説明

レンズの染色方法、レンズ染色装置および染色用レンズ保持具

【課題】レンズの厚み(体積)に係らず正確な染色上限位置までのレンズ面領域にハーフ染色を施すことができるレンズの染色方法、レンズ染色装置および染色用レンズ保持具を提供する。
【解決手段】レンズ染色装置100は、内部に染色液S1を貯留する染色槽1と、染色槽内からオーバーフローした染色液を収容するオーバーフロー槽2と、オーバーフロー槽に貯留された染色液S2を染色槽に移送するための液面調節手段とを備え、染色槽は、染色槽の染色液中に染色上限位置BまでレンズLを浸漬した時、少なくとも染色槽よりオーバーフローする容量の染色液を貯留し、液面調節手段は送液管31とポンプ32を備え、染色槽とオーバーフロー槽との間に連通する循環管路3より成り、オーバーフロー槽に貯留された染色液の内、レンズを染色する染色上限位置まで浸漬した時、染色槽よりオーバーフローした容量以上の染色液を、オーバーフロー槽から染色槽内に移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの染色方法、レンズ染色装置および染色用レンズ保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性などに優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。
プラスチック眼鏡レンズは、その優れた染色性から色彩変化に富むファッション性豊かなレンズを得ることができる。特に、レンズ表面に連続的な濃度変化を付与したハーフ染色レンズ(ぼかしレンズまたはグラデーションレンズとも呼ばれている)は、高いファッション性を有する。また、プラスチック眼鏡レンズを染色する方法としては、レンズ表面に染料被膜を形成した後、加熱処理して染料をレンズ内に拡散させて染色する技術や、レンズを染料液に浸漬して染色する技術が知られている。
【0003】
例えば、容易にハーフカラーレンズ(ハーフ染色レンズ)を作成するために、染色槽にオーバーフローを配設し、染色槽上部に染色液上部を加熱する加熱手段と、染色槽下部に染色液下部を冷却する冷却手段とを具備し、染色槽に入れた染色液に温度勾配を形成して、レンズ保持具に保持されたプラスチック製レンズ(プラスチックレンズ)を染色液に浸漬して染色するレンズ染色方法およびレンズ染色装置が提案されている(特許文献1、参照)。
また、こうした染色の際に用いられるレンズ保持具として、光学部品を確実に保持すると共に、外径の異なる光学部品であっても一つの保持具で保持することができるなどを目的に、光学部品を保持する光学部品押えのアーム部が、連続した凹凸形状で形成された光学部品用保持具が提案されている(特許文献2、参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−93864号公報
【特許文献2】特開2001−311914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される染色方法は、染色用レンズ保持具に保持されたプラスチックレンズを染色液に浸漬した際に、染色液の液面が上昇する。したがって、プラスチックレンズを染色液の液面に対して所定の位置まで浸漬した場合、レンズ厚み(体積)によって染色される領域が異なると言う課題が存在する。なお、レンズの体積は、レンズ外径の他に、レンズの球面度数や乱視度数などによって変化する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例に係るレンズの染色方法は、プラスチックレンズをハーフ染色するレンズの染色方法であって、染色槽内に貯留された染色液中に、染色用レンズ保持具に保持された前記プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも前記染色槽よりオーバーフローする容量の前記染色液を注入する貯留工程と、前記染色槽内に貯留された前記染色液中に、前記プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬して、前記染色槽内からオーバーフローした前記染色液をオーバーフロー槽内に収容する浸漬工程と、前記染色液に浸漬された前記プラスチックレンズを、前記染色液から離間する引上げ工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
これによれば、染色槽内に貯留された染色液中に、染色用レンズ保持具に保持されたプラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも染色槽よりオーバーフローする容量の染色液を注入する貯留工程と、染色槽内に貯留された染色液中に、プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬して、染色槽内からオーバーフローした染色液をオーバーフロー槽内に収容する浸漬工程と、染色液に浸漬されたプラスチックレンズを、染色液から離間する引上げ工程と、を有することにより、球面度数や乱視度数などによって保持するレンズの厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、レンズ体積に係らずバラツキを抑えた正確な染色上限位置までのレンズ面領域に所定のハーフ染色を施すことができる。
【0009】
[適用例2]
上記適用例に係るレンズの染色方法において、前記オーバーフロー槽内から前記染色槽内に、前記染色槽内よりオーバーフローした容量以上の前記染色液を注入する注入工程を有するのが好ましい。
これによれば、常に染色槽内に所定量の染色液を貯留することができる。したがって、球面度数や乱視度数が異なるなどレンズ厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、略同一染色上限位置の染色を行う新たなレンズを染色用レンズ保持具に取付けて、同一染色上限位置までのハーフ染色を正確に施すことができる。
【0010】
[適用例3]
本適用例に係るレンズ染色装置は、プラスチックレンズを染色液に浸漬してハーフ染色するレンズ染色装置であって、内部に染色液を貯留する染色槽と、前記染色槽内からオーバーフローした前記染色液を収容するオーバーフロー槽と、を備え、前記染色槽は、該染色槽内の前記染色液中に前記プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも前記染色槽内よりオーバーフローする容量の前記染色液を貯留することを特徴とする。
【0011】
これによれば、プラスチックレンズをハーフ染色するレンズ染色装置が、内部に染色液を貯留する染色槽と、染色槽からオーバーフローした染色液を収容するオーバーフロー槽と、を備え、染色槽は、染色槽内の染色液中にプラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも染色槽内よりオーバーフローする容量の染色液を貯留することにより、球面度数や乱視度数などによって保持するレンズの厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、レンズ体積に係らずバラツキを抑えた正確な染色上限位置までのレンズ面領域に所定のハーフ染色を施すことができる。
