レーザメス及びレーザを用いた除去方法
【課題】短パルスレーザ光源では、光発生器の外部に設けられた光学部品の作用より短パルス出力が実現されるため、一般的にサイズが大きく、装置全体として大型化するという問題があった。従来に比して小型化し得るレーザメス及びレーザを用いた除去方法を提案する。
【解決手段】緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させる。そして、このパルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光させる。
【解決手段】緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させる。そして、このパルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の切除あるいは歯の漂白などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザメスとして、半導体レーザを用いてパルス光を発生するものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平06−90959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、短パルスレーザ光源では、光発生器の外部に設けられた光学部品の作用より短パルス出力が実現される。このため短パルスレーザ光源は、一般的にサイズが大きく、装置全体として大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して小型化し得るレーザメス及びレーザを用いた除去方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するため本発明は、レーザメスであって、半導体レーザと、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させるレーザ制御部と、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する光学レンズとを有する。
【0006】
また本発明は、レーザを用いた除去方法であって、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させるレーザ制御ステップと、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する集光ステップとを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、半導体レーザに対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を除去対象の部位に集中させることができる。半導体レーザに対して電圧を印加する構成は現状でも一般的に小型なものとして実現できるので、本発明では、従来短パルス出力を実現させるものとして用いられていた光学機器よりも大幅な小型化が可能となる。かくして、従来に比して小型化し得るレーザメス及びレーザを用いた除去方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
[1.皮膚切除整形装置の構成]
[2.短パルスレーザ光源の構成]
[2−1.緩和振動モードによるレーザ光のパルス出力]
[2−2.特異モードによるレーザ光のパルス出力]
[2−3.駆動電圧の制御]
[3.動作及び効果]
[4.他の実施の形態]
【0009】
[1.皮膚切除整形装置の構成]
図1に示すように、この本一実施の形態の皮膚切除整形装置1は、レーザメス2と、コンピュータ3と、レジン噴出部4と、カラーインク噴出部5とによって構成される。
【0010】
レーザメス2は、短パルスレーザ光源10を有し、該短パルスレーザ光源10の出射先にはEOM(Electro Optical Modulator(電気光学変調器))11が配される。EOM11は、光場の位相ポジションを可変させて、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光の屈折率を変化させる。
【0011】
この位相ポジションは、位相制御部12によって所定間隔ごとに可変される。位相ポジションが可変されない場合、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光は、PBS(Polarizing Beam Splitter(偏光ビームスプリッタ))13を透過する一方、位相ポジションが可変される場合、PBS13を反射することとなる。
【0012】
このようにレーザメス2は、EOM11、位相制御部12及びPBS13によって、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光の光路を、第1の導波路又は第2の導波路へ交互に切り換えることができるようになされている。
【0013】
またレーザメス2は、PBS13を透過するレーザ光(一方の導波路上のレーザ光)についてはダイクロイックミラー14を介して対物レンズ15に導き、該対物レンズ15により皮膚面の切除部位に集光する。この結果、切除部位はレーザ光のエネルギーで気化される(アブレーション)。
【0014】
これに対してレーザメス2は、PBS13を反射するレーザ光(他方の導波路上のレーザ光)についてはミラー16を介してSHG(Seconds Harmonic Generation)素子17に導く。SHG素子17は、例えば405[nm]でなる短パルスレーザ光源10のレーザ光を紫外波長領域のレーザ光(第2高調波)として発生する。
【0015】
レーザメス2は、このSHG素子17から得られるレーザ光を、ミラー18及びダイクロイックミラー14を介して対物レンズ15に導き、該対物レンズ15により皮膚面の切除部位に集光する。この結果、切除部位は変性し、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率が上昇することになる。
【0016】
このようにレーザメス2は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することができるようになされている。
【0017】
したがってこの皮膚切除整形装置1は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光だけを照射する場合に比して、アブレーションによる切除を効率よく行い得るようになされている。
【0018】
一方、コンピュータ3は、入力部としてのマウスを有し、該マウスから、切除部位をケアすべき命令が与えられた場合、位相制御部12に対して、光路の切り換えを停止するとともにレーザ光がPBS13を反射する導波路上レーザ光が導かれるように位相を変更すべき命令を与える。したがって皮膚面には、レーザメス2から、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光が照射されずに、該レーザ光よりも高波長でなる紫外波長領域のレーザ光が照射されることとなる。
【0019】
またコンピュータ3は、マウスから切除部位をケアすべき命令が与えられた場合、レジン噴射部4に対してレジン噴射命令を与える。この場合、レジン噴射部4は、該レジン噴射部4に接続されるノズルNLからUVレジンを噴射する。このUVレジンは、レーザメス2から照射される紫外波長領域のレーザ光によって硬化し、この結果、アブレーションによる切除部位が、モイストヒーリング(湿潤療法)効果として、傷跡が残り難い状態で早期に復帰することとなる。
【0020】
このようにこの皮膚切除整形装置1は、レーザメス2によってアブレーション切除のみならず、該切除部位に対して傷跡が残り難い状態で早期に復帰させる処理を自動的に施すことができるようになされている。
【0021】
これに加えてこの皮膚切除整形装置1では、アブレーション工程ではアブレーションの補助光として、モイストヒーリング工程ではUVレジンの硬化として紫外波長領域のレーザ光を共用するため、該共用しない場合に比して小型化することができる。
【0022】
さらにこのコンピュータ3は、マウスから、正常部位と同化させるべき命令が与えられた場合、可視光カメラCLから与えられる撮像データを取り込み、該撮像データに基づいて、切除部位の周辺部分における皮膚色を認識する。
【0023】
そしてコンピュータ3は、認識した皮膚色の色を噴射すべき命令をカラーインク噴射部5に与える。この場合、カラーインク噴射部5は、命令に応じた色となるようにインクの混合割合を調整し、該調整したインクを、該カラーインク噴射部5に接続されるノズルNLから噴射する。この結果、切除部位で硬化するUVレジンが正常の皮膚色に染まり、該切除部位が正常の皮膚色と同化することとなる。
【0024】
このようにこの皮膚切除整形装置1は、切除部位を正常の皮膚色と同化させることができるようになされている。
【0025】
[2.短パルスレーザ光源の構成]
次に、短パルスレーザ光源10の構成を具体的に説明する。図2に示すように、この短パルスレーザ光源10は、レーザ制御部21と半導体レーザ22とから構成される。
【0026】
