらは、i)ウレアーゼによる溶液中の尿素の触媒加水分解によって、アンモニアを溶液中に均一に生成させてpHを穏やかに上昇させる方法、またはii)強塩基および/または塩基性リン酸塩と、カルシウム、リン酸塩、およびリンペプチドの酸性溶液との単純混合による方法である。
【0009】
いくつかの実施形態において、ナノクラスター形成溶液は、3.1以下の[Ca]/[PP]を有し;[Pi,t]=(0.875±0.125),[PP]−1.67±0.25であり、このとき[PP]は、リンペプチドの濃度(グラム/リットル)であり、[Pi,t]は、無機リン酸塩の合計ミリモル濃度であり、[Ca]は、カルシウムの合計ミリモル濃度である。
【0010】
いくつかの実施形態において、ナノクラスターは、[Ca(HPO2−0.4−1.0(PO3−)(H)]5.15・[Ca2−5−SerP−ペプチド]の範囲の実験式を有し、式中、yは3以上であり、両大括弧内のイオンの電荷の和はおよそゼロであり、Ca2−5SerP−ペプチドは、リン酸化リンペプチド分子のカルシウム塩である。
【0011】
実施形態において、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターは、リン酸カルシウムナノクラスター形成溶液から形成することができる。このときリン酸カルシウムナノクラスター形成溶液は、濃度比[Ca]/[P]≦3.1(式中、Caはカルシウムであり、Pは有機リンである)で、カルシウムイオンと、リン酸イオンと、リンペプチドもしくはリンタンパク質分子とを単純混合することによって製造する。このときリン酸カルシウムナノクラスター形成溶液のpHを、リン酸カルシウムナノクラスター形成溶液の成分の単純混合によって初期pHから最終pHに調整し、このとき前記成分の単純混合は、リン酸カルシウムナノクラスター形成溶液中にウレアーゼが含まれることを必要としない。
【0012】
変異体カルシウム結合リンタンパク質という用語は、カルシウム結合リンタンパク質またはリンペプチド、例えば分泌/分泌型カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、または分泌/分泌型カルシウム結合リンタンパク質のパラロガス群の要素との70%を上回る、80%を上回る、90%を上回る、95%を上回る、または99%を上回る配列相同性を有するカルシウム結合リンペプチドを意味する。
【0013】
下記に挙げるリンペプチド1〜5は、本発明の修飾された組換えリンペプチドとはみなされない。
1).Glu−Met−Glu−Ala−Glu−Pse−Ile−Pse−Pse−Pse−Glu−Glu−Ile−Val−Pro−Asn−Pse−Val−Glu−Gln−Lys(配列番号5)、
2).Glu−Leu−Glu−Glu−Leu−Asn−Val−Pro−Gly−Glu−Ile−Val−Glu−Pse−Leu−Pse−Pse−Pse−Glu−Glu−Ser−Ile−Thr−Arg(配列番号6)、
3).Asn−Thr−Met−Glu−His−Val−Pse−Pse−Pse−Glu−Glu−Ser−Ile−Ile−Pse−Gln−Glu−Thr−Tyr−Lys(配列番号7)、
4).Asn−Ala−Asn−Glu−Glu−Glu−Tyr−Ser−Ile−Gly−Pse−Pse−Pse−Glu−Glu−Pse−Ala−Glu−Val−Ala−Thr−Glu−Glu−Val−Lys(配列番号8)、および
5).Glu−Gln−Leu−Pse−Pth−Pse−Glu−Glu−Asn−Ser−Lys(配列番号9)、
(Pseはホスホセリンであり、Serはセリンであり、Pthはホスホスレオニンであり、Thrはトレオニンであり、Gluはグルタミン酸塩であり、Aspはアスパラギン酸塩であり、Alaはアラニンであり、Asnはアスパラギンであり、Glnはグルタミンであり、Glyはグリシンであり、Argはアルギニンであり、Hisはヒスチジンであり、Ileはイソロイシンであり、Leuはロイシンであり、Lysはリジンであり、Metはメチオニンであり、Proはプロリンであり、Tyrはチロシンであり、Valはバリンである)。
【0014】
好ましくは、ナノクラスター形成溶液は、リンタンパク質またはリンペプチドではない他のカルシウムキレート剤を著しい量(0.1mMを上回る)で含有しない。好ましくは、クエン酸塩などのカルシウムキレート剤が含まれる場合、ナノクラスター形成溶液中に増量したカルシウムを見込んでおかなければならない。
【0015】
小角X線もしくは中性子散乱によって測定されるナノクラスターのサイズは、水和した非晶質リン酸カルシウムコアの半径、ペプチドシェルの厚さおよび構造、ならびにコアとシェルとの相対散乱長密度によって異なる。所定のペプチドでは、コアのサイズは、ペプチドの金属イオン封鎖能によって異なる。熱力学的には、平衡サイズは、ペプチドによる金属イオン封鎖の負の自由エネルギーの、リン酸カルシウムコアの形成の正の自由エネルギーに対するバランスによってもたらされる。前者はコア表面積に比例し、一方後者はコア体積に伴って増加する。
【0016】
実施形態において、本発明のナノクラスターは、コア半径が、3nm以上、4nm以上、5nm以上、8nm以上、10nm以上、15nm以上、または20nm以上であってよい。
【0017】
実施形態において、本発明のナノクラスターは、ナノクラスター中のリン酸塩中心1個当たりのコア表面積が、0.25nm未満、0.3nm未満、0.4nm未満、0.5nm未満、0.6nm未満、または1nm未満であってよい。
【0018】
有利には、本発明の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターは、i)生体材料の正常な非毒性成分から作成されているため、生体適合性であってもよく、および/またはii)例えば血液内または動物の体内、例えばヒトの循環において通常存在するペプチドを使用することによって、免疫学的にサイレントであってよい。
【0019】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様の方法において使用するリンペプチドでが提供されるが、このリンペプチドは、
−カルシウム結合リンペプチドもしくはリンタンパク質、またはそれらの変異体もしくは断片を含み、このときリンペプチドもしくはリンタンパク質は、いかなるカゼイン、またはいかなるカゼインの酵素消化物も含まない。
【0020】
本発明の第3の態様によると、組換えによって発現されたリンペプチドが提供され、このとき前記組換えリンペプチドは、
i)リン酸塩中心であって、リン酸化残基および酸性残基のうちの少なくとも1つ、またはこれらの残基の組み合わせがリン酸塩中心内で増加され、それによりリン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されていない組換えによって発現されたリンペプチドよりも、増加した数の別個のリン酸塩中心を含むように修飾されているか、または
iii)修飾された組換えリンペプチドが、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも、増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されており、これは好ましくは、アミノ酸残基の数および/または種類および/またはリン酸化、またはリン酸塩中心内の特定のアミノ酸残基の間隔の変更によって、あるいは非晶質リン酸カルシウムがより結晶性の高い相、例えばアパタイトに変換するのを促進するアミノ酸配列を除去することによって行なわれる。
【0021】
定義された本発明のリンペプチドを用いてナノクラスターを形成することによって、新規の改善されたナノ構造体の設計の機会がもたらされる。
【0022】
リンペプチド分泌/分泌型カルシウム結合リンタンパク質
ナノクラスターを形成するために使用するリンペプチド/リンタンパク質は、ナノクラスターの用途によって選択することができる。リンペプチドまたはリンタンパク質は、リン酸化の中心を含んでもよく、また典型的には、疎水性部分をほとんどあるいは全く含まなくてもよい。当業者には当然のことながら、ナノクラスターは、複数の異なる種類のリンペプチドまたはリンタンパク質、あるいはこれら両者の組み合わせから形成してもよい。一部の生物医学的応用例では、カゼインの免疫原性により、非カゼインのリンペプチドまたはリンタンパク質を使用することが好ましいであろう。一般に、短いリンペプチド/リンタンパク質が好適であるが、これはリンペプチドの所定のモル濃度をもたらすために、より少ない質量のリンペプチドを必要とするためである。
【0023】
実施形態において、リンペプチドは、ナノクラスターの外側シェルを架橋するのに適した長さを有するリンカーペプチドと連結したリン酸塩中心を含んでもよい。例えば、nペプチドから形成されたコア半径rおよびシェル厚lのナノクラスターについて考えてみると、一端がリン酸塩中心に結合し、他端が半径rの球状タンパク質に結合しているnres残基の単一のリンカーペプチドは、このリンカーペプチドがシェルにわたる場合、ナノクラスターに組み込むことができる。したがって、リンカーペプチドは、シェルを形成するペプチド中の最も長いフランキング配列と少なくとも同等の長さである必要がある。複数のリンカーペプチドがそれぞれのナノクラスターに組み込まれている場合、球状タンパク質結合の立体障害を考慮する必要がある。n全てのシェル分子が球状タンパク質と結合する限りにおいて、シェルの最小厚は、n全ての球状タンパク質を組み込むことができるナノクラスターの表面積によって特定される。

【0024】
lにおけるこの二次方程式の正根は、

によって示される最小シェル厚lminである。したがって、リンカーペプチド中の残基の最少数は、lminを完全に伸長したコンフォメーションのペプチド結合の長さで除することによって得られる。
【0025】
ナノクラスター表面に結合させる有用な球状タンパク質には、ワクチン中に使用するための抗原タンパク質、および標的細胞への薬物送達のための受容体リガンドが含まれるが、より短い機能配列が含まれてもよく、これには線状エピトープ、負荷電分子、例えばsiRNAの結合のためのオリゴ−Argもしくはオリゴ−Lys配列、および正荷電分子または表面、例えばシュウ酸カルシウムとの結合のためのオリゴ−Gluもしくはオリゴ−Asp配列がある。
【0026】
実施形態において、カルシウム結合リンペプチドは、分泌または分泌型カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、例えば分泌カルシウム結合リンタンパク質のパラロガス群の要素、またはそのようなタンパク質/ペプチドの変異体または断片であってよい。一般論として、パラロガス群の要素を作成する遺伝子重複は、機能の相違を可能にする。さらに、新規の機能に向かう適応的突然変異は、本来の機能と競争し、それにより後者が失われる。これを考慮すると、カルシウム感受性カゼインが平衡ナノクラスターを形成しうるというこれまでの研究結果を踏まえて、分泌カルシウム結合リンタンパク質の群の別の要素が、リン酸カルシウムを金属イオン封鎖する能力を共有し、平衡錯体を形成しうるということは、当業者には決して明らかではなかった。
【0027】
本発明の実施形態において、本発明のリンペプチドは、
−フェチュインA(FETUA)(Swiss−Prot受入番号P02765)(配列番号10)、
−プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(PRB4)(Swiss−Prot受入番号P10163)(配列番号11)、
−マトリックスGlaタンパク質(MGP)(Swiss−Prot受入番号P08493)(配列番号12)、
−分泌型リンタンパク質24(SPP−24)(Swiss−Prot受入番号Q13103)(配列番号13)、
−リボフラビン結合タンパク質(Swiss−Prot受入番号P02752)(配列番号14)、
−オステオポンチン(OPN)(Swiss−Prot受入番号P10451)(配列番号15)、
−インテグリン結合シアロリンタンパク質II(IBSP−II)(Swiss−Prot受入番号P21815)(配列番号16)、
−マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(MEPE)(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)(配列番号17)、
−象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(DMP1)(Swiss−Prot受入番号Q13316)(配列番号18)、
からなる群から選択される要素、あるいはこれらの変異体または断片であってよく、またこれらの配列に与えられた慣用名が用語上異なるものも考慮に入れる。
【0028】
適切には、リンペプチドの実施形態において、リン酸塩中心における全てのリン酸塩部位はリン酸化されていてもよく、またペプチド中の他のどのリン酸塩部位もリン酸化されていないため、金属イオン封鎖は非晶質リン酸カルシウム(ACP)の熟成よりも好ましい。実施形態において、本発明のリンペプチドは、少なくとも3つのリン酸化残基を含む少なくとも1つのリン酸塩中心を有する、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(DMP1)、フェチュインA(FETUA)、マトリックスGlaタンパク質(MGP)、分泌型リンタンパク質24(SPP−24)、オステオポンチン(OPN)、またはインテグリン結合シアロリンタンパク質(IBSPII)のアイソフォームを含んでもよい。DMP1、フェチュインA、MGP、SPP−24、OPN、およびIBSPIIの完全なタンパク質のアミノ酸配列は、非晶質リン酸カルシウム(ACP)のより結晶性の高い相、例えばアパタイトへの変換を促進する可能性が高いと考えられるため、このようなリンペプチドの好適な実施形態においては、DMP1、フェチュインA、MGP、SSP−24、OPN、およびIBSPIIのリンペプチド配列は、フェチュインAおよびSPP−24に見られるようなシスタチンドメインD1、MGPに見られるような4個以上のGla残基のクラスター、IBSPIIに見られるような5個または典型的には8個以上の連続するGlu残基のオリゴGlu配列、あるいはDMP−1のC−末端側半分(ラットにおけるS−180以降)、またはOPNのC−末端部分(雌ウシにおける残基K−149以降)に見られるような10個以上のリン酸化の部位を含有する長いリン酸化配列を含有しない。好適なリンペプチド配列は、当該技術分野で周知の方法を用いた、親タンパク質の選択的なタンパク質分解切断によって形成することができる。例えば、プラスミンによる、雌ウシ由来のOPNの149−K−K−150における切断、Asp−特異的プロテアーゼによる、ラット由来のDMP1の180−S−D−181における切断は、C−末端配列のACPのHA転換傾向を有さない、リン酸塩中心を含有する機能性N−末端ペプチドをもたらす。あるいは、分泌型カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチドの部分配列は、例えば組換え法によって作製することができる。実施形態において、リンペプチドは、非晶質リン酸カルシウム(ACP)のより結晶性の高い相、例えばアパタイトへの変換を促進する可能性が高い配列を含まないように修飾された、オステオポンチン、あるいはその変異体または断片であってもよい。好ましくは、オステオポンチンのアミノ酸配列、あるいはその変異体または断片は、リン酸塩中心内に実質的に全てのリン酸化の部位を有する。実施形態において、本発明のオステオポンチン断片は、配列番号1(オステオポンチン(OPN)1−149)を含んでもよい。本明細書において使用する用語OPN1−149は、プラスミン触媒加水分解によって生成されるN−末端リンペプチド群を表現するために使用される。これらには、配列OPN1−147、1−149、および1−150が含まれる。実施形態において、本発明のオステオポンチン断片は、配列番号1(OPN1−149)からなってもよい。適切には、本発明の第1の態様において使用するリンペプチドは、OPN1−149(配列番号1)であってよい。
【0029】
本発明者らは、分泌型リンタンパク質、または分泌型リンタンパク質に由来するペプチドによるリン酸カルシウムナノクラスターの形成は、体内で、乳汁および血液、およびその他の何らかの生体液の安定性、ならびに軟部組織中の細胞外液の安定性を維持するのに、ある程度有効であろうと考えている。同様に、このナノクラスターは、鉱化性組織の細胞外マトリックスにおけるリン酸カルシウムの相分離の準安定度および速度を制御すること、または軟部組織における異所性鉱化を逆転させることに関与している可能性がある。生きた真核細胞または組織から、規定のリン酸化状態で内因性細胞内タンパク質を抽出するには、キナーゼ活性およびホスファターゼ活性を厳しく抑制する必要がある。これは困難で、かつ時間がかかるであろう。代替の手法は、組換え法を用いて、規定のリン酸化状態のタンパク質基質またはポリペプチド基質を発現するものである。これは、リンペプチドの修飾またはde novo合成も可能にする。
【0030】
リンペプチド−組換えリンペプチド
改善されたリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するナノクラスターは、組換えリンペプチドを含んでもよく、このとき前記組換えリンペプチドは、リン酸塩中心内の増加した数のリン酸化残基、リン酸カルシウム金属イオン封鎖能が増大したリン酸塩中心、または増加した数の別個のリン酸塩中心のうちの少なくとも1つを提供するように修飾されている。組換えリンペプチドは、要望により、リン酸塩中心とは異なる配列でさらに修飾して、例えばリンペプチドの長さを減少させてもよい。組換えリン酸塩中心を含むリンペプチドは、化学的にde novo合成しても、あるいは既知のリンペプチド、例えば分泌型カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチドまたはカゼインペプチドに基づき、その中に突然変異を導入してもよい。このような突然変異は、既知のリン酸塩中心におけるリン酸化残基の数を増加させることができ、および/またはリン酸塩中心の数を増加させる、および/またはリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を増大させることができる。実施形態において、組換えリンペプチドは、ウシβカゼインに基づいていてもよい。実施形態において、組換えリンペプチドは、酵素消化部位、例えばトリプシン切断部位を含んでもよい。本発明の実施形態において、リンペプチドは、非カゼイン分泌型リンタンパク質である、組換え分泌カルシウム結合リンタンパク質であってもよい。実施形態において、カゼインのリン酸塩中心においてグルタミン酸残基がアスパラギン酸残基で置換された、組換えカゼインホスホペプチドが提供される。このような実施形態において、好ましくは、カゼインのリン酸塩中心は、Glu残基に優先してAsp残基を導入するように突然変異されていてもよく、このとき3個のGlu残基の代わりに少なくとも3個のAsp残基が提供され、より好ましくは4個のGlu残基の代わりに少なくとも4個のAsp残基が提供される。
【0031】
いくつかの実施形態において、組換えリンペプチドは、CK2−SSおよびCK2−SおよびCK2−S−6H(下記を参照)のうちの少なくとも1つを含んでもよい。CK2SSコンストラクトは、トリプシン切断部位によって分離されたCK2−S配列のタンデムリピートを含有する。

