説明

レーザーダイシングシートおよびチップ体の製造方法

【課題】 レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるダイシングシートの切断、チャックテーブルの損傷およびダイシングシートのチャックテーブルへの融着を防止しうるレーザーダイシングシートを提供すること。
【解決手段】 本発明に係るレーザーダイシングシートは、基材と、その片面に形成されたポリウレタンアクリレートからなる粘着剤層とからなり、特に該ポリウレタンアクリレートが、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる重合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光で被切断物(以下、「ワーク」と記載する)をダイシングしてチップ化する際にワークを固定するために好適に用いられるダイシングシート(以下、「レーザーダイシングシート」と記載することがある)、および、該レーザーダイシングシートを用いて好適に行われるチップ体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーダイシングは、ブレードダイシングでは切断困難なワークも切断可能である場合があり、近年特に注目されている。そのようなレーザーダイシングに用いられるレーザーダイシングシートは種々提案されている(特許文献1〜3)。
【0003】
レーザーダイシングにおいては、ダイシングシート上に固定されたワークにレーザー光を走査してワークを切断(ダイシング)している。この際、レーザー光の焦点は、次のように移動している。すなわち、ワークが貼付されていないダイシングシート表面(ワークの外縁部)から加速し、ワーク表面を一定速度で走査し、ワークの他方の外縁部で減速、停止する。その後、進行方向を反転し、加速後、ワーク表面を走査し、再度減速、停止、反転する。
【0004】
したがって、レーザー光焦点の移動における加速・減速時には、ワークが貼付されていないダイシングシートの端部に直接レーザー光が照射されている。この際、レーザー光によりダイシングシートが切断されたり、レーザー光がダイシングシートを透過し、チャックテーブルを損傷するという問題が発生することがあった。さらに、レーザー光によって加熱されたチャックテーブルに接するダイシングシートの面が溶融し、チャックテーブルに融着するという問題が発生することもあった。
【0005】
これらの問題を回避するために、厚いダイシングシートを用いて、ワークとチャックテーブル表面との距離を長くする手法がとられた(特許文献4)。この手法では、基材をエキスパンドフィルムと保護フィルムとの2層構造とすることで、ダイシングシートの厚みを稼いでいる。レーザーダイシング時には厚みのある基材を使用しているため、チャックテーブルに到達したレーザー光は焦点が合っておらず、したがってエネルギー密度が低いため、チャックテーブルの損傷には至らない。また、上記したダイシングシートの融着の問題も起こらない。レーザーダイシング終了後に、基材を構成する保護フィルムを剥離した後に、エキスパンドおよびチップのピックアップを行っている。しかし、レーザーダイシング終了後に、基材の構成層の一方を剥離する必要があり、工程が煩雑になる。また、レーザーダイシング時にエキスパンドフィルムがレーザー光により切断されることもあり、エキスパンドが行えない場合もある。
【特許文献1】特開2002−343747号公報
【特許文献2】特開2005−236082号公報
【特許文献3】特開2005−252094号公報
【特許文献4】特開2006−245487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるダイシングシートの切断、チャックテーブルの損傷およびダイシングシートのチャックテーブルへの融着を防止しうるレーザーダイシングシートおよびそれを用いたレーザーダイシング法によるチップ体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)基材と、その片面に形成されたポリウレタンアクリレートからなる粘着剤層とからなるレーザーダイシングシート。
【0009】
(2)粘着剤層を構成するポリウレタンアクリレートが、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる重合物である(1)に記載のレーザーダイシングシート。
【0010】
(3)エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーが、ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーである(2)に記載のレーザーダイシングシート。
【0011】
(4)ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーのエーテル結合部が、アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-:ただしRはアルキレン基であり、nは2〜200の整数)である(3)に記載のレーザーダイシングシート。
【0012】
(5)アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、炭素数1〜6のアルキレン基である(4)に記載のレーザーダイシングシート。
【0013】
(6)アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、エチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレンである(5)に記載のレーザーダイシングシート。
(7)前記粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paである(1)に記載のレーザーダイシングシート。
【0014】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のレーザーダイシングシートの粘着剤層にワークを貼付し、