【0012】
[適用例4]
上記適用例に係るレンズ染色装置において、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液を前記染色槽内に移送するための液面調節手段を備え、前記液面調節手段は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液の内、前記プラスチックレンズを前記染色上限位置まで浸漬した時、前記染色槽内よりオーバーフローした容量以上の前記染色液を、前記オーバーフロー槽内から前記染色槽内に移送することを特徴とする。
【0013】
これによれば、オーバーフロー槽内に貯留された染色液を染色槽内に移送するための液面調節手段を備え、液面調節手段は、オーバーフロー槽内に貯留された染色液の内、プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、染色槽内よりオーバーフローした容量以上の染色液を、オーバーフロー槽内から染色槽内に移送することにより、常に染色槽内に所定量の染色液を貯留することができる。したがって、球面度数や乱視度数が異なるなどレンズ厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、略同一染色上限位置の染色を行う新たなレンズを染色用レンズ保持具に取付けて、同一染色上限位置までのハーフ染色を正確に施すことができる。
【0014】
[適用例5]
上記適用例に係るレンズ染色装置において、前記液面調節手段は、送液管と該送液管上に配設されたポンプとを備え、前記染色槽と前記オーバーフロー槽との間に連通する循環管路より成るのが好ましい。
【0015】
これによれば、オーバーフロー槽内に貯留された染色液の内、プラスチックレンズをハーフ染色する染色上限位置まで浸漬した際に染色槽よりオーバーフローした容量以上の染色液を、染色槽内に移送する液面調節手段が、送液管と送液管上に配設されたポンプとを備え、染色槽とオーバーフロー槽との間に連通する循環管路より成ることにより、染色槽内よりオーバーフロー槽内にオーバーフローした容量以上の染色液を、オーバーフロー槽内から染色槽内に容易に移送して、常に染色槽内に所定量の染色液を貯留することができる。したがって、球面度数や乱視度数が異なるなどレンズ厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、略同一染色上限位置の染色を行う新たなレンズを染色用レンズ保持具に取付けて、同一染色上限位置までのハーフ染色を正確に施すことができる。
【0016】
[適用例6]
上記適用例に係るレンズ染色装置において、前記液面調節手段は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液内に浸漬および離間する容量体の液面調節部材より成り、前記液面調節部材は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液内に浸漬することにより、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液を前記染色槽内にオーバーフローして移送するのが好ましい。
【0017】
これによれば、オーバーフロー槽内に貯留された染色液の内、プラスチックレンズをハーフ染色する染色上限位置まで浸漬した際に染色槽よりオーバーフローした容量以上の染色液を、染色槽内に移送する液面調節手段が、オーバーフロー槽内に貯留された染色液内に浸漬および離間する容量体の液面調節部材より成り、液面調節部材をオーバーフロー槽内に貯留された染色液内に浸漬することにより、オーバーフロー槽内に貯留された染色液を染色槽内にオーバーフローして移送することにより、染色槽内よりオーバーフロー槽内にオーバーフローした容量以上の染色液を、オーバーフロー槽内から染色槽内に容易に移送して、常に染色槽内に所定量の染色液を貯留することができる。したがって、球面度数や乱視度数が異なるなどレンズ厚み(体積)の異なるプラスチックレンズであっても、略同一染色上限位置の染色を行う新たなレンズを染色用レンズ保持具に取付けて、同一染色上限位置までのハーフ染色を正確に施すことができる。
【0018】
[適用例7]
本適用例に係る染色用レンズ保持具は、プラスチックレンズを染色液に浸漬してハーフ染色するのに用いる染色用レンズ保持具であって、前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する染色上限位置に位置決め部を備え、前記プラスチックレンズの周縁部を保持して、前記位置決め部が前記染色液の液面となる位置まで前記染色液中に吊り下げて用いることを特徴とする。
【0019】
これによれば、プラスチックレンズを染色液に浸漬してハーフ染色するのに用いるレンズ保持具が、プラスチックレンズを染色液中に浸漬する染色上限位置に位置決め部を備え、プラスチックレンズの周縁部を保持して、位置決め部が染色液の液面となる位置まで染色液中に吊り下げて用いることにより、染色液中に染色するプラスチックレンズを染色上限位置まで正確に浸漬することができる。よって、バラツキを抑えた正確な染色上限位置までのレンズ面領域に所定のハーフ染色を行うことができる。また、位置決め部を備えていることによって、プラスチックレンズをどこまで染色液中に浸漬するかを容易に見極めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態におけるレンズの染色方法、レンズ染色装置および染色用レンズ保持具は、光学用プラスチックレンズであれば限定されずに適用することができるが、プラスチック眼鏡レンズに好適に用いることができる。
【0021】
先ず、プラスチックレンズをハーフ染色するレンズ染色装置の構成を説明する。
図1(a)は、本実施形態に係るレンズ染色装置の概構成を示す模式図であり、染色用レンズ保持具に保持されたプラスチックレンズがレンズ染色装置にセットされた態様で示す。図1(b)は、レンズ染色装置にセットされた染色用レンズ保持具を、図1(a)中に矢印Aで示す方向から矢視した部分側面図である。
【0022】
図1(a)において、レンズ染色装置(以後、染色装置と表す)100は、染色槽1と、オーバーフロー槽2と、液面調節手段としての循環管路3と、上下移動装置4と、制御部5と、入力部6とを備えている。
この染色装置100は、染色槽1内に貯留された染色液SにプラスチックレンズLを浸漬する時間を変化させると共に、その浸漬位置を変化させることにより、プラスチックレンズLの表面に連続的な染色濃度勾配を付与することができる。
【0023】
染色槽1は、槽内にプラスチックレンズLをハーフ染色する染色液Sを貯留する槽である。染色槽1の形状は、限定されないが、用いる染色液Sの貯留効率などを考慮すると、開口形状が円形の円筒形が好ましい。なお、以後において、プラスチックレンズLをレンズL、ハーフ染色を染色と表す場合がある。
