説明

リン含有高分子固定化パラジウム触媒およびその使用

【課題】 本発明は、パラジウム触媒を両親媒性のリン含有架橋性高分子中に固定することにより調整された高分子固定化パラジウム触媒とこの触媒を用いた有機合成反応方法を提供する。
【解決手段】 パラジウムを架橋高分子に担持させてなる高分子固定化パラジウム触媒であって、該架橋高分子が、芳香族側鎖、親水性側鎖、架橋基、及び−PR(式中、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で表されるリン含有基を有する架橋性高分子を架橋させてなることを特徴とする高分子固定化パラジウム触媒である。この高分子担持パラジウム触媒は、例えば良溶媒中に溶解した該架橋性高分子とパラジウム化合物の溶液に貧溶媒を加えて相分離を生じさせることにより、該架橋性高分子に該パラジウムの超微粒子を担持したミセルを形成した後、該架橋性高分子を架橋反応に付すことによって形成されることが好ましい。この触媒は、鈴木−宮浦カップリング反応やアルキンのアルケンへの選択的水素化反応に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム触媒を両親媒性の架橋ポリスチレン系高分子中に固定することにより調整された高分子固定化パラジウム触媒及びこの触媒を用いる選択的な水素化反応方法、更に鈴木−宮浦カップリング反応に関し、より詳細には、前者はアルキンのアルケンへの選択的水素化反応、後者は有機ホウ素化合物ハロゲン化アリールとのクロスカップリング反応によるビアリール化合物、アルキルアリール化合物又は置換オレフィンの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子固定化触媒を用いる反応は、触媒と生成物との分離が容易であり、触媒の回収・再使用が可能になるため経済性、資源の有効利用、環境保全の観点から着目されている。しかし、一般的に均一系で使用する触媒を不溶性の担体に固定した場合、触媒活性や反応の選択性が低下する場合が多い。また、固定した触媒が反応時や後処理時に担体から漏出する問題もしばしば生ずる。そこで、高活性、高選択性、安定で使用時に触媒の漏出が起こらない触媒の担体への固定化法が求められている。
【0003】
本発明者らは、パラジウム、スカンジウム、オスミウム、ルテニウムなどの金属を物理的、あるいは静電的相互作用を利用して芳香族系高分子上に固定化する、全く新しい金属の固定化法(マイクロカプセル化法)を開発した(特許文献1〜2、非特許文献1)。その後、この手法はパラジウムにおいて、高分子鎖を架橋することなどの改良により、より高機能を有する触媒の調整法に発展している。すなわち、側鎖にエポキシ基及び水酸基を有する架橋性高分子に、マイクロカプセル化法でパラジウムを固定した後、無溶媒条件下、加熱することで容易に架橋反応が進行し、通常の溶媒に不溶の"高分子固定化パラジウム触媒"が得られる(特許文献3、非特許文献2〜4)。この高分子固定化パラジウム触媒は、従来の高分子固定化パラジウム触媒に比べると、パラジウムクラスターのサイズが小さいことにより高活性であり、架橋していることから耐溶剤性に優れ、金属の漏出が無く、回収再使用が容易である。この触媒を水素化反応に用いるとアルキンは速やかにアルカンに還元される。
【0004】
一方、パラジウムは遷移金属触媒の中でも最も古くから用いられている代表的な触媒であり、反応の種類も多い。代表的な不均一系パラジウム触媒として、接触還元等に用いられているパラジウム活性炭があるが、このものはアルキンのアルカンへの還元には有効であるがアルケンを得る目的には適さない。
アルキンからアルケンへの還元は医薬品や農薬などの製造過程でしばしば必要であり、この目的のためにはパラジウム系の不均一系触媒、中でもパラジウム-炭酸カルシウムを酢酸鉛(II)で被毒したLindlar(リンドラー)触媒が最も用いられており、アセチレン化合物の部分水素化に高選択性を示すことがよく知られている(非特許文献5)。また、粘土であるモンモリロナイト中にジフェニルホスフィノ基を導入しパラジウムを配位させた触媒が同様の反応において高い選択性を示すことが報告されている(非特許文献6)。しかし、これらの触媒は、選択性は優れているものの、触媒の回収・再使用が困難、あるいは鉛を用いる点で環境保護の観点から問題が残されている。
【0005】
また、近年パラジウム触媒を用いた様々な反応が開発されている。例えば、鈴木−宮浦カップリング反応、Heck反応、薗頭アセチレンカップリング反応、Stilleクロスカップリング反応などの炭素−炭素結合形成反応や、アリル位置換反応、Buchwald-Hartwigクロスカップリング反応(アミノ化反応)などは有機合成上重要な反応となっている。なお、これらの反応の多くはホスフィン配位子を必要とする。
これらの反応に対しても様々な固定化パラジウム触媒(非特許文献7)が検討されているが、先に述べたような触媒の固定化による様々な問題により実用化されたものは少ない。
一方、本発明者らが開発した、マイクロカプセル化法と芳香族性高分子の架橋反応を用いて製造した高分子固定化パラジウム触媒は、パラジウムクラスターのサイズが小さため高活性であり、パラジウムの漏出も少なく、様々な反応に有効である。本固定化パラジウム触媒においてパラジウムは0価で、ホスフィンフリーの状態で固定されているため、これを用いる反応ではホスフィンの外部添加が有効である。しかし、ホスフィンを外部添加した場合、反応終了後に生成物とホスフィン配位子を分離する操作が必要となり、回収した触媒を再使用する際には再度ホスフィンの外部添加が必要となる(非特許文献4)。
【特許文献1】特開2002-66330
【特許文献2】特開2002-253972
【特許文献3】WO2004/024323
【非特許文献1】Kobayashi, S.; Akiyama, R. Chem. Commun. 2003, 449.
