説明

レイノー現象の処置のための可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化剤の使用

本発明は、一次性および二次性のレイノー現象の処置用の医薬を製造するための式(I−VI)の化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次性および二次性のレイノー現象の処置用の医薬を製造するための式I−VIの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レイノー現象は、指動脈、前毛細血管細動脈の狭窄および皮膚の動静脈シャントを伴う指の血管収縮の一局面を意味する。臨床的徴候は、偶発性の疼痛を伴う指の虚血局面、続いて、チアノーゼ性の青色変色、および、最後に反応性充血の局面である。あり得る誘導原は、寒冷刺激およびストレス反応である。寒冷刺激に対する四肢動脈の過剰な生理的応答による一次性の無併発性レイノー現象と、リウマチ性疾患、または、強皮症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、多発性筋炎もしくは皮膚筋炎などの結合組織疾患の1つである基礎的全身的障害による二次性レイノー現象とも区別される。二次性レイノー現象は、さらに、指の組織壊死、潰瘍および壊疽の発生を頻繁に伴う。
【0003】
病態生理学的基礎は、指動脈および細動脈の血管緊張の変化であると思われる。さらに、NOおよびプロスタグランジンの発現が低下することが最初に観察され、エンドセリンの産生が増加することが二番目に観察された。
【0004】
今日までの治療的アプローチは、支持的には、寒冷およびストレスなどの刺激の誘導、ニコチン乱用および血管収縮性薬剤(例えば、エルゴタミン、クロニジン、交感神経模倣薬)の回避に、そして、症候的には、様々な血管拡張剤(例えばカルシウムチャネル遮断薬、α受容体遮断薬、硝酸化合物およびプロスタグランジン誘導体)の投与に限られてきた。大集団の患者に関する研究はまだ実施されていない。しばしば、様々な物質に関する症例の寄せ集めおよび逸話風の報告のみが存在し、時には矛盾する結果を伴う。個々の血管拡張剤は、約50%の応答率しか示さない。副作用は頻繁である:例えば、カルシウムチャネル遮断薬およびα受容体遮断薬は、全身的低血圧を示す。静脈内プロスタグランジンは、今日までにレイノー症の適応症について認可されておらず、様々なプロスタグランジン誘導体(イロプロスト、ベラプロスト、シカプロスト(cicaprost))を用いる研究は、この病状への臨床的利益をまだ示せていない。
【0005】
哺乳動物細胞における最も重要な細胞の伝達システムの1つは、環状グアノシン一リン酸(cGMP)である。内皮から放出され、ホルモン的および機械的シグナルを伝達する一酸化窒素(NO)と共同して、それは、NO/cGMPシステムを形成する。グアニル酸シクラーゼは、グアノシン三リン酸(GTP)からのcGMPの生合成を触媒する。今日までに知られているこのファミリーの代表例は、構造的特徴およびリガンドの性質の両方に従って、2つのグループに分類できる:ナトリウム利尿ペプチドにより刺激され得る粒子性グアニル酸シクラーゼ、および、NOにより刺激され得る可溶性グアニル酸シクラーゼ。可溶性グアニル酸シクラーゼは2個のサブユニットからなり、恐らくヘテロ二量体毎に1個のヘムを含有し、それは調節中心の一部である。これは、活性化メカニズムにとって中心的な重要性を有する。NOは、ヘムの鉄原子に結合でき、かくして、この酵素の活性を顕著に増加させる。一方、ヘムを含まない調製物は、NOにより刺激され得ない。COもヘムの中心鉄原子に結合できるが、COによる刺激は、NOによるものよりも顕著に少ない。
【0006】
cGMPの生成、および、それに起因するホスホジエステラーゼ、イオンチャネルおよびタンパク質キナーゼの調節を介して、グアニル酸シクラーゼは、様々な生理的過程において、特に、平滑筋細胞の弛緩および増殖において、血小板の凝集および接着において、神経のシグナル伝達において、上述の過程の欠陥に起因する障害において、重要な役割を演じる。病的条件下では、NO−cGMP系は抑制されることがあり、恐らく、例えば、高血圧、血小板活性化、細胞増殖の増加、内皮の機能不全、アテローム性動脈硬化、狭心症、心不全、血栓症、卒中、性機能不全および心筋梗塞を導く。
【0007】
NOから独立した、生物におけるcGMPシグナル伝達経路に影響を与えることを目的とするそのような疾患の可能な処置は、高い有効性および少ない副作用が予測されるので、有望なアプローチである。
【0008】
その効果がNOをベースとする有機硝酸塩などの化合物は、今日まで、可溶性グアニル酸シクラーゼの治療的刺激に専ら使用されてきた。NOは、生物変換により産生され、ヘムの中心鉄原子に作用することにより、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化する。副作用の他に、耐性の発生がこの処置様式の重大な欠点の1つである。
【発明の開示】
【0009】
この度、可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤は、微小血管障害の治療に特に適することが見出された。先行技術と比較して、後述する本発明の式IないしVIの化合物は、改善された薬力学的特性を有する:それらは、重篤な内皮損傷がある場合でさえ、動脈毛細血管系において内因的に産生されるNOとは無関係の血管拡張作用を有する。加えて、可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤は、内因的に産生されるNOの効果を増強する。
【0010】
化合物(I)は、以下の式:
【化1】

に相当し、化合物(I)、医薬としてのその製造および使用は、WO01/19780で開示された。
【0011】
化合物(II)は、以下の式:
【化2】

に相当し、化合物(II)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569で開示された。
【0012】
化合物(III)は、以下の式:
【化3】

