説明

リン含有ビニル系モノマーおよびその製造方法、それを用いてなるリン含有重合物ならびにそれを含む樹脂組成物

【課題】ノンハロゲン化による環境面が考慮され、優れた難燃性を備え、難燃成分の染み出しや析出を抑制することのできるリン含有ビニル系モノマーおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】置換または無置換の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと、末端不飽和アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルとを反応させることにより得られるリン含有ビニル系モノマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラスチック材料に対する難燃性を付与する際に用いられる、リン含有ビニル系モノマーおよびその製造方法、それを用いてなるリン含有重合物ならびにそれを含む樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種プラスチック製品を製造する際に用いられるプラスチック材料には、難燃性を付与するために種々の難燃剤が配合されており、従来から、ハロゲン元素を含有する化合物を配合させることにより難燃性を付与することが行なわれている(特許文献1参照)。このような難燃性の付与において、近年、環境負荷の回避という観点から、ハロゲン系物質を含まない難燃剤を用いる手法が要望されており、例えば、リン酸エステル、ホスファゼン化合物や、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物等を難燃剤として用い添加する手法が主に採用されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−42526号公報
【特許文献2】特開2005−283762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記リン酸エステルやホスファゼン化合物等のリン化合物は、難燃性に優れるものの添加型難燃剤であるために、高温高圧時の染み出しや、高温高湿下での析出等の問題を有している。また、上記金属水酸化物に関しては、大量に添加しないと所望の難燃性を確保することが困難であることから、大量添加により難燃性以外の諸特性を満足させることが困難となる等の問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ノンハロゲン化による環境面が考慮され、優れた難燃性を備え、難燃成分の染み出しや析出を抑制することのできるリン含有ビニル系モノマーおよびその製造方法、それを用いてなるリン含有重合物ならびにそれを含む樹脂組成物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の一般式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマーを第1の要旨とする。
【化1】

【0007】
そして、上記リン含有ビニル系モノマーを製造する方法であって、下記の一般式(3)で表される化合物と、下記の一般式(4)で表される化合物とを反応させるリン含有ビニル系モノマーの製造方法を第2の要旨とする。
【化2】

【化3】

【0008】
さらに、上記リン含有ビニル系モノマーを含むエチレン性不飽和基含有化合物を重合してなるリン含有重合物であって、下記の一般式(2)で表される構造単位を含有するリン含有重合物を第3の要旨とする。
【化4】

