説明

レーザを用いた部材の接合方法

【課題】レーザ光を透過する樹脂材料で形成された3つ以上の部材について、互いに重ね合わされた境界面にレーザ光を一回照射することにより部材間を接合させる接合方法を提供する。
【解決手段】互いに積層された第1、第2及び第3部材11,12,13は、第2部材12の第1部材11との境界面が研磨された第1凹凸面12aにされ、第3部材13の第2部材12との境界面が同様に第2凹凸面13aにされている。レーザ光15が照射され、第2部材12の第1凹凸面12aでレーザ光が吸収され、凹凸面12a周囲のアクリル材料を局所的に溶融させることにより、両部材11,12間に接合を形成することができる。透明にされた接合部分12bを透過したレーザ光は、第2及び第3部材12,13の境界面付近に照射され、第2凹凸面13a周囲のアクリル材料を局所的に溶融させることにより、両部材12,13間に接合を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を透過する樹脂材料で形成された同種あるいは異種材料からなる複数の部材について、互いに重ね合わされた境界面にレーザ光を照射することにより部材間を接合させるレーザを用いた部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料の接合については、自動車部品、医療機器、家電製品、食品包装等応用分野が広く、従来から種々検討されてきている。従来、レーザを用いた部材の接合方法としては、例えば非特許文献1に示すように、レーザ光を透過する樹脂板とレーザ光を吸収する樹脂板とを重ね合わせて透過樹脂側からレーザ光を照射し、樹脂が接合界面でレーザ光を吸収して局所的に発熱することを利用して両者を局所的に溶融させて接合を形成するレーザラップ接合法が知られている。このように、レーザ光を用いて同種あるいは異種の樹脂材料からなる2つの部材同士を接合させることにより、有機溶剤系の接着剤が不要となるので、接着剤塗布の手間を省くことができ、また接着剤による環境汚染を防止できるので、特に家電製品、食品包装、医療器具等の広い分野での利用が期待されている。
【非特許文献1】長谷川達也,他,「レーザによる熱可塑性プラスチックのラップ接合」,日本機械学会論文集(C編),日本機械学会発行,2001年9月,第67巻,第611号,pp.2997−3001
【0003】
ところで、樹脂材料の接合については、樹脂層の強度を確保する等多様な用途に対応するために、2層にとどまらず3層以上の多数層の接合が求められている。しかし、上記接合技術では、一方の樹脂材料が光吸収性のものであるため、1回のレーザ照射では3層の樹脂層の接合形成ができなかった。3層の接合の場合、両側から2度のレーザ光の照射を行う必要があり、そのため、接合時間が長くなり接合の作業性が著しく低下することに加え、樹脂部材同士の位置合わせが煩雑になるという問題や、部材の形状による制限によって、一方向からのみしかレーザ照射ができない場合は接合形成が不可能になるという問題がある。さらに、レーザ照射による方法では、4層以上の樹脂層の接合形成はできなかった。
【0004】
これに対して、3層以上に重ね合わされた波長が800〜1200nmのレーザ光を透過させる樹脂(以下「光透過性樹脂」という。)同士をレーザ光で接合させる方法として、両光透過性樹脂の境界面にレーザ光吸収剤を塗布し、あるいはレーザ光吸収剤を練り込んだ光透過性樹脂を使用し、レーザ光を照射させる方法もある。しかし、この方法によれば、各部材の間に第3の物質を挟む、または第3の物質を部材に練り込むものであるため、レーザの照射方法や用途が限定され、かつ部材内部での発熱による悪影響、また接合形成のコストも高価になるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決しようとするもので、レーザ光を透過する樹脂材料で形成された同種あるいは異種材料からなる3つ以上の部材について、互いに重ね合わされた境界面にレーザ光を一回照射することにより部材間を接合させるレーザを用いた部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、波長が800〜1200nmのレーザ光