説明

リン酸塩ガラスの連続式溶融炉

【課題】 リン酸塩原料からリン酸塩ガラスを連続製造できるとともに、組成の異なるリン酸塩ガラスを容易に製造することができるリン酸塩ガラスの連続式溶融炉を提供する。
【解決手段】 連続式溶融炉10は、横方向に延びる筒状をなす溶融炉本体12を備えている。溶融炉本体12はその基端側上部に原料投入口19を備え、先端側下部に製品出口22を備えている。溶融炉本体12の先端には、溶融炉本体12内に加熱ガスを供給するバーナー16が設けられている。溶融炉本体12内の原料通路18は、原料投入口19側から製品出口22側に向かって徐々に低くなるように形成されている。原料通路18には、原料投入口19から製品出口22に向かって、原料を加熱脱水するための脱水部18aと、脱水された原料を加熱溶融する溶融部18bと、溶融された原料を縮合させる縮合部18cとが順に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種食品の添加物として用いられるリン酸塩ガラスの連続式溶融炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸塩ガラスの製造方法としては、例えば特許文献1に開示されるものがある。この製造方法においては、まず、含水リン酸原料と他の原料とを混合したスラリー状の原料混合物を乾燥器で約130℃に一週間保持してケーキ状にする。次に、この原料を電気炉により300℃で5時間熱処理した後、1300℃で3時間溶融して均一な溶融液とする。そして、この溶融液を急冷することでガラスとしている。
【特許文献1】特開平11−79753号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法では、乾燥器から電気炉へ原料を移し替える必要があり、また、乾燥器と電気炉のそれぞれにおいて原料の組成を設定する必要があるため、連続製造が困難であり、また、組成変更が面倒である。
【0004】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、リン酸塩ガラスの原料からリン酸塩ガラスを連続製造できるとともに、組成の異なるリン酸塩ガラスを容易に製造することができるリン酸塩ガラスの連続式溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、筒状をなす溶融炉本体を有し、同溶融炉本体の基端側上部に原料投入口を備え、先端側下部に製品出口を備え、前記原料投入口から前記溶融炉本体内に投入されたリン酸塩ガラスの原料を加熱する加熱装置を備え、前記溶融炉本体内において原料投入口から製品出口に向かう原料通路には、前記加熱装置により原料を加熱脱水する脱水部と、脱水された原料を加熱溶融する溶融部と、溶融された原料を縮合させる縮合部とを順に設けたことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記脱水部及び溶融部の原料通路に沿った合計の長さは、前記縮合部の長さの0.5〜1.0倍に設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記原料通路は、原料投入口から製品出口に向かって低くなるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記溶融炉本体の原料投入口より基端側には、原料通路よりも高い位置に設けられ、原料通路に連通する排気通路を有し、原料通路から排気通路に入る熱を蓄える蓄熱部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、原料投入口から溶融炉本体内に投入されたリン酸塩ガラスの原料は、まず、脱水部において加熱されることでその水分の一部が蒸発によって除去される。水分の一部が除去された原料は、次に、溶融部において加熱されることで溶融される。溶融された原料は、次に、縮合部において縮合反応し、縮合の程度に応じたリン酸塩ガラスとなる。このとき、原料投入口から溶融炉本体内に投入された原料は溶融され、筒状をなす溶融炉本体の原料通路に沿って原料投入口側から製品出口側に向かって流れ、製品出口から炉外に流れ出る。また、縮合部における温度や通過時間に応じて縮合度が変化する。従って、リン酸塩ガラスの原料からリン酸塩ガラスを連続製造できるとともに、組成の異なるリン酸塩ガラスを容易に製造することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、リン酸塩ガラスに要求される縮合度に応じた縮合部の長さを設定すると、脱水部及び溶融部の好ましい合計の長さが決定される。
