レーザ・アーク複合溶接方法、及び突き合わせ溶接用金属板の開先
【課題】金属板の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを防止する。
【解決手段】突き合わせる一方の開先の、1パスで溶接を行う領域に、突出部92a、92bと窪み部91とを、それぞれ当該開先の長手方向に沿って連続的に形成する。そして、突出部92a、92bと窪み部91とが形成されている開先については、突出部92a、92bの先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように金属板15を配置する。そして、窪み部91により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面95と、突出部92及び窪み部91が形成されている領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線96上の位置を、レーザ光16とワイヤ17の狙い位置としてレーザアークハイブリッド溶接を行う。
【解決手段】突き合わせる一方の開先の、1パスで溶接を行う領域に、突出部92a、92bと窪み部91とを、それぞれ当該開先の長手方向に沿って連続的に形成する。そして、突出部92a、92bと窪み部91とが形成されている開先については、突出部92a、92bの先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように金属板15を配置する。そして、窪み部91により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面95と、突出部92及び窪み部91が形成されている領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線96上の位置を、レーザ光16とワイヤ17の狙い位置としてレーザアークハイブリッド溶接を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ・アーク複合溶接方法、及び突き合わせ溶接用金属板の開先に関し、特に、金属板の開先同士を突き合せた状態で当該金属板を溶接するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅やセラミックスあるいはフラックスで形成された裏当てを用いずに、アーク溶接により、板厚が5[mm]〜16[mm]の金属板の開先同士を、片側から1パス1プールで裏波溶接することは困難である。また、裏当てを用いると、製品のコストの上昇を招いてしまう。
そこで、深溶込みの溶接が可能なレーザ光によるレーザ溶接と、アーク溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接を行うことにより、板厚が5[mm]〜16[mm]の金属板の開先同士を、片側から1パス1プールで裏波溶接することが考えられる。
【0003】
しかしながら、例えば、波長が1[μm]程度の大出力(4[kW]以上の出力)の固体レーザを用いて前述したハイブリッド溶接を行うと、金属板の溶接部の裏側(レーザ光を照射する側と反対側)では、適切な溶接ビードが形成されず、玉状に溶融金属が垂れ落ちる現象が生じる。この現象は、次のような理由によって生じると考えられる。すなわち、溶接に伴ってキーホールから噴出する高温の金属蒸気(プルーム)が時間的に一定しないことでプルーム内の屈折率が変化する。これにより、レーザ光がプルーム内で不規則に屈折されるため、レーザ光が高速でゆらぎながら加工点に到達する。そうすると、スパッタが増え、溶融池が不要に振動する。このような溶融池の振動によって、前述したような玉状に溶接金属の垂れ落ちが発生すると考えられる。
そこで、金属板の開先を隙間ができるように突き合わせた状態にして、前述したハイブリッド溶接を行うと、前述したようにして玉状に溶接金属が垂れ落ちることが改善される。このような技術として、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−223543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載の技術では、金属板の開先の間に隙間を設けるための工程が必要になる。しかも、その工程では、金属板の位置決めを高精度に行わなければならない。そこで、金属板の開先同士を突き当てた後、突き当てた金属板の一方を引き戻して、金属板の開先の間に一定の隙間を確保することも考えられる。しかしながら、このようにするための装置が大掛かりなものになってしまう。この他、溶接速度を低速にすることによっても玉状に溶接金属が垂れ落ちることを改善することもできる。しかしながら、このようにすると、溶接を短時間で行うことができず、溶接能率の低下を免れない。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、金属板の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ・アーク複合溶接方法は、開先同士が突き合わさるように、1プールで溶接する部分の板厚が5[mm]以上16[mm]以下の金属板を配置する配置工程と、前記金属板の溶接予定箇所に加工ガスを供給する加工ガス供給工程と、前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所と溶加材との間にアークを順次発生させて当該溶接予定箇所に対してアーク溶接を行うアーク発生工程と、前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所にレーザ光を照射して当該溶接予定箇所に対してレーザ溶接を行うレーザ照射工程と、を有し、前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されており、前記突出部の板厚方向の長さの合計値は、2[mm]以上であり、前記1プールで溶接が行われる領域の板厚方向の長さに対する、前記窪み部の板厚方向の長さの割合は、0.6[−]以上であり、前記配置工程は、前記窪み部と前記突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように前記金属板を配置し、前記配置工程により配置されたときに前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成される隙間の長さは、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下であり、前記レーザ照射工程は、前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成された隙間の中央の領域を含む面と、前記1プールで溶接が行われる領域の、前記レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を、前記レーザ光の狙い位置として、前記レーザ光を照射することを特徴とする。
本発明の突き合わせ溶接用金属板の開先は、前記レーザ・アーク複合溶接方法で溶接される金属板の開先であって、前記開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、突き合わさった開先の少なくとも何れか一方に、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されるようにし、窪み部と突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するようにする。そして、窪み部により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面と、突出部及び窪み部が形成されている領域の、レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を狙い位置としてレーザ光を照射する。したがって、金属板の開先同士を突き合わせるだけで、開先の間の隙間を容易に確保することができ、レーザ光が溶融する金属板の実効板厚を容易に小さくすることができる。よって、金属板の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第1の例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第1の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第2の例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第3の例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第2の例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第4の例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第3の例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第5の例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第1の例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第2の例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第3の例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第4の例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第5の例を示す図である。
【図14】本発明の実施形態を示し、1パス1プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例1〜12、比較例1〜8)の結果を示す図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、1パス2プールで溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例13、14、比較例9)の結果を示す図である。
【図16】本発明の実施形態を示し、1パス1プールで多パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例15〜18、比較例10、11)の結果を示す図である。
【図17】本発明の実施形態を示し、実施例1における開先の形状を示す図である。
【図18】本発明の実施形態を示し、比較例1、2における開先の形状を示す図である。
【図19】本発明の実施形態を示し、実施例2における開先の形状を示す図である。
【図20】本発明の実施形態を示し、実施例3における開先の形状を示す図である。
【図21】本発明の実施形態を示し、実施例4における開先の形状を示す図である。
【図22】本発明の実施形態を示し、比較例4における開先の形状を示す図である。
【図23】本発明の実施形態を示し、比較例5における開先の形状を示す図である。
【図24】本発明の実施形態を示し、実施例5における開先の形状を示す図である。
【図25】本発明の実施形態を示し、実施例6における開先の形状を示す図である。
【図26】本発明の実施形態を示し、比較例6における開先の形状を示す図である。
【図27】本発明の実施形態を示し、比較例7における開先の形状を示す図である。
【図28】本発明の実施形態を示し、実施例7における開先の形状を示す図である。
【図29】本発明の実施形態を示し、実施例8における開先の形状を示す図である。
【図30】本発明の実施形態を示し、実施例9〜12、比較例8における開先の形状を示す図である。
【図31】本発明の実施形態を示し、実施例13、14、比較例9における開先の形状を示す図である。
【図32】本発明の実施形態を示し、実施例15における開先の形状を示す図である。
【図33】本発明の実施形態を示し、比較例10、11における開先の形状を示す図である。
【図34】本発明の実施形態を示し、実施例16における開先の形状を示す図である。
【図35】本発明の実施形態を示し、実施例17における開先の形状を示す図である。
【図36】本発明の実施形態を示し、実施例18における開先の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。尚、各図において、同一の符号を付したものは同一の構成を有するので、必要に応じて重複する詳細な説明を省略する。
[溶接装置の構成]
(溶接装置の第1の例)
図1は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第1の例を示す図である。本実施形態では、図1に示すように、金属板の開先同士を突き合わせて突合せ溶接を行う。このような溶接を行う場合としては、例えば、UO鋼管を造管する場合や、船舶等を製造する際の板継ぎ溶接を行う場合や、鋼管の突合せ溶接を行う場合がある。
【0010】
図1において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14と、を有する。
制御装置11は、レーザ・アーク複合溶接装置の全体の動作を制御するためのものであり、CPU、ROM、RAM、HDD、及び各種のインターフェースを備えている。制御装置11のHDDには、後述するようにして金属板15を溶接するための動作を規定したコンピュータプログラムが記憶されている。具体的に、このコンピュータプログラムは、ワイヤ供給装置13のガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に移動させながらワイヤ供給装置13によりフィラーワイヤ17及びシールドガスを供給する動作と、レーザ照射装置12のレーザ溶接トーチ119を溶接進行方向に移動させながらレーザ照射装置12によりレーザ光16及びシールドガス(加工ガス)を供給する動作と、電源14によりフィラーワイヤ17と金属板15との間に、アークを発生させるための電力を供給する動作とのそれぞれの動作タイミングと動作内容とが規定されている。本実施形態では、CPUが、このコンピュータプログラムを実行することにより、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14の動作が制御される。
図1に示すように、レーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにしている。
【0011】
レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19を有し、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に沿って所定の速度で移動させながら、金属板15の溶接予定箇所に対してレーザ光16を照射する。YAGレーザやファイバレーザのような固体レーザをレーザ照射装置12として用いることができる。ただし、必ずしも固体レーザを用いる必要はなく、CO2レーザ等を用いるようにしてもよい。また、レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19から、金属板15の溶接予定箇所に対して、レーザ光16と同軸方向にシールドガス(加工ガス)を吹き付ける。溶接速度の低下を抑制するためである。尚、レーザ溶接トーチ19の詳細については後述する(((トーチの例))の説明を参照)。また、シールドガス(加工ガス)としては、ArやHeのような不活性ガスや、CO2、Ar−20%CO2(MAGガス)、Ar−2%O2(MIGガス)などのガスシールアーク溶接用のシールドガスを用いる。レーザ溶接トーチ19からガスシールドアーク溶接用のシールドガスを供給する場合、ガスシールドアーク溶接トーチ20からのシールドガスの供給を省略することもできる。
【0012】
ワイヤ供給装置13は、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に沿って所定の速度で移動させながら、金属板15の溶接予定箇所に対して、溶加材としてフィラーワイヤ17を送給する。ワイヤ供給装置13は、ガスシールドアーク溶接トーチ20の先端よりも、予め決められた長さのフィラーワイヤ17が突出されるように、フィラーワイヤ17を所定の速度で送給する。また、ワイヤ供給装置13は、溶接進行方向において後行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。
【0013】
また、ワイヤ供給装置13は、溶接予定箇所にシールドガス(加工ガス)を吹き付ける。溶接予定箇所に窒素が入るのを防止し、アークの発生を容易にするためである。尚、実際には、フィラーワイヤ17の先端側と金属板15との間には、アークが発生するが、図面では、説明を分かり易くするため、アークの図示を省略している。
電源14は、フィラーワイヤ17と金属板15との間に、所定の直流又は交流電力を供給する。この電力は、フィラーワイヤ17と金属板15との間にアークを発生させるために必要な大きさを有する。
【0014】
((トーチの第1の例))
図2は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第1の例を示す図である。具体的に図2は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示すように、レーザ溶接トーチ19aの内部には集光レンズ21が配置され、レーザ照射装置12から発振されたレーザ光16は、金属板15の表面が概略焦点位置となるように、集光レンズ21により集光され、金属板15の表面に照射される。金属板15の表面とレーザ光16の焦点位置との違いは、レーザ光16の焦点距離の5[%]以内であることが望ましい。金属板15の表面とレーザ光16の焦点位置とが、レーザ光16の焦点距離の5[%]以上離れると、著しく溶接能力が減殺されるからである。
【0015】
また、レーザ溶接トーチ19aには、圧縮空気(エア)22が流入する。この圧縮空気(エア)22は、エアナイフと称されるものである。エアナイフ22は、溶接部から飛散するスパッタ粒子やヒュームが集光レンズ21等の集光光学系に付着するのを防止するためのものであり、集光レンズ21等の集光光学系の前を横切るように噴出される。
また、レーザ溶接トーチ19aの先端側には、レーザ光16と同軸のセンターシールドノズル23が設けられている。このセンターシールドノズル23は、供給されたシールドガス24を、レーザ光の光軸に沿って吹き付けるためのものである。このセンターシールドノズル23を設けることにより、プルームが高くなるのを抑制し、溶接速度を向上させることができる。
図2に示す第1の例では、以下の(1)〜(4)の条件の全てを満たすように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20を所定の速度で溶接進行方向に移動させるようにする。
(1)レーザ光16(の光軸)及びフィラーワイヤ17(の軸)が、溶接進行方向に対して可及的に左右にずれないように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
(2)ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17の軸)が所定の後退角αA(αA>0[°])を、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)が所定の前進角αL(ここではαL=0[°])を、それぞれ保つようにレーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
(3)フィラーワイヤ17の狙い位置とレーザ光16の狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つ。
