説明

ループ型ヒートパイプ及び電子装置

【課題】 蒸発器、凝縮器以外の部分での作動流体の相変化による流動障害を抑制しながら、発熱量の増大に対する動作限界を高めることのできるLPHを提供することを課題とする。
【解決手段】 ループ型ヒートパイプの第1基板20には、凝縮部22と液相路24と液溜め部26とが形成される。第1基板に接合された第2基板30に気相路32が形成される。第2基板に接合された第3基板40に蒸発部42が形成される。気相路32は蒸発部42と凝縮部22とを接続する。液相路24は凝縮部22と蒸発部42とを接続する。第1基板20を形成する基材の熱伝導率は、第2基板30を形成する基材の熱伝導率より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態はヒートパイプの原理を用いて電子部品を冷却する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の電子機器の多くは、大規模半導体集積回路(LSI)を用いて電子回路を形成した電子回路基板を有している。LSIは動作時に発熱するため、放熱機構を設けてLSIを冷却することが多い。例えば、LSIパッケージの放熱面にヒートスプレッダやヒートシンク等の放熱部材を接触させて、LSIパッケージ内部で発生した熱を放熱部材を介して周囲に放出することで、LSIパッケージを冷却することができる。
【0003】
LSIの高集積化に伴いLSIの発熱量が増大しており、放熱部材による放熱では冷却能力が足りない場合がある。そこで、放熱部材の代わりにヒートパイプによる熱移動を利用した放熱機構によりLSIパッケージを冷却することが提案されている。そのようなヒートパイプのうち、特に携帯電話等の小型・薄型電子機器内の半導体素子の冷却に適したものとして、ループ型ヒートパイプ(LHP)が提案されている。
【0004】
LHPは、作動液が気化する潜熱を利用して冷却する蒸発器と、蒸発器から輸送される気体を液化する凝縮器と、蒸発器から凝縮器へ蒸気を輸送する気相路と、凝縮器から蒸発器へ液を輸送する液相路とより構成される。電子機器からの熱により蒸発器内で作動液が蒸発し、その際の気化熱によって電子機器は冷却される。蒸発器内で発生した蒸気は気相路を経て凝縮器に至り、液化された後に液相路を通って再び蒸発器に戻る。還流した液は、蒸発器内のウィックの毛細管力により蒸発器内の全域に染み渡り、再び電子機器からの熱によって蒸発する。
【0005】
LHPでは、その動作原理から、気相路内に液相が、或いは液相路内に気相が混入すると、各流路が詰まってしまう可能性があり、動作不良の原因となる。このため、蒸発器と凝縮器以外での作動流体の相変化を抑制することが重要な課題となる。ノートPCや携帯電話のような小型・薄型の携帯電子機器への搭載を目的としたLHPでは、流路の幅が数十から数百μmオーダーであり、全作動流体の体積に対する、流路内壁との接触面積量の割合が大きくなる。このため、サーバ等への搭載を目的とした従来のLHP(流路の幅はmmオーダー)に較べて、流路内壁を通して作動流体が外周基板と熱交換をしやすくなる。それにより、作動流体が蒸発器と凝縮器以外の部分(すなわち、気相路及び液相路)で相変化を起こしやすくなり、二相が混在することによる流動障害が発生しやすいという問題がある。
【0006】
そこで、同一基板上に蒸発器と凝縮器を、両者間で熱的接触のないように形成し、低熱伝導率材質からなる基板上に形成した気相路および液相路によって、蒸発器と凝縮器を接続してLHPを形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このLHPでは、気相路および液相路が低熱伝導率の基材上に形成されているため、外部から熱的影響を受けて各流路内に存在する作動流体が相変化することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−108760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LHPの動作時において、熱源の発熱量が上昇し続けると、発生する蒸気量も増加していく。しかしながら、凝縮器において凝縮可能な流体量には限界がある。従って、発生する蒸気が一定量を超えると、蒸気は凝縮器において凝縮しきれずに液相路へと流入してしまう。例えば、特許文献1に開示されたLHPでは、流路内における作動流体の相変化が抑制されているため、液相路内に流入した蒸気は相変化せずに液相路を通過し、蒸発器の液管側に蒸気(気体)が溜まることになる。これにより、液相路から蒸発器への液流入が妨げられてしまい、やがて蒸発器内の作動液が枯渇し(いわゆる、ドライアウト)、LHPの動作が停止してしまうおそれがある。
