説明

リン酸塩系ガラスおよびリン酸塩系ガラスを用いたサーマルヘッド

【課題】
従来のケイ酸塩系ガラスは熱伝導率が大きく、サーマルヘッドの低消費電力化が図れなかった。
【解決手段】
モル%で、Pを50〜68%、CeOを15〜39%、Bを2〜7%、Pr11を0.2〜0.5%含み、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすリン酸塩系ガラス、またはPを50〜65%、CeOを5〜15%、Bを3〜8%、Alを0〜10%、BaOを0〜9%およびPr11を含み、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすリン酸塩系ガラスは熱伝導率が小さいので、サーマルヘッドのグレーズ層に用いることにより低消費電力化が図れる。また、熱膨張係数がセラミックス基板と等しいので、セラミックス基板との剥離が起こりにくく、耐熱性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩系ガラスに係り、特に、熱伝導率が低いリン酸塩系ガラス、および前記リン酸塩系ガラスを用いたサーマルヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、サーマルプリンター用ヘッド(サーマルヘッド)1の断面図の一例を示す。
サーマルヘッドは、例えばアルミナ(Al)などのセラミック基板11上に、グレーズ層12、発熱抵抗体層13、導体層14、および保護層15を形成した積層構造からなる。前記発熱抵抗体層13に電流が流れる際に発生する熱を、感熱紙やインクリボンなどの媒体に伝えることにより、印刷が行なわれる。なお、導体層14は形成されなくてもよい。
【0003】
電気抵抗体層13で発生した熱は、保護層15を通して媒体に伝えられるが、一部がグレーズ層12に伝えられる。前記グレーズ層12は、熱をセラミック基板11に逃がすと共に、発生した熱を自身に蓄熱する蓄熱層および保温層の機能を有している。そして、グレーズ層12の高さや形状を変えることで様々な用途や素材に印刷可能なサーマルヘッドとすることができる。
【0004】
下記特許文献1には、ケイ酸塩系ガラスのグレーズ組成物が開示されている。また、下記特許文献2および3には、リン酸塩系ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11―130461号公報
【特許文献2】特開2000−1332号公報
【特許文献3】特開平8−277141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サーマルプリンターの高速化に伴い、サーマルヘッドには耐熱性が要求されているが、近年、耐熱性と共にサーマルヘッドの低消費電力化が求められている。
【0007】
グレーズ層は蓄熱層の機能を有しているが、グレーズ層の熱伝導率が高いと、電気抵抗層で発生した熱がグレーズ層で蓄熱されずにセラミック基板に速やかに伝えられるため、印刷のためにより多くの熱を電気抵抗層で発生させなければならない。そのため、サーマルヘッドの低消費電力化のためにはグレーズ層を熱伝導率の低い材料で形成する必要がある。
【0008】
熱伝導率の低い材料として、例えば、ポリイミドなど有機高分子化合物が挙げられるが、これら有機高分子化合物は耐熱性が低いため、サーマルヘッドのグレーズ層に用いることができなかった。
【0009】
また、ガラスに鉛を含有させると熱伝導率の低いガラスを得ることができるが、ガラス転移点が低く、サーマルヘッドとして耐熱性が不十分であった。また環境負荷の観点から、鉛含有ガラスの使用は好ましくない。
【0010】
特許文献1には、酸化マグネシウム(MgO)および酸化タンタル(Ta)を添加した、耐熱性の高いケイ酸塩系ガラスのグレーズ組成物が開示されている。しかしながら、ケイ酸塩系ガラスは熱伝導率が高いため、ケイ酸塩系ガラスをグレーズ層に用いても電力効率を向上させることができなかった。
【0011】
特許文献2には、リン酸塩系ガラスが開示されている。しかしながら、リン酸塩系ガラスの熱伝導率について記載されていない。また、特許文献2に記載のリン酸塩系ガラスは配線基板材料に適したものであるため、サーマルヘッドのグレーズ層として用いるには耐熱性が不十分である。さらに、熱膨張係数が大きく、例えばアルミナのセラミック基板の上に形成すると、剥離などが生じ好ましくない。
【0012】
特許文献3には、酸化カルシウム(CaO)および酸化ストロンチウム(SrO)を含有する成形性のよいリン酸塩系ガラスが開示されている。しかしながら、熱伝導率について記載されていない。
