説明

リン化ガリウム単結晶およびその製造方法

【課題】ウエハ径70mm以上の大口径で、厚さ240μm以下まで薄板化した場合でも、反り量が40μm以下となるGaP単結晶ウエハを収率よく提供する。
【解決手段】加工して得られるGaP単結晶ウエハのウエハ径Lに対する、結晶育成に用いるルツボの内径Lcの比Lc/Lwを、1.7以上1.9以下とし、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおける、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面形状の凸度の変化量を±1.3mm以内に規制することにより、反り量が40μm以下であるGaP単結晶ウエハを90%以上の収率で得ることを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封止引き上げ法(LEC法)により、大口径リン化ガリウム(GaP)単結晶ウエハを得るためのGaP単結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の光を発する発光ダイオード(LED)を製造するための基板には、リン化ガリウム(GaP)単結晶が用いられている。このGaP単結晶は、液体封止引き上げ法(LEC法)によって製造されている。
【0003】
図2に、LEC法によるGaP単結晶の製造に用いられている、一般的なGaP単結晶育成装置の概略断面図を示す。GaP単結晶育成装置(1)は、100気圧程度の高圧にも耐えられる圧力容器(2)内に、カーボン製保温材(3)と、この保温材(3)内部に載置されるルツボ(4)と、カーボンヒータ(7)と、シャフト(8)とを備える。
【0004】
このルツボ(4)には、原料のリン(P)とガリウム(Ga)とを合成して作成したGaP多結晶(5)と、化合物半導体となったときの結晶中でn型またはp型の電気特性を発現する働きをする不純物とともに、原料融解時のリンの揮発分解を防止するための液体封止剤としての酸化ホウ素(B23)が投入される。
【0005】
GaP単結晶の製造は、通常、圧力容器(2)内に50気圧以上の窒素(N2)やアルゴン(Ar2)といった不活性ガスを充填し、その中で行われる。この密封雰囲気下で、カーボンヒータ(7)により、GaP多結晶を加熱溶解する。B23は、GaP融液(5)より比重が軽く透光性があることから液体封止剤(6)として好適に機能する。
【0006】
ルツボ(4)の上方には、上部シャフト(8)が配置されている。この上部シャフト(8)には保持具(図示せず)が連結されており、この保持具に(100)面が下面となるように種結晶(9)が取り付けられる。GaP多結晶の融解が確認された後に、種結晶(9)を降下させて、GaP融液(5)に浸漬させた後、ルツボ(4)と種結晶(9)をともに回転させて、強制対流により適当な温度勾配を形成し、種結晶(9)を上昇させることでGaP単結晶(10)を成長させる。
【0007】
結晶径の制御には、融液の降下量やB23による浮力補正なども関わり、複雑な出力制御となるために、ADCと呼ばれる自動直径制御プログラムが用いられる。所定の形状までGaP単結晶が成長したら、上部シャフト(8)を上昇させて、GaP単結晶(10)を融液(5)から切り離す。
【0008】
冷却後、GaP単結晶(10)を所望の直径に円筒加工し、ワイヤ切断にて厚さ200〜500μm程度の所定の方位を持ったウエハに切断することで、LED用成長基板が得られる。その後、必要に応じて、鏡面加工、ベベル加工、洗浄などの処理が施される。
【0009】
23などの液体封止剤を用いて化合物の揮発成分の分解を抑制しながら単結晶育成を行なうLEC法は、III−V族化合物半導体の単結晶製造では一般的に用いられるが、GaPの場合は材料の特性上、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化インジウム(InP)などの他のIII−V族化合物半導体と比べて融点や解離圧が高く、より高温高圧の育成環境が必要となる。
【0010】
LEDの需要増加に伴い、ウエハ径70mm以上の大口径GaP単結晶ウエハが求められており、このようなGaP単結晶ウエハを得るためのGaP単結晶の育成を、内径120〜130mm程度の石英ルツボを用いて行っているが、上記のような理由により、大口径のGaP単結晶ウエハの製造は困難を伴うため、高温高圧の育成環境で育成されたGaP単結晶の転位密度は104〜105cm-2と高くなる。また、結晶内部に歪みが残留しており、特にウエハの厚さを240μm程度まで薄板化した場合に、割れや反りなどの不具合が発生する可能性が高くなってしまうという問題がある。
【0011】
また、GaP単結晶の育成では、転位が線状に集積するリネージ不良やこのリネージの発達による多結晶化不良や双晶の発生を抑止することが必要である。転位の集積を抑制するためには、固液界面の凸度を適切な大きさとする必要があるが、上記のような大口径GaP単結晶ウエハを得るためのGaP単結晶を育成するために、内径が小さい石英ルツボを用いた場合、固液界面の凸度の維持が難しく、リネージ不良、多結晶化不良あるいは双晶の発生を十分に防止できないという問題がある。
【0012】
一方、GaPは、間接遷移型の化合物半導体であるため、直接遷移型のGaAsと比べて内部量子効率は低いが、材料の特性上、黄緑から赤色に対して透明であり、GaP自身による光の吸収がほとんどないことから、高輝度化に有利な材料である。また、GaAsとGaPの両方の特性を生かす方法として、GaAs基板にエピタキシャル膜を成膜した後に、GaAs基板を除去して、代わりにGaP基板を貼り付けることで、光取り出し効率を向上させる技術も実用化されている。
【0013】
このように、大口径化かつ薄板化した場合でも、反り量の小さいGaP単結晶ウエハ、および、このようなGaP単結晶ウエハが得られるGaP単結晶を提供することが要求されている。
【0014】