【0009】
そこで、蒸発器、凝縮器以外の部分での作動流体の相変化による流動障害を抑制しながら、発熱量の増大に対する動作限界を高めることのできるLHPの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、凝縮部と液相路とが形成された第1基板と、前記第1基板に接合され、気相路が形成された第2基板と、前記第2基板に接合され、蒸発部が形成された第3基板とを有し、前記気相路は、前記蒸発部と前記凝縮部とを接続し、前記液相路は、前記凝縮部と前記蒸発部とを接続し、前記第1基板を形成する基材の熱伝導率は、前記第2基板を形成する基材の熱伝導率より大きいループ型ヒートパイプが提供される。
【0011】
また、上述のループ型ヒートパイプが組み込まれた電子機器が提供される。
【発明の効果】
【0012】
液相路及び液溜め部が形成された第1基板と、蒸発部が形成され第3基板の間に、熱伝導率が低い第2基板が設けられるため、第3基板から第1基板への伝熱が抑制される。これにより、液相路及び液溜め部への伝熱量が減少し、液相路及び液溜め部での作動流体の気化が抑制され、作動流体の相変化による流動障害が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態によるループ型ヒートパイプの分解斜視図である。
【図2】蒸発部にウィックが設けられたループ型ヒートパイプの分解斜視図である。
【図3】第1基板及び第2基板より小さな第3基板を有するループ型ヒートパイプの分解斜視図である。
【図4】第1基板を2枚の基板で形成したループ型ヒートパイプの分解斜視図である。
【図5】ループ型ヒートパイプが組み込まれた電子機器の一例としての携帯電話の内部を示す斜視図である。
【図6】図5に示す携帯電話の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は一実施形態によるループ型ヒートパイプ(LHP)の分解斜視図である。本実施形態によるLHP10は、第1基板20と、第2基板30と、第3基板40とを積層して貼り合わせて形成される。
【0016】
第1基板20には、凝縮部22、液相路24、及び、液溜め部26が形成される。凝縮部22、液相路24、及び、液溜め部26は、第1基板20の裏面側(第2基板30が接合される面側)から形成された凹部及び溝により形成される。凝縮部22は内部で気相状態の作動流体(蒸気)が放熱して液化する部分である。
【0017】
第1基板20の表側であって、裏面側から凝縮部22が形成された部分には、放熱フィン22aが取り付けられる。また、第1基板20の表側であって、裏面側から液溜め部26が形成された部分には、液注入口26aが設けられる。液注入口26aはループ型ヒートパイプ10が形成されてから、作動流体を外部から液溜め部26の内部に注入するための貫通孔である。作動流体の注入後は、液注入口26aは閉鎖される。
【0018】
ここで、第1基板20は高熱伝導率の材料により形成された基材である。したがって、凝縮部22の内部の作動流体(蒸気)の熱は第1の基板20から効率的に放熱フィン22aに伝達され、放熱フィン22aからLHP10の外部に放出される。第1基板20を形成する高熱伝導率の材料の例として、例えば、シリコンなどの半導体材料や銅などの金属材料があげられる。これらの材料は、高熱伝導率を有するだけでなく、半導体製造技術における基板加工技術により容易に加工することができる。すなわち、第1基板20に対して凹部や溝を形成する方法として、RIE(ドライエッチング)、ウェットエッチング、レーザエッチング、UV光エッチング、プロトン光エッチングなどのエッチング法を用いることができる。