【0009】
また、上記リン含有重合物を含有する樹脂組成物を第4の要旨とする。
【0010】
すなわち、本発明者らは、難燃性を有する反応型のリン含有化合物としてエチレン性不飽和基含有リン化合物(リン含有モノマー)を用い、これを他のエチレン性不飽和基含有化合物と共重合して共重合物を作製し、染み出しや析出の抑制効果に優れた樹脂組成物を得るために一連の研究を重ねた。その研究の過程で、上記特定の構造を有するリン含有ビニル系モノマーなる新規な化合物を作製し、これを用いることを想起した。そして、この特定のリン含有ビニル系モノマーを用い、これを他のエチレン性不飽和基含有化合物と共重合させて、上記特定の構造単位を含有する共重合体であるリン含有重合物を作製しこれを用いると、側鎖にリン原子を含有することから優れた難燃性を奏するとともに、これを各種成形材料の難燃成分として用いると、成形体からの難燃剤成分の染み出しや析出が抑制されることを見出し本発明に到達した。
【0011】
本発明のリン含有ビニル系モノマーを作製するにあたっては、特公平4−39473号公報に開示された、含リンエポキシ化合物およびその製造方法を参考とした。上記公報には、「P−H基結合を有するリン化合物と、ビニル基を含有するグリシジルエステル化合物とを反応せしめると、P−H基はビニル基と極めて良好に選択的かつ定量的に付加反応を起し、エポキシ基とは付加反応を起こし難いことを知り、本発明を完成した。」と記載されている。本発明者らは、この記載を参考とし、異なる構造のエチレン性不飽和基を分子中に各1個、合計2個有する化合物にP−H結合を有する含リン化合物を反応させると、上記2個のエチレン性不飽和基のいずれか一方に選択的に付加反応することが可能ではないかと想起し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明は、上記一般式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマーである。また、このリン含有ビニル系モノマーを重合してなるリン含有重合物であって、上記一般式(2)で表される構造単位を含有するリン含有重合物である。このため、上記化合物はノンハロゲン化による優れた難燃性を有するとともに、これを難燃剤として用いた場合、難燃剤成分の析出が抑制された樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0013】
このようなリン含有ビニル系モノマーは、上記一般式(3)で表される化合物と上記一般式(4)を反応させることにより容易に製造することができる。
【0014】
本発明のリン含有重合物を用いてなる組成物は、各種成形材料の用途に用いることが可能であり、例えば、上記リン含有重合物とともにエチレン性不飽和基含有重合性化合物、光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物としての用途があげられる。具体的には、カバー絶縁層形成材料としての用途があげられ、これを用いて形成されてなるフレキシブルプリント配線回路基板は、電子部品を実装して実装基板とし、例えば、携帯電話等の小型機器等のフレキシブルプリント配線回路基板として用いられる。
【0015】
そして、上記エチレン性不飽和基含有重合性化合物として、上記一般式(a)で表されるビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物を用いると、感光性樹脂組成物として用いた場合、露光感度および現像性に優れたものが得られるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0017】
本発明のリン含有ビニル系モノマーは、下記の一般式(1)で表される化合物であって、その分子構造中にリン原子(P)を含有することから難燃性向上に対して有効であり、またアリル基を含有することから、他のエチレン性不飽和基含有化合物と共重合することが可能となるため、特に難燃性を必要とする各種用途に対して有用となる。
【0018】
【化5】

【0019】
上記式(1)においては、後述の式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマーの付加反応による製造にて記載したように、中でも、R1およびR2がともに水素原子であり、X1がメチル基で、X2が単結合となるものが好適である。なお、本発明において、単結合とは式(1)〔式(4)も同様〕において、X2を介して上下に結合する−CH2−と−O−とが直接結合することを意味する。
【0020】
すなわち、本発明のリン含有ビニル系モノマーは、例えば、つぎのようにして作製することができる。まず、下記の一般式(3)で表される化合物と、下記の一般式(4)で表される化合物を準備し、両者を実質的に当モル比の割合にて、加圧または常圧(101.3kPa)下、加熱し、付加反応させることにより作製することができる。
【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
上記加熱条件としては、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜160℃にて、好ましくは1〜12時間、より好ましくは2〜10時間の設定があげられる。
【0024】
また、加圧条件としては、具体的には、好ましくは0.1〜0.5MPaに設定することが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4MPaである。
【0025】
上記反応は、必要に応じて不活性溶媒中にて行なうことができる。上記反応に用いられる不活性溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ソルベントナフサ、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0026】
上記一般式(3)で表される化合物の中でも、材料の入手し易さという観点から、R1およびR2がともに水素原子となるものが好適に用いられる。また、上記一般式(4)で表される化合物の中でも、材料の入手し易さという観点から、X1がメチル基で、X2が単結合となるものが好適に用いられる。したがって、本発明のリン含有ビニル系モノマーである前記一般式(1)においては、R1およびR2がともに水素原子であり、X1がメチル基で、X2が単結合となるものが好適である。
【0027】
本発明のリン含有ビニル系モノマーは、単独であるいは他のエチレン性不飽和基含有化合物と共重合させることによりリン含有重合物を作製するものであり、得られるリン含有重合物は、下記の一般式(2)で表される構造単位を含有するものである。
【0028】
【化8】