を透過する同種あるいは異種の熱可塑性樹脂材料で形成された3つ以上の部材を互いに密着状態で重ね合わせて、3つ以上の部材にレーザ光を照射することにより3つ以上の部材間を接合させる接合方法であって、3つ以上の部材がそれぞれ接触する境界面の少なくとも一方が、予め該レーザ光を吸収可能なように凹凸状態にされており、該レーザ光の照射により、該境界面における該レーザ光の吸収によって両部材をそれぞれ溶融あるいは軟化させることによって各部材間を接合させると共に、該接合部分を該レーザ光を透過させる状態に変化させ、該接合部分を透過したレーザ光により、次の境界面においても両部材間を接合させると共に、該接合部分を該レーザ光を透過させる状態に変化させ、以降これを繰り返すことにより、一回のレーザ光照射によって該3つ以上の部材の各境界面に接合を形成させることにある。なお、境界面の凹凸状態の形成については、例えばサンドペーパを用いた研磨処理、サンドブラスト処理、成形型の凹凸面による成形等により行われる。
【0007】
本発明においては、波長が800〜1200nmのレーザ光が透過する互いに重ね合わされた3つ以上の部材の最初の境界面にレーザ光を照射することにより、凹凸状に粗された境界面においてレーザ光が吸収され、境界面周囲の材料が局所的に溶融あるいは軟化して両部材間に接合が形成される。同時に、溶融あるいは軟化した接合部分が該レーザ光を透過させる状態に変化し、該接合部分をレーザ光が透過するようになる。透過したレーザ光は次の境界面においても同様に吸収され、その境界面において両部材間で接合が形成されると共に接合部分が該レーザ光を透過させる状態に変化する。以降これを繰り返すことにより、1回のレーザ光の照射によって、3つ以上の部材間の接合が自動的にかつ簡単に形成される。その結果、本発明においては、光透過性樹脂を3層以上に重ねた接合形成のための製造コストが安価にされ、多層接合された樹脂製品の広い分野での活用が可能になる。
【0008】
また、本発明によれば、3つ以上の部材がそれぞれ接触する少なくとも一方の境界面を予め凹凸状態にしたことにより、レーザ光を照射して部材同士を互いに接合させることができるため、接合の形成に有機溶剤系の接着剤が不要となるので、接着剤塗布の手間を省くことができ、また接着剤による環境汚染を防止できるので、自動車部品、家電製品、食品包装、医療器具等の広い分野での利用が可能になった。さらに、本発明によれば、レーザ光の強度を一定の範囲内において高くしても、レーザ光が境界面を過剰に加熱することなく部材を透過するため、過剰な加熱による両部材の損傷を防止することができる。また、境界面の全面あるいは一部分を粗しておいて部分的にレーザ光を照射することにより、部分的に透明な接合箇所を形成できるため、境界面に所望の図形等を描くことができ、部材の接合をデザイン的に利用することができる。
【0009】
また、本発明において、接合部分を全て透過した、あるいは接合形成が不十分なことにより十分に透過してこないレーザ光を光検知手段によって検知することにより、3つ以上の部材間の接合が形成されたか否か、及びその過程を認識できるようにすることができる。このように、接合形成を正確に認識できることにより、レーザ光の照射を無駄なく行うことができ、また接合形成が不十分な場合にも、レーザ光照射の不十分さの程度を認識して、レーザ光照射を適正にコントロールできる。
【0010】
また、本発明において、3つ以上の部材がそれぞれ接触する前記境界面における、レーザ光に対する部材固有の透過率及び部材固有の熱物性値である密度、比熱、熱伝導率に応じて、該境界面の凹凸状態で決まる該レーザ光の吸収率と、該レーザ光の該境界面におけるレーザ強度と、該レーザ光の照射時間との組み合わせの制御により、適正な接合形成を可能にすることができる。