説明

レンズ研削工具及びレンズの研削加工方法

【課題】レンズ面の創成を行う砥石の摩耗を低減するとともにコストを低減する。
【解決手段】本発明のレンズ研削工具10は、レンズ表面の創成を行うためのレンズ研削工具であって、外周部に軸線周りに円環状に形成されたレンズ面20aの創成用の第1の砥石12sを設けるとともに、内周部に前記第1の砥石12sに対し軸線方向に移動可能に構成したレンズ面20a外縁20bの面取り加工用の第2の砥石13sを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ研削工具及びレンズの研削加工方法に係り、特に、レンズ面の創成を行うと同時に外縁の面取り加工を行うことのできる研削具及び研削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レンズの球面研削を行う研削加工方法としては、例えば、図4(a)に示すように、レンズ5を図示しないレンズホルダに保持し、レンズホルダを軸線周りに回転可能とするとともに、円環状の砥石2を備えたレンズ研削工具1を軸線周りに回転可能に構成し、レンズホルダの軸線とレンズ研削工具の軸線とを所定の傾き角となるように設定して、上記円環状の砥石2をレンズ表面に当接させることで、凸状若しくは凹状の球面を創成するものが知られている(特許文献1参照)。また、上記のレンズ面5aの創成と同時にレンズ面5aの外縁5bの面取り加工を行う場合には、上記レンズ研削工具1の円環状の砥石2のさらに外周側に取り付けられた別の円環状の砥石3をレンズ面5aの外縁5bに当接させる(特許文献1の図7参照)。ただし、これはレンズ5の凹状のレンズ面を加工する場合であり、凸状のレンズ面を加工する場合には別途面取装置を設ける必要があるとされる(段落0005)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2662557号公報(段落0002乃至0005、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のレンズの研削加工方法においては、レンズ研削工具1において、レンズ面5aの創成を行う円環状の砥石2の径がレンズ径に比べて小さいため、円環状の砥石2の摩耗が早く進み、その結果、レンズ面5aの精度の管理が難しくなるという問題点がある。
【0005】
また、レンズ研削工具1にレンズ面5aの外縁5bの面取り加工を行う別の円環状の砥石3を設ける場合には、レンズ面5aの創成を行う砥石2のさらに外周側に設ける必要があるために径の大きなものとなり、その結果、レンズ研削工具1のコストが増大するという問題点もある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、レンズ面の創成を行う砥石の摩耗を低減するとともにコストを低減することのできるレンズ研削工具及びレンズの研削加工方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる実情に鑑み、本発明のレンズ研削工具は、レンズ表面の創成を行うためのレンズ研削工具であって、外周部に軸線周りに円環状に形成されたレンズ面の創成用の第1の砥石を設けるとともに、内周部に前記第1の砥石に対し軸線方向に移動可能に構成したレンズ面外縁の面取り加工用の第2の砥石を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、レンズ研削工具を軸線周りに回転させるとともに、レンズ研削工具の軸線と所定の傾斜角を有する軸線を有するレンズを当該軸線周りに回転させながら、レンズ表面に外周部に設けた第1の砥石を当接させることにより、レンズ面を創成することができる。また、内周部に設けた第2の砥石の軸線方向の位置を調整した上で、当該第2の砥石をレンズ面の外縁に当接させることで当該外縁の面取り加工を同時に行うことができる。
【0009】
本発明によれば、レンズ面の創成を行う第1の砥石の内周側にレンズ面の外縁の面取り加工を行う第2の砥石を形成することにより、第1の砥石の径を増大させることができるので当該第1の砥石の摩耗を低減することができると同時に、第2の砥石を小径若しくは軸状に構成することができるので、工具コストを低減することが可能になる。特に、第1の砥石の摩耗が低減されると、レンズ面の創成時の加工精度を高めることができるとともに、加工精度の管理を容易に行うことが可能になる。
【0010】