レーザー光によりワークを個片化してチップを作製する、チップ体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、粘着剤層の構成成分としてポリウレタンアクリレートを用いているため、粘着剤層にレーザー光が照射されても、粘着剤層の受ける損傷は小さく切断されない。また粘着剤層は損傷を受けなくともダイシングシートを透過してチャックテーブルにまで到達する光量は低減される。この結果、レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるダイシングシートの切断、チャックテーブルの損傷およびダイシングシートのチャックテーブルへの融着が防止され、レーザーダイシングによるチップ体の製造工程が円滑に行われるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。本発明に係るレーザーダイシングシートは、基材と、その上に形成された粘着剤層とからなる。
【0017】
粘着剤層は、ポリウレタンアクリレートを主たる構成成分として含有する。ポリウレタンアクリレートは、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる重合物であることが好ましい。
【0018】
エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーは、たとえばポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られる。また、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリオール化合物と、イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることもできる。
【0019】
ポリオール化合物は、アルキレンジオール、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール、ポリカーボネート型ポリオールの何れであってもよいが、ポリエーテル型ポリオールを用いることで、より良好な効果が得られる。また、ポリオールであれば特に限定はされず、2官能のジオール、3官能のトリオールであってよいが、入手の容易性、汎用性、反応性などの観点から、ジオールを使用することが特に好ましい。したがって、ポリエーテル型ジオールが好ましく使用される。
【0020】
ポリエーテル型ジオールは、一般にHO-(-R-O-)n-Hで示される。ここで、Rは2価の炭化水素基、好ましくはアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基、特に好ましくは炭素数2または3のアルキレン基である。また、炭素数1〜6のアルキレン基の中でも好ましくはエチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレン、特に好ましくはエチレンまたはプロピレンである。また、nは好ましくは2〜200,さらに好ましくは10〜100である。したがって、特に好ましいポリエーテル型ジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールがあげられ、さらに特に好ましいポリエーテル型ジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールがあげられる。さらに共重合ポリオールであってもよい。
【0021】
ポリエーテル型ジオールは、多価イソシアナート化合物との反応により、エーテル結合部(-(-R-O-)n-)を誘導し、末端イソシアナートウレタンプレポリマーを生成する。このようなエーテル結合部は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環反応によって誘導される構造であってもよい。
【0022】
多価イソシアナート化合物としては、たとえば4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアナート、ヘキサヒドロキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが用いられ、特に好ましくは4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ヘキサヒドロキシレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナートが好ましく用いられる。
【0023】
次いで、末端イソシアナートウレタンプレポリマーとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとを反応させて、ウレタンアクリレート系オリゴマーが得られる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、たとえば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなどが用いられ、特に2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが用いられる。
【0024】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、一般式:Z−(Y−(X−Y)m)−Zで示される(ここで、Xはポリエーテル型ジオールにより誘導される構成単位であり、Yはジイソシアナートから誘導される構成単位であり、Zはヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートから誘導される構成単位である)。上記一般式においてmは、好ましくは1〜200、さらに好ましくは6〜50となるように選択される。
【0025】
また、上記したように、前記ポリオール化合物とイソシアネート基含有(メタ)アクリレートを反応させて、ウレタンアクリレート系オリゴマーをえることもできる。ポリオール化合物は前記と同様であり、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとしては、たとえば2−アクリロイルオキシイソシアネートまたは2−メタクリロイルオキシイソシアネートなどが用いられ、特に2−メタクリロイルオキシイソシアネートが用いられる。
【0026】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、一般式:W−X−Wで示される(ここで、Xはポリエーテル型ジオールにより誘導される構成単位であり、Wはイソシアナート基含有(メタ)アクリレートから誘導される構成単位である)。