【非特許文献2】Akiyama, R., Kobayashi, S. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3412.
【非特許文献3】K.Okamoto et al. J.Org.Chem. 69, 2871(2004).
【非特許文献4】K.Okamoto et al. Org.Lett. 6, 1987(2004).
【非特許文献5】Suzuki, T. et al. Tetrahedron Lett. 42, 65(2001).
【非特許文献6】J. Org. Chem. 54, 2998(1989).
【非特許文献7】Uozumi, Y. Topics in Current Chemistry, 242, 77-112 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ホスフィン配位子の添加を必要とせずに種々のパラジウム触媒反応に有効で、使用後の回収と再使用が容易な、繰り返し使用しても活性低下の無い、反応中及び後処理中にパラジウムの漏出が無い高分子固定化パラジウム触媒の提供を目的とする。更に、本発明はアルキンのアルケンへの部分水素化が可能な高分子固定化パラジウム触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、高分子固定化パラジウム触媒(特許文献3等)の高分子鎖に3価のリン原子を共有結合により導入する検討を開始した。3価のリン化合物は外部添加されるホスフィンとしての役割、接触還元においてアルキンからアルケンへの部分水素化を可能にする触媒毒としての役割、さらにはパラジウムと高分子担体との相互作用を強めることによりパラジウムの漏出を防止する役割が期待できる。その結果、芳香族側鎖、親水性基、架橋基、及び3価のリン原子を有する架橋性高分子とパラジウム化合物を原料として、マイクロカプセル化とそれに続く架橋反応により架橋高分子に固定したパラジウム触媒が、ホスフィンの外部添加を必要とせずに鈴木−宮浦カップリング反応を進行させ、アルキンからアルケンへの部分水素化を可能にすることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、パラジウムを架橋高分子に担持させてなる高分子固定化パラジウム触媒であって、該架橋高分子が、芳香族側鎖、親水性側鎖、架橋基、及び−PR(式中、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で表されるリン含有基を有する架橋性高分子を架橋させてなることを特徴とする高分子固定化パラジウム触媒である。
また,本発明は、この触媒の存在下で、R−C≡C−R(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表す。)で表されるアルキンを水素化することから成る、R−CH=CH−Rで表されるアルケンの製法である。
更に本発明は、この触媒の存在下で、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリール又はハロゲン化ビニルとをクロスカップリング反応(鈴木−宮浦カップリング)させることから成るビアリール化合物、アルキルアリール化合物又は置換オレフィン類の製法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高分子固定化パラジウム触媒は、パラジウムが架橋性高分子中の芳香環又はリン原子との相互作用により超微粒子として担持された形態を有する。このパラジウムは0価であることが好ましい。
【0010】
パラジウムを高分子に担持させる方法としては、このように担持出来る方法であれば特に限定されないが、例えば、上記の構造を有する架橋性高分子とパラジウム前駆体とを良溶媒に溶解しておき、貧溶媒を加えて析出させる。良溶媒が極性溶媒の場合は当該高分子内部に親水基が集まりやすく、逆の場合は当該高分子外部に集まりやすい。このように親水基部分と疎水基部分とが明確に分離した場合、当該高分子はミセルまたは逆ミセル構造を取っていると考えられる。一方、ミセルを形成しない場合もあり、その場合は親水基の分布はそれ程厳密ではない。また、ミセルを形成させるためには当該高分子の構造(疎水性記と親水性基の割合や位置)を適切なものにする必要がある。
パラジウム超微粒子はそれぞれのミセル様凝集体及び非ミセル様凝集体において芳香族側鎖との相互作用、リン原子との相互作用、及び架橋分子の立体的な拘束により担持されている。
【0011】
尚、極性の良溶媒としてはTHF、ジオキサン、アセトン、DMF、NMPなどがあり、非極性の良溶媒としてはトルエン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用できる。極性の貧溶媒としてはメタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコールなどがあり、非極性の貧溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用できる。また、良溶媒及び貧溶媒として混合溶媒を用いることも可能である。良溶媒に溶解した架橋性高分子の濃度は用いる溶媒によっても異なるが、極性溶媒中で約1〜100 mg/mLが好ましい。
【0012】
また、ここで、パラジウム前駆体とは、パラジウムを含む適当な化合物(例えば、酸化物、ハロゲン化物、配位子との錯体等)のことであるが、パラジウムを適当な配位子と錯体を形成させたものが好ましい。このような配位子との錯体を使用する場合、前駆体中のパラジウムは上記したごとき構造を有する高分子が有する芳香環、或いは3価のリン原子との配位子交換により高分子に担持される。尚、パラジウム前駆体中のパラジウムが0価以外のものである場合にはミセル形成時に還元処理を行うことにより担持されたパラジウムを0価とすることが出来る。
【0013】