これにより、境界面において樹脂材料を溶融あるいは軟化させて境界面に接合を形成するために必要な接合面の温度上昇を制御することができ、適正な接合形成の制御が可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、互いに重ね合わされた3つ以上の部材の境界面を凹凸状態にして、境界面にレーザ光を照射することにより、凹凸状に粗された境界面においてレーザ光が吸収され、境界面周囲の材料が局所的に溶融あるいは軟化して両部材間に接合が形成されると共に、溶融あるいは軟化した接合部分がレーザ光を透過させる状態になるため、1回のレーザ光の照射により、3つ以上の部材間の接合が自動的にかつ簡単に形成されるので、3層以上に重ねた樹脂層の接合形成のための製造コストが安価にされ、多層接合された樹脂製品の広い分野での活用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例について図面を用いて説明する。図1〜図3は、実施例である同種の樹脂材料として半導体レーザ光が透過する透明なアクリル樹脂製(PMMA)の3つの部材同士を重ね合わせて、半導体レーザ光を照射することにより接合を形成する過程を模式図により示したものである。図1に示すように、互いに積層されたアクリル樹脂製の第1、第2及び第3部材11,12,13は、厚さが3mmの板材であり、第2部材12の第1部材11との境界面が粒度#120でサンドブラスト処理を施すことにより研磨された第1凹凸面12aにされ、第3部材13の第2部材12との境界面が同様に第2凹凸面13aにされている。なお、部材の厚みについては3mmに限らず、適宜変更可能である。第1、第2及び第3部材11,12,13は、重ね合わされて押え圧3.5MPaで押さえ付けられている。照射する半導体レーザは、波長920nm、レーザ出力44W、連続発振、ビームモードは一様分布であり、第1凹凸面12aでの照射点スポット径5mm、走査速度が0.5mm/s、走査距離が10mmである。
【0013】
半導体レーザ発振器から出力されたレーザ光は光ファイバにより伝送されてコリメータから出力され、重ね合わされた第1及び第2部材11,12の境界面付近でスポット径が5mmになるように照射される。これにより、第2部材12の第1凹凸面12aで半導体レーザ光(以下「レーザ光」という。)15が吸収され、凹凸面12a周囲のアクリル材料を局所的に溶融させることにより、両部材11,12間に接合を形成することができる。同時に、レーザ光15の照射により溶融した接合部分12bが透明となり、透明になった接合部分12bを含む両部材11,12全体をレーザ光15が透過するようになる(図2参照)。
【0014】
つぎに、第1及び第2部材11,12を透過したレーザ光15は、第2及び第3部材12,13の境界面付近にスポット径3.4mmとなって照射される。これにより、第3部材13の第2凹凸面13aでレーザ光15が吸収され、凹凸面13a周囲のアクリル材料を局所的に溶融させることにより、両部材12,13間に接合を形成することができる。同時に、レーザ光15の照射により溶融した接合部分13bが透明となり、透明になった接合部分13bをレーザ光15が透過するようになる(図3参照)。その結果、本実施例においては、1回のレーザ光15の照射により、3層に重ね合わされた部材11,12,13間の接合が自動的にかつ簡単に形成されるので、3層に重ねた樹脂層の接合形成のための製造コストが安価にされ、多層接合された樹脂製品の広い分野での活用が可能になる。
【0015】
また、本実施例では、レーザ光15の照射により溶融した接合部分12b,13bはレーザ光15が透過する状態となり、溶融した該接合部分を含む部材11,12、13全体をレーザ光が透過するようになる。そのため、レーザ光15の強度を一定の範囲内において高くしても、レーザ光15が境界面を過剰に加熱することなく透過するため、過剰な加熱による部材の損傷を抑制することができる。すなわち、レーザ光15の強度を高めに設定しておくことにより、自動的に各部材11,12,13間の接合が信頼性良く形成される。
【0016】
また、本実施例においては、第1,第2及び第3部材11,12、13の各境界面に、部分的に半導体レーザ光15を照射することによる接合を形成することができ、これによっても各部材11,12,13間を強固に接合することができる。例えば、各部材11,12,13の境界面のいずれかに部分的に凹凸状態を形成しておき、その周囲あるいは境界面全体に半導体レーザ光を照射することにより、凹凸部分でのみ樹脂材料が溶融するため、各部材11,12,13を部分的に接合させることができる。また、各部材11,12,13の境界面の全面又は一部分を粗らして凹凸面としておき、部分的に半導体レーザ光を照射することにより、部分的に透明な接合箇所を形成できる。このように形成された接合加工物は、透明な接合箇所が自由に形成されており、境界面に所望の図形等が迅速に描かれる。そのため、この接合加工物については、量産が可能であり、工業デザイン的な利用価値が高められる。