半導体レーザ22は、半導体発光を用いる一般的な半導体レーザ(例えばソニー株式会社製、SLD3233)でなる。この半導体レーザ22は、レーザ制御部21による駆動電圧制御(詳しくは後述する)のもとに、レーザ光をパルス出力するようになされている。
【0027】
レーザ制御部21は、パルス生成器21A及びLD(Laser Diode)ドライバ21Bとから構成される。図3(A)に示すように、パルス生成器21Aは、離散的にパルス状の生成信号パルスSLwを発生するパルス信号SLを生成し、LDドライバ21Bに供給する。このときパルス生成器21Aは、例えば外部機器の制御に応じて、生成信号パルスSLwの信号レベルを制御する。
【0028】
図3(B)に示すように、LDドライバ21Bは、パルス信号SLを所定の増幅率で増幅することにより、生成信号パルスSLwに対応して駆動電圧パルスDJwを発生するレーザ駆動電圧DJを生成し、半導体レーザ22に供給する。駆動電圧パルスDJwの電圧値は、生成信号パルスSLwの信号レベルに応じて決定される。
【0029】
半導体レーザ22は、このレーザ駆動電圧DJに応じてレーザ光LLをパルス出力する。
【0030】
このように短パルスレーザ光源10は、レーザ制御部21の制御により、半導体レーザ22からレーザ光を直接的にパルス出力するようになされている。
【0031】
[2−1.緩和振動モードによるレーザ光のパルス出力]
レーザの特性を表すいわゆるレート方程式は、次式
【0032】
【数1】
【0033】
とされる。この(1)式における「Γ」は閉込め係数、「τph」は光子寿命、「τs」はキャリア寿命、「Cs」は自然放出結合係数、「d」は活性層厚、「q」は電荷素量、「gmax」は最大利得、「N」はキャリア密度、「S」は光子密度、「J」は注入キャリア密度、「c」は光速、「N0」は透明化キャリア密度、「ng」は群屈折率をそれぞれ表す。
【0034】
一般的な半導体レーザでは、注入キャリア密度J(すなわちレーザ駆動電圧DJ)の増大に応じてキャリア密度Nが飽和状態の少し手前から発光が開始される。そして、注入キャリア密度Jの増大に伴って光子密度S(すなわち出射光強度)が増大することとなる。
【0035】
ここで、(1)式に示したレート方程式から、発光開始時間τdを算出することができる。すなわち発振以前のため光子密度S=0とすると、(1)式は次式
【0036】
【数2】
【0037】
と表すことができる。この(2)式におけるキャリア密度Nをスレショールド値Nthとすると、発光開始時間τdは次式
【0038】
【数3】
【0039】
と表すことができる。この(3)式からも分かるように、発光開始時間τdは注入キャリア密度Jに反比例する。この注入キャリア密度Jの振幅は、レーザ駆動電圧DJが大きいと、発光開始直後に緩和振動によって最も大きい第1波として現れ、第2波、第3波と徐々に減衰し、安定化に至る。
【0040】
一般的なレーザ光源では、半導体レーザに対して緩和振動の殆どみられない条件(電圧値)となる比較的小さいレーザ駆動電圧DJを印加することにより、敢えて出射開始直後の出射光強度の差異を小さくし、レーザ光LLの出力を安定させている。
【0041】
本実施の形態による短パルスレーザ光源10では、緩和振動を生じさせて、レーザ光の瞬間的な出射光強度の最大値が安定値よりも増大(例えば1.5倍以上)される。
【0042】
すなわち図4に示すように、レーザ制御部21は、緩和振動を生じさせるための電圧値(以下、これを振動電圧値αと呼ぶ)の駆動電圧パルスDJwを発生するレーザ駆動電圧DJを生成し、これを半導体レーザ22に印加する(図4(B))。駆動電圧パルスDJwのパルス幅は、発光開始時間τdと振動周期taとを加算(τd+ta)した時間(以下、これを電流波供給時間βと呼ぶ)とされる。
【0043】
これにより短パルスレーザ光源10は、図4(C)に示すように、半導体レーザ22から緩和振動による第1波のみからなるパルス状のレーザ光LL(以下、これを振動出力光LMpと呼ぶ)を出射することができるようになされている。
【0044】
また短パルスレーザ光源10は、大きな電圧値でなるレーザ駆動電圧DJを印加する時間を短縮することができるため、半導体レーザ22の過発熱などにより生じる当該半導体レーザ22の不具合を抑制することができるようになされている。
【0045】
ちなみに、振動電圧値αよりも小さい振動電圧値βでなる駆動電圧パルスDJwを半導体レーザ22に印加した場合(図4(D))、出射光強度の比較的小さい振動出力光LMp(図4(E))が半導体レーザ22から出射される。
【0046】
ここで、一般的な半導体レーザ(ソニー株式会社製、SLD3233VF)に対して、比較的大きなレーザ駆動電圧DJを印加した時に測定された出射光強度を、図5に示す。この図からも分かるように、光子密度Sにみられた緩和振動が出射光強度として実際に生じる。なお図5では、レーザ駆動電圧DJを半導体レーザに対して矩形のパルス状に供給した場合に得られたレーザ光LLの波形を示している。
【0047】
このように短パルスレーザ光源10は、緩和振動モードを実行した場合、緩和振動による第1波のみからなるパルス状のレーザ光LL(振動出力光LMp)を、半導体レーザ22から出射することができるようになされている。
【0048】
[2−2.特異モードによるレーザ光のパルス出力]
ここで、駆動電圧パルスDJwの電圧値を変化させた場合のレーザ光LLの変化を測定した実験の結果について説明する。
【0049】
まず、図6において、この実験で用いた、短パルスレーザ光源10から出射されたレーザ光LLを分析する光測定装置50の構成を示す。
【0050】
この光測定装置50では短パルスレーザ光源10における半導体レーザ22から出射されたレーザ光LLは、コリメータレンズ51に供給される。レーザ光LLは、コリメータレンズ51によって発散光から平行光に変換され、BPF(Band Pass Filter)52を介して集光レンズ53へ入射される。
【0051】
この実験では、この集光レンズ53によって集光された後のレーザ光LLが、光サンプルオシロスコープ54(浜松ホトニクス株式会社製、C8188−01)及び光スペクトルアナザイザ55(株式会社エーディーシー製、Q8341)により測定及び分析された。
【0052】
またこの実験では、コリメータレンズ51及び集光レンズ53間にパワーメータ56(株式会社エーディーシー製、Q8230)が設置され、レーザ光LLの出射光強度が測定された。なおこの実験では、BPF52は必要に応じて設置又は除去された。
【0053】
図7及び図8において、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを変化させたときに得られたレーザ光LLの出射光強度について、光スペクトルアナライザ17によって測定した結果を示す。ちなみに、この測定において、BPF52は設置されていない。
【0054】
図7に示すように、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが6[V]のとき、レーザ光LLの波形にはピークが大きなピークが複数見られることから、当該レーザ光は振動出力光LMpといえる。
【0055】
一方、図8に示すように、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが42[V]のとき、レーザ光LLの波形には先頭部分のピーク及び緩やかに減衰するスロープ部分が見られた。
【0056】
このことから、振動電圧値αよりも大きな特異電圧値β(すなわち最大電圧値Vmax)でなる駆動電圧パルスDJwを半導体レーザ22に供給した場合、振動出力光LMpとはその波形及び波長の異なるレーザ光LLが出力されることが分かる。なお、発光開始時間τdも上述したレート方程式から導かれる(3)式とは一致しなかった。
【0057】
このレーザ光LLの波長は、安定化時におけるレーザ光の波長よりも約6[nm](6±2[nm]以内)短波長側にピークを有することが確認されている。以下、このレーザ光LLを特異出力光LApと呼び、当該特異出力光LApを出力する半導体レーザ22のモードを特異モードと呼ぶ。
【0058】
ちなみに、短波長側にピークをもつのは、最大電圧値Vmaxの上昇に伴いレーザ光LLが振動出力光LMpから特異出力光LApへ変化する過程において、長波長側のピークが徐々に減衰し、代りに短波長側のピークが増大していくものと考えられる。
【0059】
また、パワーメータ56による測定(半導体レーザ22としてソニー株式会社製、SLD3233を使用)の結果、この特異ピークAPKの出射光強度は、約12[W]と緩和振動モードにおけるレーザ光LLの最大の出射光強度(約1〜2[W])と比して、非常に大きいことが確認された。なお光サンプルオシロスコープ54の解像度が低いためこの出射光強度は図面には表われていない。
【0060】
またストリークカメラ(図示せず)による分析の結果、特異ピークAPKは、ピーク幅が10[ps]程度であり、緩和振動モードにおけるピーク幅(約30[ps])と比して、小さくなることが確認された。なお光サンプルオシロスコープ54の解像度が低いためこのピーク幅は図面には表われていない。
【0061】
また特異スロープASPは、その波長が通常モードにおけるレーザ光LLの波長と同一であり、最大の出射光強度は約1〜2[W]程度であった。