(4)レーザ溶接トーチ19aの先端面と金属板15の表面との間の距離であるスタンドオフSFを一定に保つ。
ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ20(フィラーワイヤ17)の後退角αAを、例えば30[°]にすることができる。また、レーザ・アーク間距離DMを、例えば3[mm]にすることができる。また、スタンドオフSFを、例えば20[mm]にすることができる。
【0016】
以上のようにしてレーザ・アーク複合溶接装置を構成し、ハイブリッド溶接を行うことにより、開先が突き合わさった金属板15の突合せ部分18に溶接ビード15aが形成される(図1を参照)。本実施形態では、溶接に際し、ビームホール(又はキーホール)を有する溶融池が金属板15に形成されて裏波溶接(レーザ溶接)ができるように、所定のパワー密度[W/mm2]を有するレーザ光16を、所定の速度で溶接進行方向に移動させる。また、本実施形態では、突き合わさった金属板15の開先の間に生じる隙間をフィラーワイヤ17で埋めきれるように、所定の大きさの電流を、フィラーワイヤ17と金属板15との間に流しながら、フィラーワイヤ17を、所定の速度で溶接進行方向に移動させる。尚、突き合わさった金属板15の開先の間に生じる隙間の詳細については後述する([開先の構成]の説明を参照)。
((トーチの第2の例))
図3は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第2の例を示す図である。具体的に図3は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示した例では、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)がとる前進角αLを0[°]とした。しかしながら、この前進角αLは、図3に示す例のように0[°]でなくてもよい。この前進角αLは、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ光16との干渉が避けられる範囲で、出来るだけ小さい値が(0[°]に近いのが)好ましく、例えば、5[°]にすることができる。
【0017】
((トーチの第3の例))
図4は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第3の例を示す図である。具体的に図4は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示した例では、レーザ溶接トーチ19aの先端側に、センターシールドノズル23を設けるようにした。しかしながら、図4に示すように、必ずしもセンターシールドノズル23をレーザ溶接トーチ19bに設ける必要はない。ただし、このようにした場合には、センターシールドノズル23を設けたときに比べ、溶接速度を遅くする必要がある。尚、図4に示したレーザ溶接トーチ19bについても、図3に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ光16との干渉が避けられる範囲で、任意の前進角αLをとることができる。
【0018】
(溶接装置の第2の例)
図5は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第2の例を示す図である。図5において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13a、13bと、電源14と、を有する。
図1〜図4に示したレーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにした。これに対し、レーザ・アーク複合溶接装置の第2の例では、レーザ溶接トーチ19の後に、ガスシールドアーク溶接トーチ50を更に後行させるようにする。すなわち、ワイヤ供給装置13aは、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。また、レーザ照射装置12は、溶接進行方向において先行するガスシールドアーク溶接トーチ20と一定の間隔を保った状態で、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。さらに、ワイヤ供給装置13bは、溶接進行方向において先行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ50を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。ガスシールドアーク溶接トーチ20、50としては、同じものを使用することができる。
【0019】
((トーチの第4の例))
図6は、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50と、レーザ溶接トーチ19の第4の例を示す図である。具体的に図6は、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図6に示す例では、図2に示す例と同様に、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)が前進角αLとして0[°]を保つようにすると共に、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)が所定の後退角αA(αA>0[°])を保つようにする。また、フィラーワイヤ17aの狙い位置とレーザ光16の狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つようにする
さらに、図6に示す例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50の軸(フィラーワイヤ17bの軸)が所定の前進角αB(αB>0[°])を保ち、且つ、レーザ光16の狙い位置とフィラーワイヤ17bの狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DNを一定に保つようにして、レーザ溶接トーチ19aに対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させる。
【0020】
ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを、例えば15[°]にすることができる。また、レーザ・アーク間距離DNとして、レーザ光16によるレーザ溶接とフィラーワイヤ17aによるアーク溶接とに基づく(ハイブリッド溶接に基づく)溶融池と、フィラーワイヤ17bによるアーク溶接に基づく溶融池とが1つにならないようにすることができる距離を確保する。レーザ・アーク間距離DNを、例えば10[mm]にすることができる。このように図6に示す例では、2プールでの溶接を行う。また、レーザ光16(の光軸)及びフィラーワイヤ17a、17b(の軸)が、溶接進行方向に対して可及的に左右にずれないように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
尚、図6に示したレーザ溶接トーチ19aの後退角αLを、図3に示すように、0[°]以外の値にしてもよいし、また、レーザ溶接トーチ19aの代わりに、図4に示したレーザ溶接トーチ19bを用いてもよい。
【0021】
(溶接装置の第3の例)
図7は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第3の例を示す図である。図7において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14と、を有する。
図1〜図4に示したレーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにした。これに対し、レーザ・アーク複合溶接装置の第3の例では、レーザ溶接トーチ19を先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させるようにする。すなわち、レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。また、ワイヤ供給装置13のワイヤ送給装置は、溶接進行方向において先行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。
【0022】
((トーチの第5の例))
図8は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第5の例を示す図である。具体的に図8は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図8に示す例では、レーザ溶接トーチ19の軸(レーザ光16の光軸)が後退角αLとして0[°]を保つようにすると共に、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)が所定の前進角αA(αA>0[°])を保つようにする。また、溶接予定箇所における「フィラーワイヤ17aとレーザ光16」の間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つようにする。ただし、図8に示す例では、ろう付け進行方向において、レーザ溶接トーチ19が先行し、ガスシールドアーク溶接トーチ20が後行する。その他の条件は、図2に示した例と同じである。
【0023】
尚、図8に示したレーザ溶接トーチ19の前進角αBを、0[°]以外の値にしてもよいし、また、レーザ溶接トーチ19aの代わりに、図4に示したレーザ溶接トーチ19bを用いてもよい。さらに、ガスシールドアーク溶接トーチ20に対して図6に示したガスシールドアーク溶接トーチ50を更に後行させるようにしてもよい。このようにした場合には、レーザ・アーク間距離DNの代わりに、ガスシールドアーク溶接トーチ20によるフィラーワイヤ17aの狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるフィラーワイヤ17bの狙い位置との距離であるアーク・アーク間距離DSが規定される。
【0024】
[開先の構成]
以下に、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行う開先の構成例を示す。
(開先の第1の例)
図9は、金属板15の開先の形状の第1の例を示す図である。具体的に図9(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図9(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図9(c)は、溶接ビード断面の一例を模式的に示す図である。
【0025】
図9(a)に示す例では、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先の中央の部分(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。具体的に、突き合わさる一方の開先には、通常のI開先における突き合わせ面の中央の領域が窪み、且つ、その中央の領域の上側の領域と下側の領域とが突出するように、窪み部91と突出部92a、92bとが、それぞれ開先の長手方向(図9(b)のCの方向(板幅方向))に沿って連続的に形成されている。ここで、突出部92a、92bの先端面と、窪み部91の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。また、開先が突き合わさった金属板15の他方の開先には、このような突出部91と窪み部92とが形成されず、開先は板厚方向に沿って平坦な平面となっている(すなわち、通常のI開先と同じである)。
【0026】
突出部92a、92bの板厚方向の長さの合計値(=D1+D2)が、2[mm]以上となるようにする。この合計値(=D1+D2)を2[mm]未満にすると、窪み部91と突出部92a、92bとを形成するための加工が困難になると共に、突き合わせの相手となる金属板15と突き合わさったときに突出部92が大きく変形しまい(潰れてしまい)、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)を確保するのが困難になるからである。また、ハイブリッド溶接により1パス1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D5)に対する、窪み部91の板厚方向の長さD3の割合(=(D3/D5))を0.6[−]以上とする。この値が0.6未満であると、窪み部91を設けた効果を発揮することができないからである。
【0027】
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が0.5[mm]未満であると、玉状に溶融金属が垂れ落ち、適切な溶接ビードを形成することができなくなる虞があり、さらに、突き合わさった開先の間の隙間(窪み部91の深さ)D4が0.3[mm]未満になると、その傾向が一層顕著になるからである。一方、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が1.5[mm]を超えると、後述するレーザ光16の狙い位置96がずれたときに開先の側面を完全に溶融できなくなる虞があり、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が2.0[mm]を超えると、その傾向が一層顕著になるからである。
【0028】
また、ハイブリッド溶接により1パス1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D5)は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D5)が5[mm]未満であると、開先の加工のためのコストが上がってしまうことに加え、図9に示すような窪み部91や突出部92a、92bを形成しなくても、溶融金属が垂れ落ちず、適切な溶接ビードを形成できることが多いからである。一方、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D5)が16[mm]を超えると、溶接により形成される溶融金属の量が多くなることによりその自重で玉状に溶融金属が垂れ落ちる虞があるからである。
【0029】
図9に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部92a、92bの先端面と他方の開先の面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールで溶接を行うようにする。
このとき、図9(b)に示すように、窪み部91により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面95と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する(突出部92及び窪み部91が形成されている)領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線96上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。すなわち、レーザ光16の光軸が、この狙い位置に合うようにレーザ光16を照射する。以上のように図9に示す例では、溶接進行方向は交線96の方向であり、溶接予定箇所には交線96が含まれることになる。尚、このように狙い位置96を定めてレーザ光16を照射しても、金属板15の板面方向(図9(b)のBの方向)にレーザ光16の光軸がずれることがある。本実施形態では、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。レーザ光16の光軸がこれよりもずれると、窪み部91によってレーザ光16が溶融させる金属板15の実効板厚を小さくする効果が薄れてしまうからである。
【0030】
ここで、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。レーザ光16のビーム径が0.4[mm]未満になると、窪み部71により形成された隙間を有する開先面を溶融することができなくなる虞があり、さらに、レーザ光16のビーム径が0.2[mm]未満になると、この傾向が顕著になるからである。一方、レーザ光16のビーム径が1.0[mm]を超えると、金属板15を溶接するのに必要なパワー密度が確保できなくなる虞があるからである。ところで、レーザ・アーク複合溶接のように、アークにより十分な溶融金属が供給される場合、突き合わされた開先の間の隙間がビーム径に比較して大きくても、ビームホール周囲の溶融金属の流れにより、開先面を溶融させることが可能である。
また、図9に示す例では、フィラーワイヤ17(アーク)の狙い位置も、図9(b)に示す交線96上の位置としている。ただし、フィラーワイヤ17(アーク)の狙い位置は、必ずしもレーザ光16の狙い位置と同じにする必要はない。
以上のように、狙い位置を交線96として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パスで溶接を行うと、図9(c)に示すような溶接ビード77が形成される。
【0031】
(開先の第2の例)
図10は、金属板15の開先の形状の第2の例を示す図である。具体的に図10(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図10(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図10(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0032】
図10に示す開先は、金属板15の開先形状がX開先を基本とする形状であり、このX開先の中央の部分(通常のX開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図10に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部102、103と突出部104a、104b、105a、105bとを形成する。すなわち、通常のX開先における突き合わせ面の中央の領域が窪み、且つ、その上側の領域と下側の領域とが突出するように、窪み部102、103と突出部104a、104b、105a、105bとが、それぞれ開先の長手方向(図10(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部104a、104b、105a、105bの先端面と、窪み部102、103の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。尚、X開先における突き合わせ面の上下の領域は、通常のX開先と同様に、板厚方向に対し傾斜角θ[°]で傾斜している。この傾斜角θ[°]は、例えば40[°]である。
【0033】
突出部104a、104b(105a、105b)の板厚方向の長さの合計値(=D11+D12)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1パスで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD14に対する、窪み部102、103の板厚方向の長さD13の割合(=(D13/D14))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD18(窪み部102、103の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD14は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。尚、第2の例では、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さが16[mm]以下であれば、金属板15の板厚D15は、16[mm]を超えてもよい。