本発明の一の態様においては、前記第1の砥石は本体部から前方へ突出した円筒部の先端縁に取り付けられ、前記第2の砥石は、前記円筒部の内側に離間して配置されるとともに前記本体部に対して前記軸線方向の前方へ出没可能に取り付けられた可動軸の先端に取り付けられている。これによれば、本体部から前方へ突出した円筒部の先端縁に第1の砥石を取り付け、当該円筒部の内周側に離間して配置された可動軸の先端に第2の砥石を取り付けることによって、第1の砥石及び円筒部の内周側において第2の砥石及び可動軸との間にスペースが生じる。したがって、凹状のレンズ面を創成する場合にも支障なくレンズ面の創成と面取り加工を同時に行うことが可能であるが、特に、凸状のレンズ面を形成する場合には第1の砥石に対して第2の砥石を軸線方向後方へ退避させた状態でレンズの一部を第1の砥石及び円筒部の内周側に配置して加工を行うことができる。
【0011】
この場合において、前記可動軸は前記本体部に対して軸線に沿って螺合していることが好ましい。これによれば、可動軸を本体部に軸線に沿って螺合させることで、可動軸の軸線方向の突出量、ひいては第2の砥石の軸線方向の位置を容易かつ高精度に調整することができる。
【0012】
次に、本発明のレンズの研削加工方法は、外周部に軸線周りに円環状に形成された第1の砥石を有するとともに内周部に第2の砥石を有するレンズ研削工具を第1の軸線周りに回転可能に設けるとともに前記レンズを保持するレンズホルダを第2の軸線周りに回転可能に設け、前記第1の軸線と前記第2の軸線を所定の傾き角に設定して前記第1の砥石をレンズ表面に当接させてレンズ面を創成すると同時に、前記第2の砥石を前記レンズ面の外縁に当接させて面取り加工を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レンズ面の創成に用いる砥石の摩耗を低減できるとともに工具コストを低減できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るレンズ研削工具及びレンズの研削加工方法の実施形態の様子を示す縦断面図。
【図2】同実施形態の軸線方向前方から見た様子を示す正面図。
【図3】他の実施形態のレンズ研削工具及び研削加工方法を示す縦断面図。
【図4】従来のレンズ研削工具及び研削加工方法を示す断面図(a)及び比較例のレンズ研削工具及び研削加工方法を示す断面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本実施形態のレンズ研削工具10を用いてレンズ20を研削加工している様子を示す縦断面図であり、図2は同実施形態のレンズ研削工具10を軸線方向前方より見た様子を示す正面図である。
【0016】
本実施形態のレンズ研削工具10は、円柱状などの適宜の形状に構成された本体部11と、この本体部11の外周部前面より軸線10x周りの円筒状に突出した円筒部12とが一体に構成されている。本体部11の後部には図示しないスピンドル軸と連結するためのネジ穴などの接続部11aが設けられ、本体部11の内周部前面には軸線10xに沿ってネジ孔11bが形成されている。円筒部12の先端縁には第1の砥石12sが取り付けられている。第1の砥石12sは軸線10x周りの円環状に構成される。
【0017】
本体部11には可動軸13が軸線10xに沿って移動可能に取り付けられている。可動軸13の外周面には雄ネジ部13aが形成され、この雄ネジ部13aが上記ネジ孔11bに螺合している。この可動軸13の先端には第2の砥石13sが取り付けられている。ここで、可動軸13及び第2の砥石13sは、円筒部12及び第1の砥石12sの内周側に離間して配置される。ここで、第2の砥石13sは第1の砥石12sより小径の円環状に構成されていてもよく、或いは、円形状や円柱状に構成されていてもよい。
【0018】
なお、本明細書において各部に砥石が取り付けられた態様としては、砥石が各部に対して機械的に着脱可能に取り付けられた構造や、各部に対して電着などの各種方法で砥粒が直接に固着された構造が挙げられる。
【0019】
上記のように構成されたレンズ研削工具10を用いてレンズ20のレンズ面20aの創成を行う場合には、レンズ20をレンズホルダ21によって保持する。そして、レンズホルダ21を図示しない別のスピンドル軸に固定することで軸線20x周りに回転可能に構成する。また、軸線20xを軸線10xと所定の傾き角θで交差するように設定し、レンズ20のレンズ表面の上記軸線20xと交差する部位が上記レンズ研削工具10の第1の砥石12sに当接するように位置決めする。さらに、上記可動軸13の軸線方向の位置を調整して、創成されるレンズ面20aの外縁20bが第2の砥石13sに当接するように位置決めする。
【0020】