【0062】
以上のように、半導体レーザ22に対して、緩和振動を生じさせる電圧値よりもさらに大きい特異電圧値でβなるレーザ駆動電圧DJが印加された場合、図9に示すように、最初に出現する特異ピークAPKと、続いて出現するスロープASPとからなる特異出力光LApが出射される。なおこの実験とは異なる半導体レーザを用いた場合であっても、同様の結果が得られている。
【0063】
本実施の形態による短パルスレーザ光源10では、レーザ制御部21が、半導体レーザ22に対し、振動電圧値αでなるレーザ駆動電圧DJだけでなく、該振動電圧値αよりもさらに大きい特異電圧値βでなるレーザ駆動電圧DJし得るようになされている。
【0064】
これによりレーザ制御部21は、図9に示したように、半導体レーザ22を特異モードに遷移させ、レーザ光LLとして、当該半導体レーザ22から非常に大きい特異ピークAPKを有する特異出力光LApを出射させることができる。
【0065】
[2−3.駆動電圧の制御]
ところで、本実施の形態による短パルスレーザ光源10には、コンピュータ15(図1)から、図10に示すように、パルス生成器21Aにおける設定パルスSLsのパルス幅Wsと、当該設定パルスSLsの高さHsとの設定情報が与えられる。
【0066】
短パルスレーザ光源10は、この設定情報に示される設定内容にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号パルス幅及び信号レベルを変化させることにより、LDドライバ21Bによって生成される駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmax及び生成信号パルスSLwの信号パルス幅を切り換える。
【0067】
例えば、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを増大し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が増大され、特異スロープASPが大きくなる。
【0068】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを増大し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を小さくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が維持され、特異スロープASPが小さくなる。
【0069】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを低減し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が維持され、特異スロープASPが大きくなる。
【0070】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを低減し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が小さく、特異スロープASPも小さくなる。
【0071】
このようにこの短パルスレーザ光源10は、コンピュータ15(図1)から送出される設定情報にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号パルス幅及び信号レベルを変化させることで、特異出力光LApにおける特異ピークAPKと特異スロープASPの割合を可変することができる。このことは既に本出願人により確認されている。
【0072】
また短パルスレーザ光源10は、コンピュータ15(図1)から送出される設定情報にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号レベルを振動電圧値αとすることで、緩和振動パルスのレーザ光LL(振動出力光LMp)を得ることもできる。
【0073】
以上のようにこの短パルスレーザ光源10は、駆動電圧DJにおける駆動電圧パルスDJwの電圧値を切り換えることにより、緩和振動モード又は特異モードの切り換えに加えて、特異モードでの特異出力光LApにおける特異ピークAPKのレベル(高さ)を調整し得るようになされている。
【0074】
[3.動作及び効果]
以上の構成において、この皮膚切除整形装置1は、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧DJを半導体レーザ22に印加する。これにより皮膚切除整形装置1は、半導体レーザ22から緩和振動パルスのレーザ光LL(振動出力光LMp)又はパルス状の特異ピークAPKをもつレーザ光LLを出力させる(主に図4又は図9参照)。
【0075】
そして皮膚切除整形装置1は、このレーザ光LLを、対物レンズ15によって皮膚面の切除部位に集光する(主に図1参照)。
【0076】
したがってこの皮膚切除整形装置1では、半導体レーザ22に対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を切除部位に集中させることができる。
【0077】
半導体レーザ22に対して電圧を印加する構成は現状でも一般的に小型なものとして実現できるので、この皮膚切除整形装置1では、従来短パルス出力を実現させるものとして用いられていた光学機器よりも大幅な小型化が可能となる。これに加えてこの皮膚切除整形装置1では、瞬間的に強いレーザ光をサンプリング部位に集中させることができるため、切断線の線幅を狭くでき、また切除部位のダメージを低減することもできる。
【0078】
また、この皮膚切除整形装置1は、パルス状の駆動電圧DJ(駆動電圧パルスDJw)に対する電圧値を切り換えて、特異ピークAPKの強度を調整する(主に図10参照)。
【0079】
したがってこの皮膚切除整形装置1では、例えば皮膚厚の相違あるいは組織の相違に応じて、当該切除対象に対する特異ピークAPKのレベル、つまりパルス強度を調整できる。この結果、例えば、切除対象を、皮膚に代えて歯とする場合であっても、皮膚と同様に、アブレーションによって歯の歯垢を除去又は歯を削除することが可能となる。また切除対象に応じたパルス強度を選択できるということは、装置の消費電力の低減、生物サンプルに対するダメージの緩和の観点で有用となる。
【0080】
また、この皮膚切除整形装置1は、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えることにより、特異出力光LApにおける特異ピークAPKと特異スロープASPの割合を調整する(主に図10参照)。
【0081】
すなわちこの皮膚切除整形装置1では、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えて、特異出力光LApにおける特異スロープASPを抑制することが可能である。この特異スロープASPはアブレーションでは不要であり、正常組織に対するダメージの要因になる場合も否定できない。したがって、特異出力光LApにおける特異スロープASPを抑制できるということは、正常組織に対するダメージの緩和の観点で有用となる。
【0082】
さらに、この皮膚切除整形装置1は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射する(主に図1参照)。
【0083】
高波長でなるレーザ光は切除部位を変性させて、該切除部位に対する、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率を上昇させる。したがってこの皮膚切除整形装置1では、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光だけを照射する場合に比して、アブレーションによる切除を効率よく行い得るようになされている。
【0084】
特に、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することは、当該レーザ光の導波路として光ファイバーを適用する場合に有利となる。すなわち、光ファイバーを高出力のレーザ光(特にUVレーザ光)の導波路として用いた場合、該光ファイバーの劣化(損傷)が大きいため、一般には光ファイバー以外の比較的大型な導波路に代替される。
【0085】
しかしこの皮膚切除整形装置1では、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光が、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率を上昇させるための高波長レーザ光として所定間隔ごとに変換される。このため、レーザ光の出力を高めることが困難な状況下(導波路として光ファイバーを適用する場合等)であっても、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光を用いてアブレーション切除が可能となる。
【0086】
以上の構成によれば、半導体レーザ22に対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を切除部位に集中させることができるようにしたことにより、切除対象に対する効率を低減させずに従来に比して小型化し得る皮膚切除整形装置1を実現できる。