請求項3に記載の発明によれば、原料通路内の溶融原料が原料投入口から製品出口に向かってより円滑に流れるので、原料通路内の原料がより一層迅速に炉外に流れ出る。このため、組成の異なるリン酸塩ガラスをより容易に製造することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、原料通路から排気通路に入る熱が蓄熱部に蓄えられるので、脱水部の温度が安定する。このため、脱水部において原料から蒸発する水の量が一定になるので、リン酸塩ガラスの組成がより安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を具体化した一実施形態を図1に従って説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態の連続式溶融炉10は、横方向に延びる筒状をなし、ジルコン(ZrSiO4)質レンガで形成された溶融炉本体12を備えている。溶融炉本体12は、左右より上下に長い四角筒状で延びるように形成されている。溶融炉本体12の基端側上部にはリン酸塩ガラスの原料を投入する原料投入口19が設けられ、また、その先端側下部には製品としてのリン酸塩ガラスを取り出す製品出口22が設けられている。溶融炉本体12の底部、すなわち、原料が移動する原料通路18は、原料投入口19側から製品出口22側に向かって徐々に低くなるように斜めに形成されている。この傾斜は、例えば水平方向の距離3m当たりに高さが10cm変化する大きさであるが、この傾斜より小さくても、また、大きくてもかまわない。
【0013】
原料との接触部となる原料通路18上には、原料投入口19から製品出口22に向かって、原料を加熱脱水するための脱水部18aと、脱水された原料を加熱溶融する溶融部18bと、溶融された原料を縮合させる縮合部18cとが順に設けられている。脱水部18aに対応する溶融炉本体12の底部及び両側壁下部の最外部は、溶融原料がレンガ目地から浸出することを防止するためのステンレス鋼板20によって形成されている。また、溶融部18b及び縮合部18cに対応する溶融炉本体12の底部及び両側壁下部の最外部は、ジルコン質レンガを冷却してリン酸塩ガラスの浸食によるジルコン質レンガの腐食を防止するための冷却パッド21によって形成されている。
【0014】
縮合部18cの原料通路18に沿った長さは、所定温度に加熱された溶融原料が縮合部18cを通過する間に所望の縮合度のリン酸塩ガラスとなるように設定されている。そして、脱水部18a及び溶融部18bの原料通路18に沿った合計の長さs2は、縮合部18cの長さs1を基準としてその0.5〜1.0倍の大きさ(s2=(0.5〜1.0)×s1)に設定されている。また、溶融炉本体12の幅wは、縮合部18cの長さs1の1/8〜1/5倍の大きさ(w=(1/8〜1/5)×s1)に設定されている。なお、溶融炉本体12内の高さhは、同幅wの3〜5倍の大きさ(h=(3〜5)×w)とされている。
【0015】
また、溶融炉本体12の先端には、溶融炉本体12内に炎とともに加熱ガスを供給するバーナー(加熱装置)16が設けられている。バーナー16は、火力の大きさを調節可能である。なお、このバーナー16に加えて、溶融炉本体12の中間部に補助バーナーを設けてもよい。
【0016】
溶融炉本体12の原料投入口19よりも基端側には、原料通路18よりも高い位置に設けられ、原料通路18に連通する排気通路26を有し、原料通路18から排気通路26に入る熱を蓄える蓄熱部13が備えられている。蓄熱部13には、排気通路26に続くエアチャンバ15と、このエアチャンバ15に続く煙突17とが設けられている。そして、蓄熱部13の排気通路26には、バーナー16から溶融炉本体12内に供給され、縮合部18c、溶融部18b及び脱水部18aを順に通過した加熱ガスが入る。排気通路26に入った加熱ガスは、排気通路26からエアチャンバ15に入り、エアチャンバ15の天部、側壁部及び底部を加熱した後、ガス化された状態で煙突17から炉外に排出される。なお、蓄熱部13の排気通路26は、原料通路18よりも高い位置において原料通路18に連通しているので、原料通路18の溶融原料が排気通路26に入らない。
【0017】
上記連続式溶融炉10においては、ミキサー23から原料投入口19を通じて溶融炉本体12内に、スラリー状の原料が所定の投入量で連続的に投入される。また、粉体状の原料も、原料投入口19から投入することができる。
【0018】
リン酸塩ガラスの原料としては、アルカリ金属原料とリン原料とを、リンに対するアリカリのモル比rが2.0>r>0.1の範囲内となるように調合されたものを用いることができる。モル比rが1.7>r>0.9の範囲内であれば、より安定した組成のリン酸塩ガラスを製造することができる。アルカリ金属原料としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムの炭酸塩や水酸化物を用いることができる。リン原料としては、精製リン酸や、電気・電子工業における使用済み洗浄リン酸を用いることができる。また、アルカリ金属原料及びリン原料として、リン酸塩や、リン酸・リン酸塩工業、イノシトール製造工業又は食品工業における副生産物のリン酸塩を用いることもできる。