このような配位子として、例えば、ジメチルフェニルホスフィン(P(CH3)2Ph)、ジフェニルホスフィノフェロセン(dPPf)、トリメチルホスフィン(P(CH3)3)、トリエチルホスフィン(P(Et)3)、トリtert-ブチルホスフィン(P(tBu)3)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)、トリメトキシホスフィン(P(OCH3)3)、トリエトキシホスフィン(P(OEt)3)、トリtert-ブトキシホスフィン(P(OtBu)3)、トリフェニルホスフィン(PPh3)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、トリフェノキシホスフィン(P(OPh)3)、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン等の有機ホスフィン配位子、1,5−シクロオクタジエン(COD)、ジベンジリデンアセトン(DBA)、ビピリジン(BPY)、フェナントロリン(PHE)、ベンゾニトリル(PhCN)、イソシアニド(RNC)、トリエチルアルシン(As(Et)3)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アセチルアセトナト、シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、エチレン、カルボニル、アセテート、トリフルオロアセテート、ビフェニルホスフィン、エチレンジアミン、1,2-ジフェニルエチレンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、アセトニトリル、ヘキサフルオロアセチルアセトナト、スルホネート、カーボネート、ハイドロオキサイド、ナイトレート、パークロレート、サルフェート等が挙げられる。これらの中で、有機ホスフィン配位子、1,5−シクロオクタジエン(COD)、ジベンジリデンアセトン(DBA)、ビピリジン(BPY)、フェナントロリン(PHE)、ベンゾニトリル(PhCN)、イソシアニド(RNC)、及びトリエチルアルシン(As(Et)3)が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリtert−ブチルホスフィン、及びトリ−o−トリルホスフィンがより好ましく、トリフェニルホスフィンが特に好ましい。
【0014】
本発明の架橋性高分子は芳香族側鎖と親水性側鎖を有することを要し(両親媒性高分子)、更に架橋基及びリン含有基を有することを要する。この高分子は更に芳香族側鎖以外の疎水性側鎖を有してもよい。これら側鎖を複数種有していてもよい。また架橋基とリン含有基はこれらの側鎖のいずれに結合していてもよく、また高分子主鎖に直接結合してもよいが、好ましくは芳香族側鎖を含む疎水性側鎖若しくは親水性側鎖又は両者に、より好ましくは芳香族側鎖に結合する。
【0015】
芳香族側鎖として、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。
アリール基としては、通常炭素数6〜10、好ましくは6のものが挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
尚、本明細書において定義されている炭素数はその基が有する置換基の炭素数を含まないものとする。
アラルキル基としては、通常炭素数7〜12、好ましくは7〜9のものが挙げられ、具体的には、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
アリール基及びアラルキル基に於ける芳香環はアルキル基、アリール基、アラルキル基などの疎水性置換基を有していてもよい。
【0016】
芳香環が有していてもよいアルキル基としては、直鎖状でも分枝状でも或いは環状でもよく、環状の場合には単環でも多環でもよく、通常炭素数1〜20、好ましくは1〜12のものが挙げられ、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、n-オクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0017】
芳香環が有していてもよいアリール基及びアラルキル基としては、上記した如き芳香族基としてのアリール基及びアラルキル基と同様なものが挙げられる。
これら芳香環が有していてもよい置換基は、アリール基及びアラルキル基に於ける芳香環に通常1〜5個、好ましくは1〜2個置換していてもよい。
疎水性側鎖としてのアルキル基としては、上記した如き芳香環が有していてもよいアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0018】
芳香族側鎖以外の疎水性側鎖としては、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が挙げられる。
【0019】
親水性側鎖としては、比較的短いアルキル基、例えば、炭素数が1〜6程度のアルキレン基に−R(Rは−OH又はアルコキシ基、好ましくは−OHを表す。)が結合したもの、−R(OR、−R(COOR又は−R(COOR(OR(式中、Rは上記と同様であり、Rは共有結合又は炭素数1〜6のアルキレン基、好ましくは共有結合又は1〜2のアルキレン基を表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2〜4、好ましくは2のアルキレン基を表し、m、n及びpは1〜10の整数、oは1又は2を表す。)で表されるものが好ましい。このような親水性側鎖として、−CH(OCOHや−CO(OCOH等が挙げられる。
【0020】
架橋基としては、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、水酸基、1級若しくは2級のアミノ基、及びチオール基、好ましくはエポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、及びチオイソシアネート基が挙げられ、これらの架橋基は必要に応じて単独又は組み合わせて用いてもよい。
【0021】
高分子に含まれる架橋基の好ましい組み合わせとしては、エポキシ基のみ、エポキシ基と水酸基、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、イソシアネート基又はチオイソシアネート基と水酸基、イソシアネート基又はチオイソシアネート基とアミノ基、イソシアネート基又はチオイソシアネート基とカルボキシル基等が挙げられる。このなかで、エポキシ基と水酸基の組み合わせが好ましい。
高分子が架橋基を複数種有する場合、架橋基の結合位置に制限はないが、異なる位置の側鎖に含まれていることが好ましい。
【0022】
リン含有基は、−PR(3価のリン化合物)で表される。式中、Rはアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。Rはそれぞれ同じであっても異なってもよいが、同じであることが好ましい。
アルキル基としては、直鎖状でも分枝状でも或いは環状でもよく、環状の場合には単環でも多環でもよく、通常炭素数1〜20、好ましくは1〜12のものが挙げられる。
アリール基としては、通常炭素数6〜10、好ましくは6のものが挙げられ、例えば、フェニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、通常炭素数7〜12、好ましくは7〜9のものが挙げられ、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