【0029】
上記リン含有ビニル系モノマーと共重合させる他のエチレン性不飽和基含有化合物としては、用途に応じて様々な化合物を用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、スチレン、α−スチレン、ビニルトルエン、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシ等があげられる。これらは単独もしくは2種以上併せて用いられる。
【0030】
上記リン含有重合物は、詳しくは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、不活性雰囲気下、前述のようにして得られるリン含有ビニル系モノマーの不活性溶媒中において、加温しながら、エチレン性不飽和基含有化合物および必要に応じてラジカル重合開始剤等を適宜加えて、両者を共重合反応させることによりリン含有重合物を作製することができる。
【0031】
上記加温条件としては、好ましくは50〜160℃、より好ましくは60〜150℃の範囲に設定される。
【0032】
上記リン含有ビニル系モノマーとエチレン性不飽和基含有化合物との共重合割合は、用途に応じて適宜設定される。例えば、難燃性の向上・付与という観点からは、得られるリン含有重合物中のリン原子(P)の含有量が少なくとも1重量%であることが好ましく、より好ましくは少なくとも2重量%となるよう両者の共重合割合が設定される。得られるリン含有重合物のリン原子(P)の含有量が少なすぎると、充分な難燃性が得られ難くなる傾向がみられる。
【0033】
本発明のリン含有ビニル系モノマーを用いて得られるリン含有重合物は、それ自体難燃剤として用いられる。または、これに他の化合物を加えて様々な用途、例えば、成形材、膜材、接着材、表面保護材等に適宜用いられる。
【0034】
上記他の化合物としては、用途に応じて適宜に選択されるが、例えば、熱硬化性化合物、光硬化性化合物、熱硬化剤、光硬化剤(光重合開始剤)、熱硬化触媒、光硬化触媒、他の難燃剤(本発明の効果を阻害しない範囲内にて使用)、充填剤、可塑剤、着色剤、溶媒等があげられる。
【0035】
つぎに、本発明のリン含有ビニル系モノマーを用いて得られるリン含有重合物を用いた樹脂組成物について説明する。
【0036】
上記樹脂組成物は、難燃性付与のために、上記リン含有重合物を含有するものであり、さらにリン含有ビニル系モノマーを適宜配合することもできる。
【0037】
上記樹脂組成物について、感光性樹脂組成物を例にあげて説明する。
【0038】
上記感光性樹脂組成物は、例えば、上記リン含有重合物とともに、エチレン性不飽和基含有重合性化合物と、光重合開始剤と、熱硬化性化合物とを用いて得られる。さらには、これらに加えて前述のリン含有ビニル系モノマーを難燃成分して用いることもできる。
【0039】
上記リン含有重合物とともに用いられるエチレン性不飽和基含有重合性化合物としては、例えば、感光性樹脂組成物という用途を考慮した場合、半田耐熱性、耐折性、アルカリ現像性等の特性バランスに優れる点から、下記の一般式(a)で表されるビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート化合物があげられる。
【0040】
【化9】

