説明

リン酸基含有固体高分子電解質(複合)膜及びその製造方法

【課題】燃料電池等に使用するのに十分な高導電性を有するとともに、耐熱性及び耐薬品性に優れた固体高分子電解質複合膜、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸基含有樹脂と補強シートとからなるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質複合膜であって、リン酸基含有樹脂が、下記一般式(A):


(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるプロトン伝導性固体高分子であり、補強シートが無機質又はポリアクリロニトリルの繊維からなるシートである固体高分子電解質複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池、二次電池、燃料電池等の電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜等に好適な固体高分子電解質(複合)膜及びその製造方法に関し、特に有機溶媒を用いることなく、耐熱性、耐薬品性及び寸法安定性に優れ、広い温度範囲及び湿度範囲にわたり高いプロトン伝導性を示す固体高分子電解質(複合)膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質材料として、いわゆる陽イオン交換樹脂に属するポリマー、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー[Polymer Preprints, Japan Vol. 42, No. 7, pp. 2490〜2492 (1993), Polymer Preprints, Japan Vol. 43, No. 3, pp. 735〜736 (1994), Polymer Preprints, Japan Vol. 42, No. 3, pp. 730 (1993)] 等が報告されている。
【0003】
特に側鎖にスルホン酸基を有する固体高分子材料は、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有しているので、粒子状、繊維状又は膜状に成形して、電気透析膜、拡散透析膜、電池隔膜等、各種の用途に利用されている。中でも、Nafion(DuPont社製)の商標で知られるパーフルオロ骨格の側鎖にスルホン酸基を有するフッ素系高分子電解質膜は耐熱性及び耐薬品性に優れ、苛酷な条件下での使用に耐える電解質膜として実用化されている。しかし、上記のようなフッ素系電解質膜は製造が困難であるために、非常に高価であるという問題を抱えている。
【0004】
一方、ポリベンズイミダゾール等の炭化水素骨格を有する耐熱性樹脂にアルキルスルホン酸基又はアルキルリン酸基を導入した固体高分子電解質も報告されている[特開平9-87570号(特許文献1)、特開平9-110982号(特許文献2)]。この固体高分子電解質は、含水状態において100℃の高温下でも高い導電性(10-4〜10-2Scm-1)を示すとともに、優れた耐熱性(重量減少開始温度:250℃以上)を有するが、無水状態では導電性を示さない上、キャストフィルムを作成する際にジメチルアセトアミド等の有害な溶媒を使用しなければならない。またポリベンズイミダゾール等の耐熱性樹脂が非常に高価であるため、コストパフォーマンスの点から自動車用燃料電池等の汎用材料としては問題が多い。またポリベンズイミダゾール骨格に限らず、一般に炭化水素骨格を有する樹脂は耐酸化劣化性に劣るので、耐久性に問題があると報告されている(特開2000-11755号)。さらにより高い導電性を有する固体高分子電解質が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平9-87570号公報
【特許文献2】特開平9-110982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、燃料電池に使用するのに十分な高導電性を有するとともに、機械的強度及び耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等の耐久性に優れた固体高分子電解質複合膜、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、リン酸基含有不飽和単量体及び重合開始剤を含有する組成物を補強シートに含浸させるか塗布した後、重合させることにより、有機溶媒を用いることなく、広い温度範囲及び湿度範囲にわたり高いプロトン伝導性を示す、機械的強度及び耐久性に優れた固体高分子電解質複合膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の第一の固体高分子電解質複合膜は、リン酸基含有樹脂と補強シートとからなり、プロトン伝導性を有するものであって、前記リン酸基含有樹脂が、下記一般式(A):
【化1】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるプロトン伝導性固体高分子であり、前記補強シートが無機質又はポリアクリロニトリルの繊維からなるシートであることを特徴とする。
【0009】
本発明の第一の固体高分子電解質複合膜を製造する方法は、上記一般式(A)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を、上記補強シートに含浸させるか塗布した後、前記リン酸基含有不飽和単量体を重合することを特徴とする。前記リン酸基含有不飽和単量体及び光重合開始剤を含有する組成物を前記補強シートに含浸させるか塗布した後、前記補強シートを紫外線透過性の支持基板に挟み、紫外線を照射することにより前記リン酸基含有不飽和単量体を重合するのが好ましい。
【0010】
本発明の第二の固体高分子電解質複合膜は、リン酸基含有樹脂と補強シートとからなり、プロトン伝導性を有するものであって、
前記リン酸基含有樹脂が、上記一般式(A)により表されるリン酸基含有不飽和単量体(1)と、1個以上のエチレン性不飽和結合を含有するが酸基を含有しない不飽和単量体(2)とからなる共重合体であり、
(2)が(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、置換又は無置換のスチレン類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレート及びジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
(1)/(2)の重量比は95/5〜50/50であり、
前記補強シートが無機質又はポリアクリロニトリルの繊維からなるシートであることを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の固体高分子電解質複合膜を製造する方法は、(a) 上記一般式(A)により表されるリン酸基含有不飽和単量体(1)と、上記不飽和単量体(2)とからなり、(1)/(2)の重量比が95/5〜50/50である混合物を、無機質又はポリアクリロニトリルの繊維のシートからなる補強シートに含浸させるか塗布した後、(b) 前記混合物の共重合を行うことを特徴とする。
【0012】
前記リン酸基含有不飽和単量体(1)のR1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。前記リン酸基含有不飽和単量体(1)は、下記式(B):
【化2】