特許文献1には、黒鉛ヒータ全体に対して、発熱部位にあたるスリットの長さと下段部の高さを所定の割合に規定することによって、融液中の固液成長界面を適度に凸面化し、これにより、リネージ不良、多結晶化不良あるいは双晶の発生が防止された直径65〜80mmのGaP単結晶を、内径130mm程度の石英ルツボを用いて製造することが記載されている。
【0015】
また、特許文献2には、ルツボの内径と液体封止材の高さが、目標する結晶外径に対して一定の関係にあるように規制して、単結晶表面からV族元素の局所的な解離を防ぐことにより外径の乱れを防ぎ、転位密度が低減されたGaAs単結晶の製造方法が記載されている。
【0016】
しかしながら、これらの特許文献に記載されている方法では、リネージ不良、多結晶化不良あるいは双晶の発生の防止や転位密度の低減を図ることはできても、ウエハ状に切断した場合の反り量の低減を図ることは困難である。特に、ウエハ径が70mm以上の大口径GaP単結晶ウエハの厚さを240μm程度まで薄板化した場合、材料自身の強度よりも蓄積された残留応力が優勢となるため、反り量の増加が顕著となる。このような歪みが大きいウエハを基板として、エピタキシャル膜を形成すると、反りがさらに増大するので、これを用いた製品の収率悪化やコストアップをもたらすこととなる。
【0017】
特許文献3〜6には、GaAs単結晶について、結晶成長後の結晶内の内部歪みを除去し、加工工程でのクラックやスリップの発生を防止するために、得られたGaAs単結晶を冷却した後にアニール処理を行うことが開示されている。しかしながら、このような熱処理では、GaP単結晶ウエハにおける反りの問題は十分に解決されず、かつ、工程の増加によるコストアップや、熱影響による品質の劣化につながる可能性があるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005―154166号公報
【特許文献2】特開2009―208992号公報
【特許文献3】特開2001―80998号公報
【特許文献4】特開2001―151599号公報
【特許文献5】特開2002―274999号公報
【特許文献6】特開2007―182361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ウエハ径が70mm以上と大口径であって、厚さを240μm以下と薄板化した場合であっても、反り量が40μm以下である、GaP単結晶ウエハを収率よく提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、液体封止引き上げ法によるGaP単結晶の製造方法に関する。特に、本発明においては、GaP単結晶を加工して得られるGaP単結晶ウエハのウエハ径LWに対する、結晶育成に用いるルツボの内径Lcの比Lc/Lwを1.7以上1.9以下とし、かつ、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおける、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面形状の凸度の変化量を±1.3mm以内に規制することを特徴としている。
【0021】
前記固液界面形状の凸度の変化量を±1.0mm以内に規制することが好ましい。
【0022】
本発明のGaP単結晶は、上記のGaP単結晶の製造方法により得られ、直胴部の平均直径が72〜85mmの範囲にあり、かつ、ウエハ径70〜80mmのGaP単結晶ウエハを得るためのGaP単結晶である。特に、本発明のGaP単結晶は、その中心軸を通るように[011]の方位に切断して、エッチングにより成長縞を観察した場合に、成長界面の凸度の変化量が±1.3mm以内であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のGaP単結晶は、上記のGaP単結晶の製造方法により得られ、円筒加工がさらに施され、直胴部の直径が70〜80mmの範囲にあり、該直胴部から、厚さ240μm以下のGaP単結晶ウエハを切り出した場合に、反り量が40μm以下であるGaP単結晶ウエハの収率が90%以上となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のGaP単結晶の製造方法では、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面の下向きの凸面形状を形成するタイミングを適切に調整して、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおける、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面形状の凸度の変化量を±1.3mm以内に規制している。これにより、得られたGaP単結晶からGaP単結晶ウエハを得る際に、ウエハ径70mm以上の大口径でありながら、厚さ240μm以下まで薄板化した場合であっても、反り量40μm以下のGaP単結晶ウエハを収率よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明による結晶育成時の、引き上げ方向に対する結晶長と固液界面形状の凸度の変化量を説明する図である。
【図2】図2は、LEC法によるGaP単結晶を製造するための一般的な装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の特徴は、液体封止引き上げ法(LEC法)によるGaP単結晶を製造するに際して、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおける、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面形状の凸度の変化量を±1.3mm以内に規制する点にある。この点について、以下、図1を参照しながら、詳細に説明する。
【0027】