に相当し、化合物(III)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO02/42301で開示された。
【0013】
化合物(IV)は、以下の式:
【化4】

に相当し、化合物(IV)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO03/095451で開示された。
【0014】
化合物(IVa)は、以下の式:
【化5】

に相当し、化合物(IVa)、医薬としてのその製造および使用は、WO00/06569およびWO03/095451で開示された。
【0015】
化合物(V)は、以下の式:
【化6】

に相当する。
【0016】
化合物(VI)は、以下の式:
【化7】

に相当し、化合物(V)および(VI)、医薬としてのそれらの製造および使用は、WO00/02851で開示された。
【0017】
本発明は、式(I−VI)の化合物およびそれらの塩、水和物、塩の水和物の、一次性および二次性レイノー現象の処置用の薬剤を製造するための使用に関する。
【0018】
さらなる本発明の例示的実施態様には、式(I−VI)の化合物の少なくとも1種を使用することによる、肺性高血圧の予防および/または処置方法が含まれる。
【0019】
本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明の化合物および少なくとも1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含む、特に上述の障害の処置および/または予防用の医薬に関する。
【0020】
本発明の化合物は、全身的および/または局所的効果を有し得る。それらは、この目的で、例えば、経口で、非経腸で、肺に、鼻腔に、舌下に、舌に、頬側に、直腸に、皮膚に、経皮で、結膜もしくは耳経路で、または、インプラントもしくはステントとしてなど、適する方法で投与できる。
本発明の化合物は、これらの投与経路のために、適する投与形で投与できる。
【0021】
経口投与に適する投与形は、当分野の現状に準じて機能し、本発明の化合物を迅速かつ/または改変された方法で送達し、本発明の化合物を結晶形および/または無定形および/または溶解形で含有するもの、例えば、錠剤(非被覆または被覆錠剤、例えば、胃液耐性であるか、または、ゆっくりと溶解するか、または、不溶であり、本発明の化合物の放出を制御する被覆を有するもの)、口中で迅速に崩壊する錠剤、または、フィルム/オブラート、フィルム/凍結乾燥剤、カプセル剤(例えばハードまたはソフトゼラチンカプセル剤)、糖衣錠、顆粒剤、ペレット剤、散剤、乳剤、懸濁剤、エアゾール剤または液剤である。
【0022】
非経腸投与は、吸収段階を回避して(例えば、静脈内、動脈内、心臓内、脊髄内または腰椎内)、または、吸収を含めて(例えば、筋肉内、皮下、皮内、経皮または腹腔内)、行うことができる。非経腸投与に適する投与形は、とりわけ、液剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤または滅菌散剤の形態の注射および点滴用製剤である。
【0023】
他の投与経路に適する例は、吸入用医薬形(とりわけ、散剤吸入器、噴霧器)、点鼻薬、液、スプレー;舌、舌下または頬側投与用の錠剤、フィルム/オブラートまたはカプセル剤、坐剤、耳または眼用製剤、膣用カプセル剤、水性懸濁剤(ローション、振盪混合物)、親油性懸濁剤、軟膏、クリーム、経皮治療システム(例えば、パッチなど)、ミルク、ペースト、フォーム、散布剤(dusting powder)、インプラントまたはステントである。
【0024】
本発明の化合物は、上述の投与形に変換できる。これは、不活性、非毒性、医薬的に適する補助剤と混合することにより、それ自体知られている方法で行うことができる。これらの補助剤には、とりわけ、担体(例えば、結晶セルロース、ラクトース、マンニトール)、溶媒(例えば、液体ポリエチレングリコール)、乳化剤および分散剤または湿潤剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシソルビタンオレエート)、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、合成および天然ポリマー(例えば、アルブミン)、安定化剤(例えば、アスコルビン酸などの抗酸化剤)、着色剤(例えば、酸化鉄などの無機色素)および味および/または匂いのマスキング剤が含まれる。
【0025】
本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明の化合物を、通常は1種またはそれ以上の不活性、非毒性の医薬的に適する補助剤と共に含む医薬および上述の目的でのそれらの使用に関する。
【0026】
一般的に、1日に約0.01ないし5000mg/体重kg、好ましくは約0.5ないし1000mg/体重kgの量を投与するのが、有効な結果を達成するのに有利であると明らかになった。
【0027】
それにも拘わらず、特に、体重、投与経路、有効成分に対する個体の挙動、製剤のタイプおよび投与を行う時間または間隔に応じて、上述の量から逸脱することが必要であり得る。従って、上述の最小量より少なくても十分な場合があり得、一方、上述の上限を超えなければならない場合もある。より大量に投与する場合、それを1日にわたる複数の単回用量に分割するのが望ましいことがある。
【0028】
その製剤は、さらに、介在させるのに適するならば、活性物質を0.1ないし99%の有効成分で、適切には、錠剤およびカプセル剤の場合25−95%で、および、液体製剤の場合1−50%で含み得る。即ち、活性成分は、上述の用量範囲を達成するのに十分な量で存在すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I−VI)
【化1】

【化2】

の化合物およびそれらの塩、水和物、塩の水和物の、一次性および二次性レイノー現象の処置用の薬剤を製造するための使用。
【請求項2】
薬剤が経口投与形のために使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
薬剤が静脈内に与えられるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
薬剤が予防用である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
請求項1に記載の少なくとも1種の物質を含む、一次性および二次性レイノー現象の処置用の医薬組成物。

【公表番号】特表2009−501737(P2009−501737A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521831(P2008−521831)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006501
【国際公開番号】WO2007/009589
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】