により表される単量体、及び下記式(C):
【化3】

(ただしnは5又は6の整数を表す)により表される単量体の一方又は両方であるのが好ましい。前記補強シートは織布、不織布又は紙であるのが好ましい。
【0013】
第二の固体高分子電解質複合膜及びその製造方法において、前記不飽和単量体(2)はヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレートであるのが好ましい。
【0014】
本発明の第一及び第二の固体高分子電解質複合膜はいずれも、含水状態において30〜80℃の温度範囲で、10-5〜10-2 Scm-1の範囲の高い導電性を示すとともに、重量減少開始温度が200℃以上という優れた耐熱性を有し、30〜100℃の範囲において伸縮、反り、層間剥離等の外形の変化を起こさず、優れた寸法安定性を示す。
【0015】
また常法ではプロトン伝導性高分子電解質膜を調製するに当たって、予め調製しておいた高分子電解質を有機溶剤に溶解してキャスト製膜するところ、本発明の製造方法では単量体組成物に紫外線を照射して重合又は共重合させるので、有機溶剤を取扱う繁雑さから解放される。
【発明の効果】
【0016】
リン酸基含有不飽和単量体を含む組成物を補強シートに含浸又は塗布した後、紫外線照射等により重合又は共重合することにより、有機溶媒を排出することなく、広い温度範囲及び湿度範囲にわたり高いプロトン伝導性を示す固体高分子電解質複合膜を得ることができる。このような特徴を有する本発明の固体高分子電解質複合膜は、一次電池、二次電池、燃料電池等の固体電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[I] リン酸基含有樹脂
本発明に用いるリン酸基含有樹脂は、下記一般式(A):
【化4】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を必須成分として重合又は共重合したものである。R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。リン酸基含有不飽和単量体を、1個以上のエチレン性不飽和結合を含有するが酸基を含有しない不飽和単量体と共重合してもよい。
【0018】
(1) リン酸基含有不飽和単量体
一般式(A)により表されるリン酸基含有不飽和単量体のうち、本発明に好適に使用できる単量体の構造式を表1に示し、これらの単量体の物性を表2に示す。これらの単量体はユニケミカル(株)から商品名PhosmerTMとして販売されている。ただし、本発明に使用できるリン酸基含有不飽和単量体はこれらに限定されるものではない。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
一般式(A)のリン酸基含有不飽和単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
(2) 酸基を含有しない不飽和単量体
1個以上のエチレン性不飽和結合を含有するが酸基を含有しない不飽和単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類や置換又は無置換のスチレン類が好適である。1分子内に複数個のエチレン性不飽和結合を含有するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレートやジビニルベンゼン等も、固体高分子電解質複合膜の耐薬品性を改良するために使用するのが好ましい。
【0023】
(3) 各不飽和単量体の重量比
リン酸基含有不飽和単量体(1)と、酸基を含有しない不飽和単量体(2)との重量比(1)/(2) は95/5〜20/80の範囲である。
【0024】
[II] 光重合開始剤
本発明で単量体組成物に加える光重合開始剤としては、
(1) R-(CO)x-R’(R,R’ = 水素又は炭化水素基、x = 2〜3)により表される隣接ポリケトン化合物類(例えばジアセチル、ジベンジル等)、
(2) R-CO-CHOH-R’(R,R’ = 水素又は炭化水素基)により表されるa-カルボニルアルコール類(例えばベンゾイン等)、
(3) R-CH(OR”)-CO-R’(R,R’,R”=炭化水素基)により表されるアシロイン・エーテル類(例えばベンゾインメチルエーテル等)、
(4) Ar-CR(OH)-CO-Ar(Ar = アリール基、R = 炭化水素基)により表されるa-置換アシロイン類(例えばa-アルキルベンゾイン等)、及び
(5) 多核キノン類(例えば9,10-アンスラキノン等)がある。
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で又は併用して使用することができる。
【0025】
光重合開始剤の使用量は、不飽和単量体の合計重量に対して0.5〜5重量%の範囲、好ましくは1〜3重量%の範囲である。0.5重量%未満だと、所定の紫外線照射時間内に重合又は共重合が完結せず、未反応単量体が残留するので好ましくない。また光重合開始剤の使用量が5重量%超だと、得られる樹脂の重合度が低すぎ、樹脂が着色する傾向にあるので好ましくない。
【0026】
本発明では、光重合開始剤の単量体混合物への溶解を容易にし、不飽和単量体の粘度を下げ、補強シートへの含浸を容易にし、補強シートへの付着量を減少せしめて固体高分子電解質(複合)膜の膜厚を薄くする等の目的で、希釈剤としてメタノール、アセトン等の低沸点溶剤を加えても良い。
【0027】
[III] 補強シート
本発明に使用する補強シートは、下記の3群に大別できる。
(1) 無機質繊維からなるシート
ガラス繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維、スラグ繊維等からなる織布、不織布、紙等が挙げられる。無機質繊維からなるシートの坪量は10〜60 mg/cm2、好ましくは10〜40 mg/cm2であり、厚さは1〜60 μm、好ましくは5〜40 μmの範囲である。