【0017】
なお、上記接合加工物の接合形成において、レーザ光15が透過する状態となった接合部分を透過したレーザ光15を光センサ等の接合形成認識装置によって検知することにより、第1,第2及び第3部材11,12,13の接合形成をより確実に認識することができる。そのため、半導体レーザ光の照射を効率よくおこなうことができる。また、樹脂材料の境界面の凹凸状態の形成については、上記サンドブラストやサンドペーパを用いた研磨の代りに、部材形成用の成形型の型面を凹凸状にしておき、部材の成形時に同時に凹凸面を形成したり、エッチングによって形成したりすることができる。これにより、大量の部材に凹凸形状を形成する場合に便利である。なお、実施例においては、部材の積層が3層であるが、4層以上でも同様に接合形成が可能である。
【0018】
上記実施例においては、第1、第2及び第3部材11,12,13の樹脂材料としてアクリルPMMA同士が使用されているが、他の樹脂材料としては,ポリカーボネートPC、ポリアミドPA6,PAA6、ポリエチレンPE、ポリプロピレンPP、アセタール樹脂POM、ポリエチレンテレフタレートPETを一例とした熱可塑性樹脂を用いることも可能である。例として、これら同種の熱可塑性樹脂材料の一部について、3層に積層させた試料1〜5と、4層に積層させた試料6,7を用意し、上記レーザを用いて試料毎にレーザ出力を調節して接合形成実験を行った。試料1〜7の樹脂の種類、押え圧、レーザスポット径、レーザ出力、走査速度×距離又は一点照射×照射時間については下記表1に示す。この試験結果としては、すべての試料1〜7について十分な強度の多層接合が得られた。
【0019】
【表1】

【0020】
さらに、異種の熱可塑性樹脂材料の接合形成の例として、上記熱可塑性樹脂材料から選んでここでは便宜上2層に積層させた試料8〜10を用意し、上記レーザを用いて試料毎にレーザ出力を調節して接合形成実験を行った。試料8〜10の樹脂の種類、押え圧、レーザスポット径、レーザ出力、一点照射×照射時間については下記表2に示す。この試験結果についても、すべての試料8〜10について十分な強度の多層接合が得られた。ここでは明示しないが、これら異なった種類の樹脂を組み合わせて3層以上に積層させた異種の樹脂材料の接合形成についても、無論十分な接合強度の接合形成が可能である。
【0021】
【表2】

【0022】
このように同種あるいは異種の熱可塑性樹脂材料を3つ以上重ね合わせて、レーザ光を照射して接合を形成する場合は、これら3つ以上の部材がそれぞれ接触する境界面における、レーザ光に対する部材固有の透過率及び、部材固有の熱物性値である密度、比熱、熱伝導率に応じて、境界面の凹凸状態できまるレーザ光の吸収率と、レーザ光の境界面におけるレーザ強度と、レーザ光の照射時間との組み合わせをコントロールすることにより、適正な接合形成が可能になる。
【0023】
3層以上の樹脂層の接合形成にあたって、境界面におけるレーザ光の吸収率の程度が接合点の温度(すなわち接合強度)と関係しており、接合面の粗さとレーザ光吸収率との関係が重要になる。例として、アクリルPMMAとポリカーボネートPCについて、無処理の板を重ね合わせた試料と、サンドブラスト(粒度#120)で処理した板に無処理の板を重ね合わせた試料に、レーザ光を5秒間一点照射し、レーザ光の透過率をパワーメータ(例えば、COHERENT社製,LASERMATE/ALD−20)を用いて測定した。レーザ出力は1W、スポット径1mmである。
【0024】