【0041】
上記式(a)中、炭素数2〜6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基等があげられる。特にエチレン基であることが好ましい。
【0042】
上記イソプロピレン基は、−CH(CH3 )CH2 −で表される基であり、上記一般式(a)中の−(O−Y1 )−および−(Y2 −O)−において結合方向は、メチレン基が酸素と結合している場合とメチレン基が酸素に結合していない場合の2種類があり、1種類の結合方向でもよいし、2種類の結合方向が混在していてもよい。
【0043】
上記−(O−Y1 )−および−(Y2 −O)−の繰り返し単位がそれぞれ2以上のとき、2以上のY1 および2以上のY2 は、互いに同一であってもよく異なっていてもよい。そして、Y1 およびY2 が2種以上のアルキレン基で構成される場合、2種以上の−(O−Y1 )−および−(Y2 −O)−は、ランダムに存在してもよいし、ブロック的に存在してもよい。
【0044】
また、上記一般式(a)中の、2個のベンゼン環の置換可能な位置には、1個以上の置換基を有していてもよく、2個以上の置換基を有する場合には、それら置換基は互いに同じであっても異なっていてもよい。このような置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、アリル基、炭素数1〜10のアルキルメルカプト基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基、アルキル基の炭素数が1〜10のカルボキシアルキル基、アルキル基の炭素数が1〜10のアシル基、炭素数1〜20のアルコキシ基または複素環を含む基等があげられる。
【0045】
上記一般式(a)中の、繰り返し数p,qは、p+qが4〜40となるよう選ばれる正の整数であり、より好ましくはp+qが4〜15となるよう選ばれる正の整数であり、特に好ましくはp+qが5〜13となるよう選ばれる正の整数である。すなわち、p+qが小さ過ぎると、耐折性が低下する傾向がみられ、p+qが大き過ぎると、感光性樹脂組成物全体の系が親水性を示し、高温高湿下での絶縁信頼性に劣る傾向がみられるからである。さらに、繰り返し数pは、1〜30の正数である。
【0046】
上記一般式(a)で表されるビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2,2′−ビス〔4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル〕プロパン、2,2′−ビス〔4−(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル〕プロパン、2,2′−ビス〔4−(メタ)アクリロキシペンタエトキシフェニル〕プロパン、2,2′−ビス〔4−(メタ)アクリロキシジエトキシオクタプロポキシフェニル〕プロパン、2,2′−ビス〔4−(メタ)アクリロキシトリエトキシオクタプロポキシフェニル〕プロパン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。さらに、具体的には、新中村化学社製のBPE500等があげられる。
【0047】
つぎに、上記光重合開始剤としては、例えば、置換または非置換の多核キノン類(2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン等)、α−ケタルドニルアルコール類(ベンゾイン、ピバロン等)、エーテル類、α−炭化水素置換芳香族アシロイン類(α−フェニル−ベンゾイン、α,α−ジエトキシアセトフェノン類等)、芳香族ケトン類(ベンゾフェノン、N,N′−テトラエチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン等の4,4′−ビスジアルキルアミノベンゾフェノン等)、チオキサントン類(2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−エチルチオキサントン等)、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−モルホリノプロパン−1−オン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0048】
そして、上記熱硬化性化合物としては、例えば、エポキシ化合物、ブロックイソシアネート等を用いることが好ましい。
【0049】
上記エポキシ化合物としては、その用途を考慮した場合、耐熱性と可撓性の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等を用いることが好ましい。中でも、耐熱性と可撓性のバランスの点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。
【0050】
また、上記ブロックイソシアネートとしては、具体的には、住化バイエルウレタン社製のスミジュールBL−3175、BL−1100、BL−3272、BL−1265等が用いられる。
【0051】
感光性樹脂組成物における、上記各成分の含有量は、つぎのように設定される。まず、上記リン含有重合物の含有量は、感光性樹脂組成物全体の30〜70重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは35〜65重量%である。すなわち、リン含有重合物の含有量が少なすぎると、難燃性に劣る傾向がみられ、その含有量が多すぎると耐熱性に劣る傾向がみられるからである。
【0052】
上記エチレン性不飽和基含有重合性化合物の含有量は、感光性樹脂組成物全体の3〜30重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは5〜25重量%である。すなわち、エチレン性不飽和基含有重合性化合物の含有量が少なすぎると、感光性樹脂組成物への露光の際の感度が悪くなる傾向がみられ、その含有量が多すぎると、アルカリ現像性が低下する傾向がみられるからである。
【0053】
上記光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成物全体の0.2〜10重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜8重量%である。すなわち、光重合開始剤の含有量が少なすぎると、感度が不充分となる傾向があり、その含有量が多すぎるとアルカリ現像性が低下する傾向がみられるからである。
【0054】