【0028】
(2) 有機質繊維からなるシート
ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維等からなる織布、不織布、紙等が挙げられる。ただし、紫外線照射時に固体高分子電解質(複合)膜の温度が100℃近くまで上昇することもあるので、それに耐えるのに十分な耐熱性を有することが必要である。有機質繊維からなるシートの坪量と厚さは、(1)の場合と同じである。ただし、含浸又は塗布する単量体組成物がスルホン酸基等の強酸基を有する不飽和単量体を含む場合、ナイロン繊維からなる織布、不織布、紙等は、耐酸性が弱いために不適である。
【0029】
(3) 樹脂フィルム
単量体組成物を含浸又は塗布する樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ3-メチルペンテン樹脂、ナイロン-6樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂等のフィルムが好ましい。樹脂フィルムは微多孔性フィルムでも無孔フィルムでもよいが、単量体組成物の含浸性の観点から、前者が好ましい。ただし、含浸させる単量体組成物がスルホン酸基等の強酸基を有する不飽和単量体を含む場合、ナイロンフィルムは、耐酸性が強くないため、不適である。
【0030】
微多孔性フィルムの場合、微孔の孔径は出来るだけ小さいのが好ましく、特にサブミクロン径であるのが好ましい。また微多孔性フィルム全体の開孔率は出来るだけ大きい方が好ましく、特に40〜50%(対表面積)であるのが好ましい。樹脂フィルムの厚さは1〜40 μmが好ましく、5〜25 μmの範囲がより好ましい。
【0031】
補強シートと単量体組成物の重量比は、補強シートの単量体組成物に対する親和性、換言すれば、単量体組成物の吸収性によって大きく異なるが、一般的に補強シート/単量体組成物の重量比は1/20〜1/2の範囲であるのが好ましい。
【0032】
[IV] 固体高分子電解質複合膜の製造方法
上記リン酸基含有樹脂と補強シートからなる固体高分子電解質複合膜は、不飽和単量体及び光重合開始剤を含有する組成物を補強シートに含浸させるか塗布した後、補強シートを紫外線透過性の支持基板に挟み、紫外線を照射して不飽和単量体を光重合することにより、製造することができる。
【0033】
不飽和単量体組成物を含浸した補強シートを紫外線照射重合するに当たって、これを挟む2枚の支持基板は紫外線透過率が高いことのみならず、紫外線照射による重合時の昇温に耐える耐熱性を有すること、及び不飽和単量体組成物及びこれを重合して得られる固体高分子電解質と接着せず、剥離性が良好なことが必要である。
【0034】
通常使用するガラス平板は紫外線透過率と耐熱性については非常に良いが、本発明に使用する不飽和単量体の重合又は共重合により得られる固体高分子電解質と密着するので、予めガラス平板の表面にシリコーン系又はフッ素系の剥離剤を塗布しておくか、フッ素樹脂系の薄い透明フィルムを貼りつけた上で使用するのが好ましい。
【0035】
ガラス平板以外に、ポリパーフルオロビニルエーテル樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等のフッ素系樹脂の他、ポリ3-メチルペンテン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の紫外線透過率の良い100℃以上の耐熱性を有する樹脂平板を使用することができる。
【0036】
不飽和単量体組成物をキャスティングした後で紫外線透過性板で覆って紫外線照射を行うか、不飽和単量体組成物を含浸させるか塗布した補強シートを2枚の支持基板の間に挟んで紫外線照射を行うに当たって、空気及び余分な不飽和単量体組成物を系外に絞り出す必要がある。例えば図1に示すように、補強シート12に不飽和単量体組成物11を付着させた複合膜1を2枚の支持基板2,2の間に挟み、均等に圧力をかけて、クリップ又はクランプで止めた状態で、水平に保ちながら紫外線照射を行うのが好ましい。光重合時の紫外線照射強度は5〜50 mW/cm2、好ましくは10〜25 mW/cm2とする。
【0037】
固体高分子電解質複合膜の厚さは300 μm以下、好ましくは10〜100 μm、より好ましくは10〜30 μmとする。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1〜14、比較例1,2
表3に示す不飽和単量体組成物に希釈剤としてメタノールを添加して粘度を調整した後、不飽和単量体全体を100重量%として、光重合開始剤として2重量%のイルガキュア651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン)及び1重量%のイルガキュア500(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン+ベンゾフェノン)を溶解した。補強シートとして各種の不織布又は紙を採用し、不飽和単量体組成物を補強シートに含浸させた後、図1及び図2に示すように、補強シート12に不飽和単量体組成物11を付着させた複合膜1を、シリコーン剥離剤を塗布した2枚のガラス平板2,2間に挟んだ。高圧水銀灯(東芝電材(株)製トスキュア400, HC-0411型)を用いて、不飽和単量体組成物含浸補強シートに20 mW/cm2の紫外線を所定時間照射して、不飽和単量体組成物を光重合させ、固体高分子電解質複合膜を作製した。不飽和単量体組成物、補強シートの種類及び坪量、紫外線照射時間、及び複合膜の性状を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3(続き)