【0032】
ポリペプチド基質の選択的かつ排他的なリン酸化は、リンペプチドを提供する目的で、単一の組換えキナーゼと組換えポリペプチド基質とを共発現させることによって達成することができる。例えば、組換えコンストラクトにおけるリン酸塩中心のそれぞれは、組換えペプチドとタンパク質キナーゼ−カゼインキナーゼ2の触媒サブユニット(CK2α)との共発現によってリン酸化することができる。組換えリンペプチドCK2−SS、CK2−S、およびCK2−S−6Hに関連して、これにより一連のリン形態を生じるが、それらのうちのほとんどは、そのリン酸塩中心に3個以上のリン酸化残基を含有する。これは、複数の部位における平均リン酸化度、例えば約61〜83%を含む、組換えによって発現されたリンペプチドを生成する方法の本発明のさらなる態様を提供する。この方法は、例えば大腸菌宿主中に2つの適合する共生プラスミドを提供するステップを含み、このプラスミドは高コピー数および低コピー数を有し、タンパク質キナーゼと、より多量なポリペプチド基質をそれぞれ発現する。大腸菌は宿主細胞としての使用に有利であるが、これは大腸菌が熟知されており、使用が容易であり、適応性を有するためである。さらに、大腸菌は、内因性タンパク質キナーゼによる、組換えによって発現されたポリペプチドのバックグラウンドリン酸化を生じない。いくつかの実施形態において、大腸菌の宿主株は、BL21 star[リン酸化候補タンパク質/ポリペプチドをコードするpETプラスミドとpACYC Duet−1−hCK2αとで二重形質転換したDE3]であってよい。
【0033】
当然のことながら、いかなるタンパク質またはペプチドも、適切なリン酸塩中心配列を含有するように操作することができ、またいかなる球状タンパク質も、ナノクラスターのコア表面に結合する能力がある、リン酸塩中心を含有する柔軟なリンカー配列によって、そのC−末端またはN−末端のいずれかにおいて延長することができる。必要であれば、変性剤、ジスルフィド結合還元、およびpH調整のうちの少なくとも1つを用いて、組換えペプチド/タンパク質をアンフォールドしてもよい。慎重に、この修飾された配列を他の既知のリンペプチドから形成された一連の熱力学的に安定なナノ粒子に組み込んでも、または新規のリンペプチドを作成するために使用してもよい。いくつかの実施形態において、本方法で用いるリンペプチドは、片側またはそれぞれの側が柔軟なアミノ酸配列に隣接した、少なくとも1つのリン酸塩中心を含む。実施形態において、リン酸塩中心がN−末端またはC−末端付近に位置するとき、そのリン酸塩中心は、片側が予測される柔軟な配列に隣接していてもよい。柔軟な配列は、適切なコンピュータプログラム、例えばPONDR(登録商標)(http://www.pondr.com)を用いて決定することができる。非晶質リン酸カルシウム(ACP)のより結晶性の高い相、例えばアパタイトへの変換を促進する可能性が高いアミノ酸配列を含有するリンペプチドは、リン酸カルシウムの金属イオン封鎖による平衡ナノクラスターの形成を妨げうる。このことを考慮すると、好適な実施形態において、リンペプチドは、非晶質リン酸カルシウムのより結晶性が高い相、例えばヒドロキシアパタイトへの熟成を促進するサブ配列を含有すべきではない。特定の実施形態において、リンペプチドは、疎水性部分をほとんどまたは全く含有しない。
【0034】
理論に拘束されることを望むものではないが、組換えペプチド(CK2−SS、CK2−S、およびCK2−S−6H)を用いた研究であって、OPNおよび全カゼインから調製されたトリプシンリンペプチドに関して本発明者らが実施した研究に基づくと、リン酸塩中心を含むペプチドまたはタンパク質の長さが、考慮すべき重要事項ではないことは明らかである。さらに、例として挙げた組換えペプチドは、ウシβ−カゼインとの類似性を有するが、オステオポンチンプラスミン(OPN)ペプチドは、リン酸塩中心以外のいかなるカゼイン配列とも著しい配列類似性を有さない。本研究を踏まえ、OPNに基づく適切な組換えリンタンパク質/リンペプチドが提供できるであろうことが予想される。
【0035】
リン酸塩中心
リンペプチドは、リン酸化の中心を含む。これは、例えばおよそ5〜9残基の長さ、より好ましくはおよそ7残基の長さの短い配列中に、3個以上のリン酸化残基を含有するペプチドまたはタンパク質の領域であってよい。実施形態において、リン酸化の中心は、少なくとも3個のリン酸化残基、好ましくは多重リン酸化ペプチド中で互いに近接した少なくとも3個のリン酸化残基、例えば、リンペプチド分子またはリンタンパク質分子の一次構造における一連の6個の連続する残基中の3個のリン酸化残基を有してもよい。本発明者らは、有能なリン酸塩中心(PC)は、カゼインに見られるよりも、例えばpS[I,L]pSpSpSEE(配列番号223)よりもずっと広い範囲の一次構造をリン酸化または部分リン酸化することによって形成することができると判断した(本明細書における第3〜5表は、カゼインのリン酸塩中心の例を示している)。いくつかの実施形態において、本発明者らは、リン酸塩中心は3個以上のリン酸化の潜在部位を含有し、典型的なリン酸塩中心は、4個または5個の実際のリン酸化残基を含有すると判断した。実施形態において、各リン酸塩中心は、リンタンパク質の一次構造に、少なくとも3個のリン酸化残基を含む短い酸性配列を含んでもよい。リン酸塩中心は、連続するリン酸化部位のブロックと、それに続くキナーゼ一次認識部位の[S,T]EE、[S,T]ED、[S,T]DE、または[S,T]DD(大括弧内の残基は選択肢である)を含有してもよい([S,T]DDは、カゼイン中には認められないことに留意)。あるいは、リン酸塩中心は、一次キナーゼ認識3塩基[S,T]XE(マトリックスGlaタンパク質(MGP))または[S,T]DE(オステオポンチン(OPN))の3回以上の反復を含む小パターンを含んでもよい。
【0036】
PONDR(登録商標)の予測によると、同定された分泌型リンタンパク質のサブセット中の特定のリン酸塩中心配列の位置は、常に、分泌型カルシウム結合リンタンパク質中の予測される柔軟な配列内にある。これらのリンタンパク質は、低複雑度の2つのフランキング配列を有してもよく、あるいはリン酸塩中心がリンペプチドのN−末端またはC−末端の付近に位置する場合、1つのそのようなフランキング配列を有してもよい。
【0037】
有能なリン酸塩中心におけるリン酸化の部位の最大数は、ラットαs1−カゼインにおいて9個であり、これらのリン酸化部位のうち8個は連続していて、2つのαs2−カゼイン配列中にある。このことから、また本明細書において検討するパターン認識方法を踏まえて、リン酸塩中心配列は、好ましくは、3〜9個のリン酸化の部位を有してもよく、そのうちの少なくとも3個は実際にリン酸化された残基である。分泌型リンタンパク質のリン酸化に関与するキナーゼは、とりわけ、ゴルジ体キナーゼ、ならびにカゼインキナーゼ2型特異性を有する、核内および細胞外キナーゼを含む。キナーゼ認識配列は厳格に規定されていないが、ゴルジ体キナーゼおよびカゼインキナーゼ2の部位は、モチーフ[S,T]X(m,n)[E,D,pS,pT](Xは、任意の残基であり、X(m,n)は、mからnまでの長さの可変配列を示す)に適合する。典型的には、ゴルジ体キナーゼの場合にはm=n=1であり、カゼインキナーゼ2の場合にはm=n=2である。特定の実施形態において、このようなモチーフがリン酸塩中心をもたらしてもよい。リン酸化の部位のクラスター化およびリン酸化度の可変性は、分泌型リンタンパク質では一般的であり、これは生理学的に重要となりうる。
【0038】
同定されたリン酸塩中心の多くは、少なくとも2つの連続するリン酸化の部位を含有する。例には、以下のものがある。
i)真獣類β−カゼインにおけるリン酸塩中心モチーフであり、これはウマ配列を例外として、pS[L,V]pS(2,3)EEである(配列番号213および214)。
ii)真獣類αs1−カゼインのPC−3は、pS[I,G,−]pS(3,7)EEである(配列番号215)。
iii)αs2−カゼインのPC−2は、ラクダ配列、ウサギB配列、およびマウスB配列を例外として、pS(3,5)EEpS(0,2)である(配列番号216)。
iv)OPNのPC−1は、ラット配列を例外として、pS(1,2)[G,A]pSpSEEである(配列番号217)。
v)OPNのPC−2は、ウサギ配列およびマウス配列を例外として、pSpSEEpTDDである(配列番号218)。
vi)IBSP−IIの保存されたリン酸塩中心モチーフの一部は、ニワトリ配列を例外として、pSpSE(3,8)である。
vii)マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(MEPE)のリン酸塩中心は、pSpSEpSpS[D,pS]pSGpSpSpSEpS(1,2)である(配列番号219)。
【0039】
全ての既知のSPP−24リン酸塩中心は、最小モチーフpSpSEE(配列番号220)を含む。唯一の既知のプロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(PRB4)配列は、pSpSpSED(配列番号221)を有するが、ニワトリリボフラビン結合タンパク質(RBP)のリン酸塩中心は、保存されていない。
【0040】
また、ゴルジ体キナーゼ認識配列[S,T]X[E,D,pS,pT]のタンデムリピートによって、連続するリン酸化の部位を有さないリン酸塩中心を形成することもできる。この例は、オステオポンチンのリン酸塩中心3(OPNのPC−3)、フェチュインA、およびマトリックスGlaタンパク質に見られる。この種のリン酸塩中心のコンセンサスモチーフは、(pSXE)(配列番号222)である。タンパク質が1つ以上のよく保存されたリン酸塩中心を含む場合、その他のリン酸塩中心は、より可変性を示すと考えられるか、あるいは全く存在しない可能性もある。例には、αs1−カゼインにおけるPC−1およびより程度は低いがPC−2、αs2−カゼインにおけるPC−3、ならびにDMPにおけるPC−1以外の全てのPCがある。典型的には、ナノクラスター形成リンタンパク質は、1つ以上のリン酸塩中心と、それらのリン酸塩中心の間に位置する実質的に柔軟なリンカー部とを含む。実施形態において、リン酸カルシウム金属イオン封鎖ペプチドのリン酸塩中心のフランキング配列は、残基多様性が低く、疎水性残基をほとんど有さず、システイン残基を有さない。実施形態において、溶液中の実質的に柔軟なリンカーは、リンタンパク質をアンフォールドすることによってもたらすことができる。アンフォールドは当業者に既知の手段で行なうことができ、これには変性剤の使用、ジスルフィド結合還元、またはpH調整が含まれる。等電点pHから、例えば、典型的には極めて酸性またはアルカリ性のpHへのpHの調整は、しばしば球状タンパク質を完全に変性させ、ジスルフィド架橋の還元またはアルキル化と組み合わせると、ほとんどの場合、タンパク質を完全にアンフォールドするのに十分である。同様に、ジスルフィド結合の還元またはアルキル化と組み合わせた、6−M尿素またはグアニジニウム塩酸塩の添加は、タンパク質の大部分をアンフォールドするのに十分であろう。グアニジニウム塩酸塩の使用は尿素よりも好適であるが、これは前者の変性剤の存在下では、尿素/ウレアーゼ反応によるpHの微調整が依然として可能であるためである。アンフォールドした後、タンパク質のコンフォメーションは大幅に柔軟になる。
【0041】
本発明の第4の態様によると、本発明の第2または第3の態様のリンペプチドを含む、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターが提供される。
【0042】
本発明のさらなる態様によると、リンタンパク質またはリンペプチドを含む熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターが提供されるが、このリンタンパク質またはリンペプチドは、
a)組換えによって発現されたリンペプチドであって、
i)リン酸塩中心であって、リン酸化残基および酸性残基のうちの少なくとも1つ、またはこれらの残基の組み合わせが、リン酸塩中心内で増加され、それによりリン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されて、それにより修飾された組換えによって発現されたリンペプチドが、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態と比較して、増加した数の別個のリン酸塩中心を含むか、または
iii)修飾されて、それにより修飾された組換えリンペプチドが、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有する、
組換えによって発現されたリンペプチド、あるいは
b)カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、またはそれらの変異体もしくは断片(このときリンペプチドまたはリンタンパク質は、単一のカゼイン、またはカゼインの混合物、または単一のカゼインもしくはカゼインの混合物の酵素消化物を含まない)、あるいは
c)a)とb)との組み合わせ、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、修飾された組換えリンペプチドは、アミノ酸残基の数および/または種類および/またはリン酸化、またはリン酸塩中心内の特定のアミノ酸残基の間隔の変更によって、リン酸塩中心に隣接するアミノ酸残基またはそのアミノ酸残基の数を変更することによって、あるいは非晶質リン酸カルシウムがより結晶性の高い相、例えばアパタイトに変換するのを促進するアミノ酸配列を除去することによって、組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有してもよい。
【0044】
実施形態において、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターは、本発明の第1の態様の方法によって提供することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、ナノクラスターは、配列番号1(OPN1−149)を含むリンペプチドを含んでもよい。理論に拘束されることを望むものではないが、OPN含有ナノクラスターの構造のモデリングに基づいて、本発明者らは、ナノクラスター上のOPN1−149ペプチド鎖の数が、2500〜2700の範囲であり、具体的には約2618本のペプチド鎖であると考えている。
【0046】
上記に記載したように、ナノクラスターは、常に過剰な非晶質リン酸カルシウムを生成しない条件下で製造することができる。これは、過剰な非晶質リン酸カルシウムが、金属イオン封鎖されてナノクラスター溶液を形成することができる前に、熟成してより結晶性が高い相を形成しうるためである。熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを形成する方法は、当該技術分野で既知である。これは例えば、米国特許第7,060,472号を参照されたい。ナノクラスターは、尿素/ウレアーゼ法によって、または単純混合によって製造することができ、1〜2日間の熟成後、保管時に変化しない平衡サイズを得ることができる。尿素/ウレアーゼ法は、混合時に局所的な過剰濃度を生じないため、また酵素濃度によって反応速度を容易に制御できるため好適である。このことにもかかわらず、単純混合法を用いて、1リットル規模で、過剰量の300mMのCaを含有するカゼインホスホペプチドナノクラスター溶液の生成に成功している。mM未満のペプチド濃度では、ナノクラスターの検出および特徴付けが困難である。
【0047】
適切には、特定の実施形態において、ナノクラスターは別の成分を含んで、ナノクラスターをある細胞型に誘導する、または免疫応答を引き出すなど、付加機能を有するナノクラスターを提供してもよい。例えば、OPNナノクラスターは、インテグリン受容体に結合したRGD配列を含有する。インテグリン結合は、SCPPの下位群の特徴である。特定の実施形態において、OPN1−149ナノクラスターをアジュバントの一部として提供することができる。そのようなアジュバントは、抗原を含有していてもよく、また免疫賦活成分または細胞誘導成分を含んでいてもよい。OPN1−149またはフェチュインAの使用は、カゼインナノクラスターの使用よりも有利であるが、これはカゼインとは対照的に、OPNまたはフェチュインAが免疫学的にサイレントなナノクラスターをもたらすためである。本発明のリン酸カルシウムナノクラスターおよびリンペプチドには、多様な鉱質代謝障害の予防、診断、および処置における用途、およびプロテーゼ、移植器官、および腎臓透析膜の鉱化の防止における用途がある。さらに、これらを用いて、生体液および/または生体液代用物を安定化させることができる。
【0048】
したがって、本発明の第5の態様は、鉱質代謝障害の予防、診断、および処置における、本発明によるリン酸カルシウムナノクラスターの使用を提供する。特定の実施形態において、障害には、骨粗しょう症、くる病、骨疾患、乳腺の石灰化、病的石灰化、鉱化組織、例えば歯の脱ミネラル化、および歯垢の石灰化も含みうる。異所性石灰化は、心臓弁の置換の際によく見られる合併症であり、その置換の主要原因でもある。これは脈管構造においても発生し、虚血、脳卒中、および心筋梗塞などの急性疾患のリスクを高める。軟部組織における腫瘍の異所性石灰化は、化学療法によるその処置を困難にし、薬物の有効性を低下させる。腎不全、メタボリックシンドローム、または糖尿病などによるミネラルの不均衡の結果、肺、心臓、大動脈、腎臓、および胃を含む内臓の石灰化が頻繁に生じる。
【0049】
適切には、本発明のナノクラスターは、例えば血液透析においてなど、沈殿の危険性を伴わずに過飽和を維持する必要がある場合に、生体液、または人工液、例えば合成血清の安定性を制御するために使用することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、天然液または合成液の安定性と過飽和度とを維持するための、ナノクラスター含有溶液の使用を提供する。好ましくは、この液体は、生体液、例えば血液、血漿、細胞外液およびリンパ液、滑液、脳脊髄液、および唾液であってよい。この生体液は、リン酸カルシウムと接触し、かつリン酸カルシウムに対して過飽和であってよく、また組織、例えば骨、歯、および類骨の鉱化状態を維持することが要求されうる。好ましくは、液体中の全てのカルシウムおよびリン酸塩のうちの著しい割合をナノクラスターの形態で提供して、イオン濃度およびpHの調節を助けてもよい。好ましくは、液体は、血清の生理的値前後、具体的には約1.25mMの遊離カルシウム濃度、および280〜310mMの等張容量オスモル濃度を有してもよい。適切には、ナノクラスターは、通常血漿中に含まれるリンタンパク質またはリンペプチド、例えばOPN、フェチュインA、SPP−24、またはマトリックスGlaタンパク質を含んでもよく、それによりナノクラスターは低い免疫原性を有する。特定の実施形態において、リンペプチドは、OPN1−149またはその変異体であってよい。
【0050】
本発明のさらなる態様によると、全カルシウムの一部がリン酸カルシウムナノクラスターの形態で存在し、過剰の金属イオン封鎖リンペプチドが存在する配合物が提供される。本発明のナノクラスターを含有する人工生体液が、生理的濃度のカルシウムおよびリン酸塩を含有することができ、かつ依然として、リン酸カルシウムの沈殿物を生成することなく、最終的に加熱滅菌できることは、この技術のとりわけ有利な点である。実施形態において、本発明のナノクラスターを含む配合物は、最適な量のリン酸塩と、少なくとも1個のリン酸塩中心を含有するリンペプチドまたはリンタンパク質を含んでもよく、例えば、この溶液は、pH7.3〜7.5、容量オスモル濃度280〜310、および膠質浸透圧20〜30mmHgを有してもよい。容量オスモル濃度は、第一に電解質によって、さらに膠質浸透圧剤、リンペプチド、および場合によってはブドウ糖(好ましくは0〜125mM)によって決定される。デキストラン(0〜100gm/l)およびポリエチレングリコール(0〜25gm/l)などの物質を添加して、要求される膠質浸透圧を得ることができる。場合によっては、抗酸化剤またはフリーラジカル捕捉剤、例えばマンニトール(0〜20gm/l)、グルタチオン(0〜4gm/l)、アスコルビン酸(0〜0.3gm/l)、およびビタミンE(0〜100IU/l)を添加してもよい。実施形態において、リンペプチドは、0.5〜2.0mMの範囲で含まれていてよく、合計Ca++は約0.5〜4.0mMの範囲の量、合計Clは70〜160mMの範囲の量、合計Mg++は0〜10mMの範囲の量、合計Kは0〜5mMの範囲の量、合計リン酸塩は5〜15mMの範囲の量で含まれていてもよく、場合によってはヘキソース単糖2〜50mMが含まれていてもよい。この溶液は、最終的に加熱滅菌することができる。NaHCOを市販されている滅菌1M溶液として、使用直前に、滅菌した配合物に添加してもよい。一般に、1リットル当たり5mlの1M NaHCO溶液を添加することができるが、それ以上添加してもよい。
【0051】
この溶液は、血漿中のカルシウムイオン、ナトリウムイオン、およびマグネシウムイオンの正常な生理的濃度の範囲内の濃度の前記イオンを含んでもよい。一般的に、これらのイオンの所望の濃度は、同様に溶液の状態の溶解されたナトリウムの塩化物およびリン酸塩から得ることができる。実施形態において、ナトリウムイオン濃度は、好ましくは、70mM〜約160mMの範囲、好ましくは約130〜150mMの範囲である。総カルシウム濃度は、約0.5mM〜4.0mMの範囲、好ましくは約2.0mM〜2.5mMの範囲であってよい。総マグネシウム濃度は、0〜10mMの範囲、好ましくは約0.3mM〜0.45mMの範囲であってよい。遊離カルシウムイオン濃度は、0.5〜2mMの範囲、好ましくは1.25mMであり、これは正常血漿中の正常濃度である。遊離マグネシウムイオン濃度は、0.2〜1.0mMの範囲、好ましくは0.6mMであり、これは正常血漿中の正常濃度である。塩化物イオン濃度は、70mM〜160mMの範囲、好ましくは110〜125mMのClである。また、溶液は、ある量のヘキソース単糖、例えばブドウ糖、フルクトース、およびガラクトースも含んでいてよく、このうちブドウ糖が好適である。本発明の好適な実施形態において、ヘキソース栄養糖を使用してもよく、また糖類の混合物を使用してもよい。一般的に、糖濃度は、2mM〜10mMの範囲であってよく、5mMのブドウ糖濃度が好適である。場合によっては、ヘキソース糖の濃度を上昇させて、対象の組織における液体貯留を減少させることは望ましいであろう。したがって、必要であれば、ヘキソース糖の範囲を最大約50mMまで引き上げて、処置中の対象における浮腫を予防または制限してもよい。膠質浸透圧剤は、分子であって、毛細血管床の開窓を横断して体組織の間質空間内へと移動することによる、循環からのその損失を防ぐのに十分なサイズの分子から構成されていてもよい。集合的に、膠質浸透圧剤は、血漿増量剤に例示される。ヒト血清アルブミンは、血漿体積を増すために使用される血漿タンパク質である。また、血漿増量剤として使用される、一般にグルカン高分子として特徴付けられる多糖類も知られている。一般的に、この多糖は非抗原性であることが好ましい。
【0052】
特定の実施形態において、本発明のナノクラスターを使用して、プロテーゼ、移植器官、および腎臓透析膜の鉱化を予防することができる。
【0053】
本発明のさらなる態様によると、本発明によるリンペプチドおよび/またはナノクラスター(1つ以上)の使用であって、
i)触媒のための高表面積の支持体として、
ii)受容体または受容体リガンドの担体として、
iii)ワクチンアジュバントとして、
iv)薬物または栄養分の標的化送達を可能にするため、
v)抗原に対する強化され、かつ選択的な免疫応答を引き出すため、
vi)カルシウム含有食品または飲料を提供するため、
の使用が提供される。
【0054】
正常な血液タンパク質、例えばOPN、フェチュインA、SPP−24、またはマトリックスGlaタンパク質に由来する免疫学的にサイレントな有能なリンペプチド、例えばOPN1−149から形成された本発明のナノクラスターは、カゼインナノクラスターよりも有利であるが、これはカゼインが正常血液タンパク質ではなく、したがってアジュバントとして使用した場合に免疫応答を引き出しうるためである。免疫系に非自己として認識されず、そのため免疫応答を誘発しない免疫学的にサイレントなナノクラスターは、とりわけ、薬物送達において、ワクチンアジュバントとしての特定の用途、および骨セメント用途を有する。
【0055】
さらに、例えば本発明の方法を用いて、本発明のナノクラスターを形成する際に、本発明のリンペプチドを用途に合わせて調整することにより、ナノクラスターの特性をナノクラスターの特定の最終用途に適合させることができる。例えば、ナノクラスターのpH/解離特性を変更することができ、および/またはリンペプチド/ナノクラスターに部分を添加して、標的分子、薬物、例えば細胞障害性薬物、免疫賦活分子などとナノクラスターの外側との化学的カップリングを可能にすることができる。
【0056】
本発明の態様において、本発明のリンペプチドおよび/またはナノクラスターは、体に供給するための組成物中に提供することができる。例えば、リンペプチドは、口内洗浄剤、歯磨剤、練り歯磨き、ガム、ゲル、または歯垢の石灰化を抑制するために歯に適用するのに適した別の固相の成分として提供することができる。さらに、そのような組成物は、当該技術分野で既知であろうような研削剤、研磨材料、および/または抗菌剤を含んでもよい。ナノクラスターを機能性食品、栄養製品、および薬理製剤中に提供して、多量ミネラルおよび微量ミネラル、ならびにその他の栄養補助食品の送達を行なうことができる。あるいは、本発明のリンペプチドおよび/またはナノクラスターは、カテーテルおよび心臓弁を含むがこれらに限定されない医療用プロテーゼのためのコーティング剤の製造に適した材料中に提供することもできる。本発明の方法またはリンペプチドを用いて製造したリン酸カルシウムナノクラスターは、分散剤および/または防腐剤、例えば非イオン性界面活性剤のn−オクチルグルコシドまたはカチオン性界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウム、あるいは静菌性添加剤、例えばアジ化ナトリウムまたはチメロサールをさらに含む組成物中に提供してもよい。追加的に、または代替的に、得られたナノクラスターまたはナノクラスター組成物を低温殺菌または滅菌および/または凍結乾燥してもよい。凍結乾燥されたOPN1−149から製造したナノクラスター粉末は、その元の体積の水に事実上即座に溶解して澄明溶液を形成し、ナノクラスターのサイズは変わらないことが認められた。単純混合によって製造したナノクラスター溶液の熟成は、熱力学的により安定なナノクラスターの形成により、非晶質リン酸カルシウムの初期沈殿物の逆転に関与した。また、本発明のナノクラスターは、細胞内薬物送達、または核酸、例えばRNAiの送達媒体に使用することができる。
【0057】
定義
本明細書において別段に定めがない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同様の意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施において使用することができるが、好適な方法および材料を本明細書に記載する。したがって、下記に定義する用語は、明細書を全体として参照することによって、より完全に説明される。
【0058】
断片という用語は、ナノクラスターを形成するために適切に使用することができる、本明細書において具体的に言及されているリンペプチドまたはリンタンパク質の部分、例えば適切なリン酸塩中心を保有する断片を意味する。好ましくは、このような断片は、非晶質リン酸カルシウムからのヒドロキシアパタイトの形成を促進するアミノ酸サブ配列を含まない。断片は、当業者に周知の任意の適切な方法によって生成することができる。断片を生成する適切な方法には、コードしているDNAからの断片の組換え発現、化学合成によるもの、または同族タンパク質の化学的もしくは酵素的断片化が含まれるが、これらに限定されない。断片は、コードしているDNAを取得し、発現させる部分のいずれかの側に適切な制限酵素認識部位を同定し、その部分をDNAから切り取ることによって生成することができる。次に、標準的な市販の発現系における好適なプロモーターに、この部分を操作可能に結合させることができる。別の組換え手法は、適切なPCRプライマーを用いて、DNAの関連部分を増幅するものである。
【0059】
本明細書において「組換え体」という用語は、組換え発現ベクターによるペプチドの発現を含むがこれらに限定されない分子生物学的操作を用いて作成されたペプチドを指す。
【0060】
本明細書において「タンパク質」は、アミノ酸から構成され、当業者によりタンパク質として認識されるあらゆる組成物を指す。「タンパク質」、「ペプチド」、およびポリペプチドという用語は、本明細書において、互いに置き換えて使用することができ、このときペプチドはタンパク質の一部であり、当業者は文脈で用語の用途を理解する。同様に、「リンタンパク質」、「リンペプチド」、および「ホスホポリペプチド」という用語は、本明細書において、互いに置き換えて使用することができ、このときリンペプチドまたはホスホポリペプチドは、リンタンパク質の一部であり、当業者は文脈において用語の用途を理解する。
【0061】
本発明のリンペプチドの変異体は、「関連タンパク質」とみなされる、機能的に類似するタンパク質を含む。いくつかの実施形態において、これらの関連タンパク質は、生物の綱の違いを含む、異なる属および/または種に由来する(例えば、細菌タンパク質と真菌タンパク質)。さらなる実施形態において、関連タンパク質は、同一種からもたらされる。また、変異体という用語は、本明細書において具体的に言及されている特定のペプチドを含み、これは例えば、C−末端部およびN−末端部のうちのいずれか一方あるいは両方に1つ以上のアミノ酸を付加するか、アミノ酸配列の1つ以上の異なる部位において、1つ以上のアミノ酸を置換するか、および/またはタンパク質の一端または両端において、またはアミノ酸配列の1つ以上の部位において、1つ以上のアミノ酸を欠失させるか、および/またはアミノ酸配列の1つ以上の部位において、1つ以上のアミノ酸を挿入するように修飾されているが、ナノクラスターを形成することができるリンタンパク質としての機能は保持している、配列番号1〜4および10〜18のうちの1つである。そのような変異体の製造は、好ましくは、本明細書において具体的に言及されているように、リンタンパク質をコードするDNA配列を修飾し、そのDNA配列を適切な宿主に形質転換し、修飾されたDNA配列を発現させて変異体を形成することによって達成される。当然のことながら、変異体リンタンパク質/リンペプチドは、親リンタンパク質/リンペプチド(例えば、本明細書において具体的に言及されているペプチド)と、また互いに、少数のアミノ酸残基が異なっていてもよい。異なるアミノ酸残基の数は、1つ以上、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、20個、30個、40個、50個、またはそれ以上のアミノ酸残基であってよい。好適な一実施形態において、変異体間の異なるアミノ酸の数は、1〜10個である。特に好適な実施形態において、関連タンパク質およびとりわけ変異体タンパク質は、本明細書において具体的に言及されているペプチドに対して、少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性を含む。さらに、本明細書において、関連タンパク質または変異体タンパク質は、フェチュインA(Swiss−Prot受入番号P02765)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(Swiss−Prot受入番号P10163)、マトリックスGlaタンパク質(Swiss−Prot受入番号P08493)、分泌型リンタンパク質24(Swiss−Prot受入番号Q13103)、リボフラビン結合タンパク質(Swiss−Prot受入番号P02752)、オステオポンチン(Swiss−Prot受入番号P10451)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(Swiss−Prot受入番号P21815)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)、または象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(Swiss−Prot受入番号Q13316)からなる群から選択される要素と、複数の領域、例えばリン酸塩中心が異なるタンパク質を指す。例えば、いくつかの実施形態において、変異体タンパク質は、フェチュインA(Swiss−Prot受入番号P02765)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(Swiss−Prot受入番号P10163)、マトリックスGlaタンパク質(Swiss−Prot受入番号P08493)、分泌型リンタンパク質24(Swiss−Prot受入番号Q13103)、リボフラビン(Swiss−Prot受入番号P02752)、オステオポンチン(Swiss−Prot受入番号P10451)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(Swiss−Prot受入番号P21815)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)、または象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(Swiss−Prot受入番号Q13316)からなる群から選択される要素と異なる、1個、2個、3個、4個、5個、または10個の相当する領域を有する。適切には、これらの領域がリン酸塩中心を含む場合、このリン酸塩中心は、リン酸化される能力を保持している。変異体タンパク質を形成するための置換、挿入、欠失が考えられる残基には、保存残基、または保存されていないその他の残基を含みうる。保存されていない残基の場合、1つ以上のアミノ酸の置き換えは、自然界に見られる配列(天然配列)と一致しないアミノ酸配列を有する変異体を生成する置換に限定することができる。保存残基の場合、このような置き換えは天然配列をもたらさないはずである。当然ながら、変異体がリン酸塩中心におけるアミノ酸配列の修飾を含む場合、このリン酸塩中心は、そのリン酸化される能力を保持するべきであり、増加したリン酸化を有してもよい。いくつかの実施形態において、変異体という用語は、フェチュインA(Swiss−Prot受入番号P02765)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(Swiss−Prot受入番号P10163)、マトリックスGlaタンパク質(Swiss−Prot受入番号P08493)、分泌型リンタンパク質24(Swiss−Prot受入番号Q13103)、リボフラビン結合タンパク質(Swiss−Prot受入番号P02752)、オステオポンチン(Swiss−Prot受入番号P10451)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(Swiss−Prot受入番号P21815)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)、または象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(Swiss−Prot受入番号Q13316)からなる群から選択される要素と類似する機能、三次構造、および/または保存残基を備えるタンパク質/ペプチドを指してもよい。特定の実施形態において、変異体は、フェチュインA(Swiss−Prot受入番号P02765)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(Swiss−Prot受入番号P10163)、マトリックスGlaタンパク質(Swiss−Prot受入番号P08493)、分泌型リンタンパク質24(Swiss−Prot受入番号Q13103)、リボフラビン結合タンパク質(Swiss−Prot受入番号P02752)、オステオポンチン(Swiss−Prot受入番号P10451)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(Swiss−Prot受入番号P21815)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)、または象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(Swiss−Prot受入番号Q13316)からなる群から選択される要素と類似する機能、三次構造を備えるタンパク質/ペプチド、これらと実質的に同一のタンパク質/ペプチド、および/またはこれらの同族体のタンパク質/ペプチドを指す。特定の実施形態において、変異体は、フェチュインA(Swiss−Prot受入番号P02765)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(Swiss−Prot受入番号P10163)、マトリックスGlaタンパク質(Swiss−Prot受入番号P08493)、分泌型リンタンパク質24(Swiss−Prot受入番号Q13103)、リボフラビン結合タンパク質(Swiss−Prot受入番号P02752)、オステオポンチン(Swiss−Prot受入番号P10451)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(Swiss−Prot受入番号P21815)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(Swiss−Prot受入番号Q9NQ76)、または象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(Swiss−Prot受入番号Q13316)からなる群から選択される要素の同族体であってよい。同族体は、異なってはいるが通常は近縁の種からのタンパク質/ペプチドであってよく、これは種分化によって別れたタンパク質(すなわち、新種の発生)(例えば、オルソロガス遺伝子)、さらに遺伝子重複によって別れた遺伝子(例えば、パラロガス遺伝子)に相当し、これらを包含する。本明細書において「オルソロガス」および「オルソロガス遺伝子」という用語は、共通の先祖遺伝子(すなわち相同遺伝子)から、種分化によって進化した異なる種の遺伝子を指す。典型的には、オルソログは、進化の過程において同じ機能を保持する。オルソログの同定は、新しく配列決定されたゲノムにおける遺伝子機能の信頼できる予測に使用されている。本明細書において「パラログ」および「パラロガス遺伝子」は、ゲノム内の重複によって関連する遺伝子を指す。オルソログが進化の過程を通して同じ機能を保持する一方、パラログは、いくつかの機能はしばしば元の機能と関連してはいるが、新しい機能を進化させる。特定の実施形態において、同族体はオルソログである。2つのタンパク質が実質的に同一であることを示す1つの指標は、第1のタンパク質が第2のタンパク質と免疫学的に交差反応性を示すことである。典型的には、保存的アミノ酸置換によって異なるタンパク質は、免疫学的に交差反応性を有する。したがって、例えば2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合、あるタンパク質が第2のタンパク質と実質的に同一であるとみなすことができる。
【0062】
配列間の相同性の程度は、当該技術分野で既知の任意の適切な方法(例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.,2:482[1981];Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol,48:443[1970];Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444[1988];Wisconsin Genetics Software PackageにおけるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTAなどのプログラム(Genetics Computer Group、米国ウィスコンシン州マディソン);およびDevereux et al.,Nucl.Acid Res.,12:387−395[1984]を参照)、またはAltschul等によって記載されたBLAST(Altschul et al.,J.MoI.Biol.,215:403−410,[1990])を用いて決定することができる。本明細書において「パーセント(%)核酸配列同一性」は、その配列のヌクレオチド残基と同一である、候補配列中のヌクレオチド残基のパーセンテージと定義される。リンペプチドをコードする2つの核酸配列が実質的に同一であることを示す別の指標は、これら2つの分子がストリンジェントな条件下(例えば、中〜高ストリンジェンシーの範囲内)で互いにハイブリダイズすることである。
【0063】
本明細書において「ハイブリダイゼーション」という用語は、当該技術分野で既知のように、塩基対合によって、リンペプチドをコードする核酸鎖と相補鎖とを結合する方法を指す。「ハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション反応を実施するときの条件を指し、これらの条件は、典型的には、ハイブリダイゼーションを測定するときの条件の「ストリンジェンシー」の程度によって分類される。ストリンジェンシーの程度は、例えば、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(Tm)に基づいてよい。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、典型的には約Tm−5℃(プローブのTmより5℃低い温度)で生じ、「高ストリンジェンシー」は、Tmより約5〜10℃低い温度で生じ、「中間ストリンジェンシー」は、プローブのTmより約10〜20℃低い温度で生じ、「低ストリンジェンシー」は、Tmより約20〜25℃低い温度で生じる。代替的に、あるいは追加的に、ハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションの塩またはイオン強度条件、および/または1回以上のストリンジェンシー洗浄に基づいてもよい。例えば、6×SSC=極めて低ストリンジェンシー;3×SSC=低〜中ストリンジェンシー;1×SSC=中ストリンジェンシー;0.5×SSC=高ストリンジェンシーである。機能的には、最大ストリンジェンシー条件を用いて、ハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性またはほぼ厳密な同一性を有する核酸配列を同定することができるが、高ストリンジェンシー条件は、プローブと約80%以上の配列同一性を有する核酸配列を同定するために使用される。高い選択性が要求される用途では、典型的には比較的ストリンジェントな条件を採用して、ハイブリッドを形成することが望まれるであろう(例えば、比較的低塩および/または高温度条件が用いられる)。
【0064】
少なくとも2つの核酸またはポリペプチドに関連して、実質的に類似する、および「実質的に同一の」とは、典型的には、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、基準(例えばオステオポンチンOPN)ペプチド配列と比較して、少なくとも60%の同一性、好ましくは少なくとも75%の配列同一性、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、いっそう好ましくは95%、最も好ましくは97%、場合によっては98%および99%もの配列同一性を有する配列を含むことを意味する。
【0065】
本明細書全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」または「含む(include)」、あるいはその変化形、例えば「comprises」または「comprising」、「includes」または「including」は、明記した整数または整数の群を含むことを示唆するが、任意の他の整数または整数の群を含まないことを示唆するものではないことは理解されるであろう。本明細書において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないと示されない限り、複数の意味を包含する。
【0066】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本発明の各態様の好適な特徴および実施形態は、必要な変更を加えて、他のそれぞれの態様のものと同様である。
【0067】
以下の実施例を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、これらの実施例は、説明の目的で示され、本発明を制限するものと解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は、Superdex 75を用いた10mgのOPN試料(OPNmix)のクロマトグラフィー分離を図示しているが、ここでは2つの小さいピークF1およびF2が主ピークの前縁に検出されている。(b)クロマトグラフィー分離から収集した個々の管のSDS MOPSゲル電気泳動を図1bに示している。ピークF1のどの材料もゲルに浸透せず、それに続く画分は、タンパク質またはペプチドの含有量が徐々に少なくなっている。これらの管を採取して画分F2、F3a、およびF3bを作成した。このときF2画分は、見かけの分子量が50〜55,000Daの単一バンドを示し、またF3試料は、2つの主要なバンド群を示したので、これらをF3aとF3bとに分けた。回収した質量中のF2、F3a、およびF3bは、それぞれ10.2質量%、56.7質量%、33.1質量%であった。MALDI−MS測定および計算結果は、F2が全長型(OPN1−262)であり、F3a画分が、おそらく主要な牛乳のプロテイナーゼであるプラスミンの作用によって形成されたN−末端断片OPN1−149であることを示した。全長天然OPNは、実験的に決定された分子量33.9kDaを有し、このうち1.7kDaはリン酸基に起因し、およそ2.9kDaはO−結合グリカンに起因した。F3aにおけるN−末端断片に関しては、対応する数字は19.8kDaであり、これはリン酸基からの0.9kDaとグリカンからの2.9kDaを含んだ。したがって、全タンパク質中の28個の潜在的リン酸化部位の平均リン酸化度は79%であった。N−末端断片の分析は、N−末端プラスミンペプチド中の16部位の平均約60〜65%のリン酸化に一致した。全てのグリカン(3〜4部位)は、両者に含まれていた。
【図2】β−カゼイン1−25の等温線を当てはめることによって得られた、3つのCaイオン会合定数が、3000、400、および30M−1であったことを示している。単離したPse残基は、有効pK6.0を有し、3個のPse残基のクラスターは、pK7.2でイオン化されていた。OPN1−149の等温線を2つCaイオン会合定数3000(二価アニオン性リン酸塩)および30M−1、ならびにpK6.4および5.0によって当てはめた。
【図3】OPNmixナノクラスター溶液の限外濾過液におけるイオン平衡を示す。(a)は、方程式(9)において、y=0〜1に対して算出されたイオン活量積である。(b)は、yに対するイオン活量積の勾配である。
【図4】OPNmixナノクラスター溶液の算出された特性を示している。(a)は、P、Ca、および遊離Ca2+の算出された限外濾過液濃度であり、実験値は記号として示す。(b)は、算出された反応したPCの割合である。
【図5】20mMのP緩衝液(pH7.0、イオン強度80mM)中のOPN、およびナノクラスター実験で使用したリン酸カルシウム希釈緩衝液中で測定したOPN1−149のSAXSのKratkyプロットを示している。当てはめた曲線は、みみず鎖モデルからのものである。(a)は、OPN(5、10、および15mg ml−1)、およびOPN1−149(10mg ml−1)のqで重み付けした正規化SAXSに対する、濃度の影響である。(b)は、10mg ml−1のOPNおよびOPN1−149の、qで重み付けしたSAXSであり、各軸は、当てはめ法によって決定した二乗平均回転半径によって定める。
【図6】ウレアーゼ法によってOPN1−149を用いて作成したナノクラスターの熟成の、SAXSによる試験の結果を示している。(a)は、Guinier法によって決定した回転半径に対する時間の影響である。(b)は、所定の時間後、5mg ml−1まで希釈したナノクラスターの正規化したq重み付けSAXSである。(c)は、ガウスコポリマーミセル様ナノクラスターと遊離ペプチドとからの散乱が混合したものとしての、熟成されたナノクラスター溶液の散乱のモデルである。ナノクラスターの散乱は、全体の散乱から遊離ペプチドの散乱を減じることによって得た。モデル計算は、パラメータb=0.07nm、Acore=0.25nm、r=12.5nm、β=0.35を用いた。
【図7】pH(時間)のβ−カゼイン1−25ナノクラスターの流体力学半径に対する影響(●)、およびCPPナノクラスターの1日後の平衡サイズ(■)を図示している。
【図8】pH7.0でのOPN1−149の正規化されたDSCサーモグラムを図示している。
【図9】既知のまたは潜在的リン酸塩中心配列を有する分泌型リンタンパク質における不規則の予測を図示している。既知のまたは予測されるリン酸塩の位置は、太線で示す。(a)はSCPPであり、(b)は非SCPPである。
【図10】組換えリンペプチドCK2−S−6HおよびCK2−Sのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー図を示している。2つの代表的吸光度プロファイル(220nm)を、CK2−Sを実線で、CK2−S−6Hを破線で示し、本方法の第2段階の一部において算出された線形リン酸塩濃度勾配に重ねる。
【図11】CK2−S−6Hのそのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィープロファイルにわたる異なるリン形態の分布を示している。CK2−S−6Hのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる分離時に画分(300s)を回収し(図10のクロマトグラムの破線を参照)、各画分にタンデムナノ−LC/MS分析を行なって、存在する異なるリン酸化度(3〜6mol P/mol(ペプチド))を定量化した。グレースケールの棒グラフは、特に主ピークおよび前縁の小ピークに存在する4Pリン形態を含む画分の、平均吸光度を乗じたモル分率を示している。
【図12】リンペプチドCK2−SおよびCK2−SSを用いて製造したナノクラスターの回転半径(R)に対する、熟成時間の影響を示している。黒丸は、CK2−Sの4つの異なる調製物のものであり、白丸は、CK2−SSの単一バッチからの試料のものであり、測定は2回の別々の機会に行なった。繰り返しの反復測定は、3回のビームタイム配分期間に及んだ。方程式Rg,t=Rg,∞/(1+t/t)[式中、t1/2は、熟成時間の半分であり、Rg,tは、時間tにおける回転半径であり、Rg,∞は、その完全に熟成した値である]の重み付けしていない非線形最小二乗回帰によって、観察結果と適合する単線を算出した。
【図13】リンペプチドCK2−S−6Hを用いて製造したナノクラスターの回転半径(R)に対する、熟成時間の影響を示している。測定は単一バッチの組換えリンペプチドに対して実施し、繰り返しの反復測定は、3回のビームタイム配分に及んだ。図12の場合と同様に、観察結果と適合する単線を算出した。
【図14】ヒドロキシアパタイトに対して(A)高親和性および(B)低親和性を有する、CK2−S−6Hの4Pリン形態の存在のための仮説を図示している。四角形として示されるリン酸化の潜在部位を有する、CK2−S−6Hの一次構造の図表示を提示する。6個の部位のうち、4個は集まってクラスター化してリン酸塩中心配列を形成し、残りの2部位は、第2の小さいクラスターをC−末端付近に形成している。四角形の中の黒丸は、リン酸化された残基に相当し、空白の四角形は、リン酸化されていない残基に相当する。4Pリン形態のこれら15個の位置異性体のうち、9個はリン酸塩中心に3または4個のリン酸化残基を有し、小クラスターに0または1個のリン酸化残基を有した。これらの異性体は、リン酸塩中心にわずか2個、小クラスターに2個のリン酸化残基を有する他の異性体よりも、ヒドロキシアパタイトに対して、より高い結合親和性を有すると仮定された。
【図15】オステオポンチンリン酸塩中心1〜3のアラインメントを示す、第6表である。
【図16】保存切断部位D−202のN−末端側にあるDMP1における6つの潜在リン酸塩中心型配列を示す、第7表である。
【図17】天然ウシβ−カゼインAと比較した、組換え多重リン酸化タンパク質の配列を示す、第14表である。
【図18a】フェチュインAの比率の増加に伴う、カゼインホスホペプチド混合物から形成されたナノクラスターの強度重み付け流体力学的サイズ分布を示している。各分布曲線に対するフェチュインAの濃度をmg ml−1で示し、明確にするために分布曲線を垂直方向にずらした。
【図18b】フェチュインA濃度に対する、ナノクラスターピークの流体力学半径の最頻値を示している。
【図18c】無限大のフェチュインA濃度へのナノクラスター流体力学半径の最頻値の外挿を示している。y軸の切片は、純粋なフェチュインAナノクラスターのサイズを示す。
【図19】安定な人工尿による動的光散乱を示している。(a)は、pHに対する全散乱強度である。(b)は、およそのpH領域5〜8における、典型的な強度重み付けサイズ分布である。明確にするために、個々の分布曲線を垂直方向にずらした。
【0069】
方法
リン酸カルシウム金属イオン封鎖の熱力学モデル
電気的中性のリン酸カルシウムナノクラスターの化学式は、単一のリン酸塩中心(PC)を含有するその実験式の倍数として記述することができる。