LEC法によるGaP単結晶の製造においては、結晶径の制御は、GaP単結晶と融液の間の固液界面(成長界面)を基準として、温度勾配が緩い方向へ結晶が成長する性質が利用されている。具体的には、ヒータから融液へ供給する熱量をゆっくり下げることで、結晶径の制御を行っているが、ルツボや種結晶の回転による対流のある熱環境と、結晶質量、結晶径、結晶形状などの推移を加味することで、熱電対起電力やヒータ出力が調整されている。種結晶径より所定の結晶径となるまで肩径を成長させた後、結晶径を一定に保持する直胴部の育成が行なわれる。
【0028】
種結晶をGaP融液に浸漬した直後から肩径の成長段階における固液界面は、フラットまたは凹面形状となっている。なお、フラット形状は、固液界面が結晶中心軸に直交する平面に実質的に沿っている状態を意味し、凹面形状とは、固液界面が結晶中央部において融液側から単結晶側に凹んでいる状態(上向きの凸状)を意味する。このようなフラットまたは凹面の界面形状では、多結晶化しやすいので、安定して単結晶を得るためには、この界面形状を結晶中央部で融液側に突出する凸面形状(下向きの凸状)となるように調整する必要がある。このためには、液体封止剤であるB23中への放熱量を減らし、かつ、結晶を通じて熱を逃さなければならない。ただし、肩径の成長段階では、肩径を成長させる必要があるため、径方向の温度勾配を緩くする調整が必要となり、このときに肩部からB23中へ熱の逃げが起こるため、結晶中央部が凹面となりやすい傾向にある。
【0029】
肩径が成長するにつれて、肩径の中点(種結晶外径と本結晶外径の径方向中間点)で融液側に向かう凸面が形成され始める。引き上げが進行すると結晶を通じての放熱が徐々に優勢となるために、凸面の中心位置は、肩径の中点付近より結晶の中心軸方向に移動し、最終的に結晶中心軸を中心として中央凸面が形成される。
【0030】
肩径の成長段階の後半から直胴部の成長初期段階にかけて、再び結晶外周部より1〜3mm程度の位置に凹面が形成される。この外周凹面は、肩径の成長段階と同様に、熱の一部がB23層中へ逃げるために形成されるものである。一方、結晶の頂上部が、B23層より上方の不活性ガスに到達すると、結晶表面からの放熱量が次第に多くなり、結晶中心軸を中心とする中央凸面の凸度(外周凹面の単結晶側頂部から中央凸面の融液側頂部までの軸方向距離)が増加するが、ある段階で放熱と吸熱のバランスがとれるため、凸度の増加が止まる。この中央凸面の凸度が変化する直胴部の成長初期段階の後、直胴部成長段階として、上述のような固液界面の形状を維持しつつ、所定の結晶長に至るまでGaP単結晶を成長させる。
【0031】
GaP単結晶を所定の結晶長まで成長した後の育成終了段階では、GaP融液の量が減少するため、融液表面からルツボ底面までの距離が小さくなる。必要に応じて、GaP単結晶先端部のルツボ底面への底付きを防止する観点から、中央凸面の凸度を減少させるための調整が行われる。
【0032】
このように、各段階を通じて育成された単結晶と融液の固液界面(成長界面)の形状、特に、肩径の成長段階で中央凸面が形成された段階から育成終了段階までにおける形状は、中央凸面と外周凹面が連続した複合曲面となっているため、中央凸面と外周凹面の境界となる円周上には変曲点Piが連続して存在することとなる。この変曲点Pi付近は、径方向外側から中心への熱の移動が多い場所であるが、変曲点Piから離れるにしたがって、垂直方向の熱の移動が優勢となる。このような熱移動方向の相違により、結晶内の熱膨張に差が生じるため、変曲点Pi付近では引張応力、変曲点Piから遠い位置では圧縮応力が優勢となり、この応力方向の差が結晶内部に残留応力として蓄積され、ウエハ状に加工した場合の反りの原因となる。
【0033】
また、外周凹面の頂部の直径(以下、凹面径Dccという)と結晶径、中央凸面の凸度の間には、結晶径および凸度が一定の場合には、凹面径Dccはほとんど変化しないが、結晶径が増加した場合または凸度が減少した場合には、凹面径Dccは減少し、結晶径が減少した場合または凸度が増加した場合には、凹面径Dccが増加するという関係がある。このような凹面径Dccの変動は、転位の伝播方向の変化とともに、新たな転位の導入や分岐をもたらす。特に、転位同士が交差や結合した場合に多結晶化が生ずることになる。したがって、中央凸面の凸度の変化量を所定の範囲内とすることにより、単結晶化率を高めることが可能となる。
【0034】
一方、上述した変曲点Piが存在する円周の直径(以下、変曲径Dpiという)は、中央凸面の凸度が増加した場合に増加する、すなわち、変曲点Piが結晶中心側から外周側へ移動する。一方、変曲径Dpiは中央凸面の凸度が減少した場合に減少する、すなわち、変曲点Piが結晶外周側から中心側へ移動する。この変曲径Dpiは、凹面径Dccの変動に応じても変化する。ただし、凹面径Dccのばらつきは、せいぜい1〜3mm程度であるのに対して、凸度のばらつきは、5〜20mmと数倍から10倍程度大きいため、変曲径Dpiの凸度の変化量に対する感度は大きなものとなる。
【0035】
このように、変曲点Piの移動(変曲径Dpiの変動)は、結晶内における圧力方向の変化をもたらし、この変化により結晶内部に蓄積される残留応力が大きなものとなると考えられるため、この残留応力の蓄積を抑制するには、中央凸面の凸度の変化を規制すればよいといえる。また、凹面径Dccの変動は、結晶内における多結晶化につながりやすいが、単結晶化率を高める観点からも、この凹面径Dccの変動と連動する、中央凸面の凸度の変化を規制すればよいこととなる。
【0036】
このような観点から、同一インゴットから切り出したウエハを精査したところ、中央凸面の凸度の変化量が大きい部分では反り量が大きいウエハが、凸度の変化量が小さい部分では反り量が小さいウエハが得られるとの知見が得られた。また、本発明者は、凸度の変化量のウエハの反り量に与える影響は、凸面の向き(凹凸量の増減方向)にはよらず、凸度の変化量そのものに対して有意であるとの知見も得たことから、この中央凸面の凸度の変化量を少なくすることで、反り量の小さいウエハを得られるとの結論を得て、本発明に至ったものである。
【0037】