【0027】
得られるウレタンアクリレート系オリゴマーは、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有し、エネルギー線照射により硬化し、粘着剤を形成する性質を有する。
【0028】
本発明で好ましく用いられるウレタンアクリレート系オリゴマーの重量平均分子量は、1000〜50000、さらに好ましくは2000〜40000の範囲にある。上記のウレタンアクリレート系オリゴマーは一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記のようなウレタンアクリレート系オリゴマーのみでは、製膜が困難な場合が多いため、本発明では、エネルギー線硬化性のモノマーで稀釈して製膜した後、これを重合して粘着剤層を得る。エネルギー線硬化性モノマーは、分子内にエネルギー線重合性の二重結合を有し、特に本発明では、比較的嵩高い基を有するアクリルエステル系化合物が好ましく用いられる。
【0029】
このようなウレタンアクリレート系オリゴマーを稀釈するために用いられるエネルギー線硬化性のモノマーの具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレートなどの脂環式化合物、フェニルヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノールエチレンオキシド変性アクリレートなどの芳香族化合物、もしくはテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリンアクリレート、N−ビニルピロリドンまたはN−ビニルカプロラクタムなどの複素環式化合物が挙げられる。また必要に応じて多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。このようなエネルギー線硬化性モノマーは単独で、あるいは複数を組合せて用いても良い。
【0030】
上記エネルギー線硬化性モノマーは、ウレタンアクリレート系オリゴマー100重量部に対して、好ましくは5〜900重量部、さらに好ましくは10〜500重量部、特に好ましくは30〜200重量部の割合で用いられる。
【0031】
粘着剤層は、上記ウレタンアクリレート系オリゴマーおよびエネルギー線硬化性モノマーを含む配合物を製膜、重合して得られる。この際、該配合物に光重合開始剤を混入することにより、エネルギー線照射による重合時間ならびにエネルギー線照射量を少なくすることができる。このような光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光重合開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアントラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0032】
光重合開始剤の使用量は、ウレタンアクリレート系オリゴマーおよびエネルギー線硬化性モノマーの合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.3〜5重量部である。
【0033】
また、上述の配合物中には、炭酸カルシウム、シリカ、雲母などの無機フィラー、鉄、鉛等の金属フィラーを添加してもよい。さらに、上記成分の他にも、粘着剤には顔料や染料等の着色剤、粘着付与剤等の添加物が含有されていてもよい。また、さらに粘着剤層には、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の汎用の粘着剤が含まれていても良い。これらの添加剤および汎用粘着剤は、粘着剤層中にポリウレタンアクリレート100重量部に対し20重量部以下の割合で含まれていても良い。
【0034】
また、粘着剤を構成するポリウレタンアクリレート中における、アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)含量は、ポリウレタンアクリレート100重量部に対し、好ましくは10〜67重量部、さらに好ましくは26〜54重量部である。アルキレンオキシ基の含有量が少なすぎると、レーザー光に対する耐性が不充分となり、レーザー光の照射により粘着剤層が切断されたり、あるいはダイシングシートを透過する光量が増大し、チャックテーブルの損傷、チャックテーブルへのダイシングシートの融着を招くおそれがある。また、アルキレンオキシ基の含有量が多すぎると、破断応力が小さくなりエキスパンド時に粘着剤層が割断するといった問題が発生するおそれがある。
【0035】
また、粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1×10〜1×10Pa、さらに好ましくは5×10〜5×10Pa、特に好ましくは1×10〜1×10Paである。粘着剤層の貯蔵弾性率が高すぎる場合には、充分な感圧接着性が得られず、一方低すぎる場合には、ワーク表面に粘着剤層が転写されて、ワークを汚染してしまうことがある。粘着剤層の貯蔵弾性率は、アルキレンオキシ基のアルキレン基Rの長さを短くする、ジオール成分またはオリゴマー成分の分子量を小さくする、アクリルモノマー比率を大きくする、ジオール単位のモル比を小さくするなどの手段により高くなる。
【0036】
粘着剤層の製膜方法としては、流延製膜(キャスト製膜)と呼ばれる手法が好ましく採用できる。具体的には、液状の配合物(硬化前の樹脂、樹脂の溶液等)を、たとえば工程シート上に薄膜状にキャストした後に、塗膜に紫外線、電子線などのエネルギー線を照射して重合させて粘着剤層を製造できる。また、後述する基材上に、直接上記配合物を塗工、硬化して粘着剤層を製造してもよい。
【0037】
粘着剤層の厚さは、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは20〜80μm、特に好ましくは30〜60μmである。なお、粘着剤層には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。前記工程シートを用いて粘着剤層を製膜した場合には、工程シートをそのまま剥離シートとして使用することもできる。
【0038】
剥離シートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。