【0070】
水、カルシウム、および無機リン(P)のリン酸塩中心に対する平均モル比は、それぞれR、RCa、およびRであり、

は、ナノクラスター中のリン酸塩中心の平均数であり、Pepは、ペプチドをそれが含有するリン酸塩中心の数で除した化学式である。このモノマーの式は、非晶質水和リン酸カルシウムと、カルシウムリンペプチドの金属イオン封鎖リガンドとに分割することができる。電気的中性のリン酸カルシウムの不変実験化学式は、

[式中、3y/(2+y)は、ジアニオン型におけるPのモル分率である]である。次に、平均複合体の実験化学式は、次のように記述することができる。


リン酸塩中心1個当たりのペプチドの正味荷電がZである場合、

である。
【0071】
最も特徴付けられたCaPナノクラスターは、ウシβ−カゼイン1−25によって形成されたものであり、これは沈降平衡法によって測定した質量が197kDaであり、RCa=13.2、R=6.5、およびy=0.4である。これによりモノマー質量4246Da、およびモノマー平均数46.3が求められる。コアの半径は、SANSにより、シェル中のタンパク質のコントラスト一致点において、2.39nmであることが認められた。これによりPC(Acore)1モル当たりのコア表面積9.22.10cmmol−1が求められる。ナノクラスター中のリン酸カルシウム分子の平均数

が、

[式中、

であり、Nは、アボガドロ定数であり、Vcoreは、リン酸カルシウムの実験式のモル体積である]で表わされることは、簡単な幾何学により容易に示すことができる。方程式(6)、

、およびVcore=89.6cmmol−1から、SANSによって定義されたコア体積は、おそらくリン酸ペプチド部分と結合カルシウムを含むが、この体積は、モノマー1個当たり約10個の水分子も含有するのに十分な大きさである(すなわち、方程式(3)におけるxは約1.3である)。既に、コア材料が、非晶質であり水和したコアの最も近い結晶性類似体であるDCPDのモル体積である、

を有すると仮定して、

の値350が算出されている。この結晶構造は、CaのK−吸収端においてX線吸収微細構造分光法によって測定した、ミセルリン酸カルシウム中の非晶質リン酸カルシウムの短範囲構造をモデル化するために使用されている。
【0072】
リン酸カルシウムナノクラスター形成の自由エネルギー
ナノクラスター形成のGibbs自由エネルギー(ΔGCPN)は、コア−シェル構造を形成するための、CaPのコア形成の自由エネルギー(ΔGcore)と、リンタンパク質による表面におけるCaPの金属イオン封鎖の自由エネルギー(ΔGshell)とに分割することができる。

【0073】
コアにおけるCaPの自由エネルギーは、バルク相

と比較して、ケルビン方程式に関して、

[式中、γcoreおよびrcoreは、コアの界面張力および半径であり、aは、バルク相の飽和溶液中のモノマー活量である]として記述することができる。明らかに、コア半径が定数である場合、コア形成の自由エネルギーも一定である。次に、リン酸カルシウムの実験化学式を用いて、イオン活量に関して、溶解性定数Kを定義することができる。水の活量が事実上1である希釈溶液において、

である。
【0074】
純粋なバルク相の溶解度積と同様に、形成定数をナノクラスターの形成の程度を算出するために使用することができる。それにもかかわらず、所定の金属イオン封鎖ペプチドに対するKの実効値は一定ではあるが、方程式の形式およびその数値は、金属イオン封鎖自由エネルギーによって異なる。
【0075】
ナノクラスターを形成すると予測されるリンペプチドの決定
N−末端ペプチドOPN1−149(全タンパク質ではない)が、リン酸カルシウムと平衡ナノメートルサイズ複合体を形成することができるという判断に基づき、本発明者らは、一般的リン酸塩中心配列モチーフ、およびナノクラスター形成に要求される条件を決定した。リン酸カルシウム鉱化プロセスに関与していると本発明者らが認識している分泌型リンタンパク質について、Swiss Institute of BioinformaticsのExPASyサーバ(www.expasy.com)上のUniProt(=Swiss−Prot+TrEMBL)データベースを検索して、可能性のあるナノクラスター形成リンペプチドを同定した。オルソロガスな配列のアラインメントを行ない、European Bioinformatics Instituteサーバ(www.ebi.ac.uk)上で、ClustalW2法およびパターン検索ルーチンPRATTをそれぞれ用いて、一般的モチーフを生成した。顕著な配列可変性および高スコアの残基の希少性を踏まえ、カゼインに適用した標準的なスコアリングマトリックスは、補助的な制約を用いずには十分に機能しないことが既に認められている(Holt,C. & Sawyer,L.(1993).Caseins as Rheomorphic Proteins−Interpretation of Primary and Secondary Structures of the Alpha−S1−Caseins,Beta−Caseins and Kappa−Caseins.Journal of the Chemical Society−Faraday Transactions 89,2683−2692)。また、これは他の分泌カルシウム結合リンタンパク質、およびリン酸塩中心の周囲の全ての他の分泌型リンタンパク質配列にも当てはまることが認められている。これを踏まえ、スプライスジャンクションの保存傾向を用いて、個々のエキソンまたは隣接するエキソンによってコードされる配列から、アラインメントを作成した。また、リン酸化の既知の部位および予想される部位をCys残基になるように修正することで、SerまたはThrよりも高いアラインメントスコアを与えた。リン酸化の予想される部位を、ゴルジ体およびカゼインキナーゼ2のキナーゼによって、コンセンサス基準に従って同定した。リン酸カルシウム鉱化に関与していることが知られる、真核生物タンパク質のオルソログのアラインメントから、潜在的リン酸塩中心配列を手作業で選択した。比較の目的で、配列基準を満たすが、現在のところ鉱化に関与していることが認められていない、ニワトリリボフラビン結合タンパク質を用いて例外を作成した。同定された、証明済みまたは候補のリン酸塩中心を含有するリンタンパク質(主にヒト配列)を第1表に示す。一連のリンペプチドにおいて決定されたリン酸塩中心を示す別の表も、例示の目的で提示する。当然ながら、他の種において存在する、第1表に示したようなリンタンパク質は、そのような配列が上記に記載したパラメータに一致する場合、使用することができる。

【0076】
Swiss−Prot登録は、ほぼ全てヒト配列であり、考慮すべきいくつかのアイソフォームがある場合には、アイソフォーム1を選択した。SCCPは、分泌カルシウム結合リンタンパク質の略称である。ヒトCSN1S2は、偽遺伝子であり、ウシオルソログが付与される。ニワトリRBPは、リン酸塩中心配列を含有させる唯一のRBPである。
【0077】
リン酸塩中心配列の例は、第2表に示す。











追加の第6表および第7表は、図面において提示する。











【0078】
柔軟な配列の予測
予測されたリン酸塩中心が、同定されたリンペプチドの柔軟な配列部分に与えられるかどうかを決定するために、PONDR(登録商標)のVL−XTプレディクター(http://www.pondr.com/;これは3層のフィードフォワードニューラルネットワーク:VL1プレディクター、N−末端プレディクター(XN)、およびC−末端プレディクター(XC)を統合する)を用いて予測を行なった。VL−XTの出力は、1〜0の実数であり、このとき1は不規則性の理想的予測であり、0は規則性の理想的予測である。VL−XTの出力は、典型的には厳密でなく、0.5以上の値に割り当てられる不規則性によって閾値を適用する。40以上の残基を有する長い柔軟な領域の予測は、短い領域よりもより信頼性が高いと考えられる。
【0079】
ナノクラスターのサイズ分布
maxは正の実数でなければならないことから、可能性のある溶液が2つ存在する。古典的核生成理論において、表面エネルギーは正であり、バルク自由エネルギー項は負である。沈殿は、a>aである過飽和溶液から生じる。ナノクラスターの形成において、有効表面エネルギーは負であり、したがって溶液は、バルク相に対して不飽和である(a<a)。これに関連して、バルク相は非晶質リン酸カルシウムであることに留意されたい。その配列中にf有能なリン酸塩中心をモル濃度[PP]で有するリンペプチドまたはリンタンパク質を含有する液体体積Vリットルについて考えた場合、pモルのリン酸カルシウム(CaP)が、平衡からの局所的なゆらぎの状態の溶液から沈殿した場合、溶液の全体積における熱力学的安定性は、

[式中、αは、反応したリン酸塩中心の割合であり、Vは、液体の総体積である]である。明らかに、溶液が安定である(α<1)ためには、過剰のリン酸塩中心が存在しなければならない。熱力学的安定性は、ナノクラスターの形成によって、ヒドロキシアパタイトに対する過飽和の状態を維持しながら達成することができる。方程式(18)は、生体液中のCaおよびPの濃度の上限を設定していないが、これは総Ca濃度100mMを上回るいくつかの乳汁の形成において用いられている。それにもかかわらず、遊離Caイオン濃度およびヒドロキシアパタイトに対する過飽和は、依然として血液中のものに相当する。
【0080】
非晶質リン酸カルシウムと、十分に高い濃度の有能な金属イオン封鎖ペプチドの溶液との二相系において、非晶質リン酸カルシウムを利用して、ナノクラスターが自発的に形成するであろうと考えられている。本発明者らは、新たに形成された軟部組織における異所性沈着物の除去に、または非晶質リン酸カルシウム核が生体液においてコロイドまたは巨視的結晶粒子に成長するのを防止するために利用できると考えている。あるいは、ヒドロキシアパタイトとナノクラスター溶液との二相系においてと同様に、ヒドロキシアパタイトがナノクラスターを利用して成長する傾向がある場合、ナノクラスター溶液は、硬組織の成長または脱ミネラル化のためのCaおよびPの貯蔵庫として機能することも可能である。本発明者らは、非晶質リン酸カルシウム(ACP)のヒドロキシアパタイト(HA)への熟成を促進するアミノ酸配列を含有するタンパク質またはペプチドを添加することが、溶液を不安定化するとは考えていない。これは、ヒドロキシアパタイト形成の唯一の経路は、非晶質リン酸カルシウムの形成を介するものであるからである。
【0081】
実施例1−ゲル濾過クロマトグラフィーによるOPNmix試料の分画および組成
Sorensen等(Sorensen,E.S.,Hojrup,P.& Petersen,T.E.(1995).Posttranslational Modifications of Bovine Osteopontin−Identification of 28 Phosphorylation and 3 O−Glycosylation Sites.Protein Science 4,2040−2049、およびSorensen,E.S.,& Petersen,T.E.(1993) Purification and characterisation of three proteins isolated from the proteose peptone fraction of Bovine Milk.J.Dairy Res 60:189−197)の方法によって、オステオポンチン画分(OPNmix)をウシ乳汁から単離した。Sephadex G−75ゲルクロマトグラフィーに続いてQ−Sepharoseイオン交換クロマトグラフィーを尿素の存在下で実施することによって、ウシ乳汁のプロテオースペプトン画分から、3つの主要画分を単離した。グラジエントSDS−PAGEにおけるそれらの移動度から、これらのタンパク質は、見かけの分子量17kDa、28kDa、および60kDaを有することが認められた。60kDaのタンパク質を収集して、凍結乾燥した。これは95%を上回るのオステオポンチンまたはオステオポンチンペプチドを含み、全ての部位においてある程度リン酸化されていた。これを床長64cmのPharmacia XK 16カラムを用いたSuperdex 75ゲル濾過クロマトグラフィー(流速0.3ml min−1)によってさらに分画した。10mgの試料を1mlの溶出緩衝液(50mMのリン酸塩、300mMのNaCl、0.02%のNaN、pH7.0)に溶解し、120mlの溶出緩衝液に対して一晩透析し、その後カラムに装填した。1mlの画分を収集し、SDS−MOPSゲル電気泳動によって分析した(Qi,X.L.,Holt,C,McNulty,D.,Clarke,D.T.,Brownlow,S.& Jones,G.R.(1997).Effect of temperature on the secondary structure of beta−lactoglobulin at pH 6.7,as determined by CD and IR spectroscopy:A test of the molten globule hypothesis.Biochemical Journal 324,341−346 and McClenaghan,M.,Hitchin,E.,Stevenson,E.M.,Clark,A.J.,Holt,C.& Leaver,J.(1999).Insertion of a casein kinase recognition sequence induces phosphorylation of ovine beta−lactoglobulin in transgenic mice. Protein Engineering 12,259−264)。次にこれらを4つの画分(F1、F2、F3a、およびF3b)に分け、脱イオン水に対して徹底的に透析し、その後凍結乾燥し、回収した質量を記録した。この手順を必要に応じて繰り返し、物理化学的研究に十分なそれぞれの画分を収集した。
【0082】
図1aに示されているように、ゲル濾過クロマトグラムは、明らかな部分構造を有する主ピーク(F3)と、前縁の2つのそれよりずっと小さいピーク(F1およびF2とする)を示している。1.0mlの画分を回収し、SDSゲル電気泳動によって分析した(図1bに図示する)。いずれのF1試料もゲルに浸透せず、M>200,000Daのボイド容量の物質であることが示された。F2画分は、見かけの分子量が50〜55,000Daの単一バンドであり、またF3試料は、2つの主要なバンド群を含有しており、これらをF3aおよびF3bとして採取した。回収した質量中のF2、F3a、およびF3bは、それぞれ10.2質量%、56.7質量%、33.1質量%であった。MALDI−MS測定値および計算結果は、F2は全長型(OPN1−262)であり、F3a画分は、おそらく主要な牛乳のプロテイナーゼであるプラスミンの作用によって形成された、N−末端断片OPN1−149であることを示した。全長天然OPNは、実験的に決定された分子量33.9kDaを有し、このうち1.7kDaはリン酸基に起因し、およそ2.9kDaはO−結合グリカンに起因した。F3aにおけるN−末端断片に関しては、対応する数字は19.8kDaであり、これはリン酸基からの0.9kDaとグリカンからの2.9kDaを含んだ。したがって、全タンパク質中の28個の潜在的リン酸化部位の平均リン酸化度は、79%であった。N−末端断片の分析は、N−末端プラスミンペプチド中の16部位の平均約60〜65%のリン酸化に一致した。全てのグリカン(3〜4部位)は、両者に含まれていた。
【0083】
実施例2−リン酸カルシウムナノクラスターの製造
尿素/ウレアーゼ法
上記に記載のように、また当該技術分野で既知のように(Holt,C,Wahlgren,N.M.& Drakenberg,T.(1996).Ability of a beta−casein phosphopeptide to modulate the precipitation of calcium phosphate by forming amorphous dicalcium phosphate nanoclusters.Biochemical Journal 314,1035−1039)、尿素/ウレアーゼ法によってナノクラスターを製造した。ただしこのとき、リンペプチドは、上記に記載したOPNmixか、またはゲル濾過分離による画分のいずれかを用いた。典型的には、OPNmix試料(25mg)を1mlの水に溶解し、500mlの1mM EDTAに対して一晩透析し、その後脱イオン水に対して徹底的に透析して、Caイオンを除去した。Caを含まないペプチドを凍結乾燥させることによって回収した。
【0084】
22mMのCa(NO、20mMのKHPO、36mMのKNO、および1.5mMのNaNの組成のpH5の塩の初期不飽和溶液(Mgを含まない緩衝液A)を用いて、ペプチドを溶解した。200mMの原溶液から十分な尿素(0〜30mM)を添加して、2単位のタチナタマメ由来のウレアーゼ(Calbiochem社、製品番号666133)による加水分解後、所望の最終pHを得た。これらの条件は、数分以内にpHを目標値の0.004単位以内に上昇させた。OPNmixおよびF3aの標準濃度は、25mg ml−1または30mg ml−1のいずれかであった。SAXS測定、電気泳動光散乱測定、および示差走査熱量測定のために、OPN1−149ナノクラスターを、それらの完全性を維持する緩衝液で5〜10mg ml−1の適切な濃度に希釈した。希釈緩衝液は、ナノクラスター溶液から調製した限外濾過液と同じ塩組成およびpHを有したが、ただし防腐剤としてのアジ化ナトリウム(1.5mM)と、保管時に緩衝液におけるリン酸カルシウムの沈殿を抑制するための0.01%の全カゼイントリプシンリンペプチド混合物を添加した。
【0085】
単純混合法
最終濃度30mg ml−1のOPNmix試料を用いて、実験を行なった。この濃度では、P原料の単回添加によっても(ただしこれはよく攪拌しながらゆっくりと添加した)、初期沈殿はなかった。初期の濁りは、約1週間かけてゆっくりと消滅し、尿素/ウレアーゼ法によって製造したナノクラスターのものと同等のわずかに乳白色の溶液が得られた。ペプチド濃度を10mg ml−1まで低下させた場合、初期コロイド状沈殿物が発生し、これは静置時に完全には再分散しなかった。しかしながら、初期濁りの発生直後に、さらなるOPNmixを最終濃度30mg ml−1まで添加した場合、溶液は約1週間かけて完全に澄明化した。ただし、リンペプチドの添加が遅れた場合、あるいは初期ペプチド濃度が5mg ml−1未満であった場合、完全な再分散は4ヶ月後でも達成されなかった。
【0086】
混合法によって製造された非晶質リン酸カルシウムの自発的な再分散、および尿素/ウレアーゼ法によるナノクラスターの簡便な製造は、このナノクラスターが、過飽和溶液からの正反応によっても、非晶質リン酸カルシウムの予備形成した沈殿物を用いた逆反応によっても形成することができることを示している。ただし、非晶質リン酸カルシウムの熟成を許した場合、たとえそれがわずか数分であっても、オステオポンチンペプチドによってそれを分散することができなかった。尿素/ウレアーゼ法によって平衡リン酸カルシウムナノクラスターを形成するための標準化された条件により、数年間にわたって安定な溶液が得られた。したがって、OPN1−149ナノクラスター溶液は、特に過剰の遊離ペプチドが存在する場合に、非晶質リン酸カルシウムの相分離に関して、熱力学的に安定であるとみなすことができる。
【0087】
実施例3−限外濾過による塩の分離
尿素/ウレアーゼ法によって、pH5.0〜7.5を有する、Mgを含まない緩衝液A中のCaを含まないOPNmixのナノクラスター溶液を製造した。これらを平衡化させてから、求心力場5000xgを用いて、Vivaspin 0.5ml濃縮装置(分画分子量10,000Daの製品VS0101、Vivascience AG、ドイツ)によって15分間限外濾過した。限外濾過液および出発溶液におけるCa、遊離Ca2+、およびPの濃度を測定した(Little,E.M.& Holt,C.(2004).An equilibrium thermodynamic model of the sequestration of calcium phosphate by casein phosphopeptides.European Biophysics Journal with Biophysics Letters 33,435−447)。半透膜を横切る各拡散性イオン種のDonnan平衡に達した後、複合したPとCa、[Pと[Ca]のそれぞれの濃度を、総濃度と限外濾過液濃度との差から算出した(Holt,C.(1997).The milk salts and their interaction with casein.In Advanced Dairy Chemistry Second edit.(Fox,P.F.,ed.),Vol.3,pp.233−256.Chapman & Hall,London)。次に、このペプチドを含まない限外濾過液組成物を用いて、イオン平衡(Holt,C,Dalgleish,D.G.& Jenness,R.(1981).Inorganic Constituents of Milk.2.Calculation of the Ion Equilibria in Milk Diffusate and Comparison with Experiment.Analytical Biochemistry 113,154−163)、およびCaPのイオン活量積(方程式(9)によって、0(トリ−リン酸カルシウム)〜1(ジ−リン酸カルシウム)の範囲のyについて)を算出した。限外濾過液におけるイオン活量積を、各pHにおいて一連のy値について算出し、それによりpHとは無関係の値を求めた。図3aにおいて、yの各値の平均で除し、異なる曲線を分離するために定数を加えた後の結果を示す。各曲線の勾配を直線回帰によって求め、ゼロ勾配に相当する不変イオン活量積(図3b)をトリ−リン酸カルシウムの化学量論量(y=0、K=7.6.10−101.66’)に対して求めた。これは、y=0.4を有するカゼインナノクラスターに認められるものよりも塩基性が高いACPである。
【0088】
実施例4−カルシウムイオンのOPN1−149との結合
OPN1−149ナノクラスター溶液における化学種のモデル化には、5.0〜8.0の範囲の任意のpHにおける、Caイオンの遊離ペプチドとの結合を算出する必要がある。半経験的モデルを用いて、このpH領域においてβ−カゼイン1−25リンペプチドについて予め得た結合等温線を示し、同じモデルをpH7.0で測定したOPN1−149の結合等温線に当てはまるように適合させた。次にこの再設計したモデルを用いて、他の任意のpH値における結合を予測した。Caイオンのβ−カゼイン1−25ペプチドとの結合は、大部分は4個のリン酸化残基とのものであり、より少ない程度で7個のGlu残基およびC末端とのものである。
【0089】
実験的等温線を

[式中、加算は、Caイオン会合定数Ka,iを有する全ての結合部位である]の形の方程式に当てはめた。関数N(pH)は、pHとの関数としてのi型の部位の数を示し、φはリン酸化度である。リン酸化された全ての部位は、平均リン酸化度