【0013】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて、熱伝導率が低く、かつ耐熱性に優れたリン酸塩系ガラス、およびリン酸塩系ガラスを用いたサーマルヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のリン酸塩系ガラスは、モル%で、Pを50〜68%、CeOを15〜39%、Bを2〜7%、Pr11を0.2〜0.5%含み、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすことを特徴とする。
【0015】
本発明のリン酸塩系ガラスは、P、CeO、B、Pr11を上記組成範囲で含むことにより、熱伝導率の小さいガラスを得ることができる。従って、例えば本発明のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成することにより、サーマルヘッドの消費電力を低減することができる。また、熱膨張係数が所定の範囲内にあるため、セラミックス基板の熱膨張係数とほぼ等しくすることができる。従って、本発明のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したとき、セラミックス基板との剥離が起こりにくい。さらに、ガラス転移温度が高いので耐熱性にも優れている。
【0016】
さらに、添加成分として、AlおよびBaOの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明のリン酸塩系ガラスは、モル%で、Pを50〜65%、CeOを5〜15%、Bを3〜8%、Alを0〜10%、BaOを0〜9%およびPr11を含み、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすことを特徴とする。
【0018】
本発明のリン酸塩系ガラスは、P、CeO、B、Pr11、AlおよびBaOを上記組成範囲で含むことにより、熱伝導率の小さいガラスを得ることができる。従って、例えば、本発明のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成することにより、サーマルヘッドの消費電力を低減することができる。また、熱膨張係数が所定の範囲内にあるため、セラミックス基板の熱膨張係数とほぼ等しくすることができる。従って、本発明のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したとき、セラミックス基板との剥離が起こりにくい。さらに、ガラス転移温度が高いので耐熱性にも優れている。
前記リン酸塩系ガラスは、Pr11を0.2〜2.0モル%含むことが好ましい。
【0019】
さらに本発明は、セラミックス基板上に、グレーズ層、発熱抵抗層、および保護層が形成されたサーマルヘッドにおいて、
モル%で、Pを50〜68%、CeOを15〜39%、Bを2〜7%、Pr11を0.2〜0.5%含み、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすリン酸塩系ガラスで前記グレーズ層が形成されること特徴とする。
【0020】
前記リン酸塩系ガラスは、添加成分として、AlおよびBaOの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0021】
本発明は、セラミックス基板上に、グレーズ層、発熱抵抗層、および保護層が形成されたサーマルヘッドにおいて、
モル%で、Pを50〜65%、CeOを5〜15%、Bを3〜8%、Alを0〜10%、BaOを0〜9%、およびPr11を含み、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすリン酸塩系ガラスで前記グレーズ層が形成されることを特徴とする。
【0022】
また、前記リン酸塩系ガラスは、Pr11を0.2〜2.0モル%含むことが好ましい。
【0023】
上記組成のリン酸塩系ガラスは熱伝導率が低いので、前記ガラスでグレーズ層を形成することにより、サーマルヘッドの消費電力を低減することができる。また、上記組成のリン酸塩系ガラスの熱膨張係数は、アルミナの熱膨張係数とほぼ等しい範囲内にあるため、前記リン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したとき、セラミックス基板との剥離が起こりにくい。さらに、上記組成のリン酸塩系ガラスは、ガラス転移温度が高いので耐熱性にも優れており、前記リン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したときの耐久性が高い。
【0024】
また、前記サーマルヘッドは、前記発熱抵抗層の上に導体層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のリン酸塩系ガラスは、従来に比べて熱伝導率を小さくできる。よって、例えば、本発明のリン酸塩系ガラスを、サーマルヘッドのグレーズ層に使用することで、サーマルヘッドの消費電力を従来より低いものとすることができる。また、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れているので、特に高速サーマルプリンター用のサーマルヘッドに使用することができる。