本発明の高分子固定化パラジウム触媒において、リン原子は3価の状態でコポリマー合成及び架橋反応に供しても良いが、モノマーの段階で5価のホスフィンオキシドとして導入し、架橋反応後にトリクロロシランなどの還元剤と処理することにより3価のホスフィンに変換してもよい。
【0023】
架橋性高分子はこれら側鎖、架橋基及びリン含有基を有するものであればいかなるものであってもよいが、これらを有するモノマーを重合させたものが好ましい。またこのようなモノマーとして、付加重合のための二重結合や三重結合、例えば、ビニル基、アセチレン基など、好ましくはビニル基を持つものが好ましい。
【0024】
本発明の架橋性高分子の例として、下記の架橋性高分子が挙げられる。
(A)1)芳香族側鎖、親水性側鎖及び重合性二重結合を有するモノマー、2)芳香族側鎖及び重合性二重結合を有するモノマー、3)架橋基を有する芳香族側鎖及び重合性二重結合を有するモノマー、及び4)芳香族側鎖及び重合性二重結合を有するモノマーの芳香族側鎖に上記リン含有基を有するモノマーを共重合することにより得られる架橋性高分子、
(B)1)疎水性側鎖、架橋基を有する親水性側鎖又は疎水性側鎖、リン含有基を有する親水性側鎖又は疎水性側鎖、及び重合性二重結合を有する少なくとも1種のモノマーを重合又は共重合することにより得られる架橋性高分子、又は
(C)1)疎水性側鎖、架橋基を有する親水性側鎖及び重合性二重結合を有するモノマー、2)疎水性側鎖及び重合性二重結合を有するモノマー、及び3)架橋基を有する親水性側鎖又は疎水性側鎖及び重合性二重結合を有するモノマーから成る群から選択される少なくとも2種のモノマー、並びに4)リン含有基を有する疎水性側鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを共重合することにより得られる架橋性高分子が挙げられる。
【0025】
本発明の架橋性高分子として、好ましくは(A)の架橋性高分子である。
ここで、同種のモノマーは2以上の異なるモノマーを含むものであってもよい。
また、芳香族側鎖及び重合性二重結合を有するモノマーとしてスチレン系モノマーが好ましい。スチレン系モノマーとして、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、α-エチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられ、中でもスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0026】
このような架橋性高分子と上記のパラジウム前駆体を良溶媒に溶解した後、適当な貧溶媒を加えて相分離を起こすことにより、パラジウムをポリマー凝集物又はミセル様集合体に取り込むことができる。この際、パラジウム前駆体の配位子の一部若しくは全てが脱離する現象が認められる。また、パラジウムは通常0価で固定されるが、パラジウム前駆体がイオンの場合は相分離の際に還元処理することにより0価のパラジウムとして固定できる。ここで、良溶媒中のポリマーの濃度は約1〜100 mg/ml、パラジウム前駆体の量はポリマーに対して0.01〜0.5(w/w)、貧溶媒の量は良溶媒に対して0.2〜10(v/v)用いられ、貧溶媒の添加時間は通常10分〜2時間かけて行われる。相分離の際の温度は特に制限はないが、通常室温で行われる。
【0027】
架橋性高分子を架橋させて架橋高分子とするための架橋反応は、架橋基の種類により、加熱や紫外線照射により反応させることができる。架橋反応は、これらの方法以外にも、使用する直鎖型有機高分子化合物を架橋するための従来公知の方法である、例えば架橋剤を用いる方法、縮合剤を用いる方法、過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合触媒を用いる方法、酸又は塩基を添加して加熱する方法、例えばカルボジイミド類のような脱水縮合剤と適当な架橋剤を組み合わせて反応させる方法等に準じても行うことができる。
架橋基を加熱により架橋させる際の温度は、架橋基としてエポキシドと水酸基を含む架橋性高分子を用いる場合は通常70〜200℃、好ましくは100〜160℃である。
加熱架橋反応させる際の反応時間は、通常0.1〜100時間、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜5時間である。
【0028】
このようにして得られた高分子固定化パラジウム触媒中のパラジウムは、超微小粒子として架橋高分子中で芳香環との弱い相互作用とリン原子との配位により結合していると考えられる。クラスターサイズは通常、0.7〜数nmである。
【0029】
本発明の高分子固定化パラジウム触媒はアルキンの部分水素化反応に対して優れた選択性を示す。この部分水素化反応としては、還元を受け易い官能基を含む化合物からアルキンを選択的にアルケンに還元できる。例えば、ニトロ基やカルボニル基、エステル基を損なうことなくアルキンをアルケンに変換が可能である。
この水素化反応の基質はR−C≡C−Rで表されるアルキンである。式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアリール基、アルキル基、若しくはアラルキル基を表す。
アルキル基としては、直鎖状でも分枝状でも或いは環状でもよく、環状の場合には単環でも多環でもよく、通常炭素数1〜20、好ましくは1〜12のものが挙げられる。
アリール基としては、通常炭素数6〜10、好ましくは6のものが挙げられ、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、通常炭素数7〜12、好ましくは7〜9のものが挙げられ、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
また、本発明の触媒の効果を減じない限り置換基に特に限定はない。
【0030】
水素化反応は、この基質を、水素雰囲気下又は水素のバブリング下、本発明の触媒の存在下で反応させる。反応の結果、上記基質はR−CH=CH−R(式中、R及びRは上記と同様である。)で表されるアルケン、特にシス体のアルケンに選択的に水素化される。
触媒量は反応基質に対しパラジウムとして0.5%〜10%(mol/mol)程度である。溶媒は基質を溶解するものであれば制限は無く、極性及び非極性、プロトン性及び非プロトン性などいずれの溶媒も使用可能であり、具体的にはアルコール、エーテル系、ハロゲン系、ニトリル系、炭化水素系溶媒、又は水が挙げられる。反応温度は0℃〜60℃で適宜選択すればよいが、好ましくは10℃〜室温である。通常反応時間は、10分間から12時間程度、好ましくは30分間から2時間程度である。反応後は濾過により容易に触媒の回収が可能であり、回収された溶媒は洗浄乾燥するだけで再利用可能である。また、反応中及び回収時に触媒からの金属の漏出は認められず、繰り返し使用しても活性の低下は認められない。