【0019】
次に、第2基板30について説明する。第1基板20の裏面側に接合される第2基板30には、気相路32と連通孔34とが形成される。気相路32は、第2基板30の裏面側(第3基板40が接合される面側)から形成された溝(細長い凹部)により形成される。気相路32は、後述する第3基板40の蒸発部42と、上述の第1基板20の凝縮部22とを接続する流体通路として設けられる。したがって、気相路32の一端側に連通孔32aが形成され、連通孔32aを介して第1基板20の裏面側に開口している凝縮部22と気相路32とが接続される。気相路32の反対端側は、後述する第3基板40の表面側に開口している蒸発部42に接続される。
【0020】
蒸発部42で気化して気相路32を流れてきた作動流体の蒸気は連通孔32aを通って第1基板20の凝縮部22に流入することができる。気相路32は、連通孔32aが形成された位置から、後述する第3基板40の蒸発部42が形成された位置まで延在し、蒸発部42に接続される。
【0021】
第2基板30に形成されたもう一つの連通孔34は、第2基板30を貫通する孔であり、第1基板20の液溜め部26と、後述する第3基板40の蒸発部42とを連通するための貫通孔である。液溜め部26に溜まった液相状態の作動流体は、連通孔34を介して第3基板40の蒸発部42に流入することができる。
【0022】
ここで、第2基板30は低熱伝導率の材料により形成された基材である。したがって、第2基板30の内部に形成された気相路32と第1基板20との間は、第2基板30を形成する低熱伝導率の材料に断熱された状態となる。これにより、気相路32内の気相状態の作動流体の熱が第1基板に伝達されることが抑制される。すなわち、気相路32内の気相状態の作動流体は、気相路32内を流れる間は気相状態であるための温度に維持されながら、凝縮部22に流れ込むことができる。
【0023】
第2基板30を形成する低熱伝導率の材料の例として、例えば、ガラス、あるいはポリメチルシロキサン(PDMS)等の合成樹脂があげられる。これらの材料は、低熱伝導率を有するだけでなく、半導体製造技術における基板加工技術により容易に加工することができる。
【0024】
次に、第3基板40について説明する。第2基板20の裏面側に接合される第3基板40には、上述のように蒸発部42が形成される。蒸発部42は第3基板40の表面側(第2基板20の裏面側に接合される面側)から形成された凹部であり、凹部の内部にフィン42aが設けられている。フィン42aは必ずしも短冊状の突起である必要はなく、凹部の内面の面積を増加させるものであれば、例えば多数の細かな溝を凹部の底面に形成したような構造であってもよい。
【0025】
第3基板40の裏面側(第2基板30が接合される面の反対側)で蒸発部42が設けられた部分に、半導体素子や電子部品のような発熱体が接触するように構成されている。ここで、第3基板40は高熱伝導率の材料により形成された基材である。したがって、発熱体の熱は、第3の基板40から効率的に蒸発部42内の作動流体に伝達され、作動流体は発熱体からの熱により蒸発して気化する。第3基板40を形成する高熱伝導率の材料の例として、第1基板20を形成するための材料と同様に、例えば、シリコンなどの半導体材料や銅などの金属材料があげられる。
【0026】
ループ型ヒートパイプ10は、上述の第1基板20、第2基板30、及び第3基板を積層して接合した後、液注入口26aから作動流体を内部に注入し、液注入口26aを閉鎖することで完成する。第1基板20、第2基板30、及び第3基板の接合は、例えば陽極接合とすることができる。また、作動流体として、例えば水を用いることができる。
【0027】
第1基板20及び第3基板40は高熱伝導率を有する材料で形成されており、第1基板20と第3基板40との間の第2基板30は低熱伝導率を有する材料で形成されている。本実施形態では、第1基板20及び第3基板40は例えば銅と同じ程度の熱伝導率を有し、第2基板30は例えばPDMSと同じ程度の熱伝導率を有することとしている。ただし、第2基板30の熱伝導率が、少なくとも第1基板20の熱伝導率より低ければ、気相路32を断熱する効果が得られるので、気相路32での作動流体の相変化(液化)を抑制することができる。