なお、上記の知見より、本発明は、成長界面の形状が、中央凸面(下向き凸状)ではなく、中央凹面(上向き凸状)を形成している場合にも適用可能であることを意味するが、上述のように、中央凹面を形成している場合には、多結晶化不良やリネージ不良などの他の結晶欠陥をもたらす危険性が高いため、本発明の製造方法では、少なくとも直胴部の成長段階では、成長界面の形状が中央凸面を形成するように調整がなされる。ただし、育成初期である肩径の成長段階の初期では、成長界面はフラットまたは上向き凸状の形状から、上述のように下向き凸状に変化していくことになるが、この際にも、この成長界面の凸度の変化量を規制することが好ましい。
【0038】
本発明に係るGaP単結晶の製造方法において、中央凸面の凸度の変化量を低減させるためには、この中央凸面を形成するタイミングが重要となる。本発明では、この中央凸面が形成されるタイミングを、結晶の頂上部がB23層中にある段階としている。特に、肩径成長の早い段階から中央凸面が形成されるようにして、かつ、成長界面の傾斜角をほぼ一定に保持したまま、緩やかに凸度を増加させることが好ましい。
【0039】
中央凸面の形成タイミングが遅い場合には、結晶の頂上部がB23層を抜け出たときに放熱量が変化するため、肩径の成長とともに凸度が急激に大きくなり、その後の直胴部の成長段階において、この凸度の変化量を一定範囲内に制御することが困難となる。このように製品となる直胴部における下向き凸度の変化量が所定範囲を超えると、この部分から得られるGaP単結晶ウエハにおいて、大きな反りを生ずる可能性が高くなる。
【0040】
また、上述のように、育成終了段階において、中央凸面の凸度を減少させる調整がなされる際に、下向き凸度の変化量が所定範囲を超えると、この部分から得られるGaP単結晶ウエハについても、大きな反りを生ずる可能性が高くなる。
【0041】
本発明では、上記のような中央凸面の凸度が変化しやすい段階を含む育成の全段階(肩径の成長段階で中央凸面が形成された後、育成終了段階まで)において、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおけるGaP単結晶と融液の間の固液界面形状、すなわち成長界面の中央凸面の凸度の変化量を±1.3mm以内、好ましくは±1.0mm以内に規制している。この凸度の変化量が±1.3mmを超えると、得られたGaP単結晶の結晶内部に蓄積される残留応力が大きくなり、このGaP単結晶から得られたGaP単結晶ウエハの厚さを240μm以下とした場合に、その反り量を40μm以下に規制し、かつ、反り量が40μm以下であるGaP単結晶ウエハの収率を90%以上とすることが困難となる。特に、この凸度の変化量を±1.0mm以内に規制することにより、その収率を95%以上とすることが可能となる。
【0042】
この中央凸面の凸度の結晶長さが1mmに対する変化量ΔTは、図1に示すように、任意の2箇所位置での単結晶と融液の固液界面形状における中央凸面の凸度(外周凹面の単結晶側頂部から中央凸面の融液側頂部Ccvまでの軸方向距離)をそれぞれA1、A2とし、任意の引き上げ距離に対する結晶長さをL3とした場合に、ΔT=(A2−A1)/L3で表される値で示される。
【0043】
このように中央凸面の凸度の変化量ΔTが所定範囲内となるように調整するためには、目的とする単結晶ウエハの大きさや使用する結晶育成装置に応じて、引き上げ速度、結晶回転/ルツボ回転速度、制御出力や温度プログラムなどの育成条件を適宜調整することが必要となる。
【0044】
たとえば、一般的な結晶育成装置を用いて、目的とするウエハ径70〜80mmのGaP単結晶ウエハを得るために、直胴部の平均直径が72〜85mmのGaP単結晶を育成する。通常、引き上げ速度を1〜6mm/hの範囲で、種結晶の回転速度を1〜6rpmの範囲で、石英ルツボの回転速度を種結晶と同方向に1〜16rpmの範囲で、それぞれ調整しながら制御する。
【0045】
育成条件の調整幅は結晶育成装置ごとに異なってくるが、いずれの装置においても、上記の引き上げ速度と回転速度を調整することにより、当業者には固液界面形状の凸度を制御することが可能である。回転速度を所定範囲内に調整することで、融液中に強制対流を生じさせ、固液界面形状を制御することが可能となる。結晶とルツボの回転速度が同じである場合、回転速度が速いほど固液界面形状の凸度を小さくすることができるため、凸度の変化量ΔTを小さくすることも可能となるが、多結晶化が発生しやすくなる。また、引き上げ速度についても、この速度が速いほど固液界面形状の凸度を小さくすることが可能となるが、多結晶化が起こりやすくなってしまう。このような観点から、上記育成条件は所定範囲内に制限されることとなる。
【0046】
実際には、このようなGaP単結晶が得られる条件範囲内にて、引き上げ距離に対して結晶径成長速度や質量変化をモニタリングしながら、上記パラメータを含む前記育成条件のそれぞれを適切に調整することとなるが、これらの調整には、所定の育成環境が整備されていることが前提となる。
【0047】
この育成環境は、融液の径方向と縦方向の温度勾配を適正な配置とすることで整備されるが、このためには、保温材の配置、保温材の厚さ、ウエハ径に対するルツボの内径比の設定、ルツボの上部放熱量に対する下部放熱量の比、ルツボ上部の保温性、B23層の厚さなどを、目的とする単結晶ウエハの大きさや使用する結晶育成装置に応じて、事前にバランスよく調整することが必要となる。
【0048】
本発明者は、この中でも、ウエハ径に対するルツボの内径比を一定範囲とすることが最も有効であることを見出した。これは、肩径の成長段階の初期に固液成長界面の形状を凸面となるように調整することが比較的容易であるばかりでなく、結晶径を調整するための他のパラメータに対して与える影響が少なく、急激な凸度の変化量を容易に抑制することができるためである。
【0049】