【0024】
オーバーフロー槽2は、染色用レンズ保持具7に保持されたレンズLを染色液Sに浸漬した際に、染色槽1よりオーバーフローした染色液Sを収容する槽であり、染色槽1の外周を取り囲むように設けられている。ここで、オーバーフロー槽2は、染色槽1の外周の一部を囲むように設けられていても良い。なお、オーバーフロー槽2内には、予め所定容量の染色液Sが貯留されている。
【0025】
染色液Sは、純水などの溶媒中に、分散染料、分散染料のレンズL内部への含浸を促進させるキャリア剤、分散染料に対する分散剤としての界面活性剤などを添加して攪拌した分散・溶解液である。また、染色液Sは、染料濃度を染色するレンズLの染色程度に対応して0.1重量%〜5重量%に適宜調整し、70℃〜100℃の液温で用いられる。
【0026】
なお、染色槽1内に貯留された染色液Sと、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液Sとは、同じものであり、説明の便宜上以後において、染色槽1内に貯留された染色液Sを染色液S1、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液Sを染色液S2と表す。
【0027】
循環管路3は、染色槽1とオーバーフロー槽2とに連通する管路であり、送液管31と、送液管31上に配設されたポンプ32およびフィルタ33を備えている。
送液管31は、一方端が染色槽1の底部(図示の場合は、槽の底面)に接続し、他方端がオーバーフロー槽2の底部(図示の場合は、槽の底部外周側面)に接続している。こうした循環管路3は、染色槽1よりオーバーフローしてオーバーフロー槽2内に収容された染色液S1を含む染色液S2を、染色槽1内に移送する機能を有する。
【0028】
上下移動装置4は、筐体41上に、モーター42と、タイミングプーリ43,44と、タイミングベルト45と、スライドガイド46と、スライドガイドレール47とが配設されている。また、スライドガイド46には、取付け具48と、支持具49と、フック50が取付けられている。
【0029】
モーター42は、例えばステッピングモーターであり、筐体41に回動可能に固定されている。モーター42は、後述する制御部5から出力される制御信号により回動(正逆回転)する。
タイミングプーリ43は、モーター42の回転軸に固着されている。一方、タイミングプーリ44は、モーター42の回転軸(回転軸に固着されたタイミングプーリ43)の鉛直方向の下方に所定距離はなれた位置の筐体41上に、回転可能に軸着されている。
【0030】
タイミングプーリ43とタイミングプーリ44との間には、タイミングベルト45がベルト掛けされている。
タイミングベルト45には、ベルト上にスライドガイド46が固着されている。このタイミングベルト45は、モーター42が回動(回転)することによってタイミングプーリ43,44上を鉛直方向に往復動(上下移動)する。
【0031】
スライドガイドレール47は、タイミングベルト45(タイミングプーリ43およびタイミングプーリ44)と、略平行に並置した位置に固定されている。
このスライドガイドレール47上には、タイミングベルト45に固着されたスライドガイド46が載置されている。スライドガイド46は、モーター42の回動によるタイミングベルト45の上下移動に同期して、スライドガイドレール47上を鉛直方向に往復スライド(上下移動)する。なお、モーター42の回転は、例えば正回転(紙面における右回転)することによってスライドガイド46が上昇し、逆回転(紙面における左回転)することによってスライドガイド46が下降する。
【0032】
また、スライドガイドレール47の両端部には、スライドガイド46の移動範囲を規制するストッパーST1,ST2を備えている。このストッパーST1,ST2は、タイミングプーリ43とタイミングプーリ44の回転軸間の内側の所定の位置にそれぞれ取り付けられて、スライドガイド46の上下移動の範囲を制限することにより、モーター42の暴走、および染色用レンズ保持具7(レンズL)の落下を防止する。
【0033】
取付け具48は、スライドガイド46の本体から、スライドガイドレール47(タイミングベルト45)に対して略直角方向に延伸するアームの先端に取り付けられている。
取付け具48には、スライドガイドレール47(すなわち、タイミングベルト45)と略平行に垂直方向の下方に延伸する棒状の支持具49が取付けられている。
支持具49の下端部には、染色するレンズLを保持する染色用レンズ保持具7をセットするためのフック50が、支持具49に沿って固着されている。
【0034】
図1(b)および図1(a)に示すように、このフック50には、支持具49に略直交する方向に延伸する丸棒より成るアーム固定軸8に取付け固定された2つの染色用レンズ保持具(以後、レンズ保持具と表す)7が、アーム固定軸8を介して吊り下げられている。なお、レンズ保持具7が取付け固定されたアーム固定軸8は、フック50上に支持具49に対して略直交する水平姿勢で、しかも取外し可能に吊り下げられている。
【0035】
フック50に吊り下げられた2つのレンズ保持具7には、染色するレンズLが保持されている。レンズ保持具7に保持されたレンズLは、眼鏡の左右レンズとして用いられる一対のレンズであり、染色に際して同時に染色される構成を成している。
【0036】
2つのレンズ保持具7は、薄板状のバネ部材より成るアーム71,72と、アーム71,72に固着されたアーム固定板70などを含み構成された同一構造の保持具である。2つのレンズ保持具7は、レンズ保持具7に保持されたレンズLの取付け・取り外し方向が、それぞれアーム固定軸8の両端側と成るようにして、アーム固定板70がアーム固定軸8と直交する方向に略平行になるように、アーム固定軸8に取付け固定されている。また、アーム固定軸8の軸方向視、2つのレンズ保持具7が略重なるようにアーム固定軸8に取付け固定されている。なお、レンズ保持具7の具体的な構成説明は後述する。
【0037】
フック50にセットして吊り下げられた2つのレンズ保持具7の鉛直方向の下方、すなわち上下移動装置4の支持具49が延伸する鉛直方向の下方に、染色液S1を貯留する染色槽1が位置するように配設されている。
したがって、上下移動装置4のフック50にセットして吊り下げられた2つのレンズ保持具7(レンズL)は、上下移動装置4が鉛直方向に上下移動することによって、染色液S1の液面から離間した位置(スタート位置)と染色槽1内に貯留された染色液S1の所定の液中位置(図1中に二点鎖線で示す)との間を上下移動(下降および上昇)する。
【0038】
制御部5は、上下移動装置4に配設されたモーター42を駆動するパルス数や移動速度の演算および制御指示、および循環管路3の送液管31上に配設されたポンプ32の制御指示などを行うCPU(Central Processing Unit)、レンズLを染色する染色濃度勾配データ(染色液S1に浸漬する時間に対する染色されたレンズLの濃度の関係を計量把握したデータ)や各種制御プログラムを格納するROM、染色するレンズLの染色情報などを格納するRAMなどで構成され、モーター42、ポンプ32および入力部6と電気的に接続している。