【0034】
図10に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部104a、104bの先端面と他方の開先の突出部105a、105bの先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行うようにする。
このとき、第2の例でも、第1の例と同様に、窪み部102、103により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面106と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する(突出部104、105及び窪み部102、103が形成されている)領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線107上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0035】
以上のように狙い位置を交線107として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールでハイブリッド溶接を行うと、図10(c)に示すような溶接ビード108aが形成される。その後、開先の上下の部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接すると溶接ビード108b、108cがそれぞれ形成される。以上のように、第2の例でも、第1の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部104、105と窪み部102、103を形成するようにする。
【0036】
(開先の第3の例)
図11は、金属板15の開先の形状の第3の例を示す図である。具体的に図11(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図11(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図11(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0037】
図11に示す開先は、金属板15の開先形状がY開先を基本とする形状であり、このY開先の中央の部分(通常のY開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図11に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部112、113と突出部114、115とを形成する。すなわち、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域が窪み、且つ、その下側の領域が突出するように、窪み部112、113と突出部114、115とが、それぞれ開先の長手方向(図11(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部114、115の先端面と、窪み部112、113の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。尚、Y開先における突き合わせ面の上の領域は、通常のY開先と同様に、板厚方向に対し傾斜角θ1[°]で傾斜している。この傾斜角θ1[°]の合計値θ(θ1+θ1)[°]は、例えば45[°]である。
【0038】
突出部114(115)の板厚方向の長さの合計値(=D21)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD24に対する、窪み部112、113の板厚方向の長さD23の割合(=(D23/D24))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD28(窪み部112、113の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD24は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。尚、第3の例では、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さが16[mm]以下であれば、金属板15の板厚D25は、16[mm]を超えてもよい。
【0039】
図11に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部114の先端面と他方の開先の突出部115の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行うようにする。
このとき、第3の例でも、第1の例と同様に、窪み部112、113により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面116と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部114、115及び窪み部112、113が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線117上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0040】
以上のように狙い位置を交線117として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1プールで溶接を行うと、図11(c)に示すような溶接ビード118aが形成される。その後、開先の上の部分を1パスで仕上げ溶接すると溶接ビード118bが形成される。以上のように、第3の例でも、第1、第2の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部114、115と窪み部112、113を形成するようにする。
【0041】
(開先の第4の例)
図12は、金属板15の開先の形状の第4の例を示す図である。具体的に図12(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図12(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図12(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0042】
図12に示す開先は、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図12に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部122、123と突出部124、125とを形成する。すなわち、通常のI開先における突き合わせ面の上側の領域が突出し、且つ、その下側の領域が窪むように、窪み部122、123と突出部124、125とが、それぞれ開先の長手方向(図12(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部124、125の先端面と、窪み部122、123の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。
【0043】
突出部124(125)の板厚方向の長さの合計値(=D31)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D35)に対する、窪み部122、123の板厚方向の長さD23の割合(=(D33/D35))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD38(窪み部122、123の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、金属板15の板厚D35は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。
【0044】
第4の例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部124の先端面と他方の開先の突出部125の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置によりハイブリッド溶接を行うようにする。
このとき、第4の例でも、第1の例と同様に、窪み部122、123により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面126と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部124、125及び窪み部122、123が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線127上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0045】
以上のように狙い位置を交線127として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールで溶接を行うと、図12(c)に示すような溶接ビード128が形成される。以上のように、第4の例でも、第1〜第3の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部124、125と窪み部122、123を形成するようにする。
【0046】
(開先の第5の例)
図13は、金属板15の開先の形状の第5の例を示す図である。具体的に図13(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図13(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図13(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0047】
図13に示す開先は、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図13に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部132、133と突出部134、135とを形成する。すなわち、通常のI開先における突き合わせ面の下側の領域が突出し、且つ、その上側の領域が窪むように、窪み部132、133と突出部134、135とが、それぞれ開先の長手方向(図13(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部134、135の先端面と、窪み部132、133の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。
【0048】
突出部134(135)の板厚方向の長さの合計値(=D41)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1パスで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D45)に対する、窪み部132、133の板厚方向の長さD43の割合(=(D43/D45))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD48(窪み部132、133の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、金属板15の板厚D45は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。
【0049】
第5の例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部134の先端面と他方の開先の突出部135の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置によりハイブリッド溶接を行うようにする。
このとき、第5の例でも、第1の例と同様に、窪み部132、123により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面136と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部134、135及び窪み部132、133が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線137上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0050】
以上のように狙い位置を交線137として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1プールで溶接を行うと、図13(c)に示すような溶接ビード138が形成される。以上のように、第5の例でも、第1〜第4の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部134、135と窪み部132、133を形成するようにする。
【0051】
尚、金属板15の開先の形状は、第1〜第5の例に示したものに限定されない。すなわち、突き合わさった開先の少なくとも何れか一方に、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部及び突出部がそれぞれ連続的に形成されるようにすると共に、当該窪み部及び突出部が形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接する(隙間が0となる)ようにしていれば、金属板の開先の形状は、第1〜第5の例に示したものに限定されない(後述する図28、図29、図31(b)、図34〜図36等を参照)。
【0052】
[実施例]
次に、本発明の実施例について説明する。
図14は、1パス1プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例1〜12、比較例1〜8)の結果を示す図であり、図15は、1パス2プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例13、14、比較例9)の結果を示す図であり、図16は、1パス1プールで多パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例15〜18、比較例10、11)の結果を示す図である。各実施例及び比較例では、以下の条件で試験を行った。これ以外の条件は、図14〜図16に示すと共に各例の説明で示す。
【0053】
・金属板;SM490(JIS G 3106)
・アーク溶接;MAG溶接
・MAG条件;
・シールドガス;Ar−20[体積%]CO2(流速;15[L/min])
・ワイヤ;YGW−11(φ1.2[mm])
・突き出し;15[mm]
・レーザ条件
・ファイバレーザ
・焦点位置;鋼板面表面
・同軸センターシールド;Ar(流速;50[L/min])
・レーザ光の照射角度;鋼板表面に対し垂直(前進角・後進角αL=0[°])
・スタンドオフ;20[mm]
【0054】
図14〜図16において、「ハイブリッド条件」とは、レーザ溶接トーチ19、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50の配置を示すものである。「AL」と表記されているものは、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させることを示す。「LA」と表記されているのは、図8に示したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させることを示す。「ALA」と表記されているのは、図6に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行、レーザ溶接トーチ19aを後行させ、更に、レーザ溶接トーチ19aに対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させることを示す。「LAA」と表記されているのは、図6の変形例として説明したように、レーザ溶接トーチ19aを先行、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させ、更にガスシールドアーク溶接トーチ20に対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させることを示す。また、「AL」、「LA」、「ALA」、「LAA」の後に記載されている数字は、レーザ・アーク間距離DMを示す。
【0055】
「ハイブリッド溶接対象部板厚」とは、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(例えば、図9のD5、図10のD14、図11のD24、図12のD35、図13のD45)である。
「空隙部」の「高さ」とは、窪み部の板厚方向の長さ(例えば、図9のD3、図10のD13、図11のD23、図12のD33、図13のD43)である。
「空隙部」の「幅」とは、突き合わさった開先の間の隙間の長さ(例えば、図9のD4、図10のD18、図11のD28、図12のD38、図13のD48)である。
「空隙高さ率」とは、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さに対する、窪み部の板厚方向の長さの割合(例えば、図9のD3/D5、図10のD13/D14、図11のD23/D24、図12のD33/D35、図13のD43/D45)である。
【0056】
「突き当て部合計高さ」とは、突出部の板厚方向の長さの合計値(例えば、図9のD1+D2、図10のD11+D12、図11のD21、図12のD31、図13のD43)である。
「アーク角度」とは、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)の方向と、鋼板の板面に垂直な方向とのなす角度(=前進角・後退角αA)である。
【0057】
(実施例1)
図17は、実施例1における開先の形状を示す図である。具体的に図17(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図17(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。尚、図17に示す(単位なしの)数字は、各部の寸法をミリメートルの単位で示したものである。また、図17(a)に示す下向きの矢印で示す箇所がレーザ光及びフィラーワイヤの狙い位置であり、この狙い位置は、図9に示した狙い位置96に対応する。尚、図17以降の各図においても、単位なしの数字は、各部の寸法をミリメートルの単位で示したものであり、下向きの矢印で示す箇所がレーザ光及びワイヤの狙い位置を示したものである。
本実施例では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、図9に示したような開先を有する金属板を1パスで溶接した。図14の実施例1の欄に示すように、本実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0058】
(比較例1、2、3)
図18は、比較例1、2における開先の形状を示す図である。具体的に図18(a)は、比較例1、2における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図18(b)は、比較例3における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例1、2では、I開先を当接させる(隙間0で突き合わせる)ようにしている。図14の比較例1、2の欄に示すように、金属板の双方の開先をI開先とし、当該開先同士を当接させると、アーク電流を低減しても、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを回避することはできなかった。