【0019】
以上のように構成された連続式溶融炉10においては、原料に応じてバーナー16の火力が調節され、第1温度計24によって測定される原料通路18上方の温度(以下、第1温度t1という。)と、第2温度計25によって測定されるエアチャンバ15内の温度(以下、第2温度t2という。)とが調整される。第1温度t1及び第2温度t2は、溶融炉本体12内の温度が600℃以上となるように調節される。溶融炉本体12内における温度分布は、製品出口22側から原料投入口19に向かって徐々に低くなる。すなわち、縮合部18cの温度は溶融部18bの温度よりも高く、溶融部18bの温度は脱水部18aの温度よりも高くなる。そして、脱水部18aは、リン酸塩ガラスの原料を溶融させず、原料中の水分の一部を蒸発させる温度に調節され、溶融部18bは、原料を溶融させる温度に調節される。また、縮合部18cは、原料を溶融状態に維持して縮合を促進させる温度に調節される。
【0020】
さて、原料投入口19から溶融炉本体12に投入されたリン酸塩ガラスの原料は、まず、脱水部18aにおいて加熱されることで脱水反応を起こし、その水分の一部が蒸発によって除去される。このとき、溶融炉本体12内に吹き込まれるバーナー16の炎が脱水部18aの原料に直接接するため、水分が短時間で除去される。また、加熱ガスにより、原料中に含まれる有機物が燃焼気化する。なお、脱水部18aにおける温度は、蓄熱部13により安定した温度に維持される。このため、脱水部18aにおいて除去される水分量が安定し、原料中の水分量が安定する。水分の一部が除去された原料は、次に、溶融部18bにおいて加熱されることで溶融される。溶融された原料は、次に、縮合部18cにおいて加熱されることで縮合反応し、縮合の程度に応じたリン酸塩ガラスとなる。このとき、原料投入口19から溶融炉本体12内に投入された原料は、筒状をなす溶融炉本体12の原料通路18に沿って溜まることなく流れ、製品出口22から溶融炉本体12外に流れ出す。溶融炉本体12外に出た溶融原料は、図示しない周知の冷却機によって冷却され、固化してリン酸塩ガラスとなる。このリン酸塩ガラスは、粉砕され、粉末状の製品とされる。
【0021】
以上詳述した実施形態の連続式溶融炉10によれば、原料投入口19から溶融炉本体12内に投入されたリン酸塩ガラスの原料は溶融され、筒状の溶融炉本体12の原料通路18に沿って原料投入口19側から製品出口22側に向かって流れ、製品出口22から炉外に流れ出る。このとき、縮合部18cにおける温度や通過時間に応じて縮合度が変化する。従って、リン酸塩原料から製品ガラスを連続製造できるとともに、溶融炉本体12内の温度を調節するだけで組成の異なるリン酸塩ガラスを容易に製造することができる。このため、上記従来技術のように、乾燥器から電気炉へ移し替える必要がなく、また、乾燥器と電気炉のそれぞれで組成の設定を行う必要がない。
【0022】
また、リン酸塩ガラスに要求される縮合度に応じた縮合部18cの長さs1を基準にして脱水部18a及び溶融部18bの好適な長さs2を設定したので、縮合部18cの長さs1を設定すると、脱水部18a及び溶融部18bの好ましい合計の長さs2が決定される。このため、溶融炉本体12の設計が容易となる。
【0023】
また、原料通路18を原料投入口19から製品出口22に向かって低くなるように形成したので、原料通路18内の溶融原料が原料投入口19から製品出口22に向かってより円滑に流れる。このため、原料通路18内の原料がより迅速に溶融炉本体12外に流れ出るので、組成の異なるリン酸塩ガラスの切替をより容易に行うことができる。
【0024】
さらに、溶融炉本体12の原料投入口19よりも基端側に、原料通路18よりも高い位置に設けられ、原料通路18に連通する排気通路26を有し、原料通路18から排気通路26に入る熱を蓄える蓄熱部13を備えた。このため、原料通路18から排気通路26に入る熱が蓄熱部13に蓄えられ、脱水部18aの温度が安定する。従って、脱水部18aにおいて原料から蒸発する水分量が一定になるので、リン酸塩ガラスの組成が安定化する。
【実施例】
【0025】
以上のように構成された連続式溶融炉10を用いてリン酸塩ガラスを製造した実施例1〜7について説明する。
各実施例1〜7は、原料、溶融炉本体12内温度又は原料投入量が異なり、製造されるリン酸ナトリウム(又はカリウム)の組成が異なる。すなわち、原料として、ナトリウム(又はカリウム)とリンのモル比rが異なるものが用いられている。そして、この各実施例1〜7において製造されたリン酸塩ガラスの、pH、P25(五酸化リン)の質量%及び平均鎖長を周知の測定方法により測定し、上記条件の違いに応じたリン酸塩ガラスの組成の変化を評価した。また、各実施例1〜7間で、原料を切り替えた直後に製造したリン酸塩ガラスの組成を評価した。
【0026】
(実施例1)