【0039】
入力部6は、デジタルスイッチ、表示器などを備え、デジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色情報(レンズLの外径、染色上限位置など)の入力、上下移動装置4の上下移動操作(スタートおよびストップ操作)などを行う。
【0040】
なお、染色装置100には、これらの構成要素の他に、染色槽1およびオーバーフロー槽2内に収容された染色液S(S1,S2)を、所定の温度に加熱・保温するための温度調節装置や、染色液Sを攪拌する攪拌装置などを備えることができる。
【0041】
次に、レンズ保持具7について説明する。
図2は、レンズ保持具の構成を示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は上面図である。図3は、レンズ保持具にレンズが保持された態様を示す斜視図である。
【0042】
図2(a)〜図2(c)において、レンズ保持具7は、アーム固定板70と、2つのアーム71,72と、アーム71,72に取付けられてレンズLに係合する押え具73a,73b,73cとを具備している。
アーム固定板70は、上記したように、2つのアーム71,72をアーム固定軸8に吊り下げた態様に取付け固定するための部材であり、アーム71とアーム72との間に挟持して固着された押え具73aと共に、アーム71とアーム72が溶接固定されている。
【0043】
図2(a)に示すように、アーム71は、薄板状のバネ部材、例えばバネ用ステンレス鋼板より成る本体部71aが、曲線状および直線状に屈曲されて、アーム固定板70から略半円弧状に延伸した形状を成している。
本体部71aは、曲線状の屈曲部に連続したジャバラ形状の凹凸形状部71bが形成され、直線状の屈曲部には、本体部71aが切起し加工されてアーム固定板70と略直交する外側方向に延伸する位置決め部71cを有する。また、本体部71aの先端部には、押え具73bが溶接固定されている。なお、凹凸形状部71bを設けなくても良い。
【0044】
一方、アーム72は、延伸するアーム固定板70の略中心線に対して、アーム71と対称形状を成して、アーム71と同様に本体部72a上に凹凸形状部72b、位置決め部72c、押え具73cを有する。
なお、位置決め部71c,72cは、レンズLを染色する際の、レンズLの染色上限位置B(図3参照)に対応する。
【0045】
このように構成されたレンズ保持具7は、アーム固定板70に固着されたアーム71およびアーム72が、それぞれバネ性を有する片持ちバネとして機能し、互いに相対するアーム71およびアーム72を外側方向に押し開いて、押え具73a、押え具73bおよび押え具73c間の隙間に染色するレンズLを挿入して、バネ性を有するアーム71およびアーム72の反発力によりレンズLを保持する。レンズLを保持したレンズ保持具7は、本実施形態において、位置決め部71c,72cの押え具73b,73c側の面(下面)が、レンズLの略染色上限位置Bに対応している。
【0046】
レンズ保持具7にレンズLが保持された態様を図3に示す。
レンズ保持具7に保持されたレンズLは、テープモールド法などを用いて、重合性組成物を硬化して製造された透明プラスチック樹脂より成るプラスチック眼鏡レンズである。レンズLは、外径が55〜80mm程度の円形形状など(異形形状のレンズもある)を成しており、レンズLの一方のレンズ面または両方のレンズ面に、所定の球面、回転対称非球面、トーリック面、累進面、あるいはこれらを合成した曲面などの形状が形成されている。
【0047】
染色されるレンズLは、重合性組成物を硬化した透明プラスチック樹脂であれば特に限定されない。例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)、ポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができる。
【0048】
このようにレンズLを保持するレンズ保持具7は、アーム71,72がバネ性を有すると共に、本体部71a,72aに凹凸形状部71b,72bを備えていることにより、レンズLの落下などを防止し、レンズLを確実に保持することができる。また、所定範囲の外径および染色上限位置に対応したレンズLに対して共通使用することも可能である。さらに、位置決め部71c,72cを備えていることによって、レンズLをどこまで染色槽1の染色液S1に浸漬させるかを制御する必要がなく、略同一染色上限位置の染色を行う多数のレンズLに対してバラツキを抑制した染色を行うことができる。
なお、位置決め部71c,72cを設けず、染色槽1のオーバーフロー位置までレンズLを染色槽1の染色液S1に浸漬させても良い。
【0049】
次に、再び図1(a)に基づいて、染色装置100の動作を説明する。
染色装置100は、2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLを、上下移動装置4のモーター42を回動(逆回転)して、染色槽1内に貯留された染色液S1内の所定位置に下降した後、モーター42の回動(正回転)を微細に制御して上昇することにより、レンズLの表面に連続的な染色濃度勾配を付与するハーフ染色を行う。
【0050】
先ず、入力部6のデジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色データ(レンズLの外径、染色上限位置など)を入力する。
そして、上下移動装置4の支持具49の下端部に固着されたフック50に、ハーフ染色するレンズLが保持された2つのレンズ保持具7が取付け固定されたアーム固定軸8を掛着する。アーム固定軸8を介してフック50に掛着された2つのレンズ保持具7は、鉛直方向に吊り下げられる。この時、吊り下げられたレンズ保持具7(レンズL)は、染色槽1に貯留された染色液S1の液面から離間した位置(スタート位置)に停止している。
【0051】
そして、入力部6の下降スイッチを操作して、上下移動装置4のレンズ保持具7に保持されたレンズLを染色槽1に貯留された染色液S1の所定位置まで下降させる。レンズ保持具7(レンズL)は、制御部5からの制御信号に基づいて、モーター42が回動(逆回転)して下降する。
【0052】
そして、入力部6の染色開始スイッチをONすると、制御部5のCPUにおいて、先に入力部6から入力されたレンズの染色データと、予めROMに格納された該当製品の染色濃度勾配データに基づいて上下移動装置4のモーター42に出力するパルス数(すなわち、移動量)および移動速度を演算し、演算されたパルス列から成る制御信号をモーター42に出力する。
【0053】
そして、モーター42は、制御部5から入力されたパルス列に従って回動(正回転)し、レンズ保持具7に取り付けられたレンズLが上昇して、レンズLの表面に染色液S1中に浸漬した位置から下方の外縁方向に向かって所定のハーフ染色が行われる。