【0028】
次に、ループ型ヒートパイプ10の動作について説明する。
【0029】
まず、液溜め部26内の液相状態の作動流体は、連通孔34を通じて蒸発部42に流入する。液相状態の作動流体は、蒸発部42において発熱体からの熱を吸収して蒸発し、気相状態(気相)の作動流体となる。気相状態の作動流体は気相路32に入り、気相路32を通過して凝縮部22に流れ込む。
【0030】
このとき、気相路32は低熱伝導率の材料で形成された第2基板30内に形成されており、気相路32と第1基板20との間には低熱伝導率の材料が存在する。これにより、気相路32は放熱フィン22aが設けられた第1基板20から断熱され、気相路32内の気相状態の作動流体から第1基板20への伝熱は抑制される。したがって、気相路32内を流れる気相状態の作動流体が熱を放出して液相状態の作動流体となること(液化すること)が抑制され、気相路32内で液化した作動流体が気相路32内の気相状態の作動流体の流れを阻止することを防止することができる。
【0031】
気相路32から連通孔32aを通じて凝縮部22に流入した作動流体は、凝縮部22で放熱して凝縮し、液相状態の作動流体に相変化する。液相状態の作動流体は、液相路24を流れて液溜め部26に戻り、再び蒸発部42に流れ込む。このように、作動流体は蒸発部42で吸熱して蒸発してから凝縮部22で放熱して凝縮するというサイクルを繰り返すことで、発熱体から連続的に熱を吸収し冷却することができる。
【0032】
以上のように、本実施形態では、液相路24と液溜め部26とが高熱伝導率を有する第1基板20に形成されている。このため、凝縮部22において凝縮しきれなかった作動流体の蒸気が液相路24及び液溜め部26に流入しても、液相路24及び液溜め部26においても第1基板20を介した放熱が行なわれる。これにより、液相路24及び液溜め部26においても作動流体の液相への相変化(液化)が生じ、液相路24及び液溜め部26に気相状態の作動流体が滞留することが抑制される。
【0033】
また、第1基板20に形成された凝縮部22、液相路24、及び液溜め部26と、第3基板40に形成された蒸発部42との間には、低熱伝導率を有する第2基板30が設けられる。第2基板30の熱伝導率は、第1基板20及び第3基板の熱伝導率より低いため、第2基板30が設けられたことで、第3基板40に接触する発熱体からの熱が、第1基板20の液相路24及び液溜め部26に伝わることが抑制される。これにより、発熱体の熱が液相路24及び液溜め部26に伝わってそれらの内部で作動流体が気化することが抑制される。
【0034】
以上より、発熱体からの発熱量が大きくても、液相路24及び液溜め部26における作動流体は液相状態を保つことができるため、発熱量に対するLHPの動作限界を高めることができる。
【0035】
さらに、上述のように、第2基板30の熱伝導率は、第1基板20の熱伝導率より低いため、凝縮部22が設けられた第1基板20に対して気相路32から熱が移動することが抑制される。これにより、気相路32内で作動流体が液化することが抑制され、気相路32内で液相状態の作動流体が気相状態の作動流体の流れを阻止することが抑制され、作動流体の流動障害を防止することができる。したがって、気相路32が形成された低熱伝導率を有する第2基板30を第1基板20と第3基板40との間に設けることで、LHP内において、スムーズな作動流体の循環を維持することができる。
【0036】
上述の実施形態では、蒸発部42内にフィンを設けたり、蒸発部42の内部を溝構造としたりすることで作動流体との接触面積を増やしているが、図2に示すように、多孔質体よりなるウィック44を蒸発部42内に組み込むこととしてもよい。図2は蒸発部42にウィック44が設けられたループ型ヒートパイプ10Aの分解斜視図である。図2において、図1に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0037】