【0039】
本発明のレーザーダイシングシートは、上記粘着剤層が基材上に形成されてなる。基材は、樹脂シートであれば、特に限定されず、各種の樹脂シートが使用可能である。このような樹脂シートとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリルゴム、ポリアミド、ウレタン、ポリイミド等の樹脂フィルムが挙げられる。基材はこれらの単層であってもよいし、積層体からなってもよい。また、架橋等の処理を施したシートであってもよい。
【0040】
このような基材は、熱可塑性樹脂を押出成形して得たシートであってもよいし、硬化性樹脂を所定手段により薄膜化、硬化してシート化したものが使われてもよい。硬化性樹脂は、たとえば、前記粘着剤層と同様に、エネルギー線硬化性のウレタンアクリレート系オリゴマーを主剤とし、比較的嵩高い基を有するアクリレートモノマーを希釈剤とし、必要に応じて光重合開始剤を配合した樹脂組成物の硬化物であるポリウレタンアクリレートであってもよい。また、基材として用いられるポリウレタンアクリレートの25℃における貯蔵弾性率は、好ましくは1×10Paを超え、さらに好ましくは1×10〜1×1010Pa、特に好ましくは2×10〜6×10Paである。貯蔵弾性率がこの範囲にある場合には、支持性、ハンドリング性等が良好であり基材としての使用に適している。
【0041】
また、基材の上面、すなわち粘着剤層が設けられる側の面には粘着剤との密着性を向上するために、コロナ処理を施したり、プライマー層を設けてもよい。また粘着剤層とは反対面に別のフィルムや塗膜を有する積層フィルムを基材として用いても良い。基材の厚みは、特に制限はないが、作業性などの面から、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは30〜300μm、特に好ましくは50〜200μmである。
【0042】
次に、本発明のレーザーダイシングシートを使用したチップ体の製造方法について説明する。
【0043】
本発明のチップ体の製法では、上記レーザーダイシングシートの粘着剤層にワークを貼付し、ワーク表面をレーザー光で走査し、ワークを切断してチップ体を得る。このようなレーザーダイシング方法自体は公知である。レーザーダイシングにおいては、レーザー光の焦点は、次のように移動している。すなわち、ワークが貼付されていないダイシングシートの露出表面(ワークの外縁部)から加速し、ワーク表面を一定速度で走査し、ワークの他方の外縁部で減速、停止する。その後、進行方向を反転し、加速後、再度ワーク表面を走査し、再度減速、停止、反転する。通常は、ひとつのダイシングラインあたり、1〜複数回程度のレーザー光走査を行う。
【0044】
レーザー光焦点の移動における加速・減速時には、ワークが貼付されていないダイシングシートの端部に直接レーザー光が照射されている。この際、レーザー光がダイシングシートを切断することがあった。また、レーザー光がダイシングシートを透過し、チャックテーブルを損傷するという問題が発生することがあった。さらに、レーザー光によって加熱されたチャックテーブルに接するダイシングシートの面が溶融し、チャックテーブルに融着するという問題が発生することもあった。
【0045】
しかし、本発明においては、レーザーダイシングシートの粘着剤層を、上述したポリウレタンアクリレートで構成することで上記の課題を解決している。すなわち、本発明のレーザーダイシングシートを使用した場合、たとえレーザー光がレーザーダイシングシートに直接照射されても、粘着剤層は、レーザー光による損傷を受けにくいことが確認された。具体的には、粘着剤層表面の一部分がレーザー光により切り込まれるのみであり、粘着剤層が切断されることがない。また、高いエネルギーをもったレーザー光がダイシングシートを透過してチャックテーブルに至ることもなく、レーザーダイシングシートの融着も確認されなかった。
【0046】
レーザーダイシングを終えた後、必要に応じ、レーザーダイシングシートをエキスパンドして、チップ間隔を広げる。チップ間隔を広げることで、チップ同士の接触による損傷が低減される。その後、チップをピックアップして取り出し、チップ体を得る。
【0047】
本発明において適用可能なワークとしては、レーザー光によって切断処理を実施することができる限り、その素材に限定はなく、たとえば半導体ウエハ、ガラス基板、セラミック基板、FPC等の有機材料基板、又は精密部品等の金属材料など種々の物品を挙げることができる。
【0048】
レーザーは、波長及び位相が揃った光を発生させる装置であり、YAG(基本波長=1064nm)、もしくはルビー(基本波長=694nm)などの固体レーザー、又はアルゴンイオンレーザー(基本波長=1930nm)などの気体レーザーおよびこれらの高調波などが知られており、本発明ではそれらの種々のレーザーを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明においては、粘着剤層の構成樹脂としてポリウレタンアクリレートを用いているため、粘着剤層にレーザー光が照射されても、粘着剤層の受ける損傷は小さく、また粘着剤層を透過してチャックテーブルにまで到達する光量は低減される。この結果、レーザーダイシングにおいて、レーザー光によるチャックテーブルの損傷およびダイシングシートのチャックテーブルへの融着が防止され、レーザーダイシングによるチップ体の製造工程が円滑に行われるようになる。
【0050】
(実施例)
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例および比較例におけるレーザーダイシング条件およびダイシング結果の評価法を以下に示す。
【0052】
[レーザーダイシング条件]
・ 装置 :Nd−YAGレーザー
・ チャックテーブル材質:石英
・ 波長 :355nm(第3高調波)
・ 出力 :5.5W
・ 繰り返し周波数 :10kHz
・ パルス幅 :35nsec
・ 照射回数 :2回/1ライン
・ カット速度 :200mm/sec
・ デフォーカス量 :テープ表面上から+50μm(ウエハの表面上に焦点)
・ ウエハ材質 :シリコン
・ ウエハ厚 :50μm
・ ウエハサイズ :6インチ
・ カットチップサイズ :5mm□
・ ウエハ外にレーザー光が走査する距離:5mm
[切込深さ評価]