【0031】
また、この触媒を用いることにより、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリール若しくはハロゲン化ビニル又はアリールトリフラート若しくはビニルトリフラートとをクロスカップリング反応させることから成るビアリール化合物、アルキルアリール化合物又は置換オレフィン類を製造することができる(鈴木−宮浦カップリング反応)。
この反応により、例えば、R10B(OR11若しくは(R10B(式中、R10はアリール基、ビニル基又はアルキル基、R11は水素原子又はアルキル基を表す。)とR12X(式中、R12はアリール基又はビニル基、Xはハロゲン原子又はトリフラート基((OTf)3)を表す。)とを反応させ、ビアリール化合物、アルキルアリール化合物、アルケニルアリール化合物又はジエン化合物を製造することができる。
このアリール基としては、通常炭素数6〜10、好ましくは6のものが挙げられ、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。またこのビニル基は適宜置換基を有していてもよい。ハロゲン原子は好ましくはヨウ素原子又は臭素原子である。
この反応はホスフィン配位子を外部添加することなく円滑に進行する。この際、使用する触媒(パラジウム)量は、0.01〜10mol%、好ましくは0.1〜5mol%である。反応基質は、通常の鈴木−宮浦カップリング反応に用いられるのと同様のものが使用でき、ハロゲン化アリールのハロゲンとしては塩素、臭素、ヨウ素を用いることができるが、中でもヨウ素又は臭素が好ましい。反応溶媒としては水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができ、有機溶媒としてはトルエンなどの炭化水素、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類が好ましく、必要に応じてエタノールのようなアルコールなどを添加することもできる。添加する塩基はアルカリ金属の炭酸塩又はリン酸塩などが好適である。反応温度は70℃〜150℃、好ましくは100℃前後であり、例えばトルエン/水系では還流温度が簡便である。反応時間は基質にも拠るが1時間〜24時間、通常は数時間で反応が終了する。
反応後の後処理は、濾過により高分子固定化触媒を除去・回収し、濾液を抽出、濃縮、及び精製操作により目的物を得ることができる。一方、回収した固定化触媒は洗浄・乾燥することにより再使用が可能である。通常、反応及び後処理操作でパラジウムやホスフィン配位子の漏出は無いが、空気中での操作により3価のリンが徐々に酸化されてホスフィンオキシドを生成する場合がある。この酸化反応は極めて遅く、また一部のリンが酸化されても触媒活性は維持される。大部分のリン原子が酸化された場合には、コポリマーの合成の際と同様、シラン化合物などによって元の3価のリンに還元することができる。また、反応及び濾過操作を無酸素下で実施した場合には、リン原子はほとんど酸化されない。
【0032】
更に、本発明の触媒は、パラジウム触媒反応として薗頭アセチレンカップリング反応、Heck 反応、アリル位置換反応、Buchwald/Hartwig型アミノ化反応などのパラジウム触媒反応にも有効である。

以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。以下の実施例及び比較例において、1H NMR及び13C NMRは溶媒としてCDCl3 を内部標準としてテトラメチルシランを用い、日本電子株式会社製 JNM-LA300又はJNM-LA400 により測定した。
【0033】
製造例1
水素化ナトリウム(60%, 4.00 g, 100 mmol) を石油エーテルにて3回洗浄した後、減圧下で乾燥した。そこにジメチルホルムアミド(200 ml) を加え、氷浴にて冷却した。次いでグリシドール(6.6 ml, 99.5 mmol) を攪拌下でゆっくり加えた。反応混合物を室温で1時間攪拌した後、4−ビニルベンジルクロリド(7.0 ml, 49.7 mmol) およびヨウ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(1.84 g, 4.98 mmol) を加え、さらに5時間攪拌した。反応混合物を氷冷しジエチルエーテルで希釈した後、水層をジエチルエーテルで2回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、有機層を減圧濃縮した後、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成して4−ビニルベンジル グリシジル エーテル(7.00 g, 74%) を得た。
1H NMR : 2.60 (dd, 1H, J=2.8, 4.8 Hz), 2.78 (dd, 1H, J=4.0, 4.8 Hz), 3.17 (m, 1H), 3.42 (dd, 1H, J=5.6, 11.2 Hz), 3.74 (dd, 1H, J=2.8, 11.2 Hz), 4.56 (dd, 2H, J=12.0, 22.4 Hz), 5.23 (d, 1H, J=10.8 Hz), 5.74 (d, 1H, J=17.6 Hz), 6.70 (dd, 1H, J=10.8, 17.6 Hz), 7.30 (d, 2H, J=8.0 Hz), 7.39 (d, 2H, J=8.0 Hz)
13C NMR : 40.2, 50.7, 70.7, 72.9, 113.8, 126.2, 127.9, 136.4,, 137.0, 137.4.
【0034】
過tert−ブチルアルコールのデカン溶液(5〜6 M, 12.5 ml) を(50 ml) に希釈し、二酸化セレン(111 mg, 1.0 mmol)、酢酸(90.1 mg, 1.5 mmol) を加え室温下にて30分間攪拌した。次いで2−フェニルプロペン(6.5 ml, 50 mmol) を加えて72時間攪拌した後、反応混合物を減圧濃縮し、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって生成したところ、目的とする3−ヒドロキシ−2−フェニルプロペン(3.98 g, 59 %) を得た。
1H NMR : 1.27 (s, 1H), 4.55 (s, 2H), 5.36 (s, 1H), 5.48 (s, 1H), 7.28-7.40 (m, 3H), 7.42-7.50 (m, 2H).
13C NMR : 65.0, 112.6, 126.0, 127.9, 128.5, 138.4, 147.2.