【0026】
本発明のリン酸塩系ガラスは、熱膨張係数が小さく、アルミナとほぼ同等である。従って、セラミックス基板としてアルミナを用いたとき、リン酸塩系ガラスで形成されたグレーズ層がセラミックス基板から剥離することがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】サーマルヘッドの断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のリン酸塩系ガラスは、リン酸(P)を主成分とし、酸化セリウム(CeO)、酸化ホウ素(B)、および酸化プラセオジム(Pr11)を含む。また他の成分を含むものであってもよい。
【0029】
本発明のリン酸塩系ガラスは、必須成分としてP、CeO、B、およびPr11を含むが、CeOに対するPの割合によって、各成分の含有量(組成範囲)が異なる。
【0030】
第1の実施形態のリン酸塩系ガラスは、Pを主成分(組成比が最も大きい)として50〜68(mol%)含み、CeOを15〜39(mol%)、Bを2〜7(mol%)、Pr11を0.2〜0.5(mol%)含む。そして、CeOに対するPのモル比は1≦P/CeO<4の関係を満たす。すなわち、本実施形態のリン酸塩系ガラスは、PをCeOと同じ、あるいはそれ以上多く含むガラスである。
【0031】
なお、前記含有量はリン酸塩系ガラス全体に対する含有量であり、後述するように、リン酸塩系ガラスを作製する際には、作製後のガラスにおいて各成分が前記含有量のmol%となるように原料の秤量、調合を行う。
【0032】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、主成分としてPを50〜68(mol%)含む。Pを主成分とするリン酸塩系ガラスは、Pが少ないほど耐水性が高い一方、結晶化が起こりやすくガラスになりにくい。
【0033】
が50(mol%)より少ないと、ガラスが結晶化し、ガラス状態が不安定となる。また、Pが68(mol%)より多いと、耐候性が悪化するので好ましくない。
【0034】
CeOは、Pの次に組成比の大きい成分であり、リン酸塩系ガラスに15〜39(mol%)含む。CeOが15(mol%)より少ないと、耐候性が悪化し、CeOが39(mol%)より多いと、ガラスが不安定となりガラスの結晶化が起こるため、いずれも好ましくない。
【0035】
はリン酸塩系ガラスに2〜7(mol%)含まれる。Bは、リン酸塩系ガラスの結晶化を防止し、ガラスを安定化させる効果がある。Bが2(mol%)より少ないと、リン酸塩系ガラスの結晶化が起こり、Bが7(mol%)より多いと、得られるリン酸塩系ガラスの耐候性が悪くなるのでいずれも好ましくない。
【0036】
Pr11はリン酸塩系ガラスに0.2〜0.5(mol%)含まれる。Pは還元されると気体状の金属リン(P)となり蒸発するが、Pr11は、Pの還元を防止する効果を有する。よって、リン酸塩系ガラスがPr11を含むと、上記リンの蒸発防止効果が発現し、耐水性が向上する。
【0037】
Pr11が0.2(mol%)より少ないと、上記リンの蒸発防止効果が発現せず、耐水性が低い。またPr11が0.5(mol%)より多いと、リン酸塩ガラスの結晶化を促進するため、好ましくない。
【0038】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、主成分であるP、およびCeO、BおよびPr11の他に、微量成分として、アルミナ(Al)、酸化バリウム(BaO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化鉄(Fe)、酸化イットリウム(Y)、酸化酸化ニオブ(Nb)、酸化マンガン(MnO)、シリカ(SiO)の少なくとも1種を含むものであってよい。これらの酸化物は、ガラスの結晶化の抑制、ガラス転移温度の調整等のために加えられる。
【0039】
Alの含有量は5(mol%)以下であることが好ましい。Alが5(mol%)より多いと、ガラスの結晶化を促進するため好ましくない。
【0040】
また、BaOの含有量は、1〜10(mol%)であることが好ましく、TiOの含有量は、1〜15(mol%)であることが好ましい。
【0041】
本実施形態のリン酸塩系ガラスに含まれる成分は、上記の酸化物に限られず、例えば、酸化クロム(Cr)、酸化すず(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化セリウム(II)(CeO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(CoO)、フッ化カルシウム(CaF)、酸化ジルコニウム(ZrO)酸化ネオジム(Nd))、酸化セシウム(CsO)、マンガン(MnO)、酸化リチウム(LiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)などの酸化物を含むものであってもよい。