レーザーダイシングが終了した後にカットラインを断面観察し、粘着剤層の切込深さを計測した(観察部位はウエハが貼られていない、レーザーが直射される部分)。粘着剤層が切断されてしまったものは「切断」と表記した。
【0053】
[チャックテーブルの損傷]
レーザーダイシングが終了した後にテーブル表面を目視で観察し、損傷がないか確認した。テーブルに損傷がなかったものを「A」、損傷があったものを「B」とした。
【0054】
[ピックアップテスト]
レーザーダイシング後に、プッシュプルゲージ(1ピン)でチップのピックアップを行った。チップを問題なくピックアップできた場合を「A」とし、チップをピックアップできなかったものを「B」とした。
【0055】
[貯蔵弾性率測定]
実施例および比較例に記載した粘着剤について、シリコーン剥離処理を行った2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離フィルム)で挟まれた粘着剤層を得た。片方の剥離フィルムを剥がし、粘着剤層が重なるように積層を繰り返し、厚みが4mmの粘着剤を得た。直径8mmの円柱形に型抜きして弾性率測定用の試料を作製した。両側の剥離フィルムを剥がし、この試料の25℃における貯蔵弾性率を、粘弾性測定装置(REOMETRIC社製DYNAMIC ANALYZER RDA-II)を用いて測定した。
【0056】
(実施例1)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)およびポリプロピレングリコール(PPG:重量平均分子量2,000)を、2HEA:IPDI:PPG=2:7:6のモル比で用意した。始めにIPDIとPPGとを反応させ、得られた反応生成物に、2HEAを付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0057】
次いで、ウレタンアクリレート系オリゴマー50重量部と、エネルギー線硬化性モノマー(イソボルニルアクリレート)50重量部と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュア1173)0.5重量部とを混合し、粘着剤形成用のコーティング液を得た。
【0058】
上記コーティング液をファウンテンダイ方式により、シリコーン剥離処理を行ったポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製SP-PET3801)上に厚みが30μmとなるように塗工して塗膜を形成した。塗工直後に、塗膜の上に、同じシリコーン剥離処理を行ったPETフィルムをラミネートし、その後、高圧水銀ランプを用いて、照度250mW/cm2、光量600mJ/cm2の条件で紫外線照射を行うことにより塗膜を重合させて、厚さ30μmの粘着剤層を得た。
【0059】
上記粘着剤層の両面に積層された剥離フィルムの片方を剥離し、粘着剤層を、厚み100μmのエチレン/メタクリル酸共重合体フィルムに転写し、レーザーダイシングシートを得た。
【0060】
粘着剤層上のPETフィルム(リンテック社製SP-PET3801)を剥離して、50μm厚のシリコンウエハを貼付し、上記条件でレーザーダイシングを行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例2)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、ヘキサヒドロキシレンジイソシアネート(H6XDI)、ポリエチレングリコール(PEG:重量平均分子量4,000)およびポリプロピレングリコール(PPG:重量平均分子量4,000)を2HEA:H6XDI:PEG:PPG=2:7:3:3のモル比で用意した。始めにH6XDIとPEGとPPGとを反応させ、得られた反応生成物に、2HEAを付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0062】
上記ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いた以外は実施例1と同様にして、粘着剤層およびレーザーダイシングシートを得た。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例3)
エチレングリコールとプロピレングリコールとを7:3のモル比で用意し、共重合してポリエーテル系ジオール(Diol:重量平均分子量3,500)を得た。
【0064】
2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、および上記ポリエーテル系ジオール(Diol)を2HEA:HDI:Diol=2:9:8のモル比で用意した。始めにHDIとDiolとを反応させ、得られた反応生成物に、2HEAを付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0065】
上記ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いた以外は実施例1と同様にして、粘着剤層およびレーザーダイシングシートを得た。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
基材に下記ポリウレタンアクリレートフィルムを用いた以外は実施例1と同様にしてレーザーダイシングシートを得た。ポリウレタンアクリレートフィルムは、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)およびポリプロピレングリコール(PPG:重量平均分子量400)を2HEA:IPDI:PPG=2:4:3のモル比で用意した。始めにIPDIとPPGとを反応させ、得られた反応生成物に、2HEAを付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0067】
次いで、ウレタンアクリレート系オリゴマー50重量部と、エネルギー線硬化性モノマー(イソボルニルアクリレート)50重量部と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュア1173)0.5重量部とを混合し、基材形成用のコーティング液を得た。
【0068】