【0042】
表3(続き)

【0043】
表3(続き)

【0044】
表3(続き)

【0045】
表3(続き)

【0046】
注:(1) PSSA: p-スチレンスルホン酸。
(2) HDDA: ヘキサメチレンジオールジアクリレート。
(3) GF(グラスファイバー)不織布 GHN-30CGL(王子製紙(株)製の市販品)。
(4) GF(グラスファイバー)不織布 GMC-050E(王子製紙(株)製の市販品)。
(5) GF(グラスファイバー)紙(阿波製紙(株)製の試作品)。
(6) PAN(ポリアクリロニトリル)紙(阿波製紙(株)製の試作品)。
(7) アラミド不織布 XL-1040(日本バイリーン(株)製の試作品)。
(8) アラミド紙(阿波製紙(株)製の試作品)
(9) PE(ポリエチレン)微多孔フィルム ハイポアTM6022(旭化成工業(株)製)。
(10) 樹脂/補強材シートの重量比。
【0047】
実施例及び比較例の代表的な固体高分子電解質複合膜について、相対湿度90%及び温度範囲30〜80℃で導電率を測定した。結果を図3及び図4に示す。
【0048】
表3から、本発明の方法に従えば、いずれの補強シートを用いても、表面が平滑でピンホールのない固体高分子電解質複合膜を作ることができることが分かる。なお希釈剤を使用することにより、補強シートに付着する樹脂量を数分の1以下にすることができた。実施例の固体高分子電解質複合膜の厚さは20〜200 μmの範囲内であるが、補強シートの坪量、補強シートと不飽和単量体組成物との親和性、樹脂の付着割合、換言すれば単量体組成物の付着量とそれを搾り出す圧力を適宜調整することにより、所望の厚さとすることができる。
【0049】
図3及び図4から、本発明の固体高分子電解質複合膜の導電率は10-5〜10-2Scm-1のオーダーであり、リン酸基を官能基とする高分子電解質としては良好な水準にあることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ガラス平板2枚の間に固体高分子電解質複合膜を挟んだ状態を示す部分断面側面図である。
【図2】ガラス平板2枚の間に固体高分子電解質複合膜を挟んだ状態を示す平面図である。
【図3】(a)は実施例3及び4の固体高分子電解質複合膜について、温度T(℃)と導電率log (σ/Scm-1)との関係を示すグラフであり、(b)は実施例7及び8の固体高分子電解質複合膜について、温度T(℃)と導電率log (σ/Scm-1)との関係を示すグラフである。
【図4】(a)は実施例9及び10の固体高分子電解質複合膜について、温度T(℃)と導電率log (σ/Scm-1)との関係を示すグラフであり、(b)は実施例11及び12の固体高分子電解質複合膜について、温度T(℃)と導電率log (σ/Scm-1)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1・・・固体高分子電解質複合膜
11・・・不飽和単量体組成物(固体高分子電解質)
12・・・補強シート
2・・・支持基板
3・・・クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸基含有樹脂と補強シートとからなるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質複合膜であって、前記リン酸基含有樹脂が、下記一般式(A):
【化1】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるプロトン伝導性固体高分子であり、前記補強シートが無機質又はポリアクリロニトリルの繊維からなるシートであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項2】
請求項1に記載の固体高分子電解質複合膜において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)のR1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体高分子電解質複合膜において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)が下記式(B):
【化2】