上記したリン酸塩系ガラスを構成する全成分を合計すると100(mol%)となる。
【0042】
第2の実施形態のリン酸塩系ガラスは、Pを主成分(組成比が最も大きい)として50〜65(mol%)含み、CeOを5〜15(mol%)、Bを3〜8(mol%)、Alを0〜10(mol%)、BaOを0〜9(mol%)、およびPr11を含む。そして、CeOに対するPのモル比は4≦P/CeOの関係を満たす。すなわち、本実施形態のリン酸塩系ガラスは、PをCeOの4倍以上多く含むガラスであり、第1の実施形態のリン酸塩系ガラスより、CeOに対するPの割合が大きいガラスである。
【0043】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、主成分としてPを50〜65(mol%)含む。Pを主成分とするリン酸塩系ガラスは、Pが少ないほど耐水性が高い一方、結晶化が起こりやすくガラスになりにくい。
【0044】
が50(mol%)より少ないと、ガラスが結晶化し、ガラス状態が不安定となる。また、Pが65(mol%)より多いと、耐候性が悪化するので好ましくない。なお、CeOに対するPの割合が第1の実施形態のガラスに比べて大きいため、P量が65(mol%)より多くても耐候性が悪化するものと考えられる。
【0045】
CeOは、Pの次に組成比の大きい成分であり、リン酸塩系ガラスに5〜15(mol%)含む。CeOが5(mol%)より少ないと、耐候性が悪化し、CeOが15(mol%)より多いと、ガラスが不安定となりガラスの結晶化が起こるため、いずれも好ましくない。
【0046】
はリン酸塩系ガラスに3〜8(mol%)含まれる。Bは、リン酸塩系ガラスの結晶化を防止し、ガラスを安定化させる効果がある。Bが3(mol%)より少ないと、リン酸塩系ガラスの結晶化が起こり、Bが8(mol%)より多いと、得られるリン酸塩系ガラスの耐候性が悪くなるのでいずれも好ましくない。
【0047】
リン酸塩系ガラスはPr11を含むものであれば含有量は特に限定されないが、リン酸塩系ガラスに0.2〜2.0(mol%)含まれることが好ましい。Pは還元されると気体状の金属リン(P)となり蒸発するが、Pr11は、Pの還元を防止する効果を有する。よって、リン酸塩系ガラスがPr11を含むと、上記リンの蒸発防止効果が発現し、耐水性が向上する。
【0048】
Pr11が0.2(mol%)より少ないと、上記リンの蒸発防止効果が発現せず、耐水性が低い。またPr11が2.0(mol%)より多いと、リン酸塩ガラスの結晶化を促進するため、好ましくない。
【0049】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、さらにAlおよびBaOを含むことが好ましい。
【0050】
Alはリン酸塩系ガラスに0〜10(mol%)含まれる。また、BaOはリン酸塩系ガラスに0〜9(mol%)含まれる。Alが10(mol%)より多いと、または、BaOが9(mol%)より多いと、ガラスの結晶化を促進するため、いずれも好ましくない。
【0051】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、第1の実施形態のリン酸塩系ガラスと、P、CeO、B、Al、BaOおよびPr11の組成範囲が異なるが、これは、P/CeO比、すなわちCeOに対するP量が異なるため、リン酸塩系ガラス中の各成分の含有量が異なると考えられる。
【0052】
本実施形態のリン酸塩系ガラスは、主成分であるP、およびCeO、B、Al、BaO、およびPr11の他に、微量成分として、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化鉄(Fe)、酸化ランタン(La)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、シリカ(SiO)、酸化スズ(SnO)、酸化クロム(Cr)、酸化ナトリウム(NaO)の少なくとも1種を含むものであってよい。これらの酸化物は、ガラスの結晶化の抑制、ガラス転移温度の調整等のために加えられる。
【0053】
本実施形態のリン酸塩系ガラスに含まれる成分は、上記の酸化物に限られず、例えば、酸化ニッケル(NiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化セリウム(II)(CeO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(CoO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ネオジム(Nd))、酸化セシウム(CsO)、酸化イットリウム(Y)、酸化マンガン(MnO)、酸化リチウム(LiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)などの酸化物、あるいはフッ化カルシウム(CaF)を含むものであってもよい。