を有すると仮定した。所定のpHでの二価アニオン性ホスホセリル部位の数は、

で表わされる。
【0090】
−sPXsPsPsPEE−型のリン酸塩中心におけるカゼインリン酸基の滴定挙動は、3つの部位の連続クラスター(pK=6.7)に関連する2つの有効pKを示したが、残りの部位(pK=5.95)は、独立した残基により典型的である。これらの部位は独立していないため、有効pKは、Caイオンの結合によって影響されるであろう。
【0091】
β−カゼインの結合挙動は、1個のCaイオンが残りのものよりもずっと強力に結合していることを示していたため、リン酸二価アニオン性基との結合のためのモデルに、2つのpKおよび2つのCaイオン会合定数を認めた。リン酸化された部位は、プロトン化したときにCaイオンとの親和性が低下するので、これらはカルボキシル基と同様の低親和性を有するものとして扱った。リン酸基の最初のイオン化のpKは、対象pH領域における結合に影響しないため、モデルから除外した。OPNペプチドは、16個のリン酸化部位(そのうち60%は実際にリン酸化されていた)、およびC−末端を含む37個のカルボキシル基を有する。しかしながら、この配列は、β−カゼインリン酸塩中心の3個の連続するリン酸化残基を含有しない。部位の型の数を2つ、すなわちpK6.4で滴定する高親和性の二価アニオン性ホスホセリル部位と、カルボキシル基およびプロトン化ホスホセリル残基を含む低親和性部位とに減らすことが可能であることが証明された。
【0092】
20mMのPおよび50mMのKNOでpH7.0に緩衝化した、25mg ml−1のF3aを含有する溶液に、100mMのCa(NOの原溶液を連続して少量ずつ添加した後、Caイオン選択的電極を用いて遊離Caイオンの濃度を測定することによって、画分F3aから回収したペプチドのCa2+結合等温線を決定した。総Ca濃度の範囲は0〜19.3mMであり、相当するイオン強度は80〜93mMであった。β−カゼイン1−25ペプチドの実験的等温線への同時当てはめにおいて、3つのpKおよびCaイオン会合定数を変化させた。得られた当てはめ曲線を図2に示す。3つの部位の連続クラスターにおけるリン酸塩部分のイオン化によって、1つの高親和性部位が生成され、同時により低い親和性の2つの部位と、第3の低親和性部位とが、独立したホスホセリル残基のイオン化によってもたらされた。部位の最低親和性は、カルボキシル残基とプロトン化ホスホセリル残基との組み合わせによってもたらされた。2つのpKおよび会合定数を有するモデルを使用するが、可能な限り多くのカゼインモデルからの定数を維持する単独等温線を別個に当てはめることによって、計算OPN1−149等温線を得た。
【0093】
実施例5−ナノクラスター溶液における化学種の算出
反応したリン酸塩中心所定の割合において、非拡散性(複合した)CaおよびPの濃度は、

[式中、[PP]は、リンペプチド濃度である]で表わされる。これらの値から拡散可能な濃度を算出し、それにより膜を横切る仮定Donnan平衡から、限外濾過液の組成を得た。pH5.97未満では、イオン活量積がK未満であるため、ナノクラスターを形成することができなかった。平衡状態には、小さいイオン、イオン錯体、およびペプチドに結合したイオンのみが含まれた。pH5.97を上回ると、カゼインホスホペプチドナノクラスターの場合に認められるものと同じRCaおよびRの値を仮定して、ナノクラスター溶液中のイオン活量積をKと同等にするリン酸塩中心の反応の程度が求められた。
【0094】
OPN1−149ペプチドの質量比は全体の60%未満であるが、全てのペプチドがOPN1−149と同じ特性を有するかのようにペプチド結合をモデル化した。次に、イオン平衡の完全モデルを用いて、実験的限外濾過液の組成と比較できるように、平衡拡散物質の組成を算出した(図4a)。図4bは、算出したPCの反応の程度が、pHに伴ってどのように変化したかを示している。算出された遊離Caイオン濃度は低pH値で体系的に実験を下回ったが、モデルの実験との全般的一致は十分である。所定の反応の程度において、遊離ペプチドの割合は、3個のリン酸塩中心が、リン酸カルシウムを金属イオン封鎖する際に、独立して反応するか、一緒に反応するかによって異なる。これらが独立していない場合、遊離ペプチドの割合は(1−α)であるが、これらが完全に独立して反応する場合、反応したPCを含まないペプチド鎖の割合は(1−α)である。OPNmix試料を用いた研究に加え、純粋なOPN1−149ペプチドから製造したpH7.0のナノクラスター溶液における塩の分離から、1つの測定を実施した。実験の、およびモデル(括弧内)のP、Ca、およびCa2+の限外濾過液濃度は、それぞれ12.1(11.1)mM、1.4(0.92)mM、および1.1(0.52)mMであった。これらは、OPNmixを用いて得られた値と極めて近似した。
【0095】
実施例6−構造モデル
SAXS実験では、CCLRC Daresbury Laboratoryにおいてステーション2.1で測定を実施し、正規化された散乱強度l(q)を測定した。等方性単分散粒子の分散について、

[式中、Nは、溶媒全体の平均過剰散乱長密度

を有する粒子の数、体積はV、および質量はMである]によって、l(q)を粒子間構造因子S(q)および粒子散乱因子P(q)と関連付けた。散乱波ベクターは、q=4π sinθ/λ[式中、θは散乱角の半分であり、λは、X線の波長である]である。S(q)=1であり、かつペプチド鎖の割合α’がナノクラスターの多分散分布を形成している希釈溶液において、方程式(22)は、

[式中、Nはペプチド鎖の数である]となる。
【0096】
散乱長密度
リン酸化されていない残基のモル体積をJacrotおよびZaccai(Jacrot,B.& Zaccai,G.(1981).Determination of Molecular−Weight by Neutron−Scattering.Biopolymers 20,2413−2426)から引き出した。Sundaralingam(Sundaralingam,M.& Putkey,E.F.(1970).Molecular structures of amino acids and peptides.II.A redetermination of the crystal structure of L−O− serine phosphate.A very short phosphate−carboxyl hydrogen bond.Acta Crystallographica B26,790−800)によって決定されるように、アミノ酸の単位格子体積から、オルト−L−ホスホセリンのモル体積を算出し、11Åを減じて残基体積168.7Åを得た。次にセリンとホスホセリンとの残基体積の差を用いて、ホスホスレオニンの残基体積191.7Åを算出した。原子散乱因子を用いて、元素組成から残基のX線前方散乱振幅を算出した。OPN16P 1−149およびOPN28P 1−262については、10−10cm−2の単位における散乱長密度をそれぞれ12.56および12.48であると算出した。OPN16P 1−149を用いて製造したナノクラスターについては、3個のPC中に認められた10個のリン酸化残基のリン酸塩部分がコアに割り当てられていると仮定し、pshell=12.40×1010cm−2を得た。コアについては、方程式(2)で表わされる組成を有する水和したCaPから、pcore=19.1×1010cm−2を得た。全タンパク質およびN−末端ポリペプチドの回転半径は、5〜15mg ml−1の範囲において、濃度とは無関係であった。OPNについては、Guinier法による3回の測定の平均は5.50±0.17nmであり、OPN1−149の対応する値は2.17±0.24nmであった。262残基を有するOPNについて、方程式(28)は回転半径5.38nmを予測し、149残基を有するN−末端プラスミンペプチドについては、この予測値は3.84nmであった。
【0097】
より高いq値では、OPNのSAXSに与える濃度の影響は著しく(図5a)、これは溶媒中での自己会合によって負の第二ビリアル係数を生じたことによるものと考えられた。しかし試験した全ての濃度において、OPN1−149のSAXSは同じであり、実験誤差範囲内であった。みみず鎖のKratkyプロットは、そのみみず鎖が十分に長く、一次構造の離れたセグメントのガウス鎖統計値を示すのであれば、

でプラトーを示すであろう。OPNもOPN1−149もそのようなプラトー領域を示さなかった。両ペプチドは、l(q)がq−1に伴って変化する領域を示したが(図5b)、これは短い棒状のセグメントを有するみみず鎖に特徴的である。しかしながら、ポリマー鎖の統計的性質は、局所的な骨格コンフォメーションは、経時的に持続する必要がないことを意味している。これは特に、ポリ−L−プロリン−II(PP−II)コンフォメーションが、いかなる直接残基間H結合によっても安定化されていないためである。方程式(24)は、OPNについてb=1.9nmを導き、これはみみず鎖モデルからここで算出したKuhn長1.74±0.14nmと一致する。この長さは、例えば、PP−IIの局所的らせんに一時的に配置された平均5〜6残基に相当しうる。OPN1−149については、方程式(24)は、実験的回転半径と一致しない。OPN1−149の鎖の低い剛性は、それぞれがシス立体配置における鎖の方向の急激な変更を生じるPro残基の配列のこの部分における割合(合計13個のうちの10個)、および短い側鎖により、他の残基よりも著しく高い骨格鎖柔軟性を可能にするGly残基の割合(合計4個のうちの4個)が高いことによると考えられる。Aspを除いて、残りの残基は、二等分したOPN中に同様の割合で含まれる。したがって、OPNおよびOPN1−149の両者が、同様のサイズの局所PP−II構造の連続を含有することは可能であるが、OPN1−149において、より高い骨格柔軟性を可能にするヒンジ残基の出現頻度がより高い。
【0098】
実施例7−みみず鎖モデル
完全に天然の折り畳まれていないタンパク質および化学的に変性された球状タンパク質は、主にPP−II型の短距離構造の証拠を示すが、ジスルフィド架橋または二次修飾を含まない完全に変性されたタンパク質の二乗平均回転半径

は、与えられる残基の数Nresへの依存を示す(Kohn,J.E.,Millett,I.S.,Jacob,J.,Zagrovic,B.,Dillon,T.M.,Cingel,N.,Dothager,R.S.,Seifert,S.,Thiyagarajan,P.,Sosnick,T.R.,Hasan,M.Z.,Pande,V.S.,Ruczinski,I.,Doniach,S.& Plaxco,K.W.(2004). Random−coil behavior and the dimensions of chemically unfolded proteins. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101,12491−12496)。
【0099】

ベキ指数は、排除体積がある良溶媒中のホモポリマーに予想される3/5の値に近似しているが、前因子は、ペプチド結合長よりも小さい。
【0100】
ガウス鎖については、

(Lは、輪郭長であり、bは、同じ二乗平均末端間距離を有する同等の自由連結鎖のKuhnセグメント長である)である。
【0101】
BenoitおよびDoty(Benoit, H. & Doty, P. (1954). Light Scattering from Non−Gaussian Chains. Journal of Physical Chemistry 57, 958−963)によると、みみず鎖の相当する関係は、

である。
【0102】
輪郭長の計算において、平面全トランスコンフォメーションに相当する、ペプチド結合長0.38nmを仮定したが、これはシス立体配置にねじれを導入しうるProペプチド結合の影響を無視している。原則的に、短距離構造の証拠は、ランダムコイルのガウス統計からのずれが明らかになる、より高値のqにおけるSAXS測定値またはSANS測定値から得ることができる。
【0103】
Kholodenko(Kholodenko,A.L.(1993).Analytical Calculation of the Scattering Function for Polymers of Arbitrary Flexibility Using the Dirac Propagator.Macromolecules 26,4179−4183)によって導かれ、Potschke等のMonte Carloシミュレーション(Potschke,D.,Hickl,P.,Ballauff,M.,Astrand,P.O.& Pedersen,J.S.(2000).Analysis of the conformation of worm−like chains by small−angle scattering:Monte− Carlo simulations in comparison to analytical theory.Macromolecular Theory and Simulations 9,345−353)によって検証された、KratkyおよびPorodのみみず鎖の粒子散乱因子は、SAXSデータをモデル化するために使用されている。OPNおよびOPN1−149に対する実験的SAXS測定値を、5〜15mg ml−1の範囲のペプチド濃度の関数として得た。q=0での回転半径および切片をGuinierプロット(ln(l)vs.q)によって決定した。散乱曲線をGuinierの切片で除することによって正規化し、qによって重み付けして、低強度特性を強調した(Kratkyプロット)。次に、各濃度における正規化された散乱を、鎖の断面積を考慮して構造因子に当てはめた。
【0104】
実施例8−ナノクラスターモデル
OPN1−149ナノクラスターについて、コア−シェルモデルによって得られるものよりもより明確な、コア周囲のペプチドセグメント分布の記述を検討した。一端が均一球状コアに結合したガウス鎖によってコロナが形成された、最も単純なブロックコポリマーミセルモデルを用いた。ナノクラスターをSAXSステーション上で製造して即座に測定するか、あるいはナノクラスターを2日前に製造して系を平衡化させた。次に試料を室温で保管し、その後のビームタイム配分時の5ヶ月後に再測定した。OPNmix試料を用いて製造したナノクラスターによる予備実験は、ペプチド濃度7mg ml−1では、散乱が濃度と無関係であることを立証した。したがって、全ての測定は、希釈緩衝液で5mg ml−1まで希釈した後に実施し、このとき事実上S(q)=1とした。方程式(23)を対数正規分布または理想溶液近似における方程式(15)のうちのいずれかともに用いて、熟成した平衡ナノクラスターに対する実験的SAXSの結果を多分散コポリマーミセルモデル(Pedersen,J.S.& Gerstenberg,M.C.(1996).Scattering form factor of block copolymer micelles.Macromolecules 29,1363−1365)に当てはめた。さらに、動的光散乱によって粒子の特徴付けを行なった。Malvern Zetasizer Nano計器を用いて、強度平均拡散係数

を決定した。
【0105】
標準物質として、狭いサイズ分布、および平均流体力学的直径20nmを有するポリスチレンラテックス標準物質を使用した。計器のソフトウェアにおけるMultiple Narrow Modesアルゴリズムを用いた強度自己相関関数の反転によって、強度で重み付けしたサイズ分布を得た。これを用いて、多分散度およびずっと大きい粒子の存在をテストした。大粒子が認められた場合、0.2μmの多孔性膜を通してナノクラスター溶液を濾過することによって、それらを除去した。Stokes−Einstein方程式:

[式中、ηは、水性媒体の粘度である]を用いて、拡散係数から平均流体力学半径

を算出した。
【0106】
計器とともに供給される使い捨て単回使用セルにおいて、相分析法によって、電気泳動移動度を測定した。Henry方程式:

[式中、εは、誘電率であり、kは、Debye−Huckel長の逆数である]を用いて、単位電界における電気泳動移動度(U)からゼータ電位(ζ)を算出した。方程式(27)における関数

は、小さいkrにおけるHuckel限界1/6と、大きい

におけるSmoluchowski限界1/4との間で異なり、中間サイズでは、Henryによって与えられる級数展開により近似する。例えば、イオン強度80mMおよび流体力学半径22nmでは、f(kr)=1/4.9である。ナノクラスターの低移動度および溶液の比較的高いイオン強度に関して、二重層緩和のためのさらなる補正は必要であるとみなさなかった。
【0107】
ウレアーゼの添加後に時間の関数として測定されるナノクラスター副試料に対するSAXS測定の結果は、図6aおよび6bにまとめる。最初の2つの副試料は、17分後のpH6.82のとき、および50分後のpH6.87のときに採取したが、3番目の試料までにはpHは本質的に一定となり、これは7.0に近かった。回転半径のGuinier推定値(図6a)および完全なSAXS(図6b)は、統計ポリマーの散乱が優位である初期状態から、強散乱性の球状粒子の出現を示しているが、約2日後には、散乱プロファイルはほぼ一定となった。組換えリンペプチドCK2−S、CK2−SS、およびCK2−S−6Hを用いた試験も、同様に、それらのナノクラスターが平衡サイズに達するのに1〜2日かかることを示した(図12および13)。リン酸塩中心の算出された反応度、および動的光散乱試験によって得られた相関関数の分析によると、平衡状態が著しい過剰量の遊離ペプチドを有し、そこからの散乱は、低いq値では無視できるものの、高いq値でSAXSをモデル化する際には考慮しなければならない。
【0108】
したがって、方程式(23)を用いて、このナノクラスター粒子の散乱を回復した。遊離ペプチドのみみず鎖モデルを、同ペプチド上のリン酸塩中心が全て一緒に反応して、完全に結合したペプチド、または完全に遊離したペプチドのいずれかを生じる、したがってα=α’であるという仮定で使用した。リン酸塩中心が遊離して独立しているという反対仮説は、ずっと小さい割合の完全に遊離したペプチドを予測し、これは動的光散乱結果の相関関数解析に矛盾する(下記を参照)。重み付け減算により、統計散乱要素のコロナを有する、球状であるが多分散の粒子を特徴とする散乱曲線が得られた。PedersenおよびGerstenbergのガウスコポリマーミセルモデルは、対数正規分布関数とともに、遊離溶液中のOPNペプチド鎖はガウス鎖ではないものの、ナノクラスターの散乱の合理的に近似するモデルをもたらした。
【0109】
実施例9−ナノクラスターによる電気泳動光散乱
ナノクラスターのサイズは、ウレアーゼの作用によってpHが上昇した後数時間は増加したが、その後一定を保った(図7)。β−カゼイン1−25ナノクラスターの平衡流体力学半径は5.05nmであり、これはコントラスト変調SANSから導かれたコア−シェルモデルの外側シェル半径よりも約1nm大きかった。カゼインホスホペプチド混合物を用いて、混合法によりナノクラスターを製造し、室温で2週間保管したとき、溶液の吸光度