透過率の測定値を100%から引くと、吸収率と反射率の和が得られるが、試料の表面における反射率がサンドブラスト処理の有無によらず等しいと考えられるので、サンドブラスト処理の有無の差として表面粗さによる吸収率の増加量が求められる。サンドブラスト処理の有無と吸収率+反射率の関係を図4に示す。その結果、サンドブラスト処理を行ったアクリルPMMAの吸収率は約30%であり、無処理の場合と比べて約20%増加していることがわかる。また、サンドブラスト処理を行ったポリカーボネートPCの吸収率は約50%であり、無処理の場合と比べて約30%増加することが明らかになった。また、接合強度の制御にあたって、境界面におけるレーザ光の吸収率を制御するために、境界面の面粗さ、形状を制御し、さらにレーザ光のスポットサイズと走査速度で境界面への入熱量を制御することにより適正な接合形成が可能になる。
【0025】
また、3層以上の樹脂層の接合形成にあたって、境界面におけるレーザ強度と境界面における接合強度(溶着強度)との関係が重要になる。例として、上記レーザ光をスポット径2mm、走査速度0.5mm/s、走査距離10mmとして用い、アクリルPMMAとポリカーボネートPCについてそれぞれサンドブラスト(粒度#220)で処理した板に無処理の板を重ね合わせて両者間を押え圧0.2MPaで押え、レーザ強度を変化させたときの接合強度の結果について実験を行った。接合強度の測定については、接合された2枚の部材の接合面内に接合方向に平行にせん断力を加え、破断直前の最大荷重を破断後に測定した接合面積で割って求めた。レーザ強度については、レーザ走査速度、レーザスポット径を考慮して、単位面積当たりのレーザエネルギ(J/mm)で評価している。
【0026】
測定結果を、アクリルPMMAについて図5に、ポリカーボネートPCについて図6に示す。アクリルの場合、レーザ強度が22J/mmまでは接合強度が上昇し続けるが、それを超えると境界面で発泡が生じて接合強度が低下する結果となった。ポリカーボネートの場合、レーザ強度が6J/mmまでは接合強度が上昇し続けるが、それを超えると境界面で発泡が生じて接合強度が低下する結果となった。アクリルの接合形成に必要なレーザ強度はポリカーボネートの場合の4倍程度になるが、原因は主として、アクリルのレーザ光吸収率がポリカーボネートの吸収率より小さいことに起因していると解される。このような結果から、接合品に対する接合強度の要求や、樹脂材料の違いに応じて、適正なレーザ強度(レーザ照射条件)を選択することが可能になる。
【0027】
また、3層以上の樹脂層の接合形成にあたって、試料押え圧と接合強度(溶着強度)と関係が実用上必要になる。例として、上記レーザ光をレーザ出力3W、スポット径2mm、走査速度0.5mm/sとして用い、アクリルPMMAについて、押え圧を変化させたときの接合強度の結果について実験を行った。測定結果を、図7に示す。その結果、押え圧が0.15MPa以下では、接合強度が押え圧にほぼ比例して増加するが、押え圧が0.15MPaを超えると、接合強度がほぼ一定になることが明らかにされた。押え圧を大きくするにつれて、板材間の隙間が減少し熱伝導が促進されること、溶融した樹脂の膨張による浮き上がりが押さえられることによると考えられる。また、押え圧が0.15MPaを超えると、隙間はそれ以上減少せず溶融した樹脂の膨張による浮き上がりも十分に抑えられるため、接合強度がほぼ一定になると考えられる。そのため、樹脂接合形成の量産時において、押え圧は一定以上であれば、接合強度のばらつきは少ないものと考えられる。
【0028】
なお、上記実施例においては、レーザ光を走査させる場合について、詳細な条件等の検討がされてはいないが、広い面積の板材の接合を形成する場合には、レーザ光の適正な走査を行うことが有効である。レーザ光の走査を行う場合は、走査速度に応じてレーザ光の出力、スポットサイズを調節して接合面におけるレーザ強度を適正に設定することにより、強固な接合強度を得ることが可能である。
【0029】
また、上記実施例においては、レーザとして波長920nmの半導体レーザが用いられているが、これ以外の波長が800〜1200nmの近赤外線領域にある半導体レーザ,YAGレーザ,ファイバーレーザ等の使用も可能である。その他、上記実施例に示したレーザを用いた部材の接合方法については、一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、3つ以上の部材をレーザ光を透過する材料とし、互いに重ね合わされた部材の境界面を凹凸状態にして、境界面にレーザ光を照射することにより、部材間に接合が形成されると共に、接合部分がレーザ光を透過させる状態になるため、1回のレーザ光の照射により、3つ以上の部材間の接合が自動的にかつ簡単に形成され、3層以上に重ねた樹脂層の接合形成のための製造コストが安価にされ、多層接合された樹脂製品の広い分野での活用が可能になるので、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例である半導体レーザを用いた部材の接合形成過程の一部を概略的に示す模式図である。