上記熱硬化性化合物の含有量は、感光性樹脂組成物の不揮発成分全体中の3〜40重量%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは5〜30重量%である。すなわち、熱硬化性化合物の含有量が少なすぎると、耐熱性が不充分となる傾向があり、その含有量が多すぎると、現像性が低下する傾向がみられるからである。
【0055】
さらに、上記感光性樹脂組成物には、上記各成分以外に必要に応じて、他の添加剤、すなわち、フタロシアニングリーン,フタロシアニンブルー等の顔料、シリカ,硫酸バリウム,タルク等の充填剤、消泡剤、レベリング剤、他の難燃剤、安定剤、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールや5−アミノ−1−H−テトラゾール等の密着性付与剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤等を適宜配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、これら他の添加剤は、感光性樹脂組成物全体の0.01〜30重量%の範囲内で用いることが好ましい。
【0056】
上記感光性樹脂組成物は、上記各成分を所定の含有量となるように配合し混合することにより得られる。そして、上記感光性樹脂組成物は、必要に応じて有機溶剤と混合して用いることができる。上記有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ソルベントナフサ、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、トルエン、キシレン、メシチレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶剤またはこれらの混合溶剤を用いることができる。
【0057】
上記有機溶剤を用いる場合は、例えば、感光性樹脂組成物100重量部に対して0〜200重量部程度混合して用いることができる。
【0058】
上記感光性樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線回路基板等の配線回路基板用のソルダーレジスト(カバー絶縁層形成材料)として有用である他、塗料、コーティング剤、接着剤等の用途としても使用することができる。
【0059】
上記感光性樹脂組成物をフレキシブルプリント配線回路基板用のソルダーレジスト(カバー絶縁層形成材料)として用いる際には、例えば、つぎのようにして使用される。以下、順を追って説明する。
【0060】
まず、所定の導体回路パターンが形成されたフレキシブルプリント配線回路基板を準備する。そして、このフレキシブルプリント配線回路基板の導体回路パターン形成面に、スクリーン印刷法、スプレー法、ロールコート法、静電塗装法等により、乾燥後の厚みが5〜50μmとなるように感光性樹脂組成物を塗布し、50〜160℃で1〜60分間程度乾燥させた後、ネガ型またはポジ型パターンのマスクフィルムを塗膜に直接接触させ、あるいは接触させずに設置し、ついで活性光線を照射する。
【0061】
または、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の透明支持フィルム上に、感光性樹脂組成物を乾燥後の厚みが5〜50μmとなるように塗布・乾燥し、乾燥した感光性樹脂組成物の上にポリエチレン等の保護フィルムを貼り合わせることにより、感光性樹脂組成物を含む積層体を作製する。
【0062】
つぎに、上記積層体の保護フィルムを剥離した後、これをフレキシブルプリント配線回路基板の導体回路パターン形成面に貼り合わせ、上記マスクフィルムを透明支持フィルムに直接接触させ、あるいは接触させずに設置し、ついで活性光線を照射した後、積層体の透明支持フィルムを剥離する。
【0063】
上記活性光線の光源としては、公知の各種光源、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハイドライドランプ等の紫外線を有効に照射するものが用いられる。また、写真用フラッド電球、太陽ランプ等の可視光を有効に照射するものも用いられる。なお、上記活性光線の照射条件としては、例えば、10〜1000mJ/cm2 程度に設定することが好ましい。
【0064】
ついで、アルカリ性水溶液等の現像液を用いて、例えば、スプレー,揺動浸漬,ブラッシング,スクラッピング等の公知の方法により未露光部を除去して現像し、レジストパターンを製造する。
【0065】
上記現像に用いるアルカリ性水溶液としては、0.1〜5重量%炭酸ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5重量%炭酸カリウムの希薄溶液、0.1〜5重量%水酸化ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5重量%四ホウ酸ナトリウムの希薄溶液等を用いることができる。
【0066】
つぎに、現像後、半田耐熱性,耐薬品性等を向上させる目的で、加熱による架橋反応を行なう。上記加熱条件としては、100〜260℃程度の範囲で1〜10時間程度行なうことが好ましい。さらに、上記加熱に加えて、必要に応じて高圧水銀ランプや低圧水銀ランプによる紫外線照射を加熱の前または後に行うこともできる。上記紫外線の照射量は、0.2〜10J/cm2 程度に設定することが好ましい。
【0067】
このようにして導体回路パターン上にソルダーレジスト(カバー絶縁層)が形成されたフレキシブルプリント配線回路基板が得られる。そして、このソルダーレジスト(カバー絶縁層)が形成されたフレキシブルプリント配線回路基板は、その後、半田付け等によって、LSI、ダイオード、トランジスタ、コンデンサ等の電子部品を実装して実装基板とし、例えば、携帯電話等の小型機器等に装着されることとなる。
【実施例】
【0068】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0069】
まず、下記にしたがって、リン含有ビニル系モノマーを合成した。
【0070】
〔実施例1〕
〔リン含有ビニル系モノマーの合成(付加反応)〕
9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド100gと、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート158.4gを窒素雰囲気下で500mlのセパラブルフラスコに入れ、撹拌しながら加温して溶解させ、140℃まで昇温させた。これに、メタクリル酸アリル58.4gを2時間かけて滴下し、滴下終了後も引き続き140℃で3時間反応させることにより、メタクリル酸アリルのメタクリロイル基に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドが付加した化合物のジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液(固形分濃度50重量%)(反応溶液α)を作製した。