【0059】
比較例3では、隙間が1.0[mm]となることを狙ってI開先を突き合わせるようにしている。ただし、金属板の開先は完全に平坦ではないので、開先の長手方向において(紙面に対して垂直な方向において)隙間が1.0[mm]よりも狭い部分と広い部分とが存在する。図14の比較例3の溶接結果に示すように、隙間がきちっと形成されている部分では、良好な裏波溶接ができたが、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)狭い部分では、玉状に溶融金属が垂れ落ち、また、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)広い部分では、フィラーメタルの量が不足し、アンダーフィルが生じた。このように、2枚の金属板を、間隔が有するように突き合わせる場合には、2枚の金属板の相対的な位置関係を決めることができず、一定の隙間を形成して2枚の金属板を突き合わせるためには、溶接能率を低下させざるを得ない。
【0060】
(実施例2〜4)
図19〜図21は、それぞれ、実施例2〜4における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例2〜4は、実施例1に対し、開先の形状(空隙部の幅(図9のD4))を変えたものである。
【0061】
(比較例4、5)
図22、図23は、それぞれ比較例4、5における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例4、5も、実施例1に対し、開先の形状(空隙部の幅(図9のD4))を変えたものである。図14の比較例4の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を2[mm]にすると、隙間が広すぎて開先の一部を未溶接のまま残してしまった。また、図14の比較例5の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を0.2[mm]にすると、実質的に隙間を形成した効果による効果を出すことができず、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを回避することはできなかった。
図14の実施例1〜4、比較例4、5の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を0.3[mm]以上、2.5[mm]以下にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができることが分かる。
【0062】
(実施例5、6)
図24、図25は、それぞれ実施例5、6における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例5、6は、実施例1に対し、開先の形状(突き当て部合計高さ(図9のD1+D2))を変えたものである。
(比較例6、7)
図26、図27は、それぞれ比較例6、7における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例6、7も、実施例1に対し、開先の形状(突き当て部合計高さ(図9のD1+D2))を変えたものである。
【0063】
図14の比較例6の欄に示すように、空隙高さ率(図9のD3/D5)が0.5であると、溶接ビードの裏面では溶融池の保持が不十分となり、玉状に溶融金属が垂れ落ちた。また、図14の比較例7の欄に示すように、突き当て部合計高さが、1[mm]であると、金属板を突き合わせたときに、突出部が潰れてしまい安定した隙間を形成することができず、溶接品質が不安定になった。
図14の実施例1、5、6、比較例6、7の欄に示すように、突き当て部合計高さ(図9のD1+D2)を2[mm]以上とし、且つ、空隙高さ率(図9のD3/D5)を0.6[−]以上にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができることが分かる。
【0064】
(実施例7、8)
図28、図29は、それぞれ実施例7、8における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図(c)は、開先の一部を拡大して示す図である。
本実施例では、2枚の金属板に同じ開先加工を施して、2枚の金属板を突き合わせたときに、開先部分が実施例1と同様の形状を有するようにしている。ただし、図28(c)、図29(c)に示すように、窪み部の底面端部が湾曲するようにしている。尚、本実施例でも、実施例1と同様に、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、金属板を1パス1プールで溶接した。
図14の実施例7、8の欄に示すように、突き合わさるお互いの金属板のそれぞれに、窪み部と突出部とを形成しても、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0065】
図30は、実施例9〜12、比較例8における開先の形状を示す図である。図30では、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示している。
(実施例9、10)
実施例9では、図7に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図8に示したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させて、図12に示したような開先を有する金属板を1パス1プールで溶接した。また、実施例10では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、図13に示したような開先を有する金属板を1パスプールで溶接した。図14の実施例9、10の欄に示すように、突き合わさる突出部の数が1箇所であっても、当該突出部を当接させることによって一定の隙間を形成することができ、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0066】
(実施例11、12、比較例8)
実施例11、12、比較例8でも、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、図13に示したような開先を有する金属板を1パス1プールで溶接した。図14の実施例11、12、比較例8の欄に示すように、ハイブリッド溶接対象部板厚(図13のD45)を5[mm]以上、16[mm]以下にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0067】
(実施例13、14、比較例9)
図31は、実施例13、14、比較例9における開先の形状を示す図である。図31では、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示している。尚、図31において、°の単位が付いている数字は、角度を示したものである。
金属板の板厚が厚い(板厚が16[mm]を超える)場合、片側から下向きに1パス1プールで溶接を行うと、溶融部から玉状に溶融金属がその自重によって垂れ落ちる。そこで、実施例13、14では、片側から下向きに2プールで溶接を行うようにしている。
【0068】
実施例13では、図5に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図6に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接し、図11(c)に示したような溶接ビード118aを形成する。その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接し、図11(c)に示したような溶接ビード118bを形成する。ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが1つとなる1プール溶接とすると、溶融金属の量が多くなり、溶融金属が溶接部から垂れ落ちる虞がある。そこで、レーザ溶接トーチ19aから照射されるレーザ光の狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50から送給されるワイヤの狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DNを10[mm]にし、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが別々に形成されるようにしている。また、本実施例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50におけるアークを発生する際の電流値は200[A]である。さらに、本実施例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを15[°]にしている。
【0069】
実施例13では、図11に示したように、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域が窪み、下側の領域が突出するようにした。これに対し、実施例14では、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域と下側の領域とが突出し、中央の領域が窪むようにした。また、実施例14では、トーチの第5の例(図8)の変形例として説明したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接する。その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接する。
【0070】
また、実施例14でも、実施例13と同様に、ガスシールドアーク溶接トーチ20から送給されるワイヤの狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50から送給されるワイヤの狙い位置との距離であるアーク・アーク間距離DSを10[mm]にし、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが別々に形成されるようにしている。また、本実施例でも、ガスシールドアーク溶接トーチ50におけるアークを発生する際の電流値は200[A]である。さらに、本実施例でも、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを15[°]にしている。
【0071】
比較例9では、隙間が0.5[mm]となることを狙ってI開先を突き合わせるようにしている。比較例9では、実施例13と同様に、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接し、その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接する。
図15の実施例13、14の欄に示すように、1プールで溶接を行う領域に窪み部と突出部とを形成し、その領域に対してハイブリッド溶接を行うと共に、その領域の上の領域に対してアーク溶接を行うことにより、金属板の板厚が16[mm]を超えても開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。一方、図15の比較例9の欄に示すように、突き合わせる金属板に隙間を形成するだけでは、金属板の板厚が16[mm]を超えると、溶融金属の量が多くなるため、溶融金属の自重により、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちた。
【0072】
(実施例15)
図32は、実施例15における開先の形状を示す図である。具体的に図32(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図32(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
本実施例では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」(図10の窪み部102、103、突出部104、105が形成されている領域)を溶接し、図10(c)に示したような溶接ビード108aを形成する。その後、当該領域の上下の領域に対して、それぞれ1パスでサブマージアーク溶接を行い、図10(c)に示したような溶接ビード108aを形成する。図16の実施例15の欄に示すように、本実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0073】
(比較例10、11)
図33は、比較例10、11における開先の形状を示す図である。具体的に図33(a)は、比較例10における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図33(b)は、比較例11における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例10では、X開先の突き合わせ面を当接した状態にする。そして、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、X開先の突き合わせ面を1プールで溶接した。図16の比較例10の欄に示すように、X開先の突き合わせ面の部分の板厚方向の長さが8.0[mm]であるのにも関わらず、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ち、良好な溶接が困難であった。
【0074】
一方、比較例11では、間隔が1.0[mm]となることを狙って、X開先の突き合わせ面を突き合わせるようにしている。そして、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、X開先の突き合わせ面を1プールで溶接した。図16の比較例11の欄に示すように、隙間がきちっと形成されている部分では、良好な裏波溶接ができたが、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)狭い部分では、玉状に溶融金属が垂れ落ち、また、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)広い部分では、フィラーメタルの量が不足し、アンダーフィルが生じた。
【0075】
(実施例16〜18)
図34〜図36は、それぞれ、実施例16〜18における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例16、17では、突き合わせる金属板の一方のみに対して、通常のX開先の突き合わせ面に窪み部と突出部とを形成する。具体的に実施例16では、通常のX開先の突き合わせ面の上側の領域と下側の領域に突出部を形成し、中央の領域に窪み部を形成する。一方、実施例17では、通常のX開先の突き合わせ面の中央の領域に窪み部を形成し、その上側と下側の領域に窪み部を形成する。
実施例18では、図32に示した実施例15に対し、上側の突出部の上側端部と、下側の突出部の下側端部とが湾曲するようにしている。
図16の実施例16〜18の欄に示すように、各実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0076】
以上のように本実施形態では、突き合わせる少なくとも一方の開先の、1プールで溶接を行う領域に、突出部(例えば図9の突出部92a、92b)と窪み部(例えば図9の窪み部91)を、それぞれ当該開先の長手方向に沿って連続的に形成する。そして、突出部と窪み部とが形成されている開先については、突出部の先端面(例えば図9の突出部92a、92bの先端面)のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように金属板15を配置する。そして、窪み部(例えば図9の窪み部91)により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面(例えば図9の面95)と、突出部及び窪み部が形成されている領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線(例えば図9の交線96)上の位置を、レーザ光16とフィラーワイヤ17の狙い位置としてレーザアークハイブリッド溶接を行う。以上のようにすることによって、金属板15の開先同士を突き合わせるだけで、開先の間の隙間を容易に確保することができ、レーザ光16が溶融する金属板15の実効板厚を容易に小さくすることができる。したがって、金属板15の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止することができる。
尚、UO鋼管を造管する場合には、窪み部の上下に突出部を形成するのが望ましい。突出部が1箇所で当接するようにすると、突合せ位置がずれてしまう虞があるからである。
【0077】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
11 制御装置
12 レーザ照射装置
13 ワイヤ供給装置
14 電源
15 金属板
16 レーザ光
17 フィラーワイヤ
18 突合せ部分
19 レーザ溶接トーチ
20、50 ガスシールドアーク溶接トーチ
91、102、103、112、113、122、123、132、133 窪み部
92、93、104、105、114、115、124、125、134、135 突出部
95、106、116、126、136 開先の間の隙間の中央の領域を含む面
96、107、117、127、137 交線(レーザ光の狙い位置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ・アーク複合溶接方法、及び突き合わせ溶接用金属板の開先に関し、特に、金属板の開先同士を突き合せた状態で当該金属板を溶接するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅やセラミックスあるいはフラックスで形成された裏当てを用いずに、アーク溶接により、板厚が5[mm]〜16[mm]の金属板の開先同士を、片側から1パス1プールで裏波溶接することは困難である。また、裏当てを用いると、製品のコストの上昇を招いてしまう。
そこで、深溶込みの溶接が可能なレーザ光によるレーザ溶接と、アーク溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接を行うことにより、板厚が5[mm]〜16[mm]の金属板の開先同士を、片側から1パス1プールで裏波溶接することが考えられる。
【0003】
しかしながら、例えば、波長が1[μm]程度の大出力(4[kW]以上の出力)の固体レーザを用いて前述したハイブリッド溶接を行うと、金属板の溶接部の裏側(レーザ光を照射する側と反対側)では、適切な溶接ビードが形成されず、玉状に溶融金属が垂れ落ちる現象が生じる。この現象は、次のような理由によって生じると考えられる。すなわち、溶接に伴ってキーホールから噴出する高温の金属蒸気(プルーム)が時間的に一定しないことでプルーム内の屈折率が変化する。これにより、レーザ光がプルーム内で不規則に屈折されるため、レーザ光が高速でゆらぎながら加工点に到達する。そうすると、スパッタが増え、溶融池が不要に振動する。このような溶融池の振動によって、前述したような玉状に溶接金属の垂れ落ちが発生すると考えられる。