上記したリン酸塩系ガラスを構成する全成分を合計すると100(mol%)となる。
【0054】
以上述べたような成分を所定量秤量し混合した後、加熱することによりガラスを作成する。例えば、リン酸として、脱水したオルトリン酸を用い、生成したリン酸塩系ガラスにおける含有量が所定量のmol%となるように秤量し、同様に秤量したCeO、B、Pr11およびその他の成分を、乳鉢を用いて粉砕しながら十分に均一になるように混合する。均一に混合した粉状のガラス原料成分を、例えば白金製のるつぼに入れ、電気炉を用いて大気中で約1000〜1500℃の温度で所定時間加熱して溶融する。その際、昇温速度は特に制限はなく、例えば10℃/分の昇温速度で急速に加熱してもよい。
【0055】
その後、板状または棒状に成形しながら冷却し、さらに板状または棒状のリン酸塩系ガラスを粉砕して粉末状のリン酸塩系ガラスとする。なお、ガラス原料を混合する前に、粉状のガラス原料成分を篩にかけて粒子径を一定の大きさ以下に揃えておくと、ガラスがより均一となり好ましい。
【0056】
本発明で得られるリン酸塩系ガラスはいずれも透明であるが、添加された微量成分により、黄色、黄緑色、緑色、褐色、あるいは黒色などの色を呈する。
【0057】
なお、本発明のリン酸塩系ガラスは、安定したガラス状態を保つので、例えばガラス状態のガラスを再び加熱し冷却しても、結晶化しないで再度ガラス状態に戻すことが可能である。
【0058】
前記組成によって得られる本発明のリン酸塩系ガラスは、熱伝導率が0.57〜0.85(W/m・K)の間とすることができる。従来のケイ酸塩系ガラスは熱伝導率が高く、低いものでも1W/(m・K)のものしか得られなかった。そのため、ケイ酸塩系ガラスをグレーズ層に用いた場合、加熱に多くの電力を必要とし、電力効率が低いことが問題であった。
【0059】
本発明のリン酸塩系ガラスは、従来のケイ酸塩系ガラスに比べて、熱伝導率が小さい。特に熱伝導率が小さいものは、従来のケイ酸塩系ガラスの約1/2であり、熱伝導率が大きいものでも、従来のケイ酸塩系ガラスに比べて、約20%減少している。このように熱伝導率が小さいので、本発明のリン酸塩系ガラスをサーマルヘッドのグレーズ層に用いたとき、電気抵抗層で発生した熱をセラミックス基板に伝えにくいので、消費電力を低く抑えることができる。
【0060】
さらに、熱膨張係数(α)が66〜76(×10−7/℃)の範囲内にできる。アルミナの熱膨張係数(α)は66〜76(×10−7/℃)の範囲内であるので、セラミックス基板をアルミナとしたときに、セラミックス基板とグレーズ層の熱膨張係数(α)をほぼ同じとすることができる。これにより、サーマルヘッド使用時に、電気抵抗層で発生した熱がグレーズ層およびセラミックス基板に伝わっても、グレーズ層とセラミックス基板の間で熱膨張による剥離が起こりにくく、耐久性に優れる。
【0061】
本発明のリン酸塩系ガラスは、ガラス転移温度(Tg)を530〜680℃の範囲内にできる。このように耐熱性が高いので、サーマルヘッドのグレーズ層に用いても、加熱による変形および変質を起こすことがない。サーマルプリンターの高速化に伴い、サーマルヘッドに加わる熱も500℃まで達することがあるが、耐熱性の高い本発明のリン酸塩系ガラスは、前記グレーズ層に好適に使用することができる。
【0062】
本発明で得られたリン酸塩系ガラスを用いて、以下の製造方法により図1に示すサーマルヘッド1を製造する。なお図1に示すサーマルヘッドは一例であり、本実施形態で好適に用いられるサーマルヘッドの形状等は図1に示すものに限られない。
【0063】
上記により、ガラス原料となる成分を混合、加熱して作製されたガラスを粉砕し、粒径が5μm以下の粉末とする。粉末にバインダー(例えば、ブチルメタクリレート)、溶剤(例えば、トルエン)および可塑剤(例えば、ジブチルフタレート)を加えてペースト状とし、市販のサーマルヘッド用アルミナ製セラミックス基板11上に塗布する。
【0064】
次に、ガラス粉末を塗布したセラミックス基板を加熱炉に入れ、空気中1000℃で、10〜60分間焼成し、グレーズ層12を形成する。加熱炉の昇温速度は当初は20℃/分程度の急加熱でよいが、焼成温度を制御するため、800℃付近から5℃/分程度に落とすことが好ましい。焼成後のガラス(グレーズ層12)の膜厚は50〜250μmである。
【0065】
上記により形成されたグレーズ層12上に、発熱抵抗体層13、導体層14および保護層15を形成する。発熱抵抗体層13は、例えば、Ta−SiO、またはTaNを、導体層14は、例えば、Alを、さらに保護層15は、例えば、SIALON(Si,Al,OおよびNからなる化合物)を、それぞれスパッタ等により製膜して形成される。