は、最初の5日間で0.017から0.003に減少し、その後一定を保った。流体力学半径は、非常に低い比率の平均半径約150nmを有する粒子の影響を受けた。大粒子は相関関数においても、強度重み付けサイズ分布においても明白であった。0.2μmフィルタを通して濾過することによってこれらを除去した後、強度平均流体力学半径は6.05nmであり、尿素/ウレアーゼ法によって得られた(濾過していない)結果の6.75nmと十分に一致していた。OPN1−149ナノクラスターは、2日間の平衡化後に流体力学半径21.9nmを有したが、これはSAXSによって決定された回転半径に匹敵する。濾過していないナノクラスターの強度重み付けサイズ分布において、ずっと大きい粒子の極めて小さいピークが存在し、主要ナノクラスターピークの低い側には、遊離ペプチドによる全散乱強度の8.5%を占める別の小さいピークが存在した。可視光での遊離ペプチドによる散乱はナノクラスターと比較して低いため、ペプチドピークの検出は、実質的な割合のペプチドが反応してナノクラスターを形成していないことを示す指標である。このため、理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、3個全てのリン酸塩中心が一緒に反応して、粒子を形成するものと考えている。したがって、遊離ペプチドの割合は、化学分析によってpH7.0において約62%であると算出される、反応していないリン酸塩中心の割合と同じであると推測される。この技法による強度平均流体力学半径と、SAXSまたはSANSによって得られるいわゆるZ−平均半径とのあらゆる正確な比較は、これら2つの方法から得られるさまざまな種類の平均、光周波数およびX線周波数における不均一粒子に与えられるさまざまな重み付け、およびせん断面の位置に影響する外側シェルを介した溶媒の排出を考慮に入れなければならない。
【0110】
流体力学的測定は、SAXSによるものに匹敵するナノクラスターサイズの推定値を導いた。OPN1−149およびCPPリンペプチドナノクラスターの電気泳動移動度は、1.4および1.0μm s−1−1cmであった。方程式(27)を用い、流体力学半径とイオン強度との差を考慮すると、これらの移動度は、ζ−電位のそれぞれ−15.4mVおよび−9.2mVに相当する。カゼインナノクラスターのせん断面は、Debye−Huckel長に匹敵する距離である、ナノクラスターの外面から約1nmに位置することから、表面電荷密度は、ナノクラスターを囲む二重層によって事実上遮蔽されている。それにもかかわらず、これらの値は、カゼイントリプシンリンペプチドと比較して、OPN1−149ペプチドが有するより大きい正味の負電荷を反映している。
【0111】
実施例10−微小熱量測定
図8に示すサーモグラムは、安定なコンフォメーションをとらないポリペプチドに予想されるような、温度に伴う比熱のほぼ完全に滑らかな増加を示している。比熱容量の変化は、安定な折り畳み状態からの変性によってもたらされる骨格または側鎖の水和のいかなる変化よりも、むしろ温度の上昇に伴って励起された振動状態および回転状態の集団の増加を反映している。この結果は、OPNのH−NMRスペクトルにおける低い化学シフト分散とも一致する。
【0112】
実施例11−天然および修飾ウシβ−カゼインのコード配列のクローニング
大腸菌培地1リットル当たり10〜100mgの収率で、完全に(またはほぼ完全に)リン酸化された組換えタンパク質またはペプチドがルーチン的に得られる方法であって、タンパク質ホスホキナーゼと同族タンパク質(またはペプチド)基質との共発現を伴う方法を用いた。ホスホトランスフェラーゼのカゼインキナーゼ2(CK2)を用いて、そのうちのいくつかは一緒にクラスター化してリン酸塩中心を形成する複数の部位で、β−カゼインまたはオステオポンチンをリン酸化した。組換えリン酸化は、選定されたキナーゼによる、同じ(リン酸化されていない)基質の最適化されたin vitroリン酸化からによってもたらされたリン酸化度を正確に再現した。泌乳牛の乳腺組織から単離したポリ−A付加RNAから、全長ORFをコードするβ−カゼイン(N−末端シグナル配列を含む)を、適当なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたRT−PCRによって増幅した。続いて、部位特異的突然変異誘発によって、塩基配列の微調節を行ない、二本鎖配列決定によって検証して、推定翻訳産物がA変異体であることを確認した。適切なプライマーを用いたPCR−突然変異誘発によって、cDNAの5’末端において、Ndel部位に関連して、シグナル配列が除去され、翻訳開始コドンに置き換えられるようにさらなる配列修飾を行ない、633bpのORFを得た。推定翻訳産物において、このメチオニンは、天然の成熟分泌型β−カゼインのN−末端アミノ酸配列(RELEE−第14表(配列番号209))の直前に位置した。cDNAの3’末端には、2つの配列変異体が構築された。一方では、C−末端配列−PIIV−の翻訳を終結させる野生型塩基配列の終止コドンの後、すぐにBamHI部位が続いて、アンピシリン耐性発現ベクターpET21(Novagen社)へのライゲーションを含む、さらなるサブクローニング操作を容易にした。他方では、終止コドンが除去されて、BamHI部位に置き換えられ、そのリーディングフレームは、BamHIがNdelとともにβ−カゼインcDNAのpET21bへの方向性クローニングに使用されているときに、6−His−タグの読み過ごしを許した。したがって、このコンストラクトにおいて、C−末端配列が延長され、PIIVPRDPNSSSVDKLAAALEHHHHHH(配列番号19)となった。全てのPCR反応は、高忠実度pfuポリメラーゼ(Stratagene社)によって触媒され、PCRアンプリコンは、最初に平滑末端クローニング増殖ベクターpPCR−Script(Stratagene社)にクローニングした。pPCR−Scriptにおけるインサートの配列忠実度、方向性、およびリーディングフレームは、二本鎖配列決定によって検証した。全てのオリゴヌクレオチドプライマーおよびカスタムDNA配列決定は、MWG Biotech社による。
【0113】
CK2の作用によるリン酸塩中心の生成は、天然配列におけるG−CK認識配列へのある程度の適合が必要とされる。乳腺G−CKの標準的一次認識配列は、[S,T]X[E,D](配列番号210)であり、このとき大括弧内の残基は選択肢であり、Xは任意の残基であるが、より嵩高くない側鎖が好ましい。ほとんどの部位は、Tに優先してSを有し、Dに優先してEを有する。2つの一次G−CK認識部位を含有する配列[S,T][S,T][E,D][E,D](配列番号211)は、それにより2つの近接残基をリン酸化させ、二次認識配列の[S,T]X[pS,pT]は、隣接する部位のより長い配列からリン酸塩中心を形成させる。CK2の標準的一次認識配列は、類似する[S,T]XX[E,D]であるが、DがEよりも良いとみなされる。したがって、隣接リン酸化残基の3塩基は、[S,T][S,T][S,T][E,D][E,D][E,D](配列番号212)によって形成することができ、連続するリン酸化残基のより長い配列は、標準的二次認識部位の[S,T]XX[pS,pT]を利用して形成することができる。β−カゼインのリン酸塩中心内のセリンおよび近接する残基の部位特異的突然変異誘発(CK2−smart−またはCK2−smarter−配列を得るため;第16表を参照)は、テンプレートとして野生型β−カゼイン配列を用い、これらの残基のコドンのすぐ5’側のユニークSexAI制限部位を利用して、PCRによって実施した。変異フォワードプライマーは全て、その5’末端に向かってこの部位を組み込み、リバースプライマーは、β−カゼインcDNAのユニークStul部位下流にわたり、その5’側に翻訳的にサイレントな特徴的なNspl部位を組み込んだ。増幅した配列をpPCR−Scriptに平滑末端クローニングし、非メチル化宿主SCS110中で増殖し、初期に予想サイズのSexAI−Stulインサートであることを究明した。適格な候補に、二本鎖配列決定を行なった。正確な突然変異配列を有するプラスミドクローンをドナーとして用いて、SexAI−Stul配列をpET21−野生型6−His−タグ化β−カゼインプラスミド(上記を参照)から切り取ったときに得られた線状化プラスミドに、SexAI−Stul 541bpカセットを転移した。ライゲーション後、形質転換体(非メチル化宿主株SCS110中の)を、SexAI−Stul間およびNdel−BamHI間の予想したサイズのインサートの存在、および余分な特徴的なNspl部位(この制限エンドヌクレアーゼによる5−断片消化もたらす)の存在について確認した。これらの操作により、2つの関連するpET21由来発現プラスミドを生成した。このうち一方は、CK2−smart−β−カゼイン−6−Hisをコードし、他方はCK2−smarter−β−カゼイン−6−Hisをコードする。
【0114】
リン酸塩中心配列の比率を増加させた組換えコンストラクト
MW約26700Daの組換え修飾されたβ−カゼインの各分子から、MWおよそ3300Daの容易に単離された28−merトリプシンペプチド(第14表を参照)の一部として、単一のリン酸塩中心生じる可能性を有する、CK2−smart−およびCK2−smarter−β−カゼインコンストラクトを生成した。したがって、100mgの組換えリンタンパク質を1リットルの培養物から生成した細菌バイオマスからルーチン的に回収した。精製されたCK2−SまたはCK2−SSの最終収率は、理論上は約12mgを超えず、実際は典型的には3mg前後であった。培養物1リットル当たりのリン酸塩中心ペプチドの最終収率を上昇させるために、成功したCK2−smart設計に基づき、2つのさらなるコード配列を構築した。これらのコンストラクトでは、CK2−smartクラスター化セリンモチーフが、一次組換え翻訳産物の完全な配列のずっと大きい比率として存在した。これらのうちの1つ目(CK2−S−6H)は、第14表に示す推定配列を有し、短い全ポリペプチド配列内に単一のリン酸塩中心を有するリンペプチドを直接発現する試みを示して、トリプシンによる消化の要件を事実上回避し、発現されたタンパク質の単位質量当たりのリン酸塩中心ペプチドの一次収率をおよそ4.5倍に増加させた。このコンストラクトは、はじめにCK2−smart−β−カゼインのcDNAの最初の96塩基をPCRによって増幅することによって作成した。CK2−smart−β−カゼインのcDNAは、テンプレートととして機能した。フォワードプライマーの設計は、開始ATGをNdel部位に関連して配置し、リバースプライマーの設計は、GAGコドン(塩基93〜96)と重複するBamHI部位を配置し、それにより発現ベクターpET21の6−His−タグコード領域のインフレーム翻訳を可能にした。このアンプリコンをNdel−BamHI断片としてpET21bにクローニングしたとき、得られたORFは、第14表に示す配列を有する、53残基のポリペプチド(MW5945)をコードしていた。第2のde novoコンストラクト(CK2−smart反復;第14表)は、代替の戦略に従って設計し、これはトリプシン切断部位によって分離されたCK2−S配列の反復を複数含む。このポリペプチドのコード配列を構築するために、CK2−smart−β−カゼインのcDNAの塩基4〜96(すなわち、開始ATGコドンを省く)を、高忠実度PCRによって増幅した。上記のように、このためのテンプレートは、CK2−smart−β−カゼインのcDNAである。フォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーに平滑末端切断制限エンドヌクレアーゼ部位を与え、これらの制限酵素による切断後、それらのプライマーが組み込まれることになるアンプリコン分子のセルフライゲーションを可能にした。Srfl部位であるGCCC/GGGC(平滑末端切断部位を斜線で示す)をフォワードプライマーの第1コドン(AGA)のすぐ上流に配置した。リバースオリゴヌクレオチドプライマーの配列は、「センス」方向に読んだときに、塩基GGAGG/CCTが、CK2−smart−β−カゼイン2−32の最後のアミノ酸(Glu)をコードする3塩基GAGに続くようにした。Stul部位はこれら8塩基内に生じるが、その平滑末端切断の位置は斜線で示した。次にPCR増幅によって得られたアンプリコン分子の集団を、リガーゼ緩衝液中の触媒活性を維持することができる2つの平滑末端切断制限酵素であるSrflおよびStulの存在下で、DNAリガーゼとともにインキュベートした。これらの制限酵素の存在は、(SrflおよびStulによる制限後に生成された102bpアンプリコンの)あらゆるhead−to−headまたはtail−to−tailライゲーションが再切断され、それにより制限後に残ったいずれのライゲーションされた分子もhead−to−tailライゲーションであることを確実にした。このライゲーション/制限インキュベーションによって得られたDNAをアガロースゲル電気泳動によってサイズ分別し、表面上は500〜1000bpの分子を切り取って、精製し、pPCR−Scriptに平滑末端ライゲーションした。各候補組換えプラスミドにおけるあらゆるこのサイズのインサートをNotl/Pstlによる消化によってスクリーニングし、その配列を決定した。生成された組換えDNA分子の集団が、異なる回数の反復を有する個々の分子含み、また多くの分子は1回のみの反復を有したことは、ここで用いるこれらのライゲーション/制限/PCR/クローニング法に固有である。実際には、時間の制約により、1回を上回る反復を有する最初の適格な候補形質転換体をさらに成長させることになり、結局はこれが3回の反復を有することが証明された。これをBamHIおよびNotlによってpPCR−Scriptから切り離し、これと同じ組み合わせの制限酵素による消化によって線状化したpET29cにライゲーションした。このプラスミドに関連して、遺伝子操作コンストラクトは、推定配列(MW14984)が第14表に示されるタンパク質CK2−smart反復の発現を導くことができた。CK2−smart−β−カゼインと比較して、このタンパク質が、所定の質量の発現されたタンパク質からのリン酸塩中心の収率をおよそ5.3倍増加させることができることは明らかである。原則的には、より多くの反復を有するコンストラクトから、またはN−末端配列の切断によって、より大きい収率の優位性が得られる。これらの「リン酸塩中心高密度」コンストラクトのそれぞれは、容易に可溶性の形態で、そのコードするポリペプチドの大量発現を促進した。CK2αとの共発現は、それらのリン酸塩中心の多重リン酸化をもたらした。
【0115】
CK2−smartリン酸塩中心のGSTキメラへのクローニング
GSTのコード配列のN−末端の3’側に多重クローニング部位を含み、介在終止コドンを含まず、またタグ配列に隣接する、発現プラスミドpET−42(Novagen社)を構築した。PCRを用いて、CK2−smart−β−カゼインのリン酸塩中心配列にわたるアンプリコン群を調製し、pPCR−Scriptにクローニングした。これらの配列のうちの1つは、Pstl+SaclによってpPCR−Scriptから切り離し、pET42aを同じ組み合わせの制限酵素による消化によって線状化した後、このプラスミドにライゲーションすることができるようなものとした。得られたコンストラクトからの推定翻訳産物は、365アミノ酸キメラ(MW41215)であり、その中でCK2−Sリン酸塩中心ペプチド配列は、GSTのN−末端側の、オリゴ−Hisタグ、およびpET42に固有のその他の発現特性に隣接する融合配列内に位置していた。この推定配列(GSTetc+CK2−Sキメラ)は、第16表に示す。有用な制御融合タンパク質(MW35448)は、非修飾プラスミドpET42bから発現することができた。そのコード配列のオープンリーディングフレームは、Pstl部位とSacl部位との間の塩基(pET42bにおいて、これらは4個のアミノ酸をコードし、一方リン酸塩中心キメラにおいては、この挿入配列は53アミノ酸長であった)以外は、GSTetc+CK−2などのものと同じであった。
【0116】
ヒトオステオポンチンA(hOPN−A)のコード配列のクローニング
ヒトオステオポンチン4種のスプライス変異体が存在すると知られているが、これらはタンパク質のN−末端にあるシグナル配列近くの翻訳エキソンのサイズが異なる(Saitoh, Y., et al., 1995; Uniprot P10451)。OPN−A、OPN−B、およびOPN−C、ならびにOPN−Dの一次翻訳産物は、それぞれ314、300、287、および292アミノ酸長であり、変異体Aは、最大密度の予測CK2リン酸化部位を有する。そのコード配列を、テンプレートとしてIMAGEクローン3828885(MRC Geneservice:www.hgmp.mrc.ac.uk)を用いてPCRにより増幅し、これを増殖ベクターpDNR−LIBに付与した。フォワードプライマーは、シグナルペプチドを除外し、増幅産物内に、Ncol部位に関連して、新しい開始Metコドンを導入するように設計された。これは、シグナル配列のすぐC−末端側のアミノ酸を(ひいては、成熟タンパク質の正常N−末端を)Ile〜Valに変化させる作用を有した。リバースプライマーは、翻訳終結コドンを欠失させ、発現ベクターpET21d(Novagen社)の6−His−タグまでの翻訳のための正しいリーディングフレームにBamHI部位を付加した。得られたアンプリコンを増殖ベクターpPCR−Scriptに平滑末端クローニングし、そのプラスミドにおいて配列検証を行ない、その後Ncol+BamHIによって切断し、897bpのインサートとして、pET21dに方向性クローニングした。このpET21dに基づくコンストラクトにおいてコードされた発現産物は、第14表に示す推定配列(MW36228)を有する、321アミノ酸残基のC−末端6−His−タグ化タンパク質である。
【0117】
ヒトCK2αのコード配列のクローニング
lssinger教授の研究室からの寛大な贈与品であるプラスミドhCK2α−pT7−7(Grankowski, N. et al., 1991)は、ヒトCK2αの全長コード配列を含有する。このプラスミドを大腸菌宿主株XL1−Blue内で増殖させ、精製したプラスミドDNAから、CK2αコード配列をNdel−Fspl断片として切断した。次にこれをNdel−EcoRVで線状化した発現プラスミドpACYC−Duet−1(Novagen社)のMCS 2にライゲーションした。この戦略により、Ndel部位と、平滑末端化されたEcoRVおよびFspl末端との間の方向性クローニングが可能となった。このクローニング戦略は、融合タグを連結せずに、プラスミドpACYC Duet−1からのキナーゼ触媒サブユニットの誘導発現をもたらした。このプラスミドは、pETファミリーのプラスミド(コピー数約40)と比較して、比較的低いコピー数(大腸菌のBL21株において約11)で発現し、2つの多重クローニング部位を有したが、このうち1つを本申請において使用している。これはクロラムフェニコール耐性遺伝子を有する。リン酸塩中心コンストラクトをコードするpETベクターに基づくプラスミドと、プラスミドpACYC Duet−1−hCK2αとを、増殖の目的で、適当な選択的抗生物質の存在下、大腸菌のXL1−Blue株内に保持した。
【0118】
多重リン酸化候補とCK2αとの共発現
非分泌性発現宿主株大腸菌であるBL21 star[DE3]を、His−タグ化または非タグ化リン酸化候補ポリペプチドをコードするpETプラスミド、およびpACYC Duet−1−hCK2αによって二重形質転換した。適当な選択的抗生物質により、形質転換された宿主のその後の処理を通じて、プラスミドを保持することができた。lac z遺伝子によって、pETおよびpACYC−Duet−1ベクターの両者からの誘導タンパク質発現が促進される。実際には、候補リンタンパク質の最も高い発現量は、自己誘導培地Overnight Express(Novagen社)における37℃での一晩培養物から得られることが認められた。細菌細胞ペレットを回収し、遠心分離により洗浄して、液体窒素中で瞬間凍結後−20℃で保管するか、あるいは細胞内組換えタンパク質の精製に即座に使用した。
【0119】
His−タグ化タンパク質としての組換え(リン)タンパク質および(リン)ペプチドの精製
直径6mmのプローブを装着した最大出力150ワットの超音波発生装置で5×30秒間の超音波処理することにより、細菌細胞ペレットを5倍量の緩衝液(8Mの尿素、0.1Mのリン酸Na、10mMのトリス−HCl、15mMの2−メルカプトエタノール、pH8.0;プロテアーゼ阻害剤のカクテルであるComplete EDTA−free(Roche diagnostics社)を含有)に溶解した。本研究において記載する2つを除く全ての組換え6−His−タグ化リンタンパク質/リンペプチドが、顆粒状封入体として、部分的に不溶性あるいは完全に不溶性のいずれかの形態で発現された。この溶解緩衝液に尿素を追加し、それがその後の精製の段階を通して存在することで(下記を参照)、これらを可溶性にし、また可溶性を維持することができた。可溶性の形態で発現された組換えHis−タグ化リンペプチド(CK2−S−6HおよびGSTetc+CK2−キメラ;第14表を参照)では、精製中に尿素は存在しなかった。50000xgでの60分間の遠心分離後、Ni−NTA樹脂(Qiagen社)を充填したカラム(直径16mm×100mm)を用いた金属キレート親和性(MCA)クロマトグラフィーによって、清澄な上澄みから、6−His−タグ化タンパク質を精製した。洗浄緩衝液に10mMのイミダゾールを加えることによる弱く結合したタンパク質の脱離後、製造会社の推奨に従って、250mMのイミダゾールを含有する緩衝液に対象タンパク質を溶出した。9倍量の氷冷アセトンの添加により、この溶出緩衝液からタンパク質が沈殿し、氷冷アセトン:水(9:1)で洗浄することにより、この沈殿物から残留緩衝塩および尿素の大部分を除去し、真空中で乾燥させた。最終精製は実験規模の逆相(RP−)HPLCによって行い、このときポリマービーズマトリックス(Polymer Labs;PLRP−S;ビーズ直径10μm;孔径300Å)を充填したカラム(直径25mm、長さ150mm)を用い、平衡化し、水/0.1%ギ酸におけるアセトニトリル/0.1%ギ酸のグラジエントで実行(10ml/分)した。溶解性を促進する必要に応じてギ酸を含有する水に、RP−HPLC用の試料タンパク質を溶解した。溶出液の220nmおよび280nmにおける吸光度をモニターし、10ml画分で収集した。対象タンパク質を含有するこれらの画分を混ぜ合わせ、凍結乾燥した。RP−HPLC分析によって示された6−His−タグ化CK2−smarter−β−カゼインの最終純度(98%)は、本研究の全ての組換えタンパク質に典型的であった。
【0120】
非タグ化タンパク質
尿素の不在下で上記のように調製した細菌超音波溶解物の遠心分離の上澄みから、pH4.5における等電沈殿により、CK2−smart反復タンパク質を濃縮した。沈殿したタンパク質を希ギ酸に再溶解させた後、上記のように、分取RP−HPLCによって精製を実施した。非タグ化組換えウシβ−カゼイン(野生型、CK2−smart−変異体、およびCK2−smarter変異体)の精製には、同様の戦略を用いたが、ただしこの例では細菌の溶解、遠心分離、および等電沈殿のプロセスを通して、尿素が存在した。
【0121】
Ba2+沈殿によるリンペプチド濃縮
バリウム塩による、複数のホスホセリン残基を含有するペプチドの選択的沈殿のための方法は、既に公開されている方法に基づいた(W.Manson,W.D.Annan,Structure of a Phosphopeptide Derived from β−Casein.Archives of Biochemistry and Biophysics 145(1971)16−26 E.C.Reynolds,P.F.Riley,N.J.Adamson,A Selective Precipitation Purification Procedure for Multiple Phosphoseryl−Containing Peptides and Methods for Their Identification.Analytical Biochemistry 217(1994)277−284)。トリプシン消化によって、ウシβ−カゼインの周囲に構築した我々の組換えタンパク質から、またCK2−smart反復タンパク質およびGSTetc+CK2−Sキメラから、このような沈殿を起こしやすい、1つ以上の同一または近似する推定リン酸塩中心含有リンペプチドが放出されることが予測された。これらのタンパク質の溶液(およそ10mg/ml;必要な場合には、最初は尿素の存在下で)を50mMのトリス−HCl(pH8.0)に対して徹底的に透析した後、TLCK処理したトリプシンを最終濃度0.2mg/mlまで添加し、37℃で18時間、オービタルシェイカーでインキュベーションした。トリプシンの2回目の添加を行ない、濃度を0.4mg/mlにし、インキュベーションをさらに2時間継続した。
【0122】
これらのトリプシン消化物から、以下の方法によって、リンペプチドを濃縮した。この方法は、容易に可溶性のタグ化ペプチドCK2−S−6Hを、上述のように細菌溶解物からMCAクロマトグラフィーによって初期単離した後、濃縮およびさらに精製するためにも有用であった。まず、手順全体を通して0〜4℃に維持された試料のpHをHClの慎重な添加により4.5に調整し、30分間の静置後に不溶性となったあらゆる材料を、遠心分離によって除去した。この清澄なpH4.5の上澄みに、BaClの溶液(10%(w/v))を最終BaCl濃度0.25%(w/v)まで添加した。次に絶えず攪拌しながらエタノールを添加して、濃度を50%(v/v)にした。沈殿したリンペプチドを遠心分離によって回収し、ペレット化した材料を空気中で乾燥させた。上記に記載した条件を用いて、得られた材料に、最終精製ステップである分取RP−HPLCを行なった。