そこで、金属板の開先を隙間ができるように突き合わせた状態にして、前述したハイブリッド溶接を行うと、前述したようにして玉状に溶接金属が垂れ落ちることが改善される。このような技術として、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−223543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載の技術では、金属板の開先の間に隙間を設けるための工程が必要になる。しかも、その工程では、金属板の位置決めを高精度に行わなければならない。そこで、金属板の開先同士を突き当てた後、突き当てた金属板の一方を引き戻して、金属板の開先の間に一定の隙間を確保することも考えられる。しかしながら、このようにするための装置が大掛かりなものになってしまう。この他、溶接速度を低速にすることによっても玉状に溶接金属が垂れ落ちることを改善することもできる。しかしながら、このようにすると、溶接を短時間で行うことができず、溶接能率の低下を免れない。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、金属板の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ・アーク複合溶接方法は、開先同士が突き合わさるように、1プールで溶接する部分の板厚が5[mm]以上16[mm]以下の金属板を配置する配置工程と、前記金属板の溶接予定箇所に加工ガスを供給する加工ガス供給工程と、前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所と溶加材との間にアークを順次発生させて当該溶接予定箇所に対してアーク溶接を行うアーク発生工程と、前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所にレーザ光を照射して当該溶接予定箇所に対してレーザ溶接を行うレーザ照射工程と、を有し、前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されており、前記突出部の板厚方向の長さの合計値は、2[mm]以上であり、前記1プールで溶接が行われる領域の板厚方向の長さに対する、前記窪み部の板厚方向の長さの割合は、0.6[−]以上であり、前記配置工程は、前記窪み部と前記突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように前記金属板を配置し、前記配置工程により配置されたときに前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成される隙間の長さは、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下であり、前記レーザ照射工程は、前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成された隙間の中央の領域を含む面と、前記1プールで溶接が行われる領域の、前記レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を、前記レーザ光の狙い位置として、前記レーザ光を照射することを特徴とする。
本発明の突き合わせ溶接用金属板の開先は、前記レーザ・アーク複合溶接方法で溶接される金属板の開先であって、前記開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、突き合わさった開先の少なくとも何れか一方に、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されるようにし、窪み部と突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するようにする。そして、窪み部により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面と、突出部及び窪み部が形成されている領域の、レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を狙い位置としてレーザ光を照射する。したがって、金属板の開先同士を突き合わせるだけで、開先の間の隙間を容易に確保することができ、レーザ光が溶融する金属板の実効板厚を容易に小さくすることができる。よって、金属板の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第1の例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第1の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第2の例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第3の例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第2の例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第4の例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第3の例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、ガスシールドアーク溶接トーチと、レーザ溶接トーチの第5の例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第1の例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第2の例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第3の例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第4の例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態を示し、金属板の開先の形状の第5の例を示す図である。
【図14】本発明の実施形態を示し、1パス1プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例1〜12、比較例1〜8)の結果を示す図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、1パス2プールで溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例13、14、比較例9)の結果を示す図である。
【図16】本発明の実施形態を示し、1パス1プールで多パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例15〜18、比較例10、11)の結果を示す図である。
【図17】本発明の実施形態を示し、実施例1における開先の形状を示す図である。
【図18】本発明の実施形態を示し、比較例1、2における開先の形状を示す図である。
【図19】本発明の実施形態を示し、実施例2における開先の形状を示す図である。
【図20】本発明の実施形態を示し、実施例3における開先の形状を示す図である。
【図21】本発明の実施形態を示し、実施例4における開先の形状を示す図である。
【図22】本発明の実施形態を示し、比較例4における開先の形状を示す図である。
【図23】本発明の実施形態を示し、比較例5における開先の形状を示す図である。
【図24】本発明の実施形態を示し、実施例5における開先の形状を示す図である。
【図25】本発明の実施形態を示し、実施例6における開先の形状を示す図である。
【図26】本発明の実施形態を示し、比較例6における開先の形状を示す図である。
【図27】本発明の実施形態を示し、比較例7における開先の形状を示す図である。
【図28】本発明の実施形態を示し、実施例7における開先の形状を示す図である。
【図29】本発明の実施形態を示し、実施例8における開先の形状を示す図である。
【図30】本発明の実施形態を示し、実施例9〜12、比較例8における開先の形状を示す図である。
【図31】本発明の実施形態を示し、実施例13、14、比較例9における開先の形状を示す図である。
【図32】本発明の実施形態を示し、実施例15における開先の形状を示す図である。
【図33】本発明の実施形態を示し、比較例10、11における開先の形状を示す図である。
【図34】本発明の実施形態を示し、実施例16における開先の形状を示す図である。
【図35】本発明の実施形態を示し、実施例17における開先の形状を示す図である。
【図36】本発明の実施形態を示し、実施例18における開先の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。尚、各図において、同一の符号を付したものは同一の構成を有するので、必要に応じて重複する詳細な説明を省略する。
[溶接装置の構成]
(溶接装置の第1の例)
図1は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第1の例を示す図である。本実施形態では、図1に示すように、金属板の開先同士を突き合わせて突合せ溶接を行う。このような溶接を行う場合としては、例えば、UO鋼管を造管する場合や、船舶等を製造する際の板継ぎ溶接を行う場合や、鋼管の突合せ溶接を行う場合がある。
【0010】
図1において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14と、を有する。
制御装置11は、レーザ・アーク複合溶接装置の全体の動作を制御するためのものであり、CPU、ROM、RAM、HDD、及び各種のインターフェースを備えている。制御装置11のHDDには、後述するようにして金属板15を溶接するための動作を規定したコンピュータプログラムが記憶されている。具体的に、このコンピュータプログラムは、ワイヤ供給装置13のガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に移動させながらワイヤ供給装置13によりフィラーワイヤ17及びシールドガスを供給する動作と、レーザ照射装置12のレーザ溶接トーチ119を溶接進行方向に移動させながらレーザ照射装置12によりレーザ光16及びシールドガス(加工ガス)を供給する動作と、電源14によりフィラーワイヤ17と金属板15との間に、アークを発生させるための電力を供給する動作とのそれぞれの動作タイミングと動作内容とが規定されている。本実施形態では、CPUが、このコンピュータプログラムを実行することにより、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14の動作が制御される。
図1に示すように、レーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにしている。
【0011】
レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19を有し、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に沿って所定の速度で移動させながら、金属板15の溶接予定箇所に対してレーザ光16を照射する。YAGレーザやファイバレーザのような固体レーザをレーザ照射装置12として用いることができる。ただし、必ずしも固体レーザを用いる必要はなく、CO2レーザ等を用いるようにしてもよい。また、レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19から、金属板15の溶接予定箇所に対して、レーザ光16と同軸方向にシールドガス(加工ガス)を吹き付ける。溶接速度の低下を抑制するためである。尚、レーザ溶接トーチ19の詳細については後述する(((トーチの例))の説明を参照)。また、シールドガス(加工ガス)としては、ArやHeのような不活性ガスや、CO2、Ar−20%CO2(MAGガス)、Ar−2%O2(MIGガス)などのガスシールアーク溶接用のシールドガスを用いる。レーザ溶接トーチ19からガスシールドアーク溶接用のシールドガスを供給する場合、ガスシールドアーク溶接トーチ20からのシールドガスの供給を省略することもできる。
【0012】
ワイヤ供給装置13は、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に沿って所定の速度で移動させながら、金属板15の溶接予定箇所に対して、溶加材としてフィラーワイヤ17を送給する。ワイヤ供給装置13は、ガスシールドアーク溶接トーチ20の先端よりも、予め決められた長さのフィラーワイヤ17が突出されるように、フィラーワイヤ17を所定の速度で送給する。また、ワイヤ供給装置13は、溶接進行方向において後行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。
【0013】
また、ワイヤ供給装置13は、溶接予定箇所にシールドガス(加工ガス)を吹き付ける。溶接予定箇所に窒素が入るのを防止し、アークの発生を容易にするためである。尚、実際には、フィラーワイヤ17の先端側と金属板15との間には、アークが発生するが、図面では、説明を分かり易くするため、アークの図示を省略している。
電源14は、フィラーワイヤ17と金属板15との間に、所定の直流又は交流電力を供給する。この電力は、フィラーワイヤ17と金属板15との間にアークを発生させるために必要な大きさを有する。
【0014】
((トーチの第1の例))
図2は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第1の例を示す図である。具体的に図2は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示すように、レーザ溶接トーチ19aの内部には集光レンズ21が配置され、レーザ照射装置12から発振されたレーザ光16は、金属板15の表面が概略焦点位置となるように、集光レンズ21により集光され、金属板15の表面に照射される。金属板15の表面とレーザ光16の焦点位置との違いは、レーザ光16の焦点距離の5[%]以内であることが望ましい。金属板15の表面とレーザ光16の焦点位置とが、レーザ光16の焦点距離の5[%]以上離れると、著しく溶接能力が減殺されるからである。
【0015】
また、レーザ溶接トーチ19aには、圧縮空気(エア)22が流入する。この圧縮空気(エア)22は、エアナイフと称されるものである。エアナイフ22は、溶接部から飛散するスパッタ粒子やヒュームが集光レンズ21等の集光光学系に付着するのを防止するためのものであり、集光レンズ21等の集光光学系の前を横切るように噴出される。
また、レーザ溶接トーチ19aの先端側には、レーザ光16と同軸のセンターシールドノズル23が設けられている。このセンターシールドノズル23は、供給されたシールドガス24を、レーザ光の光軸に沿って吹き付けるためのものである。このセンターシールドノズル23を設けることにより、プルームが高くなるのを抑制し、溶接速度を向上させることができる。
図2に示す第1の例では、以下の(1)〜(4)の条件の全てを満たすように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20を所定の速度で溶接進行方向に移動させるようにする。
(1)レーザ光16(の光軸)及びフィラーワイヤ17(の軸)が、溶接進行方向に対して可及的に左右にずれないように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
(2)ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17の軸)が所定の後退角αA(αA>0[°])を、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)が所定の前進角αL(ここではαL=0[°])を、それぞれ保つようにレーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
(3)フィラーワイヤ17の狙い位置とレーザ光16の狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つ。
(4)レーザ溶接トーチ19aの先端面と金属板15の表面との間の距離であるスタンドオフSFを一定に保つ。
ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ20(フィラーワイヤ17)の後退角αAを、例えば30[°]にすることができる。また、レーザ・アーク間距離DMを、例えば3[mm]にすることができる。また、スタンドオフSFを、例えば20[mm]にすることができる。
【0016】
以上のようにしてレーザ・アーク複合溶接装置を構成し、ハイブリッド溶接を行うことにより、開先が突き合わさった金属板15の突合せ部分18に溶接ビード15aが形成される(図1を参照)。本実施形態では、溶接に際し、ビームホール(又はキーホール)を有する溶融池が金属板15に形成されて裏波溶接(レーザ溶接)ができるように、所定のパワー密度[W/mm2]を有するレーザ光16を、所定の速度で溶接進行方向に移動させる。また、本実施形態では、突き合わさった金属板15の開先の間に生じる隙間をフィラーワイヤ17で埋めきれるように、所定の大きさの電流を、フィラーワイヤ17と金属板15との間に流しながら、フィラーワイヤ17を、所定の速度で溶接進行方向に移動させる。尚、突き合わさった金属板15の開先の間に生じる隙間の詳細については後述する([開先の構成]の説明を参照)。
((トーチの第2の例))
図3は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第2の例を示す図である。具体的に図3は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示した例では、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)がとる前進角αLを0[°]とした。しかしながら、この前進角αLは、図3に示す例のように0[°]でなくてもよい。この前進角αLは、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ光16との干渉が避けられる範囲で、出来るだけ小さい値が(0[°]に近いのが)好ましく、例えば、5[°]にすることができる。
【0017】
((トーチの第3の例))
図4は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第3の例を示す図である。具体的に図4は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図2に示した例では、レーザ溶接トーチ19aの先端側に、センターシールドノズル23を設けるようにした。しかしながら、図4に示すように、必ずしもセンターシールドノズル23をレーザ溶接トーチ19bに設ける必要はない。ただし、このようにした場合には、センターシールドノズル23を設けたときに比べ、溶接速度を遅くする必要がある。尚、図4に示したレーザ溶接トーチ19bについても、図3に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ光16との干渉が避けられる範囲で、任意の前進角αLをとることができる。
【0018】
(溶接装置の第2の例)
図5は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第2の例を示す図である。図5において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13a、13bと、電源14と、を有する。
図1〜図4に示したレーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにした。これに対し、レーザ・アーク複合溶接装置の第2の例では、レーザ溶接トーチ19の後に、ガスシールドアーク溶接トーチ50を更に後行させるようにする。すなわち、ワイヤ供給装置13aは、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。また、レーザ照射装置12は、溶接進行方向において先行するガスシールドアーク溶接トーチ20と一定の間隔を保った状態で、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。さらに、ワイヤ供給装置13bは、溶接進行方向において先行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ50を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。ガスシールドアーク溶接トーチ20、50としては、同じものを使用することができる。