【0066】
上記により製造されたサーマルヘッド1は、グレーズ層12を本発明のリン酸塩系ガラスで形成しているため、グレーズ層12の熱伝導率が低く、消費電力が小さい。グレーズ層12のガラス転移温度が高いので、サーマルヘッド1の耐熱性が高い。また、グレーズ層12の熱膨張係数がセラミックス基板11であるアルミナの熱膨張係数と等しいのでグレーズ層12とセラミックス基板11の間の剥離が起こりにくいため、耐久性に優れる。
【実施例】
【0067】
表1に示す組成比(mol%)を有するリン酸塩系ガラスを作製した。また、各リン酸塩系ガラスの熱伝導率、熱膨張係数(α)、ガラス転移温度(Tg)を測定し、同じ表中に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示す実施例1ないし16の組成成分を有するリン酸塩系ガラスは、いずれも、結晶化することがなく、良好なリン酸塩系ガラスを作製できた。実施例1ないし16のリン酸塩系ガラスは、いずれもPが50〜68(mol%)、CeOが15〜39(mol%)、Bが2〜7(mol%)、Pr11が0.2〜0.5(mol%)であり、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たす。
【0070】
実施例1ないし16のリン酸塩系ガラスは、熱伝導率が0.57〜0.75(W/(m・K))の範囲内であり、熱膨張係数が66〜76(×10−7/℃)の範囲内である。よって、実施例1ないし16のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したサーマルヘッドは消費電力が低く、電力効率の向上が図れる。また、グレーズ層の熱膨張係数がセラミックス基板と同じであるので、グレーズ層とセラミックス基板の剥離が起こりにくい。さらに、ガラス転移温度が540〜680℃であるので、耐熱性に優れたサーマルヘッドを得ることができる。
【0071】
比較例として、表2に示す組成比(mol%)を有するリン酸塩系ガラスを作製した。また、各リン酸塩系ガラスの熱伝導率、熱膨張係数(α)、ガラス転移温度(Tg)を測定し、同じ表中に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示す比較例1ないし8の組成成分を有するリン酸塩系ガラスは、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすが、各組成成分が、「Pが50〜68(mol%)、CeOが15〜39(mol%)、Bが2〜7(mol%)、Pr11が0.2〜0.5(mol%)」の本発明の組成範囲外の組成を有するリン酸塩系ガラスである。すなわち、上記範囲に比べて、Pが少ない(比較例1〜3)、CeOが少ない(比較例3)、Bが多い(比較例3〜5)Pr11が含まれていない(比較例4,5,8)、Pr11が多い(比較例2,3,6,7)。
【0074】
比較例1〜3および6,7は、いずれも結晶化してガラスにならなかった。また、比較例2,3,6,7は、熱膨張係数(α)が大きく、いずれもアルミナの熱膨張係数より大きかった。比較例4,5,8は、ガラスが形成できたが、再加熱した際に結晶化が起こった。また、熱膨張係数(α)も小さかった。
【0075】
表2に示すように、比較例1,3ないし8は、いずれも熱伝導率が小さく、またガラス転移温度も高く、耐熱性も有している。しかしながら、熱膨張係数(α)がアルミナの熱膨張係数より小さいか、または大きいため、サーマルヘッドのグレーズ層に用いるには好ましくない。さらにガラスにならなかったり、ガラス状態が不安定で再加熱により結晶化が起こり、サーマルヘッドのグレーズ層に用いることができないものであった。
【0076】
次に、表3に示す組成比(mol%)を有するリン酸塩系ガラスを作製した。また、各リン酸塩系ガラスの熱伝導率、熱膨張係数(α)、ガラス転移温度(Tg)を測定し、同じ表中に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示す実施例17ないし24の組成成分を有するリン酸塩系ガラスは、いずれも、結晶化することがなく、良好なリン酸塩系ガラスを作製できた。実施例17ないし24のリン酸塩系ガラスは、Pを50〜65(mol%)、CeOを5〜15(mol%)、Bを3〜8(mol%)、Alを0〜10(mol%)、BaOを0〜9(mol%)およびPr11を含むリン酸塩系ガラスであって、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たす。
【0079】