【0087】
[4.他の実施の形態]
上述の実施の形態では、パルス状の特異ピークをもつレーザ光の光路を、所定間隔ごとに第1の導波路又は第2の導波路に切り換える光路切換手段を有する皮膚切除整形装置1が採用された。しかしながら光路切換手段が省略された皮膚切除整形装置が採用されてもよい。
【0088】
また、光路切換手段は、上述の実施の形態ではEOM11、位相制御部12及びPBS13によって実現された。しかしながら光路切換手段はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、AOM(Acoustic Optical Modulator(音響光学変調器))、位相制御部及びPBSによって、また複数の光学レンズの組み合わせによって光路切換手段が実現されてもよい。
【0089】
上述の実施の形態では、切除部位及びその周囲を撮像する可視光カメラCLが、切除部位の色を認識するために用いられた。この色認識用に代えてまたは色認識用に加えて、切除部位及びその周囲の表示用として、可視光カメラCLが用いられる形態であってもよい。
【0090】
また、切除部位及びその周囲の表示用として、可視光カメラCLに代えてテラヘルツ域カメラが適用可能である。テラヘルツ波は、生体表面で反射する可視光と異なり、該生体表面下における浅い組織層で反射する。したがって、テラヘルツ域カメラを適用した場合、血管が介在する層(真皮層)の面を画像として表示することが可能となる。この結果、テラヘルツ域カメラで撮像された画像を表示させることで、切除部位のうち、自然止血し難い1[mm]以上の血管が存在する部分を確認しながら切除作業させるといったことが可能となる。
【0091】
なお、血管をクランプするアームが移動可能に設けられるようにしてもよい。このようにすれば、切除部位のうち1[mm]以上の血管が露出するように切開し、アームで血管をクランプしてからアブレーション切除することが可能である。また、アブレーション切除後に、切断された血管端面をレジンで接着することによって、無出血で切除手術することも可能となる。
【0092】
また上述の実施の形態では、切除対象として皮膚が適用された。しかしながら切除対象はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、歯あるいは内蔵等、皮膚以外の組織が切除対象とされてもよい。
【0093】
なお、例えば内視鏡手術の場合、導波路として光ファイバーが要することになるが、上述したように、該光ファイバーを用いたとしても、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光を用いてアブレーション切除が可能となる。この点で、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することは特に有用となる。また、手術では止血用としてArレーザが一般に用いられる。これに対し、上述のように、青紫波長のレーザ光を出射する短パルスレーザ光源10を用いた形態では、従来に比して大幅に小型化できる。これに加えて、この短パルスレーザ光源10では、緩和振動を発生させ又は特異ピークAPKの強度が調整可能であるため、止血速度をコントロールすることも可能となる。
【0094】
別例として歯科臨床の場合、近年では、TiO2(二酸化チタン)を含む過酸化水素漂白剤が歯の漂白で用いられる。TiO2は可視域の短波長側の光に対して強い吸収性をもつため、上述のように、青紫波長のレーザ光を出射する短パルスレーザ光源10を用いた形態では、TiO2の光触媒作用によって、従来よりも漂白効率を向上させることができる。
【0095】
また上述の実施の形態では、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えて特異スロープASPが抑制された。しかしながら抑制手段はこの実施の形態のように電気的抑制に代えて、光学的抑制により実現するようにしてもよい。
【0096】
具体的には、半導体レーザ22と、対物レンズ12Aとの間におけるレーザ光の光路上に、使用すべき半導体レーザ22から出射されるレーザ光の波長を中心とする所定波長域の波長をカットするBPFを設ける。例えば図8で上述したように、特異スロープASPは半導体レーザ22から出射されるレーザ光と同等の波長となる一方、特異ピークAPKはレーザ光の波長よりも短波長となる。したがって、当該BPFを設けることで、特異スロープASPを選択的に抑制することができる。
【0097】
また上述の実施の形態では、短パルスレーザ光源がパルス幅による特異スロープと立上スロープによるモードとの双方が制御された。しかしながら他の実施の形態として、いずれか一方の制御を実行する形態が適用されてもよい。
【0098】
また上述の実施の形態では、パルス幅による特異スロープの制御と同時に駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが調整された。しかしながら他の実施の形態として、制御と調整のいずれか一方を実行する形態が適用されてもよい。
【0099】
また上述の実施の形態では、設定パルスSLsの高さHsの設定により駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが調整された。しかしながらこの調整手法はこの実施の形態に限るものではない。例えば、LDドライバ21Bにおける増幅率を変化させることにより最大電圧値Vmaxを調整する調整手法が適用できる。
【0100】
また上述の実施の形態では、駆動電圧パルスDJwとして矩形状のパルス電流が供給された。しかしながら供給手法はこの実施の形態に限るものではない。例えば、短時間に亘って大きな振動電圧値αでなるパルス電流が供給されてもよく、また正弦波状でなる駆動電圧パルスDJwが供給されてもよい。
【0101】
また上述の実施の形態では、半導体レーザ22として一般的な半導体レーザ(ソニー株式会社製、SLD3233など)が用いられた。要は、p型とn型の半導体を用いてレーザ発振を行ういわゆる半導体レーザであれば良い。また敢えて緩和振動を大きく生じさせやすくした半導体レーザを用いることがさらに好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、生物実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】皮膚切除整形装置の構成を示す略線/ブロック図である。
【図2】短パルスレーザ光源の構成を示す略線/ブロック図である。
【図3】パルス信号とレーザ駆動電圧を示す略線図である。
【図4】駆動電流と出射光強度の説明に供する略線図である。
【図5】実際の発光波形を示す略線図である。
【図6】光測定装置の構成を示す略線図である。
【図7】実験結果(1)を示すグラフである。
【図8】実験結果(2)を示すグラフである。
【図9】特異出力光の波形を示す略線図である。
【図10】パルス幅による特異出力光の制御の説明に供する略線図である。
【符号の説明】
【0104】
1……皮膚切除整形装置、2……レーザメス、3……コンピュータ、4……レジン噴射部、5……カラーインク噴射部、10……短パルスレーザ光源、11……EOM、12……位相制御部、13……PBS、14……ダイクロイックミラー、15……対物レンズ、16,18……ミラー、17……SHG素子、21A……パルス生成部、21B……LDドライバ、22……半導体レーザ、τd……発光開始時間、DJ……レーザ駆動電圧、DJw……駆動電圧パルス、LL……レーザ光、SL……パルス信号、SLw……生成信号パルス、LMp……振動出力光、LAp……特異出力光、APK……特異ピーク、ASP……特異スロープ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の切除あるいは歯の漂白などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザメスとして、半導体レーザを用いてパルス光を発生するものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平06−90959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、短パルスレーザ光源では、光発生器の外部に設けられた光学部品の作用より短パルス出力が実現される。このため短パルスレーザ光源は、一般的にサイズが大きく、装置全体として大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して小型化し得るレーザメス及びレーザを用いた除去方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するため本発明は、レーザメスであって、半導体レーザと、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させるレーザ制御部と、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する光学レンズとを有する。
【0006】