【0123】
リン酸カルシウムナノクラスターの製造
3種の組換えリンペプチド(CK2−S、CK2−SS、およびCK2−S−6H)の、ナノクラスターの形態でリン酸カルシウムを金属イオン封鎖するそれらの能力について検討した。それらのアラインメントされた配列を、これらの新規の変異体をリン酸塩中心配列中に生成するためのテンプレートとして使用したN−末端β−カゼインホスホペプチド[β−カゼイン4P(f1−25)]とともに、第14表に示す。
【0124】
ほとんどの実験において、β−カゼイン様前駆体のトリプシン分解、およびバリウム沈殿およびRP−クロマトグラフィーによる単離によって得られたCK2−S配列を使用した。バリウムリンペプチドの最終的な実験規模のRP−HPLC精製における主要ピークの前縁、中間、および後縁から、CK2−Sの3つの画分を単離した。CK2−SおよびCK2−S−6Hのいわゆる高親和性画分を、ぞれぞれのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー分画における主ピークから回収した。リン酸カルシウムナノクラスターは、リン酸カルシウム複合体または沈殿物の形成を防止するのに十分に低いpHで、ペプチドおよび必要な塩を溶解することによって調製する。ナノクラスターの形成は、pHを最終値の7.0まで上昇させることによって誘導され、これを達成するための最も簡潔な方法は、上記に記載したような尿素/ウレアーゼ法を用いる。全体を通して使用する塩濃度は、Mgを含まない緩衝液Aのものであり、CK2−SペプチドおよびCK2−SSペプチドにはペプチド濃度5mg・ml−1を使用した。これらの条件は、天然カゼインペプチドのβ−カゼイン4P(f1−25)およびαs1−カゼイン4P 59−79を用いた前の研究において使用したものと極めて類似するペプチドおよび塩のモル濃度をもたらす。類似するペプチドのモル濃度をもたらすために、ペプチド濃度10mg ml−1を用いてCK2−S−6Hナノクラスターを製造し、既に記載したような希釈緩衝液を用いて、SAXS測定の直前に5mg ml−1まで希釈した。新たなナノクラスター試料は、配分されたビームタイムの数日前に、あるいはSAXSステーションで調製した。また、残りの材料が十分にある場合には、周囲温度で保管して、最長16ヶ月後にもう一度再測定した。測定の間隔は、次のビームタイムの配分のタイミング、およびシンクロトロン放射源およびステーションの順調な機能に依存した。
【0125】
組換えβ−カゼインおよび誘導体の配列:CK2によるリン酸化
ウシAβ−カゼイン(6His−タグ化または非タグ化にかかわらず)の成熟配列をCK2αと共発現させ、その後記載したように精製したとき、得られたタンパクは、乳腺で発現されたタンパク質の完全にリン酸化された状態の5Pと比較して、化学量論量未満の約0.2mol P/mol(カゼイン)までしかリン酸化されていなかった。
【0126】
この結果は、CK2によるウシβ−カゼイン中のリン酸塩中心セリンの認識が弱いまたは欠如しているという予測と一致する(Meggio,F.,Marin,O.and Pinna,L.A.(1994)Substrate specificity of protein kinase CK2.Cell.Mol.Biol.Res.40,401−409)。対照的に、CK2による、ヒトβ−カゼインのリン酸塩中心の組換えリン酸化(データは示さず)は、乳腺ゴルジ体キナーゼによってリン酸化が行なわれるin vivoで認められるその不均一なリン酸化状態をよく再現する形で達成された。この観察結果は、本明細書に記載するツイン−プラスミド共発現系とともに、CK2ホロ酵素を含むα−サブユニットおよびβ−サブユニットの両者をコードするポリシストロニックな発現コンストラクトを含む組換え技術を用いた、Thurmond等(Thurmond,J.M.,Hards,R.G.,Seipelt,C.T.,Leonard,A.E.,Hansson,L.,Stromqvist,M.,Bystrom,M.,Enquist,K.,Xu,B.C.,Kopchick,J.J.and Mukerji,P.(1997)Expression and characterization of phosphorylated recombinant human beta−casein in Escherichia coli.Protein Expr.Purif.10,202−208)により以前に報告された結果を裏付けた。ヒトβ−カゼインの生理的リン酸化パターンは、タンパク質がCK2と共発現されたときに忠実に模倣されるという、本研究とThurmond等とが使用した異なる技術がもたらした共通の結果は、異なるタンパク質における他の点では類似するリン酸塩中心間の詳細な一次配列の違い、およびおそらくは三次元構造の違いは、タンパク質キナーゼによるリン酸化のためのアクセプター基質としてのそれらの能力に強く影響しうる、という結論を強化した。CK2はウシβ−カゼインの生理的リン酸化を再現できなかったため、後者のリン酸塩中心の基質適合性を、その配列の部位特異的修飾によって、「CK2−smart−」として第14表に示す配列にすることによって強化した。このCK2−smart配列のセリンは、強く予測されたCK2のリン酸化標的であり、2−プラスミド系を用いて、CK2−smart−β−カゼインがCK2αと共発現されたとき、高レベルの生合成リン酸化が達成され(下記を参照)、限界化学量論量4mol P/mol(タンパク質)の部分的な達成を示唆した。CK2−smart配列のさらなる部位特異的変異原性修飾を行なって、第14表に示すような、「CK2−SS」と称される、CK2−smarterである可能性のあるトリプシンペプチドを得た。大腸菌内でCK2−smarter−β−カゼインをCK2αと共発現させたとき、その結果の生合成リン酸化(下記を参照)の分析は、分子のうちの少なくともいくつかにおいて、遺伝子操作されたリン酸塩中心における4個全てのセリンを占めることを示した。試験した全ての例において、これらの生合成リン酸化レベルは、これらのタンパク質の組換えによって生成されたリン酸化されていない形態(すなわち、CK2α発現プラスミドは含まない宿主から発現された)を、ホスホキナーゼ活性のための最適条件下、CK2αとともにin vitroでインキュベートしたときに得られたものと類似していた(データは示さず)。
【0127】
リンペプチドのトリプシン放出
生合成的にリン酸化されたCK2−smart−およびCK2−smarter−β−カゼインのトリプシン消化は、よく特徴付けられた天然β−カゼイン5Pの消化との類推によって、多重リン酸化ペプチド(第14表において特定されるトリプシン切断ペプチドを参照)を放出すると予測された。この予測を、上記に記載したような、リンペプチドの選択的沈殿ためのBa2+およびエタノールを用いた、トリプシン消化物の分画によって試験した。得られた沈殿物の主ペプチド成分を精製し、その後、標準物質および陽性対照としてリンペプチドβ−カゼイン4P 1−25を用い、分析RP−HPLCおよび強アニオン交換HPLCによって特徴付けた。CK2−smart−およびCK2−smarter−β−カゼイからの推定リンペプチドのクロマトグラフィー特性は、標準の陽性対照リンペプチドのものと類似していた。
【0128】
天然β−カゼイン4P(f1−25)
このペプチドを用いて、この純粋なよく特徴付けられた材料における、4つの既知の独特な完全にリン酸化された部位が、イオントラップ法単独で位置特定できるかどうかを確認した。MSモードにおいて、極めて多数の別の断片とともに、2+および3+のイオン化状態に相当する2つのピークが、m/z約1562および1042に認められた。1562ピークのMSスペクトルにおいて、1562における4P親2+イオンからのP損失に由来する4つの顕著なピークが、m/z約1513、1464、1414、および1365に存在した。さらなる顕著なピークが、最大3個の水分子のさらなる損失により形成された。これは、5個のセリン残基のうちの4個のみがリン酸化されていることを裏付けるが、どの残基かは確認されない。1365ピークは、4個全てのリン酸化残基がデヒドロアラニンの形態に変換されていたことから、さらなるMS分析に選択された。MSスペクトルにおいて、m/z値1608、1677、1790、1859、1927、および1997におけるピークは、それぞれb14、b15、b16、b17、b18、およびb19イオンに相当する。イオンb15、b17、b18、およびb19の出現およびm/zは、リン酸基の位置をS−15、S−16、S−17、およびS−19に限定し、S−22がリン酸化されていないことを裏付ける。
【0129】
CK2−S
それ以外は非常に複雑な直接注入MSスペクトルの主な特徴は、3336Daの親ペプチドを予測する、m/z約1668(2+)および1112(3+)におけるピークであった。組換えタンパク質配列に由来する潜在的トリプシンペプチドの中に、3P形態で、計算質量3333Daを有する、CK2−smart β−カゼイン(第16表)の残基3〜30を含む、2つの誤トリプシン切断部位を有するペプチドがあった。そこには4つの潜在リン酸化部位があり、4つの潜在的位置異性体が考えられる。1668ピークのMS分析を実施し、1、2、および3個のリン酸塩のニュートラルロスに相当する顕著なピークがあり、それぞれにおいて親イオンから最大2個のさらなる水分子の損失があることが容易に確認された。この候補配列の予測を用いて、b−イオンおよびy−イオン、ならびにリン酸塩および水分子のニュートラルロスによるそれらの誘導体を検索した。最も顕著な40ピークの中に、b、b14、b16、b17、b18、およびb19、ならびにy13、y15、y17、およびy18に相当する、さらなる誘導体または元の断片イオンがあった。1112ピークのMSスペクトルにおいて、残基12までの配列に予測された全てのbイオンを同定することが可能であった。したがって、候補配列が確認された。さらに、予測されたb16およびb18の両イオンからの3個のリン酸塩分子の損失に相当する顕著なピークが存在し、少なくともこの主要なリン異性体が、残基13、14、および15でリン酸化されていることを確認した。また、1112ピークのMS分析は、y2−22からの最大3個のリン酸塩部分のニュートラルロスを明らかにした。この系列のうち完全に脱リン酸化された要素をさらにMSにより分析し、その配列を十分に同定して、S−13、S−14、およびS−15におけるリン酸化を確認したが、S−19におけるリン酸化は確認しなかった。それにもかかわらず、MSスペクトルにおける別の2+ピークのMS分析により、存在する全ての種が三重にリン酸化されているとは限らないことのある程度の証拠が認められた。上記のように、m/z約998におけるピークは、2個のみのリン酸塩部分の喪失を示したが、m/z約1043におけるピークは、最大4個のリン酸塩のニュートラルロスを示した。ポリマー逆相PLRP−Sカラムを用いた、タンデムLC−MSによる同じトリプシンペプチドの分析は、1つのみの著しいペプチド(UV吸光度)ピークを示したが、このピークの通過中に記録したMSおよびMSスペクトルは、そこに著しい不均一性が存在し、主画分が完全にリン酸化された4Pペプチドを含むことを示した。ピークの前縁において、S−13またはS−19のいずれかでリン酸化されていない3Pペプチドの2つの異性体から小さいシグナルが生じ、誤トリプシン切断によりC−末端に付加配列−IEK−を有する、4P形態に相当するさらなるペプチドが検出された。この分析から、異なるペプチドおよびリン形態の相対比率を定量的に決定することはできなかった。
【0130】
CK2−SS
このリンペプチドは、リンペプチドCK2−Sに関して上記に記載したものと質的に類似する、複雑な直接注入MSスペクトルを生じ、主要ピークは、m/z1668(2+)および1112(3+)に存在した。1668ピークのMS分析は、3個のリン酸化されたセリン残基について、一連のリン酸塩のニュートラルロス、および付随する水の損失を明らかにした。このペプチドは、CK2−Sの異性体であり、それらの推定配列は、アスパラギン残基とセリン残基との単一の置き換えのみにおいて異なる。質量およびリン酸化密度に関するそれらの同等性が立証され、このペプチドが、CK2−SよりもCK2αによって、リン酸化基質としてより認識されることはないことが示唆されたので、CK2−SS変異体にさらなるMSまたはLC−MS分析は行なわなかった。
【0131】
CK2 smart反復
このタンパク質の質量スペクトルのデコンボリューションは、一連のリン酸化状態(0〜11mol P/mol(タンパク質))に予想される値と正確に一致する、予測分子量の群を生じた。0P〜6Pのリン形態は、低い(合計の10%未満)、ほぼ同等な相対量で存在した。9Pリン形態が最も多く、続く8Pおよび10Pリン形態はそれに近似し、それらのおよそ半分の濃度で7Pおよび11Pリン形態が続いた。
【0132】
CK2−S−6H
このリンペプチドをタンデムLC−MSによってある程度詳細に分析した。MSスキャンデータを記録して、全ての吸光度ピークを包含する、1〜6の連番を付けたサンプリング位置で分析試料を回収した。サンプリング位置1〜6の全てのスキャンデータは、5+、6+、7+、および8+のイオン化状態に相当する、顕著な質量シグナルを示した。さらに、サンプリング位置1および2において、9+状態に相当する認識可能なシグナルが示され、サンプリング位置3〜6において、4+状態に相当するシグナルが示された。これらのMSスキャンデータからの生物量計算により、5948.0Da、6030.1Da、6107.3Da、6187.7Da、6267.7Da、および6348.1Daの質量が求められ、1〜6位置でサンプリングした分析物が、それぞれCK2−S−6H配列(第14表に示す)の0P、1P、2P、3P、4P、および4Pと5Pとのおよそ同量の混合物のリン形態を含むという結論をもたらした。全体に占める割合として表わされる、サンプリング位置1〜6にその極大を有する吸光度ピーク下の積分面積は、2%、2%、10%、26%、54%、および6%であり、ペプチドの大部分が4P形態であることが示された。画分6において、4Pリン形態と5Pリン形態との同量混合物を仮定すると、質量平均リン酸化度は3.43である。CK2−S−6Hペプチドのトリプシン消化物をエレクトロスプレーイオン化装置に直接注入することにより、MSスペクトルにおける複数のリンペプチドの同定が可能となった。最も顕著なピークは、2、3、または4個のリン酸化残基を有する、リン酸塩中心配列−DDSSSDDDSDDD−(配列番号20)を含有するトリプシンペプチドに相当した。別の顕著なピークは、非リン酸化ペプチドKIEDPNSSSVDK(配列番号21)およびIEDPNSSDK(配列番号22)に起因すると特定された。総合すると、これらの結果は、この主要なリン酸塩中心が、このペプチドとの組換え共発現時に、キナーゼのためのアクセプター部位の主な位置を提供することを裏付けた。それにもかかわらず、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによってこのペプチドをさらに分画し、個々の画分を回収し、タンデムHPLC−MSによって分析したとき、ペプチドの小部分が6P形態であったが、これはこのリン酸化の部位の小クラスターが、その3個のセリンのうち最大2個をリン酸化されうる場合にのみ可能である。
【0133】
GSTetc+CK2−Sキメラ
このタンパク質について、極めて限定されたMSデータのみを取得し、そのトリプシン消化物のLC−MS分析(従来のC18 PepMapナノカラムを用いた)から、その推定配列の70%を確認した。この分析は、挿入したCK2−smart配列を含み、それとGST融合パートナー分子との間で重複する、最大3個のリン酸化を含むトリプシンペプチドの存在を裏付けた。
【0134】
hOPN−A
このタンパク質は、複雑なMS特性を有し、それは(それぞれC−末端およびN−末端からのものと推定される)ヒスチジンまたはメチオニンの損失(後者はヒスチジンの酸化を伴う)に関してのみ、推定配列と照合することができると判明した。これらの修飾体は、質量分析計内でのタンパク質のエレクトロスプレーイオン化時に生じた可能性が最も高い。それにもかかわらず、これらの質量欠損親イオンから、少なくとも4個のリン酸塩の一連のリン酸塩ニュートラルロスがいくつか生じていることが明らかに認められた。このタンパク質は、CK2の6つの標的配列を含有する。第14表において、β−カゼイン、ならびにそのCK2−smart−およびCK2−smarter−誘導体のN−末端領域のみの部分配列を示す。それ以外のポリペプチドの配列は全体を示し、最初の5配列は、それぞれのリン酸塩中心と隣接する残基に対してアラインメントされている。ゴルジ体キナーゼによる実際のリン酸化部位、またはCK2の強く予測されるリン酸化部位、および天然β−カゼインから維持された配列は太字で示す。それぞれのβ−カゼイン−関連タンパク質からのリン酸塩中心配列を含有する主要トリプシンペプチドには下線を引き、GSTetc+CK2−Sキメラにおけるその類似リン酸塩中心ペプチドには、二重下線を引いた。
【0135】
生体液代用物の配合を改善するための、リン酸カルシウム金属イオン封鎖の使用の実施例
OPN1−149ペプチドの使用は、最終的な蒸気滅菌、低免疫原性、および既に開示されている代用生体液配合物よりも高い金属イオン封鎖能という点で、改善された性能を提供する。そのような溶液中に存在する過剰リンペプチドは、これらが、(i)血漿代用液の滅菌時および保管時のリン酸カルシウム沈殿を抑制し、(ii)使用時の異所性石灰化を抑制するように作用するため有利である。熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの溶液の形態でのカルシウムの提供は、アシドーシスが発生する状況、または正常な生理学的機序がカルシウムおよびリン酸イオンの除去をもたらす状況で、カルシウムおよびリン酸塩の遊離イオン濃度、ならびにpHを調節するように設計されている。特定の実施形態において、通常血漿中に存在するリンタンパク質またはリンペプチド、例えばOPN、具体的にはOPN1−149、またはその適切な断片、フェチュインA、SPP−24、またはマトリックスGlaタンパク質を用いて、低免疫原性を有するようなナノクラスターで、代用生体液配合物中のナノクラスターを形成することができる。
【0136】
一実施例において、血漿代用液配合物は、最適量のリン酸塩、および少なくとも1個のリン酸塩中心を含有するリンペプチドまたはリンタンパク質を含む。この溶液は、pH7.3〜7.5、重量オスモル濃度280〜310mM、および膠質浸透圧20〜30mmHgを有してよい。重量オスモル濃度は、第一に電解質によって、さらに膠質浸透圧剤、リンペプチド、および任意の原料のブドウ糖(好ましくは0〜125mM)によって決定される。デキストラン(0〜100gm/l)およびポリエチレングリコール(0〜25gm/l)などの物質を添加して、要求される膠質浸透圧を得ることができる。場合によっては、抗酸化剤またはフリーラジカル捕捉剤、例えばマンニトール(0〜20gm/l)、グルタチオン(0〜4gm/l)、アスコルビン酸(0〜0.3gm/l)、およびビタミンE(0〜100IU/l)を添加してもよい。リンペプチドは、0.5〜2.0mMの範囲で含まれていてよく、合計Ca++は約0.5〜4.0mMの範囲の量、合計Clは70〜160mMの範囲の量、合計Mg++は0〜10mMの範囲の量、合計Kは、0〜5mMの範囲の量、合計リン酸塩は5〜15mMの範囲の量で含まれていてもよく、場合によってはヘキソース単糖2〜50mMが含まれていてもよく、この溶液は、最終的に加熱滅菌することができる。NaHCOを市販されている滅菌1M溶液として、使用直前に、滅菌した溶液に添加してもよい。一般に、1リットル当たり5mlの1M NaHCO溶液を添加するが、それ以上添加してもよい。
【0137】
この溶液を製造する方法は、カゼインナノクラスターの製造に関して既に開示されている方法、すなわち上記に記載したような、また当技術分野において理解されるであろうような、単純混合法または尿素/ウレアーゼ法に厳密に従うことになる。溶液を製造するために、リン酸塩を除く全ての原料を、最終体積の90%以下を占める体積の水に溶解してもよい。次に、モノ−、ジ−、もしくはトリ−リン酸ナトリウムまたはNaOHのうちの2つ以上の原溶液を一定分量添加することによって、溶液のpHをpH7.3〜7.5まで上昇させる。この添加は、高速混合条件下でゆっくりと行ない、リン酸カルシウムの不可逆的沈殿を生じうる局所的な過剰濃度を回避する。最終pHに達し、全てのリン酸塩の添加が終わると、この溶液を規定の体積にし、120℃で15分間オートクレーブすることによって加熱滅菌した。
【0138】
代替の方法において、全ての原料を最終体積の90%の水に添加してpH5.0にし、2〜20単位のウレアーゼを用いてpHを7.3〜7.5に上昇させるのに十分な尿素を添加する。ウレアーゼは1mlの水に溶解し、血漿代用溶液に進入するのを防止するために透析袋に入れてもよい。24時間穏やかに攪拌しながらpHをモニターし、必要に応じて追加の尿素を添加して最終pHにし、その後透析袋を除去して、溶液を滅菌する。
【0139】
尿素/ウレアーゼ法による安定なヒト血漿代用液の配合実施例
リンペプチドとして40mgのOPNmixを使用し、以下の原溶液:270μlのCaCl(100mM)、100μlのMgCl(100mM)、1380μlのNaCl(1−M)、250μlのKCl(100mM)、100μlのNaN(150mM)、200μlのNaHPO(100mM)、572μlのNaHCO(100mM)、5000μlのブドウ糖(100mM)、および30μlの尿素(1−M)を添加して、尿素/ウレアーゼ法によって、ナノクラスターを含む10mlの人工血漿を調製した。pHは6.642と記録され、これを60μlのHCl(1−M)の添加により5.267まで低下させ、2038μlのHOを添加して、最終体積10mlにした。pH5.267において、この溶液は、ACPおよびDCPDに対して不飽和であると算出された。濃度10mg ml−1のウレアーゼ(タチナタマメ由来のSigma Type C−3)の原溶液を作成し、40μlをVisking透析チューブに入れ、これを密封して人工血漿溶液中に入れた。92分後、pHが6.960に上昇し、その後3時間かけて1回の尿素原溶液1μlで3回の添加を行なって、pHを最終安定値7.367にし、その時点で透析袋を除去し、澄明溶液を周囲温度で保管した。
【0140】
単純混合法による安定なヒト血漿代用液の配合実施例
リンペプチドとして20mgのOPNmixを使用し、以下の量の原溶液:270μlのCaCl(100mM)、100μlのMgCl(100mM)、1380μlのNaCl(1−M)、250μlのKCl(100mM)、200μlのNaHPO(100mM)、400μlのOPNmix(50mg ml−1)、5000μlのブドウ糖(100mM)、572μlのNaHCO(100mM)を用いて、単純混合法によって、ナノクラスターを含む10mlの人工血漿を調製した。混合後、pHは6.760であり、このpHを110μlの1−M NaOHを用いて、攪拌しながらゆっくりと7.48まで上昇させ、HOで体積を10mlにした。この溶液の組成および算出された特性を第15表に示す。この溶液は、光学的に澄明であり、126℃および1.5barでの20分間の蒸気滅菌後もその状態を維持した。次に、一定分量の滅菌した人工血漿を凍結乾燥し、元の体積の蒸留水中で再構成した。凍結乾燥粉末が溶解するときに少量のゼラチン状沈殿物が出現したが、これは数分以内に消失し、pH8.045の澄明溶液を生じた。1−MのHClを添加してこのpHを7.139まで低下させ、45分後、この光学的に澄明な溶液のpHは、7.190で安定していた。貯蔵寿命を測定するために、滅菌していない試料および再構成試料に、NaNを最終濃度1.5mMまで添加した。混合法で調製した3試料を周囲温度で3週間保管して、動的光散乱法によって試験した。動的光散乱測定には、Dynapro 801 TC計器(Protein Solutions Ltd.)を用いた。測定に先立って、試料を孔径0.2μmのWhatman Anotop 10フィルタを通して濾過した。測定は25℃で実施し、Stokes−Einstein方程式を用いて、強度平均拡散係数から流体力学半径を算出した。Alango LtdのDynaLSプログラムに実装されるラプラス変換の特異値分解法を用いて、相関関数を逆にして流体力学半径の強度重み付け分布を求めた。滅菌していない試料も、再構成試料も粒径の安定した測定値を得るのに十分な光を散乱しなかった。しかしながら、滅菌試料は、分析に十分な散乱を示し、強度平均流体力学的サイズ4.53nmが示された。正規化された強度分布は、遊離ペプチドに予想される大きさの強いピークと、最頻半径36.2nmのナノ粒子のより小さいピークを示した。このリンペプチド混合物によって形成されたナノ粒子のサイズは、OPN1−149とMgを含まずかつ炭酸塩を含まない緩衝液Aとによって形成されたナノクラスターのほぼ2倍の大きさである。これにもかかわらず、この人工血漿は、ナノ粒子がリン酸カルシウムナノクラスターでもある場合に予想されるように、最終的加熱滅菌に耐え、かつ凍結乾燥状態から容易に再構成された。