【図2】半導体レーザを用いた部材の接合形成過程の一部を概略的に示す模式図である。
【図3】半導体レーザを用いた部材の接合形成過程の一部を概略的に示す模式図である。
【図4】境界面に凹凸を設けるためのサンドブラスト処理の有無と、境界面におけるレーザ光の吸収率との関係を示すグラフである。
【図5】アクリル樹脂の境界面に加えられるレーザ強度と接合部分の接合強度との関係を示すグラフである。
【図6】ポリカーボネート樹脂の境界面に加えられるレーザ強度と接合部分の接合強度との関係を示すグラフである。
【図7】重ね合わされ樹脂板間に加えられる押え圧と接合部分の接合強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
11,12,13…第1、第2、第3部材、12a,13a…凹凸面、12b,13b…接合部分、15…半導体レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が800〜1200nmのレーザ光を透過する同種あるいは異種の熱可塑性樹脂材料で形成された3つ以上の部材を互いに密着状態で重ね合わせて、該3つ以上の部材に該レーザ光を照射することにより該3つ以上の部材間を接合させる接合方法であって、
前記3つ以上の部材がそれぞれ接触する境界面の少なくとも一方が、予め該レーザ光を吸収可能なように凹凸状態にされており、該レーザ光の照射により、該境界面における該レーザ光の吸収によって両部材をそれぞれ溶融あるいは軟化させることによって各部材間を接合させると共に、該接合部分を該レーザ光を透過させる状態に変化させ、該接合部分を透過したレーザ光により、次の境界面においても両部材間を接合させると共に、該接合部分を該レーザ光を透過させる状態に変化させ、以降これを繰り返すことにより、一回のレーザ光照射によって該3つ以上の部材の各境界面に接合を形成させることを特徴とするレーザを用いた部材の接合方法。
【請求項2】
前記接合部分を全て透過した、あるいは接合形成が不十分なことにより十分に透過してこないレーザ光を光検知手段によって検知することにより、前記3つ以上の部材間の接合が形成されたか否か、及びその過程を認識できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のレーザを用いた部材の接合方法。
【請求項3】
前記3つ以上の部材がそれぞれ接触する前記境界面における、前記レーザ光に対する部材固有の透過率及び部材固有の熱物性値である密度、比熱、熱伝導率に応じて、該境界面の凹凸状態で決まる該レーザ光の吸収率と、該レーザ光の該境界面におけるレーザ強度と、該レーザ光の照射時間との組み合わせの制御により、適正な接合形成を可能にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザを用いた部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64325(P2010−64325A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231679(P2008−231679)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 精密工学会 刊行物名 2008年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集 該当頁 第971頁−第972頁 発行日 2008年9月1日
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【出願人】(592145785)丸文株式会社 (18)
【Fターム(参考)】