上記で得た3−ヒドロキシ−2−フェニルプロペン(3.94 g, 29.4 mmol) にs−コリジン(3.84 g, 31.7 mmol) 及び塩化リチウム(1.25 g, 29.4 mmol) のジメチルホルムアミド溶液を加え0℃に冷却した。得られた懸濁液にメタンスルホニルクロリド(2.45 ml, 31.7 mmol) をゆっくり滴下した。反応混合物を8時間かけて室温まで昇温し、ジエチルエーテルで希釈した後、水をゆっくり加えて反応を停止した。有機層を分離した後、水層をジエチルエーテルで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し有機層を減圧濃縮してえら得た粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成して3−クロロ−2−フェニルプロペンを(3.53 g, 79 %) を得た。
1H NMR : 4.50 (s, 2H), 5.49 (s, 1H), 5.60 (s, 1H), 7.30-7.60 (m, 5H).
13C NMR : 46.5, 116.7, 126.1, 128.2, 128.5, 137.6, 143.9.
水素化ナトリウム(60 %, 1.82 g, 45.4 mmol) を石油エーテルにて3回洗浄した後減圧乾燥した。そこにテトラヒドロフラン(70 ml) を加えた後、氷浴にて冷却した。次いで、テトラエチレングリコール(8.81 g, 45.4 mmol) のテトラヒドロフラン(10 ml) 溶液を攪拌下でゆっくり加えた。反応混合物を室温で1時間攪拌した後、上記で得た3−クロロ−2−フェニルプロペン(3.46 g, 22.7 mmol) のテトラヒドロフラン(10 ml) 溶液を加え、さらに12時間攪拌した。反応混合物を冷却しジエチルエーテルで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液をゆっくり加えて反応を停止した。有機層を分離し、水層をジエチルエーテルで2回抽出した。有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、有機層を減圧濃縮して得られた組成性物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成して、テトラエチレングリコール モノ−2−フェニル−2−プロペニル エーテル(4.52 g, 64 %) を得た。
1H NMR : 2.72 (s, 1H), 3.58-3.74 (m, 16H), 4.42 (s, 2H), 5.34 (d, 1H, J=1.2 Hz), 5.53 (d, 1H, J=0.5 Hz), 7.25-7.36 (m, 3H), 7.44-7.52 (m, 2H).
13C NMR : 61.7,, 69.2, 70.3, 70.5, 70.6, 72.4, 73.1, 114.4, 126.1, 127.7, 128.3, 138.7, 144.0.
【0035】
4−ブロモスチレン(5.60 g, 30.6 mmol)をテトラヒドロフラン(100 ml)に室温で溶解し、−78℃に冷却した。n−ブチルリチウム(1.6 M, 36.7 mmol)を加えて30分攪拌した後、クロロジフェニルホスフィン(8.09 g, 36.7 mmol)を滴下した。−78℃で3時間攪拌、さらに室温で1時間攪拌した後、塩化アンモニウムの飽和水溶液を加えた。酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=30/1, 20/1, 10/1)で精製してジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィン(7.40 g)を得た。収率84%。
1H NMR : 5.21-5.25 (d, 1H, J=10.8 Hz), 5.70-5.76 (d, 2H, J=17.6 Hz), 6.61-6.71 (dd, 1H, J=17.6, 10.8 Hz), 7.27-7.31 (m, 14H), 5.21-5.25 (d, 1H, J=10.8 Hz), 5.21-5.25 (d, 1H, J=10.8 Hz);
13C NMR : 114.4, 126.3, 128.5, 128.7, 133.6, 133.8, 134.0, 136.4, 137.2, 137.9 ;
31P NMR : -5.30
【0036】
上記で得た4−ビニルベンジル グリシジル エーテル(782 mg, 4.11 mmol)、上記で得たテトラエチレングリコール モノ−2−フェニル−2−プロペニル エーテル(1.28 g, 4.11 mmol)、上記で得たジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィン(1.18 g, 4.11 mmol)、スチレン(3.00 g, 28.8 mmol)、及び2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)(67.5 mg, 0.411 mmol)にジメチルホルムアミド(DMF)(4.8 mlm)を加え、70℃で24時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、冷メタノール中にゆっくり滴下した。沈殿を濾過により集め、メタノールで洗浄した後、減圧下で24時間乾燥し、白色粉末を得た(3.57 g, 収率57%、Mw:49,330、Mn:25,692、Mw/Mn=1.92(GPC)、以下「コポリマー1a」という。)。
得られたコポリマー中の各モノマー比はNMRにより決定した。
【0037】
製造例2
2-フェニルプロペン (22.4 g, 190 mmol)、N-ブロモスクシンイミド (23.7 g, 133 mmol)及びブロモベンゼン(76 mL)の混合物を160℃ のオイルバス上でN-ブロモスクシンイミドが溶解するまで過熱した。反応混合物を室温まで冷却した後、沈殿物をろ過で取り除きクロロホルムで洗浄した。ろ液を減圧蒸留で精製(b.p. 80-85℃/3 mmHg)し3-ブロモ-2-フェニルプロペン(12.1 g)を得た。
60%水素化ナトリウム (1.6 g, 40 mmol) の DMF(75 mL) 懸濁液にグリシドール(7.4 g, 100 mmol)のDMF(5 mL)溶液を0℃で加えた。次に 上記で得た3-ブロモ-2-フェニルプロペン(3.94 g, 20 mmol)のDMF(10 mL)溶液を同温度で加えた後、室温で24 h撹拌した。反応混合物を0℃に冷却しジエチルエーテルで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した。水層をジエチルエーテルで数回抽出し、有機層を合一し無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane-AcOEt)で精製しグリシジル 2-フェニルプロペニルエーテル(2.66 g, 70 %)を得た。