【0141】
ナノクラスターの形成におけるフェチュインAの使用実施例
Sigma Aldrich社から、製品番号F3004としてフェチュインAを購入した。このSigma社のフェチュインAの純度は、SDS PAGEによる判定によると約80〜90%であり、高分子量および低分子量の著しい不純物を含むことが認められた。この材料で、Mgを含まない緩衝液Aおよび尿素/ウレアーゼ法を用いて、タンパク質濃度66.4mg ml−1(分子量36,353Daと仮定して1.6mM)でナノクラスターを作成しようと試みたが、生成物の一部が沈殿して、フェチュインAナノクラスターのサイズを測定することが不可能になった。本発明者らは、より低いフェチュインA濃度では、沈殿の問題はずっと軽減されると判断し、カゼインホスホペプチドと可変濃度のフェチュインAとを用いて混合ナノクラスターを調製し、より低い濃度から、外挿法によって、フェチュインナノクラスターのサイズを得る手法を採用した。カゼインホスホペプチド混合物は、Arla Ltd(デンマーク)から製品Lacprodan 2090(Na塩)として供給された。このカゼインホスホペプチド混合物を用いて調製したナノクラスターについては、以前に記載されている(Holt C,Sorensen ES & Clegg RA(2009)Role of calcium phosphate nanoclusters in the control of calcification.FEBS Journal 276,2308−2323,doi:10.1111/j.1742−4658.2009.06958.x and Little EM & Holt C(2004)An equilibrium thermodynamic model of the sequestration of calcium phosphate by casein phosphopeptides. European Biophysics Journal with Biophysics Letters 33,435−447,doi:10.1007/s00249−003−0376−x)。
【0142】
それぞれ0、1、2、4、8、または16mg ml−1のフェチュインAとともに、pH5のMgを含まない緩衝液A中に固定濃度10mg ml−1で溶解したLacprodan 2090を用いて、試料を調製した。30mMの尿素と1ml当たり10単位のウレアーゼとを用いてpHを上昇させ、1日以内に最終pH7.65±0.15を得た。しかしながら、0および1mg ml−1のフェチュインAを含む試料は、それよりも高いpHに達したので、これを少量の一定分量の1−MのHClを添加して低下させて、他の試料のpHと一致させ、平衡化にさらに1日を設けてから、流体力学的サイズを測定した。6試料の相関関数のラプラス変換によって算出した強度重み付け正規化分布曲線を明確にするために垂直方向にずらしたもの(図18a)は、約6nmのナノクラスターピークを示し、前の研究と一致したが、フェチュインA濃度が増加するに伴い、第2のピークがより大きいサイズで次第に重要になった。それにもかかわらず、これらのより低いフェチュイン濃度では、凝集した材料は、ナノクラスターピークの最頻値の測定を妨げなかった。正確な推定は困難ではあったが、均一な球状粒子による散乱に基づいて、これらの実験における凝集材料の重量分率は、全ての例において1%未満であると算出された。フェチュイン濃度の増加の作用は、一般に、流体力学的サイズを減少させることであったが(図18b)、初期作用は小さい増加を生じるものであった。フェチュインAナノクラスターの流体力学的サイズを算出するために、無限大の濃度への外挿を行なって、流体力学半径をフェチュインA濃度の逆数に対してプロットし(図18c)、そこからフェチュインAナノクラスターが流体力学半径5.8nmを有することが判明した。
【0143】
ナノクラスターにフェチュインAを加えることは、流体力学半径を増加させるであろうと予想されていた。フェチュインAは、配列のN−末端側半分に2つの球状シスタチンドメインを有し、単一のリン酸塩中心を含有する折り畳まれていないC−末端側半分を有すると考えられている。フェチュインAをナノクラスターに組み込むことは、最も低いフェチュインA濃度で実際に認められたように、シェル厚を増加させると予想できる。しかしながら、コア半径は、全体としてのシェルの金属イオン封鎖自由エネルギーにも依存しており、フェチュインAの結合がこれをより負でなくするならば、コア半径は減少するであろう。フェチュインの組み込みによって生じる流体力学半径のあまり大きくない減少は、両作用がほぼ相殺しているであろうことを示唆している。
【0144】
フェチュインナノクラスターは、分泌型リンタンパク質によるナノクラスターの形成の別の実施例を提示し、さらに非SCPPによるナノクラスター形成の第1の実施例、非カゼイン全タンパク質によって形成されるナノクラスターの第1の実施例、および金属イオン封鎖リンタンパク質の一部が安定な球状コンフォメーションを有すると予測されるナノクラスターの最初の実施例を提示する。フェチュインAは血漿の正常な成分であるため、フェチュインA、またはこの配列に由来するリンペプチドを用いて製造したナノクラスターは、低い免疫原性を有すると予想され、これは薬物送達、ワクチンアジュバント、および人工生体液などの生物医学的用途に特に有用である。
【0145】
シュウ酸カルシウムの沈殿に対する尿様溶液の安定化
先進国の人口のおよそ5%が尿石症に罹患していることから、尿中の結晶成長を予防または抑制することは望ましい。本発明者らは、ある種のリンペプチド、例えばOPN1−149またはOPNmixを用いたナノクラスター形成は、この症状の処置に有用であろうと考えている。別の安定化タンパク質およびペプチドを使用してもよく、これらは当業者には明らかであろう。尿は、典型的には、pHがおよそ6であり、均一溶液を含み、場合によっては種々の塩の結晶、最も一般的にはシュウ酸カルシウム、尿酸および尿酸塩、およびリン酸カルシウム、および高pHにおけるリン酸アンモニウムマグネシウムを有する。過去の研究は、健常対象およびさまざまな種類の結石対象からのヒト尿における総塩濃度を示している(Robertson W,Peacock M & Nordin BEC(1968) Activity products in stone−forming and non−stone−forming urine.Clinical Science 34,579−594)。析出相は、尿分析の通常の方法によっては小さすぎて検出できない粒子を形成すると仮定されている。
【0146】
尿のイオン平衡に対する巨大分子の影響は、周知の結晶成長速度の低下による以外には、これまで測定されていない。尿中のOPNペプチドの量、特にモル濃度の定量測定は、複数の系統誤差および不確定要素を生じやすく(Kon S,Maeda M,Segawa T,Hagiwara Y,Horikoshi Y,Chikuma S,Tanaka K,Rashid MM,Inobe M,Chambers AF,et al.(2000) Antibodies to different peptides in osteopontin reveal complexities in the various secreted forms.Journal of Cellular Biochemistry 77,487−498、およびThurgood LA,Grover PK & Ryall RL(2006) A problem protein:Unexpected analytical irregularities in the measurement of urinary osteopontin.In(Evan AP, Lingeman JE & Williams JC,eds),pp.196−199,Indianapolis,IN)、大きく異なる結果が報告されている。
【0147】
Robertson等の研究における健常男性被験者60例の対照群からの、尿の平均塩組成に極めて近似する人工尿例を使用した。これは、以下の原溶液:CaCl2(100mM)、MgCl2(100mM)、NaCl(1−M)、KCl(1−M)、(NH4)2SO4(100mM)、NaH2PO4(1000mM)、H3−クエン酸塩(100mM)、H2−シュウ酸塩(20mM)、OPNmix(50mg ml−1)、Na2−尿酸塩(4mM)、およびHCl(1−M)から、単純混合法によって調製した。第16表に示す順序で混合を行ない、pHは、HClの添加前には5.3であり、HClの添加後には5.0であった。溶液の組成および算出された特性を第16表に示す。尿酸をpH8まで滴定して、尿酸ナトリウム原料を調製した。オステオポンチンの不在下で尿酸の沈殿物が形成し、これは溶液の加温時に再溶解することができた。尿酸塩濃度を0.5mM以下に下げた場合、人工尿はpH5で室温において安定であった。尿酸塩濃度1.5mMでは、オステオポンチン原溶液の添加によって、沈殿を防止することができた。1.0または0.1mg ml−1のOPNmixを含む別の2つの配合物では、尿酸の沈殿は認められなかった。
【0148】
一定分量のこの標準人工尿のpHを、1−MのNaOHをよく攪拌しながら添加することによって調整して、およそのpH領域5〜8の試料を作成し、126℃および1.5barで20分間蒸気滅菌した。沈殿は発生せず、試料のpHは、5.048、5.387、5.995、6.385、7.380、7.870、8.000、および8.237であった。溶液は、室温での1ヶ月間の保管時にも安定を保ち、その後動的光散乱法によって試験した。