ここで、GaP単結晶の結晶径ではなく、GaP単結晶ウエハのウエハ径を基準とするのは、GaP単結晶の結晶径は、育成中の熱環境などの影響により変動するため、これを基準とすると育成条件の設定が複雑化するためである。GaP単結晶ウエハの製造工程では、GaP単結晶を円筒加工して目的のウエハ径とした後、GaP単結晶ウエハを切り出す。この際の円筒加工による縮径量は、直胴部の平均直径の1〜10%程度である。内部歪みは外周付近が最も大きく、結晶径が大きいほど歪みが増加傾向となるため、ウエハ径が同一の場合には、この縮径量の内部歪みに対する相関性は低いものとなる。たとえば、ウエハ径70〜80mmのGaP単結晶ウエハを得るためには、育成工程において、直胴部の平均直径が72〜85mmのGaP単結晶を成長させている。このように、GaP単結晶径とGaP単結晶ウエハのウエハ径との関係が限定されていることから、変動するパラメータである結晶径ではなく、変動しないGaP単結晶ウエハのウエハ径を基準とすることができ、かつ、好ましいといえる。
【0050】
本発明では、結晶育成に用いるルツボの内径をLc、目的とするGaP単結晶ウエハのウエハ径をLwとしたときの、Lc/Lw比が1.7以上1.9以下、好ましくは、1.7以上1.8以下としている。
【0051】
c/Lw比が1.7未満の場合には、ルツボ中心部と外周部の高温域との距離が小さく、融液中の温度勾配が大きくなるため、肩径の成長段階におけるヒータ出力や温度の調整量を大きくする必要があるとともに、凸面も形成し難いので、肩径の成長段階において、その後の直胴部の成長段階に影響を与えるような急激な凸度の増加が見られたり、あるいは、直胴部の成長初期段階においてもこのような現象が起きたりして、内部歪みが増大する。さらに、育成終了段階では、調整量が大きくなるため、内部歪みが増加しやすく、反り量の小さいGaP単結晶ウエハを効率よく得ることができない。
【0052】
一方、Lc/Lw比が1.9を超える場合、反り量の小さいGaP単結晶ウエハを得ることはできるが、引き上げ距離を長くする必要があるため、結晶育成に要する時間が長くなる。また、装置上のストロークに制約がある場合に長尺の結晶が得られないため、好ましくない。引き上げ速度を速くして時間短縮を無理に図ろうとすると、温度変動が大きくなり、結果的に多結晶化が多く発生することとなる。また、ヒータ径の大型化によって、保温材の厚さが薄くなることで温度調整が安定しなくなり、多結晶化が発生する場合もある。
【0053】
このように本発明では、育成の全段階でGaP単結晶の中央凸面の凸度の変動を所定範囲内に抑制するための条件として、上記のGaP単結晶ウエハのウエハ径に対する、結晶育成に用いるルツボの内径比(Lc/Lw)を規制している。このLc/Lw比が本発明の規定する範囲を超えた場合には、他の育成条件を制御しても、上記の中央凸面の凸度の変動を規制する効果が十分に得られない。一方、Lc/Lw比が本発明の規定する範囲にある場合には、その他の育成条件を、目的とするGaP単結晶ウエハのサイズや育成環境などに応じて、当業者は適宜調整することが可能となる。
【0054】
たとえば、一般的な結晶育成装置を用いて、直胴部の平均直径が80〜82mmのGaP単結晶を育成する場合には、通常、ヒータ横の保温材の厚さは18〜30mmの範囲、保温材とルツボの距離を20〜40mm、上部放熱量に対する下部放熱量の比は40〜60%の範囲、B23層の厚さは10〜20mmの範囲で、適宜調整される。
【0055】
上記のように、石英ルツボの内径を含む、育成環境に関する条件を調整した上で、結晶育成にあたって、GaP単結晶の育成状況をADCなどの従来からあるプログラムにてモニタリングしながら、上述した育成条件のそれぞれを適宜調節することにより、GaP単結晶の中央凸面の凸度およびその変動を一定範囲内に容易に調整することができる。特に、本発明では、従来考慮されていなかった凸度の変動について、その変動が著しい肩径の成長段階と育成終了段階において、GaP単結晶の結晶内部に歪みが残留することを極力回避することを可能にしている。
【0056】
このようにして得られたGaP単結晶を円筒加工し、[100]方位が主面となるように所定の厚さに切り出した後、鏡面加工を行い、必要に応じてベベル加工を施すことでGaP単結晶ウエハを得ることができる。これらの加工には、公知の手段を用いることができる。なお、円筒加工における加工代は、目的とするGaP単結晶ウエハのウエハ径に対する育成されたGaP単結晶の平均直径の関係に応じるが、目的とするウエハ径が70mmの場合には、GaP単結晶の直胴部の平均直径が72〜76mm程度の場合、2〜6mm程度となる。
【0057】
本発明の製造方法により得られるGaP単結晶ウエハは、ウエハ径が70mm以上、厚さが240μm以下とした場合であっても、反り量が40μm以下となる。また、GaP単結晶の直胴部の広い範囲にわたって、反り量が40μm以下であるGaP単結晶ウエハを安定的に得ることができる。
【0058】
なお、本発明は、GaP単結晶ウエハの製造のみに限定されるものではなく、LEC法で製造されるGaAsやInPなどのIII−V族化合物半導体の製造においても適用可能である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により、制限されることはない。
【0060】
(実施例1)
内径が130mmφの石英ルツボを用いて、ウエハ径が76mmのウエハを得るためGaP単結晶の製造をおこなった。このときのウエハ径に対するルツボの内径比Lc/Lwは1.71であった。
【0061】
また、ヒータ横の保温材の厚さを22mm、保温材とルツボの距離を22mm、ルツボの下部放熱量に対する上部放熱量の比を45%、引き上げ前のB23層の厚さを10mmに設定した。
【0062】
圧力容器内に載置されている、石英ルツボ内に、リン化ガリウム(GaP)多結晶原料2000gと、不純物材料として硫化硫黄(Ga23)を硫黄(S)換算で50mgを投入し、その上に、液体封止剤として酸化ホウ素(B23)を350g載置した後、圧力容器の上部シャフトに、直径が5mm角、長さが60mmの種結晶を配置した。