【0038】
製造例3
各モノマーのモル比をx:y:z:w=78:10:10:2とし、製造例1と同様の方法で、コポリマー1bを得た。
製造例4
各モノマーのモル比をx:y:z:w=75:10:10:5とし、製造例1と同様の方法で、コポリマー1cを得た。
製造例5
各モノマーのモル比をx:y:z:w=65:10:10:15とし、製造例1と同様の方法で、コポリマー1dを得た。
製造例6
4−ビニルベンジル グリシジル エーテルに代えて製造例2で得たグリシジル 2−フェニル−2−プロペニル エーテルを用い、各モノマーのモル比をx:y:z:w=70:10:10:10として、製造例1と同様の方法で、コポリマー1eを得た。
製造例7
各モノマーのモル比をx:y:z:w=65:10:10:15とし、製造例6と同様の方法で、コポリマー1fを得た。
製造例8
ジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィンに代えて(4−((4−ビニルベンジルオキシ)メチル)フェニル)ジメチルホスフィンを用い、各モノマーのモル比をx:y:z:w=70:10:10:10として、製造例1と同様の方法で、コポリマー1gを得た。
【0039】
製造例9
各モノマーのモル比をx:y:z:w=65:10:10:15とし、製造例8と同様の方法で、コポリマー1gを得た。
製造例10
ジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィンに代えてジフェニル(3−ビニルフェニル)ホスフィンを用い、各モノマーのモル比をx:y:z:w=75:10:10:5として、製造例1と同様の方法で、コポリマー1iを得た。
製造例11
ホスフィン含有モノマーを加えず、各モノマーのモル比をx:y:z=80:10:10として製造例1における同様の方法で、コポリマー1jを得た。
製造例12
ジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィンに代えて1−(4−ビニルベンジルオキシ)−3−(ジフェニルホスフィノ)プロパン−2−オールを用い、各モノマーのモル比をx:y:z:w=70:10:10:10として、製造例1と同様の方法で、コポリマー1kを得た。
製造例13
4−ビニルベンジル グリシジル エーテルに代えてグリシジル 4−ビニルフェネチル グリシジル エーテルを用い、各モノマーのモル比をx:y:z:w=65:10:10:15として、製造例1と同様の方法で、コポリマー1lを得た。
製造例14
コポリマー1d(1.00 g)を30%過酸化水素水(1.18 g)及びアセトン(15 ml)中にて室温9時間攪拌することによりコポリマー1m(420 mg)を得た。
【0040】
上記製造例1、3〜14で得たコポリマーを下式に示す。
【化1】

【実施例1】
【0041】
製造例1で得たコポリマー1a(500 mg)とテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(250 mg, 0.216 mmol)のTHF(10 ml)溶液を室温にて24時間攪拌した。この溶液に、空気雰囲気下でヘキサン(15 ml)をゆっくり滴下し12時間放置することで相分離を行った。析出したマイクロカプセル化パラジウムを濾過により集め、ヘキサン洗浄を十分に行った後、24時間減圧乾燥した。その後、無溶媒下、120℃で2時間加熱して高分子を架橋させ、得られた固体をTHFで洗浄後、減圧乾燥した。この固体にトルエン(15 ml)、トリエチルアミン(640 mg, 6.32 mmol)、トリクロロシラン(778 mg, 5.74 mmol)を加え、100℃で20時間攪拌し、一部酸化されて5価になったリン原子を3価に還元した。反応液を室温まで放冷した後、メタノール(10 ml)を加えて濾過した。得られた固体をTHFで十分洗浄した後、減圧乾燥して高分子固定化パラジウム(以下「PI Pd 2a」という。)(505 mg)を得た。
PI Pd 2a(26.0 mg)に濃硫酸(1.0 ml)を加え180℃で30分間加熱した。このものに室温で硝酸(0.5 ml)を加え、再び180℃で60分間加熱することにより高分子を分解した。水(10 ml)を加えた後、再度180℃に加熱して均一溶液とし、このものを蛍光X線分析することによりパラジウム含量(0.29 mmol/g)を決定した。検出限界が約1nmの透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察でクラスターが確認できなかったことから、PI Pd 2a中のパラジウムクラスターのサイズは1nm以下であると推定される。
【0042】
実施例2〜12
実施例1と同様の方法により、コポリマー1aをコポリマー1b〜1lに代えて、高分子固定化パラジウム2b(パラジウム含量:0.27 mmol/g、以下「PI Pd 2b」という。)、高分子固定化パラジウム2c(パラジウム含量:0.12 mmol/g、以下「PI Pd 2c」という。)、高分子固定化パラジウム2d(パラジウム含量:0.31 mmol/g、以下「PI Pd 2d」という。)、高分子固定化パラジウム2e(パラジウム含量:0.32 mmol/g、以下「PI Pd 2e」という。)、高分子固定化パラジウム2f(パラジウム含量:0.28 mmol/g、以下「PI Pd 2f」という。)、高分子固定化パラジウム2g(パラジウム含量:0.27 mmol/g、以下「PI Pd 2g」という。)、高分子固定化パラジウム2h(パラジウム含量:0.32 mmol/g、以下「PI Pd 2h」という。)、高分子固定化パラジウム2i(パラジウム含量:0.38 mmol/g、以下「PI Pd 2i」という。)、高分子固定化パラジウム2k(パラジウム含量:0.27 mmol/g、以下「PI Pd 2k」という。)、高分子固定化パラジウム2l(パラジウム含量:0.29 mmol/g、以下「PI Pd 2l」という。)を得た。反応式を下式に示す。
【化2】

【0043】
実施例13〜14
実施例1の操作のうちトリクロロシランによる還元を行わず、他は同様の方法でコポリマ−1j及び1mから高分子固定化パラジウム2j(パラジウム含量:0.67 mmol/g、以下「PI Pd 2j」という。)及び2m(パラジウム含量: 0.28 mmol/g、以下「PI Pd 2m」という。)を得た。反応式を下式に示す。
【化3】

【0044】
実施例15