【0149】
コア−シェル構造の考察
本発明者らの測定から、コア表面上のOPNペプチドの回転半径は、遊離溶液中でのその値の約3分の1であった。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、このペプチドが、3個のリン酸塩中心など、いくつかの地点でこの表面に結合していると考えている。この仮定は、遊離ペプチドのモル分率、ナノクラスターの組成、および反応したリン酸塩中心の算出されたモル分率とも矛盾しない。以前のカゼインナノクラスターと比較して、OPNナノクラスターのコアリン酸カルシウムはより塩基性であるが(トリ−リン酸カルシウムの実験化学式に相当する)、CaまたはPのPCに対するモル比は、同じであると算出された。SAXS分析によると、OPN1−149ナノクラスターのコアは、以前のカゼインホスホペプチドを用いて製造したものの約4倍近い大きさであり、組換えCK2−S、CK2−SS、およびCK2−S−6Hペプチドを用いて製造したもののおよそ2倍の大きさであった。本発明者らの試験結果に基づき、リン酸塩中心の金属イオン封鎖能などの要素を調節し、リン酸塩中心1個当たりのコア表面積、ならびにリン酸カルシウムにおける水和および長距離規則度を変更することによって、ナノクラスターのサイズを増加させる手段が提供される。OPN1−149ナノクラスターにおけるリン酸塩中心1個当たりのコア表面積は0.25nmであることがわかり、これはβ−カゼイン1−25で作成したナノクラスターについて算出された表面積の約4分の1であるため、このことのみがOPNナノクラスターの従来既知のカゼインナノクラスターとのサイズの違いを説明しうる。
【0150】
本明細書に記載される本発明には、本発明の適用範囲から逸脱することなく、種々の変更を行なうことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターであって、前記ナノクラスターはリンペプチドまたはリンタンパク質を含み、前記リンペプチドまたはリンタンパク質は、
a)組換えによって発現されたリンペプチドまたはリンタンパク質であって、
i)リン酸塩中心であって、リン酸化残基および酸性残基のうちの少なくとも1つ、またはこれらの残基の組み合わせが、前記リン酸塩中心内で増加され、それにより前記リン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されて、それにより前記修飾された組換えによって発現されたリンペプチドが、前記組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態と比較して、増加した数の別個のリン酸塩中心を含むか、または
iii)好ましくは、アミノ酸残基の数および/または種類および/またはリン酸化、またはリン酸塩中心内の特定のアミノ酸残基の間隔の変更によって、あるいは非晶質リン酸カルシウムがより結晶性の高い相、例えばアパタイトに変換するのを促進するアミノ酸配列を除去することによって修飾されて、それにより前記修飾された組換えリンペプチドが、前記組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有する、
組換えによって発現されたリンペプチド、あるいは
b)カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、またはそれらの変異体もしくは断片(このとき前記リンペプチドまたはリンタンパク質は、単一のカゼイン、またはカゼインの混合物、または単一のカゼインもしくはカゼインの混合物の酵素消化物を含まない)、あるいは
c)a)とb)との組み合わせ、
から選択される、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項2】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質が、フェチュインA(配列番号10)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(配列番号11)、マトリックスGlaタンパク質(配列番号12)、分泌型リンタンパク質24(配列番号13)、リボフラビン結合タンパク質(配列番号14)、オステオポンチン(配列番号15)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(配列番号16)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(配列番号17)、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(配列番号18)、またはそれらの変異体もしくは断片からなる群から選択される少なくとも1つの要素であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項3】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質が、オステオポンチン、インテグリン結合シアロリンタンパク質、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1、またはそれらの変異体もしくは断片からなる群から選択される少なくとも1つの要素であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項4】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項5】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列から構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項6】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、フェチュインA(配列番号10)、またはフェチュインAの断片のアミノ酸配列を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項7】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、単一のカゼイン、カゼインの混合物、またはそれらの断片であり、前記カゼインのリン酸塩中心において、グルタミン酸残基がアスパラギン酸残基で置換されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項8】
前記カゼインのリン酸塩中心における少なくとも3個のグルタミン酸残基が、アスパラギン酸残基で置換されている、請求項7に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項9】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質のリン酸塩中心が、
ELEELNVPGADDSSSSDDDDDDDRINKK(配列番号2)、
ELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKK(配列番号3)、または
MRELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKKIEDPNSSSVDKLAAALEHHHHHH(配列番号4)
のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項10】
3nm以上のコア半径を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項11】
前記ナノクラスターにおけるリン酸塩中心1個当たりのコア表面積が0.6nm未満である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項12】
熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを提供する方法であって、
ナノクラスター形成溶液を製造するステップであって、カルシウムイオンと、リン酸イオンと、リンペプチドまたはリンタンパク質とを混合することによって、前記ナノクラスター形成溶液を製造するステップを含み、
このとき前記リンペプチドまたはリンタンパク質は、
a)組換えによって発現されたリンペプチドであって、
i)リン酸塩中心であって、リン酸化残基および酸性残基のうちの少なくとも1つ、またはこれらの残基の組み合わせが、前記リン酸塩中心内で増加され、それにより前記リン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されて、それにより前記修飾された組換えによって発現されたリンペプチドが、前記組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態と比較して、増加した数の別個のリン酸塩中心を含むか、または
iii)好ましくは、アミノ酸残基の数および/または種類および/またはリン酸化、またはリン酸塩中心内の特定のアミノ酸残基の間隔の変更によって、あるいは非晶質リン酸カルシウムがより結晶性の高い相、例えばアパタイトに変換するのを促進するアミノ酸配列を除去することによって修飾されて、それにより前記修飾された組換えリンペプチドが、前記組換えによって発現されたリンペプチドの修飾されていない形態よりも増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有する、
組換えによって発現されたリンペプチド、あるいは
b)カルシウム結合リンタンパク質/リンペプチド、またはそれらの変異体もしくは断片(このとき前記リンペプチドまたはリンタンパク質は、単一のカゼイン、またはカゼインの混合物、または単一のカゼインもしくはカゼインの混合物の酵素消化物を含まない)、あるいは
c)a)とb)との組み合わせ、
のうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項13】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質が、フェチュインA(配列番号10)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(配列番号11)、マトリックスGlaタンパク質(配列番号12)、分泌型リンタンパク質24(配列番号13)、リボフラビン結合タンパク質(配列番号14)、オステオポンチン(配列番号15)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(配列番号16)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(配列番号17)、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(配列番号18)、またはそれらの変異体もしくは断片からなる群から選択される少なくとも1つの要素であるアミノ酸配列を含む、請求項12の方法。
【請求項14】
前記リンペプチドが、オステオポンチン、インテグリン結合シアロリンタンパク質、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1、またはそれらの変異体もしくは断片からなる群から選択される少なくとも1つの要素であるアミノ酸配列を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列から構成される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1個のリンペプチドまたはリンタンパク質が、フェチュインA(配列番号10)、またはフェチュインAの断片のアミノ酸配列を含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1個のリンペプチドが、単一のカゼイン、カゼインの混合物、それらの全カゼインまたは断片であり、前記カゼインのリン酸塩中心において、グルタミン酸残基がアスパラギン酸残基で置換されている、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
カゼインの前記リン酸塩中心における少なくとも3個のグルタミン酸残基が、アスパラギン酸残基で置換されている、請求項18の方法。
【請求項20】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質のリン酸塩中心が、
ELEELNVPGADDSSSSDDDDDDDRINKK(配列番号2)、
ELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKK(配列番号3)、または
MRELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKKIEDPNSSSVDKLAAALEHHHHHH(配列番号4)
のうちの少なくとも1つを含む、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記ナノクラスター形成溶液を製造するステップにおいて、前記溶液中の尿素のウレアーゼによる触媒加水分解によって、前記溶液中にアンモニアを均一に生成させ、それにより穏やかにpHを上昇させることによって、前記ナノクラスター形成溶液のpHを上昇させて、前記リン酸カルシウムナノクラスターを形成する、請求項12〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノクラスター形成溶液を製造するステップにおいて、強塩基と、カルシウム、リン酸塩、およびリンペプチドの酸性溶液との単純混合によって、前記ナノクラスター形成溶液のpHを上昇させて、前記リン酸カルシウムナノクラスターを形成する、請求項12〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項12〜22に記載のいずれか1項に記載の方法を用いて得ることができる、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項24】
前記ナノクラスターが3nm以上のコア半径を有する、請求項12〜22に記載のいずれか1項に記載の方法を用いて得ることができる、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項25】
前記ナノクラスターにおけるリン酸塩中心1個当たりのコア表面積が0.6nm未満である、請求項12〜22のいずれか1項に記載の方法を用いて得ることができる、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項26】
3nm以上のコア半径を有する、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項27】
前記ナノクラスターにおけるリン酸塩中心1個当たりのコア表面積が、0.6nm未満である、熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスター。
【請求項28】
請求項12〜27のうちのいずれか1項に記載の方法において使用するためのリンペプチドまたはリンタンパク質であって、前記リンペプチドが、非晶質リン酸カルシウム(ACP)がより結晶性の高い相、例えばそのアパタイトに変換するのを促進する残基を含まない、分泌型カルシウム結合リンペプチドまたはリンタンパク質、あるいはそれらの変異体もしくは断片を含み、あらゆる単一のカゼインまたはカゼインの混合物、あるいはあらゆる単一のカゼインまたはカゼインの混合物の酵素消化物を除外した、リンペプチドまたはリンタンパク質。
【請求項29】
請求項12〜27に記載の方法において使用するためのリンペプチドまたはリンタンパク質であって、前記リンペプチドが、組換えリンペプチドまたはリンタンパク質、あるいはそれらの組み合わせを含み、前記組換えリンペプチドまたはリンタンパク質が、
i)リン酸塩中心であって、前記リン酸塩中心内に増加した数のリン酸化残基をもたらし、それにより前記リン酸塩中心が増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖能を有するように修飾されたリン酸塩中心を含むか、または
ii)修飾されて、それにより修飾されてない組換えによって発現されたリンペプチドよりも、増加された数の別個のリン酸塩中心を含むか、または
iii)増大したリン酸カルシウム金属イオン封鎖を可能にする修飾を含む、
リンペプチドまたはリンタンパク質。
【請求項30】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質が、フェチュインA(配列番号10)、プロリンリッチ塩基性リンタンパク質4(配列番号11)、マトリックスGlaタンパク質(配列番号12)、分泌型リンタンパク質24(配列番号13)、オステオポンチン(配列番号15)、インテグリン結合シアロリンタンパク質(配列番号16)、マトリックス細胞外骨リン糖タンパク質(配列番号17)、象牙質マトリックス酸性リンタンパク質1(配列番号18)、またはそれらの変異体もしくは断片からなる群から選択される少なくとも1つの要素であるアミノ酸配列を含む、請求項28または請求項29に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質。
【請求項31】
OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片のアミノ酸配列を含む、請求項28〜30のいずれか1項に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質。
【請求項32】
前記リンペプチドまたはリンタンパク質がウシカゼインであり、前記カゼインのリン酸塩中心において、グルタミン酸残基がアスパラギン酸残基に置換されている、請求項29に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質。
【請求項33】
前記リンペプチドが、
ELEELNVPGADDSSSSDDDDDDDRINKK(配列番号2)、
ELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKK(配列番号3)、および
MRELEELNVPGADDSSSDDDSDDDDRINKKIEDPNSSSVDKLAAA LEHHHHHH(配列番号4)
のうちの少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項29に記載のリンペプチド。
【請求項34】
請求項1〜11または21〜25のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを含む、医薬組成物。
【請求項35】
請求項1〜11または21〜25のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターを含む、アジュバント。
【請求項36】
カルシウムと、請求項1〜11または21〜25のいずれか1項に記載のリン酸カルシウムナノクラスターと、リンペプチドまたはリンタンパク質とを含む配合物であって、全カルシウムの一部がリン酸カルシウムナノクラスターの形態で存在し、リンペプチドまたはリンタンパク質が過剰に含まれる配合物。
【請求項37】
前記ナノクラスターが、OPN1−149(配列番号1)、OPN1−147、およびOPN1−150、またはOPN1−149の断片を含む、請求項34、35、または36のいずれか1項に記載の医薬組成物、アジュバント、または配合物。
【請求項38】
請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む、血液、血漿、細胞外液およびリンパ液、滑液、脳脊髄液、尿、および唾液の代用物のうちの少なくとも1つとして使用するための、人工生体液。
【請求項39】
薬剤における、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの使用。
【請求項40】
鉱化組織の脱ミネラル化の抑制または予防のための、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの使用。
【請求項41】
病的石灰化の処置または予防のための、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの使用。
【請求項42】
食品または飲料における、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの使用。
【請求項43】
液体の安定性および過飽和度を維持するための、天然液または合成液における、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載のナノクラスターの使用。
【請求項44】
人工生体液における、請求項1〜11または23〜27のいずれか1項に記載の熱力学的に安定なリン酸カルシウムナノクラスターの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19A】
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【図19B】
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【公表番号】特表2011−527898(P2011−527898A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518011(P2011−518011)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050876
【国際公開番号】WO2010/007441
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(500039647)プラント・バイオサイエンス・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】