レンズLをハーフ染色する所定の染色移動が終了すると、モーター42が急速回転して、レンズ保持具7(レンズL)が上昇し、スタート位置に停止する。これにより、レンズLの所定のハーフ染色が終了する。
【0054】
このようにレンズLを染色する際に上下移動(下降および上昇)する上下移動装置4の動作を、より具体的に説明する。
モーター42は、上記したように制御部5からの制御信号に基づいて正逆回転する。モーター42が回動(回転)すると、モーター42に固着されたタイミングプーリ43が、モーター42と同期して回動し、このタイミングプーリ43とタイミングプーリ44にベルト掛けされたタイミングベルト45が、タイミングプーリ43,44上を往復動する。
【0055】
そして、タイミングベルト45が往復動すると、タイミングベルト45に固着されたスライドガイド46が、タイミングベルト45と略平行に並置して固定されたスライドガイドレール47上を、タイミングベルト45の往復動と同期して、上下移動(上昇および下降)する。同時に、このスライドガイド46と一体に構成された取付け具48、および取付け具48に取り付けられた支持具49が、タイミングベルト45の往復動と同期して上下移動する。したがって、支持具49の先端のフック50に掛着された2つのレンズ保持具7、および2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLが、上下移動する。
【0056】
そして、染色装置100は、2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLがスタート位置に停止して、所定のハーフ染色が終了すると、制御部5の制御信号に基づいて循環管路3の送液管31上に配設されたポンプ32が稼動する。
【0057】
ポンプ32は、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2を、循環管路3を介して染色槽1内に注入する。この注入の際、循環管路3上に配設されたフィルタ33において、染色液S2内に混入した塵や微粉などを除去する清浄化が行われる。
なお、レンズLの染色における染色液S(S1,S2)の貯留量および注入量などを含む染色液Sの注入操作および挙動については、後述する染色方法の項で説明する。
【0058】
次に、染色装置100を用いたレンズLの染色方法について説明する。なお、レンズLの染色方法は、図1(a),(b)を参照しながら、図4に基づいて説明する。
レンズLの染色方法は、貯留工程と、染色情報入力工程と、浸漬工程と、引上げ工程と、注入工程を含み行われる。
【0059】
図4(a)〜図4(d)は、レンズの染色時における染色装置の部分説明図であり、レンズ保持具に保持されたレンズおよび染色槽に貯留された染色液の染色工程毎の態様を示す。具体的には、図4(a)は貯留工程、図4(b)は浸漬工程、図4(c)は引上げ工程、図4(d)は注入工程における態様を示す。
【0060】
図4(a)に示す貯留工程では、レンズLの染色に先立って、予め染色槽1内およびオーバーフロー槽2内に、染色液S1および染色液S2を注入して貯留する。
染色槽1内には、後述する浸漬工程(図4(b)参照)において、2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLを染色上限位置Bまで浸漬した時、少なくとも染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローする容量の染色液S1を注入して貯留する。したがって、染色槽1内に染色液S1を満杯の状態に貯留した場合であっても良い。
【0061】
一方、オーバーフロー槽2内には、染色槽1よりオーバーフローした染色液S1が収容された際に、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に逆流しない容量の染色液S2を注入して貯留する。なお、こうした貯留工程は、最初にレンズLの染色を行う際に必要とする工程であり、引き続いて新たなレンズLに略同一染色上限位置Bの染色を行う場合には待機工程となる。
そして、染色情報入力工程に移行する。
【0062】
染色情報入力工程では、入力部6のデジタルスイッチを操作して、染色するレンズLの染色情報(レンズLの外径、染色上限位置Bなど)を入力する。そして、ハーフ染色するレンズLが保持された2つのレンズ保持具7が取付け固定されたアーム固定軸8を上下移動装置4のフック50に掛着する。
そして、浸漬工程に移行する。
【0063】
図4(b)に示す浸漬工程では、入力部6の上下移動装置4の下降スイッチを手動操作して、レンズ保持具7に保持されたレンズLを、スタート位置から位置決め部71c,72cの下面が、染色槽1に貯留された染色液S1の液面に当接する位置まで移動(下降)する(図4(a)中に矢印aで示す)。すなわち、レンズLを染色する染色上限位置Bまで染色槽1に貯留された染色液S1中に浸漬する。
【0064】
このように、レンズ保持具7に保持されたレンズLを染色液S1中に浸漬することによって、染色槽1に貯留された染色液S1が、図4(b)中に矢印bで示すように、染色槽1からオーバーフローして、オーバーフロー槽2内に流入する。
そして引上げ工程に移行する。
【0065】
図4(c)に示す引上げ工程は、レンズLの表面に染色を施す工程である。なお、図4(c)は、レンズ保持具7に保持されて既にハーフ染色されたレンズLが、染色槽1に貯留された染色液S1中から引上げられて、染色液S1の液面から離間した状態を示す。
【0066】
引上げ工程では、入力部6の染色開始スイッチをON操作して上下移動装置4を稼動し、染色液S1に浸漬されたレンズLを、染色液S1中から離間する方向(図4(c)中に矢印cで示す)に引上げて、レンズLの表面に所定のハーフ染色を行うと共に、レンズ保持具7に保持されてハーフ染色されたレンズLを、スタート位置に復帰する。
【0067】
ハーフ染色は、制御部5に格納された所定の染色濃度勾配データに基づいて、制御部5から入力されたパルス列(移動量および移動速度)に従って、上下移動装置4のモーター42が回動(正回転)して、レンズ保持具7に取り付けられたレンズLが上昇する。これにより、レンズLの表面に、染色液S1中に浸漬した染色上限位置Bから下方の外縁方向に向かって染色される(図4(c)中のレンズLに、ドット部Dで示す)。
【0068】
レンズLをハーフ染色する所定の染色移動が終了すると、モーター42が急速回転して、レンズ保持具7に保持されてハーフ染色されたレンズLがさらに上昇して、再びスタート位置に停止する。
【0069】
一方、こうしてレンズ保持具7に保持されてハーフ染色されたレンズLが、染色槽1に貯留された染色液S1中から引上げられることによって、染色槽1に貯留された染色液S1の液面が、初期の貯留液面から距離α分低下する。この距離α分の染色液S1の容量は、染色液S1中に浸漬した染色上限位置Bから下方に位置するレンズLおよびレンズ保持具7の容積に該当する。すなわち、2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLを染色上限位置Bまで浸漬した時、染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした染色液S1の容量である。