ウィック44は例えばステンレス鋼などの金属の多孔質体やセラミックスの多孔質体により形成され、作動流体との接触面積を非常に大きくとることができる。なお、図2において、図1に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0038】
また、上述の実施形態では、第3基板40は、第1基板20及び第2基板30の形状・寸法と同じとしたが、第3基板40を蒸発部42及び発熱体の大きさに合わせて小さくして、図3に示すように第3基板40Aとしてもよい。図3は、第1基板20及び第2基板30より小さな第3基板40Aを有するループ型ヒートパイプ10Bの分解斜視図である。
【0039】
図3において、第3基板40Aは、第1基板20及び第2基板30より小さく、蒸発部42の大きさに対応する大きさである。したがって、第3基板40Aは、図1に示す第3基板40より小さくなっている。ループ型ヒートパイプ10Bのその他の構成は図1に示すループ型ヒートパイプ10と同等である。したがって、図3において、図1に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0040】
第3基板40Aは、発熱体の大きさに対応した形状・寸法を有しているため、発熱体からの熱が第3基板40Aを介して第2基板30から第1基板20へと伝わる伝熱面積が小さくなっている。したがって、図1に示すループ型ヒートパイプ10と比較すると、ループ型ヒートパイプ10Bでは、発熱体から第2基板30及び第1基板20へと伝わる熱量が低減される。これにより、発熱体からの発熱量が大きくても、第1基板20に形成された気相路24及び液溜め部26への伝熱量が低減され、気相路24及び液溜め部26における作動流体は液相状態を保つことができ、発熱量に対するLHPの動作限界をより高くすることができる。
【0041】
上述の実施形態において、一枚の基板ではなく2枚の基板を貼り合わせて第1基板20を形成してもよい。図4は第1基板20を2枚の基板で形成したループ型ヒートパイプ10Cの分解斜視図である。
【0042】
図4において、第1基板20は、上側基板20Aと下側基板20Bとを貼り合わせることで形成される。上側基板20Aには凝縮部22が形成され、凝縮部22に相当する位置に放熱フィン22aが取り付けられる。下側基板20Bには液相路24及び液溜め部26が形成される。また、下側基板には、気相路32と凝縮部22とを連通する貫通孔として連通孔20Baが形成される。上側基板20Aに設けられた凝縮部22のほうが、下側基板20Bに設けられた液相路24より高い位置となって高低差ができるため、凝縮部22で液化した作動流体を液相路24に流れやすくすることができる。
【0043】
ここで、上述の実施形態によるループ型ヒートパイプの具体的な効果について、図1に示すループ型ヒートパイプ10を例にとって説明する。
【0044】
第1基板20の厚さを500μmとする。第1基板20に形成された液相路24の幅を420μm、深さを150μm、長さを32mmとする。作動流体として水がループ型ヒートパイプ10内に封入されているものとする。
【0045】
発熱体から作動流体に10Wの熱が流入し、蒸発部42の温度が65度となった定常状態での動作を考える。65度での水の蒸発潜熱は2.34×10J/kgであるので、作動流体の質量流量は4.27×10−6kg/sとなる。よって、液相路24の温度が30度となった場合、水の密度は995.6kg/mであるので、液相路24における水の体積流量は4.28×10−9/sとなり、流速は0.112m/sとなる。
【0046】
発熱体の熱により発生した蒸気のうち、例えば、4.60×10−11が凝縮部22で液化せずに気泡として液相路24に混入したときを考える。この気泡が完全な球状である場合、半径は222.2μmである。ここで、液相路24と等価である円管を考えると、円管の半径rについては、液相路の幅wおよび深さtを用いて、次式で表される。
【0047】
【数1】

【0048】
式(1)によれば、液相路24の等価半径rは221μmである。従って、上述の気泡が液相路24に混入した場合、液相路24が気泡によって詰まってしまう可能性がある。この混入した気泡は、液相路24内の水と同じ速度で進行するので、長さ32mmの液相路24を0.287sで通過することになる。
【0049】