【0071】
得られた化合物をフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)で分析したところ、メタクリロイル基に起因する1620cm-1付近のピークが消失し、アリル基に起因する1635cm-1付近のピークが残っていることを確認した。また、得られた化合物の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて測定したところ、分子量342に相当するピークのみ検出された(反応溶媒分子量である分子量176に相当するピークは除く。)。
【0072】
これらの結果から、得られた化合物が、一般式(1)において、X1がCH3、R1,R2がともにH、m,nがともに4、X2が単結合である化合物(分子量342)であることを確認した。
【0073】
〔実施例2〕
〔リン含有重合物aの合成〕
上記付加反応で作製した反応溶液α〔メタクリル酸アリルのメタクリロイル基に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドが付加した化合物のジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液〕132.4g(固形分66.2g)と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート33.8gを窒素雰囲気下で500mlのセパラブルフラスコに入れ、撹拌しながら100℃になるまで加温した。これに、メタクリル酸20g、アクリル酸ブチル13.8g、アゾビスイソブチロニトリル(ラジカル重合開始剤)1.6gを混合溶解したものを窒素雰囲気下で6時間かけて滴下し、滴下終了後も100℃を保ちながら窒素雰囲気下で2時間撹拌を続けることにより、リン含有重合物aの溶液を得た〔固形分50重量%、カルボン酸当量計算値:430、リン原子(P)含有率計算値:6%、重量平均分子量:40000〕。
【0074】
〔比較例1〕
〔重合物bの合成〕
メタクリル酸メチル40g、メタクリル酸20g、アクリル酸ブチル40g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100g、アゾビスイソブチロニトリル(ラジカル重合開始剤)1.6gを窒素雰囲気下で300mlのセパラブルフラスコに入れ、撹拌しながら加温し、100℃で5時間反応させることにより、カルボキシル基含有線状重合体(重合物b)溶液(固形分50重量%)を得た〔カルボキシル基含有線状重合体のカルボン酸当量計算値:430、リン原子(P)含有率計算値:0%、重量平均分子量:40000〕。
【0075】
上記のようにして得られた実施例2のリン含有重合物a、比較例1の重合物bを用い、かつ下記に示す各成分を準備して後記の表1に示す配合組成となるよう各成分を混合することにより感光性樹脂組成物を作製した。なお、表1中の配合成分の配合量は、不揮発分の重量部を示し、配合成分量の合計が100重量部となる。
【0076】
〔エチレン性不飽和基含有重合性化合物〕
エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型メタクリレート〔前記式(a)中のp+q=10、BIS−A系アクリレート:新中村化学社製,BPE500〕
〔難燃剤b〕
環状ホスファゼンオリゴマー(大塚化学社製、SPB−100)
〔光重合開始剤〕
チバガイギー社製、Irgacure369
〔エポキシ化合物〕
ジャパンエポキシレジン社製、JER1055(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
〔密着性付与剤〕
5−アミノ−1−H−テトラゾール
【0077】
得られた感光性樹脂組成物の特性評価を下記の方法に従って行ない、その結果を後記の表1に併せて示した。
【0078】
〔難燃性〕
厚み25μmのポリイミドフィルムの片面に、上記各感光性樹脂組成物溶液を、乾燥後の膜厚みが20μmとなるように塗布、乾燥(80℃×30分)した後、その膜表面に、さらに厚み38μmの表面シリコーン処理済みポリエチレンテレフタレート(PET)製カバーフィルムを密着させ積層体を作製した。ついで、この積層体に250Wの超高圧水銀灯にて、300mJ/cm2の露光量で紫外線を照射した。その後、上記カバーフィルムを剥離し、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて圧力0.2MPaで90秒間現像して、さらに水道水にて30秒間洗浄した後、熱風循環式乾燥機にて150℃にて8時間熱処理を行なった。
【0079】
同様にしてポリイミドフィルムの裏面にも感光性樹脂組成物の膜を形成した。これを難燃性試験規格UL94に準拠した装置(東洋精機社製、UL燃焼テストチャンバー)および方法(VTM法)に従って難燃性を評価した。後記の表1に示すように「VTM−0」を難燃性試験での合格とした。
【0080】
〔難燃剤の析出〕
厚み25μmのポリイミドフィルムの片面に、上記各感光性樹脂組成物溶液を、乾燥後の膜厚みが20μmとなるように塗布、乾燥(80℃×30分)した後、その膜表面に、さらに厚み38μmの表面シリコーン処理済みポリエチレンテレフタレート(PET)製カバーフィルムを密着させ積層体を作製した。ついで、この積層体に250Wの超高圧水銀灯にて、300mJ/cm2の露光量で紫外線を照射した。その後、上記カバーフィルムを剥離し、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて圧力0.2MPaで90秒間現像して、さらに水道水にて30秒間洗浄した後、熱風循環式乾燥機にて150℃にて8時間熱処理を行なうことにより試料を作製した。
【0081】
上記試料を65℃×95%RHの恒温恒湿槽に投入し、1000時間経過した後の試料表面を倍率50倍の顕微鏡を用いて目視にて観察し、下記の基準に従い評価した。
○:試料表面に析出物が確認されなかった。
×:試料表面に析出物が確認された。
なお、比較例1の感光性樹脂組成物を用いた試料表面において確認された析出物をFT−IRを用いて分析したところ、難燃剤成分であるSPB−100(大塚化学社製、環状ホスファゼンオリゴマー)とピークがほぼ一致することを確認した。
【0082】
【表1】