【0019】
((トーチの第4の例))
図6は、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50と、レーザ溶接トーチ19の第4の例を示す図である。具体的に図6は、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図6に示す例では、図2に示す例と同様に、レーザ溶接トーチ19aの軸(レーザ光16の光軸)が前進角αLとして0[°]を保つようにすると共に、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)が所定の後退角αA(αA>0[°])を保つようにする。また、フィラーワイヤ17aの狙い位置とレーザ光16の狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つようにする
さらに、図6に示す例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50の軸(フィラーワイヤ17bの軸)が所定の前進角αB(αB>0[°])を保ち、且つ、レーザ光16の狙い位置とフィラーワイヤ17bの狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DNを一定に保つようにして、レーザ溶接トーチ19aに対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させる。
【0020】
ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを、例えば15[°]にすることができる。また、レーザ・アーク間距離DNとして、レーザ光16によるレーザ溶接とフィラーワイヤ17aによるアーク溶接とに基づく(ハイブリッド溶接に基づく)溶融池と、フィラーワイヤ17bによるアーク溶接に基づく溶融池とが1つにならないようにすることができる距離を確保する。レーザ・アーク間距離DNを、例えば10[mm]にすることができる。このように図6に示す例では、2プールでの溶接を行う。また、レーザ光16(の光軸)及びフィラーワイヤ17a、17b(の軸)が、溶接進行方向に対して可及的に左右にずれないように、レーザ溶接トーチ19aと、ガスシールドアーク溶接トーチ20の姿勢を保つ。
尚、図6に示したレーザ溶接トーチ19aの後退角αLを、図3に示すように、0[°]以外の値にしてもよいし、また、レーザ溶接トーチ19aの代わりに、図4に示したレーザ溶接トーチ19bを用いてもよい。
【0021】
(溶接装置の第3の例)
図7は、レーザ・アーク複合溶接装置の構成の第3の例を示す図である。図7において、レーザ・アーク複合溶接装置は、制御装置11と、レーザ照射装置12と、ワイヤ供給装置13と、電源14と、を有する。
図1〜図4に示したレーザ・アーク複合溶接装置の第1の例では、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させるようにした。これに対し、レーザ・アーク複合溶接装置の第3の例では、レーザ溶接トーチ19を先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させるようにする。すなわち、レーザ照射装置12は、レーザ溶接トーチ19を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。また、ワイヤ供給装置13のワイヤ送給装置は、溶接進行方向において先行するレーザ溶接トーチ19と一定の間隔を保った状態で、ガスシールドアーク溶接トーチ20を溶接進行方向に所定の速度で移動させる。
【0022】
((トーチの第5の例))
図8は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19の第5の例を示す図である。具体的に図8は、ガスシールドアーク溶接トーチ20と、レーザ溶接トーチ19とを、その横方向から見た図である。
図8に示す例では、レーザ溶接トーチ19の軸(レーザ光16の光軸)が後退角αLとして0[°]を保つようにすると共に、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)が所定の前進角αA(αA>0[°])を保つようにする。また、溶接予定箇所における「フィラーワイヤ17aとレーザ光16」の間の距離であるレーザ・アーク間距離DMを一定に保つようにする。ただし、図8に示す例では、ろう付け進行方向において、レーザ溶接トーチ19が先行し、ガスシールドアーク溶接トーチ20が後行する。その他の条件は、図2に示した例と同じである。
【0023】
尚、図8に示したレーザ溶接トーチ19の前進角αBを、0[°]以外の値にしてもよいし、また、レーザ溶接トーチ19aの代わりに、図4に示したレーザ溶接トーチ19bを用いてもよい。さらに、ガスシールドアーク溶接トーチ20に対して図6に示したガスシールドアーク溶接トーチ50を更に後行させるようにしてもよい。このようにした場合には、レーザ・アーク間距離DNの代わりに、ガスシールドアーク溶接トーチ20によるフィラーワイヤ17aの狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるフィラーワイヤ17bの狙い位置との距離であるアーク・アーク間距離DSが規定される。
【0024】
[開先の構成]
以下に、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行う開先の構成例を示す。
(開先の第1の例)
図9は、金属板15の開先の形状の第1の例を示す図である。具体的に図9(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図9(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図9(c)は、溶接ビード断面の一例を模式的に示す図である。
【0025】
図9(a)に示す例では、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先の中央の部分(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。具体的に、突き合わさる一方の開先には、通常のI開先における突き合わせ面の中央の領域が窪み、且つ、その中央の領域の上側の領域と下側の領域とが突出するように、窪み部91と突出部92a、92bとが、それぞれ開先の長手方向(図9(b)のCの方向(板幅方向))に沿って連続的に形成されている。ここで、突出部92a、92bの先端面と、窪み部91の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。また、開先が突き合わさった金属板15の他方の開先には、このような突出部91と窪み部92とが形成されず、開先は板厚方向に沿って平坦な平面となっている(すなわち、通常のI開先と同じである)。
【0026】
突出部92a、92bの板厚方向の長さの合計値(=D1+D2)が、2[mm]以上となるようにする。この合計値(=D1+D2)を2[mm]未満にすると、窪み部91と突出部92a、92bとを形成するための加工が困難になると共に、突き合わせの相手となる金属板15と突き合わさったときに突出部92が大きく変形しまい(潰れてしまい)、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)を確保するのが困難になるからである。また、ハイブリッド溶接により1パス1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D5)に対する、窪み部91の板厚方向の長さD3の割合(=(D3/D5))を0.6[−]以上とする。この値が0.6未満であると、窪み部91を設けた効果を発揮することができないからである。
【0027】
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が0.5[mm]未満であると、玉状に溶融金属が垂れ落ち、適切な溶接ビードを形成することができなくなる虞があり、さらに、突き合わさった開先の間の隙間(窪み部91の深さ)D4が0.3[mm]未満になると、その傾向が一層顕著になるからである。一方、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が1.5[mm]を超えると、後述するレーザ光16の狙い位置96がずれたときに開先の側面を完全に溶融できなくなる虞があり、突き合わさった開先の間の隙間の長さD4(窪み部91の深さ)が2.0[mm]を超えると、その傾向が一層顕著になるからである。
【0028】
また、ハイブリッド溶接により1パス1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D5)は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D5)が5[mm]未満であると、開先の加工のためのコストが上がってしまうことに加え、図9に示すような窪み部91や突出部92a、92bを形成しなくても、溶融金属が垂れ落ちず、適切な溶接ビードを形成できることが多いからである。一方、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D5)が16[mm]を超えると、溶接により形成される溶融金属の量が多くなることによりその自重で玉状に溶融金属が垂れ落ちる虞があるからである。
【0029】
図9に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部92a、92bの先端面と他方の開先の面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールで溶接を行うようにする。
このとき、図9(b)に示すように、窪み部91により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面95と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する(突出部92及び窪み部91が形成されている)領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線96上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。すなわち、レーザ光16の光軸が、この狙い位置に合うようにレーザ光16を照射する。以上のように図9に示す例では、溶接進行方向は交線96の方向であり、溶接予定箇所には交線96が含まれることになる。尚、このように狙い位置96を定めてレーザ光16を照射しても、金属板15の板面方向(図9(b)のBの方向)にレーザ光16の光軸がずれることがある。本実施形態では、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。レーザ光16の光軸がこれよりもずれると、窪み部91によってレーザ光16が溶融させる金属板15の実効板厚を小さくする効果が薄れてしまうからである。
【0030】
ここで、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。レーザ光16のビーム径が0.4[mm]未満になると、窪み部71により形成された隙間を有する開先面を溶融することができなくなる虞があり、さらに、レーザ光16のビーム径が0.2[mm]未満になると、この傾向が顕著になるからである。一方、レーザ光16のビーム径が1.0[mm]を超えると、金属板15を溶接するのに必要なパワー密度が確保できなくなる虞があるからである。ところで、レーザ・アーク複合溶接のように、アークにより十分な溶融金属が供給される場合、突き合わされた開先の間の隙間がビーム径に比較して大きくても、ビームホール周囲の溶融金属の流れにより、開先面を溶融させることが可能である。
また、図9に示す例では、フィラーワイヤ17(アーク)の狙い位置も、図9(b)に示す交線96上の位置としている。ただし、フィラーワイヤ17(アーク)の狙い位置は、必ずしもレーザ光16の狙い位置と同じにする必要はない。
以上のように、狙い位置を交線96として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パスで溶接を行うと、図9(c)に示すような溶接ビード77が形成される。
【0031】
(開先の第2の例)
図10は、金属板15の開先の形状の第2の例を示す図である。具体的に図10(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図10(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図10(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0032】
図10に示す開先は、金属板15の開先形状がX開先を基本とする形状であり、このX開先の中央の部分(通常のX開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図10に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部102、103と突出部104a、104b、105a、105bとを形成する。すなわち、通常のX開先における突き合わせ面の中央の領域が窪み、且つ、その上側の領域と下側の領域とが突出するように、窪み部102、103と突出部104a、104b、105a、105bとが、それぞれ開先の長手方向(図10(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部104a、104b、105a、105bの先端面と、窪み部102、103の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。尚、X開先における突き合わせ面の上下の領域は、通常のX開先と同様に、板厚方向に対し傾斜角θ[°]で傾斜している。この傾斜角θ[°]は、例えば40[°]である。
【0033】
突出部104a、104b(105a、105b)の板厚方向の長さの合計値(=D11+D12)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1パスで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD14に対する、窪み部102、103の板厚方向の長さD13の割合(=(D13/D14))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD18(窪み部102、103の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD14は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。尚、第2の例では、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さが16[mm]以下であれば、金属板15の板厚D15は、16[mm]を超えてもよい。
【0034】
図10に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部104a、104bの先端面と他方の開先の突出部105a、105bの先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行うようにする。
このとき、第2の例でも、第1の例と同様に、窪み部102、103により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面106と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する(突出部104、105及び窪み部102、103が形成されている)領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線107上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0035】
以上のように狙い位置を交線107として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールでハイブリッド溶接を行うと、図10(c)に示すような溶接ビード108aが形成される。その後、開先の上下の部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接すると溶接ビード108b、108cがそれぞれ形成される。以上のように、第2の例でも、第1の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部104、105と窪み部102、103を形成するようにする。
【0036】
(開先の第3の例)
図11は、金属板15の開先の形状の第3の例を示す図である。具体的に図11(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図11(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図11(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0037】
図11に示す開先は、金属板15の開先形状がY開先を基本とする形状であり、このY開先の中央の部分(通常のY開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図11に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部112、113と突出部114、115とを形成する。すなわち、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域が窪み、且つ、その下側の領域が突出するように、窪み部112、113と突出部114、115とが、それぞれ開先の長手方向(図11(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部114、115の先端面と、窪み部112、113の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。尚、Y開先における突き合わせ面の上の領域は、通常のY開先と同様に、板厚方向に対し傾斜角θ1[°]で傾斜している。この傾斜角θ1[°]の合計値θ(θ1+θ1)[°]は、例えば45[°]である。
【0038】
突出部114(115)の板厚方向の長さの合計値(=D21)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD24に対する、窪み部112、113の板厚方向の長さD23の割合(=(D23/D24))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD28(窪み部112、113の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分(金属板15の突き合わせ面)の板厚方向の長さD24は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。尚、第3の例では、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さが16[mm]以下であれば、金属板15の板厚D25は、16[mm]を超えてもよい。