また本発明は、レーザを用いた除去方法であって、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を半導体レーザから出力させるレーザ制御ステップと、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する集光ステップとを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、半導体レーザに対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を除去対象の部位に集中させることができる。半導体レーザに対して電圧を印加する構成は現状でも一般的に小型なものとして実現できるので、本発明では、従来短パルス出力を実現させるものとして用いられていた光学機器よりも大幅な小型化が可能となる。かくして、従来に比して小型化し得るレーザメス及びレーザを用いた除去方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
[1.皮膚切除整形装置の構成]
[2.短パルスレーザ光源の構成]
[2−1.緩和振動モードによるレーザ光のパルス出力]
[2−2.特異モードによるレーザ光のパルス出力]
[2−3.駆動電圧の制御]
[3.動作及び効果]
[4.他の実施の形態]
【0009】
[1.皮膚切除整形装置の構成]
図1に示すように、この本一実施の形態の皮膚切除整形装置1は、レーザメス2と、コンピュータ3と、レジン噴出部4と、カラーインク噴出部5とによって構成される。
【0010】
レーザメス2は、短パルスレーザ光源10を有し、該短パルスレーザ光源10の出射先にはEOM(Electro Optical Modulator(電気光学変調器))11が配される。EOM11は、光場の位相ポジションを可変させて、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光の屈折率を変化させる。
【0011】
この位相ポジションは、位相制御部12によって所定間隔ごとに可変される。位相ポジションが可変されない場合、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光は、PBS(Polarizing Beam Splitter(偏光ビームスプリッタ))13を透過する一方、位相ポジションが可変される場合、PBS13を反射することとなる。
【0012】
このようにレーザメス2は、EOM11、位相制御部12及びPBS13によって、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光の光路を、第1の導波路又は第2の導波路へ交互に切り換えることができるようになされている。
【0013】
またレーザメス2は、PBS13を透過するレーザ光(一方の導波路上のレーザ光)についてはダイクロイックミラー14を介して対物レンズ15に導き、該対物レンズ15により皮膚面の切除部位に集光する。この結果、切除部位はレーザ光のエネルギーで気化される(アブレーション)。
【0014】
これに対してレーザメス2は、PBS13を反射するレーザ光(他方の導波路上のレーザ光)についてはミラー16を介してSHG(Seconds Harmonic Generation)素子17に導く。SHG素子17は、例えば405[nm]でなる短パルスレーザ光源10のレーザ光を紫外波長領域のレーザ光(第2高調波)として発生する。
【0015】
レーザメス2は、このSHG素子17から得られるレーザ光を、ミラー18及びダイクロイックミラー14を介して対物レンズ15に導き、該対物レンズ15により皮膚面の切除部位に集光する。この結果、切除部位は変性し、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率が上昇することになる。
【0016】
このようにレーザメス2は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することができるようになされている。
【0017】
したがってこの皮膚切除整形装置1は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光だけを照射する場合に比して、アブレーションによる切除を効率よく行い得るようになされている。
【0018】
一方、コンピュータ3は、入力部としてのマウスを有し、該マウスから、切除部位をケアすべき命令が与えられた場合、位相制御部12に対して、光路の切り換えを停止するとともにレーザ光がPBS13を反射する導波路上レーザ光が導かれるように位相を変更すべき命令を与える。したがって皮膚面には、レーザメス2から、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光が照射されずに、該レーザ光よりも高波長でなる紫外波長領域のレーザ光が照射されることとなる。
【0019】
またコンピュータ3は、マウスから切除部位をケアすべき命令が与えられた場合、レジン噴射部4に対してレジン噴射命令を与える。この場合、レジン噴射部4は、該レジン噴射部4に接続されるノズルNLからUVレジンを噴射する。このUVレジンは、レーザメス2から照射される紫外波長領域のレーザ光によって硬化し、この結果、アブレーションによる切除部位が、モイストヒーリング(湿潤療法)効果として、傷跡が残り難い状態で早期に復帰することとなる。
【0020】
このようにこの皮膚切除整形装置1は、レーザメス2によってアブレーション切除のみならず、該切除部位に対して傷跡が残り難い状態で早期に復帰させる処理を自動的に施すことができるようになされている。
【0021】
これに加えてこの皮膚切除整形装置1では、アブレーション工程ではアブレーションの補助光として、モイストヒーリング工程ではUVレジンの硬化として紫外波長領域のレーザ光を共用するため、該共用しない場合に比して小型化することができる。
【0022】
さらにこのコンピュータ3は、マウスから、正常部位と同化させるべき命令が与えられた場合、可視光カメラCLから与えられる撮像データを取り込み、該撮像データに基づいて、切除部位の周辺部分における皮膚色を認識する。
【0023】
そしてコンピュータ3は、認識した皮膚色の色を噴射すべき命令をカラーインク噴射部5に与える。この場合、カラーインク噴射部5は、命令に応じた色となるようにインクの混合割合を調整し、該調整したインクを、該カラーインク噴射部5に接続されるノズルNLから噴射する。この結果、切除部位で硬化するUVレジンが正常の皮膚色に染まり、該切除部位が正常の皮膚色と同化することとなる。
【0024】
このようにこの皮膚切除整形装置1は、切除部位を正常の皮膚色と同化させることができるようになされている。
【0025】
[2.短パルスレーザ光源の構成]
次に、短パルスレーザ光源10の構成を具体的に説明する。図2に示すように、この短パルスレーザ光源10は、レーザ制御部21と半導体レーザ22とから構成される。
【0026】
半導体レーザ22は、半導体発光を用いる一般的な半導体レーザ(例えばソニー株式会社製、SLD3233)でなる。この半導体レーザ22は、レーザ制御部21による駆動電圧制御(詳しくは後述する)のもとに、レーザ光をパルス出力するようになされている。
【0027】
レーザ制御部21は、パルス生成器21A及びLD(Laser Diode)ドライバ21Bとから構成される。図3(A)に示すように、パルス生成器21Aは、離散的にパルス状の生成信号パルスSLwを発生するパルス信号SLを生成し、LDドライバ21Bに供給する。このときパルス生成器21Aは、例えば外部機器の制御に応じて、生成信号パルスSLwの信号レベルを制御する。
【0028】
図3(B)に示すように、LDドライバ21Bは、パルス信号SLを所定の増幅率で増幅することにより、生成信号パルスSLwに対応して駆動電圧パルスDJwを発生するレーザ駆動電圧DJを生成し、半導体レーザ22に供給する。駆動電圧パルスDJwの電圧値は、生成信号パルスSLwの信号レベルに応じて決定される。
【0029】
半導体レーザ22は、このレーザ駆動電圧DJに応じてレーザ光LLをパルス出力する。
【0030】
このように短パルスレーザ光源10は、レーザ制御部21の制御により、半導体レーザ22からレーザ光を直接的にパルス出力するようになされている。
【0031】
[2−1.緩和振動モードによるレーザ光のパルス出力]
レーザの特性を表すいわゆるレート方程式は、次式
【0032】
【数1】
【0033】
とされる。この(1)式における「Γ」は閉込め係数、「τph」は光子寿命、「τs」はキャリア寿命、「Cs」は自然放出結合係数、「d」は活性層厚、「q」は電荷素量、「gmax」は最大利得、「N」はキャリア密度、「S」は光子密度、「J」は注入キャリア密度、「c」は光速、「N0」は透明化キャリア密度、「ng」は群屈折率をそれぞれ表す。
【0034】
一般的な半導体レーザでは、注入キャリア密度J(すなわちレーザ駆動電圧DJ)の増大に応じてキャリア密度Nが飽和状態の少し手前から発光が開始される。そして、注入キャリア密度Jの増大に伴って光子密度S(すなわち出射光強度)が増大することとなる。
【0035】
ここで、(1)式に示したレート方程式から、発光開始時間τdを算出することができる。すなわち発振以前のため光子密度S=0とすると、(1)式は次式