例えば、第1基板20の材質が低熱伝導率を有するガラス(熱伝導率0.75W/mK)の場合、基板と外気との接触面の温度が25度とすると、流路底の厚さが200μm、液相路24の温度が30度であることから、流路底から外部への放出熱量は7.5×10−4Wとなり、0.287s間での総放出熱量は2.15×10−4Jとなる。従って、30度での水の蒸発潜熱が2.43×10J/kgであることから、液化する流体の質量は8.85×10−11kg、体積は8.89×10−14となる。流路底からのみの放熱を考えた場合、混入した気泡の僅か0.19%しか液化しておらず、4.59×10−11の気泡が液化せずに液相路24を進むことになる。この気泡が完全に球状である場合、半径は222.1μmであるので、依然として液相路24が気泡によって詰まる可能性がある。
【0050】
一方、第1基板20の材質が高熱伝導率を有する銅(熱伝導率385W/mK)の場合、流路底から外部への放出熱量は0.385Wとなり、0.287s間での総放出熱量は0.11Jとなる。従って、液化する流体の質量は4.55×10−8kg、体積は4.56×10−11となる。流路底からのみの放熱を考えた場合、混入した蒸気の99%が液化し、気泡として存在しているのは、僅か3.65×10−13のみである。この気泡が完全に球状である場合、半径は44.3μmと、液相路24の等価半径に比べて充分に小さい。
【0051】
以上のように、熱源の発熱量が約10Wに達した場合、液相路24が低熱伝導率の部材(上述の例ではガラス)で形成されていると、LHPが動作限界となってしまうが、液相路24が高熱伝導率の部材(上述の例では銅)で形成されていれば、発熱量に対するLHPの動作限界が向上し、熱源の発熱量が10W以上であってもLHPの動作が可能となる。
【0052】
次に、上述のループ型ヒートパイプが組み込まれた電子機器について説明する。図5はループ型ヒートパイプ10が組み込まれた電子機器の一例としての携帯電話の内部を示す斜視図である。図6は図5に示す携帯電話の断面図である。
【0053】
電子機器の一例としての携帯電話60は、上側筐体62と下側筐体64とを有する。上側筐体には、LCD等の表示部62aが設けられ、表示部62aの下には操作ボタン62bが配置されている。
【0054】
下側筐体64内には回路基板66が組み込まれ、回路基板66上に上述のループ型ヒートパイプ10が配置されている。より具体的には、回路基板66上に電子部品68が搭載され、電子部品68を冷却するためにループ型ヒートパイプ10が設けられている。ループ型ヒートパイプ10は、第3基板40の裏面側で蒸発部42の位置が、電子部品68に接触するように配置されている。電子部品68は動作時に発熱する発熱体である。したがって、電子部品68が発生した熱を蒸発部42で吸収するようにループ型ヒートパイプ10が電子部品68の上に取り付けられている。
【0055】
図1に示すループ型ヒートパイプ10の第1基板20には放熱フィン22aが取り付けられているが、図5に示す例では、放熱フィン22aの代わりに放熱材70が取り付けられている。放熱材70は、第1基板20の表面側であって、凝縮部22に相当する位置に取り付けられる。
【0056】
放熱材70は、高熱伝導率を有する材料である、例えば、銅やアルミニウムなどにより形成された板状の部材であり、凝縮器22からの熱をその表面から放熱することができる。 放熱材70の上面や両端側面を、上側筐体62の内面や下側筐体64の内面に接触させておくことで、放熱材70を介して上側筐体62及び下側筐体64にも放熱することができ、放熱効率を一層高めることができる。
【0057】
以上のように、本明細書は以下の事項を開示する。
(付記1)
凝縮部と液相路とが形成された第1基板と、
前記第1基板に接合され、気相路が形成された第2基板と、
前記第2基板に接合され、蒸発部が形成された第3基板と
を有し、
前記気相路は、前記蒸発部と前記凝縮部とを接続し、
前記液相路は、前記凝縮部と前記蒸発部とを接続し、
前記第1基板を形成する基材の熱伝導率は、前記第2基板を形成する基材の熱伝導率より大きいループ型ヒートパイプ。
(付記2)
付記1記載のループ型ヒートパイプであって、