【0039】
図11に示す例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部114の先端面と他方の開先の突出部115の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置により溶接を行うようにする。
このとき、第3の例でも、第1の例と同様に、窪み部112、113により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面116と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部114、115及び窪み部112、113が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線117上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0040】
以上のように狙い位置を交線117として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1プールで溶接を行うと、図11(c)に示すような溶接ビード118aが形成される。その後、開先の上の部分を1パスで仕上げ溶接すると溶接ビード118bが形成される。以上のように、第3の例でも、第1、第2の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部114、115と窪み部112、113を形成するようにする。
【0041】
(開先の第4の例)
図12は、金属板15の開先の形状の第4の例を示す図である。具体的に図12(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図12(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図12(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0042】
図12に示す開先は、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図12に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部122、123と突出部124、125とを形成する。すなわち、通常のI開先における突き合わせ面の上側の領域が突出し、且つ、その下側の領域が窪むように、窪み部122、123と突出部124、125とが、それぞれ開先の長手方向(図12(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部124、125の先端面と、窪み部122、123の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。
【0043】
突出部124(125)の板厚方向の長さの合計値(=D31)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(金属板15の板厚D35)に対する、窪み部122、123の板厚方向の長さD23の割合(=(D33/D35))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD38(窪み部122、123の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、金属板15の板厚D35は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。
【0044】
第4の例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部124の先端面と他方の開先の突出部125の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置によりハイブリッド溶接を行うようにする。
このとき、第4の例でも、第1の例と同様に、窪み部122、123により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面126と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部124、125及び窪み部122、123が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線127上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0045】
以上のように狙い位置を交線127として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1パス1プールで溶接を行うと、図12(c)に示すような溶接ビード128が形成される。以上のように、第4の例でも、第1〜第3の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部124、125と窪み部122、123を形成するようにする。
【0046】
(開先の第5の例)
図13は、金属板15の開先の形状の第5の例を示す図である。具体的に図13(a)は、金属板15の開先同士が突き合わさった領域を、図1、図5、図7に示すAの方向から見た図である。また、図13(b)は、突き合わさった金属板15の開先に対するレーザ光16の狙い位置の一例を示す図である。また、図13(c)は、溶接ビードの一例を模式的に示す図である。
【0047】
図13に示す開先は、金属板15の開先形状がI開先を基本とする形状であり、このI開先(通常のI開先における突き合わせ面)に、窪み部と突出部とを形成するようにしている。図13に示す例では、突き合わさる双方の開先に窪み部132、133と突出部134、135とを形成する。すなわち、通常のI開先における突き合わせ面の下側の領域が突出し、且つ、その上側の領域が窪むように、窪み部132、133と突出部134、135とが、それぞれ開先の長手方向(図13(b)のC方向)に沿って連続的に形成されるようにする。ここで、突出部134、135の先端面と、窪み部132、133の底面は、それぞれ板厚方向に沿って平坦な面である。
【0048】
突出部134(135)の板厚方向の長さの合計値(=D41)が、2[mm]以上となるようにする。また、ハイブリッド溶接により1パスで溶接する部分の板厚方向の長さ(ここでは金属板15の板厚D45)に対する、窪み部132、133の板厚方向の長さD43の割合(=(D43/D45))を0.6[−]以上とする。
また、突き合わさった開先の間の隙間の長さD48(窪み部132、133の深さの合計)が、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下、好ましくは、0.5[mm]以上、2.0[mm]以下となるようにする。
また、金属板15の板厚D45は、5[mm]以上、16[mm]以下とする。
以上のようにする理由は、前述した第1の例で説明した通りである。
【0049】
第5の例では、以上のような形状の金属板15の開先同士(一方の開先の突出部134の先端面と他方の開先の突出部135の先端面)が、隙間ができないように突き合わさった状態にした上で、レーザ・アーク複合溶接装置によりハイブリッド溶接を行うようにする。
このとき、第5の例でも、第1の例と同様に、窪み部132、123により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面136と、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する領域(突出部134、135及び窪み部132、133が形成されている領域)の、レーザ光16が照射される側の端部との交線137上の位置を、レーザ光16の狙い位置とする。また、第1の例と同様に、この狙い位置を中心として±1.0[mm]までのずれを許容するものとする。また、第1の例と同様に、レーザ光16のビーム径(集光径)は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下、好ましくは、0.4[mm]以上、1.0[mm]以下となるようにする。
【0050】
以上のように狙い位置を交線137として、前述したレーザ・アーク複合溶接装置により1プールで溶接を行うと、図13(c)に示すような溶接ビード138が形成される。以上のように、第5の例でも、第1〜第4の例と同様に、金属板15の開先のうち、1プールで溶接される領域に対し、前述した条件を満たす突出部134、135と窪み部132、133を形成するようにする。
【0051】
尚、金属板15の開先の形状は、第1〜第5の例に示したものに限定されない。すなわち、突き合わさった開先の少なくとも何れか一方に、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部及び突出部がそれぞれ連続的に形成されるようにすると共に、当該窪み部及び突出部が形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接する(隙間が0となる)ようにしていれば、金属板の開先の形状は、第1〜第5の例に示したものに限定されない(後述する図28、図29、図31(b)、図34〜図36等を参照)。
【0052】
[実施例]
次に、本発明の実施例について説明する。
図14は、1パス1プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例1〜12、比較例1〜8)の結果を示す図であり、図15は、1パス2プールで1パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例13、14、比較例9)の結果を示す図であり、図16は、1パス1プールで多パスの溶接を行った場合の実施例と比較例(実施例15〜18、比較例10、11)の結果を示す図である。各実施例及び比較例では、以下の条件で試験を行った。これ以外の条件は、図14〜図16に示すと共に各例の説明で示す。
【0053】
・金属板;SM490(JIS G 3106)
・アーク溶接;MAG溶接
・MAG条件;
・シールドガス;Ar−20[体積%]CO2(流速;15[L/min])
・ワイヤ;YGW−11(φ1.2[mm])
・突き出し;15[mm]
・レーザ条件
・ファイバレーザ
・焦点位置;鋼板面表面
・同軸センターシールド;Ar(流速;50[L/min])
・レーザ光の照射角度;鋼板表面に対し垂直(前進角・後進角αL=0[°])
・スタンドオフ;20[mm]
【0054】
図14〜図16において、「ハイブリッド条件」とは、レーザ溶接トーチ19、ガスシールドアーク溶接トーチ20、50の配置を示すものである。「AL」と表記されているものは、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させることを示す。「LA」と表記されているのは、図8に示したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させることを示す。「ALA」と表記されているのは、図6に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行、レーザ溶接トーチ19aを後行させ、更に、レーザ溶接トーチ19aに対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させることを示す。「LAA」と表記されているのは、図6の変形例として説明したように、レーザ溶接トーチ19aを先行、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させ、更にガスシールドアーク溶接トーチ20に対してガスシールドアーク溶接トーチ50を後行させることを示す。また、「AL」、「LA」、「ALA」、「LAA」の後に記載されている数字は、レーザ・アーク間距離DMを示す。
【0055】
「ハイブリッド溶接対象部板厚」とは、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さ(例えば、図9のD5、図10のD14、図11のD24、図12のD35、図13のD45)である。
「空隙部」の「高さ」とは、窪み部の板厚方向の長さ(例えば、図9のD3、図10のD13、図11のD23、図12のD33、図13のD43)である。
「空隙部」の「幅」とは、突き合わさった開先の間の隙間の長さ(例えば、図9のD4、図10のD18、図11のD28、図12のD38、図13のD48)である。
「空隙高さ率」とは、ハイブリッド溶接により1プールで溶接する部分の板厚方向の長さに対する、窪み部の板厚方向の長さの割合(例えば、図9のD3/D5、図10のD13/D14、図11のD23/D24、図12のD33/D35、図13のD43/D45)である。
【0056】
「突き当て部合計高さ」とは、突出部の板厚方向の長さの合計値(例えば、図9のD1+D2、図10のD11+D12、図11のD21、図12のD31、図13のD43)である。
「アーク角度」とは、ガスシールドアーク溶接トーチ20の軸(フィラーワイヤ17aの軸)の方向と、鋼板の板面に垂直な方向とのなす角度(=前進角・後退角αA)である。
【0057】
(実施例1)
図17は、実施例1における開先の形状を示す図である。具体的に図17(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図17(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。尚、図17に示す(単位なしの)数字は、各部の寸法をミリメートルの単位で示したものである。また、図17(a)に示す下向きの矢印で示す箇所がレーザ光及びフィラーワイヤの狙い位置であり、この狙い位置は、図9に示した狙い位置96に対応する。尚、図17以降の各図においても、単位なしの数字は、各部の寸法をミリメートルの単位で示したものであり、下向きの矢印で示す箇所がレーザ光及びワイヤの狙い位置を示したものである。
本実施例では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、図9に示したような開先を有する金属板を1パスで溶接した。図14の実施例1の欄に示すように、本実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0058】
(比較例1、2、3)
図18は、比較例1、2における開先の形状を示す図である。具体的に図18(a)は、比較例1、2における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図18(b)は、比較例3における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例1、2では、I開先を当接させる(隙間0で突き合わせる)ようにしている。図14の比較例1、2の欄に示すように、金属板の双方の開先をI開先とし、当該開先同士を当接させると、アーク電流を低減しても、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを回避することはできなかった。
【0059】
比較例3では、隙間が1.0[mm]となることを狙ってI開先を突き合わせるようにしている。ただし、金属板の開先は完全に平坦ではないので、開先の長手方向において(紙面に対して垂直な方向において)隙間が1.0[mm]よりも狭い部分と広い部分とが存在する。図14の比較例3の溶接結果に示すように、隙間がきちっと形成されている部分では、良好な裏波溶接ができたが、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)狭い部分では、玉状に溶融金属が垂れ落ち、また、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)広い部分では、フィラーメタルの量が不足し、アンダーフィルが生じた。このように、2枚の金属板を、間隔が有するように突き合わせる場合には、2枚の金属板の相対的な位置関係を決めることができず、一定の隙間を形成して2枚の金属板を突き合わせるためには、溶接能率を低下させざるを得ない。
【0060】
(実施例2〜4)
図19〜図21は、それぞれ、実施例2〜4における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例2〜4は、実施例1に対し、開先の形状(空隙部の幅(図9のD4))を変えたものである。
【0061】
(比較例4、5)
図22、図23は、それぞれ比較例4、5における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例4、5も、実施例1に対し、開先の形状(空隙部の幅(図9のD4))を変えたものである。図14の比較例4の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を2[mm]にすると、隙間が広すぎて開先の一部を未溶接のまま残してしまった。また、図14の比較例5の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を0.2[mm]にすると、実質的に隙間を形成した効果による効果を出すことができず、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを回避することはできなかった。
図14の実施例1〜4、比較例4、5の欄に示すように、空隙部の幅(図9のD4)を0.3[mm]以上、2.5[mm]以下にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができることが分かる。
【0062】
(実施例5、6)
図24、図25は、それぞれ実施例5、6における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例5、6は、実施例1に対し、開先の形状(突き当て部合計高さ(図9のD1+D2))を変えたものである。
(比較例6、7)
図26、図27は、それぞれ比較例6、7における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例6、7も、実施例1に対し、開先の形状(突き当て部合計高さ(図9のD1+D2))を変えたものである。
【0063】
図14の比較例6の欄に示すように、空隙高さ率(図9のD3/D5)が0.5であると、溶接ビードの裏面では溶融池の保持が不十分となり、玉状に溶融金属が垂れ落ちた。また、図14の比較例7の欄に示すように、突き当て部合計高さが、1[mm]であると、金属板を突き合わせたときに、突出部が潰れてしまい安定した隙間を形成することができず、溶接品質が不安定になった。
図14の実施例1、5、6、比較例6、7の欄に示すように、突き当て部合計高さ(図9のD1+D2)を2[mm]以上とし、且つ、空隙高さ率(図9のD3/D5)を0.6[−]以上にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができることが分かる。
【0064】
(実施例7、8)
図28、図29は、それぞれ実施例7、8における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図(c)は、開先の一部を拡大して示す図である。
本実施例では、2枚の金属板に同じ開先加工を施して、2枚の金属板を突き合わせたときに、開先部分が実施例1と同様の形状を有するようにしている。ただし、図28(c)、図29(c)に示すように、窪み部の底面端部が湾曲するようにしている。尚、本実施例でも、実施例1と同様に、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、金属板を1パス1プールで溶接した。