【0036】
【数2】
【0037】
と表すことができる。この(2)式におけるキャリア密度Nをスレショールド値Nthとすると、発光開始時間τdは次式
【0038】
【数3】
【0039】
と表すことができる。この(3)式からも分かるように、発光開始時間τdは注入キャリア密度Jに反比例する。この注入キャリア密度Jの振幅は、レーザ駆動電圧DJが大きいと、発光開始直後に緩和振動によって最も大きい第1波として現れ、第2波、第3波と徐々に減衰し、安定化に至る。
【0040】
一般的なレーザ光源では、半導体レーザに対して緩和振動の殆どみられない条件(電圧値)となる比較的小さいレーザ駆動電圧DJを印加することにより、敢えて出射開始直後の出射光強度の差異を小さくし、レーザ光LLの出力を安定させている。
【0041】
本実施の形態による短パルスレーザ光源10では、緩和振動を生じさせて、レーザ光の瞬間的な出射光強度の最大値が安定値よりも増大(例えば1.5倍以上)される。
【0042】
すなわち図4に示すように、レーザ制御部21は、緩和振動を生じさせるための電圧値(以下、これを振動電圧値αと呼ぶ)の駆動電圧パルスDJwを発生するレーザ駆動電圧DJを生成し、これを半導体レーザ22に印加する(図4(B))。駆動電圧パルスDJwのパルス幅は、発光開始時間τdと振動周期taとを加算(τd+ta)した時間(以下、これを電流波供給時間βと呼ぶ)とされる。
【0043】
これにより短パルスレーザ光源10は、図4(C)に示すように、半導体レーザ22から緩和振動による第1波のみからなるパルス状のレーザ光LL(以下、これを振動出力光LMpと呼ぶ)を出射することができるようになされている。
【0044】
また短パルスレーザ光源10は、大きな電圧値でなるレーザ駆動電圧DJを印加する時間を短縮することができるため、半導体レーザ22の過発熱などにより生じる当該半導体レーザ22の不具合を抑制することができるようになされている。
【0045】
ちなみに、振動電圧値αよりも小さい振動電圧値βでなる駆動電圧パルスDJwを半導体レーザ22に印加した場合(図4(D))、出射光強度の比較的小さい振動出力光LMp(図4(E))が半導体レーザ22から出射される。
【0046】
ここで、一般的な半導体レーザ(ソニー株式会社製、SLD3233VF)に対して、比較的大きなレーザ駆動電圧DJを印加した時に測定された出射光強度を、図5に示す。この図からも分かるように、光子密度Sにみられた緩和振動が出射光強度として実際に生じる。なお図5では、レーザ駆動電圧DJを半導体レーザに対して矩形のパルス状に供給した場合に得られたレーザ光LLの波形を示している。
【0047】
このように短パルスレーザ光源10は、緩和振動モードを実行した場合、緩和振動による第1波のみからなるパルス状のレーザ光LL(振動出力光LMp)を、半導体レーザ22から出射することができるようになされている。
【0048】
[2−2.特異モードによるレーザ光のパルス出力]
ここで、駆動電圧パルスDJwの電圧値を変化させた場合のレーザ光LLの変化を測定した実験の結果について説明する。
【0049】
まず、図6において、この実験で用いた、短パルスレーザ光源10から出射されたレーザ光LLを分析する光測定装置50の構成を示す。
【0050】
この光測定装置50では短パルスレーザ光源10における半導体レーザ22から出射されたレーザ光LLは、コリメータレンズ51に供給される。レーザ光LLは、コリメータレンズ51によって発散光から平行光に変換され、BPF(Band Pass Filter)52を介して集光レンズ53へ入射される。
【0051】
この実験では、この集光レンズ53によって集光された後のレーザ光LLが、光サンプルオシロスコープ54(浜松ホトニクス株式会社製、C8188−01)及び光スペクトルアナザイザ55(株式会社エーディーシー製、Q8341)により測定及び分析された。
【0052】
またこの実験では、コリメータレンズ51及び集光レンズ53間にパワーメータ56(株式会社エーディーシー製、Q8230)が設置され、レーザ光LLの出射光強度が測定された。なおこの実験では、BPF52は必要に応じて設置又は除去された。
【0053】
図7及び図8において、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを変化させたときに得られたレーザ光LLの出射光強度について、光スペクトルアナライザ17によって測定した結果を示す。ちなみに、この測定において、BPF52は設置されていない。
【0054】
図7に示すように、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが6[V]のとき、レーザ光LLの波形にはピークが大きなピークが複数見られることから、当該レーザ光は振動出力光LMpといえる。
【0055】
一方、図8に示すように、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが42[V]のとき、レーザ光LLの波形には先頭部分のピーク及び緩やかに減衰するスロープ部分が見られた。
【0056】
このことから、振動電圧値αよりも大きな特異電圧値β(すなわち最大電圧値Vmax)でなる駆動電圧パルスDJwを半導体レーザ22に供給した場合、振動出力光LMpとはその波形及び波長の異なるレーザ光LLが出力されることが分かる。なお、発光開始時間τdも上述したレート方程式から導かれる(3)式とは一致しなかった。
【0057】
このレーザ光LLの波長は、安定化時におけるレーザ光の波長よりも約6[nm](6±2[nm]以内)短波長側にピークを有することが確認されている。以下、このレーザ光LLを特異出力光LApと呼び、当該特異出力光LApを出力する半導体レーザ22のモードを特異モードと呼ぶ。
【0058】
ちなみに、短波長側にピークをもつのは、最大電圧値Vmaxの上昇に伴いレーザ光LLが振動出力光LMpから特異出力光LApへ変化する過程において、長波長側のピークが徐々に減衰し、代りに短波長側のピークが増大していくものと考えられる。
【0059】
また、パワーメータ56による測定(半導体レーザ22としてソニー株式会社製、SLD3233を使用)の結果、この特異ピークAPKの出射光強度は、約12[W]と緩和振動モードにおけるレーザ光LLの最大の出射光強度(約1〜2[W])と比して、非常に大きいことが確認された。なお光サンプルオシロスコープ54の解像度が低いためこの出射光強度は図面には表われていない。
【0060】
またストリークカメラ(図示せず)による分析の結果、特異ピークAPKは、ピーク幅が10[ps]程度であり、緩和振動モードにおけるピーク幅(約30[ps])と比して、小さくなることが確認された。なお光サンプルオシロスコープ54の解像度が低いためこのピーク幅は図面には表われていない。
【0061】
また特異スロープASPは、その波長が通常モードにおけるレーザ光LLの波長と同一であり、最大の出射光強度は約1〜2[W]程度であった。
【0062】
以上のように、半導体レーザ22に対して、緩和振動を生じさせる電圧値よりもさらに大きい特異電圧値でβなるレーザ駆動電圧DJが印加された場合、図9に示すように、最初に出現する特異ピークAPKと、続いて出現するスロープASPとからなる特異出力光LApが出射される。なおこの実験とは異なる半導体レーザを用いた場合であっても、同様の結果が得られている。
【0063】
本実施の形態による短パルスレーザ光源10では、レーザ制御部21が、半導体レーザ22に対し、振動電圧値αでなるレーザ駆動電圧DJだけでなく、該振動電圧値αよりもさらに大きい特異電圧値βでなるレーザ駆動電圧DJし得るようになされている。
【0064】
これによりレーザ制御部21は、図9に示したように、半導体レーザ22を特異モードに遷移させ、レーザ光LLとして、当該半導体レーザ22から非常に大きい特異ピークAPKを有する特異出力光LApを出射させることができる。
【0065】
[2−3.駆動電圧の制御]
ところで、本実施の形態による短パルスレーザ光源10には、コンピュータ15(図1)から、図10に示すように、パルス生成器21Aにおける設定パルスSLsのパルス幅Wsと、当該設定パルスSLsの高さHsとの設定情報が与えられる。
【0066】
短パルスレーザ光源10は、この設定情報に示される設定内容にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号パルス幅及び信号レベルを変化させることにより、LDドライバ21Bによって生成される駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmax及び生成信号パルスSLwの信号パルス幅を切り換える。
【0067】
例えば、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを増大し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が増大され、特異スロープASPが大きくなる。