2−ブロモトルエン(68.4 mg, 0.400 mmol)、フェニルボロン酸(73.2mg, 0.600 mmol)、PI Pd 2a(12 μmol, 3 mol%)、リン酸カリウム(0.600 mmol)にトルエン−水(4:1, 4 ml)を加え4時間還流した。ヘキサンを加えた後、PI Pd 2aを濾別し酢酸エチルと水で洗浄した。濾液と洗浄液を併せたものを酢酸エチルで抽出、有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、有機相を減圧濃縮、調整用シリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開液:ヘキサン)で精製することにより2−メチルビフェニル(64.8 mg, 収率 96%)を得た。
蛍光X線による分析の結果、反応後の濾液からパラジウムは検出されなかった。
【0045】
実施例16〜20
PI Pd 2aを各種の高分子固定化パラジウム(PI Pd 2b〜PI Pd 2g)に代えて実施例15と同様の反応を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
比較例1
PI Pd 2aをリン原子を含まないPI Pd 2jに代えて実施例15と同様の反応を行ったところ、目的物の収率は9%に低下した(表1)。
比較例2
PI Pd 2aをリン原子を含まないPI Pd 2jに代えて、トリフェニルホスフィン(3 mol%)を外部添加して、実施例15と同様の反応を行ったところ、目的物の収率は16%であった(表1)。
【0047】
実施例21〜28
実施例15の2−ブロモトルエン及びフェニルボロン酸を各種のハロゲン化アリール及び置換フェニルボロン酸に代えて同様の反応を行った。その結果を表2に示す。いずれも高収率で対応するビアリール化合物が得られた。また、触媒からのパラジウムの漏出は認められなかった。
【表2】

【0048】
実施例29
実施例15の2−ブロモトルエンを4−ブロモアセトフェノンに代えて同様の反応を行った。回収した触媒を乾燥後し、同じ反応に繰り返し使用した。結果を表3に示す。5回目の使用でも反応は定量的に進行し、触媒からのパラジウムの漏出は認められなかった。
【表3】

【0049】
実施例30
アルゴン雰囲気下、PI Pd 2d(34.4 mg, 5 mol%)とジフェニルアセチレン(35.6 mg, 0.2 mmol)に、THF(2.0 mL)を加え、水素雰囲気下(風船を使用)、室温にて1時間撹拌した。その後、反応混合物をヘキサンで希釈し、触媒をろ別した。ろ液を、減圧濃縮し、内部標準物質として1,2,4,5-テトラメチルベンゼンを加え、1H NMR分析により生成物を定量した。その結果、下式に示す生成物4、5、6をそれぞれ、63%、6%、20%の収率で得た。本発明の高分子固定化パラジウム触媒により、アセチレン類の還元反応において、水素化が選択的に進行することが明らかになった。なお、蛍光X線分析によりパラジウムの漏出量を測定した結果、漏出は認められなかった。結果を表4に示す。
【0050】
実施例31〜34
実施例30の高分子固定化触媒(PI Pd 2d)と反応条件を変えて同様の反応を検討した。その結果、部分還元が選択的に進行して良好な収率でシスアルケンが得られた(表4)。
【表4】

【0051】
実施例35〜38
高分子固定化触媒(PI Pd 2a)を用いて各種アルキンのアルケンへの部分還元を検討した。その結果、いずれも良好な収率でシスアルケンが得られた。結果を表5に示す。
【表5】

【0052】
実施例39〜41
実施例30と同様の条件下で添加剤としてアミンの効果を検討した。その結果、キノリン、ピリジン、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)などのアミン類において選択性及び目的物の収率の向上が認められた。結果を表6に示す。
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを架橋高分子に担持させてなる高分子固定化パラジウム触媒であって、該架橋高分子が、芳香族側鎖、親水性側鎖、架橋基、及び−PR(式中、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で表されるリン含有基を有する架橋性高分子を架橋させてなることを特徴とする高分子固定化パラジウム触媒。
【請求項2】
前記架橋性高分子が更に芳香族側鎖以外の疎水性側鎖を有する請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記架橋基及び前記リン含有基が、前記芳香族側鎖を含む疎水性側鎖若しくは前記親水性側鎖又は両者に結合する請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記架橋性高分子と前記パラジウムを含む溶液に、極性の異なる貧溶媒を加えることで相分離を生じさせ、相分離によりパラジウムが担持された該架橋性高分子を架橋反応に付すことによって形成された請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記架橋性高分子が、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基又はチオイソシアネート基を有する側鎖を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記架橋性高分子が、更に、水酸基、1級若しくは2級のアミノ基又はチオール基を含む側鎖を少なくとも一種有する請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
前記架橋性高分子がエポキシ基と水酸基をともに持ち、該高分子を加熱による架橋反応に付すことによって形成された請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
前記架橋性高分子が、スチレンを含む重合性モノマーの共重合体である請求項1〜7に記載の触媒。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の触媒の存在下で、R−C≡C−R(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表す。)で表されるアルキンを水素化することから成る、R−CH=CH−Rで表されるアルケンの製法。
【請求項10】
請求項1〜8に記載の触媒の存在下で、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリール又はハロゲン化ビニルとをクロスカップリング反応(鈴木−宮浦カップリング)させることから成るビアリール化合物、アルキルアリール化合物又は置換オレフィン類の製法。

【公開番号】特開2006−231318(P2006−231318A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240807(P2005−240807)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】