前記第2基板を形成する基材の熱伝導率は、前記第1基板及び前記第3基板を形成する基材の熱伝導率より小さいループ型ヒートパイプ。
(付記3)
付記1又は2記載のループ型ヒートパイプであって、
前記蒸発部の内面に溝構造が設けられたループ型ヒートパイプ。
(付記4)
付記1記載のループ型ヒートパイプであって、
前記蒸発部の内部にウィックが設けられているループ型ヒートパイプ。
(付記5)
前記第3基板は、前記第1基板及び前記第2基板より小さく、前記蒸発部に対応した大きさであるループ型ヒートパイプ。
(付記6)
付記1乃至5のうちいずれか一項記載のループ型ヒートパイプであって、
前記第1基板の表面で前記凝縮部に対応する位置に放熱材が取り付けられたループ型ヒートパイプ。
(付記7)
付記6記載のループ型ヒートパイプであって、
前記放熱材は放熱フィンであるループ型ヒートパイプ。
(付記8)
付記1乃至7のうちいずれか一項記載のループ型ヒートパイプであって、
前記第1基板及び前記第3基板はシリコン又は銅により形成され、前記第2基板はガラス又は合成樹脂により形成されるループ型ヒートパイプ。
(付記9)
付記1乃至8のうちいずれか一項記載のループ型ヒートパイプが組み込まれた電子機器。
(付記10)
付記9記載の電子機器であって、
前記ループ型ヒートパイプは、前記蒸発部に対応する部分が、筐体内に収容された回路基板に実装された電子部品に接触するように配置された電子機器。
(付記11)
付記10記載の電子機器であって、
前記放熱材は板状の放熱材であり、該放熱材の一部は前記筐体に接触するように配置された電子機器。
【符号の説明】
【0058】
10,10A,10B,10C ループ型ヒートパイプ
20 第1基板
20A 上側基板
20B 下側基板
20Ba 連通孔
22 凝縮部
22a 放熱フィン
24 液相路
26 液溜め部26
26a 液注入口
30 第2基板
32 気相路
32a 連通孔
34 連通孔
40 第3基板
42 蒸発部
42a フィン
44 ウィック
60 携帯電話
62 上側筐体
62a 表示部
62b 操作ボタン
64 下側筐体
66 回路基板
68 電子部品
70 放熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮部と液相路とが形成された第1基板と、
前記第1基板に接合され、気相路が形成された第2基板と、
前記第2基板に接合され、蒸発部が形成された第3基板と
を有し、
前記気相路は、前記蒸発部と前記凝縮部とを接続し、
前記液相路は、前記凝縮部と前記蒸発部とを接続し、
前記第1基板を形成する基材の熱伝導率は、前記第2基板を形成する基材の熱伝導率より大きいループ型ヒートパイプ。
【請求項2】
請求項1記載のループ型ヒートパイプであって、
前記第2基板を形成する基材の熱伝導率は、前記第1基板及び前記第3基板を形成する基材の熱伝導率より小さいループ型ヒートパイプ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のループ型ヒートパイプであって、
前記蒸発部の内面に溝構造が設けられたループ型ヒートパイプ。
【請求項4】
請求項1又は2記載のループ型ヒートパイプであって、
前記蒸発部の内部にウィックが設けられたループ型ヒートパイプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項記載のループ型ヒートパイプであって、
前記第3基板は、前記第1基板及び前記第2基板より小さく、前記蒸発部に対応した大きさであるループ型ヒートパイプ。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載のループ型ヒートパイプが組み込まれた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−69925(P2013−69925A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208185(P2011−208185)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】