実施例17ないし24のリン酸塩系ガラスは、熱伝導率が0.61〜0.85(W/(m・K))の範囲内であり、熱膨張係数が66〜75(×10−7/℃)の範囲内である。よって、実施例17ないし24のリン酸塩系ガラスでグレーズ層を形成したサーマルヘッドは消費電力が低く、電力効率の向上が図れる。また、グレーズ層の熱膨張係数がセラミックス基板と同じであるので、グレーズ層とセラミックス基板の剥離が起こりにくい。さらに、ガラス転移温度が530〜630℃であるので、耐熱性に優れたサーマルヘッドを得ることができる。
【0080】
比較例として、表4に示す組成比(mol%)を有するリン酸塩系ガラスを作製した。また、各リン酸塩系ガラスの熱伝導率、熱膨張係数(α)、ガラス転移温度(Tg)を測定し、同じ表中に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
表4に示す比較例9ないし12の組成成分を有するリン酸塩系ガラスは、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすが、各組成成分が、「Pが50〜65(mol%)、CeOが5〜15(mol%)、Bが3〜8(mol%)、Alが0〜10(mol%)、BaOが0〜9(mol%)およびPr11を含む」本発明の組成範囲外の組成を有するリン酸塩系ガラスである。すなわち、上記範囲に比べて、Pが少ない(比較例9)、BaOが多い(比較例10,11)、Alが多い(比較例12)。
【0083】
比較例9ないし12は、いずれも結晶化してガラスにならなかった。また、比較例9,12は、熱膨張係数(α)が小さく、比較例10,11は、熱膨張係数(α)が大きかった。
【0084】
表2に示すように、比較例9,11,12は、いずれも熱伝導率が小さく、またガラス転移温度も高く、耐熱性も有している。しかしながら、熱膨張係数(α)がアルミナの熱膨張係数より小さいか、または大きいため、サーマルヘッドのグレーズ層に用いるには好ましくない。さらに結晶化してガラスにならないため、サーマルヘッドのグレーズ層に用いることができないものであった。
【符号の説明】
【0085】
1 サーマルヘッド
11 セラミックス基板
12 グレーズ層
13 発熱抵抗体層
14 導体層
15 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、Pを50〜68%、CeOを15〜39%、Bを2〜7%、Pr11を0.2〜0.5%含み、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすことを特徴とするリン酸塩系ガラス。
【請求項2】
添加成分として、AlおよびBaOの少なくとも一方を含む請求項1記載のリン酸塩系ガラス。
【請求項3】
モル%で、Pを50〜65%、CeOを5〜15%、Bを3〜8%、Alを0〜10%、BaOを0〜9%およびPr11を含み、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすことを特徴とするリン酸塩系ガラス。
【請求項4】
Pr11を0.2〜2.0モル%含む請求項3記載のリン酸塩系ガラス。
【請求項5】
セラミックス基板上に、グレーズ層、発熱抵抗層、および保護層が形成されたサーマルヘッドにおいて、
モル%で、Pを50〜68%、CeOを15〜39%、Bを2〜7%、Pr11を0.2〜0.5%含み、CeOに対するPのモル比が1≦P/CeO<4の関係を満たすリン酸塩系ガラスで前記グレーズ層が形成されること特徴とするサーマルヘッド。
【請求項6】
前記リン酸塩系ガラスが、添加成分として、AlおよびBaOの少なくとも一方を含む請求項5記載のサーマルヘッド。
【請求項7】
セラミックス基板上に、グレーズ層、発熱抵抗層、および保護層が形成されたサーマルヘッドにおいて、
モル%で、Pを50〜65%、CeOを5〜15%、Bを3〜8%、Alを0〜10%、BaOを0〜9%、およびPr11を含み、CeOに対するPのモル比が4≦P/CeOの関係を満たすリン酸塩系ガラスで前記グレーズ層が形成されることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項8】
前記リン酸塩系ガラスは、Pr11を0.2〜2.0モル%含む請求項7記載のサーマルヘッド。
【請求項9】
前記発熱抵抗層の上に、導体層が形成された請求項6ないし8のいずれかに記載のサーマルヘッド。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49623(P2013−49623A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230681(P2012−230681)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2009−503943(P2009−503943)の分割
【原出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】