バーナー16の火力を調節し、第1温度t1を720℃、第2温度t2を440℃に調整してこの各温度を1時間保持した。
【0027】
リン酸塩ガラスの原料として48質量%水酸化ナトリウムと75質量%リン酸(H3PO4)とからNa/Pモル比r=1に調整した53質量%リン酸2水素ナトリウムを生成させ、これを用いた。
【0028】
そして、53質量%リン酸2水素ナトリウムを、150kg/hの割合で原料投入口19から溶融炉本体12内に連続投入した。原料投入開始時点から約10分経過後、製品出口22から溶融物が流れ出した。製品出口22から流れ出す溶融物を、図示しない周知のステンレス製冷却機で冷却・固化し、メタリン酸ナトリウム((NaPO3n)の固体ガラスを得た。
【0029】
得られた固体ガラスを1時間焼成し、焼成後のメタリン酸ナトリウムから試料1−1を採取した。試料1−1の平均鎖長nは、n=16であった。順次得られる溶融物から、同様にして2時間間隔で試料1−2〜1−5を採取した。試料1−2〜1−5の平均鎖長は、n=13又は14であった。
【0030】
(実施例2)
上記実施例1で試料1−5を採取した後、53質量%リン酸2水素ナトリウムの投入を終了し、その後1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出させた。
【0031】
次に、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に調節した。この状態で、実施例1の原料と同じNa/Pモル比r=1の53質量%リン酸2水素ナトリウムを、200kg/hの割合で原料投入口19から溶融炉本体12内に連続投入した。原料投入開始時点から約10分経過後、製品出口22から溶融物が流れ出した。溶融物が流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料2−1〜2−3を採取した。さらに、試料2−3を採取した時点より、2時間間隔で試料2−4〜2−7を採取した。
【0032】
この実施例2では、溶融炉本体12内の温度を実施例1よりも高く設定したことにより、より縮合度の高い(n=35〜38)メタリン酸ナトリウムが得られた。
(実施例3)
上記実施例2で試料2−7を採取した後、53質量%リン酸2水素ナトリウムの投入を終了し、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に維持したまま1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出させた。
【0033】
そして、48質量%水酸化ナトリウムと75質量%リン酸とでNa/Pモル比r=6/4に調節した50質量%溶液を生成させ、これを原料として用いた。この50質量%溶液を200kg/hの割合で溶融炉本体12内に連続投入した。原料投入開始時点から約10分経過後に、ポリリン酸ナトリウム(Na6413)の溶融物が製品出口22から流れ出した。
【0034】
溶融物が流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料3−1〜3−3を採取した。さらに、試料3−3を採取した時点より、2時間間隔で試料3−4〜3−7を採取した。
【0035】
(実施例4)
上記実施例3で試料3−7を採取した後、前記50質量%溶液の投入を終了し、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に維持したまま1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出させた。
【0036】
そして、イノシトール(糖アルコール)製造工業の副産物であるリン酸水素ナトリウム12水和物と、75質量%リン酸とでNa/Pモル比r=6/4に調整した42質量%溶液を生成させ、これを原料として用いた。この42質量%溶液を、250kg/hの割合で溶融炉本体12内に投入した。この結果、原料投入開始時点から約10分経過後に、溶融物が溶融炉本体12から流れ出した。
【0037】
溶融物が溶融炉本体12から流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料4−1〜4−3を採取した。さらに、試料4−3を採取した時点より、2時間間隔で試料4−4〜4−7を採取した。
【0038】
(実施例5)
上記実施例4で試料4−7を採取した後、前記42質量%溶液の投入を終了し、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に維持したまま1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出させた。
【0039】