上記コーティング液をファウンテンダイ方式により、シリコーン剥離処理を行ったポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製SP-PET3801)上に厚みが100μmとなるように塗工して塗膜を形成した。塗工直後に、塗膜の上に、同じシリコーン剥離処理を行ったPETフィルムをラミネートし、その後、高圧水銀ランプを用いて、照度250mW/cm2、光量600mJ/cm2の条件で紫外線照射を行うことにより塗膜を重合させて、厚さ100μmの基材を得た。上記基材の両面に積層された剥離フィルムを剥離しレーザーダイシングシート基材とした。得られた基材について、上記粘着剤層と同様の手段で貯蔵弾性率を測定したところ、3.4×10Paであった。
【0069】
上記基材を用いた以外は実施例1と同様にして、粘着剤層およびレーザーダイシングシートを得た。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
ブチルアクリレート84重量部、メチルメタクリレート10重量部、アクリル酸1重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5重量部からなる共重合体(重量平均分子量700,000)のトルエン30重量%溶液に対し、多価イソシアナート化合物(コロネートL(日本ポリウレタン社製))3重量部を混合し粘着剤組成物を得た。
【0071】
粘着剤組成物を、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製SP-PET3801)上に乾燥膜厚が30μmとなるように塗布乾燥(100℃、1分間)し、PETフィルム上に粘着剤層を形成した。
【0072】
上記粘着剤層を用いてダイシングシートを構成した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
ブチルアクリレート90重量部、アクリル酸10重量部からなる共重合体(重量平均分子量600,000)のトルエン30重量%溶液に対し、多価イソシアナート化合物(コロネートL(日本ポリウレタン社製))1重量部を混合し粘着剤組成物を得た。
【0074】
上記粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成した以外は、比較例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)およびポリプロピレングリコール(PPG:重量平均分子量400)を2HEA:IPDI:PPG=2:3:2のモル比で用意した。始めにIPDIとPPGとを反応させ、得られた反応生成物に、2HEAを付加させることでウレタンアクリレート系オリゴマーを得た。
【0076】
上記ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いた以外は実施例1と同様にして、粘着剤層およびレーザーダイシングシートを得た。結果を表1に示す。
【表1】

【0077】
実施例1〜4のレーザーダイシングシートは、粘着剤層が切断されることもなく、チャックテーブルへのシートの融着もみられず、チップのピックアップも問題なく実施できた。比較例1および2のレーザーダイシングシートは、粘着剤層が切断され、チャックテーブルにも損傷が見られた。またダイシングシートがチャックテーブルに融着し、チップのピックアップテストを実施できなかった。比較例3のレーザーダイシングシートは、粘着剤層の貯蔵弾性率が高すぎることからダイシング時にチップをダイシングテープ上に保持できず、ピックアップテストを実施できなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、その片面に形成されたポリウレタンアクリレートからなる粘着剤層とからなるレーザーダイシングシート。
【請求項2】
粘着剤層を構成するポリウレタンアクリレートが、エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーとエネルギー線硬化性モノマーとを含有する配合物にエネルギー線を照射して得られる重合物である請求項1に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項3】
エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマーが、ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーである請求項2に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項4】
ポリエーテル型ウレタンアクリレート系オリゴマーのエーテル結合部が、アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-:ただしRはアルキレン基であり、nは2〜200の整数)である請求項3に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項5】
アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、炭素数1〜6のアルキレン基である請求項4に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項6】
アルキレンオキシ基(-(-R-O-)n-)のアルキレン基Rが、エチレン、プロピレン、ブチレンまたはテトラメチレンである請求項5に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項7】
前記粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paである請求項1に記載のレーザーダイシングシート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のレーザーダイシングシートの粘着剤層にワークを貼付し、
レーザー光によりワークを個片化してチップを作製する、チップ体の製造方法。

【公開番号】特開2009−177025(P2009−177025A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15410(P2008−15410)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】