【0063】
圧力容器中を真空引きした後、窒素(N)ガスを15kg/cm2入れて、カーボンヒータにより、ルツボ底の温度にて、GaP多結晶を融点より高い温度である1520℃まで加熱して、十分に融解させた。
【0064】
その後、固液成長界面近傍がGaPの融点(1480℃)の近傍である1470℃付近に調整し、[100]の方位の種結晶をGaP融液中に浸漬し、育成の各段階を通じて、引き上げ距離1mm当たりの凸度の最大変化量が±1.0mm程度となるように、育成条件を調整した。具体的には、種結晶を1〜6rpmの回転数の範囲で、石英ルツボを、種結晶と同方向に1〜16rpmの回転数の範囲で、それぞれ調整しながら回転させ、引き上げ速度を1〜6mm/hの範囲で適宜調整して、制御出力や温度をプログラムで管理しながら、質量1850g、直胴部の平均直径が82mm、結晶長が90mmのインゴットを育成した。
【0065】
このインゴットを直胴部の直径が76mmとなるように円筒加工(7.3%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が15〜85mmの直胴部をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径が76mmのウエハを約150枚得た。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は99%であった。
【0066】
なお、GaP単結晶を円筒加工した後、肩部およびGaP単結晶底部の凸部分を除いた製品となる部分のうち、引き上げ方向における種結晶に最も近い位置から10mmまでの部分が直胴部の成長初期段階、最も遠い位置から5mmまでの部分が育成終了段階、これらの成長初期段階と育成終了段階の間の部分が直胴部成長段階に相当する。
【0067】
同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で5mm、20mmの位置で9mm、25mmの位置で12mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は、最大で+0.8mmであった。その後はほぼ一定値を維持し、直胴部成長段階の変化量は、最大でー0.1mmであった。また、育成終了段階の変化量は、最大で−0.4mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、7mmであった。
【0068】
(実施例2)
ウエハの厚さを180μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶ウエハを得た。1本のインゴットから得られるウエハは約155枚であった。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は95%であった。
【0069】
(実施例3)
目的とするウエハ径を73mmとし、Lc/Lwを1.78としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が79mm、結晶長が95mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(7.6%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が20〜88mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径73mmのGaP単結晶ウエハを約160枚得た。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は99%であった。
【0070】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で5mm、20mmの位置で10mm、25mmの位置で14mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は、最大で+1.0mmであった。その後はほぼ一定値を維持し、直胴部成長段階の変化量は、最大でー0.1mmであった。また、育成終了段階の変化量は、最大で−0.4mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、8mmであった。
【0071】
(実施例4)
内径が135mmφの石英ルツボを用いたこと、目的とするウエハ径を76mmとし、Lc/Lwを1.78としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が83mm、結晶長が95mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(8.4%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が17〜85mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが220μm、ウエハ径76mmのGaP単結晶ウエハを約150枚得た。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は99%であった。
【0072】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で4mm、20mmの位置で9mm、25mmの位置で11mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は、最大で+1.0mmであった。その後、中央凸面の凸度は緩やかに減少し、直胴部成長段階の変化量は、最大で−0.08mmであった。また、育成終了段階の変化量は、最大で−0.3mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、6mmであった。
【0073】
(実施例5)