なお、図示例では、図2に示すように、可動軸13の先端には前方に露出した工具操作部(図示例では六角穴)13bが設けられ、この工具操作部13bにレンチなどの工具を係合させて回転させることにより、可動軸13を軸線10xに沿って前後に移動させることができるようになっている。ただし、可動軸13の後端部に同様の工具操作部を設けてもよく、或いは、可動軸13を軸線10xに沿って移動させ位置決めを行う構造(手段)として図示しない駆動機構や制御回路等を用いることにより、遠隔操作ができるように構成してもよい。要は、何らかの操作により第2の砥石13sが軸線10xに沿って移動可能かつ位置決め可能とされていればよい。
【0021】
ここで、上記傾き角θは通常0<θ≦45度の範囲とされるが、当該範囲内で傾き角θを小さくするほど創生されるレンズ面20aの曲率は小さくなり、傾き角θを大きくするほどレンズ面20aの曲率は大きくなる。
【0022】
図1及び図2に示す構成では、円環状の第1の砥石12sよりも第2の砥石13sが軸線10xの方向後方に配置される。ここで、レンズ20には、軸線10x方向の前方位置で第1の砥石12sによりレンズ面20aの創成加工が施され、それよりも軸線10x方向の後方位置で第2の砥石13sによりレンズ面20aの外縁20bの面取り加工が施される。この態様のレンズの研削加工方法では、レンズ面20aが凸状の球面となる。
【0023】
第2の砥石13sは、図示例では軸線10xと直交する砥石面、或いは、軸線10x方向の前方へ向けて軸線10x側へ傾斜した砥石面を備えている。これは、凸状の光学面の外縁20bを面取り加工するための形状である。ただし、第2の砥石13sの砥石面の形状は上記傾き角θやレンズ20の厚み、外径、レンズ面20aの曲率などに応じて適宜に設定される。
【0024】
図3はレンズ面20a′を凹状の球面とする場合のレンズの研削加工方法の様子を示す縦断面図である。この場合には、レンズ20′の軸線20xを、レンズ研削工具10′の軸線10xに対して上記図1に示す場合とは逆方向の傾き角θ′だけ傾斜させて交差させる。そして、レンズ20′のレンズ表面の軸線20xと交差する点を第1の砥石12sに当接してレンズ面20a′の創成を行う。この場合には、レンズ20′は凹状のレンズ面20a′を備えたものとなる。また、これと同時にレンズ面20a′の外縁20b′に第2の砥石13s′を当接させることで面取り加工を行う。なお、この例では前述の例と同様の部分には同一符号を付し、それらの説明は省略する。また、前述の例について説明した事項についてはこの例についても同様である。
【0025】
この場合には、第2の砥石13s′が第1の砥石12sよりも軸線方向の前方に配置される。図示例では図1に示す可動軸13とは別の可動軸13′を用いているが、当該可動軸13′と本体部11との取り付け構造は前述のものと同様である。なお、図示例では図1の可動軸13とは別の可動軸13′を用いているが、同一の可動軸を共通に用いてもよい。このとき、共通の可動軸の軸線10xの方向の位置を調整することにより、レンズ20のレンズ面20aの外縁20bと、レンズ20′のレンズ面20a′の外縁20b′の双方に適用できるように構成することが可能である。
【0026】
第2の砥石13s′は、図示例では軸線10x方向の前方へ向けて軸線10x側へ傾斜した砥石面を備えている。これは、凹状の光学面の外縁を面取り加工するための形状である。ただし、第2の砥石13s′の砥石面の形状は上記傾き角θ′やレンズ20′の厚み、外径、レンズ面20a′の曲率などに応じて適宜に設定される。
【0027】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。まず、外周部に円環状の第1の砥石12sを設けるとともに、内周部に第2の砥石13s、13s′を設けたことにより、第1の砥石12sの砥石径を大きくすることができるため、レンズ面20a、20a′の創成に用いる砥石の摩耗量を低減することができるから、レンズ面20a、20a′の加工精度を高めることができるとともに、当該レンズ面20a、20a′の加工精度の維持・管理の手間も軽減できる。また、第1の砥石12sが大径化することで、工具強度の向上や安定した研削加工が実現される。
【0028】
さらに、内周部に第2の砥石13s、13s′を設けることにより、面取り加工に必要な砥石量を確保しつつ無駄な砥石量を削減することができるので、工具コストを低減することができる。面取り加工用の第2の砥石については基本的に従前の構成はオーバースペックであり、単にレンズの外周部を加工する点から第1の砥石よりも外周側に配置されて大径化していたに過ぎないが、本実施形態では逆に第2の砥石13s、13s′を第1の砥石12sの内周側に配置することで、無駄な砥石量を削減することができる。