次に、第1温度t1を1000℃、第2温度t2を650℃に調整して、この各温度を1時間保持した。原料として、イノシトール製造工業の副産物であるリン酸水素ナトリウム12水和物と、電子工業での使用済み洗浄リン酸液(リン酸60質量%、酢酸2質量%、硝酸4質量%)とで、Na/Pモル比r=5/3に調整した39質量%溶液を用いた。この39質量%溶液を、300kg/hの割合で溶融炉本体12に連続投入した。原料の投入開始時点から約15分経過後、トリポリリン酸ナトリウム(Na5310)の溶融物が製品出口22から流れ出した。この溶融物は、透明であった。また、冷却により固化した溶融物は、白色に結晶化した。
【0040】
溶融物が流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料5−1〜5−3を採取した。さらに、試料5−3を採取した時点より、2時間間隔で試料5−4〜5−7を採取した。
【0041】
(実施例6)
上記実施例5で試料5−7を採取した後、39質量%溶液の投入を終了し、1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出した。その後、バーナー16の運転を停止し、溶融炉本体12を冷却した。冷却後、原料投入口19を40×40cmに拡げ、粉体の原料を溶融炉本体12内に投入できるようにした。
【0042】
次に、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に調整して、この各温度を1時間保持した。原料として、イノシトール製造工業の副産物であるリン酸水素ナトリウム7水和物とリン酸2水素ナトリウム無水物とでNa/Pモル比r=6/4になる配合比で混合した粉末原料を用いた。
【0043】
粉末原料を所定量だけ溶融炉本体12内に投入した。この結果、原料を投入後、約5分経過した時点から、透明な溶融物が溶融炉本体12から流れ出した。そして、投入した原料が溶融する度に、所定量の原料を追加投入する作業を繰り返した。
【0044】
溶融物が溶融炉本体12から最初に流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料6−1〜6−3を採取した。さらに、試料6−3を採取した時点より、2時間間隔で試料6−4〜6−7を採取した。
【0045】
(実施例7)
上記実施例6で試料6−7を採取した後、前記粉末原料の投入を終了し、第1温度t1を850℃、第2温度t2を580℃に保持したまま1時間空運転して溶融炉本体12内の溶融物を全て流し出させた。
【0046】
次に、第1温度t1を980℃、第2温度t2を630℃に調整して、この各温度を1時間保持した。粉末原料として、リン酸2水素カリウム無水物を用いた。その粉末原料を所定量だけ溶融炉本体12内に投入した。この結果、原料を投入後、約10分経過した時点から、白色の溶融物が溶融炉本体12から流れ出した。そして、投入した原料が溶融する度に、所定量の原料を追加投入する作業を繰り返した。
【0047】
リン酸カリウム(KPO3)n(n=∞)の溶融物が溶融炉本体12から最初に流れ出した時点から30分経過した時点より、20分間隔で試料7−1〜7−3を採取した。さらに、試料7−3を採取した時点より、2時間間隔で試料7−4〜7−7を採取した。
【0048】
以上の各実施例1〜7において得られたリン酸塩ガラスの試料について、pH、P25の質量%、及び、平均鎖長を測定した結果を、表1に示す。この結果から、下記のような結論が得られる。
【0049】
【表1】

実施例1,2において製造されたメタリン酸ナトリウムの平均鎖長の結果から明らかなように、メタリン酸ナトリウムについては、炉内温度を変更するだけで縮合度の異なる製品を製造することができる。
【0050】
また、実施例2においてメタリン酸ナトリウムを製造するための原料の投入を終了し、溶融炉本体12内の溶融物を流れ出させた後、実施例3においてポリリン酸ナトリウムを製造するための原料を投入したときに、数100kgの切替損失ですんだ。
【0051】
実施例4,5における各試料のデータから明らかなように、イノシトール製造業の副産物であるリン酸塩や、電子工業での使用済みリン酸を原料に用いても、安定した組成のポリリン酸ナトリウムを製造することができた。
【0052】
実施例4,6の各試料のデータから明らかなように、スラリー状の原料からできた製品と、粉末状の原料からできた製品とで、P25の質量%に差がないことから、溶融状態の原料から蒸発するリン酸の量が抑制されたことが確認できた。
【0053】
実施例6,7における各試料のデータから明らかなように、粉末原料からでも、安定した組成のポリリン酸ナトリウムを製造することができた。実施例7では、ナトリウムをカリウムに無駄なく、容易に入れ替えることができた。
【0054】
尚、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 蓄熱部13を設けず、原料投入口19より基端側における溶融炉本体12内の空間の断面積を基端側ほど小さくなるように構成する。
【0055】