【0070】
距離αは、染色するレンズLの外径および球面度数によって異なる。例えば、染色槽1の槽内径が10.5cm、外径が80mmで球面度数が0(ゼロ)の2つのレンズLを略2/3のレンズ面領域に染色した場合、2.0mm程度である。また、外径が65mmで球面度数が−16の2つのレンズLを同様に染色した場合、4.9mm程度である。
そして注入工程に移行する。
【0071】
図4(d)に示す注入工程では、レンズ保持具7に保持されたレンズLがスタート位置に停止して、所定のハーフ染色が終了すると、制御部5の制御信号に基づいて循環管路3の送液管31上に配設されたポンプ32が稼動して、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2を、送液管31を介して染色槽1内に注入する。
【0072】
オーバーフロー槽2内から染色槽1内に注入する染色液S2の容量は、少なくとも浸漬工程において2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLを染色上限位置Bまで浸漬した時、染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした染色液S1の容量、すなわち染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした染色液S1の容量以上の染色液S2を注入する。したがって、染色槽1内に染色液S1が満杯になる状態に染色液S2を注入する場合であっても良い。
【0073】
なお、注入工程後の染色槽1内に貯留された染色液S1およびオーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2の態様は、貯留工程において染色槽1内に染色液S1が注入され、オーバーフロー槽2内に染色液S2が注入された態様と同じであり、引き続いて新たなレンズLに略同一染色上限位置Bの染色を行う場合には待機工程となる。この注入工程によって、レンズ保持具7に保持されたレンズLのハーフ染色が終了する。
【0074】
その後、レンズ保持具7に略同一染色上限位置Bの染色を行う新たなレンズLを取付けて、同様の工程によってレンズLのハーフ染色を行うことができる。なお、ハーフ染色する新たなレンズLは、略同一染色上限位置Bの染色を行うレンズであれば、球面度数や乱視度数が異なるなど、レンズ厚み(体積)の異なるレンズであっても、同一染色上限位置Bまでのハーフ染色を正確に行うことができる。
【0075】
なお、レンズ表面に染色を施したレンズLは、純水洗浄またはアセトン洗浄を行う洗浄・乾燥工程を経た後、眼鏡フレームの内周縁の形状に合わせる玉型加工(縁摺り加工)などが施される。そして、眼鏡フレームに嵌め込まれて眼鏡が完成する。
【0076】
以上のように、本実施形態のレンズLの染色方法によれば、染色槽1内に貯留された染色液S1中に、レンズ保持具7に保持されたレンズLを染色上限位置Bまで浸漬した時、少なくとも染色槽1内よりオーバーフローする容量の染色液S1を注入する貯留工程と、染色槽1内に貯留された染色液S1中に、レンズLを染色する染色上限位置Bまで浸漬して、染色槽1内からオーバーフローした染色液S1をオーバーフロー槽2内に収容する浸漬工程と、染色液S1に浸漬されたレンズLを、染色液S1から離間する引上げ工程と、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に、染色槽1内よりオーバーフローした容量以上の染色液S2を注入する注入工程とを有することにより、球面度数などによって保持するレンズLの厚み(体積)の異なるレンズなどであっても、レンズ体積に係らずバラツキを抑えた正確な染色上限位置Bまでのレンズ面領域に所定のハーフ染色を施すことができる。
【0077】
また、本実施形態のレンズLの染色装置100によれば、内部に染色液S1を貯留する染色槽1と、染色槽1内からオーバーフローした染色液S1を収容するオーバーフロー槽2と、オーバーフロー槽2に貯留された染色液S2を染色槽1内に移送するための液面調節手段とを備え、染色槽1は、染色槽1内の染色液S1中にレンズLを染色する染色上限位置Bまで浸漬した時、少なくとも染色槽1内よりオーバーフローする容量の染色液S1を貯留し、液面調節手段は、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2の内、レンズLを染色する染色上限位置Bまで浸漬した時、染色槽1内よりオーバーフローした容量以上の染色液S2を、染色槽1内に移送することにより、球面度数などによって保持するレンズLの厚み(体積)の異なるレンズなどであっても、レンズ体積に係らずバラツキを抑えた正確な染色上限位置Bまでのレンズ面領域に所定のハーフ染色を施すことができる。
【0078】
なお、液面調節手段として、送液管31と送液管31上に配設されたポンプ32とを備え、染色槽1とオーバーフロー槽2との間に連通する循環管路3を配設することにより、染色槽1内よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした容量の染色液S2を、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に容易に移送して、常に染色槽1内に所定量の染色液S1を貯留することができる。
【0079】
また、本実施形態のレンズ保持具7によれば、レンズLを染色液S1中に浸漬する染色上限位置Bを表示するための位置決め部71c,72cを備え、レンズLの周縁部を保持して、位置決め部71c,72cが染色液S1の液面となる位置まで染色液S1中に吊り下げて用いることにより、染色液S1中にレンズLを染色上限位置Bまで正確に浸漬して、バラツキを抑えた正確な染色上限位置Bまでのレンズ面領域に所定のハーフ染色を行うことができる。
【0080】
以上の本実施形態において、送液管31上にポンプ32およびフィルタ33を備えた循環管路3が配備された染色装置100を用いて、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2を染色槽1内に注入する(注入工程)場合で説明したが、染色装置100に代えて以下の染色装置110を用いることもできる。
【0081】
図5(a)〜図5(c)は、レンズ保持具に保持されたレンズおよび染色槽に貯留された染色液の染色工程毎の態様を示す別の染色装置の部分説明図であり、図5(a)は引上げ工程、図5(b)は注入工程、図5(c)は注入工程後の待機工程における態様を示す。
【0082】
図5(a)〜図5(c)において、染色装置110は、上記した染色装置100に対して、さらに移動装置10と、液面調節手段としての液面調節部材11とが配備されている。