【0068】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを増大し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を小さくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が維持され、特異スロープASPが小さくなる。
【0069】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを低減し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きくした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が維持され、特異スロープASPが大きくなる。
【0070】
また、駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxを低減し、生成信号パルスSLwの信号パルス幅を大きした場合、特異ピークAPKの最大出射光強度が小さく、特異スロープASPも小さくなる。
【0071】
このようにこの短パルスレーザ光源10は、コンピュータ15(図1)から送出される設定情報にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号パルス幅及び信号レベルを変化させることで、特異出力光LApにおける特異ピークAPKと特異スロープASPの割合を可変することができる。このことは既に本出願人により確認されている。
【0072】
また短パルスレーザ光源10は、コンピュータ15(図1)から送出される設定情報にしたがって生成信号パルスSLwにおける信号レベルを振動電圧値αとすることで、緩和振動パルスのレーザ光LL(振動出力光LMp)を得ることもできる。
【0073】
以上のようにこの短パルスレーザ光源10は、駆動電圧DJにおける駆動電圧パルスDJwの電圧値を切り換えることにより、緩和振動モード又は特異モードの切り換えに加えて、特異モードでの特異出力光LApにおける特異ピークAPKのレベル(高さ)を調整し得るようになされている。
【0074】
[3.動作及び効果]
以上の構成において、この皮膚切除整形装置1は、緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧DJを半導体レーザ22に印加する。これにより皮膚切除整形装置1は、半導体レーザ22から緩和振動パルスのレーザ光LL(振動出力光LMp)又はパルス状の特異ピークAPKをもつレーザ光LLを出力させる(主に図4又は図9参照)。
【0075】
そして皮膚切除整形装置1は、このレーザ光LLを、対物レンズ15によって皮膚面の切除部位に集光する(主に図1参照)。
【0076】
したがってこの皮膚切除整形装置1では、半導体レーザ22に対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を切除部位に集中させることができる。
【0077】
半導体レーザ22に対して電圧を印加する構成は現状でも一般的に小型なものとして実現できるので、この皮膚切除整形装置1では、従来短パルス出力を実現させるものとして用いられていた光学機器よりも大幅な小型化が可能となる。これに加えてこの皮膚切除整形装置1では、瞬間的に強いレーザ光をサンプリング部位に集中させることができるため、切断線の線幅を狭くでき、また切除部位のダメージを低減することもできる。
【0078】
また、この皮膚切除整形装置1は、パルス状の駆動電圧DJ(駆動電圧パルスDJw)に対する電圧値を切り換えて、特異ピークAPKの強度を調整する(主に図10参照)。
【0079】
したがってこの皮膚切除整形装置1では、例えば皮膚厚の相違あるいは組織の相違に応じて、当該切除対象に対する特異ピークAPKのレベル、つまりパルス強度を調整できる。この結果、例えば、切除対象を、皮膚に代えて歯とする場合であっても、皮膚と同様に、アブレーションによって歯の歯垢を除去又は歯を削除することが可能となる。また切除対象に応じたパルス強度を選択できるということは、装置の消費電力の低減、生物サンプルに対するダメージの緩和の観点で有用となる。
【0080】
また、この皮膚切除整形装置1は、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えることにより、特異出力光LApにおける特異ピークAPKと特異スロープASPの割合を調整する(主に図10参照)。
【0081】
すなわちこの皮膚切除整形装置1では、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えて、特異出力光LApにおける特異スロープASPを抑制することが可能である。この特異スロープASPはアブレーションでは不要であり、正常組織に対するダメージの要因になる場合も否定できない。したがって、特異出力光LApにおける特異スロープASPを抑制できるということは、正常組織に対するダメージの緩和の観点で有用となる。
【0082】
さらに、この皮膚切除整形装置1は、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射する(主に図1参照)。
【0083】
高波長でなるレーザ光は切除部位を変性させて、該切除部位に対する、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率を上昇させる。したがってこの皮膚切除整形装置1では、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光だけを照射する場合に比して、アブレーションによる切除を効率よく行い得るようになされている。
【0084】
特に、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することは、当該レーザ光の導波路として光ファイバーを適用する場合に有利となる。すなわち、光ファイバーを高出力のレーザ光(特にUVレーザ光)の導波路として用いた場合、該光ファイバーの劣化(損傷)が大きいため、一般には光ファイバー以外の比較的大型な導波路に代替される。
【0085】
しかしこの皮膚切除整形装置1では、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光が、アブレーションに要するエネルギーの吸収効率を上昇させるための高波長レーザ光として所定間隔ごとに変換される。このため、レーザ光の出力を高めることが困難な状況下(導波路として光ファイバーを適用する場合等)であっても、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光を用いてアブレーション切除が可能となる。
【0086】
以上の構成によれば、半導体レーザ22に対する電圧の印加によって、瞬間的に強いレーザ光を切除部位に集中させることができるようにしたことにより、切除対象に対する効率を低減させずに従来に比して小型化し得る皮膚切除整形装置1を実現できる。
【0087】
[4.他の実施の形態]
上述の実施の形態では、パルス状の特異ピークをもつレーザ光の光路を、所定間隔ごとに第1の導波路又は第2の導波路に切り換える光路切換手段を有する皮膚切除整形装置1が採用された。しかしながら光路切換手段が省略された皮膚切除整形装置が採用されてもよい。
【0088】
また、光路切換手段は、上述の実施の形態ではEOM11、位相制御部12及びPBS13によって実現された。しかしながら光路切換手段はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、AOM(Acoustic Optical Modulator(音響光学変調器))、位相制御部及びPBSによって、また複数の光学レンズの組み合わせによって光路切換手段が実現されてもよい。
【0089】
上述の実施の形態では、切除部位及びその周囲を撮像する可視光カメラCLが、切除部位の色を認識するために用いられた。この色認識用に代えてまたは色認識用に加えて、切除部位及びその周囲の表示用として、可視光カメラCLが用いられる形態であってもよい。
【0090】
また、切除部位及びその周囲の表示用として、可視光カメラCLに代えてテラヘルツ域カメラが適用可能である。テラヘルツ波は、生体表面で反射する可視光と異なり、該生体表面下における浅い組織層で反射する。したがって、テラヘルツ域カメラを適用した場合、血管が介在する層(真皮層)の面を画像として表示することが可能となる。この結果、テラヘルツ域カメラで撮像された画像を表示させることで、切除部位のうち、自然止血し難い1[mm]以上の血管が存在する部分を確認しながら切除作業させるといったことが可能となる。
【0091】
なお、血管をクランプするアームが移動可能に設けられるようにしてもよい。このようにすれば、切除部位のうち1[mm]以上の血管が露出するように切開し、アームで血管をクランプしてからアブレーション切除することが可能である。また、アブレーション切除後に、切断された血管端面をレジンで接着することによって、無出血で切除手術することも可能となる。
【0092】
また上述の実施の形態では、切除対象として皮膚が適用された。しかしながら切除対象はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、歯あるいは内蔵等、皮膚以外の組織が切除対象とされてもよい。