内径が135mmφの石英ルツボを用いたこと、目的とするウエハ径を76mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が81mm、結晶長が102mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(6.2%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が15〜92mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径76mmのGaP単結晶ウエハを得た。このときのLc/Lwは1.78であった。1本のインゴットから得られるウエハは約170枚であった。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は99%であった。
【0074】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径形成中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で5mm、20mmの位置で9mm、25mmの位置で12mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は最大で+0.8mmであった。その後、中央凸面の凸度は緩やかに減少し、直胴部成長段階の変化量は最大で−0.12mmであった。また、育成終了段階の変化量は最大で−0.3mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、7mmであった。
【0075】
(実施例6)
内径が135mmφの石英ルツボを用いたこと、目的とするウエハ径を76mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が83mm、結晶長が96mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(8.4%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が17〜84mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径76mmのGaP単結晶ウエハを得た。このときのLc/Lwは1.78であった。1本のインゴットから得られるウエハは約150枚であった。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、すべてのウエハの反り量は40μm以下であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は97%であった。
【0076】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で7mm、20mmの位置で8mm、25mmの位置で12mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は、最大で+0.8mmであった。その後、中央凸面の凸度は緩やかに増加し、直胴部成長段階の中盤で17mmと最大となり、その変化量は最大で+0.4mmであった。その後、直胴部成長段階の後半にかけて中央凸面の凸度は減少に転じ、その変化量は最大で−0.4mmであった。また、育成終了段階の変化量は最大で−0.5mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、5mmであった。
【0077】
(比較例1)
内径120mmφの石英ルツボを使用し、液体封止剤としてB23を300g投入し、ウエハ径73mmのウエハを得るために、Lc/Lwを1.64としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が81mm、結晶長98mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(6.1%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が5〜85mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径73mmのGaP単結晶ウエハを約150枚得た。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、反り量が40μm以下のウエハの割合は60%であり、反り量が30μm以下のウエハの割合は55%であった。
【0078】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で1mm、20mmの位置で4mm、25mmの位置で13mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は+1.8mmであった。GaP単結晶の成長をモニタリングしながら、育成条件を制御したものの、中央凸面の凸度の変化量を制御できなかったものと考えられる。
【0079】
その後、中央凸面の凸度は緩やかに増加し、直胴部成長段階の中盤で20mmと最大となり、その変化量は最大で+0.17mmであった。その後、成長段階の後半にかけて中央凸面の凸度は減少に転じ、その変化量は最大で−0.2mmであった。また、育成終了段階の変化量は最大で−1.5mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、5mmであった。
【0080】
(比較例2)