・ 縮合部18cと製品出口22との間における傾斜を、脱水部18a、溶融部18b及び縮合部18cの傾斜よりも大きくする。この場合には、製品となった溶融状態のリン酸塩ガラスが溶融炉本体12から外部に排出され易くなり、製造する製品の切替をより容易に行うことができる。
【0056】
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(1) 請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉において、前記加熱装置は、前記溶融炉本体の先端に設けられ、溶融炉本体内の縮合部、溶融部から脱水部に向けて加熱ガスを供給することを特徴とするリン酸塩ガラスの連続式溶融炉。このような構成によれば、1つの加熱装置のみで、脱水部、溶融部及び縮合部をそれぞれに好適な温度にすることができる。
【0057】
(2) 請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉を用いたリン酸塩ガラスの製造方法であって、前記溶融炉本体に第1組成の原料を投入し、第1組成の原料の投入終了後に第1組成の原料から生成されたリン酸塩ガラスが溶融炉本体内から排出された後、第1組成とは異なる第2組成の原料を溶融炉本体に投入することを特徴とするリン酸塩ガラスの製造方法。このような構成によれば、第1組成の原料と第2組成の原料とが混じり合った原料から生成される無用なリン酸塩ガラスの量がより少なくなるため、組成の異なるリン酸塩ガラスを製造するときの切替をより一層迅速に行うことができる。
【0058】
(3) 請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉を用いたリン酸塩ガラスの製造方法であって、前記溶融炉本体内の温度を第1の温度に設定した状態で溶融炉本体に所定組成の原料を投入し、この原料の投入終了後にこの原料から生成されたリン酸塩ガラスが溶融炉本体内から排出された後、溶融炉本体内の温度を前記所定第1の温度とは異なる第2の温度に設定し、この状態で前記所定組成の原料を溶融炉本体内に再び投入してリン酸塩ガラスを生成することを特徴とするリン酸塩ガラスの製造方法。このような構成によれば、溶融炉本体内の温度を変更するだけで、縮合度の異なるリン酸塩ガラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は一実施形態の連続式溶融炉を示す縦断面図、(b)は(a)における1b−1b線断面図。
【符号の説明】
【0060】
10…連続式溶融炉、12…溶融炉本体、13…蓄熱部、16…加熱装置としてのバーナー、18…原料通路、18a…脱水部、18b…溶融部、18c…縮合部、19…原料投入口、22…製品出口、26…排気通路、r…モル比、s1…(縮合部の)長さ、s2…(脱水部及び溶融部の)合計長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなす溶融炉本体を有し、同溶融炉本体の基端側上部に原料投入口を備え、先端側下部に製品出口を備え、前記原料投入口から前記溶融炉本体内に投入されたリン酸塩ガラスの原料を加熱する加熱装置を備え、前記溶融炉本体内において原料投入口から製品出口に向かう原料通路には、前記加熱装置により原料を加熱脱水する脱水部と、脱水された原料を加熱溶融する溶融部と、溶融された原料を縮合させる縮合部とを順に設けたことを特徴とするリン酸塩ガラスの連続式溶融炉。
【請求項2】
前記脱水部及び溶融部の原料通路に沿った合計の長さは、前記縮合部の長さの0.5〜1.0倍に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉。
【請求項3】
前記原料通路は、原料投入口から製品出口に向かって低くなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉。
【請求項4】
前記溶融炉本体の原料投入口より基端側には、原料通路よりも高い位置に設けられ、原料通路に連通する排気通路を有し、原料通路から排気通路に入る熱を蓄える蓄熱部を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のリン酸塩ガラスの連続式溶融炉。

【図1】
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【公開番号】特開2006−143510(P2006−143510A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334043(P2004−334043)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(591040557)太平化学産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】