【0083】
上記結果から、リン含有重合物aを用いた実施例2は優れた難燃性を示すとともに、難燃剤成分の析出が確認されず、難燃剤の析出が効果的に抑制されたことがわかる。これに対して、重合物bを用いた比較例1は難燃性に関しては、実施例と同等の難燃性が得られ問題はなかったが、難燃剤成分が析出してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のリン含有ビニル系モノマーは、難燃性に優れており、これを用いてリン含有重合物を得て、難燃剤成分として各種成形材料の配合成分として用いることができる。例えば、このリン含有重合物を配合した感光性樹脂組成物を作製し、フレシキブルプリント配線回路基板のカバー絶縁層形成材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマー。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の一般式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマーを製造する方法であって、下記の一般式(3)で表される化合物と、下記の一般式(4)で表される化合物とを反応させることを特徴とするリン含有ビニル系モノマーの製造方法。
【化2】

【化3】

【請求項3】
請求項1記載の一般式(1)で表されるリン含有ビニル系モノマーを含むエチレン性不飽和基含有化合物を重合してなるリン含有重合物であって、下記の一般式(2)で表される構造単位を含有することを特徴とするリン含有重合物。
【化4】

【請求項4】
上記エチレン性不飽和基含有化合物が、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの少なくとも一方を含む請求項3記載のリン含有重合物。
【請求項5】
請求項3または4記載のリン含有重合物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、エチレン性不飽和基含有重合性化合物、光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物である請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
上記エチレン性不飽和基含有重合性化合物が、下記の一般式(a)で表されるビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート化合物である請求項6記載の樹脂組成物。
【化5】


【公開番号】特開2011−153193(P2011−153193A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14822(P2010−14822)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】