内径が125mmφの石英ルツボを用いたこと、目的とするウエハ径を76mmとしLc/Lwを1.64としたこと以外は、実施例4と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が83mm、結晶長が95mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(8.4%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が20〜80mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが200μm、ウエハ径76mmのGaP単結晶ウエハを約140枚得た。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、反り量が40μm以下のウエハの割合は80%であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は75%であった。
【0081】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように、[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で2mm、20mmの位置で5mm、25mmの位置で12mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は+1.4mmであった。GaP単結晶の成長をモニタリングしながら、育成条件を制御したものの、中央凸面の凸度の変化量を制御できなかったものと考えられる。
【0082】
その後、中央凸面の凸度は緩やかに増加し、直胴部成長段階の中盤で17mmと最大となり、その変化量は最大で+0.4mmであった。その後、成長段階の後半にかけて中央凸面の凸度は減少に転じ、その変化量は最大で−0.4mmであった。また、育成終了段階の変化量は最大で−1.3mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、5mmであった。
【0083】
(比較例3)
内径が125mmφの石英ルツボを用いたこと、目的とするウエハ径を76mmとしたこと以外は、実施例4と同様にして、GaP単結晶の製造を行い、直胴部の平均直径が82mm、結晶長が98mmのインゴットを得た。このインゴットに実施例1と同様の円筒加工(7.3%縮径)を施し、種結晶からの軸方向の距離が19〜87mmの部分をワイヤ切断し、さらに鏡面加工を施し、厚さが240μm、ウエハ径76mmのGaP単結晶ウエハを得た。このときのLc/Lwは1.64であった。1本のインゴットから得られるウエハは約140枚であった。これらのウエハの反り量を、干渉縞により測定したところ、反り量が40μm以下のウエハの割合は85%であり、かつ、反り量が30μm以下のウエハの割合は84%であった。
【0084】
また、同様の条件で製造した別のサンプルのインゴットを、その中心軸を通るように、[011]の方位に縦切りして、エッチングにより成長縞を観察した。成長界面の凸度を種結晶より5mm間隔で確認したところ、種結晶から10mm付近の肩径成長中に中央下向き凸面となり、15mmの位置で2mm、20mmの位置で4mm、25mmの位置で11mmと増加し、かつ、この成長初期段階における中央凸面の凸度の変化量がもっとも大きく、引き上げ方向の結晶長1mm当たりの変化量は+1.4mmであった。GaP単結晶の成長をモニタリングしながら、育成条件を制御したものの、中央凸面の凸度の変化量を制御できなかったものと考えられる。
【0085】
その後、中央凸面の凸度は緩やかに増加し、直胴部成長段階の中盤で15mmと最大となり、その変化量は最大で+0.4mmであった。その後、成長段階の後半にかけて中央凸面の凸度は減少に転じ、その変化量は最大で−0.1mmであった。また、育成終了段階の変化量は最大でも−1.0mmであった。なお、GaP単結晶底部の凸度は、5mmであった。
【0086】
【表1】

【符号の説明】
【0087】
1 GaP単結晶育成装置
2 圧力容器
3 保温材
4 ルツボ
5 GaP溶液
6 液体封止剤
7 カーボンヒータ
8 シャフト
9 種結晶
10 GaP単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体封止引き上げ法によるGaP単結晶の製造方法において、GaP単結晶を加工して得られるGaP単結晶ウエハのウエハ径LWに対する、結晶育成に用いるルツボの内径Lcの比Lc/Lwを1.7以上1.9以下とし、かつ、引き上げ方向の結晶長1mmあたりにおける、育成中のGaP単結晶と融液の間の固液界面形状の凸度の変化量を±1.3mm以内に規制することを特徴とする、GaP単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記固液界面形状の凸度の変化量を±1.0mm以内に規制することを特徴とする、請求項1に記載のGaP単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のGaP単結晶の製造方法により得られ、直胴部の平均直径が72〜85mmの範囲にあり、かつ、ウエハ径70〜80mmのGaP単結晶ウエハを得るためのGaP単結晶であって、該GaP単結晶を、その中心軸を通るように[011]の方位に切断して、エッチングにより成長縞を観察した場合、成長界面の凸度の変化量が±1.3mm以内であることを特徴とする、GaP単結晶。
【請求項4】
請求項1または2に記載のGaP単結晶の製造方法により得られ、円筒加工がさらに施されたGaP単結晶であって、直胴部の直径が70〜80mmの範囲にあり、該直胴部から、厚さ240μm以下のGaP単結晶ウエハを切り出した場合に、反り量が40μm以下であるGaP単結晶ウエハの収率が90%以上となることを特徴とする、GaP単結晶。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87045(P2013−87045A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232139(P2011−232139)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】