【0029】
そして、本実施形態では、レンズホルダ21に対してレンズ20、20′を着脱する際(この際にはレンズホルダ21とレンズ研削工具10、10′とは軸線10x方向に離間している。)において、レンズ研削工具10、10′の外径がレンズ20、20′の外縁よりも内側に配置されるので、着脱作業が容易になるという利点もある。
【0030】
例えば、図4(a)に示した上述の従来のレンズ研削工具1を凸レンズの研削加工に適用しようとすると、図4(b)に示す比較例のように、レンズ面5aの外縁5bの面取り加工用の円環状の砥石4を軸線方向前方へ大きく突出させるように設ける必要がある。したがって、このようなレンズ研削工具1と図示しないレンズホルダとの間にレンズを挿入してレンズホルダに装着したり、レンズを取り外したりする場合には、レンズよりも外径が大きく、かつ、軸線方向前方へ大きく突出した砥石4によって作業が妨げられたり、砥石4の先端によって作業者が手を切ってしまうなど損傷を受けたりする虞がある。
【0031】
ところが、本実施形態では、レンズ研削工具10、10′の軸線10xに対してレンズ20、20′が手前側に配置される方向(図1では図示下方、図3では図示上方)からアクセスすることにより、正規の取付位置にあるレンズ20、20′の外縁よりもレンズ研削工具10、10′の外周部が内側に配置されるとともに、面取り加工用の第2の砥石13s、13s′がレンズ面20a、20a′の創成用の第1の砥石12sよりさらに内周側に配置されるため、作業が妨げられたり、作業者が損傷を受けたりする虞を低減できる。
【0032】
また、第2の砥石13s、13s′は、本体部11に対して軸線10x方向に移動可能で位置決め可能に構成されているので、レンズ面20a、20a′の外縁20b、20b′の面取り加工の設定、調整が容易になる。さらに、第2の砥石13s、13s′は図示のように小径若しくは軸状に構成できるので、面取り加工の要望に合わせて第2の砥石13s、13s′の寸法や形状を変更する場合でも、対応が極めて容易であり、しかも低コストで対応できるという利点がある。
【0033】
尚、本発明のレンズ研削工具及びレンズの研削加工方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
10…レンズ研削工具、10x…第1の軸線、11…本体部、12…円筒部、12s…第1の砥石、13、13′…可動軸、13s、13s′…第2の砥石、20、20′…レンズ、20a、20a′…レンズ面、20b、20b′…外縁、20x…第2の軸線、θ、θ′…傾き角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ表面の創成を行うためのレンズ研削工具であって、外周部に軸線周りに円環状に形成されたレンズ面の創成用の第1の砥石を設けるとともに、内周部に前記第1の砥石に対し軸線方向に移動可能に構成したレンズ面外縁の面取り加工用の第2の砥石を設けたことを特徴とするレンズ研削工具。
【請求項2】
前記第1の砥石は本体部から前方へ突出した円筒部の先端縁に取り付けられ、前記第2の砥石は、前記円筒部の内側に離間して配置されるとともに前記本体部に対して前記軸線方向の前方へ出没可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ研削工具。
【請求項3】
前記可動軸は前記本体部に対して軸線に沿って螺合していることを特徴とする請求項2に記載のレンズ研削工具。
【請求項4】
外周部に軸線周りに円環状に形成された第1の砥石を有するとともに内周部に第2の砥石を有するレンズ研削工具を第1の軸線周りに回転可能に設けるとともに前記レンズを保持するレンズホルダを第2の軸線周りに回転可能に設け、前記第1の軸線と前記第2の軸線を所定の傾き角に設定して前記第1の砥石をレンズ表面に当接させてレンズ面を創成すると同時に、前記第2の砥石を前記レンズ面の外縁に当接させて面取り加工を施すことを特徴とするレンズの研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−228062(P2010−228062A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79941(P2009−79941)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(509088930)
【Fターム(参考)】