このこと以外の染色装置110の構成および動作は、染色装置100と同様であり、染色装置100と同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡素化する。また、染色方法についても、注入工程以外は染色装置100を用いた場合と同じであり、注入工程以外の説明を省略または簡素化する。
【0083】
移動装置10は、液面調節部材11を、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2中に浸漬した所定位置と、染色液S2から離間した位置との間を、鉛直方向の上下に移動するリフト機構を備えている。移動装置10は、制御部5に格納された制御プログラムに従って上下に移動する。
【0084】
液面調節部材11は、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2中に浸漬した時に、染色液S2を染色槽1の槽壁を乗り越えて染色槽1内に流入(オーバーフロー)し、染色槽1内を満杯にするための容量体である。したがって、液面調節部材11は、オーバーフロー槽2内に挿入可能で、且つオーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2中に浸漬した時に、少なくとも染色液S2が染色槽1の槽壁を乗り越えて染色槽1内に流入し、染色槽1内を満杯にすることができる容量を備えていればどんな形状で有っても良い。
【0085】
また、液面調節部材11は、金属、プラスチック樹脂、ガラスなど、どんな材質で有ってもよく、内部に空洞部を有する形状で有っても良い。なお、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に流入する染色液S2の容量は、染色液S2中に浸漬する液面調節部材11の浸漬高さを変化させることによって調節することができる。
【0086】
このように構成された染色装置110の動作と共に、染色装置110を用いたレンズLの染色方法を説明する。
図5(a)に示す引上げ工程では、浸漬工程において染色液S1に浸漬されたレンズLを、染色液S1中から離間する方向に引上げて、レンズLの表面に所定のハーフ染色を行うと共に、レンズ保持具7に保持されてハーフ染色されたレンズLを、スタート位置に復帰して停止する。
【0087】
なお、図5(a)に示す引上げ工程は、レンズ保持具7に保持されて既にハーフ染色されたレンズLが、染色槽1に貯留された染色液S1中から引上げられて(図5(a)中に矢印cで示す)、染色液S1の液面から離間した状態を示し、レンズ保持具7に保持されたレンズLおよび染色槽1およびオーバーフロー槽2に貯留された染色液S(S1,S2)は、前記図4(c)に示した染色装置100を用いた引上げ工程の場合と同じ態様である。
【0088】
したがって、レンズ保持具7に保持されてハーフ染色されたレンズLが、染色槽1に貯留された染色液S1中から引上げられることによって、染色槽1に貯留された染色液S1の液面が、初期の貯留液面から距離α分低下する。
この引上げ工程までの間(貯留工程、染色情報入力工程、浸漬工程、引上げ工程)、液面調節部材11は、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2の液面から離間したオーバーフロー槽2の上方のスタート位置に停止している。
そして、注入工程に移行する。
【0089】
図5(b)に示す注入工程では、レンズ保持具7に保持されたレンズLがスタート位置に停止して、所定のハーフ染色が終了すると、制御部5の制御信号に基づいて移動装置10が稼動して、液面調節部材11をオーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2に向かって下降する。そして引き続き下降した液面調節部材11は、染色液S2中の所定位置まで浸漬(挿入)される。これにより、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2が、染色槽1の槽壁を乗り越えて染色槽1内に流入する(図5中に、矢印dで示す)。すなわち、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2を、染色槽1内に注入する。
【0090】
なお、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に注入する(オーバーフローする)染色液S2の容量は、少なくとも浸漬工程において2つのレンズ保持具7に保持されたレンズLを染色上限位置Bまで浸漬した時、染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした染色液S1の容量、すなわち染色槽1よりオーバーフロー槽2内にオーバーフローした染色液S1の容量以上の染色液S2を注入する。したがって、染色槽1内に染色液S1が満杯になる状態に染色液S2を注入する場合であっても良く、移動装置10(液面調節部材11)の制御の容易性の面から、この方法を用いるのが好ましい。
【0091】
注入工程が終了すると、制御部5の制御信号に基づいて移動装置10が再び稼動して、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2中に浸漬した液面調節部材11が上昇して、染色液S2の液面から離間したオーバーフロー槽2の上方のスタート位置に停止する。
そして、待機工程に移行する。
【0092】
待機工程では、図5(c)に示すように、染色槽1内には、例えば染色液S1が満杯に貯留されている。一方、オーバーフロー槽2内には、液面調節部材11を染色液S2中に浸漬した時に、少なくとも染色液S2が染色槽1の槽壁を乗り越えて染色槽1内に流入する容量が貯留されて、レンズ保持具7に略同一染色上限位置Bの染色を施す新たなレンズLを取付けて、ハーフ染色を行うことができる待機状態を呈している。
【0093】
この染色装置110によれば、液面調節手段として、オーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2内に浸漬および離間する容量体の液面調節部材11を配備して、液面調節部材11をオーバーフロー槽2内に貯留された染色液S2内に浸漬することにより、染色槽1内からオーバーフロー槽2内にオーバーフローした容量以上の染色液S2を、オーバーフロー槽2内から染色槽1内に容易に移送して、常に染色槽1内に所定量の染色液S1を貯留することができる。
【0094】
また、以上の本実施形態において、浸漬工程では、入力部6の上下移動装置4の下降スイッチを手動操作して、レンズ保持具7に保持されたレンズLの染色上限位置Bを、染色槽1に貯留された染色液S1の液面位置まで下降した後、入力部6の染色開始スイッチをON操作してレンズLの表面に所定のハーフ染色を行う引上げ工程に移行する、いわゆる手動操作する場合で説明したが、以下のようにすることができる。
【0095】