図14の実施例7、8の欄に示すように、突き合わさるお互いの金属板のそれぞれに、窪み部と突出部とを形成しても、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0065】
図30は、実施例9〜12、比較例8における開先の形状を示す図である。図30では、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示している。
(実施例9、10)
実施例9では、図7に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図8に示したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させて、図12に示したような開先を有する金属板を1パス1プールで溶接した。また、実施例10では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、図13に示したような開先を有する金属板を1パスプールで溶接した。図14の実施例9、10の欄に示すように、突き合わさる突出部の数が1箇所であっても、当該突出部を当接させることによって一定の隙間を形成することができ、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0066】
(実施例11、12、比較例8)
実施例11、12、比較例8でも、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19を後行させて、図13に示したような開先を有する金属板を1パス1プールで溶接した。図14の実施例11、12、比較例8の欄に示すように、ハイブリッド溶接対象部板厚(図13のD45)を5[mm]以上、16[mm]以下にすると、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0067】
(実施例13、14、比較例9)
図31は、実施例13、14、比較例9における開先の形状を示す図である。図31では、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示している。尚、図31において、°の単位が付いている数字は、角度を示したものである。
金属板の板厚が厚い(板厚が16[mm]を超える)場合、片側から下向きに1パス1プールで溶接を行うと、溶融部から玉状に溶融金属がその自重によって垂れ落ちる。そこで、実施例13、14では、片側から下向きに2プールで溶接を行うようにしている。
【0068】
実施例13では、図5に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図6に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接し、図11(c)に示したような溶接ビード118aを形成する。その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接し、図11(c)に示したような溶接ビード118bを形成する。ここで、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが1つとなる1プール溶接とすると、溶融金属の量が多くなり、溶融金属が溶接部から垂れ落ちる虞がある。そこで、レーザ溶接トーチ19aから照射されるレーザ光の狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50から送給されるワイヤの狙い位置との間の距離であるレーザ・アーク間距離DNを10[mm]にし、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが別々に形成されるようにしている。また、本実施例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50におけるアークを発生する際の電流値は200[A]である。さらに、本実施例では、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを15[°]にしている。
【0069】
実施例13では、図11に示したように、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域が窪み、下側の領域が突出するようにした。これに対し、実施例14では、通常のY開先における突き合わせ面の上側の領域と下側の領域とが突出し、中央の領域が窪むようにした。また、実施例14では、トーチの第5の例(図8)の変形例として説明したように、レーザ溶接トーチ19aを先行させ、ガスシールドアーク溶接トーチ20を後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接する。その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接する。
【0070】
また、実施例14でも、実施例13と同様に、ガスシールドアーク溶接トーチ20から送給されるワイヤの狙い位置と、ガスシールドアーク溶接トーチ50から送給されるワイヤの狙い位置との距離であるアーク・アーク間距離DSを10[mm]にし、ガスシールドアーク溶接トーチ20とレーザ溶接トーチ19aとによるハイブリッド溶接における溶融池と、ガスシールドアーク溶接トーチ50によるアーク溶接における溶融池とが別々に形成されるようにしている。また、本実施例でも、ガスシールドアーク溶接トーチ50におけるアークを発生する際の電流値は200[A]である。さらに、本実施例でも、ガスシールドアーク溶接トーチ50(フィラーワイヤ17b)の前進角αBを15[°]にしている。
【0071】
比較例9では、隙間が0.5[mm]となることを狙ってI開先を突き合わせるようにしている。比較例9では、実施例13と同様に、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」を溶接し、その後、レーザ溶接トーチ19に対して後行するガスシールドアーク溶接トーチ50により、当該領域の上の領域をアーク溶接する。
図15の実施例13、14の欄に示すように、1プールで溶接を行う領域に窪み部と突出部とを形成し、その領域に対してハイブリッド溶接を行うと共に、その領域の上の領域に対してアーク溶接を行うことにより、金属板の板厚が16[mm]を超えても開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。一方、図15の比較例9の欄に示すように、突き合わせる金属板に隙間を形成するだけでは、金属板の板厚が16[mm]を超えると、溶融金属の量が多くなるため、溶融金属の自重により、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちた。
【0072】
(実施例15)
図32は、実施例15における開先の形状を示す図である。具体的に図32(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図32(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
本実施例では、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、突出部と窪み部とが形成された「1プールで溶接を行う領域」(図10の窪み部102、103、突出部104、105が形成されている領域)を溶接し、図10(c)に示したような溶接ビード108aを形成する。その後、当該領域の上下の領域に対して、それぞれ1パスでサブマージアーク溶接を行い、図10(c)に示したような溶接ビード108aを形成する。図16の実施例15の欄に示すように、本実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0073】
(比較例10、11)
図33は、比較例10、11における開先の形状を示す図である。具体的に図33(a)は、比較例10における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図であり、図33(b)は、比較例11における、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
比較例10では、X開先の突き合わせ面を当接した状態にする。そして、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、X開先の突き合わせ面を1プールで溶接した。図16の比較例10の欄に示すように、X開先の突き合わせ面の部分の板厚方向の長さが8.0[mm]であるのにも関わらず、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ち、良好な溶接が困難であった。
【0074】
一方、比較例11では、間隔が1.0[mm]となることを狙って、X開先の突き合わせ面を突き合わせるようにしている。そして、図1に示したレーザ・アーク複合溶接装置を用いて、図2に示したように、ガスシールドアーク溶接トーチ20を先行させ、レーザ溶接トーチ19aを後行させて、X開先の突き合わせ面を1プールで溶接した。図16の比較例11の欄に示すように、隙間がきちっと形成されている部分では、良好な裏波溶接ができたが、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)狭い部分では、玉状に溶融金属が垂れ落ち、また、隙間が1.0[mm]よりも(極端に)広い部分では、フィラーメタルの量が不足し、アンダーフィルが生じた。
【0075】
(実施例16〜18)
図34〜図36は、それぞれ、実施例16〜18における開先の形状を示す図である。具体的に図(a)は、金属板の開先同士を突き合わせる前の状態を示す図であり、図(b)は、金属板の開先同士を突き合わせた状態を示す図である。
実施例16、17では、突き合わせる金属板の一方のみに対して、通常のX開先の突き合わせ面に窪み部と突出部とを形成する。具体的に実施例16では、通常のX開先の突き合わせ面の上側の領域と下側の領域に突出部を形成し、中央の領域に窪み部を形成する。一方、実施例17では、通常のX開先の突き合わせ面の中央の領域に窪み部を形成し、その上側と下側の領域に窪み部を形成する。
実施例18では、図32に示した実施例15に対し、上側の突出部の上側端部と、下側の突出部の下側端部とが湾曲するようにしている。
図16の実施例16〜18の欄に示すように、各実施例では、開先全体にわたって良好な裏波溶接ができた。
【0076】
以上のように本実施形態では、突き合わせる少なくとも一方の開先の、1プールで溶接を行う領域に、突出部(例えば図9の突出部92a、92b)と窪み部(例えば図9の窪み部91)を、それぞれ当該開先の長手方向に沿って連続的に形成する。そして、突出部と窪み部とが形成されている開先については、突出部の先端面(例えば図9の突出部92a、92bの先端面)のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように金属板15を配置する。そして、窪み部(例えば図9の窪み部91)により形成された開先の間の隙間の中央の領域を含む面(例えば図9の面95)と、突出部及び窪み部が形成されている領域の、レーザ光16が照射される側の端部との交線(例えば図9の交線96)上の位置を、レーザ光16とフィラーワイヤ17の狙い位置としてレーザアークハイブリッド溶接を行う。以上のようにすることによって、金属板15の開先同士を突き合わせるだけで、開先の間の隙間を容易に確保することができ、レーザ光16が溶融する金属板15の実効板厚を容易に小さくすることができる。したがって、金属板15の開先同士を突き合せて当該金属板を溶接した際に、溶接部から玉状に溶融金属が垂れ落ちることを、大きな作業負荷をかけたり、大掛かりな装置を用いたり、長時間の溶接作業を行うことなく防止することができる。
尚、UO鋼管を造管する場合には、窪み部の上下に突出部を形成するのが望ましい。突出部が1箇所で当接するようにすると、突合せ位置がずれてしまう虞があるからである。
【0077】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
11 制御装置
12 レーザ照射装置
13 ワイヤ供給装置
14 電源
15 金属板
16 レーザ光
17 フィラーワイヤ
18 突合せ部分
19 レーザ溶接トーチ
20、50 ガスシールドアーク溶接トーチ
91、102、103、112、113、122、123、132、133 窪み部
92、93、104、105、114、115、124、125、134、135 突出部
95、106、116、126、136 開先の間の隙間の中央の領域を含む面
96、107、117、127、137 交線(レーザ光の狙い位置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先同士が突き合わさるように、1プールで溶接する部分の板厚が5[mm]以上16[mm]以下の金属板を配置する配置工程と、
前記金属板の溶接予定箇所に加工ガスを供給する加工ガス供給工程と、
前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所と溶加材との間にアークを順次発生させて当該溶接予定箇所に対してアーク溶接を行うアーク発生工程と、
前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所にレーザ光を照射して当該溶接予定箇所に対してレーザ溶接を行うレーザ照射工程と、を有し、
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されており、
前記突出部の板厚方向の長さの合計値は、2[mm]以上であり、
前記1プールで溶接が行われる領域の板厚方向の長さに対する、前記窪み部の板厚方向の長さの割合は、0.6[−]以上であり、
前記配置工程は、前記窪み部と前記突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように前記金属板を配置し、
前記配置工程により配置されたときに前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成される隙間の長さは、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下であり、
前記レーザ照射工程は、前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成された隙間の中央の領域を含む面と、前記1プールで溶接が行われる領域の、前記レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を、前記レーザ光の狙い位置として、前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項2】
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の中央の領域が窪み、且つ、当該中央の領域の上側の領域と下側の領域とが突出するように、前記窪み部と前記突出部とが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項3】
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の一方には、前記窪み部と前記突出部とがそれぞれ形成され、他方には、前記窪み部と前記突出部とが形成されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項4】
前記金属板の開先の形状がX開先であり、
前記X開先の中央の部分に前記窪み部と前記突出部とがそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光のビーム径は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法で溶接される金属板の開先であって、
前記開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されていることを特徴とする突き合わせ溶接用金属板の開先。
【請求項1】
開先同士が突き合わさるように、1プールで溶接する部分の板厚が5[mm]以上16[mm]以下の金属板を配置する配置工程と、
前記金属板の溶接予定箇所に加工ガスを供給する加工ガス供給工程と、
前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所と溶加材との間にアークを順次発生させて当該溶接予定箇所に対してアーク溶接を行うアーク発生工程と、
前記突き合わさった開先の長手方向に沿って、前記加工ガスが供給された溶接予定箇所にレーザ光を照射して当該溶接予定箇所に対してレーザ溶接を行うレーザ照射工程と、を有し、
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されており、
前記突出部の板厚方向の長さの合計値は、2[mm]以上であり、
前記1プールで溶接が行われる領域の板厚方向の長さに対する、前記窪み部の板厚方向の長さの割合は、0.6[−]以上であり、
前記配置工程は、前記窪み部と前記突出部とが形成されている開先については、当該突出部の先端面のみが、突き合わせの相手となる開先と当接するように前記金属板を配置し、
前記配置工程により配置されたときに前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成される隙間の長さは、0.3[mm]以上、2.5[mm]以下であり、
前記レーザ照射工程は、前記窪み部により前記金属板の開先の間に形成された隙間の中央の領域を含む面と、前記1プールで溶接が行われる領域の、前記レーザ光が照射される側の端部との交線上の位置を、前記レーザ光の狙い位置として、前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項2】
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の少なくとも何れか一方には、当該開先の中央の領域が窪み、且つ、当該中央の領域の上側の領域と下側の領域とが突出するように、前記窪み部と前記突出部とが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項3】
前記突き合わさった開先の1プールで溶接が行われる領域の一方には、前記窪み部と前記突出部とがそれぞれ形成され、他方には、前記窪み部と前記突出部とが形成されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項4】
前記金属板の開先の形状がX開先であり、
前記X開先の中央の部分に前記窪み部と前記突出部とがそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光のビーム径は、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のレーザ・アーク複合溶接方法で溶接される金属板の開先であって、
前記開先の長手方向全体に亘って、窪み部と突出部とがそれぞれ連続的に形成されていることを特徴とする突き合わせ溶接用金属板の開先。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2011−218362(P2011−218362A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86412(P2010−86412)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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