により表される単量体、及び下記式(C):
【化3】

(ただしnは5又は6の整数を表す)により表される単量体の一方又は両方であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜において、前記補強シートが織布、不織布又は紙であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項5】
リン酸基含有樹脂と、補強シートとからなるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質複合膜を製造する方法であって、下記一般式(A):
【化4】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるリン酸基含有不飽和単量体を、無機質又はポリアクリロニトリルの繊維のシートからなる補強シートに含浸させるか塗布した後、前記リン酸基含有不飽和単量体を重合することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記リン酸基含有不飽和単量体及び光重合開始剤を含有する組成物を前記補強シートに含浸させるか塗布した後、前記補強シートを紫外線透過性の支持基板に挟み、紫外線を照射することにより前記リン酸基含有不飽和単量体を重合することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)のR1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)が下記式(B):
【化5】

により表される単量体、及び下記式(C):
【化6】

(ただしnは5又は6の整数を表す)により表される単量体の一方又は両方であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記補強シートが織布、不織布又は紙であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項10】
リン酸基含有樹脂と補強シートとからなるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質複合膜であって、
前記リン酸基含有樹脂は、分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体(1)と、1個以上のエチレン性不飽和結合を含有するが酸基を含有しない不飽和単量体(2)とからなる共重合体であり、
(1)は下記一般式(A):
【化7】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表され、
(2)は(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、置換又は無置換のスチレン類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレート及びジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
(1)/(2)の重量比は95/5〜50/50であり、
前記補強シートが無機質又はポリアクリロニトリルの繊維からなるシートであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項11】
請求項10に記載の固体高分子電解質複合膜において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)のR1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の固体高分子電解質複合膜において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)が下記式(B):
【化8】

により表される単量体、及び下記式(C):
【化9】

(ただしnは5又は6の整数を表す)により表される単量体の一方又は両方であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜において、前記不飽和単量体(2)がヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレートであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜において、前記補強シートが織布、不織布又は紙であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
【請求項15】
リン酸基含有樹脂と補強シートとからなるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質複合膜を製造する方法であって、
(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体(1)と、1個以上のエチレン性不飽和結合を含有するが酸基を含有しない不飽和単量体(2)とからなる混合物であって、
(1)は下記一般式(A):
【化10】

(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換又は無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表され、
(2)は(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、置換又は無置換のスチレン類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレート及びジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、
(1)/(2)の重量比は95/5〜50/50である混合物を、無機質又はポリアクリロニトリルの繊維のシートからなる補強シートに含浸させるか塗布した後、(b) 前記混合物の共重合を行うことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記混合物及び光重合開始剤を含有する組成物を補強シートに含浸させるか塗布した後、前記補強シートを紫外線透過性の支持基板に挟み、紫外線を照射することにより前記混合物の共重合を行うことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)のR1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記リン酸基含有不飽和単量体(1)が下記式(B):
【化11】

により表される単量体、及び下記式(C):
【化12】

(ただしnは5又は6の整数を表す)により表される単量体の一方又は両方であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記不飽和単量体(2)がヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレートであることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜の製造方法において、前記補強シートが織布、不織布又は紙であることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−159591(P2008−159591A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−725(P2008−725)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【分割の表示】特願2001−322766(P2001−322766)の分割
【原出願日】平成13年10月19日(2001.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(592187833)ユニケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】