染色するレンズLの染色データとして、レンズ保持具7に保持されたレンズLの染色上限位置Bのスタート位置から染色槽1に貯留された染色液S1の液面位置までの移動距離を設定項目に追加したプログラムを設定する。そして入力部6のスタートスイッチを操作することにより、レンズLがスタート位置から染色上限位置Bが染色槽1に貯留された染色液S1の液面に当接する位置まで自動で移動(下降)した後、制御部5に格納された所定の染色濃度勾配データに基づいて制御部5から入力されるパルス列(移動量および移動速度)に従って上昇して、所定のハーフ染色が行われるようにしても良い。
【0096】
また、以上の本実施形態において、レンズ保持具7に保持されたレンズLの染色上限位置Bを、染色槽1に貯留された染色液S1の液面まで浸漬した後、レンズLを染色液S1中から引上げる浸漬工程および引上げ工程を用いたレンズLの染色方法の場合で説明したが、以下のような浸漬工程および引上げ工程を用いた染色方法であっても良い。
【0097】
上下移動装置4のフック50に掛着されて吊り下げられたレンズLの鉛直方向の下方端が、染色槽1に貯留された染色液S1の液面に当接する位置まで移動(下降)させ、その位置を染色開始位置として、所定の染色濃度勾配に基づいて染色上限位置Bまで下降した後、スタート位置まで急速に上昇する染色方法であっても良い。
【0098】
この染色方法を用いる場合には、上下移動装置4の制御プログラムとして、上下移動装置4がレンズLの下方端を染色槽1に貯留された染色液S1の液面となる位置まで下降する制御プログラム、および所定の染色濃度勾配に基づいてレンズLの染色上限位置Bから下方端に向かって下降するパルス列より成る制御プログラムを制御部5(ROM)に追加することにより行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】(a)は本実施形態に係る染色装置の概構成を示す模式図であり、(b)は染色装置にセットされた染色用レンズ保持具の部分側面図。
【図2】(a)は染色用レンズ保持具の正面図であり、(b)は染色用レンズ保持具の右側面図、(c)は染色用レンズ保持具の上面図。
【図3】染色用レンズ保持具にプラスチックレンズが保持された態様を示す斜視図。
【図4】(a)から(d)はレンズ保持具に保持されたレンズおよび染色槽に貯留された染色液の染色工程毎の態様を示す染色装置の部分説明図。
【図5】(a)から(c)はレンズ保持具に保持されたレンズおよび染色槽に貯留された染色液の染色工程毎の態様を示す別の染色装置の部分説明図。
【符号の説明】
【0100】
1…染色槽、2…オーバーフロー槽、3…液面調節手段としての循環管路、4…上下移動装置、5…制御部、6…入力部、7…染色用レンズ保持具、8…アーム固定軸、10…移動装置、11…液面調節手段としての液面調節部材、31…送液管、32…ポンプ、33…フィルタ、50…フック、70…アーム固定板、71,72…アーム、71a,72a…本体部、71b,72b…凹凸形状部、71c,72c…位置決め部、73a,73b,73c…押え具、100,110…レンズ染色装置、B…染色上限位置、L…プラスチックレンズ、S(S1,S2)…染色液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズをハーフ染色するレンズの染色方法であって、
染色槽内に貯留された染色液中に、染色用レンズ保持具に保持された前記プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも前記染色槽よりオーバーフローする容量の前記染色液を注入する貯留工程と、
前記染色槽内に貯留された前記染色液中に、前記プラスチックレンズを前記染色上限位置まで浸漬して、前記染色槽内からオーバーフローした前記染色液をオーバーフロー槽内に収容する浸漬工程と、
前記染色液に浸漬された前記プラスチックレンズを、前記染色液から離間する引上げ工程と、
を有することを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズの染色方法であって、
前記オーバーフロー槽内から前記染色槽内に、前記染色槽内よりオーバーフローした容量以上の前記染色液を注入する注入工程を有することを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項3】
プラスチックレンズを染色液に浸漬してハーフ染色するレンズ染色装置であって、
内部に前記染色液を貯留する染色槽と、
前記染色槽内からオーバーフローした前記染色液を収容するオーバーフロー槽と、
を備え、
前記染色槽は、該染色槽内の前記染色液中に前記プラスチックレンズを染色上限位置まで浸漬した時、少なくとも前記染色槽内よりオーバーフローする容量の前記染色液を貯留することを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレンズ染色装置であって、
前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液を前記染色槽内に移送するための液面調節手段を備え、
前記液面調節手段は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液の内、前記プラスチックレンズを前記染色上限位置まで浸漬した時、前記染色槽内よりオーバーフローした容量以上の前記染色液を、前記オーバーフロー槽内から前記染色槽内に移送することを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズ染色装置であって、
前記液面調節手段は、送液管と該送液管上に配設されたポンプとを備え、前記染色槽と前記オーバーフロー槽との間に連通する循環管路より成ることを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項6】
請求項4に記載のレンズ染色装置であって、
前記液面調節手段は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液内に浸漬および離間する容量体の液面調節部材より成り、
前記液面調節部材は、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液内に浸漬することにより、前記オーバーフロー槽内に貯留された前記染色液を前記染色槽内にオーバーフローして移送することを特徴とするレンズ染色装置。
【請求項7】
プラスチックレンズを染色液に浸漬してハーフ染色するのに用いる染色用レンズ保持具であって、
前記プラスチックレンズを前記染色液中に浸漬する染色上限位置に位置決め部を備え、
前記プラスチックレンズの周縁部を保持して、前記位置決め部が前記染色液の液面となる位置まで前記染色液中に吊り下げて用いることを特徴とする染色用レンズ保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−20138(P2010−20138A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181091(P2008−181091)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】