【0093】
なお、例えば内視鏡手術の場合、導波路として光ファイバーが要することになるが、上述したように、該光ファイバーを用いたとしても、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光を用いてアブレーション切除が可能となる。この点で、短パルスレーザ光源10から出射されるレーザ光と、該レーザ光よりもおおよそ高波長でなるレーザ光とを交互に切除部位に照射することは特に有用となる。また、手術では止血用としてArレーザが一般に用いられる。これに対し、上述のように、青紫波長のレーザ光を出射する短パルスレーザ光源10を用いた形態では、従来に比して大幅に小型化できる。これに加えて、この短パルスレーザ光源10では、緩和振動を発生させ又は特異ピークAPKの強度が調整可能であるため、止血速度をコントロールすることも可能となる。
【0094】
別例として歯科臨床の場合、近年では、TiO2(二酸化チタン)を含む過酸化水素漂白剤が歯の漂白で用いられる。TiO2は可視域の短波長側の光に対して強い吸収性をもつため、上述のように、青紫波長のレーザ光を出射する短パルスレーザ光源10を用いた形態では、TiO2の光触媒作用によって、従来よりも漂白効率を向上させることができる。
【0095】
また上述の実施の形態では、駆動電圧パルスDJwのパルス幅を切り換えて特異スロープASPが抑制された。しかしながら抑制手段はこの実施の形態のように電気的抑制に代えて、光学的抑制により実現するようにしてもよい。
【0096】
具体的には、半導体レーザ22と、対物レンズ12Aとの間におけるレーザ光の光路上に、使用すべき半導体レーザ22から出射されるレーザ光の波長を中心とする所定波長域の波長をカットするBPFを設ける。例えば図8で上述したように、特異スロープASPは半導体レーザ22から出射されるレーザ光と同等の波長となる一方、特異ピークAPKはレーザ光の波長よりも短波長となる。したがって、当該BPFを設けることで、特異スロープASPを選択的に抑制することができる。
【0097】
また上述の実施の形態では、短パルスレーザ光源がパルス幅による特異スロープと立上スロープによるモードとの双方が制御された。しかしながら他の実施の形態として、いずれか一方の制御を実行する形態が適用されてもよい。
【0098】
また上述の実施の形態では、パルス幅による特異スロープの制御と同時に駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが調整された。しかしながら他の実施の形態として、制御と調整のいずれか一方を実行する形態が適用されてもよい。
【0099】
また上述の実施の形態では、設定パルスSLsの高さHsの設定により駆動電圧パルスDJwの最大電圧値Vmaxが調整された。しかしながらこの調整手法はこの実施の形態に限るものではない。例えば、LDドライバ21Bにおける増幅率を変化させることにより最大電圧値Vmaxを調整する調整手法が適用できる。
【0100】
また上述の実施の形態では、駆動電圧パルスDJwとして矩形状のパルス電流が供給された。しかしながら供給手法はこの実施の形態に限るものではない。例えば、短時間に亘って大きな振動電圧値αでなるパルス電流が供給されてもよく、また正弦波状でなる駆動電圧パルスDJwが供給されてもよい。
【0101】
また上述の実施の形態では、半導体レーザ22として一般的な半導体レーザ(ソニー株式会社製、SLD3233など)が用いられた。要は、p型とn型の半導体を用いてレーザ発振を行ういわゆる半導体レーザであれば良い。また敢えて緩和振動を大きく生じさせやすくした半導体レーザを用いることがさらに好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、生物実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】皮膚切除整形装置の構成を示す略線/ブロック図である。
【図2】短パルスレーザ光源の構成を示す略線/ブロック図である。
【図3】パルス信号とレーザ駆動電圧を示す略線図である。
【図4】駆動電流と出射光強度の説明に供する略線図である。
【図5】実際の発光波形を示す略線図である。
【図6】光測定装置の構成を示す略線図である。
【図7】実験結果(1)を示すグラフである。
【図8】実験結果(2)を示すグラフである。
【図9】特異出力光の波形を示す略線図である。
【図10】パルス幅による特異出力光の制御の説明に供する略線図である。
【符号の説明】
【0104】
1……皮膚切除整形装置、2……レーザメス、3……コンピュータ、4……レジン噴射部、5……カラーインク噴射部、10……短パルスレーザ光源、11……EOM、12……位相制御部、13……PBS、14……ダイクロイックミラー、15……対物レンズ、16,18……ミラー、17……SHG素子、21A……パルス生成部、21B……LDドライバ、22……半導体レーザ、τd……発光開始時間、DJ……レーザ駆動電圧、DJw……駆動電圧パルス、LL……レーザ光、SL……パルス信号、SLw……生成信号パルス、LMp……振動出力光、LAp……特異出力光、APK……特異ピーク、ASP……特異スロープ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザと、
緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を上記半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を上記半導体レーザから出力させるレーザ制御部と、
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する光学レンズと
を有するレーザメス。
【請求項2】
上記レーザ制御部は、
上記パルス状の駆動電圧に対する電圧値を切り換えて上記特異ピークの強度を調整する、請求項1に記載のレーザメス。
【請求項3】
上記特異ピークに続いて該特異ピークの強度よりも小さく現れる特異スロープを抑制する抑制手段
をさらに有する請求項1に記載のレーザメス。
【請求項4】
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光の光路を、所定間隔ごとに第1の導波路又は第2の導波路に切り換える光路切換手段と、
上記第1の導波路に導かれるレーザ光の波長をその波長よりも高い波長に変換する変換手段と
をさらに有し、
上記光学レンズは、上記第1の導波路又は上記第2の導波路に導かれるレーザ光を、除去対象のサンプルに集光する、請求項2又は請求項3に記載のレーザメス。
【請求項5】
緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を上記半導体レーザから出力させるレーザ制御ステップと、
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する集光ステップと
を有するレーザを用いた除去方法。
【請求項1】
半導体レーザと、
緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を上記半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を上記半導体レーザから出力させるレーザ制御部と、
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する光学レンズと
を有するレーザメス。
【請求項2】
上記レーザ制御部は、
上記パルス状の駆動電圧に対する電圧値を切り換えて上記特異ピークの強度を調整する、請求項1に記載のレーザメス。
【請求項3】
上記特異ピークに続いて該特異ピークの強度よりも小さく現れる特異スロープを抑制する抑制手段
をさらに有する請求項1に記載のレーザメス。
【請求項4】
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光の光路を、所定間隔ごとに第1の導波路又は第2の導波路に切り換える光路切換手段と、
上記第1の導波路に導かれるレーザ光の波長をその波長よりも高い波長に変換する変換手段と
をさらに有し、
上記光学レンズは、上記第1の導波路又は上記第2の導波路に導かれるレーザ光を、除去対象のサンプルに集光する、請求項2又は請求項3に記載のレーザメス。
【請求項5】
緩和振動が生じる電圧値以上となるパルス状の駆動電圧を半導体レーザに印加し、パルス状の特異ピークをもつレーザ光を上記半導体レーザから出力させるレーザ制御ステップと、
上記パルス状の特異ピークをもつレーザ光を除去対象に集光する集光ステップと
を有するレーザを用いた除去方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−82216(P2010−82216A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255023(P2008−255023)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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